JP5936888B2 - 塗装金属板 - Google Patents

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本発明は、金属板の表面および裏面に塗膜が形成された塗装金属板に関する。
金属板の両面に塗膜(表面塗膜および裏面塗膜)が形成された塗装金属板は、外装建材に使用されることがある。この場合、表面塗膜は、施工後に建物の最外面に位置するため、意匠性が求められると共に、外部環境の影響を受けるため、耐候性や耐食性なども求められる。また、このような塗装金属板は、外装建材とするために成型加工される。よって、表面塗膜は、塗膜密着性および折り曲げ加工性も求められる。一方、裏面塗膜は、施工後に建物の内面となるため、意匠性が求められることはないが、建物の内部環境の影響を受けるため、耐食性などが要求される。また、裏面塗膜は、表面塗膜と同じ理由により、塗膜密着性および折り曲げ加工性も要求される。特許文献1には、塗膜密着性、折り曲げ加工性および耐食性を有する裏面塗膜が形成された塗装金属板が開示されている。
一般的に塗装金属板は、積層状態で施工場所まで搬送される。このとき、積層されて圧力が加えられた状態が続くと、ブロッキング(表面塗膜と裏面塗膜とが強く密着して剥がれにくくなる現象)が起こってしまうことがある。また、積層状態の塗装金属板では、プッシャーマーク(加圧された表面塗膜が変形して模様を形成)が発生してしまうこともある。これらの問題を解決する手段として、特許文献2には、裏面塗膜の表面張力および表面状態を規定することで、耐ブロッキング性および耐プレッシャーマーク性を付与した塗装金属板が開示されている。さらに、積層状態の塗装金属板では、裏面塗膜と表面塗膜とが接触することで、表面塗膜が摩耗してしまうことがある。この問題を解決する手段として、特許文献3には、裏面塗膜にワックスを配合することなどで耐摩耗性を付与した塗装金属板が開示されている。
特開昭61−228069号公報 特開2003−200528号公報 特開平10−230566号公報
ところで、屋根の外装建材としての塗装金属板は、防眩性の観点から、艶消しタイプの表面塗膜を有するものが多く使用されている。一般的に、艶消しタイプの表面塗膜は、表面塗膜中に無機粒子を含有させることで粗面化されている。また、屋根材としての塗装金属板は、施工中に、傾斜した屋根の上に積層されることが多い。よって、屋根材としての塗装金属板には、前述した性能に加えて、傾斜面上において積層しても滑り落ちないこと(耐滑性)が要求される。
塗装金属板に耐滑性を付与する方法として、裏面塗膜中のワックスを少なくしたり、裏面塗膜中に無機粒子を配合したりして、静摩擦係数を大きくする方法がある。しかし、裏面塗膜中のワックスを少なくすると、無機粒子を含有する表面塗膜によって裏面塗膜が擦り減ってしまう。また、裏面塗膜中に無機粒子を配合すると、裏面塗膜によって表面塗膜に傷がついてしまう。このように、艶消しタイプの表面塗膜が形成された塗装金属板であって、表面塗膜の意匠性を維持しつつ、裏面塗膜の耐滑性および耐摩耗性を両立させた塗装金属板は存在しなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、艶消しタイプの表面塗膜が形成された塗装金属板であって、傾斜面上に積層された場合であっても、表面塗膜と裏面塗膜との間で滑りにくく、かつ表面塗膜の意匠性が維持され、かつ裏面塗膜が擦り減りにくい塗装金属板を提供することを目的とする。
本発明者らは、艶消しタイプの表面塗膜が形成された塗装金属板において、裏面塗膜の引張弾性率を所定の範囲内に調整することで、上記課題を解決しうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の塗装金属板に関する。
[1]金属板と、前記金属板の表面に形成され、JIS B 0601に準拠して測定した表面粗度Rが8〜20μmの範囲内であり、かつJIS Z 8741に準拠して測定した60度鏡面光沢が4〜7の範囲内である表面塗膜と、前記金属板の裏面に形成され、下記の方法によって算出される引張弾性率が30〜55MPaの範囲内である裏面塗膜と、を有する、塗装金属板。
[引張弾性率の算出方法]
前記裏面塗膜からJIS K 7127に準拠して10mm幅の試験片タイプ2の試験片を切り出し、前記試験片に対してJIS K 7161に準拠して50mm/minで引っ張り試験を行い、引張弾性率を算出する。
[2]前記表面塗膜は、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂またはフッ素系アクリル樹脂を含む樹脂組成物の硬化物からなり、前記裏面塗膜は、数平均分子量が2000〜20000の範囲内であるポリエステル樹脂100質量部と、硬化剤5〜50質量部とを含む樹脂組成物の硬化物からなる、[1]に記載の塗装金属板。
本発明によれば、傾斜面上に積層された場合であっても、表面塗膜と裏面塗膜との間で滑りにくく、かつ表面塗膜の意匠性が維持され、かつ裏面塗膜が擦り減りにくい塗装金属板を提供することができる。
図1は、耐滑性および耐摩耗性の評価方法を示す図である。 図2は、耐滑性および耐摩耗性の評価結果を示す図である。 図3は、温度と滑り角度との関係を示すグラフである。
本発明の塗装金属板は、金属板(塗装原板)と、金属板の表面に形成された表面塗膜と、金属板の裏面に形成された裏面塗膜とを有する。以下、本発明の塗装金属板の各構成要素について説明する。
1.塗装原板
塗装原板となる金属板の種類は、特に限定されない。塗装原板の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Al−Zn合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などが含まれる。たとえば、塗装原板は、耐食性および加工性に優れる、溶融55%アルミニウム−亜鉛めっき鋼板である。金属板の両面は、必要に応じて、脱脂、酸洗、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
2.表面塗膜
表面塗膜は、金属板の表面の全面に形成されている。表面塗膜は、塗装金属板の意匠性や防眩性などを向上させる。金属板と表面塗膜との間には、塗膜密着性や耐食性などを向上させる下塗り塗膜が形成されていてもよい。下塗り塗膜の組成および膜厚は、特に限定されない。また、下塗り塗膜に防錆顔料を配合する場合、防錆顔料の種類も、特に限定されず、クロム系およびクロムフリー系のいずれでもよい。
本発明の塗装金属板は、意匠性および防眩性を付与する観点から、JIS B 0601に準拠して測定した表面塗膜の表面粗度Rが8〜20μmの範囲内であり、かつJIS Z 8741に準拠して測定した表面塗膜の60度鏡面光沢が4〜7の範囲内であることを一つの特徴とする。この表面塗膜は、いわゆる艶消しタイプの塗膜である。なお、エナメルタイプ(艶ありタイプ)の塗膜の場合、表面粗度Rは0.5〜7μm程度であり、かつ60度鏡面光沢は20〜85程度である。
表面塗膜の組成は、前述の表面粗度および60度鏡面光沢の条件を満たすものであれば、特に限定されない。たとえば、表面塗膜は、有機樹脂と、粒子状艶消し剤と、各種顔料とを含む表面塗料(樹脂組成物)の硬化物である。多くの場合、有機樹脂の種類や、粒子状艶消し剤の種類、粒子状艶消し剤の配合量などを調整することで、表面塗膜の表面粗度および60度鏡面光沢を制御することができる。
ベースとなる有機樹脂の種類は、特に限定されず、プレコート金属板用に使用されている公知の有機樹脂から適宜選択すればよい。ベースとなる有機樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。そのような有機樹脂の例には、ポリエステル樹脂や塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素系アクリル樹脂などが含まれる。また、熱硬化性樹脂の例としては、平均分子量が数千程度のレギュラーポリエステル樹脂(OH価:1〜250KOHmg/g)および硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物が含まれる。硬化剤は、焼付け時に有機樹脂間を架橋する。硬化剤の種類は、使用する有機樹脂の種類や、焼付け条件などによって既知のものを適宜選択することができる。硬化剤の例には、メラミン化合物やイソシアネート化合物が含まれる。硬化剤としてメラミン化合物を使用する場合、イミノ基型またはメチロールイミノ基型のメラミン化合物よりも、メチロール基型または完全アルキル基型のメラミン化合物を使用する方が好ましい。メチロール基型および完全アルキル基型のメラミン化合物は、イミノ基型メラミン化合物およびメチロールイミノ基型メラミン化合物と比較して、塗料の貯蔵安定性などの点で有利である。また、表面塗料の貯蔵安定性に影響しない範囲内であれば、硬化触媒を適宜配合してもよい。
粒子状艶消し剤は、表面塗膜の表面に凹凸を形成して、表面塗膜の外観を艶消しにする。粒子状艶消し剤の例には、シリカ粒子、ガラス粒子、樹脂粒子などが含まれる。粒子状艶消し剤の形状および配合量は、表面塗膜に意匠性および防眩性を付与することができれば特に限定されない。たとえば、粒子状艶消し剤として、平均粒径23μmのポリアクリロニトリル(PAN)粒子2〜5質量%と、平均粒径15μmのシリカ粒子3〜10質量%とを併用することで、表面塗膜の表面粗度Rを8〜20μmの範囲内とすることができる。
各種顔料には、防錆顔料、体質顔料および着色顔料が含まれる。防錆顔料の例には、クロム酸ストロンチウム、クロム酸カルシウム、クロム酸亜鉛、クロム酸亜鉛カリウム、クロム酸バリウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが含まれる。体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどが含まれる。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄などが含まれる。
3.裏面塗膜
裏面塗膜は、金属板の裏面の全面に形成されている。裏面塗膜は、塗装金属板の耐滑性を向上させる。
本発明の塗装金属板は、JIS K 7127およびJIS K 7161に準拠して測定される裏面塗膜の引張弾性率が、30〜55MPaの範囲内であることを特徴の一つとする。より正確には、裏面塗膜の引張弾性率は、塗装金属板から剥がした裏面塗膜を用いて、JIS K 7127に準拠して10mm幅の試験片タイプ2の試験片を作製し、作製した試験片に対してJIS K 7161に準拠して50mm/minで引っ張り試験を行い、引っ張り試験の試験結果に基づいて算出される。
本発明者らは、前述した塗装金属板の課題(耐滑性および裏面塗膜の耐摩耗性)に、裏面塗膜の引張弾性率が大きく関与していることを見出した(実施例参照)。具体的には、本発明者らは、裏面塗膜の引張弾性率と、塗装金属板の積層体(表面塗膜と裏面塗膜とが対向している)を傾けたときに塗装金属板が滑り出す角度(耐滑性)との間に関連性があることを見出した。また、本発明者らは、裏面塗膜の引張弾性率と、表面塗膜および裏面塗膜を擦り合わせたときの裏面塗膜の素地露出(耐摩耗性)との間にも関連性があることを見出した。そして、本発明者らは、裏面塗膜の引張弾性率を30〜55MPaの範囲内に調整することで、耐滑性および裏面塗膜の耐摩耗性を両立させた塗装金属板を得られることを見出した。
裏面塗膜の引張弾性率を30〜55MPaの範囲内に調整する方法は、特に限定されない。裏面塗膜の引張弾性率を調整する方法の例には、以下の(1)〜(5)などが含まれる。裏面塗膜の引張弾性率は、(1)〜(5)の1の方法により調製してもよいが、2以上の方法を組み合わせて調整してもよい。
(1)目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じて、樹脂の分子鎖の分岐鎖数を調整する。具体的には、目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じた分岐鎖数を有する樹脂を裏面塗料に配合する。たとえば、分岐鎖数の少ない分子鎖の樹脂を裏面塗料に配合すると、形成した裏面塗膜の引張弾性率を低下させることができる。一方、分岐鎖数の多い分子鎖の樹脂を裏面塗料に配合すると、形成した裏面塗膜の引張弾性率を上昇させることができる。
(2)目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じて、樹脂の分子鎖間を架橋する架橋点の数を調整する。具体的には、目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じた架橋点の数を有する樹脂を裏面塗料に配合する。たとえば、分子量の小さい樹脂は、一般的に架橋点の数が少ない。よって、分子量の小さい(架橋点の数が少ない)樹脂を裏面塗料に配合すると、形成した裏面塗膜の引張弾性率を低下させることができる。一方、分子量の大きい樹脂は、一般的に架橋点の数が多い。よって、分子量の大きい(架橋点の数が多い)樹脂を裏面塗料に配合すると、形成した裏面塗膜の引張弾性率を上昇させることができる。また、目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じて、裏面塗料に配合する硬化剤の種類および配合量を調整することでも、形成した裏面塗膜の引張弾性率を調整することができる。
(3)目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じて、樹脂の分子鎖間を架橋する架橋強度を調整する。具体的には、裏面塗料に配合する硬化剤の種類を変更する。たとえば、硬化剤により分子鎖を軟弱に架橋すると、形成した裏面塗膜の引張弾性率を低下させることができる。一方、硬化剤により分子鎖を強固に架橋すると、形成した裏面塗膜の引張弾性率を上昇させることができる。
(4)目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じて、裏面塗料に配合する樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整する。ガラス転移温度を調整する方法には、分子鎖あたりの極性基数の異なる樹脂を配合する方法や、剛直な官能基を導入する方法、樹脂の三次元網目構造の架橋密度を調整する方法、相互作用パラメーターを有する顔料を配合する方法が含まれる。
(5)目的とする裏面塗膜の引張弾性率に応じて、裏面塗膜に各種顔料を配合する。一般的に、裏面塗膜に顔料を配合することで、形成した裏面塗膜の引張弾性率を上昇させることができる。
裏面塗膜の組成は、引張弾性率を前述した範囲内に調整することができれば、特に限定されない。たとえば、裏面塗膜は、ポリエステル樹脂、硬化剤、滑剤および各種顔料を含む裏面塗料の硬化物である。
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、裏面塗膜の引張弾性率を調整する観点から、2000〜20000の範囲内であることが好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が2000未満または20000超の場合、裏面塗膜の引張弾性率を30〜55MPaの範囲内に調整することが困難となることがある。
硬化剤の種類は、特に限定されない。硬化剤の種類の例には、メラミン化合物やイソシアネート化合物などが含まれる。メラミン化合物の例には、メチル化メラミン化合物やn−ブチル化メラミン化合物、イソブチル化メラミン化合物、混合アルキル化メラミン樹脂などが含まれる。これらのメラミン化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
イソシアネート化合物の種類は、特に限定されないが、裏面塗料のポットライフの観点から、ブロック剤でイソシアネート基が封鎖されたブロックイソシアネート化合物が好ましい。イソシアネート化合物の例には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、これらのイソシアネートのビューレットタイプの付加物またはイソシアヌル環タイプの付加物などが含まれる。これらのイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ブロック剤の例には、フェノール類やオキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類などが含まれる。
硬化前のポリエステル樹脂に対する硬化剤の割合は、硬化前のポリエステル樹脂100質量部に対して、10〜40質量部の範囲内であることが好ましい。ポリエステル樹脂に対する硬化剤の割合が10質量部未満または40質量部超の場合、裏面塗膜の引張弾性率を30〜55MPaの範囲内に調整することが困難となることがある。
滑剤は、積層時における表面塗膜保護のために配合される。滑剤の種類は、特に限定されない。滑剤の種類の例には、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックス、フッ素ワックス、カルナウバワックス、ラノリンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが含まれる。硬化前のポリエステル樹脂に対する滑剤の割合は、硬化前のポリエステル樹脂100質量部に対して、0.1〜5.0質量部の範囲内であることが好ましい。ポリエステル樹脂に対する滑剤の割合が0.1質量部未満または5.0質量部超の場合、裏面塗膜の引張弾性率を所定の範囲内に調整することが困難となることがある。
裏面塗膜に配合する顔料の種類は、特に限定されない。たとえば、表面塗料と同じ防錆顔料、体質顔料および着色顔料を配合することができる。
本発明の塗装金属板は、裏面塗膜の引張弾性率が30〜55MPaの範囲内であるため、傾斜面上に積層された場合であっても、表面塗膜と裏面塗膜との間で滑りが生じにくく、かつ裏面塗膜が擦り減りにくい。また、本発明の塗装金属板は、裏面塗膜の引張弾性率を調整することで耐滑性を付与しているため、裏面塗膜に耐滑性を向上させるための無機粒子を配合する必要がない。したがって、本発明の塗装金属板は、積層された場合であっても、表面塗膜の意匠性を維持することができる。
本発明の塗装金属板の製造方法は、特に限定されない。本発明の塗装金属板は、例えば以下の方法により製造されうる。
本発明の塗装金属板の製造方法は、1)金属板を準備する第1工程と、2)金属板の表面に表面塗膜を形成する第2工程と、3)金属板の裏面に裏面塗膜を形成する第3工程と、を有する。ここでは、表面塗膜および裏面塗膜が、それぞれ1層構成の場合について説明する。
第1工程では、前述した金属板(塗装原板)を準備する。金属板の表面および裏面には、化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で金属板の表面および裏面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は2〜10秒の範囲内が好ましい。
第2工程では、金属板の表面に表面塗膜を形成する。表面塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、前述の表面塗料を、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ダイコート法などの方法で金属板の表面に塗布し、焼き付ければよい。焼き付け温度は、到達板温で150〜300℃の範囲内が好ましく、焼き付け時間は20〜120秒の範囲内が好ましい。
第3工程では、金属板の裏面に裏面塗膜を形成する。裏面塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、前述の裏面塗料を、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ダイコート法などの方法で金属板の表面に塗布し、焼き付ければよい。焼き付け温度は、到達板温で150〜300℃の範囲内が好ましく、焼き付け時間は20〜120秒の範囲内が好ましい。
なお、第2工程の前に第3工程を行ってもよい。すなわち、金属板の裏面に裏面塗膜を形成した後に、金属板の表面に表面塗膜を形成してもよい。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.塗装金属板の作製
(1)塗装原板
塗装原板として、片面あたりのめっき付着量が125g/mの溶融55%アルミニウム−亜鉛めっき鋼板(板厚0.3mm)を準備した。塗装原板の表面および裏面をアルカリ脱脂した後に、表面調整処理およびクロメート処理を施した。
(2)表面塗膜
(2−1)表面塗料の調製
ポリエステル系塗料(CA;日本ファインコーティングス株式会社)100質量部に、艶消し剤としてPAN粒子(タフチックA−20;東洋紡績株式会社)5質量部およびシリカ粒子(平均粒径15μm;イネオス・シリカス社)3質量部、顔料として酸化チタン(タイペークWHITE CR−90−2;石原産業株式会社)30質量部を配合し、表面塗料を得た。
(2−2)表面塗膜の形成
化成処理皮膜を形成した塗装原板の表面に、表面塗料をバーコーターで室温にて塗布した。次いで、在炉時間30秒間、到達材料温度215℃の条件で加熱して、艶消しタイプの表面塗膜(膜厚15μm)を形成した。このように形成された表面塗膜は、JIS B 0601に準拠して測定した表面粗度Rが14μmであり、かつJIS Z 8741に準拠して測定した60度鏡面光沢が5.0であった。
(3)裏面塗膜
(3−1)裏面塗料の調製
表1に示す各ポリエステル樹脂100質量部に、溶媒としてキシレン75質量部、顔料として酸化チタン(R−650;堺化学工業株式会社)20質量部、硫酸バリウム(BF−20;堺化学工業株式会社)18質量部およびカーボンブラック(MA−100;三菱化学株式会社)1質量部を加え予備混合を行った。その後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で1時間混合分散し、粒度5μm以下、不揮発分60質量%の顔料分散ペーストを得た。得られた各顔料分散ペースト100質量部に、硬化剤としてメチルメラミン樹脂(サイメル303、三井サイテック株式会社)、滑剤としてポリエチレンワックス(リオフラットW−7768;融点104℃;東洋インキ株式会社)および触媒(キャタリスト6000;三井サイテック株式会社)を表1に示す量でそれぞれ配合し、裏面塗料を得た。ポリエステル樹脂として、TP−290(日本合成化学工業株式会社)、TP−219(日本合成化学工業株式会社)およびバイロンGK130(東洋紡績社株式会社)を使用した。
Figure 0005936888
(3−2)裏面塗膜の形成
化成処理皮膜を形成した塗装原板の裏面に、裏面塗料をバーコーターで室温にて塗布した。次いで、在炉時間30秒間、到達材料温度215℃の条件で加熱して、それぞれ異なる引張弾性率の裏面塗膜(膜厚5μm)を形成した。
2.裏面塗膜の評価
(1)耐滑性の評価
図1Aは、耐滑性の評価方法を示す図である。図1Aに示されるように、耐滑性は、塗装金属板を2枚重ねて傾斜させて、上側の塗装金属板が滑り出す角度で評価した。具体的には、一方の塗装金属板の表面塗膜に、他方の塗装金属板の裏面塗膜の全面が接触するように、作製した塗装金属板を2枚重ねて水平面に置いた。下側の塗装金属板の一辺を中心軸として、対向する辺側をゆっくりと持ち上げて、下側の塗装金属板を傾けた。上側の塗装金属板が滑り始めた時の下側の塗装金属板と水平面とがなす角度(θ)を滑り角度とした。滑り角度(θ)が大きい塗装金属板は、滑りにくい(耐滑性に優れている)ことを示している。また、実施例1の塗装金属板について、−10℃、0℃、10℃および20℃の条件下で耐滑性の評価を行った。
(2)耐摩耗性の評価
図1Bは、耐摩耗性の評価方法を示す図である。図1Bに示されるように、耐摩耗性は、一方の塗装金属板の表面塗膜と他方の塗装金属板の裏面塗膜を擦り合わせて、塗装原板の素地の露出割合により評価した。具体的には、一方の塗装金属板の表面塗膜を外側にして、Rが5mmとなるように180度折り曲げて曲げ部を形成した。曲げ部を形成した一方の塗装金属板を、他方の塗装金属板の裏面塗膜に20kgの荷重を加えて押し付けて、図1BにおけるX方向に50往復させた。素地露出が0%のものを「5」、素地露出が0%を超え10%未満のものを「4」、素地露出が10%以上20%未満のものを「3」、素地露出が20%以上50%未満のものを「2」、素地露出が50%以上のものを「1」と評価した。評価点が高い塗装金属板は、耐摩耗性に優れていることを示している。
(3)引張弾性率の測定
作製した塗装金属板から剥がした裏面塗膜を用いて、JIS K 7127に準拠して、10mm幅の試験片タイプ2の試験片を作製した。次いで、JIS K 7161に準拠して、50mm/minで引っ張り試験を行い、引っ張り試験の試験結果に基づいて引張弾性率を算出した。
3.結果
図2Aは、裏面塗膜の引張弾性率と滑り角度の関係を示す図である。図2Bは、裏面塗膜の引張弾性率と耐摩耗性の評価点との関係を示す図である。各塗装金属板の裏面塗膜の引張弾性率、滑り角度および耐摩耗性の評価点を表2に示す。
Figure 0005936888
裏面塗膜の引張弾性率が30MPa未満の比較例1および2の塗装金属板は、耐滑性に優れていたが、耐摩耗性が劣っていた。裏面塗膜の引張弾性率が55MPa超の比較例3〜5の塗装金属板は、耐摩耗性が優れていたが、耐滑性が劣っていた。また、比較例1〜5に示されるように、従来実施されていた滑剤(ワックス)の配合のみでは、耐滑性および耐摩耗性を両立させることができなかった。一方、裏面塗膜の引張弾性率が30〜55MPaの範囲内の実施例1〜3の塗装金属板は、耐滑性および耐摩耗性の両方が優れていた。
図3は、実施例1の塗装金属板についての、温度と滑り角度との関係を示すグラフである。図3に示されるように、表面塗膜および裏面塗膜の温度(外部温度)が低くなると、塗装金属板が滑りやすくなる傾向があった。このため、本発明の塗装金属板を外装建材として使用する場合に、極めて低い温度環境下で施工すると、耐滑性を十分に発揮させることができないおそれがある。しかしながら、通常、建物の外装の施工は、雪の降らない季節に行われるため、本発明の塗装金属板が、0℃といった低温で使用されることはほとんどない。したがって、本発明の塗装金属板を外装建材として使用する場合に、温度による耐滑性の変化は、実用上特に問題とはならない。
本発明の塗装金属板は、表面塗膜の意匠性、ならびに裏面塗膜の耐滑性および耐摩耗性に優れている。したがって、本発明の塗装金属板は、例えば、傾斜面上に積層されることがある屋根材などの外装建材として好適である。

Claims (1)

  1. 金属板と、
    前記金属板の表面に形成され、JIS B 0601に準拠して測定した表面粗度Rが8〜20μmの範囲内であり、かつJIS Z 8741に準拠して測定した60度鏡面光沢が4〜7の範囲内であり、ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物の硬化物からなる表面塗膜と、
    前記金属板の裏面に形成され、下記の方法によって算出される引張弾性率が30〜55MPaの範囲内であり、数平均分子量が2000〜20000の範囲内であるポリエステル樹脂100質量部および硬化剤5〜50質量部を含む樹脂組成物の硬化物からなる裏面塗膜と、
    を有する塗装金属板。
    [引張弾性率の算出方法]
    前記裏面塗膜からJIS K 7127に準拠して10mm幅の試験片タイプ2の試験片を切り出し、前記試験片に対してJIS K 7161に準拠して50mm/minで引っ張り試験を行い、引張弾性率を算出する。
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