JP5949556B2 - 融合タンパク質 - Google Patents

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Description

本発明は、融合タンパク質に関する。具体的には、本発明は、内腔を有する多量体を形成し得る融合タンパク質、融合タンパク質の多量体、および融合タンパク質の多量体を含む複合体などに関する。
フェリチンは、24量体を形成し、それにより生じる内腔中に、生体に必須の金属である鉄を貯蔵している。フェリチン様タンパク質は動植物から微生物まで普遍的に存在しており、生体あるいは細胞中の鉄元素のホメオスタシスに深く関わっている。微生物の有するフェリチン様タンパク質の一つはDps(DNA−binding protein from starved cells)と呼ばれる。Dpsは、分子量約18kDaの単量体単位からなる12量体を形成することにより、約5nmの直径の内腔を有する外径9nmからなるかご状構造を形成し、この内腔中に、鉄分子を酸化鉄ナノ粒子として貯蔵できる。さらに、フェリチンでは、鉄以外にも、ベリリウム、ガリウム、マンガン、リン、ウラン、鉛、コバルト、ニッケル、クロムなどの金属の酸化物、また、セレン化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉄、硫化カドミウムなどの半導体・磁性体などのナノ粒子を人工的に貯蔵させられることが示されており、半導体素材工学分野や医療分野での応用研究が盛んにおこなわれている(非特許文献1)。
また、生体素材および無機素材または有機素材の複合体を作製することを目的として、無機素材または有機素材に対して結合し得るペプチドが、ファージを用いたスクリーニングにより開発されている。このようなペプチドとしては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノホン(CNH)(非特許文献2、特許文献1、特許文献3)、酸化チタン(特許文献2)、金(非特許文献3)、酸化亜鉛(非特許文献5)、酸化ゲルマニウム(非特許文献6)、ならびに硫化亜鉛および硫化カドミウム(非特許文献7)などを認識するペプチドが知られている。
炭素結晶構造であるCNTやCNHなどのナノ黒鉛構造物は、その電気特性や構造から他のナノ素材との複合体を構築することで電子素材や触媒、光素材および医療技術などへの応用が期待されており、CNH結合ペプチドと融合したフェリチンを用いてナノ黒鉛構造物と金属ナノ粒子を結合させナノ複合体を構築する技術が報告されている(非特許文献2、特許文献3)。
また、酸化チタンは、光を受けることで、光エネルギーによりその表面に還元力を有する電子と酸化力を有する正孔を発生する。その酸化力や還元力を利用することで、抗菌素材や脱臭素材、大気浄化素材、防汚性素材、水素発生触媒、太陽電池などへの応用が試みられている(非特許文献11)。例えば、光によって酸化チタン表面に発生した酸化力を使って水酸化物イオンを酸化すれば、強い酸化力を有するラジカルを発生させることができ、そのラジカルは、その酸化力により殺菌効果やアセトアルデヒドやアンモニアなどの臭い物質の分解効果、空気中のNOxやホルムアルデヒドなど有害物質の分解効果、そして埃などを分解する効果を高めることができる。また、発生した酸化還元力を用いて水を電気分解し、酸素と水素を発生させ、水素をクリーンなエネルギーとして利用することも試みられている。さらに、光によって酸化チタン内に発生した励起電子を取り出すことで、太陽電池としても利用することができる。また、色素を増感剤として酸化チタン表面に吸着させ、その色素に光が照射されることで発生する励起電子を取り出すことで、太陽電池として機能させることができる。
酸化チタンを使ったそれらの素材の性能を向上させるためには、酸化チタンの表面積や電気特性を向上させることが考えられる。すなわち、酸化チタンの表面積を増大させることで、光エネルギーにより発生する還元力を有する電子と酸化力を有する正孔の総数や表面に吸着した色素の総数を増加させることができる。また、電気特性を向上させることで、光により励起した電子が正孔と再結合してしまう確率を低くすることができる。そのため、より多くの電子や酸化力を得ることができる。
現在までに、酸化チタンと融合された金属内包性タンパク質フェリチンを利用して、シリコン基板上にナノ粒子を配置し、そのナノ粒子の上に酸化チタン膜または酸化シリコン膜を形成させ、その酸化膜の上にナノ粒子を配置することによる、酸化膜とナノ粒子とを積層する技術が知られている(特許文献4)。さらに、酸化チタンと融合された金属内包性タンパク質フェリチンを利用して、コバルトや酸化鉄の金属ナノ粒子を内包するタンパク質をチタンで描かれたパターンの上に配向させた例も報告されている(非特許文献8)。
さらに、CNT結合ペプチドおよび酸化チタン結合ペプチドが融合した35個のアミノ酸残基からなるポリペプチドを用いることで、CNT表面を酸化チタンで被膜し、CNTの電気特性を変化させる技術も報告されている(非特許文献10)。また、ウイルスを用いてカーボンナノチューブを酸化チタンでコーティングする技術(非特許文献11)、およびポリオキソメタレート(polyoxometalate)を用いてカーボンナノチューブをチタンでコーティングする技術(非特許文献12)が、報告されている。
国際公開第2006/068250号 国際公開第2005/010031号 特開2004−121154号公報 国際公開第2006/126595号
I.Yamashita et al.,Biochem Biophys.Acta,2010,vol.1800,p.846. S.Wang et al.,Nat.Mater.,2003,vol.2,p.196. S.Brown,Nat.Biotechnol.,1997,vol.15.p.269. R.Tsukamoto et al.,WSEAS Trans.Biol.Biomed.,2006,vol.36,p.443. K.Kjaergaard et al.,Appl.Enbiron.Microbiol.,2000,vol.66.p.10. M.B.Dickerson et al.,Chem.Commun.,2004,vol.15.p.1776. C.E.Flynn et al.,J.Mater.Chem.,2003,vol.13.p.2414. K.Sano et al.,Nano Lett.,2007,vol.7.p.3200. K.Iwahori et al.,Chem.Mater.,2007,vol.19.p.3105. M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.44. M.A.Fox and M.T.Dulay,Chem.Rev.,1993,vol.93,p.341. Xiangnan Dang et al.,Nature Nanotechnology,2011,vol.6,p.377−384 Bin Fei et al.,Nanotechnology,2006,vol.17,p.1589−1593
しかしながら、上述した従来の技術では、光触媒活性または電気特性等に優れたデバイスおよび素材等の開発に十分ではない。具体的には、CNT結合ペプチドと酸化チタン結合ペプチドが融合したポリペプチドの使用により、CNTを酸化チタンで被膜させ電気的性質を変化させることは可能であったが、上記ポリペプチドのサイズは小さいため、酸化チタンの表面積を増大させ光触媒活性を向上させることは困難であった。また、CNTと酸化チタンの複合体の内部に金属ナノ粒子を導入し、新たな電気的特性を付与させることも困難であった。
本発明者らは、鋭意検討した結果、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分を含む融合タンパク質の多量体が、光触媒活性または電気特性等に優れたデバイスおよび素材等の作製等に有用であり得ることなどを見出し、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明は、以下のとおりである。
〔1〕内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分を含む、融合タンパク質。
〔2〕前記第1および第2のペプチド部分が、それぞれ異なる標的物質に結合し得るペプチド部分である、〔1〕の融合タンパク質。
〔3〕前記第1のペプチド部分のC末端部が前記ポリペプチド部分のN末端部に融合し、前記第2のペプチド部分のN末端部が前記ポリペプチド部分のC末端部に融合している、〔1〕または〔2〕の融合タンパク質。
〔4〕内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分がDpsである、〔3〕の融合タンパク質。
〔5〕Dpsが、配列番号4または配列番号29のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔4〕の融合タンパク質。
〔6〕第1の標的物質および第2の標的物質が、金属素材、シリコン素材または炭素素材である、〔1〕〜〔5〕のいずれかの融合タンパク質。
〔7〕金属素材がチタン素材または亜鉛素材である、〔6〕の融合タンパク質。
〔8〕シリコン素材が、シリコン、またはシリコンの酸化物である、〔6〕の融合タンパク質。
〔9〕炭素素材がカーボンナノ素材である、〔6〕の融合タンパク質。
〔10〕融合タンパク質が、配列番号2、配列番号27または配列番号32のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である、〔1〕の融合タンパク質。
〔11〕融合タンパク質の多量体であって、
内腔を有し、
融合タンパク質が、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分を含む、多量体。
〔12〕内腔中に物質を含む、〔11〕の多量体。
〔13〕複合体であって、
〔11〕または〔12〕の多量体、ならびに第1および第2の標的物質を含み、
第1の標的物質が、前記融合タンパク質中の第1のペプチド部分に結合し、かつ第2の標的物質が、前記融合タンパク質中の第2のペプチド部分に結合している、複合体。
〔14〕〔1〕〜〔10〕のいずれかの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔15〕〔14〕のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔16〕〔15〕の発現ベクターを含む形質転換体。
〔17〕形質転換体がエスケリシア・コリである、〔16〕の形質転換体。
本発明の融合タンパク質、多量体および複合体は、電気特性および/または光触媒活性の向上した新規デバイスの作製、ならびに医療、バイオ研究分野等の分野に有用である。例えば、酸化チタンに結合し得るペプチド部分およびカーボンナノチューブに結合し得るペプチド部分を含む融合タンパク質の使用により、抗菌素材、脱臭素材、大気浄化素材、防汚性素材、水素発生装置、太陽電池、半導体などの提供が可能になる。
図1は、鉄ナノ粒子を有するCNHBP−Dps−TBP(CDT)の3%リンタングステン酸染色の電子顕微鏡像を示す図である。 図2は、鉄ナノ粒子を持たないCNHBP−Dps−TBP(CDT)の3%リンタングステン酸染色の電子顕微鏡を示す図である。 図3は、鉄ナノ粒子を有するCNHBP−Dps−TBP(CDT)の1%金グルコース染色の電子顕微鏡を示す図である。 図4は、CNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTの混合溶液の電子顕微鏡像を示す図である。 図5は、DpsとCNTの混合溶液の電子顕微鏡像を示す図である。 図6は、QCMを用いたCNHBP−Dps−TBP(CDT)のチタン結合能と酸化シリコン結合能の測定を示す図である。 図7は、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)に由来するDpsのアミノ酸配列に対する、他の細菌に由来するDpsのアミノ酸配列の同一性および類似性解析の結果を示す図である。 図8は、エスケリシア・コリ(Escherichia coli)に由来するDpsのアミノ酸配列に対する、他の細菌に由来するDpsのアミノ酸配列の同一性および類似性解析の結果を示す図である。 図9は、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)およびエスケリシア・コリ(Escherichia coli)に由来するDpsのアミノ酸配列に対する、他の細菌に由来するDpsのアミノ酸配列の類似性解析の結果を示す図である。 図10は、CNTセンサーを搭載したQCMを用いて計測されたkobsと蛋白質濃度の関係を示す図である。 図11は、酸化チタンセンサーを搭載したQCMを用いて計測されたkobsと蛋白質濃度の関係を示す図である。 図12は、CcDTの透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図13は、CNTセンサーを搭載したQCMを用いて計測されたCNTとCcDTの結合を示す図である。 図14は、酸化チタンセンサーを搭載したQCMを用いて計測された酸化チタンとCcDTの結合を示す図である。 図15は、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図16は、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体にチタン前駆体を添加して得られた黒い析出物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図17は、チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を焼成して得られた構造体の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 図18Aは、チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を500℃で焼成して得られた構造体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図18Bは、チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を600℃で焼成して得られた構造体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図18Cは、チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を700℃で焼成して得られた構造体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図18Dは、チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を800℃で焼成して得られた構造体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図19は、チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を焼成して得られた構造体のXRD分析の結果を示す図である。 図20Aは、多孔質構造体の概略的な平面図である。 図20Bは、図20AのIB−IB一点鎖線で示される位置で切断した多孔質構造体の切断端面を示す概略的な図(1)である。 図20Cは、図20Bと同様の位置で切断した多孔質構造体の切断端面を示す概略的な図(2)である。 図20Dは、図20Bと同様の位置で切断した多孔質構造体の切断端面を示す概略的な図(3)である。 図20Eは、図20Bと同様の位置で切断した多孔質構造体の切断端面を示す概略的な図(4)である。 図21は、CDZの透過型電子顕微鏡像を示す図である。 図22は、CDZによる硫酸亜鉛水溶液からの白色沈殿形成の促進を示す図である。 図23は、CDZとCNTとの複合体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
本発明は、融合タンパク質を提供する。本発明の融合タンパク質は、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分を含み得る。
用語「内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分」とは、内部に空間を有する多量体を、ポリペプチド部分の会合によって、形成する能力を有するポリペプチド部分をいう。このようなポリペプチド部分としては、幾つかのタンパク質が知られている。例えば、このようなポリペプチド部分としては、内腔を有する24量体を形成し得るフェリチン、および内腔を有する多量体を形成し得るフェリチン様タンパク質が挙げられる。内腔を有する多量体を形成し得るフェリチン様タンパク質としては、例えば、内腔を有する12量体を形成し得るDpsが挙げられる。内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分は、微生物、植物および動物等の任意の生物に由来する、天然に生じるタンパク質であっても、または天然に生じるタンパク質の変異体であってもよい。以下、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分を、単にポリペプチド部分と称する場合がある。
一実施形態では、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分は、Dpsである。本発明で用いられる用語「Dps(DNA−binding protein from starved cells)」とは、発明の背景において説明したような、内腔を有する12量体を形成し得るタンパク質をいう。用語「Dps」には、天然に生じるDpsまたはその変異体が含まれる。天然に生じるDpsの変異体としては、天然に生じるDpsと同様に、12量体を形成したときに、そのN末端部およびC末端部が12量体の表面に露出し得るものが好ましい。なお、Dpsは、それが由来する細菌の種類によってはNapA、バクテリオフェリチン、DlpまたはMrgAと称呼される場合があり、また、Dpsには、DpsA、DpsB、Dps1、Dps2等のサブタイプが知られている(T.Haikarainen and A.C.Papageorgion, Cell.Mol.Life Sci.,2010 vol.67,p.341を参照)。したがって、本発明では、用語「Dps」は、これらの別名で称呼されるタンパク質も含むものとする。
Dpsが由来し得る微生物としては、Dpsを産生する微生物である限り特に限定されないが、例えば、リステリア(Listeria)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、バチルス(Bacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビブリオ(Vibrio)属、エスケリシア(Escherichia)属、ブルセラ(Brucella)属、ボレリア(Borrelia)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、カンピロバクター(Campylobacter)属、サーモシネココッカス(Thermosynechococcus)属、およびデイノコッカス(Deinococcus)属、ならびにコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌が挙げられる。
リステリア属に属する細菌としては、例えば、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)が挙げられる。スタフィロコッカス属に属する細菌としては、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus Aureus)が挙げられる。バチルス属に属する細菌としては、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)が挙げられる。ストレプトコッカス属に属する細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス スイス(Streptococcus suis)が挙げられる。ビブリオ属に属する細菌としては、例えば、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)が挙げられる。エスケリシア属に属する細菌としては、例えば、エスケリシア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。ブルセラ属に属する細菌としては、例えば、ブルセラ・メリテンシス(Brucella Melitensis)が挙げられる。ボレリア属に属する細菌としては、例えば、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia Burgdorferi)が挙げられる。マイコバクテリウム属に属する細菌としては、例えば、マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)が挙げられる。カンピロバクター属に属する細菌としては、例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)が挙げられる。サーモシネココッカス属に属する細菌としては、例えば、サーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus Elongatus)が挙げられる。デイノコッカス属に属する細菌としては、例えば、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus Radiodurans)が挙げられる。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)が挙げられる。
好ましい実施形態では、Dpsは、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列に対して70%以上の類似性パーセントを示すアミノ酸配列からなるタンパク質であり得る。リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列に対する、Dpsのアミノ酸配列の類似性パーセントは、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であり得る。Dpsは、二次構造として、5箇所のα−ヘリックス部分を有する(A.Ilari et al.,Nat.Struct.Biol.,2000,Vol.7,p.38.、R.A.Grant et al.Nat.Struct Biol.1998,Vol 5,p.294.、およびR.R.Crichton et al.,2010,Vol.1800,p.706.を参照)。Dpsの機能の保持の観点からは、上記二次構造の維持が重要である。したがって、例えば、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列に対して70%以上の類似性パーセントを示すアミノ酸配列からなるタンパク質を作製する場合、上記二次構造が維持されるように、部位特異的変異誘発法等の周知の変異導入法により所望の変異が導入され得る。リステリア・イノキュアに由来するDpsを例に挙げて、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸残基の位置と、上記二次構造等との間の関係を、N末端側から具体的に説明すると、以下のとおりである:(i)1〜8位のアミノ酸残基(12量体表面上に露出しているN末端領域);(ii)9〜33位のアミノ酸残基(α−ヘリックス);(iii)39〜66位のアミノ酸残基(α−ヘリックス);(iv)75〜81位のアミノ酸残基(α−ヘリックス);(v)95〜122位のアミノ酸残基(α−ヘリックス);(vi)126〜149位のアミノ酸残基(α−ヘリックス);(vii)150〜156位のアミノ酸残基(12量体表面上に露出しているC末端領域)。ここで、内腔を有する多量体を形成する能力の保持には、上記(i)〜(vii)のうち、(ii)〜(vi)が重要であり得る。DpsのN末端部の12量体表面上への露出には、DpsのN末端部に隣接するα−ヘリックスが12量体の外側に向いている必要があることから、(i)および(ii)、特に(ii)が重要であり得る。DpsのC末端部の12量体表面上への露出には、DpsのC末端部に隣接するα−ヘリックスが12量体の外側に向いている必要があることから、(vi)および(vii)、特に(vi)が重要であり得る。したがって、上述した重要な領域中に存在するアミノ酸残基を変異させる場合には、保存的アミノ酸置換が好ましい。一方、上述した重要な領域以外の領域中に存在するアミノ酸残基を変異させる場合には、任意の変異が導入され得る。当業者は、これらの指針に基づき、天然に生じるDpsに対して、その機能が保持されるような所望の変異を導入することにより、天然に生じるDpsの変異体を容易に作製できる。
アミノ酸配列において変異を導入すべきアミノ酸残基の位置は、上述したとおり当業者に明らかであるが、配列アライメントをさらに参考にして、天然に生じるDpsの変異体を作製してもよい。具体的には、当業者は、1)複数のDpsのアミノ酸配列(例、配列番号4で表されるアミノ酸配列、および他のDpsのアミノ酸配列)を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、上述した二次構造情報単独でも、Dpsのアミノ酸配列において変異を導入すべき位置を特定でき、また、二次構造情報および配列アライメント情報を併用して、Dpsのアミノ酸配列において変異を導入すべきアミノ酸残基の位置を特定できる。
一実施形態では、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列に対して70%以上の類似性パーセントを示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の変異(例、欠失、置換、付加および挿入)を含むアミノ酸配列からなり、かつDpsの機能を保持するタンパク質であり得る。1または数個のアミノ酸残基の変異は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。Dpsのアミノ酸残基の変異に関する用語「1または数個」が示す数は、例えば、1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらにより好ましくは1〜10個、特に好ましくは1、2、3、4または5個である。
アミノ酸残基が置換により変異される場合、アミノ酸残基の置換は、保存的置換であってもよい。本明細書中で用いられる場合、用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
別の実施形態では、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列に対して70%以上の類似性パーセントを示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号3または配列番号28で表されるヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、かつDpsの機能を保持するタンパク質であってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このような条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性(例、同一性または類似性)が高いポリヌクレオチド同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより低い相同性を示すポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件である。具体的には、このような条件としては、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて、0.2×SSC、0.1%SDS中、50〜65℃での1または2回以上の洗浄が挙げられる。
特定の実施形態では、Dpsは、リステリア・イノキュアまたはエスケリシア・コリ、あるいはコリネバクテリウム・グルタミカムに由来するDpsのアミノ酸配列に対して70%以上の同一性パーセントを示すアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。Dpsのアミノ酸配列の同一性パーセントは、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。
更に特定の実施形態では、Dpsは、配列番号4または配列番号29で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなる、またはそれを含むタンパク質であってもよい。配列番号4または配列番号29で表されるアミノ酸配列に対する、本発明の融合タンパク質のアミノ酸配列の同一性パーセントは、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。
アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性(例、同一性または類似性)は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993))、PearsonによるFASTA(MethodsEnzymol.,183,63(1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTP、BLASTNとよばれるプログラムが開発されているので(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)、これらのプログラムをデフォルト設定で用いて、アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性を計算してもよい。また、アミノ酸配列の相同性としては、例えば、Lipman−Pearson法を採用している株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ORFにコードされるポリペプチド部分全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でSimilarityをpercentage計算させた際の数値を用いてもよい。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性として、これらの計算で導き出される値のうち、最も低い値を採用してもよい。
用語「第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分」および「第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分」とは、任意の標的物質に対して親和性を有するペプチドを有し、かつ当該標的物質に対して結合できる部分をいう。第1のペプチド部分および第2のペプチド部分は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。標的物質に対して親和性を有する種々のペプチドが知られているので、本発明では、このようなペプチドを有する部分を、上記ペプチド部分として用いることができる。以下、第1のペプチド部分および第2のペプチド部分を、単に、標的物質に結合し得るペプチド部分と称する場合がある。表現「標的物質に結合し得るペプチド部分」は、用語「第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分」および「第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分」を包括する表現であり、また、これらの表現は交換可能に使用される。標的物質に結合し得るペプチド部分は、任意の標的物質に対して親和性を有する1個のペプチドのみを有していてもよいし、あるいは任意の標的物質に対して親和性を有する同種または異種の複数(例、2個、3個、4個、5個または6個等の数個)のペプチドを有していてもよい。例えば、標的物質に結合し得るペプチド部分が、任意の標的物質に対して親和性を有する異種の複数のペプチドを有する場合、当該ペプチド部分としては、カーボンナノ素材と結合し得るP1ペプチド(配列番号13)と、チタン素材またはシリコン素材に結合し得るR5ペプチド(配列番号15)との融合ペプチドであるP1R5ペプチド(SSKKSGSYSGSKGSKRRILGGGGHSSYWYAFNNKT(配列番号21))を用いることができる(例、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44を参照)。標的物質に結合し得るペプチド部分が上記のような複数のペプチドを有する場合、複数のペプチドは、当該ペプチド部分中に任意の順序で融合され得る。融合は、アミド結合を介して達成され得る。融合は、直接的なアミド結合、あるいは1個のアミノ酸残基(例、メチオニン)または数個(例えば2〜50個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜15個または2〜10個、最も好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチド(ペプチドリンカー)が介在したアミド結合により達成され得る。種々のペプチドリンカーが知られているので、本発明でも、このようなペプチドリンカーを使用することができる。
標的物質(あるいは第1または第2の標的物質)としては、例えば、無機素材および有機素材、あるいは導体素材、半導体素材および磁性体素材が挙げられる。具体的には、このような標的物質としては、金属素材、シリコン素材、炭素素材、低分子化合物(例、ポルフィリン等の生体物質、放射性物質、蛍光物質、色素、薬物)、ポリマー(例、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンオキシドまたはポリ(L−乳酸)等の疎水性有機ポリマーまたは伝導性ポリマー)、タンパク質(例、オリゴペプチドまたはポリペプチド)、核酸(例、DNAまたはRNA、あるいはヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)、糖質(例、モノサッカリド、オリゴサッカリドまたはポリサッカリド)、脂質が挙げられる。
金属素材としては、例えば、金属および金属化合物が挙げられる。金属としては、例えば、チタン、クロム、亜鉛、鉛、マンガン、カルシウム、銅、カルシウム、ゲルマニウム、アルミニウム、ガリウム、カドミウム、鉄、コバルト、金、銀、プラチナ、パラジウム、ハフニウム、テルルが挙げられる。金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、硫化物、炭酸化物、砒化物、塩化物、フッ化物およびヨウ化物、ならびに金属間化合物が挙げられる。金属の酸化物としては、種々の酸化物が挙げられる。このような酸化物についてチタンの酸化物を例として説明すると、チタンの酸化物としては、例えば、一酸化チタン(CAS番号12137−20−1)、二酸化チタン(CAS番号13463−67−7)、二酸化チタン(アナタース、アナターゼ:CAS番号1317−70−0)、二酸化チタン(ルチル:1317−80−2)、三酸化二チタン(CAS番号1344−54−3)が挙げられる。より具体的には、金属化合物としては、上述したようなチタンの酸化物、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化マンガン、ゼオライト、炭酸カルシウム、酸化銅、酸化マンガンカルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、チタンジルコン酸鉛、砒化ガリウム、硫化亜鉛、硫化鉛、硫化カドミウム、白金鉄、白金コバルト、カドミウムテルルが挙げられる。
シリコン素材としては、例えば、シリコンまたはシリコン化合物が挙げられる。シリコン化合物としては、例えば、シリコンの酸化物(例、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO2))、炭化ケイ素(SiC)、シラン(SiH)、シリコーンゴムが挙げられる。
炭素素材としては、例えば、カーボンナノ素材(例、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホン(CNH))、フラーレン(C60)、グラフェンシート、グラファイトが挙げられる。
標的物質に結合し得るペプチド部分は、上述したような標的物質に対して親和性を有する限り特に限定されない。標的物質に対して親和性を有する種々のペプチドが知られており、また、開発されている。例えば、生体素材および無機素材または有機素材の複合体を作製することを目的として、無機素材または有機素材に対して結合し得るペプチドが、ファージを用いたスクリーニング等の手法により開発されている。このような手法により開発されたペプチドとしては、例えば、チタンおよびチタンの酸化物ならびに銀(K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.、国際公開第2005/010031号)、金(S.Brown,Nat.Biotechnol.,1997,vol.15.p.269.)、酸化亜鉛(K.Kjaergaard et al.,Appl.Environ.Microbiol.,2000,vol.66.p.10.、Umetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571−2575(2005))、酸化ゲルマニウム(M.B.Dickerson et al.,Chem.Commun.,2004,vol.15.p.1776.)、硫化亜鉛および硫化カドミウム(C.E.Flynn et al.,J.Mater.Chem.,2003,vol.13.p.2414.)等の金属素材に結合し得るペプチド;シリコンおよびシリコンの酸化物(H.Chen et al.,Anal. Chem.,2006,vol.78,,p.4872、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44、K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.、国際公開第2005/010031号)等のシリコン素材に結合し得るペプチド;カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホン(CNH)等の炭素素材に結合し得るペプチド(S.Wang et al.,Nat.Mater.,2003,vol.2,p.196.および特開2004−121154号公報);ならびに疎水性有機ポリマー等のポリマーに結合し得るペプチド(特開2008−133194号公報)が挙げられる。したがって、本発明でも、標的物質に結合し得るペプチド部分として、このようなペプチドを使用することができる。
なお、金属に結合し得るペプチドは、金属の析出(mineralization)作用を有し得ること、および金属化合物に結合し得るペプチドは、金属化合物の析出作用を有し得ることが知られている(K.Sano et al.,Langmuir,2004,vol.21,p.3090.、M.Umetsu et al.,Adv.Mater.,2005,vol.17,p.2571.)。したがって、標的物質に結合し得るペプチド部分として、金属素材(金属または金属化合物)に結合し得るペプチドを用いる場合、金属素材に結合し得るペプチドは、このような析出作用を有し得る。
ポリペプチド部分、ならびに第1および第2のペプチド部分の融合は、アミド結合を介して達成され得る。融合は、直接的なアミド結合、あるいは1個のアミノ酸残基(例、メチオニン)または数個(例えば2〜50個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜15個または2〜10個、最も好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチド(ペプチドリンカー)が介在したアミド結合により達成され得る。種々のペプチドリンカーが知られているので、本発明でも、このようなペプチドリンカーを使用することができる。
本発明の融合タンパク質において、ポリペプチド部分、ならびに第1および第2のペプチド部分が融合する順序は、特に限定されず、1)ポリペプチド部分のN末端部およびC末端部がそれぞれ第1および第2のペプチド部分のC末端部およびN末端部(またはN末端部およびC末端部)と融合していてもよいし、あるいは2)ポリペプチド部分のN末端部が第1のペプチド部分のC末端部と融合し、かつ当該第1のペプチド部分のN末端部が第2のペプチド部分のC末端部とさらに融合していてもよく、または3)ポリペプチド部分のC末端部が第1のペプチド部分のN末端部と融合し、かつ当該第1のペプチド部分のC末端部が第2のペプチド部分のN末端部とさらに融合していてもよい。例えば、ポリペプチド部分としてフェリチンを用いる場合、フェリチンはそのN末端部が多量体の表面上に露出され、そのC末端部は表面上に露出しないことから、好ましくは、フェリチンは、上記2)の順序で融合される。一方、ポリペプチド部分としてDpsを用いる場合、DpsはN末端部およびC末端部の両方が多量体の表面上に露出し得ることから、Dpsは、上記1)〜3)のいずれかの順序で融合され得る。
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、ポリペプチド部分のN末端側およびC末端側にそれぞれ第1および第2のペプチド部分(それぞれ、1個または複数)を有し得る。換言すれば、第1のペプチド部分のC末端部は、ポリペプチド部分のN末端部と融合され、かつ、第2のペプチド部分のN末端部は、ポリペプチド部分のC末端部と融合される。
第1のペプチド部分は、翻訳開始コドンによりコードされるメチオニン、またはメチオニンをN末端に含む部分を、第1のペプチド部分のN末端側に有するように設計され得る。このような設計により、本発明の融合タンパク質の翻訳が促進され得る。メチオニンをN末端に含むペプチド部分は、数個(例えば2〜50個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜15個または2〜10個、最も好ましくは2、3、4または5個)のアミノ酸残基からなるペプチドであり得る。
好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、第1および第2のペプチド部分が異なる標的物質に結合し得る。第1および第2のペプチド部分が結合する標的物質の組合せとしては、例えば、無機素材と有機素材との組合せ、2種の無機素材の組合せ、2種の有機素材の組合せが挙げられる。より具体的には、このような組合せとしては、金属素材とシリコン素材との組合せ、金属素材と炭素素材との組合せ、シリコン素材と炭素素材との組合せ、2種の金属素材の組合せ、2種のシリコン素材の組合せ、2種の炭素素材の組合せが挙げられる。したがって、第1および第2のペプチド部分の組合せは、上述したような標的物質に結合し得るペプチド部分の組合せであり得る。
より好ましい実施形態では、本発明の融合タンパク質は、第1および第2のペプチド部分の一方が炭素素材に結合し、かつ、他方が金属素材またはシリコン素材に結合し得る。換言すれば、本発明の融合タンパク質は、第1のペプチド部分として、炭素素材に結合し得るペプチド部分を有し、かつ、第2のペプチド部分として、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分を有するか、あるいは、第1のペプチド部分として、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分を有し、かつ、第2のペプチド部分として、炭素素材に結合し得るペプチド部分を有する。
炭素素材に結合し得るペプチド部分としては、カーボンナノチューブ(CNT)またはカーボンナノホン(CNH)等のカーボンナノ素材に結合し得るペプチド部分が好ましい。このようなペプチド部分としては、例えば、後述する実施例および特開2004−121154号公報に開示されるDYFSSPYYEQLF(配列番号6)、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44に開示されるHSSYWYAFNNKT(配列番号13)、ならびに特開2004−121154号公報に開示されるYDPFHII(配列番号14)、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
金属素材に結合し得るペプチド部分としては、チタンまたはチタン化合物(例、酸化チタン)等のチタン素材に結合し得るペプチド部分、および亜鉛または亜鉛化合物(例、酸化亜鉛)等の亜鉛素材に結合し得るペプチド部分が好ましい。チタン素材に結合し得るペプチド部分としては、例えば、後述する実施例および国際公開第2006/126595号に開示されるRKLPDA(配列番号8)、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44に開示されるSSKKSGSYSGSKGSKRRIL(配列番号15)、ならびに国際公開第2006/126595号に開示されるRKLPDAPGMHTW(配列番号16)およびRALPDA(配列番号17)、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。亜鉛素材に結合し得るペプチド部分としては、例えば、後述する実施例およびUmetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571−2575(2005)に開示されるEAHVMHKVAPRPGGGSC(配列番号30)、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
シリコン素材に結合し得るペプチド部分としては、シリコンまたはシリコン化合物(例、シリコンの酸化物)に結合し得るペプチド部分が好ましい。このようなペプチド部分としては、例えば、後述する実施例および国際公開第2006/126595号に開示されるRKLPDA(配列番号8)、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40−44に開示されるSSKKSGSYSGSKGSKRRIL(配列番号15)、ならびに国際公開第2006/126595号に開示されるMSPHPHPRHHHT(配列番号18)、TGRRRRLSCRLL(配列番号19)、およびKPSHHHHHTGAN(配列番号20)、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
特定の実施形態では、本発明の融合タンパク質は、配列番号2、配列番号27または配列番号32で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなる、またはそれを含むタンパク質であってもよい。配列番号2、配列番号27または配列番号32で表されるアミノ酸配列に対する、本発明の融合タンパク質のアミノ酸配列の同一性パーセントは、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。
本発明の融合タンパク質は、本発明の融合タンパク質を発現する形質転換体から得ることができる。この形質転換体は、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、本発明の融合タンパク質の発現ベクターを作製し、次いで、この発現ベクターを宿主に導入することにより作製することができる。本発明の融合タンパク質を発現させるための宿主としては、例えば、エスケリシア・コリ(Escherichia coli)等のエスケリシア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、およびバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)をはじめとする種々の真核細胞が挙げられる。
形質転換される宿主としてE.coliについて詳述すると、E.coliとしては、例えば、E.coli K12株亜種のE.coli JM109株、DH5α株、HB101株、BL21(DE3)株が挙げられる。形質転換方法、および形質転換体を選別する方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor press (2001/01/15)などにも記載されている。以下、形質転換されたE.coliを作製し、これを用いて本発明の融合タンパク質を製造する方法を、一例としてより具体的に説明する。
本発明の融合タンパク質をコードするDNAを発現させるプロモータとしては、通常E.coliにおける異種タンパク質生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、T7プロモータ、lacプロモータ、trpプロモータ、trcプロモータ、tacプロモータ、ラムダファージのPRプロモータ、PLプロモータ、T5プロモータ等の強力なプロモータが挙げられる。ベクターとしては、例えば、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pACYC177、pACYC184、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pQE30およびその誘導体が挙げられる。
また、本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子の下流に、転写終結配列であるターミネータを連結してもよい。このようなターミネータとしては、例えば、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータが挙げられる。
本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子をE.coliに導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう「改変」とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。
ベクターは、形質転換体の選別のため、アンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモータを持つ発現ベクターが市販されている(例、pUC系(タカラバイオ社製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製))。
得られた発現ベクターを用いてE.coliを形質転換し、得られたE.coliを培養すると、本発明の融合タンパク質が発現される。
培地としては、例えば、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地が挙げられる。培養および生産誘導等の条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択することができる。
本発明の融合タンパク質を回収するには、以下の方法などがある。本発明の融合タンパク質は、本発明の融合タンパク質を産生する形質転換体を回収した後、形質転換体を破砕(例、ソニケーション、ホモジナイゼーション)あるいは溶解(例、リゾチーム処理)することにより、破砕物および溶解物として得ることができる。このような破砕物および溶解物を、抽出、沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法に供することにより、精製タンパク質、粗精製タンパク質、または本発明の融合タンパク質含有画分を得ることができる。
本発明はまた、本発明の融合タンパク質の作製に用いることができる、上述したような、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、ならびに当該発現ベクターを含む形質転換体を提供する。
本発明のポリヌクレオチドは、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分をコードするポリヌクレオチド部分、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分をコードする第1のポリヌクレオチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分をコードする第2のポリヌクレオチド部分を含み得る。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の融合タンパク質をコードするので、本発明の融合タンパク質に関する上述した説明に基づいて、種々の観点から特定することができる。
特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1、配列番号26または配列番号31で表されるヌクレオチド配列に対して90%以上の同一性を示すヌクレオチド配列からなる、またはそれを含むポリヌクレオチドであってもよい。配列番号1、配列番号26または配列番号31で表されるヌクレオチド配列に対する、本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列の同一性パーセントは、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。
本発明はまた、融合タンパク質の多量体を提供する。本発明の多量体は、内腔を有し得る。本発明の多量体を構成する融合タンパク質は、上述したとおりである。本発明の多量体は、本発明の融合タンパク質を発現させることで、自律的に形成され得る。本発明の多量体を構成する単量体単位の数は、本発明の融合タンパク質におけるポリペプチド部分の種類により決定され得る。好ましくは、本発明の多量体は、内腔を有する多量体を形成し得るポリペプチド部分としてDpsを有し得ることから、12量体であり得る。
本発明の多量体は、単量体単位として、単一の融合タンパク質から構成されるホモ多量体であってもよいが、異なる複数の種類(例、2種、3種、4種、5種または6種)の融合タンパク質から構成されるヘテロ多量体であってもよい。本発明の多量体では、多量体形成の観点から、多量体を構成する融合タンパク質中のポリペプチド部分は単一のポリペプチド部分であることが好ましいが、第1のペプチド部分および第2のペプチド部分は、多量体を構成する融合タンパク質間で異なるものであってもよい。例えば、本発明の多量体が2種の融合タンパク質から構成され、かつ当該融合タンパク質中のポリペプチド部分がそのN末端側およびC末端側にそれぞれ融合されたペプチド部分を有する場合、2種の融合タンパク質の組合せとしては、以下が挙げられる:
(i)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)と、第1のペプチド部分(c)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(d)との組合せ;
(ii)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)と、第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(c)との組合せ;
(iii)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)と、第1のペプチド部分(c)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)との組合せ;
(iv)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)と、第1のペプチド部分(c)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(a)との組合せ;
(v)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(a)と、第1のペプチド部分(b)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(c)との組合せ;
(vi)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)と、第1のペプチド部分(b)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(a)との組合せ;
(vii)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(a)と、第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(b)との組合せ;ならびに
(viii)第1のペプチド部分(a)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(a)と、第1のペプチド部分(b)−ポリペプチド部分−第2のペプチド部分(a)との組合せ。
〔ここで、a〜dは、異なるペプチド部分(例、異なる標的物質に結合し得るペプチド部分)であることを示す。(i)は、4種のペプチド部分を利用する態様であり、(ii)〜(v)は、3種のペプチド部分を利用する態様であり、(vi)〜(viii)は、2種のペプチド部分を利用する態様である。〕
具体的には、本発明の多量体が2種の融合タンパク質から構成され、かつ、ペプチド部分として、炭素素材に結合し得るペプチド部分、および金属素材(例、チタン素材、亜鉛素材)またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分を少なくとも用いる場合には、本発明の多量体を利用して作製されるデバイスの電気特性等を変化させる観点から、2種の融合タンパク質の組合せとしては、例えば、以下が挙げられる:
(i−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−2)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−3)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−4)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、第2の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(vi)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(vii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(vii−2)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(viii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;ならびに
(viii−2)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分。
異なる複数の種類の融合タンパク質から構成される多量体は、例えば、異なる種類の融合タンパク質を発現する複数のベクター、または異なる種類の融合タンパク質を発現する単一のベクター(例、ポリシストロニックmRNAを発現し得るベクター)を、単一の宿主細胞に導入し、次いで、異なる種類の融合タンパク質を単一の宿主細胞中で発現させることにより、得ることができる。このような多量体はまた、単一の融合タンパク質から構成される第1の単量体と、単一の融合タンパク質(第1の多量体を構成する融合タンパク質とは異なる)から構成される第2の単量体とを、同一の媒体(例、緩衝液)中で共存させ、放置することにより、得ることができる。融合タンパク質の単量体は、例えば、本発明の多量体を、低pHの緩衝液下に放置することにより調製することができる。詳細については、例えば、B.Zheng et al.,Nanotechnology,2010,vol.21,p.445602を参照のこと。
本発明の多量体は、内腔中に物質を含んでいてもよい。物質は、錯体または粒子(例、ナノ粒子、磁性粒子)のような形態で、本発明の多量体中に内包されていてもよい。当業者は、本発明の多量体の内腔のサイズ、および本発明の多量体における物質の取り込みに関与し得る領域(例、C末端の領域:R.M.Kramer et al.,2004,J.Am.Chem.Soc.,vol.126,p.13282を参照)中のアミノ酸残基の電荷特性等を考慮することにより、本発明の多量体に内包され得る物質を適切に選択できる。例えば、ポリペプチド部分としてDpsを有する本発明の多量体の場合、Dpsは、40〜60nm(直径 約5nm)の程度の内腔を有する。したがって、このような多量体に内包され得る物質のサイズは、例えば60nm以下、好ましくは40nm以下、より好ましくは20nm以下、さらにより好ましくは10nm以下、最も好ましくは5nm以下であり得る。また、多量体における物質の取り込みに関与し得る領域中の電荷特性(例、正または負に荷電し得る側鎖を有するアミノ酸残基の種類および数)を変化させることにより、多量体の内腔中への物質の取り込みをより促進できることが報告されているので(例、R.M.Kramer et al.,2004,J.Am.Chem.Soc.,vol.126,p.13282を参照)、本発明においても、電荷特性が変化された領域を有する融合タンパク質の多量体を用いることができる。本発明の多量体に内包され得る物質としては、例えば、上述した標的物質と同様の無機素材が挙げられる。具体的には、本発明の多量体に内包され得る物質としては、上述したような金属素材やシリコン素材が挙げられる。より具体的には、このような物質としては、酸化鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、リン、ウラン、ベリリウム、アルミニウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、パラジウム、クロム、銅、銀、ガドリウム錯体、白金コバルト、酸化シリコン、酸化コバルト、酸化インジウム、白金、金、硫化金、セレン化亜鉛、カドミウムセレンが挙げられる。
本発明の多量体の内腔中への物質の内包は、周知の方法により行うことができ、例えば、フェリチンまたはDps等のフェリチン様タンパク質の多量体の内腔中への物質の内包方法(例、I.Yamashita et al.,Chem.,lett.,2005.vol.33,p.1158を参照)と同様にして行うことができる。具体的には、HEPES緩衝液等の緩衝液中に、本発明の多量体(または本発明の融合タンパク質)および内包されるべき物質を共存させ、次いで適切な温度(例、0〜37℃)で放置することにより、本発明の多量体の内腔中に物質を内包させることができる(実施例3もまた参照のこと)。
本発明の多量体は、内腔中に物質を含む場合、異なる複数の種類(例、2種、3種、4種、5種または6種)の物質を含む、異なる複数の種類の多量体のセットとして提供されてもよい。例えば、本発明の多量体が2種の物質を含む2種の多量体のセットとして提供される場合、このようなセットは、各々別々に調製された、第1の物質を内包する第1の多量体と、第2の物質(第1の物質とは異なる)を内包する第2の多量体とを、組み合せることにより、得ることができる。上述したような融合タンパク質の多様なパターンと、内包物質の多様なパターンとを適宜組み合せることにより、非常に多様性に富む本発明の多量体を得ることができる。
本発明はまた、複合体を提供する。本発明の複合体は、本発明の多量体、ならびに第1および/または第2の標的物質を含み得る。本発明の複合体では、第1の標的物質が、融合タンパク質中の第1のペプチド部分に結合し得、かつ第2の標的物質が、融合タンパク質中の第2のペプチド部分に結合し得る。標的物質は、上述したとおりである。第1および第2の標的物質は、好ましくは、異なる標的物質である。標的物質は、他の物質または物体と結合していてもよい。例えば、標的物質は、固相(例、ウェルプレート等のプレート、支持体、基板、素子、デバイス)上に固定されていてもよい。したがって、本発明の複合体は、本発明の多量体、ならびに第1の標的物質および/または第2の標的物質を含み得る限り、他の物質または物体をさらに含んでいてもよい。
本発明の複合体を焼成することで、多孔質構造体を作製することができる。以下、図20A〜Eに示される模式図に基づいて、多孔質構造体を説明する。なお、図20A〜Eに示される多孔質構造体20は、あくまで模式的なものである。例えば、タンパク質を消滅し得る温度条件下で本発明の複合体を焼成することにより、本発明の多量体が存在していた部位に第1の空孔部32が形成された多孔質構造体10を得ることができる(図20A、図20B)。第2の空孔部は、第2の標的物質20の析出過程および/または焼成過程において生じ得る空孔部を示している。また、タンパク質、および凝集体を構成する第1の標的物質30(例、カーボンナノチューブ等の炭素素材)の双方を消滅し得る温度条件下で本発明の複合体を焼成することにより、本発明の多量体が存在していた部位に第1の空孔部32が形成され、かつ第1の標的物質が存在していた部位に第3の空孔部38が形成された多孔質構造体を得ることができる(図20D)。本発明の複合体を構成する多量体の内腔中に物質(例、金属粒子36)が内包されていた場合には、第1の空孔部32中に物質(例、金属粒子36)を残存させることができる(図20C、E)。本発明の複合体を構成する多量体の内腔中に物質(例、金属粒子36)が内包されており、かつ当該物質を溶融させた場合には、第1の空孔部32の内側に当該物質からなる皮膜(例、金属皮膜36a)を形成することができる(図20C、E)。このように作製された多孔質構造体は、光触媒活性または電気特性等に優れたデバイスおよび素材等の開発に有用である。例えば、多孔質構造体は、光電変換素子(例、色素増感太陽電池等の太陽電池)、水素発生素子、水浄化素材、抗菌素材、半導体メモリ素子の作製における材料または構成要素として、有用である。
以下の実施例により、本発明を詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
実施例1:融合タンパク質CNHBP−Dps−TBP(CDT)発現用株の作製
N末端にカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBPと標記;アミノ酸配列DYFSSPYYEQLF(配列番号6)からなる。国際公開第2006/068250号を参照)が融合され、C末端に酸化チタン結合ペプチド(TBPと標記;アミノ酸配列RKLPDA(配列番号8)からなる。国際公開第2005/010031号を参照)が融合されたListeria innocuaの金属内包性タンパク質Dps(CNHBP−Dps−TBPあるいはCDTと標記、配列番号1および配列番号2)を下記の手順により構築した。
はじめに、合成DNA(配列番号9、配列番号10)の混合溶液を、98℃で30秒熱した後、速やかに4℃にすることでアニールさせた。その合成DNA溶液とL.innocuaのDps遺伝子が搭載されたpET20(K.Iwahori et al.,Chem.lett.,2007,vol.19,p.3105を参照)を各々制限酵素NdeIで完全消化した。それらのDNA産物をT4 DNAリガーゼ(タカラバイオ社、日本)でライゲーションし、N末端にCNHBPが融合されたDps(CNHBP−Dps,CDと略す)をコードする遺伝子が搭載されたプラスミドpET20−CDを得た。続いて、pET20−CDを鋳型DNA、配列番号11および配列番号12のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物をE.coli JM109(タカラバイオ社、日本)に形質転換し、N末端にカーボンナノホン結合ペプチド、C末端にチタン結合ペプチドが融合されたDps(CDT)をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−CDT)を保持したJM109を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を使いpET20−CDTを精製した。最後にBL21(DE3)(invitorogen社、USA)をpET20−CDTで形質転換し、タンパク質発現用株BL21(DE3)/pET20−CDTとした。一方、対照実験に用いるCDの発現株も、同様に作製した。
実施例2:融合タンパク質CDTの精製
BL21(DE3)/pET20−CDTを5mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で培養した。培養開始18時間後、その培養液を新しいLB培地(100mg/L アンピシリンを含む) 3Lに植菌し、BMS−10/05(ABLE社、日本)を用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)により回収し、−80℃で保存した。冷凍保存された菌体の半分(6 g)を50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 40mLで懸濁した。次に、その懸濁液にDigital Sonifier 450(Branson社、USA)を使い1秒間隔の超音波パルス(200W、Duty 45%)を12分間与えることで、菌体を破砕した。その溶液を15000rpmで15分間、遠心分離(JA−20、Beckmancoulter社、USA)し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を17000rpmで10分間、遠心分離(JA−20)し、再度、上清を回収(約20mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で液量が10mLになるまで限外ろ過濃縮し、タンパク質溶液を得た。
続いて、そのタンパク質溶液からゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、目的タンパク質であるCDT画分を精製した。すなわち、TrisHCl緩衝液(150mM NaClを含む50mM Tris−HCl溶液(pH8.0))で平衡化したHiPrep 26/60 Sephacryl S−300 High resolutionカラム(GE healthcare社、USA)にタンパク質溶液10mLを注入し、流速1.4mL/分で分離精製を行い、CDTに相当するフラクションを回収した。その精製されたCDTを用いて以下の実験を行った。また、対照実験として使用したCDも、CDTと同様に遺伝子発現を行い、その菌体を集菌、熱処理を経て、その後、熱処理後の上清に終濃度0.5MとなるようにNaClを加え、6000rpmで5分間、遠心分離(JA−20)し上清を捨て、沈殿物を50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に懸濁した。その作業を3回繰り返してCDを精製した。また、Dpsの精製はK.Iwahori et al.,Chem.Mater.,2007,vol.19.p.3105.に従った。
実施例3:融合タンパク質CDTによる金属粒子の内包
CDT多量体が、Dps多量体と同様に、金属粒子を内包できることを確かめるために、CDT多量体の内腔中に酸化鉄ナノ粒子を形成させた。すなわち、CDTを含むHEPES緩衝液(80mM HEPES−NaOH(pH7.5)、0.5mg/mL CDT、そして1mM 硫酸アンモニウム鉄を各々終濃度で含む)を1mL調製し、4℃で3時間放置した。冷蔵放置後、遠心分離(15000rpm、5分間)し、上清に含まれるタンパク質を3%リンタングステン酸(PTA)あるいは1%金グルコース(Au−Glc)で染色し、透過型電子顕微鏡(JEM2200−FS、200kV)で観察を行った。
酸化鉄ナノ粒子を形成させた後のCDTをPTA染色で観察したところ、外径9nm程度のCDT多量体の内腔中に直径5nm程度の酸化鉄ナノ粒子が形成されていた(図1)。また、Au−Glc染色でも、この内腔中に酸化鉄ナノ粒子が形成されることが観察できた(図3)。一方、酸化鉄ナノ粒子を形成させる前のCDTをPTA染色で電子顕微鏡観察したところ、外径9nm程度の球形タンパク質のみが観察された(図2)。
以上の結果から、CDT多量体が、その内腔中に物質を内包できることが確認された。
実施例4:CDT中のCNHBPの結合能の確認
CDTのN末端に融合されたカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBP)の活性を調べた。CNHBPはカーボンナノホン(CNH)ばかりでなくカーボンナノチューブ(CNT)を認識することが知られている(国際公開第2006/068250号を参照)。まず、CDTまたはDpsを含むHEPES緩衝液(20mM HEPES−NaOH(pH7.5)、0.3mg/mLのCDTまたはDps、そして0.3mg/mL CNT(Sigma社、519308, carbon nanotube, single walled)を各々終濃度で含む)を調製した。その溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を使い1秒間隔の超音波パルス(200W、Duty 20%)を5分間与えた。超音波処理されたタンパク質−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)し、上清に含まれるタンパク質とCNTの複合体を3% PTAで染色し、透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、200kV)で観察を行った。
N末にCNHBPを有するCDTを含む溶液では、CNTの周囲にCDTが結合している様子が観察できた(図4)。一方、CNTを認識できるペプチドを持たないDpsを含む溶液ではCNTとタンパク質の顕著な結合は観察できなかった(図5)。
以上の結果から、CDTに提示されたCNHBPはCNTに結合する活性を保持していることがわかった。
実施例5:CDT中のTBPの結合能の確認
次に、CDTのC末端に融合された酸化チタン結合ペプチド(TBP)の活性を調べた。TBPは、チタンおよび酸化チタン、銀、ならびにシリコンおよび酸化シリコンと結合することが知られている(国際公開第2005/010031号を参照)。今回、CDTとチタンあるいは酸化シリコンとの結合を、チタンセンサーを使った水晶発振子マイクロバランス測定法(QCM)を用いて測定した。
はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用のチタンセンサー上に乗せ1分間放置した後、水で洗い流すことでチタンセンサー表面を洗浄した。この洗浄を3回行った後、チタンセンサーを本体(QCM934、SEIKO EG and G社)に取り付けた。チタンセンサーにTBS緩衝液(50mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH8.0)500μlを滴下し、3時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。次にTBS緩衝液400μlを除去し、CDTあるいはCDが同じTBS緩衝液に溶解したタンパク質溶液(0.1mg/mL)400μlを乗せ周波数の変化を測定した。その結果、CDT溶液を載せたほうが、CD溶液を載せたときよりも、大きな周波数の変化が観察された。すなわち、TBPを有するCDTの方がCDよりも多くのタンパク質がチタンセンサーに結合していることが示唆された(図6中、測定開始3分後付近での矢印CDTと矢印CDの差異)。周波数の変化が安定した後、TBS緩衝液でセンサーを洗浄しセンサーに結合しなかったタンパク質を除去した。続いて、脱水縮合反応により酸化シリコンとなるテトラメチルオキシシラン(TEMOS、信越シリコーン社)水溶液をセンサーに乗せ、周波数の変化を測定した。TEMOS水溶液は1mM HCl 143μlとTEMOS液 25μlをよく混合し、5分間室温で放置した後、TBS緩衝液に10倍希釈することで調製した。TEMOS水溶液をセンサーへ乗せることで、周波数の減少が観察され酸化シリコンの析出(mineralize)が観察された(図6中、測定開始25分後付近、矢印TEMOSを参照)。次に、酸化シリコンが析出したセンサーをTBS緩衝液でセンサーを洗浄した後、タンパク質溶液を乗せた。その結果、CDT溶液を乗せたときには周波数の減少が観察されたが、CD溶液を乗せた場合には周波数の減少は観察されなかった(図6中、測定開始40分後付近、矢印CDTと矢印CDを参照)。すなわち、TBPを持たないCDは酸化シリコンと結合することができなかったが、TBPを有するCDTは酸化シリコンと結合できることが示唆された。
以上の結果から、CDTに提示されたTBPは酸化チタンと酸化シリコンに結合する活性を保持していることがわかった。
実施例6:Dpsのアミノ酸配列の相同性解析
他の細菌に由来するDpsのアミノ酸配列(表1に示されるGenBankアクセッション番号で特定されるアミノ酸配列)を、Listeria innocuaおよびEscherichia coliに由来するDpsのアミノ酸配列に対する相同性解析に付した。相同性解析は、遺伝子情報解析ソフトGenetyx(株式会社ゼネティックス)を用いて行った。このソフトのアルゴリズムは、Lipman−Pearson法(Lipman,D.J.and Pearson,W.R.1985.Rapid and sensitive protein similarity searches.Science 227:1435−1441.)に基づいていた。Listeria innocuaに由来するDpsのアミノ酸配列に対する解析結果(同一性および類似性)を、表2および図7に示す。Escherichia coliに由来するDpsのアミノ酸配列に対する解析結果(同一性および類似性)を、表3および図8に示す。また、Listeria innocuaおよびEscherichia coliに由来するDpsに対する類似性の解析結果を、表4および図9に示す。
実施例7:標的物質に対する融合タンパク質CDTの結合における結合速度定数および解離速度定数の測定
(1)DT発現用株の作製
C末端にTBPが融合されたListeria innocuaの金属内包性蛋白質Dps(Dps−TBPあるいはDTと標記)を構築するために、pET20−CDTを鋳型DNAとして、および以下のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。
TTTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC(配列番号22)
TTTCATATGATGAAAACAATCAACTCAGTAG(配列番号23)
得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとNdeIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物でE.coli JM109(タカラバイオ社、日本)を形質転換し、DTをコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−DT)を保持したJM109を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を用いてpET20−DTを精製した。最後に、BL21(DE3)(Invitorogen社、USA)をpET20−DTで形質転換し、蛋白質発現用株BL21(DE3)/pET20−DTを得た。DTの発現は、CDTと同様にして行った。
(2)CDT、CDおよびDTの精製
QCM解析用のタンパク質を調製するために、BL21(DE3)/pET20−CDT、ならびにBL21(DE3)/pET20−DT、およびBL21(DE3)/pET20−CDを、それぞれ1mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で培養した。培養開始18時間後、その培養液を新しいLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)100mLに植菌し、容量500mLフラスコを用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 5mLで懸濁した。その菌液に超音波をかけ、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約5mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液をTrisHCl−Salt緩衝液(150mM NaClを含む50mM TrisHCl溶液、pH8.0)に置換し、タンパク質溶液2.5mlを得た。
得られたタンパク質溶液からCDT、CDおよびDTを精製した。まず、CDTとDTの精製には、ゲルろ過および陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた。すなわち、TrisHCl−Salt緩衝液(150mM NaClを含む50mM TrisHCl溶液、pH8.0)で平衡化したHiPrep 26/60 Sephacryl S−300 High resolutionカラム(GE healthcare社、USA)に粗抽出溶液2.5mlを注入し、流速1.4ml/分で分離精製を行い、各蛋白質に相当する画分を回収した。続いて、得られた各蛋白質溶液を限外ろ過濃縮することで、蛋白質溶液の緩衝液を50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その蛋白質溶液2.5mlを、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速4.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、各蛋白質に相当する画分を回収した。CDは塩析により精製を行った。
(3)CDTとCNTの結合速度定数および解離速度定数の測定
CDTとCNTの結合速度定数および解離速度定数をQCM法により測定した。はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用の金センサー上に乗せ5分間放置した後、水で洗い流すことでセンサー表面を洗浄した。また、透過型電子顕微鏡で蛋白質と複合体形成が確認できたCNT(Carbon nanotube, single−walled, 519308, Aldrich) を 1mg/mL となるように 1% SDS 溶液と混合し、30分間超音波処理調製されたCNT 溶液2 μLを金電極上にマウントし、室温で自然乾燥した。乾燥後、水で2回洗浄し、結合しなかったCNTを洗い流した。さらに、リン酸緩衝液A(50 mM リン酸カリウム緩衝液。0.001%(w/v) tween−20を含む。pH7.0)で1回洗浄した。そのCNTセンサーを本体(Affinix QNμ、Initium社)に取り付け、CNTセンサーにリン酸緩衝液Aを滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が0.5mg/lから10mg/lとなるようにCDTあるいはCDを添加し、周波数の変化を測定した。そして得られた周波数の変化が、以下の関係に則ると仮定して、解析ソフトAQUA (Initium社)を用いて蛋白質とCNTの結合速度定数konと解離速度定数koffを求めた。CDTとCDは各々12量体を形成しているとして、各分子量は246kDaと236kDaとして計算に用いた。
S:蛋白質とセンサーの複合体の濃度(M)
P:反応に用いた蛋白質の濃度(M)
kon:結合速度定数(M−1・sec−1
koff:解離速度定数(sec−1
t:反応時間(sec)
Smax:平衡到達時の蛋白質とセンサーの複合体の濃度(M)
Kd:解離定数(M)
その結果、CDTとCDのkbosと蛋白質濃度の関係は、図10のとおりであった。その図10の直線から求めることのできた各蛋白質のkonとkoffは、表5のとおりであった。すなわち、CDTはCDと同等の強さでCNTに結合できることがわかった。これらのCNTへの結合能力はCNTBPによるものであると考えられた。
(4)CDTと酸化チタンの結合速度定数および解離速度定数の測定
CDTと酸化チタンの結合速度定数および解離速度定数をQCM法により測定した。酸化チタンセンサーはInisium社製のものを使用した。はじめに、酸化チタンセンサーの上に1% SDS溶液を載せ、ピペッティングによりセンサーを洗浄した後、余分なSDS溶液を水で5回洗い流した。この洗浄作業を2回行った。そして、リン酸緩衝液B(50mMリン酸カリウム緩衝液。pH7.0)で1回洗浄した。その酸化チタンセンサーを本体(AffinixQNμ、Initium社)に取り付け、センサー上にリン酸緩衝液Bを滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が0.5mg/lから10mg/lとなるようにCDTあるいはDTを添加し、周波数の変化を測定した。そして得られた周波数の変化から、CNTへの結合定数を求めたのと同様に、解析ソフトAQUA(Initium社)を用いて蛋白質と酸化チタンの結合速度定数konと解離速度定数koffを求めた。DTは12量体を形成しているとして、分子量は226kDaとして計算に用いた。
その結果、CDTとCDのkbosと蛋白質濃度の関係は、図11のとおりであった。その図11の直線から求めることのできた各蛋白質のkonとkoffは、表6のとおりであった。すなわち、CDTはDTと同等の強さで酸化チタンに結合できることがわかった。これらの酸化チタンへの結合能力はTBPによるものであると考えられた。そして、表5と表6からCDTはCNTと酸化チタンの両方への結合能力を持つことがわかった。
実施例8:融合タンパク質CcDTの調製
(1)CcDT発現用株の作製
CDTと同様の性質を有する変異蛋白質をCorynebacterium glutamicum由来のDpsを用いて構築した。Listeria innocuaおよびEscherichia coliに由来するDpsのアミノ酸配列に対する、Corynebacterium glutamicumに由来するDpsのアミノ酸配列解析結果(同一性および類似性)を、表7に示す。
先ず、Corynebacterium glutamicumのゲノムDNAを鋳型として、および以下のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。
tttcatAtggactacttctcttctccgtactacgaacagctgtttATGGCAAACTACACAGTC(配列番号24)
tttGAATTCttaCGCATCCGGAAGTTTGCGCATCTCTTGGATGTTTCCGTC(配列番号25)
得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素NdeIそしてEcoRIで消化した。一方で、pET20bプラスミド(Merck社、ドイツ)を制限酵素NdeIそしてBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物とプラスミドを、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いて結合させた。そのDNAでE.coli JM109(タカラバイオ社、日本)を形質転換し、N末端にカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBP)、C末端にチタン結合ペプチド(TBP)が融合されたCorynebacterium glutamicum由来のDps(CcDT、配列番号26および配列番号27)をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−CcDT)を保持したJM109を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を使いpET20−CcDTを精製した。最後にBL21(DE3)(invitorogen社、USA)をpET20−CDTで形質転換し、タンパク質発現用株BL21(DE3)/pET20−CcDTとした。
(2)CcDTの精製
CcDTタンパク質を得るために、BL21(DE3)/pET20−CcDTを1mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で培養した。培養開始18時間後、その培養液を新しいLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)100mLに植菌し、容量500mLフラスコを用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 5mLで懸濁した。その菌液に超音波をかけ、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約5mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液をTrisHCl緩衝液(50mM TrisHCl溶液、pH8.0)に置換してタンパク質溶液2.5mlを得た。
得られたタンパク質溶液からCcDTを精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた。すなわち、そのタンパク質溶液2.5mlを50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速4.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、CcDTを含む画分を回収した。
実施例9:CcDT多量体の形成の確認
得られたCcDTを3% PTA(リン・タングステン酸)染色し、透過型電子顕微鏡解析を行った。その結果、CcDTは、CDTと同様に、直径9nm程度のカゴ状の多量体を形成していることがわかった(図12)。
実施例10:融合タンパク質CcDTとカーボンナノチューブとの結合の確認
CcDTとCNTの結合をQCM法により測定した。はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用の金センサー上に乗せ5分間放置した後、水で洗い流すことでセンサー表面を洗浄した。また、CNTを1mg/mLとなるように1% SDS溶液と混合し、30分間超音波処理調製されたCNT溶液2μLを金電極上にマウントし、室温で自然乾燥した。乾燥後、水で2回洗浄し、結合しなかったCNTを洗い流した。さらに、リン酸緩衝液A(50mMリン酸カリウム緩衝液。0.001%(w/v) tween−20を含む。pH7.0)で1回洗浄した。そのCNTセンサーを本体(Affinix QNμ、Initium社)に取り付け、CNTセンサーにリン酸緩衝液Aを滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が1mg/lとなるようにCcDTを添加し、周波数の変化を測定した。
その結果、CNHBPを有するCcDTは、CNHBPを有しないDTよりも、多くのCNTに結合することが観察できた(図13)。すなわち、CcDTは、DTよりも強いCNTへの結合能力を持つことがわかった。このCcDTのCNTへの結合能力はCNHBPによるものであると推測された。
実施例11:融合タンパク質CcDTと酸化チタンとの結合の確認
CcDTと酸化チタンの結合をQCM法により測定した。はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用の酸化チタンセンサー上に乗せ5分間放置した後、水で洗い流すことでセンサー表面を洗浄した。その酸化チタンセンサーを本体(Affinix QNμ、Initium社)に取り付け、酸化チタンセンサーにリン酸緩衝液B(50mM リン酸カリウム緩衝液。pH7.0)を滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が1mg/lとなるようにCcDTを添加し、周波数の変化を測定した。
その結果、TBPを有するCcDTは、TBPを有しないCDよりも、多くの酸化チタンに結合することが観察できた(図14)。すなわち、CcDTは、CDよりも強い酸化チタンへの結合能力を持つことがわかった。このCcDTの酸化チタンへの結合能力はTBPによるものであると推測された。
実施例12:金属粒子を内包した融合タンパク質CDTとCNTとの結合
はじめに、CDT多量体の内腔中に酸化鉄ナノ粒子を形成した。すなわち、CDTを含むHEPES緩衝液(80mM HEPES−NaOH(pH7.5)、0.5mg/mL CDT、1mM 硫酸アンモニウム鉄を各々終濃度で含む)を1mL調製し、4℃で3時間放置した。放置後、遠心分離(15000rpm、5分間)して、タンパク質を含む上清を回収した。そして、その上清をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCDT多量体(Fe−CDT)溶液の緩衝液を水に置換してタンパク質溶液を得た。そのタンパク質溶液を用いて、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCDT多量体とCNTとを含むリン酸カリウム緩衝液(50mM リン酸カリウム(pH6.0)、0.3mg/mLのFe−CDT、0.3mg/mL CNTを各々終濃度で含む)を調製した。調製された溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を用いて氷上で、3秒間隔で1秒間の超音波パルス処理(200W、Duty 20%)を合計5分間行った。超音波パルス処理されたFe−CDT−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)して、多数のCDT多量体がCNTに結合したCNT/Fe−CDT複合体を得た。結果を図15に示す。図15は、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。透過型電子顕微鏡像は、サンプルを3%TPA染色して撮影された。
結果として、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体(CNT/Fe−CDT複合体)が得られていることが確認できた。
実施例13:CNT/Fe−CDT/Ti複合体の調製例
得られたCNT/Fe−CDT複合体溶液に、終濃度2.5wt%となるようにチタン前駆体Titanium(IV) bis(ammonium lactato)dihydroxide(SIGMA社、388165)を加え、室温(24℃)で放置した。反応を開始して30分後と15時間後のサンプルを遠心分離(15000rpm、5分間)して、沈殿を回収した。その沈殿を水で3回洗浄して、最後に水に懸濁することでCNT/Fe−CDT/Ti水溶液を得た。
図16は、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体にチタン前駆体を添加して得られた黒い析出物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。CNT/Fe−CDT/Ti水溶液を無染色でTEM解析したところ、図16に示されるように、黒いロッド状の構造体の中に、酸化鉄ナノ粒子を内腔に内包したCDT多量体を観察することができた。
この黒いロッド状の構造体は、EDS解析の結果からチタンを含有するものと推測できた。このTEM像から、CDT多量体により増大したと考えられる、チタンナノロッド構造体の表面積について解析した。すなわち、図16のTEM像から、長尺方向の長さが102nmであり、長尺方向と直交する方向の直径が31nmであるチタンナノロッド構造体の中に64個のCDT多量体が内包されていると推定できた。チタンナノロッド構造体の表面積は、1.1×10(nm)である。そして、直径9nmであるCDT多量体の表面積は、254(nm)であることから、CDT多量体64個分の表面積の合計は1.6×10(nm)である。すなわち、今回観察されたCDT多量体を内包するチタンナノロッド構造体の長尺方向の長さ100nm当りの表面積は2.6×10(nm)であり、CDT多量体が内包されていない場合の同様のチタンナノロッド構造体の長尺方向の長さ100nm当りの表面積である1.1×10(nm)よりも2.4倍大きいことが推定できた。
また、CDT多量体に内包された酸化鉄ナノ粒子をチタン膜に導入することができたことから、CDT多量体に内包させ得ると予測されるニッケル、コバルト、マンガン、リン、ウラン、ベリリウム、アルミニウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、パラジウム、クロム、銅、銀、ガドリウム錯体、白金コバルト、酸化シリコン、酸化コバルト、酸化インジウム、白金、金、硫化金、セレン化亜鉛、カドミウムセレンなどの金属ナノ粒子のCNTを被膜するチタン膜、酸化チタン膜への導入が期待される。
続いて、CNT/Fe−CDT/Ti水溶液10μlを、UV/オゾン処理(115℃、5分間、1ml/min)された、厚さが10nmのSiO膜で被膜されているシリコン基板に載せ、450℃で30分間加熱した。その後、室温で放置して冷却し、走査型電子顕微鏡(SEM)で解析した。結果を図17に示す。図17は、酸化チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体を加熱して得られた構造体の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
結果として、繊維状に観察されるCNTの周囲を粒子状の構造体、膜状の構造体が覆っている様子が観察された。また、EDSによる分析から、CNTを被膜している構造体が酸化チタンにより構成されていることが示唆された。
実施例14:CNT/TiO複合体の調製例
はじめに、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に終濃度0.3mg/ml CDT及び0.3mg/ml CNT(Sigma社、519308, carbon nanotube, single walled)を加えた。得られた溶液40mlに氷上でDigital Sonifier 450(Branson社、USA)を用いて、1秒間超音波(200W、25%)処理して、3秒間超音波を停止するサイクルで、超音波処理する時間が計5分間となるように処理した。超音波処理には直径10mmの太い素子を用いた。超音波処理後、容量50mlのチューブに溶液を移し変え、8500rpm、10分間遠心分離することで、CDT多量体と結合しなかったCNTを除去した。その溶液に、終濃度が2.5wt%となるようにTitanium(IV) bis(ammonium lactato)dihydroxide(SIGMA社、388165)を加え、室温で2時間放置した。ここで、凝集体の沈殿が観察された。その後、容量50mlの遠沈管で8500rpmで、10分間遠心分離して、沈殿を回収することで、CNT/CDT/Ti複合体を精製した。さらに、水を40ml加え、遠心分離することで洗浄し、最後に水を0.8ml加え、容量1.5mlのマイクロチューブに移した。得られたCNT/CDT/Ti複合体を含む溶液200μlを、石英ボードに載せ、450℃から800℃の範囲で(500℃、600℃、700℃及び800℃の各温度で)、30分間加熱した(昇温速度50℃/分)。
各温度で焼成された黒い粉体を3%PTA染色し、TEM解析した。結果を図18に示す。図18A、図18B、図18C及び図18Dは、酸化チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体を加熱して得られた構造体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
図18Aに示されるように500℃で焼成した場合には、多数の線状の構造体を観察することができた。図18Bに示されるように600℃で焼成した場合には、線状の構造体はほとんど観察できなかった。図18C及び図18Dに示されるように700℃以上で焼成した場合には線状の構造体はまったく観察できなかった。
さらに、得られた黒い粉体の結晶状態を調べるために、450℃で加熱された黒い粉体をX線回折(XRD)により解析した。結果を図19に示す。図19は、酸化チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を450℃で焼成して得られた構造体のXRD分析の結果を示す図である。
図19に示されるように、アナターゼ型TiO結晶の(101)面、(200)面に特有のピークを観察することができた。
しかしながら、アナターゼ型TiO結晶以外のピークも観察されたことから、TiOが混合していると推定された。同様にして、500℃、600℃で焼成された黒い粉体についてもXRD解析したところ、同様のピークパターンを示した。よって、少なくとも600℃以下で焼成された黒い粉体には、光触媒活性を持つアナターゼ型TiO結晶が含まれていることが示唆された。
実施例15:光電変換素子(色素増感太陽電池)の製造例
実施例14で得られたCNT/CDT/Ti複合体を光電変換素子(色素増感太陽電池)の光電変換層の材料として用い、色素増感太陽電池の特性に与える影響を評価した。色素増感太陽電池の作製方法はSOLARONIX社のプロトコールを改変して行った。
はじめに、上記方法にて、CNT(SWNT)/CDT/Tiを反応溶液1ml分合成し、水で洗浄後、エタノール溶液に懸濁した。そのCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を酸化チタンペースト(Ti−Nanoxide D、SOLARONIX社)に練りこみ、色素増感太陽電池の材料とした。光電変換層を形成するために、25mmx25mmにカットされた透明電極基板であるFTO基板(fluorine−doped tin oxide、SOLARONIX社)の両端に、5mmにカットされ2重に貼り合わされたメンディングテープ(3M社、厚さ100μm程度)をそれぞれ貼り付けた。テープ同士間の距離は10mmとした。
テープ同士の間にCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を含有する酸化チタンペーストを載せ、スライドガラスを用いて平らに伸ばし、30℃で30分間放置することで、酸化チタンペーストを乾燥させた。酸化チタンペーストを載せた基板を焼成炉にいれ、450℃で30分間焼成した。昇温速度は、90℃/minとして行った。焼成後に自然冷却で100℃以下に冷却した。焼成された基板に、0.2g/l ルテニウム(Ru)増感色素溶液(N719、無水エタノール溶解液、SOLARONIX社)を1mlつけ、室温で24時間放置した。24時間放置することで赤く染まった電極基板をエタノールで洗い、酸化チタン表面に吸着しなかった色素を除去し、ドライヤーで乾燥させて光電極とした。
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜の表面を厚さ50nmの白金(Pt)でコーティングしたPt電極(対向電極)と、上記光電極を備えた構造体とを用いて色素増感太陽電池を作製した。
封止材として封止シート(SX1170−25、SOLARONIX社)を用い、ホットプレートを用いて、120℃で5分間加熱した。さらに、完全に封止されていない接着面に、エポキシ系接着剤であるアラルダイトラピッド(昭和高分子社)をつけ、30℃で2時間放置することで密封した。最後にヨウ素電解液(SOLARONIX社)を入れて色素増感太陽電池を得た。
製造された色素増感太陽電池に、キセノンランプで100mW/cmの強さの光を照射して評価を行った。
色素増感太陽電池の特性として、開放電圧Voc(V)、短絡電流密度Jsc(mA/cm)、フィルファクターFF及び光電変換効率η(%)を評価した。なお、太陽電池において、照射光による入射エネルギーのうち、電力に変換された割合を、光電変換効率ηと呼ぶ。そして、電圧0V時に計測される電流密度を短絡電流密度Jsc、電流が流れていないときの電圧を開放電圧Vocと呼ぶ。また、光電変換効率η=Jsc×Voc×FFの関係が成り立ち、FFをフィルファクターと呼ぶ。結果を表8に示す。
表8から明らかな通り、酸化チタンペーストのみで形成された光電極を備える色素増感太陽電池(デバイス2(−))では、短絡電流密度が12mA/cmであったのに対し、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いた色素増感太陽電池(デバイス1(+))では、短絡電流密度が15mA/cmであり、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を電極の機能性材料として用いたことにより、電流量が25%増加していた。さらに、光電変換効率ηは、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いることで1.4倍向上していた。
実施例16:光電変換素子(色素増感太陽電池)の製造例
実施例14で得られたCNT/CDT/Ti複合体を光電変換素子(色素増感太陽電池)の光電変換層の材料として用い、色素増感太陽電池の特性に与える影響を評価した。色素増感太陽電池の作製方法はSOLARONIX社のプロトコールを改変して行った。
はじめに、上記方法にて、CNT(SWNT)/CDT/Tiを反応溶液1ml分合成し、水で洗浄後、エタノール溶液に懸濁した。そのCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体の終濃度が焼成後の酸化チタン電極中に0.2重量%で含有されるように酸化チタンペースト(Ti−Nanoxide D、SOLARONIX社)に練りこみ、色素増感太陽電池の材料とした。光電変換層を形成するために、25mmx25mmにカットされた透明電極基板であるFTO基板(fluorine−doped tin oxide、SOLARONIX社)を40mM 四塩化チタン水溶液に80℃で30分間つけ、そのFTO基板 の両端に、5mmにカットされ2重に貼り合わされたメンディングテープ(3M社、厚さ100μm程度)をそれぞれ貼り付けた。テープ同士間の距離は5mmとした。
テープ同士の間に上記CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を含有する酸化チタンペーストを載せ、スライドガラスを用いて平らに伸ばし、30℃で30分間放置することで、酸化チタンペーストを乾燥させた。酸化チタンペーストを載せた基板を焼成炉にいれ、450℃で30分間焼成した。昇温速度は、90℃/minとして行った。焼成後に自然冷却で100℃以下に冷却した。焼成後、FTO基板上の酸化チタン部分を5mmx10mm角にカットし、その基板を0.2g/l ルテニウム(Ru)増感色素溶液(N719、無水エタノール溶解液、SOLARONIX社)に1mlつけ、室温で24時間放置した。24時間放置することで赤く染まった電極基板をエタノールで洗い、酸化チタン表面に吸着しなかった色素を除去し、室温で乾燥させて光電極とした(デバイス11)。
また、対照として、酸化処理により合成されたCNT/酸化チタン複合体を0.2重量%含有する酸化チタン電極で光電極を作製したデバイス(デバイス12)、0.2重量%でCNTを含有する酸化チタン電極で光電極を作製したデバイス(デバイス13)、CNTを含有しない酸化チタン電極で光電極を作製したデバイス(デバイス14)をそれぞれ作製した。酸化処理によるCNT/酸化チタン複合体の合成は参考文献(W.Wang et al.(2005) Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,235,194−199.)の方法を参考にした。すなわち、エタノール200ml中に、チタンブトキシド溶液34ml(0.1mol)を加え、室温で30分間攪拌した。その後、硝酸(35重量%)を28ml加え、続いてCNTを適当量添加し、ゲル状になるまで一晩室温にて攪拌した。その後、沈殿物を遠心回収し、80℃で一晩放置することで乾燥させCNT/酸化チタン複合体を得た。
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜の表面を厚さ50nmの白金(Pt)でコーティングしたPt電極(対向電極)と、上記光電極を備えた構造体とを用いて色素増感太陽電池を作製した。
封止材として封止シート(SX1170−25、SOLARONIX社)を用い、ホットプレートを用いて、120℃で5分間加熱した。さらに、完全に封止されていない接着面に、エポキシ系接着剤であるアラルダイトラピッド(昭和高分子社)をつけ、30℃で2時間放置することで密封した。最後にヨウ素電解液(SOLARONIX社)を入れて色素増感太陽電池を得た。
製造された色素増感太陽電池に、キセノンランプで100mW/cmの強さの光を照射して評価を行った。
色素増感太陽電池の特性として、開放電圧Voc(V)、短絡電流密度Jsc(mA/cm)、フィルファクターFF及び光電変換効率η(%)を評価した。結果を表9に示す。
表9から明らかな通り、酸化チタンペーストのみで形成された光電極を備える色素増感太陽電池(デバイス14)よりも、ナノ素材を含有する酸化チタンペーストで形成された光電極を備える色素増感太陽電池(デバイス11、デバイス12、およびデバイス13)では、大きな短絡電流密度が計測された。特に、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を電極の機能性材料として用いることで、短絡電流量は180%増加していた。さらに、CDTを用いて合成されたCNTと酸化チタンの複合体を電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス11)の短絡電流密度は、CNT単独で極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス13)の短絡電流密度や酸化処理により合成されたCNTと酸化チタンの複合体を電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス12)の短絡電流密度よりも大きかった。
まず、CNTが酸化チタン電極に導入されることで短絡電流密度が向上した理由として、CNTが発生したキャリアの通り道となり、キャリアが再結合し電流量が低下する前に導電膜に移動できたためと考えられた。また、CDT処理や酸化処理によりCNTと酸化チタンの複合体を形成させることで、CNTと酸化チタンを密着させることができ、CNTと酸化チタン間の抵抗が低くなったと考えられた。そのため、無処理のCNTを酸化チタンペースト内に導入した場合よりも、酸化チタン周囲で発生したキャリアが効率よくCNTへと移動したと考えられた。酸処理により合成されたCNT/酸化チタン複合体では、酸よりCNTの構造が一部破壊され、CNT内のキャリアの移動が阻害されると考えられている。しかし、蛋白質CDTを用いればCNTの構造を傷つけることなくCNTと酸化チタンの複合体を合成することができる。さらに、CDT由来の空孔により表面積が向上し、より多くの色素を担持できたと考えられた。そのため、酸処理により合成されたCNT/酸化チタン複合体よりも、CDTを用いて合成されたCNT/酸化チタン複合体の方が、発生するキャリアの量が多く、さらにCNT内のキャリアの移動速度も維持されており、大きな短絡電流が観察されたと考えられた。
短絡電流密度が向上した結果、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス11)での光電変換効率ηは、CNTを含有しない酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス14)での光電変換効率ηの2.2倍に向上していた。そして、今回作製されたデバイスのうち、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いたデバイスでもっとも高い光電変換効率が計測された。すなわち、CDTを用いて、緩やかな条件で合成されたCNTと酸化チタンの複合体を用いることで、太陽電池の性能を向上させうることがわかった。
なお、FTO基板の四塩化チタン処理やCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を終濃度0.2重量%にて酸化チタン電極に練り込むことにより、実施例15で製造されたデバイスに比べ、短絡電流密度や光電変換効率ηの向上が認められることも確認された。
実施例17:融合タンパク質CNHBP−Dps−ZnO1’(CDZ)発現用株の作製
N末端にカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBPと標記;アミノ酸配列DYFSSPYYEQLF(配列番号6)からなる。国際公開第2006/068250号を参照)が融合され、C末端に酸化亜鉛析出ペプチド(ZnO1’と標記;アミノ酸配列EAHVMHKVAPRPGGGSC(配列番号30)からなる。Umetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571−2575(2005)を参照)が融合されたListeria innocuaの金属内包性タンパク質Dps(CNHBP−Dps−ZnO1’あるいはCDZと標記、配列番号31および配列番号32)を下記の手順により構築した。
はじめに、pET20−CDTを鋳型DNA、配列番号11のヌクレオチド配列およびtttGGATCCttaAcaACTAccTccAccAggAcGTggAgcAacTttAtgcatTacAtgTgcTtcttctaatggagcttttc(配列番号33)のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物をE.coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社、日本)に形質転換し、N末端にカーボンナノホン結合ペプチド、C末端に酸化亜鉛析出ペプチドが融合されたDps(CDZ)をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−CDZ)を保持したBL21(DE3)を構築した。
実施例18:融合タンパク質CDZの精製
BL21(DE3)/pET20−CDZをLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)100mLに植菌し、容量500mLフラスコを用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 5mLで懸濁した。その菌液に超音波をかけ、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約5mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液をTrisHCl緩衝液(50mM TrisHCl溶液、pH8.0)に置換してタンパク質溶液2.5mlを得た。
得られたタンパク質溶液からCDZを精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた。すなわち、そのタンパク質溶液2.5mlを50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速4.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、CDZを含む画分を回収した。さらに、その回収された溶液を、Amicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液を純水に置換してCDZ溶液を得た。
実施例19:CDZ多量体の形成の確認
緩衝液が純水置換される前の50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)に溶解したCDZを3% PTA(リン・タングステン酸)染色し、透過型電子顕微鏡解析を行った。その結果、CDZは、CDTと同様に、直径9nm程度のカゴ状の多量体を形成していることがわかった(図21)。
実施例20:CDZによる硫酸亜鉛水溶液からの白色沈殿形成促進
はじめに、0.1M 硫酸亜鉛水溶液に、純水に溶解したCDZ、CDTあるいはCDをそれぞれ終濃度が0.1mg/mlとなるように添加した。その溶液を一時間室温で放置した後、600nmの光を用いて濁度を測定した。その結果を図22に示す。CDZが添加された溶液では、顕著な白色沈殿が生じた。この白色沈殿は、水酸化亜鉛あるいは酸化亜鉛と考えられる。一方、タンパク質を加えなかった溶液ではまったく沈殿が生じなかった。水酸化亜鉛は125℃程度で加熱されることで酸化亜鉛になることが知られている。以上のことから、CDZは亜鉛化合物を沈殿させる活性があることが示唆された。
実施例21:CDZ中のCNHBPの結合能の確認
CDZのN末端に融合されたカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBP)の活性を調べた。リン酸カリウム緩衝液(50mM、pH6.0)に終濃度が0.3mg/mLとなるようにCDZとCNT(Sigma社、519308, carbon nanotube, single walled)を各々加えた。その溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を使い1秒間の超音波パルス(200W、Duty 20%)を3秒間の間隔を空けながら計5分間与えた。超音波処理されたCDZ−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)し、上清に含まれるタンパク質とCNTの複合体を3% PTAで染色し、透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、200kV)で観察を行った。
その結果、N末にCNHBPを有するCDZを含む溶液では、CNTの周囲にCDZが結合している様子が観察できた(図23)。すなわち、CDZはCNTに結合する活性を保持していることがわかった。
10 多孔質構造体
20 第2の標的物質
30 第1の標的物質の凝集体
32 第1の空孔部
34 第2の空孔部
36 金属粒子
36a 金属皮膜
38 第3の空孔部

Claims (16)

  1. Dps、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分を含み、前記第1および第2のペプチド部分がそれぞれ異なる標的物質に結合し得るペプチド部分であり、前記第1のペプチド部分のC末端部が前記DpsのN末端部に融合し、前記第2のペプチド部分のN末端部が前記DpsのC末端部に融合している、融合タンパク質。
  2. Dpsが、配列番号4または配列番号29のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項記載の融合タンパク質。
  3. 前記第1および第2のペプチド部分がそれぞれ、金属素材、シリコン素材または炭素素材に結合し得るペプチド部分である、請求項1または2記載の融合タンパク質。
  4. 前記金属素材に結合し得るペプチド部分が金属の析出作用を有する、請求項記載の融合タンパク質。
  5. 前記第1および第2のペプチド部分の一方が炭素素材に結合し得るものであり、他方が金属素材またはシリコン素材に結合し得るものである、請求項または記載の融合タンパク質。
  6. 金属素材がチタン素材または亜鉛素材である、請求項記載の融合タンパク質。
  7. シリコン素材が、シリコン、またはシリコンの酸化物である、請求項記載の融合タンパク質。
  8. 炭素素材がカーボンナノ素材である、請求項記載の融合タンパク質。
  9. 融合タンパク質が、配列番号2、配列番号27または配列番号32のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1記載の融合タンパク質。
  10. 融合タンパク質の多量体であって、
    内腔を有し、
    融合タンパク質が、Dps、ならびに第1の標的物質に結合し得る第1のペプチド部分および第2の標的物質に結合し得る第2のペプチド部分を含み、前記第1および第2のペプチド部分がそれぞれ異なる標的物質に結合し得るペプチド部分であり、前記第1のペプチド部分のC末端部が前記DpsのN末端部に融合し、前記第2のペプチド部分のN末端部が前記DpsのC末端部に融合している、多量体。
  11. 内腔中に物質を含む、請求項10記載の多量体。
  12. 複合体であって、
    請求項10または11記載の多量体、ならびに第1および第2の標的物質を含み、
    第1の標的物質が、前記融合タンパク質中の第1のペプチド部分に結合し、かつ第2の標的物質が、前記融合タンパク質中の第2のペプチド部分に結合している、複合体。
  13. 請求項1〜のいずれか一項記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
  14. 請求項13記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
  15. 請求項14記載の発現ベクターを含む形質転換体。
  16. 形質転換体がエスケリシア・コリである、請求項15記載の形質転換体。
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