JP5869460B2 - 四輪駆動車両のトルク伝達装置 - Google Patents

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Description

本発明は、四輪駆動車両における駆動源と副駆動輪との間に設置するビスカスカップリングなどのトルク伝達装置に関する。
従来、駆動源からの駆動力を主駆動輪及び副駆動輪に伝達する四輪駆動車両では、駆動源と副駆動輪との間のプロペラシャフト上に配置したビスカスカップリング(VC)などのトルク伝達装置を備えるものがある。
このような四輪駆動車両では、主駆動輪と副駆動輪の車輪速差がプロペラシャフト上のビスカスカップリングに対する入力差回転数となり、四輪駆動トルク(4WDトルク)を出力する構造である。すなわち、例えば、車両のフロント側にエンジン及びトランスミッションを配置し、前輪を主駆動輪とし後輪を副駆動輪とする前輪駆動車(FF車)では、車両が低摩擦抵抗(低μ)路面を走行中にドライバーがアクセルペダルを踏み込んだ場合、まず、前輪に駆動トルクが伝達される。そして、前輪が路面のグリップ限界を超えて空転するとビスカスカップリングに差回転が入力されて後輪に駆動トルクが伝達される。
上記のような四輪駆動車両では、通常走行時には、主駆動輪と副駆動輪の回転差によりビスカスカップリングに差回転が入力され続ける四輪駆動(4WD)状態である。しかしながら、車両の走行状態に関わらずこのような四輪駆動状態が継続すると、駆動伝達系における各部の損失や走行抵抗の増大による車両の燃費(燃料消費率)の悪化を招く一因となる。また、転舵旋回など前後輪差で発生する4WDタイトターンブレーキング現象が顕著に出るため、車両の走行性能(走行商品性)の悪化も招くおそがある。さらには、低摩擦抵抗の路面でのABS(Anti-lock Braking System)作動時のカスケードロックを誘発することでも知られている。
そこで、上記の各種問題に対する従来の手法として、車両の走行状態に応じてトルク伝達装置による副駆動輪へのトルク伝達量を可変する機構が採用されている。このような機構として、電気的にクラッチのオンオフ制御を行うもの(特許文献1)や、手動で異なるトルク特性のビスカスカップリングの切替を行うもの(特許文献2)や、ワンウェイクラッチで異なるトルク特性のビスカスカップリングの切替を行うもの(特許文献3)がある。
しかしながら、特許文献1乃至3に記載の従来技術は、対応する制御回路を備えた電子制御ユニット(ECU)や、操作用のレバーなどの付帯物が必要となることで、車両の構造の複雑化や部品点数の増加、制御処理の煩雑化につながる。そのため、車両のコスト・重量・サイズ増を招くという問題がある。また、車速が所定以上の高速域では、ビスカスカップリングなどのトルク伝達装置による副駆動輪へのトルク伝達の必要性が減少するところ、電子制御により副駆動輪へのトルク伝達量を可変するもの以外は、高速域での伝達トルクを適切に低減することができない、という問題もある。
特開2009−144779号公報 特開平3−20125号公報 実開平4−4537号公報
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、かつ電子制御や手動操作などを行うことなく、車両の走行状態に応じた適切な配分での副駆動輪へのトルク伝達が可能となる四輪駆動車両のトルク伝達装置を提供することにある。
本発明にかかる四輪駆動車両のトルク伝達装置は、駆動源(3)からの駆動力を主駆動輪(W1,W2)及び副駆動輪(W3,W4)に伝達する駆動力伝達経路(2)における前記駆動源(3)と前記副駆動輪(W3,W4)との間に配置されたトルク伝達装置(10)であって、前記駆動源(3)と前記副駆動輪(W3,W4)との間に設けた回転軸(7)の前記駆動源(3)側に接続されたハウジング(11)と、前記回転軸(7)の前記副駆動輪(W3,W4)側に接続された出力軸(12)と、前記出力軸(12)の外周側で軸方向にのみ相対移動可能に設置された慣性質量を有するイナータ部材(25)と、前記ハウジング(11)と前記イナータ部材(25)との間に画成した粘性流体を充填してなる作動室(16)と、を備え、前記ハウジング(11)に結合された複数のアウタープレート(13)と前記イナータ部材(25)に結合された複数のインナープレート(14)を前記作動室(16)内で前記回転軸(7)の軸方向に沿って交互に配列した構成であり、車両の加速度又は走行勾配に応じて前記イナータ部材(25)が前記軸方向に移動することで、前記アウタープレート(13)と前記インナープレート(14)とのクリアランスが変化して、伝達トルク特性が変化するように構成したことを特徴とする。
本発明にかかる四輪駆動車両のトルク伝達装置によれば、車両の加速度や傾斜角に応じた前後方向の慣性力がイナータ部材に作用することで、イナータ部材の移動によりアウタープレートとインナープレートとのクリアランスを変化させることで、伝達トルク特性を可変させることができる。これにより、副駆動輪の駆動力を必要とする状況においては、トルク伝達部の伝達トルクを一時的に上昇させることが可能であり、副駆動輪の駆動力を必要としない状況においては、トルク伝達部の伝達トルクを低下させることが可能となる。よって、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、かつ電子制御や手動操作などを行うことなく、車両の走行状態に応じた適切な配分での副駆動輪へのトルク伝達が可能となる。
また、上記のトルク伝達装置では、前記イナータ部材(25)を付勢する付勢手段(28)を備え、車両の加速度又は走行路の登坂勾配が所定以上になると、前記イナータ部材(25)が前記付勢手段(28)の付勢力に抗して車両の後側の作動位置へ移動して、前記アウタープレート(13)と前記インナープレート(14)に積層方向への押圧力を付与するように構成してよい。
これによれば、車両の急加速時や登坂路の走行時など副駆動輪の駆動力を必要とする状況においては、トルク伝達部の伝達トルクを上昇させることができるので、車両の走行性能(走破性)の向上を図ることができる。
また、上記のトルク伝達装置では、前記複数のインナープレート(14)は、前記イナータ部材(25)に係合しない第1インナープレート(14a)と、前記イナータ部材(25)に係合する第2インナープレート(14b)とが交互に積層されており、前記第1インナープレート(14a)と前記第2インナープレート(14b)との間には、前記第1インナープレート(14a)と前記第2インナープレート(14b)を所定の摩擦力で摺接させる摩擦部材(17)が介在しており、前記第1インナープレート(14a)と前記第2インナープレート(14b)の差回転が大きくなる程、前記摩擦部材(17)の摩擦力が大きくなるように設定されていてよい。
この構成によれば、作動室内で粘性流体から第1インナープレートに伝達されるトルクは、摩擦部材を介して隣接する第2インナープレートに伝達され、該第2インナープレートを介してイナータ部材に伝達される。そして、第1インナープレートと第2インナープレートの差回転が大きくなる程、摩擦部材の摩擦力が大きくなるように設定されていることで、高差回転の領域では、トルク伝達装置の伝達トルクを大きくすることができ、低差回転の領域では、伝達トルクを小さくすることができる。したがって、車両の走行状態に応じた副駆動輪へのより適切なトルク配分が可能となる。
また、前記摩擦部材(17)は、前記第1インナープレート(14a)と前記第2インナープレート(14b)の内径側の端部又はその近傍に設置された環状の部材であってよい。第1インナープレートと第2インナープレートの内径側は、周速度(差回転)が比較的に小さいため、摩擦部材の摩擦力特性として低差回転の領域の特性を有効に利用することができる。また、摩擦部材にてインナープレートの内径側の位置決め(軸方向の位置決め)を行うことができる。
なお、上記で括弧内に記した参照符号は、後述する実施形態における対応する構成要素に付した符号を参考のために例示したものである。
本発明にかかる四輪駆動車両のトルク伝達装置によれば、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、かつ電子制御や手動操作などを行うことなく、車両の走行状態に応じた適切な配分での副駆動輪へのトルク伝達が可能となる。
本発明の実施形態にかかるトルク伝達装置(ビスカスカップリング)を備える四輪駆動車両の概略構成を示す図である。 第1実施形態にかかるビスカスカップリングを示す側断面図である。 インナープレートを示す図で、(a)は、第1インナープレートを示す図、(b)は、第2インナープレートを示す図である。 フリクションリングの周速度(差回転)と摩擦係数(摩擦力)との関係を示すグラフである。 第1実施形態にかかるイナータ部材の動作を説明するための図で、(a)は、イナータ部材が非作動位置にある状態、(b)は、イナータ部材が作動位置にある状態を示す図である。 ビスカスカップリングの差回転(VC差回転)と伝達トルク(VCトルク)との関係を示すグラフである。 本発明の第2実施形態にかかるビスカスカップリングを示す側断面図である。 第2実施形態にかかるイナータ部材の動作を説明するための図で、(a)は、イナータ部材が非作動位置にある状態、(b)は、イナータ部材が作動位置にある状態を示す図である。 粘性流体のせん断速度と動粘度との関係を示すグラフである。 ビスカスカップリングの入出力差回転と伝達トルクの関係を示すグラフである。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態にかかるトルク伝達装置を備えた四輪駆動車両の概略構成を示す図である。同図に示す四輪駆動車両1は、車両の前部に横置きに搭載したエンジン(駆動源)3と、エンジン3と一体に設置したトランスミッション(変速機)4と、エンジン3からの駆動力を前輪W1,W2及び後輪W3,W4に伝達するための駆動力伝達経路2とを備えている。
エンジン3の出力軸(図示せず)は、トランスミッション4、フロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」という)5、左右のフロントドライブシャフト6,6を介して、主駆動輪である左右の前輪W1,W2に連結されている。さらに、エンジン3の出力軸は、トランスミッション4、フロントデフ5、プロペラシャフト7、リアデファレンシャル(以下「リアデフ」という)8、左右のリアドライブシャフト9,9を介して副駆動輪である左右の後輪W3,W4に連結されている。なお、以下の説明で軸方向というときは、車両の進行方向(前後方向)に沿って延伸するプロペラシャフト7の軸方向を指すものとする。また、前又は後というときは、当該軸方向の前(車両の前進方向)及び後(後進方向)を指すものとする。
プロペラシャフト7上には、フロントデフ5からリアデフ8への駆動力伝達経路2上に配置したビスカスカップリング(トルク伝達装置)10が設けられている。ビスカスカップリング10は、駆動力伝達経路2において後輪W3,W4に配分するトルクを制御するための回転差応動型のトルク伝達装置である。
図2は、ビスカスカップリング10を示す側断面図である。同図に示すように、ビスカスカップリング10は、前側のプロペラシャフト7a(図1参照)と一体に回転する筒状のハウジング11と、ハウジング11内において該ハウジング11と同一軸線回りで後側のプロペラシャフト7b(図1参照)と一体に回転する出力軸12と、出力軸12の外周に設置したイナータ部材25と、ハウジング11における筒状部11aの内周面に所定間隔で相対回転不能に係合する複数のアウタープレート(第1プレート部材)13と、イナータ部材25の外周面に所定間隔で相対回転不能に係合し、アウタープレート13と軸方向に交互に配置される複数のインナープレート(第2プレート部材)14(14a,14b)と、ハウジング11と出力軸12との間を閉塞するカバー部材15と、ハウジング11とイナータ部材25との間に画成された作動室16とを備える。作動室16内には、シリコーンオイルなどの粘性流体が充填されていると共に、上記複数のアウタープレート13と、複数のインナープレート14とが軸方向に沿って交互に積層されている。
また、ハウジング11における前壁11aの内周面と出力軸12の外周面との間には、それらの隙間をシールするシール部材20が設置されている。また、出力軸12の外周面とカバー部材15の内周面との間には、それらの隙間をシールするシール部材21が設置されている。また、ハウジング11の内周面とカバー部材15の外周面との間には、それらの隙間をシールするシール部材22が設置されている。また、ハウジング11の内周面と出力軸12の外周面との間には、軸受23が介装されている。
イナータ部材25は、出力軸12の外周面にスプライン嵌合する円筒状の部材である。イナータ部材25は、出力軸12の外周面に沿って軸方向にのみ摺動可能(回転方向には相対移動不能)となっている。また、イナータ部材25の前端部の内周面には、内径側へ突出する突起状の爪部25aが形成されている。
また、イナータ部材25とハウジング11の前壁11aとの間には、セットスプリング(付勢手段)28が介在している。セットスプリング28は、出力軸12の軸方向に沿って延伸する弾性金属製のコイルバネであり、イナータ部材25をハウジング11の前壁11a側の位置(以下、この位置を「非作動位置」という。)へ付勢している。そして、車両の加速度又は走行路の登坂勾配が所定以上になると、イナータ部材25に車両の後側への慣性力が作用することで、イナータ部材25がセットスプリング28の付勢力(引張力)に抗して後側の位置(以下、この位置を「作動位置」という。)に向かって移動する。これにより、イナータ部材25の爪部25aを介してインナープレート14に積層方向への押圧力が付与されるように構成している。すなわち、イナータ部材25の爪部25aがインナープレート14の内径端に引っ掛かることで、セットスプリング28による軸方向の荷重がインナープレート14に作用し、インナープレート14とアウタープレート13のクリアランスが狭まる。したがって、ビスカスカップリング10の伝達トルク特性が変化する。
図3は、インナープレート14を示す図で、(a)は、第1インナープレート14aを示す図、(b)は、第2インナープレート14bを示す図である。インナープレート14は、内周の歯部を全て欠歯した第1インナープレート14aと、内周の歯部14cを欠歯していない第2インナープレート14bとを含み、これら第1インナープレート14aと第2インナープレート14bを軸方向に沿って交互に配列している(図2参照)。第2インナープレート14bは、歯部14cによってイナータ部材25の外周面に係合(スプライン係合)しており、第1インナープレート14aは、イナータ部材25の外周面に係合しておらず、イナータ部材25とは分離した状態(相対回転可能な状態)で設置されている。
また、図2に示すように、第1インナープレート14aと第2インナープレート14bとの隙間(軸方向の隙間)には、フリクションリング(摩擦部材)17が設置されている。フリクションリング17は、インナープレート14の内径端またはその近傍に対応する位置に設置されている。フリクションリング17は、第1インナープレート14a及び第2インナープレート14bに対して所定の摩擦力を有する状態で当接している。フリクションリング17は、インナープレート14間の位置決め(軸方向の位置決め)を行う機能も兼ね備えている。
図4は、フリクションリング17の周速度(インナープレート14との差回転)と摩擦係数(摩擦力)との関係を示すグラフである。図4のグラフに示すように、フリクションリング17は、インナープレート14との摩擦係数が、インナープレート14との差回転、すなわちビスカスカップリング10の差動(差回転)に応じて次第に増加する特性に設定されている。したがって、低差回転の領域(図中のA領域)では、フリクションリング17の摩擦係数が小さく、インナープレート14との間でスリップが生じるために、第1インナープレート14aから第2インナープレート14bへの伝達トルク小さくなる。その一方で、高差回転の領域(図中のB領域)では、フリクションリング17の摩擦係数が大きいために、第1インナープレート14aから第2インナープレート14bへの伝達トルクが大きくなる。
そして、上記の摩擦特性を利用して、第1インナープレート14aの粘性流体に対するせん断トルクを第2インナープレート14bに伝達するように構成している。また、既述のように、フリクションリング17は、インナープレート14の内径端の近傍に対応する位置に設置されている。これにより、インナープレート14の周速度(回転速度)の低い領域の摩擦力を有効に利用できるようにしている。
次に、上記構成のビスカスカップリング10の動作について説明する。図1に示すエンジン3から出力されたトルクがトランスミッション4を介してフロントデフ5に伝達される。フロントデフ5に伝達されたトルクの一部は、フロントドライブシャフト6,6を介して前輪W1,W2に伝達され、前輪W1,W2の駆動力により車両が走行する。また、フロントデフ5に伝達されたトルクの一部はプロペラシャフト7に伝達される。プロペラシャフト7に伝達されたトルクは、ビスカスカップリング10のハウジング11に伝達される。
車両1の走行中は、後輪W3,W4から入力されるトルクが、リアデフ8を介して出力軸12に伝達される。そして、ハウジング11の回転数と出力軸12の回転数とが等しい場合は、アウタープレート13の回転数とインナープレート14の回転数が等しく、プロペラシャフト7のトルクは後輪W3,W4に伝達されない。これにより、車両は二輪駆動(前輪駆動)により走行する。
一方、前輪W1,W2がスリップしてハウジング11と出力軸12に差回転が生じた場合は、作動室16内のアウタープレート13とインナープレート14とに差回転が生じ、その差回転に応じて作動室16内の粘性流体にせん断力が発生する。このせん断力により、プロペラシャフト7からハウジング11に伝達されたトルクが出力軸12に伝達されるとともに、リアデフ8を介して後輪W3,W4に伝達される。これにより、車両は四輪駆動状態になる。
図5は、ビスカスカップリング10におけるイナータ部材25の動作を説明するための図で、(a)は、イナータ部材25が非作動位置にある状態、(b)は、イナータ部材25が作動位置にある状態を示す図である。なお、図5には、ビスカスカップリング10のトルク伝達経路を一点鎖線で示している。車両が平地路面(勾配が無いか極めて小さい路面をいう、以下同じ。)を走行している場合や、加速・減速状態以外の場合には、車両の慣性力が所定以下となる通常の走行状態である。このような通常の走行状態では、イナータ部材25に車両の進行方向(前後方向)の慣性力が作用しないか又は作用する慣性力が小さい。そのためこの状態では、図5(a)に示すように、イナータ部材25は、前側の非作動位置にあり、インナープレート14、アウタープレート13及びフリクションリング17に押圧力を付与していない状態である。したがって、インナープレート14とアウタープレート13のクリアランスが狭められていない状態である。
その一方で、車両が勾配路を走行している場合や加速状態の場合には、イナータ部材25に車両の進行方向で後向きの慣性力が作用する。そのため、図5(b)に示すように、イナータ部材25は、セットスプリング28の付勢力(引張力)に抗して後側の作動位置へ移動することで、インナープレート14及びフリクションリング17に押圧力を付与する状態となる。これにより、インナープレート14とアウタープレート13のクリアランスが狭められた状態となる。
図6は、ビスカスカップリング10の差回転(VC差回転)と伝達トルク(VCトルク)との関係を示すグラフである。フリクションリング17の摩擦による拘束力で、ビスカスカップリング10の伝達トルク特性は、図6に示すような拘束力が最少(零)のときの最少トルクラインL1と拘束力が最大のときの最大トルクラインL2との間のトルク特性となる。これにより、従来のビスカスカップリングで発生していた低差回転でのタイトターンブレーキング現象を回避しながらも、雪上登坂に必要なトルクを確保することが可能となる。
このトルク特性は、フリクションリング17の作用により可能となる。すなわち、低差回転では、アウタープレート13から回転が入力して、粘性流体の抵抗(粘性抵抗)で第1インナープレート14aが回転するが、図4に示すように、低差回転領域での摩擦力は極めて小さいため、第1インナープレート14aから第2インナープレート14bへのトルク伝達量が僅かな量に制限される。これにより、ビスカスカップリング10の伝達トルクは、最大発生トルクの約半分程度となる。
その一方で、高差回転ではフリクションリング17の摩擦力が十分に高まり、第1インナープレート14aから第2インナープレート14bへのトルク伝達量が増加する。これにより、ビスカスカップリング10の伝達トルク特性が最大トルクラインL2に近づく。さらに、イナータ部材25が作用してフリクションリング17への押付力が変化することで、フリクションリング17の摩擦力を可変することができる。そのため、車両の走行状況により、ビスカスカップリング10の伝達トルクが図6に示す最少トルクラインL1と最大トルクラインL2との間を変化しながらの走行が可能となる。
以下、車両の走行路の状況におけるイナータ部材25の作動条件について説明する。
(1)乾燥路及び雪上での走行時
乾燥路及び雪上での通常走行時には、車両の加速度が低く傾斜角も小さいため、ビスカスカップリング10の伝達トルク特性は、ベーストルク特性LB(図6参照)となる。一方、乾燥路及び雪上での登坂走行時及び急加速時は、イナータ部材25にかかる慣性力でイナータ部材25が作動位置へ移動することで、ビスカスカップリング10の伝達トルクが上昇し、前輪W1,W2と後輪W3,W4のトルク配分の最適化が図られることで、車両の走破性の確保が可能である。
(2)前後スプリットμ路での発進時
前後スプリットμ路(前輪W1,W2が踏む路面の摩擦係数が後輪W3,W4が踏む路面の摩擦係数よりも小さい路面をいう。)での発進時、特に、前輪W1、W2が低μ(低摩擦係数)路面にあるときの急発進では、ビスカスカップリング10に最も高い差動回転が入力して発生トルクが過大となる。しかしながら、車両の前後加速度が小さいため、イナータ部材25にかかる慣性力は小さい。そのため、ビスカスカップリング10の伝達トルクは、最大トルクラインL2(図6参照)には至らず、過大トルクの発生を抑制できる。したがって、リアデフ8の保障強度を下げることができる。
(3)低μ路でのブレーキング時
低μ路(比較的に低摩擦係数の路面をいう。)での走行中のブレーキング時には、前輪W1,W2の回転数の大幅な低下(落ち込み)による減速トルクが大きくなる。そして、従来のビスカスカップリングでは、後輪W3、W4の回転数が前輪W1,W2の回転数に同期して落ち込むことでカスケードロックを誘発する可能性が高い。これに対して、本実施形態のビスカスカップリング10では、イナータ部材25の減速側の慣性力がセットスプリング28の荷重(セット荷重)に対抗するように作用するため、プレート13,14への押付力が低減してベーストルク特性LBに対して更にトルク低減が可能となり、前後輪の締結力を弱めることができる。これにより、カスケードロックを防止でき、ABS制御干渉も抑制することが可能となる。
(4)タイトターンブレーキング時
従来のビスカスカップリングを備えた四輪駆動車両では、転舵時の前後車輪旋回半径差で前後差回転が発生するため、副駆動輪の駆動トルク(4WDトルク)で車両が引き摺られるタイトターンブレーキング現象が起こる。このタイトターンブレーキング現象は、アクセルオフの際などに減速感を顕著に伴う事象である。これに対して、本実施形態のビスカスカップリング10を備えた四輪駆動車両では、図6に示すように、低差回転ではフリクションリング17の摩擦力は僅かであるため、最少トルクラインL1の近傍まで伝達トルクが低減する。これにより、車両の引き摺りトルクを抑制することができ、良好な走行感覚を得ることができる。また、転舵初期に引き摺りトルクによる減速加速度が発生したとしても、イナータ部材25の作用により発生トルクが低減するため、瞬時に減速加速度の緩和が可能となる。
以上説明したように、本実施形態の四輪駆動車両が備えるビスカスカップリング10では、車両の加速度や傾斜角に応じた前後方向の慣性力がイナータ部材25に作用することで、イナータ部材25の移動によってビスカスカップリング10のアウタープレート13とインナープレート14のクリアランスを変化させることができる。したがって、ビスカスカップリング10の伝達トルク特性を可変させることができる。これにより、例えば、登坂路の走行など後輪(副駆動輪)W3,W4の駆動力を必要とする状況において、ビスカスカップリング10の伝達トルクを一時的に上昇させることが可能である。したがって、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、かつ電子制御や手動操作などを行うことなく、車両の走行状態に応じた後輪(副駆動輪)W3,W4への適切なトルク伝達が可能となる。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる四輪駆動車両のトルク伝達装置について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項、及び図示する以外の事項については、第1実施形態と同じである。
図7は、本発明の第2実施形態にかかるビスカスカップリング10−2を示す側断面図である。本実施形態のビスカスカップリング10−2では、すべてのインナープレート14−2がイナータ部材25−2の外周面にスプライン係合している。そして、インナープレート14−2の外径端にセットリング18を係合させている。セットリング18は、断面が略円形のリング状の部材であって、その幅方向の両側にアウタープレート13−2を当接させている。これにより、インナープレート14−2とアウタープレート13−2の外径側のクリアランスを一定(均一)に保つように構成している。
インナープレート14−2とイナータ部材25−2、及びイナータ部材25−2とインナーシャフト12は、スプライン係合している。これにより、インナープレート14−2とイナータ部材25−2、及びイナータ部材25−2とインナーシャフト12は、軸方向にのみ相対移動可能である。したがって、イナータ部材25−2の軸方向の摺動時にも回転方向のトルク伝達を可能としている。また、イナータ部材25−2の後端部とカバー部材15との間には、リターンスプリング(付勢部材)28−2が介在している。
図8は、ビスカスカップリング10−2におけるイナータ部材25−2の動作を説明するための図で、(a)は、イナータ部材25−2が非作動位置にある状態、(b)は、イナータ部材25−2が作動位置にある状態を示す図である。車両の慣性力が所定以下となる通常の走行状態では、イナータ部材25−2に車両の進行方向(前後方向)の慣性力が作用しないか又は作用する慣性力が小さい。そのため、この状態では、図8(a)に示すように、イナータ部材25−2は、セットスプリング28−2の付勢力(押圧力)で前側の非作動位置にあり、インナープレート14−2及びアウタープレート13−2の内径側のクリアランスが狭められていない状態である。
その一方で、車両が勾配路を走行している場合や加速状態の場合には、イナータ部材25−2に車両の進行方向で後向きの慣性力が作用する。そのため、図8(b)に示すように、イナータ部材25−2は、セットスプリング28−2の付勢力(押圧力)に抗して後側の作動位置へ移動することで、インナープレート14−2の内径側が車両の後側へ移動する。また、イナータ部材25−2の爪部25−2aがアウタープレート13−2の内径端に係合する。これらによって、アウタープレート13−2とインナープレート14−2の内径側のクリアランスが狭められた状態となる。
次に、ビスカスカップリング10−2が伝達するトルク特性について説明する。図9は、作動室16に充填するシリコーンオイル(粘性流体)のせん断速度と動粘度との関係を示す図である。また、図10は、ビスカスカップリング10−2の入出力差回転と伝達トルクの関係を示すグラフである。図9に示すように、作動室16に封入する粘性流体にシリコーンオイルを使用したビスカスカップリングでは、シリコーンオイルのせん断速度による動粘度が非ニュートン粘性のため、ビスカスカップリングの差回転に対する出力トルクの特性が線形にならないことで知られている。これは、静粘度が高いシリコーンオイル程、差回転に対する動粘度が低下し、合わせてトルク上昇も小さくなる現象である。すなわち、図9のグラフに示すように、静粘度(せん断速度0での動粘度)が高いシリコーンオイルの特性(一点鎖線で示す特性)では、せん断速度が高くなるにつれて動粘度が低下する傾向を有する。これに対して、静粘度(せん断速度0での動粘度)が低いシリコーンオイルの特性(実線で示す特性)では、せん断速度が変化しても動粘度がほぼ一定の傾向を有している。
なお、ビスカスカップリングの入力差回転に対する発生トルクを線形に近づける手法として、低粘度オイルに対してプレート枚数の増加で出力トルクを確保する手法が挙げられる。しかしながら、その手法では、ビスカスカップリングの重量増加及びユニットサイズの拡大などを招いてしまう。
そこで、本実施形態のビスカスカップリング10−2では、せん断速度の速いプレート13−2,14−2の外径側のクリアランスをより大きな寸法に設定することで、速度勾配の増加を抑制する一方、せん断速度の低いプレート13−2,14−2の内径側のクリアランスはより小さな寸法に設定することで、速度勾配を高めて高トルクを発生するように構成している。これにより、動粘度の良好な特性領域を使用することで、線型性のトルク特性、かつ高トルク特性(同じ作動室16の容積で比較した場合により高いトルク特性)を得ることができる。よって、粘性流体として高粘度の作動油を用いてビスカスカップリング10−2の小型化・軽量化を図る場合でも、ニュートン粘性領域を使用可能となる。また、プレート13−2,14−2の内径側のクリアランスを外径側のクリアランスと同等の寸法に設定した場合は、内径側のプレート13,14間の速度勾配が低下することで、全差動域のトルクを低減できる。そのため、定常使用での走行抵抗低減やタイトターンブレーキ現象の抑制が可能となる。
イナータ部材25−2は、加速度や傾斜角による慣性力が作用して、当該慣性力がセットスプリング28−2の荷重(セット荷重)を超えた場合に作動位置へ移動する。これにより、各プレート13−2,14−2の内径側のクリアランスを変化させ、ビスカスカップリング10の伝達トルクを可変することが可能となる。一方、イナータ部材25−2がセットスプリング28−2の作用で元の位置(非作動位置)へ復帰した後は、粘性流体の流動でプレート13−2,14−2間のクリアランスは均一化されるため、ビスカスカップリング10−2の伝達トルク特性は定常時のトルク特性に戻る。
つまり、図10に示すように、登坂など後輪(副駆動輪)W3,W4の駆動力を必要とする走行状況にて、ビスカスカップリング10−2の伝達トルク特性を定常時のトルク特性S1からイナータ部材25−2の作動時のトルク特性S2へ向けて一時的に上げることが可能となる。その後、定常状態や平坦路での走行になった場合には、イナータ部材25−2にかかる加速側の慣性力による軸方向の力が弱まるため、リターンスプリング28による復元力、もしくは減速側の加速度による慣性力でイナータ部材25−2が非作動位置へ押し戻される。これにより、ビスカスカップリング10−2の伝達トルク特性も定常状態となる。
次に、走行路の状態に応じたイナータ部材の作動条件について説明する。
(1)乾燥路及び雪上での走行時
乾燥路及び雪上での通常走行時には、加速度が低く傾斜角も小さいため、ビスカスカップリング10−2の伝達トルク特性は、定常時のトルク特性S1となる。一方、乾燥路及び雪上での登坂走行時及び急加速時は、イナータ部材25−2にかかる慣性力による作用でイナータ部材25−2が作動位置へ移動することで、ビスカスカップリング10−2の伝達トルクが作動時のトルク特性S2に向けて上昇する。これにより、前輪W1,W2と後輪W3,W4のトルク配分の最適化が図られることで、車両の走破性の確保が可能である。
(2)前後スプリットμ路での発進時
駆動輪が低μ路面にある状態での急発進では、ビスカスカップリング10に高い差回転が入力されて発生トルクが過大となる。しかしながら、前後加速度が小さくイナータ部材25−2は作動位置へ移動しないため、ビスカスカップリング10の伝達トルク特性は、定常時のトルク特性S1のままである。したがって、過大トルク発生を抑制でき、リアデフ8の保障強度を下げることができる。
(3)低μ路でのブレーキング時
低μ路面でのブレーキング時には、イナータ部材25−2の慣性力が減速側差動に抵抗するよう作用するため、定常時のトルク特性S1に対して更に減速トルクの低減が可能となる。これにより、カスケードロックを防止できる。また、減速側の加速度によりイナータ部材25−2が非作動位置へ復帰するため、車両の加速中であっても瞬時に定常時のトルク特性S1への低減が可能である。
(4)タイトターンブレーキング時
低μ路での走行中のブレーキング時には、車量の減速に対してイナータ部材25−2の慣性力(回転方向の慣性力)が作用することで、イナータ部材25−2が回転を継続しようとする。そのため、車両の減速加速度の緩和が可能となる。また、ブレーキング時と同様に、ビスカスカップリングのトルク特性は定常時のトルク特性S1の状態である。そのため、後輪W3,W4の引き摺りトルクを低減できる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、本発明にかかるトルク伝達装置が備えるイナータ部材は、車両の加速度や傾斜角又は回転軸の回転速度の変化に応じてトルク伝達装置のトルク特性を変化させることが可能な構成であれば、その具体的な形状等は、上記実施形態に示すものには限定されず、他の形状等であってもよい。
また、ビスカスカップリング10(10−2)の伝達トルク特性を一定にするのであれば、必ずしも上記実施形態に示したように車両の慣性力に応じてイナータ部材25(25−2)が前後方向へ移動する構成を採用する必要は無く、セットスプリング28(28−2)の付勢力によってイナータ部材25(25−2)を一定荷重でセットするのみでよい。
1 車両
2 駆動力伝達経路
3 エンジン
4 トランスミッション
5 フロントデフ
6,6 フロントドライブシャフト
7 プロペラシャフト(回転軸)
8 リアデフ
9,9 リアドライブシャフト
10 ビスカスカップリング(トルク伝達装置)
11 ハウジング
12 出力軸
13 アウタープレート
14 インナープレート
14a 第1インナープレート
14b 第2インナープレート
14c 歯部
15 カバー部材
16 作動室
17 フリクションリング(摩擦部材)
18 セットリング
25 イナータ部材
25a 爪部
28 セットスプリング(付勢手段)
W1,W2 前輪(主駆動輪)
W3,W4 後輪(副駆動輪)

Claims (3)

  1. 駆動源からの駆動力を主駆動輪及び副駆動輪に伝達する駆動力伝達経路における前記駆動源と前記副駆動輪との間に配置されたトルク伝達装置であって、
    前記駆動源と前記副駆動輪との間に設けた回転軸の前記駆動源側に接続されたハウジングと、
    前記回転軸の前記副駆動輪側に接続された出力軸と、
    前記出力軸の外周側で軸方向にのみ相対移動可能に設置された慣性質量を有するイナータ部材と、
    前記ハウジングと前記イナータ部材との間に画成した粘性流体を充填してなる作動室と、
    前記イナータ部材を付勢する付勢手段と、を備え、
    前記ハウジングに結合された複数のアウタープレートと前記イナータ部材に結合された複数のインナープレートを前記作動室内で前記回転軸の軸方向に沿って交互に配列した構成であり、
    車両の加速度又は走行路の登坂勾配が所定以上になると、前記イナータ部材が前記付勢手段の付勢力に抗して車両の後側の作動位置へ移動して、前記アウタープレートと前記インナープレートに積層方向への押圧力を付与することで、前記アウタープレートと前記インナープレートとのクリアランスが変化して、伝達トルク特性が変化するように構成した
    ことを特徴とする四輪駆動車両のトルク伝達装置。
  2. 前記複数のインナープレートは、前記イナータ部材に係合しない第1インナープレートと、前記イナータ部材に係合する第2インナープレートとが交互に積層されており、
    前記第1インナープレートと前記第2インナープレートとの間には、前記第1インナープレートと前記第2インナープレートを所定の摩擦力で摺接させる摩擦部材が介在しており、
    前記第1インナープレートと前記第2インナープレートの差回転が大きくなる程、前記摩擦部材の摩擦力が大きくなるように設定されている
    ことを特徴とする請求項1に記載の四輪駆動車両のトルク伝達装置。
  3. 前記摩擦部材は、前記第1インナープレートと前記第2インナープレートの内径側の端部又はその近傍に設置された環状の部材である
    ことを特徴とする請求項2に記載の四輪駆動車両のトルク伝達装置。
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