JP5932198B2 - インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置 - Google Patents

インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置 Download PDF

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本発明は、インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置に関する。
近年、顔料インクと染料インクとを共に搭載し、写真等の画像を鮮明に記録することと、又、一般的な文書、Webページ、メール等を普通紙等の記録媒体に主としてモノクロモードで鮮明に記録することとを両立できるインクジェット記録装置が普及している。顔料インク及び染料インクを有するインクセットを用いて普通紙等の記録媒体に記録を行う際に高い画質品位を得るためには、高い画像濃度を与えることに加えて、にじみが少ないインクとすることが要求されている。にじみが少ないインクとすることで、顔料インクで形成した画像と染料インクで形成した画像とが隣接した境界部におけるにじみが抑制される、即ち、耐ブリーディング性に優れた画像を得ることができる。
一般に、顔料インクで形成する画像における画像濃度を向上するためには、以下のようなことが行われている。例えば、記録媒体上により多くの色材を残すために、記録媒体へのインクの浸透性を抑えることや、記録媒体の表面を色材で被覆することのできる面積(所謂、エリアファクター)を大きくするために、インクの付与量を多くすること等が行われている。
しかし、これらの方法では、記録媒体へのインクの浸透性が抑えられていることや、インクの付与量が多いことにより、インクの乾燥に時間がかかる場合がある。このため、高速で連続して記録を行うような場合、連続記録時の裏移りのような問題が起きる場合や、耐ブリーディング性が顕著に低下する場合がある。即ち、1枚目の記録物を形成した後2枚目の記録物がインクジェット記録装置から排出されるまでの間に、1枚目の記録物のインクが十分に乾燥(定着)していないため、1枚目の記録物のインクが2枚目の記録媒体の裏面に付着する場合がある。又、顔料インクで形成した画像と染料インクで形成した画像とが隣接した画像を形成する場合に、顔料インクの染料インクへにじむ現象が顕著に起こり、耐ブリーディング性が低下する場合がある。
又、耐ブリーディング性を向上するためには、例えば、記録媒体へのインクの浸透性を高め、インクのにじみを抑えることが行われている。しかし、この方法では記録媒体上に残る色材が少なくなるため、十分な画像濃度が得られない場合がある。
このように、画像濃度の向上と、耐ブリーディング性の向上とは、互いにトレードオフの関係にあることが多く、これらの課題を共に解決するために、下記に挙げるように、従来から様々な技術に関する検討が行われてきた。例えば、顔料インクの組成を工夫することで、色材の会合性や凝集性を高める技術に関する提案がある(特許文献1乃至4参照)。又、顔料インクと、特定の化合物を含有する反応液とを反応させることで、顔料の凝集を促進する技術に関する提案がある(特許文献5参照)。又、顔料インクの物性を規定することで、顔料インクの浸透やにじみをコントロールする技術に関する提案がある(特許文献6乃至9参照)。又、染料インクの物性を規定することで、染料インクの浸透やにじみをコントロールする技術に関する提案がある(特許文献10乃至12参照)。更に、複数のインクにおける物性の関係を規定することによって、これらのインクの浸透やにじみ等をコントロールする技術に関する提案がある(特許文献13参照)。以下、上記で挙げた従来の技術について説明する。
顔料インクの組成を工夫することで、色材の会合性や凝集性を高める技術として、以下のような提案がある。例えば、自己分散型カーボンブラックと特定の塩とを含有するインクを用いることにより、画像濃度及び耐ブリーディング性の向上を達成することが提案されている(特許文献1参照)。この技術では、インク中に分散状態で存在している顔料を記録媒体の表面で強制的に凝集させることによって、記録媒体中への顔料の浸透を抑制し、従来の顔料インクにより得られる画像に対して、より高い画像濃度及び耐ブリーディング性を得ている。しかし、これらの技術では、記録媒体の表面で顔料粒子を凝集させているために、インク滴の体積に比較して、記録媒体の表面を顔料で被覆することのできる面積(所謂、エリアファクター)が十分でない場合がある。
このような課題に対しては、次のような提案がある。例えば、複数の水溶性有機溶剤及び水不溶性色材を含有するインクが以下のような構成を有することで、小さい体積のインク滴でも、記録媒体の表面近傍に色材を効果的に凝集させて、十分な画像濃度を得ることに関する提案がある(特許文献2参照)。具体的には、前記複数の水溶性有機化合物が自己分散型顔料に対する良溶媒及び貧溶媒であり、ブリストウ法により求められる、前記複数の水溶性有機化合物の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機化合物が貧溶媒である、という構成のインクである。
又、水や水溶性有機溶剤等を含有する顔料インクを蒸発させたときの、顔料の粒径の変化や分散安定性について、以下のような提案がある。例えば、顔料インクの30質量%を蒸発させたインクにおける、顔料の平均粒径の増加率を25%以下とすることに関する提案がある(特許文献3参照)。更に、顔料インクの50質量%を蒸発させた際にも分散安定性が得られるインクに関する提案がある(特許文献4参照)。
顔料インクと、特定の化合物を含有する反応液とを反応させることにより、顔料の凝集を促進する技術として、以下のような提案がある。例えば、顔料、ポリマー微粒子、水溶性有機化合物、及び水を含有するインクと多価金属塩を含有する水溶液とを記録媒体に付与して、記録媒体上でこれらを互いに反応させることにより、高品位な画像を形成することに関する提案がある(特許文献5参照)。
顔料インクの物性を規定することで、顔料インクの浸透やにじみをコントロールする技術として、インクの動的表面張力に着目した提案がある。例えば、〔寿命0m秒の動的表面張力(dyne/cm)+粘度(cp)〕=42乃至49とすることで、乾燥性に優れたインクとすることに関する提案がある(特許文献6参照)。又、動的表面張力の時間変化率の最大値を0.2mN/m/s以上0.4mN/m/s以下とするインクに関する提案がある(特許文献7参照)。更に、寿命時間10m秒における動的表面張力が25乃至50mN/mであり、且つ、動的表面張力の最大値と最小値の差が5mN/m以下であるインクに関する提案がある(特許文献8参照)。又更に、乾燥粘度が100mPa・s以下であり、寿命時間10m秒における動的表面張力が45mN/m以上であり、寿命時間1000m秒における動的表面張力が35mN/m以下であるインクに関する提案がある(例えば、特許文献9参照)。
染料インクの物性を規定することで、染料インクの浸透やにじみをコントロールする技術として、インクの静的表面張力(所謂「表面張力」)や、インクの動的表面張力に着目した提案がある。前者には、例えば、20℃におけるインクの表面張力を45mN/m以上にすることで、インクが形成する1つのドットあたりの面積を小さくして、記録媒体上におけるインクのにじみを抑制することに関する提案がある(特許文献10参照)。又、インクの表面張力を40mN/m以上にすることにより、にじみを抑制することに関する提案がある(特許文献11参照)。又、後者には、例えば、気泡周期T(秒/気泡)≦0.2における表面張力を40mN/m以上とすることでにじみを抑制し、T>1における表面張力を50mN/m未満とすることで吐出信頼性を向上することに関する提案がある(特許文献12参照)。又、上記で挙げた特許文献9には、寿命時間10m秒における動的表面張力を45mN/m以上にすることでにじみを抑制し、寿命時間1000msにおける動的表面張力を35mN/m以下にすることで速乾性を向上することが記載されている。
複数のインクにおける物性の関係を規定することによって、これらのインクの浸透やにじみ等をコントロールする技術として、以下のような提案がある。例えば、インクセットを構成する複数のインクにおける動的表面張力の関係に着目した提案がなされている(特許文献13参照)。即ち、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの各インクからなるインクセットにおいて、最大泡圧法による、温度25℃、ライフタイム30m秒乃至1000m秒の範囲内での同一ライフタイムにおける各インクの動的表面張力を以下のように規定している。(1)イエローインクがブラックインク以上である。(2)イエローインクとブラックインクとの差が5mN/m以下である。(3)イエローインクとマゼンタインクとの差及びイエローインクとシアンインクとの差が共に3mN/m以上である。(4)マゼンタインク及びシアンインクがブラックインクより低い。これらの規定により、耐ブリーディング性を向上することが記載されている。
特開2000−198955公報 特開2005−206615公報 特開2002−167534号公報 特開2004−143290号公報 特開2000−63719公報 特許第2516218号公報 特開2003−238851号公報 特開2005−200566号公報 特開2003−231838号公報 特開昭63−213581号公報 特開2004−83621号公報 特開平9−296139号公報 特開2006−63322号公報
本発明者らが、従来のインクの利点や課題を追求し、該インクを用いて得られる画像の特徴について解析した。その結果、記録ヘッドから吐出されたインクが記録媒体に付着した後にインクが記録媒体に浸透する速度、及びインクの状態変化(凝集)の様子が、記録媒体の種類により異なることを見出した。尚、インクが記録媒体に浸透する速度とは、記録媒体の内部で拡散する間の速度ではなく、インクが記録媒体に付与された後、記録媒体の表面にインクが存在しなくなるまでの速度のことである。
つまり、高い画像濃度を得るための従来の技術では、色材の状態をコントロールすることを主たる目的としている。このため、記録媒体への浸透と共に色材が凝集するインクを浸透速度の大きい記録媒体に付与すると、インクが記録媒体に浸透する間に色材の凝集が十分に起きないため、十分な画像濃度が得られない場合があった。又、顔料インクで形成する画像の領域と、染料インクで形成する画像の領域とが隣接する画像を形成する場合には、顔料インクが記録媒体に浸透する間に顔料の凝集が十分に起きず、染料インクと接触しやすくなるため、ブリーディングが発生する場合があった。
これらの課題に対して、特許文献2のように、水不溶性色材と複数の水溶性有機溶剤を特定の関係とすること、具体的には、ブリストウ法によって求められるKa値が最大の水溶性有機溶剤を水不溶性色材に対する貧溶媒とすることが行われている。これにより、小さい体積のインク滴でも、記録媒体の表面近傍に色材を効果的に拡散及び凝集させて、十分な画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることができるとされている。しかし、この技術では、インクを記録媒体に付与した後に、記録媒体の表面近傍で色材を拡散させながら凝集させている。このため、色材が拡散を開始する時点で凝集が起きていない色材は記録媒体の厚さの方向に浸透する。その結果、インクの浸透速度が大きい記録媒体においては、高い画像濃度が得られず、又、ブリーディングを抑制できない場合があった。このことは、記録媒体において、その表面の状態やインクに対する濡れ性が異なる場合には、インクの記録媒体に対する浸透速度及び拡散速度が大きく異なることを意味する。そして、インクの浸透速度が大きい記録媒体に画像を形成する際には、インクの浸透及び拡散に色材の凝集が追いつかなくなり、インク中の色材が記録媒体の厚さの方向へ浸透する。この結果、記録媒体の種類によっては、十分な画像濃度及び耐ブリーディング性が得られないという課題が生じる。
特許文献3及び4はいずれも、顔料インクにおける顔料分散が安定領域又は分散不安定となり凝集が始まるまでの挙動についてのみを考慮しているのにとどまり、画像濃度及び耐ブリーディング性を十分に向上するのには不十分である。又、特許文献5では、顔料インクと多価金属塩を含有する反応液とを記録媒体上で反応させているが、インクを構成する成分や記録システムはより単純化することが要求されている。つまり、インクの外的要因への依存性を小さくすることにより、複合作用によって生じる信頼性等の低下という弊害を抑制し、色材や水溶性有機化合物等を適切に設計したインクとすること要求される。
特許文献6乃至9のように、動的表面張力に着目したインクに関する提案がいくつかなされている。しかし、これらの何れの技術も、インクが記録媒体に付与されてから浸透するまでの過程において、色材がどのような状態変化を起こしているかについては考慮されていない。つまり、特許文献6乃至9に記載の発明においては、記録媒体において起きている現象を考慮していないため、これらの文献におけるインク物性の規定だけでは、本発明者らが求める高い画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることはできない。例えば、特許文献6に記載のインクは、寿命時間0m秒時の動的表面張力と粘度の値を足した値が規定されている。又、特許文献7乃至9に記載のインクは、寿命時間10m秒における動的表面張力、及び、動的表面張力が変化する値が規定されている。そこで、本発明者らは、特許文献6乃至9の条件を満たすインクを調製し、該インクによる画像濃度及び耐ブリーディング性を検討したが、本発明者らが求めるレベルの画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることはできなかった。これは、寿命時間0m秒や10m秒ではインクの蒸発がほとんど起こらず、記録媒体上で画像濃度や耐ブリーディング性を高めることができる程度のインクの状態変化が起きていないためである。つまり、特許文献6乃至9の技術は、記録媒体上におけるインクの状態変化を考慮していないため、寿命時間0m秒や10m秒におけるの動的表面張力は、画像濃度及び耐ブリーディング性を高めるということに関しては何の意味もなさない値であると言える。又、特許文献6における寿命時間0m秒の動的表面張力(dyne/cm)+粘度(cp)〕=42乃至49という値は、特に、目が粗く空隙が多い記録媒体においてインクの浸透を抑制するには低いものである。同様に、特許文献9における寿命時間10m秒での動的表面張力が45mN/mという値も、特に、目が粗く空隙が多い記録媒体においてインクの浸透を抑制するには低いものである。この点からしても、特許文献6及び9に記載の技術では、画像濃度及び耐ブリーディング性を高めることはできないと言える。
顔料インクで形成する画像と染料インクで形成する画像とが隣接する画像を記録する場合、染料インクのにじみが大きいために、顔料インクと接触しやすくなり、ブリーディングが発生することが考えられる。このため、耐ブリーディング性においては、顔料インクの凝集特性、にじみや浸透のコントロールに加えて、染料インクからのアプローチも重要となる。
しかし、染料インクにおいても特許文献10や特許文献11に記載された発明のように、単にインクの表面張力を高くするだけでは、にじみを抑制することができない場合がある。これは、インクが高い表面張力を長時間保ちつづけていると、記録媒体へのインクの浸透が進まず、その結果、記録媒体の表面上でインクが広がってしまうためである。又、染料インクの表面張力を高くすると、記録媒体の表面を均一に濡らすことができないため、画像における色の均一性が低下する場合がある。又、インクの静的表面張力を大きくすると、インクの記録媒体への浸透性が小さくなるため、インクが記録媒体に浸透し終わるまでの時間が長くかかるようになり、インク移り等が生じる場合がある。
又、特許文献9及び12に記載された発明においては、寿命時間10m秒における動的表面張力及び動的表面張力の変化に着目して、にじみや浸透をコントロールする試みがなされている。しかし、本発明者らの検討の結果、特許文献9及び12に記載された動的表面張力の規定では、本発明者らが求めるレベルの耐ブリーディング性を得ることはできなかった。これは、寿命時間10m秒ではインクの蒸発や記録媒体の表面領域への浸透がほとんど起こっておらず、寿命時間10m秒における動的表面張力の値を規定しても、ドット面積をコントロールすることができていないためと考えられる。つまり、特許文献9及び12の技術では記録媒体上におけるインクの状態変化が考慮されておらず、インクの寿命時間10m秒における動的表面張力は、にじみを抑制し、耐ブリーディング性を高めるということに関しては何の意味もなさない値であると言える。
更に、特許文献13に記載された発明においては、ブラックインク及びカラーインクにおける30m秒乃至1000m秒の範囲内での動的表面張力の関係を規定している。具体的には、寿命時間30m秒乃至1000m秒の範囲内での同一寿命時間におけるイエローインク及びブラックインクの動的表面張力が、イエローインクがブラックインク以上であることを規定している。これにより、これらのインクが記録媒体上で接触した際に、ブラックインクの浸透にイエローインクの浸透が引っ張られ、ブラックインクで形成した画像に明度差の大きいイエローインクを混色させることで、ブリーディングが抑制されることが記載されている。そこで、本発明者らは、特許文献13に記載の条件を満たすインクを調製して、得られたインクを記録媒体に付与して形成した画像における画像濃度及び耐ブリーディング性を検討した。その結果、本発明者らが求めるレベルの画像濃度及び耐ブリーディング性は得られないことがわかった。本発明者らはこの理由を以下のように考えている。普通紙には比較的大きな空隙が多く存在するため、インクが付与されて普通紙の表面が濡れることで、前記空隙にインクが取り込まれ、インクの動きがある程度制約される。このため、耐ブリーディング性に対して複数のインクにおける物性の関係が及ぼす影響は限定的である。複数のインクで構成されるインクセットにおいて、各インクと普通紙との濡れ性、及び前記各インクにおけるにじみの程度を適切に決定することが、ブリーディングを抑制するために非常に重要な要素である。つまり、特許文献13のように、インクセットを構成する複数のインクにおける動的表面張力の関係を規定しただけでは、ブリーディングを抑制することはできないのである。
従って、本発明の目的は、記録媒体の種類によらずに、画像濃度が高く、耐ブリーディング性に優れた画像を得ることができるインクセットを提供することにある。又、本発明の別の目的は、かかるインクセットを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかるインクセットは、複数のインクを有するとともに、普通紙に記録を行うために用いられるインクセットであって、前記インクセットが少なくとも、顔料インク及び染料インクを有し、前記顔料インクが、少なくとも、水、界面活性剤、自己分散型顔料、及び、塩を含有し、前記界面活性剤が、グリフィン法により求められるHLB値が8.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、且つ、前記界面活性剤の含有量(質量%)が、顔料インク全質量を基準として、0.10質量%以上0.75質量%以下であり、前記塩が、Li、Na、K、アンモニウムイオン、及び、有機アンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の陽イオンと、Cl、Br、I、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、NO 、NO 、SO 2−、CO 2−、HCOO、CHCOO、C(COO、CCOO、及び、C(COOからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオンと、が結合して構成されるものであり、前記顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が47mN/mより高く53mN/m以下であり、且つ、寿命時間5000m秒における動的表面張力が28mN/m以上40mN/m以下であり、前記染料インクが、少なくとも、水、界面活性剤、及び染料を含有し、前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、前記染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が42mN/m以上49mN/m未満であり、且つ、寿命時間50m秒における動的表面張力と寿命時間500m秒における動的表面張力との差が7mN/m以上であることを特徴とする。
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出するインクジェット記録方法において、前記インクが、上記のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とする。
又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、上記のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とする。
又、本発明の別の実施態様にかかる記録ユニットは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、上記のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とする。
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録装置は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インク収容部に収容されたインクが、上記のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とする。
本発明によれば、記録媒体の種類によらずに、画像濃度が高く、耐ブリーディング性に優れた画像を得ることができるインクセットを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、かかるインクセットを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置を提供することができる。
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の記載において、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。又、浸透速度とは、インクを記録媒体に付与した後、インクが記録媒体の表面から深さ方向へ浸透を開始してから、記録媒体の表面にインクが存在しなくなるまでの時間を意味している。これは、記録媒体内部でのインクの拡散が完了するまでの時間でなく、あくまでも記録媒体の表面にインクが存在する時間についての現象を示している。かかる現象の確認方法は、インク(1つのドット)が記録ヘッドより吐出されてから記録媒体に付着して、記録媒体の表面にインクの液滴が存在しなくなるまでの様子を、記録媒体の横方向から高速度カメラ等を用いて観察すること等により行うことができる。
先ず、本発明において動的表面張力の測定に用いている最大泡圧法について説明する。最大泡圧法とは、測定する液体中に浸したプローブ(細管)の先端部分で形成された気泡を放出するために必要な最大圧力を測定して、この最大圧力から動的表面張力を求める方法である。又、寿命時間とは、最大泡圧法において、プローブの先端部分で気泡を形成する際に、気泡が先端部分から離れた後に新しい気泡の表面が形成された時点から、最大泡圧時(気泡の曲率半径とプローブ先端部分の半径が等しくなる時点)までの時間である。又、本発明における動的表面張力は、25℃において測定した値である。
本発明において、画像濃度を向上するために重要な要素は、顔料インクが記録媒体に付与された後の顔料の凝集性を高め、にじみを抑制することにより、記録媒体の表面上に顔料を効率的に存在させることである。このためには、顔料インク中の水分等の蒸発により起こる自己分散型顔料の凝集、及び顔料インクの動的表面張力の変化により起こる記録媒体へのインクの浸透速度をコントロールすることが重要である。
又、ブリーディングは、顔料インクで形成する画像及び染料インクで形成する画像の境界部におけるインクのにじみ出しが原因であるため、顔料インク及び染料インクの両方からのアプローチが重要である。そのためには、顔料インクが記録媒体に付与された後の顔料の凝集性を高め、にじみを抑制すること、更には、染料インクが記録媒体に付与された後のにじみを抑制することが必要となる。つまり、本発明において、耐ブリーディング性を向上するために重要な要素は、顔料インク及び染料インクに関する以下の2点に大別される。即ち、顔料インク中の水分等の蒸発により起こる自己分散型顔料の凝集、及び顔料インクの動的表面張力の変化により起こる記録媒体へのインクの浸透速度をコントロールすること、及び、染料インクの記録媒体への浸透をコントロールすることである。
[顔料インクの動的表面張力の特性]
本発明で用いる顔料インクにおける主たる技術思想は、顔料インクを記録媒体に付与してから、インクの蒸発等によりインク中の貧溶媒及び/又は塩がインクの状態変化を起こすまでの時間に、顔料インクの動的表面張力を一定値以上に保つことにある。
顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力の値が、画像濃度及び耐ブリーディング性にどのような影響を与えているかを以下に述べる。
図1は、顔料インクの動的表面張力が変化する状態の一例を示す図である。図1において、(1)は時間変化を通して47mN/mより高い動的表面張力を維持する顔料インクである。(2)及び(3)は寿命時間50m秒における動的表面張力が47mN/mより高く、時間変化と共に動的表面張力が低下する顔料インクである。ここで、(3)の顔料インクの動的表面張力は時間変化と共に更に大きく変化し、寿命時間5000m秒における動的表面張力が40mN/m以下となる。(4)は、極短い寿命時間における動的表面張力は47mN/mより高いが、時間変化と共に動的表面張力が大きく変化し、寿命時間50m秒における動的表面張力は47mN/m以下となり、その後も時間変化と共に動的表面張力が低下する顔料インクである。(5)は極短い寿命時間からすでに動的表面張力が低く、その後も時間変化と共に動的表面張力が低下する顔料インクである。(6)は、自己分散型顔料に対する貧溶媒及び塩を含有しない顔料インクである。
上記で挙げたような動的表面張力の変化の特性を持つ顔料インクは、寿命時間50m秒の時点での記録媒体におけるインクの状態がそれぞれ異なる。図1の(1)、(2)及び(3)の顔料インクは、寿命時間50m秒における動的表面張力が47mN/mより高くなっている。ここで、寿命時間50m秒における動的表面張力を47mN/mより高くすることで、目が粗く空隙が多い記録媒体、即ち、浸透速度が大きい記録媒体であっても、インクの記録媒体への浸透開始を抑制することができる。又、このとき、顔料インクが自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を含有することにより、顔料インク中の水分の蒸発に伴う自己分散型顔料の凝集等のインクの状態変化が起こることで、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れた画像が得られる。本発明者らの検討によると、これは以下のようなメカニズムによるものと考えられる。つまり、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上することができる程度のインクの状態変化(インク粘度の上昇)が起きる時間、即ち、顔料インクが記録媒体に付与されてから50m秒経った時点で、顔料インクの動的表面張力を47mN/mより高く保つ。このことにより、インクの状態変化(インクの粘度の上昇)が起き、記録媒体上において顔料インク中の水分が蒸発することによりインクの組成が変化する。その結果、顔料インク中における自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩の濃度が変化することにより、自己分散型顔料の凝集等が起こる。これにより、記録媒体の表面に自己分散型顔料を効果的に存在させることができ、更にインクが形成する1つのドットの広がりを抑えることができる。前記メカニズムにより、(1)、(2)及び(3)のような特性を有する顔料インクは、目が粗く空隙が多い記録媒体、即ち、浸透速度が大きい記録媒体であっても、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れた画像を得ることができる。
一方、(4)及び(5)の顔料インクは、インクが記録媒体に付与されてから50m秒が経過する以前に、動的表面張力が47mN/m以下となっている。ここで、このような顔料インクを、浸透速度が小さい記録媒体へ付与する場合、インクが記録媒体にゆっくり浸透するため、浸透しながら自己分散型顔料の凝集が起こる。この結果、記録媒体の表面近傍に自己分散型顔料を存在させ、更にインクが形成する1つのドットの広がりを抑えることができる。しかし、前記のような顔料インクを、目が粗く、空隙が多い、即ち、浸透速度が大きい記録媒体に付与する場合、インクの状態変化(インクの粘度の上昇、色材の会合、凝集)が起きる前にインクの記録媒体への浸透が開始する。その結果、記録媒体の表面に自己分散型顔料を効果的に存在させることができない。つまり、(4)及び(5)のような特性を有する顔料インクは、目が粗く空隙が多い記録媒体、即ち、浸透速度が大きい記録媒体を用いる場合、浸透速度が凝集速度よりも大きいため、自己分散型顔料が記録媒体へと浸透することになる。この結果、画像濃度及び耐ブリーディング性が十分に得られない場合がある。
尚、(6)の顔料インクは、自己分散型顔料に対する貧溶媒及び塩を含有しない。このような顔料インクを、目が粗く、空隙が多い、即ち、浸透速度が大きい記録媒体に付与する場合、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上するためには、寿命時間50m秒における動的表面張力が49mN/m以上である顔料インクとすることが必要である。
上記で述べたように、顔料インクが自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を含有しない場合に、記録媒体の種類によらずに、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上するためには、顔料インクの動的表面張力を以下のようにする必要がある。即ち、目が粗く空隙が多い記録媒体、即ち、浸透速度が大きい記録媒体であっても、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上するためには、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を49mN/m以上とすることが必要である。一方、顔料インクが自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を含有する場合、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を47mN/mより高くすれば良い。このような顔料インクの構成とすることで、目が粗く空隙が多い記録媒体、即ち、浸透速度が大きい記録媒体であっても、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上することができる。これは、顔料インクが自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を含有することで、貧溶媒及び/又は塩を含有しない顔料インクと比較して、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を低くしても、これらの性能を得ることができるためである。
又、特に優れた耐ブリーディング性を得るためには、時間変化と共に顔料インクの動的表面張力が低下することが好ましい。更には寿命時間5000m秒における動的表面張力が40mN/m以下であることが好ましい。これは、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が47mN/mより高く、その後も顔料インクの動的表面張力が高い状態を保つと、白もやを伴うブリーディングが生じる場合があるためである。そこで、顔料インクの寿命時間5000m秒における動的表面張力を40mN/m以下にすることで、顔料インクの寿命時間50m秒及び寿命時間5000m秒における動的表面張力の変化の幅が大きくなる。この結果、自己分散型顔料が凝集した後に速やかにインクが記録媒体に浸透するため、耐ブリーディング性を特に向上することができる。
この白もやは、記録媒体の表面上に顔料インクが長い時間存在することにより、記録媒体上で自己分散型顔料が不均一に定着する結果、顔料インクで形成した画像と染料インクで形成した画像とが隣接する境界部が白くぼやける状態のことである。そして、白もやを伴うブリーディングは、ひとつの単位領域の画像を1回の記録ヘッドの主走査で記録する1パス記録等のように高速に記録を行う際に、染料インクを高い記録デューティで付与する領域において、特に顕著に生じる課題である。
又、顔料インクの定着性を向上する、つまり、定着速度を高めるためにも、顔料インクの寿命時間5000m秒における動的表面張力が40mN/m以下であることが好ましい。これは、寿命時間5000m秒における動的表面張力が40mN/m以下であれば、目が細かく、空隙が少ない記録媒体であっても、記録媒体の表面に存在する余剰の液体成分の記録媒体への浸透速度を高くすることができ、定着速度を高められるためである。
従って、図1における、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上することができる(1)、(2)及び(3)の顔料インクについて、特に優れた耐ブリーディング性及び定着性を得るためには、動的表面張力が低下する(2)及び(3)の顔料インクが好ましい。更には、寿命時間5000m秒における動的表面張力が40mN/m以下である(3)の顔料インクが好ましい。
更に、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上することができ、且つ、白すじが発生しない高品質な画像を得るためには、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を53mN/m以下とすることが好ましい。顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が53mN/mを上回る場合、インクが記録媒体に付着した直後からインクの記録媒体への浸透が開始するまでの短い時間に、インクが記録媒体上で充分に広がることができない場合がある。このため、記録媒体をインクで有効に覆うことができないため、画像濃度及び耐ブリーディング性を向上することができず、且つ、白すじが発生する場合がある。
この白すじ(つなぎすじ)は、1パス記録等のように高速に記録を行う場合におけるN走査目とN+1走査目の記録部分のつなぎ目において発生する白いすじのことであり、従来からある吐出不良等による着弾位置のずれに起因して生じる白すじとは異なる。顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を53mN/m以下とすることで、白すじを抑制できる理由は明確には定かではないが、本発明者らは以下のふたつの要因が白すじの発生の原因となると推測している。
先ず、寿命時間50m秒における動的表面張力が53mN/mより高い顔料インクは、記録媒体に隣接して付与された複数のインク滴は互いに寄り集まる。このため、初めの記録パスで記録した部分の端部に存在するインクが、中央部のインクがリッチな領域に引き寄せられる。同様にして、次の記録パスで記録した部分の端部に存在するインクも中央部に引き寄せられるその結果、初めの記録パスで記録した部分の端部と、次の記録パスで記録した部分の端部との間に白すじが生じるものと考えられる。このため、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を53mN/m以下とすることが好ましい。
又、顔料インクが記録媒体に付与されてから浸透するまでには50m秒以上の時間がかかると考えられる。この間に、自己分散型顔料の凝集やインクの粘度の上昇が過度に進行することで、記録媒体上における自己分散型顔料の拡散が過度に抑制され、十分なエリアファクターが得られなくなる。この結果、複数の記録パスで記録する部分のつなぎ目において、記録が行われていない部分が局部的に生じ、白すじが生じるものと考えられる。
尚、寿命時間5000m秒における動的表面張力が低すぎると、記録媒体の内部(記録媒体の厚さの方向)へインクが容易に浸透するため、記録媒体の裏面までインクが抜ける、即ち、裏抜けが発生する場合がある。このため、寿命時間5000m秒における動的表面張力は、28mN/m以上、更には32mN/m以上とすることが好ましい。
[染料インクの動的表面張力の特性]
本発明においては、上記で説明した動的表面張力の特性を有する顔料インクと、以下に述べる染料インクとを組み合わせてインクセットとして用いることによって、耐ブリーディング性をより向上することができる。
本発明で用いる染料インクにおける主たる技術思想は、記録媒体上における染料インクのにじみを抑制する、即ち、染料インクが形成する1つのドットあたりの面積を小さくするために、寿命時間50m秒の動的表面張力を一定値以上にすることにある。これにより、染料インクを記録媒体に付与した直後の記録媒体上における染料インクの広がりを抑制することができ、にじみを抑制することができる。
本発明者らは、記録媒体上において染料インクが広がる状態ついて、以下のような検討を行った。先ず、寿命時間により動的表面張力が変化する特性が異なる種々の染料インクを調製し、これらの染料インクをそれぞれ用いて、種々の普通紙等の記録媒体に1ドットの罫線を記録した。そして、前記罫線の線幅と、染料インクの寿命時間10m秒から寿命時間5000m秒までの動的表面張力及び静的表面張力との関係を調べた。その結果、検討を行った全ての種類の記録媒体において、前記罫線の線幅と染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力との相関が最も大きいことがわかった。又、寿命時間50m秒を中心にして、寿命時間がその前後に離れるほど、この相関関係は連続的に小さくなっていくことがわかった。このことから、本発明者らは、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を検討することで、前記罫線の線幅、即ち、記録媒体上において染料インクが広がる状態を規定できるという知見を得た。尚、上記の検討において、罫線の線幅は、記録を行った後、記録物を一晩放置してから測定したものである。
このことから、本発明者らは、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力の特性に着目して、更に検討を行った。具体的には、寿命時間50m秒における動的表面張力を種々に変えた染料インクを調製して、これらの染料インクを用いてそれぞれ画像を形成して、得られた画像における耐ブリーディング性と、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力の関係を調べた。その結果、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を42mN/m以上とすれば、記録媒体上における過度な染料インクの広がりを抑制することができ、耐ブリーディング性が向上するという知見を得た。
記録媒体上において染料インクが広がる状態と寿命時間50m秒の動的表面張力との間に、高い相関関係が見られた理由を、本発明者らは以下のように考えている。即ち、染料インクが記録媒体に付与されてから50m秒の時点では、染料インクの少なくとも一部は記録媒体の表面近傍の領域に浸透している。そして、この領域が、記録媒体上において染料インクが形成する1つのドットの面積を決定するひとつの重要な要素であると考えられる。又、染料インクが記録媒体に付与されてから染料インクの動的表面張力の値が変化することによって、染料インクと記録媒体との接触角が変化することも、記録媒体上において染料インクが形成する1つのドットの面積を決定する要素であると考えられる。更に、記録媒体の厚さの方向に浸透した状態の染料インクと比較して、記録媒体上に付与された直後の染料インクにおいては、染料インク中の水分等の蒸発が相対的に多く起こる。寿命時間50m秒における動的表面張力にも、記録媒体の厚さの方向へ染料インクが浸透する量が依存すると考えられ、このことも、記録媒体上において染料インクが形成する1つのドットの面積を決定するもうひとつの重要な要素であると考えられる。このようにすることで、記録媒体上において染料インクが形成する1つのドットあたりの面積を適正なものとすることができる。
一方、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が49mN/m以上であると、その後の動的表面張力の低下の度合いがたとえ大きくても、記録媒体の厚さ方向へのインクの浸透よりも、記録媒体の表面上でのインクの広がりが優先する。このため、1つのドットあたりの面積が大きくなり、耐ブリーディング性が得られない場合がある。このため、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力は、42mN/m以上49mN/m未満であることが好ましい。
更に、染料インクが高い表面張力を長時間保ちつづけていると、記録媒体の厚さ方向への染料インクの浸透が進まず、その結果、記録媒体の表面上において染料インクが広がり、耐ブリーディング性が低下する場合がある。本発明者らが検討を行った結果、耐ブリーディング性の低下を抑制するためには、以下のようにすればよいという知見を得た。先ず、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を高くすることで、記録媒体上における染料インクの過度な広がりを抑制する。その後、染料インクの動的表面張力を急激に下げて記録媒体の厚さ方向への染料インクの浸透を促進することで、記録媒体の表面上における染料インクの広がりを更に抑制する。このようにすることで、記録媒体上において染料インクが形成する1つのドットあたりの面積をより適正なものとすることができる。本発明者らの検討の結果、このような現象を起こすためには、具体的には、寿命時間50m秒から500m秒の間に、染料インクの動的表面張力を7以上下げればよいことがわかった。
即ち、本発明者らは、耐ブリーディング性を向上するためには、染料インクが以下に述べる動的表面張力の特性を有することが好ましいという知見を得た。即ち、インクの動的表面張力が、以下の2つの特性を有することが好ましい。(1)インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が42mN/m以上49mN/m未満である。(2)インクの寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が7mN/m以上である。特に、寿命時間50m秒における動的表面張力が、45mN/m以上49mN/m未満である場合や、インクの寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差が10mN/m以上である場合、特に優れた耐ブリーディング性を得ることができる。
本発明で用いる染料インクは、上記で説明した動的表面張力の特性を有することで、優れた耐ブリーディング性を与えるが、更に以下に述べる特性を有する染料インクとすることで、優れた階調性や色の均一性が得られ、裏抜けを抑制することができる。勿論、本発明は以下の構成を有する染料インクに限られるものではない。
本発明者らが、染料インクの蒸発、記録媒体への浸透の挙動についての検討を行ったところ、記録媒体上における1つのドットあたりの面積を均一に、且つ小さくして、階調性を向上するためには、以下のことが好ましいことを見出した。
染料インクが記録媒体(例えば、普通紙等)上に付与された直後の状態について考える。この時間では、新しい気液界面が形成された直後であるため、寿命時間は限りなく0秒に近く、界面活性剤の気液界面への配向は、無視することができる程度である。従って、この状態における染料インクの動的表面張力は、染料インク中の水性媒体(水及び水溶性有機化合物からなる混合溶媒)の静的表面張力に等しいものと近似することができる。尚、本発明における「染料インク中の水性媒体」とは、染料インク中の色材及び界面活性剤を除いた水性媒体、即ち、水及び水溶性有機化合物のことを意味する。
前記記録媒体上においては、染料インクが付与された部分の近傍には、表面エネルギーが高い部分と低い部分が存在する。このため、水性媒体の静的表面張力が高すぎると、染料インクが付与された部分の近傍に存在する、表面エネルギーが高く、インクに対して濡れ易い部分に向かって、インクが選択的に流れ込みやすくなる。このようにして、フェザリング現象が発生し、染料インクが形成する1つのドットあたりの面積のばらつきが大きくなる。逆に、水性媒体の静的表面張力が低すぎると、インクが付与された部分の近傍と比較して、インクが付与された部分の表面張力が低い状態となる。この結果、インクの広がりが急速に起こり、階調性が低下する。
このような課題に対して本発明者らが検討を行った結果、以下のことが好ましいことがわかった。記録媒体上における染料インクが付与された部分の近傍に対して、均一に染料インクの濡れが起こる程度の状態とすることにより、フェザリング現象の発生を抑制することが好ましい。又、インクの急速な広がりを抑制することで、染料インクが形成する1つのドットあたりの面積を小さく、且つ、ばらつきを少なくすることが好ましい。そこで、本発明者らが検討を行ったところ、染料インク中の水性媒体の静的表面張力を特定の範囲に規定することで、フェザリング現象の発生を抑制し、又、インクが形成する1つのドットあたりの面積を小さく、且つ、ばらつきを少なくできることがわかった。具体的には、染料インク中の水性媒体の静的表面張力が、45mN/m以上57mN/m以下であることが好ましいという知見を得た。
又、普通紙等を記録媒体として用いる場合、色の均一性を向上するためには、染料インク中の染料を記録媒体に均一に定着させることが好ましい。尚、均一に定着した状態とは、記録媒体である普通紙等に存在する比較的大きな空隙に染料インク中の染料が取り込まれて局在化した状態ではなく、記録媒体を構成する繊維に染料インク中の染料が均一に染着した状態のことを指す。そして、染料インク中の染料を均一に定着させるためには、染料インクが、繊維間の空隙等の細孔に対して濡れを発現することが好ましい。本発明者らが、染料インクが前記細孔に対して濡れ性を有するのに好適な物性について検討を行ったところ、染料インクの寿命時間500m秒における動的表面張力を適切に決定することが好ましいことがわかった。具体的には、染料インクの寿命時間500m秒における動的表面張力が38mN/m以下であることが好ましいことを見出した。
又、染料インクの寿命時間500m秒における動的表面張力が低すぎる、具体的には28mN/m未満であると、繊維間の空隙に浸透するよりも、前記染料インクの記録媒体への浸透が優先する。この結果、記録媒体の内部(記録媒体の厚さの方向)へ染料インクが容易に浸透するため、記録媒体の裏面まで染料インクが抜ける、即ち、裏抜けが発生する場合がある。このため、染料インクの寿命時間500m秒における動的表面張力は、28mN/m以上38mN/m以下であることが好ましい。本発明においては更に、染料インクの寿命時間500m秒における動的表面張力が、32mN/m以上38mN/m以下であることが特に好ましい。
又、寿命時間50m秒及び500m秒における動的表面張力の差は、寿命時間50m秒において染料インクが記録媒体に浸透する領域がある程度決定した後に、染料インクの記録媒体への浸透を促進するという観点からは、大きくすることが好ましい。しかし、上記で述べた通り、染料インクの寿命時間500m秒における動的表面張力を28mN/m以上とすることが好ましい。このため、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差は、(寿命時間50m秒における動的表面張力の値(mN/m)−28(mN/m))以下とすることが好ましい。更には、寿命時間50m秒及び寿命時間500m秒における動的表面張力の差は21mN/m未満であることがより好ましい。
<インクセット>
本発明のインクセットは、複数のインクを有してなるものであり、少なくとも、上記で説明した顔料インク及び染料インクを有することを特徴とする。インクセットは更に、顔料インクや染料インクをそれぞれ複数有してもよく、更にそれ以外のインクを有しても良い。本発明におけるインクセットとは、複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジの状態や、複数のインクをそれぞれ収容してなる複数のインク収容部を組み合わせて一体的に構成したインクカートリッジの状態、を含むものである。尚、前記インクカートリッジは、更に記録ヘッドが一体的に形成された構成を有するものであっても良い。又は、前記複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジが、インクジェット記録装置に対して着脱可能に構成されてなる状態も、本発明のインクセットに含まれるものとする。いずれにしても、本発明のインクセットは、少なくとも顔料インクと染料インクとを組み合わせて用いることができるように構成されていれば良く、上記形態に限られるものではなく、どのような形態であっても良い。
本発明にかかるインクセットを構成する顔料インクは、上記で説明した顔料インクの動的表面張力の特性を有することを特徴とする。顔料インクは更に、前記に加えて、自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を含有することを特徴とする。それ以外は、従来の顔料インクと同様の構成とすればよい。又、染料インクは、従来の染料インクと同様の構成とすればよいが、上記で説明した染料インクの動的表面張力の特性を有することが好ましい。下記に、本発明のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクに用いる各成分について説明する。
<顔料インク>
(界面活性剤)
顔料インクは、浸透剤として界面活性剤を含有することが必須である。そして、配合された顔料インクが、上記で説明した顔料インクの動的表面張力の特性を持つように調節されていることが必要である。このような界面活性剤は、例えば、以下のものを用いることができる。下記に挙げる界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
〔ノニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等。脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール系界面活性剤等。
〔アニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォン酸塩等。アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルフェノールスルフォン酸塩、アルキルナフタリンスルフォン酸塩、アルキルテトラリンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等。
〔カチオン性界面活性剤〕
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド等。
〔両性界面活性剤〕
アルキルカルボキシベタイン等。
〔その他の界面活性剤〕
フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等。
本発明で用いる顔料インクは、上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調節されていることが必要である。顔料インクが、上記で説明した動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた界面活性剤の1種又は2種以上を用いてインクの動的表面張力を調整することで達成することができる。
本発明においては特に、上記の界面活性剤の中でも、ノニオン性界面活性剤、より好適にはポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いて、顔料インクの動的表面張力を調整することが特に好ましい。更には、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素原子の数が12乃至18であることが好ましく、中でも特に、前記アルキル基が、ラウリル基、セチル基、又はオレイル基であることが好ましい。
更に、本発明においては、上記の界面活性剤のグリフィン法によるHLB値が、8.0以上17.0以下であることが特に好ましい。ここで、グリフィン法とは、界面活性剤の親水基の式量と分子量を元に、下記式(3)を用いてHLB値を計算する方法である。
HLB=20×(界面活性剤の親水基の式量)/(界面活性剤の分子量) (3)
HLB値が8.0未満であると、水に対する界面活性剤の溶解性が低いため、インクに溶けにくく、又、インク滴の表面に界面活性剤が偏在し、本発明の効果を得にくい場合がある。又、界面活性剤のHLB値が17.0を上回ると、界面活性剤の親水性が高いため、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を所望の範囲にする場合に、連続して記録を行う際等にインクの裏移り等が起こる場合がある。
顔料インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、0.10質量%以上0.75質量%以下であることが好ましい。含有量が0.10質量%未満であると、顔料インクが記録媒体に付与された直後における、記録媒体に対するインクの濡れ性が低くなり、白もやが発生する場合がある。又、含有量が0.75質量%を上回ると、顔料インクが記録媒体に付与された直後における、記録媒体に対するインクの濡れ性が高くなり、自己分散型顔料の凝集が始まる前に記録媒体へのインクの浸透が始まる場合がある。この結果、画像濃度及び耐ブリーディング性が十分に得られない場合がある。更に、界面活性剤の含有量が多すぎると、顔料インク中に過剰に存在する界面活性剤が、自己分散型顔料の分散特性や凝集特性に影響を与え、蒸発等による顔料インクの状態変化(インクの粘度の上昇、顔料の会合や凝集)を阻害する場合がある。この結果、画像濃度及び耐ブリーディング性が十分に得られない場合がある。
(水性媒体)
顔料インクは、水及び水溶性有機化合物との混合溶媒である水性媒体を含有することが好ましい。尚、本発明においては、水溶性有機化合物を選択する際には、後述する方法で、自己分散型顔料に対する貧溶媒を判別した後に、水溶性有機化合物を選択して適宜に配合し、顔料インクを調製することが好ましい。顔料インク中の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、後述する貧溶媒としての挙動を示す水溶性有機化合物を含めて、顔料インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%未満であることが好ましい。
水溶性有機化合物は、上記で説明した顔料インクの動的表面張力の特性を有するように調節されており、必要に応じて後述する貧溶媒としての挙動を示す水溶性有機化合物を含有する顔料インクとすれば、何れの水溶性有機化合物も用いることができる。
水溶性有機化合物は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
エタノール、イソプロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の炭素原子数1乃至6のアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類。グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,2−又は1,5−ペンタンジオール、1,2−又は1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類。ジメチルスルホキシド、チオジグリコール等の含硫黄化合物類。
上記の中でも、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2−ピロリドンを用いることが特に好ましい。
顔料インクが、上記で説明した顔料インクの動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた水溶性有機化合物の1種又は2種以上を用いて顔料インクの動的表面張力を調整することでも行うことができる。
又、水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。又、顔料インク中の水の含有量(質量%)は、インクを安定して吐出するために適切な粘度を有し、且つ、ノズル先端における目詰まりが抑制されたインクとするために、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
(自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩)
顔料インクは、自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を凝集促進剤として含有することが必要である。本発明における凝集促進剤は、インクの蒸発や濡れ性の変化が起きない状態ではインク中に安定に存在するが、インクの蒸発や濡れ性の変化が起きた際に自己分散型顔料の凝集を促進する作用を有するものである。具体的には、貧溶媒や塩は、インクを吐出した後の蒸発や、インクを記録媒体に付与した後に記録媒体の濡れ性が変化することにより、インクを構成する成分の比率の変化が起きた際に、自己分散型顔料の凝集を促進する作用を有する。
本発明においては、顔料インクが自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩を含有することで、以下に述べるようなメカニズムにより高い画像濃度を得ることができる。顔料インクを記録媒体に付与する場合、目が粗く、空隙が多い、即ち、浸透速度が大きい記録媒体であっても、貧溶媒及び/又は塩の作用により自己分散型顔料が凝集することで、インクの状態変化が起こり、記録媒体へのインクの浸透を抑制することができる。つまり、インクを記録媒体に付与してからインクの浸透が起こるまでの間に、貧溶媒及び/又は塩の作用により自己分散型顔料が凝集する、即ち、インクの状態が変化する。この結果、目が粗く、空隙が多い、即ち、浸透速度が大きい記録媒体であっても、インクの記録媒体への浸透速度を抑制することが可能となる。そして、インク中の自己分散型顔料を記録媒体の表面で凝集させた後に、インクの記録媒体への浸透が開始することで、インク中の自己分散型顔料をより効率的に記録媒体の表面に存在させることが可能となる。つまり、インクを記録媒体に付与してからインクの浸透が起こるまでの間、即ち、インクが記録媒体の表面に存在する間に、確実に自己分散型顔料の凝集を開始させることができる貧溶媒及び/又は塩を用いることが重要である。
本発明で用いる凝集促進剤の具体例は、自己分散型顔料に対する貧溶媒、及び塩が挙げられる。上記で述べたように、インクの蒸発や濡れ性の変化が起きない状態では自己分散型顔料がインク中に安定して存在することができるが、インクの蒸発や濡れ性の変化が起きた際に自己分散型顔料の凝集を促進する作用を有するものである。以下に自己分散型顔料に対する貧溶媒及び塩について説明する。
〔自己分散型顔料に対する貧溶媒〕
本発明における貧溶媒とは、自己分散型顔料の分散方法に関わらず、当該水溶性有機化合物に対する自己分散型顔料の分散状態を安定に保つことができないもののことをいう。本発明においては、上記で説明した貧溶媒としての挙動を示す水溶性有機化合物を自己分散型顔料の凝集促進剤として用い、インク中(蒸発の伴わない状態)の貧溶媒の含有量を、自己分散型顔料が安定に分散することができるように設定する。そして、かかるインクを記録媒体に付与すると、インクが蒸発する過程において貧溶媒の濃度が相対的に増加する。顔料インク中の貧溶媒の含有量は、この際に自己分散型顔料が凝集を開始することができる程度とすることが好ましい。本発明においては、自己分散型顔料に対して貧溶媒として作用する水溶性有機化合物は、下記のようにして、対象となる自己分散型顔料に対する分散安定性を判定して用いる。尚、貧溶媒ではない水溶性有機化合物を、本発明においては良溶媒と呼ぶ。
より具体的には、下記の方法で、ある自己分散型顔料に対して用いる水溶性有機化合物が、良溶媒となっているか、又は貧溶媒となっているかの判定を行った。先ず、下記に挙げた、判定対象の水溶性有機化合物を含有する、ある自己分散型顔料の分散液A、及び前記自己分散型顔料の水分散液B、の2種類の分散液を調製する。
A:判定対象の水溶性有機化合物の含有量が50質量%、自己分散型顔料の含有量、又は、自己分散型顔料及びその分散に寄与する物質の総量の含有量が5質量%、水の含有量が45質量%である組成の自己分散型顔料の分散液。
B:自己分散型顔料の含有量、又は、自己分散型顔料及びその分散に寄与する物質の総量の含有量が5質量%、水の含有量が95質量%である組成の自己分散型顔料の水分散液。
次に、前記分散液Aを60℃で48時間保存した後に常温に冷ました分散液A中の自己分散型顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)等を用いて測定する。又、前記水分散液Bも、上記と同様に60℃で48時間保存した後に常温に冷ました水分散液B中の自己分散型顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー等を用いて測定する。そして、前記分散液A及び水分散液Bにおける各自己分散型顔料の平均粒径の値を、粒径(A)及び粒径(B)とする。このときに、粒径(A)が粒径(B)よりも大きい場合、前記水溶性有機化合物を貧溶媒、粒径(A)が粒径(B)と同等又はそれ以下の場合、前記水溶性有機化合物を良溶媒、と判定する。
このようにして判定した貧溶媒を用いて本発明で規定する構成を有する顔料インクを調製したところ、上述ような優れた効果が得られることが確認された。
又、以下に述べる方法を用いれば、組成が未知のインクであっても、該インクが本発明に該当するか否かを容易に確認することができる。先ず、組成が未知のインク中に含有されている水溶性有機化合物の種類やその含有量を、ガスクロマトグラフィ(GC/MS)等により分析する。具体的には、例えば、組成が未知のインク1gを分取して、メタノールで所定の倍率に希釈したサンプルを、GC/MS(商品名:TRACE DSQ;ThermoQuest製)等を用いて分析する。これにより、水性媒体中に含有される水溶性有機化合物の種類やその含有量を同定することができる。
次に、同定した水溶性有機化合物が良溶媒となっているか、又は貧溶媒となっているかの判定を行う必要がある。上記で述べた良溶媒及び貧溶媒の判定方法では、水溶性有機化合物及び水を含有する液体中に自己分散顔料を分散した分散液を調製する。インクからこのような分散液を調製する際には、インクから自己分散型顔料、又は、自己分散型顔料及びその分散に寄与する物質を抽出する必要がある。しかし、この場合には、抽出処理を行う過程で、自己分散型顔料、又は、自己分散型顔料及びその分散に寄与する物質が変質等を起こす可能性がある。
そこで、本発明者らは、組成が未知のインクそのものを用いた良溶媒及び貧溶媒の判定方法であって、且つ、上記で説明した良溶媒及び貧溶媒の判定方法と判定結果が整合する方法について検討を行った。その結果、下記の方法を、組成が未知のインクそのものを用いた良溶媒及び貧溶媒の判定方法として適用できることを見出した。
上記のように同定したインク中の水溶性有機化合物を、該インク中における前記水溶性化合物の含有量と等しい量で加えた希釈液を調製する。そして、この希釈液を60℃で48時間保存した後に常温に冷ました希釈液中の自己分散型顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)等を用いて測定する。又、60℃で48時間の保存をしない状態のインク中の自己分散型顔料の平均粒径も、上記と同様に測定する。そして、60℃で48時間保存した希釈液、及び60℃で48時間の保存をしない状態のインク中における各自己分散型顔料の平均粒径の値を、粒径(A)及び粒径(B)とする。このときに、粒径(A)が粒径(B)よりも大きい場合、前記水溶性有機化合物を貧溶媒、粒径(A)が粒径(B)と同等又はそれ以下の場合、前記水溶性有機化合物を良溶媒、と判定する。
顔料インク中の貧溶媒の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%未満、更には10.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。含有量が3.0質量%を未満であると、貧溶媒による自己分散型顔料を凝集する効果が得られず、記録媒体の表面により多くの自己分散型顔料を存在させることができない場合がある。又、含有量が40.0質量%を越えると、インクの保存安定性が得られない場合がある。尚、前記インクの保存安定性とは、一般に水の蒸発の伴わない状態での保存安定性のことである。
本発明で用いることができる貧溶媒である水溶性有機化合物の具体例は、ポリエチレングリコール1,000(平均分子量1,000)、ポリエチレングリコール600(平均分子量600)、2−ピロリドン、1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。勿論、本発明で用いることができる貧溶媒はこれらに限られるものではない。
本発明においては、先に述べた方法で、自己分散型顔料に対する貧溶媒及び良溶媒を判別した後に、顔料インク中の、良溶媒の含有量の合計(質量%)をX、貧溶媒の含有量の合計(質量%)をYとしたときに、X及びYの比率を以下のようにすることが好ましい。即ち、XとYとの質量比率[良溶媒の含有量の合計(質量%):貧溶媒の含有量の合計(質量%)]が、X:Y=10:5以上10:30以下の範囲内となるように、顔料インクを構成する水溶性有機化合物の種類と含有量とを調整することが好ましい。尚、「X:Yの比率が、X:Y=10:5以上10:30以下」とは、Xを10としたときにYが5以上30以下ということを意味する。
〔塩〕
本発明で用いる塩は、インク中で電解質として作用するものであれば、何れのものも用いることができる。本発明においては、塩を自己分散型顔料の凝集促進剤として用い、インク中(蒸発の伴わない状態)の塩の含有量を、自己分散型顔料が安定に分散することができるように設定する。そして、かかるインクが記録媒体に付与されると、インクが蒸発する過程において塩、即ち電解質の濃度が相対的に増加する。顔料インクにおける塩の含有量は、この際に自己分散型顔料が凝集を開始することができる程度とすることが好ましい。
本発明においては、インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は完全に解離した状態の何れの形態であってもよい。尚、塩は、インク中では金属イオンと陰イオンとに解離して存在するが、本発明においては、この場合も、インクが塩を含有する、と表現する。
顔料インクに用いることができる塩は、下記の陽イオンと、これらの陽イオンに結合する陰イオンで構成される塩のことであり、水に可溶なものであることを要する。塩を形成するための陽イオンは、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。Li、Na、K等の1価の金属イオン、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+等の2価の金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+、Y3+等の3価の金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン等。又、前記の陽イオンに結合する陰イオンは、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。Cl、Br、I、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、NO 、NO 、SO 2−、CO 2−、HCOO、CHCOO、C(COO、CCOO、C(COO等。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
顔料インクにおいては、陽イオンがアンモニウムである場合、優れた耐水性が得られるために、好ましい。特に、NHNO、C(COONH、C(COONH、(NHSO等は比較的短い時間で耐水性が発現するため、特に好ましい。
又、自己分散型顔料の分散状態を不安定化することができる、水溶性染料やイオン性基を有するポリマー等も本発明においては塩として用いることができる。
顔料インク中の塩の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、0.01質量%以上10.0質量%以下、更には、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満である、本発明の効果が得られない場合があり、10.0質量%を越えると、インクの保存安定性等が得られない場合がある。尚、前記インクの保存安定性とは、一般に水の蒸発の伴わない状態での保存安定性のことである。
〔貧溶媒及び塩の併用〕
顔料インクは、貧溶媒及び塩を組み合わせて含有してもよい。本発明においては、貧溶媒及び塩を自己分散型顔料の凝集促進剤として用い、インク中(蒸発の伴わない状態)の貧溶媒の含有量及び塩の含有量を、自己分散型顔料が安定に分散することができるように設定する。そして、かかるインクを記録媒体に付与すると、インクが蒸発する過程において貧溶媒の濃度及び塩(電解質)の濃度が相対的に増加する。顔料インク中の貧溶媒の含有量及び塩の含有量は、この際に自己分散型顔料が凝集を開始することができる程度とすることが好ましい。
貧溶媒及び塩を併用する場合の、貧溶媒の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、3.0質量%以上40.0質量%以下、更には、3.0質量%以上20.0質量%以下とすることが好ましい。又、貧溶媒及び塩を併用する場合の、塩の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、0.01質量%以上5.0質量%以下、更には、0.1質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。更に、貧溶媒及び塩を併用する場合の、顔料インク中の貧溶媒の含有量及び塩の含有量の比(貧溶媒/塩)は、0.6以上200以下とすることが好ましい。貧溶媒の含有量及び塩の含有量の比を上記範囲とすることで、本発明の効果をより効率的に得ることが可能となる。
(顔料)
顔料インクに用いる色材は、カーボンブラックや有機顔料等の顔料である。顔料インク中の顔料の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には、1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
顔料の分散方式には、例えば、分散剤を用いる樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、界面活性剤分散タイプの顔料が挙げられる。又、顔料そのものの分散性を高め、分散剤等を用いることなく分散可能とした顔料として、例えば、以下の顔料が挙げられる。即ち、マイクロカプセル型顔料、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合した顔料(ポリマー結合型自己分散型顔料)が挙げられる。
本発明では、顔料インクに用いる顔料は、上記自己分散型顔料やポリマー結合型自己分散型顔料を含む、自己分散型顔料を用いることが必要である。このような自己分散型顔料は、樹脂分散剤を用いることなくインクを構成する水性媒体中に分散可能な顔料である。勿論、必要に応じて樹脂分散剤を併用することもできる。自己分散型顔料は、顔料インクが記録媒体に付与されてから、インクの蒸発等によりインクの状態変化(インクの粘度の上昇、色材の会合や凝集)が起こりやすいためである。ただし、顔料インクが少なくとも自己分散型顔料を含有すれば、上記で挙げたような分散方法の異なる顔料を更に組み合わせて用いることもできる。
本発明では、親水性基が直接又は他の原子団を介して顔料粒子の表面に化学的に結合している自己分散型顔料を用いることが好ましい。特に、前記親水性基が、−COOM、−SOM、及び−POHM(Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである)からなる群から選ばれるものであることが好ましい。又、前記他の原子団が、炭素原子数1乃至12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、又は置換若しくは未置換のナフチレン基であることが好ましい。
又、本発明では、次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、水中オゾン処理で酸化する方法、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化して顔料粒子の表面を改質する方法等によって得られる、表面酸化処理タイプの自己分散型顔料を用いることもできる。
更に、本発明では、顔料そのものの分散性を高め、分散剤等を用いることなく分散可能とした、ポリマー結合型自己分散型顔料を用いることもできる。ポリマー結合型自己分散型顔料は、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して化学的に結合した官能基と、イオン性モノマー及び疎水性モノマーとの共重合体との反応物を含むものであることが好ましい。このような構造を有する顔料は、顔料粒子の表面を改質する際に用いる共重合体を構成するイオン性モノマー及び疎水性モノマーの共重合比を適宜に変化することができるため、顔料の親水性を調整することができるので好ましい。更には、イオン性モノマー及び疎水性モノマーの種類や、これらのモノマーの組み合わせを選択することができるため、顔料粒子の表面に様々な特性を付与することもできるので、この点からも好適である。
〔カーボンブラック〕
カーボンブラックは、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを用いることができる。具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
レイヴァン:1170、1190ULTRA−II、1200、1250、1255、1500、2000、3500、5000、5250、5750、7000(以上、コロンビア製)。ブラックパールズL、リーガル:330R、400R、660R、モウグルL。モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、ヴァルカンXC−72R(以上、キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:4、4A、5、6(以上、デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)。
しかし、本発明はこれらに限定されるものではなく、公知のカーボンブラックを用いることができる。又、マグネタイトやフェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を顔料として用いることもできる。
〔有機顔料〕
有機顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料。インジゴ系顔料。
縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料等。
又、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、以下のものを用いることができる。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168等。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71等。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240等。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50等。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64等。C.I.ピグメントグリーン:7、36等。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等。
〔分散剤〕
本発明においては、顔料をインク中に分散するために分散剤を用いることができる。分散剤は、樹脂であればどのようなものでも用いることができる。樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下、更には、3,000以上15,000以下のものであることが好ましい。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。又、インク中の顔料の含有量及び樹脂の含有量の比率(P/B比)は、0.02以上150以下であることが好ましい。
前記分散剤は、具体的には、例えば、以下の群から選ばれる少なくとも2種の単量体(そのうち少なくとも1種は親水性単量体)を重合して得られるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等を用いることができる。これらの樹脂は、塩基を溶解した水溶液に可溶、即ち、アルカリ可溶型樹脂である。スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体等。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等。又、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂を用いることもできる。
〔自己分散型顔料の凝集速度〕
本発明者らは、特定の凝集挙動を示す自己分散型顔料が、優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を得るために特に効果的であることを見出した。
一般に、自己分散型顔料と、前記自己分散型顔料に対する貧溶媒及び/又は塩(以下、凝集促進剤と呼ぶことがある)とを含有するインクを記録媒体に付与すると、下記の現象が起こる。即ち、記録媒体上においてインク中の水分が蒸発することや、インク中の水溶性有機化合物と自己分散型顔料等の固形分との固液分離が起こるによって、急激にインク中の自己分散型顔料の分散状態が不安定化して、自己分散型顔料の凝集が起こる。この凝集の際には、インク中の凝集促進剤の濃度が相対的に高くなることが、顔料の分散状態の不安定化に多大な影響を及ぼしていると考えられる。実際に、凝集促進剤を含有するインクと、凝集促進剤を含有しないインクとでは、凝集促進剤を含有するインクを用いた場合の方が、記録媒体の表面に存在する自己分散型顔料が多くなり、画像濃度が高くなる。
本発明者らの検討の結果、上記で説明した動的表面張力の特性を有するインクは、凝集促進剤の種類が同じでも、自己分散型顔料の種類が変わると、得られる画像濃度に大きく差が生じることがわかった。
そこで本発明者らは、種々の自己分散型顔料を含有するインクについて、記録媒体上でインク中の水分が蒸発すること等により、インク中の塩濃度が相対的に増加したときの自己分散型顔料の凝集挙動をモデル的に観察するために、以下のような検討を行った。具体的には、種々の自己分散型顔料を含有するインクを調製し、これに分散状態を安定に保つことができる程度の塩化ナトリウムを添加した。そして、かかるインクを蒸発させることによりインク中の塩化ナトリウムの濃度を相対的に増加させ、塩化ナトリウムの濃度と自己分散型顔料の平均粒径との関係を調べた。次に、自己分散型顔料の平均粒径が増大する最小量の塩化ナトリウムを添加したインクを基準として、そこからのインクの蒸発率(%)を横軸、平均粒径の増加率を縦軸として、グラフを作成した(図2)。尚、以下の記載において、「蒸発率」とは、自己分散型顔料の平均粒径が増加する最小の塩化ナトリウムを添加したインクを基準(初期のインク)として、該インクを蒸発させる場合に、以下の式で求められる値を蒸発率とする。即ち、蒸発率は、蒸発率(%)={(初期のインクの質量−蒸発後のインクの質量)/初期のインクの質量}×100、として求める値とする。
その結果、自己分散型顔料は、3つのタイプ(図2における(A)、(B)、(C))の曲線に分類されることがわかった。更に、これらの自己分散型顔料をそれぞれ含有するインクを用いて画像を形成したところ、得られる画像濃度及び耐ブリーディング性に差が生じることがわかった。即ち、図2における(B)の凝集挙動を示す自己分散型顔料を含有するインクは、(C)のインクと比較して、より優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を与えた。又、図2における(A)の凝集挙動を示す自己分散型顔料を含有するインクは、(B)のインクと比較して、更に優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を与えた。以上のことから、本発明者らは、図2における曲線の接線の傾き、即ち、インクの蒸発に伴う自己分散型顔料の平均粒径の変化が、画像濃度及び耐ブリーディング性と何らかの相関を有することを見出した。
図2における曲線の接線の傾きと画像濃度及び耐ブリーディング性との関係について、以下に説明する。蒸発率が30%であるときの平均粒径の増加率が大きい自己分散型顔料は、凝集速度が大きい自己分散型顔料であると考えることができる。ここで、蒸発率が30%であるときの平均粒径の増加率Aがある一定値以上である自己分散型顔料(例えば、前記(A)及び(B)の場合)は、記録媒体上において、以下のような凝集挙動を示すと考えられる。即ち、インク中の水分の蒸発等により、自己分散型顔料の分散状態が不安定となった後に、速やかに自己分散型顔料の凝集が起こると考えられる。本発明で用いる顔料インクのように、インクが記録媒体に付与されてから、動的表面張力がある期間一定値以上に保たれるインクは、記録媒体へのインクの浸透が抑制されている間に、凝集促進剤の効果も相まって、自己分散型顔料の凝集が特に速やかに起こる。このような理由により、自己分散型顔料の平均粒径の増加率Aが大きくなるほど、自己分散型顔料を記録媒体の表面に特に効果的に存在させることができるため、優れた画像濃度が得られるものと考えられる。又、自己分散型顔料の凝集が特に速やかに起こり、この結果、他のインクで形成した画像の領域へのインクのにじみが顕著に抑制されるため、より優れた耐ブリーディング性が得られるものと考えられる。
本発明者らは、本発明で規定する動的表面張力の特性を有する顔料インク中に種々の自己分散型顔料を添加して得られた各インクにおける蒸発率と、画像濃度及び耐ブリーディング性との関係について検討を行った。その結果、蒸発率30%における自己分散型顔料の凝集速度と、画像濃度及び耐ブリーディング性に大きな相関があることを見出した。即ち、蒸発率が30%に達するまでに、平均粒径が初期の液体の15倍以上となる凝集速度を有する自己分散型顔料を用いることで、特に優れた画像濃度及び耐ブリーディング性が得られるという知見を得た。本発明者らはこの理由を以下のように推測している。
本発明で規定する動的表面張力の特性を有する顔料インクは、インクが記録媒体に付与されてから、動的表面張力がある期間一定値以上に保たれ、記録媒体へのインクの浸透が抑制される。この間にインク滴の表面近傍で水分等の蒸発が起こり、インク滴の表面近傍における自己分散型顔料の分散状態が次第に不安定化し、自己分散型顔料の凝集が始まる。その後、記録媒体に付与されたインクは時間の経過に伴い記録媒体への浸透を開始する。このとき、記録媒体へのインクの浸透が開始する時間と、記録媒体に付与されたインク滴の表面近傍での水分等の蒸発率が30%に達する時間とのスケールがほぼ同じである。このことから、蒸発率が30%における顔料の凝集速度が、画像濃度及び耐ブリーディング性に大きく相関すると考えられる。
上記で述べたことから、本発明においては、特に優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を得るためには、具体的には、蒸発率30%におけるAの値が15以上である自己分散型顔料を用いることが特に好ましい。
具体的には、以下の条件を満足する自己分散型顔料を用いることが特に好ましい。インクに自己分散型顔料の平均粒径が変化する最小量の塩化ナトリウムを添加した液体(「初期の液体」とする)を調製する。そして、{(初期の液体の質量−蒸発後の液体の質量)/初期の液体の質量}×100、として求められる蒸発率30%における自己分散型顔料の平均粒径の増加率Aを、以下の式(1)により求める。このとき、A≧15の条件を満たす自己分散型顔料を用いることで、特に優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることができる。
Figure 0005932198
尚、平均粒径の増加率を実際に求める際には、以下の手順で行うことが好ましい。先ず、インク中の自己分散型顔料の平均粒径(Rとする)を測定する。次に、前記と同様のインクに、塩化ナトリウムの添加量を0.1g、0.2g、・・・Ngと0.1g単位で加え、総量を100.0gに調整した複数の液体を調製する。そして、これらの各液体中における、自己分散型顔料の平均粒径(R0.1、R0.2、・・・、Rとする)をそれぞれ測定する。このとき、自己分散型顔料の平均粒径Rが、塩化ナトリウムを含まない液体中における自己分散型顔料の平均粒径Rよりも大きくなるときの塩化ナトリウムの添加量を、「自己分散型顔料の平均粒径が変化する最小量」とする。
尚、水溶性有機化合物や界面活性剤は、その種類や含有量によっては、自己分散型顔料の分散状態、即ち自己分散型顔料の平均粒径に影響を及ぼす場合があることが知られている。しかし、本発明者らの検討の結果、水性インクとして通常用いる範囲であれば、水溶性有機化合物や界面活性剤等は、自己分散型顔料の平均粒径が変化した後の平均粒径の増加率に対してほとんど影響を与えないことがわかった。従って、上記の平均粒径の増加率の算出方法は、自己分散型顔料を含有する顔料インクであれば、その他に、染料、水溶性有機化合物、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、キレート化剤等の添加剤を含有するインクにも同様に適用できる。
本発明者らの更なる検討の結果、前記液体の蒸発率が30%の状態から更に蒸発が進んだ、蒸発率50%における自己分散型顔料の凝集速度も、画像濃度及び耐ブリーディング性に大きな相関があることがわかった。先ず、上記と同様に、インクに自己分散型顔料の平均粒径が変化する最小量の塩化ナトリウムを添加した液体(「初期の液体」とする)を調製する。そして、{(初期の液体の質量−蒸発後の液体の質量)/初期の液体の質量}×100、として求められる蒸発率50%における自己分散型顔料の平均粒径の増加率Aを、以下の式(2)により求める。
Figure 0005932198
蒸発率50%における平均粒径の増加率Aが、蒸発率30%における平均粒径の増加率Aに対して、ある一定値より大きい自己分散型顔料(例えば、前記(A)の場合)は、記録媒体上において、以下のような凝集挙動を示すと考えられる。即ち、蒸発率が30%から50%に達するまでの自己分散型顔料の凝集は、蒸発率が0%(初期)から30%に達するまでの自己分散型顔料の凝集と比較して、更に速やかに起こると考えられる。このような自己分散型顔料の記録媒体上における凝集速度を考えると、インク中の水分等の蒸発が進めば進むほど自己分散型顔料の凝集が加速度的に起こる。このような理由により、自己分散型顔料を記録媒体の表面に極めて効果的に存在させることができるため、極めて優れた画像濃度が得られるものと考えられる。又、自己分散型顔料の凝集が加速度的に起こり、この結果、他のインクで形成した画像の領域へのインクのにじみが特に顕著に抑制されるため、極めて優れた耐ブリーディング性が得られるものと考えられる。
一方、蒸発率50%における平均粒径の増加率Aが、蒸発率30%における平均粒径の増加率Aに対して、ある一定値以下である自己分散型顔料(例えば、前記(B)の場合)は、記録媒体上において、以下のような凝集挙動を示すと考えられる。即ち、蒸発率が30%から50%に達するまでの自己分散型顔料の凝集は、蒸発率が0%(初期)から30%に達するまでの凝集挙動と比較して、緩やかに起こると考えられる。
このような自己分散型顔料の凝集速度の違いが画像性能に影響を与えるため、前記(A)のような凝集速度を有する自己分散型顔料を含有する顔料インクは、極めて優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を与える。これは、かかるインクが記録媒体に付与されてから、動的表面張力がある期間一定値以上に保たれ、記録媒体へのインクの浸透が抑制されている間に、凝集促進剤の効果も相まって、自己分散型顔料の凝集が極めて速やかに起こるためである。
本発明者らは、本発明で規定する動的表面張力の特性を有する顔料インク中に種々の自己分散型顔料を添加して得られた各顔料インクにおける蒸発率と、画像濃度及び耐ブリーディング性との関係について検討を行った。その結果、蒸発率30%及び50%における自己分散型顔料の凝集速度と、画像濃度及び耐ブリーディング性に特に大きな相関があることがわかった。具体的には、上記で述べたように、蒸発率が30%に達するまでに、平均粒径が初期の液体の15倍以上となる凝集速度を有する自己分散型顔料が、更に以下の凝集速度を有することで、極めて優れた画像濃度及び耐ブリーディング性が得られるという知見を得た。即ち、蒸発率50%における平均粒径の増加率が、蒸発率30%における平均粒径の増加率に対して、5/3より大きい前記自己分散型顔料を用いることで、極めて優れた画像濃度及び耐ブリーディング性が得られるという知見を得た。本発明者らはこの理由を以下のように推測している。
上記で述べたように、顔料インクが記録媒体に付与されてから、インク滴の表面近傍での蒸発率が30%に達する時間のスケールと、記録媒体中へのインクの浸透が開始する時間のスケールとは、ほぼ同じである。更に時間が経過すると、記録媒体へのインクの浸透は急速に進む。この過程において、インク滴の表面近傍では引き続き水分等の蒸発が起こり、自己分散型顔料の凝集はよりいっそう進行する。このとき、自己分散型顔料の凝集の進行が速いと、記録媒体へのインクの浸透が急速に進む過程においても、自己分散型顔料は記録媒体の表面上に残ることができる。一方で、自己分散型顔料の凝集の進行が遅いと、記録媒体へのインクの浸透が急速に進むことによって、自己分散型顔料が記録媒体の表面上に残る割合が小さくなる。インク滴の表面近傍での水分等の蒸発が50%に達するときには、記録媒体へのインクの浸透はほぼ終了している。つまり、蒸発率50%における自己分散型顔料の凝集速度が、画像濃度及び耐ブリーディング性に特に大きく相関すると考えられる。
このようにして、記録媒体の表面上に自己分散型顔料を非常に効果的に存在させることができるため、極めて優れた画像濃度及び耐ブリーディング性が得られると考えられる。即ち、蒸発率30%における凝集速度よりも、蒸発率30%から50%に達するまでの凝集速度の方が速い自己分散型顔料を用いることで、極めて優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることができる。つまり、蒸発率30%におけるAの値が15以上であり、且つ、蒸発率50%におけるAの値がAの値に対して5/3倍より大きい自己分散型顔料を用いることが特に好ましい。
具体的には、以下の条件を満足する自己分散型顔料を用いることが特に好ましい。即ち、上述のように、前記液体の蒸発率30%における自己分散型顔料の平均粒径の増加率Aが、A≧15の条件を満たす自己分散型顔料を用いることで、優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることができる。更に、前記液体の蒸発率50%における自己分散型顔料の平均粒径の増加率Aが、A>(5/3)×Aの条件を満たす自己分散型顔料を用いることで、極めて優れた画像濃度及び耐ブリーディング性を得ることができる。
自己分散型顔料は、上記で述べた凝集速度の特性を有するものであれば、何れのものも用いることができる。本発明においては、顔料粒子の表面に−R−(COOM)基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散型顔料を用いることが特に好ましい。尚、前記式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、nは1乃至3の整数である。前記アルキレン基は、炭素数1乃至6であることが好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキシレン基、イソプロピレン基等が挙げられる。前記芳香環は、ベンゼン環及びナフチレン環等が挙げられる。前記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、及びカリウムが挙げられる。前記有機アンモニウムは、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、及びフェニルアミノ等が挙げられる。本発明においては特に、ジアゾカップリング法等により得られる、−R−(COOM)基を少なくとも有する化合物を顔料粒子の表面に結合した自己分散型顔料を用いることが好ましい。
前記−R−(COOM)基の顔料粒子表面への導入量は、顔料粒子の単位表面積当たりの導入量を多くすることが、本発明の効果を得るためには好ましい。具体的には、顔料粒子の単位表面積当たりのイオン性基密度が1.0μmol/m以上、更には2.5μmol/m以上であることが好ましい。又、顔料粒子の単位表面積当たりのイオン性基密度の上限は、4.0μmol/m以下であることが好ましい。尚、イオン性基密度は、例えば、顔料分散液中のナトリウム等のアルカリ金属イオン濃度を、イオンメーター等を用いて測定し、得られた値からイオン性基密度に換算することによって求めることができる。
顔料インクに用いる自己分散型顔料は、上記で述べた蒸発率と平均粒径の増加率の関係を満たすものであれば、1種又は2種以上を用いることができる。更に、色調等を整えるために、自己分散型顔料に加えて、他の色材を組み合わせて用いることができる。但し、他の色材を用いる場合は、これを用いることによる効果が得られ、且つ、本発明の目的効果を損なわない範囲で用いることが好ましい。
(自己分散型顔料、塩、及び浸透剤の関係)
顔料インク中の自己分散型顔料、塩、及び浸透剤の関係について説明する。自己分散型顔料のイオン性基密度と、塩、浸透剤(特には界面活性剤)の含有量との間には密接な関係があり、本発明の効果を効率的に得るためには、塩や界面活性剤の含有量を後述するように調整することが好ましい。
自己分散型顔料のイオン性基密度は分散安定性に大きく関係し、イオン性基密度が高いほど自己分散型顔料の分散状態は安定となる傾向がある。イオン性基密度が低い自己分散型顔料を含有する顔料インクは、前記インクが記録媒体に付与されてから50m秒が経過した時点で、記録媒体上においてインク中の水分が蒸発することにより自己分散型顔料の分散状態は相対的に容易に不安定化する。このとき、イオン性基密度が低い自己分散型顔料を含有する顔料インクは、自己分散型顔料の分散状態の安定性が相対的に低いため、相対的に少ない塩を用いることで、記録媒体の表面に自己分散型顔料を効果的に存在させることができる。一方、イオン性基密度が高い自己分散型顔料を含有する顔料インクは、前記インクが記録媒体に付与されてから50m秒が経過した時点で、記録媒体上においてインク中の水分は蒸発するものの、自己分散型顔料は依然として安定した分散状態を保っている。このため、記録媒体の表面に効果的に自己分散型顔料を存在させるためには、塩のような凝集促進剤を用いることが必要である。
上記で述べたように、自己分散型顔料のイオン性基密度と顔料インク中の塩の含有量には密接な関係があり、イオン性基密度が高いほど、記録媒体の表面に効果的に自己分散型顔料を存在させるために必要な塩の含有量は大きくなる傾向がある。イオン性基密度と自己分散型顔料の分散状態とは、以下のような関係になっている。イオン性基密度が相対的に低い自己分散型顔料を用いる場合、顔料インクの寿命時間50m秒における表面張力が49mN/m以上であると、上記で述べたように、自己分散型顔料の分散状態の安定性が相対的に低い。このため、イオン性基密度が1.0μmol/m以上2.5μmol/m未満である自己分散型顔料を用いる場合、本発明で規定する動的表面張力の特性を有するインクには塩を添加しなくとも、優れた画像濃度を得ることができる。一方で、イオン性基密度が相対的に高い自己分散型顔料を用いる場合、インクの寿命時間50m秒における表面張力が49mN/m未満であると、上記で述べたように、自己分散型顔料の分散状態が相対的に高い。このため、本発明の動的表面張力の特性を有するインクの色材として、イオン性基密度が2.5μmol/m以上4.0μmol/m以下である自己分散型顔料を用いる場合、優れた画像濃度を得るためには、塩を含有するインクを用いることが好ましい。
又、自己分散型顔料のイオン性基密度は、浸透剤、特に界面活性剤の含有量にも大きく関係する。即ち、自己分散型顔料のイオン性基密度が高いほど、界面活性剤が自己分散型顔料に吸着するサイトが相対的に少なくなるため、顔料インク中の界面活性剤の含有量は小さくすることができる。一方、自己分散型顔料のイオン性基密度が低いほど、界面活性剤が自己分散型顔料に吸着するサイトが相対的に多くなるため、顔料インク中の界面活性剤の含有量を大きくする必要がある場合がある。
(その他の成分)
顔料インクは、上記で挙げた成分の他に、保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分を含有してもよい。顔料インク中における保湿性固形分の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、更には、3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
又、顔料インクは、上記成分以外にも本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、種々の添加剤を含有してもよい。添加剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。尿素又はエチレン尿素等の含窒素化合物、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等を用いることができる。
<染料インク>
(界面活性剤)
染料インクは、界面活性剤を含有することが必須である。そして、配合された染料インクが、上記で説明した染料インクの動的表面張力の特性を持つように調節されていることが好ましい。このような界面活性剤は、例えば、以下のものを用いることができる。下記に挙げる界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
〔ノニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等。脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール系界面活性剤等。
〔アニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォン酸塩等。アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルフェノールスルフォン酸塩、アルキルナフタリンスルフォン酸塩、アルキルテトラリンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等。
〔カチオン性界面活性剤〕
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド等。
〔両性界面活性剤〕
アルキルカルボキシベタイン等。
〔その他の界面活性剤〕
フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等。
本発明で用いる染料インクは、上記で説明した動的表面張力の特性を有するように調整されていることが好ましい。染料インクが、上記で説明した動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた界面活性剤の1種又は2種以上を用いてインクの動的表面張力を調整することで達成することができる。
本発明においては特に、上記の界面活性剤の中でも、ノニオン性界面活性剤、特にポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いて、染料インクの動的表面張力を調整することが特に好ましい。このような界面活性剤を用いる場合、染料インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、染料インク全質量を基準として、0.10質量%以上2.0質量%以下、更には、0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.10質量%未満である場合、インクジェット記録装置のインク流路を構成する部材に対する濡れが十分に得られず、吐出安定性が低下する場合がある。又、含有量が2.0質量%を越えると、インクジェット記録装置の吐出口近傍で、インク中の水分が蒸発した場合に、界面活性剤の含有量が高くなりすぎて、局所的にインクの粘度が高くなり、インクの吐出安定性が低下する場合がある。
又、本発明においては、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、下記一般式(1)で表される界面活性剤及び一般式(2)で表される界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。これらの界面活性剤を含有する染料インクは、寿命時間の変化に対する動的表面張力の変化が大きいため、にじみを抑制し、耐ブリーディング性を向上するのに特に好適である。
一般式(1)
Figure 0005932198
(一般式(1)中、a、m、及びnはそれぞれ独立に1以上の整数であり、m+nは14乃至20の整数である。)
一般式(2)
Figure 0005932198
(一般式(2)中、b、x、及びyはそれぞれ独立に1以上の整数であり、x+yは12乃至21の整数である。)
上記一般式(1)や一般式(2)で表される界面活性剤を用いる場合、その含有量(質量%)は、染料インク全質量を基準として、0.30質量%以上2.0質量%以下、更には、0.75質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。含有量が0.3質量%未満であると、記録媒体に対するインクの濡れ性が十分に得られず、記録媒体の表面上でインクが広がり、耐ブリーディング性が十分に得られない場合がある。又、含有量が2.0質量%を上回ると、記録ヘッドの吐出口近傍でインク中の水分等が蒸発した場合に、界面活性剤の含有量が高くなりすぎて、局所的にインクの粘度が高くなり、インクの吐出安定性が低下する場合がある。インク中の界面活性剤の含有量を上記の範囲とすることで、染料インクのにじみを抑制し、耐ブリーディング性を向上することができ、更に、優れた色の均一性及び吐出安定性が得られる。
更に、本発明においては、上記の界面活性剤のグリフィン法によるHLB値が、12.0以上16.5以下であることが特に好ましい。尚、グリフィン法とは、上記で説明した通りである。HLB値が12.0未満であると、界面活性剤の親水性が低すぎるため、インクを保存する場合等に、界面活性剤がインク中に溶解した状態を保てない場合がある。一方、HLBが16.5より大きいと、界面活性剤の親水性が高すぎるため、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力を所望の範囲にする場合に、色の均一性が十分に得られない場合、連続して記録を行う際等にインクの裏移り等が起こる場合がある。
(水性媒体)
染料インクは、水及び水溶性有機化合物の混合溶媒である水性媒体を含有することが好ましい。染料インクには、何れの水溶性有機化合物も用いることができる。染料インク中の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、染料インク全質量を基準として、1.0質量%以上50.0質量%以下、更には3.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。
水溶性有機化合物は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
エタノール、イソプロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の炭素原子数1乃至6のアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類。グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,2−又は1,5−ペンタンジオール、1,2−又は1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類。ジメチルスルホキシド、チオジグリコール等の含硫黄化合物類。
染料インクが、上記で説明した染料インクの動的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた水溶性有機化合物の1種又は2種以上を用いて染料インクの動的表面張力を調整することでも行うことができる。又、染料インクが、上記で説明した染料インク中の水性媒体の静的表面張力の特性を有するようにするためには、上記に挙げた水溶性有機化合物の1種又は2種以上を用いて水性媒体の静的表面張力を調整することで行うことができる。
上記の中でも、水性媒体の静的表面張力を調節するために、浸透性が高い水溶性有機化合物を用いることが特に好ましい。具体的には、エタノール、2−プロパノール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルコール類を用いることが特に好ましい。
又、水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。染料インク中の水の含有量(質量%)は、インクを安定して吐出するために適切な粘度を有し、且つ、ノズル先端における目詰まりが抑制されたインクとするために、染料インク全質量を基準として、30.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
尚、組成が未知の染料インク中に含有されている水性媒体を構成する水溶性有機化合物の種類やその含有量は、ガスクロマトグラフィ(GC/MS)等により分析することができる。具体的には、例えば、組成が未知の染料インク1gを分取して、メタノールで所定の倍率に希釈したサンプルを、GC/MS(商品名:TRACE DSQ;ThermoQuest製)等を用いて分析する。これにより、水性媒体中に含有される水溶性有機化合物の種類やその含有量を同定することができる。又、組成が未知の染料インク中に含有されている水の含有量は、カールフィッシャー水分計等により、常法に従って同定することができる。このようにして求めた水性媒体を構成する水溶性有機化合物の種類やその含有量及び水の含有量から、同様の組成を有する水性媒体を調製する。そして、得られた水性媒体の静的表面張力を温度25℃、湿度50%の環境下で測定する。静的表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計(CBVP−Z型;協和界面科学製)を用いて、白金プレートを用いたプレート法により行うことができる。尚、本発明は、上記で挙げた測定方法や測定装置等に限られるものではなく、何れの方法も用いることができる。
(染料)
染料インクに用いる色材は、染料である。染料インク中の染料の含有量(質量%)は、染料インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
染料は、一般のインクジェット用インクの色材として用いることのできる染料であれば、特に限定されるものではなく、例えば、直接染料、酸性染料、反応性染料、塩基性染料等の何れのものも用いることができる。以下に、色調別に、本発明において用いることができる染料をカラーインデックスナンバーや一般式で示すと、例えば、以下のものが挙げられる。又、カラーインデックスに記載されていない染料であっても、水溶性を有する染料であれば用いることができる。
〔イエロー色材〕
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、173等。C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等。下記一般式(3)で表される化合物又はその塩。
一般式(3)
Figure 0005932198
(一般式(3)中、Gはヘテロ環である。nは1乃至3の整数である。nが1のとき、R、X、Y、Z、Q、及びGは1価の基である。又は、nが2のとき、R、X、Y、Z、Q、及びGは1価又は2価の置換基であり、このうち少なくともひとつは2価の置換基である。又は、nが3のとき、R、X、Y、Z、Q、及びGは1価、2価、又は3価の置換基であり、このうち少なくともふたつは2価の置換基であるか又は少なくともひとつは3価の置換基である。)
〔マゼンタ色材〕
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230等。C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等。C.I.フードレッド:87、92、94等。C.I.ダイレクトバイオレット:107等。その他のアントラピリドン系化合物。その他のキサンテン系化合物。下記一般式(4)で表される化合物又はその塩。
一般式(4)
Figure 0005932198
(一般式(4)中、Aは5員複素環基である。B及びBはそれぞれ独立に、=CR−若しくは−CR=であるか、又はB及びBの何れか一方が窒素原子であり他方が=CR−若しくは−CR=である。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基である。これらの基の水素原子は置換されていてもよい。G、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、又はスルホン酸基である。これらの基の水素原子は置換されていてもよい。R及びR、又はR及びRは結合して5員環又は6員環を形成してもよい。)
〔シアン色材〕
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226、307等。C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、112、117、127、138、158、161、203、204、221、244等。下記一般式(5)で表される化合物又はその塩。
一般式(5)
Figure 0005932198
(一般式(5)中、X、X、X、及びXはそれぞれ独立に、−SO−Z、−SO−Z、−SONR、スルホン酸基、−CONR、又は−COである。Zはそれぞれ独立に、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換の複素環基である。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換の複素環基である。Y、Y、Y、Y、Y、Y、Y、及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、シアノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、置換若しくは無置換のカルバモイル基、置換若しくは無置換のスルファモイル基、置換若しくは無置換のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、又はスルホン酸基である。a、a、a、及びaはそれぞれ、X、X、X、及びXの置換基の数を示し、それぞれ独立に1又は2の整数である。)
〔オレンジ色材〕
C.I.アシッドオレンジ:7、8、10、12、24、33、56、67、74、88、94、116、142等。C.I.アシッドレッド:111、114、266、374等。C.I.ダイレクトオレンジ:26、29、34、39、57、102、118等C.I.ダイレクトレッド:84等。C.I.フードオレンジ:3等。C.I.リアクティブオレンジ:1、4、5、7、12、13、14、15、16、20、29、30、84、107等。C.I.ディスパースオレンジ:1、3、11、13、20、25、29、30、31、32、47、55、56等。
〔グリーン色材〕
C.I.アシッドグリーン:1、3、5、6、9、12、15、16、19、21、25、28、81、84等。C.I.ダイレクトグリーン:26、59、67等。C.I.フードグリーン:3等。C.I.リアクティブグリーン:5、6、12、19、21等。C.I.ディスパースグリーン:6、9等。
〔ブルー色材〕
C.I.アシッドブルー:62、80、83、90、104、112、113、142、203、204、221、244等。C.I.リアクティブブルー:49等。C.I.アシッドバイオレット:17、19、48、49、54、129等。C.I.ダイレクトバイオレット:9、35、47、51、66、93、95、99等。C.I.リアクティブバイオレット:1、2、4、5、6、8、9、22、34、36等。C.I.ディスパースバイオレット:1、4、8、23、26、28、31、33、35、38、48、56等。
〔ブラック色材〕
C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等。C.I.アシッドブラック:2、48、51、52、110、115、156等。C.I.フードブラック:1、2等。下記一般式(6)で表される化合物又はその塩。
一般式(6)
Figure 0005932198
(一般式(6)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキル若しくはアリールスルホニル基、又はスルファモイル基である。これらの基は更に置換基を有していてもよいが、R及びRが同時に水素原子となることはない。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキル若しくはアリールスルホニル基、又はスルファモイル基である。R及びRは上記の中でも、水素原子、芳香族基、複素環基、アシル基、又はアルキル若しくはアリールスルホニル基が好ましい。R及びRは上記の中でも特に、水素原子、芳香族基、又は複素環基が好ましい。Rは、アルキル基、芳香族基、又は複素環基であり、中でも芳香族基が好ましい。Aは置換されていてもよい芳香族基又は複素環基であり、特には芳香族基が好ましい。ここで説明した各基は更に置換基を有していてもよく、これらの各基が更に置換基を有する場合、前記置換基は、以下のものが挙げられる。水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基、複素環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキル若しくはアリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキル若しくはアリールチオ基、複素環チオ基、アルキル若しくはアリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキル若しくはアリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、又はスルホン酸基等。)
〔ブラウン色材〕
C.I.リアクティブブラウン:1、2、7,8,9、11、17、18、21、31、32、33、46、47等。
(その他の成分)
染料インクは、上記で挙げた成分の他に、保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分を含有してもよい。染料インク中における保湿性固形分の含有量(質量%)は、染料インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、更には、3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
又、染料インクは、上記成分以外にも本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、種々の添加剤を含有してもよい。添加剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。尿素又はエチレン尿素等の含窒素化合物、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等を用いることができる。
<インクジェット記録方法>
本発明のインクセットを構成する各インクは、インクジェット記録方式でインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。インクジェット記録方法は、インクに力学的エネルギーを付与することによりインクを吐出する方法や、インクに熱エネルギーを付与することによりインクを吐出する方法等がある。特に、本発明のインクセットを構成する各インクは、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法に用いた場合に、顕著な効果を得ることができる。
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、本発明のインクセットを構成する各インクを収容するインク収容部を備えたものであることを特徴とする。
<記録ユニット>
本発明の記録ユニットは、本発明のインクセットを構成する各インクを収容するインク収容部と、前記インクを吐出する記録ヘッドとを備えたものであることを特徴とする。特に、記録ヘッドが、熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出する記録ユニットである場合に、顕著な効果を得ることができる。
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、本発明のインクセットを構成する各インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えたものであることを特徴とする。特に、記録ヘッドが、熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出するインクジェット記録装置である場合に、顕著な効果を得ることができる。
以下に、インクジェット記録装置の機構部の概略構成を説明する。インクジェット記録装置は、各機構の役割から、給紙部、搬送部、キャリッジ部、排紙部、クリーニング部、及びこれらを保護し、意匠性を持たせる外装部で構成される。以下、これらの概略を説明する。
図3は、インクジェット記録装置の斜視図である。又、図4及び図5は、インクジェット記録装置の内部機構を説明するための図であり、図4は右上部からの斜視図、図5はインクジェット記録装置の側断面図をそれぞれ示したものである。
給紙を行う際には、先ず、給紙トレイM2060を含む給紙部において所定枚数の記録媒体が、給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる(図3及び図5参照)。記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパーガイドフラッパーM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される(以上、図4及び図5参照)。
画像を形成する際には、キャリッジ部は記録ヘッドH1001(図6参照)を目的の画像形成位置に配置して、電気基板E0014(図4参照)からの信号に従って記録媒体にインクが吐出される。尚、記録ヘッドH1001についての詳細な構成は後述する。記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000(図4参照)が列方向に走査する主走査と、搬送ローラM3060(図4及び図5参照)が記録媒体を行方向に搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を形成する。このとき、記録媒体のひとつの単位領域に対して、記録ヘッドの1回の主走査によって画像を形成する画像形成方法が1パス記録である。又、記録媒体の単位領域に対して、記録ヘッドのn回の走査によって画像を形成する画像形成方法がnパス記録である(nは1以上である)。上記の単位領域とは、1画素や1バンド等のことであり、必要に応じて種々の領域として単位領域を設定することができる。ここで、1画素とは、解像度に対応した1画素のことであり、1バンドとは、1回の記録ヘッドの走査で形成される画像の領域のことである。本発明の効果を得る上では、1パス記録を含むようにインクジェット記録方法やインクジェット記録装置を構成することが特に好ましい。
最後に、記録媒体は、排紙部で第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ(図5参照)、搬送されて排紙トレイM3160(図3参照)に排出される。
クリーニング部は、記録ヘッドH1001のクリーニングを行う。クリーニング部は、キャップM5010(図4参照)を記録ヘッドH1001の吐出口に密着させた状態で、ポンプM5000(図4参照)を作動すると、記録ヘッドH1001からインク等を吸引する。又、キャップM5010を開いた状態で、キャップM5010に残っているインクを吸引すると、インクの固着やその他の弊害が起こらないようになっている。
(記録ヘッドの構成)
ヘッドカートリッジH1000の構成について説明する(図6参照)。ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクカートリッジH1900を搭載する手段、及びインクカートリッジH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有する。そして、ヘッドカートリッジH1000は、キャリッジM4000(図4参照)に対して着脱可能に搭載される。
図6は、ヘッドカートリッジH1000にインクカートリッジH1900を装着する様子を示した図である。インクジェット記録装置は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、淡マゼンタ、淡シアン、及びグリーンの各インクで画像を形成する。従って、インクカートリッジH1900も7色分が独立に用意されている。そして、図6に示すように、それぞれのインクカートリッジは、ヘッドカートリッジH1000に対して着脱可能となっている。尚、インクカートリッジH1900の着脱は、キャリッジM4000(図4参照)にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行うことができる。
図7は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図である。ヘッドカートリッジH1000は、記録素子基板、プレート、電気配線基板H1300、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800等で構成される。記録素子基板は第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101で構成され、プレートは第1のプレートH1200及び第2のプレートH1400で構成される。
第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソグラフィ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAl等の電気配線は、成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路も又、フォトリソグラフィ技術により形成されている。更に、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
図8は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101の構成を説明する正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインクを供給する記録素子の列(以下ノズル列ともいう)である。第1の記録素子基板H1100には、イエローインクのノズル列H2000、マゼンタインクのノズル列H2100、及びシアンインクのノズル列H2200の3色分のノズル列が形成されている。第2の記録素子基板H1101には、淡シアンインクのノズル列H2300、ブラックインクのノズル列H2400、グリーンインクのノズル列H2500、及び淡マゼンタインクのノズル列H2600、の4色分のノズル列が形成されている。
各ノズル列は、記録媒体の搬送方向に1,200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインクを吐出する。各吐出口における開口面積は、およそ100μmに設定されている。
以下、図6及び図7を参照して説明する。前記第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されている。ここには、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。更に、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持する。
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加する。この電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し、インクジェット記録装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有する。外部信号入力端子H1301は、カートリッジホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
インクカートリッジH1900を保持するカートリッジホルダーH1500には、流路形成部材H1600が、例えば、超音波溶着により固定され、インクカートリッジH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成する。インクカートリッジH1900と係合するインク流路H1501のインクカートリッジ側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。又、インクカートリッジH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
更に、カートリッジホルダー部と記録ヘッド部H1001とを接着等で結合することで、ヘッドカートリッジH1000が構成される。尚、カートリッジホルダー部は、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、及びシールゴムH1800から構成される。又、記録ヘッド部H1001は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される。
尚、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じた膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うサーマルインクジェット方式の記録ヘッドについて述べた。この代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、いわゆる、オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用することができる。
サーマルインクジェット方式は、オンデマンド型に適用することが特に有効である。オンデマンド型の場合には、インクを保持する液流路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、インクに膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応したインク内の気泡を形成できる。この気泡の成長及び収縮により吐出口を介してインクを吐出することで、少なくともひとつの滴を形成する。駆動信号をパルス形状とすると、即時、適切に気泡の成長及び収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
又、本発明のインクセットを構成する各インクは、前記のサーマルインクジェット方式に限らず、下記に述べるような、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置においても好ましく用いることができる。かかる形態のインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備えてなる。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクをノズルから吐出する。
インクジェット記録装置は、記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが分離不能に一体になったものを用いてもよい。更に、インクカートリッジは記録ヘッドに対して分離可能又は分離不能に一体化されてキャリッジに搭載されるもの、又、インクジェット記録装置の固定部位に設けられて、チューブ等のインク供給部材を介して記録ヘッドにインクを供給するものでもよい。又、記録ヘッドに対して、好ましい負圧を作用させるための構成をインクカートリッジに設ける場合には、以下の構成とすることができる。即ち、インクカートリッジのインク収容部に吸収体を配置した形態、又は可撓性のインク収容袋とこれに対してその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部とを有した形態等とすることができる。又、インクジェット記録装置は、シリアル型の記録方式を採るものが好ましいが、記録媒体の全幅に対応した範囲にわたって記録素子を整列させてなるラインプリンタの形態をとるものであってもよい。
次に、実施例、参考例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液Aの調製)
pH3.0の酸性カーボンブラック(商品名:MA−77;三菱化成製)300gを、水1000mlに添加してよく混合した。これに、次亜塩素酸ソーダ(有効塩素濃度12%)450gを滴下して、温度を100℃乃至105℃として10時間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗して、顔料ウェットケーキを得た。得られた顔料ウェットケーキを水3000mlに分散して、電導度が0.2μsとなるまで逆浸透膜を用いて脱塩して、pH8乃至10の顔料分散液を得た。得られた顔料分散液を、顔料濃度が10質量%となるまで濃縮して、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−COONa基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックAが水中に分散された状態の顔料分散液Aを得た。
(顔料分散液Bの調製)
5.5gの水に2.5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態でp−アミノ安息香酸0.8gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態にし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム0.9gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック9gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−COONa基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックBが水中に分散された状態の顔料分散液Bを得た。上記で調製した自己分散型カーボンブラックBのイオン性基密度を測定したところ、1.0μmol/mであった。この際に用いたイオン性基密度の測定方法は、上記で調製した顔料分散液中のナトリウムイオン濃度をイオンメーター(DKK製)を用いて測定し、その値から自己分散型カーボンブラックのイオン性基密度に換算した。
(顔料分散液Cの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態でp−アミノ安息香酸1.55gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−COONa基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックCが水中に分散された状態の顔料分散液Cを得た。上記で調製した自己分散型カーボンブラックCのイオン性基密度を、自己分散型カーボンブラックBと同様の方法で測定したところ、2.6μmol/mであった。
(顔料分散液Dの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノ−1,2−ベンゼンジカルボン酸1.5gを加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態にし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONa)基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックDが水中に分散された状態の顔料分散液Dを得た。上記で調製した自己分散型カーボンブラックDのイオン性基密度を、自己分散型カーボンブラックBと同様の方法で測定したところ、3.1μmol/mであった。
(顔料分散液Eの調製)
比表面積が210m/gでDBP吸油量が74mL/100gであるカーボンブラック10部、酸価が200で重量平均分子量が10,000のスチレン−アクリル酸共重合体を10質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和した樹脂20部、水70部を混合した。この混合物を、サンドグラインダーを用いて1時間分散した後、遠心分離処理を行って粗大粒子を除去し、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行った。上記の方法により、カーボンブラックが分散剤(樹脂)により水中に分散された状態の顔料分散液Eを得た。上記で得られた顔料分散液E中における顔料濃度は10質量%、分散剤(樹脂)濃度は20質量%、顔料分散液EのpHは10.0であり、顔料の重量平均粒子径は120nmであった。
<インクの調製>
下記表1に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、自己分散型顔料を含有するインク1〜4を調製した。
Figure 0005932198
<自己分散型顔料の凝集速度の検証>
(自己分散型顔料の平均粒径が変化する塩化ナトリウムの最小量の検証)
上記で得られた各インクについて、自己分散型顔料の平均粒径が変化する塩化ナトリウムの最小量を検証した。ここでは、インク4を例に挙げて、検証方法を具体的に記載する。
下記表2の上段に示す各成分を混合して、塩化ナトリウムの添加量がそれぞれ異なる各液体を調製した。そして、各液体中の自己分散型顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)を用いて測定した。得られた結果を表2の下段に示す。
Figure 0005932198
表2から明らかであるように、液体a〜eの塩化ナトリウムの添加量では自己分散型顔料の平均粒径が変化しなかった。一方、液体fの塩化ナトリウムの添加量(0.8g)としたときに、自己分散型顔料の平均粒径が変化することがわかった。この結果、インク4において自己分散型顔料の平均粒径が変化する塩化ナトリウムの最小量を含有する液体には、液体eが該当すると判断した。この液体eを、インク4の自己分散型顔料の平均粒径が変化する塩化ナトリウムの最小量を含有する液体4とした。
インク1〜3についても、上記と同様にして検証を行い、自己分散型顔料の平均粒径が変化する塩化ナトリウムの最小量を含有する液体1〜3をそれぞれ得た。液体1〜3中の塩化ナトリウムの含有量は、液体1が0.2g、液体2が0.5g、液体3が1.1gであった。尚、液体の番号は、インクの番号と対応している。
(蒸発による自己分散型顔料の平均粒径の変化)
上記で得られた液体1〜4(「初期の液体」とする)を、温度30℃、相対湿度10%の環境で静置して、液体中の水分を蒸発させた。そして、下記の式(A)により求められる蒸発率(%)が、30%、及び50%となった時点で、各液体中の自己分散型顔料の平均粒径を測定した。
Figure 0005932198
更に、初期の液体(即ち、蒸発率0%)、及び蒸発率30%の液体における自己分散型顔料の平均粒径の値から、下記式(1)により、平均粒径の増加率(A)を求めた。又、初期の液体(即ち、蒸発率0%)、及び蒸発率50%の液体における自己分散型顔料の平均粒径の値から、下記式(2)により、平均粒径の増加率(A)を求めた。
Figure 0005932198
Figure 0005932198
上記で得られた各値から、Aの値、Aの値、及び(5/3)×Aの値を求めた。又、各液体が、A≧15、及び、A>(5/3)×A、の関係を満たすか否かを調べた。得られた結果を表3に示す。尚、表3中の結果は、各関係を満たす場合を○とし、満たさない場合を×として示した。
Figure 0005932198
<各水溶性有機化合物の貧溶媒及び良溶媒の判定>
上記顔料分散液A〜D中の顔料に対して貧溶媒又は良溶媒として作用する水溶性有機化合物を選択するために、以下の実験を行った。先ず、上記顔料分散液(顔料濃度10質量%)を用いて、以下の配合比にて貧溶媒及び良溶媒の判定用の、分散液A及び水分散液Bを調製した。
(分散液の配合比)
〔分散液A〕
・各顔料分散液(顔料濃度10質量%) 50部
・表1に記載の各水溶性有機化合物 50部
〔水分散液B〕
・各顔料分散液(顔料濃度10質量%) 50部
・純水 50部
(判定方法及び判定結果)
次に、上記のようにして調製した分散液A及び水分散液B各10gを、それぞれ透明なガラス製フタつきサンプルビンに入れ、蓋をした後、十分撹拌し、これを60℃で48時間静置した。その後、常温に冷ました各分散液Aを測定用サンプルとして、分散液A中の顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)を用いて測定した。又、常温に冷ました各水分散液B中の顔料の平均粒径も、上記と同様にして測定した。60℃、48時間保存後の分散液A及び水分散液B中の顔料の平均粒径が、分散液Aの方が水分散液Bより大きくなる水溶性有機化合物を貧溶媒と判定した。又、60℃、48時間保存後の分散液Aの平均粒径が、水分散液Bと同等又はそれ以下になる水溶性有機化合物を貧溶媒でない、即ち良溶媒と判定した。
表4に、上記のようにして顔料の平均粒径を測定することで、各水溶性有機化合物について、貧溶媒又は良溶媒の何れか該当するかについての判定した結果を示した。表4中の結果は、顔料の平均粒径の増大が認められ、貧溶媒と判定された場合を○とし、顔料の平均粒径の増大が認められず、良溶媒と判定された場合を×として示した。
Figure 0005932198
<界面活性剤のHLB値及び構造>
界面活性剤のHLB値を求めた。具体的には、各界面活性剤の主成分について、グリフィン法(下記式(3))を用いて、HLB値を計算した。結果を表5に示す。
HLB=20×(界面活性剤の親水基の式量)/(界面活性剤の分子量) (3)
又、表5には、各界面活性剤の主成分の構造、界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルである場合はアルキル基の炭素原子の数及びアルキル基の名称、界面活性剤の構造が一般式(1)に該当する場合は、m、n、a、及びm+nの値も併せて示した。尚、表5中、エマルミン CC−100、エマルミン NL90、エマルミン NL70、及びエマルミン L380は三洋化成工業製の界面活性剤である。又、EMALEX 720、EMALEX 1615、EMALEX 1625、及びEMALEX 1815は日本エマルジョン製の界面活性剤である。又、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。
Figure 0005932198
<顔料インクの調製>
表6に示す各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、顔料インクP−1〜P−13を調製した。尚、表6中、エマルミン NL90、及びエマルミン L380は三洋化成工業製の界面活性剤である。又、EMALEX 720は日本エマルジョン製の界面活性剤である。又、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。
Figure 0005932198
<染料インクの調製>
表7に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、染料インクD−1〜D−10を調製した。尚、表7中、エマルミン CC−100、エマルミン NL90、及びエマルミン NL70は三洋化成工業製の界面活性剤である。又、EMALEX 1615、EMALEX 1625、及びEMALEX 1815は日本エマルジョン製の界面活性剤である。又、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。
Figure 0005932198
<評価>
(動的表面張力の測定)
上記で得られた各インクについて、25℃におけるインクの動的表面張力を測定した。測定には、最大泡圧法により測定を行う装置(Bubble Pressure Tesiometer BP2;KRUSS製)を用いた。顔料インクについては、(1)寿命時間50m秒及び(2)寿命時間5000m秒における動的表面張力を測定した。又、染料インクについては、(1)寿命時間50m秒及び(2)寿命時間500m秒における動的表面張力の値を測定して、更に(1)及び(2)における動的表面張力の差△γ[(1)−(2)]を求めた。顔料インクの動的表面張力の測定結果を表8に、又、染料インクの動的表面張力の測定結果を表9に、それぞれ示す。
Figure 0005932198
Figure 0005932198
(画像濃度、及び耐ブリーディング性の評価)
上記で得られた各顔料インク及び各染料インクをそれぞれインクカートリッジに充填した。そして、得られたインクカートリッジを、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置iP3100(キヤノン製)を改造したものに搭載した。その後、下記の記録媒体に画像(詳細は後述する)を形成した。
プリンタドライバはデフォルトモードを選択した。
・用紙の種類:普通紙
・印刷品質:標準
・色調整:自動
記録媒体は、下記の4種の普通紙を用いた。
・PPC用紙 オフィスプランナー(キヤノン製)
・PPC用紙 4024(ゼロックス製)
・PPC用紙 ブライトホワイト(ヒューレッドパッカード製)
・PPC用紙 ハンマーミルジェットプリント(インターナショナルペーパー製)
〔画像濃度〕
下記表10の左側に示す各顔料インクを用いて、2cm×2cmのベタ画像(記録デューティ100%の画像)を形成した。尚、インク1ドットあたりの吐出量は、24ng±10%以内とした。得られた記録物を1日放置した後、ベタ画像の画像濃度を、反射濃度計(商品名:マクベスRD−918;マクベス製)を用いて測定して、画像濃度の評価を行った。画像濃度の評価基準は以下の通りである。評価結果を表10に示す。
AAA:4紙の画像濃度の平均値が1.40以上であり、更に2紙以上の画像濃度が1.50以上であり、且つ4紙のうち画像濃度の最低値が1.35以上である
AA:4紙の画像濃度の平均値が1.40以上であり、更に1紙のみの画像濃度が1.50以上であり、且つ4紙のうち画像濃度の最低値が1.35以上である
A:4紙の画像濃度の平均値が1.40以上であり、且つ4紙の画像濃度の最低値が1.30以上1.35未満である
B:4紙の画像濃度の平均値が1.40以上であり、且つ4紙の画像濃度の最低値が1.25以上、1.30未満である
C:4紙の画像濃度の平均値が1.40未満であり、且つ4紙の画像濃度の最低値が1.25未満である
〔耐ブリーディング性〕
下記表10の右側に示す各顔料インク及び各染料インクを組み合わせてインクセットとして用いた。そして、顔料インクで記録デューティ100%として形成したベタ画像と、染料インクで記録デューティを100%、80%、及び50%としてそれぞれ形成したベタ画像とが隣接した画像を形成した。この際、顔料インク及び染料インクを1回の記録ヘッドの走査で同時に記録する、1パス記録で画像を形成した。尚、インク1ドットあたりの吐出量は、顔料インクを24ng±10%以内、染料インクを5ng±10%以内とした。得られた記録物における、顔料インクで形成した画像の領域と染料インクを用いて上記の各記録デューティでそれぞれ形成した画像の領域との境界部におけるブリーディングの程度を目視で確認して、耐ブリーディング性の評価を行った。耐ブリーディング性の評価基準は以下の通りである。染料インクの各記録デューティにおけるそれぞれの評価結果を表10に示す。
A:4紙全てにおいてブリーディングしていない
B:4紙のうち、紙種によってはブリーディングしているが、そのレベルは軽微である
C:4紙全てにおいてブリーディングしているが、許容できるレベルである
D:4紙のうち、紙種によっては画像の境界部がはっきりしないほどブリーディングしている
又、上記で行った染料インクの各記録デューティにおける耐ブリーディング性の評価結果から、耐ブリーディング性の総合評価を行った。総合評価の評価基準は以下の通りである。評価結果を表10に示す。
A:いずれの記録デューティにおいても耐ブリーディング性に優れている、又は、記録デューティによってはブリーディングしているが、許容できるレベルである
B:いずれの記録デューティにおいてもブリーディングしているが、許容できるレベルである
C:いずれの記録デューティにおいてもブリーディングしており、好ましくないレベルである
Figure 0005932198
表10より、塩及び/又は貧溶媒を含有し、且つ、本発明で規定する動的表面張力の特性を有する顔料インクを含む参考例1〜5、実施例6、参考例7〜18、及び、実施例19のインクセットは、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れることがわかった。又、特定の凝集速度を有する自己分散型顔料を含有する顔料インクを含む参考例4及び5のインクセットは、参考例2及び3のインクセットと比較して、より優れた画像濃度及び耐ブリーディング性が得られることがわかった。又、塩及び/又は貧溶媒、並びに特定の凝集速度を有する自己分散型顔料を含有し、且つ、本発明で規定する動的表面張力の特性を有する顔料インクを含む参考例5及び実施例6のインクセットは、画像濃度及び耐ブリーディング性に特に優れることがわかった。又、参考例1及び7を比較するとわかるように、顔料インクの寿命時間5000m秒における動的表面張力が40mN/m以下である顔料インクを含む参考例7のインクセットは、耐ブリーディング性が特に顕著に向上することがわかった。特に、参考例7のインクセットは、染料インクを高い記録デューティで付与する領域において特に顕著に生じる白もやを伴うブリーディングの発生が抑制されていることがわかる。又、参考例5及び8〜14を比較するとわかるように、染料インクの寿命時間50m秒及び500m秒における動的表面張力の差が大きい染料インクを含むインクセットほど、にじみを抑制する効果が大きいことがわかった。特に、染料インクの寿命時間50m秒及び500m秒における動的表面張力の差が大きい染料インクを含むインクセットほど、染料インクを高い記録デューティで付与する場合における耐ブリーディング性が向上することがわかった。又、参考例5、8〜12、及び15〜17を比較するとわかるように、染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が特定された染料インクを含むインクセットは、耐ブリーディング性が特に向上することがわかった。一方、顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が低い、塩及び/又は貧溶媒を含有しない、又は樹脂分散型顔料を含有する、各顔料インクを含む比較例1〜7のインクセットでは、十分な画像濃度及び耐ブリーディング性が得られないことがわかった。
顔料インクの動的表面張力が変化する状態の一例を示す図である。 液体の蒸発率と平均粒径の増加率の関係を示す図である。 インクジェット記録装置の斜視図である。 インクジェット記録装置の機構部の斜視図である。 インクジェット記録装置の断面図である。 ヘッドカートリッジにインクカートリッジを装着する状態を示す斜視図である。 ヘッドカートリッジの分解斜視図である。 ヘッドカートリッジにおける記録素子基板を示す正面図である。
符号の説明
M2041 分離ローラ
M2060 給紙トレイ
M2080 給紙ローラ
M3000 ピンチローラホルダ
M3030 ペーパーガイドフラッパー
M3040 プラテン
M3060 搬送ローラ
M3070 ピンチローラ
M3110 排紙ローラ
M3120 拍車
M3160 排紙トレイ
M4000 キャリッジ
M5000 ポンプ
M5010 キャップ
E0002 LFモータ
E0014 電気基板
H1000 ヘッドカートリッジ
H1001 記録ヘッド
H1100 第1の記録素子基板
H1101 第2の記録素子基板
H1200 第1のプレート
H1201 インク供給口
H1300 電気配線基板
H1301 外部信号入力端子
H1400 第2のプレート
H1500 カートリッジホルダー
H1501 インク流路
H1600 流路形成部材
H1700 フィルター
H1800 シールゴム
H1900 インクカートリッジ
H2000 イエローノズル列
H2100 マゼンタノズル列
H2200 シアンノズル列
H2300 淡シアンノズル列
H2400 ブラックノズル列
H2500 グリーンノズル列
H2600 淡マゼンタノズル列

Claims (10)

  1. 複数のインクを有するとともに、普通紙に記録を行うために用いられるインクセットであって、
    前記インクセットが少なくとも、顔料インク及び染料インクを有し、
    前記顔料インクが、少なくとも、水、界面活性剤、自己分散型顔料、及び、塩を含有し、
    前記界面活性剤が、グリフィン法により求められるHLB値が8.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、且つ、前記界面活性剤の含有量(質量%)が、顔料インク全質量を基準として、0.10質量%以上0.75質量%以下であり、
    前記塩が、Li、Na、K、アンモニウムイオン、及び、有機アンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の陽イオンと、Cl、Br、I、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、NO 、NO 、SO 2−、CO 2−、HCOO、CHCOO、C(COO、CCOO、及び、C(COOからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオンと、が結合して構成されるものであり、
    前記顔料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が47mN/mより高く53mN/m以下であり、且つ、寿命時間5000m秒における動的表面張力が28mN/m以上40mN/m以下であり、
    前記染料インクが、少なくとも、水、界面活性剤、及び染料を含有し、
    前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、
    前記染料インクの寿命時間50m秒における動的表面張力が42mN/m以上49mN/m未満であり、且つ、寿命時間50m秒における動的表面張力と寿命時間500m秒における動的表面張力との差が7mN/m以上であることを特徴とするインクセット。
  2. 前記顔料インクがさらに、以下の条件を満たす水溶性有機化合物を含有する請求項1に記載のインクセット。
    (条件)
    判定対象の水溶性有機化合物の含有量が50質量%、自己分散型顔料の含有量が5質量%、水の含有量が45質量%である組成の分散液A、及び、自己分散型顔料の含有量が5質量%、水の含有量が95質量%である組成の水分散液B、をそれぞれ60℃で48時間保存した後、常温に冷ましてから測定した、分散液A中の自己分散顔料の平均粒径(A)が、水分散液B中の自己分散顔料の平均粒径(B)よりも大きくなる。
  3. 前記水溶性有機化合物が、平均分子量1,000のポリエチレングリコール、平均分子量600のポリエチレングリコール、2−ピロリドン、1,5−ペンタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のインクセット。
  4. 前記染料インク中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、染料インク全質量を基準として、0.10質量%以上2.0質量%以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクセット。
  5. 前記インクセットが、インクジェット用である請求項1乃至の何れか1項に記載のインクセット。
  6. インクをインクジェット方法で吐出するインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1乃至の何れか1項に記載のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
  7. 前記インクジェット方法が、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法である請求項に記載のインクジェット記録方法。
  8. インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至の何れか1項に記載のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
  9. インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至の何れか1項に記載のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とする記録ユニット。
  10. インクを収容するインク収容部と、インクを吐出する記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至の何れか1項に記載のインクセットを構成する顔料インク及び染料インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
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