JP5901389B2 - 溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板 - Google Patents

溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、耐溶融金属脆化割れと耐塗膜下膨れ腐食性に優れた溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板に関する。
自動車のシャシ等の足回り部材は、主に熱延鋼板を素材としてプレス成形により目的の形状に加工した部品を製作し、それらをアーク溶接により接合することによって組み立てられる。そして、その後、塗膜密着性を付与するためにリン酸塩処理を施し、更にカチオン電着塗装を施して使用に供される。
熱延鋼板を素材としてアーク溶接を用いて接合した部材では、電着塗装を施した後でも、アーク溶接による熱影響部の耐食性が低下しやすい。これは、アーク溶接時の溶接入熱によって熱影響部の表面に酸化スケールが生成し、その上に電着塗装の皮膜が形成されるため、足回り部材として使用中に走行時の振動による疲労によって酸化スケールが電着塗装皮膜とともに剥離、脱離してしまうためと考えられる。
近年、足回り部材の軽量化や長寿命化が望まれるようになり、そのため足回り部材の素材に高強度化や防錆性能向上が求められるようになった。防錆性能向上のためには、亜鉛めっき鋼板に代えて、より高耐食性のめっき鋼板である溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板(例えばZn−Al−Mg系合金めっき鋼板)を用いれば、上記の熱影響部の耐食性は大幅に改善される(例えば、特許文献1参照)。
特開平10−306357号公報
ところが、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を素材としたアーク溶接による接合部は、引張応力の発生やめっき層の再溶融などの特定の条件が重なると、溶接時に溶融金属脆化割れを起こすことがある。また、接合部に電着塗装を施すと、その接合部はめっき層と塗膜との界面(断面で観察すると塗膜の下にあたる)で優先的に腐食が進行し塗膜膨れを起こす、いわゆる「塗膜下膨れ腐食」が起こりやすい。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、耐溶融金属脆化割れと耐塗膜下膨れ腐食性に優れた溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を提供することを目的とする。
本発明らは、溶融Al、Mg含有Znめっき層を高温の水蒸気と接触させることで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板に関する。
[1]Al:1.0〜22.0質量%、Mg:1.5〜10.0質量%を含む溶融Al、Mg含有Znめっき層を有する溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を、105℃以上の水蒸気に接触させることで得られる溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板であって、前記溶融Al、Mg含有Znめっき層表面のX線回折強度が、式(1)の条件を満たす、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
A−B ≦ 400cps …(1)
ここで、A:ZnMgを示す2θ=20.680°(Cu管球、電圧:40kV、電流:50mA)の回折ピーク強度(cps)とし、B:2θ=20.000°(Cu管球、電圧:40kV、電流:50mA)のバックグラウンドの強度(cps)とする。
[2]前記溶融Al、Mg含有Znめっき層の上に無機系皮膜をさらに有する、[1]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[3]前記無機系皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を含む、[2]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[4]前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、SiおよびAlからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の金属である、[3]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[5]前記溶融Al、Mg含有Znめっき層の上に有機系樹脂皮膜をさらに有する、[1]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[6]前記有機系樹脂皮膜に含まれる有機樹脂は、エーテル系ポリオールおよびエステル系ポリオールからなるポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂であり、前記ポリオール中の前記エーテル系ポリオールの割合は、5〜30質量%である、[5]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[7]前記有機系樹脂皮膜は、多価フェノールをさらに含む、[6]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[8]前記有機系樹脂皮膜は、潤滑剤を含む、[5]〜[7]のいずれか一項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[9]前記有機系樹脂皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を含む、[5]〜[8]のいずれか一項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[10]前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、SiおよびAlからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の金属である、[9]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[11]前記有機系樹脂皮膜は、ラミネート層または塗布層である、[5]〜[10]のいずれか一項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
[12]前記有機系樹脂皮膜は、クリア塗膜である、[5]〜[11]に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
本発明によれば、耐溶融金属脆化割れ性と耐塗膜下膨れ腐食性に優れた溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を提供することができる。たとえば、本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、耐食性が長期にわたって必要とされるサブフレームやシャシなどの自動車用の足回り部材に好適である。
図1Aおよび図1Bは、耐溶融金属脆化割れ性を評価する方法を説明するための模式図である。 最大塗膜膨れ幅の評価方法を説明するための模式図である。
1.溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、基材鋼板と、溶融Al、Mg含有Znめっき層(以下「めっき層」ともいう)とを有する。本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、さらに、めっき層の上に無機系皮膜または有機系樹脂皮膜を有していてもよい。以下、各構成要素について説明する。
[基材鋼板]
基材鋼板の種類は、特に限定されない。たとえば、基材鋼板としては、低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼などからなる鋼板を使用することができる。良好なプレス成形性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼などからなる深絞り用鋼板が基材鋼板として好ましい。たとえば、基材鋼板としては、C:0.05〜0.25質量%、Si:0.01〜1.5質量%、Mn:0.05〜3.0質量%、Al:0.010〜0.100質量%、Ti:0.010〜0.150質量%、B:0.0001〜0.0100質量%であり、必要に応じてさらにNb、Cr、Mo、Pの1種以上を合計1.00質量%以下の範囲内で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるものが好ましい。
[溶融Al、Mg含有Znめっき層]
溶融Al、Mg含有Znめっき層は、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織を含む。Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織を形成している各相(Al相、Zn相およびZnMg相)は、それぞれ不規則な大きさおよび形状をしており、互いに入り組んでいる。三元共晶組織中のAl相は、Al−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温でのAl”相(Znを固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に由来するものである。この高温でのAl”相は、常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。三元共晶組織中のZn相は、少量のAlを固溶し、場合によってはさらにMgを固溶するZn固溶体である。三元共晶組織中のZnMg相は、Zn−Mgの二元系平衡状態図におけるZnが約84質量%の点付近に存在する金属間化合物相である。
めっき層のAl含有量は、1.0〜22.0質量%の範囲内が好ましく、Mg含有量は、1.5〜10.0質量%の範囲内が好ましい。Al含有量およびMg含有量が上記範囲外の場合、水蒸気処理(後述)後のめっき層の密着性が不十分なときがある。また、任意成分として、基材鋼板とめっき層との界面におけるAl−Fe合金層の成長を抑制できるSiや、外観および耐食性に悪影響を与えるZn11Mg相の生成および成長を抑制できるTiまたはBなどを添加してもよい。たとえば、めっき層は、Al:1.0〜22.0質量%、Mg:1.5〜10.0質量%、Ti:0〜0.10質量%、B:0〜0.05質量%、Si:0〜2.0質量%、Fe:0〜2.0質量%、残部Znおよび不可避的不純物からなる。
めっき層の厚みは、特に限定されないが、3.0〜100.0μmの範囲内が好ましい。めっき層の厚みが3.0μm未満の場合、耐食性が低下するおそれがある。一方、めっき層の厚みが100.0μm超の場合、めっき層と基材鋼板の延性が異なるため、成形加工時に加工部においてめっき層と基材鋼板とが剥離してしまうおそれがある。
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、溶融Al、Mg含有Znめっき層の表面におけるX線回折強度が、式(1)の条件を満たすことを一つの特徴とする。
A−B ≦ 400cps・・・(1)
ここで、Aは、ZnMgを示す2θ=20.680°(Cu管球、電圧:40kV、電流:50mA)の回折ピーク強度(cps)であり、Bは、2θ=20.000(Cu管球、電圧:40kV、電流:50mA)のバックグラウンドの強度(cps)である。
溶融Al、Mg含有Znめっき層の表面におけるX線回折強度の測定において、2θ=20.000の回折強度は、X線回折ピークが認められない、いわゆるバックグラウンドの回折強度(cps)である。したがって、上記式(1)では、ZnMgを示す回折ピーク強度Aからバックグラウンドの強度Bを差し引くことで、ZnMgを示す回折ピーク強度の正確な値を算出している。
上記式(1)のように、A−Bの値は、400cps以下であることが好ましく、300cps以下であることがより好ましい。A−Bの値が400cps以下であることは、めっき層の三元共晶組織に含まれるZnMg相の割合が少ないことを意味する。このように、めっき層中におけるZnMg相を減少させること(後述)で、アーク溶接部の溶接時における溶融金属脆化割れと、電着塗装部の塗膜下膨れ腐食を同時に解決することができる(実施例参照)。回折強度の差(A−Bの値)が400cps超の場合、アーク溶接部の溶接時における溶融金属脆化割れを十分に抑制することができない。
Mgは、溶接により溶融しためっき層と基材鋼板との濡れ性を増加させて、溶融しためっき層を基材鋼板の結晶粒界に浸透させやすくすると考えられる。めっき鋼板に水蒸気処理を施すと、ZnMgの一部または全部が酸化して融点が上昇することで、溶融しためっき層の流動性が低下する。この結果、溶融しためっき層が溶接部近傍の基材鋼板の粒界に浸透しにくくなるため、耐溶融金属脆化割れ性が改善されると推定される。また、ZnMgが酸化されることで、加水分解反応によるpHの低下が抑えられるため、耐塗膜下膨れ腐食性も改善されると推定される。
[無機系皮膜および有機系樹脂皮膜]
Zn、Al、Mgの酸化物および/または水酸化物を含む溶融Al、Mg含有Znめっき層の表面には、無機系皮膜または有機系樹脂皮膜が形成されていてもよい。無機系皮膜および有機系樹脂皮膜は、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の耐食性や耐カジリ性などを向上させる。
(無機系皮膜)
無機系皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物(以下「バルブメタル化合物」ともいう)を含むものが好ましい。バルブメタル化合物を含ませることで、環境負荷を小さくしつつ、優れたバリア作用を付与することができる。バルブメタルとは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいう。バルブメタルとしては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、SiおよびAlからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の金属が挙げられる。バルブメタル化合物としては公知のものを用いてよい。
また、バルブメタルの可溶性フッ化物を無機系皮膜に含ませることで、自己修復作用を付与することができる。バルブメタルのフッ化物は、雰囲気中の水分に溶け出した後、皮膜欠陥部から露出しているめっき鋼板の表面に難溶性の酸化物または水酸化物となって再析出し、皮膜欠陥部を埋める。無機系皮膜にバルブメタルの可溶性フッ化物を含ませるには、無機系塗料にバルブメタルの可溶性フッ化物を添加してもよいし、バルブメタル化合物とは別に(NH)Fなどの可溶性フッ化物を添加してもよい。
無機系皮膜は、さらに可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含んでいてもよい。可溶性のリン酸塩は、無機系皮膜から皮膜欠陥部に溶出し、めっき鋼板の金属と反応して不溶性リン酸塩となることで、バルブメタルの可溶性フッ化物による自己修復作用を補完する。また、難溶性のリン酸塩は、無機系皮膜中に分散して皮膜強度を向上させる。可溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩に含まれる金属の例には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mnが含まれる。難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩に含まれる金属の例には、Al、Ti、Zr、Hf、Znが含まれる。
(有機系樹脂皮膜)
有機系樹脂皮膜を構成する有機樹脂は、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、またはこれらの樹脂の組み合わせ、あるいはこれらの樹脂の共重合体または変性物などである。これらの柔軟性のある有機樹脂を用いることで、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を成形加工する際にクラックの発生を抑制することができ、耐食性を向上させることができる。また、有機系樹脂皮膜にバルブメタル化合物を含ませる場合に、バルブメタル化合物を有機系樹脂皮膜(有機樹脂マトリックス)中に分散させることができる。
有機系樹脂皮膜は、潤滑剤を含むものが好ましい。潤滑剤を含ませることで、耐カジリ性を向上させることができる。潤滑剤の種類は、特に限定されず、公知のものから選択すればよい。潤滑剤の例には、フッ素系やポリエチレン系、スチレン系などの有機ワックス、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤が含まれる。
有機系樹脂皮膜は、無機系皮膜と同様に、前述のバルブメタル化合物を含むものが好ましい。バルブメタル化合物を含ませることで、環境負荷を小さくしつつ、優れたバリア作用を付与することができる。
また、有機系樹脂皮膜は、無機系皮膜と同様に、さらに可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含んでいてもよい。可溶性のリン酸塩は、有機系樹脂皮膜から皮膜欠陥部に溶出し、めっき層の金属と反応して不溶性リン酸塩となることで、バルブメタルの可溶性フッ化物による自己修復作用を補完する。また、難溶性のリン酸塩は、有機系樹脂皮膜中に分散して皮膜強度を向上させる。
有機系樹脂皮膜がバルブメタル化合物やリン酸塩を含む場合、通常は、めっき鋼板と有機系樹脂皮膜との間に界面反応層が形成される。界面反応層は、有機系塗料に含まれるフッ化物またはリン酸塩とめっき鋼板に含まれる金属またはバルブメタルとの反応生成物であるフッ化亜鉛、リン酸亜鉛、バルブメタルのフッ化物、リン酸塩などからなる緻密層である。界面反応層は、優れた環境遮蔽能を有し、雰囲気中の腐食性成分がめっき鋼板に到達することを妨げる。一方、有機系樹脂皮膜では、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのフッ化物、リン酸塩などの粒子が有機樹脂マトリックス中に分散している。バルブメタルの酸化物などの粒子は、有機樹脂マトリックス中に三次元的に分散しているため、有機樹脂マトリックスを浸透してきた水分などの腐食性成分を捕捉することができる。その結果、有機系樹脂皮膜は、界面反応層に到達する腐食性成分を大幅に減少することができる。これら有機系樹脂皮膜および界面反応層により、優れた防食効果が発揮される。
たとえば、有機系樹脂皮膜は、柔軟性に優れるウレタン樹脂を含むウレタン系樹脂皮膜である。ウレタン系樹脂皮膜を構成するウレタン系樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させることで得られるが、ウレタン系樹脂皮膜を形成した後に、めっき層中のZnMgを減少させるために水蒸気処理を行う場合、ポリオールは、エーテル系ポリオール(エーテル結合を含むポリオール)およびエステル系ポリオール(エステル結合を含むポリオール)を所定の割合で組み合わせて使用することが好ましい。
ポリオールとしてエステル系ポリオールのみを使用してウレタン系樹脂皮膜を形成した場合、ウレタン系樹脂中のエステル結合が水蒸気によって加水分解されてしまうため、耐食性を十分に向上させることができない。一方、ポリオールとしてエーテル系ポリオールのみを使用してウレタン系樹脂皮膜を形成した場合、めっき鋼板との密着性が十分ではなく、耐食性を十分に向上させることができない。これに対し、本発明者らは、エーテル系ポリオールおよびエステル系ポリオールを所定の割合で組み合わせて使用することで、両者の長所を活かし、かつ短所を補い合わせて、めっき鋼板の耐食性を顕著に向上させうることを見出した。これによれば、ウレタン系樹脂皮膜を形成した後に水蒸気処理を行っても(後述)、ウレタン系樹脂皮膜による耐食性の向上効果を維持することができる。すなわち、耐溶融金属脆化割れ性および耐塗膜下膨れ腐食性に優れ、かつ耐食性に優れた溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を製造することができる。
エーテル系ポリオールの種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択すればよい。エーテル系ポリオールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物のような直鎖状ポリアルキレンポリオールなどが含まれる。
エステル系ポリオールの種類も、特に限定されず、公知のものから適宜選択すればよい。たとえば、エステル系ポリオールとしては、二塩基酸および低分子ポリオールを反応させて得られる、分子鎖中にヒドロキシ基を有する線状ポリエステルを使用できる。二塩基酸の例には、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テレフタル酸、ジメチルテレフタレート、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、または前記各酸のエステル類が含まれる。
エーテル系ポリオールおよびエステル系ポリオールからなるポリオール中におけるエーテル系ポリオールの割合は、5〜30質量%の範囲内であることが好ましい。エーテル系ポリオールの割合が5質量%未満である場合、エステル系ポリオールの比率が過剰に増加するため、ウレタン系樹脂皮膜が加水分解されやすくなり、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、エーテル系ポリオールの割合が30質量%超である場合、エーテル系ポリオールの比率が過剰に増加するため、めっき鋼板との密着性が低下し、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。
ポリイソシアネートの種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択すればよい。たとえば、ポリイソシアネートとして、芳香族環を有するポリイソシアネート化合物を使用することができる。芳香族環を有するポリイソシアネート化合物の例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、o−、m−またはp−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、芳香族環が水素添加された2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルー4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼンなどが含まれる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記のウレタン系樹脂皮膜は、多価フェノールをさらに含んでいることが好ましい。ウレタン系樹脂皮膜が多価フェノールを含む場合、めっき鋼板と多価フェノールとの界面に、これらを強固に密着させる多価フェノールの濃化層が形成される。したがって、ウレタン系樹脂皮膜に多価フェノールを配合することで、ウレタン系樹脂皮膜の耐食性をさらに向上させることができる。
多価フェノールの種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択すればよい。多価フェノールの例には、タンニン酸、没食子酸、ハイドロキノン、カテコール、フロログルシノールが含まれる。また、ウレタン系樹脂皮膜中の多価フェノールの配合量は、0.2〜30.0質量%の範囲内が好ましい。多価フェノールの配合量が0.2質量%未満である場合、多価フェノールの効果を十分に発揮させることができない。一方、多価フェノールの配合量が30.0質量%超である場合、塗料の安定性が低下するおそれがある。
有機系樹脂皮膜は、塗布層であってもよいし、ラミネート層であってもよい。また、有機系樹脂皮膜は、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の色調を生かす観点からは、クリア塗膜であることが好ましい。
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、めっき層の三元共晶組織に含まれるZnMg相の割合が少ないため、耐溶融金属脆化割れ性および耐塗膜下膨れ腐食性に優れている。もちろん、本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、通常の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板と同様の優れた耐食性も有している。
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、例えばサブフレームやシャシなどの自動車用の足回り部材に使用されうる。たとえば、自動車用の足回り部材は、本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を成形加工した後、各成形加工品をアーク溶接により接合することで製造されうる。このようにして製造された自動車用の足回り部材は、切断端面、打抜き面、穴開け部など板厚方向の断面が露出している部分を除く表面に、溶融Al、Mg含有Znめっき層を有している。
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を用いて自動車のシャシ部材を製造するには、アーク溶接法を用いればよい。アーク溶接法は、溶接速度が速く生産性が高いため、自動車のシャシ部材の製造に好適である。なお、溶接電流、アーク電圧、溶接速度などのアーク溶接の条件は、特に限定されず、適宜選択することができる。
アーク溶接法で使用されるシールドガスの種類および組成は、特に限定されない。シールドガスの例には、Arガス、COガス、Ar+COの混合ガスが含まれる。アーク溶接時に使用される溶接ワイヤーの種類も、特に限定されない。溶接ワイヤーの例には、軟鋼用のYGW12、Znめっき用のYGW14、590〜780MPa級高張力鋼用のYGW21等が含まれる。
アーク溶接により接合された部材は、電着塗装により塗装される。たとえば、電着塗装は、pH5.5〜9.0、浴温15〜35℃の範囲内に調整した電着浴を用いて、負荷電圧100〜400Vの範囲内で行えばよい。また、焼付温度は約120〜200℃の範囲内とし、焼付時間は5〜60分程度とするのが好ましい。
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の製造方法は、特に限定されない。たとえば、本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、以下の方法により製造されうる。
2.溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の製造方法
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の製造方法は、1)溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を準備する第1のステップと、2)溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を水蒸気に接触させる第2のステップとを有する。さらに、任意のステップとして、第2のステップの前または後に3)溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の表面に無機系皮膜または有機系樹脂皮膜を形成する第3のステップを有していてもよい。
[第1のステップ]
第1のステップでは、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織を含むめっき層を有する溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を準備する。
三元共晶組織を含むめっき層を有する溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、例えばAlが1.0〜22.0質量%、Mgが1.5〜10.0質量%、残部が実質的にZnの合金めっき浴を用いた溶融めっき法で製造されうる。このようにすることで、Al:1.0〜22.0質量%、Mg:1.5〜10.0質量%、残部:Znおよび不可避不純物からなり、三元共晶組織を含むめっき層を形成することができる。
[第2のステップ]
第2のステップでは、第1のステップで準備しためっき鋼板を高温の水蒸気に接触させる(酸化処理)。この工程により、Zn/Al/ZnMgの三元共晶組織に含まれるZnMg相の一部または全部が酸化してZnMg相が減少する。結果として、上記式(1)に示されるX線回折強度差(「A−B」の値)を400cps以下にすることができる。
めっき鋼板を水蒸気に接触させる際の水蒸気の温度は、105℃以上が好ましく、105〜350℃の範囲内がより好ましい。水蒸気の温度が105℃未満の場合、耐溶融金属脆化割れ性および耐塗膜下膨れ腐食性を十分に向上させることができない。一方、水蒸気の温度が350℃超の場合、めっき層の組成が変化して、めっき鋼板の耐食性および密着性が低下してしまうおそれがある。
めっき鋼板を水蒸気に接触させる際の水蒸気の相対湿度は、30〜100%の範囲内が好ましい。すなわち、めっき鋼板に接触させる105℃以上の水蒸気は、相対湿度100%未満の加熱水蒸気であってもよいし、相対湿度100%の飽和水蒸気であってもよい。水蒸気の相対湿度が30%未満の場合、耐溶融金属脆化割れ性および耐塗膜下膨れ腐食性を十分に向上させるためには水蒸気に接触させる時間を長くしなければならなくなり、生産性が低下してしまう。
めっき鋼板を水蒸気に接触させる際の水蒸気の気圧は、特に限定されず、常圧(大気圧)であってもよいし、加圧されていてもよい。常圧(大気圧)下において、所定の温度および相対湿度に調整された水蒸気をめっき鋼板に吹き付けた場合、吐出口とめっき鋼板との距離や周辺温度に応じて水蒸気の温度および相対湿度が変化してしまうおそれがある。このような問題を回避するためには、所定の温度および相対湿度に調整された密閉容器中において、めっき鋼板を水蒸気に接触させることが好ましい。
めっき鋼板を水蒸気に接触させる時間は、水蒸気の温度や相対湿度、めっき層の組成などに応じて適宜設定すればよい。通常、105〜350℃、相対湿度30〜100%の水蒸気をめっき鋼板に0.017〜120時間程度接触させることで、上記式(1)に示されるX線回折強度差(「A−B」の値)を400cps以下にすることができる。
通常、水蒸気との接触処理を施した後の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の表面の色調は、肉眼では黒色を呈している。接触処理の条件により黒色の程度は変化するが、本発明の課題を解決するために表面の色調が限定されるものではない。
[第3のステップ]
第2のステップの前または後に任意に行われる第3のステップでは、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の表面に無機系皮膜または有機系樹脂皮膜を形成する。
無機系皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、バルブメタル化合物などを含む無機系塗料を、水蒸気に接触させる前または接触させた後の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。塗布方法の例には、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などが含まれる。無機系塗料にバルブメタル化合物を添加する場合は、無機系塗料中においてバルブメタル化合物が安定して存在できるように、キレート作用のある有機酸を無機系塗料に添加してもよい。有機酸の例には、タンニン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸および酢酸が含まれる。
有機系樹脂皮膜も、公知の方法で形成されうる。たとえば、有機系樹脂皮膜が塗布層である場合は、有機樹脂やバルブメタル化合物などを含む有機系塗料を、水蒸気に接触させる前または接触させた後の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。塗布方法の例には、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などが含まれる。有機系塗料にバルブメタル化合物を添加する場合は、有機系塗料中においてバルブメタル化合物が安定して存在できるように、キレート作用のある有機酸を有機系塗料に添加してもよい。有機樹脂やバルブメタル化合物、フッ化物、リン酸塩などを含む有機系塗料をめっき鋼板の表面に塗布した場合、フッ素イオンやリン酸イオンなどの無機陰イオンとめっき鋼板に含まれる金属またはバルブメタルとの反応生成物からなる皮膜(界面反応層)がめっき鋼板の表面に優先的にかつ緻密に形成され、その上にバルブメタルの酸化物、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのフッ化物、リン酸塩などの粒子が分散した有機系樹脂皮膜が形成される。一方、有機系樹脂皮膜がラミネート層である場合は、めっき鋼板の表面にバルブメタル化合物などを含む有機樹脂フィルムを積層すればよい。
以上の手順により、耐溶融金属脆化割れ性および耐塗膜下膨れ腐食性に優れる、本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を製造することができる。
以下、実施例を参照して本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
[実施例1]
C:0.13%、Si:0.10%、Mn:1.60%、Ti:0.02%を含有する板厚2.3mmの590MPa級の鋼板を基材鋼板として、めっき層の厚みが3.0〜100.0μmの溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を作製した。このとき、めっき浴の組成(Zn、AlおよびMgの濃度)を変化させて、めっき層の組成または厚みがそれぞれ異なる12種類のめっき鋼板を作製した。作製した12種類のめっき鋼板のめっき浴の組成とめっき層の厚みを表1に示す。なお、めっき浴の組成とめっき層の組成は同一である。
Figure 0005901389
作製しためっき鋼板を高温高圧湿熱処理装置(株式会社日阪製作所)内に置き、表2に示す条件でめっき層を水蒸気に接触させた。
水蒸気に接触させた各めっき鋼板について、X線回折装置(Rint Ultima III;株式会社リガク)を用いて、溶融Al、Mg含有Znめっき層表面のX線回折強度を測定した。X線回折装置の測定条件は、銅管球を使用し、電圧は40kVとし、管電流は50mAとし、測定波長はZnMgを示す2θ=20.680°とした。ZnMgを示す2θ=20.680°における回折ピーク強度からバックグラウンドの強度を差し引いたX線回折強度(上記式(1)の「A−B」の値)を表2に示す。
Figure 0005901389
水蒸気と接触させた各めっき鋼板について、耐溶融金属脆化割れ性(耐LMEC性)、耐食性、密着性および耐塗膜下膨れ腐食性を評価した。以下、各評価試験の手順を説明する。
(耐溶融金属脆化割れ性試験)
図1を参照して、耐溶融金属脆化割れ性(耐LMEC性)試験について説明する。図1Aは、アーク溶接によりボスを試験片に接合するときの様子を示す側面図である。図1Bは、図1Aに示される接合部近傍の様子を示す部分拡大斜視図である。
図1Aに示されるように、水蒸気処理後の各めっき鋼板から切り出した試験片1(幅100mm×長さ100mm)を、平板2に全周溶接して固定した。平板2に固定された試験片1を支持板3の上に置き、これらを一対の固定部材4を用いて固定した。試験片1の中央部表面に、直径20mm、長さ25mmの棒鋼(SS400)のボス5を垂直に載置した。次いで、下記の条件でアーク溶接を行い、試験片1とボス5とを接合させた。
[アーク溶接の条件]
溶接電流 :180A
アーク電圧 :22V
溶接速度 :0.6m/分
ギャップ :1.0mm
溶接ワイヤー:YGW14(DS1Z;大同特殊鋼株式会社、成分 C:0.06%、Si:0.57%、Mn:1.87%)
溶接ガス :Ar+20体積%COガス
図1Bに示されるように、溶接開始点からボス5の周囲を1周して、溶接開始点を過ぎた後もさらにビード6を重ねて溶接を進め、ビード6の重複部分7ができたところで溶接を終了した。アーク溶接を終えた後、ボス5の中心軸を通り、かつビード6の重複部分7を通る切断線8に沿って、試験片1およびボス5を切断した。そして、光学顕微鏡により、重複部分7近傍における試験片1の切断面を観察し、割れの有無を確認した。耐溶融金属脆化割れ性(耐LMEC性)の評価は、割れが生じていない場合は「○」とし、割れが生じていた場合は「×」と評価した。
(耐食性試験)
耐食性試験は、各めっき鋼板から切り出した試験片(幅70mm×長さ150mm)の端面にシールを施した後、塩水噴霧工程、乾燥工程および湿潤工程を1サイクル(8時間)とし、赤錆の発生面積率が5%までのサイクル数で評価した。塩水噴霧工程は、35℃の5%NaCl水溶液を試験片に2時間噴霧することで行った。乾燥工程は、気温60℃、相対湿度30%の環境下で、4時間放置することで行った。湿潤工程は、気温50℃、相対湿度95%の環境下で、2時間放置することで行った。赤錆の発生面積率が5%に達するまでのサイクル数が120サイクル超の場合は「◎」、80サイクル超かつ120サイクル以下の場合は「○」、40サイクル超かつ80サイクル以下の場合は「△」、40サイクル以下の場合は「×」と評価した。
(密着性試験)
密着性試験は、各めっき鋼板から切り出した試験片を密着曲げ(4t)し、曲げ部についてセロハンテープ剥離試験を行うことで行った。セロハンテープ剥離後のめっき層の剥離面積率が0%(剥離なし)の場合は「◎」、0%超かつ5%未満の場合は「○」、5%以上かつ10%未満の場合は「△」、10%以上の場合は「×」と評価した。
(耐塗膜下膨れ腐食性試験)
各めっき鋼板から切り出した試験片を2枚ずつ用意し、試験片を50mmずつ重ねて前述したアーク溶接条件で重ね合わせ部を接合し、重ね隅肉溶接継手を作製した。得られた溶接継手に、温度45℃、濃度18g/Lの濃度脱脂剤(ファインクリーナーE2011;日本パーカライジング株式会社)をスプレーして脱脂した。脱脂した溶接継手を、温度25℃、濃度1.5g/Lの表面調整剤(プレパレンX;日本パーカライジング株式会社)に30秒間浸漬して表面調整した。表面調整した溶接継手を、温度40℃のリン酸塩処理液(パルボンドL3020;日本パーカライジング株式会社)に2分間浸漬してリン酸塩処理した。リン酸塩処理した溶接継手にカチオン電着塗料(サクセード#80V;神東塗料株式会社)を塗布し、140℃で20分間焼き付けることで、乾燥膜厚15μmの塗膜を形成した。
カチオン電着塗装を行った溶接継手のエッジ部を塗料を用いてシールした後、促進腐食試験を行った。具体的には、塩水噴霧工程、乾燥工程および湿潤工程を1サイクル(8時間)とし、300サイクル行った。塩水噴霧工程は、35℃の5%NaCl水溶液を継手に2時間噴霧することで行った。乾燥工程は、気温60℃、相対湿度30%の環境下で、4時間放置することで行った。湿潤工程は、気温50℃、相対湿度95%の環境下で、2時間放置することで行った。
促進腐食試験後の各溶接継手について、図2に示されるように、溶接部近傍の最大塗膜膨れ幅を測定した。耐塗膜下膨れ腐食性の評価は、最大塗膜膨れ幅が3mm未満の場合は「○」、3mm以上の場合は「×」と評価した。
水蒸気と接触させた各めっき鋼板の耐溶融金属脆化割れ性(耐LMEC性)、耐食性、密着性および耐塗膜下膨れ腐食性の評価結果を表3に示す。
Figure 0005901389
表3に示されるように、比較例1〜5のめっき鋼板は、めっき層中のAlまたはMgの含有量が適正範囲外であるため、めっき層の耐食性および/または密着性が不十分であった。比較例6〜8のめっき鋼板は、めっき層中のZnMg含有量が多い(X線回折強度が高い)ため、耐LMEC性が不十分であった。比較例9のめっき鋼板は、めっき層中にMgを含有していないため、耐食性が不十分であった。比較例10のめっき鋼板は、めっき層中のMg含有量が適正範囲外であるため、耐食性が不十分であった。
一方、実施例1〜9のめっき鋼板は、耐LMEC性、耐食性、密着性および耐塗膜下膨れ腐食性のすべてが良好であった。
[実施例2]
表2に示した実施例5のめっき鋼板に、表4に示す無機系化成処理液を塗布し、水洗することなく電気オーブンに入れて、到達板温が120℃となる条件で加熱乾燥して、めっき鋼板の表面に無機系皮膜を形成した。
Figure 0005901389
無機系樹脂皮膜を形成した各めっき鋼板(実施例10〜22)について、耐LMEC性および耐食性試験を行った。耐食性試験は、JIS Z2371に準拠して35℃のNaCl水溶液を試験片に24時間噴霧することで行った。各試験の結果を表5に示す。
Figure 0005901389
表5から、無機系処理は、耐LMEC性を劣化させることなく、各めっき鋼板の耐食性をより向上させうることがわかる。
[実施例3]
表2に示した実施例5のめっき鋼板に、表6に示す有機系化成処理液を塗布し、水洗することなく電気オーブンに入れて、到達板温が120℃となる条件で加熱乾燥して、めっき鋼板の表面に有機系樹脂皮膜を形成した。
Figure 0005901389
有機系樹脂皮膜を形成した各めっき鋼板(実施例23〜35)について、耐LMEC性および耐食性試験を行った。耐食性試験は、JIS Z2371に準拠して35℃のNaCl水溶液を試験片に24時間噴霧することで行った。各試験の結果を表7に示す。
Figure 0005901389
表7から、有機系処理は、耐LMEC性を劣化させることなく、各めっき鋼板の耐食性をより向上させうることがわかる。
[実施例4]
表6に示すNo.3、4および6の有機系化成処理液にポリプロピレン系ワックス(平均粒子径:0.3μm)を10g/L添加して、ワックス含有有機系化成処理液を調製した。
表2に示した実施例5のめっき鋼板に、調製したワックス含有有機系化成処理液を塗布し、水洗することなく電気オーブンに入れて、到達板温が160℃となる条件で加熱乾燥して、めっき鋼板の表面に有機系樹脂皮膜を形成した。
有機系樹脂皮膜を形成した各めっき鋼板(実施例36〜45)について、潤滑性(加工性)試験および耐食性試験を行った。各試験の結果を表8に示す。
潤滑性(加工性)試験は、各めっき鋼板から切り出した試験片(幅30mm×長さ300mm)の両面に、紙やすり(#500)で表面を研磨したSKD11製金型を接触させ、金型を介して600kgfの荷重を加えながら試験片を100mm/分の速度で引き抜くことで行った。引き抜かれた試験片の表面状態を目視にて評価した。試験片の表面に傷付き痕が認められない場合は「○」、傷付き痕跡が認められる場合は「×」と評価した。
耐食性試験は、JIS Z2371に準拠して35℃のNaCl水溶液を試験片に24時間噴霧することで行った。噴霧後の白錆発生面積率が5%以下の場合は「○」、5%超かつ10%以下の場合は「△」、10%超の場合は「×」と評価した。
Figure 0005901389
表8から、有機系樹脂皮膜にワックスを添加することで、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の潤滑性(加工性)を向上させうることがわかる(実施例36、37、391、40および42〜44参照)。
[実施例5]
表1に示したNo.5のめっき鋼板に、表9に示す有機系化成処理液を塗布し、水洗することなく電気オーブンに入れて、到達板温が160℃となる条件で加熱乾燥して、めっき鋼板の表面に有機系樹脂皮膜を形成した。
Figure 0005901389
有機系樹脂皮膜を形成しためっき鋼板を高温高圧湿熱処理装置内(温度160℃、相対湿度60%)に置き、めっき層を水蒸気と3時間接触させた。得られためっき鋼板のめっき層表面のX線回折強度、耐LMEC性試験および耐食性試験の評価結果を表10に示す。
耐食性試験は、JIS Z2371に準拠して35℃のNaCl水溶液を試験片に36時間噴霧することで行った。噴霧後の白錆発生面積率が0%の場合は「◎」1%以上かつ5%以下の場合は「○」、5%超かつ10%以下の場合は「△」、10%超の場合は「×」と評価した。
Figure 0005901389
本実施例では、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板に有機系樹脂皮膜を形成した後に、有機系樹脂皮膜を形成しためっき鋼板を水蒸気に接触させてX線回折強度差を400cps以下にした。この場合、有機系樹脂皮膜を形成しても耐食性を十分に向上させることができないことがある(表10;実施例61〜71参照)。これに対し、エーテル系ポリオールとエステル系ポリオールを所定の比率で組み合わせてウレタン系樹脂皮膜を形成した実施例46〜58の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、耐食性が十分に向上していた。
表10から、ウレタン系樹脂皮膜にバルブメタル化合物およびリン酸塩の少なくとも一方を添加することで、耐食性をより向上させうることがわかる(実施例49、52、53、56および60参照)。また、ウレタン系樹脂皮膜に多価フェノールを添加することで、バルブメタル化合物またはリン酸塩を添加した場合よりも、さらに耐食性を向上させうることがわかる(実施例48、49、52および55〜57参照)。
[実施例6]
実施例1と同じ鋼板を基材鋼板として、めっき層の厚みが10μmの溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を作製した。このとき、めっき浴の組成(Zn、Al、Mg、Si、TiおよびBの濃度)を変化させて、めっき層の組成がそれぞれ異なる37種類のめっき鋼板を作製した(表11参照)。なお、めっき浴の組成とめっき層の組成は同一である。また、作製しためっき鋼板を高温高圧湿熱処理装置(株式会社日阪製作所)内に置き、表11に示す条件でめっき層を水蒸気に接触させた。
Figure 0005901389
水蒸気に接触させた各めっき鋼板について、X線回折装置(Rint Ultima III;株式会社リガク)を用いて、溶融Al、Mg含有Znめっき層表面のX線回折強度を測定した。X線回折装置の測定条件は、実施例1と同じである。
水蒸気と接触させた各めっき鋼板について、耐溶融金属脆化割れ性(耐LMEC性)、耐食性、密着性および耐塗膜下膨れ腐食性を評価した。各評価試験の手順は、実施例1と同じである。
水蒸気と接触させた各めっき鋼板の耐溶融金属脆化割れ性(耐LMEC性)、耐食性、密着性および耐塗膜下膨れ腐食性の評価結果を表12に示す。
Figure 0005901389
表12に示されるように、実施例70〜106のめっき鋼板は、耐LMEC性、耐食性、密着性および耐塗膜下膨れ腐食性のすべてが良好であった。
本発明の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板は、耐溶融金属脆化割れと耐塗膜膨れ腐食性に優れているため、例えば自動車用の足回り部材などに使用されるめっき鋼板として有用である。
1 試験片
2 平板
3 支持板
4 固定部材
5 ボス
6 ビード
7 ビードの重複部分
8 切断線

Claims (10)

  1. Al:1.0〜22.0質量%、Mg:1.5〜10.0質量%を含む溶融Al、Mg含有Znめっき層を有する溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板であって、
    前記溶融Al、Mg含有Znめっき層表面のX線回折強度が、式(1)の条件を満たす、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
    A−B ≦ 400cps …(1)
    ここで、前記X線回折強度は、X線回折装置(Rint Ultima III;株式会社リガク)を用いて測定し、A:ZnMgを示す2θ=20.680°(Cu管球、電圧:40kV、電流:50mA)の回折ピーク強度(cps)とし、B:2θ=20.000°(Cu管球、電圧:40kV、電流:50mA)のバックグラウンドの強度(cps)とする。
  2. 前記溶融Al、Mg含有Znめっき層の上に無機系皮膜をさらに有する、請求項1に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  3. 前記無機系皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を含み、
    前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、SiおよびAlからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の金属である、
    請求項2に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  4. 前記溶融Al、Mg含有Znめっき層の上に有機系樹脂皮膜をさらに有する、請求項1に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  5. 前記有機系樹脂皮膜に含まれる有機樹脂は、エーテル系ポリオールおよびエステル系ポリオールからなるポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂であり、
    前記ポリオール中の前記エーテル系ポリオールの割合は、5〜30質量%である、
    請求項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  6. 前記有機系樹脂皮膜は、多価フェノールをさらに含む、請求項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  7. 前記有機系樹脂皮膜は、潤滑剤を含む、請求項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  8. 前記有機系樹脂皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を含み、
    前記バルブメタルは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、SiおよびAlからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の金属である、
    請求項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  9. 前記有機系樹脂皮膜は、ラミネート層または塗布層である、請求項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
  10. 前記有機系樹脂皮膜は、クリア塗膜である、請求項に記載の溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板。
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