<光学フィルムの製造方法>
以下、本発明の光学フィルムの製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の光学フィルムの製造方法における流延工程の説明図である。図2および図3は、本発明の光学フィルムの製造方法における給気装置による給気状態の説明図である。
図1に示されるように、本発明の光学フィルムの製造方法は、移動する支持体1上に、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を流延させて流延膜2を形成する流延工程を有する。流延工程には、支持体1上に流延された流延膜2に前記溶媒中の主溶媒を含む主溶媒ガスGを吹き付ける蒸発抑制工程と、該蒸発抑制工程を経た流延膜2に乾燥風Dを吹き付ける乾燥工程とが含まれる。
樹脂としては、光学フィルムを構成し得る樹脂であれば特に限定されず、たとえば、ポリアミド類、ポリオレフィン類、ノルボルネン類、ポリスチレン類、ポリカーボネート類、ポリスルホン類、ポリアクリル酸類、ポリメタクリル酸類、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリビニルアルコール類、ポリビニルアセテート類、セルロース誘導体(たとえば、低級脂肪酸エステル、セルロースアシレートなど)などが挙げられる。なお、製膜されたフィルムの光学異方性が小さくなるセルロース誘導体、好ましくはセルロースアシレート、より好ましくはセルロースアセテートを使用することができる。
セルロースアセテートの具体例としては、たとえば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートなどが使用可能である。2種類以上のセルロースエステルを組み合わせて用いてもよい。セルロースエステルは、セルロース原料をアシル化することによって得ることができる。たとえば、アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸や塩化メチレン等の有機溶媒と、硫酸のようなプロトン性触媒とを用いて合成する。また、たとえば、アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することができる。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。たとえば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。アシル基の置換度はASTM−D817−96に準じて測定することができる。セルロース原料としては、特に限定されず、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、ケナフなどを挙げることができる。またそれらのセルロース原料はそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。セルロースエステルの数平均分子量(Mn)は、通常50000〜200000であり、重量平均分子量(Mw)は、通常150000〜400000である。
溶媒としては、セルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒を用いることができる。本発明でいう良溶媒は、セルロースエステルに対して良好な溶解性を示す有機溶媒であり、たとえば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、アセトン、シクロヘキサノン、アセト酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、塩化メチレン、ブロモプロパン等を挙げることができる。これらの中でも特に、酢酸メチル、アセトン、塩化メチレンを好ましく用いることができる。
本発明において、主溶媒とは、1種類の溶媒を使用する際にはその溶媒をいい、複数の溶媒からなる混合溶媒を使用する際には、体積比でもっとも大きい溶媒をいう。
樹脂溶液には、適宜、添加剤を配合することができる。本発明において使用可能な添加剤としては、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコール、可塑剤、微粒子(マット剤)、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールは、樹脂溶液を支持体1上に流延した後、溶媒が蒸発しはじめてアルコールの比率が多くなることにより流延膜2をゲル化させ、かつ、流延膜2を丈夫にして、支持体1から剥離しやすくするためのゲル化溶媒として用いられる。
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらの中でも、樹脂溶液の安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。
可塑剤としては、特に限定されず、たとえば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができる。これらの中でも特に、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤を好ましく用いることができる。これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。可塑剤の配合量としては、樹脂に対して1〜20質量%が好ましい。
マット剤等の微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子を採用することができる。具体的には、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子を採用することができる。微粒子の配合量としては、樹脂に対して0.04〜1.0質量%が好ましい。微粒子の分散は、微粒子と溶媒を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。高圧分散装置としては、たとえばMicrofluidicsCorporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名:マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザー、マントンゴーリン型高圧分散装置(たとえば(株)イズミフードマシナリ製ホモゲナイザー)などを採用することができる。微粒子の配合量としては、樹脂溶媒中で1〜30質量%程度が好ましい。30質量%を超えて配合した場合、樹脂溶液の粘度が上昇する傾向がある。一方、1質量%未満の場合には、微粒子を配合する効果が得られない傾向がある。
紫外線吸収剤としては、たとえば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができる。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができる。これらの中でも、偏光子や液晶の劣化防止、液晶表示性の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネート、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)、特開平6−148430号公報および特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)等を好ましく用いることができるが、これらに限定されない。これらの紫外線吸収剤の配合量としては、樹脂に対して、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。紫外線吸収剤の配合量が0.01質量%未満の場合、紫外線吸収効果が不充分な場合がある。一方、10質量%を超える場合、フィルムの透明性が劣化する可能性がある。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられる。たとえば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を用いることができる。これらの中でも特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、たとえば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの酸化防止剤の配合量としては、樹脂に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、より好ましくは10〜1000ppmである。
樹脂および上記した添加剤は、上記した溶媒に溶解されて樹脂溶液が作製される。樹脂溶液は、濾材で濾過され、その後、脱泡される。濾材としては、捕集粒子径が0.5〜5μmで、濾水時間が10〜25秒/100mlのものを用いることが好ましい。
主溶媒ガスGとは、上記主溶媒が揮発して作成されたガスをいう。主溶媒ガスG中の主溶媒の濃度は、飽和蒸気圧として示すことができる。本発明において、主溶媒ガスGの濃度としては、飽和蒸気圧に近いほど好ましい。すなわち、主溶媒の飽和蒸気量をSvとしたときに、主溶媒ガスGの濃度は、0.7Sv〜Svであることが好ましく、より好ましくはSvである。主溶媒ガスGの濃度が0.7Sv未満の場合、蒸発抑制よりも乾燥促進の効果が顕著となってしまう傾向がある。
流延膜2とは、図1に示されるように、流延ダイ3から支持体1上に樹脂溶液を流延することにより形成された膜をいい、後述する延伸工程や第二乾燥工程等によりフィルムを形成するまでの樹脂溶液を指す。
(蒸発抑制工程)
蒸発抑制工程について説明する。蒸発抑制工程は、流延直後における流延膜2表面からの溶媒の蒸発を抑制する工程である。
流延直後の流延膜2は、その構成成分中に占める溶媒量が多く、流動性に富んでいる。このような状態の流延膜2に乾燥風Dを吹き付けた場合、流延膜2の表面性状が悪化するほか、流延膜2の表面と内部、底部(支持体1との接触部)との溶媒量の差が大きくなり、得られる光学フィルムの物性にムラを生じる傾向がある。一方、乾燥風Dを使用しない場合には、軟膜として剥ぎ取れる程度に乾燥するまでに時間がかかり、生産効率が低下する傾向がある。また、乾燥風Dを使用しない場合には、流延膜2の表面性状をレベリングすることができない傾向がある。そのため、流延直後の流延膜2からは、溶媒の蒸発を抑制し、ある程度流延した後に乾燥させることにより、表面性状を良好に維持しながら、軟膜の形成を速めることができる。このような観点から、本発明では、図1に示されるように、流延ダイ3から支持体1上に流延された流延膜2に対して、後述する乾燥手段4よりも支持体1の移動方向の上流に設けられた給気手段5により、上記した溶媒中の主溶媒を含む主溶媒ガスGを吹き付けている。
図1に示されるように、まず、樹脂溶液は、流延ダイ3より支持体1上に流延される。具体的には、樹脂溶液は、たとえば加圧型定量ギヤポンプ等の送液ポンプによりタンク(図示せず)から流延ダイ3に送られ、流延ダイ3の流延口から流延される。
流延ダイ3としては、吐出口の形状が調整可能なものが好ましい。また、流延膜2の膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイの種類としては、コートハンガーダイやTダイなどがあり、いずれも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために、加圧ダイを2基以上並べて配設し、樹脂溶液を分割して吐出してもよい。流延ダイ3から樹脂溶液を吐出する吐出速度は、支持体1の移動速度との兼ね合いや生産性等を考慮して、たとえば、30〜150m/分程度であることが好ましい。
支持体1は、無端ベルトにより無端状に形成されている。電源(図示せず)により駆動制御された回転ローラ6により無端ベルトが回転し、矢印Aの方向へ支持体1上の流延膜2を移動させる。支持体1の移動速度(無端ベルトの回転速度)としては、60〜150m/分であることが好ましい。支持体1の移動速度をこの範囲内とすることにより、光学フィルムを高速生産することができる。
支持体1としては、表面を鏡面仕上げしたものを好ましく使用することができる。金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムを好ましく使用することができる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度としては、−50〜40℃の温度が好ましく、より好ましくは0〜40℃であり、さらに好ましくは5〜30℃である。支持体1の温度を制御する方法は特に限定されず、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。本発明では、温風や冷風を吹きかけることにより支持体1上の流延膜2の表面性状が悪化することが無いよう、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法を採用することが好ましい。
支持体1上に流延された流延膜2は、矢印Aの方向へ移動する支持体1により、矢印A方向へ移動し、給気手段5から給気される主溶媒ガスGが吹き付けられる。
給気手段5は、支持体1上を移動する流延膜2に主溶媒ガスGを吹き付けるために設けられている。給気手段5の設置場所は、支持体1の移動方向に沿って、樹脂溶液が流延される位置の下流側であって、後述する乾燥手段4により乾燥風Dが吹き付けられる位置の上流側である。
図2に示されるように、給気手段5より給気される主溶媒ガスGの吹き付け方向(図2の吹き付け角θとなる方向)としては、支持体1上を移動する流延膜2の法線N(支持体1と直行する方向)に沿って、流延膜2の表面方向へ、法線Nから流延膜2の移動する方向(矢印Aの方向)へ45〜85°傾斜する方向が好ましく、より好ましくは50〜65°である。また、支持体1に対する主溶媒ガスGの風速は、実効風速で0.1〜3.0m/sであることが好ましく、より好ましくは、1.0〜2.0m/sである。この吹き付け角θおよび主溶媒ガスGの風速を採用することにより、伴走風を打ち消すことができる。
ここで、伴走風とは、支持体1上を移動する流延膜2の表面に発生する相対的な向かい風をいう。流延直後の流延膜2は、流動性に富んでいるため、伴走風により流延膜2の表面にムラを発生しやすい。このような表面ムラに対する伴走風の影響は、光学フィルムを高速生産するために支持体1の移動速度を速くした場合に特に顕著に現れる。そのため、本発明では、給気手段5より主溶媒ガスGを吹き付けることにより伴走風を打ち消している。これにより、伴走風による表面ムラの発生を抑制することができるとともに、流延膜2の表面近傍に主溶媒ガスGを滞留させて、流延膜2からの溶媒の蒸発を抑制することができるとともに、流延膜の表面にレベリング効果を付与することができる。
なお、本発明において、実効風速とは、フィルム表面から1.0cm離れた位置で、風速計(アネモマスター:日本カノマックス株式会社製)で測定した平均風速を指すものとする。
また、主溶媒ガスGを吹き付ける際の給気手段5のガス供給口5aの位置としては、支持体1上を移動する流延膜2の表面から1〜300mm離間した位置であることが好ましく、より好ましくは、10〜100mm離間した位置である。離間距離を上記範囲内に保つことにより、移動する支持体1上の流延膜2にムラなく主溶媒ガスGを吹き付けることができ、表面ムラの発生を抑制することができる。また、移動中の流延膜2とガス供給口5aとが接触することがなく、かつ、流延膜2からの溶媒の蒸発を充分に抑制することができる。
主溶媒ガスGを吹き付ける期間としては、支持体1上に流延された樹脂溶液中の溶媒量を100質量%とした場合に、残留溶媒率が80質量%以上100質量%未満となるまでの期間が好ましく、より好ましくは85質量%以上90質量%以下となる期間である。溶媒量が上記範囲内となる期間において主溶媒ガスGを吹き付けることにより、後続する乾燥工程において、より確実に流延膜の表面にレベリング効果を付与するとともに、表面ムラを生じない程度に流延膜2を乾燥することができる。なお、本発明においては、残留溶媒率は以下の式により定義される。
残留溶媒率(質量%)=(M/N)×100
(式中、Mは『流延膜2の加熱処理前の質量−流延膜2の加熱処理後の質量』を表し、Nは『流延前の樹脂溶液の加熱処理前の質量−流延前の樹脂溶液の加熱処理後の質量』を表す。流延膜2は、支持体1上の任意の点において採取する。樹脂溶液は、支持体1上に流延した直後の樹脂溶液を採取することが好ましい。加熱処理とは、115℃で1時間加熱する処理をいう)。
また、図3に示されるように、支持体1の両側には、遮蔽部材6を設けることが好ましい。この遮蔽部材6を設けることにより、給気手段5から給気される主溶媒ガスGが支持体1の両側から拡散しにくくなるため、支持体1上を移動する流延膜2の表面近傍に主溶媒ガスGを滞留させやすくすることができる。すなわち、上記のとおり、支持体1に対する主溶媒ガスGの風速は、実効風速で0.1〜3.0m/s程度に調整されているため、支持体1上を移動する流延膜2の表面近傍には、主溶媒ガスGが滞留しやすい環境となっている。このような環境下において、さらに主溶媒ガスGを効率的に滞留させるため、支持体1の両側に遮蔽部材6を設けている。その結果、流延膜2の表面における主溶媒ガスGの濃度を安定に高く保持することができ、より確実に流延膜2からの溶媒の蒸発を抑制することができる。遮蔽部材6の材質としては、たとえばステンレスを挙げることができ、遮蔽部材6の大きさとしては、たとえば高さ10cm、長尺方向の長さ50cmとすることができる。
また、図3に示されるように、ガス供給口5aには、ガス供給口5aから供給される主溶媒ガスGの流れを整流する整流部材5bが設けられることが好ましい。
整流部材5bを設けることにより、たとえばガス供給口5aの縁に近い部分と、縁から遠い部分(ガス供給口5aの中心部)との間で、主溶媒ガスGの風速や拡散度合いに差が生じることがない。特に本発明では、広幅の流延膜2を支持体1上に流延させ、移動する広幅の流延膜2に対して均一に主溶媒ガスGを吹き付ける必要があるため、ガス供給口5aの形状は扁平な形状を呈していることが好ましいが、このような場合であってもガス供給口5aから供給される主溶媒ガスGの風速や拡散度合いに差が生じることがなく、支持体1上を移動する流延膜2に対する主溶媒ガスGの実効風速を均一に保ち、流延膜2に局所的な表面ムラが生じることを防止することができる。
整流部材5bの構成としては特に限定されないが、たとえば、図3に示されるように、ガス供給口5aを格子状に区切るような整流部材5bを設けることが好ましい。より好ましくは供給口をパンチ板形状とする整流部材5bが好ましい。このような構成を採用することにより、支持体1上を移動する流延膜2の表面全体に対して、主溶媒ガスGをより静圧に近い状態で均一にかつ安定に吹き付けることができる。
なお、整流部材5bはガス給気口5aと一体的に設けてもよく、着脱可能に別体として設けてもよい。
(乾燥工程)
乾燥工程について説明する。乾燥工程は、蒸発抑制工程を経た流延膜2に乾燥風Dを吹き付けることにより、支持体1から軟膜として流延膜2を剥離可能な程度にまで乾燥させる工程である。
光学フィルムが良好な平面性を示すためには、支持体1から流延膜2を剥離する際の残留溶媒率が70〜90質量%となっていることが好ましい。乾燥工程では、このような範囲に収まるよう乾燥条件を調整する。
乾燥方法としては特に限定されず、たとえば、乾燥手段4としてノズルやパンチ板等を使用することができる。また、乾燥条件としては、たとえば50℃10%RHの乾燥風を静圧で100〜1200Paの条件で乾燥風Dを吹き付けることができる。
図1に示されるように、乾燥手段4の設置場所は、支持体1の移動方向に沿って給気手段5の下流側であればよい。また、乾燥手段4は複数個所に設けてもよい。
(その他の工程)
<樹脂溶液の調製工程>
樹脂溶液の調製工程について説明する。樹脂溶液の調製工程は、流延ダイ3から支持体1上に流延される樹脂溶液を調製する工程である。樹脂溶液の調製方法としては特に限定されず、たとえば、溶解釜を使用して、上記した溶媒に樹脂を投入して調製することができる。樹脂溶液中の樹脂の含有量としては、たとえば固形分濃度として15〜30質量%である。樹脂の含有量が固形分濃度として15質量%未満の場合、支持体1上で充分な乾燥ができず、剥離時に流延膜2の一部が支持体1上に残り、支持体1が汚染される傾向がある。一方、30質量%を超える場合、樹脂溶液の粘度が高くなり、樹脂溶液の調製工程においてフィルタ詰まりを生じたり、支持体1上への流延時に圧力が高くなり過ぎて、流延ダイ3より押し出せなくなる傾向がある。
樹脂を溶媒に溶解させる方法としては、常圧で溶解する方法、溶媒の沸点以下で溶解する方法、加圧しながら溶媒の沸点以上で溶解する方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報または特開平9−95538号公報に記載されるように、冷却溶解法を採用する方法、特開平11−21379号公報に記載されるように高圧で溶解する方法などを採用することができる。これらのなかでは、加圧しながら溶媒の沸点以上で溶解する方法が好ましい。
得られた樹脂溶液は、濾材で濾過され、脱泡された後、送液ポンプ(図示せず)で流延ダイ3に送られる。濾過は、捕集粒子径が0.5〜5μmで、かつ濾水時間が10〜25秒/100mlである濾材を用いることが好ましい。濾過により、樹脂粒子の分散時に残存する凝集物等のみを除去することができる。
樹脂溶液には、返材を10〜50質量%程度配合することができる。返材とは、液晶偏光板用保護フィルムの粉砕物であり、液晶偏光板用保護フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷等でスペックアウトした液晶偏光板用保護フィルム原反などである。返材にはアクリル粒子が含まれることがあるため、返材の添加量に合わせてアクリル粒子添加液の添加量を調整することが好ましい。また、あらかじめアクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、アクリル粒子を混練してペレット化したものを使用することができる。
上記のとおり調製された樹脂溶液は、流延ダイ3より支持体1上に流延される。
<剥離工程>
剥離工程について説明する。剥離工程は、乾燥工程を経て軟膜を形成した流延膜2を剥離ロール7により支持体から剥離する工程である。剥離された軟膜は、第二乾燥工程、延伸工程、熱処理工程等の工程に送られ、その後、巻取工程により巻き取られて光学フィルムが作製される。
支持体1上の剥離位置の温度は、10〜40℃であり、好ましくは11〜30℃である。支持体1と流延膜2とを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、剥離できる最低張力〜166.6N/m、次いで、最低張力〜137.2N/mで剥離することが好ましい。
<第二乾燥工程、延伸工程、熱処理工程、巻取工程>
第二乾燥工程、延伸工程、熱処理工程、巻取工程について説明する。これらの工程は、剥離された流延膜を、乾燥装置内に複数配置されたローラにより交互に搬送する乾燥装置および/またはピンで流延膜の両端を保持して搬送するピンテンター延伸装置を用いて、乾燥、延伸、熱処理を施し光学フィルムを作製するとともに、得られた光学フィルムを巻き取る工程である。装置の構成によってはこれらのうち複数の工程が同時に行われることがある。なお、本発明では、上記した流延工程においても乾燥工程を有していることから、当該乾燥工程と区別する目的で、剥離した軟膜に対して行う乾燥工程を第二乾燥工程と呼んでいる。
第二乾燥工程における乾燥方法としては、流延膜の両面に熱風を吹き付ける方法が一般的であるが、熱風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する方法を採用することも可能である。流延膜は急激な乾燥により、表面ムラが発生しやすいため、残留溶媒率が8質量%以下となった時点から乾燥するのが好ましい。乾燥温度としては、40〜250℃程度が好ましい。
延伸工程において、ピンテンター延伸装置を用いる場合は、ピンテンターによる流延膜(フィルム)の保持位置を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、平面性を改善するため意図的に異なる温度帯域を持つ区画を作ってもよい。
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、長手方向と幅手方向とに二軸延伸を実施することが好ましい。なお、二軸延伸を行う場合には同時に延伸してもよく、段階的に延伸してもよい。段階的に延伸する場合、たとえば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。すなわち、長手方向に延伸,幅手方向に延伸,長手方向に延伸,長手方向に延伸の順で延伸してもよく、幅手方向に延伸,幅手方向に延伸,長手方向に延伸,長手方向に延伸の順で延伸してもよい。本発明において、同時二軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時二軸延伸の好ましい延伸倍率は、長手方向、幅手方向ともに1.01倍(延伸率:1%)〜1.5倍(延伸率:50%)の範囲である。
テンターによる延伸を行う場合の流延膜の残留溶媒率は、テンター開始時(延伸開始時)に3〜8質量%であるのが好ましく、かつ流延膜の残留溶媒率が5質量%以下になるまでテンターをかけながら乾燥を行うことが好ましい。テンターによる延伸を行う場合の乾燥温度としては、30℃以上であり、かつ、アクリル樹脂のガラス転移温度とセルロースエステル樹脂のガラス転移温度とのうちいずれか高いほうのガラス転移温度αよりも30℃高い温度(α+30℃)以下が好ましい。このような温度としては、たとえば、30〜190℃、30〜160℃、50〜150℃、70〜140℃などである。
延伸工程において、幅手方向の温度分布が少ないことが、得られる光学フィルムの表面性状の均一性を高める観点から好ましく、幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、より好ましくは±2℃以内であり、さらに好ましくは±1℃以内である。
巻取工程について説明する。巻取工程は、流延膜中の残留溶媒率が1質量%以下となってから光学フィルムとして巻き取り機により巻き取る工程である。
巻き取り方法としては特に限定されず、公知の巻取方法を採用することができ、たとえば定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などを採用することができる。
巻取長さとしては、100〜8000m程度が好ましく、通常はロール状に巻き取る。また、巻き取られた光学フィルムの幅は、1.3〜3.0m程度である。
以上、本発明の製造方法によれば、支持体上に流延された直後の流延膜の乾燥が緩やかとなり、かつ、流延膜表面近傍に存在する主溶媒ガスの濃度が均一に高められる結果、表面ムラが少なく、平面性、位相差均一性に優れた光学フィルムを得ることのできる製造方法を提供することができる。また、大幅な設備の増設を必要とせずに、上記効果を奏する光学フィルムを製造することができる。
<光学フィルム>
次に、本発明の光学フィルムについて説明する。本発明の光学フィルムは、上記した光学フィルムの製造方法により製造される光学フィルムである。
本発明の光学フィルムは、膜厚が15〜60μmであり、より好ましくは20〜40μmである。膜厚が上記範囲内の場合に、本発明の光学フィルムを使用して得られる偏光板や液晶表示装置の薄膜化(薄型化)に寄与することができる。また、本発明の光学フィルムは、幅手方向および長手方向の膜厚偏差が0.2〜0.7μmである。膜圧偏差が上記範囲内の場合に、光学フィルムの表面性が良好に維持されて、より一層、光学特性に優れた光学フィルムを得ることができる。
以上、本発明の光学フィルムによれば、表面ムラが少なく、平面性、位相差均一性に優れた光学フィルムを提供することができる。
<偏光板>
次に、本発明の偏光板について説明する。本発明の偏光板は、上記光学フィルムを、少なくとも一方の面に備える。
偏光板は、上記光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして設けることにより作製することができる。具体的には、光学フィルムの裏面側に粘着層を設け、ヨウ素溶液中に浸漬し、延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、粘着層を介して光学フィルムを貼り合わせることにより作製することができる。もう一方の面には、上記光学フィルムを用いてもよく、その他の偏光板用保護フィルムを用いてもよい。たとえば、市販のセルロースエステルフィルム(たとえば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC8UE、KC4UE、KC4FR−3、KC4FR−4、KC4HR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、コニカミノルタオプト(株)製)などを使用することができる。
偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられる。ポリビニルアルコール系偏光フィルムとしては、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものとがあり、ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく使用される。
偏光子の作製方法としては、ポリビニルアルコール水溶液を用いて製膜し、得られたポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後に染色するか、染色した後に一軸延伸する方法を採用することができる。ホウ素化合物を併用して耐久性を増加させることが好ましい。偏光子の膜厚としては、5〜40μmであることが好ましく、より好ましくは5〜30μm、さらに好ましくは5〜20μmである。
偏光子の表面に、セルロースエステル系樹脂フィルムを張り合わせる場合、完全ケン化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせることが好ましい。また、セルロースエステル系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
粘着層を形成するために用いられる粘着剤としては、粘着層の少なくとも一部分において25℃での貯蔵弾性率が1.0×104〜1.0×109Paの範囲である粘着剤が好ましい。中でも、粘着剤を塗布し、貼り合わせた後に種々の化学反応により高分子量体または架橋構造を形成する硬化型粘着剤が好ましい。具体的には、たとえば、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤等の硬化型粘着剤、湿気硬化ウレタン粘着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレート等の嫌気性粘着剤、シアノアクリレート系の瞬間粘着剤、アクリレートとペルオキシド系の2液型瞬間粘着剤等を採用することができる。これら粘着剤は、1液型であってもよく、使用前に2液以上を混合して使用してもよい。
また、粘着剤は、有機溶媒に含まれる溶媒系粘着剤であってもよく、水を主成分とするエマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型等の水系粘着剤であってもよく、無溶媒型粘着剤であってもよい。粘着剤液の濃度としては、粘着後の膜厚、塗布方法、塗布条件等により適宜決定されればよく、通常は0.1〜50質量%である。
前記偏光板としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸することによって作製される偏光子の少なくとも一方の表面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて、前記光学フィルムを貼り合わせたものが好ましい。また、偏光子のもう一方の表面にも、光学フィルムを積層させてもよいし、その他の偏光板用透明保護フィルムを積層させてもよい。その他の偏光板用透明保護フィルムとしては、上記した市販のセルロースエステルフィルム等が好ましく用いられる。また、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等の樹脂フィルムを用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
本発明の偏光板において、光学フィルムが位相差フィルムとして機能する場合、光学フィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
本発明の偏光板は、反射型、透過型、半透過型LCDまたはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型(FFS方式も含む)等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。
以上、本発明の偏光板は、透明保護フィルムとして、本発明の光学フィルムを用いているため、透明保護フィルムの良好な平面性が維持されて、光学特性に優れた偏光板を提供することができる。
<液晶表示装置>
次に、本発明の液晶表示装置について説明する。本発明の液晶表示装置は、本発明の光学フィルムまたは本発明の偏光板を備える。すなわち、本発明の光学フィルムを液晶偏光板用保護フィルムとして貼合した偏光板を液晶表示装置に組み込むことにより、光学フィルムまたは偏光板の良好な平面性が維持されて、光学特性に優れた液晶表示装置を提供することができる。特に、大型の液晶表示装置やデジタルサイネージ等の屋外用途の液晶表示装置に好ましく用いることができる。
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、本発明の偏光板を採用している。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質を充填したものであり、この電極に電圧を印加することにより、液晶の配向状態が変化し、透過光量が制御される構成を有する。
以上、本発明の液晶表示装置は、透明保護フィルムとして、本発明の光学フィルムまたは本発明の偏光板を用いているため、透明保護フィルムの良好な平面性が維持されて、光学特性に優れた液晶表示装置を提供することができる。
<流延装置>
次に、本発明の流延装置について説明する。図1に示されるように、本発明の流延装置8は、流延口から、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を流延するための流延ダイ3と、該流延ダイ3から流延された樹脂溶液を流延膜2として支持するとともに、搬送するための支持体1と、該支持体1上を移動する流延膜2に、前記溶媒中の主溶媒を含む主溶媒ガスGを吹き付けるための給気手段5と、該給気手段5により主溶媒ガスGが吹き付けられた流延膜2を乾燥する乾燥手段4とを備える。
流延ダイ3は、図1に示されるように、樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を、流延口より支持体1上に流延するために設けられている。流延ダイ3および樹脂溶液としては、上記したものを使用することができる。
支持体1は、流延ダイ3より流延された樹脂溶液が、流延膜2として軟膜を形成するまで支持するために設けられている。具体的には、支持体1は、上記のとおり無端状に形成された無端ベルトからなり、電源(図示せず)により駆動制御された回転ローラ6により無端ベルトが回転するよう構成されている。無端ベルトからなる支持体1上に流延された樹脂溶液は、流延膜2として一定方向に移動されるとともに、給気手段5からの主溶媒ガスGの吹き付け、および乾燥手段4からの乾燥風Dの吹きつけを経て軟膜となる。無端ベルトの移動速度は、電源により制御することができる。
図3に示されるように、支持体1の両側には、遮蔽部材6を設けることが好ましい。遮蔽部材6としては、上記したものを使用することができる。
また、図3に示されるように、ガス供給口5aには、ガス供給口5aから供給される主溶媒ガスGの流れを整流する整流部材5bが設けられることが好ましい。整流部材5bとしては、上記したものを使用することができる。
給気手段5は、支持体1上を移動する流延膜2に対して主溶媒ガスGを吹き付けるために設けられている。主溶媒ガスGとしては上記したものを使用することができる。主溶媒ガスGは、給気手段5のガス給気口より給気され、支持体1上を移動する流延膜2に吹き付けられる。主溶媒ガスGの給気方向(図2の吹き付け角θとなる方向)としては、流延膜2の法線Nに沿って、流延膜2の表面方向へ、法線Nから流延膜2の移動する下流方向へ45〜85°傾斜する方向が好ましく、この方向に給気されるよう給気手段5のガス給気口の形状および角度等が調整されていることが好ましい。また、移動する前記支持体1に対して主溶媒ガスGの風速が、実効風速で0.1〜3.0m/sに制御されてなるよう、給気手段5に給気風速を調整する給気風速調整手段が設けられてなることが好ましい。このような構成を採用することにより、支持体1上を移動する流延膜2が受ける向かい風(伴走風)が打ち消され、流延膜2が伴走風を局所的に受けることによる乾燥ムラの発生を抑制するとともに、流延膜2の乾燥を抑制することができる。給気風速調整手段としては、たとえば、外部設置の主溶媒ガスタンク(図示せず)からフレキホースで蒸気をヘッダまで引き回し、そのタンク内の圧力を変化させることにより主溶媒ガスGの給気風速を調整する手段を採用することができる。また、ガス給気口は、支持体1上を移動する流延膜2の表面から1〜300mm離間して設けられてなることが好ましい。このような構成を採用することにより、移動する支持体1上の流延膜2にムラなくガスを吹き付けることができ、表面ムラの発生を抑制することができる。
乾燥手段4は、給気手段5により主溶媒ガスGが吹き付けられた流延膜2を乾燥するために設けられている。すなわち、乾燥手段4は、支持体1上の流延膜2の移動方向において給気手段5の下流側に設けられており、支持体1から剥離できる程度の軟膜を形成するまで流延膜2を乾燥するために設けられている。乾燥手段4から吹き付けられる気体としては、上記のものを使用することができる。
本発明の流延装置8は、上記構成のほかにも、樹脂溶液を調製する溶解釜やミキシングタンク、送液ポンプ等を備えることができ、さらに、乾燥手段4により乾燥されて形成された軟膜を支持体1から剥離する剥離ロール7、剥離した軟膜を乾燥するための第二乾燥手段、延伸するためのテンター等や、延伸により形成されたフィルムを巻き取るための巻取手段等を備えることができ、これらを併せて、フィルム製造装置を構成することができる。
以上、本発明の流延装置8によれば、支持体1上に流延された直後の流延膜2の乾燥が緩やかとなり、かつ、流延膜2表面近傍に存在するガスの濃度が均一に高められる結果、表面ムラが少なく、平面性、位相差均一性に優れた光学フィルムを製造することのできる流延装置8を提供することができる。また、このような構成を採用する際に、大幅な設備の増設を必要とせず、生産コストを削減することができる。
以下、本発明にかかる光学フィルムについて実施例により詳述する。なお、本発明の光学フィルムは、以下に示す実施例になんら限定されるものではない。
<試験例1:乾燥条件の検討>
<実施例1>
(樹脂溶液の調製)
以下の原料を密閉容器に投入し、加熱し、攪拌しながら、完全に溶解、濾過し、樹脂溶液を調製した。なお、二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V)は、エタノールに分散した後、添加した。
(樹脂溶液組成)
・セルロースアセテートプロピオネート(アシル基総置換度2.75、アセチル基置換度0.19、プロピオニル基置換度2.56、Mw=200000)を100質量部
・トリフェニルホスフェート(可塑剤)を8質量部
・メチレンクロライド(溶媒)を418質量部
・エタノール(溶媒)を23質量部
・二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V 日本アエロジル(株)製)(マット剤)を0.1質量部
上記樹脂溶液を用いて、以下のとおり光学フィルム(セルロースアセテートプロピオネートフィルム)を作製した。
樹脂溶液を、図1および図3に示す構成を有する流延装置を用いて、樹脂溶液温度34℃、支持体(無端ベルト)温度35℃、流延膜厚120μm、支持体移動速度120m/分、2m幅でステンレス鋼製の支持体上に均一に流延させた。
支持体上に流延した直後の流延膜に対して、給気手段を用いて、実効風速が2.0m/sとなるよう主溶媒ガス(主溶媒ガスの濃度:20000ppm、温度35℃、湿度10%未満)を吹き付けた(蒸発抑制工程)。このとき、ガス供給口と流延膜との離間距離は100mmであった。また、主溶媒ガスの吹き付け角θは、流延膜の法線に沿って、流延膜表面方向へ、法線から流延膜の移動する下流へ50°傾斜する方向とした。
残留溶媒率が95質量%となるまで給気手段から主溶媒ガスを吹き付けた後、乾燥手段としてノズルやパンチ板を用いて、乾燥風(エアー、温度:50℃、湿度:10%RH)を、実効風速が5.0m/sとなるよう吹き付けた(乾燥工程)。
支持体上で、流延膜の残留溶媒率が25質量%になるまで乾燥し、剥離張力100N/mで流延膜を支持体から剥離した。
支持体の両側には遮蔽部材(長さ300mm、高さ100mm)を設け、給気手段のガス給気口には、丸孔のパンチ板(開口率65%)とし、幅手方向静圧が均一となるようにした。
剥離した流延体をクリップテンターを用いて幅手方向に1.38倍(延伸率:38%)に延伸しながら、160℃で、50秒間、乾燥させた。
延伸後、130℃で5分間緩和を行った後、120℃、140℃の熱処理装置を複数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径15.24cmのコアに巻取ることで、偏光板用透明保護フィルム等として用い得る光学フィルム(セルロースアセテートプロピオネートフィルム)のロールを得た。
作製された光学フィルムの残留溶媒率は0.0001%以下であり、膜厚は20μm、フィルムの幅手方向および長手方向の膜厚偏差は0.1μm、巻長は4000mであった。
残留溶媒率が95質量%となるまで給気手段から主溶媒ガスをウェブ表面に実効風速2.0m/s、風向きを支持体法線方向50°の角度から吹き付け、その後乾燥風をウェブ表面に実効風速5.0m/sを吹き付けて光学フィルムを作製した。
<実施例2>
残留溶媒率が90質量%となるまで給気手段から主溶媒ガスを吹き付けた以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例3>
残留溶媒率が85質量%となるまで給気手段から主溶媒ガスを吹き付けた以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例4>
残留溶媒率が80質量%となるまで給気手段から主溶媒ガスを吹き付けた以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例5>
残留溶媒率が78質量%となるまで給気手段から主溶媒ガスを吹き付けた以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<比較例1>
残留溶媒率が90質量%となるまで、流延膜を主溶媒ガスの雰囲気下に置き、流延膜に主溶媒ガスを吹き付けなかった以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<比較例2>
残留溶媒率が80質量%となるまで、流延膜を主溶媒ガスの雰囲気下に置き、流延膜に主溶媒ガスを吹き付けなかった以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<比較例3>
主溶媒ガス給気を行わず、流延直後から乾燥風をウェブ表面に実効風速2.0m/s吹き付けて光学フィルムを作製した。
<比較例4>
主溶媒ガス給気を行わず、流延から残留溶媒率が90%になるまで自然乾燥させ、その後乾燥風をウェブ表面に実効風速5.0m/s吹き付けて光学フィルムを作製した。
<比較例5>
残留溶媒率が80質量%となるまで自然乾燥させた以外は、比較例4と同様に光学フィルムを作製した。
<試験例2:主溶媒ガスの風速および吹き付け角の検討>
<実施例6>
残留溶媒率が85%質量となるまで給気手段から主溶媒ガスを吹き付け、蒸発抑制工程における実効風速を0.1m/sとした以外は、実施例1と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例7>
蒸発抑制工程における実効風速を1.0m/sとした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例8>
蒸発抑制工程における実効風速を3.0m/sとした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例9>
蒸発抑制工程における実効風速を2.0m/sとし、主溶媒ガスの吹き付け角θを、流延膜の法線に沿って、流延膜表面方向へ、法線から流延膜の移動する下流へ45°傾斜する方向とした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例10>
蒸発抑制工程における実効風速を2.0m/sとし、主溶媒ガスの吹き付け角θを、流延膜の法線に沿って、流延膜表面方向へ、法線から流延膜の移動する下流へ85°傾斜する方向とした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例11>
蒸発抑制工程における実効風速を0.05m/sとした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例12>
蒸発抑制工程における実効風速を3.2m/sとした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例13>
蒸発抑制工程における実効風速を2.0m/sとし、主溶媒ガスの吹き付け角θを、流延膜の法線に沿って、流延膜表面方向へ、法線から流延膜の移動する下流へ40°傾斜する方向とした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
<実施例14>
蒸発抑制工程における実効風速を2.0m/sとし、主溶媒ガスの吹き付け角θを、流延膜の法線に沿って、流延膜表面方向へ、法線から流延膜の移動する下流へ90°傾斜する方向とした以外は、実施例6と同様に光学フィルムを作製した。
実施例1〜14および比較例1〜5にて得られた光学フィルムについて、リタデーションムラを測定した。試験方法を以下に示す。結果を表1および表2に示す。
(リタデーションムラの測定方法)
各実施例および比較例で得られた光学フィルムを、10mm(長手)、1980mm(幅手)となるよう切り出し、25℃55%RHで24時間かけて調湿後、自動複屈折計(KOBRA−WX100 王子計測(株)製)で589nmにおける面内方向のリタデーション(Ro)を測定し、その幅手方向分布ムラを評価する。(ΔRo:Ro偏差値)
◎:Roの幅手方向分布が極めて少ない(ΔRo≦1.0)
○:部分的に、わずかに幅手分布ムラがある(ΔRo≦1.5)
△:部分的に、幅手分布ムラがあるが、実用に耐えうる程度である(ΔRo≦2.5)
×:全体的に、幅手分布ムラがあり、実用に耐えられない程度である(ΔRo≧2.5)
表1に示されるように、給気手段から主溶媒ガスを吹き付けずに、主溶媒ガス雰囲気とした比較性1および2では、リタデーションムラが大きく、実用に耐えうる光学フィルムが得られなかった。また、主溶媒ガスを使用しなかった比較例3や、給気手段からの給気を行わなかった比較例4および5も同様に、リタデーションムラが大きく、実用に耐えうる光学フィルムが得られなかった。
一方、表1および表2に示されるように、給気手段から主溶媒ガスを吹き付けるとともに、乾燥手段により乾燥させた実施例1〜14では、リタデーションムラが少なく、実用に適した光学フィルムが得られた。これらの中でも、主溶媒ガスの吹き付け角θを45〜85°程度に調整し、実効風速を0.1〜3.0程度に調整し、蒸発抑制工程後の残留溶媒率を80〜95質量%程度に調整した実施例1〜4、6〜10の光学フィルムはリタデーションムラが少なく良好であり、特に、実施例2、3、7の結果が良好であった。