以下、図1〜図12を参照して、本発明の一実施形態による電磁クラッチについて説明する。電磁クラッチは、電磁コイルへの通電によって生じる電磁力により、回転駆動源からの動力を伝達および遮断する乾式単板クラッチである。以下では、一例として、エンジンからの動力を自動車用空調装置の圧縮機(冷媒圧縮機)に伝達および圧縮機への動力伝達を遮断する電磁クラッチについて説明する。
図1,2は、本実施形態に係る電磁クラッチ100の全体構成を示す側面図(一部断面図)である。なお、図1は、エンジンからの動力伝達を遮断した電磁クラッチ100のオフ状態を、図2は、エンジンからの動力を圧縮機へ伝達する電磁クラッチ100のオン状態をそれぞれ示す。
図1,2に示すように、電磁クラッチ100は、図示されない駆動源である車両エンジンによって回転駆動されて軸線L0を中心に回転するロータ1と、ステータ2内に収容されて保持された電磁コイル3と、電磁コイル3への通電によって発生した電磁力により、ロータ1の摩擦面10に吸着されるアーマチャ5と、アーマチャ5を構成部品として有し、圧縮機101に回転動力を伝えるハブ4とを備える。
なお、以下では、便宜上、図示のように軸線L0に平行な方向をD1方向およびD2方向と定義する。また、軸線L0に直交して放射状に延びる方向を径方向と定義する。さらに、軸線L0を中心とした円の周面に沿った方向を周方向とそれぞれ定義する。このような定義に従い各部の構成を説明する。D1方向側にはハブ4が配置され、D2方向側には圧縮機101が配置されている。径方向のうち、軸線L0に向かう方向は径方向内側であり、軸線L0から離れる方向は径方向外側である。図1,2では、図示が煩雑とならないように、断面図のうちロータ1およびステータ2のみにハッチングを付している。
ロータ1は、鉄等の磁性体により形成され、軸線L0を中心とする円筒部11および円筒部11よりも大径の円筒部12と、円筒部11と円筒部12のD1方向側の端部を接続する環状の側壁部13とを有する。すなわち、ロータ1は、D2方向側が開口された断面コ字形状を呈する。ロータ1のコ字部の内側には、ステータ2がロータ1から隙間を空けて収容され、ステータ2の周りをロータ1が回転可能となっている。
ロータ1の円筒部11の内周には、ベアリング14が配置されている。ロータ1は、ベアリング14によって圧縮機101のフロントハウジング(不図示)に回転可能に支持されている。側壁部13のD1方向側の端面には、アーマチャ5が吸着される摩擦面10が形成されている。円筒部12の外周面には、溶接などにより円筒形状のプーリ15が接合されている。プーリ15の外周面には、多重のV溝150が形成されている。V溝150には、図示しない多段式のVベルトが掛け渡され、Vベルトを介して伝達されたエンジンの回転動力により、ロータ1が回転する。
図3は、図1のステータ2の拡大図である。ステータ2は、ハウジング20と、スプール30と、温度ヒューズ40(図4、7)とを有する。ハウジング20は、鉄等の磁性体で形成される。スプール30は、電気絶縁性を有し、かつ、電磁コイル3の発熱に対する十分な耐熱性を有する樹脂を構成材として樹脂成形により形成される。一例として、スプール30には、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリプチレンテレフタレート等の樹脂を用いることができる。
図3に示すように、ハウジング20は、軸線L0を中心とする円筒部21および円筒部21よりも大径の円筒部22と、円筒部21と円筒部22のD2方向側の端部を接続する環状の側壁部23とを有する。すなわち、ハウジング20は、D1方向側が開口された断面コ字形状を呈し、コ字部の内側の収納空間SP1に電磁コイル3とともにスプール30が収容されている。
スプール30は、軸線L0を中心とする円筒部31と、円筒部31のD1方向側の端部から径方向外側に延在する平板状の側壁部32とを有する。円筒部31の外周面にはコイル線3aが巻回され、電磁コイル3が形成されている。すなわち、スプール30は、断面L字形状を呈し、円筒部121と側壁部122とによって形成された収納空間SP2に電磁コイル3が配置されている。コイル線3aは、例えば銅線であり、表面がポリ塩化ビニル等の絶縁層により被覆され、絶縁被膜が施されている。
ハウジング20内の収納空間SP1には、ハウジング20とスプール30および電磁コイル3との間の隙間を埋めるように電気絶縁性を有するエポキシ樹脂等の樹脂材が充填されている。すなわち、収納空間SP1に樹脂材が注入され、樹脂成形によって形成された樹脂部25により、スプール30と電磁コイル3はハウジング20の内側に固定されている。樹脂部25は、1次成形によりスプール30を形成した後、2次成形により形成される。樹脂部25の成形温度t1(例えば130〜140℃)は、スプール30の成形温度t2(例えば200℃以上)よりも低い。
スプール30の側壁部32は、収納空間SP2に面した第1壁面321と、収納空間SP2の反対側の第2壁面322とを有する。第2壁面322は、第1壁面321よりもロータ1の摩擦面10に近い。第2壁面322は、ハウジング20の円筒部21,22のD1方向側の端面211,221よりもD2方向側に位置している。樹脂部25のD1方向側の端面251は、円筒部21,22の端面211,221と軸線L0方向の位置が一致し、スプール30のD1方向側の端面は樹脂部25により覆われている(図4参照)。なお、図3では、円筒部21の端面211を円筒部22の端面221よりもD1方向側に位置させているが、端面211と端面221の軸線L0方向の位置を一致させてもよい。
図4は、ステータ2の正面図(D1方向側から見た図)である。図1,4に示すように、ハウジング20の側壁部23のD2方向側の端面には、円環状の支持部材24が接合されている。ステータ2(ハウジング20)は、支持部材24を介して圧縮機101のハウジングに固定されている。さらに、ハウジング20のD2方向側の端面には周方向一部にコネクタ26が設けられている。コネクタ26には、ハウジング20を貫通して電磁コイル3の端部(巻線端部)の端子が取り付けられている。この巻線端部の端子は、図示しない電源側の端子に接続され、巻線端部の端子を介して電磁コイル3が通電される。
図4に示すように、ステータ2のD1方向側の端部には、温度ヒューズ40が配置されている。温度ヒューズ40は、円筒形状の本体41と、本体41の両端部から突出する一対のリード線42,43(図7参照)とを有する。リード線42,43は、コイル線3aとは異なり、表面が絶縁被覆されていない。
図5は、温度ヒューズ40(本体41)の配置を示す図4のV-V線断面図である。図5に示すように、スプール30の側壁部32は、径方向中央部においてD2方向側に向けて直角に折れ曲がった後、径方向内側に向けて直角に折れ曲がり、円筒部31のD1方向側端部に接続されている。すなわち、スプール30の円筒部31と側壁部32とが交差する角部には、収納空間SP2に向けて断面L字形状の屈曲部33が形成され、屈曲部33とハウジング20の円筒部21とにより、収納空間SP2の反対側に凹部35が形成されている。
凹部35は、温度ヒューズ40の本体41の長さに対応して、スプール30の周方向一部に形成されている。凹部35には、軸線L0を中心とした円の接線方向に本体41(円筒)の中心軸が向かうように、本体41が収容されている(図4参照)。凹部35には、本体41のD2方向側の周面を覆うように樹脂材が充填され、樹脂部25により本体41が凹部35に固定されている。このため、図4に示すように、本体41のD1方向側の周面は樹脂部25で覆われず、本体41の一部が露出している。
図4,5に示すように、本体41は、樹脂部25の成形温度t1よりも低い所定温度t3で溶融する感温部材41aを内蔵し、感温部材41aの両端部に一対のリード線42,43がそれぞれ接続されている。各リード線42,43は、電磁コイル3に直列に接続され、温度ヒューズ40と電磁コイル3とにより直列の保護回路が形成されている。本体41の温度が所定温度t3以上になると、感温部材41aが溶融し、保護回路が遮断される。これにより、電磁コイル3への通電が阻止される。
温度ヒューズ40は、ロータ1の摩擦面10の温度を検出するために設けられる。したがって、本体41は、摩擦面10の温度の影響を受けやすい位置、例えば摩擦面10の近傍に配置されることが好ましい。この点、本実施形態では、スプール30の側壁部32に屈曲部33を形成するとともに、屈曲部33とハウジング20の円筒部21とにより凹部35を形成し、凹部35のD1方向側の端面を樹脂部25で覆わずに、凹部35に本体41を配置している。このため、ロータ1の側壁部13(図1)に面して本体41が配置されることとなり、ロータ1の摩擦面10の温度上昇を感度よく(応答性よく)検出することができる。すなわち、摩擦面10が温度上昇すると、その摩擦面10からの熱伝導によって側壁部13の温度が上昇するが、本体41を側壁部13に面して設けることにより、本体41の温度も速やかに上昇する。その結果、摩擦面10の過渡の温度上昇を早期に検出することができる。
図6は、ロータ1のD1方向側に配置されるハブ4の正面図(D1方向側から見た図)である。図1,6に示すように、ハブ4は、アーマチャ5と、インナーハブ6と、板ばね7と、ダンパ8とを一体に有する。
アーマチャ5は、軸線方向に所定厚さを有する板状部材であり、鉄等の磁性体を構成材とし、冷間鍛造加工等により形成される。アーマチャ5は、軸線L0を中心として環状に形成され、その外径は、ロータ1の外周面のV溝底面の径に等しく、内径はロータ1の円筒部11の内径に等しい。なお、アーマチャ5の外径を、ロータ1のV溝底面の径よりも大きくまたは小さくしてもよく、アーマチャ5の内径を、円筒部11の内径よりも大きくまたは小さくしてもよい。アーマチャ5のD2方向側の端面には、ロータ1の摩擦面10に対向して摩擦面50が形成されている。アーマチャ5のD1方向側の端面には、周方向3箇所に、かつ、径方向に2つ並んでそれぞれ円柱状の凸部51が形成されている。
インナーハブ6は、鉄等の金属を構成材とし、冷間鍛造加工等により形成される。インナーハブ6は、軸線L0を中心とした円筒部61と、円筒部61のD1方向側の端部から径方向外側に延在するフランジ部62と、円筒部61のD1方向側の端部から径方向内側に延在するフランジ部63と、フランジ部63の中央部に開口された貫通孔64とを有する。フランジ部62の外径は、アーマチャ5の内径よりも小さい。
フランジ部62のD1方向側の端面には、周方向3箇所に凹部65が設けられている。フランジ部62には、周方向に隣り合う凹部65の間に、周方向等間隔に取付孔66が開口されている。円筒部61の内周面には、スプライン等の回転伝達機構を介してD2方向側から圧縮機101の回転軸102が嵌合する。回転軸102の先端(D1方向側端面)には、軸線L0方向に沿ってボルト孔103が設けられている。フランジ部63の貫通孔64を貫通したボルト104をボルト孔103に螺合させることで、インナーハブ6が回転軸102に締結される。
板ばね7は、全体が軸線L0を中心とした円板形状を呈し、軸線L0方向に弾性変形可能な所定厚さの板状の弾性金属材により形成される。板ばね7は、中心部に開口された円形の中心孔71と、インナーハブ6に当接する内周部72と、アーマチャ5のD1方向側の端面に当接する外周部73と、内周部72と外周部73とを径方向に繋ぐ、周方向等間隔に設けられた複数個(ここでは3個)の連結部74とを有する。
板ばね7の外周部73には、アーマチャ5の凸部51に対応して複数の貫通孔が設けられている。これら貫通孔を貫通した凸部51の先端部を押し潰すことにより、アーマチャ5と板ばね6が一体に結合されている。すなわち、凸部51は、アーマチャ5と板ばね6とを結合するリベットとしての機能を有する。板ばね7の内周部72には、インナーハブ6の取付孔66に対応して複数の貫通孔が設けられている。これら貫通孔を貫通したリベット75の先端部を押し潰すことにより、インナーハブ6と板ばね7が一体に結合されている。
さらに板ばね7は、隣り合う連結部74の周方向中間部において、外周部73の径方向内側縁部から径方向内側に向かって舌状に延びる舌状部76を有する。舌状部76は、径方向内側および周方向両側の3方向に枝分かれした形状を呈する。舌状部76の径方向内側に延びる部位は圧縮部を構成し、ダンパ8をインナーハブ6側に圧縮する。舌状部76の周方向両側に延びる部位は押圧部を構成し、ダンパ8をアーマチャ5側に押し付ける。板ばね7は、これら圧縮部と押圧部を除いて平らな平板状に形成されている。
ダンパ8は、ゴム等の弾性体を構成材として、板ばね7の舌状部76と一体成形により形成されている。すなわち、ダンパ8は、舌状部76の位置に対応して周方向3箇所に配置されている。ダンパ8は、インナーハブ6のフランジ部62と板ばね7との間で圧縮され、アーマチャ5の摩擦面50がロータ1の摩擦面10に衝突する際の衝撃を緩和する。
以上のように構成された電磁クラッチ100の動作を説明する。エンジンからの回転動力によりロータ1が回転している状態で、電磁クラッチ100のオン動作が指令されると、ハウジング20のコネクタ26に配置された端子を介して電磁コイル3が通電される。この電磁コイル3の通電により、ハウジング20からロータ1およびアーマチャ5を経てハウジング20に戻る磁気回路を磁束が流れる。
これにより図2に示すように、ロータ1の摩擦面10とアーマチャ5の摩擦面50との間に電磁吸引力(電磁力)が発生し、アーマチャ5は、板ばね7のD1方向の弾性力に抗して摩擦面10に吸引される。この吸引力により、アーマチャ5がロータ1の摩擦面10に吸着され、ロータ1とハブ4が一体に回転する。その結果、ハブ4を介して圧縮機101の回転軸102に回転力が伝達され、圧縮機101が作動する。このとき、電磁コイル3への通電により電磁コイル3が発熱する。本実施形態では、温度ヒューズ40がスプール30を挟んで電磁コイル3の反対側(D1方向側)に配置されているため(図5)、電磁コイル3の発熱による温度ヒューズ40の温度上昇は小さい。したがって、温度ヒューズ40の温度は所定温度t3未満に保たれる。
その後、電磁クラッチ100のオフ動作が指令されると、電磁コイル3への通電が遮断され、アーマチャ5に作用する電磁吸引力が解除される。これにより、図1に示すように、アーマチャ5は板ばね7の付勢力によりD1方向に変位し、アーマチャ5の摩擦面50がロータ1の摩擦面10から離間し、摩擦面10,50間に所定量Δgの空隙が生じる。この状態では、エンジンからの回転動力はロータ1に伝達されるだけで、ハブ4には伝達されない。このため、圧縮機101の回転軸102への動力伝達が遮断され、圧縮機101の作動が停止する。
以上は、圧縮機101が正常状態である場合の動作である。これに対し、圧縮機101が焼き付き等の故障を発生して回転軸102がロックすると、電磁クラッチ100は以下のように動作する。すなわち、圧縮機101の異常時に、電磁クラッチ100のオン動作が指令されると、図2に示すようにアーマチャ5がロータ1に吸着されたまま、ハブ4が回転不能となる。これにより、ロータ1の摩擦面10とアーマチャ5の摩擦面50とが接触しながら、ロータ1はアーマチャ5上を回転し、摩擦熱によって摩擦面10の温度が急激に上昇する。
このとき、摩擦面10の温度上昇に伴い、温度ヒューズ40の本体41の温度が速やかに上昇し、本体41内の感温部材41aの温度は所定温度t3以上となる。このため、感温部材41aが溶融し、電磁コイルへ3の通電が阻止される。これにより、アーマチャ5に作用する電磁吸引力が解除され、板ばね7の付勢力によりアーマチャ5の摩擦面50がロータ1の摩擦面10から離れる。その結果、圧縮機101の回転軸101への動力伝達が阻止される。
以上のように構成された電磁クラッチ100においては、予め温度ヒューズ40のリード線42,43と電磁コイル3とを電気的に直列に接続する必要がある。この場合、リード線42,43と電磁コイル3のコイル線3aとを、例えば金属クランプ等の接続部材を介して接続するようにしたのでは、部品点数が増加し、コストの上昇を招く。
一方、コイル線3aは、表面が絶縁層により被覆されているため、リード線42,43とコイル線3aとを接続するためには、コイル線3aの表面の絶縁皮膜を除去する必要がある。絶縁皮膜を除去する方法として、例えば次の第1〜第3の方法がある。第1の方法は、刃物等によりコイル線3aの表面を機械的に除去する方法である。第2の方法は、端子の間にコイル線3aを挟んで加圧しながら端子に電流を流すことでコイル線3aを発熱させて、皮膜を除去する方法(いわゆるヒュージング)である。第3の方法は、圧接端子によりコイル線3aに圧接力を付与して強制的に皮膜を破る方法である。
しかしながら、第1の方法では、接続作業の前に皮膜の除去作業が別途必要となるため、加工コストが上昇する。第2の方法では、ヒュージング用の端子を準備する必要があるため、加工コストが上昇する。第3の方法では、コイル線3aとリード線42,43の導通を十分に確保できないおそれがある。
そこで、本実施形態では、部品点数の増加を抑えるとともに、皮膜の除去作業を不要とし、かつ、コイル線3aとリード線42,43の導通を確実に確保できるようにするため、以下のようにレーザ溶接によりリード線42,43とコイル線3aとを接続する。さらに、本実施形態では、レーザ溶接の作業性を向上するため、以下のように溶接作業時にリード線42,43とコイル線3aとを溶接位置に支持する。
図7,8は、本実施形態の特徴的構成を示すスプール30の正面図(D1方向から見た図)である。なお、図7は、リード線42,43とコイル線3aとをレーザ溶接により接続する状態を示し、図8は、レーザ溶接後に、コイル線3aの一部を切断した状態を示す。図7、8では、温度ヒューズ40の本体41が側壁部32の凹部35に配置されており、温度ヒューズ40の一対のリード線42,43は、円筒状の本体41の長手方向中心軸に沿って本体41の両端部からそれぞれ突出している。図7,8において、スプール30の中心(軸線L0)と凹部35の周方向中心部とを通る直線をL1とすると、スプール30は、直線L1に対し対称形状を呈する。
図7に示すように、温度ヒューズ40は、側壁部32の収納空間の反対側に形成された設置領域ARに、第2壁面322に面して設置されている。すなわち、設置領域ARの中央部(中央領域AR0)に温度ヒューズの本体40が配置され、中央領域AR0の周方向両側の第1領域AR1および第2領域AR2に、それぞれリード線42,43が配置されている。中央領域AR0には凹部35が設けられ、本体40は凹部35に収納されている。
側壁部32の第2壁面322には、第1領域AR1および第2領域AR2において、D1方向に向けてそれぞれ円柱状のピン部36が突設されている。より具体的には、ピン部36は、凹部35を挟んで周方向両側に、かつ、側壁部32の径方向中央部よりも外径側(軸線L0を中心とした円CR上)に位置する。温度ヒューズ40のリード線42,43は、これらピン部36の径方向内側に、ピン部36と干渉することなく配置されている。
図9は、図7の矢視IX図である。なお、図9には、ピン部36の周囲に充填される樹脂部25の端面251(図3参照)を、参考のために点線で示している。図9に示すように、ピン部36の基端側(D2方向側)外周面には、断面V字形状の切り欠き361が設けられている。切り欠き361は、ピン部36の外周面のうち、軸線L0を中心とした径方向外側の外周面のみに設けられ、切り欠き361にコイル線3aが係合している。ピン部36の高さ(軸線L0方向長さ)H1は、樹脂部25(点線)の高さH0よりもやや(例えば1mm程度)短い。なお、ピン部36の高さH1を樹脂部25の高さH0と同一としてもよい。
図10は、図7のX-X線断面図である。図7,10に示すように、各ピン部36の周方向外側の第1領域AR1および第2領域AR2には、第2壁面322よりもD2方向に膨出した膨出部323がそれぞれ設けられている。膨出部323は、側壁部32の径方向外側端部(外縁部)から径方向中央部にかけて突設され、その全域において、第2壁面322よりも所定高さH2だけ膨出している。膨出部322の高さH2は、ピン部36の高さH1よりも短い。なお、膨出部322の高さH2をピン部36の高さH1と同一としてもよい。
図7に示すように、各膨出部322の径方向内側には、それぞれ薄板状の一対のガイド部37がD1方向に向けて突設されている。一対のガイド部37は、互いに周方向に離れて設けられている。第1領域AR1および第2領域AR2の一対のガイド部37の間に、リード線42とコイル線3aおよびリード線43とコイル線3aとを接合するための第1接合領域AR10および第2接合領域AR20がそれぞれ形成されている。
図10に示すように、ガイド部37は、側壁部32の第2壁面322から径方向外側にかけて斜めに立ち上がり、その径方向外側端部は膨出部323と同一高さとなり、膨出部323に連なっている。このようにガイド部37を斜めに立ち上げて膨出部323に連設することで、薄板状のガイド部37の強度を担保できる。各ガイド部37のD1方向側端面(テーパ面372)には、それぞれ円弧状の溝部371が設けられている。各溝部371は、ガイド部37の頂部近傍(径方向外側端部)に設けられている。テーパ面372に溝部371を設けたことにより、溝部371の径方向外側の縁部371aは、溝部371の径方向内側の縁部371bよりもD1方向側に位置し、溝部371はD1方向側および径方向内側が開放されている。
図7に示すように、第1領域AR1の一対の溝部371とピン部36の切り欠き361、および第2領域AR2の一対の溝部371とピン部36の切り欠き361は、それぞれ直線上に位置する。各溝部371には、リード線42,43のいずれか一方とコイル線3aがそれぞれ挿入されている。図10に示すように、コイル線3aは表面が皮膜されているため、コイル線3aの直径はリード線42,43の直径よりも大きい。溝部371の曲率半径はコイル線3aの半径よりも大きく、溝部371の底面に沿ってコイル線3aとリード線42,43が並んで配置されている。
このように側壁部32の第2壁面322からガイド部37を突設することにより、第1接合領域AR10と第2接合領域AR20において、リード線42,43とコイル線3aとが第2壁面322から所定距離Da(図10)だけ離れて支持される。なお、図7では、溝部371をガイド部37の径方向外側端部に設けたが、溝部371をこれよりも径方向内側に設けてもよい。これによりリード線42,43とコイル線3aとを膨出部323から十分に離して配置できる。
図7に示すように、側壁部32の径方向外側端部(外縁部)には、コイル線3aを設置領域AR側に導くための一対の導入部38が設けられている。導入部38は、各膨出部322の周方向外側に位置し、切り欠きによって構成されている。この導入部38を介してコイル線3aが、収納空間SP3の反対側の設置領域ARに導かれている。設置領域ARでは、コイル線3aは、第1領域AR1のガイド部37の溝部371とピン部36、および第2領域AR2のピン部36とガイド部37の溝部371を順次経由し、第1領域AR1の導入部38から第2領域AR2の導入部38にかけて架設されている。これによりコイル線3aが、設置領域ARにおいて所定位置に支持される。この際、コイル線3aはピン部36で屈曲されるが、その屈曲角度θは90度よりも小さい。
このように側壁部32の第2壁面322に面してコイル線3aを架設することで、コイル線3aは、一対のピン部36の間において温度ヒューズ40の本体41の径方向外側を通り、本体41と干渉することなくリード線42,43と平行に延在する。また、コイル線3aは、第1接合領域AR10および第2接合領域AR20において、側壁部32の第2壁面322から離間し、かつ、第2壁面322に平行に延在する。
側壁部32の第2壁面322には、ピン部36以外にも、周方向複数(ここでは6本)の円柱状のピン部39がD1方向に向けて突設されている。図11は、図7の矢視XI図である。図11に示すように、ピン部39にはピン部36のような切り欠き361は設けられていない。この切り欠き361の有無の点を除き、ピン部36とピン部39は同一形状を呈しており、ピン部39の高さH4とピン部36の高さH1は同一である。ピン部36,39は、スプール30の周囲に樹脂部25を成形するときにスプール30の位置を拘束する位置拘束部として機能する。
図7に示すように、ピン部36,39は、軸線L0を中心とした円CR上に配置されている。ピン部39は、一対のピン部36に対応してそれぞれ対をなして配置されている。すなわち、ピン部39は、3つの対をなすピン部39a,39b,39cであり、一対のピン部39a間の距離、一対のピン部39b間の距離、および一対のピン部39c間の距離は、それぞれ一対のピン部36間の距離に等しい。これら一対のピン部36,39a〜39cの中間点(4点)をそれぞれPaとすると、これら中間点Paは、互いに周方向等間隔(90度間隔)に位置し、一対のピン部36,39a〜39cは周方向均等に配置されている。なお、各ピン部36,39を周方向均等に配置してもよい。
本実施形態に係る電磁クラッチ100の特徴的な製造方法について説明する。なお、以下では、主にステータ2の製造方法について主に説明する。
予め1次成形によりスプール30を形成する。1次成形においては、スプール30に、ピン部36,39、膨出部322およびガイド部37等を一体に成形する。このスプール30の円筒部31の周囲にコイル線3aを券回し、収納空間SP2に電磁コイル3を収納する。コイル線3aの券回時には、導入部38を介してコイル線3aの一部を収納空間SP2の反対側の設置領域ARに取り出す。そして、図7に示すように、コイル線3aを、凹部35の径方向外側を通り、第1領域AR1の導入部38から第2領域AR2の導入部38にかけて掛け回す。すなわち、第1領域AR1の一対の溝部371、ピン部36の切り欠き361、第2領域AR2のピン部36の切り欠き361および一対の溝部371を経由し、側壁部32の第2壁面322に面してコイル線3aを支持する。
側壁部32の導入部38およびピン部36の切り欠き361は、溝部37よりも径方向外側に位置する。このため、図10に示すように、コイル線3aは溝部371の径方向外側部に当接した状態で配置され、溝部371内におけるコイル線3aの位置が規制される。この場合、溝部371の径方向外側の縁部371aは径方向内側の縁部371bよりもD1方向側に位置し、溝部371はD1方向側および径方向内側が開放している。このため、導入部38から径方向内側に向けて取り出したコイル線3aを、導入部38とピン部36との間で、ガイド部37のテーパ面372に沿って溝部371に容易に挿入させることができる。コイル線3aが溝部371の径方向外側部に当接して配置されることにより、溝部371の底面の径方向内側には、コイル線3aに隣接してリード線42,43を収容するための空間SP3が形成される。
次に、スプール30の第2壁面322を鉛直上方に向けた状態で、温度ヒューズ40の本体41を中央領域AR0の凹部35に収納する。さらに、各リード線42,43をそれぞれ一対の溝部371に挿入する。すなわち、図10に示すように、溝部371の底面の径方向内側に形成された空間SP3に、コイル線3aに隣接してリード線42,43を配置する。これにより図7に示すように、第1接合領域AR10および第2接合領域AR20において、コイル線3aの径方向内側の周面に隣接してリード線42,43が配置される。このとき、各リード線42,43は、第1接合領域AR10および第2接合領域AR20の手前で屈曲されるが、その屈曲角は90度よりも小さい。したがって、リード線42,43に作用する曲げ応力は小さい。
次に、一対のガイド部37の間の第1接合領域AR10および第2接合領域AR20におけるコイル線3aとリード線42,43の接合箇所にレーザを照射し、レーザ溶接によりコイル線3aとリード線42,43とを接合する。すなわち、第1接合領域AR10および第2接合領域AR20におけるコイル線3aの溶接部3b1,3b2を介して、コイル線3aをリード線42,43に接合する。レーザ溶接(熱伝導型レーザ溶接)では、材料表面でレーザが吸収され、光が熱に変換されることで熱エネルギーが材料内に伝導する。このレーザ溶接による熱でコイル線3aが発熱し、コイル線3aの表面の皮膜が除去される。このため、皮膜除去作業を別途行う必要がなく、コイル線3aとリード線42,43との接合が容易である。
また、コイル線3aとリード線42,43はガイド部37によって支持されているため、これらの位置を固定した状態でレーザ溶接を行うことができ、溶接作業が容易である。コイル線3aとリード線42,43は、側壁部32の第2壁面322から浮いた状態で溶接されるため、溶接時の熱によってスプール30が溶融することを防止できる。溶接領域(第1接合領域AR10,第2接合領域AR20)は、温度ヒューズ40の本体41から離れているため、溶接時の熱によって温度ヒューズ40が誤作動することも防止できる。
コイル線3aとリード線42,43の接合が終了すると、工具を用いて第1領域AR1の溶接部3b1と第2領域AR2の溶接部3b2との間で、コイル線3aを切断する。例えば図8に示すように、第1領域AR1の接合部3b1とピン部36の間の切断部3c、および第2領域AR2の接合部3b2とピン部36の間の切断部3cで、それぞれコイル線3aを切断する。これにより電磁コイル3に対して温度ヒューズ40が直列に接続される。以上により、電磁コイル3と温度ヒューズ40とがスプール30に一体に取り付けられる。
次に、スプール30をハウジング20の収納空間SP1に収納し、ハウジング20の側壁部23を貫通して電磁コイル3のコイル線3aの端部をコネクタ26に取り付ける。この状態で、2次成形により、ハウジング20とスプール30との間に樹脂材を充填し、樹脂部25を形成する。図12は、2次成形の工程を説明する断面図である。図12に示すように、2次成形時には、ハウジング20の円筒部21,22のD1方向側端面211,221を鉛直上方に向けた状態で、ハウジング20の上方に成形型110を載置する。成形型110は、樹脂部25の端面251(図3)に対応した底面を有するものであればよく、例えば円板形状やリング形状のものを用いることができる。
成形型110には、予め樹脂注入口111が開口されている。樹脂注入口111は、例えば180度間隔で周方向2箇所に、かつ、円筒部21と円筒部22の径方向中間位置に対応して軸線L0方向に貫通して設けられる。この樹脂注入口111が、図8に示すように凹部35の位相から90度離れた位相に配置されるように、スプール30に対して成形型110をセットする。さらに、成形型110の底面には、温度ヒューズ40の本体41の上方(D1方向側)に樹脂が流れ込まないように(図5参照)、凹部35に対応する位置に突起部112が設けられている。ハウジング20の上方に成形型110をセットした状態では、成形型110の底面がハウジング20の円筒部21,22の端面211,221に当接し、成形型110の底面とピン部36,39との間には微小の隙間がある。なお、成形型110の底面とピン部36,39とを隙間なく当接させてもよい。
この状態で、成形型110の樹脂注入口111を介して、ハウジング20の内側の収納空間SP1に樹脂を注入する。注入された樹脂は、側壁部32の第2壁面322に沿って下方に流れ、ハウジング20とスプール30および電磁コイル3との間の隙間を埋めて、樹脂部25となる。これにより、スプール30が電磁コイル3とともにハウジング20の内側に固定される。樹脂注入時には樹脂の流れによって側壁部32に、例えば側壁部32を径方向外側に広げるような力が作用し、スプール30を変形させようとする。このとき、ピン部36,39の先端が成形型110の底面に当接する。これにより、ピン部36,39の位置が拘束され、スプール30の変形を阻止することができ、スプール30を所望の姿勢に保ったままハウジング20内にスプール30を固定することができる。
本実施形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)電磁コイル3の収納空間SP2の反対側(D1方向側)の第1接合領域AR10および第2接合領域AR20において、レーザ溶接によりコイル線3aと温度ヒューズ40の一対のリード線42,43とを接合するようにした。これにより、コイル線3aとリード線42,43とを接続するための接続部材(金属クランプ等)を別途設ける必要がなく、部品点数の増加が抑えられ、コストの上昇を抑えることができる。また、レーザ溶接による熱でコイル線3aの表面の皮膜が除去されるため、コイル線3aの皮膜除去作業を別途行う必要がなく、コイル線3aとリード線42,43との接合が容易である。レーザ溶接による熱でコイル線3aの皮膜を十分に除去することができるため、コイル線3aとリード線42,43の安定した導通状態を確保できる。
(2)スプール30の側壁部32の第2壁面322からピン部36およびガイド部37を突設し、ピン部36およびガイド部37を経由してコイル線3aを支持するようにした(図7)。すなわち、コイル線3aと一対のリード線42,43との溶接時に、コイル線3aがリード線42,43に沿って、かつ、リード線42,43に隣接して配置されるように、コイル線3aを支持するようにした。これによりコイル線3aを固定した状態で、コイル線3aにリード線42,43を溶接することができ、溶接作業が容易である。
(3)レーザ溶接によりコイル線3aとリード線42,43を接合するので、母材(スプール30)への入熱量が少なく、かつ、制御もしやすい。このため、精度の要する溶接を高速かつ容易に行うことができる。
(4)側壁部32の第2壁面322から突設されたガイド部37に溝部371を設け、溝部371にコイル線3aと一対のリード線42,43を挿入するようにした。これにより、コイル線3aとリード線42,43を側壁部32の第2壁面321から離れて支持することができる。したがって、樹脂成形品である側壁部32が、溶接時の熱によって溶融することを防止できる。また、コイル線3aとリード線42,43を互いに隣接して支持することができ、コイル線3aとリード線42,43の溶接が容易である。
(5)第1領域AR1および第2領域AR2にそれぞれガイド部37を一対設け、各ガイド部37の溝部371にコイル線3aとリード線42,43を挿入するようにした。そして、一対のガイド部37の間の第1接合領域AR10および第2接合領域AR20で、コイル線3aとリード線42,43を溶接するようにした。これにより第1接合領域AR10および第2接合領域AR20の所定長さにわたってコイル線3aとリード線42,43とを隣接した状態で保持することができる。したがって、コイル線3aの溶接部3b1,3b2を所定長さにわたって形成することができ、コイル線3aとリード線42,43の十分な接合強度を得ることができる。
(6)ガイド部37の端面に、スプール30からテーパ状に立ち上がるテーパ面372を形成し、テーパ面372に溝部371を設けるようにした。これにより、電磁コイル3の収納空間SP2の反対側でコイル線3aを掛け回す際に、コイル線3aをテーパ面372に沿って滑らせながら溝部371に挿入することができ、コイル線3aの掛け回しが容易である。
(7)スプール30の側壁部32の外縁部に導入部38を設け、導入部38を介して、コイル線3aを収納空間SP2から第1領域AR1および第2領域AR2に導くようにした。第1領域AR1および第2領域AR2には一対のリード線42,34が配置されるため、第1領域AR1および第2領域AR2におけるコイル線3aとリード線42,43との溶接が可能となる。
(8)側壁部32の第2壁面321からD1方向に向けてピン部36を突設し、ピン部36を経由してコイル線3aを第1領域AR1の導入部38から第2領域AR2の導入部38にかけて架設するようにした。これにより温度ヒューズ40の設置領域ARに沿ってコイル線3aを配置することができ、コイル線3aとリード線42,43の溶接が容易となる。
(9)第1領域AR1および第2領域AR2においてそれぞれピン部36を突設し、第1領域AR1のピン部36と導入部38との間、および第2領域AR2のピン部36と導入部38との間にそれぞれ第1接合領域AR10、第2接合領域AR20を形成した。これにより第1領域AR1のピン部36と第2領域AR2のピン部36の間で、コイル線3aを温度ヒューズ40の本体41と干渉することなく、かつ、リード線42,43の突出方向に平行に配置することができる。したがって、第1接合領域AR10および第2接合領域AR20において、リード線42,43の屈曲角を大きくすることなく、コイル線3aとリード線42,43とを互いに隣接して配置することができる。
(10)側壁部32の第2壁面322からD1方向に向けて、同一高さの周方向複数のピン部36,39を突設するようにした。そして、樹脂部25の2次成形時には、ピン部36,39の先端面に対向して成形型110を配置し、スプール30の周囲に樹脂を注入する。これにより、樹脂の注入時に、ピン部36,39が成形型110の端面に当接してピン部36,39の位置が拘束されるため、スプール30の変形を抑えることができ、スプール30をハウジング20内の所望の位置に、かつ、所望の姿勢で配置することができる。
(11)ピン部36に切り欠き361を設け、切り欠き361を経由してコイル線3aを掛け回すようにした。すなわち、溶接作業時のコイル線3aの案内用に設けられたピン部36(コイル線案内用ピン部)と、2次成形時のスプール30の位置拘束用に設けられたピン部36(位置拘束用ピン部)とを兼用するようにした。これによりピン部36,39の全体の設置スペースを節約することができる。
(12)側壁部32の収納空間SP2の反対側における第2壁面322に面して、温度ヒューズ40の設置領域ARを形成するようにした。第2壁面322は、収納空間SP2側の第1壁面321よりもロータ1の摩擦面10に近いため、摩擦面10の温度上昇に伴い温度ヒューズ40の本体41の温度も速やかに上昇する。したがって、摩擦面10の所定温度t3以上の温度上昇を、温度ヒューズ40により速やかに検出することができ、圧縮機100の故障時に電磁コイル3への通電を早期に遮断することができる。また、温度ヒューズ40と電磁コイル3との間に側壁部32が介在するため、温度ヒューズ40は、電磁コイル3の温度の影響を受けにくく、温度ヒューズ40の誤作動を防止できる。
(変形例)
本実施形態の変形例として以下のようなものが考えられる。上記実施の形態(図1)では、ロータ1を断面コ字状に形成したが、ロータ1の構成はこれに限らない。したがって、ロータ1の形状に応じて定まるステータ2の構成、すなわち、ハウジング20やスプール30の構成も上述したものに限らない。
上記実施の形態(図3)では、軸線L0を中心とした円筒部31と、円筒部31のD1方向側端部から径方向外側に延在する側壁部32とによりスプール30を構成し、電磁コイル3を保持するようにしたが、スプール30(コイル保持部)の構成はこれに限らない。スプール30は、断面L字形状以外(例えば断面コ字形状)であってもよい。
電磁コイル3への通電によって発生した電磁力によりロータ1の摩擦面10(被吸着部)に吸着されるのであれば、アーマチャ5の構成もいかなるものでもよい。上記実施の形態(図1,6)では、アーマチャ5とインナーハブ6と板ばね7とダンパ8によりハブ4を構成したが、回転力を圧縮機101等の従動側機器に伝達することができるのであれば、ハブ4の構成は上述したものに限らない。例えば、ゴム製の弾性部材を介してアーマチャ5を、インナーハブ6と一体の金属性の保持部材等に連結するようにしてもよい。
上記実施の形態では、温度ヒューズ40によりロータ1の摩擦面10の過渡の温度上昇を検出し、電磁コイル3への通電を阻止するようにした。すなわち、摩擦面10の近傍に設けられた本体41と、本体41の両端部から突出する一対のリード線42,43とを有する温度ヒューズ40を用いるようにした。このような本体41とリード線42,43とを有し、本体41の温度が所定温度t3まで上昇すると一対のリード線42,43に連なる本体41内の回路を遮断するのであれば、他の回路遮断部(例えばバイメタルのような熱反応スイッチ等)を用いてもよい。ここで、摩擦面10の近傍としては、側壁部32よりも摩擦面10に近ければよく、例えば摩擦面10側(D1方向側)のステータ2の端部である。
上記実施の形態(図8)では、溶接部3b1,3b2を介してコイル線3aとリード線42,43とをそれぞれレーザ溶接により接合するようにした。そして、これら溶接部3b1,3b2の間の切断部3cでコイル線3aを切断し、電磁コイル3を電気ヒューズ40に直列に接続するようにした。これにより、コイル線3aが一対の溶接部3b1,3b2(第1溶接部、第2溶接部)と、切断部3cとを有するものとなる。溶接部3b1,3b2は、レーザ溶接以外の溶接(例えば導電性の溶融金属を用いた溶接)によっても形成することができる。この場合にも、金属クランプ等の接続部材を用いることなく、かつ、コイル線3aの皮膜の除去作業を必要とすることなく、コイル線3aとリード線42,43とを確実に接合することができる。
上記実施の形態(図7)では、側壁部32の第2壁面322からピン部36とガイド部37を突設し、これらピン部とガイド部を介してコイル線を支持するようにした。すなわち、コイル線3aとリード線42,43との溶接時に、コイル線3aがリード線42,43に沿って、かつ、リード線42,43に隣接して配置されるようにコイル線3aを支持するようにした。このようにコイル線3aを支持するのであれば、スプール30に設けられるコイル線支持部の構成は、上述したものに限らない。
上記実施の形態(図5)では、側壁部32の第1壁面321(第1面)に面して電磁コイル3の収納空間SP2を形成するとともに、第1壁面321の反対側の第2壁面322(第2面)に凹部35を設け、凹部35に温度ヒューズ40を収納した。しかしながら、温度ヒューズ40の設置領域ARに他の設置部を設けて、摩擦面10の近傍の設置領域ARに温度ヒューズ40を設置してもよい。
上記実施の形態(図7)では、設置領域ARのうちの中央領域AR0(本体領域)に本体41を、中央領域AR0の両側の第1領域AR1および第2領域AR2に一対のリード線42,43をそれぞれ配置するようにした。さらに、側壁部32に一対の導入部38を設け、導入部38を介して収納空間SP2から第1領域AR1および第2領域AR2にコイル線3aを導くようにした。しかしながら、コイル線導入部の構成はこれに限らず、例えば側壁部32に貫通孔を開口し、貫通孔を介して収納領域SP2から第1領域AR1および第2領域AR2にコイル線3aを導くようにしてもよい。
上記実施の形態(図7,10)では、第1領域AR1および第2領域AR2において、側壁部32の第2壁面322からテーパ状に立ち上がる一対のガイド部37を突設し、ガイド部37のテーパ面372に溝部371を設けるようにした。すなわち、溝部371にコイル線3aとリード線42,43を挿入して支持するようにしたが、ガイド部37の形状、位置および個数は上述したものに限らない。例えば、ガイド部37とピン部36の間で、コイル線3aとリード線42,43を溶接してもよい。ガイド部37に設けられる凹部(溝部371)の形状も上述したものに限らない。ガイド部37に連なって膨出部323を設けたが、膨出部323を省略してもよい。
上記実施の形態(図7)では、側壁部32の第2壁面322から一対のピン部36を突設し、ピン部36の切り欠き361を経由して第1領域AR1の導入部38から第2領域AR1の導入部38にかけてコイル線3aを架設するようにした。すなわち、ピン部36をコイル線案内部として用いるようにしたが、ピン部36の形状、位置および個数は上述したものに限らない。例えばピン部36をガイド部37の代わりに用いてガイド部37を省略するようにしてもよい。ピン部36の基端部近傍(ピン部36の高さ方向中央部よりも基端側)に切り欠き361を設けたが、その代わりに、ピン部36の先端部(高さ方向先端部)に溝状の切り欠きを設けるようにしてもよい。この切り欠きにコイル線3aとリード線42,43を挿入し、溶接時に両者を支持するようにしてよい。ピン部36に切り欠き以外(例えばピン部の周面から突出した突起部)を設けて、コイル線3aを掛け回すようにしてもよい。第1領域AR1と第2領域AR2においてピン部36を突設したが、中央領域AR0においてピン部36を突設してもよい。
上記実施の形態(図12)では、側壁部32の第2壁面322に周方向複数のピン部36,39を突設し、ピン部36,39の先端面に面して成形型110を配置して樹脂成形を行うようにした。すなわち、ハウジング20とスプール30との間に樹脂を注入し、樹脂部25を形成するようにしたが、スプール30の周囲に充填される樹脂部の構成は上述したものに限らない。樹脂成形時に、成形型110に当接して位置が拘束されるのであれば、ピン部36,39(突出部)の構成(形状、位置、個数等)はいかなるものでもよい。ピン部36の高さH1をピン部39の高さH4よりも低くして、ピン部36がコイル線3aの支持部としての機能のみを有するようにしてもよい。
以上の実施の形態では、電磁クラッチ100を自動車用空調装置の圧縮機に適用したが、本発明の電磁クラッチは、他の回転機器にも同様に適用することができる。したがって、エンジンからの動力によりロータ1を駆動するのではなく、他の回転駆動源によりロータ1を駆動するようにしてもよい。また、従動側機器は圧縮機101以外であってもよい。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。