JP5849899B2 - 近赤外線吸収フィルタおよび固体撮像装置 - Google Patents

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Description

本発明は、近赤外線吸収フィルタおよび固体撮像装置に関する。
近年、様々な用途に、可視波長領域(450〜600nm)の光は十分に透過するが、近赤外波長領域(700〜1100nm)の光は遮蔽する近赤外線吸収フィルタが使用されている。
例えば、固体撮像素子(CCD、CMOS等)を用いたデジタルスチルカメラ、デジタルビデオ等の撮像装置や、受光素子を用いた自動露出計等の表示装置においては、固体撮像素子または受光素子の感度を人間の視感度に近づけるため、撮像レンズと固体撮像素子または受光素子との間にそのような近赤外線吸収フィルタを配置している。また、PDP(プラズマディスプレイパネル)においては、近赤外線で作動する家電製品用リモコン装置の誤作動を防止するため、前面(視認側)に近赤外線吸収フィルタを配置している。
これらのうちでも撮像装置用の近赤外線吸収フィルタとしては、近赤外波長領域の光を選択的に吸収するように、フツリン酸塩系ガラスや、リン酸塩系ガラスにCuO等を添加したガラスフィルタが知られているが、光吸収型のガラスフィルタは、高価である上に、薄型化が困難であり、近年の撮像装置の小型化・薄型化要求に十分に応えることができないという問題があった。
そこで、上記問題を解決すべく、基板上に、例えば、酸化シリコン(SiO)層と酸化チタン(TiO)層とを交互に積層し、光の干渉によって近赤外波長領域の光を反射して遮蔽する反射型の干渉フィルタ、透明樹脂中に近赤外波長領域の光を吸収する色素を含有させたフィルム等が開発されている。また、これらを組み合わせた近赤外線を吸収する色素を含有する樹脂層と近赤外線を反射する層とを積層した光学フィルタも開発されている。
これらのうちでも透明樹脂中に近赤外波長領域の光を吸収する色素を含有させたフィルムにおいて、透明樹脂として、屈折率が高く、耐熱性に優れるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂を用いる技術が開発されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。また、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した反射防止膜の高屈折率層として、上記特性に加えて耐摩耗性や耐薬品性等を有するアクリル樹脂を用い、さらにこの高屈折率層に近赤外線吸収剤を含有させて近赤外線吸収フィルタの機能をもたせた反射防止複合機能フィルムの技術が開発されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、このような透明樹脂、特に高屈折率の透明樹脂に近赤外線吸収剤を含有させた樹脂層をガラス基板上に形成させて近赤外線吸収フィルタとした場合、接着性の点で、特に高温高湿の環境下に長く曝された際の接着性において問題となることがあり、必ずしも十分な信頼性を有するとはいえなかった。また、上記樹脂層とガラス基板の接着性が十分でないと、製造上、大サイズで得られた母材をダイシングで切断して製品サイズに加工する際の歩留まりの低下を招く点で問題であった。
また、ガラス基板等の光学基材上に光学樹脂層を積層する際の密着性を改善する方法として、特許文献4には、微小粒子を無機酸化物バインダで層状に形成させた中間層を用いる技術が記載されている。しかしながら、特許文献4の方法を適用しても、光学基材と光学樹脂層の間の密着性は改善されるものの、近赤外線吸収フィルタとしての光学特性において必ずしも十分な性能が得られない点で問題であった。
特許第4759680号公報 特許第4031094号公報 特開2004−12592号公報
本発明は、ガラス基板上に透明樹脂、特にはフルオレン骨格を有する透明樹脂を用いた近赤外線吸収層を有する近赤外線吸収フィルタにおいて、近赤外線吸収性に優れるとともに、ガラス基板と近赤外線吸収層との間の接着性が強固であり、特に高温高湿の環境下での使用においても高い信頼性を有する近赤外線吸収フィルタおよび、該近赤外線吸収フィルタを具備する信頼性の高い固体撮像装置の提供を目的とする。
本発明は、以下の構成を有する近赤外線吸収フィルタおよび固体撮像装置を提供する。
[1] ガラス基板と、前記ガラス基板の一方の主面上にガラス基板側から順に下地層および近赤外線吸収層を有する近赤外線吸収フィルタであって、前記近赤外線吸収層は、透明樹脂と近赤外線吸収色素を含有する層であり、前記下地層は、平均一次粒子径が5〜100nmの一次粒子が凝集した平均二次粒子径が20〜250nmである金属酸化物微粒子の凝集体からなり、平均膜厚が30〜1000nmであり、前記近赤外線吸収層側の面の表面粗さRaが30〜500nmの層であり、前記透明樹脂と前記金属酸化物微粒子との屈折率(n20d)差が0.1以下である近赤外線吸収フィルタ。
[2] 前記近赤外線吸収層のガラス基板側と反対側の面上に誘電体多層膜を有する[1]に記載の近赤外線吸収フィルタ。
[3] 前記金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ、ITO、ATO、酸化クロム、酸化マグネシウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、および酸化ジルコニウム、タングステン酸セシウムから選ばれる少なくとも1種である[1]または[2]に記載の近赤外線吸収フィルタ。
[4] 前記金属酸化物微粒子は、表面に結合するOH基を有する[1]〜[3]のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルタ。
[5] 前記近赤外線吸収色素は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ前記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と前記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと前記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(B1)を含有し、前記透明樹脂は、屈折率(n20d)が1.54以上である[1]〜[4]のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルタ。
[6] 前記近赤外線吸収色素(B1)が、下記一般式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選択される少なくとも1種からなる、[5]に記載の近赤外線吸収フィルタ。
Figure 0005849899
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基))を示す。
とR、RとR、およびRとRは、それぞれ独立して、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成していてもよい。ただし、式(F1)は、複素環A、複素環B、および複素環Cから選ばれる少なくとも1以上の環構造を有する。
複素環Aが形成される場合のRとRは、これらが結合した2価の基−Q−として、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のRとR、および複素環Cが形成される場合のRとRは、これらが結合したそれぞれ2価の基−X−Y−および−X−Y−(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)〜(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよい。
Figure 0005849899
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR2829(R28およびR29は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す)を示す。R21〜R26は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を、R27は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を示す。
、R、R、R、R、R21〜R27、複素環を形成していない場合のR〜R、およびRは、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R21とR26、R21とR27は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、炭素数6〜11のアリール基またはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、RおよびR、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
[7] 前記透明樹脂が、それぞれフルオレン骨格を有する、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂から選ばれる[5]または[6]に記載の近赤外線吸収フィルタ。
[8] 前記透明樹脂がフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂である[5]〜[7]のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルタ。
[9] 前記金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物が、主として、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種である[5]〜[8]のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルタ。
[10] 前記近赤外線吸収層の膜厚が1〜100μmである[1]〜[9]のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルタ。
[11] 被写体側または光源側から入射する光の光軸上にレンズ、[1]〜[10]のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルタおよび固体撮像素子がその順に配置された固体撮像装置。
本発明によれば、ガラス基板上に透明樹脂、特にはフルオレン骨格を有する透明樹脂を用いた近赤外線吸収層を有する近赤外線吸収フィルタにおいて、近赤外線吸収性に優れるとともに、ガラス基板と近赤外線吸収層との間の接着性が強固であり、特に高温高湿の環境下での使用においても高い信頼性を有する近赤外線吸収フィルタおよび、該近赤外線吸収フィルタを具備する信頼性の高い固体撮像装置が提供できる。
本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態の一例を概略的に示す断面図である。 本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態に使用される近赤外線吸収色素の吸収スペクトルの一例を示す図である。 本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態に係る近赤外線吸収層の透過スペクトルの一例を示す図である。 本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態の別の一例を概略的に示す断面図である。 本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態のさらに別の一例を概略的に示す断面図である。 図5に示す近赤外線吸収フィルタを製造する際のダイシング工程を模式的に示す図である。 図6(C)に示す切断時のダイシングブレードの動き示す外観図である。 本発明の固体撮像素子の実施形態の一例を示す断面図である。
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
[近赤外線吸収フィルタ]
本発明の近赤外線吸収フィルタは、ガラス基板と、前記ガラス基板の一方の主面上にガラス基板側から順に、以下の構成の下地層および近赤外線吸収層を有する近赤外線吸収フィルタである。
上記下地層は、平均一次粒子径が5〜100nmの一次粒子が凝集した平均二次粒子径が20〜250nmである金属酸化物微粒子の凝集体からなり、平均膜厚が30〜1000nmであり、該下地層の近赤外線吸収層側の面の表面粗さRaが30〜500nmの層である。
上記下地層の上に配設される近赤外線吸収層は、透明樹脂と近赤外線吸収色素を含有する層であり、近赤外線吸収層の含有する透明樹脂と上記下地層を構成する上記金属酸化物微粒子との屈折率(n20d)差は0.1以下である。
なお、本明細書において屈折率(n20d)とは、20℃において波長589nmの光線を用いて測定される屈折率をいう。また、本明細書において特に断りのない限り、屈折率とは屈折率(n20d)をいう。
ガラス基板の表面に各種樹脂層を設ける場合、特にフルオレン骨格を有する透明樹脂に近赤外線吸収色素を含有するような光学特性を付与した樹脂層を設ける場合には、樹脂層の光学特性を十分に確保する点および強固な接着性を確保できる点から、ガラス基板の表面にシランカップリング剤による表面処理を施した後、樹脂層を設けることが行われている。しかしながら、このようなガラス基板の表面処理では、ある程度の接着性は得られるものの、さらに高い接着特性が要求されるスペックには対応できない現状があった。
本発明においては、近赤外線吸収色素を含有する透明樹脂、特にフルオレン骨格を有する透明樹脂を主体とする近赤外線吸収層を形成する際に、ガラス基板上に近赤外線吸収層の透明樹脂と屈折率(n20d)差が0.1以下と小さい金属酸化物微粒子を用いて、表面が十分に粗くなり、表面積が大きくなるように下地層を形成した。そして、その上に近赤外線吸収層を形成することで、光学特性を十分に確保しながら、ガラス基板と近赤外線吸収層との間の接着性を、上記下地層を介するアンカー効果により接着面積を増大させることで、上記シランカップリング剤による表面処理に比べて、格段に高くすることを可能とした。
ここで、下地層を構成する金属酸化物微粒子の特性により下地層のガラス基板との密着性および、下地層を構成する微粒子間の密着性は確保される。また、下地層の表面を粗くすることで、通常問題となる近赤外線吸収層の光学特性への影響は、近赤外線吸収層の透明樹脂と金属酸化物微粒子の屈折率差を小さくすることで十分に解消されている。
以下、本発明の近赤外線吸収フィルタの実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態の一例を概略的に示す断面図である。図1に示す近赤外線吸収フィルタ10Aは、ガラス基板1とその一方の主面上に形成された下地層2および下地層2上に形成された近赤外線吸収層3からなる。
(ガラス基板)
ガラス基板1としては、可視波長領域(450〜600nm)の光を、近赤外線吸収層3と組み合わせて近赤外線吸収フィルタ10Aとした際にその機能を果たせる程度に十分に、透過するものであれば、ガラスの種類は特に限定されるものではない。ガラスの材質としては、特に限定されず、通常のソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。さらに、紫外領域および/または近赤外線領域の波長に対して吸収特性を有する、例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラスであってもよい。
ガラス基板1は、可視域で透明な材料から、使用する装置、配置する場所等を考慮して、アルカリ成分の含有の有無や線膨張係数の大きさ等の特性を、適宜選択して使用できる。特に、ホウケイ酸ガラスは、加工が容易で、光学面における傷や異物等の発生が抑えられるため好ましく、アルカリ成分を含まない無アルカリガラスは、接着性、耐候性等が向上するため好ましい。
ガラス基板1の大きさは、近赤外線吸収フィルタとして使用される大きさと同様とでき、使用する装置等に合わせて適宜調整される。ガラス基板1の厚みは、装置の小型化、薄型化、および取り扱い時の破損を抑制する点から、0.03〜5mmの範囲が好ましく、軽量化および強度の点から、0.05〜1mmの範囲がより好ましい。
近赤外線吸収フィルタ10Aは、ガラス基板1側を、例えば、撮像装置の固体撮像素子に直接貼着して使用されることがある。この場合、ガラス基板1の線膨張係数と被貼着部の線膨張係数との差が30×10−7/K以下であることが、貼着後の剥がれ等を抑制する観点から好ましい。例えば、被貼着部の材質がシリコンであれば、線膨張係数が30×10−7〜40×10−7/K近傍の材料、例えば、ショット社製のAF33、テンパックス、旭硝子社製のSW−3、SW−Y、SW−YY、AN100、EN―A1等(以上、商品名)のガラスがガラス基板1の材料として好適である。被貼着部の材質がアルミナ等のセラミックであれば、線膨張係数が50×10−7〜80×10−7/K近傍の材料、例えば、ショット社製のD263、B270、旭硝子社製のFP1、FP01eco等のガラスがガラス基板1の材料として好適である。
(下地層)
ガラス基板1の一方の主面上に形成される下地層2は、平均一次粒子径が5〜100nmの一次粒子が凝集した平均二次粒子径が20〜250nmである金属酸化物微粒子の凝集体からなる。下地層2は平均膜厚が30〜1000nmであり、この上に形成される近赤外線吸収層3側の面の表面粗さRaが30〜500nmの層である。さらに、以下に説明する近赤外線吸収層3の主たる構成要素である透明樹脂と下地層2を構成する上記金属酸化物微粒子との屈折率差は0.1以下である。
本明細書において、平均一次粒子径とは、検体微粒子の透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡による観察画像から、無作為に抽出した100個の微粒子の粒子径を測定し平均した値をいう。
本明細書において、平均二次粒子径とは、検体微粒子を水、アルコール等の分散媒に分散させた粒子径測定用分散液(固形分濃度:5質量%)について、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した数平均凝集粒子径の値をいう。
本明細書において、平均膜厚とは膜付き基板を試料として基板上の膜の一部を除去して得られる膜断面について接触式膜厚測定装置を用いて測定される基板表面と膜表面との平均段差であり、ISO 5436−1に基づき、試料の設置誤差を取り除くために傾き補正を行い、各走査線ごとに段差底面と上面それぞれに対して傾きの等しい最小二乗直線をあてはめ、2直線間の距離を最小二乗段差としたものを平均膜厚という。
本明細書において、表面粗さRaとは、接触式膜厚測定装置を用いて測定されるJIS B0601(2001年)に規定される算術平均高さRaをいう。
下地層2の構成材料である金属酸化物微粒子の平均一次粒子径は、5〜100nmである。金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が該範囲にあれば、これを用いて得られる凝集体の平均二次粒子径の範囲を以下の範囲に調整できる。平均一次粒子径は、さらに、より好ましい平均二次粒子径の凝集体が得られる観点から、5〜80nmが好ましく、10〜50nmがより好ましい。金属酸化物微粒子の一次粒子の形状としては、球状、ロッド状、板状等が挙げられ、該一次粒子を凝集体とする際の粘度調整が容易な点から球状が好ましい。
下地層2は、上記範囲の平均一次粒子径を有する金属酸化物微粒子の一次粒子が凝集した凝集体で構成される。図1に、近赤外線吸収フィルタ10Aの下地層2を中心とした拡大図を併せて示す。なお、拡大図においては、金属酸化物微粒子の一次粒子は示さず一次粒子の凝集体をPで示す。該凝集体Pの平均二次粒子径は20〜250nmである。金属酸化物微粒子凝集体Pの平均二次粒子径が、該範囲にあれば、凝集体Pを含有する後述の下地層形成用塗工液において、凝集体Pが沈殿することなく安定して存在でき、これにより均一な下地層が得られるとともに、下地層の表面粗さを所定の範囲に制御できる。平均二次粒子径は、さらに、近赤外線吸収フィルムのヘイズを低く抑えられる観点から20〜200nmが好ましく、20〜150nmがより好ましい。金属酸化物微粒子凝集体Pの形状としては、球状、板状等が挙げられ、塗布液の保存性の点から球状が好ましい。
このような金属酸化物微粒子凝集体Pで構成される下地層2の平均膜厚は、30〜1000nmである。下地層2の平均膜厚が該範囲にあれば近赤外線吸収層との密着性を確保できる。下地層2の平均膜厚は、さらに、近赤外線吸収フィルタの可視波長領域の光透過率を高く維持できる観点から30〜500nmが好ましく、50〜300nmがより好ましい。下地層2における近赤外線吸収層3が形成される側の面2aの表面粗さRaは、30〜500nmである。下地層2における面2aの表面粗さRaが該範囲にあれば、以下に説明する近赤外線吸収層3の形成に用いる近赤外線吸収層形成用塗工液が十分に面2aから浸透するアンカー効果が得られる。下地層2における面2aの表面粗さRaは、さらに、下地層の均一性と光学特性の観点から30〜300nmが好ましく、30〜250nmがより好ましい。
下地層2に用いられる金属酸化物微粒子の構成材料である金属酸化物は、近赤外線吸収層3に用いる透明樹脂との屈折率差が0.1以下となる金属酸化物から適宜選択される。この屈折率差を0.1以下とすることで、下地層2の近赤外線吸収層3が形成される側の面2aの表面粗さRaを、十分なアンカー効果が得られる上記範囲のように粗くしても、近赤外線吸収層3の光学特性に影響を及ぼすことなく優れた近赤外線吸収能を有する近赤外線吸収フィルタが作製可能となる。この観点から、上記透明樹脂と金属酸化物の屈折率差は、0.05以下が好ましい。
後述のとおり、近赤外線吸収層3に用いる透明樹脂の屈折率(n20d)は、1.54以上が好ましい。このような屈折率の透明樹脂との組合せにおいて使用可能な金属酸化物としては、例えば、酸化ケイ素(1.45)、酸化アルミニウム(1.63)、酸化スズ(2.00)、ITO(Indium Tin Oxides、組成により2.10〜2.20)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides、組成により1.94〜1.96)、酸化クロム(2.24)、酸化マグネシウム(1.74)、酸化セリウム(2.20)、酸化イットリウム(1.87)、酸化亜鉛(1.95))、酸化ジルコニウム(2.40)、タングステン酸セシウム(2.50)等が挙げられる。なお、化合物の後の括弧内の数字は屈折率(n20d)を示す。
これらの金属酸化物は平均一次粒子径が上記範囲の一次粒子および/または上記平均二次粒子径の凝集体として市販されており、これらを本発明に使用可能である。金属酸化物の一次粒子から上記平均二次粒子径の凝集体を得る方法としては、公知の方法が適用できる。具体的には、適宜選択した分散媒と金属酸化物微粒子の混合物をボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザ等で湿式粉砕する方法等が挙げられる。この場合、金属酸化物微粒子の凝集体は上記分散媒の分散液として得られる。
これらは、平均一次粒子径が上記範囲の一次粒子および/または上記平均二次粒子径の凝集体として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、屈折率の異なる2種以上の金属酸化物微粒子を適当な組成比で混合することで下地層2を構成する金属酸化物微粒子の凝集体の屈折率を調整可能であり、これにより透明樹脂との屈折率差をより小さくすることも可能となる。
また、本発明に用いる金属酸化物微粒子は、表面に結合するOH基を有することが好ましい。金属酸化物微粒子が表面にOH基を有する場合、通常、OH基は金属酸化物の金属(M)に結合したM−OH基として存在する。金属酸化物微粒子の表面にM−OH基が存在するとは、すなわち金属酸化物微粒子の凝集体表面にM−OH基が存在することを意味する。金属酸化物微粒子の凝集体表面のM−OH基は、ガラス基板1の表面のSi−OH基と結合して、強固なSi−O−M結合を形成し易い。また、金属酸化物微粒子の凝集体同士は同様にM−O−M結合により強固に結合可能となる。これらの結合が形成されることで、下地層2は特にバインダ成分等を用いなくとも、金属酸化物微粒子凝集体のみで十分に一体化可能であり、さらにガラス基板1との接着性も良好となる。
ガラス基板1の主面上に下地層2を形成するには、まず、上記金属酸化物微粒子の凝集体が分散媒に分散された下地層形成用の塗工液を調製する。下地層形成用塗工液は、市販品がある場合は、これをそのまま、または必要に応じて分散媒で希釈することで調製できる。また、上記のように金属酸化物微粒子の一次粒子から凝集体を得る場合には、得られた分散液をそのまま下地層形成用塗工液とできる。
下地層形成用塗工液に用いる分散媒としては、上記金属酸化物微粒子の凝集体を分散できる化合物であれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
下地層形成用塗工液における、金属酸化物微粒子の凝集体の含有量は、塗工液全量に対して0.1〜50.0質量%が好ましく、0.5〜20.0質量%がより好ましい。また、下地層形成用塗工液は、下地層形成の過程で分散媒と同様に除去可能な成分として、レオロジー調整剤、レベリング剤等を必要に応じて含有できる。
下地層形成用塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
下地層形成用塗工液を、ガラス基板1上に塗工後、乾燥により揮発成分を除去することで下地層2が得られる。乾燥条件は、分散媒の種類や量による。なお、上記表面粗さRaの下地層2とするためには、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法を用いて塗布を行い、オーブン、IRヒータ等で乾燥を行うことが好ましい。
ここで、下地層2の近赤外線吸収層3が形成される側の面2aには、その表面粗さRaを上記範囲に維持できる限りは、シランカップリング剤等による表面処理を施してもよい。シランカップリング剤処理を行う場合、シランカップリング剤は、近赤外線吸収層を構成する透明樹脂との接着性、近赤外線吸収色素への阻害の有無を考慮して適宜選択される。近赤外線吸収色素として、後述のNIR吸収色素(B1)を用いる場合には、該NIR吸収色素の作用をほぼ阻害しない(メタ)アクリロキシシラン類、アミノシラン類の使用が好ましい。なお、本明細書における「(メタ)アクリ…」とは、「メタクリ…」と「アクリ…」の総称である。
(近赤外線吸収層)
近赤外線吸収層3は、ガラス基板1の主面上に形成された下地層2の上記特性を有する表面上に形成される。近赤外線吸収層3は本発明の近赤外線吸収フィルタが近赤外線吸収フィルタとして機能するための主要構成要素であり、透明樹脂(A)と近赤外線吸収色素(B)を含有する層である。具体的には、近赤外線吸収色素が透明樹脂中に分散した層である。
<透明樹脂(A)>
近赤外線吸収層3が含有する透明樹脂(A)は、近赤外線吸収色素を均一に分散可能な透明な樹脂であれば、特に制限されない。透明樹脂(A)は、近赤外線吸収層とした際に優れた光学特性を発揮できる観点から、屈折率が1.54以上の高屈折率の透明樹脂が好ましい。透明樹脂(A)の屈折率は、1.55以上がより好ましく、1.56以上が特に好ましい。透明樹脂(A)の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が挙げられる。
このような、透明樹脂(A)として、具体的には、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂等の熱可塑性樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、光硬化型アクリル樹脂、シリコーン樹脂、シルセスキオキサン樹脂等の熱もしくは光により硬化させる樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、透明性の点から、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。
さらに、屈折率が高いことから、下記式(F2)で示されるフルオレン骨格を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂(A)が好ましく用いられる。これらのなかでも、本発明においてはフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂が特に好ましい。フルオレン骨格を有するこれらの透明樹脂(A)は、通常、該透明樹脂の原料成分として、フルオレン骨格を有する成分を含む原料成分を用いてこれを重合することで製造される。なお、フルオレン骨格を有する成分のうちでも、より高い屈折率および耐熱性が得られる点で、下記式(F3)で示される9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する成分が好ましい。
Figure 0005849899
Figure 0005849899
上記フルオレン骨格を有する透明樹脂(A)のうちでも、アクリル樹脂としては、例えば、少なくとも、9,9−ビスフェニルフルオレンの2個のフェニル基に、末端に(メタ)アクリロイル基を有する置換基を各1個導入した9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体を含む原料成分を重合させて得られるアクリル樹脂が挙げられる。
また、上記(メタ)アクリロイル基を有する9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体に水酸基を導入した化合物と、ウレタン(メタ)アクリレート化合物を重合させて得られるアクリル樹脂を用いてもよい。ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物の反応生成物として得られる化合物や、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の反応生成物として得られる化合物が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート樹脂の一般的な原料成分であるカーボネート形成成分とジオール成分のいずれかに9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する化合物を用いて重合させて得られるポリカーボネート樹脂が挙げられる。好ましくは、ジオール成分として9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類を用い、カーボネート形成成分として、通常用いられるホスゲン類、ジフェニルカーボネート等のカーボネート類を用いて重合させて得られるポリカーボネート樹脂が挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、ポリエステル樹脂の一般的な原料成分であるジカルボン酸成分とジオール成分のいずれかに9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する化合物を用いて重縮合させて得られるポリエステル樹脂が挙げられる。好ましくは、ジオール成分として9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類を用い、ジカルボン酸成分として、通常用いられるジカルボン酸やエステル形成性ジカルボン酸誘導を用いて重縮合させて得られるポリエステル樹脂が挙げられる。
さらに、本発明に用いるフルオレン骨格を有する透明樹脂(A)のガラス転移点(Tg)としては、特に制限されないが、上に例示したいずれの透明樹脂についても、100〜200℃が好ましく、130〜170℃がより好ましい。ガラス転移点(Tg)が上記範囲の下限を下回ると耐熱性が低下し、誘電体多層膜成膜時に変形を生じるおそれがあり、上限を上回ると溶融流動性が低くなり成形加工性が低下するおそれがある。
なお、上記フルオレン骨格を有する透明樹脂(A)においては、原料成分中のフルオレン骨格を有する成分の配合量を、製造上可能な範囲で適宜調整する等の方法により屈折率を調整可能である。このようなフルオレン骨格を有する透明樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、透明樹脂(A)として、フルオレン骨格を有する透明樹脂とそれ以外の透明樹脂、好ましくは高屈折率の透明樹脂を併用してもよい。
本発明の近赤外線吸収フィルタにおいて、このような透明樹脂(A)としては、市販品を用いてもよい。フルオレン骨格を有する透明樹脂(A)の市販品として、具体的には、アクリル樹脂については、オグソールEA−F5503(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.60)、オグソールEA−F5003(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.60)等が挙げられる。
フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂の市販品としては、OKP4HT(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.64)、OKPH4(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.61)、B−OKP2(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.64)等が挙げられる。
また、フルオレン骨格を有しない透明樹脂(A)の市販品として、具体的には、ポリエステル樹脂として、バイロン103(商品名、東洋紡社製、屈折率:1.55)等が挙げられる。
<近赤外線吸収色素(B)>
近赤外線吸収層が含有する近赤外線吸収色素(B)は、可視波長領域(450〜600nm)の光を十分に透過し、近赤外波長領域(700〜1100nm)の光を十分に吸収する能力を有する近赤外線吸収色素であれば特に制限されない。
本発明の近赤外線吸収フィルタの用途、すなわち求められる近赤外線吸収特性によるが、近赤外線吸収色素(B)として、屈折率が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(B1)の使用が好ましい。
本明細書において、近赤外線吸収色素をNIR吸収色素ともいう。また、NIR吸収色素(B1)を、上記既定の色素用溶媒に最大吸収ピークのピーク波長における吸光度が1となる濃度で溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルを、単にNIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルという。さらに、NIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルにおける最大吸収ピークのピーク波長をNIR吸収色素(B1)のλmaxまたは、λmax(B1)という。NIR吸収色素(B1)以外のNIR吸収色素(B)についても同様である。
NIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルλmax(B1)における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度(B1b630)とλmax(B1)における吸光度の差を、630nmとλmax(B1)との波長差で除した値を、以下、「吸収スペクトル傾き」という。NIR吸収色素(B1)以外のNIR吸収色素(B)についても同様である。なお、吸収スペクトル傾きを式で示すと以下のとおりである。
吸収スペクトル傾き=(1−B1b630)/(λmax(B1)−630)
NIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルを測定するために用いる色素用溶媒としては、屈折率が1.500未満であり、測定されるNIR吸収色素(B1)に対して規定の色素用溶媒であれば特に制限されない。なお、使用する色素用溶媒とは、室温付近において色素を十分溶解せしめ吸光度が測定できる溶媒をいう。NIR吸収色素(B1)の種類によるが、具体的には、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン系溶媒、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、トルエン等の芳香族溶媒、シクロヘキサンノン等の脂環族溶媒が挙げられる。
NIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおけるλmaxは、695〜720nmの領域にあるが、700〜720nmにあることが好ましい。NIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける半値全幅は60nm以下であるが、50nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましい。NIR吸収色素(B1)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける吸収スペクトル傾きは、0.010〜0.050であるが、0.010〜0.030が好ましく、0.010〜0.014がより好ましい。
また、NIR吸収色素(B1)としては、その吸収スペクトルが上記特徴を有する以外に、その吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収ピーク以外に半値全幅が100nm以下の、形状がシャープな吸収ピークを有しないことが好ましい。NIR吸収色素(B1)の上記吸光特性は、近赤外線吸収フィルタに求められる波長630〜700nm付近の間で急峻に吸光度が変化する光学特性に合致する。
本発明の近赤外線吸収フィルタにおいて、NIR吸収色素(B)が、このようなNIR吸収色素(B1)を含有すれば、NIR吸収色素(B)を用いて得られる近赤外線吸収層において、450〜600nmの可視波長帯域を高透過とし、695〜720nmの近赤外波長帯域を低透過(遮光)とし、その境界領域を急峻にすることが可能となる。
具体的には、NIR吸収色素(B1)を含むNIR吸収色素(B)を用い、これを上記透明樹脂(A)、特には屈折率が1.54以上の高屈折率の透明樹脂(A)に分散させて、近赤外線吸収層を形成することで、該近赤外線吸収層は以下の(i)から(iii)の全ての吸光特性の達成が可能となる。
(i)450〜600nmの可視光の透過率が70%以上である。
(ii)695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下である。
(iii)下式(1)で表わされる透過率の変化量Dが−0.8以下である。
D(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(1)
式(1)中、T700は、上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。なお、近赤外線吸収層の透過率は、紫外可視分光光度計を用いて測定できる。以下、近赤外線吸収層における上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dを、単に透過率の変化量Dともいう。
ここで、本明細書において、特定の波長領域の透過率について、透過率が例えば70%以上とは、その波長領域の全波長において透過率が70%を下回らないことをいい、同様に透過率が例えば10%以下とは、その波長領域の全波長において透過率が10%を超えないことをいう。
なお、NIR吸収色素(B)が、NIR吸収色素(B1)を含有する場合、その効果を最大限に発揮するためには、NIR吸収色素(B)が、実質的に、NIR吸収色素(B1)のλmax(B1)の最小値である695nmより短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(B)を含有しないことが好ましい。この観点から、NIR吸収色素(B)はNIR吸収色素(B1)のみで構成されてもよい。
ここで、本実施形態の近赤外線吸収フィルタにおいては、近赤外波長領域の透過率を広い波長域で抑制することが好ましく、そのために、好ましい態様として、上記近赤外線吸収層と、例えば、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層が組み合わせて用いられることがある。
ところが、誘電体多層膜等からなる選択波長遮蔽層は、視線角度により分光スペクトルが変動することが知られている。このため、近赤外線吸収フィルタの実使用においては、近赤外線吸収層と選択波長遮蔽層の組合せにおいて、このような分光スペクトルの変動に配慮する必要がある。このような選択波長遮蔽層との組合せを考慮すると、近赤外線吸収層は上記吸光特性を有する限り、さらに長波長域の光を遮光することが好ましい。そのために、NIR吸収色素(B)がNIR吸収色素(B1)を含有する場合には、その吸収スペクトルにおいて、NIR吸収色素(B1)のλmax(B1)の最大値である720nmを超え800nm以下の波長領域にピーク波長があり半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する、NIR吸収色素(B2)をさらに含有することが好ましい。
すなわち、NIR吸収色素(B)は、好ましくは、これを含有する近赤外線吸収層に、可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜を急峻とする作用が求められ、さらに好ましくは、近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光する性質を付与することが求められる。そこで、NIR吸収色素(B)として好ましくは、近赤外線吸収層において可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜が急峻となるように、NIR吸収色素(B1)を用い、さらに好ましくは近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光させるために、NIR吸収色素(B1)に加えてNIR吸収色素(B2)を組み合わせて用いる。
NIR吸収色素(B2)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおけるλmaxは、720nmを超え800nm以下の領域にあるが、720を超え760nmにあることが好ましい。NIR吸収色素(B2)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける半値全幅は100nm以下であり60nm以下が好ましい。半値全幅の下限としては30nmが好ましく、40nmがより好ましい。NIR吸収色素(B2)の吸収スペクトルの最大吸収ピークにおける吸収スペクトル傾きは、0.007〜0.011が好ましく、0.008〜0.010がより好ましい。
また、NIR吸収色素(B2)としては、その吸収スペクトルが上記特徴を有する以外に、その吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収ピーク以外に半値全幅が100nm以下の、形状がシャープな吸収ピークを有しないことが好ましい。
以下、このようなNIR吸収色素(B1)およびNIR吸収色素(B2)のそれぞれについて説明し、続いてこれらを含むNIR吸収色素(B)について説明する。
(NIR吸収色素(B1))
NIR吸収色素(B1)としては、上記吸光特性を有する化合物であれば、特に制限されない。一般にNIR吸収色素として用いられるシアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等から、上記吸光特性を有する化合物を適宜選択して使用できる。これらのうちでも、特にスクアリリウム系化合物は、化学構造を調整することで上記NIR吸収色素(B1)として求められる波長帯で急峻な吸収傾きが得られるとともに、保存安定性および光に対する安定性を確保できる点で好ましい。
NIR吸収色素(B1)として、具体的には、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、式(F1)で示される化合物を化合物(F1)ともいう。他の化合物についても同様である。
化合物(F1)は、スクアリリウム骨格の左右にベンゼン環が結合し、さらにベンゼン環の4位に窒素原子が結合するとともに該窒素原子を含む飽和複素環が形成された構造を有するスクアリリウム系化合物であり、上記NIR吸収色素(B1)としての吸光特性を有する化合物である。化合物(F1)においては、近赤外線吸収層を形成する際に用いる溶媒(以下、「ホスト溶媒」ということもある。)や透明樹脂への溶解性を高める等のその他の要求特性に応じて、以下の範囲でベンゼン環の置換基を適宜調整できる。
Figure 0005849899
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基))を示す。
とR、RとR、およびRとRは、それぞれ独立して、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成していてもよい。ただし、式(F1)は、複素環A、複素環B、および複素環Cから選ばれる少なくとも1以上の環構造を有する。
複素環Aが形成される場合のRとRは、これらが結合した2価の基−Q−として、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のRとR、および複素環Cが形成される場合のRとRは、これらが結合したそれぞれ2価の基−X−Y−および−X−Y−(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)〜(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよい。
Figure 0005849899
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR2829(R28およびR29は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す)を示す。R21〜R26は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を、R27は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を示す。
、R、R、R、R、R21〜R27、複素環を形成していない場合のR〜R、およびRは、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R21とR26、R21とR27は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、炭素数6〜11のアリール基またはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、RおよびR、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
以下、複素環Aは単に環Aということもある。複素環B、複素環Cについても同様である。
化合物(F1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、上記の原子または基を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。RおよびRは、いずれか一方が水素原子であって、他方が−NRである組合せが好ましい。
化合物(F1)が、環A〜環Cのうち、環Aのみ、環Bと環Cのみ、環A〜環Cをそれぞれ有する場合、−NRは、RとRのいずれに導入されてもよい。化合物(F1)が、環Bのみ、環Aと環Bのみをそれぞれ有する場合、−NRは、Rに導入されるのが好ましい。同様に、環Cのみ、環Aと環Cのみをそれぞれ有する場合、−NRは、Rに導入されるのが好ましい。
−NRとしては、ホスト溶媒や透明樹脂(A)への溶解性の観点から、−NH−C(=O)−Rが好ましい。Rとしては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基が好ましい。置換基としては、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基等が挙げられる。これらのうちでも、フッ素原子で置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基、および炭素数1〜6のフロロアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基から選ばれる基が好ましい。
化合物(F1)において、RとR、RとR、およびRとRが、それぞれ互いに連結して形成される員数5または6の環A、環B、および環Cは、少なくともこれらのいずれか1個が形成されていればよく、2個または3個が形成されていてもよい。
環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、炭素数6〜11のアリール基またはアルアリール基を示す。置換基としては、ヒドロキシ基、炭素数1〜3のアルコキシ基、アシルオキシ基が挙げられる。環を形成していない場合の、RおよびR、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。これらのなかでも、R、R、R、Rとしては、ホスト溶媒や透明樹脂(A)への溶解性の観点から、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、化合物(F1)において、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環が有する基R〜Rは、左右で異なってもよいが、左右で同一であることが好ましい。
なお、化合物(F1)は、上記一般式(F1)で示される構造の共鳴構造を有する式(F1−1)で示される化合物(F1−1)を含む。
Figure 0005849899
ただし、式(F1−1)中の記号は、上記式(F1)における規定と同じである。
化合物(F1)として、より具体的には、環Bのみを環構造として有する下記式(F11)で示される化合物、環Aのみを環構造として有する下記式(F12)で示される化合物、環Bおよび環Cの2個を環構造として有する下記式(F13)で示される化合物が挙げられる。なお、下記式(F11)で示される化合物は、化合物(F1)において環Cのみを環構造として有しRが−NRである化合物と同じ化合物である。また、下記式(F11)で示される化合物および下記式(F13)で示される化合物は、米国特許第5,543,086号明細書に記載された化合物である。
Figure 0005849899
式(F11)〜(F13)中の記号は、上記式(F1)における規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
化合物(F11)において、Xとしては、上記(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。Xとして、具体的には、−(CH−、−CH−C(CH−、−CH(CH)−C(CH−、−C(CH−C(CH−等が挙げられる。化合物(F11)における−NRとしては、−NH−C(=O)−CH、−NH−C(=O)−C13、−NH−C(=O)−C等が好ましい。化合物(F11)として、例えば、下記式(F11−1)で示される化合物等が挙げられる。
Figure 0005849899
化合物(F12)において、Qは、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基に置換されてもよい炭素数4または5のアルキレン基、炭素数3または4のアルキレンオキシ基である。アルキレンオキシ基の場合の酸素の位置はNの隣以外が好ましい。なお、Qとしては、炭素数1〜3のアルキル基、特にはメチル基に置換されてもよいブチレン基が好ましい。
化合物(F12)において、−NRは、−NH−C(=O)−(CH−CH(mは、0〜19)、−NH−C(=O)−Ph−R10(R10は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜3のパーフロロアルキル基を示す。)等が好ましい。
ここで、化合物(F12)は、そのλmaxが700〜720nmの間にあり、これを含有する近赤外線吸収層における透過率の変化量Dを−0.86以下とできる、NIR吸収色素(B1)として好ましい化合物である。λmaxを上記範囲とすることで、可視波長帯の透過領域を広げることが可能となる。
化合物(F12)として、例えば、下記式(F12−1)で示される化合物、下記式(F12−2)で示される化合物等が挙げられる。
Figure 0005849899
化合物(F13)において、XおよびXとしては、独立して上記(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。XおよびXとして、具体的には、−(CH−、−CH−C(CH−、−CH(CH)−C(CH−、−C(CH−C(CH−等が挙げられる。YおよびYとしては、独立して−CH−、−C(CH−、−CH(C)−、−CH((CHCH)−(mは0〜5)等が挙げられる。化合物(F13)において、−NRは、−NH−C(=O)−C2m+1(mは1〜20であり、C2m+1は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。)、−NH−C(=O)−Ph−R10(R10は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜3のパーフロロアルキル基を示す。)等が好ましい。
化合物(F13)として、例えば、下記式(F13−1)で示される化合物等が挙げられる。
Figure 0005849899
上記化合物(F11−1)、化合物(F12−1)、化合物(F12−2)および化合物(F13−1)の吸光特性を表1に示す。
Figure 0005849899
なお、上記化合物(F11)、化合物(F12)、化合物(F13)等の化合物(F1)は、従来公知の方法で製造可能である。
化合物(F11−1)等の化合物(F11)は、例えば、米国特許第5,543,086号明細書に記載された方法で製造できる。
また、化合物(F12)は、例えば、J.Org.Chem.2005,70(13),5164−5173に記載の方法で製造できる。
これらのうちでも、化合物(F12−1)、化合物(12−2)等は、例えば以下の反応式(F3)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F3)によれば、1−メチル−2−ヨード−4−アミノベンゼンのアミノ基に所望の置換基Rを有するカルボン酸塩化物を反応させてアミドを形成する。次いで、ピロリジンを反応させ、さらに3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(以下、スクアリン酸という。)と反応させることで、化合物(F12−1)、化合物(12−2)等が得られる。
Figure 0005849899
反応式(F3)中Rは、−Phまたは−(CH−CHを示す。−Phはフェニル基を示す。Etはエチル基、THFはテトラヒドロフランを示す。
また、化合物(F13−1)等は、例えば以下の反応式(F4)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F4)では、まず、8−ヒドロキシジュロリジンにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(TfO)を反応させ、8−トリフルオロメタンスルホン酸ジュロリジンとし、次いで、これにベンジルアミンを反応させ8−ベンジルアミノジュロリジンを得、さらにこれを還元して8−アミノジュロリジンを製造する。次いで、8−アミノジュロリジンのアミノ基に所望の置換基R(化合物(F13−1)の場合、−C15)を有するカルボン酸塩化物を反応させてジュロリジンの8位に−NH−C(=O)Rを有する化合物を得る。次いで、この化合物の2モルをスクアリン酸1モルと反応させることで、化合物(F13−1)等が得られる。
Figure 0005849899
反応式(F4)中、Meはメチル基、TEAはトリエチルアミン、Acはアセチル基、BINAPは(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル)、NaOtBuはナトリウムt−ブトキシドをそれぞれ示す。
本実施形態においては、NIR吸収色素(B1)として、上記NIR吸収色素(B1)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(NIR吸収色素(B2))
NIR吸収色素(B2)としては、上記吸光特性を有する、具体的には、その吸収スペクトルにおいて、λmax(B2)が720nm超800nm以下の波長領域にあり半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する化合物であれば、特に制限されない。一般にNIR吸収色素として用いられるシアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等から、上記吸光特性を有する化合物を適宜選択して使用できる。
NIR吸収色素(B2)としては、上記のとおりNIR吸収色素(B1)の可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域における光の吸収特性を阻害しない範囲で、近赤外波長帯域の比較的長波長側での光の吸収をできるだけ幅広く確保できる化合物が好ましい。このような観点からNIR吸収色素(B2)としては、化学構造を調整することで上記NIR吸収色素(B2)として求められる吸光特性が付与されたシアニン系化合物が好ましい。シアニン系化合物は古くからCD−R等の記録色素として用いられてきた色素であり低コストであって、塩形成することにより長期の安定性も確保できることが知られている。
NIR吸収色素(B2)として使用可能な、シアニン系化合物として、具体的には、下記一般式(F5)に示される化合物が挙げられる。
Figure 0005849899
ただし、式(F5)中の記号は以下のとおりである。
11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。
12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
Zは、PF、ClO、R−SO、(R−SO−N(Rは少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。)、またはBFを示す。
14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
nは1〜6の整数を示す。
なお、化合物(F5)におけるR11としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、R12およびR13はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。R14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子が好ましく、nの数は1〜4が好ましい。n個の繰り返し単位を挟んだ左右の構造は異なってもよいが、同一の構造が好ましい。
化合物(F5)としてより具体的には、下記式(F51)で示される化合物、下記式(F52)で示される化合物等が例示される。
Figure 0005849899
Figure 0005849899
また、NIR吸収色素(B2)として、下記式(F6)で示されるスクアリリウム系化合物を用いることもできる。
Figure 0005849899
上記NIR吸収色素(B2)として好ましく使用される、化合物(F51)、化合物(F52)および化合物(F6)の吸光特性を表2に示す。
Figure 0005849899
なお、上記化合物(F51)、化合物(F52)および化合物(F6)は、従来公知の方法で製造可能である。本実施形態においては、NIR吸収色素(B2)として、上記NIR吸収色素(B2)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(NIR吸収色素(B))
本実施形態に用いられるNIR吸収色素(B)は、好ましくは、NIR吸収色素(B1)を含有し、さらに好ましくは、これに加えてNIR吸収色素(B2)を含有する。
NIR吸収色素(B)における、NIR吸収色素(B1)の含有量は、NIR吸収色素(B)がNIR吸収色素(B1)以外に含有するNIR吸収色素(B)、例えばNIR吸収色素(B2)等の種類によるが、NIR吸収色素(B)の全量に対して3〜100質量%の範囲が好ましく、30〜100質量%がより好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。NIR吸収色素(B1)の含有量を上記範囲とすることで、NIR吸収色素(B)は、これを含有する近赤外線吸収層に、可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜を急峻とする特性、具体的には、透過率の変化量Dを−0.8以下とする特性の付与が可能となる。
また、NIR吸収色素(B)における、NIR吸収色素(B2)の含有量は、NIR吸収色素(B)の全量に対して0〜97質量%の範囲が好ましく、0〜70質量%がより好ましく、0〜50質量%が特に好ましい。
NIR吸収色素(B2)の含有量を上記範囲とすることで、NIR吸収色素(B)は、NIR吸収色素(B1)による上記効果を阻害することなく、これを含有する近赤外線吸収層に、近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光する特性を付与することが可能となる。
NIR吸収色素(B)は、好ましくはNIR吸収色素(B1)の1種または2種以上を含有し、さらに好ましくは、これに加えてNIR吸収色素(B2)の1種または2種以上を含有する。なお、NIR吸収色素(B)は、NIR吸収色素(B1)、NIR吸収色素(B2)による上記効果を阻害しない限りにおいて、必要に応じてその他のNIR吸収色素(B)を含有してもよい。
ここで、本実施形態において、NIR吸収色素(B)としては、上記のとおり、近赤外線吸収層に、可視波長帯域と近赤外波長帯域の境界領域で光の吸収曲線の傾斜を急峻とする特性および近赤外波長帯域の長波長側まで十分に吸光する特性を付与するために、NIR吸収色素(B1)を含む複数のNIR吸収色素(B)を使用することが好ましい。複数のNIR吸収色素(B)を使用する場合、その数に制限はないが2〜4が好ましい。複数のNIR吸収色素(B)は、互いに相溶性が近いことが好ましい。
さらに、使用する複数のNIR吸収色素(B)のλmaxのうち、最も長波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(B)と、最も短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(B)の関係は、吸収光の漏れを抑える必要から以下の関係にあることが好ましい。
NIR吸収色素(B)のうちで最も長波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(B)をNIR吸収色素(By)、そのλmaxをλmax(By)とし、NIR吸収色素(B)のうちで最も短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(B)をNIR吸収色素(Bx)、そのλmaxをλmax(Bx)として、10nm≦λmax(By)−λmax(Bx)≦40nmの関係にあることが好ましい。
なお、NIR吸収色素(Bx)は、NIR吸収色素(B1)から選択されることが好ましい。NIR吸収色素(By)は、NIR吸収色素(B1)から選択されてもよいが、好ましくはNIR吸収色素(B2)から選択される。NIR吸収色素(By)がNIR吸収色素(B2)から選択される場合、例えば、吸収スペクトル傾きが0.007〜0.011であり半値全幅30〜100nmのNIR吸収色素(B2)を用いることで、近赤外波長帯域の吸収帯を広く確保しつつ、可視波長帯域を高透過とすることが可能となり好ましい。
本発明においては、上に説明したように透明樹脂(A)として屈折率が1.54以上の透明樹脂(A)を選択し、上記NIR吸収色素(B)としてNIR吸収色素(B1)を選択すれば、得られるNIR吸収色素(B1)を含有する樹脂層、すなわち近赤外線吸収層において、近赤外線吸収フィルタとして用いる際に重要な、可視光線領域の透過率が高く、波長630〜700nmの間で急峻に吸収曲線が変化する光学特性を維持しながら、遮蔽領域をNIR吸収色素(B1)の最大吸収ピークのピーク波長から長波長域にまで広げられ、具体的には、上記(i)〜(iii)の吸光特性を満足でき、好ましい。
<近赤外線吸収層の形成>
ガラス基板1の主面上に形成された下地層2上に近赤外線吸収層3を形成するには、まず、NIR吸収色素(B)、および透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分と必要に応じて配合される他の成分を、溶媒に分散または溶解させて近赤外線吸収層形成用の塗工液を調製する。
必要に応じて配合される他の成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で配合される、無機微粒子からなる近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、熱もしくは光重合開始剤、重合触媒等が挙げられる。これら任意成分は、近赤外線吸収層形成用塗工液中の透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分100質量部に対して、それぞれ10質量部以下の量で配合することが好ましい。
無機微粒子からなる近赤外線ないし赤外線吸収剤としては、ITO微粒子、ATO微粒子、ホウ化ランタン微粒子などが挙げられる。なかでも、ITO微粒子は、可視波長領域の光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域も含めた広い波長域での光吸収性を有するため、赤外波長領域の光の遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。
ITO微粒子は、通常、一次粒子が凝集した凝集体として用いられ、該凝集体の平均二次粒子径は、散乱を抑制し、透明性を維持する点から、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、5〜70nmが特に好ましい。
無機微粒子からなる近赤外線ないし赤外線吸収剤は、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、無機微粒子からなる近赤外線ないし赤外線吸収剤がその機能を発揮できる量の範囲として、近赤外線吸収層形成用塗工液中の透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.3〜10質量部の割合で配合できる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤等が好ましく挙げられる。市販品として、Ciba社製、商品名「TINUVIN 479」等が挙げられる。
無機系紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の粒子が挙げられる。無機系紫外線吸収剤は、通常、一次粒子が凝集した凝集体として用いられ、該凝集体の平均二次粒子径は、透明性の点から、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、5〜70nmが特に好ましい。
紫外線吸収剤は、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、紫外線吸収剤がその機能を発揮できる量の範囲として、近赤外線吸収層形成用塗工液中の透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部の割合で配合できる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン類、;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。近赤外線吸収層形成用塗工液中の光安定剤の含有量は、透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。
光重合開始剤は、通常、透明樹脂(A)が光硬化樹脂である場合に、透明樹脂(A)の原料成分とともに用いられる。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等が挙げられる。
また、透明樹脂(A)が熱硬化樹脂である場合に、通常、透明樹脂(A)の原料成分とともに用いられる。熱重合開始剤としては、アゾビス系、および過酸化物系の重合開始剤が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。近赤外線吸収層形成用塗工液中の光または熱重合開始剤の含有量は、透明樹脂(A)の原料成分100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。
近赤外線吸収層形成用塗工液が含有する溶媒としては、透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分およびNIR吸収色素(B)を安定に分散または溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
溶媒の量は、透明樹脂(A)または透明樹脂(A)の原料成分100質量部に対して、100〜1000質量部であることが好ましく、150〜500質量部が特に好ましい。なお、近赤外線吸収層形成用塗工液中の不揮発成分(固形分)の含有量は、塗工液全量に対して10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%が特に好ましい。
近赤外線吸収層形成用塗工液の調製には、マグネチックスターラー、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等の撹拌装置を使用できる。高い透明性を確保するためには、撹拌を十分に行うことが好ましい。撹拌は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
近赤外線吸収層形成用塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
ガラス基板1上の下地層2の表面に上記近赤外線吸収層形成用塗工液を塗工した後、上記溶媒を乾燥させることで下地層2上に近赤外線吸収層3が十分な接着性をもって形成される。近赤外線吸収層形成用塗工液が透明樹脂(A)の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に行うことができるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化処理を設ける。
本実施形態において、近赤外線吸収層3の厚さは、特に限定されるものではなく、用途、すなわち使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められてよい。好ましくは0.1〜100μmの範囲であり、より好ましくは1〜50μmの範囲である。上記範囲とすることで、十分な近赤外線吸収能と、膜厚の均一性および表面の平坦性を両立できる。0.1μm以上、さらには1μm以上とすることで、近赤外線吸収能を十分に発現させることができる。100μm以下とすると、膜厚の均一性および表面の平坦性が得やすくなり、吸収率のバラツキを生じにくくできる。50μm以下すると、さらに装置の小型化に有利となる。
近赤外線吸収層3の450〜600nmの可視光における透過率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。また、695〜720nmの波長域における光の透過率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。さらに、かつ近赤外線吸収層の透過率の変化量Dは−0.5以下が好ましく、−0.8以下がより好ましく、−0.86以下が特に好ましい。ここで、例えば、450〜600nmの可視光における透過率が70%以上、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下、かつ透過率の変化量Dが−0.8以下の吸光特性を有する近赤外線吸収層は、その形成において上記NIR吸収色素(B1)と屈折率1.54以上の透明樹脂(A)を組み合わせて用いることにより達成できる。
450〜600nmの可視光波長域における透過率が70%以上、好ましくは80%以上であり、695〜720nmの波長域における光の透過率が10%以下、好ましくは5%以下であれば近赤外線吸収フィルタとしての用途に有用である。また、透過率の変化量Dが、−0.5以下、好ましくは−0.8以下、特に好ましくは−0.86以下であれば、波長630〜700nmの間における透過率の変化が十分に急峻となり、例えばデジタルスチルカメラやデジタルビデオ等の近赤外線吸収フィルタ用途に好適となる。透過率の変化量Dが、−0.5以下、好ましくは−0.8以下、特に好ましくは−0.86以下であれば、さらに、近赤外波長領域の光を遮蔽しつつ可視波長域の光の利用効率が向上し、暗部撮像でのノイズ抑制の点で有利となる。
なお、図3に、本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態に係る近赤外線吸収層(NIR吸収色素(B1)として化合物(F11−1)を、透明樹脂としてポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:OKP4HT、屈折率1.64)を用いた場合)の透過スペクトルの一例を示す。
本実施形態の近赤外線吸収フィルタ10Aにおいては、ガラス基板1上に近赤外線吸収色素(B)を含有する透明樹脂(A)を主体とする近赤外線吸収層3を形成する際に、該透明樹脂(A)との屈折率差が0.1以下の金属酸化物微粒子の凝集体からなる十分に表面の粗い下地層2を介することで、ヘイズや吸光特性等の光学特性を十分に確保しながら、高い接着性をもって近赤外線吸収層3を形成することを可能とした。これにより、近赤外線吸収フィルタ10Aにおいては、高信頼性が実現可能である。
さらに、本実施形態の近赤外線吸収フィルタ10Aにおける近赤外線吸収層3は、含有するNIR吸収色素(B)としてNIR吸収色素(B1)を用いた場合には、その光学特性により可視波長領域の光の透過率が高く、波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する特性を有し、さらにこれと組み合わせる透明樹脂(A)を屈折率1.54以上に調整することでその作用により、遮光波長領域が695〜720nmまでの幅広い特性を有する。
本発明においては、このような光学特性に優れる近赤外線吸収層3を、上記下地層2を介することで、その光学特性を損なうことなく、かつ強固な接着性をもって、ガラス基板1上に形成することを可能とした。これにより近赤外線吸収層3のみであるいは、後述のとおり他の選択波長遮蔽層等と組み合わせて用いてNIR吸収色素(B1)の吸光特性が有効に利用され、かつ高信頼性を有する近赤外線吸収フィルタが得られる。
具体的には、ガラス基板1上に上記下地層2を介して、NIR吸収色素(B1)と屈折率1.54以上の透明樹脂(A)を組み合わせた上記(i)〜(iii)の吸光特性を有する近赤外線吸収層が形成されてなる本発明の実施形態の近赤外線吸収フィルタは、下地層2を介さない場合と同等のヘイズおよび吸光特性等の光学特性を有し、ダイシングで切断する等の加工時の応力や高温高湿の環境下での使用にも十分耐えうる強固な接着性を有するものである。
また、その近赤外線吸収特性は、NIR吸収色素(B)、特にはNIR吸収色素(B1)による近赤外線の吸収を利用するものであるため、反射型フィルタのような分光透過率の入射角依存性の問題が生ずることもない。
さらに、本実施形態の近赤外線吸収フィルタ10Aは、下地層2および近赤外線吸収層3ともに、各層における必須成分、および任意成分を溶媒に分散、溶解させて調製した各層形成用塗工液を、各塗工面に塗工し、乾燥させさらに必要に応じて硬化させることにより製造できるため、容易に、かつ十分に、高信頼性の近赤外線吸収フィルタの小型化、薄型化ができる。
本発明の近赤外線吸収フィルタは、ガラス基板1とその一方の主面上に形成された上に説明した下地層2および近赤外線吸収層3を具備する。近赤外線吸収フィルタの構成はガラス基板1と該下地層2および近赤外線吸収層3を具備する以外は特に制限されず、図1に示す近赤外線吸収フィルタ10Aのようにガラス基板1、下地層2および近赤外線吸収層3のみで近赤外線吸収フィルタを構成してもよく、他の構成要素とともに近赤外線吸収フィルタを構成してもよい。他の構成要素としては、反射防止膜、特定の波長域の光を反射する反射膜、特定の波長域の光の透過と遮蔽を制御する選択波長遮蔽層等が挙げられる。本発明の近赤外線吸収フィルタが、これら各種機能膜を有する場合、これらは誘電体多層膜で構成されることが好ましい。
図4は、本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態の別の一例を概略的に示す断面図である。図4に示す本発明の実施形態の近赤外線吸収フィルタ10Bは、ガラス基板1と、その一方の主面上に形成された下地層2および下地層2上に形成された近赤外線吸収層3と、さらに、近赤外線吸収層3のガラス基板1側と反対側の面上、すなわち近赤外線吸収層3上に形成された、誘電体多層膜4からなる。ガラス基板1、下地層2および近赤外線吸収層3は上記近赤外線吸収フィルタ10Aと同様にできる。
誘電体多層膜4は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層することで、得られる光学的機能を有する膜である。設計により、光の干渉を利用して特定の波長域の光の透過や遮蔽を制御する機能を発現させた反射防止膜、反射膜、選択波長遮蔽層等として使用できる。近赤外線吸収フィルタ10Bにおいて、誘電体多層膜4は反射防止機能を有する膜として設計することが好ましい。
誘電体多層膜4が反射防止膜である場合、誘電体多層膜(反射防止膜)4は、近赤外線吸収フィルタ10Bに入射した光の反射を防止することにより透過率を向上させ、効率良く入射光を利用する機能を有するもので、従来より知られる材料および方法により形成できる。
高屈折率の誘電体膜を構成する高屈折率材料としては、屈折率がこれと組み合わせて用いられる低屈折率材料に比べて高い材料であれば特に制限されない。具体的には、屈折率が1.6を超える材料が好ましい。より具体的には、Ta(2.22)、TiO(2.41)、Nb(2.3)、ZrO(1.99)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、成膜性と屈折率等をその再現性、安定性を含め総合的に判断して、TiO等が好ましく用いられる。なお、化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。以下、低屈折率材料についても同様に化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。
低屈折率の誘電体膜を構成する低屈折率材料としては、屈折率がこれと組み合わせて用いられる高屈折率材料に比べて低い材料であれば特に制限されない。具体的には、屈折率が1.55未満の材料が好ましい。より具体的には、SiO(1.45)、SiO(1.46以上1.55未満)、MgF(1.38)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、SiOが成膜性における再現性、安定性、経済性などの点で好ましい。
高屈折率の誘電体膜と低屈折率の誘電体膜を交互に積層させた誘電体多層膜4を、反射防止膜と設計する方法は、常法によればよい。典型的な一例を表3に示すが、本発明において用いる誘電体多層膜4を反射防止膜とする際の設計がこれに限定されるものではない。
Figure 0005849899
図5は、本発明の近赤外線吸収フィルタの実施形態のさらに別の一例を概略的に示す断面図である。図5に示す本発明の実施形態の近赤外線吸収フィルタ10Cは、ガラス基板1と、その一方の主面上に、以下の順に形成された下地層2、近赤外線吸収層3、第1の誘電体多層膜4と、ガラス基板1の下地層2、近赤外線吸収層3、第1の誘電体多層膜4が形成された主面と反対側の主面上に形成された第2の誘電体多層膜5からなる。ガラス基板1と、下地層2および近赤外線吸収層3は上記近赤外線吸収フィルタ10Aと同様にできる。第1の誘電体多層膜4としては、例えば、図4に示す近赤外線吸収フィルタ10Bの誘電体多層膜4と同様に反射防止機能を有する膜が用いられる。
第2の誘電体多層膜5としては、例えば、高屈折率の誘電体膜と低屈折率の誘電体膜を交互に積層させた紫外・赤外光遮蔽機能を有する膜が用いられる。第2の誘電体多層膜5を、紫外・赤外光遮蔽膜として設計する方法は、常法によればよい。典型的な一例を表4に示すが、本発明において用いる第2の誘電体多層膜5を紫外・赤外光遮蔽膜とする際の設計がこれに限定されるものではない。また、第2の誘電体多層膜5を紫外・赤外光遮蔽膜として設計する場合、遮蔽する波長領域の異なる誘電体多層膜の2種以上を組み合わせる設計としてもよい。
Figure 0005849899
さらに、本発明の近赤外線吸収フィルタには、光の利用効率を高めるために、モスアイ構造のように表面反射を低減する構成を設けてもよい。モスアイ構造は、例えば400nmよりも小さい周期で規則的な突起配列を形成した構造で、厚さ方向に実効的な屈折率が連続的に変化するため、周期より長い波長の光の表面反射率を抑える構造であり、モールド成型等により近赤外線吸収フィルタの表面、例えば、図5に示す近赤外線吸収フィルタ10Cであれば第1の誘電体多層膜4上に形成できる。
以上、本発明の近赤外線吸収フィルタの構成および各構成層の形成方法、積層方法について例を挙げて説明した。
本発明の近赤外線吸収フィルタを製造するにあたっては、通常、実際に用いるサイズより大サイズで得られた母材をダイシングで切断して製品サイズに加工する。
図6は、図5に示す近赤外線吸収フィルタ10Cを製造する際のダイシング工程を模式的に示す図である。
図6(A)は近赤外線吸収フィルタ10Cを得るための母材7であり、縦横のサイズが大サイズである以外、近赤外線吸収フィルタ10Cと同様の構成を示す。
ダイシング工程においては、まず、母材7の両主面上に保護フィルム6を貼付し、被切断物71として保持基材11上に固定する(図6(B))。次いで、この保護フィルム6付き母材7(被切断物71)をダイシングソーの切断テーブルに設置しダイシングブレードにより切断を行う。図6(C)は、ダイシングブレード12による切断時における被切断物71の断面図を示し、図7は、図6(C)に示す切断時のダイシングブレード12と切断テーブル14の動きを示す外観図である。
被切断物71の切断は、ダイシングブレード12が回転可能に配設された上下(図中、Z方向)に移動可能なヘッド13に対して、切断テーブル14がダイシングブレード12の面と平行する方向(図7では、Y方向)に移動することによって行われる。ダイシングブレード12が、Y方向に被切断物71の端まで達すると、切断テーブル14がダイシングブレード12の面と直交する方向(図7では、X方向)に移動して、順次、Y方向の切断が行われる。なお、X軸方向への切断は、切断テーブル14を90度回転後、同様の操作により行われる。切断により製品サイズとなった個片10C’が、洗浄等の工程後、保護フィルム6を取り外され近赤外線吸収フィルタ10C(図6(D))として使用される。
従来では、このようなダイシングソーによる切断によって、母材は断面方向に負荷がかかり近赤外線吸収層とガラス基板の間で剥離が発生する問題があったところ、本発明においては、ダイシングソーによる切断によっても、母材7において近赤外線吸収層3、下地層2、ガラス基板1の間で剥離が発生することが殆どなく、製品歩留まりの向上に貢献可能である。
本発明の近赤外線吸収フィルタは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等の近赤外線吸収フィルタ、PDP用の近赤外線吸収フィルタ等として使用できる。本発明の近赤外線吸収フィルタはデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の固体撮像装置において好適に用いられ、近赤外線吸収フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。
以下に図8を参照しながら、本発明の近赤外線吸収フィルタを撮像レンズと固体撮像素子との間に配置して用いた本発明の固体撮像装置の一例を説明する。
図8は、上記近赤外線吸収フィルタ10Cを用いた固体撮像装置の一例の要部を概略的に示す断面図である。この固体撮像装置20は、図8に示すように、固体撮像素子21と、その前面に以下の順に、近赤外線吸収フィルタ10Cと、撮像レンズ23を有し、さらにこれらを固定する筐体24とを有する。撮像レンズ23は、筐体24の内側にさらに設けられたレンズユニット22により固定されている。近赤外線吸収フィルタ10Cは固体撮像素子21側に第1の誘電体多層膜4が、撮像レンズ23側に第2の誘電体多層膜5が位置するように配置されている。固体撮像素子21と、撮像レンズ23とは、光軸Xに沿って配置されている。
本発明の固体撮像装置は、上記本発明の近赤外線吸収フィルタを用いることで、高温高湿の環境下での使用においても高信頼性を維持できる固体撮像装置である。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例1、2は、実施例であり、例3、4は、比較例である。各例において物性等の評価は下記の方法で行った。
(平均一次粒子径)
透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H−9000)または走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)を使用して、検体微粒子の観察画像から無作為に抽出した100個の微粒子の粒子径を測定し、それらの値を平均して求めた。
(平均二次粒子径)
検体微粒子を水、アルコール等の分散媒に分散させた粒子径測定用分散液(固形分濃度:5質量%)について、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック超微粒子粒度分析計UPA−150)を用いて数平均凝集粒子径を測定した。
(下地層の表面粗さRaおよび下地層の平均膜厚)
接触式膜厚測定装置(Veeco社製、DEKTAK150)を使用して、下地層の平均膜厚および表面粗さRa(JIS B0601(2001年)に規定される算術平均高さRa)を測定した。なお、下地層の平均膜厚は、各例で用いるのと全く同様の方法でガラス基板上に下地層を形成した下地層付きガラス基板からなる膜厚測定サンプルについて、長さ5.0cm×幅2.0cmで下地層を剥離し、得られる下地層の断面における基板表面と下地層表面の高さの差(段差)を長さ方向の2.0cmに亘って、ISO 5436−1に基づき測定しその平均段差を平均膜厚とした。
(ヘイズ)
ガラス基板上に下地層を形成した下地層付きガラス基板、および近赤外線吸収フィルタについてヘイズメーター(BYK Gardner社製、haze−gard plus)を用いてヘイズを測定した。
(透過率および透過率の変化量D)
近赤外線吸収フィルタおよび近赤外線吸収層について紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて透過スペクトル(透過率)を測定し、算出した。なお、近赤外線吸収層の透過率については、近赤外線吸収層を有しない構成の基板の透過スペクトルの測定を行い、その差分として求めた。
(密着性試験)
密着性の試験は、近赤外線吸収フィルタを100℃の蒸留水に3時間浸漬後、近赤外線吸収フィルタの近赤外線吸収層表面にセロハンテープを貼付しクロスカット法(JIS K5600)により評価を行った。クロスカット25マスすべてに剥離が観察されない場合を「○」、1マスでも剥離が観察された場合を「×」とし、評価した。
[例1:近赤外線吸収フィルタAの作製]
以下のようにして図5に示す近赤外線吸収フィルタ10Cと同様の構成の近赤外線吸収フィルタAを作製した。
ガラス基板1の一方の主面に以下の構成の下地層2Aと近赤外線吸収層3をガラス基板1側からその順に形成した。さらに、近赤外線吸収層3の上に反射防止膜である第1の誘電体多層膜4を、ガラス基板1の他方の主面に第2の誘電体多層膜5を形成し近赤外線吸収フィルタAを作製した。
(下地層2Aの形成)
エタノール100質量部に対して、酸化アルミニウム微粒子(日本アエロジル社製、商品名:酸化アルムニウムc、屈折率1.63、平均一次粒子径13nm)5質量部をガラス容器に秤量し混合した。この混合溶液に、Φ0.5mmのジルコニアボール40質量部を添加し、ボールミルにて2時間湿式粉砕を行った後、ジルコニアボールを除去して、エタノールに酸化アルミニウム微粒子の凝集体が4.7質量%で分散する分散液Aを得た。得られた分散液Aにおける酸化アルミニウム微粒子凝集体の平均二次粒子径は60nmであった。
この分散液Aを下地層形成用塗工液として厚さ1mmのガラス基板1(ソーダガラス)上にスピンコートにより塗布し、150℃で30分間、焼成し下地層2Aを得た。得られた下地層2Aの表面粗さRaは73nm、平均膜厚は232nmであった。また、この下地層2Aのヘイズは、2.3%であった。
(近赤外線吸収層3の形成)
NIR吸収色素(B1)として、そのアセトン溶液の吸収スペクトルが図2に示される化合物(F11−1)を用いた。NIR吸収色素(B1)と、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:OKP4HT、屈折率1.64)の20質量%シクロヘキサノン溶液とを、ポリエステル樹脂100質量部に対してNIR吸収色素(B1)が0.5質量部となるような割合で混合した後、室温にて攪拌・溶解することで近赤外線吸収層形成用塗工液Aを得た。得られた塗工液Aを、下地層2Aが形成されたガラス基板1の下地層2A上にアプリケーター(ギャップ:50μm)を用いてキャスト法により塗布し、150℃で30分間加熱乾燥させて、ガラス基板1上の下地層2A上に膜厚10μmの近赤外線吸収層3を得た。
(誘電体多層膜の形成)
近赤外線吸収層3とは反対のガラス基板1の面上に2種類の誘電体多層膜(選択波長遮蔽層)を積層して、第2の誘電体多層膜5を形成した。また、近赤外線吸収層3上に反射防止膜として、第1の誘電体多層膜4を形成した。以下、第2の誘電体多層膜5のうち、ガラス基板1側の誘電体多層膜(選択波長遮蔽層)を誘電体多層膜A、誘電体多層膜A上に積層した誘電体多層膜(選択波長遮蔽層)を誘電体多層膜Bという。また、近赤外線吸収層3上に反射防止膜として形成した第1の誘電体多層膜4を誘電体多層膜Cという。
誘電体多層膜A、誘電体多層膜Bおよび誘電体多層膜Cともに、高屈折率の誘電膜としてTiO膜、低屈折率の誘電膜としてSiO膜を想定した。具体的には、マグネトロンスパッター装置に、TiまたはSiのターゲットを用いて、ArガスとOガスを導入した反応性スパッタによりTiO膜、SiO膜をサンプルとして作製した。得られたTiO膜およびSiO膜の光学特性を、分光透過率測定により求めた。
高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において、誘電体多層膜の積層数、TiO膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚、SiO膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚、をパラメータとして、シミュレーションし、波長400〜700nmの光を90%以上透過し、波長715〜900nmの光の透過率が5%以下となるような選択波長遮蔽層として機能する誘電体多層膜Aの構成を求めた。得られた誘電体多層膜Aの構成を表5に示す。なお、誘電体多層膜Aにおいては第1層がガラス基板側に形成される設定であり、全体の膜厚は3536nmであった。
Figure 0005849899
上記同様に高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において、誘電体多層膜の積層数、TiO膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚、SiO膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚、をパラメータとして、シミュレーションし、波長420〜780nmの光を90%以上透過し、波長410nm以下の光および850〜1200nmの光の透過率がともに5%以下となるような選択波長遮蔽層として機能する誘電体多層膜Bの構成を求めた。得られた誘電体多層膜Bの構成を表6に示す。なお、誘電体多層膜Bにおいては、第1層が誘電体多層膜A側に形成される設定であり、全体の膜厚は4935nmであった。
Figure 0005849899
さらに、上記同様に高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において、誘電体多層膜の積層数、TiO膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚、SiO膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚、をパラメータとして、シミュレーションし、波長400〜700nmの光を95%以上透過する、反射防止膜として機能する誘電体多層膜Cの構成を求めた。なお、誘電体多層膜Cにおいては、第1層が近赤外線吸収層3側に形成される設定とした。
[例2:近赤外線吸収フィルタBの作製]
例1における下地層2Aのかわりに以下の方法で下地層2Bを形成した以外は例1と同様の作製方法で近赤外線吸収フィルタBを作製した。
(下地層2Bの作製)
エタノール100質量部に対して酸化アルミニウム微粒子(日本アエロジル社製、商品名:酸化アルムニウムc、屈折率:1.63、平均一次粒子径:13nm)5質量部をガラス容器に秤量し混合した、この混合溶液に、Φ0.5mmのジルコニアボール40質量部を添加し、ボールミルにて24時間湿式粉砕を行った後、ジルコニアボールを除去して、エタノールに酸化アルミニウム微粒子の凝集体が4.7質量%で分散する分散液Bを得た。得られた分散液Bにおける酸化アルミニウム微粒子凝集体の平均二次粒子径は20nmであった。
この分散液Bを下地層形成用塗工液として厚さ1mmのガラス基板1(ソーダガラス)上にスピンコートにより塗布し、150℃で30分間、焼成し下地層2Bを得た。得られた下地層2Bの表面粗さRaは41nm、平均膜厚は210nmであった。また、この下地層2Bのヘイズは、0.83%であった。
[例3:近赤外線吸収フィルタCの作製]
例1における下地層2Aのかわりに以下の方法で下地層2Cを形成した以外は例1と同様の作製方法で近赤外線吸収フィルタCを作製した。
(下地層2Cの作製)
エタノール100質量部に対して酸化ケイ素微粒子(日本アエロジル社製、商品名:アエロジル200、屈折率1.45、平均一次粒子径12nm)5質量部をガラス容器に秤量し混合した。この混合溶液に、Φ0.5mmのジルコニアボール40質量部を添加し、ボールミルにて2時間湿式粉砕を行った後、ジルコニアボールを除去して、エタノールに酸化ケイ素微粒子の凝集体が4.7質量%で分散する分散液Cを得た。得られた分散液Cにおける酸化ケイ素微粒子凝集体の平均二次粒子径は58nmであった。
この分散液Cを下地層形成用塗工液として厚さ1mmのガラス基板1(ソーダガラス)上にスピンコートにより塗布し、150℃で30分間、焼成し下地層2Cを得た。得られた下地層2Cの表面粗さは63nm、平均膜厚は245nmであった。また、この下地層2Cのヘイズは、1.65%であった。
[例4:近赤外線吸収フィルタDの作製]
例1における下地層2Aを形成しなかった以外は例1と同様の作製方法で近赤外線吸収フィルタDを作製した。
[評価]
上記例1〜4で得られた近赤外線吸収フィルタA〜Dの透過率、ヘイズを測定し、上記密着性試験により密着性を評価した。評価結果を、近赤外線吸収フィルタA〜Dの下地層の構成、物性とともに表7にまとめた。
Figure 0005849899
表7からわかるように、下地層を用いた例1〜3ではクロスカット試験において剥離が観察されておらず、密着性の向上に対して下地層が有効であることが明らかである。また例1、2においては、下地層を構成する金属酸化物粒子の屈折率と、近赤外線吸収層の透明樹脂の屈折率との差が0.1以下、すなわち本発明で規定される範囲内であるため、近赤外線吸収フィルタとしてのヘイズが小さく、近赤外線吸光特性も下地層を有しない近赤外線吸収フィルタDと同等である。一方、例3においては、近赤外線吸光特性は下地層を有しない近赤外線吸収フィルタDと同等であるものの、上記屈折率の差が0.1を超えているため、近赤外線吸収フィルタとしてのヘイズが大きく、光学性能の点で問題である。
10A,10B,10C…近赤外線吸収フィルタ、1…ガラス基板、2…下地層、3…近赤外線吸収層、4…第1の誘導体多層膜、5…第2の誘導体多層膜、6…保護フィルム、11…保護基材、12…ダイシングブレード、13…ヘッド、14…切断テーブル、
20…固体撮像装置、21…固体撮像素子、22…レンズユニット、23…撮像レンズ、24…筐体

Claims (11)

  1. ガラス基板と、前記ガラス基板の一方の主面上にガラス基板側から順に下地層および近赤外線吸収層を有する近赤外線吸収フィルタであって、
    前記近赤外線吸収層は、透明樹脂と近赤外線吸収色素を含有する層であり、
    前記下地層は、平均一次粒子径が5〜100nmの一次粒子が凝集した平均二次粒子径が20〜250nmである金属酸化物微粒子の凝集体からなり、平均膜厚が30〜1000nmであり、前記近赤外線吸収層側の面の表面粗さRaが30〜500nmの層であり、
    前記透明樹脂と前記金属酸化物微粒子との屈折率(n20d)差が0.1以下である近赤外線吸収フィルタ。
  2. 前記近赤外線吸収層のガラス基板側と反対側の面上に誘電体多層膜を有する請求項1記載の近赤外線吸収フィルタ。
  3. 前記金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ、ITO、ATO、酸化クロム、酸化マグネシウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、および酸化ジルコニウム、タングステン酸セシウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  4. 前記金属酸化物微粒子は、表面に結合するOH基を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  5. 前記近赤外線吸収色素は、屈折率(n20d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400〜1000nmの光の吸収スペクトルにおいて、ピーク波長が695〜720nmの領域にあり、半値全幅が60nm以下であり、かつ前記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と前記ピーク波長における吸光度の差を、630nmと前記ピーク波長との波長差で除した値が0.010〜0.050である最大吸収ピークを有する、近赤外線吸収色素(B1)を含有し、前記透明樹脂は、屈折率(n20d)が1.54以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  6. 前記近赤外線吸収色素(B1)が、下記一般式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選択される少なくとも1種からなる、請求項5に記載の近赤外線吸収フィルタ。
    Figure 0005849899
    ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
    およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基))を示す。
    とR、RとR、およびRとRは、それぞれ独立して、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成していてもよい。ただし、式(F1)は、複素環A、複素環B、および複素環Cから選ばれる少なくとも1以上の環構造を有する。
    複素環Aが形成される場合のRとRは、これらが結合した2価の基−Q−として、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
    複素環Bが形成される場合のRとR、および複素環Cが形成される場合のRとRは、これらが結合したそれぞれ2価の基−X−Y−および−X−Y−(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)〜(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合であってもよい。
    Figure 0005849899
    式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR2829(R28およびR29は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す)を示す。R21〜R26は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を、R27は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を示す。
    、R、R、R、R、R21〜R27、複素環を形成していない場合のR〜R、およびRは、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R21とR26、R21とR27は直接結合してもよい。
    複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、炭素数6〜11のアリール基またはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、RおよびR、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
  7. 前記透明樹脂が、それぞれフルオレン骨格を有する、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂から選ばれる請求項5または6に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  8. 前記透明樹脂がフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂である請求項5〜7のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  9. 前記金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物が、主として、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種である請求項5〜8のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  10. 前記近赤外線吸収層の膜厚が1〜100μmである請求項1〜9のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルタ。
  11. 被写体側または光源側から入射する光の光軸上にレンズ、請求項1〜10のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルタおよび固体撮像素子がその順に配置された固体撮像装置。
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