送り機構は、送り歯に被縫製物搬送運動を実行させる。送り機構は、水平方向に沿った前記送り歯の送り量を変更するための送り調節器と、送り調節器の送り量を変更するための動力源となるアクチュエータと、送り歯の被裁縫物搬送運動を可能とするように送り歯を前記針板上面よりも突出可能とさせる送り歯上昇位置と送り歯を針板上面よりも沈下させて針板上面よりも突出させない送り歯沈下位置とに送り歯の高さ位置を切り替えるための可動子と、沈下上昇切替機構とを備える。沈下上昇切替機構は、アクチュエータと前記可動子との間に介在している。アクチュエータはステッピングモータ、DCモータ、リニア式の電磁アクチュエータ等が例示される。沈下上昇切替機構は送り歯沈下モードと送り歯上昇モードとを切り替える。送り歯沈下モードでは、アクチュエータの作動によりアクチュエータの動力を受けて可動子を送り歯沈下位置に切り替える。送り歯上昇モードでは、アクチュエータの作動によりアクチュエータの動力を受けて可動子を送り歯上昇位置に切り替えて送り歯の被裁縫物搬送運動を可能とさせる。
沈下上昇切替機構は、可動子に係合すると共にアクチュエータの作動で姿勢を変更させる送り調節器により回動される回動リンクを備えていることが好ましい。回動リンクの回動により可動子の姿勢を変更させることにより、可動子を送り歯上昇位置と送り歯沈下位置とに切り替えることが好ましい。沈下上昇切替機構は、アクチュエータと回動リンクとの間に介在し且つアクチュエータの作動を受けて作動する切替レバーを備えていることが好ましい。切替レバーによって回動した回動リンクは、送り台または水平送りロッドに係合して一方向または他方向に回動される。回動リンクがこれの回動中心を中心として一方向に回動すると、可動子は、送り歯沈下位置(送り歯沈下モード)および送り歯上昇位置(送り歯上昇モード)のうちのいずれか一方に切り替わる。回動リンクがこれの回動中心を中心として他方向に回動すると、可動子は、送り歯沈下位置(送り歯沈下モード)および送り歯上昇位置(送り歯上昇モード)のうちのいずれか他方に切り替わる。
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図7は送り量の切替終わりの状態を示す。図10は送り歯22の沈下始めの状態(送り歯上昇位置)を示す。図13は送り歯22の沈下終わりの状態(送り歯沈下位置)を示す。図16はステッピングモータ30の作動領域を模式的に示す。図17は送り歯22の上昇始めの状態(送り歯沈下位置)を示す。
図1に示すように、ミシンは家庭用制御ミシンであって、布等の被裁縫物が載せられる針板29をもつベッド部33と、ベッド部33の一端部から高さ方向に沿って延びる縦胴部34と、縦胴部34の上端部から横方向に延びるアーム部35と、アーム部35に設けられた上軸10と、ベッド部33に設けられた下軸15と、縦胴部34に設けられた駆動モータ12とを備える。更に、図1に示すように、アーム部35は、針1sが取り付けられる昇降可能な針棒1tと、布押さえ1rをもつ押さえ棒1pとを備えている。針板29には、針1sが挿入される針穴が形成されている。アーム部35には、複数の設定ボタン38(38a,38b,38c,38d,38e)および表示装置39が設けられている。設定ボタン38は、実用模様の選択、縫い幅、送り量(1針の縫い目の長さに相当)の設定を行う。表示装置39は、これらの設定作業に必要な情報を表示する。このミシンは送り機構21を備える。以下、本発明の要旨である送り機構21を中心として説明する。
図2および図3に示すように、下軸15の他端15e側には、被裁縫物を搬送するための下軸15の回動力を駆動力とする送り機構21が設けられている。下軸15はベッド部33に水平方向に延びるように収容されている。図2および図3に示すように、送り機構21は、針板29の上面上の被裁縫物を前後方向(矢印F方向および矢印R方向)に搬送する送り歯22と、送り歯22を支持する送り台23と、水平送り腕24と、水平送りロッド27とを備える。図2に示すように、水平送り腕24は、互いに対向する複数の腕部24a、軸部24b、複数の腕部24aを繋ぐ連設部24cをもつ。水平送り腕24の下端24dは、機枠1の軸部1kに対して回動自在に保持されている。水平送り腕24の上端の孔24uに、送り台23の軸部23xは回動自在に組み付けられている。図2に示すように、下軸15には、下軸15に連動して回動される偏芯カム25が固定されている。偏芯カム25の一側面には、円筒端面をカム面25kとする上下送りカム25aと、上下送りリンク26とが下軸15の回動に連動するように設けられている。偏芯カム25の外周面で形成されているカム面25cは、下軸15のこれの軸線P5まわりの回動に応じて変化するカムリフト量に対応して上下移動する。図2から理解できるように、上下送りリンク26の枢支孔26pは、後述する回動リンク42の枢支孔42pと共に機枠1側の枢支軸26xに枢支されて回動中心を形成する。上下送りリンク26には、これの回動中心P6よりも離間する位置に軸26a(係合部)が設けられている。ここで、図4から理解できるように、下軸15が回動すると、偏芯カム25のカム面25aにより上下送りリンク26が枢支孔26p(軸線P6)の回りで揺動する。このため、軸線P6から横方向に離間する軸26aを介して可動子41を高さ方向(矢印H方向)において昇降させ、ひいては送り高さ調整ネジ37および送り台23を介して送り歯22を昇降させる。図2に示すように、送り台23は、複数の腕部23a、腕部23a同士を繋ぐ連設部23bをもつ。送り歯高さ調整ネジ37は送り台23の連設部23bに保持されており、針板29の上面に対する高さ方向(矢印H方向)における送り歯22の突出量を調整するためのものである。通常的な被裁縫物搬送運動が行われるときには、送り歯22の針板29の上面に対する突出量は、1〜1.2mm程度に設定されることが好ましい。
図2に示すように、送り歯高さ調節ネジ37と上下送りリンク26との間には、送り歯22の高さ位置を調整して送り歯沈下位置および送り歯上昇位置を切り替えるための可動子41が設けられている。図2,図4に示すように、可動子41は、上方に向く上面41a、係合溝41w、横方に向く側面41s、側面41sから遠ざかるように斜め下方に延設された転倒用の腕41k、腕41kに設けられた突出軸部41xをもつ。可動子41の係合溝41w(被係合部)は、上下送りリンク26に固定された軸26a(係合部)により回動可能(転倒可能)に係合され、結果として、可動子41は軸26aを中心として高さ方向(矢印H方向)において回動可能(転倒可能)に係合されている。上下送りリンク26の回動中心である軸線P6よりも軸26aは離間しているため、上下送りリンク26が軸線P6を中心として回動すると、可動子41を転倒させ得るモーメント力を発揮できる。
図2から理解できるように、可動子41の上面41aおよび側面41sは、それぞれ平坦面であり、互いに所定角度(ほぼ90°程度)で交差する。図4に示すように、被裁縫物搬送運動を行う送り歯上昇モードでは、可動子41の上面41aは、送り歯高さ調節ネジ37の頭部下面37aを載せてこれの下側から支持する。更に、可動子41の上面41aは、送り台23が上下送りリンク26に対して相対的に前後方向(図2に示す矢印F方向および矢印R方向)に滑ることを可能とする。
機枠1に係合された図示しない第1の引っ張りバネにより、送り台23は、高さ方向(矢印H方向)において常に下方(矢印D方向)に付勢されている。このため、可動子41の姿勢の無用な転倒が抑制されている。従って、第1の引っ張りバネの付勢力により、送り歯上昇モード(送り歯上昇位置)では、送り台23に設けられている送り歯高さ調整ネジ37の頭部下面37aと可動子41の上面41aとは常時に当接している。従って、上下送りカム25aのカム面25cの作動に追従して送り台23が高さ方向(矢印H方向)において上下動する。ここで、図2に示すように、水平送りロッド27の他端27fの孔27w(被係合部)は、水平送り腕24の高さ方向の中間部に形成されている軸24b(係合部)に回動自在に連結されている。水平送りロッド27は、機枠1に係合された図示しない第2の引っ張りバネにより、下方(矢印D方向)に付勢されている。偏芯カム25の外周面で形成されているカム面25cの上部には、カム面25cに載せられて上下動する水平送りロッド27の下部27dが当接している(図4参照)。水平送りロッド27のうち偏芯カム25側には、水平送りロッド軸28が固着されている。水平送りロッド軸28は、送り調節器13の可動部13eに形成されている円弧溝13aに嵌合される。ここで、下軸15がこれの軸線P5回りで回動すると、連動して偏芯カム25がカム面25cと共に軸線P5回りで回動することにより、水平送りロッド27が上下動する。ひいては、水平送りロッド27に設けられている水平送りロッド軸28が送り調節器13の円弧溝13aに沿って上下動する。これにより水平送りロッド27は水平方向(図2に示す矢印F,R方向)の往復移動の移動量を規制し、水平送りロッド27の作動力を水平送り腕24を介して送り台23にこれの水平方向(矢印F,R方向)の動きとして伝達することができる。これにより送り歯22の水平方向(矢印F,R方向)の送り量(被裁縫物の送り量に相当)を調整する。
前述の上下送りカム25aによる上下方向の往復運動と、偏芯カム25および送り調節器13による水平方向の往復運動とを組み合わせることにより、送り台23の送り歯22は、ほぼ矩形の運動軌跡を描くように被裁縫物搬送運動を行う。これにより裁縫中において、送り歯22は、針板29上の被裁縫物をミシン前方向(矢印F方向)またはミシン後方向(矢印R方向)において搬送する。このような被裁縫物搬送運動の運動軌跡の上部では、送り歯22の先端が針板29の上面から上方に突出し、送り調節器13によって規制された送り量だけ被裁縫物を搬送方向(矢印F方向または矢印R方向)に搬送させ、その後、送り歯22は針板29の上面よりも下方に沈下する。また送り調節器13の円弧溝13aの鉛直線に対する傾斜角度を調節することによって、正逆の反転や送り量を調節し、あるいは、送り量を0にすること等は、ミシンの分野において周知の技術である。
図6,図9における実線で示す送り調節器13の姿勢角度(姿勢NA)では、送り歯22はミシン本体の後ろ側で針板29の上面から浮上し、ミシン前方に向けて針板29上の被裁縫物を搬送し、その後、針板29の上面よりも下方に沈下するように被裁縫物搬送運動が行われる(被裁縫物の逆送り)。また、図6,図9における二点鎖線で示す送り調節器13の姿勢角度(姿勢NB)では、送り歯22はミシン本体の前側(ミシンを操作するユーザ側)において針板29の上面から浮上し、ミシン後方(矢印R方向)へ被裁縫物を搬送し、その後、針板29の上面よりも下方へ沈下するように被裁縫物搬送運動が行われる(被裁縫物の正送り)。
送り機構21による送り量の調節機構について更に説明を加える。図2に示すように、送り調節器13は、前述した水平送りロッド軸28が嵌合する円弧溝13aをもつ可動部13eと、円弧溝13aの中心に固定された送り調節器軸13bと、ギヤ13cとを備える。ギヤ13cは、送り調節器13の動力源であるアクチュエータとしてのステッピングモータ30のモータ軸30mに固定された送りモータギア31と噛み合う。従って、ステッピングモータ30が回動すると、ギヤ13cを介して送り調節器軸13bの姿勢が変更される。送り調節器軸13bは、機枠1に固定された支持ブッシュ(図示せず)に回動自在に取り付けられており、送り調節用のステッピングモータ30の回動量に応じて、ギヤ31,13cを介して円弧溝13aの姿勢角度が変化する。
本実施形態によれば、メインスイッチのオンによりミシンに電源が投入されたときには、送り調節用のステッピングモータ30の原点位置合わせのため、制御部は、ステッピングモータ30のモータ軸30mを矢印R1方向(ステッピングモータ30の位相の原点方向)に回転駆動させ、突起状のストッパ部31aをストッパ面44に当接させて位相の原点を求める(図11,図14参照)。原点を形成できるように、ストッパ面44は機枠1に固定されている。すなわち、このようにミシンに電源が投入されたときには、制御部は、ステッピングモータ30を低トルクで原点方向に回動させて、ステッピングモータ30の位相を後述するモータ位相範囲Mからわざと脱調させ、後述するモータ位相範囲C側に向けて移動させて位相の原点(図16参照)を求める。このように位相の原点を求めた後、制御部は、予め設定したステップ数を原点方向とは反対の方向(図16に示す矢印R2方向)に戻すように、ステッピングモータ30を作動させることにより、縫い模様用の基準点の位置を求める。基準点に基づいて、通常縫い模様においてステッピングモータ30が回動する位相の範囲は、モータ位相範囲Mとして設定される(図16参照)。通常縫い模様におけるモータ位相範囲Mによれば、ステッピングモータ30の位相が基準点の位置から正方向に移動する領域では、縫い目の長さが長くなる。ステッピングモータ30の位相が基準点の位置から負方向に移動する領域では、縫い目の長さが短くなる(図16参照)。裁縫中において、制御部は、ステッピングモータ30の位相をモータ位相範囲M内において調整させれば、1針の縫い目の長さを調整させることができる。
更に説明を加える。図16は、ステッピングモータ30の位相0°(位相の原点)から位相360°(位相の終端)までにわたる範囲を示す。通常縫い模様においてステッピングモータ30が回動するモータ位相範囲Mは、通常縫いにおいて送り調節器13の姿勢を傾斜させて調整して送り歯22の送り量(矢印F,R方向の送り量)を変更させる送り量調整用駆動領域に相当する。図16に示すように、ステッピングモータ30の位相が上記した送り量調整用駆動領域(1針の縫い目長さ調整用のモータ位相範囲M)と重複しないように、沈下上昇切替機構40を作動させるための送り歯沈下切り替え用駆動領域(送り歯22のモード切替用のモータ位相範囲C)が、ステッピングモータ30の回動領域として設けられている。従って、ステッピングモータ30はモータ位相範囲M,Cにおける各操作を互いに独立して駆動する。
送り歯22の送り歯沈下モードおよび送り歯上昇モードの切り替えは、ステッピングモータ30の位相が送り歯沈下切り替え用駆動領域(原点側のモータ位相範囲C)において存在するときに行われ、原点から離れた範囲であるモータ位相範囲M内においては行われない。送り歯22が運動する矩形の運動軌跡を伴う被裁縫物搬送運動の回動数は、下軸15の回動数と一致する。更に下軸15の回動数と上軸2の回動数は一致しているため、送り歯22が針板29の上面よりも上方に浮上する周期と、針棒10の上下移動の周期と、上軸2の回動の周期とは一致している。ここで、図20においては、横軸は上軸角度を示し、縦軸は針棒高さ位置と送り歯高さ位置を示す。図20は、針棒上死点のとき上軸角度を0°とし、針棒10(ミシンの針1sの先端)の運動軌跡を特性線W1とし、送り歯22の上下軌跡を特性線W2として図示する。
図20から理解できるように、針1sの先端が針板29の上面よりも下方に存在する状態、即ち、針板29上の被裁縫物に針1sが刺さった状態で、被裁縫物を搬送方向に送ると、針1sが折れてしまうおそれが発生する。このため、送り歯22が針板29の上面よりも上方に浮上して水平方向に移動するタイミングは、少なくとも針1sの先端が針板29の上面よりも上方に存在する範囲となるように設定される。針1sの先端が針板29よりも上方に存在するのは、針棒上死点を0°とするとき、図20に示すように、上軸角度がX区間の範囲(上軸角度:約270°〜約110°)である。また、送り歯22が針板29の上面よりも上方に浮上する範囲はY区間(図20参照,上軸角度:約295°〜約135°)として設定されている。
図20に示すグラフにおいて、範囲Aは、通常縫いにおける送り歯22による送り量の変更のためのステッピングモータ30(アクチュエータ)が作動する前記したモータ位相範囲Mにおいて、ステッピングモータ30の駆動が許容されるタイミング範囲を示す。図20に示す範囲Bは、沈下上昇切替機構40を作動させるためステッピングモータ30(アクチュエータ)が作動する前記したモータ位相範囲Cにおいて、ステッピングモータ30の駆動が許容されるタイミング範囲を示す。図20に示すように、上軸角度を横軸とし、針棒高さ位置および送り歯高さ位置を縦軸として示すグラフによれば、横軸において範囲A,Bは互いに独立して異なるタイミングとなるようにずらして設定されている。
送り歯22のモード切り替え操作について更に説明を加える。送り調節器13の円弧溝13aの可動部13eの下方には突出部13dが一体的に設けられている(図11,図14,図18参照)。図2に示すように、切替レバー43の軸43xは、機枠1の部位1sに回動自在に取り付けられている。切替レバー43の一端43eが突出部13dに近接し(図11,図14,図18参照)、切替レバー43の他端43fは回動リンク42に接触している(図12,図15,図19参照)。
図10,図13に示すように、本実施形態を特徴づける沈下上昇切替装置40は、可動子41の姿勢を変化させるための回動リンク42と、回動リンク42を作動させるための切替レバー43とを備えている。図2に示すように、回動リンク42は、一端42eと、他端42fと回動中心となる枢支孔42p(枢支部)を備えており、ほぼへの字形状されている。枢支孔42pは、上下送りリンク26を機枠1に枢支する枢支軸26xと嵌合し、回動リンク42は、高さ方向(矢印H方向)において一方向(図2に示す矢印C1,C3方向)および他方向(矢印C2,C4方向)に沿って枢支軸26x(枢支孔42p)を回動中心として回動可能に支持されている。回動リンク42の他端42fは、これに沿った長穴42aを有する。長穴42a(被係合部)は、可動子41に一体に形成された突出軸部41x(係合部)を移動可能に嵌合させて係合させる。回動リンク42は、板バネ性を発揮するように、POM,ABS等の樹脂、あるいは、鋼板等の薄金属板で形成されている。
本実施形態によれば、送り歯22のモードを切り替えるときには、ステッピングモータ30の位相は、原点から離間するモータ位相範囲Mではなく、原点側のモータ位相範囲C内に維持され、送り調節器13の突出部13dは切替レバー43に接触可能とされる。これに対して、通常縫いにおいては、ステッピングモータ30のモータ位相範囲M内(図16参照)では、突出部13dは切替レバー43に接触しないようにされている。このため通常縫い用のモータ位相範囲Mでは、制御部は、送り歯22の送り歯沈下モード(送り歯沈下位置)および送り歯上昇モード(送り歯上昇位置)を切り替えることはできない。ステッピングモータ30の原点出しのためのモータ位相範囲C(図16参照)の原点付近で初めて、送り調節器13の突出部13dは切替レバー43に接触、押圧することにより、送り歯22のモード切り替えを実行できるように設定されている。
回動リンク42の一端42eには、凸部42c(図12,図15参照)が設けられている。回動リンク42が切替レバー43によって矢印E1方向(係合方向,図12参照)に押し込まれた場合には、回動リンク42の凸部42cが水平送りロッド27の先端27eの軌道内まで突出させ先端27eと係合できるようにされている(図15参照)。凸部42cは、水平送りロッド27の先端27eを受けて係合すると、回動リンク42を枢支軸26xを回動中心として一方向(矢印C1,C3方向)および他方向(矢印C2,C4方向)に沿って回動させる。
次に、送り歯22を送り歯上昇モード(送り歯上昇位置)から送り歯沈下モード(送り歯沈下位置)に切り替える場合について説明を加える。送り歯22の送り歯沈下モードおよび送り歯上昇モードを切替えるモードの切り替えは、従来より、モード切り替え専用の操作ボタンの操作、刺繍専用模様の選択、押さえ上げレバーの操作、あるいは、別体の刺繍装置の係合の信号等のうちの少なくとも一つの操作をトリガー信号として実行される。
刺繍枠を用いて裁縫するときには、送り歯22が刺繍枠に干渉するおそれがあるため、送り歯22を送り歯沈下位置として送り歯沈下モードとさせることが好ましい。上記したトリガー信号に基づいて、制御部は、ステッピングモータ30をモータ位相範囲Cに移行させた状態で、送り歯沈下モードに切り替える。
この場合、制御部は、ミシンの駆動モータ12を正方向に回動させ、上軸10をこれの軸線回りで正方向に回動させると共に、下軸15をこれらの軸線P5回りで正方向に回動させる。下軸15が回動すると偏芯カム25は軸線P5回りで回動する。そして、偏芯カム25のカム面25cのカムリフト量が最小の位置に水平送りロッド27が当接するタイミング(実施形態では上軸位相350°)になると、ステッピングモータ30のモータ軸30mは、通常縫い模様においてステッピングモータ30が回動するモータ位相範囲M(図16参照)から外れ、原点に向けて矢印R1方向に回動し、原点出し用のストッパ面44に当接する位置まで回動する。即ち、モータ軸30mがモータ位相範囲Cに移行し、モータ軸30mのストッパ部31aが機枠1のストッパ面44に当接する(図14,図18参照)。この場合、モータ軸30mのストッパ部31aが機枠1のストッパ面44に当接する直前において、送り調節器13の突出部13dが切替レバー43の一端43eを押圧して切替レバー43をこれの軸線P2回りで回動させる。この結果、切替レバー43の他端43fが回動リンク42を水平送りロッド27の方向(図15に示す矢印E1方向)に向けて撓ませ、この結果、回動リンク42の凸部42cが水平送りロッド27の先端27eまで突出する(図15参照)。この状態のままで、更に駆動モータ12により下軸15がこれの軸線P5回りで更に正方向(図14,図15に示す矢印PA方向)に回動すると、偏芯カム25のカム面25cによって水平送りロッド27は上方(図15に示す矢印U方向)に持ち上がる。この結果、回動リンク42の凸部42cが水平送りロッド27の先端27eに上方(矢印U方向)押し上げられる。このため、図13に示すように、回動リンク42が枢支軸26xを中心として矢印C2方向,矢印C4方向(図13参照)に回動する。
図13に示すように、回動リンク42の他端42fでは、可動子41に一体的に形成されている突出軸部41x(係合部)が可動子回動リンク42の長穴42a(被係合部)に嵌合して係合している。このため、回動リンク42の他端42fおよび可動子41の突出軸部41xは下方(矢印C4方向)に押し下げられる。結果として、可動子41は、上下送りリンク26に固定された軸26a(被係合部)を回動中心として、前記第1の引っ張りバネのバネ力に逆らいつつ、転倒方向(図13に示す矢印R6方向)にほぼ90°回動する。このように可動子41が回動すると、図13に示すように、突出軸部41xが長穴42aをスライドしつつ、可動子41の上面41aが横向きとなり鉛直方向に沿い、且つ、可動子41の側面41sが上向きとなり、側面41sが水平方向に沿い、送り歯高さ調整ネジ37の頭部下面37aを載置して支持する。このとき、送り歯22は針板29の上面よりも下方に沈下する。これにより可動子41および送り歯22は、送り歯沈下位置に維持される。図4に示すように、可動子41の回動中心である軸26aの軸線と可動子41の上面41aとの最短距離をL3とし、回動中心である軸26aの軸線と可動子41の側面41sとの最短距離をL4とするとき、L3>L4の関係(図4参照)だからである。送り歯22の針板29の上面に対する突出量は、前述の通り1〜1.2ミリメートル程度であるため、L3とL4との差(L3−L4)は1.5ミリメートル程度が好ましい。
上記したように沈下した送り歯22は被裁縫物搬送運動したとしても、針板29上の被裁縫物を載せることはできず、被裁縫物を搬送できない。これが送り歯22の送り歯沈下モードである。このように送り歯22を送り歯上昇モードから送り歯沈下モードに切り替えるときには、前述したように、ステッピングモータ30の位相は、通常縫い用のモータ位相範囲Mではなく、モード変更用のモータ位相範囲C内に維持されている(図16参照)。更に上軸角度は図20に示す範囲B内とされている。上軸角度が図20に示す範囲Aのときには、回動リンク42の凸部42cが矢印E1方向に突出したとしても、水平送りロッド27は凸部42cに対して空振りして凸部42cとは係合しない。そして、可動子41が回動するのに充分な位置(実施形態では上軸位相50°)まで水平送りロッド27が上昇すると、ステッピングモータ30の位相は、原点側のモータ位相範囲Cから通常縫い用のモータ位相範囲M内に維持されるように、ステッピングモータ30は矢印R2方向(図16参照)に駆動する。モータ位相範囲Mにおいては、制御部は、送り調節器13を回動させて送り調節器13の姿勢を適宜変更させ、被裁縫物における縫い目の長さを変更させることが可能となる。
このようにステッピングモータ30がモータ位相範囲Cから通常縫い模様用のモータ位相範囲Mまで駆動するとき、モータ軸30mのストッパ部31aは矢印R2方向(図14,図18参照)に回動してストッパ面44から離間する。すると、送り調節器13の下方突出部13dは切替レバー43の一端43eから離れる。このため、板バネ性を有する回動リンク42自身が有する付勢力によって、切替レバー43は矢印E2方向(図15参照)押し戻され、結果として、回動リンク42の凸部42cと水平送りロッド27の先端27eとの係合が外れる。このように回動リンク42の凸部42cと水平送りロッド27の先端27eとの係合が外れた後においても、前述したように送り台23が前記第1の引っ張りバネによって常時に下方(矢印D方向)に付勢されている。このため裁縫中においても、送り歯沈下モードとなるように回動した可動子41の姿勢は、送り歯22が沈下された状態(送り歯沈下位置,送り歯沈下モード)のまま保持される。
次に、送り歯沈下モードに維持されている送り歯22を、針板29よりも上昇させて送り歯上昇位置とし、送り歯上昇モードに切り替える場合について説明を加える。送り歯22を上昇させて送り歯上昇モードとさせる場合には、前述した送り歯22を沈下させる動作と逆の動作が行われる。すなわち、制御部は、送り歯22を沈下させる動作と逆の動作(モード切り替え専用の操作ボタンの操作、刺繍専用模様の選択、押さえ上げレバーの操作、あるいは、別体の刺繍装置の係合の信号等のうちの少なくとも一つの前記操作に対して逆の操作)をトリガー信号として、送り歯上昇モードに切り替える制御を開始する。刺繍枠などを使用しない的には、刺繍枠と送り歯22との干渉を考慮せずとも良いため、送り歯22は送り歯上昇モードとして使用される。この場合、送り歯上昇モードの開始信号が制御部により検知されると、駆動モータ12が逆回動し、上軸10をこれの軸線回りで逆方向に回動させると共に、下軸15をこれの軸線P5の回りで逆方向に回動させる。偏芯カム25のカム面25cのカムリフト量が最大の位置に水平送りロッド27が当接するタイミング(実施形態では上軸位相92°)になると、ステッピングモータ30の位相は通常縫い模様用のモータ位相範囲M(図16参照)から外れ、モータ軸30mのストッパ部31aは矢印R1方向に回動してモータ位相範囲C(図16参照)に移行し、原点出し用のストッパ面44に当接する(図18参照)。
当接する直前において、図18から理解できるように、送り調節器13の円弧溝13aの下方突出部13dが切替レバー43の一端43eを押圧して切替レバー43をこれの軸線P2回りで回動させる。従って、切替レバー43の他端43fが矢印E1方向(図19参照,凸部42cの係合方向)に移動し、回動リンク42を水平送りロッド27の方向に撓ませる。すると、回動リンク42の凸部42cが水平送りロッド27の先端27eに向けて突出する。但し、図19に示すように、凸部42cを、水平送りロッド27の先端27eの下側に潜り込ませる。この状態のままで駆動モータ12により更に下軸15がこれの軸線P5の回りで逆方向(矢印PB方向)回動されると、偏芯カム25のリフト量が減少するため、図略の第1の引っ張りバネにより送り台22は下方に降下し、第2の引っ張りバネにより水平送りロッド27は下方(図19に示す矢印D方向)に降下する。このため、水平送りロッド27の先端27eは回動リンク42の凸部42cを下方(矢印D方向)に押し下げ、更に、回動リンク42は枢支軸26xを回動中心として矢印C1,C3方向(図17参照)に回動する。第2の引っ張りバネの付勢力は、第1の引っ張りバネよりも大きく設定されている。上記したように引っ張りバネは2つ設けられている。送り歯沈下モードから送り歯上昇モードへ切り替えられる際には、水平送りロッド27を付勢する第2の引っ張りバネが、送り台23を付勢する第1の引っ張りバネに逆らって作用する。
図17に示すように、回動リンク42の他端42fでは、可動子41に一体的に形成された突出軸部41xが可動子回動リンク42の長穴42aに嵌合して係合している。このため、回動リンク42の他端42fおよび突出軸部41xは、上方(図17に示す矢印C3方向)に押し上げられる。結果として、可動子41は、上下送りリンク26に固定された軸26aを回動中心として前記第1の引っ張りバネのバネ力に逆らって回動し、側面41sが上向きから横向きに変化し、上面41aが横向きから上向きに変化する。このように送り歯22を送り歯沈下モードから送り歯上昇モードに切り替えるときには、前述したように、ステッピングモータ30の位相は、通常縫い用のモータ位相範囲Mではなく、モード変更用のモータ位相範囲C内に維持されている(図16参照)。更に上軸角度は図20に示す範囲B内とされている。上軸角度が図20に示す範囲Aのときには、回動リンク42の凸部42cが矢印E1方向に突出したとしても、水平送りロッド27は凸部42cに対して空振りして凸部42cとは係合しない。
そして、可動子41が回動するのに充分な位置(実施形態では上軸位相30°)まで水平送りロッド27が下降すると、制御部からの指令に基づいて、ステッピングモータ30の位相はモータ位相範囲Cから通常縫い用のモータ位相範囲Mまで回動する。このとき、モータ軸30mは矢印R2方向(図18参照)に回動し、モータ軸30mのストッパ31aはストッパ面44から離れると共に、円弧溝13aの下方突出部13dは切替レバー43の一端43eから離れて非接触となる。このため、切替レバー43は自身の付勢力によって矢印E2方向(凸部42cの退避方向,図19参照)に退避し、回動リンク42の凸部42cと水平送りロッド27の先端27eとの係合が外れる。このように可動子回動リンク42の凸部42cと水平送りロッド27の先端27eとの係合が外れた後においても、送り台23が図略の第1の引っ張りバネによって常時に下方(矢印D方向)に付勢されているため、送り歯上昇モードとなるように回動した可動子41の上面41aは、上方に向いた状態に保持され、送り歯高さ調整ネジ37aを支持する。ひいては裁縫中においても、送り歯22は送り歯上昇位置に保持され、ひいては送り歯上昇モードに保持される。L3>L4の関係だからである(図4参照)。
以上説明したように本実施形態によれば、ステッピングモータ30(アクチュエータ)は、送り調節器13の送り量を変更するための動力源となる。沈下上昇切替機構40は、ステッピングモータ30と可動子41との間に介在している。上記したように沈下上昇切替機構40は、ステッピングモータ30の作動によりステッピングモータ30の動力を受けて可動子41を送り歯沈下位置に切り替える送り歯沈下モードと、ステッピングモータ30の作動によりステッピングモータ30の動力を受けて可動子41を送り歯上昇位置に切り替えて送り歯22の被裁縫物搬送運動を可能とさせる送り歯上昇モードとを切り替えることができる。
本実施形態よれば、送り調節器13の送り量を変更するための動力源となる既設の送り調節器用のステッピングモータ30を有効利用して、送り歯沈下位置と送り歯上昇位置とに送り歯22を切り替えることができる。このため切り替え専用のステッピングモータ等のアクチュエータを用いることがない。即ち、従来から使用されているステッピングモータ30は、送り調節器13の送り量を変更するための動力源としての機能と、可動子41の姿勢を切り替えて送り歯22を沈下位置および上昇位置に切り替える動力源としての機能とを併有する。従って、送り歯沈下機構を廉価に製造させるのに有利となる。
本実施形態によれば、ステッピングモータ30は、通常縫いにおいて送り調節器13の姿勢を調整して送り歯22の送り量を変更させる送り量調整用駆動領域(ステッピングモータ30について図16に示すモータ位相範囲Mに相当)と、送り量調整用駆動領域と重複しないように設けられ沈下上昇切替機構40を作動させるための送り歯沈下切り替え用駆動領域(ステッピングモータ30について図16に示すモータ位相範囲Cに相当)とを備えている。このようにステッピングモータ30において、通常縫いにおいて送り調節器13の姿勢を調整して送り歯22の送り量を変更させる送り量調整用駆動領域と、沈下上昇切替機構40を作動させるための送り歯沈下切り替え用駆動領域とは、互いに重複しないように独立して設けられている。このため、ユーザ等の誤作動によって沈下上昇切替機構40が作動されることが抑制される。
本実施形態によれば、図20に示すように、通常縫いにおいて送り歯22による送り量の変更のためのステッピングモータ駆動タイミング(図20に示す範囲Aに相当)と、送り歯22の沈下モードおよび上昇モードを切り替えるステッピングモータ駆動タイミング(図20に示す範囲Bに相当)とは、横軸を上軸角度とするとき、横軸において異なるタイミングとして設定されている。すなわち、通常縫いにおける送り量の変更のためのステッピングモータ駆動タイミングと、沈下上昇切替機構40を作動させるためのステッピングモータ駆動タイミングとは、独立した別のタイミングとなるため、ユーザは二つの動作の違いをわかり易い。また通常縫いの途中においてユーザ等が過誤操作したとしても、沈下上昇切替機構40が作動して送り歯を切り替えることが無くなる。このためユーザによる過誤操作が解消される。上記したように本実施形態によれば、原点側へのステッピングモータ30の駆動→送り調節器13の姿勢変更→切替レバー43の作動→枢支軸26xを回動中心とする回動リンク42の回動→可動子41の姿勢の変更という順番により、制御部は、送り歯沈下モードと送り歯上昇モードとの間における切り替えを行う。
(その他)
前記した実施形態によれば、送り歯22の被裁縫物搬送運動を可能とするように送り歯22を針板上面よりも突出可能とさせる送り歯上昇位置と送り歯22を針板上面よりも沈下させて針板上面よりも突出させない送り歯沈下位置とに送り歯22の高さ位置を切り替えるための可動子41が設けられている。そして、ステッピングモータ30の駆動により切替レバー43を作動させ、ひいては回動リンク42を回動させることにより可動子41の姿勢を変更させることにしている。但し、これに限らず、沈下上昇切替機構40は、要するに、ステッピングモータ30(アクチュエータ)と可動子41との間に介在し、ステッピングモータ30の作動により可動子41を送り歯沈下位置に切り替える送り歯沈下モードと、ステッピングモータ30の作動により可動子41を送り歯上昇位置に切り替えて送り歯22の被裁縫物搬送運動を可能とさせる送り歯上昇モードとを切り替えるものであれば良い。即ち前記した実施形態によれば、送り歯沈下モードと送り歯上昇モードとの間における切り替えにあたり、原点側へのステッピングモータ30の駆動→送り調節器13の姿勢変更→切替レバー43の作動→枢支軸26xを回動中心とする回動リンク42の回動→可動子41の姿勢の変更という順番により実行されているが、これに限らず、原点側へのステッピングモータ30の駆動→送り調節器13の姿勢変更→枢支軸26xを回動中心とする回動リンク42の回動→可動子41の姿勢の変更という順番としても良い。原点側へのステッピングモータ30の駆動→送り調節器13の姿勢変更→可動子41の姿勢の変更という順番としても良い。アクチュエータはモータ軸を回動させるステッピングモータに限らず、直線移動する駆動軸をもつタイプの電磁アクチュエータとしても良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。