本発明は、以下に説明する複数の発明を包含する発明群に属する発明であり、以下に、その発明群の実施の形態として、第1ないし第6の実施の形態について説明するが、そのうち、第1,第3〜第6の実施の形態が、本出願人が特許請求の範囲に記載した発明に対応するものである。
以下、本発明の実施の形態によるディスクブレーキを、添付図面に従って詳細に説明する。
〔第1の実施の形態〕ここで、図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。図1ないし図3中、ディスク1は、例えば車両が前進方向に走行するときに車輪(図示せず)と共に図1中の矢示A方向に回転するものである。
キャリア2は、取付部材として車両の非回転部分に取付けられる。該キャリア2は、図1〜図3に示す如く、ディスク1の回転方向(周方向)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向に延びた一対の腕部2A,2Aと、該各腕部2Aの基端側を一体化するように接続して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で前記車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部2B等とを有している。
また、キャリア2には、ディスク1のアウタ側となる位置で腕部2A,2Aの先端側を互いに連結する補強ビーム2Cが図1、図2に示す如く一体に形成されている。
そして、腕部2Aのディスク1の軸方向における中間部には、図3中に示すようにディスク1の外周(回転軌跡)に沿って円弧状に延びるディスクパス部3が形成されている。該ディスクパス部3におけるディスク1の軸方向両側には、インナ側,アウタ側のパッドガイド4がそれぞれ形成されている。また、各腕部2Aにはディスク1の軸方向に沿ってピン穴(図示せず)がそれぞれ設けられ、これらのピン穴内には後述の摺動ピン6が摺動可能に挿嵌される。
キャリア2の各腕部2Aには、ディスクパス部3の軸方向両側に位置して該ディスクパス部3を挟んで各腕部2Aの基端側(インナ側)と先端側(アウタ側)とに、それぞれパッドガイド4,4,・・・が設けられている。これらのパッドガイド4は、図4、図5に示す如くディスク1の軸方向に延びて断面コ字形状をなす凹溝として形成されている。また、パッドガイド4は、ブレーキ操作時に後述の摩擦パッド9がディスク1から受ける制動トルクを受承するトルク受部を兼用している。
キャリア2には、キャリパ5が摺動可能に設けられている。該キャリパ5は、図1〜図3に示す如くディスク1の一側(インナ側)に設けられたインナ脚部5Aと、キャリア2の各腕部2A間でディスク1の外周側を跨ぐようにインナ脚部5Aからディスク1の他側(アウタ側)へと延設されたブリッジ部5Bと、該ブリッジ部5Bの先端側(アウタ側)からディスク1の径方向内向きに延び、先端側が複数の爪部となったアウタ脚部5Cとにより構成されている。
そして、キャリパ5のインナ脚部5Aには、ピストンが摺動可能に挿嵌されるシリンダ(いずれも図示せず)が形成されている。また、インナ脚部5Aには、図1、図2中の左,右方向に突出する一対の取付部5D,5Dが設けられ、これらの取付部5Dは、キャリパ5を摺動ピン6を介してキャリア2の各腕部2Aに摺動可能に支持させる支持腕を構成するものである。摺動ピン6と各腕部2Aとの間には、摺動ピン6の基端側周囲を覆い、該摺動ピン6と腕部2Aのピン穴との間に雨水等が浸入するのを防ぐ保護ブーツ8が取付けられている。
インナ側,アウタ側の摩擦パッド9,9は、ディスク1の両面に対向して配置されている。これらの摩擦パッド9は、図1、図2、図4、図6に示す如く、ディスク1の周方向(回転方向)に延びる平板状の裏金10と、該裏金10の表面側に固着して設けられディスク1の表面に摩擦接触する摩擦材としてのライニング11(図6参照)等とにより構成されている。
摩擦パッド9の裏金10は、全体として扇形状をなす平板材により形成され、その長さ方向(ディスク1の周方向)両端側には嵌合部としての耳部10A,10Aが凸形状をなして設けられている。ここで、裏金10の各耳部10Aは、後述するパッドスプリング14の各案内板部18を介してキャリア2の各パッドガイド4内にそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。そして、インナ側,アウタ側の摩擦パッド9は、ブレーキ操作時にキャリパ5によってディスク1の両面に押圧され、このときに裏金10の各耳部10Aがパッドガイド4に沿ってディスク1の軸方向に摺動変位するものである。
また、摩擦パッド9(裏金10)の各耳部10Aには、後述するパッドスプリング14の径方向付勢部19が弾性的に当接し、これにより摩擦パッド9は、ディスク1の径方向外側へと常時付勢される。また、摩擦パッド9の裏金10には、各耳部10Aの基端(根元)側寄りに位置して左,右のカシメ部10B,10Bが設けられている。
一方、摩擦パッド9(裏金10)の各耳部10Aのうちディスク1の回出側に位置する耳部10Aは、例えば車両のブレーキ操作時に摩擦パッド9がディスク1から受ける制動トルク(図1中の矢示A方向の回転トルク)により、キャリア2の回出側の腕部2A(パッドガイド4の底部)にパッドスプリング14の案内板部18を介して当接し続け、両者の当接面間でキャリア2によりブレーキ操作時の制動トルクは受承されるものである。
なお、図1、図4に示すアウタ側の摩擦パッド9には、裏金10の背面側に鳴き防止用のシム板12が着脱可能に設けられている。また、図2に示すインナ側の摩擦パッド9には、裏金10の背面側に鳴き防止用のシム板(図示せず)が着脱可能に設けられている。
パッドスプリング14,14は、キャリア2の各腕部2Aと摩擦パッド9との間に配置され、キャリア2の各腕部2Aにそれぞれ取付けられている。パッドスプリング14,14は、両者の間でインナ側,アウタ側の摩擦パッド9を弾性的に支持すると共に、摩擦パッド9の摺動変位を滑らかにするものである。パッドスプリング14は、図1、図2、図4、図6に示す如く、ばね性を有するステンレス鋼板を打ち抜いた後にプレス加工等の手段を用いて折曲げることにより一体形成されている。これらの加工により、パッドスプリング14には、連結板部15、案内板部18,18、径方向付勢部19,19および座面板部20,20が形成される。
連結板部15は、パッドスプリング14の各案内板部18等を連結する。該連結板部15は、ディスク1の外周側を跨ぐように軸方向に延びて形成され、その長さ方向両端側には、一対の平板部16,16がディスク1の径方向内向きに延びて一体形成されている。係合板部17は、一対の平板部16,16間に位置して連結板部15に一体形成されている。係合板部17は、腕部2Aのディスクパス部3に径方向内側から係合するようにキャリア2に取付けられる。これにより、パッドスプリング14は、キャリア2の腕部2Aに対してディスク1の軸方向で位置決めされるようになっている。
案内板部18,18は、連結板部15の両端側に各平板部16を介して設けられている。該各案内板部18は、平板部16の先端側から略コ字状に折曲げられることにより形成されている。これらの案内板部18,18のうち一方の案内板部18は、図4に示すようにアウタ側のパッドガイド4内に嵌合して取付けられ、他方の案内板部18は、インナ側のパッドガイド4に嵌合して取付けられるものである。案内板部18は、パッドガイド4の上,下の壁面に対向する上面板18A,下面板18Bと、これらの上面板18A,下面板18B間をディスク1の径方向で連結すると共に、平坦面状をなしてディスク1の軸方向に延び、パッドガイド4の奥側壁面(底部)に当接されるガイド底板18Cとにより構成されている。
径方向付勢部19,19は、摩擦パッド9,9をディスク1の径方向外側に向けて付勢する。該各径方向付勢部19は、案内板部18の下面板18Bからディスク1の軸方向外側へと延びた位置で、ディスク1の径方向外側に向けて略U字状または略C字状に折返すことにより形成されている。径方向付勢部19は、摩擦パッド9の耳部10Aをディスク1の径方向外側に向けて弾性的に付勢し、摩擦パッド9のガタ付き抑えるものである。
座面板部20,20は、図4および図5に示すように基端側が案内板部18のガイド底板18Cに対して垂直となるようにL字状に折曲げられて一体形成されている。座面板部20の先端側は、図1、図2、図8に示すようにキャリア2の腕部2Aから僅かに離間してディスク1の周方向外側(左,右方向の外側)に向けて延びる自由端となっている。座面板部20の自由端側は、図4に示すように後述の戻しばね21よりも幅広な平板状に形成され、戻しばね21が弾性変形状態で当接するときの受け座面を提供するものである。また、座面板部20の先端側には、図2中に例示するように、ディスク1の軸方向外側に向けてL字状に屈曲した屈曲片部20Aが設けられている。
戻しばね21,21は、図1、図2、図4に示す如く、矢示A方向に回転するディスク1の回入側(回転方向入口側)に位置する腕部2Aと摩擦パッド9との間に配設され、インナ側,アウタ側の摩擦パッド9をディスク1から離間する戻し方向に付勢するようになっている。各戻しばね21は、図8に示す如く、長さ方向の一側が各摩擦パッド9の裏金10に取付けられ、長さ方向の他側がキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に弾性変形状態で当接されるものである。戻しばね21は、図4、図6ないし図8に示すように、固定部21Aと、延出部21Bと、折返し部21Cと、当接部21Dとを含んで構成されている。
固定部21Aは、戻しばね21の長さ方向一側に位置して平板状に形成され、摩擦パッド9(裏金10)の耳部10A側にカシメ部10Bにより固定されている。延出部21Bは、該固定部21Aから図6乃至図8に示すようにL字状に折曲げて形成され先端側がディスク1の表面から垂直に離間する方向であるディスク1の軸方向に延出して設けられている。なお、延出部21Bは、必ずしもL字状に折曲げて形成され先端側がディスク1の表面から垂直に離間する方向であるディスク1の軸方向に延出させる必要はなく、適宜、ディスク1の軸方向に対して角度を持って延出させることができる。
折返し部21Cは、該延出部21Bの先端側をキャリア2側、すなわちパッドスプリング14の座面板部20側に向けて折返されて形成されている。当接部21Dは、折返し部21Cに連続して戻しばね21の長さ方向の他側に位置し、略U字状に折曲げることにより形成されている。当接部21Dは、その折返し部位、すなわちU字状に丸みをもって折曲げられた部位がパッドスプリング14の座面板部20に弾性的に当接しており、この当接部位を基点に戻しばね21は、摩擦パッド9をディスク1から離間する方向に付勢している。
戻しばね21の折返し部21Cは、延出部21Bの先端側から摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で固定部21Aから離れる方向に延びた第1延設部21C1と、該第1延設部21C1の先端側からキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に向けて折返され当接部21Dに滑らかに接続される第2延設部21C2とにより構成されている。
そして、折返し部21Cには、延出部21Bと折返し部21Cの第1延設部21C1と間に第1の折曲げ部21C3が湾曲した略L字状となるように形成されており、また、折返し部21Cの途中部分である第1延設部21C1と第2延設部21C2との間には、第2の折曲げ部21C4が形成されている。この第2の折曲げ部21C4は、摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で当接部21Dよりも固定部21Aから離間した位置に配置されている。また、折返し部21Cの第2延設部21C2は、第1延設部21C1の先端側(第2の折曲げ部21C4の位置)から折返して裏金10の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で固定部21Aに近づく方向に延出して形成されている。すなわち、第1延設部21C1と第2延設部21C2とのなす角(以下、便宜上、第2の折曲げ部21C4の角度という)は、鋭角となっており、延出部21Bと第1延設部21C1とのなす角(以下、便宜上、第1の折曲げ部21C3の角度という)の鋭角よりも小さい角度となっている。以上のように、戻しばね21の折返し部21Cは、図4に示すようにディスク1の回入側に位置するパッドガイド4、パッドスプリング14の座面板部20等を跨ぐ方向(図4中の左,右方向外側)へと延びている。
ここで、第1延設部21C1は、他の延設部として構成され、第2延設部21C2は、一の延設部として構成されている。また、第1の折曲げ部21C3は、一の折曲げ部として構成され、第2の折曲げ部21C4は他の折曲げ部として構成されている。なお、延出部21Bがディスク1の表面から垂直に延出している場合、第1の折曲げ部21C3の角度及び第2の折曲げ部21C4の角度は、第2延設部21C2がディスク回転方向で固定部21Aに近づく方向に延出するようになっていれば、上述のように両方が鋭角となっていなくてもよい。たとえば、第1の折曲げ部21C3の角度が鋭角のときに第2の折曲げ部21C4の角度を直角若しくは鈍角としたり、第1の折曲げ部21C3の角度が直角若しくは鈍角のときに第2の折曲げ部21C4の角度を鋭角とすることができ、いずれの場合も以下の数1を満たすようにすれば良い。
戻しばね21は、その先端側(長さ方向の他側)に位置する当接部21Dが座面板部20の表面に弾性変形状態で当接または摺接することにより、摩擦パッド9(裏金10)をディスク1から離れる戻し方向に常に付勢し、例えば車両のブレーキ操作を解除したときに摩擦パッド9をディスク1から離れた待機位置まで安定して戻すようになっている。
本実施の形態によるディスクブレーキは上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ5のインナ脚部5A(シリンダ)にブレーキ液圧を供給することによりピストンをディスク1に向けて摺動変位させ、これによってインナ側の摩擦パッド9をディスク1の一側面に押圧する。そして、このときにはキャリパ5がディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ5全体がキャリア2の腕部2Aに対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部5Cがアウタ側の摩擦パッド9をディスク1の他側面に押圧する(図8に示すストロークS参照)。
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド9は、図1〜図4中の矢示A方向に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から挟持することができ、ディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、前記ピストンへの液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド9がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。
また、このようなブレーキ操作時、解除時(非制動時)に、摩擦パッド9の裏金10は、左,右の耳部10Aが各パッドスプリング14の径方向付勢部19によりディスク1の径方向外側に向けて付勢される。このため、裏金10の各耳部10Aは、キャリア2の各腕部2Aのうちパッドガイド4の上側壁面にパッドスプリング14の案内板部18(上面板18A)を介して摺接するように押圧される。これにより、摩擦パッド9が車両走行時の振動等でディスク1の径方向および回転方向または周方向にガタ付いたりするのを、パッドスプリング14に設けた径方向付勢部19の弾性力(付勢力)により規制することができる。そして、ブレーキ操作時には、摩擦パッド9がディスク1から受ける制動トルク(矢示A方向の回転トルク)を受け、このときには回出側の耳部10Aがキャリア2のパッドガイド4(トルク受部)にパッドスプリング14の案内板部18のガイド底板18Cを介して当接し続けるので、ブレーキ操作時の制動トルクを回出側の腕部2A(トルク受部)により受承することができる。
また、ブレーキ操作時には、摩擦パッド9の各耳部10Aをパッドガイド4の上側壁面にパッドスプリング14の案内板部18の上面板18Aを介して摺接させた状態に保持することができると共に、インナ側,アウタ側の摩擦パッド9を案内板部18に沿ってディスク1の軸方向へと円滑に案内することができる。
ここで、本実施の形態では、インナ側の戻しばね21を、固定部21A、延出部21B、折返し部21Cおよび当接部21D等から、ばね性を有する金属板を折曲げることにより一体物として形成し、折返し部21Cの途中部分である第2の折曲げ部21C4は、摩擦パッド9の裏金10の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で当接部21Dよりも固定部21Aから離間した位置に配置される構成としている。
このため、ブレーキ操作を繰返すうちに摩擦パッド9のライニング11が摩耗し、これに伴って戻しばね21が図8に例示するように変形する場合でも、キャリア2側、すなわちパッドスプリング14の座面板部20側に対する戻しばね21の当接部21Dの当接位置が位置ずれするのを、図8中に寸法αで示す如く小さく抑え、かつ、ずれ方向を戻しばね21の固定部21Aに近づく方向、すなわち裏金10に近づく方向とすることができる。したがって、戻しばね21の当接部21Dにおけるパッドスプリング14の座面板部20に対する移動距離が小さくなる。このため、座面板部20を短くすることが可能となり、その分キャリア2の座面板部20の対応部分を設ける必要がなく、キャリア2、ひいてはディスクブレーキの小型化を図ることができる。
また、戻しばね21は、延出部21Bおよび折返し部21Cがディスク1の軸方向に突出する突出量(図8中に示す寸法γ)を、折返し部21Cによって相対的に小さくすることができる。このため、キャリア2と摩擦パッド9との間に戻しばね21を取付ける上でのスペースを容易に確保することができ、レイアウト設計の自由度を高めることができる。
これに対し、図9に示す比較例の場合は、戻しばね22を、摩擦パッド9の裏金10に固定して取付けられる一側の固定部22Aと、該固定部22Aからディスクの軸方向で摩擦パッド9から離間する方向に延出された延出部22Bと、該延出部22Bの先端側をキャリア2側に向け折返して形成された折返し部22Cと、該折返し部22Cの先端側に設けられキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に弾性的に当接する当接部22Dとにより構成している。また、折返し部22Cは、延出部22Bの先端側から摩擦パッド9′(裏金10′)の平面に沿った方向で固定部22Aから離れる方向に延びた第1延設部22C1と、該第1延設部22C1の先端側からキャリア2′側(パッドスプリング14′の座面板部20′側)に向けて折曲げられ当接部22Dに滑らかに接続される第2延設部22C2とにより構成されている。そして、折返し部22Cには、延出部22Bと折返し部22Cの第1延設部22C1と間に第1の折曲げ部22C3が形成されており、また、折返し部22Cの途中部分である第1延設部22C1と第2延設部22C2との間には、第2の折曲げ部22C4が形成されている。この第2の折曲げ部22C4は、摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で当接部22Dよりも固定部22Aに近い位置に配置されている。すなわち、第1延設部22C1と第2延設部22C2とのなす角(以下、便宜上、第2の折曲げ部22C4の角度という)は、鈍角となっており、延出部22Bと第1延設部22C1とのなす角(以下、便宜上、第1の折曲げ部22C3の角度という)の直角よりも大きい角度となっている。
即ち、比較例による戻しばね22は、長さ方向一側の固定部22Aとキャリア2の腕部2A側で座面板部20に当接(弾接)される他側の当接部22Dとの間の途中部分(例えば、折返し部22C)を、逆V字状または逆U字状に折曲げて形成する構成としている。このため、比較例による戻しばね22の場合は、ブレーキ操作を繰返すうちに摩擦パッド9のライニング11が摩耗してくると、これに伴って戻しばね22の変形が大きくなり、パッドスプリング14の座面板部20に対する戻しばね22(当接部22D)の当接位置が、図9中に示す寸法β(β>α)の如く、固定部22Aから離れる方向、すなわち、摩擦パッド9から離れる方向へ大きく位置ずれする。
しかも、図9に示す比較例の場合には、戻しばね22のばね定数を確保するための長さ寸法があるため、延出部22Bおよび折返し部22Cが固定部22Aの位置からディスクの軸方向に突出する突出量(図9中に示す寸法γ′)も大きくせざるを得ず、戻しばね22の取付スペースを確保する上でレイアウト設計が難しくなる。
ここで、本実施の形態の戻しばね21と比較例の戻しばね22との動作について、図10及び図11により詳細に説明する。なお、戻しばね21、22は、固定部21A、22Aがディスク軸方向に移動するものであるが、図10及び図11においては、説明の便宜上、当接部21D、22Dがディスク軸方向に移動して力が作用するものとして説明する。
本実施の形態の戻しばね21においては、戻しばね21が力を受ける初期段階、図10(A)に示すような当接部21Dの移動が長さS1である場合に、戻しばね21の当接部21Dには、当接面である座面板部20に対して垂直の力F1が作用することになる。ここで、力F1は、第2延設部21C2に平行な分力F1Lと第2延設部21C2に対して垂直の分力F1Sとに分けられて第2延設部21C2に伝達されることになる。そして、第2延設部21C2は、第1延設部21C1の先端側(折返し部21C4の位置)から裏金10の平面に沿った方向、すなわち、ディスク回転方向で固定部21Aに近づく方向に折返して形成されている。このため、第2延設部21C2に分力F1Sの力が作用することで、裏金10の平面に沿った方向で固定部21Aに近づく方向に第2延設部21C2を撓ませようとする。このとき、固定部21Aが不動であるため、分力F1Sによって延出部21Bを固定部21Aに近づける方向、すなわち、ディスク回転方向における当接部21Dと反対側に撓ませることになる。この延出部21Bの撓みによって、当接部21Dは移動しないようになっている。このとき、第2延設部21C2及び延出部21Bが撓むことで、第2の折曲げ部21C4は長さS1よりも少ない移動量で第2の折曲げ部21C4′に至るようになっている。
さらに、戻しばね21が力を受けて、図10(B)に示すような当接部21Dの移動がさらに長さS2まで移動した場合には、延出部21Bの撓みが上限まで達している。このため、このときに、第2延設部21C2に作用する力F2のうち、第2延設部21C2′に平行な分力F2Lによって、第2延設部21C2を第1延設部21C1から離す(第2の折曲げ部21C4の角度を広げる)方向に撓ませることになる。これにより、当接部21Dは、裏金10の平面に沿った方向で固定部21Aから離間する方向にαだけ移動することになる。
これに対して、比較例の戻しばね22においては、戻しばね22が力を受ける初期段階、図11(A)に示すような当接部22Dの移動が長さS1である場合に、戻しばね22の当接部22Dには、当接面である座面板部20′に対して垂直の力F1′が作用することになる。ここで、力F1′は、第2延設部22C2に平行な分力F1L′と第2延設部22C2に対して垂直の分力F1S′とに分けられて第2延設部22C2に伝達されることになる。そして、第2延設部22C2は、第1延設部22C1の先端側(第2の折曲げ部22C4の位置)から裏金10の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で固定部22Aから離間する方向に折曲げられて形成されているため、第2延設部22C2に分力F1Sの力が固定部22Aから離間する方向に作用することで、裏金10の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で固定部22Aから離間する方向に第2延設部22C2を撓ませようとする。この第2延設部22C2の撓みによって、当接部22Dは、座面板部20′上を滑ることになって、裏金10の平面に沿った方向で固定部22Aから離間する方向に長さβ1だけ移動するようになっている。このとき、第2延設部22C2が撓むことで、第2の折曲げ部22C4は長さS1よりも少ない移動量で第2の折曲げ部22C4′に至るようになっている。
さらに、戻しばね22が力を受けて、図11(B)に示すような当接部22Dの移動がさらに長さS2まで移動した場合には、第2延設部22C2の撓みが上限まで達しているため、このときに、分力F2L′によって延出部22Bを固定部22Aに近づける方向に撓ませることになる。この延出部22Bの撓みによって、当接部22Dの位置は変化しないようになっている。上記のように、当接部22Dは、裏金10の平面に沿った方向で固定部22Aから離間する方向にβだけ移動することになる。
このように、本実施の形態の戻しばね21と比較例の戻しばね22とでは、第2延設部21C2、22C2の延出方向の相違によって、固定部21A、22Aの移動による当接部21D、22Dのディスク回転方向の移動量が異なる、当接部22Dの移動量よりも当接部21Dの移動量の方が少ないようになっている。
ここで、上記の本実施の形態の戻しばね21と比較例の戻しばね22との動作について、見方を変えてみると、本実施の形態の戻しばね21においては、第2の折曲げ部21C4の角度は鋭角となっており、第1の折曲げ部21C3の角度の鋭角よりも小さい角度となっている。このため、当接部21Dに対して固定部21Aがディスク1に接近する方向に移動したときに、第2の折曲げ部21C4よりも第1の折曲げ部21C3の方が、その角度が広がり易くなっており、言い換えれば、第1の折曲げ部21C3の曲げ剛性は、第2の折曲げ部21C4の曲げ剛性よりも低くなっていると言える。すなわち、摩擦パッド9がディスク1に接近する方向に移動して第2の折曲げ部21C4が角度を広げるように曲げられたとき、その力を受けて、第2の折曲げ部21C4よりも先に第1の折曲げ部21C3が角度を広げるように曲げられることで、延出部21Bの先端がディスク回転方向において当接部21Dとは反対側に撓められるようになる。したがって、戻しばね21は、固定部21Aの移動による当接部21Dのディスク回転方向の移動が殆ど生じないようになっている。
これに対して、比較例の戻しばね22においては、第2の折曲げ部22C4の角度は、鈍角となっており、第1の折曲げ部22C3の角度の直角よりも大きい角度となっている。このため、当接部22Dに対して固定部22Aがディスク1に接近する方向に移動したときに、第1の折曲げ部22C3よりも第2の折曲げ部22C4の方が、その角度が広がり易くなっており、言い換えれば、第1の折曲げ部22C3の曲げ剛性は、第2の折曲げ部22C4の曲げ剛性よりも高くなっていると言える。すなわち、摩擦パッド9がディスク1に接近する方向に移動して第2の折曲げ部22C4が角度を広げるように曲げられたとき、そのまま第2の折曲げ部22C4の角度が広げるように曲げられてしまい、延出部22Bを固定部22Aに近づける方向、すなわちディスク回転方向における当接部22Dと反対側に撓ませることができず、最終的に当接部22Dがディスク回転方向で固定部22Aから離間する方向へ移動してしまうようになっている。
以上のように、戻しばね21は、第1の折曲げ部21C3の曲げ剛性が、第2の折曲げ部21C4の曲げ剛性よりも低くなっていることで、固定部21Aの移動による当接部21Dのディスク回転方向の移動量が抑制することができるのである。
このように、本実施の形態で採用した戻しばね21は、上述の如き構成を採用することにより、ブレーキ操作の繰返しにより摩擦パッド9のライニング11が摩耗した場合でも、パッドスプリング14の座面板部20に対する戻しばね21(当接部21D)の当接位置が位置ずれするのを、図8中に示す寸法αの如く小さく抑えることができる。
この結果、パッドスプリング14の座面板部20は、その長さ寸法を短縮化することができるため、その分キャリア2の座面板部20の対応部分を設ける必要がなく、キャリア2、ひいてはディスクブレーキの小型化を図ることができる。また、パッドスプリング14の材料取りを効率的に行うことができる。さらに、キャリア2の腕部2A側におけるパッドガイド4とピン穴(図示せず)との間のレイアウトが厳しい場合でも、比較的容易にレイアウトを行うことができる。
また、戻しばね21の突出量(図8中に示す寸法γ)を、途中部分(第2の折曲げ部21C4)が裏金10の平面に沿った方向で固定部21Aから当接部21Dよりも離間した位置に配置される折返し部21Cによって相対的に小さくすることができる。このため、戻しばね21の取付スペースを容易に確保することができ、レイアウト設計の自由度を高めることができる。
また、戻しばね21の折返し部21Cは、第1延設部21C1と第2延設部21C2との間の第2の折曲げ部21C4を、裏金10の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で固定部21Aから当接部21Dよりも離間した位置に配置している、もしくは、第1延設部21C1が延出部21Bの先端側から摩擦パッド9の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で固定部21Aから離れる方向に当接部21Dを越えた位置まで延びているので、第1延設部21C1と第2延設部21C2との延設長さ(合計の長さ寸法)を従来品(図9に示す比較例)に較べて長く形成することも可能であり、この場合には、ばね定数の確保を容易に行うことができる。
即ち、戻しばね21は、第1延設部21C1と第2延設部21C1との延設長さを適宜に選択することにより、ばね定数の調整を容易に行うことができ、設計の自由度を高めることができる。また、戻しばね21を製作する上での歩留りを向上することができ、必要な強度を容易に確保することができる。
しかも、延出部21Bおよび折返し部21Cを有する戻しばね21は、例えば車両のブレーキ操作を解除したとき等に、戻しばね21の付勢力を摩擦パッド9に対して適正な位置で付与することができ、摩擦パッド9をディスク1の表面に対して平行な姿勢を保ちつつ、安定して戻すことができる。
従って、本実施の形態によれば、ディスクブレーキの小型化を図ることができる上に、レイアウト設計の自由度を高めることができる。また、ブレーキ操作の解除時に戻しばね21の付勢力によって摩擦パッド9を待機位置へと円滑に戻すことができ、摩擦パッド9の戻り動作を安定させることができる。これにより、摩擦パッド9の偏摩耗等を低減することができ、パッドの引摺りやブレーキ鳴き等を防止することができる。
〔第2の実施の形態〕次に、図12は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、戻しばねの折返し部を延出部の先端側から円弧状に湾曲させて形成し、その途中部分を摩擦パッドの平面に沿った方向で当接部よりも固定部から離れた位置に配置する構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、31は摩擦パッド9をディスク1から離間する戻し方向に付勢する戻しばねで、該戻しばね31は、第1の実施の形態で述べた戻しばね21とほぼ同様に構成され、その長さ方向一側に位置する平板状の固定部31Aと、該固定部31AからL字状に折曲げて形成され先端側がディスクの軸方向に延出された延出部31Bと、該延出部31Bの先端側をキャリア2側に向けてC字状に折返すように折曲げて形成された折返し部31Cと、戻しばね31の長さ方向他側を略U字状に折曲げることにより形成された当接部31Dとを有している。
しかし、この場合の戻しばね31は、延出部31Bが固定部31AからL字状に折曲げられてディスク軸方向に平行に延びた後に当接部31Dとは反対側に若干折曲げて形成されてディスクの軸方向に延出(図12中一点鎖線が交差する位置Xまで延出)されている点、また、折返し部31Cを延出部31Bの先端側からC字状をなして円弧状に湾曲するように形成した点で第1の実施の形態とは異なっている。また、折返し部31C基端側は、延出部31Bの先端から連続する円弧として形成され、折返し部31Cは、例えば略C形の全体形状をなしている。そして、円弧状をなす折返し部31Cは、その途中部分31C1を摩擦パッド9の平面に沿った方向で当接部31Dよりも固定部31Aから離れた位置に配置する構成としている。
かくして、このように構成される第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、この場合の戻しばね31は、全体が略Ω形状に形成され、折返し部31Cを延出部31Bの先端側から連続した円弧としてC字状(円弧状)に湾曲させて形成する構成としている。
このため、戻しばね31は、折返し部31Cの円弧径(曲率)または延設長さを適宜に選択することにより、ばね定数の調整を容易に行うことができ、設計の自由度を高めることができる。また、戻しばね31を製作する上での歩留りを向上することができ、必要な強度を容易に確保することができる。
なお、この折返し部31Cにおいては、第1実施形態に示した直線状の第1延設部21C1および第2延設部21C2に対して、連続した円弧としてこれらが構成されており、敢えて第1延設部31C1と第2延設部31C2とを分けると、図12中一点鎖線が交差する位置Yでこれら延設部が分けられる。また、上記第2の実施の形態においては、戻しばね31の全体形状を全て円弧の略Ω形状としたが、その一部、例えば、延出部31Bを延長して略P字形状としても良い。
〔第3の実施の形態〕次に、図13は本発明の第3の実施の形態を示し、第3の実施の形態でも、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。然るに、本実施の形態の特徴は、後述の当接部41Dを折返し部41Cがなす円弧の内側となる方向に配向する構成としたことにある。
図中、41は摩擦パッド9をディスク1から離間する戻し方向に付勢する戻しばねで、該戻しばね41は、固定部41A、延出部41B、折返し部41Cおよび当接部41Dとを有している。折返し部41Cは、ディスク2の軸方向に演出した延出部41Bの先端側から接線方向に沿って円弧状に湾曲させる構成としている。
しかし、この場合の戻しばね41は、その長さ方向他側に位置する当接部41Dを、折返し部41Cがなす円弧の内側方向に向けて略U字状に折曲げ、円弧状に湾曲させる構成とした点で第1,2の実施の形態とは異なっている。そして、円弧状をなす折返し部41Cは、その途中部分41C1を摩擦パッド9の平面に沿った方向で当接部41Dよりも固定部41Aから離れた位置に配置する構成としている。なお、折返し部41Cは、敢えて第1延設部41C1と第2延設部41C2とを分けると、図13中で一点鎖線が交差する位置Yでこれら延設部が分けられる。
かくして、このように構成される第3の実施の形態においても、前述した第1及び第2の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、この場合、当接部41Dを折返し部41Cがなす円弧の内側方向に向けて略U字状に折曲げることで、ディスクブレーキの製造時に当接部41Dの先端が他の部品等に接触する虞がなく、製造効率が向上する。
〔第4の実施の形態〕次に、図14は本発明の第4の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、戻しばねの折返し部を後述の如く第1〜第4延設部により形成し、その途中部分を摩擦パッドの平面に沿った方向で当接部よりも固定部から離れた位置に配置する構成としたことにある。なお、第4の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、51は摩擦パッド9をディスク1から離間する戻し方向に付勢する戻しばねで、該戻しばね51は、第1の実施の形態で述べた戻しばね21とほぼ同様に構成され、その長さ方向一側に位置する平板状の固定部51Aと、該固定部51AからL字状に折曲げて形成され先端側がディスクの軸方向に延出された延出部51Bと、該延出部51Bの先端側をキャリア2側に向けて複数回折曲げて形成された折返し部51Cと、戻しばね51の長さ方向他側を略U字状または円弧状に折曲げることにより形成された当接部51Dとを有している。
しかし、戻しばね51の折返し部51Cは、延出部51Bの先端側から摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で固定部51Aから離れる方向に延びた第1延設部51C1と、該第1延設部51C1の先端側からキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に向けて略L字状に折返され延出部51Bと略平行に延びた第2延設部51C2-1と、該第2延設部51C2-1の先端側から略L字状に折返され第1延設部51C1と略平行に延びた第3延設部51C2-2と、第3延設部51C2-2の先端側から略L字状に折返され延出部51Bと略平行に延びた第4延設部51C2-3と、により構成されている。
そして、戻しばね51の当接部51Dは、第4延設部51C2-3の先端側先端側を略U字状または円弧状に折曲げることにより形成されている。また、折返し部51Cの途中部分には、第1延設部51C1と第2延設部51C2-1との間に位置して第2の折曲げ部51C4-1が設けられ、第2延設部51C2-1と第3延設部51C2-2との間には、第3の折曲げ部51C4-2が設けられている。さらに、第3延設部51C2-2と第4延設部51C2-3との間には、第4の折曲げ部51C4-3が設けられている。ここで、第2延設部51C2-1、第3延設部51C2-2、及び第4延設部51C2-3が、第1の実施形態における第2延設部21C2に相当している。
ここで、折返し部51Cの途中部分となる第2の折曲げ部51C4-1、第2延設部51C2-1および第3の折曲げ部51C4-2等は、摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で当接部51Dよりも固定部51Aから離間した位置に配置されている。
かくして、このように構成される第4の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、この場合でも、戻しばね51の折返し部51Cを、第1延設部51C1、第2延設部51C2-1、第3延設部51C2-2および第4延設部51C2-3等で構成することにより、ばね定数の調整を容易に行うことができ、設計の自由度を高めることができる。
〔第5の実施の形態〕次に、図15は本発明の第5の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、戻しばねの折返し部を後述の如く第1〜第3延設部により形成し、その途中部分を摩擦パッドの平面に沿った方向で当接部よりも固定部から離れた位置に配置する構成としたことにある。なお、第5の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、61は摩擦パッド9をディスク1から離間する戻し方向に付勢する戻しばねで、該戻しばね61は、第1の実施の形態で述べた戻しばね21とほぼ同様に構成され、固定部61A、延出部61Bと、該延出部61Bの先端側をキャリア2側に向けて複数回折曲げて形成された折返し部61Cと、戻しばね61の長さ方向他側を折曲げることにより形成された当接部61Dとを有している。
しかし、戻しばね61の折返し部61Cは、延出部61Bの先端側から摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で固定部61Aから離れる方向に延びた第1延設部61C1-1および第2延設部61C1-2と、該第2延設部61C1-2の先端側からキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に向けて折返され当接部61Dに連結される第3延設部61C2とにより構成されている。ここで、第1延設部61C1-1および第2延設部61C1-2が、第1実施形態における第1延設部21C1に相当している。
また、戻しばね61の折返し部61Cには、延出部61Bと第1延設部61C1-1との間に設けられる第1の折曲げ部61C3、第2延設部61C1-2と第3延設部61C2との間に設けられ、略L字状に折曲げられた第2の折曲げ部61C4、及び第1延設部61C1-1と第2延設部61C1-2との間に設けられ鈍角状に折曲げられた第3の折曲げ部61C1-3が形成されている。そして、折返し部61Cの途中部分となる第2の折曲げ部61C4は、摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で当接部61Dよりも固定部61Aから離間した位置に配置されている。
かくして、このように構成される第5の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、この場合でも、戻しばね61の折返し部61Cを、第1延設部61C1-1、第2延設部61C1-2および第3延設部61C2等で構成することにより、ばね定数の調整を容易に行うことができ、設計の自由度を高めることができる。
〔第6の実施の形態〕次に、図16乃至18は本発明の第6の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、第2の折曲げ部71C4の曲げ剛性を高めるために、リブ72を設けた点にある。上記実施の形態、特に第1の実施の形態においては、第2の折曲げ部21C4の角度を、第1の折曲げ部21C3の角度よりも小さい角度とすることで、第1の折曲げ部21C3の曲げ剛性を、第2の折曲げ部21C4の曲げ剛性よりも低くしている。これに対して、本第6の実施の形態においては、これら折曲げ部21C3及び第2の折曲げ部21C4の曲げ剛性は、そのなす角により曲げ剛性の相違を生じさせる以外にも、折曲げ部21C3及び第2の折曲げ部21C4の肉厚、幅寸法、形状等により相違を持たせることができることを示すものである。なお、第6の実施の形態では、前述した第1の実施の形態のうちの戻しばね以外の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
戻しばね71は、摩擦パッド9の裏金10に固定して取付けられる一側の固定部71Aと、該固定部71Aからディスクの軸方向で摩擦パッド9から離間する方向に延出された延出部71Bと、該延出部71Bの先端側をキャリア2側に向け折返して形成された折返し部71Cと、該折返し部71Cの先端側に設けられキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に弾性的に当接する当接部71Dとにより構成している。
折返し部71Cは、延出部71Bの先端側から摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向で固定部71Aから離れる方向に延びた第1延設部71C1と、該第1延設部71C1の先端側からキャリア2側(パッドスプリング14の座面板部20側)に向けて折曲げられ当接部71Dに滑らかに接続される第2延設部71C2とにより構成されている。
また、折返し部71Cには、延出部71Bと折返し部71Cの第1延設部71C1と間に第1の折曲げ部71C3が形成されており、また、折返し部71Cの途中部分である第1延設部71C1と第2延設部71C2との間には、第2の折曲げ部71C4が形成されている。この第2の折曲げ部71C4は、摩擦パッド9(裏金10)の平面に沿った方向、すなわちディスク回転方向で当接部71Dよりも固定部71Aに近い位置に配置されている。すなわち、第1延設部71C1と第2延設部71C2とのなす角(以下、便宜上、第2の折曲げ部71C4の角度という)は、鈍角となっており、延出部71Bと第1延設部71C1とのなす角(以下、便宜上、第1の折曲げ部71C3の角度という)の直角よりも大きい角度となっている。然るに、戻しばね71は、第1の実施の形態で説明した図9に示す比較例である戻しばね22と同様の全体形状を有している。
そして、第2の折曲げ部71C4には、その折曲げによって凸となる方向に突出するリブ72が設けられている。このリブ72により、第2の折曲げ部71C4の曲げ剛性が第1の折曲げ部71C3の曲げ剛性が高くなっている。このため、当接部71Dに対して固定部71Aがディスク1に接近する方向に移動したときに、第2の折曲げ部71C4よりも先に第1の折曲げ部71C3の角度が広がるようになっている。
この結果、パッドスプリング14の座面板部20に対する戻しばね71の当接部71Dの当接位置が位置ずれするのを、小さく抑えることができる。また、パッドスプリング14の座面板部20は、その長さ寸法を短縮化することができるため、その分キャリア2の座面板部20の対応部分を設ける必要がなく、キャリア2、ひいてはディスクブレーキの小型化を図ることができる。また、パッドスプリング14の材料取りを効率的に行うことができる。さらに、キャリア2の腕部2A側におけるパッドガイド4とピン穴(図示せず)との間のレイアウトが厳しい場合でも、比較的容易にレイアウトを行うことができる。
なお、前記第1の実施の形態では、戻しばね21の当接部21Dをパッドスプリング14の座面板部20に対して弾性的に当接させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばパッドスプリングとは別部材で形成した座面板部を取付部材に固定して設け、この座面板部に対して戻しばね21の当接部21Dを当接させる構成としてもよい。また、座面板部20等を用いることなく、戻しばねの当接部を取付部材の端面(または、取付部材に形成した戻しばね用の座面部)等に直接的に当接させる構成としてもよい。そして、この点は第2〜第6の実施の形態についても同様である。
また、前記第1の実施の形態では、キャリア2の腕部2Aに凹形状なすパッドガイド4を形成し、裏金10の嵌合部となる耳部10Aを凸形状に形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば摩擦パッドの裏金に凹形状をなす嵌合部を設け、取付部材の腕部には凸形状をなすパッドガイドを設ける構成としてもよいものである。
また、前記第1の実施の形態では、裏金10の左,右の耳部10Aのうちディスク1の回入側に位置する耳部10A側に、戻しばね21の基端側をカシメ固定する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばディスク1の回出側にも同様に戻しばねを設ける構成としてもよい。
また、前記第1の実施の形態では、ディスク1のインナ側とアウタ側とに各平板部16、各案内板部18および各径方向付勢部19等を有した所謂一体型のパッドスプリング14を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばパッドスプリング14をディスク1のインナ側とアウタ側とで切り離したような形状をもつ2個のパッドスプリングを、ディスク1のインナ側、アウタ側にそれぞれ配設する構成としてもよい。そして、この点はディスク1の回出側に位置するパッドスプリング14についても同様である。
上記実施の形態に含まれる発明においては、戻しばねの折返し部は、延出部の先端側から摩擦パッドの平面に沿った方向で固定部から離れる方向に延びた第1延設部と、該第1延設部の先端側から取付部材側に向けて折返され当接部に連結される第2延設部とを有し、該第2延設部は、前記第1延設部の先端側から前記摩擦パッドの平面に沿った方向で前記固定部に近づく方向に折返して形成する構成としている。
これにより、第1延設部と第2延設部との間の折返し部分を、摩擦パッドの平面に沿った方向で当接部よりも固定部から離間した位置に配置することができ、第1延設部と第2延設部との延設長さ(合計の長さ寸法)を従来品に比較してより長く形成することができる。このため、戻しばねは、ばね定数の調整が容易となり、設計の自由度を高めることができる。また、戻しばねを製作する上での歩留りを向上でき、必要な強度を容易に確保することができる。
上記実施の形態に含まれる発明においては、戻しばねの折返し部は、延出部の先端側から円弧状に湾曲して形成され途中部分が摩擦パッドの平面に沿った方向で当接部よりも固定部から離れた位置まで延びる構成としている。
このように、戻しばねの延出部の先端側から円弧状に湾曲して形成された折返し部のうち、その途中部分を摩擦パッドの平面に沿った方向で当接部よりも固定部から離れた位置まで延ばすことにより、摩擦パッドの摩耗時にも、取付部材側に対する戻しばねの当接位置が位置ずれするのを小さく抑えることができ、摩擦パッドを安定した姿勢で戻すことができると共に、戻しばねの取付スペースを容易に確保することができる。