次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
図1に、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステム(制動力発生装置)10の構成図を示す。図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、液圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の液圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。このため、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、運転者によってブレーキペダル12等のブレーキ操作部が操作されたときにその操作を入力する入力装置14と、ブレーキペダル12が踏み込み操作されたときのペダル操作量(ストローク)を計測するストロークセンサStと、作動液であるブレーキ液のブレーキ液圧を制御(発生)するモータシリンダ装置(液圧発生手段)16と、車両挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置18(以下、VSA(ビークルスタビリティアシスト)装置という、VSA;登録商標)とを別体として備えて構成されている。モータシリンダ装置16は、作動液であるブレーキ液にブレーキ液圧を発生させる液圧発生手段となる。これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及び、VSA装置18は、例えば、ホースやチューブ等の管材で形成された管路(液圧路)によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
このうち、液圧路について説明すると、図1中(中央やや下)の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。また、図1中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホィールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホィールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホィールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホィールシリンダ32FLと接続される。この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。つまり、本実施形態において、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLは、ブレーキ液の液圧で作動する制動手段になる。
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能である。また、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動、後輪駆動、4輪駆動など、駆動形式を限定することなく、全ての駆動形式の車両に搭載可能である。
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のカップシール44a、44bがそれぞれ装着される。一対のカップシール44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部と間には、他のばね部材50bが配設される。なお、カップシール44a、44bが、シリンダチューブ38の内壁に取り付けられる構成であってもよい。
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側である上流側の液圧を計測するものである。
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側である下流側の液圧を計測するものである。
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した閉弁状態をそれぞれ示している。
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した開弁状態を示している。
このストロークシミュレータ64は、バイ・ワイヤ制御時に、ブレーキペダル12の操作に対して、ストロークと反力を与えて、あたかも踏力により、制動力が発生しているかのように運転者に思わせる装置であり、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が吸収可能に設けられる。
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングが、既存のマスタシリンダ34を踏み込み操作したときのペダルフィーリングと同等になるように設けられている。
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホィールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホィールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bとから構成される。
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
モータシリンダ装置16は、電動機(電動モータ)72を含む電動アクチュエータ74と、前記電動アクチュエータ74によって付勢されるシリンダ機構76とを有する。
電動アクチュエータ74は、アクチュエータ作動状態検出手段72cと、電動モータ72の出力軸72b側に設けられ複数のギヤが噛合して電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78と、前記ギヤ機構78を介して前記回転駆動力が伝達されることにより軸方向に沿って進退動作するボールねじ軸80a及びボール80bを含むボールねじ構造体80とを有する。ボールねじ構造体80は、ギヤ機構78とともにアクチュエータハウジング172の機構収納部173aに収納される。アクチュエータ作動状態検出手段72cは、電動アクチュエータ74の作動状態を検出する。アクチュエータ作動状態検出手段72cは、電動アクチュエータ74の現在の作動状態(モータ制御モード)が、稼動状態(「稼動」モード)なのか、停止状態(「停止」モード)なのかを検知し、検知結果をECU(フィードバック制御手段)11へ送信する。
シリンダ機構76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。なお、配管チューブ86に、ブレーキ液を貯留するタンクが備わっていてもよい。そして、略円筒状を呈するシリンダ本体82の開放された端部(開放端)がハウジング本体172Fとハウジングカバー172Rからなるアクチュエータハウジング172に嵌合してシリンダ本体82とアクチュエータハウジング172が連結され、モータシリンダ装置16が構成される。シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
また、電動モータ72は、シリンダ本体82と別体に形成されるモータケーシング72aで覆われて構成され、出力軸72bが第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの摺動方向(軸方向)と略平行になるように配置される。つまり、出力軸72bの軸方向が液圧制御ピストンの軸方向と略平行になるように、電動モータ72が配置される。そして、出力軸72bの回転駆動がギヤ機構78を介してボールねじ構造体80に伝達されるように構成される。ギヤ機構78は、例えば、電動モータ72の出力軸72bに取り付けられる第1ギヤ78aと、ボールねじ軸80aを軸方向に進退動作させるボール80bをボールねじ軸80aの軸線を中心に回転させる第3ギヤ78cと、第1ギヤ78aの回転を第3ギヤ78cに伝達する第2ギヤ78bと、の3つのギヤで構成され、第3ギヤ78cはボールねじ軸80aの軸線を中心に回転する。したがって、第3ギヤ78cの回転軸はボールねじ軸80aになり、液圧制御ピストン(第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88b)の摺動方向(軸方向)と略平行になる。電動モータ72の出力軸72bと液圧制御ピストンの軸方向は略平行であることから、電動モータ72の出力軸72bと第3ギヤ78cの回転軸は略平行になる。そして、第2ギヤ78bの回転軸を、電動モータ72の出力軸72bと略平行に構成すると、電動モータ72の出力軸72bと、第2ギヤ78bの回転軸と、第3ギヤ78cの回転軸と、が略平行に配置される。電動アクチュエータ74は、前記した構造によって、電動モータ72の出力軸72bの回転駆動力をボールねじ軸80aの進退駆動力(直線駆動力)に変換する。第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bはボールねじ軸80aによって駆動されることから、電動アクチュエータ74は、電動モータ72の出力軸72bの回転駆動力を液圧制御ピストン(第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88b)の直線駆動力に変換する。なお、符号173aは、ボールねじ構造体80を収納する機構収納部である。
第1スレーブピストン88bの外周面には、環状段部を介して、一対のスレーブカップシール90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブカップシール90a、90bの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第1背室94bが形成される。なお、第2及び第1スレーブピストン88a、88bの間には、第2リターンスプリング96aが配設され、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部と間には、第1リターンスプリング96bが配設される。また、第2スレーブピストン88aの外周面と機構収納部173aとの間を液密にシールするとともに、第2スレーブピストン88aをその軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン90cが、第2スレーブピストン88aの後方に、シリンダ本体82をシール部材として閉塞するように備わっている。第2スレーブピストン88aが貫通するガイドピストン90cの内周面には、図示しないスレーブカップシールが装着され、第2スレーブピストン88aとガイドピストン90cの間が液密に構成されることが好ましい。さらに、第2スレーブピストン88aの前方の外周面には、環状段部を介して、スレーブカップシール90bが装着される。この構成によって、シリンダ本体82の内部に充填されるブレーキ液がガイドピストン90cによってシリンダ本体82に封入され、アクチュエータハウジング172の側に流れ込まないように構成されている。なお、ガイドピストン90cとスレーブカップシール90bの間には、後記するリザーバポート92aと連通する第2背室94aが形成される。シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホィールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホィールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98bが設けられる。この構成によると、ブレーキ液が封入される第2背室94a、第1背室94b、第2液圧室98a、及び第1液圧室98bは、シリンダ本体82におけるブレーキ液の封入部であり、シール部材として機能するガイドピストン90cによって、アクチュエータハウジング172の機構収納部173aと液密(気密)に区画される。なお、ガイドピストン90cがシリンダ本体82に取り付けられる方法は限定するものではなく、例えば、図示しないサークリップで取り付けられる構成とすればよい。第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bの最大ストローク(最大変位距離)と最小ストローク(最小変位距離)とを規制する規制手段100が設けられる。さらに、第1スレーブピストン88bには、第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で制動するバックアップ時において、1つの系統が失陥したときに、他の系統の失陥が防止される。
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホィールシリンダ32FR、ホィールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホィールシリンダ32RR、ホィールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bとを有する。なお、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホィールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する管路(第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114)を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する管路(液圧路)上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第2液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を計測する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phと、電動モータ72に近接して設けられるアクチュエータ作動状態検出手段72cと、ブレーキペダル12に近接して設けられるストロークセンサStとで計測された計測信号は、ECU(フィードバック制御手段)11に送信され取得される。ECU11は、詳細は後記するが、電動モータ72(電動アクチュエータ74)をフィードバック(FB)制御する。また、VSA装置18は、ECU11の制御により、VSA制御のほか、ABS(アンチロックブレーキシステム)も制御可能である。さらに、VSA装置18に代えて、ABS機能のみを搭載するABS装置が接続される構成であってもよい。VSA装置18は、自身の稼働中(モータシリンダ装置16との協調稼動中)には、VAS協調制御フラグを、セットし、ECU11へ送信する。車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその基本動作について説明する。
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bが励磁されて閉弁状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁されて開弁状態となる。従って、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bによって第2液圧系統70a及び第1液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。このとき、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び開弁状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68が第1及び第2リターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。このようなシステム状態において、ECU11は、運転者によるブレーキペダル12に対するペダル操作を検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させて電動アクチュエータ74を付勢し、第2リターンスプリング96a及び第1リターンスプリング96bのばね力に抗して第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを図1中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの変位によって第2液圧室98a及び第1液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
このモータシリンダ装置16における第2液圧室98a及び第1液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の開弁状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御するECU11が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキバイワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bをそれぞれ開弁状態、第3遮断弁62を閉弁状態としマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の液圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
なお、ECU11は、例えば、いずれも図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されるマイクロコンピュータ及び周辺機器からなる。そして、ECU11は、あらかじめROMに記憶されているプログラムをRAMに展開してCPUで実行し、車両用ブレーキシステム10を制御するように構成される。
ECU11は、運転者のペダル操作によってマスタシリンダ34が発生するブレーキ液圧を、要求液圧(目標値)として、液圧センサPmから取得するとともに、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧を、下流液圧(出力値)として、液圧センサPp、Phから取得する。ECU11は、液圧センサPp、Phから取得した下流液圧(出力値)が、回生制動力等を考慮した上で、液圧センサPmから取得した要求液圧(目標値)に応じた値になるように、モータシリンダ装置16の電動モータ72に入力する入力値(目標S/Cストローク)を設定し電動モータ72へ出力する。すなわち、ECU11は、モータシリンダ装置16の作動をフィードバック(FB)制御している。なお、ブレーキ液圧を用いてモータシリンダ装置16の電動モータ72の作動をFB制御する場合、マスタシリンダ34やモータシリンダ装置16がブレーキ液圧を発生させてから、そのブレーキ液圧が液圧センサPm、Pp、Phによって検出されるまでに時間遅れが発生する。このため、ECU11は、運転者のペダル操作量(St)をストロークセンサStから取得し、このペダル操作量(St)に対応するブレーキ液圧をモータシリンダ装置16に発生させることができるように、電動モータ72に入力する入力値(目標S/Cストローク)を設定し電動モータ72へ出力する。すなわち、ECU11は、モータシリンダ装置16の作動をフィードフォワード(FF)制御している。ECU11は、モータシリンダ装置16の作動を、FB制御にFF制御を組み合わせて制御している。
具体的に、ECU11は、ペダル操作量(St)を受信する。ECU11は、ペダル操作量(St)を取得すると、ペダル操作量(St)に対応する液圧FF目標S/Cストロークを決定する。また、ECU11は、要求液圧(目標値、Pm)と下流液圧(出力値、Pp、Ph)を受信する。ECU11は、要求液圧(目標値、Pm)から下流液圧(出力値、Pp、Ph)を引いて、制御偏差を算出する。なお、この制御偏差に比例ゲインをかけてもよい。また、ECU11は、液圧FBリセットフラグを、要求液圧(目標値)と、モータ制御モードとに基づいて設定する。ECU11は、液圧FBリセット値を、要求液圧(目標値)と、モータ制御モードと、目標S/Cストロークリミット後値とに基づいて設定する。モータ制御モードは、電動モータ72や電動モータ72を制御するECU11自身から出力され、電動モータ72の稼動状態が識別可能になっている。例えば、モータ制御モードによれば、電動モータ72が稼動している「稼動状態」なのか、電動モータ72が停止している「停止状態」なのかを識別することができる。
ECU11は、電動モータ72(電動アクチュエータ74)が「停止状態」であり、電動モータ72の作動が停止している場合、又は、要求液圧(目標値)が略ゼロであり、運転者の足がブレーキペダル12から離れ、ペダル操作が無い場合に、液圧FBリセットフラグとして、「1」をセットし、積分器3において、積分器3からの出力値(電動モータ72へ入力させる入力値(目標S/Cストローク))として、初期値を設定し、入力値(目標S/Cストローク)をリセットする。逆に、ECU11は、電動モータ72が「稼動状態」であり、かつ、要求液圧(目標値)が略ゼロで無い場合は、液圧FBリセットフラグとして、「0」をセットし、積分器3において、入力値(目標S/Cストローク)をリセットしない(リセットの禁止)。
ECU11は、要求液圧(目標値)が略ゼロ(0)であり、且つ、目標S/Cストロークリミット後値が略ゼロ(0)でない場合には、液圧FBリセット値を、「0」に徐々に近づけ、最終的に「0」に収束させて「0」に設定する。積分器3においては、入力値(目標S/Cストローク)の初期値として、この「0」に収束する液圧FBリセット値を設定する。なお、目標S/Cストロークリミット後値には、繰り返しの計算において直前に算出された入力値(目標S/Cストローク)を用いることができる。
ECU11は、上記の場合以外の場合には、液圧FBリセット値に、目標S/Cストロークリミット後値を設定する。ECU11においては、前記リセットが禁止され、制御偏差が、入力値(目標S/Cストローク)として出力される。
このような(液圧)FF制御を伴う(液圧)FB制御では、フェイルセイフ等による制御停止において、入力値(目標S/Cストローク)の初期化(リセット)を行うため、ECU11において、リセットの実行の判定が行われ、リセット値の設定が行われている。そして、このFB制御におけるFF制御では、ディスクブレーキ機構30a〜30dに設けられホィールシリンダ32FL、32FR、32RL、32RRに近接するブレーキキャリパの剛性の変化のような経年変化や、そのブレーキキャリパに取り付けられるブレーキパッドの摩耗のような経年変化により、前記ペダル操作量(St)に対応する入力値(目標S/Cストローク)を、電動モータ72へ入力しても、所望のブレーキ液圧をモータシリンダ装置16に発生させることができなくなり、結局、FB制御に起因する時間遅れを生じさせてしまうと考えられる。また、これらの経年変化は、FB制御自体に対しても、同じ大きさの要求液圧(目標値)に対して、初期値からより離れた入力値(目標S/Cストローク)を設定しなければならなくなるので(例えば、ブレーキパッドの摩耗によりホィールシリンダ32FL等(ブレーキキャリパ)の移動距離が長くなることに対応する)、電動モータ72の作動時間が長くなり、時間遅れが助長されてしまう。これらの時間遅れを解消するために、入力値(目標S/Cストローク)の初期値の更新(設定)を行ってもよい。初期値は、最初「0」に設定しておき、経年変化に対応させて、「0」より大きくし、徐々に増大させてゆく。
図2に、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステム10で実施されるリセット方法のフローチャートを示す。まず、ステップS1で、ECU11は、通常の液圧FF制御を伴う液圧FB制御を行い、入力値(目標S/Cストローク)として、制御偏差を算出し、電動モータ72へ出力する。
ステップS2で、ECU11は、モータ制御モードが「停止(状態)」であるか否か判定する。モータ制御モードが「停止(状態)」であると判定した場合は(ステップS2、Yes)、ステップS4且つステップS6へ進む。モータ制御モードが「停止(状態)」でないと判定した場合は(ステップS2、No)、ステップS3へ進む。
ステップS3で、ECU11は、要求液圧(目標値)が略0であるか否か判定する。要求液圧(目標値)が略0である、又は、要求液圧が略0であり且つ入力値(目標S/Cストローク)が出力されていると判定した場合は(ステップS3、Yes)、ステップS4且つステップS7へ進む。要求液圧(目標値、PRS_DMD)が略0でないと判定した場合は(ステップS3、No)、ステップS5へ進む。
ステップS4で、ECU11は、液圧FBリセットフラグとして、「1」をセットする。なお、この液圧FBリセットフラグへの「1」のセットは、ステップS2とステップS3のどちらかでYesの場合に実施される。また、図3に破線矢印で示すように、ステップS2とステップS3の両方がYesの場合に実施してもよい。
ステップS5で、ECU11は、液圧FBリセットフラグとして、「1」をクリアし、「0」をセットする。なお、この液圧FBリセットフラグへの「0」のセットは、ステップS2とステップS3の両方でNoの場合に実施される。
ステップS6で、ECU11は、液圧FBリセット値に、「0」をセットする。そして、ECU11は、この「0」を初期値として入力値(目標S/Cストローク)に設定し、電動モータ72へ出力する。なお、このステップS6は、ステップS2でYesの場合に実施される。また、図3に破線矢印で示すように、ステップS2とステップS3の両方がYesの場合に実施してもよい。ステップS6の実施後にステップS1へ戻る。
ステップS7で、ECU11は、目標S/Cストロークリミット後値が略0でないか否か判定する。目標S/Cストロークリミット後値が略0でないと判定した場合は(ステップS7、≠0)、ステップS8へ進む。目標S/Cストロークリミット後値が略0であると判定した場合は(ステップS7、=0)、ステップS11へ進み、略0である目標S/Cストロークリミット後値を、液圧FBリセット値にセットする。そして、ECU11は、この略0を初期値として入力値(目標S/Cストローク)に設定し、電動モータ72へ出力する。そして、ステップS1へ戻る。
ステップS8で、ECU11は、目標S/Cストロークリミット後値が0より小さいか大きいか判定する。目標S/Cストロークリミット後値が0より小さいと判定した場合は(ステップS8、<0)、ステップS9へ進む。目標S/Cストロークリミット後値が0より大きいと判定した場合は(ステップS8、>0)、ステップS10へ進む。
ステップS9で、ECU11は、目標S/Cストロークリミット後値に、微少変化量Δを加算して、液圧FBリセット値を算出する。そして、ステップS1へ戻る。このステップS1からステップS9を経由してステップS1へ戻るループが繰り返し実行されることにより、0より小さかった目標S/Cストロークリミット後値が略0になるまで、繰り返し微少変化量Δを加算し、0に収束させる。そして、ECU11は、この微少変化量Δが加算された液圧FBリセット値をその繰り返し毎に初期値として入力値(目標S/Cストローク)に設定し、電動モータ72へ出力する。
ステップS10で、ECU11は、目標S/Cストロークリミット後値から、微少変化量Δを引いて、液圧FBリセット値を算出する。そして、ステップS1へ戻る。このステップS1からステップS10を経由してステップS1へ戻るループが繰り返し実行されることにより、0より大きかった目標S/Cストロークリミット後値が略0になるまで、繰り返し微少変化量Δを引き、0に収束させる。そして、ECU11は、この微少変化量Δが減算された液圧FBリセット値をその繰り返し毎に初期値として入力値(目標S/Cストローク)に設定し、電動モータ72へ出力する。
一方、ステップS12では、ステップS5で液圧FBリセットフラグが「0」にセットされているので、リセットが行われない(リセット禁止)。ステップS12で、ECU11は、液圧FBリセット値に、目標S/Cストロークリミット後値をセットする。一方、ECU11では、制御偏差が、入力値(目標S/Cストローク)として出力される。
なお、液圧FB制御における前記リセットは、運転者のブレーキペダルの操作がない場合でも、モータシリンダ装置16が作動してABS、VSA制御、ヒルホールド制御やクルーズコントロールが実施されている場合には禁止してもよい。