JP5846417B2 - 形質転換体の培養方法及びイタコン酸の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、特定のDNAからなるシス−アコニット酸デカルボキシラーゼをコードするDNAを含有するプラスミドベクターが導入された形質転換体の培養方法、及びイタコン酸を効率的に製造することができるイタコン酸の製造方法を提供することを目的とする。
[1]宿主に、イタコン酸高生産能を与えるプラスミドベクターが導入された形質転換体を培養する工程と、
前記形質転換体が生成したイタコン酸を回収する工程と、を備えるイタコン酸の製造方法であって、
前記プラスミドベクターは、
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAからなるシス−アコニット酸デカルボキシラーゼをコードするDNAと、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプロモーターDNAと、
配列番号5に記載の塩基配列からなるターミネーターDNAと、を含有しており、
前記形質転換体を培養する工程において、培地のpHが4以下であることを特徴とするイタコン酸の製造方法。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
[2]前記形質転換体を培養する工程において、前記培地の炭素源として、硝酸による酸分解物を用いる上記[1]に記載のイタコン酸の製造方法。
[3]前記形質転換体を培養する工程において、培養温度が15〜38℃である上記[1]又は[2]に記載のイタコン酸の製造方法。
[4]前記宿主がアスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌である上記[1]乃至[3]のうちのいずれか一項に記載のイタコン酸の製造方法。
[5]前記宿主がアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)である上記[1]乃至[3]のうちのいずれか一項に記載のイタコン酸の製造方法。
[6]前記形質転換体を培養する工程において、前記培地には、ビオチン、ニコチン酸、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン塩酸塩、パントテン酸、リボフラビン、及び塩化コリンが配合されている上記[1]乃至[5]のうちのいずれか一項に記載のイタコン酸の製造方法。
[7]宿主に、イタコン酸高生産能を与えるプラスミドベクターが導入された形質転換体を培養する培養方法であって、
前記プラスミドベクターは、
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAからなるシス−アコニット酸デカルボキシラーゼをコードするDNAと、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプロモーターDNAと、
配列番号5に記載の塩基配列からなるターミネーターDNAと、を含有しており、
培地のpHが4以下であることを特徴とする培養方法。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
[8]前記培地の炭素源として、硝酸による酸分解物を用いる上記[7]に記載の培養方法。
[9]培養温度が15〜38℃である上記[7]又は[8]に記載の培養方法。
[10]前記宿主がアスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌である上記[7]乃至[9]のうちのいずれか一項に記載の培養方法。
[11]前記宿主がアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)である上記[7]乃至[9]のうちのいずれか一項に記載の培養方法。
[12]前記培地には、ビオチン、ニコチン酸、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン塩酸塩、パントテン酸、リボフラビン、及び塩化コリンが配合されている上記[7]乃至[11]のうちのいずれか一項に記載の培養方法。
[1]形質転換体
本発明の形質転換体は、宿主に、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ(以下、「CAD」ともいう。)をコードするDNAを含有するプラスミドベクターが導入されたものであって、上記宿主が糸状菌であることを特徴とする。
上記アスペルギルス属の糸状菌としては、例えば、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus tereus)、アスペルギルス・イタコニカス(Aspergillus itaconicus)等が挙げられる。これらのなかでも、アスペルギルス・テレウスが好ましく、アスペルギルス・テレウスIFO6365株が特に好ましい。
(a)配列番号1(表1参照)に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2(表2参照)に記載の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号3(表3参照)に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2(表2参照)又は配列番号3(表3参照)に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号3に記載の塩基配列は、配列番号2に記載の塩基配列からイントロン領域を除外した塩基配列である。配列番号3に記載の塩基配列は、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のcDNA塩基配列である。
適用可能なイタコン酸生産菌については特に制限はなく、種々のアスペルギルス属糸状菌や酵母を用いることができる。具体的には種々のAspergillus tereus、Aspergillus itaconicus、及び、Candida tsukubaensis等のイタコン酸生産菌を挙げることができる。
また、このプラスミドベクターは、後段で説明する特定のプロモーターDNAとCADをコードするDNAとを含有するプラスミドベクターである。
本発明のプラスミドベクターは、宿主にイタコン酸高生産能を与えるものであって、CADをコードするDNAと、配列番号4に記載の塩基配列からなるプロモーターDNAと、を含有することを特徴とする。
尚、「シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ(CAD)をコードするDNA」については、上述の形質転換体における説明をそのまま適用することができる。
上記発現ベクターとしては、糸状菌用ベクター等が挙げられる。具体的には、例えば、「pPTR I」(タカラバイオ株式会社製)、「pPTR II」(タカラバイオ株式会社製)、「pAUR123」(タカラバイオ株式会社製)等を挙げることができる。
本発明のイタコン酸の製造方法は、上述の形質転換体を培養する工程と、形質転換体が生成したイタコン酸を回収する工程と、を備えることを特徴とする。
この培養工程では、培地のpHを4以下(特に3以下、更には2以下)とする。このように培地のpHが低い場合、炭素源として、従来用いられているブドウ糖よりも安価なデンプンの酸分解物をそのまま用いることができる。また、植物から抽出されたデンプンを硝酸によって酸分解すれば、糸状菌は硝酸を窒素源として利用できるため、その他の栄養となる物質を一切添加することなく培養が可能である。更には、培地が酸性であるため、培養の際に細菌や酵母が混入しても、その影響を最小限に留めることができる。
また、この培養工程では、培養温度を15〜38℃(特に25〜34℃、更には28〜32℃)とすることができる。培養温度が上記範囲である場合には、宿主細胞を十分に培養することができる。
[1]プラスミドベクターの構築
(1−1)糸状菌用ベクターへのプロモーターDNAの挿入
糸状菌を宿主としてCAD1遺伝子を発現させるために、アスペルギルス・ニドランス由来伸長因子遺伝子プロモーターDNAを用いた。
このプロモーターDNAを得るために、下記表4に示すプライマーを用い、アスペルギルス・ニドランスの染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。これにより、配列番号4(表5参照)に記載の塩基配列からなるDNAが得られた。
尚、PCRの条件は、94℃、2分の後、94℃ 30秒、57℃ 30秒、72℃ 2分を30サイクル行った。
次いで、同じく制限酵素KpnI及びHindIIIにて消化した糸状菌用ベクター(タカラバイオ株式会社製、「pPTR I」)と結合した。DNAの結合にはライゲーション試薬(東洋紡績株式会社製、「Ligation high」)を用いた。得られたプラスミドDNAをpPTR−Pとする。
アスペルギルス・ニドランス由来伸長因子遺伝子ターミネーターDNAを得るために、下記表6に示すプライマーを用い、アスペルギルス・ニドランスの染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。これにより、配列番号5(表7参照)に記載の塩基配列からなるDNAが得られた。
尚、PCRの条件は、94℃、2分の後、94℃ 30秒、57℃ 30秒、72℃ 2分を30サイクル行った。
アスペルギルス・テレウス由来CAD1遺伝子発現用DNAを得るために、下記表8に示すプライマーを用い、アスペルギルス・テレウス IFO6365株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。これにより、配列番号12(表9参照)に記載の塩基配列からなるDNAが得られた。このCAD1遺伝子配列は特開2009−27999や、Appl.Microbiol.Biotechnol.(2008)80,223−229に記述され、DDBJにAccession Number AB326105として登録されたものである。
尚、PCRの条件は、98℃ 10秒、60℃ 15秒、68℃ 2分を30サイクル行った。
上記[1]で得られたプラスミドベクター(pPTR−CAD)を、糸状菌細胞(アスペルギルス・テレウス IFO6365株)に、プロトプラスト−ポリエチレングリコール法により導入した。アスペルギルス・テレウスの形質転換法についてはBiosci.Biotechnol.Biochem.(2002)66,404−406に報告があるが、これに記載の方法をアスペルギルス・テレウス IFO6365株に適用すると、形質転換体の判別が困難であり、また菌の生育も不十分であった。そこで、形質転換体を分離するために培地に加えるピリチアミン臭化水素酸塩の濃度を0.2μg/mlにしたところ、形質転換体を明確に判別が可能になった。菌の生育は、培地1リットルあたりにビオチン2.5mg、ニコチン酸2.5mg、パラアミノ安息香酸0.8mg、ピリドキシン塩酸塩1.0mg、パントテン酸2.0mg、リボフラビン2.5mg、塩化コリン20mgを添加することにより改善した。常法であるプロトプラスト−ポリエチレングリコール法にこれらの工夫を加えることによって、pPTR−CADが導入された形質転換体(アスペルギルス・テレウス AtCAD株)を得た。
上記[2]で得られた形質転換体(アスペルギルス・テレウス AtCAD株)を糸状菌用最少培地にて13日間振とう培養した。糸状菌最少培地の組成は1リットルあたり、グルコース10g、硝酸ナトリウム3g、塩化カリウム1.3g、硫酸マグネシウム七水和物1.3g、リン酸二水素カリウム3.8g、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物1mg、ホウ酸10mg、塩化コバルト六水和物2mg、硫酸銅五水和物2mg、硫酸鉄七水和物5mg、塩化マンガン四水和物5mg、硫酸亜鉛七水和物20mg、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム50mg、ピリチアミン臭化水素酸塩0.2mgを基本とし、今回生育速度を改善させるためにビオチン2.5mg、ニコチン酸2.5mg、パラアミノ安息香酸0.8mg、ピリドキシン塩酸塩1mg、パントテン酸2mg、リボフラビン2.5mg、塩化コリン20mgを加えた。尚、培地のpHは2.0、培養温度は30℃とした。
そして、培養開始3日目から2日毎に培養液の一部を採取し、0.20μmの孔径を有するフィルターにてろ過することにより試料を調製した。試料に含まれるイタコン酸は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)(カラム:カプセルパックC18 MG(5.0×150mm、株式会社資生堂製)、溶媒:0.1%リン酸溶液、温度:60℃、流速:1.5ml/分、検出波長:210nm)で定量した。
尚、コントロール(比較例1)には、CADをコードするDNAを挿入していないpPTR−PTが導入された形質転換体(アスペルギルス・テレウス AtPT株)を用いた。そして、培養から13日間の結果を表10及び図2に示した。
以上より、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ(CAD)をコードするDNAを糸状菌(アスペルギルス・テレウス)にて高発現させることにより、イタコン酸をより効率的に製造することができることが分かった。
Claims (12)
- 宿主に、イタコン酸高生産能を与えるプラスミドベクターが導入された形質転換体を培養する工程と、
前記形質転換体が生成したイタコン酸を回収する工程と、を備えるイタコン酸の製造方法であって、
前記プラスミドベクターは、
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAからなるシス−アコニット酸デカルボキシラーゼをコードするDNAと、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプロモーターDNAと、
配列番号5に記載の塩基配列からなるターミネーターDNAと、を含有しており、
前記形質転換体を培養する工程において、培地のpHが4以下であることを特徴とするイタコン酸の製造方法。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA - 前記形質転換体を培養する工程において、前記培地の炭素源として、硝酸による酸分解物を用いる請求項1に記載のイタコン酸の製造方法。
- 前記形質転換体を培養する工程において、培養温度が15〜38℃である請求項1又は2に記載のイタコン酸の製造方法。
- 前記宿主がアスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌である請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載のイタコン酸の製造方法。
- 前記宿主がアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)である請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載のイタコン酸の製造方法。
- 前記形質転換体を培養する工程において、前記培地には、ビオチン、ニコチン酸、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン塩酸塩、パントテン酸、リボフラビン、及び塩化コリンが配合されている請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載のイタコン酸の製造方法。
- 宿主に、イタコン酸高生産能を与えるプラスミドベクターが導入された形質転換体を培養する培養方法であって、
前記プラスミドベクターは、
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAからなるシス−アコニット酸デカルボキシラーゼをコードするDNAと、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプロモーターDNAと、
配列番号5に記載の塩基配列からなるターミネーターDNAと、を含有しており、
培地のpHが4以下であることを特徴とする培養方法。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、シス−アコニット酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA - 前記培地の炭素源として、硝酸による酸分解物を用いる請求項7に記載の培養方法。
- 培養温度が15〜38℃である請求項7又は8に記載の培養方法。
- 前記宿主がアスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌である請求項7乃至9のうちのいずれか一項に記載の培養方法。
- 前記宿主がアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)である請求項7乃至9のうちのいずれか一項に記載の培養方法。
- 前記培地には、ビオチン、ニコチン酸、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン塩酸塩、パントテン酸、リボフラビン、及び塩化コリンが配合されている請求項7乃至11のうちのいずれか一項に記載の培養方法。
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