JP5885118B2 - Fe基ナノ結晶合金薄帯積層体の製造方法 - Google Patents
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アンテナ用磁心として従来からフェライトが使用されていたが、セラミックスであるため薄型化していくと機械的強度が低下し、折れたりクラック発生の問題があるため薄型化には限界がある。そこで、フェライトに比べて機械的強度に優れるCo基アモルファス合金薄帯の積層体が電波腕時計用や自動車のキーレスエントリー用のアンテナ用磁心として使用されている。
(A)エポキシ樹脂含浸方法
目的とするサイズにスリット、切断した合金薄帯を熱処理した後、目的とする枚数を、分解が容易な積層治具中にセットし、エポキシ樹脂を合金薄帯間に含浸、硬化させた後、治具を分解し、積層体を取り出す方法。
(B)耐熱樹脂塗布合金薄帯の熱圧着方法
アモルファス合金薄帯表面に予めポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂などの耐熱性樹脂を塗布したのち、目的とするサイズにスリット、切断し、複数枚の合金薄帯を積層後、積層方法に熱圧着することで一体化して積層体を得た後、最後に熱処理を行う方法。
(A)方法は、熱処理後にエポキシ樹脂で薄帯を接着、固定するため、熱処理の温度を考慮する必要が無い。しかし、樹脂含浸、硬化で数時間が必要であり、治具へのセットや取り出しの工数が必要であって、生産性が非常に低いという問題がある。また、合金薄帯間のエポキシ樹脂量の管理が困難であるため、特性ばらつきが大きいという欠点がある。
他方(B)方法は、最終工程で熱処理を行うため、熱処理温度が耐熱性樹脂の耐熱温度以下の制約があるが、樹脂の塗布は連続して行うことが可能で生産性が高い。また熱圧着時間も数分程度で十分である。連続塗布装置による一定した樹脂厚さを得ることが容易であるため積層体での特性ばらつきも小さいという利点を持つ。
最も耐熱性に優れるポリイミド樹脂であっても、500℃以上での熱処理に耐えることは困難であるため前記(B)方法の適用は困難であり、前記(A)方法が採用されている。
特許文献2には、組成Fe73.5Cu1Nb3Si14.5B6.5(原子%)のFe基ナノ結晶合金薄帯の、薄帯表面にエポキシ樹脂を塗布し積層し、積層体を用いたアンテナが記載されている。
特許文献3、4には、Fe基ナノ結晶合金薄帯上にポリイミド樹脂を塗布し、積層、熱処理した積層体が記載されている。
Fe基ナノ結晶合金薄帯積層体をアンテナに適用することにより、Co基アモルファス合金薄帯積層体に比べて高い飽和磁束密度と、Fe基アモルファス合金薄帯積層体に比べて高透磁率・低損失を備えたアンテナ用磁心が得られ、特に送信用として優れたアンテナ用磁心、更にはアンテナを得られる。
ポリイミド樹脂は、分子を構成する原子の結合エネルギーを高くし、かつ、芳香族間との共鳴エネルギーを高くすることにより分解温度を高め、熱安定性・耐熱性を向上させるという設計思想で開発された高分子樹脂である。ポリイミド樹脂は、前記分子構造から、元来剛直な高分子であるが、構成される酸無水物とジアミンの組み合わせにより多様なポリイミド樹脂を作製することができる。
ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸溶液を塗布乾燥後、200℃以上の熱処理により、脱水縮合反応(イミド化反応)が起こりポリイミド樹脂となる。
他方、酸無水物、ジアミン、いずれもフェニル基が2つで、フェニル基の間に酸素をもつ構造をもち、酸無水物の2つのフェニル基がメタ位で結合さているもの、例えばベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)と4,4’−オキシジアニリン(ODA)(比較例10)のものは、分子内で回転が容易であるため、高温において柔軟性が十分であって樹脂膜同士を熱圧着しやすい。しかし、耐熱性は前記無水ピロメリト酸(PMDA)とp−フェニレンジアミン(PPD)の組み合わせに比べて劣る。
熱処理の温度は、合金薄帯の組成や所望とする磁気特性によって設定されるものであるが、好ましい熱処理温度は、500℃以上560℃以下である。
積層体の層数は、所望とする磁気特性により決定されるものであるが、積層体としての磁気特性を期待できるのは5層以上が好ましく、より好ましいのは10層以上である。また、後述のように積層体は熱圧着により作製されるが、各層への圧力印加の均一性や安定性を確保するには100層以下が好ましく、より好ましいのは60層以下である。
ポリアミド酸溶液の塗布装置としては、複数枚のアモルファス合金薄帯に同時に塗布することが可能で、かつ塗布厚さを比較的大きくできるバーコーターによる方式が好ましい。
また、塗布乾燥後の樹脂の厚さは、合金薄帯同士を安定に熱圧着できる厚さ以上であることが好ましい。塗布乾燥後の樹脂の厚さ1μm(隣接する合金薄帯間で2μm)以上あれば薄帯表面に凹凸があっても樹脂表面の平滑性を得ることができ、合金薄帯同士の接着力を接着面全面において安定に確保することができる。より安定に接着力を確保するためには塗布乾燥後の樹脂の厚さ2μm(隣接する合金薄帯間で4μm)以上がより好ましい。
他方、合金薄帯と樹脂の熱膨張係数の違いによる界面剥離を抑制するために、厚さ8μm(隣接する合金薄帯間で16μm)以下が好ましい。
積層体のポリイミド樹脂厚さの平均値とは、積層体の積層方向の厚さTmをマイクロメータで測定し、その測定値から合金薄帯の厚さTaの合計(合金薄帯の厚さTa×積層数m)を差し引いた値を、(合金薄帯の積層数m−1)で除した値である。つまり、積層体のポリイミド樹脂厚さの平均値は、(Tm−Ta×m)/(m−1)で表される値である。
3点曲げ強度の評価方法は、Fe基ナノ結晶合金薄帯用アモルファス合金薄帯の両面に所望とする厚さのポリイミド樹脂(ポリアミド酸樹脂)を塗布後、積層し、熱圧着後、窒素中550℃で熱処理した積層体を、8mmスパンの支持棒に載せて、中央部に負荷をかけて、積層体が破壊される負荷測定し、積層体単位断面積での強度計算したものである。
また、熱圧着時に、前述したようにポリアミド酸からポリイミド樹脂へのイミド化反応が起こる。イミド化反応が十分起こるためには300℃以上の温度が好ましい。
熱圧着の圧力は、合金薄帯の全面が十分密着するためには、50MPa以上が好ましい。更に、多数の積層体間のばらつきを抑えるためには100MPa以上がより好ましい。熱圧着は、通常、積層体の位置ずれを抑制するため、治具中に多数枚の合金薄帯を位置合わせした状態で行われる。このため、プレス装置のプレス部材は、前記治具に接触する部分にのみ、圧力がかかるため、プレス部材の耐圧にもよるが、接触部分のみが凹みなど変形する恐れがあるため、圧力の上限として、300MPa以下が好ましく、更には200MPa以下がより好ましい。
また、後述する実施例では積層体を1ヶずつ熱圧着しているが、両面に樹脂が塗布された(積層体の最表面では片面)合金薄帯を連続的に加熱ロールで圧着して、その後切断して、個々の積層体を得る工程であっても良い。
また、本発明は、前記Fe基ナノ結晶合金薄帯積層体からなるアンテナ用磁心である。
また、本発明は、前記アンテナ用磁心を用いたアンテナである。
樹脂膜同士の420℃における熱圧着性と550℃での熱処理後の積層体の強度、いずれも満足する酸無水物とジアミンの組み合わせを検討するにあたり、酸無水物及びジアミン共にフェニル基1ヶまたは2ヶで構成され、ジアミンはパラ位とメタ位の組み合わせ、具体的には、酸無水物として、無水ピロメリト酸(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)の3種類、ジアミンとして、p−フェニレンジアミン(PPD)、m−フェニレンジアミン(MPD)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)、3,3’−オキシジアニリン(MODA)の4種類を組み合わせた、表1に記載の12種類を検討し、この中に樹脂膜同士の420℃での熱圧着性と550℃での熱処理後の積層体の3点曲げ試験による強度に注目して評価した。
後述の実施例に記載のように、先ず、熱圧着した積層体が十分な接着力で接着されているかを評価した。熱圧着後の積層体に曲げ応力をかけても、層間が接着している場合を「○」、層間での剥離が観察されるものを「×」として評価した。
熱圧着した積層体を窒素雰囲気中550℃、1時間で熱処理して合金薄帯間の接着力を評価した。前記と同様に、熱圧着後の積層体に曲げ応力をかけても、層間が接着している場合を「○」、層間での剥離が観察されるものを「×」として評価した。
Fe基ナノ結晶合金薄帯用アモルファス合金薄帯として組成Fe74Cu1Nb3Si15.5B6.5(原子%)の幅20mm、厚さ18μm、長さ300mmの短冊形状を使用した。
ポリアミド酸溶液として、表1に示す組み合わせの内、酸無水物をビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ジアミンをp−フェニレンジアミン(PPD)としたポリアミド酸が18質量%であるNMP溶液を作製した。
次に、株式会社松尾産業製のバーコーター塗布装置により、番数No.3のバーを用いて、前記短冊状のアモルファス合金薄帯に、前記ポリアミド酸溶液を塗布した。塗布速度は約30mm/sで行った。その後、温度150℃のホットプレート上にて乾燥した。次に、前記塗布面と反対面にも前記ポリアミド酸溶液を塗布、乾燥した。
こうして多数枚のポリアミド酸溶液を塗布・乾燥したFe基ナノ結晶合金薄帯用アモルファス合金薄帯を得た。マイクロメータで乾燥後のポリアミド酸の厚さを確認したところ、両面合計した平均の塗布厚さは7μmであり、塗布厚さばらつきは1μm以内であった。
このポリアミド酸溶液が塗布・乾燥された幅20mmの合金薄帯を、6mm毎に切断し、20mm×6mmの矩形状に切断し、厚さ3mmのステンレス製の積層治具に20枚積み重ねた。積層した合金薄帯の最上下層にはポリアミド酸を片面にしか塗布していないアモルファス合金薄帯を予め用意しておき、塗布面を隣接するアモルファス合金薄帯側に、塗布していない面を外側になるように積み重ねた。
アモルファス合金薄帯の20枚を1段として、積層治具に5段積み重ねた。
前記積層体5段をセットした積層治具を、温度420℃に設定したポットプレスにセットし、セット後、積層治具の熱容量により温度が低下するが、上下プレスの温度が再度420℃の表示となった後、100MPaの圧力で10分保持した。その後、積層治具を取り出し、室温まで冷却した。積層治具から、熱圧着された積層体5ケが得られた。熱圧着によってもポリアミド酸の塗布厚さの変化は認められなかった。
前記積層体を、曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
前記熱圧着した積層体を窒素雰囲気のバッチ炉で550℃、1時間熱処理を行った。このときの酸素濃度は300ppmであった。
熱処理後の積層体5ヶを、曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。更に3点曲げ試験を行ったところ、3点曲げ強度は0.3〜0.6Paの範囲であった。 図1に積層体の短手方向断面の概略図を示す。1がFe基ナノ結晶合金薄帯であり、2がポリイミド樹脂である。図2に積層体3の斜視図を示す。
図4に本実施例でのポリイミド樹脂の構造式を示す。
ポリアミド酸溶液として、表1に示す組み合わせの内、酸無水物を無水ピロメリト酸(PMDA)、ジアミンをp−フェニレンジアミン(PPD)としたポリアミド酸が18質量%であるNMP溶液を作製した。
他の条件は実施例1と同様に作製し、積層体の熱圧着を温度420℃、圧力100MPaで10分保持により試みたが、全ての積層体で各合金薄帯同士は接着していなかった。
ポリアミド酸溶液として、表1に示す組み合わせの内、酸無水物を無水ピロメリト酸(PMDA)、ジアミンをm−フェニレンジアミン(MPD)としたポリアミド酸が18質量%であるNMP溶液を作製した。
他の条件は実施例1と同様に作製し、積層体の熱圧着を温度420℃、圧力100MPaで10分保持により試みたが、全ての積層体で各合金薄帯同士は接着していなかった。
ポリアミド酸溶液として、酸無水物を無水ピロメリト酸(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ジアミンをp−フェニレンジアミン(PPD)、m−フェニレンジアミン(MPD)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)、3,3’−オキシジアニリン(MODA)を用いた、ポリアミド酸が18質量%である表1に示す組み合わせのNMP溶液8種類を作製した。
それぞれのポリアミド酸溶液を用いて、他の条件は実施例1と同様に作製し、積層体の熱圧着を温度420℃、圧力100MPa、10分保持で行った結果、積層体を曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
しかし、前記積層体を550℃、1時間熱処理を行ったところ、全ての積層体で、ポリイミド樹脂と合金薄帯の界面で剥離部分し、3〜5片に分離していた。
ポリアミド酸溶液として、表1に示す組み合わせの内、酸無水物をビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ジアミンをM−フェニレンジアミン(MPD)、としたポリアミド酸が18質量%であるNMP溶液を作製した。
それぞれのポリアミド酸溶液を用いて、他の条件は実施例1と同様に作製し、積層体の熱圧着を温度420℃、圧力100MPa、10分保持で行った結果、積層体を曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
前記積層体を550℃、1時間熱処理を行ったところ、全ての積層体で、曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
次に3点曲げ試験を行ったところ、3点曲げ強度は0.1〜0.2Paの範囲であった。
実施例1において、ポリアミド酸を塗布・乾燥後、両面合計した平均の塗布厚さを2μmに変更し、熱圧着した積層体を作製した。
前記積層体を、曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
前記熱圧着した積層体を実施例1と同様の熱処理を行い、熱処理後の積層体を、曲率半径100mm屈曲させても、全ての積層体で、剥離部分は観察されなかった。更に3点曲げ試験を行ったところ、3点曲げ強度は0.3〜0.6Paの範囲であった。
実施例1において、ポリアミド酸を塗布・乾燥後、両面合計した平均の塗布厚さを1.6μmに変更し、他の条件は実施例1と同様に作製し、積層体の熱圧着を温度420℃、圧力100MPaで10分保持により試みたが、全ての積層体で、各合金薄帯同士は接着されていなかった。
実施例1において、ポリアミド酸を塗布・乾燥後、両面合計した平均の塗布厚さを16μmに変更し、熱圧着した積層体を作製した。
前記積層体を、曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
前記熱圧着した積層体を実施例1と同様の熱処理を行い、熱処理後の積層体を、曲率半径100mm屈曲させたが、全ての積層体で、剥離部分は観察されなかった。更に3点曲げ試験を行ったところ、3点曲げ強度は0.4〜0.5Paの範囲であった。
実施例1において、ポリアミド酸を塗布・乾燥後、両面合計した平均の塗布厚さを17μmに変更し、熱圧着した積層体を作製した。
前記積層体を、曲率半径100mm屈曲させても剥離部分は観察されなかった。
しかし、前記熱圧着した積層体を実施例1と同様の熱処理を行い、熱処理後の積層体を、曲率半径100mm屈曲させた結果、全ての積層体で、ポリイミド樹脂と合金薄帯の界面で剥離部分が観察された。
図3に示すように、実施例1に記載のポリアミド酸溶液を塗布・乾燥させた幅20mmの合金薄帯から、幅8mmにスリットし、更に長さが50mmになるように切断し、50mm×8mmの矩形状の合金薄帯を、サイズ及び積層数が異なることを除いて実施例1に記載の方法で、40層積層した積層体を得た。厚さは約0.8mmであった。
前記積層体に導線として直径0.23mmのUEW線を用いて、80ターン巻回しコイルを形成した。得られたコイルの直流抵抗は0.8Ωであり、インダクタンスは周波数134.2kHzで約200μHであった。
前記導線(コイル)の片端に、マッチング用のコンデンサを直列に接続して、共振周波数を134.2kHzに調整し送信アンテナとした。 このアンテナに134.2kHz 0.5Appの交流電流を印加入力し 前記送信アンテナから3m離れた位置でLFプローブにより電界強度を測定したところ93.9〜97.0dBμV/mであり、送信アンテナとしての機能を十分満足していることを確認した。
2 ポリイミド樹脂
3 積層体
4 導線
5 アンテナ
Claims (1)
- Fe基ナノ結晶合金薄帯用アモルファス合金薄帯の表面に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PPD)の構造をもつポリイミド樹脂を塗布し、乾燥させた後、 前記ポリイミド樹脂の塗布面が接するように前記Fe基ナノ結晶合金薄帯用アモルファス合金薄帯を複数枚積層し、この積層体を300℃以上450℃以下で熱圧着し、合金薄帯の層間の樹脂厚さの平均値を2μm以上16μm以下となし、その後、 前記積層体を500℃以上560℃以下で熱処理してナノ結晶化したことを特徴とするFe基ナノ結晶合金薄帯積層体の製造方法。
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