JP5863227B2 - 光学部品用ガラス部材、光学部品の製造方法及び光学部品用ガラス組成物 - Google Patents

光学部品用ガラス部材、光学部品の製造方法及び光学部品用ガラス組成物 Download PDF

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Description

本発明は、光学部品用ガラス部材、光学部品の製造方法及び光学部品用ガラス組成物に関する。
超短パルスレーザー、特にパルス幅がフェムト秒レベルのレーザー光は、そのピークパワーの強さから、多光子吸収過程を用いてガラス等の透明材料の内部を3次元的に加工できることが知られている。より具体的には、レーザー光の集光照射によってガラスの内部に高屈折率領域を形成し、光導波路を立体的に構成する方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、ガラスと高屈折率領域との間でより大きな屈折率差を得るために、化合物半導体を分散させた母ガラスの内部に超短パルスレーザー光を照射する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法では、超短パルスレーザー光によって化合物半導体の微結晶をガラスの内部に析出及び成長することで、高屈折率域を有する光導波路やフォトニック結晶構造を形成している。
また、ガラスの内部に屈折率が低下した部分となる空洞を形成し、この空洞とレーザー非照射部分との屈折率差を利用した光学部品が提案されている(非特許文献1参照)。例えば、Geが10%ドープされたシリカガラスの内部に空洞を面心立方格子構造状に積層させた3次元フォトニック結晶構造が知られている。
特開平9−311237号公報 特開2005−321421号公報
M.Watanabe、S.Juodkazis、H−B.Sun、S.Matsuo、H.Misawa、「Transmission and photoluminescence image of three−dimensional memory in vitreous silica」、Applied Physics Letters、1999年、第74巻、第26号、p.3957−3959
しかし、上記従来技術においては、主にシリカガラス等のSiO成分を大量に含有するガラスを利用している。そのようなガラスは、屈折率や分散を変調するような修飾酸化物成分を含まないか、又は少量しか含まないので、光学部品として使用する際、必要となるガラスの光学特性をコントロールすることが難しく、用途が大幅に限定されてしまう。シリカガラス以外では、より大きな屈折率差を得るために屈折率の高い半導体の微粒子をガラス中に析出させる手法があるが、半導体の成分として、母ガラスにカドミウム、セレン、鉛等の環境負荷が高い成分を含有させる必要があるという課題があった。空洞を利用する場合は、波長サイズ程度の空洞であれば高い屈折率差を得られることが期待できるが、空洞の形状やサイズの制御は非常に困難である。
また、ガラスに対してレーザー加工を行って光学部品に屈折率差を生じるためには、所定以上のレーザー照射の強度を確保する必要があり、物理的な空洞や微小亀裂等、意図しない欠陥を生成する可能性が高く、製造工程において歩留まりを悪くするという問題があった。
このため、より低照射強度で大きな屈折率差が得られるガラス組成が求められていた。特に、現在知られている多成分系光学ガラスにおいては、統一的な集光照射条件及び屈折率測定方法での評価が不十分であり、特定の集光照射条件において、どのガラスで屈折率差が大きくなり易く、安定的に加工できるかは検討されていない。また、屈折率の値のみを知ることができても、実際のデバイス設計においては、母材に対して、屈折率がプラスであるか、マイナスであるかをその分布も含めて知ることが必要である。
屈折率差がプラス又はマイナス方向であるかは、透過型の光学デバイスの使用時には大きな影響を与えるものではないが、屈折率差の値、符号、及び分布が分かるガラス組成を適宜選択することにより、光学部品の設計や部品の組み合わせの自由度が高くなる。
従って、本発明は、母ガラスにカドミウム、セレン、鉛等の環境負荷が高い成分を含有させることなく、光学部品への利用に好適な光学部品用ガラス組成物と、それを用いた光学部品用ガラス部材及び光学部品の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、レーザー加工時の集光照射出力を低減させても、所定の光学性能を得られるレーザー加工法及びガラス材料の組み合わせを提供することを課題とする。
本発明者らは、P成分を必須成分として含有するガラスにおいて、Nb成分及びTiO成分の少なくともいずれかを必須成分としてさらに含有することで、パルスレーザー光の吸収効率が高められることを見出した。また、光学部品への利用に好適な多成分ガラス材料を得るための物性上の要件が、パルスレーザー光によりガラス内部に2次元的又は3次元的に形成された異質相における屈折率の変化量にあることを見出し、Nb成分及びTiO成分の少なくともいずれかを含有することで、この異質相における屈折率の変化量が大きくなることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
(1) 内部に屈折率が異なることにより区分される異質相領域を有する光学部品用ガラス部材であって、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP成分を5.0〜60.0%含有し、Nb成分及びTiO成分の少なくともいずれかを必須成分としてさらに含有する光学部品用ガラス部材。
(2) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Nb成分 5.0〜60.0%及び
TiO成分 1.0〜50.0%
の少なくともいずれかを含有する(1)記載の光学部品用ガラス部材。
(3) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
SiO成分 0〜30.0%及び/又は
Al成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)又は(2)記載の光学部品用ガラス部材。
(4) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiOの含有量が20%未満である(3)記載の光学部品用ガラス部材。
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜10.0%及び/又は
CaO成分 0〜20.0%及び/又は
SrO成分 0〜20.0%及び/又は
BaO成分 0〜50.0%及び/又は
ZnO成分 0〜40.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(4)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の含有率が55.0%以下である(5)記載の光学部品用ガラス部材。
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の含有率が35.0%以下である(5)記載の光学部品用ガラス部材。
(8) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜5.0%及び/又は
NaO成分 0〜15.0%及び/又は
O成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(7)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
(9) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率が、合計で20.0%以下である(8)記載の光学部品用ガラス部材。
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分及びRnO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率が、合計で40.0%以下である(5)から(9)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
(11) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜20.0%及び/又は
Ta成分 0〜10.0%及び/又は
WO成分 0〜10.0%及び/又は
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
ZrO成分 0〜5.0%及び/又は
La成分 0〜20.0%及び/又は
Gd成分 0〜10.0%及び/又は
成分 0〜10.0%及び/又は
SnO成分 0〜10.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(10)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
(12) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、F成分を実質的に含有しない(1から(11)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
(13) 前記光学部品用ガラス部材の母材ガラスと前記異質相領域との波長632.8nmの光に対する屈折率差Δnの絶対値|Δn|が0.005以上である(1)から(12)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材(但し、異質相が空洞である場合は除く)。
(14) 前記異質相領域は、パルスレーザーを集光照射することにより形成されたものである(1)から(13)のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
(15) 前記パルスレーザーが、以下の条件(a)から(d)を満たすレーザービームである(14)記載の光学部品用ガラス部材。
(a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒
(b)繰り返し周波数:10Hz〜100MHz
(c)焦点位置でのピークパワー密度:3TW/cm〜400TW/cm
(d)走査機構によって走査される焦点の走査速度が10μm/秒〜10mm/秒
(16) 前記異質相領域は、二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成されている(1)から(15)のいずれかに記載の光学部品用ガラス部材。
(17) 光学的ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイより選択される光学部品として用いられる(1)から(16)のいずれかに記載の光学部品用ガラス部材。
(18) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP成分を5〜60%含有し、Nb成分及び/又はTiO成分を必須成分として含有するガラス組成物を用い、パルスレーザーを集光照射して、ガラスの内部に屈折率差が異なることにより区分される異質相領域を形成する工程を備えた光学部品の製造方法。
(19) 前記パルスレーザーが、以下の条件(a)から(d)を満たすレーザービームである(18)記載の光学部品用ガラス部材の製造方法。
(a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒
(b)繰り返し周波数:10Hz〜100MHz
(c)焦点位置でのピークパワー密度:3TW/cm〜400TW/cm
(d)走査機構によって走査される焦点の走査速度:10mm/秒以下
(20) パルスレーザーを集光照射して、ガラス内部の所望の位置に屈折率差が異なることにより区分される異質相領域が形成される光学部品を製造するためのガラス組成物であって、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP成分を5〜60%含有し、Nb成分及び/又はTiO成分を必須成分として含有する光学部品用ガラス組成物。
本発明によれば、P成分を必須成分として含有するガラスにおいて、Nb成分及びTiO成分の少なくともいずれかを必須成分としてさらに含有することで、パルスレーザー光の吸収効率が高められ、ガラスの加工効率が高められる。それとともに、これにより、パルスレーザー光によりガラス内部に2次元的又は3次元的に形成された異質相における屈折率の変化量が大きくなる。そのため、光学的ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイ等の光学部品に好適な光学部品用ガラス部材及び光学部品用ガラス組成物を提供できる。
本発明の一実施形態に係る、ガラス内部に異質相を生成する方法を例示する図である。 本発明の一実施形態に係る、ガラス内部に生成した異質相の観察及び屈折率評価条件を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、異質相の屈折率を評価するための定量位相顕微鏡の構成を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、母材中の異質相の屈折率差の計測例を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材をレンズとして使用した概念図である。 本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材を回折格子として使用した概念図である。
次に本発明のガラス組成物において、各成分の組成範囲を前記のとおり限定した理由を説明する。なお、本明細書中においては、以下においてあえて明示がない場合、各成分の含有率は質量%にて表されるものとする。またnはd線(波長=587.6nm)での屈折率であり、νはアッベ数である。
本発明の光学部品用ガラス部材は、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP成分を5.0〜60.0%含有し、Nb成分及びTiO成分の少なくともいずれかを必須成分としてさらに含有する光学部品用ガラス組成物からなる。これにより、パルスレーザー光の吸収効率が高められながらも、パルスレーザー光によりガラス内部に2次元的又は3次元的に形成された異質相における屈折率の変化量が大きくなる。そのため、光学的ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイ等の光学部品に好適な光学部品用ガラス部材及び光学部品用ガラス組成物を提供できる。
また、光学部品の製造方法は、上述の光学部品用ガラス組成物を用い、パルスレーザーを集光照射して、前記ガラスの内部に屈折率差が異なることにより区分される異質相領域を形成する工程を備える。
以下、本発明の実施形態の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
[光学部品用ガラス組成物]
本発明の光学部品用ガラス組成物を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス形成成分であり、ガラスの溶解温度を下げ、ガラスに高分散性及び高透過率を付与する成分である。また、リン酸塩ガラスは、ケイ酸塩ガラスやホウ酸塩ガラス等に比べて熔融性が優れており、プレス時における耐失透性も優れているという点で、本発明の光学部品用ガラス部材に有用である。特に、P成分の含有率を5.0%以上にすることで、レーザー照射により形成される異質相の屈折率に影響を及ぼす他の修飾酸化物を含有させても、耐失透性の高い安定なガラスを形成できる。一方、P成分の含有率を60.0%以下にすることで、レーザーを用いて切断すべきガラスの網目構造が低減されるため、異質相の形成に要するレーザーの出力を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するP成分の含有率は、好ましくは5.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは20.0%を下限とし、好ましくは60.0%、より好ましくは52.0%、最も好ましくは45.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有できる。
Nb成分及びTiO成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分である。Nb及びTiO2成分は、ガラスに含有させることで、可視光領域の光に対する透過率が維持されたまま、400nm以下の波長の光に対して吸収を示すようになる。そのため、より低いレーザーパワーで多光子吸収を引き起こすことができ、ガラスの加工効率を高めることができる。また、特にリン酸塩ガラスの内部では、ガラスの屈折率とパルスレーザー光の照射によって形成される異質相との屈折率差Δnを大きくするのに効果的な成分である。従って、本発明の光学部品用ガラス部材においては、これらのうち少なくともいずれか1つを必須成分として含有させることが好ましい。これにより、パルスレーザー光の吸収効率が高められながらも、ガラスの屈折率と、パルスレーザー光の照射によって形成される異質相の屈折率と、の屈折率差Δnが大きくなる。そのため、光学部品としての利用に好適なガラスを得ることができる。
Nb成分を含有する場合、上述の屈折率差Δnを大きくし易くするための酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率の下限は、好ましくは5.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは25.0%である。一方、Nb成分の含有率は、60.0%以下にすることが好ましい。Nb成分の含有率が60.0%を超えると、ガラスの液相温度が上昇し、ガラスが失透し易くなる。また、Nb成分の含有率が60.0%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなるとともに、可視光に対する透明度が低下する。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは60.0%、より好ましくは55.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有できる。
TiO成分を含有する場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは5.0%を下限とする。TiO成分の含有率が1.0%未満であると、上述の屈折率差Δnを大きくすることは困難な場合がある。一方、TiO成分の含有率が50.0%を超えると、ガラスの耐失透性が低下し、ガラスを安定に得ることが難しくなる。また、可視光領域のガラスの透明性の観点からも、その上限を50.0%とすることが好ましい。これにより、ガラスの可視光に対する透明性が高められるため、可視光に対して好適な光学部品を作製できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、最も好ましくは35.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有できる。
本発明の光学部品用ガラス組成物では、Nb成分及びTiO成分のいずれかを必須成分として含有してもよいが、両成分を同時に含有してもよい。Nb成分及びTiO成分は、それぞれ単独に含有しても効果を奏するが、Nb成分及びTiO成分を共存させると、より安定なガラスを得ることができ、ガラスの耐失透性をより高めることができる。しかし、両成分の合量が5.0%より少ないと、屈折率差を大きくとるために非常に大きなレーザーエネルギーを必要とするか、もしくは屈折率差が大きくならない。そのため、両成分の合量は、好ましくは5.0%、さらに好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは25.0%を下限とする。一方、前記合量が75.0%より多いと、液相温度の上昇、耐失透性の悪化、ガラスの不安定化等の問題がある。そのため、両成分の合量は、好ましくは75.0%、より好ましくは65.0%、最も好ましくは61.0%を上限とする。
SiO成分は、着色を低減して短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、安定なガラス形成を促してガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、SiO成分の含有率を30.0%以下にすることで、より大きな屈折率差を得ることができる。また、レーザーを用いて切断すべきガラスの網目構造が低減されるため、異質相の形成に要するレーザーの出力を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは30.0%を上限とし、より好ましくは20.0%未満とし、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、SiO成分は含有しなくとも所望の特性を備えたガラス組成物を得ることができるが、SiO成分を0.1%以上含有することで、異質相の屈折率に影響を及ぼす修飾酸化物を含有させても、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%、最も好ましくは0.5%を下限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有できる。
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を向上し、ガラス溶融時の粘度を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、Al成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの溶融性を高めつつ、ガラスの失透傾向を弱めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有できる。
MgO成分は、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、MgO成分の含有率を10.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス内に含有できる。
CaO成分は、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、CaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くし、耐失透性や化学的耐久性の低下を抑えることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有できる。
SrO成分は、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有率を20.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くし、耐失透性や化学的耐久性の低下を抑えることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有できる。
BaO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、BaO成分の含有率を50.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率を得易くし、耐失透性の低下を抑えて、耐酸性をはじめとした化学的耐久性の低下を抑えることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。ここで、特に分散の大きい(アッベ数が40以下)ガラスが得られる点では、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは25.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは7.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラス内に含有できる。
ZnO成分は、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有率を40.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有できる。
本発明のガラス組成物では、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有率が、合計で55.0%以下であることが好ましい。これにより、RO成分による屈折率及び分散の低下が抑えられ、一方で、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の含有率は、合計で好ましくは55.0%、より好ましくは45.0%、最も好ましくは35.0%を上限とする。
LiO成分は、ガラスの溶解温度を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、LiO成分の含有率を5.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率を得易くすることができ、ガラスの液相温度を低くして失透等の発生を低減できる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有できる。
NaO成分は、ガラスの溶解温度を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、NaO成分の含有率を15.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率を得易くすることができ、ガラスの液相温度を低くして失透等の発生を低減できる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、NaO成分は含有しなくとも所望の特性を備えたガラス組成物を得ることができるが、NaO成分を0.1%以上含有することで、ガラスの液相温度が高められるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有できる。
O成分は、ガラスの溶解温度を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、KO成分の含有率を10.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率を得易くすることができ、ガラスの液相温度を低くして失透等の発生を低減できる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは9.5%、最も好ましくは9.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有できる。
本発明のガラス組成物では、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率が、合計で20.0%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの屈折率の低下が抑えられる一方で、より多量のNb成分及び又はTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。また、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの耐失透性を高めることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の含有率の合計は、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、最も好ましくは17.0%を上限とする。なお、RnO成分はいずれも含有しなくとも所望の特性を備えたガラス組成物を得ることができるが、RnO成分の少なくともいずれかを0.1%以上含有することで、P成分等により形成されるガラスの網目構造が一部で切断されるため、異質相の形成に要するレーザーの出力を低減できる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRnO成分の含有率の合計は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。
特に、本発明のガラス組成物では、(RO+RnO)の含有率が、0.1%以上40.0%以下であることが好ましい。これにより、より多量のNb成分及びTiO成分をガラス中に含有できるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分及びRnO成分の含有率の合計は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは3.0%を下限とし、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。
成分は、安定なガラスの形成を促し、耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、B成分の含有率を20.0%以下にすることで、より多量のNb成分及び/又はTiO成分をガラス中に含有できるため、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは7.0%を上限とする。なお、B成分は含有しなくとも所望の特性を備えたガラス組成物を得ることができるが、B成分を0.1%以上含有することで、ガラスの液相温度が高められるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全物質量に対するB成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%、最も好ましくは0.5%を下限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有できる。
Ta成分は、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、Ta成分の含有率を10.0%以下にすることで、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、高い屈折率を維持したまま、ガラスを失透し難くすることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有できる。
WO成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラスの分散を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、WO成分の含有率を10.0%以下にすることで、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、高い屈折率を維持したまま、ガラスの耐失透性を高めるとともに、短波長の可視光に対するガラスの透過率の低下を抑えることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは9.0%、最も好ましくは8.5%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有できる。
Bi成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラスの分散を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、Bi成分の含有率を40.0%以下にすることで、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、高い屈折率を維持したまま、ガラスの安定性を高めて耐失透性の低下を抑えることができ、ガラスの透過率の低下を抑えることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有率は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。
ZrO成分は、着色を低減して短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、安定なガラス形成を促してガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有率を5.0%以下にすることで、ZrO成分による屈折率の低下が抑えられ、所望の高屈折率を得易くすることができる。また、Nb成分及び又はTiO成分を多量に含有させることができ、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有できる。
La成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、La成分の含有率を20.0%以下にすることで、所望の高分散を得易くすることができ、ガラスの耐失透性を高めることができる。また、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いてガラス内に含有できる。
Gd成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、Gd成分の含有率を10.0%以下にすることで、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、所望の高分散を得易くすることができ、ガラスの耐失透性を高めることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いてガラス内に含有できる。
成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明のガラス組成物中の任意成分である。特に、Y成分の含有率を10.0%以下にすることで、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、所望の高分散を得易くすることができ、ガラスの耐失透性を高めることができる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Y成分は、原料として例えばY、YF等を用いてガラス内に含有できる。
本発明のガラス組成物では、Ln成分(式中、LnはY、La、Gdからなる群より選択される1種以上)の含有率の合計が、20.0%以下であることが好ましい。これら成分の含有率を20.0%以下にすることで、Ln成分によるアッベ数の上昇が抑えられる。また、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、所望の高分散を得易くしつつ、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
SnO成分は、ガラス転移点(Tg)を低くし、光学恒数を調整する成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、SnO成分の含有量を10.0%以下にすることで、Nb成分及び/又はTiO成分を多量に含有させることができ、高い屈折率を維持したまま、ガラスの透過率及び耐失透性を低下し難くできる。また、ガラスの屈折率と異質相の屈折率との間における屈折率差をより大きくできる。従って、酸化物基準の全質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラス体内に含有することができる。
Sb成分は、短波長の可視光に対するガラスの透過率を高める成分であるとともに、ガラスを溶融する際に脱泡効果を有する、本発明のガラス中の任意成分である。特に、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くなり、金型に付着する不純物が低減されるため、ガラス成形体の表面への凹凸や曇りの形成を低減できる。従って、酸化物基準の全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤、又はそれらの組み合わせを用いることができる。
<含有させるべきでない成分について>
次に、本発明のガラス組成物に含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
また、Ti、Zr、Nb、Wを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でも材料自体が着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。そのため、可視の波長域において本発明の光学部品を用いる場合には、実質的に含まないことが好ましい。
さらに、Be、Pb、Th、Cd、Tl、As、Os、S、Se、Br、Cl、I等の各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされるため、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含まないことが好ましい。
さらに、F成分は、ガラスの屈折率や分散を調整する成分であるが、レーザー照射による屈折率差を小さくする成分である。従って、本発明のガラス部材では、F成分は実質的に含有しないことが好ましい。
<製造方法>
本発明のガラス組成物は、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000〜1300℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
<物性>
本発明の光学部品用ガラス組成物は、高い屈折率(n)を有するとともに、高い分散性、すなわち小さいアッベ数(ν)を有することが好ましい。特に、本発明の光学部品用ガラス組成物の屈折率(n)は、好ましくは1.65、より好ましくは1.70、最も好ましくは1.73を下限とし、好ましくは2.40、より好ましくは2.30、最も好ましくは2.20を上限とする。また、本発明の光学部品用ガラス組成物のアッベ数(ν)は、好ましくは45、より好ましくは35、最も好ましくは30を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに光学部品の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。なお、本発明の光学部品用ガラス組成物のアッベ数(ν)の下限は特に限定しないが、本発明によって得られる光学部品用ガラス組成物のアッベ数(ν)は、概ね10.0以上、具体的には12.5以上、さらに具体的には15.0以上であることが多い。
また、本発明の光学部品用ガラス組成物は、特に可視光領域(400nmを超え且つ760nm以下の領域)の波長の光に対する光学部品用途を目的とする場合、可視光領域の波長の光を透過することが好ましい。一方で、中心波長が800nmのパルスレーザー光を集光照射する場合、250nm以上400nm以下の波長の光、例えば400nmの波長の光に対して吸収を有することが好ましい。これにより、パルスレーザー光の波長の2倍のエネルギーに相当する2個分の光子で励起する二光子吸収過程が起こり易くなる。そのため、光学部品用ガラス組成物に対してパルスレーザー光を集光照射したときに、パルスレーザー光の吸収効率を高めることができ、ガラスの加工効率を高めることができる。より具体的には、400nmの波長の光に対する吸収を有しており、この波長の光に対する内部透過率が低いことが好ましい。ここで、400nmの波長の光に対する内部透過率は、97%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下が最も好ましい。
また、本発明の光学部品用ガラス組成物は、5.3以下の比重を有することが好ましい。これにより、光学部品や、光学部品の搭載される光学系を小型軽量化することができる。従って、本発明の光学部品用ガラス組成物の比重は、好ましくは5.3、より好ましくは4.3、最も好ましくは3.8を上限とする。なお、本発明の光学部品用ガラス組成物の比重の下限は特に限定しないが、本発明によって得られる光学部品用ガラス組成物の比重は、概ね2.4以上、具体的には2.8以上、さらに具体的には3.2以上であることが多い。
<本発明により得られる異質相の屈折率差について>
上述の光学部品用ガラス組成物から、母材と屈折率が異なる異質相を形成して光学部品を製造する際、必要となるガラス内部に存在する該異質相領域の光軸方向の厚みは、母材と異質相との屈折率差Δnによって決定される。通常の回折光学素子等の光学設計においては、部品を通過する光の位相波面が0から2πで計算され、その際、位相Φの変化量は下式で与えられる。Φは位相(ラジアン)、Δnは母材と異質相の屈折率差、dは異質相の厚み、λは波長である。

Figure 0005863227
上記の式1において、Φ=2πとなるのに必要な厚みは、設計波長をλ=632.8nmとしたとき、表1のようになる。すなわち屈折率差Δnが大きいほど同じ効果(例えば位相の変化)を得るために必要となるガラス内部の異質相領域の厚みが小さくなる。
Figure 0005863227
必要な異質相領域の厚みが小さくなることは、母材と屈折率が異なる異質相を利用する光学部品において、部品のコンパクト化に効果的である。また、形成すべき異質相領域の全体量が少なくなるので、必要なエネルギーも少なくて済む。また、例えばガラス内部に異質相領域が形成された既製品を作っておき、必要に応じて利用する場合、異質相領域の厚みが薄ければ薄いほど、ガラスに対して自由に加工できる部分が多くなり、加工性・製造性の面で好ましい。
現在、機器に実装する光学部品のコンパクト化に関しては非常に高いニーズがあり、例えばデジタルカメラに用いられる、水晶、ニオブ酸リチウム等の単結晶からなる光学ローパスフィルタは、100〜300μm程度の厚みで製作されることが試みられている。一方で、母材と屈折率が異なる異質相を利用する光学部品を製造する際、該異質相領域の厚みは、加工するガラスの厚みの半分程度より小さいことが、回折光学部品の設計の自由度向上のため好ましいとされている。仮にガラスの厚みが300μmであれば、該ガラスの半分程度の150μmよりも小さいことが好ましい。
従って、母材と異質相領域との屈折率差Δnの絶対値|Δn|は、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。これにより、異質相の厚みが薄くなるため、基板の厚みをより薄くすることができる。また、異質相が形成されずに残存する基板の厚みが増加するため、光学ローパスフィルタ機能以外の機能がもたらされる構造を母材に付加することも可能である。なお、本願明細書における屈折率差|Δn|は、特段の記載が無い限り、波長632.8nmの光に対する屈折率の差を指すものとする。
<パルスレーザー光の発生手段及び伝送手段>
本発明では、集光点において熱の発生を起こし難い、パルス幅が10ピコ秒(10ps=10−12s)以下のパルスレーザーを用いることができる。好適には、パルスレーザー光は、波長約800nm、パルス幅300フェムト秒(300fs=3×10−13s)、繰り返し周波数250kHz、集光対物レンズの手前のパワーで投入平均パワー120〜480mW(0.48〜1.25μJ/パルス)程度のフェムト秒パルスレーザーを用いる。このフェムト秒パルスレーザーを、倍率10倍(開口数0.3)の対物レンズ等を介して、表面を研磨したガラス材料の内部に集光照射することにより、ガラス材料の内部の局所において瞬間的に異質相を生成できる。
照射するレーザーの波長は、本発明のガラスに吸収がなく透明な波長領域であることが好ましい。照射するガラスの透過率や特定波長の吸収の有無にも依るが、好ましくは、約200nm〜2100nm、より好ましくは、400〜1100nm、最も好ましくは、500〜900nmである。この範囲であれば、集光された光強度の高い部位のみで多光子吸収を起こし精密な加工ができるので好ましい。
レーザーの繰返し周波数は、下限は、好ましくは10Hz以上、より好ましくは1kHz以上、最も好ましくは100kHz以上である。繰返し周波数の下限が、10Hz以上であれば、集光される部位に対して各々1パルス以上のレーザーパルスが照射されるため、異質相を形成する際のレーザービームの強度及びポインティングのゆらぎを平均化でき、その影響を低減できる。また、これにより平滑な界面をもつ異質相が形成し易くなるため、走査速度を上げても平滑な面を保ち易くでき、スループットをさらに向上することができる。
レーザーの繰返し周波数は、上限は、好ましくは100MHz以下、より好ましくは1MHz以下、最も好ましくは、500kHz以下である。繰返し周波数の上限を100MHz以下とすることで、加工時の熱の蓄積による熱歪みやクラックの発生が抑制され、且つステージの速度が制御し易くなるため、より精度の高い加工を行うことができる。
レーザーのパルス幅の下限は、好ましくは、10fs以上、より好ましくは、50fs以上、最も好ましくは、100fs以上である。下限を10fs以上とすることで、形成される異質相のサイズと屈折率変化の分布の調整を容易にできる。一方、レーザーのパルス幅の上限は、好ましくは、10ps以下、より好ましくは、1ps以下、最も好ましくは、500fs以下である。上限を10ps以下とすることで、形成される異質相周辺部への熱影響を低減でき、精度の高い加工を行うことができる。
ガラス材料を載置するステージは、位置再現性が100nm以下である電動ベアリングステージやエアベアリングステージを用いるのが好ましい。特にレーザー光に対してガラスを移動させながら加工する場合、ステージの走査速度は、10μm/秒〜10mm/秒が好ましい。この範囲であれば、重ね描き加工等も安定して行うことができる。なお、本願発明はステージを用いる形態に限定されず、例えばステージ操作を行わずに、ガラスを移動させない状態で複数のレーザービーム、又は複数に分離した単一のレーザービームを、同時にガラスに照射して一括してガラスを加工することも可能である。
レーザーを集光する集光レンズの開口数N.A.は次式で表される。
Figure 0005863227
ここで、fはレンズの焦点距離、Φはレンズの有効開口径である。
集光レンズの開口数の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、最も好ましくは0.1以上である。開口数の下限を0.01以上とすることにより、レーザーを照射した際にガラスの内部で屈折率が変化し易くなるため、特に厚みが薄いガラスの内部を加工する際に、レーザーの入射面や出射面でガラスを破壊せずにガラスを加工できる。また、開口数の上限は、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.6以下、最も好ましくは0.5以下である。開口数の上限を0.85以下とすることにより、比較的低い開口数での加工となり、パワー密度を増加させてもガラスの内部に空洞が形成され難くなるため、ガラスのより大きな体積に対して異質相を形成できる。
集光倍率の下限は、好ましくは1倍(等倍)以上、より好ましくは5倍以上、最も好ましくは10倍以上である。集光倍率の下限を1以上とすることにより、パワー密度が高められるため、大きな屈折率変化を得易くでき、且つ異質相の光軸方向の形状の制御をし易くできる。一方、集光倍率の上限は、好ましくは100倍以下、より好ましくは60倍以下、最も好ましくは40倍以下である。集光倍率の上限を100倍以下とすることにより、比較的低いパワーで大きな屈折率変化を得ると同時に、試料と対物レンズとの間の距離を大きくとることができ、加工できる表面形状の選択範囲を広くすることができる。
本発明に係る光学部品の製造方法においては、パルスレーザービームの照射により材料内部に異質相を形成するため、使用するパルスレーザービームのパワー密度を所定の範囲にすることが好ましい。レーザービームのパワー密度は、通常は単位面積及び単位時間当たり、どれだけのエネルギーが投入されたかを示す量であり、連続発振レーザービームを一点に集光する場合は下記式で表される。
Figure 0005863227
これに対して、パルスレーザービームを1点に集光する場合は下記式で表される。
Figure 0005863227
集光するパルスレーザーのピークパワー密度は、焦点位置あるいは、集光位置、あるいは結像位置の最もエネルギーが高い個所において、好ましくは3TW/cm、より好ましくは10TW/cm、最も好ましくは20TW/cmを下限とする。(G;ギガ=10、T;テラ=1012)ピークパワー密度の下限を3TW/cm以上とすることで、ガラス内部に屈折率変化を起こして異質相を形成できる。一方で、ピークパワー密度は、好ましくは400TW/cm、より好ましくは200TW/cm、最も好ましくは100TW/cm以下を上限とする。ピークパワーの上限を400TW/cm以下とすることで、屈折率が変化した異質相の形状を制御し易くでき、異質相の内部における屈折率分布も均一に近付けることができる。
一方で、レーザーを照射されるガラスは、照射するレーザーの波長に対して吸収が小さいことが好ましい。より具体的には、照射するレーザーの波長に対して、10cmの厚みで測定される内部透過率が95%以上であることが好ましい。これにより、ガラスを透過するレーザーの出力の低下が抑えられるため、ガラスの所望の範囲に異質相を形成できる。
レーザーを照射する条件は適宜設定されるが、以下の条件(a)から(d)を満たす条件が好ましい。上述のガラス組成及び照射の条件を組み合わせることで、本発明においては、低い照射強度であっても屈折率が0.005以上変化した異質相が得られる。
(a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒
(b)繰り返し周波数:10Hz〜100MHz
(c)焦点位置でのピークパワー密度:3TW/cm〜400TW/cm
(d)走査機構によって走査される焦点の走査速度:10μm/秒〜10mm/秒
本発明で形成される異質相の屈折率変化領域は、その用途に応じて適宜二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成される。そして、この屈折率変化領域は連続している。すなわち、ガラス材料の内部には、レーザーの照射による空洞を有しないことが好ましい。ここで空洞が生じてしまうと、連続した異質相に屈折率差の不連続な界面が形成されるため、光の散乱や多重反射の原因となる。また、本発明に係る光学部品の製造方法では、レーザーの照射によって生じる、希土類元素の価数変化や金属コロイドの析出による光学部品用ガラスの着色や、結晶析出による異方性の発生を有しないことが好ましい。また、本発明における異質相に周期構造を持たせる場合は、周期ピッチ及び/又は異質相の幅が、光学部品で使用する波長と同程度のサイズより大きいことが好ましい。すなわち、可視光領域(400nm−760nm)の光に対して用いられる光学部品であれば、周期ピッチ及び/又は異質相の幅は、好ましくは400nm、より好ましくは1μm、最も好ましくは10μmを下限とする。周期構造の周期ピッチ及び/又は異質相の幅を400nm以上とすることで、加工時における異質相の形状の自由度が高くなるため、光学部品を透過する光の位相を制御し易くできる。従って、周期構造の周期ピッチ及び/又は異質相の幅が光学部品で使用する波長より大きい光学部品は、周期ピッチ及び/又は異質相の幅が小さい光学部品と区別されることが好ましい。
本発明の製造方法においては、パルスレーザー光を複数のビームに分割する工程を有していてもよく、またそれらの複数のパルスレーザー光をそれぞれ複数位置に集光照射することも好ましい。これにより、一括して複数の屈折率が異なる領域が材料内部に形成されるため、加工スループットを向上させることができる。ビームを複数に分割する工程は、ビームスプリッター、回折格子、マイクロレンズアレイ、ホログラム、及び位相変調素子等から選択される光学部品を用いて行うが、これに限定されない。
また、一本又は分割された複数本のパルスレーザー光の各々のパルスの位相、振幅、波長、偏光、及びパルス時間幅のうち1つ以上を変化させる工程を有していてもよい。それらの変化したパルスレーザー光を適宜組み合わせることにより、照射する材料の屈折率分布や形状に依存しない、自由度の高い加工を行うことができる。
また、上述の光学部品用ガラスの内部の所望の位置に形成された屈折率変化領域をさらに広範囲に形成するために、集光させたパルスレーザー光の集光点を、光学部品用ガラスに対して相対移動させることも可能である。
<異質相の形成方法>
図1は、本発明の一実施形態に係る、ガラスの内部に異質相を生成する方法を例示する図である。母材40を水平面内に移動可能なステージ50に固定し、ステージ50を移動しながらパルスレーザー12を発振し、レーザー光を母材40の上方から照射する。パルスレーザー12からのレーザー光は、集光レンズ14によって集光されて、母材40の内部に照射される。これにより、レーザー光の焦点近傍の局所領域が瞬間的に加熱され、母材40の内部に屈折率が変化した異質相25が生成される。走査方向20を適宜設定することにより、母材40の内部において略直線状の形状を有する異質相25を生成できる。異質相25は、観察及び評価方向30から見た断面を用いて屈折率を評価できる。
なお、通常は、本発明に係る異質相の生成方法を用いて加工したガラスを光学部品等として用いる場合の透過光は、パルスレーザー12からのレーザー光と平行になるようにする。すなわち、観察及び評価方向30は、通常に光学部品等として使用する場合の透過光の方向に対して直交する。
<異質相の屈折率評価方法>
図2は、本発明の一実施形態に係る、ガラス材料の内部に生成した異質相の観察及び屈折率評価条件を示す図である。図2には、図1における観察及び評価方向30と直交する断面において、母材40を切開した断面を例示した。レーザー入射方向18は、図1におけるパルスレーザー12の照射方向と同一である。加工深さ28は、母材40のレーザー入射方向18に近い端面から異質相25までの距離である。典型的な加工深さ28は、10〜2000μmであるが、これに限られず、集光レンズ14の焦点距離の選択及び集光レンズ14と母材40との間隔の調整に基づいて適宜設定される。
図3は、本発明の一実施形態に係る、異質相の屈折率を評価するための定量位相顕微鏡の構成を示す図である。定量位相顕微鏡55は、光源60、スプリッター62、ミラー64、66、ハーフミラー70、集光光学系72、撮像素子74を有する。光源60は、好適にはレーザーである。光学系のアライメントは、ハーフミラー70において、試料68を通過した物体光78と参照光76とが位相干渉を起こすよう調整される。物体光78及び参照光76の経路に介在できる光学系は適宜設計できる。特に、試料を透過した物体光78を拡大するための対物レンズ、及び参照光76を発散させる対物レンズを介在させることにより、測定に用いる光の波長程度の面分解能で評価されることが好ましい。
母材を研磨して得られる試料68の、観察及び評価方向30における厚みは20μmとする。試料68は、試料中の屈折率の計測領域を、定量位相顕微鏡の物体光78の経路が通過するよう設置される。すなわち、図2に示した異質相25を含む母材40の断面に対して物体光78の経路は直交する。物体光78の経路が異質相25を含まない母材40を通過する場合は、母材40のみの屈折率が物体光78の位相情報に反映される。物体光78の経路が異質相25を通過する場合は、異質相25の屈折率が物体光78の位相情報に反映される。
このように位相干渉した光を、撮像素子74を用いて計測し解析することにより、試料68の屈折率や、試料68が有する材質の不均一さに基づく屈折率差等を解析できる。それにより、試料68の断面内における屈折率及び屈折率差の1次元又は2次元分布を計測できる。好適な定量位相顕微鏡の例は、マッハツェンダー型顕微干渉計である。計測できる屈折率差の典型的な精度は、波長632.8nmにおいて0.0002である。
ここで、図3に示す定量位相顕微鏡を用いて、母材40及び母材40に含まれる異質相25を通過する物体光78を解析することにより、母材40と異質相25との屈折率差を計測できる。
<光学部品>
本発明の光学部品用ガラス部材は、部材内部の異質相の形状や周期構造に基づいて、透過型回折格子、フレネルレンズ、ホログラム素子、回折レンズ、カメラ用レンズ、球面収差補正や色収差補正の可能なレンズ、CD/DVD用ピックアップレンズ、マイクロレンズ、及びマイクロレンズアレイ等に用いうる。
例えば、回折光学部品や光拡散部品として、固体撮像素子を有する撮像光学系に組み込み、適度に像をぼかすことでモアレを低減する光学的ローパスフィルタにも用いうる。光拡散素子としての利用には、光拡散板等も含まれる。光フィルタとしての利用には、ビームスプリッター、偏光フィルタ、波長選択フィルタ、波長ローパスフィルタ、波長ハイパスフィルタ、及び光アッテネーター(光減衰器)等も含まれる。
レンズとして用いる場合、光学部材の一部又は全体が平面、球面、非球面、自由曲面のレンズ形状であってもよく、光学部材の形状による機能と内部に形成された異質相の機能とが複合化された光学部品であってもよい。
他の用途としては、記録用メモリ部品、映像表示部品等が挙げられる。また、光情報通信に用いられる、光導波路構造、光分波器構造、及び/又はリング共振器構造を有していてもよい。光学部品の用途は、これらに限定されるものではなく、これらの光学機能を有する異質相を集積化した光学部品としてもよい。
本発明の光学部品は、パルスレーザー光の集光照射によりガラス材料の内部に形成される屈折率変化領域を用いるものであり、レーザー光を集光照射する際のガラス材料の形状は、レーザー入射面が平面であることが好ましい。なお、ガラス材料の形状は、必ずしも平面に限られる必要はなく、例えば凸レンズや凹レンズのような凹面や凸面を有していてもよく、高次の曲面を有していてもよい。
本発明の光学部品は、レーザー光を集光照射してガラス材料の内部に加工を行ったものを、例えばその後の切削や研磨によって所望の材料形状に加工されたものでもよく、例えば、その形状が凹面や凸面や高次の曲面、多角形の段差や溝を有する構造でもよい。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
<実施例1:母ガラスの光学特性>
表2〜表4に、母材として用意した試料A〜Tの組成(酸化物換算組成における質量%)、及び、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、比重、及び波長400nmの光についての吸収の有無の結果を示す。表中の空欄は、組成に含まれないか又は組成比が計測限界以下であることを表す。なお、表2のうち試料C〜Eは、本願の比較例に関するものである。
本発明の試料A〜Tのガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表2〜表4に示した組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000〜1300℃の温度範囲で2〜10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
ここで、試料A〜Tのガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)は、徐冷降温速度を−25℃/hにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
また、試料A〜Tのガラスの吸収波長は、日本光学硝子工業会規格JOGIS17−82に準じ、反射損失を含まない分光透過率(τ)として、厚さ10mmにおける内部透過率を評価した。ここで、400nmの波長の光についての内部透過率の値が95%以下の場合は、表2〜4の「吸収の有無」欄に「○」を記載した。また、この内部透過率の値が95%より大きく97%以下の場合は、表2〜4の「吸収の有無」欄に「△」を記載した。また、この内部透過率の値が97%より大きい場合は、表2〜4の「吸収の有無」欄に「×」を記載した。
また、試料A〜Tのガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975(光学ガラスの比重の測定方法)に記載された方法により測定した。
Figure 0005863227
Figure 0005863227
Figure 0005863227
表2〜4に表されるように、試料A〜B及びF〜Rのガラスは、いずれも屈折率(n)が1.65以上、より詳細には1.75以上であるとともに、この屈折率(n)は2.4以下、より詳細には2.2以下であり、所望の範囲内であった。
また、試料A〜B及びF〜Rのガラスは、いずれもアッベ数(ν)が10以上、より詳細には15以上であるとともに、このアッベ数(ν)は45以下、より詳細には41以下であり、所望の範囲内であった。
また、試料A〜B及びF〜Rのガラスは、いずれも比重が5.3以下、より詳細には3.8以下であるとともに、この比重は2.4以上、より詳細には3.2以上であり、所望の範囲内であった。
また、試料A〜B及びF〜Tのガラスは、いずれも200nm以上400nm以下の波長の光に対して吸収が認められた。より具体的には、試料A〜B及びF〜Tのガラスにおける、波長400nmのレーザーについての内部透過率は、いずれも97%以下であった。特に、試料A〜B及びF〜Rのガラスにおける、波長400nmのレーザーについての内部透過率は、いずれも95%以下であった。一方で、試料C〜Eのガラスにおける、波長400nmのレーザーについての内部透過率は、97%より大きかった。加えて、試料A〜B及びF〜Rのガラスは、いずれも450nm〜800nmまでの間で特異な吸収もなく、可視光領域で高い透過率を有するガラスであった。
<実施例2:異質相の生成及び評価>
異質相の生成は、前述の図1を示して記載した方法により実施した。すなわち、集光レンズ14として開口数0.3の10倍対物レンズ(UplanFl;Olympus社製)を用い、約7×10−8cmのスポット面積に集光させた。ステージ50は1mm毎秒の速度で一方向に移動させた。レーザー光の集光領域が間隔30μmのラインアレー状となるように走査を繰り返した。フェムト秒パルスレーザーは、Nd−YLF励起のTiサファイア再生増幅システム(Mira900−RegA9000システム;Coherent社製)から中心波長800nm、パルス幅300fs、繰り返し周波数250kHzで発振させたパルスレーザーを集光レンズに導入した。投入されるレーザーのパワーはNDフィルタで調節され、対物レンズ手前の測定値で、レーザー光の出力を時間平均した平均出力で120〜240mWのパワーを投入した。これらの手順により、母材40の上方端面から深さ200μmの領域に間隔30μmのラインアレー状の異質相25を形成した。さらに、ステージ50の移動方向及び移動量を適宜調整し、複数の平行線状に整列した異質相25を形成した。
表5に、本発明に係る異質相の生成方法を用いて加工した試料A〜Tにおける異質相の屈折率差を、母材に対する差分として示す。この差分は、絶対値が最大である差分の値を符号付きで示すものである。
図4は、本発明の一実施形態に係る、母材中の異質相の屈折率差の計測例を示す図である。図4には、表3に示した異質相の屈折率差の計測結果を表した。屈折率差のレーザー平均出力依存性200は、異質相を含む母材を試料とし、定量位相顕微鏡を用いて計測した、レーザー光の出力を時間平均した平均出力[mW]に対する異質相の母材に対する屈折率差を表す。
ここで、前記平均出力は対物レンズ手前のレーザーパワーであるが、開口数0.3の10倍対物レンズで照射した場合、焦点位置での1パルスあたりのエネルギー、及びピークパワー密度は、前記平均出力が120、240、360、480mWのとき、それぞれ、約0.3、0.6、0.9、1.3μJ/パルス、及び、約14、28、43、57TW/cmであった。(T:テラ=1012
Figure 0005863227
その結果、表5及び図4に示すように、試料A〜B及びF〜Rは、レーザー平均出力120[mW]、240[mW]、360[mW]及び480[mW]の照射条件の少なくともいずれかにおいて、屈折率差の絶対値が0.005以上を示した。その一方で、試料C〜E及びS〜Tは、レーザー平均出力480[mW]以下の全ての照射条件においても、屈折率差の絶対値が0.005を超えなかった。表5から、異質相の屈折率差の上限が母材の組成に依存するとともに、試料A〜B及びF〜Rは、母材に対する屈折率差の絶対値が0.005以上の異質相を生成できた。
また、表5及び図4より、Δnの絶対値として0.005を超えた試料においては、いずれもΔnがマイナス方向の値が大きくなる特徴が見られた。
<実施例3:レンズの例>
図5は、本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材をレンズとして使用した概念図である。
図5においては、レンズ形状の光学部材300は内部に異質相302を有し、これにより本来のレンズ形状で形成される焦点位置が変化しうる。具体的には、異質相302を設けることにより、内部の異質相により補正された焦点位置314を発生しうる。
異質相302は周期的であってもよく、ランダムであってもよい。周期的な配列は、フレネルレンズのようなリング幅が周期的に変調する同心円状のリング形状の異質相であってもよい。異質相302の配置、光学部品内に占める割合等は設計事項である。
<実施例4:回折格子の例>
図6は、本発明の一実施形態に係る、光学部品用ガラス部材を回折格子として使用した概念図である。
図6(a)において、回折格子として機能する光学部品350は、内部に3次元的に周期配列された異質相352を有する。すなわち、本発明に係る製造方法を用いて加工したガラス部材において、内部に3次元的に周期配列された異質相を有する光学部品は回折格子として機能しうる。具体的には、本発明に係る回折格子として機能する光学部品350に、入射光360を入射して得られる出射光362は、回折光を含んでなる。
図6(b)は、入射する点光源370を表す概念図である。例えば、入射する点光源370は、回折格子として機能する光学部品350への入射光360の一部の光路の、進行方向における断面でありうる。
図6(c)は、出射した点光源380を表す概念図である。一実施形態において、本発明に係る回折格子として機能する光学部品350に、入射する点光源370を入射することにより、出射した点光源380が得られる。
異質相の周期やサイズ等は設計事項であり、これらにより回折光の強度比や分布は変化しうる。
以上、本発明の実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることができる。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、光学的ローパスフィルタ、種々の回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ及びレンズに関連する光学部品、マイクロレンズアレイ等にも同様に対応することができる。
12 パルスレーザー
14 集光レンズ
18 レーザー入射方向
20 走査方向
25 異質相
28 加工深さ
30 観察及び評価方向
40 母材
50 ステージ
55 定量位相顕微鏡
60 光源
62 スプリッター
64、66 ミラー
68 試料
70 ハーフミラー
72 集光光学系
74 撮像素子
76 参照光
78 物体光
200 屈折率差のレーザー平均出力依存性
210 屈折率対アッベ数特性
300 レンズ形状の光学部品
302 異質相
310 入射光
312 部材の形状による焦点位置
314 内部の異質相により補正された焦点位置
350 回折格子として機能する光学部品
352 内部に3次元的に周期配列された異質相
360 入射光
362 出射光
370 入射する点光源
380 出射した点光源

Claims (18)

  1. 内部に屈折率が異なることにより区分される異質相領域を有する光学部品用ガラス部材であって、
    酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    成分を10.0〜60.0%、
    Nb成分及びTiO成分を合計で25.0〜65.0%及び
    RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)を合計で0.1〜20.0%
    含有し、
    前記異質相領域が空洞を有しない光学部品用ガラス部材。
  2. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    Nb成分 5.0〜60.0%及び
    TiO成分 1.0〜50.0%
    の少なくともいずれかを含有する請求項1記載の光学部品用ガラス部材。
  3. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    SiO成分 0〜30.0%及び/又は
    Al成分 0〜20.0%
    の各成分をさらに含有する請求項1又は2記載の光学部品用ガラス部材。
  4. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiOの含有量が20%未満である請求項3記載の光学部品用ガラス部材。
  5. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    MgO成分 0〜10.0%及び/又は
    CaO成分 0〜20.0%及び/又は
    SrO成分 0〜20.0%及び/又は
    BaO成分 0〜50.0%及び/又は
    ZnO成分 0〜40.0%
    の各成分をさらに含有する請求項1から4のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
  6. 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の含有率が55.0%以下である請求項5記載の光学部品用ガラス部材。
  7. 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の含有率が35.0%以下である請求項5記載の光学部品用ガラス部材。
  8. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    LiO成分 0〜5.0%及び/又は
    NaO成分 0〜15.0%及び/又は
    O成分 0〜10.0%
    の各成分をさらに含有する請求項1から7のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
  9. 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分及びRnO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率が、合計で40.0%以下である請求項5から8のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
  10. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    成分 0〜20.0%及び/又は
    Ta成分 0〜10.0%及び/又は
    WO成分 0〜10.0%及び/又は
    Bi成分 0〜40.0%及び/又は
    ZrO成分 0〜5.0%及び/又は
    La成分 0〜20.0%及び/又は
    Gd成分 0〜10.0%及び/又は
    成分 0〜10.0%及び/又は
    SnO成分 0〜10.0%及び/又は
    Sb成分 0〜1.0%
    の各成分をさらに含有する請求項1から9のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
  11. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、F成分を実質的に含有しない請求項1から10のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
  12. 前記光学部品用ガラス部材の母材ガラスと前記異質相領域との波長632.8nmの光に対する屈折率差Δnの絶対値|Δn|が0.005以上である請求項1から11のいずれか記載の光学部品用ガラス部材。
  13. 請求項1から12のいずれか記載の光学部品用ガラス部材の製造方法であって、
    ルスレーザーを集光照射することにより前記異質相領域を形成する工程を備えた光学部品用ガラス部材の製造方法
  14. 前記パルスレーザーが、以下の条件(a)から(d)を満たすレーザービームである請求項13記載の製造方法
    (a)パルス幅:10フェムト(10×10−15)秒〜10ピコ(10×10−12)秒
    (b)繰り返し周波数:10Hz〜100MHz
    (c)焦点位置でのピークパワー密度:3TW/cm〜400TW/cm
    (d)走査機構によって走査される焦点の走査速度:10μm/秒〜10mm/秒
  15. 前記異質相領域は、二次元又は三次元的に、周期的及び/又はランダムに形成されている請求項1から12のいずれかに記載の光学部品用ガラス部材。
  16. 光学的ローパスフィルタ、回折光学部品、光拡散部品、光フィルタ、レンズ、マイクロレンズアレイより選択される光学部品として用いられる請求項1から12のいずれかに記載の光学部品用ガラス部材。
  17. 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    成分を10.0〜60%、
    Nb成分及びTiO成分を合計で25.0〜65.0%及び
    RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)を合計で0.1〜20.0%
    含有するガラス組成物を用い、
    パルスレーザーを集光照射して、ガラスの内部に屈折率差が異なることにより区分される、空洞を有しない異質相領域を形成する工程を備えた光学部品の製造方法。
  18. パルスレーザーを集光照射して、ガラス内部の所望の位置に屈折率差が異なることにより区分される、空洞を有しない異質相領域が形成される光学部品を製造するためのガラス組成物であって、
    酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
    成分を10.0〜60%、
    Nb成分及び/又はTiO成分を合計で25.0〜65.0%及び
    RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)を合計で0.1〜20.0%
    含有する光学部品用ガラス組成物。
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