以下、図1乃至図6を用いて、本発明の一実施形態について説明する。
<<<液体吐出装置の構成>>>
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置の概略構成図であり、まずは図1を用いて、本実施形態に係る液体吐出装置の構成を説明する。
本実施形態において、液体吐出装置1は、用紙に水性液体を吐出して付着させる装置である。ここで、「吐出」とは液体を外へ出すことを意味する。即ち、吐出にはノズルによって液滴を出すことのみでなくスプレーによって霧状又は泡状の液体を出すことも含まれる。また、「水性液体」とは、水を溶媒又は分散媒の主成分とする液体を意味する。本実施形態では、水性液体の一例としての水性インクを吐出する液体吐出装置の一例としてのインクジェット記録装置について説明する。
図1に示されているように液体吐出装置1は、給紙部2、加熱部3、冷却部4、計測部5、搬送部6、吐出部7、排紙部8、操作部9、及び制御部10を備えている。以下、液体吐出装置1の上記各構成について順に説明する。
給紙部2は、液体吐出装置1内の搬送経路に用紙を供給するために、給紙トレイ21、引出ローラ22、及び給紙ローラ23を備えている。給紙トレイ21は、用紙を収容するためのトレイである。給紙トレイ21に収容される用紙としては、特に限定されないが、普通紙、光沢紙、特殊紙、汎用印刷紙等が挙げられる。これらのうち、普通紙は表面に無機フィラーや樹脂等を含有する塗工層を有していないため、光沢紙、特殊紙、及び汎用印刷用紙等と比較して腰がない。このため、普通紙はバックカールが発生し易い用紙であるが、本実施形態の液体吐出装置を用いることにより、バックカールの発生を低減することができる。引出ローラ22は、給紙トレイ21に収容された用紙を一枚毎に引出す。給紙ローラ23は、引出ローラ22によって引出された用紙を、液体吐出装置1内の搬送経路に給紙する。
加熱部3は、給紙部2によって給紙された用紙の上面(第1の面)を加熱することにより乾燥するために、乾燥手段の一例としての所定の加熱手段31を備えている。加熱手段31は、加熱した気体又は固体を用紙の第1の面に接触させることにより、用紙の上面を加熱する手段である。加熱手段31の熱源としては、ニクロム等の発熱素子や、水や油等の媒体が挙げられる。加熱手段31による加熱の程度は、操作パネル9によって受け付けられた設定温度、又は計測部5による計測の結果などに基づき制御部10によって制御される。
加熱手段31の具体例としては、温風ヒータやヒートローラ等が挙げられる。これらのうち、温風ヒータは、加熱した気体(温風)を用紙の第1の面に接触させて加熱する。これにより、温風ヒータは、用紙表面の水分を気化させることができるだけでなく、用紙と非接触のため気化した水分を容易に除去することができる。この場合、第1の面の水分量と第2の面の水分量の差を大きくすることができるため、温風ヒータは好適に用いられる。
冷却部4は、給紙部2によって給紙された用紙の下面(第2の面)を冷却することにより、用紙の第2の面の乾燥を防ぐために、所定の冷却手段41を備えている。冷却手段41は、冷却した気体又は固体を用紙の第2の面に接触させることにより、用紙の下面を冷却する手段である。この冷却には、ペルチェ素子等の熱電素子や、水や不凍液等の液体が用いられる。冷却手段41による冷却の程度は、操作パネル9によって受け付けられた設定温度、又は計測部5による計測の結果などに基づき制御部10によって制御される。
冷却手段41としては、特に限定されないが、ペルチェ素子冷却板や、冷却ローラ等が挙げられる。これらのうち、冷却した水を用いて冷却(水冷)する冷却ローラは、用紙を搬送しながら、冷却することができる。これにより、搬送時間が短縮され、搬送中に用紙の第2の面の水分が気化することを抑制できるため、冷却ローラは好適に用いられる。
尚、図1に示された液体吐出装置1において、加熱手段31及び冷却手段41は、用紙の搬送経路上の同じ位置に備えられているが、このような配置に限定されない。用紙の第1の面の水分量と第2の面の水分量に所定量の差をつけることが可能であれば、加熱手段31及び冷却手段41の一方を、給紙部2と計測部4との間の搬送経路上の上流側に配置し、他方を下流側に配置しても良い。
本実施形態において水分量とは、用紙に含まれる水分量を意味する。この場合、水分量は、例えば、用紙に含まれる水分の質量を、用紙の質量と用紙に含まれる水分の質量との和で除することにより算出される。また、水分量の所定量の差とは、記録直後のバックカールの程度が所定の基準を満たすために必要な、記録前の用紙の第1の面水分量及び第2の面の水分量の差を意味する。水分量の差としては、例えば、(1)式で示される水分表裏差が挙げられる。また、水分量の所定量の差としては、例えば、20%以上とすることができる。なお、所定量の差はこの範囲が限定されず、水性インクを吐出するときの外部の環境(温度、湿度等)や用紙の種類に応じて設定することもできる。
ここで、記録前の用紙の水分表裏差が20%以上とすることが好適な理由について説明する。本発明者らは、インクジェット記録直後のバックカールの原因は、水性インクが用紙の第1の面に付着することにより生じる水分表裏差によると考えた。即ち、本発明者らは、水性インクが用紙の第1の面に付着すると、水の湿潤によって用紙の第1の面のセルロース繊維が緩むことによって伸長し、バックカールが発生すると考えた。
そこで、各種の用紙を用いて第1の面にインクジェット記録を行い、記録前及び記録後の用紙の水分量を赤外線方式の水分計で測定した。その結果、記録後に上記の(1)式で示される水分表裏差が20%以上である場合に用紙の四隅のバックカールが20mm以上となることを確認した。また、予め用紙の第1の面を乾燥し、記録前の水分表裏差を20%〜70%にしておくことで、第1の面に水性インクでベタ画像(付着量200mg〜400mg/A4)を形成した場合でも、記録直後の用紙の水分表裏差を20%未満に抑えられた。即ち、水性インクの付着量が多い場合でも、記録前の水分表裏差を20%〜70%にしておくことで、バックカールを防止できることを確認した。なお、23℃50%Rhの環境条件下で、赤外線方式の水分計で測定される用紙の表面の水分量は、紙秤量の8〜10%であって用紙によって大きな差がない。このため、上記の条件は各種の用紙に適用することが可能であると考えられる。
計測部5は、加熱手段31によって加熱された用紙の第1の面の水分量を計測する第1の水分計51aと、用紙の第2の面の水分量を計測する第2の水分計51bと、を備えている。なお、本実施形態では、水分計(51a,51b)のうち任意の水分計を示す場合には「水分計51」を用いる。
水分計51としては、用紙の第1の面、又は第2の面の水分量をリアルタイムで計測することができる水分計51が好ましい。ここで、リアルタイムとは、加熱手段31によって加熱された用紙、又は冷却手段41によって冷却された用紙が、計測部5を経て、搬送経路上の吐出部7に至るまでの時間を1分以内に制御することができる時間を意味する。吐出部7に至るまでの時間が1分を超えると、加熱後、又は冷却後の用紙の吸湿によって、カールの発生を抑制する効果が小さくなる場合がある。
水分量をリアルタイムで計測することができる水分計51としては、特に限定されないが、赤外線方式で水分量を計測する水分計が挙げられる。ここで、赤外線方式による水分量の測定原理について説明する。水には光(近赤外線)の特定波長を吸収する性質がある。水に吸収される光のエネルギーは、水分量が多くなれば、大きくなる。赤外線方式による水分計は、この物理的な現象を応用したものであり、物質に照射した近赤外線の反射強度(IM−D値)から水分量を計測する。
水に吸収される近赤外線の代表的な波長としては、1.2μm、1.45μm、1.94μm等が挙げられる。赤外線方式による水分計は、これらの波長の近赤外線のみでなく、これらの波長に隣接した波長を用いて計測を行うことができる。これにより、物質の色や表面状態によって反射強度のS/N(signal-noise)比を大きくすることができる。
また、IM−D値は、水分量が同じであっても物質によって異なる場合がある。例えば、表面状態や色の異なる普通紙は、同じ水分量であってもIM−D値が異なる場合がある。この場合、あらかじめ表面状態や色などの特性に応じて分類した用紙毎に絶乾法によって計測した水分量と、計測されたIM−D値との相関を示す検量線(図2参照)を作成しておくことで校正できる。これにより、ある用紙のIM−D値とある用紙の検量線との対比により、水分量を求めることができる。
赤外線方式で水分量を計測する水分計51としては、市販品を用いることができ、フジワーク社製のIM−3SCV Model−1000が挙げられる。この水分計のセンサーヘッドは150℃までの耐熱性がある。また、この水分計の測定時の応答性は1秒以下である。したがって、この水分計により搬送された用紙の水分量をリアルタイムに計測することができる。
搬送部6は、計測部5で水分量が計測された用紙を、吐出部7を経て、排紙部8に搬送するために、搬送ベルト61、駆動ローラ62、従動ローラ63、及び補助ローラ64,65を有する。搬送ベルト61は、吐出ヘッド73のインク吐出動作のタイミングに合わせて、用紙を搬送経路上の排紙部8の方向に搬送する。また、搬送ベルト61は、張力の掛かった状態で、駆動ローラ62及び従動ローラ63に架けられ、駆動ローラ62の回転に伴い搬送経路上を搬送方向に移動する。補助ローラ64,65は、搬送ベルト61上で搬送される用紙の上面を抑える。
吐出部7は、搬送部6で搬送される用紙に水性インクを吐出して画像を形成するために、タンク71、供給ライン72、及び吐出ヘッド73を有する。タンク71は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック等の各色の水性インクを貯蔵する容器である。供給ライン72は、タンク71に貯蔵された水性インクを吐出ヘッド73に供給する供給手段である。
吐出ヘッド73は、用紙に画像を形成するため、供給ライン72によって供給された水性インクに刺激(エネルギー)を加えることで吐出する吐出手段である。インクに加えられるエネルギーとしては、特に限定されないが、熱(温度)、圧力、振動、及び光などが挙げられる。これらのなかでも、熱、圧力が好適に用いられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても良い。
吐出ヘッド73としては、液室部、流体抵抗部、振動板、ノズル部材などを備えた公知のヘッドが用いられる。この場合、これらの構成要素の少なくとも一部がシリコーン又はニッケルを含む材料により形成されていても良い。また、ノズルの直径は、例えば、30μm以下、好ましくは1〜20μmとすることができる。吐出ヘッド73の具体例としては、圧電型ヘッド、サーマル型ヘッド、静電型ヘッド等が挙げられる。また、吐出ヘッド73は、所定の走査方向に走査するヘッドの下を、走査方向とは異なる搬送方向に用紙が通過することによって記録するシリアルヘッドであっても、固定されたヘッドの下を用紙が通過することによって記録するラインヘッドであっても良い。これらのうち、ラインヘッドを用いた場合、用紙に短時間で記録できるので、記録後に記録物が搬送されるまでの時間が短くなる。この場合、水分が十分に気化されない状態で記録物が搬送されることになるが、本実施形態の液体吐出方法を用いた場合には、バックカールの発生が低減されるので、搬送に影響を与え難い。
排紙部8は、搬送部6によって搬送された用紙を排紙するために、補助ローラ81、排紙ローラ82、及び排紙トレイ83を有する。補助ローラ81及び排紙ローラ82は、画像が形成された用紙を排紙トレイ83に排紙するための装置である。排紙トレイは、排紙された用紙を収容するためのトレイである。
操作部9は、ユーザからの操作入力を受け付けるため、表示操作パネル91を有する。表示操作パネル91は、液体吐出装置1の運転状況を表示してユーザに報知する表示パネルと、ユーザからの操作入力を受け付ける操作パネルとを兼ねている。
制御部10は、液体吐出装置1の全体の動作を制御する。このため、制御部10は、後述のCPU(Central Processing Unit)や、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶装置を備えている。
<<<制御部のハードウェア構成及び機能構成>>>
本実施形態の液体吐出装置1の制御部10のハードウェア構成及び機能構成について、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態の液体吐出装置1の制御部10を説明するためのブロック図である。
本実施形態の液体吐出装置1の制御部10は、液体吐出装置1全体の動作を制御するCPU101、液体吐出装置用プログラムを記憶したROM102、CPU101のワークエリアとして使用されるRAM103、用紙毎のIM−D値と水分量の相関を示すデータ(図2参照)が記憶され液体吐出装置1の電源が遮断されている間もデータを保持する不揮発性メモリ(NVRAM)104、画像データに対する各種信号処理、並び替え等の画像処理、又は液体吐出装置1全体を制御するための入出力信号を処理するASIC(Application Specific Integrated Circuit)105、ホストコンピュータ等の外部機器とのデータ、信号の送受信を行うためのI/F(Interface)106、水分計51の計測結果を入力するためのI/O(Input/Output)ポート107を有する。
また、制御部10のNVRAM104の記憶領域には、図4に示されているような設定温度管理テーブルによって構成されている設定温度管理DB(Data Base)が構築される。設定温度管理テーブルでは、吐出ヘッド73が用紙に水性インクを吐出するときの印字率、加熱手段31の設定温度、及び冷却手段41の設定温度が関連付けられて管理される。なお、図4中の「<」は、「以下」を意味する。また、表4中の「−」は、温度設定をしなくても良いことを意味する。加熱手段31の設定温度、及び冷却手段41の設定温度は、表示操作パネル91によって受け付けられたユーザからの入力に基づき、追加、削除、更新することができる。
加熱手段31の設定温度、及び冷却手段41の設定温度を設定する場合、記録前の用紙の上記の(1)式で表される水分表裏差が20%以上となるように設定することが好ましい。このような加熱手段31の設定温度としては、80℃以上、300℃以下であることが好ましい。加熱手段31の設定温度が80℃に満たない場合には、水分表裏差を上記の範囲にすることができない可能性があり、300℃を超えると用紙が劣化する可能性がある。また、冷却手段41の設定温度としては、室温以下であることが好ましく、例えば10℃以下とすることができる。冷却手段31の設定温度が室温より大きい場合には、水分表裏差を上記の範囲にすることができない可能性がある。
制御部10のNVRAM104の記憶領域には、図5に示されているような水分量算出式管理テーブルによって構成されている水分量算出式管理DBが構築される。水分量算出式管理テーブルでは、用紙毎に、水分量を算出するための水分量算出式が関連付けられて管理される。水分量算出式は、表示操作パネル91によって受け付けられたユーザからの入力に基づき、追加、削除、更新することができる。
また、液体吐出装置1の制御部10は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって動作することで実現される、加熱制御部113、冷却制御部114、算出部115、搬送制御部116、及び吐出制御部117を有する。
加熱制御部113は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、加熱手段31の出力を制御する。この場合、加熱制御部113は、表示操作パネル91によって受け付けられた設定温度の入力に基づき加熱手段31の出力を制御する。また、加熱制御部113は、後述の吐出制御部117によって算出された印字率や、計測部5によって算出された水分量に基づき、加熱手段31の出力を自動的に制御する。
冷却制御部114は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、冷却手段41の出力を制御する。この場合、冷却制御部114は、表示操作パネル91によって受け付けられた設定温度の入力に基づき冷却手段41の出力を制御する。また、冷却制御部114は、後述の吐出制御部117によって算出された印字率や、計測部5によって算出された水分量に基づき、冷却手段41の出力を自動的に制御する。
算出部115は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、水分計51の計測結果に基づき水分量を算出する。この場合、I/Oポート107によって受信された水分計51の計測結果と、水分量算出式管理テーブルから取得された水分量算出式とを用いてCPU101が水分量を算出する。また、算出部115は、水分計51aの計測結果から算出された水分量と、水分計51bの計測結果から算出された水分量との差分を算出する。
搬送制御部116は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、給紙部2の引出ローラ22及び給紙ローラ23、搬送部6の搬送モータ66、並びに排紙部8の排紙ローラ82の駆動を制御する。この場合、搬送制御部116が、給紙部2の引出ローラ22及び給紙ローラ23を駆動する制御を行うことで、給紙トレイ21に収容された用紙が給紙される。また、搬送制御部116が搬送モータ66を駆動する制御を行うことで、駆動ローラ62が連動して回転し、搬送ベルト61が移動する。これにより、搬送ベルト61上の用紙が搬送される。更に、搬送制御部116が排紙部8の排紙ローラ82を駆動する制御を行うことで、排紙ローラ82が回転し、搬送経路上の用紙が排紙トレイ83に排紙される。
吐出制御部117は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、吐出ヘッド73の圧力発生手段を駆動制御するための駆動波形を生成し、インクを吐出するための制御を行う。この場合、吐出制御部117は、I/F106によって受信された印刷データを、ASIC105によって画像処理して画像データを作成する。また、吐出制御部117は、作成された画像データに基づき、用紙全体の面積における記録部分の面積の比率(印字率)を算出する。更に、吐出制御部117は、画像データに基づくヘッド駆動情報作成して吐出ヘッド73に出力する。
<<<水性インク>>>
続いて、本実施形態の液体吐出方法に用いられる水性インクについて説明する。本実施形態の液体吐出方法において、特に限定されないが、着色剤を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体、水溶性有機溶剤、及び水を含み、必要に応じてその他成分を含有してなる水性インクが好適に用いられる。水性インクの各成分について順に説明する。
<着色剤>
上記の着色剤としては、耐候性の面から顔料が好適に用いられるが、色調調整の目的で耐候性が劣化しない範囲内で染料を含有しても良い。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、黒色用、或いはカラー用の無機顔料や有機顔料などが用いられる。これら着色剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記の無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
上記の有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、特に、水と親和性の良いものが好ましく用いられる。
上記顔料において、より好ましく用いられる顔料の具体例としては、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
さらに、カラー用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、128、138、150、151、153、183、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
顔料の水性インクにおける含有量は、固形分で2〜15質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましく、5〜8質量%が更に好ましい。含有量が2質量%未満であると、記録物の発色性及び画像濃度が低くなってしまうことがあり、15質量%を超えると、水性インクが増粘して吐出安定性が悪くなってしまうことがあり、更に経済的にも好ましくない。
<水不溶性ビニルポリマー>
上記の水不溶性ビニルポリマーは、一般式(1)で表されるモノマー(モノマーA)、塩生成基含有モノマー(モノマーB)、疎水性モノマー(モノマーC)を含有するモノマー混合物を重合させて得られる。これらのモノマーは、各モノマーの所要量を混合して組成物としても良いし、モノマーA、B、C以外のモノマーを追加して用いても良い。
一般式(1)において、R1は、重合性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましい。また、R2は炭素数2〜8のアルキレン基又は水素原子がフェニル基で置換された炭素数2〜4のアルキレン基であるが、炭素数2〜4のエチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましい。nは、平均付加モル数であり、2〜30の数であるが、画像濃度及び保存安定性の観点から、2〜25の数が好ましく、2〜15の数が更に好ましく、2〜10の数が特に好ましい。n個のR2は同一でも異なっていてもよく、異なる場合は、ブロック付加及びランダム付加のいずれもでよい。R3は炭素数2〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であるが、高い画像濃度及び良好な保存安定性の観点から炭素数2〜22のアルキル基が好ましく、炭素数8〜18のアルキル基がより好ましく、オクチル基、2−エチルへキシル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基、テトラドデシル(ミリスチル)基、ヘキサデシル(セチル)基及びオクタデシル(ステアリル)基が特に好ましい。
モノマーAとしては、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリ(エチレングリコール・ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
モノマーAは、脂肪族アルコール末端(−OH)をアルキレンオキシドで重合し、その重合した末端基(−OH)をエーテル化する方法により得られる。商業的に入手しうるモノマーAの具体例としては、共栄社化学(株)製のライトアクリレートEA―C、日本油脂(株)の50POEP−800B、PLE200、PSE−400が挙げられる。
モノマーAを用いることにより、画像濃度が高く、保存安定性に優れた水性インクを得ることができる。これは、モノマーAが有する末端基のアルキル基が紙の表面に残りやすいためであると考えられる。また、モノマーAを用いることにより水性インクに対して優れた分散安定性も付与できる。
また、モノマーAは、特定の水溶性有機溶剤に対して高い相溶性を示すことから、インク中に特定の水溶性有機溶剤を含有する場合には、水分が蒸発して平衡状態に達したインク残さにおいてもポリマー粒子に分散安定性を付与できる。
水不溶性ビニルポリマーを重合するのに用いられるモノマー混合物におけるモノマーAの含有量は、画像濃度及びインク粘度の観点から、3〜25質量%、好ましくは5〜20質量%である。
本実施形態において塩生成基含有モノマー(モノマーB)とは、中和反応により塩を生成する塩生成基を有するモノマーを言う。本実施形態において好適に用いられる塩生成基含有モノマーとしては、アニオン生成基を有するアニオン性モノマーが挙げられる。このアニオン生成基は、水中でアニオンを生成して静電反発によりポリマー分散体に分散安定性を付与するとともに、水性インクが用紙に付着した場合には、pH変化により静電反発力を失い、顔料の定着を促進する。アニオン性モノマーは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アニオン性モノマーとしては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー及び不飽和リン酸モノマーから選ばれた1種以上が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アニオン性モノマーの中では、画像濃度及び保存安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
水不溶性ビニルポリマーを重合するのに用いられるモノマー混合物におけるモノマーBの含有量は、画像濃度及び保存安定性の観点から、3〜25質量%、好ましくは5〜20質量%、更に好ましくは12〜14質量%である。モノマーBの含有量が3質量%よりも小さい場合には、塩基物質に溶解し難くなり顔料への被覆がし辛くなる等の問題がある。
本実施形態において好適に用いられるモノマーCとしては、一般式(2)で表されるモノマー、一般式(3)で表されるモノマー、及びマクロマーが挙げられる。
(式中、R
4は水素原子又はメチル基、R
5は炭素数1〜22のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基、アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基又は炭素数3〜22の環式炭化水素基を示す。)
(式中、R
6は水素原子又はメチル基、R
7は置換基を有しても良いフェニル基、ビフェニル基、又はナフタレン基を示す。)
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。モノマーCは、画像濃度及び耐擦過性の観点から、芳香環含有モノマー及びマクロマーから選ばれた1種以上が含有されていることが好ましい。
一般式(2)で表されるアルキル基を有するモノマーとしては、R4がメチル基のモノマーが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート等のエステル部分が炭素数1〜22のアルキル基である(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは2種以上を混合して用いることができる。なお、(イソ又はターシャリー)及び(イソ)は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルを示す。また、(メタ)アクリレートは、メタクリレートとアクリレートの両方を意味する。以下においても同様である。
一般式(2)で表されるアリール基を有するモノマーとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
一般式(2)で表される環式炭化水素基を有するモノマーとしては、炭素数3以上の単環式、二環式、さらには三環式以上の多環式(メタ)アクリレートである。具体的には、炭素数3以上の単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、二環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、三環式(メタ)アクリレートとしてはアダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、保存安定性の観点から、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは2種以上を混合して用いることができる。
一般式(3)で表される芳香環含有モノマーとしては、R6が水素又はメチル基のモノマーが好ましく、耐水性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、から選ばれた1種以上が好ましい。これらの中では、画像濃度及び耐擦過性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びビニルナフタレンから選ばれた1種以上がより好ましい。
マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有し、好ましくは数平均分子量が400〜500,000、より好ましくは600〜12,000であるマクロマーが挙げられる。マクロマーの具体例としては、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するメチルメタクリレート系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するスチレン・アクリロニトリル系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するブチルアクリレート系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するイソブチルメタクリレート系マクロマー等が挙げられる。これらの中では、着色剤を含む水不溶性ビニルポリマー粒子の形成が容易であることから、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体、及び片末端に重合性官能基を有するスチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーの中では、分散性の観点から、片末端に重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、東亜合成(株)製のAS−6(S),AN−6(S),HS−6(S)等が挙げられる。なお、マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
水不溶性ビニルポリマーを重合するに用いられるモノマー混合物におけるモノマーCの含有量は、保存安定性及び耐水性の観点から、50〜95質量%、好ましくは60〜85質量%である。
モノマーCとして芳香環含有モノマーを用いる場合、モノマーC中、芳香環含有モノマーの含有量は、耐擦過性、及びインク粘度の観点から、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは35〜75質量%である。
モノマーCとしてマクロマーを用いる場合、モノマーC中、マクロマーの含有量は、耐水性及び耐擦過性の観点から、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜25質量%である。
水不溶性ビニルポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマーA、B、Cを重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いる溶媒は、極性有機溶媒であることが好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はこれらと水との混合液が好ましい。必要に応じて、トルエンを用いてもよい。
重合の際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物が好適である。また、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を使用することもできる。重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、更に重合連鎖移動剤を添加してもよい。重合連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、タービノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、α−メチルスチレンダイマー、9,10−ジヒドロアントラセン、1,4−ジヒドロナフタレン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン等の不飽和環状炭化水素化合物;2,5−ジヒドロフラン等の不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられる。これらの重合連鎖移動剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
モノマーの重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜85℃であり、重合時間は、好ましくは2〜24時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成した水不溶性ビニルポリマーを単離することができる。また、得られた水不溶性ビニルポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、画像濃度と吐出安定性の点から、好ましくは3,000〜300,000、より好ましくは5,000〜200,000である。
<着色剤を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体>
着色剤として、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体を得る方法としては、上記の水不溶性ビニルポリマーを有機溶媒に溶解させ、顔料、水、中和剤及び必要に応じて界面活性剤を加えて混練した後、必要に応じて水で希釈し、有機溶媒を留去して水系にする方法が好ましい。
水性インク中の顔料の量は、画像濃度及びポリマー粒子中に含有させやすさの観点から、水不溶性ビニルポリマー100質量部に対して、好ましくは20〜1200質量部、より好ましくは50〜900質量部、更に好ましくは65〜600質量部である。
上記の有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく、これらの親水性有機溶媒がより好ましい。アルコール系溶媒としては、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒のうち、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。なお、有機溶媒は、トルエンと併用してもよい。
中和剤として、塩基が使用され、具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中和度には、特に限定がない。通常、得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4〜10であることが好ましい。
塩生成性基の種類に応じて、塩生成基を水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和させた後の水不溶性ビニルポリマーの25℃での水に対する溶解度は、水性インクの低粘度化の点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
本実施形態において水分散体中及び水性インク中、着色剤を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の平均粒子径は、ノズルの目詰まり防止及び保存安定性の観点から、好ましくは0.01〜0.50μm、より好ましくは0.02〜0.30μm、更に好ましくは0.04〜0.20μmである。
<水溶性有機溶剤>
上記の水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンが挙げられる。
水溶性有機溶剤は、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子と相溶することにより、長期間保存してインクの水分が蒸発した場合においても、顔料が凝集することを防ぎ、優れた保存安定性を付与する。また、水溶性有機溶剤は、インクが開放状態で放置されても、多量の水分を保持することにより、インクに流動性を付与する。
この場合、平衡水分量の高い水溶性有機溶剤を用いることにより、インクの水分が蒸発して平衡状態に達した場合にも、水溶性有機溶剤が多量の水分を保持し、インクの極端な粘度上昇を抑えることができる。
本実施形態において、平衡水分量の高い水溶性有機溶剤とは、温度23℃、湿度80%環境中の平衡水分量が30wt%以上、好ましくは40wt%以上である水溶性有機溶剤(水溶性有機溶剤A)を意味する。水溶性有機溶剤Aを用いることで、インクの水分が蒸発して水分平衡に達した場合においても、水溶性有機溶剤Aが多量の水分を保持して粘度上昇を防ぐことができる。なお、平衡水分量とは、水溶性有機溶剤と水との混合物を一定温度、湿度の空気中に開放して、溶液中の水の蒸発と空気中の水のインクへの吸収が平衡状態になったときの水分量を言う。具体的には、平衡水分量は、塩化カリウム飽和水溶液を用いデシケーター内の温湿度を温度23±1℃、湿度80±3%に保ち、このデシケーター内に各水溶性有機溶剤を1gずつ秤量したシャーレを質量変化がなくなるまでの期間保管し、次の式により求めることができる。
平衡水分量(%)={有機溶剤に吸収した水分量/(有機溶剤量+有機溶剤に吸収した水分量)}×100
水溶性有機溶剤Aの沸点は、好ましくは140℃以上であり、より好ましく250℃以上である。水溶性有機溶媒Aの沸点が140℃以上であれば、通常のインクの使用環境下において気化が生じないため、水溶性有機溶媒の気化により保持できる水分が減少することを防ぐことができる。
以上の点から本実施形態で好適に用いられる水溶性有機溶剤Aとしては、温度23℃、湿度80%環境中の平衡水分量が30wt%以上の多価アルコール類が挙げられる。このような水溶性有機溶剤Aの具体例としては、1,2,3−ブタントリオール(bp175℃/33hPa、38wt%)、1,2,4−ブタントリオール(bp190−191℃/24hPa、41wt%)、グリセリン(bp290℃、49wt%)、ジグリセリン(bp270℃/20hPa、38wt%)、トリエチレングリコール(bp285℃、39wt%)、テトラエチレングリコール(bp324−330℃、37wt%)、ジエチレングリコール(bp245℃、43wt%)、1,3−ブタンジオール(bp203−204℃、35wt%)等が挙げられる。この中でもグリセリン、1,3−ブタンジオールは水分を含んだ場合に低粘度化することや顔料分散体が凝集せず安定に保てるなどの理由により特に好適に用いられる。上記水溶性有機溶剤Aを水溶性有機溶剤剤全体の50wt%以上用いた場合、吐出安定性確保やインク吐出装置の維持装置での廃インク固着防止に優れるため好ましい。
本実施形態において水性インクは、水溶性有機溶剤A以外にも、23℃、80%での平衡水分量が30wt%未満の水溶性有機溶剤(水溶性有機溶剤B)を併用することができる。水溶性有機溶剤Bとしては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の湿潤剤、などが挙げられる。
水溶性有機溶剤Bの多価アルコール類の具体例としては、例えば、ジプロピレングリコール(bp232℃)、1,5−ペンタンジオール(bp242℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(bp203℃)、プロピレングリコール(bp187℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(bp197℃)、エチレングリコール(bp196−198℃)、トリプロピレングリコール(bp267℃)、ヘキシレングリコール(bp197℃)、ポリエチレングリコール(粘調液体〜固体)、ポリプロピレングリコール(bp187℃)、1,6−ヘキサンジオール(bp253−260℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(bp178℃)、トリメチロールエタン(固体、mp199−201℃)、トリメチロールプロパン(固体、mp61℃)などが挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(bp135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(bp171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(bp197℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(bp231℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(bp229℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(bp132℃)などが挙げられる。多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル(bp237℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、例えば、2−ピロリドン(bp250℃、mp25.5℃、47−48wt%)、N−メチル−2−ピロリドン(bp202℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(bp226℃)、ε−カプロラクタム(bp270℃)、γ−ブチロラクトン(bp204−205℃)などが挙げられる。アミド類としては、例えば、ホルムアミド(bp210℃)、N−メチルホルムアミド(bp199−201℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(bp153℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(bp176−177℃)などが挙げられる。アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン(bp170℃)、ジエタノールアミン(bp268℃)、トリエタノールアミン(bp360℃)、N,N−ジメチルモノエタノールアミン(bp139℃)、N−メチルジエタノールアミン(bp243℃)、N−メチルエタノールアミン(bp159℃)、N−フェニルエタノールアミン(bp282−287℃)、3−アミノプロピルジエチルアミン(bp169℃)などが挙げられる。含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(bp139℃)、スルホラン(bp285℃)、チオジグリコール(bp282℃)などが挙げられる。その他の固体湿潤剤としては、糖類などが好ましい。
糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類、などが挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などが挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式:HOCH2(CHOH)nCH2OH(ただし、nは2〜5の整数を表す)で表わされる。)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸などが挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどが挙げられる。
顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子と水溶性有機溶剤Aとの質量比は、ヘッドからのインク吐出安定性に非常に影響があり、さらにインク吐出装置の維持装置での廃インク固着防止にも影響がある。即ち、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の固形分が高いのに水溶性有機溶剤Aの配合量が少ないとノズルのインクメニスカス付近の水分蒸発が進み吐出不良をもたらすことがある。顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子と水溶性有機溶剤Aとの質量比は、好ましくは1:2〜1:10であり、より好ましくは、1:3〜1:8である。
また、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の質量と水溶性有機溶剤Aが平衡時(温度25℃、湿度80%)に保持できる水の質量の比は、好ましくは、1:0.2〜1:7であり、より好ましくは1:0.6〜1:4である。
水溶性有機溶剤の水性インク中における含有量は、20〜50質量%が好ましく、25〜45質量%がより好ましい。含有量が25質量%未満であると、吐出安定性低下し、維持装置で廃インクが固着する可能性がある。また、50質量%を超えると、紙面上での乾燥性に劣り、普通紙上の文字品位が低下することがある。
<浸透剤>
本実施形態において、水性インクは、浸透剤として、炭素数8〜11のポリオール化合物又は炭素数8〜11のグリコールエーテル化合物を少なくとも1種を含有することが好ましい。浸透剤は、水溶性有機溶剤とは異なり、湿潤性が小さく、非湿潤剤性ということができる。ここで、非湿潤剤性とは、25℃の水中において0.2〜5.0質量%の間の溶解度を有することを意味する。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール[溶解度:4.2%(25℃)]、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール[溶解度:2.0%(25℃)]が特に好適に用いられる。これらの浸透剤は、モノマーA、B、Cを重合してなる水不溶性ビニルポリマーとの相溶性が良く、水分が蒸発したインク残さの粘度上昇を生じさせない点で好ましい。
その他のポリオール化合物として、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオールなどが挙げられる。
その他の併用できる浸透剤としては、インク中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが。その他の併用できる浸透剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類、などが挙げられる。
浸透剤の水性インクにおける含有量は、0.1〜4.0質量%が好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、速乾性が得られず滲んだ画像となることがある。また、含有量が4.0質量%を超えると、着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりしやすくなったり、また用紙への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
<界面活性剤>
本実施形態において、水性インクに用いられる界面活性剤としては、着色剤の種類や水溶性有機溶剤の組合せによって分散安定性を損なわず、表面張力が低く、浸透性、レベリング性の高いものが好ましい。このような界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これら界面活性剤は、1種を単独、又は二種以上を混合して用いることができる。
アニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテルエステル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンオレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、エーテルカルボキシレート、スルホコハク酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、脂肪酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、ナフテン酸塩等が挙げられ、これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩及びジアルキルスルホコハク酸塩が好ましい。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、イミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン誘導体、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2〜16であるものが好ましく、フッ素置換した炭素数が4〜16であるものがより好ましい。フッ素置換した炭素数が2未満であると、フッ素の効果が得られないことがあり、16を超えると、インク保存性などの問題が生じることがある。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物、などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少なく、特に好ましく、さらに好ましくは、下記構造式(4)で表されるフッ素系界面活性剤である。
ただし、構造式(4)中、mは0〜10の整数を表す。nは1〜40の整数を表す。
パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、などが挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、などが挙げられる。パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、などが挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、などが挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3などが挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、サーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S−131、S−132、S−141、S−145、S−386(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF−470、F−1405、F−474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、UR(いずれも、DuPont社製);FT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW(いずれも、株式会社ネオス社製)、ポリフォックスPF−151N(オムノバ社製)などが挙げられる。これらの中でも、良好な記録品質、特に発色性、紙に対する均染性が著しく向上する点から、DuPont社製のFS−300、株式会社ネオス製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW及びオムノバ社製のポリフォックスPF−151Nが特に好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式で表されるポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物、などが挙げられる。
ただし、(5)式中、m、n、a、及びbは整数を表す。R及びR’はアルキル基、アルキレン基を表す。
シリコーン系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越シリコーン株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社などから容易に入手できる。ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF−618、KF−642、KF−643(いずれも、信越化学工業株式会社製)、などが挙げられる。
界面活性剤の水性インク中における含有量は、0.01〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。含有量が0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、3.0質量%を超えると、用紙への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
<pH調整剤>
本実施形態において、pH調整剤を顔料凝集防止剤として添加し、インク保管中にインクpHが低下して顔料が凝集・増粘がしないように調整することで信頼性の高いインクが得られる。pH調整剤としては、水性インクに悪影響を及ぼさずにpHを8〜11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。pHが8未満及び11を超えるとインクジェットのヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きく、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオール等が挙げられる。アルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物などが挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
<その他成分>
その他成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の水分散性樹脂、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、などが挙げられる。
<インクの製造例>
本実施形態において、水性インクは、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体、水溶性有機溶剤、及び水、更に必要に応じて他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造される。分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、超音波分散機等により行うことができる。また、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
<インク物性>
本実施形態において、水性インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
水性インクの25℃での粘度は5〜20mPa・sが好ましい。水性インク粘度が5mPa・s以上とすることによって、画像濃度や文字品位を向上させる効果が得られる。一方、インク粘度を20mPa・s以下に抑えることで、吐出安定性を確保することができる。本実施形態における、インクの粘度はJIS K7117−2により円錐平板型回転粘度計により測定される粘度である。ここで、粘度は、例えば、粘度計(RE−80L、RE−550L、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定することができる。
水性インクのpHとしては、25℃でpHが7より大きく、8以上が好ましく、pH9以上がより好ましい。インクのpHが7以下の場合、増粘により吐出安定性が低下する場合がある。水性インクのpHを11以上と高くすると液体吐出装置等に使用される部品の劣化を生じる場合がある。
水性インクの表面張力としては、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。表面張力が、35mN/mを超えると、用紙へのインクの浸透及びレベリングが起こり難く、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
<<<液体吐出装置の動作・処理>>>
続いて、図6を用いて、本実施形態に係る液体吐出方法における処理方法を説明する。図6は、本実施形態に係る液体吐出装置1における処理方法を示した処理フロー図である。
まず、液体吐出装置1のI/F106は、ホストコンピュータ等の外部機器から印刷データを受信する(ステップS1)。次に、吐出制御部117は、I/F106によって受信された印刷データを、ASIC105によって画像処理して、画像データを作成する(ステップS2)。更に、吐出制御部117は、作成された画像データに基づき、用紙全体の面積における記録部分の面積の比率(印字率)を算出する(ステップS3)。
続いて、加熱制御部113は、吐出制御部117によって算出された印字率に基づき、加熱手段31の出力を制御する(ステップS4)。この場合、加熱制御部113は、吐出制御部117によって算出された印字率を検索キーとして、設定温度管理テーブル(図4参照)を検索し、加熱手段設定温度を読み出す。次に、加熱制御部113は、I/Oポート107を介して読み出された加熱手段設定温度を、加熱手段31に送信する。これにより、加熱手段31は、サーモスタット等の公知の温度制御手段により、加熱手段設定温度に基づき出力を制御する。
同様に、冷却制御部114は、吐出制御部117によって算出された印字率に基づき、冷却手段41の出力を制御する(ステップS4)。この場合、冷却制御部114は、吐出制御部117によって算出された印字率を検索キーとして、設定温度管理テーブル(図4参照)を検索し、冷却手段設定温度を読み出す。次に、冷却制御部114は、I/Oポート107を介して読み出された冷却手段設定温度を、冷却手段41に送信する。これにより、冷却手段41は、サーモスタット等の公知の温度制御手段により、冷却手段設定温度に基づき出力を制御する。
加熱手段31の出力及び冷却手段41の出力が所定の温度に制御されると、搬送制御部116は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、給紙部2の引出ローラ22、及び給紙ローラ23を駆動する制御を行う(ステップS5)。これにより、給紙トレイ21に収容された用紙が一枚ずつ引出され、搬送経路に給紙される。
給紙ローラ23によって給紙された用紙が搬送経路上の加熱部3に到達すると、加熱手段31は、用紙の第1の面を加熱する(ステップS6)。本実施形態では、加熱手段31の設定温度は、表示操作パネル91によってユーザからの入力が受け付けられる。
また、本実施形態では、加熱手段31による用紙の第1の面の加熱と同時に、冷却手段41が用紙の第2の面が冷却される(ステップS6)。本実施形態では、冷却手段41の設定温度は、表示操作パネル91によってユーザからの入力が受け付けられる。
加熱部3によって加熱された用紙が計測部5に到達すると、水分計51は用紙の第1の面及び第2の面の水分量を計測する(ステップS7)。本実施形態では、各水分計51として赤外線方式による水分計が用いられ、用紙の第1の面の水分量と、第2の面の水分量とをリアルタイムが同時に計測される。この場合、第1の水分計51aは、用紙の第1の面に特定波長の近赤外線を照射し反射強度(IM−D値)を出力する。同様にして、第2の水分計51bは、用紙の第2の面に特定波長の近赤外線を照射し反射強度(IM−D値)を出力する。出力された各IM−D値は、制御部10のI/Oポート107に送信される。
続いて、算出部115は、I/Oポート107によって受信された水分計51の各IM−D値と、水分量算出式管理テーブルから取得された水分量算出式とを用いて第1の面の水分量と第2の面の水分量とを算出する。ここで、水分量算出式は、表示操作パネル91によって受け付けられた用紙の種類に基づき取得される。また、算出部115は、算出された第1の面の水分量、及び第2の面の水分量から、上記の(1)式に基づき、これらの差分を示す水分表裏差を算出する。
計測部5で水分量が計測された用紙は搬送ベルト61によって搬送される(ステップS8)。この場合、搬送制御部116は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、搬送部6の搬送モータ66を駆動する制御を行う。これにより、駆動ローラ62が連動して回転し、搬送ベルト61が移動する。ここで、搬送ベルト61上の用紙は、吐出部7を経て、排紙部8に至る搬送経路上を搬送される。
計測部5による水分量の計測後、吐出制御部117は、算出部115によって算出された水分表裏差が所定の閾値以上であるか否かが判断される(ステップS9)。この場合、所定の閾値は、表示操作パネル91によって入力が受け付けられていても、プログラムによって予め定められていても良い。
ステップS9で、水分表裏差が所定の閾値以上であると判断された場合には(ステップS9のYES)、吐出制御部117は、吐出ヘッド73の圧力発生手段を駆動制御するための駆動波形を生成し、水性インクを吐出するための制御を行う(ステップS10)。この場合、吐出制御部17は、ステップ2で作成された画像データに基づきヘッドを駆動するためのヘッド駆動情報を作成し、吐出ヘッド73に出力する。これにより、吐出ヘッド73は、搬送ベルト61による用紙の搬送のタイミングに合わせて、ヘッド駆動情報に基づきインクを吐出し、用紙の第1の面に画像を形成する。
ステップS10の吐出処理が完了すると、排紙部8は、搬送ベルト61によって搬送された用紙を排紙する(ステップS11)。この場合、搬送制御部116は、ROM102に記憶されているプログラムに従ったCPU101からの命令によって、排紙部8の排紙ローラ82を駆動する制御を行う。これにより、排紙ローラ82が回転し、搬送経路上の用紙が排紙トレイ83に排紙され処理を完了する。
ステップS9で、水分表裏差が所定の閾値に満たないと判断された場合には(ステップS9のNO)、表示操作パネル91は、所定のエラーメッセージを表示する(ステップS12)。このエラーメッセージにより、表示操作パネル91は、用紙に十分な水分量表裏差をつけることができなかった旨を表示してユーザに通知することができる。
続いて、排紙部8は、搬送部6によって搬送された記録されていない用紙を排紙する(ステップS13)。この場合、公知の切替手段により搬送経路を切り替えることにより、排紙部8は、記録された用紙が排紙される排紙トレイ83とは異なる排紙トレイに記録されていない用紙を排紙しても良い。
続いて、加熱制御部113は、加熱手段31の出力を制御する(ステップS14)。この場合、加熱制御部113は、ステップS4で読み出された現在の加熱手段設定温度に所定温度を加算し、新たな加熱手段設定温度を設定する。次に、加熱制御部113は、I/Oポート107を介して、設定された新たな加熱手段設定温度を加熱手段31に送信する。これにより、加熱手段31は、サーモスタット等の公知の温度制御手段により、新たな加熱手段設定温度に基づき出力を制御することができる。
同様に、冷却制御部114は、冷却手段41の出力を制御する(ステップS14)。この場合、冷却制御部114は、ステップS4で読み出された現在の冷却手段設定温度に所定温度を減算し、新たな冷却手段設定温度を設定する。次に、冷却制御部114は、I/Oポート107を介して、設定された新たな冷却手段設定温度を冷却手段41に送信する。これにより、冷却手段41は、サーモスタット等の公知の温度制御手段により、新たな冷却手段設定温度に基づき出力を制御することができる。
<<<実施形態の補足>>>
上記実施形態では、液体吐出装置1の一例として、水性インクを吐出するインクジェット記録装置について説明したが、これに限るものではない。この場合、液体吐出装置としては、水性塗料を用紙に塗布する塗工装置や、水性の処理液を吐出する処理装置等が挙げられる。
以下、実施例により本発明について更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<<製造例1>>
反応容器内に、メチルエチルケトン20質量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部、及び表1に示す各モノマー(質量部表示)のうちのそれぞれ10質量%ずつを入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロート中に、表1に示す各モノマー(質量部表示)のうちの残りの90質量%ずつを仕込み、次いで重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.27質量部、メチルエチルケトン60質量部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2質量部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、その混合溶液の液温を75℃で2時間維持した後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3質量部をメチルエチルケトン5質量部に溶解した溶液を該混合溶液に加え、更に75℃で2時間、85℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離した。標準物質としてポリスチレン、溶媒として60mmol/Lのリン酸及び50mmol/Lのリチウムブロマイド含有ジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより重量平均分子量を測定した。
なお、表1に示す各化合物の詳細は、以下のとおりである。
*エトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート:一般式(1)において、nが9、R1がメチル基、R2がエチレン基、R3がエチル基であるモノマー
*メタクリル酸:三菱瓦斯化学(株)製、商品名GE−110(MAA)
*メタクリル酸2−エチルへキシル:三菱レイヨン(株)製、商品名アクリエステルEH
*スチレンモノマー:新日鉄化学(株)製、商品名スチレンモノマー
*スチレンマクロマー:東亜合成(株)製、商品名AS−6S(スチレンマクロマー)、数平均分子量6000
<<顔料分散体の調整:調整例1>>
製造例1で得られたポリマーをメチルエチルケトンで50%に調整した溶液77部にメチルエチルケトン90部、及び中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液)を所定量加えてメタクリル酸を中和(中和度90%)した後、イオン交換水370部、更に着色剤としてカーボンブラック(デグサ社製Nipex150)を90部加え、ディスパー混合し、更に分散機(マイクロフルイダイザーM−140K、150MPa)で5パス処理した。
得られた水分散体に、イオン交換水100部を加え、攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士写真フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去し、固形分が25%の顔料分散体(調整例1)を得た。
<<水性インクの調整:調整例2,3>>
表2に示す水溶性有機溶剤、浸透剤、界面活性剤、防カビ剤、消泡剤、pH調整剤及び水を混合し、1時間攪拌を行い均一に混合した。この混合液に対して水分散性樹脂を添加して1時間撹拌し、顔料分散体を添加し、1時間攪拌した。この分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して、調整例2,3の各インクジェット用インクを作製した。
なお、表2における単位は質量%である。表2中の略号などは下記の意味を表す。
*自己分散顔料分散体:Cabot社製、CAB−O−JET(R)300、固形分15質量%
*フッ素樹脂エマルジョン:旭硝子株式会社製、ルミフロンFE4500、固形分50質量%、平均粒子径136nm、最低造膜温度(MFT)=28℃
*ゾニールFS−300:ポリオキシエチレンパーフロロアルキルエーテル(Dupont社製、有効成分40質量%)
*オルフィンEXP4001:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製、有効成分80質量%
*Proxel GXL:1,2−benzisothiazolin−3−oneを主成分とした防カビ剤(アビシア社製、成分20質量%、ジプロピレングリコール含有)
*KM−72F:自己乳化型シリコーン消泡剤(信越シリコーン株式会社製、成分100質量%)
以下に示す評価方法にて、調整例2,3の水性インクの物性を評価した。結果を表3に示す。
(固形分濃度)
インク中の顔料と樹脂(被覆樹脂又は水分散性樹脂)の合計含有量を算出した。
(粘度)
インクの粘度は、粘度計(RE−550L、東機産業株式会社製、コーンロータ1°34’×R24)を使用して、25℃の粘度を測定した。また、インクのpHをpHメータHM−30R(TOA−DKK社製)により測定しながら、1N塩酸をインクに滴下して、pHを7に調整したインク中和物を作成し、粘度計により25℃における粘度を測定した。更に、下記の方法により、インクを温度25℃、湿度15%環境下で実質的に質量変化がなくなるまで放置してインク残さを得た。このインク残さについて、前記の粘度計RE−550Lにより25℃における粘度を測定した。なお、表3中の「<」は、「以上」を意味する。
(残さ粘度)
水性インクを、33mm口径のガラス製シャーレに、小数点4桁まで測定可能な精密上皿電子天秤で2.5g秤量採取した。次いで、温度25±0.5℃、湿度15±5%のESPEC製恒温恒湿器(ModelPL−3KP)に常圧にて保管し、1時間毎に個々のサンプルを取り出して質量を測定し、1時間当たりの質量変化が全インク質量に対し1%以下になるまで保管を続けた。得られたインク残さをRE−550L形粘度計(東機産業株式会社製)コーンロータ3°×R14用いて25℃の粘度を測定した。
(平均粒子径)
粒度分布測定装置(日機装(株)製、ナノトラックUPA−EX150)を使用して、平均粒子径(D50%)を測定した。
(表面張力)
全自動表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学株式会社製)を使用して、25℃でインクの表面張力を測定した。
(pH)
pHメータ HM−30R(TOA−DKK社製)を使用して、25℃でインクのpHを測定した。
<<実施例1〜7,9,10、参考例8、比較例1〜3:バックカール評価>>
温度23±0.5℃、50±5%RHに調整された環境下、液体吐出装置1の一例としての図1のインクジェット記録装置(IPSiO GX−5000の改造品、株式会社リコー製)を用い、各調整例の水性インクの吐出量が均しくなるようにピエゾ素子の駆動電圧を変動させ、用紙の第1の面に同じ付着量の水性インクが付くように設定した。なお、比較例3については、図1のインクジェット記録装置の加熱部3及び冷却部4を、用紙の搬送経路上の搬送部6と排紙部8との間に設けたインクジェット記録装置(IPSiO GX−5000の改造品)を用い、上記と同様に設定した。
設定後、表4に示された加熱手段31で用紙の第1の面を加熱し、冷却手段41で用紙の第2の面を冷却し、下記の記録条件で用紙の第1の面にベタ画像を形成した。なお、比較例1,2では、加熱処理を行わなかった。また、表4において冷却手段の記載のない実施例、及び、比較例では冷却処理を行わなかった。
〔記録条件〕
記録密度:300×600dpi
記録面積:526.3cm2/A4
インク吐出付着量:5.6g/m2
また、インクジェット記録装置の水分計51aによる用紙の第1の面(加熱する場合は加熱面)の水分量の計測結果、及び水分計51bによる用紙の冷却面(第2の面)の計測結果、及び計測結果に基づき(1)式により算出される水分量表裏差を表4に示す。なお、水分計51には、フジワーク製IM−3SCV Model−1000を用いた。
印字直後(記録装置より排紙後5秒以内)のバックカール(平らな机に印字面を下側に置いた時のバックカール)高さと、平らな机に印字面を下側にして1日間放置した後のカール高さを下記測定条件により測定した。結果を表5に示す。
〔測定条件〕
平らな机にカール面を上側して静かに置き、A4サイズの用紙の4隅の高さをJIS_1級スケールで測定し、4点測定値を平均化した。なお、バックカールが大き過ぎて筒状になった場合は、筒の直径を測定した。
また、測定結果を下記評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:10mm未満
○:10mm以上20mm未満
△:20mm以上50mm未満
×:筒状
<<実施例の主な効果>>
以上説明したように実施例1〜7,9,10によれば、加熱手段31によって用紙の第1の面を加熱して乾燥し、用紙の第1の面、及び第2の面の水分表裏差を20%以上とした。また、吐出ヘッド73によって、用紙の第1の面に水性インクを吐出して付着させた。これにより、水性インクを付着させた後のバックカールの発生を抑制することができた。
更に、実施例2〜5,7,9,10によれば、加熱手段31によって用紙の第1の面を加熱し、冷却手段41によって用紙の第2の面を冷却し、用紙の第1の面の水分量、及び第2の面の水分量に所定量の差を設けた。また、吐出ヘッド73によって、乾燥させた用紙の第1の面に水性インクを吐出して付着させた。これにより、水性インクを付着させた後の、バックカールの発生を抑制することができた。
なお、実施例のインクジェット記録装置の吐出制御部117は、用紙に水性液体を吐出するときの印字率を算出してもよい(ステップS3参照)。これにより、印字率に基づき加熱制御部113が加熱手段31の出力を制御し、用紙の第1の面を乾燥することができる(ステップS4〜6参照)。この場合、印字率の低い文字などの画像を形成する場合には、加熱手段31の出力を低く設定できるので、画像形成に必要なエネルギーを少なくすることができる。
また、実施例のインクジェット記録装置の水分計51は、乾燥された用紙の第1の面の水分量と用紙の第2の面の水分量とを計測することができる(ステップS7参照)。これにより、算出部115によって算出された水分量の差分が閾値以上である場合には、吐出制御部117、吐出ヘッド73の圧力発生手段を駆動制御するための駆動波形を生成し、インクを吐出するための制御を行ってもよい(ステップS10)。この場合、水分量の差分が閾値以上の用紙に水性インクを吐出できるので、バックカールの発生を抑制することができる。
また、算出部115によって算出された水分量の差分が閾値に満たない場合、加熱制御部113は、加熱手段31の出力を制御しても良い(ステップS14)。即ち、液体吐出装置1は、水分計51で計測された水分量に基づき用紙の第1の面を乾燥しても良い。これにより、加熱手段41の初期設定の出力で画像を形成できなかった場合でも、加熱制御部113が出力を自動的に制御することができる。
実施例1〜5,9,10では、温風ヒータによって用紙の第1の面を加熱した。これにより、他の手段を用いた場合と比較して水分量の表裏差を大きくすることができるので、バックカールの発生を容易に抑制することができる。
実施例3,7では、水冷ローラによって用紙の第2の面を冷却した。これにより、他の手段を用いた場合と比較して水分量の表裏差を大きくすることができるので、バックカールの発生を容易に抑制することができる。