以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜図3には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有しており、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第1の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、全体として小径の略円形ブロック形状を有しており、上部が略円柱形状を有していると共に、下部が下方に向かって次第に縮径する逆向きの略円錐台形状とされている。また、第1の取付部材12には、中心軸上を上下に延びて上面に開口するボルト穴18が形成されており、内周面にねじ山が形成されている。
第2の取付部材14は、第1の取付部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、第2の取付部材14の上端部分には、外周側に開口する溝状を呈する括れ部20が設けられていると共に、括れ部20の上端から外周側に向かってフランジ部22が突出している。
そして、第1の取付部材12と第2の取付部材14は、同一中心軸上で第1の取付部材12が第2の取付部材14よりも上方に離隔配置されて、それら第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部に第1の取付部材12が加硫接着されていると共に、大径側の端部の外周面に第2の取付部材14の括れ部20が重ね合わされて加硫接着されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が第1の取付部材12および第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径凹所24が形成されている。大径凹所24は、本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口する逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所であって、本体ゴム弾性体16の径方向中央部分に形成されている。
更にまた、本体ゴム弾性体16における大径凹所24よりも外周側からは、シールゴム層26が延び出している。シールゴム層26は、薄肉大径の略円筒形状を有するゴム弾性体であって、本体ゴム弾性体16と一体形成されて、第2の取付部材14の内周面に固着されている。
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、可撓性膜28が取り付けられている。可撓性膜28は、薄肉の円板状乃至は円形ドーム状を呈するゴム膜であって、軸方向に充分な弛みを備えている。更に、可撓性膜28の外周端部には環状の固着部30が一体形成されており、この固着部30の外周面が環状の固定部材32の内周面に加硫接着されている。
そして、固定部材32が第2の取付部材14の下側開口部に挿入されて、第2の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、固定部材32が第2の取付部材14に嵌着されて、可撓性膜28が第2の取付部材14の下側開口部を閉鎖するように配設される。なお、第2の取付部材14と固定部材32の間には、シールゴム層26が介在しており、第2の取付部材14と固定部材32が流体密に固定されている。
このように本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に可撓性膜28が取り付けられることで、本体ゴム弾性体16と可撓性膜28の軸方向対向面間には、外部空間に対して密閉されて非圧縮性流体を封入された流体室34が形成されている。なお、流体室34に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が採用され得る。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
また、流体室34には、仕切部材36が収容配置されている。仕切部材36は、全体として厚肉の略円板形状を呈しており、上仕切部材38と下仕切部材40とを含んで構成されている。
上仕切部材38は、略円板形状を呈しており、径方向中央部分には上方に開口する中央凹所42が形成されて、後述する受圧室66の容積が効率的に確保されるようになっている。更に、中央凹所42の底壁の中央部分には、上下に貫通する第1の連通孔44が形成されている。この第1の連通孔44は軸方向視で略長方形とされており、一対の第1の連通孔44,44が短辺方向で所定の距離を隔てて設けられている。なお、中央凹所42の底壁部の外周部分には、周上で等間隔に複数の上部嵌着孔46が貫通形成されている。
さらに、上仕切部材38の外周端部には、外周面に開口しながら周方向に所定の長さで延びる上部溝48が形成されており、上部溝48の一方の端部が径方向内側に延び出して中央凹所42に連通されていると共に、他方の端部が下面に開口している。
下仕切部材40は、中央部分が厚肉の略円板形状を呈していると共に、その外周側には下端から薄肉のフランジ状部分50が突出している。このフランジ状部分50は、周方向で一周に満たない所定長さで延びており、周方向一方の端部が周方向外側に向かって次第に厚肉となる傾斜部とされていると共に、他方の端部が軸方向下方に開口している。更に、フランジ状部分50の周方向両端部間には、中央部分と略同じ軸方向厚さの隔壁部が設けられている。なお、厚肉とされた中央部分には、周上で等間隔に複数の下部嵌着穴(図示せず)が形成されている。
また、下仕切部材40の径方向中央部分には、上方に開口する収容凹所56が形成されている。この収容凹所56は、軸方向視で略長方形を呈しており、その底壁の長辺方向一方側からは上方に向かって係止突起としての挿通ピン58が突出している。挿通ピン58は、小径の略円柱形状を有しており、本実施形態では、突出先端部分の角部が面取りされることで、突出先端部が先端側に向かって縮径するテーパ形状とされている。
さらに、収容凹所56の底壁部には、一対の第2の連通孔60,60が貫通形成されている。第2の連通孔60は、第1の連通孔44と略同じ長方形断面で上下に延びており、第1の連通孔44と同様に、短辺方向で所定距離を隔てて一対が設けられている。なお、第2の連通孔60は、その長辺方向が収容凹所56の短辺方向と略一致するように設けられており、後述する上下仕切部材38,40の組み合わせ状態において、第1の連通孔44の長辺方向と第2の連通孔60の長辺方向が略一致している。
そして、上仕切部材38と下仕切部材40は、上下に重ね合わされており、相互に位置決めされた上部嵌着孔46と下部嵌着穴に対して、ピンが圧入されたり、ねじが螺着される等して、相互に固定されている。また、上仕切部材38の上部溝48の下側壁部が下仕切部材40のフランジ状部分50に対して上方に離隔して対向配置されることにより、外周側に開口して周方向に延びる凹溝が形成されており、その凹溝と上部溝48が周方向端部で相互に連通されることによって、周方向に2周弱の長さで螺旋状に延びる周溝62が形成されている。更に、下仕切部材40の収容凹所56の開口部が上仕切部材38で覆蓋されることによって、上下の仕切部材38,40の間には収容空所64が形成されている。なお、収容空所64の上壁部に第1の連通孔44が貫通形成されていると共に、収容空所64の下壁部に第2の連通孔60が貫通形成されている。
かくの如き構造とされた仕切部材36は、流体室34に収容配置されて、軸直角方向に広がっており、外周端部を第2の取付部材14によって支持されている。これにより、流体室34が仕切部材36を挟んで上下に二分されており、仕切部材36を挟んだ上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室66が形成されている。一方、仕切部材36を挟んだ下方には、壁部の一部が可撓性膜28で構成されて、可撓性膜28の変形によって容積変化が容易に許容される平衡室68が形成されている。それら受圧室66および平衡室68には、上述の非圧縮性流体が封入されている。
また、仕切部材36の外周面が第2の取付部材14に対してシールゴム層26を介して重ね合わされることにより、周溝62の外周開口部が第2の取付部材14によって流体密に覆蓋されて、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。このトンネル状流路の周方向一方の端部が受圧室66に連通されると共に、周方向他方の端部が平衡室68に連通されることにより、受圧室66と平衡室68を相互に連通するオリフィス通路70が、周溝62を利用して形成されている。なお、オリフィス通路70は、受圧室66および平衡室68の壁ばね剛性を考慮しながら、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することにより、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
また、収容空所64には、緩衝体としての緩衝ゴム72が収容配置されている。緩衝ゴム72は、図4〜図7に示されているように、ゴム弾性体で形成された中空構造体であって、本実施形態では、軸方向視で略長方形を呈していると共に、短辺方向(図5中、上下方向)に貫通する内部空所74を備えた略帯形筒状体とされている。
より具体的には、緩衝ゴム72は、一対の対向板部76a,76bと、それら一対の対向板部76a,76bを相互に接続する一対の側板部78a,78bとを、一体で備えることで、略帯形筒状体をなしている。
一対の対向板部76a,76bは、軸方向視で互いに対応する略長方形を呈する板状体であって、上下方向で相互に所定距離を隔てて対向配置されている。また、対向板部76aに一対の第1の窓部80,80が形成されていると共に、対向板部76bに一対の第2の窓部82,82が形成されている。それら第1の窓部80と第2の窓部82は、相互に略同一の長方形断面を有する貫通孔であって、それぞれ短辺方向で所定距離を隔てて隣り合う一対が形成されている。なお、第1の窓部80の長辺方向が対向板部76aの短辺方向となっていると共に、第2の窓部82の長辺方向が対向板部76bの短辺方向となっている。
さらに、対向板部76bにおける一対の第2の窓部82,82の短辺方向外側には、係止孔としての挿通孔84が形成されている。挿通孔84は、挿通ピン58に略対応する小径の円形断面で上下に貫通する孔であって、緩衝ゴム72の対向板部76bに対して1つの挿通孔84が挿通ピン58と対応する位置に形成されている。
また、一対の対向板部76a,76bの長辺方向の両端部には、一対の側板部78a,78bが一体形成されており、一対の対向板部76a,76bが一対の側板部78a,78bによって相互に接続されている。そして、一対の対向板部76a,76bが一対の側板部78a,78bで相互に接続されることにより、帯形筒状の緩衝ゴム72が形成されていると共に、一対の対向板部76a,76bおよび一対の側板部78a,78bで囲まれた内部空所74が形成されている。
かくの如き構造とされた緩衝ゴム72は、下仕切部材40の収容凹所56に非接着で挿入されている。そして、下仕切部材40に上仕切部材38が重ね合わされて固定されることにより、緩衝ゴム72が収容空所64に収容配置されている。収容空所64に配設された緩衝ゴム72は、対向板部76aが収容空所64の上壁内面に非接着で当接して重ね合わされており、収容空所64の上壁内面が対向板部76aで覆われていると共に、対向板部76bが収容空所64の上壁内面に非接着で当接して重ね合わされており、収容空所64の下壁内面が対向板部76bで覆われている。
また、緩衝ゴム72は、収容空所64の周壁内面に対して所定の距離を隔てて配設されており、緩衝ゴム72と収容空所64の周壁内面との間には全周に亘って連続する隙間86が形成されている。
また、緩衝ゴム72の収容凹所56への挿入時に、下仕切部材40に一体形成された挿通ピン58が緩衝ゴム72の挿通孔84に挿入されることにより、挿通ピン58が緩衝ゴム72の対向板部76bを上下に貫通するように挿通されている。これにより、挿通ピン58の外周面と挿通孔84の内周面との当接係止によって、緩衝ゴム72を収容空所64内で仕切部材36に対して位置決めする、位置決め手段が構成されている。更に、対向板部76bの長手方向一方の側だけに挿通孔84が形成されていることから、挿通ピン58を挿通孔84に挿通することで、緩衝ゴム72が収容凹所56内で所定の向きに配設されるようになっており、もって、本実施形態における規定手段が構成されている。なお、挿通ピン58の突出先端の角部が面取りされていることによって、挿通ピン58が挿通孔84に容易に挿入されるようになっている。
また、緩衝ゴム72の第1の窓部80が上仕切部材38の第1の連通孔44に対して位置決めされて相互に連通されていると共に、緩衝ゴム72の第2の窓部82が下仕切部材40の第2の連通孔60に対して位置決めされて相互に連通されている。これにより、受圧室66と平衡室68を相互に連通する流体流路90が、第1,第2の連通孔44,60と、第1,第2の窓部80,82と、収容空所64と、内部空所74とを含んで構成されている。
この流体流路90上には、可動部材としての可動板92が配設されている。可動板92は、ゴム弾性体や合成樹脂、金属等で形成された矩形板状の部材であって、緩衝ゴム72とは別体で形成されており、緩衝ゴム72の内部空所74内に収容配置されることで、収容空所64内に配設されている。また、可動板92は、図3に破線で示されているように、対向板部76a,76bの長辺方向および短辺方向において、第1の窓部80,80および第2の窓部82,82の外端よりも外側まで延び出している。更に、可動板92は、対向板部76a,76bの短辺方向において、それら対向板部76a,76bの短辺の長さと同じか、それよりも小さい寸法で形成されており、可動板92と収容空所64の周壁内面との間に隙間94が形成されている。
そして、可動板92は、緩衝ゴム72の内部空所74に収容されることで、略軸直角方向に広がっている。なお、可動板92は、内部空所74内で面方向(厚さ方向と直交する方向)に変位しても、その外周端が第1の窓部80,80および第2の窓部82,82よりも外側に位置した状態で保持される大きさで形成されており、それら第1の窓部80,80および第2の窓部82,82の全体が軸方向の投影において可動板92と重なり合っている。
また、可動板92は、軸方向に延びる流体流路90に対して略直交して広がるように配設されており、可動板92の上面には第1の連通孔44および第1の窓部80を通じて受圧室66の液圧が及ぼされていると共に、可動板92の下面には第2の連通孔60および第2の窓部82を通じて平衡室68の液圧が及ぼされている。これにより、可動板92は、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に基づいて、内部空所74内で上下に変位するようになっている。
そして、アイドリング振動に相当する中周波小振幅振動の入力時には、可動板92が内部空所74内で上下に微小変位することで、受圧室66と平衡室68の間で液圧を伝達するようになっている。一方、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の入力時には、可動板92が第1の窓部80と第2の窓部82の何れかを塞ぐことで流体流路90を遮断することで、流体流路90を通じた液圧の伝達が防止されるようになっている。要するに、本実施形態では、中周波小振幅振動の入力時に受圧室66の液圧を平衡室68に伝達する液圧伝達機構が、可動板92を含んで構成されている。なお、本実施形態において、流体流路90のチューニング周波数は、アイドリング振動に相当する中周波数域に設定されているが、走行こもり音等に相当する高周波数域に設定することも可能である。
そこにおいて、本実施形態のエンジンマウント10では、緩衝ゴム72に連通路96が形成されている。連通路96は、図4,図5に示されているように、緩衝ゴム72の対向板部76aに形成されており、第1の窓部80の開口縁部から対向板部76aの短辺方向(軸方向および一対の側板部78a,78bの対向方向に対して略直交する方向)に延びて第1の窓部80の枠を部分的に切断する切欠き状とされている。なお、上記の説明からも明らかであるが、連通路96は、一方の端部が第1の窓部80に連通されていると共に、他方の端部が対向板部76aの短辺方向一方の端面に開口している。
このような連通路96を備えた緩衝ゴム72は、図1,図2に示されているように、対向板部76aが収容空所64の受圧室66側の壁内面に重ね合わされた状態で配設されている。そして、緩衝ゴム72の収容空所64への配設状態において、図2に示されているように、連通路96は、一方の端部が第1の窓部80を介して或いは直接的に第1の連通孔44に連通されていると共に、他方の端部が収容空所64(隙間86)に連通されている。これにより、受圧室66と収容空所64を相互に連通する短絡通路98が、連通路96と、第1の窓部80と、第1の連通孔44とを、含んで形成されている。なお、前述の規定手段によって緩衝ゴム72が収容空所64に所定の向きで配設されることから、連通路96が受圧室66側に位置するようにされている。
この短絡通路98は、受圧室66と収容空所64を常時連通状態に保持している。即ち、図8に示されているように、可動板92が内部空所74内で上端に位置して対向板部76aに当接した状態においても、可動板92と収容空所64の周壁内面との隙間94によって短絡通路98が連通状態に保持されるようになっている。また、可動板92が対向板部76bから離隔することで第2の窓部82が開放されて、第2の窓部82および第2の連通孔60を通じて収容空所64が平衡室68に連通される。これにより、受圧室66の液圧が平衡室68の液圧に対して相対的に低下して可動板92が対向板部76bから離隔することで、受圧室66と平衡室68が短絡通路98を利用して相互に連通されるようになっている。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることによって、車両に装着されて、パワーユニットと車両ボデーを相互に防振連結するようになっている。
かかる車両装着状態において、アイドリング振動周波数相当の中周波小振幅振動が入力されると、オリフィス通路70は、チューニング周波数よりも高周波数の振動入力により反共振を生じて実質的に遮断される。一方、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に基づいて、可動板92が内部空所74内で一対の対向板部76a,76bに当接することなく上下に微小変位する。これにより、流体流路90が連通状態に保持されて、受圧室66の液圧が流体流路90を通じて平衡室68に伝達されることから、平衡室68の容積変化による液圧吸収作用が発揮されて、目的とする防振効果(振動絶縁効果)を得ることができる。なお、上記の説明からも明らかなように、流路上に可動板92を配された流体流路90によって、本実施形態の液圧伝達機構が構成されている。
また、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波大振幅振動が入力されると、受圧室66と平衡室68の相対的な圧力変動に基づいて、オリフィス通路70を通じた流体流動が惹起される。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいて目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
なお、低周波大振幅振動の入力時には、可動板92の上下方向での変位量が大きくなることから、可動板92が一対の対向板部76a,76bに押し当てられて実質的に拘束される。これにより、第1,第2の窓部80,82の何れかが可動板92で閉塞されて流体流路90が遮断されることから、受圧室66の液圧が流体流路90を通じて平衡室68側に伝達されるのが防止される。それ故、受圧室66の内圧変動が効率的に惹起されて、オリフィス通路70を通じて流動する流体量を多く確保することができることから、流体の流動作用に基づいた防振効果が有効に発揮される。要するに、本実施形態の液圧伝達機構では、可動板92によって流体流路90の連通と遮断が切り替えられることにより、受圧室66と平衡室68との間での液圧伝達機構による液圧伝達の有無が切り替えられるようになっている。また、本実施形態では、可動板92の外周側に挿通ピン58が設けられていることから、挿通ピン58によって可動板92の軸直角方向への変位量が制限されて、比較的に小型の可動板92によって第1,第2の窓部80,82を確実に遮断することができる。
そこにおいて、可動板92が収容空所64の上下壁内面に当接する際に生じる衝撃力が、緩衝ゴム72によって吸収されるようになっている。即ち、可動板92が収容空所64の上壁内面に対して対向板部76aを介して当接すると、対向板部76aに入力された当接時の衝撃エネルギーが、一対の側板部78a,78bを通じて対向板部76bに伝達される。その際に、入力された衝撃エネルギーによって一対の側板部78a,78bと対向板部76bが微小変形を生じることから、対向板部76bと一対の側板部78a,78bの内部摩擦等に基づいて衝撃エネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、緩衝ゴム72を通じて仕切部材36に伝達される衝撃エネルギーが低減されて、この衝撃エネルギーに起因して発生する打音を低減乃至は回避することができる。なお、可動板92が対向板部76bを介して収容空所64の下壁内面に当接する場合には、対向板部76bに入力される衝撃エネルギーが一対の側板部78a,78bを介して対向板部76aに伝達されることで、同様のエネルギー減衰作用が発揮されて、打音の発生が防止される。
さらに、一対の側板部78a,78bが収容空所64の周壁内面から離隔していることによって、一対の側板部78a,78bの微小変形も有効に生ぜしめられて、一対の対向板部76a,76b間での衝撃エネルギーの効率的な伝達が実現されると共に、一対の側板部78a,78bにおけるエネルギー減衰作用も効果的に発揮される。しかも、本実施形態では、挿通ピン58が挿通孔84に挿通されることによって、緩衝ゴム72が収容空所64内で位置決めされており、一対の側板部78a,78bと収容空所64の周壁内面との間の隙間が保持されることから、上記の如き効果を安定して得ることができる。
一方、自動車が段差を乗り越える等して、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室66の液圧が大幅に低下すると、図8に示されているように、可動板92が内部空所74内で上端に変位して対向板部76aに当接することで、第1の窓部80が可動板92によって遮断される。そこにおいて、緩衝ゴム72に連通路96が設けられており、その連通路96が収容空所64と第1の窓部80および第1の連通孔44を連通することで、収容空所64が受圧室66に対して短絡通路98を通じて連通されている。
さらに、可動板92が上端に位置して対向板部76bから離隔していることによって、第2の窓部82および第2の連通孔60を通じて平衡室68が収容空所64に連通されている。これにより、受圧室66と平衡室68が短絡通路98を通じて相互に連通されて、図8中に矢印で示されているように、平衡室68から受圧室66に向かって流体が流動する。その結果、受圧室66の圧力低下が可及的速やかに低減乃至は解消されて、キャビテーションに起因する異音の発生が防止される。
しかも、本実施形態のエンジンマウント10では、仕切部材36の第1の連通孔44を利用して短絡通路98が形成されることで、受圧室66と平衡室68が連通されている。それ故、仕切部材36に受圧室66と平衡室68を短絡させるための孔を特別に形成する必要がなく、短絡機構を備えたエンジンマウント10を容易に形成することができる。
また、受圧室66の圧力が低下した場合には、受圧室66と平衡室68が短絡通路98および第2の窓部82を通じて短絡されると共に、受圧室66の圧力が上昇した場合には、可動板92が第2の窓部82を遮断することから、受圧室66と平衡室68の短絡が防止される。それ故、キャビテーションが問題とならない受圧室66への正圧作用時には、受圧室66の内圧変動が有効に惹起されて、オリフィス通路70を通じた流体流動に基づく防振効果を効率的に得ることができる。
また、緩衝ゴム72と収容空所64の周壁内面との間に隙間86が設けられており、連通路96の端部が隙間86に連通されている。これにより、可動板92が短辺方向で連通路96の形成側(図8中、左側)にずれて隙間94がなくなった場合にも、連通路96が隙間86によって内部空所74に連通される。それ故、短絡通路98が可動板92の位置に関わらず連通状態に保持されて、目的とするキャビテーション異音の低減効果を安定して得ることができる。
さらに、緩衝ゴム72が短辺方向に開口する帯形筒状体とされていると共に、連通路96が対向板部76aの短辺方向の端面に開口している。これにより、連通路96が内部空所74に対して短い距離で連通されて、流体の流動がスムーズに生ぜしめられる。それ故、受圧室66の負圧がより速やかに低減乃至は解消されて、目的とする異音の低減作用が効果的に発揮される。
また、緩衝ゴム72の対向板部76bにのみ挿通孔84が形成されていることによって、収容空所64の底壁から突出する挿通ピン58を挿通孔84に挿通することで、緩衝ゴム72の収容空所64内での向きが特定されて、連通路96が受圧室66側に位置決めされるようになっている。これにより、緩衝ゴム72を収容凹所56に嵌め込む際に、緩衝ゴム72が誤った向きで配設されるのを防止する規定手段が構成されて、緩衝ゴム72を目的とする態様で容易に配設することができる。しかも、本実施形態では、緩衝ゴム72を収容空所64内で位置決めする位置決め手段を構成するための挿通ピン58および挿通孔84を利用して、上記の如き規定手段が構成されていることから、簡単な構造によって規定手段を設けることができる。
ところで、本実施形態に係るエンジンマウント10(実施例)において、連通路96を備えていないエンジンマウント(比較例)に比して、第2の取付部材14に伝達される伝達荷重が低減されることは、図9に示された測定結果のグラフからも明らかである。なお、図9において、実施例の測定結果が実線で示されていると共に、比較例の測定結果が破線で示されている。更に、図9では、本体入力変位(第1の取付部材12と第2の取付部材14の相対的な接近変位量)が一点鎖線で示されている。また、比較例のエンジンマウントは、実施例のエンジンマウント10に対して、緩衝ゴム72に連通路96が形成されていない以外は同一の構造とされている。
図9によれば、比較例では、第1の取付部材12と第2の取付部材14が離隔方向で相対的に大きく変位して、受圧室66の内圧が大幅に低下した際に、第2の取付部材14に大きな荷重が伝達されている。それに対して、実施例では、第1の取付部材12と第2の取付部材14が大きく接近変位しても、第2の取付部材14への伝達荷重が小さく抑えられている。この第2の取付部材14への伝達荷重は、キャビテーション気泡の消失時に発せられる衝撃波に起因するものであって、測定結果によれば、実施例では、比較例に比して、キャビテーション異音が低減されている。
図10には、本発明に係る流体封入式防振装置の第2の実施形態としてのエンジンマウントが、要部を拡大された縦断面図で示されている。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
すなわち、本実施形態のエンジンマウントでは、仕切部材36の収容空所64に対して、緩衝体としての緩衝ゴム100が配設されている。緩衝ゴム100は、第1の実施形態の緩衝ゴム72と略同一の形状を有していると共に、短辺方向において緩衝ゴム72よりも大きくされている。これにより、緩衝ゴム100は、短辺方向において収容空所64の周壁内面に対して当接しており、本実施形態では、第1の実施形態において緩衝ゴム72と収容空所64の周壁内面との間に形成されていた隙間86は設けられていない。
一方、可動板92は、第1の実施形態と略同一の形状および大きさで形成されており、短辺方向において緩衝ゴム100よりも小さくされている。これにより、可動板92の外周面と収容空所64の周壁内面との間には、隙間94が形成されている。
このような本実施形態のエンジンマウントにおいても、連通路96と第1の窓部80および第1の連通孔44とを利用して短絡通路98が形成されており、短絡通路98が隙間94によって収容空所64(内部空所74)に連通されている。そして、受圧室66の液圧が大幅に低下して、可動板92が対向板部76bに当接した状態では、受圧室66と平衡室68が短絡通路98によって相互に連通されることから、受圧室66の負圧が速やかに解消されて、キャビテーションに起因する異音の発生が防止される。このように、本発明において、緩衝体と収容空所の周壁内面との間に隙間が形成されていることは必須ではなく、緩衝体が収容空所の周壁内面に当接して配設されていても良い。
図11には、本発明に係る流体封入式防振装置の第3の実施形態としてのエンジンマウントが、要部を拡大された縦断面図で示されている。このエンジンマウントでは、仕切部材36の収容空所64に緩衝体としての緩衝ゴム110が収容配置されている。
緩衝ゴム110は、図12に示されているように、第1の実施形態の緩衝ゴム72と略同一の形状を有する一対の対向板部76a,76bと一対の側板部78a,78bとを備えており、対向板部76aに一対の第1の窓部80,80が形成されていると共に、対向板部76bに一対の第2の窓部82,82が形成されている。
また、緩衝ゴム110には、連通路112が形成されている。この連通路112は、対向板部76aにおける第1の窓部80の枠部分に形成されており、対向板部76aの上面に開口して短辺方向に延びる凹溝状とされて、一方の端部が第1の窓部80に連通されていると共に、他方の端部が対向板部76aの外周面に開口している。
そして、緩衝ゴム110は、収容空所64への配設されており、対向板部76aが収容空所64の受圧室66側の壁内面に非接着で当接していると共に、対向板部76bが収容空所64の平衡室68の壁内面に非接着で当接している。また、連通路112は、上側開口部の一部が上仕切部材38によって覆蓋されてトンネル状とされていると共に、第1の窓部80と隙間86とを常時連通している。
これにより、衝撃的な大荷重の入力によって受圧室66の液圧が大幅に低下して、可動板92が受圧室66側に変位して、第1の窓部80が可動板92で遮断されると共に、第2の窓部82が連通状態に開放されると、受圧室66と平衡室68が連通路112を含んだ短絡通路114を通じて相互に連通される。その結果、受圧室66の圧力低下が緩和されて、キャビテーションに起因する異音の発生が防止される。
このように、緩衝体に形成される連通路は、必ずしも第1, 第2の実施形態に示されているような第1の窓部80の枠部分を切断する切欠き状の連通路96に限定されず、本実施形態に示されているような溝状の連通路112も採用され得る。なお、溝状の連通路を採用する場合には、対向板部76aの上面に開口して設けられて、隙間86および隙間94を通じて内部空所74に連通されていても良いし、対向板部76aの下面に開口して設けられて、隙間86を通じて内部空所74に連通されていても良い。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、1つの連通路だけが形成されているが、連通路は複数が形成されていても良い。
また、可動部材は、前記実施形態に示されているような収容空所64の平面形状に略対応する形状の可動板92に限定されず、例えば、可動板92の外周面に開口して厚さ方向に延びる凹溝を形成することで、短絡通路98による受圧室66と収容空所64とを安定して連通状態に保持することもできる。
また、前記実施形態では、仕切部材36に形成された第1, 第2の連通孔44,60と、緩衝ゴム72に形成された第1, 第2の窓部80,82とが、何れも一対ずつ設けられていたが、それら第1, 第2の連通孔44,60および第1, 第2の窓部80,82の数は特に限定されるものではない。
また、前記実施形態では、緩衝体として、帯形筒状体の緩衝ゴム72が例示されているが、緩衝体は、中空形状であれば良く、例えば、前記緩衝ゴム72において一方の開口部が閉塞されたような袋状等であっても良い。
また、可動部材は、仕切部材36や緩衝ゴム72に対して独立した可動板92に限定されず、例えば、緩衝ゴム72と一体形成されて側板部78aから内部空所74に突出する可動膜や、緩衝ゴム72の開口部から短辺方向の両側に突出して仕切部材36によって両端部を支持された可動膜等も、可動部材として採用され得る。
また、規定手段としては、前記実施形態で例示されている挿通ピン58と挿通孔84を用いた構造の他にも、緩衝ゴム72の収容凹所56への組み込みに際して緩衝ゴム72の上下方向を規定する各種構造が採用され得る。例えば、緩衝ゴム72において、側板部78a,78bの少なくとも対向方向外側の面が平衡室68側に向かって次第に相互に接近する傾斜形状としたり、側板部78a,78bの高さ方向中間部分に段差を設けたりすることで、対向板部76aの長辺方向での長さ寸法を、対向板部76bの長辺方向での長さ寸法よりも大きくする。それに合わせて、収容凹所56の長辺方向両側の周壁部も、側板部78a,78bの外側の傾斜面や段差に対応する傾斜面や段付面とすることで、対向板部76aと対向板部76bとのサイズ差によって、緩衝ゴム72を上下逆向きに収容凹所56に嵌め込むことを防止して、連通路96が受圧室66側に位置するように緩衝ゴム72の向きを決める規定手段が構成され得る。
また、対向板部76a,76bに対して、対向方向外側に突出する突起部を形成して、この突起部において対向板部76a,76bが部分的に収容空所64の壁内面に当接するようにしても良い。これによれば、可動板92の当接時に、対向板部76a,76bの弾性変形がより生じ易くなって、当接打音の低減効果を有利に得ることができる。
さらに、対向板部76a,76bに対して対向方向内側に突出する内方突部を形成することで、可動板92の対向板部76a,76bに対する初期の当接面積を小さくして、当接打音の低減を図ることもできる。
本発明は、エンジンマウントにのみ適用されるものではなく、ボデーマウントやメンバマウント等を含んだ各種の流体封入式防振装置に対して好適に適用され得る。また、本発明の適用範囲は、自動車用の流体封入式防振装置に限定されず、例えば自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等、自動車以外に用いられる流体封入式防振装置にも適用され得る。