以下、本実施の形態によるディスクブレーキを、図1ないし図12に従って詳細に説明する。
図1および図2に示すディスク1は、例えば、車両が前進方向に走行するときに車輪(図示せず)と共に図1および図2中の矢示A方向に回転し、車両が後退するときには矢示B方向に回転するものである。
取付部材2は、車両の非回転部分に取付けられるものである。この取付部材2は、図1ないし図4に示す如く、ディスク1の回転方向(周方向)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向に延びた一対の腕部2A,2Aと、該各腕部2Aの基端側を一体化するように連結して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部2B等とを含んで構成されている。
また、取付部材2には、ディスク1のアウタ側となる位置で腕部2A,2Aの先端側を互いに連結する補強ビーム2Cが形成されている。これにより、取付部材2の各腕部2A,2Aは、ディスク1のインナ側で支承部2Bにより一体的に連結されると共に、アウタ側で補強ビーム2Cにより一体的に連結されている。
取付部材2の各腕部2Aには、ディスク1の軸方向中間部となる位置にディスク1の外周(回転軌跡)に沿って円弧状に延びるディスクパス部2A1が形成されている(図4参照)。ディスクパス部2A1のディスク1の軸方向両側には、後述するインナ側,アウタ側のパッドガイド3がそれぞれ形成されている。また、各腕部2Aには、ピン穴(図示せず)がそれぞれ設けられている。これらのピン穴内には、後述の摺動ピン5が摺動可能に挿嵌される。
取付部材2の腕部2Aには、ディスク1の回転方向(図2中の左,右方向)に離間して一対のパッドガイド3が設けられている。該パッドガイド3は、図3に示す如くディスク1の径方向外側寄りに位置する外径壁面(以下、上側壁面3Aという)と、ディスク1の径方向内側寄りに位置した内径壁面(以下、下側壁面3Bという)と、これらの壁面3A,3B間を奥所側で連結する底部としての奥側壁面3Cとにより構成されている。そして、パッドガイド3は、これらの壁面3A,3B,3Cにより凹状(断面コ字状)をなし、上側壁面3Aと下側壁面3Bとは、図3中の上,下に離間して互いに平行に配設されている。
即ち、パッドガイド3は、後述する摩擦パッド8の突出部9A,9Bを上側壁面3Aと下側壁面3Bとの間で上,下方向(ディスク1の径方向)から挟むように形成され、これらの壁面3A,3B間で摩擦パッド8をディスク1の軸方向にガイドするものである。また、下側壁面3Bのうち後述する摩擦パッド8を挿入する側の端部3B1のディスク1の径方向外方には、後述のパッドスプリング11の第2延出部22の傾斜板22Aが位置する構成となっている。また、パッドガイド3の奥側壁面3Cは、所謂トルク受部として機能し、ブレーキ操作時に摩擦パッド8がディスク1から受ける制動トルクを後述する回出側の突出部9Bを介して受承するものである。
即ち、図2中における左,右のパッドガイド3,3のうち、矢示A方向に回転するディスク1の回転方向出口側(以下、回出側という)に位置する図中左側のパッドガイド3、特に、奥側壁面3Cは、車両が前進方向に走行しているときのブレーキ操作時に後述の摩擦パッド8がディスク1から受ける制動トルクを摩擦パッド8の裏板9の突出部9Bおよび、後述するパッドスプリング11の案内板部15を介して受承する。また、矢示A方向に回転するディスク1の回転方向入口側(以下、回入側という)に位置する右側のパッドガイド3の奥側壁面3Cは、車両が後退しているときのブレーキ操作時に後述の摩擦パッド8がディスク1から受ける制動トルクを摩擦パッド8の裏板9の突出部9Aおよび、後述するパッドスプリング11の案内板部15を介して受承する。
キャリパ4は、取付部材2に摺動可能に設けられている。該キャリパ4は、図1に示す如くディスク1の一側であるインナ側に設けられたインナ脚部4Aと、取付部材2の各腕部2A間でディスク1の外周側を跨ぐようにインナ脚部4Aからディスク1の他側であるアウタ側へと延設されたブリッジ部4Bと、該ブリッジ部4Bの先端側であるアウタ側からディスク1の径方向内向きに延び、先端側が三又状をなした爪部としてのアウタ脚部4Cとにより構成されている。
そして、キャリパ4のインナ脚部4Aには、ディスク1の回転方向に並んで2個のピストン4D,4Dが摺動可能に挿嵌されるシリンダ(図示せず)が形成されている。また、インナ脚部4Aには、図1中の左,右方向に突出する一対の取付部4E,4Eが設けられている。該各取付部4Eは、キャリパ4全体を後述の摺動ピン5を介して取付部材2の各腕部2Aに摺動可能に支持する。
摺動ピン5は、図1に示す如くキャリパ4の各取付部4Eにそれぞれボルト6を用いて締結されている。各摺動ピン5の先端側は、取付部材2の各腕部2Aのピン穴に向けて延びており、取付部材2の各ピン穴内に摺動可能に挿嵌されている。各腕部2Aと各摺動ピン5との間には、図1に示す如く保護ブーツ7がそれぞれ取付けられ、摺動ピン5と腕部2Aのピン穴との間に雨水等が浸入するのを防いでいる。
インナ側の摩擦パッド8とアウタ側の摩擦パッド8は、ディスク1の両面に対向して配置されている。各摩擦パッド8は、ディスク1の回転方向(周方向)に略扇形状をなして延びる平板状の裏板9と、該裏板9の表面に固着して設けられディスク1の表面に摩擦接触する摩擦材としてのライニング10(図1参照)等とにより構成されている。
摩擦パッド8の裏板9は、ディスク1の回転方向両側に位置する側面部に凸形状をなした突出部9A,9Bを有している。該突出部9A,9Bは、ディスク1の径方向外方に位置する径方向外側面9A1,9B1と、ディスク1の回転方向外方に位置する回転方向外側面9A2,9B2と、ディスク1の径方向内方側に位置する径方向内側面9A3,9B3とを有し、取付部材2のパッドガイド3に凹凸嵌合されるものである。これにより、摩擦パッド8は、ディスク1の軸方向に移動可能となっている。そして、突出部9A,9Bは、車両のブレーキ操作時にディスク1から摩擦パッド8が受ける制動トルクをパッドガイド3の奥側壁面3Cに当接して伝達するトルク伝達部を構成するものである。
摩擦パッド8(裏板9)の突出部9A,9Bは、左,右対称に形成され、互いに同一の形状をなしている。そして、一方の突出部9Aは、車両の前進時に矢示A方向に回転するディスク1の回転方向入口側(回入側)に配置され、他方の突出部9Bは、ディスク1の回転方向出口側(回出側)に配置される。
次に、本実施の形態によるパッドスプリング11について説明する。
取付部材2の各腕部2Aには、一対のパッドスプリング11,11が取付けられている。該各パッドスプリング11は、それぞれインナ側,アウタ側の摩擦パッド8を弾性的に支持すると共に、これらの摩擦パッド8のディスク1の軸方向における摺動変位を滑らかにするものである。
パッドスプリング11は、後述の連結板部12、平板部13、係合板部14、案内板部15、径方向付勢部19により構成されている。なお、パッドスプリング11の各部位に関して、以下の説明では、「上側」、「上面」または「上向き」という語句を、ディスク1の径方向外方、径方向外方の面または径方向外向きを意味するものとして用い、「下側」、「下面」または「下向き」という語句は、ディスク1の径方向内方、径方向内方の面または径方向内向きを意味するものとして用いることとする。
パッドスプリング11の連結板部12は、後述する各案内板部15をディスク1のインナ側とアウタ側とで一体的に連結するために、ディスク1の外周側を跨いだ状態で軸方向に延びて形成されている。連結板部12の長さ方向両端側には、一対の平板部13,13がディスク1の径方向内向きに延びて一体に形成されている。
係合板部14は、一対の平板部13,13間に位置して連結板部12と一体に形成され、腕部2Aのディスクパス部2A1に径方向内方から係合するように取付部材2に取付けられている。これにより、パッドスプリング11は、取付部材2の腕部2Aに対してディスク1の軸方向で位置決めされる。
一対の案内板部15,15は、連結板部12の両端側に各平板部13を介して設けられている。各案内板部15は、平板部13の下側端(先端側)から略コ字状に折曲げられることにより形成されている。一対の案内板部15のうち一方の案内板部15は、インナ側のパッドガイド3内に嵌合して取付けられ、他方の案内板部15は、アウタ側のパッドガイド3内に嵌合して取付けられている。そして、案内板部15,15は、上面板部16、対向面部としての対向板部17、下面板部18により構成されている。
案内板部15の上面板部16は、平板部13の下端側から略90度折曲げて形成され、ディスク1の回転方向外方に向けて延出されている。上面板部16は、パッドスプリング11を取付部材2に取付けたときに、パッドガイド3の上側壁面3Aに対向し、かつ上側壁面3Aに当接されるものである。また、上面板部16は、後述する径方向付勢部19の第2延出部22とディスク1の径方向で対向して配置されるものである。そして、上面板部16には、径方向付勢部19の付勢力によって摩擦パッド8の突出部9A,9Bの上面側(ディスク1の径方向外方)となる径方向外側面9A1,9B1が当接するものである。
また、上面板部16には、ディスク1の軸方向外方に向けて突出し先端(突出端)側がディスク1の径方向外方へと斜めに傾斜した挿入ガイド16Aが一体に形成されている。該挿入ガイド16Aは、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを、案内板部15の上面板部16と径方向付勢部19の第2延出部22との間に挿入するときに、突出部9A,9Bを案内板部15の内側に滑らかに案内するために設けられている。
上面板部16からディスク1の径方向内方に向けて延出された対向板部17は、パッドスプリング11を取付部材2に取付けたときに、パッドガイド3の奥側壁面3Cに対向し、かつ奥側壁面3Cに当接されるものである。そして、対向板部17には、摩擦パッド8の突出部9A,9Bのディスク1の回転方向外方に位置する回転方向外側面9A2,9B2が当接する。
ここで、図8に示すように、対向板部17は、斜めに傾斜させたアンチクロンク構造部(傾斜部)として形成されている。即ち、対向板部17は、上面板部16とのなす角度が90度よりも大きく形成されている。換言すると、対向板部17は、パッドスプリング11を取付部材2に取付けた状態で、パッドガイド3の奥側壁面3Cの下部(ディスク1の径方向内方側)から角度α(例えば、α=1度から5度)だけディスク1の回転方向内方に向けて傾斜する構成となっている。これにより、パッドガイド3の奥側壁面3Cと対向板部17との間には、若干の隙間が形成される。
そして、このアンチクロンク構造部により、摩擦パッド8の突出部9A,9Bは、それぞれ対向板部17からディスク1の回転方向内方(摩擦パッド8の中心側)に向けて付勢される。その結果、摩擦パッド8のガタつきを抑制したり、ブレーキ操作時に、摩擦パッド8の突出部9A,9Bがパッドガイド3の奥側壁面3Cに急激に衝突するのを緩和したりすることができるので、パッド異音(ラトル音やクロンク音)の発生を抑制することができる。
対向板部17の下端側から略90度折曲げて形成された下面板部18は、ディスク1の回転方向内方に向けて延出するものである。この下面板部18は、上面板部16とディスク1の径方向で対面している。そして、下面板部18と上面板部16とは、対向板部17により連結されている。
これにより、案内板部15は、上面板部16と対向板部17と下面板部18とにより凹状に窪んだ略コ字状、若しくは略U字状に形成されている。そして、案内板部15がパッドガイド3内に嵌合して取付けられることにより、下面板部18は、パッドガイド3の下側壁面3Bに対向し、かつ下側壁面3Bに当接し、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをディスク1の軸方向に案内する構成となっている。また、下面板部18は、ディスク1の軸方向に延びる板状に形成され、その端縁18Aは、後述のパッドスプリング11の第1の屈曲部22A1とディスク1の軸方向で対向する位置に配置されている。
次に、本実施の形態による径方向付勢部19について説明する。
案内板部15から延出して設けられた径方向付勢部19は、摩擦パッド8の突出部9A,9Bの下面側(ディスク1の径方向内方)となる径方向内側面9A3,9B3に弾性変形状態で当接し、摩擦パッド8をディスク1の径方向外方に向けて付勢するものである。これにより、摩擦パッド8が取付部材2に対してガタつくのを抑えることができる。そして、径方向付勢部19は、第1延出部20、カール部21、第2延出部22により構成されている。
対向板部17からディスク1の軸方向外方へと延出して設けられた第1延出部20は、対向板部17と同一平面上に配置されている。該第1延出部20は、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを、案内板部15の上面板部16と後述する第2延出部22との間に挿入するときに、突出部9A,9Bを案内板部15の内側に滑らかに案内することができる。
第1延出部20は、対向板部17のうちディスク1の径方向外方寄りとなる端部(即ち、上面板部16側寄りの端部)からディスク1の径方向に予め決められた幅寸法をもってディスク1の軸方向に延出している。これにより、第1延出部20は、所要な剛性を確保することができるので、例えば摩擦パッド8を取付部材2に組付けたときに、パッドガイド3に対するパッドスプリング11の浮き等を抑制することができる。第1延出部20は、後述のカール部21および第2延出部22を案内板部15の対向板部17に対して連結し、カール部21および第2延出部22が後述の如く弾性的な付勢力を安定して発生させるものである。
また、第1延出部20の先端20A側でディスク1の径方向外方には、ディスク1の回転方向外方へと斜めに傾斜した挿入ガイド20Bが一体に形成されている。該挿入ガイド20Bは、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを、案内板部15の上面板部16と径方向付勢部19の第2延出部22との間に挿入するときに、突出部9A,9Bを案内板部15の内側に滑らかに案内することができる。
径方向付勢部19を構成するカール部21は、第1延出部20の先端20A側でディスク1の径方向内方へ延びて折返されてディスク1の回転方向に延びている。具体的には、カール部21は、第1延出部20の先端20A側のディスク1の径方向内方側からディスク1の回転方向外方に向けて延び、ディスク1の径方向内方に向けて略C字状または略U字状に湾曲して折返した折返し部21Aと、該折返し部21Aの先端からディスク1の回転方向内方に向けて延びる延設部21Bにより構成されている。
折返し部21Aは、第1延出部20の先端20A側のうちディスク1の径方向内方側の部位からディスク1の回転方向外方に向けて突出すると共に、略C字状または略U字状に湾曲して形成されている。また、延設部21Bの先端21B1には、ディスク1の軸方向へと略L字状に屈曲(方向転換)して延びる後述の第2延出部22が一体形成されている。
径方向付勢部19を構成する第2延出部22は、カール部21の延設部21Bの先端21B1からディスク1へ近付く方向でディスク1の径方向外方に、ディスク1の軸方向に対して斜めに延出している。即ち、第2延出部22は、カール部21の先端21B1に対して略90度屈曲してディスク1へ近付く方向に斜めに延びている。換言すると、第2延出部22は、カール部21の延設部21Bの先端21B1でディスク1へ近付く方向に方向転換することにより、カール部21と第2延出部22とは、平面視で略L字状に一体形成されている。
そして、第2延出部22は、第1の屈曲部22A1と第2の屈曲部22B1とを有する細いばね片として形成され、傾斜板22A、当接板22Bとにより2段状に構成されている。
図7に示すように、傾斜板22Aの基端側は、第1の屈曲部22A1の位置でカール部21の先端21B1に一体形成され、第1の屈曲部22A1により、ディスク1の軸方向に対して角度θ1をなすように傾斜して形成されている。これにより、傾斜板22Aは、カール部21の延設部21Bの先端21B1からディスク1の軸方向に対して角度θ1をもって案内板部15の上面板部16と下面板部18との間まで斜めに延出されている。
そして、傾斜板22Aの先端側には、当接板22Bが一体形成されている。当接板22Bの基端側、即ち、傾斜板22Aの先端側には、ディスク1の軸方向に対して角度θ2をなす第2の屈曲部22B1が形成されている。これにより、当接板22Bは、上面板部16と下面板部18との間で傾斜板22Aの先端からディスク1の軸方向に対して角度θ2をもってディスク1に近付く方向に斜めに延出している。
摩擦パッド8の突出部9A,9Bを案内板部15に挿入する前の状態において、当接板22Bと上面板部16との間には、両者の間に摩擦パッド8(裏板9)の突出部9A,9Bを挟み込むための隙間が形成されるようになっている。また、当接板22Bと下面板部18との間には、当接板22Bの弾性変形を許すように隙間が形成されている。
ここで、第1の屈曲部22A1による傾斜板22Aの角度θ1は、第2の屈曲部22B1による当接板22Bの角度θ2よりも大きく形成されている。これにより、第2延出部22は、カール部21の先端21B1から案内板部15までの間で、ディスク1の軸方向に対する傾斜角度が大きくなっている。
その結果、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを案内板部15の上面板部16と当接板22Bとの間に挿入したときに、第2延出部22が下面板部18の端縁18A(図4、図6参照)やパッドガイド3の端部3B1に接触するのを抑制することができる。これにより、径方向付勢部19は、摩擦パッド8をディスク1の径方向に付勢する上で安定したばね荷重を確保することができる。
また、当接板22Bは、その上面が平坦な板体からなり、当接板22Bの長さ寸法(ディスク軸方向の寸法)は、案内板部15の下面板部18のディスク1の軸方向の長さ寸法よりも若干小さく形成されている。これにより、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを案内板部15の上面板部16と当接板22Bとの間に挿入したときに、当接板22Bの先端側が案内板部15内から突出してディスク1の表面に干渉するのを回避できると共に、摩擦パッド8の突出部9A,9Bの径方向内側面9A3,9B3を滑らかに当接板22B上で摺動させることができる。
そして、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをパッドスプリング11の案内板部15に挿入したときに、径方向付勢部19は、第2延出部22が摩擦パッド8の突出部9A,9Bと下面板部18との間に挟まれるように弾性変形する。この状態で、径方向付勢部19のカール部21および第2延出部22は、摩擦パッド8(裏板9)の突出部9A,9Bをディスク1の径方向外方(即ち、案内板部15の上面板部16)に向けて弾性的に付勢し、摩擦パッド8が取付部材2に対してディスク1の径方向にガタつくのを抑えるものである。
この場合、第2延出部22は、カール部21の延設部21Bの先端21B1からディスク1に近付く方向に方向転換して構成されている。即ち、第2延出部22とカール部21とは、略L字状に形成されているので、第2延出部22は、カール部21の折返し部21Aからディスク1の回転方向内方へと位置ずれ(オフセット)された位置に配置されている。
そして、カール部21がディスク1の径方向内方に向けて撓む(弾性変形する)と、カール部21の延設部21Bは、折返し部21Aからディスク1の径方向内方に向けて傾斜する。それに伴い、第2延出部22は、ディスク1の径方向内方に向けて傾斜する。これにより、摩擦パッド8は、突出部9A,9Bの径方向内側面9A3、9B3とパッドスプリング11の第2延出部22の当接板22Bとが点接触状態で支持されることになるので、摩擦パッド8のディスク1の軸方向における摺動変位を滑らかにすることができる。
また、パッドスプリング11には、摩擦パッド8により、ディスク1の径方向内方に向けての荷重がかかる。このため、パッドスプリング11の上面板部16とパッドガイド3の間に隙間が生じる虞がある。しかし、本実施の形態のパッドスプリング11は、第1延出部20を所要な剛性を確保することができる大きさで形成しているので、上面板部16とパッドガイド3との間に隙間が生じるのを抑制することができ、その結果、パッドスプリング11の浮き等を抑制することができるので摩擦パッド8を滑らかに摺動させることができると共に、アンチクロンク構造部を安定させることができるので、パッド異音を抑制することができる。
このように構成されるパッドスプリング11は、図12に示すように板片11′をプレス成形することによって形成され、この板片11′は、ばね性を有するステンレス鋼板等の板材からプレスによる打抜き等の手段を用いて略コ字状に型取りされている。
ここで、板片11′は、その上部側で所要の長さを有する連結板部12′と、該連結板部12′の左,右両端側から下方へと折曲線B,Bの位置まで延びた一対の平板部13′,13′と、前記連結板部12′の中央部から下方へと延びた係合板部14′と、各平板部13′の下端側(各折曲線Bの位置)から下方へと折曲線D,Dの位置まで延びた一対の上面板部16′,16′と、該各上面板部16′の下端側(各折曲線Dの位置)から下方へと折曲線E,Eの位置まで延びた一対の対向板部17′,17′と、該各対向板部17′の下端側(各折曲線Eの位置)から下方に延びた一対の下面板部18′,18′と、前記一対の対向板部17′から左,右方向外方に延びた一対の第1延出部20′,20′と、該各第1延出部20′の左,右方向外方から下方に延びたカール部21′,21′と、該各カール部21′の下端側(各折曲線Gの位置)から左,右方向内方に向けて延びた第2延出部22とにより大略構成されている。
そして、板片11′を折曲線Aに沿って略く字状に折曲げることにより連結板部12が形成され、さらに折曲線Cに沿って略く字状に折曲げることにより係合板部14が形成される。
また、板片11′を折曲線B,D,Eに沿って略コ字状に折曲げることにより案内板部15を構成する上面板部16と、対向板部17と、下面板部18が形成される。そして、折曲線Fに沿って略90度折曲げ、途中部位を略C字状または略U字状に折曲げることによりカール部21が形成される。また、折曲線Gに沿って水平面に対して角度θ1に折曲げることにより第2延出部22の傾斜板22Aが形成され、折曲線Hに沿って水平面に対して角度θ2に折曲げることにより第2延出部22の当接板22Bが形成される。このとき、折曲線Gは、第1の屈曲部22A1となり、折曲線Hは、第2の屈曲部22B1となる。
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ4のインナ脚部4A(シリンダ)にブレーキ液圧を供給することによりディスク1の回転方向に並んだ2個のピストン4Dをディスク1に向けて摺動変位させ、これによって、インナ側の摩擦パッド8をディスク1の一側面に押圧する。このときに、キャリパ4はディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ4全体が取付部材2の腕部2Aに対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部4Cがアウタ側の摩擦パッド8をディスク1の他側面に押圧する。
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド8は、図1および図2中の矢示A方向(車両の前進時)に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から強く挟持することができ、このディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、ピストン4Dへの液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド8がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。
また、摩擦パッド8の突出部9Aは、パッドスプリング11の対向板部17を傾斜させることにより形成されたアンチクロンク構造部により、ディスク1の回出側に向けて付勢され、摩擦パッド8の突出部9Bは、パッドスプリング11の対向板部17を傾斜させることにより形成されたアンチクロンク構造部により、ディスク1の回入側に向けて付勢されている。このため、摩擦パッド8が車両走行時の振動等でディスク1の回転方向(周方向)にガタついたりするのを、アンチクロンク構造部により規制することができる。
そして、車両前進時のブレーキ操作時には、摩擦パッド8がディスク1から受ける制動トルク(矢示A方向の回転トルク)を、回出側の腕部2A(パッドガイド3の奥側壁面3C)により受承することができる。
この場合、パッドスプリング11の対向板部17(アンチクロンク構造部)は、摩擦パッド8の突出部9Bを対向板部17からディスク1の回入側に向けて付勢しているので、その弾発力により突出部9Bがパッドガイド3の奥側壁面3Cに急激に衝突するのを緩和している。
これにより、摩擦パッド8がガタついて摩擦パッド8とパッドガイド3が衝突したり、制動トルクによって摩擦パッド8が移動したりして発生する異音(ラトル音やクロンク音)を抑制することができる。
また、摩擦パッド8の突出部9A,9Bは、ディスク1の回入側,回出側に位置するパッドガイド3内にパッドスプリング11の案内板部15を介して摺動可能に挿嵌され、径方向付勢部19によってディスク1の径方向外方へと付勢されている。
よって、走行時の振動等により摩擦パッド8がディスク1の径方向にガタついたりするのを、パッドスプリング11の径方向付勢部19により抑制することができる。そして、ブレーキ操作時には、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを案内板部15の上面板部16側に摺接させた状態に保持しつつ、インナ側,アウタ側の摩擦パッド8を案内板部15に沿ってディスク1の軸方向へと円滑に案内することができる。
ところで、前記特許文献1によるパッドスプリングは、径方向付勢部のカール部をディスクの軸方向に延出させている。このため、材料打抜き時の展開形状は、径方向付勢部が案内板部から突出することになり、材料の歩留りが低減するという問題がある。
一方、前記特許文献2によるパッドスプリングは、全体として略コ字状に形成することにより、材料の歩留りを向上させている。しかし、径方向付勢部のうち摩擦パッドが摺接する面が、パッドスプリングのインナ部分とアウタ部分とを連結する連結部に近接しているので、連結部が小さくなっている。これにより、連結部の剛性が小さくなるので耐久性が低減し、パッドスプリングのインナ部分とアウタ部分とで組付け姿勢が変化しやすくなる。その結果、摩擦パッドが安定して支持されず、パッド異音等を発生する虞がある。
これに対し、本実施の形態によるパッドスプリング11は、図12に示す板片11′のように、第2延出部22′を下面板部18′の下側に配置する構成としているので、パッドスプリング11(板片11′)のインナ部分とアウタ部分を連結する連結板部12の長さ寸法を長くすることができる。これにより、連結板部12の剛性を向上させ、パッドスプリング11の耐久性を増すことができる。従って、本実施の形態によるパッドスプリング11は、板片11′を全体として略コ字状に形成することにより、材料の歩留りを向上させると共に、パッドスプリング11の組付け姿勢を安定させて滑らかに摩擦パッド8を摺動させることができる。
また、本実施の形態によるパッドスプリング11は、カール部21を円弧状に形成しているが、第2延出部22のうち摩擦パッド8の突出部9A,9Bが摺接する面を反転させずに形成することができる。
なお、前記特許文献1および特許文献2による従来技術では、パッドスプリングの径方向付勢部のうち、摩擦パッドが摺接する面は、円弧状のカール部を形成しながら反転させている。即ち、パッドスプリングを取付部材に取付けた状態で、摩擦パッドの径方向内側面が摺接する面は、摩擦パッド側に位置する他の面とは反対(裏面)となっている。これにより、材料打抜き時のバリ方向が統一されず、摩擦パッドの摺動性が低減する虞がある。
しかし、本実施の形態によるパッドスプリング11は、第2延出部22のうち摩擦パッド8の突出部9A,9Bが摺接する面を反転させずに形成しているので、材料打抜き時のバリ方向が同一となり、摩擦パッド8を安定して摺動させることができる。
かくして、本実施の形態で採用したパッドスプリング11は、取付部材2のパッドガイド3に嵌合して取付けられ摩擦パッド8をディスク1の軸方向に案内する案内板部15と、該案内板部15から延出して設けられ摩擦パッド8をディスク1の径方向に付勢する径方向付勢部19とを有している。
そして、径方向付勢部19は、パッドガイド3の奥側壁面3Cに対向する案内板部15の対向板部17からディスク1の軸方向へ延びる第1延出部20と、該第1延出部20の先端20A側でディスク1の径方向内方へ延びて折返されてディスク1の回転方向に延びるカール部21と、該カール部21の先端21B1からディスク1へ近付く方向でディスク1の径方向外方に、ディスク1の軸方向に対して斜めに延出し摩擦パッド8が当接する第2延出部22とを有している。
さらに、第2延出部22は、カール部21の先端21B1から案内板部15までの間で、ディスク1の軸方向に対する角度が大きくなるように、少なくとも2つの屈曲部22A1,22B1を有している。
このように、パッドスプリング11は、径方向付勢部19のカール部21が、ディスク1の径方向内方へ延びて折返されてディスク1の回転方向に延びているので、摩擦パッド8を取付部材2に組付けるときにカール部21が邪魔にならず、摩擦パッド8の組付性を向上させることができる。
また、摩擦パッド8は、パッドスプリング11を構成する径方向付勢部19のカール部21と第2延出部22とによりディスク1の径方向外方に向けて付勢しているので、カール部21にかかる応力を可及的に小さくすることができる。これにより、カール部21を小さくしても必要なばね定数を確保することができ、パッド異音(ラトル音)を抑制することができる。
さらに、摩擦パッド8の突出部9A,9Bを第2延出部22と案内板部15の上面板部16との間に挿入したときに、第2延出部22に設けられた第1の屈曲部22A1と第2の屈曲部22B1とにより、第2延出部22は、案内板部15の下面板部18の端縁18Aやパッドガイド3の端部3B1に接触するのを抑制することができる。これにより、カール部21および第2延出部22は、安定したばね荷重を摩擦パッド8に与えることができる。
なお、上記実施の形態においては、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをパッドスプリング11の案内板部15に挿入したときに、第2延出部22がディスク1の径方向内方に向けて傾斜し、突出部9A,9Bの径方向内側面9A3、9B3とパッドスプリング11の第2延出部22の当接板22Bとで点接触状態となって、摩擦パッド8が支持されるようになっている。これに対して、図13,14に示す変形例においては、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをパッドスプリング31の案内板部35に挿入したときに、パッドスプリング31の第2延出部42の当接板42Bが、摩擦パッド8の突出部9A,9Bの径方向内側面9A3、9B3と略平行になるようにしている。言い換えれば、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをパッドスプリング31の案内板部35に挿入したときに、パッドスプリング31の第2延出部42が、案内板部35の下面板部38における上面板部36との対向面38Bと略平行になるようにしている。
第2延出部42を上記のような状態とするため、パッドスプリング31は、図13,14に示す自然状態で、カール部41の延設部41Bの延出角度が、対向面38Bに対して角度α+θ3だけディスク1の径方向外側に向けて傾斜する構成となっている。
上記変形例においては、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをパッドスプリング31の案内板部35に挿入したときに、パッドスプリング31の第2延出部42の当接板22Bが、摩擦パッド8の突出部9A,9Bの径方向内側面9A3、9B3と面接触となるので、非制動時やキャリパ4へ微圧のブレーキ液圧が供給される微圧付加状態時における摩擦パッド8の姿勢が安定し、摩擦パッド8がディスク1に軽く接触しているような場合のブレーキ鳴きを抑制することが可能になる。
なお、上述した実施の形態では、第2延出部22に第1の屈曲部22A1と第2の屈曲部22B1との2つの屈曲部を有することにより、第2延出部22をカール部21の先端21B1から案内板部15までの間でディスク1の軸方向に対する角度が大きくなるようにした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば第2延出部に3つ以上の屈曲部を設け、第2延出部をカール部の先端から案内板部までの間でディスクの軸方向に対する角度が大きくなるようにしてもよい。
また、上述した実施の形態では、パッドスプリング11は、ディスク1の径方向に関し、内側に径方向付勢部19を配置すると共に、外側に上面板部16を配置する構成とし、摩擦パッド8の突出部9A,9Bをディスク1の径方向外方に向けて弾性的に付勢する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば径方向付勢部と上面板部との位置関係を、ディスクの径方向に関して逆にしてもよい。即ち、ディスクの径方向に関し、外側に径方向付勢部を配置すると共に内側に支持板を配置する構成とし、摩擦パッドの突出部をディスクの径方向内側に向けて弾性的に付勢するものとしてもよい。
また、上述した実施の形態では、キャリパ4のインナ脚部4Aにディスク1の回転方向に並んだ2個のピストン4D,4Dを設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えばキャリパのインナ脚部に1個のピストンまたは3個以上のピストンを設け、このピストンにより摩擦パッドをディスクに押圧してもよい。