以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有しており、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、軸方向である図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第1の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、全体として小径の略円形ブロック形状を有しており、上部が略円柱形状を有していると共に、下部が下方に向かって次第に縮径する逆向きの略円錐台形状とされている。また、第1の取付部材12には、中心軸上を上下に延びて上面に開口するボルト穴18が形成されており、内周面にねじ山が形成されている。
第2の取付部材14は、第1の取付部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、第2の取付部材14の上端部分には、外周側に開口する溝状を呈する括れ部20が設けられていると共に、括れ部20の上端から外周側に向かってフランジ部22が突出している。
そして、第1の取付部材12と第2の取付部材14は、同一中心軸上で第1の取付部材12が第2の取付部材14よりも上方に離隔配置されて、それら第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部が第1の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側の端部の外周面に第2の取付部材14の括れ部20が重ね合わされて加硫接着されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が第1の取付部材12および第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径凹所24が形成されている。大径凹所24は、本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口する逆向きの略すり鉢形状乃至は皿形状を呈する凹所であって、本体ゴム弾性体16の径方向中央部分に形成されている。
更にまた、本体ゴム弾性体16における大径凹所24よりも外周側からは、シールゴム層26が延び出している。シールゴム層26は、薄肉大径の略円筒形状を有するゴム弾性体であって、本体ゴム弾性体16と一体形成されていると共に、第2の取付部材14の内周面に固着されている。
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、可撓性膜28が取り付けられている。可撓性膜28は、薄肉の円板状乃至は円形ドーム状を呈するゴム膜であって、軸方向に充分な弛みを備えている。更に、可撓性膜28の外周端部には環状の固着部30が一体形成されており、この固着部30の外周面が環状の固定部材32の内周面に加硫接着されている。
そして、固定部材32が第2の取付部材14の下側開口部に挿入されて、第2の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、固定部材32が第2の取付部材14に嵌着されて、可撓性膜28が第2の取付部材14の下側開口部を閉鎖するように配設される。なお、第2の取付部材14と固定部材32の間には、シールゴム層26が介在しており、第2の取付部材14と固定部材32が流体密に固定されている。
このように本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に可撓性膜28が取り付けられることで、本体ゴム弾性体16と可撓性膜28の軸方向対向面間には、外部空間に対して密閉されて非圧縮性流体を封入された流体室34が形成されている。なお、流体室34に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が採用され得る。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
また、流体室34には、仕切部材36が収容配置されている。仕切部材36は、全体として厚肉の略円板形状を呈しており、上仕切部材38と下仕切部材40とを含んで構成されている。
上仕切部材38は、図1,図2に示されているように、略円板形状を呈しており、径方向中央部分には上方に開口する中央凹所42が形成されて、後述する受圧室66の容積が効率的に確保されるようになっている。更に、中央凹所42の底壁の中央部分には、上下に貫通する第1の連通孔44が形成されている。この第1の連通孔44は軸方向視で略長方形とされており、4つの第1の連通孔44が相互に所定の距離を隔てて設けられていると共に、それら4つの第1の連通孔44の間には略十文字に延びる第1の桟部45が形成されている。なお、中央凹所42の底壁部の外周部分には、周上で等間隔に複数の上部嵌着孔46が貫通形成されている。
さらに、上仕切部材38の外周端部には、外周面に開口しながら周方向に所定の長さで延びる上部溝48が形成されており、上部溝48の一方の端部が上連通孔49を通じて中央凹所42に連通されていると共に、他方の端部が下面に開口している。
下仕切部材40は、図1,図3に示されているように、中央部分が厚肉の略円板形状を呈していると共に、その外周側には下端から薄肉のフランジ状部分50が突出している。このフランジ状部分50は、周方向で一周に満たない所定長さで延びており、一方の端部が周方向外側に向かって次第に厚肉となる傾斜部とされて、中央部分と略同じ肉厚の隔壁部52に繋がっていると共に、他方の端部が下連通孔53を通じて軸方向下方に開口している。なお、厚肉とされた中央部分には、複数の下部嵌着穴54が、後述する収容凹所56を外れた部分で上面に開口して、周上で等間隔に形成されている。
また、下仕切部材40の径方向中央部分には、収容凹所56が形成されている。この収容凹所56は、軸方向視で略長方形を呈して上方に開口する凹所とされており、上下に略一定の断面形状を有している。
さらに、収容凹所56の底壁部には、第2の連通孔60が貫通形成されている。第2の連通孔60は、第1の連通孔44と略同じ長方形断面で上下に延びている。また、第1の連通孔44と同様に、4つの第2の連通孔60が互いに所定の距離を隔てて設けられており、それら4つの第2の連通孔60の間に第2の桟部61が略十文字に延びて形成されている。
そして、上仕切部材38と下仕切部材40は、上下に重ね合わされており、相互に位置決めされた上部嵌着孔46と下部嵌着穴54に対して、ピンが圧入されたり、ねじが螺着される等して、相互に固定されている。また、上仕切部材38の上部溝48の下側壁部が下仕切部材40のフランジ状部分50に対して上方に離隔して対向配置されることにより、外周側に開口して周方向に延びる凹溝が形成されており、その凹溝と上部溝48が周方向端部で相互に連通されることによって、周方向に2周弱の長さで螺旋状に延びる周溝62が形成されている。さらに、下仕切部材40の収容凹所56の開口部が上仕切部材38で覆蓋されることによって、上下の仕切部材38,40の間には収容空所64が形成されている。この収容空所64の上壁部に第1の連通孔44が貫通形成されていると共に、収容空所64の下壁部に第2の連通孔60が貫通形成されている。
かくの如き構造とされた仕切部材36は、流体室34に収容配置されて、軸直角方向に広がっており、外周端部を第2の取付部材14によって支持されている。これにより、流体室34が仕切部材36を挟んで上下に二分されており、仕切部材36を挟んだ上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室66が形成されている。一方、仕切部材36を挟んだ下方には、壁部の一部が可撓性膜28で構成されて、可撓性膜28の変形によって容積変化が容易に許容される平衡室68が形成されている。それら受圧室66および平衡室68には、上述の非圧縮性流体が封入されている。
また、仕切部材36の外周面が第2の取付部材14に対してシールゴム層26を介して重ね合わされることにより、周溝62の外周開口部が第2の取付部材14によって流体密に覆蓋されて、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。このトンネル状流路の周方向一方の端部が受圧室66に連通されると共に、周方向他方の端部が平衡室68に連通されることにより、受圧室66と平衡室68を相互に連通するオリフィス通路70が、周溝62を利用して形成されている。なお、オリフィス通路70は、受圧室66および平衡室68の壁ばね剛性を考慮しながら、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することにより、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
また、収容空所64には、緩衝ゴム72が収容配置されている。緩衝ゴム72は、図4〜図6に示されているように、中空形状のゴム弾性体とされており、軸方向視で略長方形を呈していると共に、本実施形態では短辺方向(図4中、上下方向)に貫通する内部空所73を備えた略帯形筒状体とされている。
より具体的には、緩衝ゴム72は、一対の対向板部74a,74bと、それら一対の対向板部74a,74bを相互に接続する一対の側板部76a,76bとを、一体で備えることで、略帯形筒状体をなしている。
一対の対向板部74a,74bは、軸方向視で互いに対応する略長方形を呈する板状体であって、上下方向で相互に所定距離を隔てて対向配置されている。また、対向板部74aに複数の第1の窓部78が形成されていると共に、対向板部74bに複数の第2の窓部80が形成されている。それら第1の窓部78と第2の窓部80は、相互に略同一の長方形断面を有する貫通孔であって、それぞれ互いに所定距離を隔てた4つずつが形成されている。そして、4つの第1の窓部78の間には、略十文字に延びる上桟部82が形成されていると共に、4つの第2の窓部80の間には、略十文字に延びる下桟部84が形成されている。
さらに、対向板部74aには2つの上弾性突部86が形成されていると共に、対向板部74bには2つの下弾性突部88が形成されている。弾性突部86,88は、何れも突出先端部分が先細とされた略円柱形状を有しており、上弾性突部86が対向板部74aの上桟部82から上方に向かって突出していると共に、下弾性突部88が対向板部74bの下桟部84から下方に向かって突出している。本実施形態では、一方の上弾性突部86が上桟部82の中央に設けられていると共に、他方の上弾性突部86が上桟部82における中央よりも側板部76b(後述)側に設けられている。同様に、一方の下弾性突部88が下桟部84の中央に設けられていると共に、他方の下弾性突部88が下桟部84における中央よりも側板部76b側に設けられている。なお、上弾性突部86と下弾性突部88は、互いに対応する位置に設けられており、同一中心軸上で互いに反対向きに突出している。
また、一対の対向板部74a,74bの長辺方向の両端部は、一対の側板部76a,76bによってそれぞれ相互に接続されている。一対の側壁部76a,76bは、上下に広がって軸直一方向で対向する板状とされており、上下両端部が対向方向内方に湾曲しながら延びて一対の対向板部74a,74bに接続されている。そして、一対の対向板部74a,74bが一対の側板部76a,76bで相互に接続されることにより、帯形筒状の緩衝ゴム72が形成されていると共に、一対の対向板部74a,74bおよび一対の側板部76a,76bで囲まれた内部空所73が形成されている。
また、本実施形態の緩衝ゴム72には、可動部材としての可動膜90が一体形成されている。可動膜90は、図5,図6に示されているように、全体として薄肉の略板状とされており、側板部76aから側板部76b側に突出することで、対向板部74aと対向板部74bの対向面間に延び出して、内部空所73に収容配置されている。また、可動膜90は、薄肉且つ狭幅の基端部92と、厚肉且つ幅広の先端部94とを、一体で備えており、基端部92が先端部94よりも弾性変形し易くなっている。
かくの如き可動膜90を一体で備えた緩衝ゴム72は、図1に示されているように、下仕切部材40の収容凹所56に配設されている。そして、下仕切部材40に上仕切部材38が重ね合わされて固定されることにより、緩衝ゴム72が収容空所64に収容配置されて、収容空所64の上壁内面96における可動膜90の打ち当たり面が、対向板部74aで覆われていると共に、収容空所64の下壁内面98における可動膜90の打ち当たり面が、対向板部74bで覆われている。更に、緩衝ゴム72の収容空所64への配設状態において、一対の側板部76a,76bは、収容空所64の周壁内面(図1中の左右両壁内面)に対して所定の隙間を隔てて対向配置されている。
また、緩衝ゴム72の第1の窓部78が上仕切部材38の第1の連通孔44に対して位置決めされて相互に連通されていると共に、緩衝ゴム72の第2の窓部80が下仕切部材40の第2の連通孔60に対して位置決めされて相互に連通されている。これにより、受圧室66と平衡室68を相互に連通する流体流路100が、第1,第2の連通孔44,60と、第1,第2の窓部78,80と、収容空所64と、内部空所73とを含んで構成されている。
このように軸方向に延びる流体流路100に対して、可動膜90が略直交して広がるように配設されており、可動膜90の上面には第1の連通孔44および第1の窓部78を通じて受圧室66の液圧が及ぼされていると共に、可動膜90の下面には第2の連通孔60および第2の窓部80を通じて平衡室68の液圧が及ぼされている。これにより、可動膜90は、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に基づいて、内部空所73内で上下に弾性変形するようになっている。
そして、アイドリング振動に相当する中周波小振幅振動の入力時には、可動膜90が内部空所73内で上下に微小変形することで、受圧室66と平衡室68の間で液圧が伝達されると共に、低周波大振幅振動の入力時には、可動膜90が第1の窓部78と第2の窓部80の何れかを塞ぐことで流体流路100を遮断して、流体流路100を通じた液圧の伝達が防止されるようになっている。要するに、本実施形態では、中周波小振幅振動の入力時に受圧室66の液圧を平衡室68に伝達する液圧伝達機構が、可動膜90を含んで構成されている。なお、本実施形態では流体流路100のチューニング周波数がアイドリング振動に相当する中周波数域に設定されているが、走行こもり音等に相当する高周波数域に設定することも可能である。
ここにおいて、可動膜90は、先端部94の中央部分が、緩衝ゴム72の対向板部74a,74bを介して、収容空所64の上壁内面96と下壁内面98との間で厚さ方向に挟持されて、厚さ方向の変形乃至は変位を拘束されている。
すなわち、収容空所64に配設された緩衝ゴム72において、対向板部74aの上弾性突部86は、上仕切部材38で構成された収容空所64の上壁内面96に向かって突出しており、その突出先端面が上壁内面96に当接している。一方、対向板部74bの下弾性突部88は、下仕切部材40で構成された収容空所64の下壁内面98に向かって突出しており、その突出先端面が下壁内面98に当接している。そして、緩衝ゴム72の収容空所64への配設状態において、対向板部74aにおける上弾性突部86の形成部分が、下方に湾曲変形されて可動膜90の先端部94の上面に当接されている。更に、対向板部74bにおける下弾性突部88の形成部分が、上方に湾曲変形されて可動膜90の先端部94の下面に当接されている。これらにより、可動膜90の先端部94は、緩衝ゴム72における弾性突部86,88の形成部分を介して、上壁内面96と下壁内面98の間で挟持されて、厚さ方向(上下方向)で弾性的に位置決めされている。
なお、可動膜90の先端部94は、その突出方向および幅方向の中間部分が緩衝ゴム72を介して上下壁内面96,98で挟持されており、挟持された部分よりも先端側と基端側、更には幅方向両側において、それぞれ厚さ方向の弾性変形を許容されている。また、本実施形態では、上弾性突部86と下弾性突部88がそれぞれ2つずつ形成されており、それら上下の弾性突部86,88の形成位置が可動膜90の先端部94の中央から先端側に設定されている。これにより、上下壁内面96,98によって挟持される部分が先端部94の突出先端側に設定されて、可動膜90において弾性変形し易い先端側の自由長が小さくされている。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることによって、車両に装着されて、パワーユニットと車両ボデーを相互に防振連結するようになっている。
かかる車両装着状態において、アイドリング振動周波数相当の中周波小振幅振動が入力されると、オリフィス通路70は、チューニング周波数よりも高周波数の振動入力により反共振を生じて実質的に遮断される。一方、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に基づいて、可動膜90が内部空所73内で一対の対向板部74a,74bに当接することなく上下に微小変形する。これにより、流体流路100が連通状態に保持されて、受圧室66の液圧が流体流路100を通じて平衡室68に伝達されることから、平衡室68の容積変化による液圧吸収作用が発揮されて、目的とする防振効果(振動絶縁効果)を得ることができる。なお、上記の説明からも明らかなように、流路上に可動膜90を配された流体流路100によって、本実施形態の液圧伝達機構が構成されている。
また、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波大振幅振動が入力されると、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に基づいて、オリフィス通路70を通じた流体流動が惹起される。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
なお、低周波大振幅振動の入力時には、可動膜90の上下方向での変形量が大きくなることから、図7,図8に示されているように、可動膜90の先端部94の外周端部が、一対の対向板部74a,74bに押し当てられる。これにより、第1,第2の窓部78,80の何れかが可動膜90で閉塞されて、流体流路100が遮断されることから、受圧室66の液圧が流体流路100を通じて平衡室68側に伝達されるのが防止される。その結果、受圧室66の内圧変動が効率的に惹起されて、オリフィス通路70を通じて流動する流体量を多く確保することができることから、流体の流動作用に基づいた防振効果が有効に発揮される。要するに、本実施形態の液圧伝達機構では、可動膜90によって流体流路100の連通と遮断が切り替えられることにより、受圧室66と平衡室68との間での液圧伝達機構による液圧伝達の有無が切り替えられるようになっている。
そこにおいて、エンジンマウント10では、可動膜90が収容空所64の上下壁内面96,98に当接する際の衝撃力が低減されて、打音の発生が防止されている。即ち、先ず、収容空所64の上下壁内面96,98における可動膜90の打ち当たり面が、緩衝ゴム72の対向板部74a,74bによって覆われており、対向板部74a,74bの弾性変形によるエネルギー減衰作用に基づいて、当接時の衝撃力が緩和されるようになっている。特に、対向板部74a,74bから収容空所64の上下壁内面96,98に向かって突出する上下の弾性突部86,88が設けられていることから、それら弾性突部86,88の弾性変形によるエネルギー減衰作用によっても、当接打音の低減が実現される。
また、変形量が大きくなって大きな打音が発生し易くなる可動膜90の先端部94が、突出方向および幅方向の中間部分において、緩衝ゴム72を介して上下壁内面96,98の間で挟持されている。これにより、可動膜90の先端部94は、厚さ方向の弾性変形を許容される部分の長さ(自由長)が短くされており、上下壁内面96,98に対する当接時の速さが低減されて、当接による衝撃力が抑えられる。特に本実施形態では、可動膜90が、緩衝ゴム72における弾性突部86,88の形成部分で挟持されていると共に、上弾性突部86,86および下弾性突部88,88が上下の桟部82,84の中央と、その側板部76b側とにそれぞれ形成されている。これにより、可動膜90のより先端側が上下の壁内面96,98で拘束されることから、当接時の衝撃が緩和されて、打音が低減される。
さらに、図7,図8に示されているように、緩衝ゴム72の対向板部74a,74bにおける可動膜90の当接部分が、広い範囲に亘って収容空所64の上下壁内面96,98から離隔している。それ故、当接時の衝撃力が、対向板部74a,74bの撓み変形によってより効果的に低減されて、打音の発生が防止される。
このように、可動膜90が、緩衝ゴム72の対向板部74a,74bを介して、収容空所64の上下壁内面96,98の間で挟持されることにより、可動膜90が収容空所64の上下壁内面96,98に対して当接する際の打音が、緩衝ゴム72の内部摩擦等に基づいたエネルギー減衰作用や、可動膜90の自由長の低減による当接速度の低減等によって、効果的に実現される。
しかも、上記の如くして当接打音が充分に低減されることから、比較的に大型で質量の大きな可動膜90を採用して、可動膜90で覆うことができる領域を大きく設定することができる。これにより、第1,第2の連通孔44,60および第1,第2の窓部78,80の開口面積を大きく確保することができることから、流体流路100の反共振による実質的な目詰まりをより高周波数まで回避することができる。従って、より高周波数の振動入力に対しても有効な防振効果を得ることが可能となって、優れた防振性能が実現される。
また、可動膜90は、薄肉且つ狭幅で側板部76aに接続された基端部92を備えており、基端部92が先端部94よりも弾性変形し易くなっている。これにより、特に上下壁内面96,98による挟持部分よりも基端側において、可動膜90の弾性変形が生じ易くなって、小振幅振動入力時の液圧吸収作用と、大振幅振動入力時の流体流路100の遮断とが、何れも迅速且つ有効に実現される。
また、本実施形態の緩衝ゴム72は、一対の対向板部74a,74bと一対の側板部76a,76bが一体形成されて、全体として一体の帯形筒状体とされており、部品点数が少なくなると共に、収容空所64内への配設も容易になる。しかも、一対の対向板部74a,74bの何れか一方に可動膜90が当接すると、当接によるエネルギーが側板部76a,76bを介して一対の対向板部74a,74bの何れか他方に伝達されることから、内部摩擦等によるエネルギー減衰作用が緩衝ゴム72の全体で発揮されて、当接打音の更なる低減が実現される。
さらに、本実施形態では、可動膜90も側板部76aと一体形成されていることから、部品点数の更なる削減が実現されると共に、可動部材の内部空所73への配設作業が不要になる。しかも、上弾性突部86,86が対向板部74aから上方に突出して形成されていると共に、下弾性突部88,88が対向板部74bから下方に突出して形成されている。それ故、可動膜90が側板部76aと一体形成されて予め内部空所73に配設された緩衝ゴム72において、弾性突部を容易に形成可能となる。
図9には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第2の実施形態として、自動車用のエンジンマウント110が示されている。エンジンマウント110では、仕切部材112の収容空所64に緩衝ゴム114が配設された構造を有している。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで、説明を省略する。
より詳細には、仕切部材112は、上仕切部材116と下仕切部材118を含んで構成されている。上仕切部材116は、図9,図10に示されているように、第1の実施形態の上仕切部材116に短絡孔120が形成された構造を有している。短絡孔120は、小径の円形断面で延びる孔であって、第1の窓部78よりも外周側において中央凹所42の底壁部を上下に貫通して形成されている。
また、下仕切部材118には、図9に示されているように、一対の挿通ピン122a,122bが、収容凹所56の長手方向両端部分において底壁部から上方に向かって突出している。なお、本実施形態では、挿通ピン122aが挿通ピン122bよりも小径とされており、後述する挿通孔124a,124bへの挿通によって、緩衝ゴム114の収容空所64内での向きが決定される。また、本実施形態では、挿通ピン122a,122bが、下仕切部材118とは別体のピンを下仕切部材118の成形時にインサートすることで設けられているが、下仕切部材118に一体形成されていても良い。
そして、上仕切部材116が下仕切部材118の上面に重ね合わされて固定されることにより、仕切部材112が構成されると共に、それら上仕切部材116と下仕切部材118の間に収容空所64が形成されている。また、上仕切部材116に形成された短絡孔120の下側開口部が、収容空所64の上壁内面96に開口しており、受圧室66と収容空所64が短絡孔120によって常時連通されている。
また、収容空所64には、緩衝ゴム114が配設されている。緩衝ゴム114は、図9,図11,図12に示されている第1の実施形態の緩衝ゴム72と同様に、一対の対向板部74a,74bと一対の側板部76a,76bとを一体で備えた中空の帯形筒状体とされており、対向板部74aに2つの上弾性突部86,86が形成されていると共に、対向板部74bに2つの下弾性突部88,88が形成されている(図9,図11,図12参照)。
さらに、緩衝ゴム114の対向板部74a,74bには、それぞれ一対の挿通孔124a,124bが形成されている。この挿通孔124a,124bは、小径の円形孔であって、挿通孔124aが挿通孔124bよりも小径とされており、挿通孔124aが挿通ピン122aと対応する断面形状とされていると共に、挿通孔124bが挿通ピン122bと対応する断面形状とされている。
更にまた、緩衝ゴム114の対向板部74aには、短絡窓126が形成されている。短絡窓126は、短絡孔120と略対応する円形孔であって、対向板部74aを上下に貫通して、下側開口部が内部空所73に連通されている。なお、本実施形態では、短絡窓126が挿通孔124よりも長手方向(図9中、左右方向)の外側に形成されている。
このような構造とされた緩衝ゴム114は、収容空所64に配設されている。更に、緩衝ゴム114は、挿通ピン122aが挿通孔124aに挿通されると共に、挿通ピン122bが挿通孔124bに挿通されることにより、収容空所64内での向きが決定されると共に、収容空所64内で軸直角方向に位置決めされる。このように、本実施形態のエンジンマウント110では、挿通ピン122a,122bの挿通孔124a,124bへの挿通によって、緩衝ゴム114の収容空所64への適切な向きでの配設が、容易に行えるようになっている。
さらに、緩衝ゴム114の収容空所64への配設状態において、緩衝ゴム114の対向板部74aに形成された短絡窓126が、上仕切部材116に形成された短絡孔120と連通されており、内部空所73が受圧室66に対して常時連通状態とされている。
また、緩衝ゴム114の内部空所73には、可動部材としての可動板128が配設されている。可動板128は、ゴム弾性体で形成された矩形板状の部材であって、緩衝ゴム114とは別体とされている。そして、可動板128は、内部空所73内で流体流路100と略直交して広がるように配設されており、その上面に受圧室66の液圧が及ぼされていると共に、下面に平衡室68の液圧が及ぼされている。なお、可動板128は、その長手方向(図9中、左右方向)での寸法が、一対の挿通ピン122a,122bの距離よりも小さくされており、それら挿通ピン122aと挿通ピン122bの間に配設されている。これにより、緩衝ゴム114の対向板部74aに形成された短絡窓126は、可動板128を外れた位置に形成されており、可動板128によって閉塞されることなく常時連通状態に保持される。
さらに、可動板128は、その中央部分が、緩衝ゴム114の対向板部74a,74bにおける弾性突部86,88の形成部分を介して、収容空所64の上壁内面96と下壁内面98との間で弾性的に挟持されている。これにより、可動板128は、受圧室66と平衡室68の相対的な液圧変動に対して、弾性変形を許容された部分の自由長が小さくされている。それ故、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の入力によって、可動板128が弾性変形して収容空所64の上下壁内面96,98何れかに当接しても、当接時の速度や当接部分の質量が低減されることで、衝撃力が低減されて、当接に起因する打音が防止される。
また、可動部材が緩衝ゴム114とは別体の可動板128とされていることにより、可動板128の外周部分が緩衝ゴム114で拘束されることはなく、全周に亘って容易に変形するようになっている。それ故、中乃至高周波小振幅振動の入力時に、液圧伝達作用がより効率的に発揮されて、目的とする防振効果を有利に得ることができる。
また、自動車の段差乗り越え等により、著しく大きな振幅の振動が入力されて、受圧室66の液圧が急激且つ大幅に低下すると、キャビテーションに起因する気泡が発生して、気泡の消失時に発せられる衝撃力によって異音が生じる場合がある。そこにおいて、本実施形態のエンジンマウント110では、短絡孔120と短絡窓126を通じて受圧室66と内部空所73が常時連通されており、受圧室66に過大な負圧が作用して可動板128が第1の窓部78を閉塞した状態でも、それら短絡孔120と短絡窓126を通じて受圧室66と平衡室68が連通状態に保持される。それ故、平衡室68から受圧室66に流体が流入することで、受圧室66の負圧が軽減されて、キャビテーションによる気相の分離が回避される結果、キャビテーションに起因する異音の発生が防止される。
図13には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第3の実施形態として、自動車用のエンジンマウント130が示されている。エンジンマウント130は、仕切部材36の収容空所64に緩衝ゴム132が配設された構造を有している。
緩衝ゴム132は、一対の対向板部74a,74bと一対の側板部76a,76bを一体で備える中空の帯形筒状体とされており、一方の側板部76aから可動部材としての可動膜134が一体で突出している。なお、可動膜134は、略矩形板形状を有しており、全体が略一定の厚さ寸法と幅寸法で形成されている。
さらに、緩衝ゴム132の対向板部74aには、上方に突出する上弾性突部86が一体形成されていると共に、対向板部74bには、下方に突出する下弾性突部88が一体形成されている。本実施形態では、上弾性突部86と下弾性突部88がそれぞれ1つずつ形成されており、上桟部82と下桟部84の各中央から軸方向で反対向きに突出している。
このような構造とされたエンジンマウント130においても、可動膜134が、対向板部74a,74bにおける弾性突部86,88の形成部分を介して、収容空所64の上下壁内面96,98間で挟持されていることから、当接時の打音が低減される。
図14には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第4の実施形態として、自動車用のエンジンマウント140が示されている。エンジンマウント140は、収容空所64に緩衝ゴム142が配設された構造を有している。
緩衝ゴム142は、一対の対向板部74a,74bと一対の側板部76a,76bを一体で備える中空の帯形筒状体とされており、一方の側板部76aから可動膜134が一体で突出している。なお、可動膜134は、略矩形板形状を有しており、全体が略一定の厚さ寸法と幅寸法で形成されている。
さらに、緩衝ゴム142の対向板部74aには、下方に突出する上弾性突部144が一体形成されていると共に、対向板部74bには、上方に突出する下弾性突部146が一体形成されている。本実施形態では、上弾性突部144と下弾性突部146がそれぞれ2つずつ形成されており、一方の弾性突部144,146が上桟部82と下桟部84の各中央に設けられていると共に、他方の弾性突部144,146が上桟部82と下桟部84の中央よりも側壁部76b側に設けられている。要するに、本実施形態の緩衝ゴム142では、上下の弾性突部144,146が、互いに対応する位置で、対向板部74aと対向板部74bの対向方向内側に向かって突出しており、軸方向上下に所定の距離を隔てて対向している。
そして、可動膜134の中央部分が、それら上下の弾性突部144,146の突出先端面間で挟持されて、厚さ方向の弾性変形を制限されている。なお、本実施形態では、弾性突部144,146が対向板部74a,74bの対向方向内側に突出していることから、緩衝ゴム142の収容空所64への配設状態において、対向板部74a,74bの略全体が収容空所64の上下壁内面96,98に対して重ね合わされている。
このようなエンジンマウント140によっても、可動膜134が収容空所64の壁内面96,98に当接することで生じる打音が低減される。また、緩衝ゴム142の収容空所64への配設状態において、対向板部74a,74bや上下の弾性突部144,146に作用する初期応力が小さいことから、緩衝ゴム142の耐久性の向上が図られる。
図15には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第5の実施形態として、自動車用のエンジンマウント150が示されている。エンジンマウント150は、仕切部材152の収容空所64に緩衝ゴム154が配設された構造を有している。
仕切部材152は、上仕切部材156と下仕切部材158を備えている。上仕切部材156は、第1の実施形態の上仕切部材38に上挟持突部160が一体形成された構造を有している。上挟持突部160は、小径の略円柱形状を有しており、第1の桟部45の径方向中央から下方に向かって収容空所64内に突出している。下仕切部材158は、第1の実施形態の下仕切部材40に下挟持突部162を一体形成した構造を有している。下挟持突部162は、小径の略円柱形状を有しており、第2の桟部61の径方向中央から上方に向かって収容空所64内に突出している。
そして、上仕切部材156と下仕切部材158が上下に重ね合わされて相互に固定されることにより、収容空所64を備えた仕切部材152が形成されている。また、上仕切部材156と下仕切部材158が固定された状態で、上挟持突部160と下挟持突部162は、上下に所定の距離を隔てて対向配置されている。
また、収容空所64には、緩衝ゴム154が配設されている。緩衝ゴム154は、一対の対向板部74a,74bと一対の側板部76a,76bとを一体で備えた中空の帯形筒状体とされている。また、一方の側板部76aには、略一定の厚さで広がる矩形板状の可動膜134が一体形成されて、一対の対向板部74a,74bの対向面間に延び出している。要するに、緩衝ゴム154は、図13に示された第3の実施形態の緩衝ゴム132において弾性突部86,88が省略された構造を有している。
そして、緩衝ゴム154は、収容空所64に配設されて、対向板部74a,74bが収容空所64の上下壁内面96,98に重ね合わされている。また、上挟持突部160が対向板部74aに向かって突出していると共に、下挟持突部162が対向板部74bに向かって突出しており、それら上下の挟持突部160,162の先端が対向板部74a,74bに当接することで、対向板部74a,74bの中央部分が上下の挟持突部160,162によって可動膜134側に押し込まれている。これにより、可動膜134は、収容空所64の上下壁内面96,98における上下の挟持突部160,162の形成部分で、緩衝ゴム154の対向板部74a,74bを介して厚さ方向に挟持されている。
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント150においても、可動膜134が収容空所64の上下壁内面96,98に当接することで生じる打音が低減される。更に、可動膜134が仕切部材152と一体形成された硬質の挟持突部160,162によって挟まれていることから、挟持突部160,162による拘束部分において可動膜134の変形乃至は変位がより安定して抑えられて、打音の低減効果がより有利に発揮される。しかも、可動膜134が緩衝ゴム154の対向板部74a,74bを介して挟持突部160,162の先端面間で挟持されていることから、可動膜134が挟持部分を支点とする厚さ方向の変形によって損傷するのを防ぐこともできる。
図16には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第6の実施形態として、自動車用のエンジンマウント170が示されている。エンジンマウント170は、仕切部材172の収容空所174に緩衝ゴム176が配設された構造を有している。
仕切部材172は、上仕切部材178と下仕切部材180を備えている。上仕切部材178は、図16,図17に示されているように、略円板形状を有しており、上面に開口する中央凹所42が形成されている。更に、上仕切部材178の径方向中央部分には、中央凹所42の底壁部を上下に貫通する第1の連通孔182が形成されている。この第1の連通孔182は、略一定の長方形断面を有しており、2つの第1の連通孔182,182が短辺方向(図17中、左右方向)で所定の距離を隔てて形成されることで、それら2つの第1の連通孔182,182の間に第1の桟部184が形成されている。
一方、下仕切部材180は、図16,図18に示されているように、略円板形状を有しており、径方向中央部分には上面に開口する収容凹所186が形成されている。この収容凹所186は、略一定の円形断面で上下に延びており、その底壁部には上下に貫通する第2の連通孔188が形成されている。第2の連通孔188は、第1の連通孔182と略同じ長方形断面で上下に延びており、2つの第2の連通孔188,188が短辺方向(図18中、左右方向)で所定の距離を隔てて形成されることで、それら2つの第2の連通孔188,188の間に第2の桟部190が形成されている。
そして、上仕切部材178と下仕切部材180が上下に重ね合わされて相互に固定されることにより、仕切部材172が形成されている。また、下仕切部材180の収容凹所186の開口部が上仕切部材178によって覆蓋されることで、収容空所174が形成されており、この収容空所174には緩衝ゴム176が配設されている。緩衝ゴム176は、図19〜図21に示されているように、一対の対向板部192a,192bと、それら対向板部192a,192bを相互に連結する一対の側板部194a,194bとを備えている。
対向板部192a,192bは、何れも略円板形状を呈しており、対向板部192aには厚さ方向に貫通する2つの第1の窓部196が形成されていると共に、対向板部192bには厚さ方向に貫通する2つの第2の窓部198が形成されている。第1,第2の窓部196,198は、互いに略同じ略長方形断面を有しており、短辺方向で所定の距離を隔てて各2つが形成されて、2つの第1の窓部196,196の間に上桟部200が形成されていると共に、2つの第2の窓部198,198の間に下桟部202が形成されている。また、対向板部192aの上桟部200には上方に突出する小径円柱状の上弾性突部86が一体形成されていると共に、対向板部192bの下桟部202には、下方に突出する小径円柱状の下弾性突部88が一体形成されている。
また、一対の対向板部192a,192bの対向間には、それら対向板部192a,192bと直交して広がる一対の側板部194a,194bが設けられている。側板部194a,194bは、互いに略同一の矩形板形状を有しており、軸直一方向(図20中、左右方向)で離隔して相互に対向している。そして、側板部194a,194bが対向板部192a,192bと一体で形成されて、それら対向板部192a,192bが側板部194a,194bによって相互に連結されており、全体として中空形状の緩衝ゴム176が形成されている。なお、緩衝ゴム176において、対向板部192a,192bと側板部194a,194bとによって囲まれた領域が、内部空所73とされている。
また、緩衝ゴム176の内部空所73には、可動部材としての可動膜204が配設されている。可動膜204は、略一定の厚さ寸法で軸直角方向に広がる板形状とされており、図21に示されているように、幅広の矩形板形状を呈する先端部206と、先端部206に比して狭幅の基端部208とを一体で備えている。このような構造とされた可動膜204は、一対の対向板部192a,192bの対向面間にそれら対向板部192a,192bの何れからも離隔して広がっており、基端部208が側板部194bと一体で形成されることで緩衝ゴム176と一体形成されて、片持ち状に支持されている。
そして、可動膜204を一体で備えた緩衝ゴム176は、図16に示されているように、仕切部材172の収容空所174に配設されて、対向板部192aが収容空所174の上壁内面96に重ね合わされていると共に、対向板部192bが収容空所174の下壁内面98に重ね合わされている。これにより、第1の連通孔182と第1の窓部196が連通されると共に、第2の連通孔188と第2の窓部198が連通されて、受圧室66と平衡室68を相互に連通する流体流路100が形成されている。
さらに、上弾性突部86の突出先端面が収容空所174の上壁内面96に当接されていると共に、下弾性突部88の突出先端面が収容空所174の下壁内面98に当接されている。これにより、上下の弾性突部86,88の形成部分において対向板部192a,192bが収容空所174の上下壁内面96,98から離隔して、対向方向内側に押し込まれている。その結果、可動膜204の先端部206の中央部分が、緩衝ゴム176の対向板部192a,192bを介して、収容空所174の上下壁内面96,98で厚さ方向に挟持されている。
このような本実施形態のエンジンマウント170においても、可動膜204の先端部206が収容空所174の上下壁内面96,98で挟持されて拘束されることにより、可動膜204の自由長が小さくされて、可動膜204の当接による打音が低減される。また、エンジンマウント170の構造からも明らかなように、緩衝ゴムは帯形筒状体に限定されるものではない。
図22には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第7の実施形態として、自動車用のエンジンマウント210が示されている。エンジンマウント210は、仕切部材172の収容空所174に緩衝ゴム212が配設された構造を有している。
緩衝ゴム212は、互いに独立した対向板部214aと対向板部214bを含んで構成されている。対向板部214a,214bは、互いに略同一の矩形板状とされており、対向板部214aに2つの第1の窓部196,196が形成されていると共に、対向板部214bに2つの第2の窓部198,198が形成されている。更に、対向板部214aには中央部分において上方に突出する上弾性突部86が一体形成されていると共に、対向板部214bには中央部分において下方に突出する下弾性突部88が一体形成されている。
そして、対向板部214aは、収容空所174の上壁内面96に重ね合わされて、外周部分が接着や係止等の手段で上仕切部材178に固定されていると共に、中央部分において上弾性突部86の突出先端面が上壁内面96に当接されている。一方、対向板部214bは、収容空所174の下壁内面98に重ね合わされて、外周部分が接着や係止等の手段で下仕切部材180に固定されていると共に、中央部分において下弾性突部88の突出先端面が下壁内面98に当接されている。これにより、対向板部214a,214bの中央部分は、対向方向内側に向かって凸となるように湾曲変形している。なお、本実施形態では、対向板部214aと対向板部214bが、軸直平面に対して互いに対称な形状とされており、単一形状のゴム弾性体を表裏反転して収容空所174に配することで、対向板部214aと対向板部214bが実現される。
また、対向板部214a,214bの対向面間には、可動板128が配設されている。可動板128は、略矩形平板形状を有するゴム弾性体であって、中央部分が、緩衝ゴム212の対向板部214a,214bを介して、収容空所174の上下壁内面96,98で厚さ方向に挟まれている。これにより、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に対して、中央部分が拘束されて変形および変位を制限されていると共に、外周部分が厚さ方向の変形を許容されている。
このような本実施形態に係るエンジンマウント210においても、可動板128が収容空所174の上下壁内面96,98に当接して生じる打音が、防止される。また、エンジンマウント210の構造からも明らかなように、緩衝ゴムは、必ずしも中空形状に限定されないと共に、全体が一体で形成されている必要もない。
図23には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第8の実施形態として、自動車用のエンジンマウント220が示されている。エンジンマウント220は、仕切部材172の収容空所174に緩衝ゴム222が配設された構造を有している。
緩衝ゴム222は、第1の緩衝体224と第2の緩衝体226とを含んで構成されている。第1の緩衝体224は、図24,図25に示されているように、対向板部192aと支持部としての側板部194bとを一体で備えると共に、側板部194bから延び出す可動膜204も一体で備えている。第2の緩衝体226は、第1の緩衝体224とは独立して別体で形成されており、図26,図27に示されているように、対向板部192bと側板部194aとを一体で備えている。
そして、第1,第2の緩衝体224,226が、図23に示されているように収容空所174に配設されることにより、緩衝ゴム222が構成されている。また、収容空所174への配設状態において、第1の緩衝体224の対向板部192aが収容空所174における受圧室66側の上壁内面96に重ね合わされていると共に、第2の緩衝体226の対向板部192bが収容空所174における平衡室68側の下壁内面98に重ね合わされている。更に、収容空所174への配設状態において、第1の緩衝体224の側板部194bが第2の緩衝体226の対向板部192bに当接されていると共に、第2の緩衝体226の側板部194aが第1の緩衝体224の対向板部192aに当接されており、それら第1,第2の緩衝体224,226が相互に当接した実質的な連結状態で配設されている。
このような本実施形態に従う構造のエンジンマウント220においても、目的とする打音の低減効果を有効に得ることができる。また、本実施形態の構造からも明らかなように、可動膜構造においても、対向板部192aと対向板部192bとを独立して別体で形成することができる。しかも、それら対向板部192aと対向板部192bとを収容空所174への配設状態において側板部194a,194bを介して実質的に連結することで、振動エネルギーの伝達によるエネルギー減衰作用によって、打音の更なる低減が図られ得る。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、上下の弾性突部や上下の挟持突部が互いに対応する位置に形成されて、略同一の中心軸を持つように配置されていたが、上下の弾性突部(挟持突部)は、互いに異なる位置に形成されていても良い。
さらに、弾性突部や挟持突部は、必ずしも上下両側に設けられていなくても良く、例えば、上下一方の側に弾性突部が設けられると共に、上下他方の側に挟持突部が設けられていても良いし、上下一方の側にだけ弾性突部や挟持突部が設けられていても良い。
また、緩衝ゴムは、中空形状の帯形筒状体に限定されるものではなく、例えば、片方の側板部のみが設けられていても良いし、一方の側板部が分断されて、一対の対向板部を連結し得ない構造とされていても良い。
本発明は、エンジンマウントにのみ適用されるものではなく、ボデーマウントやメンバマウント等を含んだ各種の流体封入式防振装置に対して好適に適用され得る。また、本発明の適用範囲は、自動車用の流体封入式防振装置に限定されず、例えば自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等、自動車以外に用いられる流体封入式防振装置にも適用され得る。