JP5884053B2 - 赤外線放射素子 - Google Patents

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Description

本発明は、赤外線放射素子に関するものである。
従来から、MEMS(micro electro mechanicalsystems)の製造技術などを利用して製造される赤外線放射素子が研究開発されている。この種の赤外線放射素子は、ガスセンサや光学分析装置などの赤外光源(赤外線源)として使用することができる。
この種の赤外線放射素子としては、例えば、図4および図5に示す構成の赤外線放射素子70が提案されている(文献1[日本国公開特許公報第平11−274553号])。
赤外線放射素子70は、n−型シリコンからなる素子基板21を備えている。この素子基板21は、一面21a側から反対面21b側に台形状に貫通する穴22が設けられている。赤外線放射素子70は、素子基板21の一面21a側にp型半導体からなる帯状の隔膜部23が穴22の一方の開口面を塞ぐように形成されている。赤外線放射素子70は、隔膜部23の表面に、n型半導体からなる発熱部74が形成され、発熱部74の表面の両端に、金属材からなる第1、第2の電極55、56が設けられている。
上述の赤外線放射素子70は、第1の電極55と第2の電極56との間に電圧が印加されると、発熱部74に電流が流れて発熱部74が発熱し、赤外線を放射する。
赤外線放射素子70は、素子基板21の一面21a側および隔膜部23の表面が、表面保護の目的だけでなく、赤外線の放射を促進するためのシリコン酸化膜27によって覆われている。
上述の赤外線放射素子70では、発熱部74の中央部74aの幅を広くし、両端部74b、74cの幅を狭くしてある。これにより、赤外線放射素子70は、発熱部74において温度が相対的に高温となる高温部の領域が広くなり、赤外線の放射密度が増大する。
ところで、赤外線放射素子を例えば分光式ガスセンサ用の赤外光源として用いる場合には、赤外線放射素子を間欠的に駆動することで赤外線を間欠的に放射させ、赤外線を検出する受光素子の出力をロックインアンプにより増幅することで、ガスセンサの出力のS/N比を向上できることが知られている。
また、上述の赤外線放射素子70では、動作中に発生する熱応力に起因して、隔膜部23において穴22の上記一方の開口面に重なる矩形領域の角部に応力が集中しやすい。このため、赤外線放射素子70では、高出力化や、赤外線を間欠的に放射させるチョッピング速度の高速化を図った場合に、隔膜部23の上述の矩形領域の角部を起点として隔膜部23が破損してしまう懸念がある。
また、上述の赤外線放射素子70では、隔膜部23が、素子基板21の一面21a側にボロンをイオン注入してアニーリングを施すことにより形成されている。このため、赤外線放射素子70では、隔膜部23の熱伝導率が素子基板21の熱伝導率と同等であると推考され、隔膜部23の熱抵抗が小さく、より一層の高出力化が難しいものと推考される。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、高出力化を図ることが可能であり、且つ、信頼性の向上を図ることが可能な赤外線放射素子を提供することにある。
本発明に係る第1の形態の赤外線放射素子は、基板と、開口部と、第1絶縁層と、発熱体層と、第2絶縁層と、通電部と、を備える。前記基板は、厚み方向に直交する一表面を有する。前記開口部は、前記基板を前記厚み方向に貫通する。前記第1絶縁層は、前記基板の前記一表面に前記開口部を覆うように配置される。前記発熱体層は、前記一表面に平行な基準面で前記開口部の内側に位置するように前記第1絶縁層における前記基板とは反対側に配置される。前記第2絶縁層は、前記第1絶縁層における前記基板とは反対側に前記発熱体層を覆うように配置される。前記通電部は、前記第2絶縁層における前記基板とは反対側に配置され前記発熱体層に電気的に接続される。前記開口部は、前記一表面に平行な基準面内において角を有する形状である。前記通電部は、前記厚み方向で前記開口部の前記角と重なる補強部を有する。
本発明に係る第2の形態の赤外線放射素子では、第1の形態において、前記第1絶縁層と前記第2絶縁層と前記発熱体層とは、全体として引張応力を有する。
本発明に係る第3の形態の赤外線放射素子では、第1または第2の形態において、前記通電部は、電極と、配線と、を備える。前記電極は、前記基準面において前記開口部の外側に位置するように前記基板上に配置される。前記配線は、前記電極を前記発熱体層に電気的に接続する。
本発明に係る第4の形態の赤外線放射素子では、第3の形態において、前記開口部は、4つの前記角を有する矩形状または正方形状である。前記通電部は、前記4つの角にそれぞれ対応する4つの前記補強部を有する。
本発明に係る第5の形態の赤外線放射素子では、第4の形態において、前記通電部は、4つの前記配線を有する。前記4つの配線は、それぞれ対応する4つの前記補強部を含む。
本発明に係る第6の形態の赤外線放射素子では、第5の形態において、前記電極は、第1電極と第2電極とを含む。前記第1電極および前記第2電極は、前記基準面内で前記開口部の一辺に沿った所定方向において前記開口部の両側に配置される。前記第1電極は、前記4つの角のうち前記第1電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記配線に接続される。前記第2電極は、前記4つの角のうち前記第2電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記配線に接続される。
本発明に係る第7の形態の赤外線放射素子では、第6の形態において、前記配線は、前記電極に接続される端部を有する。前記端部は、前記電極に近づくほど幅が大きくなる。前記端部が、前記補強部である。
本発明に係る第8の形態の赤外線放射素子では、第7の形態において、前記端部は、その側面が凹面である。
本発明に係る第9の形態の赤外線放射素子では、第5〜第8の形態のいずれか1つにおいて、前記発熱体層は、前記基準面において4つの第2角を有する矩形状または正方形状である。前記発熱体層は、前記基準面において前記開口部の四辺とそれぞれ平行な四辺を有する。前記4つの配線の各々は、前記基準面において、前記発熱体層の前記第2角とこの第2角に最も近い前記開口部の前記角とを通る直線状に形成される。
本発明に係る第10の形態の赤外線放射素子では、第4の形態において、前記開口部は、4つの前記角を有する矩形状または正方形状である。前記電極は、第1電極と第2電極とを含む。前記第1電極および前記第2電極は、前記基準面において前記開口部の一辺に沿った所定方向における前記開口部の両側に配置される。前記第1電極は、前記4つの角のうち前記第1電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記補強部を含む。前記第2電極は、前記4つの角のうち前記第2電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記補強部を含む。
本発明に係る第11の形態の赤外線放射素子では、第3〜第10の形態のいずれか1つにおいて、前記配線は、高融点材料により形成される。
本発明に係る第12の形態の赤外線放射素子では、第11の形態において、前記発熱体層は、前記高融点材料以上の融点を有する材料により形成される。
本発明に係る第13の形態の赤外線放射素子では、第12の形態において、前記配線は、タンタルにより形成される。前記発熱体層は、窒化タンタルにより形成される。
本発明に係る第14の形態の赤外線放射素子では、第1〜第13の形態のいずれか1つにおいて、前記第1絶縁層および前記第2絶縁層は、熱絶縁性および電気絶縁性を有する。前記発熱体層は、通電により赤外線を放射するように構成される。前記第1絶縁層と前記発熱体層と前記第2絶縁層とは、薄膜構造部を構成する。前記薄膜構造部は、前記開口部上に配置されるダイヤフラム部と、前記基板上に配置され前記ダイヤフラム部に連結される支持部と、を有する。
(a)は実施形態1の赤外線放射素子の概略平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。 (a)は実施形態2の赤外線放射素子の概略平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。 (a)は実施形態3の赤外線放射素子の概略平面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。 従来例の赤外線放射素子の平面図である。 図4のG−G線断面図である。
(実施形態1)
以下では、本実施形態の赤外線放射素子1について図1に基づいて説明する。
赤外線放射素子1は、基板2と、この基板2の一表面(図1(b)における上面)2b側に形成され第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5との積層構造を有する薄膜構造部6とを備えている。
薄膜構造部6は、基板2に近い側から、第1絶縁層3、発熱体層4、第2絶縁層5の順で積層されている。
また、赤外線放射素子1は、基板2の厚み方向に貫通し開口形状が矩形状の開孔部(開口部)2aと、発熱体層4に電気的に接続される一対の電極9(9A),9(9B)と、各電極9の各々と発熱体層4を電気的に接続した配線8(81〜84)とを備えている。
また、赤外線放射素子1は、薄膜構造部6が、開口部2aに臨む矩形状のダイヤフラム部6Dと、ダイヤフラム部6Dを囲む枠状の支持部6Sとを備える。
ダイヤフラム部6Dが、中央部において第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5との積層構造を有する。ダイヤフラム部6Dの周部と支持部6Sとが、第1絶縁層3と第2絶縁層5との積層構造を有している。
すなわち、第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5とは、薄膜構造部6を構成する。薄膜構造部6は、開口部2a上に配置されるダイヤフラム部6Dと、基板2上に配置されダイヤフラム部6Dに連結される支持部6Sと、を有する。
また、赤外線放射素子1は、各電極9が、支持部6Sに配置され、各配線8と各電極9とからなる通電部11が、ダイヤフラム部6Dの各角部60(61〜64)上を通っている。
赤外線放射素子1は、発熱体層4への通電により発熱体層4から赤外線が放射される。
以下、赤外線放射素子1の各構成要素について詳細に説明する。
基板2は、厚み方向(図1(b)における上下方向)に直交する両面である一表面(図1(b)における上面)2bおよび他表面(図1(b)における下面)2cを有する。例えば、一表面2bおよび他表面2cは平面である。基板2は、その一表面2bが(100)面の単結晶のシリコン基板により形成されているが、これに限らず、(110)面の単結晶のシリコン基板により形成してもよい。また、基板2は、単結晶のシリコン基板に限らず、多結晶のシリコン基板でもよいし、シリコン基板以外でもよい。基板2の材料は、第1絶縁層3の材料よりも熱伝導率が大きく且つ熱容量が大きな材料が好ましい。
基板2の外周形状は、矩形状である。基板2の外形サイズは、特に限定するものではないが、例えば、10mm□以下(10mm×10mm以下)に設定するのが好ましい。
開口部2aは、基板2を厚み方向に貫通するように形成される。開口部2aは、基板2の一表面2bに平行な基準面内において角20を有する形状である。例えば、開口部2aは、4つの角20(21〜24)を有する矩形状または正方形状である。特に、本実施形態では、基板2は、開口部2aの開口形状を矩形状としてある。
薄膜構造部6は、開口部2aを覆うように基板2の一表面2bに形成されている。そのため、ダイヤフラム部6Dの4つの角部60(61〜64)は、それぞれ、ダイヤフラム部6Dにおいて開口部2aの角20(21〜24)と厚み方向(図1(b)における上下方向)で重なる部位である。
基板2の開口部2aは、一表面2b側に比べて他表面2c側(図1(b)における下側)での開口面積が大きくなる形状に形成されている。ここで、基板2の開口部2aは、薄膜構造部6の第1絶縁層3から離れるほど開口面積が徐々に大きくなる形状に形成されている。基板2の開口部2aは、基板2をエッチングすることにより形成されている。
基板2として一表面2bが(100)面の単結晶のシリコン基板を採用している場合、基板2の開口部2aは、アルカリ系溶液をエッチング液として用いた異方性エッチングにより形成することができる。
また、赤外線放射素子1は、製造時において開口部2aを形成する際のマスク層が無機材料からなる場合、基板2の他表面2c側に、マスク層が残っていてもよい。なお、マスク層としては、例えば、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜などを採用することができる。
第1絶縁層3は、熱絶縁性および電気絶縁性を有する。第1絶縁層3は、基板2の一表面2bに開口部2aを覆うように配置される。第1絶縁層3は、例えば、基板2側のシリコン酸化膜と、このシリコン酸化膜における基板2側とは反対側に積層されたシリコン窒化膜とからなる。
また、第1絶縁層3は引張応力(残留引張応力)を有することが好ましい。換言すれば、第1絶縁層3は圧縮応力(残留圧縮応力)を有さないことが好ましい。したがって、第1絶縁層3は、引張応力を有するように形成される。なお、引張応力を有する絶縁層を形成する方法は周知であるから説明を省略する。
特に、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4とは、全体として引張応力(残留引張応力)を有することが好ましい。すなわち、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4で構成される部位は、引張応力を有することが好ましい。
例えば、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4とはそれぞれ引張応力を有していてもよい。なお、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4との全てが引張応力を有している必要はない。すなわち、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4とが全体として引張応力を有していれば、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4とのいずれかが圧縮応力を有していてもよいし、圧縮応力や引張応力を有していなくてもよい。
例えば、第1絶縁層3が引張応力を有し、第2絶縁層5が応力を有しておらず、発熱体層4が圧縮応力を有していても、第1絶縁層3と第2絶縁層5と発熱体層4とが全体として引張応力を有していればよい。
第1絶縁層3は、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜に限らず、例えば、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜の単層構造でもよいし、その他の材料からなる単層構造や、2層以上の積層構造でもよい。
第1絶縁層3は、赤外線放射素子1の製造時において基板2の他表面2c側から基板2をエッチングして開口部2aを形成する際のエッチングストッパ層としての機能も有している。
発熱体層4は、通電により赤外線を放射するように構成される。発熱体層4は、基板2の一表面2bに平行な基準面で開口部2aの内側に位置するように第1絶縁層3における基板2とは反対側(図1(b)における上側)に配置される。例えば、発熱体層4は、基準面において、開口部2aの中央部分に配置される。
例えば、発熱体層4は、基準面において4つの角(第2角)40(41〜44)を有する矩形状または正方形状である。発熱体層4は、基準面において開口部2aの四辺とそれぞれ平行な四辺を有する。本実施形態では、発熱体層4は、平面形状を矩形状としてある。
発熱体層4の平面サイズは、第1絶縁層3において開口部2aに臨む表面の平面サイズよりも小さく設定してある。つまり、発熱体層4の平面サイズは、ダイヤフラム部6Dの平面サイズよりも小さく設定してある。ここで、ダイヤフラム部6Dの平面サイズは、特に限定するものではないが、例えば、5mm□以下に設定するのが好ましい。
発熱体層4の平面サイズは、配線8の端部(一端部)8aと発熱体層4との間に介在し両者を電気的に接続するコンタクト部7が重なるコンタクト領域4bを除いた放射領域4aの平面サイズが3mm□以下となるように設定するのが好ましい。
発熱体層4の材料は、窒化タンタルを採用している。つまり、発熱体層4は、窒化タンタル層からなる。発熱体層4の材料は、窒化タンタルに限らず、例えば、窒化チタン、ニッケルクロム、タングステン、チタン、トリウム、白金、ジルコニウム、クロム、バナジウム、ロジウム、ハフニウム、ルテニウム、ボロン、イリジウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、オスミウム、レニウム、ニッケル、ホルミウム、コバルト、エルビウム、イットリウム、鉄、スカンジウム、ツリウム、パラジウム、ルテチウムなどを採用してもよい。
また、発熱体層4の材料としては、導電性ポリシリコンを採用してもよい。つまり、発熱体層4は、導電性ポリシリコン層により構成してもよい。発熱体層4について、高温で化学的に安定であり、且つ、シート抵抗の設計容易性という観点からは、窒化タンタル層もしくは導電性ポリシリコン層を採用することが好ましい。
窒化タンタル層は、その組成を変えることにより、シート抵抗を変えることが可能である。
導電性ポリシリコン層は、不純物濃度などを変えることにより、シート抵抗を変えることが可能である。導電性ポリシリコン層は、n形不純物もしくはp形不純物が高濃度にドーピングされたn形ポリシリコン層もしくはp形ポリシリコン層により構成することができる。
導電性ポリシリコン層をn形ポリシリコン層とし、n形不純物として例えばリンを採用する場合には、不純物濃度を例えば、1×1018cm-3〜5×1020cm-3程度の範囲で適宜設定すればよい。
また、導電性ポリシリコン層をp形ポリシリコン層とし、p形不純物として例えばボロンを採用する場合には、不純物濃度を1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度の範囲で適宜設定すればよい。
なお、発熱体層4の材料について、基板2と発熱体層4との線膨張係数差に伴う熱応力に起因して発熱体層4が破壊されるのを防止するという観点からは、基板2の材料との線膨張係数差が小さい材料が好ましい。
赤外線放射素子1において発熱体層4から放射される赤外線のピーク波長λは、発熱体層4の温度に依存する。ここで、発熱体層4の絶対温度をT〔K〕、ピーク波長をλ〔μm〕とすれば、ピーク波長λは、λ=2898/Tとなり、発熱体層4の絶対温度Tと発熱体層4から放射される赤外線のピーク波長λとの関係がウィーンの変位則を満足している。要するに、赤外線放射素子1では、発熱体層4が黒体を構成している。これにより、赤外線放射素子1は、発熱体層4の単位面積が単位時間に放射する全エネルギEがT4に略比例するものと推測される(つまり、シュテファン−ボルツマンの法則を満足するものと推測される)。
赤外線放射素子1は、例えば、図示しない外部電源から一対の電極9,9間に与える入力電力を調整することにより、発熱体層4に発生するジュール熱を変化させることができ、発熱体層4の温度を変化させることができる。したがって、赤外線放射素子1は、発熱体層4への入力電力に応じて発熱体層4の温度を変化させることができ、また、発熱体層4の温度を変化させることで発熱体層4から放射される赤外線のピーク波長λを変化させることができる。
また、本実施形態の赤外線放射素子1では、発熱体層4の温度を高くするほど赤外線の放射量を増大させることが可能となる。このため、赤外線放射素子1は、広範囲の赤外線波長域において高出力の赤外線光源として用いることが可能となる。例えば、赤外線放射素子1をガスセンサの赤外光源として使用する場合には、赤外線を受光するディテクタの光学フィルタを波長が異なる複数の赤外線を透過させるように設計することにより、ガスセンサで複数種類のガスを検知できる。
第2絶縁層5は、熱絶縁性および電気絶縁性を有する。第2絶縁層5は、第1絶縁層3における基板2とは反対側(図1(b)における上側)に発熱体層4を覆うように配置される。第2絶縁層5は、例えば、シリコン窒化膜により構成してある。第2絶縁層5は、これに限らず、例えば、シリコン酸化膜により構成してもよいし、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層構造を有していてもよい。第2絶縁層5は、発熱体層4への通電時に発熱体層4から放射される所望の波長ないし波長域の赤外線に対する透過率が高いほうが好ましいが、透過率が100%であることを必須とするものではない。
ところで、発熱体層4は、第2絶縁層5が接する気体(例えば、空気、窒素ガスなど)とのインピーダンス不整合による赤外線の放射率の低下を抑制するようにシート抵抗を設定してあることが好ましい。
例えば、発熱体層4の材料として窒化タンタルを採用する場合、発熱体層4のシート抵抗は、発熱体層4の基礎となる窒化タンタル層を反応性スパッタ法により成膜する際の窒素ガスの分圧によって制御することが可能である。要するに、赤外線放射素子1は、発熱体層4の材料として窒化タンタルを採用する場合、窒化タンタル層の組成を変えることにより、発熱体層4のシート抵抗を変えることが可能である。
また、赤外線放射素子1は、発熱体層4の材料として導電性ポリシリコンを採用する場合、発熱体層4の基礎となる導電性ポリシリコン層の不純物濃度などを変えることにより、発熱体層4のシート抵抗を変えることが可能である。導電性ポリシリコン層の不純物濃度を制御する方法としては、ノンドープのポリシリコン層を形成した後で不純物をドーピングする方法、成膜時に不純物をドーピングする方法などがある。
赤外線放射素子1は、第2絶縁層5が気体である空気と接する環境下では、シート抵抗を189Ω/□(189Ω/sq.)とすれば、空気とのインピーダンスマッチングにより、赤外線の放射率を最大(50%)とすることが可能となる。
したがって、放射率の低下を抑制して例えば40%以上の放射率を確保するためには、発熱体層4のシート抵抗を73〜493Ω/□の範囲で設定すればよい。なお、所望の使用温度において放射率が最大となるシート抵抗を規定シート抵抗と呼ぶことにすれば、所望の使用温度での発熱体層4のシート抵抗は、規定シート抵抗±10%の範囲で設定するのが、より好ましい。
また、赤外線放射素子1は、第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5とで構成されるサンドイッチ構造の応力バランスを考慮して、第1絶縁層3および第2絶縁層5それぞれの材料や厚さなどを設定することが好ましい。これにより、赤外線放射素子1は、上述のサンドイッチ構造の応力バランスを向上させることが可能となり、このサンドイッチ構造の反りや破損を、より抑制することが可能となって機械的強度のより一層の向上を図ることが可能となる。
上述の発熱体層4の厚さは、発熱体層4の低熱容量化を図るという観点から0.2μm以下とするのが好ましい。
第1絶縁層3の厚さと発熱体層4の厚さと第2絶縁層5の厚さとの合計厚さは、第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5との積層構造の低熱容量化を図るという観点から、例えば、0.1μm〜1μm程度の範囲で設定することが好ましく、0.7μm以下とするのがより好ましい。
赤外線放射素子1は、発熱体層4における第1絶縁層3と反対側(図1(b)における上側)に形成されるコンタクト部7をさらに備える。特に、本実施形態では、一対のコンタクト部7が形成されている。一対のコンタクト部7(7A),7(7B)は、基板2の上記一表面2b側において、発熱体層4の周部(図1(a)における左右両端部)と接する形で形成されている。各コンタクト部7は、第2絶縁層5に形成されたコンタクトホール5aを通して発熱体層4上に形成され、発熱体層4と電気的に接続されている。ここで、各コンタクト部7は、発熱体層4とオーミック接触をなしている。つまり、コンタクト部7は、発熱体層4とオーミック接触するように形成される。
赤外線放射素子1は、発熱体層4の平面形状が矩形状であり、一対のコンタクト部7,7の平面形状を、発熱体層4の平行する2つの辺の各々に沿った帯状の形状としてある。更に説明すれば、赤外線放射素子1は、一対のコンタクト部7,7の平面形状を、一対の電極9,9の並設方向に直交する各辺に沿った帯状の形状としてある。
各コンタクト部7の材料としては、後述するように、高融点材料を用いることが好ましい。たとえば、コンタクト部7は、タンタルにより形成される。なお、コンタクト部7の材料は、必ずしも高融点材料である必要はなく、アルミニウムや、アルミニウム合金(たとえば、Al−Si、Al−Cu)であってもよい。各コンタクト部7の材料は、特に限定するものではなく、例えば、金、銅などを採用してもよい。また、各コンタクト部7は、少なくとも、発熱体層4と接する部分が発熱体層4とオーミック接触が可能な材料であればよく、単層構造に限らず、多層構造でもよい。例えば、各コンタクト部7は、その厚さ方向において、発熱体層4側から順に、第1層、第2層、第3層が積層された3層構造として、発熱体層4に接する第1層の材料を高融点金属(例えば、クロムなど)とし、第2層の材料をニッケルとし、第3層の材料を金としてもよい。
電極9は、第1電極9(9A)と第2電極9(9B)とを含む。各電極9(9A,9B)は、上述のように、支持部6Sに配置されている。すなわち、電極9は、基準面において開口部2aの外側に位置するように基板2上に配置される。すなわち、電極9は、基板2上において厚み方向で開口部2aと重ならない領域(支持部6Sと重なり、ダイヤフラム部6Dとは重ならない領域)に配置される。
第1電極9Aおよび第2電極9Bは、基準面内で開口部2aの一辺に沿った所定方向(図1(a)における左右方向)において開口部2aの両側に配置される。また、各電極9は、平面視において両電極9の並設方向に直交する方向を長手方向とする短冊状(長方形状)の形状に形成してある。また、各電極9は、ダイヤフラム部6Dの2つの対角線の延長線を横切るように長さ寸法を設定してある。
配線8は、電極9を発熱体層4に電気的に接続するように形成される。配線8は、発熱体層4と各電極9との間に2つずつ設けられている。すなわち、通電部11は、4つの配線8(81〜84)を備える。4つの配線8の各々は、基準面において、発熱体層4の第2角40とこの第2角40に最も近い開口部2aの角(第1角)20とを通る直線状に形成される。つまり、配線81,82,83,84は、それぞれ、発熱体層4の第2角41,42,43,44とこの第2角41,41,42,43に最も近い開口部2aの角21,22,23,24とを通る。本実施形態では、開口部2aおよび発熱体層4は相似形であり、中心の位置が互いに等しい。そのため、配線8は、ダイヤフラム部6Dの対角線に沿って配置されている。
各配線8は、長手方向の一端部(第1端部)8aがコンタクト部7と接続され、他端部(第2端部)8bが電極9と接続されている。つまり、配線8は、コンタクト部7を介して発熱体層4に電気的に接続される。
配線8の線幅(幅寸法)は、一定としてある。例えば、配線81の第1端部8aはコンタクト部7Aの一端(図1(a)における上端)に、配線82の第1端部8aはコンタクト部7Aの他端(図1(a)における下端)に、それぞれ接続される。配線83の第1端部8aはコンタクト部7Bの一端(図1(a)における上端)に、配線84の第1端部8aはコンタクト部7Bの他端(図1(a)における下端)に、それぞれ接続される。
図1(a)に示すように、第1電極9Aは、4つの角20のうち第1電極9Aに近い2つの角21,22にそれぞれ対応する配線81,82に接続される。第2電極9Bは、4つの角20のうち第2電極9Bに近い2つの角23,24にそれぞれ対応する配線83,84に接続される。なお、角20に対応する配線8とは、角20上を通る配線8(厚み方向において角20と重なる配線8)と定義される。
本実施形態の赤外線放射素子1は、配線8と電極9とからなる通電部11が、ダイヤフラム部6Dの各角部上を通っている。ここで、本実施形態の赤外線放射素子1では、4つの配線8(81〜84)の他端部(第2端部)8bがダイヤフラム部6Dの4つの角部60(61〜64)上を通っている。
このように、本実施形態の赤外線放射素子1は、第2絶縁層5における基板2とは反対側(図1(b)における上側)に配置され発熱体層4に電気的に接続される通電部11を備える。本実施形態では、配線8の第2端部8bが、厚み方向で開口部2aの角20(すなわち、ダイヤフラム部6Dの角部60)と重なる補強部となる。つまり、4つの配線8は、それぞれ対応する4つの補強部(第2端部8b)を含む。したがって、通電部11は、4つの角20(21,22,23,24)にそれぞれ対応する4つの補強部(第2端部8b)を有する。
各配線8および各電極9は、各コンタクト部7と同じ材料により形成され、同じ層構造、同じ厚さに設定するのが好ましい。これにより、赤外線放射素子1は、各配線8および各電極9を各コンタクト部7と同時に形成することが可能となる。
各電極9は、パッドを構成するものである。このため、電極9の厚さは、0.5〜2μm程度の範囲で設定することが好ましい。
赤外線放射素子1の製造にあたっては、例えば、基板2の上記一表面2b側に、第1絶縁層3、発熱体層4、第2絶縁層5を順次形成してから、第2絶縁層5にコンタクトホール5aを形成し、その後、各コンタクト部7、各配線8および各電極9を形成し、続いて、基板2に開口部2aを形成すればよい。
第1絶縁層3のシリコン酸化膜の形成方法は、例えば、熱酸化法やCVD(ChemicalVapor Deposition)法などの薄膜形成技術を採用することができ、熱酸化法が好ましい。また、第1絶縁層3のシリコン窒化膜の形成方法は、CVD法などの薄膜形成技術を利用することができ、LPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法が好ましい。
発熱体層4の形成方法は、例えば、スパッタ法や蒸着法やCVD法などの薄膜形成技術と、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用した加工技術とを利用することができる。
第2絶縁層5の形成方法は、例えば、CVD法などの薄膜形成技術と、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用した加工技術とを利用することができる。第2絶縁層5を形成する際のCVD法としては、プラズマCVD法が好ましい。
コンタクトホール5aの形成にあたっては、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用すればよい。
また、各コンタクト部7、各配線8および各電極9の形成にあたっては、例えば、スパッタ法、蒸着法およびCVD法などの薄膜形成技術と、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用した加工技術とを利用することができる。
また、開口部2aの形成にあたっては、基板2の他表面2c側のシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜(図示せず)をマスク層として、基板2を他表面2c側からエッチングすることにより形成すればよい。
マスク層を形成するにあたっては、例えば、まず、第1絶縁層3のシリコン酸化膜の形成と同時に基板2の他表面2c側にマスク層の基礎となるシリコン酸化膜を形成し、第1絶縁層3のシリコン窒化膜の形成と同時に基板2の他表面2c側にシリコン窒化膜を形成する。マスク層の基礎となるシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜のパターニングは、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用すればよい。
本実施形態の赤外線放射素子1の製造方法では、開口部2aの形成時に、第1絶縁層3をエッチングストッパ層として利用することにより、第1絶縁層3の厚さの精度を高めることが可能となるとともに、第1絶縁層3における開口部2a側に基板2の一部や残渣が残るのを防止することが可能となる。この製造方法では、赤外線放射素子1ごとの、第1絶縁層3の機械的強度のばらつきや、第1絶縁層3のダイヤフラム部6D全体の熱容量のばらつきを抑制することが可能となる。
上述の赤外線放射素子1の製造にあたっては、開口部2aの形成が終了するまでのプロセスを、ウェハレベルで行い、開口部2aを形成した後、個々の赤外線放射素子1に分離すればよい。つまり、赤外線放射素子1の製造にあたっては、例えば、基板2の基礎となるシリコンウェハを準備して、このシリコンウェハに複数の赤外線検出素子1を上述の製造方法に従って形成し、その後、個々の赤外線検出素子1に分離すればよい。
上述の赤外線放射素子1の製造方法から分かるように、赤外線放射素子1は、MEMSの製造技術を利用して製造することができる。
以上説明したように、本実施形態の赤外線放射素子1は、基板2と、発熱体層4を有する薄膜構造部6と、基板2の厚み方向に貫通し開口形状が矩形状の開口部2aと、発熱体層4に電気的に接続される一対の電極9,9と、各電極9の各々と発熱体層4を電気的に接続した配線8とを備える。そして、薄膜構造部6は、開口部2aに臨む矩形状のダイヤフラム部6Dと、ダイヤフラム部6Dを囲む枠状の支持部6Sとを備える。また、赤外線放射素子1は、ダイヤフラム部6Dが、中央部において第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5との積層構造を有し、ダイヤフラム部6Dの周部と支持部6Sとが、第1絶縁層3と第2絶縁層5との積層構造を有し、各電極9が、支持部6Sに配置され、各配線8と各電極9とからなる通電部が、ダイヤフラム部6Dの各角部上を通っている。
換言すれば、本実施形態の赤外線放射素子1は、以下の第1の特徴を有する。第1の特徴では、赤外線放射素子1は、基板2と、開口部2aと、第1絶縁層3と、発熱体層4と、第2絶縁層5と、通電部11と、を備える。基板2は、厚み方向(図1(b)における上下方向)に直交する一表面2bを有する。開口部2aは、基板2を厚み方向(図1(b)における上下方向)に貫通する。第1絶縁層3は、基板2の一表面2bに開口部2aを覆うように配置される。発熱体層4は、基板2の一表面2bに平行な基準面で開口部2aの内側に位置するように第1絶縁層3における基板2とは反対側(図1(b)における上側)に配置される。第2絶縁層5は、第1絶縁層3における基板2とは反対側に発熱体層4を覆うように配置される。通電部11は、第2絶縁層5における基板2とは反対側に配置され発熱体層4に電気的に接続される。開口部2aは、一表面2bに平行な基準面内において角(第1角)20を有する形状である。通電部11は、厚み方向で開口部2aの角20と重なる補強部(本実施形態では、配線8の第2端部8b)を有する。
また、本実施形態の赤外線放射素子1は、第1の特徴に加えて、以下の第2〜10の特徴を有する。なお、以下の第2〜10の特徴は任意の特徴である。
第2の特徴では、第1の特徴において、第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5とは、全体として引張応力を有する。
第3の特徴では、第1または第2の特徴において、通電部11は、電極9と、配線8と、を備える。電極9は、基準面において開口部2aの外側に位置するように基板2上に配置される。配線8は、電極9を発熱体層4に電気的に接続する。
第4の特徴では、第3の特徴において、開口部2aは、4つの角20(21〜24)を有する矩形状または正方形状である。通電部11は、4つの角21〜24にそれぞれ対応する4つの補強部(本実施形態では、配線81〜84の第2端部8b)を有する。
第5の特徴では、第4の特徴において、通電部11は、4つの配線8(81〜84)を有する。4つの配線81〜84は、それぞれ対応する4つの補強部(本実施形態では、第2端部8b)を含む。
第6の特徴では、第5の特徴において、電極9は、第1電極9(9A)と第2電極9(9B)とを含む。第1電極9Aおよび第2電極9Bは、基準面内で開口部2aの一辺に沿った所定方向(図1(a)における左右方向)において開口部2aの両側に配置される。第1電極9Aは、4つの角20のうち第1電極9Aに近い2つの角21,22にそれぞれ対応する配線81,82に接続される。第2電極9Bは、4つの角20のうち第2電極9Bに近い2つの角23,24にそれぞれ対応する配線83,84に接続される。
第7の特徴では、第5または第6の特徴において、発熱体層4は、基準面において4つの角(第2角)40(41〜44)を有する矩形状または正方形状である。発熱体層4は、基準面において開口部2aの四辺とそれぞれ平行な四辺を有する。4つの配線8(81〜84)の各々は、基準面において、発熱体層4の第2角40とこの第2角40に最も近い開口部2aの角20とを通る直線状に形成される。
第8の特徴では、第1〜第7の特徴のいずれか1つにおいて、配線8は、高融点材料により形成される。
第9の特徴では、第8の特徴において、発熱体層4は、高融点材料以上の融点を有する材料により形成される。
第10の特徴では、第9の特徴において、配線8は、タンタルにより形成される。発熱体層4は、窒化タンタルにより形成される。
第11の特徴では、第1〜第10の特徴のいずれか1つにおいて、第1絶縁層3および第2絶縁層5は、熱絶縁性および電気絶縁性を有する。発熱体層4は、通電により赤外線を放射するように構成される。第1絶縁層3と発熱体層4と第2絶縁層5とは、薄膜構造部6を構成する。薄膜構造部6は、開口部2a上に配置されるダイヤフラム部6Dと、基板2上に配置されダイヤフラム部6Dに連結される支持部6Sと、を有する。
しかして、本実施形態の赤外線放射素子1は、第1絶縁層3上に発熱体層4が形成されていることにより、熱絶縁性を高めることができて高出力化を図ることが可能であり、且つ、通電部がダイヤフラム部6Dの各角部上を通っていることにより、ダイヤフラム部6Dが通電部で補強され、信頼性の向上を図ることが可能となる。すなわち、本実施形態の赤外線放射素子1においては、高出力化を図ることが可能であり、且つ、信頼性の向上を図ることが可能となる。
また、赤外線放射素子1は、ダイヤフラム部6Dを通電部11により補強することができるので、ダイヤフラム部6Dを補強するために別途に補強膜を形成する必要がなく、低コスト化を図ることが可能となる。
また、電極7とパッド9とを接続する2つの配線8は、平面視において一対のパッド9,9の並設方向に直交する方向における発熱体層4の両端部それぞれに接続してある。これにより、本実施形態の赤外線放射素子1は、各電極9と発熱体層4と各電極9との間に配線8を2つずつ備えているので、配線8が1つずつの場合に比べて、発熱体層4に流れる電流の電流密度の均一化を図ることが可能となる。
また、赤外線放射素子1は、発熱体層4の膨張、収縮に伴ってダイヤフラム部6Dが変形し、各配線8などに機械的なストレスがかかる。しかし、本実施形態の赤外線放射素子1では、発熱体層4と電極9とを接続する配線8を2つずつ備えているので、2つの配線8のうちの一方が断線しても、使用することが可能であり、信頼性の向上および長寿命化を図ることが可能となる。
また、赤外線放射素子1は、ダイヤフラム部6Dが第1絶縁層3、発熱体層4および第2絶縁層5の積層構造なので、ダイヤフラム部6Dの熱容量を低減することが可能となり、且つ、発熱体層4のシート抵抗を上述のように設定することにより発熱体層4の放射率の低下を抑制することが可能となる。
よって、本実施形態の赤外線放射素子1では、低消費電力化および応答速度の高速化が可能となる。なお、赤外線放射素子1は、基板2の上記一表面側の積層構造の熱容量を低減することにより、一対の電極9,9間へ与える電圧波形に対する発熱体層4の温度変化の応答を速くすることが可能となって発熱体層4の温度が上昇しやすくなり、高出力化および応答速度の高速化を図ることが可能となる。
また、赤外線放射素子1は、基板2を単結晶のシリコン基板から形成し、第1絶縁層3をシリコン酸化膜とシリコン窒化膜とで構成してある。これにより、赤外線放射素子1は、第1絶縁層3に比べて基板2の熱容量および熱伝導率それぞれが大きく、基板2がヒートシンクとしての機能を有するので、小型化、入力電力に対する応答速度の高速化、赤外線の放射特性の安定性の向上を図ることが可能となる。
また、赤外線放射素子1では、発熱体層4の材料として、シリコンよりも高融点の窒化タンタルを採用し、ダイヤフラム体を構成する発熱体層4ではない部材(実施形態1では、第1絶縁層3、第2絶縁層5、コンタクト部7、配線8)が、発熱体層4よりも高融点であれば、発熱体層4の温度を、基板2を構成するシリコンの最高使用温度(シリコンの融点よりもやや低い温度)まで上昇させることが可能となり、赤外線発光ダイオードに比べて赤外線の放射量を大幅に増大させることが可能となる。
また、赤外線放射素子1は、各コンタクト部7において少なくとも発熱体層4に接する部位がシリコンよりも高融点の金属により形成されていれば、発熱体層4の温度を各コンタクト部7の材料に制約されることなく上昇させることが可能となる。
つまり、ダイヤフラム体(ダイヤフラム部6D、発熱体層4、第2絶縁層5、コンタクト部7、および配線8)を構成する発熱体層4ではない部材(ダイヤフラム部6D、第2絶縁層5、コンタクト部7、および配線8)の材料として、発熱体層4よりも融点の高い材料を用いれば、発熱体層4の温度を発熱体層4の融点よりやや低い温度にまで上昇させることができる。なお、ここでの発熱体層4の温度とは、発熱体層4の中心付近(重心付近)の温度をいう。
発熱体層4が高融点材料(たとえば窒化タンタル)で形成されている場合、ダイヤフラム体を構成する他の部材の材料(第1絶縁層3、第2絶縁層5、コンタクト部7、配線8)も同様に高融点材料で形成されることが好ましい。
第1絶縁層3および第2絶縁層5に用いられる高融点材料は、たとえば、高融点を有する絶縁物(二酸化ケイ素、窒化ケイ素)である。
コンタクト部7および配線8に用いられる高融点材料は、たとえば、高融点を有する金属(タンタル、タングステン、モリブデンなど)、高融点を有する貴金属(白金、ルテニウム、イリジウムなど)、及び、高融点を有する導電性材料(単結晶シリコン、ポリシリコン、単結晶ゲルマニウム、導電性カーボン)から選択される。特に、配線8は、タンタルで形成されることが好ましい。また、コンタクト部7は、タンタルで形成されることが好ましい。なお、配線8が高融点を有する貴金属で形成されている場合、配線8の一部が露出している場合でも、発熱体層4の温度上昇時に配線8が酸化されて電気抵抗が変化することを抑制できる。
なお、高融点材料は、基板2の材料より高い融点を有していればよい。たとえば、基板2の材料がシリコンである場合、高融点材料にはシリコンより融点が高い材料が採用される。
また、ダイヤフラム体を構成する部材のうち発熱体層4ではない部材が、発熱体層4よりも低融点である場合には、発熱体層4の温度(発熱体層4の中心付近の温度)を、ダイヤフラム体を構成する部材のうち最も融点の小さい材料の融点より少し低い温度まで上昇させることができる。
ここで、発熱体層4では、発熱体層4の周部に近い部位ほど、放熱が大きくなる。また、発熱体層4は、基板2の開口部2aの縁部に近い部位ほど大きく放熱しやすい。そのため、発熱体層4の周部の温度は、発熱体層4の中心の温度に比べて低くなる。そして、発熱体層4の周部に接触するコンタクト部7および配線8は、発熱体層4に接触する部位やその近傍では、発熱体層4の周部と略同じ温度になる。
しかしながら、上述したように、発熱体層4の周部の温度は、発熱体層4の中心付近の温度よりやや低くなるため、発熱体層4の中心付近の温度を、ダイヤフラム体を構成する材料のうち、最も融点の小さい材料の融点より少し低い温度に設定すれば、赤外線放射素子1を安定して使用することができる。
赤外線放射素子1は、発熱体層4、コンタクト部7、配線8および電極9が、平面視において一対の電極9,9の並ぶ方向に直交する赤外線放射素子1の中心線を対称軸として線対称に配置されていることが好ましい。これにより、赤外線放射素子1は、機械的強度のより一層の向上を図ることが可能となるとともに、発熱体層4の温度の面内ばらつきを抑制することが可能なる。
(実施形態2)
以下では、本実施形態の赤外線放射素子1について図2に基づいて説明する。本実施形態の赤外線放射素子1は、配線8および電極9の形状が実施形態1の赤外線放射素子1と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については、同様の符号を付して説明を省略する。
配線8は、他端部8bが、発熱体層4から離れて電極9に近づくほど幅寸法が大きくなり且つ両側面10が凹曲面状となる形状に形成されている。すなわち、配線8の端部(第2端部)8bは、電極9に近づくほど幅が大きくなる。また、配線8の第2端部8bは、その側面10が凹面である。本実施形態では、第2端部8bの両側面10が凹面である。
そして、配線8は、他端部8bが、ダイヤフラム部6の角部60上を通っている。すなわち、配線8は、厚み方向において他端部8bがダイヤフラム部6の角部60(開口部2aの角20)と重なるように、配置されている。配線8の端部(第2端部)8bは、補強部を構成する。
また、各電極9は、平面視において両電極9の並設方向に直交する方向を長手方向とする短冊状のパッド部9aと、パッド部9aの長手方向の両端部の各々から上記並設方向へ延設された2つの延設部9bとを備えている。ここで、上述の配線8は、上記他端部の一方の側面がパッド部9aに連続し、他方の側面が延設部9bに連続している。
以上述べた本実施形態の赤外線放射素子1では、配線8は、発熱体層4と各電極9との間に2つずつ設けられ、発熱体層4側の一端部8aとは反対側である電極9側の他端部8bが、発熱体層4から離れて電極9に近づくほど幅寸法が大きくなり且つ両側面10が凹曲面状となる形状に形成されてなり、他端部8bが、角部60上を通っている。
すなわち、本実施形態の赤外線放射素子1は、第4の特徴に加えて、以下の第12および第13の特徴を有する。第12の特徴では、配線8は、電極9に接続される端部(第2端部)8bを有する。端部(第2端部)8bは、電極9に近づくほど幅が大きくなる。端部(第2端部)8bが、補強部である。第13の特徴では、第8の特徴において、端部(第2端部)8bは、その側面10が凹面である。なお、第13の特徴は任意の特徴である。また、本実施形態の赤外線放射素子1は、第5〜第11の特徴を少なくとも1つ有していてもよい。
このように本実施形態の赤外線放射素子1では、配線8の他端部8bが、発熱体層4から離れて電極9に近づくほど幅寸法が大きくなり且つ両側面10が凹曲面状となる形状に形成されており、上記他端部が、ダイヤフラム部6Dの角部60上を通っている。
そのため、配線8およびダイヤフラム部6Dの角部60それぞれにおける応力を分散させることが可能となり、配線8およびダイヤフラム部6Dそれぞれの機械的強度を向上させることが可能となる。よって、赤外線放射素子1は、信頼性のより一層の向上を図ることが可能となる。
(実施形態3)
以下では、本実施形態の赤外線放射素子1について図3に基づいて説明する。
本実施形態の赤外線放射素子1は、配線8の配置および電極9の形状が実施形態1の赤外線放射素子1と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については、同様の符号を付して説明を省略する。
本実施形態の赤外線放射素子1は、発熱体層4と各電極9とを1つずつの配線8(85,86)により接続してある。すなわち、電極9Aは、配線85により発熱体層4に電気的に接続される。また、電極9Aは、配線85により発熱体層4に電気的に接続される。
ここで、各配線8(85,86)は、一対の電極9A,9Bの並設方向(図3(a)における左右方向)に沿って配置されている。また、赤外線放射素子1は、2つの配線85,86を結ぶ直線が平面視における発熱体層4の中心を通るように、各配線8(85,86)を配置してある。
第1電極9Aおよび第2電極9Bは、基準面において開口部2aの一辺に沿った所定方向(図3(a)における左右方向)における開口部2aの両側に配置される。また、各電極9は、平面視において両電極9の並設方向(上記の所定方向)に直交する方向を長手方向(図3(a)における上下方向)とする短冊状のパッド部9aと、パッド部9aの長手方向の両端部の各々から上記並設方向へ延設された2つの延設部9bとを備えている。
ここで、各電極9は、パッド部9aおよび延設部9bに連続しダイヤフラム部6Dの角部を通る三角形状の補強部9cを備えている。
つまり、第1電極9Aは、パッド部9aおよび2つの延設部9bに加えて、4つの角20のうち第1電極9Aに近い2つの角21,22にそれぞれ対応する補強部9c(9c1,9c2)を含む。同様に、第2電極9Bは、パッド部9aおよび2つの延設部9bに加えて、4つの角20のうち第2電極9Bに近い2つの角23,24にそれぞれ対応する補強部9c(9c3,9c4)を含む。
以上述べた本実施形態の赤外線放射素子1は、第3の特徴に加えて、以下の第14の特徴を有する。第14の特徴では、開口部2aは、4つの角20(21〜24)を有する矩形状または正方形状である。電極9は、第1電極9Aと第2電極9Bとを含む。第1電極9Aおよび第2電極9Bは、基準面(基板2の一表面2bに平行な面)において開口部2aの一辺に沿った所定方向(図3(a)における左右方向)における開口部2aの両側に配置される。第1電極9Aは、4つの角20(21〜24)のうち第1電極9Aに近い2つの角21,22にそれぞれ対応する補強部9c1,9c2を含む。第2電極9Bは、4つの角21〜24のうち第2電極9Bに近い2つの角23,24にそれぞれ対応する補強部9c3,9c4を含む。なお、本実施形態の赤外線放射素子1は、第4〜11の特徴を少なくとも1つ有していてもよい。
しかして、本実施形態の赤外線放射素子1は、第1絶縁層3上に発熱体層4が形成されていることにより、熱絶縁性を高めることができて高出力化を図ることが可能であり、且つ、通電部11がダイヤフラム部6Dの各角部60上を通っていることにより、ダイヤフラム部6Dが通電部11で補強され、信頼性の向上を図ることが可能となる。
また、赤外線放射素子1は、ダイヤフラム部6Dを通電部11により補強することができるので、ダイヤフラム部6Dを補強するために別途に補強膜を形成する必要がなく、低コスト化を図ることが可能となる。
各実施形態の赤外線放射素子1は、ガスセンサ用の赤外光源に限らず、例えば、赤外光通信用の赤外光源、分光分析用の赤外光源などに使用することが可能である。

Claims (14)

  1. 厚み方向に直交する一表面を有する基板と、
    前記基板を前記厚み方向に貫通する開口部と、
    前記基板の前記一表面に前記開口部を覆うように配置される第1絶縁層と、
    前記一表面に平行な基準面において前記開口部の内側に位置するように前記第1絶縁層における前記基板とは反対側に配置される発熱体層と、
    前記第1絶縁層における前記基板とは反対側に前記発熱体層を覆うように配置される第2絶縁層と、
    前記第2絶縁層における前記基板とは反対側に配置され前記発熱体層に電気的に接続される通電部と、
    を備え、
    前記開口部は、前記基準面内において角を有する形状であり、
    前記通電部は、前記厚み方向で前記開口部の前記角と重なる補強部を有する
    ことを特徴とする赤外線放射素子。
  2. 前記第1絶縁層と前記第2絶縁層と前記発熱体層とは、全体として引張応力を有する
    ことを特徴とする請求項1に記載の赤外線放射素子。
  3. 前記通電部は、
    前記基準面において前記開口部の外側に位置するように前記基板上に配置される電極と、
    前記電極を前記発熱体層に電気的に接続する配線と、
    を備える
    ことを特徴とする請求項1に記載の赤外線放射素子。
  4. 前記開口部は、4つの前記角を有する矩形状または正方形状であり、
    前記通電部は、前記4つの角にそれぞれ対応する4つの前記補強部を有する
    ことを特徴とする請求項3に記載の赤外線放射素子。
  5. 前記通電部は、4つの前記配線を有し、
    前記4つの配線は、それぞれ対応する4つの前記補強部を含む
    ことを特徴とする請求項4に記載の赤外線放射素子。
  6. 前記電極は、第1電極と第2電極とを含み、
    前記第1電極および前記第2電極は、前記基準面内で前記開口部の一辺に沿った所定方向において前記開口部の両側に配置され、
    前記第1電極は、前記4つの角のうち前記第1電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記配線に接続され、
    前記第2電極は、前記4つの角のうち前記第2電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記配線に接続される
    ことを特徴とする請求項5に記載の赤外線放射素子。
  7. 前記配線は、前記電極に接続される端部を有し、
    前記端部は、前記電極に近づくほど幅が大きくなり、
    前記端部が、前記補強部である
    ことを特徴とする請求項6に記載の赤外線放射素子。
  8. 前記端部は、その側面が凹面である
    ことを特徴とする請求項7に記載の赤外線放射素子。
  9. 前記発熱体層は、前記基準面において4つの第2角を有する矩形状または正方形状であり、
    前記発熱体層は、前記基準面において前記開口部の四辺とそれぞれ平行な四辺を有し、
    前記4つの配線の各々は、前記基準面において、前記発熱体層の前記第2角とこの第2角に最も近い前記開口部の前記角とを通る直線状に形成される
    ことを特徴とする請求項5に記載の赤外線放射素子。
  10. 前記開口部は、4つの前記角を有する矩形状または正方形状であり、
    前記電極は、第1電極と第2電極とを含み、
    前記第1電極および前記第2電極は、前記基準面において前記開口部の一辺に沿った所定方向における前記開口部の両側に配置され、
    前記第1電極は、前記4つの角のうち前記第1電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記補強部を含み、
    前記第2電極は、前記4つの角のうち前記第2電極に近い2つの角にそれぞれ対応する前記補強部を含む
    ことを特徴とする請求項3に記載の赤外線放射素子。
  11. 前記配線は、高融点材料により形成される。
    ことを特徴とする請求項3に記載の赤外線放射素子。
  12. 前記発熱体層は、前記高融点材料以上の融点を有する材料により形成される
    ことを特徴とする請求項11に記載の赤外線放射素子。
  13. 前記配線は、タンタルにより形成され、
    前記発熱体層は、窒化タンタルにより形成される
    ことを特徴とする請求項12に記載の赤外線放射素子。
  14. 前記第1絶縁層および前記第2絶縁層は、熱絶縁性および電気絶縁性を有し、
    前記発熱体層は、通電により赤外線を放射するように構成され、
    前記第1絶縁層と前記発熱体層と前記第2絶縁層とは、薄膜構造部を構成し、
    前記薄膜構造部は、
    前記開口部上に配置されるダイヤフラム部と、
    前記基板上に配置され前記ダイヤフラム部に連結される支持部と、
    を有する
    ことを特徴とする請求項1に記載の赤外線放射素子。
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