JP5840482B2 - 絶縁樹脂成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物を成形して得られる成形体に関する。
近年、電気エネルギー利用の増加により、様々な用途で絶縁樹脂成形体が求められている。特に耐トラッキング性能に代表される電気絶縁特性を必要とした部品では、単に絶縁性が良いだけではなく、優れた難燃性、機械的特性、衝撃特性、耐水性、耐薬品性、寸法安定性等をも併具した熱可塑性樹脂が求められる。従来の電気・電子部品用途向けの材料として、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂が挙げられる。また耐トラッキング性能および難燃性について改良された樹脂組成物として、例えば特許文献1や特許文献2に記載の樹脂組成物が挙げられる。一方、寸法精度に優れ、非ハロゲン系難燃剤を用いた該用途向けの材料として、ポリカーボネート(以下「PC」とも記す。)や変性ポリフェニレンエーテル(以下「変性PPE」とも記す。)が挙げられる。これらの材料はその特徴を活かし、電気・電子部品のハウジングやシャーシ部品等で使用されている。特許文献3にはポリフェニレンエーテル樹脂を用い、耐トラッキング性能を改善させた熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
特許文献4には低温衝撃および長期耐熱性を改善した変性PPE樹脂組成物が提案されている。
特開平10−114854号公報 特開平10−251528号公報 特開昭58−083053号公報 特開2010−123933号公報
しかしながら、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂は機械特性、耐薬品性に優れるが寸法安定性や耐水性等の両立が困難である。また、特許文献1や特許文献2に記載の樹脂組成物では、ハロゲン化難燃剤を用いるため近年の環境安全志向を十分満足できているとはいえない。加えて、無機充填材を添加しているため衝撃強度の面で用途が制限される場合がある。一方、PCは耐衝撃性が高いものの耐水性および耐薬品性において制約があり、変性PPEは耐水性が高いものの、耐衝撃性および耐薬品性において十分な性能を有しているとは言い難い。特許文献3に記載の熱可塑性樹脂組成物は、無機物を配合しており、耐衝撃性や耐薬品性が改善は十分ではない。特許文献4に記載の変性PPE樹脂組成物は、耐トラッキング性についてはなんら効果が示されていない。
近年、電気エネルギー分野における絶縁部品の使用形態は、太陽電池、燃料電池や蓄電池、電気自動車やLED照明、スマートメーターのように多岐に広がっている。そして、これらの部品として用いる樹脂成形体は、小型化、多機能化が進んでいる。そのため、当該樹脂成形体において、トラッキングによる作動不良を避けるための導電部間の十分な絶縁距離確保が難しくなってきている。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、難燃性、機械的特性、耐水性、寸法安定性を併具する変性PPE系樹脂に注目し、高性能・小型化を実現させるための、PPE系樹脂を含む樹脂組成物を成形して得られる絶縁樹脂成形体を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、絶縁距離低減を可能とする耐トラッキング性能を有し、さらに過酷な使用環境下で使用を可能とする耐衝撃特性と剛性とが高いレベルでバランスした熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる絶縁樹脂成形体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PPE系樹脂に特定の水添ブロック共重合体を添加することで従来の優れた樹脂性能に加え、耐トラッキング性と衝撃強度とを飛躍的に向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]
樹脂組成物を成形して得られる絶縁樹脂成形体であって、
前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体と、(C)難燃剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であり、
前記(A)〜(C)の合計100質量部に対し、前記(A)の含有量が60〜80質量部であり、前記(B)の含有量が8〜30質量部であり、前記(C)の含有量が9〜25質量部であり、
前記熱可塑性樹脂組成物において、前記(B)水添ブロック共重合体が粒子状に分散し、該(B)の粒子の重量平均粒子径が0.3〜1μmであり、
前記絶縁樹脂成形体が、異なる2つの導電性部分相互間又は導電部分と成形体の外表面間の絶縁距離が1mm以上20mm以下となる部分を有する絶縁樹脂成形体。
[2]
ASTM D2303に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物の傾斜面トラッキング試験において、1.5kVでのトラキング成長距離が60分で25.4mm未満である、[1]に記載の絶縁樹脂成形体。
[3]
ASTM D2303に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物の傾斜面トラッキング試験において、2.5kVでのトラキング成長距離が25分で25.4mm未満である、[1]に記載の絶縁樹脂成形体。
[4]
IEC60112に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物のトラッキング試験において、プローブ間距離を1mmとし、375Vの電圧を印加した場合にトラッキングを起こすまでの電解液(塩化アンモニウム0.1質量%水溶液)の滴下数が30滴以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[5]
IEC60112に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物のトラッキング試験において、プローブ間距離を1mmとし、400Vの電圧を印加した場合にトラッキングを起こすまでの電解液(塩化アンモニウム0.1質量%水溶液)の滴下数が20滴以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[6]
前記熱可塑性樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を、前記熱可塑性樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が8以上であり、
前記熱可塑性樹脂組成物(厚さ1.5mm)の、UL94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルがV−0である、[1]〜[5]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[7]
前記(A)〜(C)の合計100質量部に対し、前記(A)の含有量が65〜75質量部であり、前記(B)の含有量が10〜20質量部であり、前記(C)の含有量が10〜20質量部であり、
前記(B)の粒子の重量平均粒子径が0.4〜0.7μmである、[1]〜[6]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[8]
前記熱可塑性樹脂組成物がシリコーンに対する耐薬品性を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[9]
前記熱可塑性樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度が30kJ/m2以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[10]
太陽電池用コネクタとして用いられる、[1]〜[9]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[11]
太陽電池用ジャンクションボックスとして用いられる、[1]〜[9]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[12]
電源アダプターとして用いられる、[1]〜[9]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
[13]
太陽電池モジュール用絶縁部品として用いられる、[1]〜[9]のいずれかに記載の絶縁樹脂成形体。
本発明によれば、耐トラッキング性と衝撃強度とに優れた熱可塑性樹脂組成物により、小型かつ過酷な使用環境下でも使用できる絶縁樹脂成形体を提供できる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
≪絶縁樹脂成形体≫
本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、樹脂組成物を成形して得られる絶縁樹脂成形体であって、異なる2つの導電性部分相互間又は導電部分と成形体の外表面間の絶縁距離が1mm以上20mm以下となる部分を有し、
前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体と、(C)難燃剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であり、
前記(A)〜(C)の合計100質量部に対し、前記(A)の含有量が60〜80質量部であり、前記(B)の含有量が8〜30質量部であり、前記(C)の含有量が9〜25質量部であり、
前記熱可塑性樹脂組成物において、前記(B)水添ブロック共重合体が粒子状に分散し、該(B)の粒子の重量平均粒子径が0.3〜1μmである。
なお、本実施形態において、IEC60112に準拠した試験方法を用いて、電解液を30回滴下してもトラッキングを起こさない距離を、異なる2つの導電性部分相互間の絶縁距離又は導電部分と成形体の外表面との間の絶縁距離とする。
本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、自動車、電気・電子、住設、エネルギー産業における電気・力・熱・光伝達部品や各種絶縁部品、およびこうした部品を収納あるいは保持するための筐体や躯体あるいはシート・フィルム状成形体として好適に用いることができる。中でも、本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、太陽電池用コネクタ、太陽電池用ジャンクションボックスなどの太陽電池モジュール用絶縁部品もしくは電源アダプターやインバーター部品として用いられることが好ましい。
特に耐トラッキング性能は電気導電部品において長期の安全を維持する上で重要である。小型化・薄型化される成形体においては導通部どうしの距離が短くなることもあり、より高い耐トラッキング性能が必要となる。
本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、特定の樹脂組成物を成形して得られ、絶縁性と耐衝撃性とに優れる。当該樹脂組成物の成形方法としては、特に限定されないが、射出成形(インサート成形、中空成形、多色成形等を含む)、ブロー成形、圧縮成形、押出し成形、熱成形、厚板からの切削加工等が挙げられる。中でも、量産性の観点から射出成形が好ましく、耐熱性、寸法安定性、剛性の観点から多色成形や金属インサート成形がより好ましい。特にシリコーンやエラストマーとの2色成形等では、長期使用によってブリードしてくるシリコーンやエラストマーの添加剤に対して前記熱可塑性樹脂組成物は耐性があり好適に本実施の形態に用いることができる。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、シリコーンに対する耐薬品性を有することが好ましい。シリコーンに対する耐薬品性を有する熱可塑性樹脂組成物は、例えば、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量を増やすことにより得ることができる。
なお、シリコーンに対する耐薬品性の有無は、後述の実施例に記載の方法により評価することができる。
本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、IEC60112に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物のトラッキング試験において、プローブ間距離を1mmとし、375Vの電圧を印加した場合にトラッキングを起こすまでの電解液(塩化アンモニウム0.1質量%水溶液)の滴下数が30滴以上であることが好ましく、より好ましくは35滴以上、さらに好ましくは40滴以上である。また、本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、IEC60112に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物のトラッキング試験において、プローブ間距離を1mmとし、400Vの電圧を印加した場合にトラッキングを起こすまでの電解液(塩化アンモニウム0.1質量%水溶液)の滴下数が20滴以上であることがより好ましい。プローブ間距離を1mmとすることで、より短い絶縁距離を評価できる。
トラッキングを起こすまでの電解液の滴下数が少なくなると、通電時に生じる放電熱によって成形体表面の電界が不整となり、シンチレーション(局部的な微小放電)を起こして成形体表面に炭化物が形成しやすくなる。
詳細は詳らかではないが、熱可塑性樹脂組成物において、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体との含有量を適切な範囲におくことにより、印加電圧とトラッキングを起こすまでの電解液の滴下数との関係が上記範囲内の絶縁樹脂成形体を得ることができる。
上記のトラッキングとは導通部間に放電を生じることで徐々に絶縁性が損なわれ、ついに通電・発火を生じる現象である。したがって、前記絶縁樹脂成形体が、例えば、異なる2つの導電性部分相互間、又は導電部分と成形体の外表面との間で十分な絶縁距離を確保することが好ましい。絶縁距離は長ければ長いほど成形体のトラッキング火災を防ぎやすくなる反面、成形体の寸法を大きくしたり、リブを増やすなどの対策が必要となる。
本実施の形態の絶縁樹脂成形体においては、前記の異なる2つの導電性部分相互間の絶縁距離、又は導電部分と成形体の外表面との間の絶縁距離が短い方が好ましく、該絶縁距離が1mm以上20mm以下において良好なトラッキング性能を発現でき、より好ましくは、1mm以上13mm以下、さらには1mm以上7mm以下が好ましい。該絶縁距離が20mmを超えると絶縁距離が十分長くなるため本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物でなくても良好な絶縁性能を維持できる。前記絶縁距離が前記範囲にあることで、トラッキング火災を防ぐための寸法制約が少ない絶縁樹脂成形体を得ることができる。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D2303に準じた傾斜面トラッキング試験において、1.5kVの電圧をかけた状態でトラッキング成長距離が60分で25.4mm未満であることが好ましく、より好ましくは2.5kVの電圧をかけた状態でトラッキング成長距離が25分で25.4mm未満である。
特に、2.5kVの電圧をかけた状態でトラッキング成長距離が40分で25.4mm未満であることが好ましい。
詳細は詳らかではないが、絶縁樹脂成形体の印加電圧とトラッキングを起こすまでの電解液の滴下数との関係と同様に(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体との含有量を適切な範囲におくことにより、上記のようなトラッキング性能を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、絶縁距離もさることながら、絶縁樹脂成形体を形成する樹脂組成物の耐衝撃性および剛性が良好であることが重要である。本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、一般家庭用のほか工場や屋外といた過酷な気象条件下での使用を求められるケースがあり、乱雑な扱いによる落下や屋外での飛来物などに対する耐衝撃性やスナップフィット特性を使った勘合や金属部品のネジによる取り付けや、内部部品の発熱に対する耐熱変形防止も重要であり、剛性と衝撃特性とのバランスが求められる。
本実施の形態の絶縁樹脂成形体は驚くべきことに、単に高い衝撃強度を有するだけでなく、筐体や構造体として求められる十分な材料剛性も有していることである。一般に剛性と衝撃特性とは相反する関係にあるが、本実施の形態の絶縁樹脂成形体は、以下の特性を有する樹脂組成物を用いることによって、剛性と衝撃特性とをバランス良く向上させている。本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、23℃におけるシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を、23℃における曲げ弾性率(単位:GPa)で除した値が、5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。この関係において、シャルピー衝撃強度の上限は特に限定されないが、曲げ弾性率の下限は1.5GPa以上が好ましく、より好ましくは1.8GPa以上である。曲げ弾性率が1.5GPaより低くなると、成形体としての熱時剛性が得られ難くなる。
シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率の上限は、特に限定されないが、例えば、40以下である。
(A)成分と(B)成分との含有量を適切な範囲とし、例えば、後述の製造方法で熱可塑性樹脂組成物を得ることにより、熱可塑性樹脂組成物の23℃における、シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率を上記範囲内に制御することができる。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、衝撃強度に優れることが好ましく、例えば、23℃におけるシャルピー衝撃強度が、9kJ/m2以上であることが好ましい。23℃におけるシャルピー衝撃強度の上限は、特に限定されないが、例えば、100kJ/m2以下である。
なお、本実施の形態において、23℃におけるシャルピー衝撃強度および23℃における曲げ弾性率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
さらには本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、厚さ1.5mmの場合、UL−94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルがV−0であることが好ましく、特に1.5mm以下の薄肉の場合、燃焼レベルがV−0であることがより好ましい。
〈熱可塑性樹脂組成物〉
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体と、(C)難燃剤とを含み、前記(A)〜(C)の合計100質量部に対し、前記(A)の含有量が60〜80質量部であり、前記(B)の含有量が8〜30質量部であり、前記(C)の含有量が9〜25質量部である。
以下、熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
[(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂]
本実施の形態で用いられる(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰り返し単位を有する単独重合体、あるいは共重合体であることが好ましい。
(一般式(1)および(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜9のアリール基またはハロゲン原子を表す。但し、R5、R6は同時に水素ではない。)
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−14−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。
ポリフェニレンエーテル共重合体とは、一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰り返し単位を主たる繰返し単位とする共重合体である。その例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールおよびo−クレゾールとの共重合体等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルの中で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましい。日本国特開昭63−301222号公報等に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等を部分構造として含んでいるポリフェニレンエーテルは特に好ましい。ポリフェニレンエーテルの還元粘度(単位dl/g、クロロホルム溶液、30℃測定)は、好ましくは0.25〜0.6の範囲、より好ましくは0.35〜0.55の範囲である。
本実施の形態においてはポリフェニレンエーテルの一部または全部が不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性ポリフェニレンエーテルを用いることができる。この変性ポリフェニレンエーテルは、日本国特開平2−276823号公報(米国特許5159027号、35695号)、日本国特開昭63−108059号公報(米国特許5214109号、5216089号)、日本国特開昭59−59724号公報等に記載されている。変性ポリフェニレンエーテルは、例えばラジカル開始剤の存在下または非存在下において、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその誘導体を溶融混練して反応させることによって製造される。あるいは、ポリフェニレンエーテルと、不飽和カルボン酸やその誘導体とをラジカル開始剤存在下または非存在下で有機溶剤に溶かし、溶液下で反応させることによって製造される。
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸、シス−4−シクロヘキセン1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸などや、これらジカルボン酸の酸無水物、エステル、アミド、イミドなど、さらにはアクリル酸、メタクリル酸などや、これらモノカルボン酸のエステル、アミドなどが挙げられる。また、飽和カルボン酸であるが、変性ポリフェニレンエーテルを製造する際の反応温度でそれ自身が熱分解し、本実施の形態で用いる誘導体となり得る化合物も用いることができる。具体的にはリンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂は一般に粉体として入手でき、その好ましい粒子サイズは平均粒子径1〜1000μmであり、より好ましくは10〜700μm、特に好ましくは100〜500μmである。加工時の取り扱い性の観点から(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の平均粒子径は1μm以上が好ましく、溶融混練における未溶融物の発生を抑制するためには1000μm以下が好ましい。
なお、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の平均粒子径は、例えばレーザー粒度計により測定することができる。
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂にはスチレン系樹脂を含むことが可能である。スチレン系樹脂とは、スチレン系化合物、またはスチレン系化合物とスチレン系化合物に共重合可能な化合物とをゴム質重合体存在下または非存在下に重合して得られる重合体をいう。スチレン系化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられ、特に好ましいのはスチレンである。また、スチレン系化合物と共重合可能な化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸等の酸無水物等が挙げられ、スチレン系化合物とともに使用される。スチレン系化合物と共重合可能な化合物の使用量は、スチレン系化合物との合計量に対して20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。
また、ゴム質重合体としては共役ジエン系ゴムあるいは共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体あるいはエチレン−プロピレン共重合体ゴム等が挙げられる。具体的には、ポリブタジエンおよびスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。また、ゴム質重合体としては、部分的に水素添加された不飽和度80〜20%のポリブタジエン、または1,4−シス結合を90%以上含有するポリブタジエンを用いることが特に好ましい。
スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ゴム補強ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム補強スチレン−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)、その他のスチレン系共重合体等が挙げられる。特にポリスチレンおよび部分的に水素添加された不飽和度80〜20%のポリブタジエンを用いたゴム補強ポリスチレンの組合せが好ましい。
本実施の形態において、好ましいスチレン系樹脂はホモポリスチレンであり、アタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレンのどちらも使用できる。
スチレン系樹脂の含有量は、(A)および(B)の合計100質量部において、好ましくは0〜20質量部の範囲、より好ましくは0〜10質量部の範囲である。
ここで、スチレン系樹脂は、ポリフェニレンエーテル樹脂の一部を置き換える形で用いられ、スチレン系樹脂の含有量分だけポリフェニレンエーテル樹脂は減じられることになる。
スチレン系樹脂の含有量に応じて流動性は向上し、20質量部以下で耐熱性および難燃性に優れ、無添加の場合は特に耐熱性および耐熱エージング性に優れる。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物において、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は他の成分によって任意に変動するが、(A)、(B)および(C)の合計100質量部において、60〜80質量部の範囲であり、好ましくは65〜75質量部である。(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が60質量部以上であると、耐熱温度が高く、耐熱エージング特性が優れる。また、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が80質量部以下であると、流動性が良好となる。また、前記範囲内で(A)成分の含有量を少なくし、(B)成分の含有量を多くすると、耐衝撃性が優れる。
[(B)水添ブロック共重合体]
本実施の形態に用いる(B)水添ブロック共重合体は、スチレンと共役ジエン化合物とのブロック共重合体すなわちポリスチレンブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である。(B)成分として、数平均分子量150,000〜350,000の水添ブロック共重合体を少なくとも1種を選択して用いることが好ましい。
水素添加による共役ジエン化合物由来の不飽和結合の水添率は60%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは95%以上である。水素添加前のブロック共重合体の構造は、スチレンブロック鎖をS、ジエン化合物ブロック鎖をBと表すと、S−B−S、S−B−S−B、(S−B−)4−Si、S−B−S−B−S等を有する構造が挙げられる。また、ジエン化合物重合体ブロックのミクロ構造は任意に選ぶことができる。ビニル結合量(1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合との合計)は、ジエン化合物重合体の結合全体に対し好ましくは2〜60%、より好ましくは8〜40%の範囲である。
(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは150,000〜350,000であり、より好ましくは200,000〜300,000である。(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量が150,000以上であると、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れる傾向にある。(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量に比例して、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性は向上し、350,000以下で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性は十分であり、350,000以下で、熱可塑性樹脂組成物の溶融押出し時の負荷が低く加工流動性に優れ、熱可塑性樹脂組成物中への(B)成分の分散性にも優れる。
本実施の形態で用いられる(B)水添ブロック共重合体は、少なくとも1個のスチレン重合体ブロック鎖が数平均分子量15,000以上であることが好ましく、より好ましくは20,000以上50,000以下である。さらに好ましくは全てのスチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が15,000以上である。
なお、本実施の形態において、数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
(B)水添ブロック共重合体におけるスチレン重合体ブロックが全共重合体に占める範囲は、スチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が上記の範囲であれば特に制限されないが、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%の範囲である。
(B)水添ブロック共重合体は、組成や構造の異なる2種以上の水添ブロック共重合体を併用することもできる。例えば、結合スチレン重合体ブロック含有量50%以上の水添ブロック共重合体と結合スチレン重合体ブロック含有量30%以下の水添ブロック共重合体との併用や分子量の異なる水添ブロック共重合体の併用、あるいはスチレンと共役ジエンのランダム共重合体ブロックを含有するブロック共重合体を水添して得られる水添ランダムブロック共重合体を併用することも可能である。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体の含有量は、(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、8〜30質量部の範囲であり、好ましくは10〜20質量部である。(B)水添ブロック共重合体の含有量が8質量部以上で、熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が優れ、30質量部以下で、熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率や曲げ強度などの剛性が優れる。
また、(B)水添ブロック共重合体の含有量が30質量部以下であると、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)水添ブロック共重合体との相溶性が良好であり、成形体が層状に剥離を起こすことを抑制できる。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体は粒子状に分散し、該(B)の粒子の重量平均粒子径が0.3〜1μmであり、好ましくは0.4〜0.7μmである。(B)の粒子の重量平均粒子径が0.3〜1μmであると、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、熱エージング性が優れる。
(A)成分と(B)成分との含有量を適切な範囲とし、例えば、後述する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を用いることにより、(B)の粒子の重量平均粒子径を上記範囲内に制御することができる。
なお、(B)の粒子の重量平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
[(C)難燃剤]
本実施の形態で用いられる(C)難燃剤としては、無機難燃剤、シリコーン化合物および有機リン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
無機難燃剤としては、合成樹脂の難燃剤として一般的に用いられている結晶水を含有する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物を挙げることができる。
シリコーン化合物としては、オルガノポリシロキサンまたはオルガノポリシロキサンを含む変性物が挙げられ、常温で液状或いは固体状を問わない。オルガノポリシロキサンの骨格構造は、線状構造、分岐構造どちらでもよいが、分子中に三官能性や四官能性構造を有することによる分岐構造さらには3次元構造を含むことが好ましい。主鎖や分岐した側鎖の結合基としては、水素または炭化水素基が挙げられ、好ましくはフェニル基、メチル基、エチル基およびプロピル基であるが、その他の炭化水素基が使用されても構わない。末端結合基としては、−OHまたはアルコキシ基、または炭化水素基のいずれも使用される。
一般に難燃剤として用いられるシリコーン化合物としては、4種のシロキサン単位(M単位:R3SiO0.5、D単位:R2SiO1.0、T単位:RSiO1.5、Q単位:SiO2.0)のいずれかが重合してなるポリマーが挙げられる。本実施の形態において使用される好ましいオルガノポリシロキサンは、4種のシロキサン単位の合計量の中、式RSiO1.5で示されるシロキサン単位(T単位)を60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%有し、使用する全シリコーン化合物において、前記Rで示される全シロキサン単位中の結合炭化水素基は少なくとも60モル%、さらに好ましくは80モル%以上がフェニル基を有するものである。これらのオルガノポリシロキサンは、結合基がアミノ基、エポキシ基、メルカプト基その他の変性基で置換された変性シリコーンも使用される。また、オルガノポリシロキサンをシリカや炭酸カルシウム等の無機充填剤に化学吸着或いは物理吸着させた変性物も使用できる。
有機リン化合物としては、リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物などが挙げられる。リン酸エステル化合物は、難燃性を向上するのに添加されるものであり、難燃剤として一般的に用いられる有機リン酸エステルであればいずれも用いることができる。
リン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルフォスフェート、トリスノニルフェニルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルフォスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられるがこれらに制限されることはない。さらに上記以外にリン系難燃剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃剤、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、およびビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、フェニルジノニルフェニルホスフェートなどのモノリン酸エステル化合物、および芳香族縮合リン酸エステル化合物などが挙げられる。
これらの中、加工時のガス発生が少なく、熱安定性などに優れることから芳香族縮合リン酸エステル化合物が好適に用いられる。
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物は、一般に市販されており、例えば、大八化学工業(株)のCR741、CR733S、PX200、(株)ADEKAのFP600、FP700、FP800などが知られている。
特に好ましいのは、次式(I)または次式(II)で示される縮合リン酸エステルである。
(一般式(I)および(II)中、Q1、Q2、Q3およびQ4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R11およびR12は各々メチル基を表し、R13およびR14は各々独立に水素原子またはメチル基を表す。nは1以上の整数であり、n1およびn2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3およびm4は各々独立に0から3の整数を示す。)
上記式(I)および(II)で示される縮合リン酸エステルは、それぞれの分子が、nは1以上の整数、好ましくは1から3の整数である。
この中で、好ましい縮合リン酸エステルは、式(I)におけるm1、m2、m3、m4、n1およびn2がゼロであって、R13およびR14がメチル基である縮合リン酸エステル、および式(I)におけるQ1、Q2、Q3、Q4、R13およびR14がメチル基であり、n1、n2がゼロでありm1、m2、m3およびm4が1から3の整数の縮合リン酸エステルであって、nの範囲は1から3、特にnが1であるリン酸エステルを50質量%以上含有するものが好ましい。
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物で特に好ましいのは、耐熱エージング性の観点から酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)の芳香族縮合リン酸エステル化合物である。
また、ホスファゼン化合物としては、フェノキシホスファゼンおよびその架橋体が好ましく、特に好ましいのは、耐熱エージング性の観点から酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)のフェノキシホスファゼン化合物である。
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物において、(C)難燃剤の含有量は、必要な難燃性レベルにより異なるが、(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、9〜25質量部の範囲であり、好ましくは10〜20質量部の範囲である。(C)難燃剤の含有量が、9質量部以上で難燃性が優れ、25質量部以下で難燃性が十分であり、耐熱性も維持できる。
[(D)ポリオレフィン]
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)ポリオレフィンを含有することが好ましい。(D)ポリオレフィンを含有することにより、熱可塑性樹脂組成物の成形時の離型性が改良され、耐衝撃性も向上する。
本実施の形態に用いられる(D)ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体あるいはエチレン−アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。中でも好ましいのは、低密度ポリエチレンおよびエチレン−プロピレン共重合体である。エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体あるいはエチレン−アクリル酸エステル共重合体は、一般に非晶性もしくは低結晶性の共重合体である。これらの共重合体には、さらに性能に影響を与えない範囲でその他のモノマーが共重合されていてもよい。エチレンと、プロピレン、ブテンあるいはオクテンとの成分比率は、特に限定するものではないが、プロピレン、ブテンあるいはオクテンの成分は5〜50モル%の範囲が好ましい。これらのポリオレフィンは、2種以上を併用することもできる。
(D)ポリオレフィンのメルトフローレイト(MFR)は、ASTM D−1238準じ、シリンダー温度230℃で測定した値が0.1〜50g/10分が好ましく、より好ましくは0.2〜20g/10分である。
(D)ポリオレフィンの含有量は、(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部、更に好ましくは0.5〜2質量部の範囲である。(D)ポリオレフィンの含有量が0.05質量部以上で離型効果を発揮し、5質量部以下で剥離の問題もなく機械特性に優れる。
[(E)熱安定剤]
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、更に(E)熱安定剤を含有することが好ましい。(E)熱安定剤を含有することにより、熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制し、耐衝撃性だけでなく、耐熱エージング性も向上する。
(E)熱安定剤は、例えば、熱可塑性樹脂組成物の製造、成形加工および使用時の熱または光暴露により生成したハイドロパーオキシラジカル等の過酸化物ラジカルを安定化したり、生成したハイドロパーオキサイド等の過酸化物を分解するための成分である。(E)熱安定剤の例としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤や過酸化物分解剤が挙げられる。前者は、ラジカル連鎖禁止剤として、後者は系中に生成した過酸化物をさらに安定なアルコール類に分解して自動酸化を防止する。
前記熱安定剤としてのヒンダードフェノール系熱安定剤(酸化防止剤)の具体例は、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキシスピロ〔5・5〕ウンデカン等である。
前記熱安定剤としての過酸化物分解剤の具体例は、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等のホスファイト系熱安定剤(過酸化物分解剤)またはジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3'−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3'−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール等の有機イオウ系熱安定剤(過酸化物分解剤)である。
本実施の形態においては、酸化防止剤としてのヒンダードフェノール系熱安定剤と過酸化物分解剤としてのホスファイト系や有機イオウ系熱安定剤とを併用することが効果的である。
また、他の熱安定剤として、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硫化亜鉛などの金属酸化物または硫化物を上記熱安定剤と併用して用いることも可能である。
(E)熱安定剤の含有量は、(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.1〜3質量部が好ましく、より好ましくは0.2〜2質量部、更に好ましくは0.3〜2質量部の範囲である。(E)熱安定剤の含有量が、0.1質量部以上で熱安定性効果を発揮し、3質量部で効果は飽和するため3質量部以下であると経済的に好ましい。
[(F)紫外線吸収剤および/または光安定剤]
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、更に(F)紫外線吸収剤および/または光安定剤を含有することが好ましい。これらの(F)成分を含有することにより、熱可塑性樹脂組成物の耐光性を向上できるだけでなく、耐熱エージング性も向上する。
本実施の形態で用いられる(F)紫外線吸収剤は、一般に市販されているものを使用でき、好ましいのはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス{4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール}、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−t−オクチル−6’−t−ブチル−4’−メチル−2,2’−メチレンビスフェノール等が挙げられる。
本実施の形態で用いられる(F)光安定剤は、一般に市販されているものを使用でき、好ましいのはヒンダードアミン系光安定剤である。具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)セバケート、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルペピリジンとの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジンとの縮合物、1,2,3,4−テトラ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)−ブタンテトラカルボキシレート、1,4−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)−2,3−ブタンジオン、トリス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)トリメリテート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル―n−オクトエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジルステアレート、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルペピリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジニル)セバケート、2−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル)等が挙げられる。これらは単独または2種以上を併用することができる。
本実施の形態のおいては、(F)光安定剤と紫外線吸収剤とを併用することにより、熱可塑性樹脂組成物の耐光変色性が一段と向上し、更にまた耐熱エージング性が改善される。
光安定剤と紫外線吸収剤との質量比率(光安定剤/紫外線吸収剤)は、好ましくは1/99〜99/1の範囲、より好ましくは95/5〜95/5、更に好ましくは50/50〜90/10である。また、(F)成分としての合計含有量は、(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部の範囲である。(F)成分としての合計含有量が、0.05質量部以上で耐光性効果を発揮し、5質量部で効果は飽和するため5質量部以下であると経済的に好ましい。
[エポキシ化合物]
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、更にエポキシ化合物を含有することができる。エポキシ化合物を含有することによって、熱可塑性樹脂組成物の耐光変色性が一段と向上し、更にまた耐熱エージング性が改善される。エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物であればよいが、好ましいのはオキシラン酸素を3%以上有するエポキシ化油脂やエポキシ化脂肪酸エステルなどの一般に熱可塑性合成樹脂の可塑剤として用いられる脂肪族エポキシ化合物であり、より好ましくはエポキシ化油脂であり、特に好ましいエポキシ化合物はオキシラン酸素を6%以上有するエポキシ化大豆油である。エポキシ化合物の含有量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01〜3質量部、より好ましくは0.1〜2質量部の範囲である。
[他の添加剤]
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物には、更に他の特性を付与するため、あるいは本発明の効果を損なわない範囲で他の添加剤を加えることができる。他の添加剤として、例えば、可塑剤、酸化防止剤、各種安定剤、帯電防止剤、離型剤、染顔料、その他の樹脂等が挙げられる。また、従来公知の、他の難燃剤および難燃助剤を配合することで、難燃性をさらに向上させることもできる。他の難燃剤および難燃助剤としては、例えば、カオリンクレー、タルク等の無機ケイ素化合物等が挙げられる。そのほか、ガラス繊維、ガラスフレーク等の無機充填剤、その他の繊維状補強剤等を配合することで、寸法精度や耐熱性がさらに優れた熱可塑性樹脂組成物とすることができる。また、本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物には、更に他のポリマーやオリゴマーを添加できる。例えば、流動性改良剤としての石油樹脂、テルペン樹脂およびその水添樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、あるいは難燃性を改善するためのシリコーン樹脂やフェノール樹脂などが挙げられる。
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本実施の形態に用いる熱可塑性樹脂組成物は、上述した各成分を押出機で溶融混練することにより得ることができる。押出機としては、二軸押出機が好適である。
二軸押出機の具体例としては、スクリュー直径58mm、バレル数13、減圧ベント口付二軸押出機が挙げられる。例えば、該二軸押出機を用いて、溶融混練する際に(A)、(B)、(D)および(E)成分を、押出機の流れ方向に対して上流側のバレル1にある第1供給口より供給した後に、(C)成分を、第1供給口より下流側にある第2(液体)供給口よりギアポンプを使って押出機のサイドに注入ノズルからフィードして押出する。
押出機のスクリュー構成は、未溶融混合ゾーンを、全バレル長を100%としたとき、バレルの上流側から45〜75%とすることが好ましく、60〜70%とすることがより好ましい。
溶融ゾーンには、位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用することが好ましく、未溶融ゾーンには、(C)FR−1を第2供給口よりフィードした後に位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)を使用することが好ましい。
溶融混練ゾーンのスクリューにおいては、例えばニーディングディスクR(3〜7枚のディスクを捻れ角度15〜75度で組み合わせた、L/Dが0.5〜2.0である正ネジスクリューエレメント)、ニーディングディスクN(3〜7枚のディスクを捻れ角度90度で組み合わせた、L/Dが0.5〜2.0であるニュートラルスクリューエレメント)、ニーディングディスクL(3〜7枚のディスクを捻れ角度15〜75度で組み合わせた、L/Dが0.5〜1.0である逆ネジスクリューエレメント)、等を適宜組み合わせたスクリュー構成が好ましく、逆ネジスクリュー(L/Dが0.5〜1.0である二条の逆ネジスクリューエレメント)、SMEスクリュー(正ネジスクリューに切り欠きをつけて混練性を良くした、L/Dが0.5〜1.5であるスクリューエレメント)、ZMEスクリュー(逆ネジスクリューに切り欠きをつけて混練性を向上させた、L/Dが0.5〜1.5であるスクリューエレメント)等のスクリューエレメントを、スクリュー構成中に適宜組み入れて混練を行ってもよい。
当該溶融混練において、さらに減圧脱気を行うことが好ましい。また、溶融混練時の樹脂温度は、290〜350℃の範囲とすることが好ましい。具体的には、押出機の前段温度を150〜250℃の範囲とすることが好ましく、後段温度を250〜330℃の範囲とすることが好ましく、ダイ出口樹脂温度は特に限定されないが290〜350℃の範囲とすることが好ましい。押出機のスクリュー回転数は、150〜600rpmの範囲であることが好ましい。
このような製造方法により、上述した分散粒径、耐トラッキング性、耐衝撃性、難燃性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。各実施例および各比較例で用いた成分は以下のとおりである。
〔(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂〕
(PPE)
ポリ−2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「ザイロン S201A」。
(PS)
ホモポリスチレン:PSジャパン(株)製、商品名「PSJ−ポリスチレン 685」。
(HIPS)
ハイインパクトポリスチレン:PSジャパン(株)製、商品名「PSJ−ポリスチレンH9302 」。
〔(B)水添ブロック共重合体〕
スチレン−ブタジエンブロック共重合体(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンの結合構造)を水素添加して得られた以下の水添ブロック共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレンの結合構造)を用いた。
(SEBS−1)
数平均分子量約250,000、スチレン重合体ブロック約33質量%、ブタジエンユニットの水素添加率98%以上の水添ブロック共重合体:Kraton Polymers LLC製、商品名「クレイトン G1651」。
(SEBS−2)
数平均分子量約80,000、スチレン重合体ブロック約60質量%、ブタジエンユニットの水素添加率98%以上の水添ブロック共重合体:クラレ(株)製、商品名「セプトン 8104」。
(SEBS−3)
数平均分子量約80,000、スチレン重合体ブロック約30質量%、ブタジエンユニットの水素添加率98%以上の水添ブロック共重合体:Kraton Polymers LLC製、登録商標「クレイトン G1650」。
なお、本実施例において、数平均分子量は、例えばゲル・パーミッション・クロマトグラフ(GPC)により測定し、スチレン重合体ブロック量は、例えば四酸化オスミウム分解法により測定し、ブタジエンユニットの水素添加率は、例えば赤外線分光分析や核磁気共鳴分析により測定した。
〔(C)難燃剤〕
以下のリン酸エステル難燃剤を用いた。
(FR−1)
ビスフェノールA系縮合リン酸エステル:大八化学(株)製、商品名「CR−741」。
〔(D)ポリオレフィン〕
(LDPE)
低密度ポリエチレン:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「サンテックLD M2004」を用いた。
〔(E)熱安定剤〕
(STB−1)
酸化亜鉛/硫化亜鉛を1/1の質量比率でブレンドしたものを用いた。
[実施例1]
[樹脂組成物の製造]
表1に示したとおり上記の成分を配合して樹脂組成物を以下の製造条件にて作製した。
スクリュー直径58mm、バレル数13、減圧ベント口付二軸押出機(TEM58SS:東芝機械社製)を用いて、各成分を溶融混練した。溶融混練する際に(A)PPEおよびPS、(B)SEBS−1、(E)STB−1、(D)LDPEを、押出機の流れ方向に対して上流側のバレル1にある第1供給口より供給した。その後、(C)FR−1を、第1供給口より下流側にある第2(液体)供給口よりギアポンプを使って押出機のサイドに注入ノズルからフィードして、ストランドを押出した。押出されたストランドを冷却裁断して樹脂組成物ペレットを得た。
押出機のスクリュー構成は未溶融混合ゾーンを全バレル長の70%をとした。溶融ゾーンには、位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用した。更に未溶融ゾーンには(C)FR−1を第2供給口よりフィードした後に位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)を使用した。
真空脱気ゾーンをバレル11に設け、−900hPaで減圧脱気した。(C)FR−1を供給する第2供給口をバレル5に設けた。バレル設定温度をバレル1:水冷、バレル2:100℃、バレル3〜6:200℃、バレル7:250℃、バレル8:270℃、バレル9〜13:280℃、ダイス:290℃としてスクリュー回転数350rpm、吐出量400kg/hrの条件で押出をした。
[樹脂組成物の特性評価方法等]
得られた樹脂組成物の特性評価を、以下の方法および条件で行った。結果を表1に示す。
(試験片の作成)
得られた樹脂組成物ペレットを100℃で2時間乾燥した後、東芝機械(株)製IS−100GN型射出成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃に設定)を用いて、ISO−15103に準じて試験片ならびに150mm×150mm×3mmの平板を作成し以下の測定に供した。
(平均粒子径の測定)
樹脂組成物中に粒子状に分散した(B)水添ブロック共重合体の平均粒子径を以下のとおり測定した。
上記作成した試験片から超薄切片を作成し、四酸化ルテニウムで染色後、透過型電子顕微鏡写真を撮影した。25000倍の写真を用いて(B)水添ブロック共重合体の各粒子径を測定し、重量平均粒子径(平均分散粒子径)を算出した。この際、分散粒子の形状は不規則であるため、それぞれの分散粒子径は相当の円を想定記入し、その直径を読み取ることで代用した。
直径1mm以上を数えることとし、読み取りレンジは、1−2mm、2−3mm、3−5mm、5−7mm、7−10mm、10−14mm、14−18mm、18−22mmとした。読み取りレンジ毎の中心径(Di)は、それぞれ0.06μm、0.10μm、0.16μm、0.24μm、0.34μm、0.48μm、0.64μm、0.80μmに相当する。
読み取りレンジの各中心径(Di)と個数(Ni)とから、下式により重量平均粒子径を算出した。
重量平均粒子径(μm)=Σ[(Di)4×(Ni)]/Σ[〈Di)3×(Ni)]
(トラッキング性能−1)
上記作成した試験片を用い、ASTM D2303に準拠し、2.5KVおよび1.5kVにおける、25.4mmまでトラッキングが進展するまでの時間を測定した。いずれの場合も120minを上限とした。
(トラッキング性能−2)
得られた樹脂組成物ペレットを用いて絶縁成形体である端子台形状を射出成形にて得た。この絶縁成形体の平面部を切出し、プローブ間距離を1mmとした以外はIEC60112の試験装置に準じた機器に取り付け、それぞれ200V、225V、375V、400Vの電圧印加した状態の試験片に塩化アンモニウム0.1質量%水溶液を30秒ごとに滴下する試験条件においてトラッキングを生じるまでの滴下数を求めた。トラッキング発生有無の判定は、0.5A以上の電流が2秒間通電した場合を「トラッキング発生有」と判定とした。
なお、当該トラッキング性能評価において、塩化アンモニウム0.1質量%水溶液を30回滴下してもトラッキングを起こさない場合、プローブ間距離(1mm)が絶縁距離となる。
(シャルピー衝撃強度)
上記作成した試験片を用い、シャルピー衝撃試験規格であるISO179/1eAに準拠して、樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度を測定した。
(曲げ弾性率)
上記作成したISO試験片(4mm)を用いてISO178に準拠し、23℃の条件で樹脂組成物の曲げ弾性率(FM)を測定した。
(難燃性)
UL94燃焼試験に基づき、上記作成した試験片(1.5mm試験片および2.0mm試験片)を用いて燃焼試験を行った。
1.5mm試験片については、UL94−V試験に準じ、5サンプルに対し接炎を各2回、合計10回行い、消炎時間の平均秒数および最大秒数を測定し、ランク付けした。
(耐薬品性)
得られた樹脂組成物ペレットを射出成形して得られた150mm×150mm×3mmの平板から10mm×50mmの短冊を長手方向が流動と直角になるような短冊形状に切り出した。この短冊をベンディングバーに取り付け、1.5%のひずみを与えたのち、短冊の表面にBeijing TONSAN Adhesive Co.,Ltd社製 シリコーン1527を塗布し、48時間後の短冊の表面にクラックが発生するか否かを観察した。当該クラックの発生状況を耐薬品性の尺度とし、以下の基準により評価した。
・耐薬品性の評価基準
○:目視にてクラックの発生なし。
△:目視にてミクロクラックの発生を確認した。
[実施例2〜11、比較例1〜6]
表1に示す配合とした点以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、該樹脂組成物の特性を評価した。結果を表1に示す。
[比較例7]
以下に示す樹脂組成物の製造条件とした点以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、該樹脂組成物の特性を評価した。結果を表1に示す。
(樹脂組成物の製造条件)
押出機のスクリュー構成は、未溶融混合ゾーンを全バレル長の35%とした。溶融ゾーンには、位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用した。更に溶融ゾーンには(C)FR−1を第2供給口よりフィードした後に位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用した。
真空脱気ゾーンをバレル11に設け、−900hPaで減圧脱気した。(C)FR−1を供給する第2供給口をバレル9に設けた。バレル設定温度をバレル1:水冷、バレル2:200℃、バレル3:250℃、バレル4〜13:280℃、ダイス:290℃とした。スクリュー回転数400rpm、吐出量400kg/hrの条件で押出をした。
以上より、本実施例によれば、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体と、(C)難燃剤との含有量を適切な範囲とする熱可塑性樹脂組成物を得ることで、耐トラッキング性に優れ、かつ耐衝撃性と剛性とのバランスを向上させた、樹脂絶縁成形体を提供することができる。
本発明の樹脂絶縁成形体は、産業用機器である事務機、計測器の外装、シャーシ、内部パーツ部品、家電関連機器などの電源アダプター、記録媒体やそのドライブ、センサー機器、端子台、エネルギー・環境分野における二次電池、燃料電池や太陽電池、太陽熱発電、地熱発電、風力発電、スマートメーター等に使用される電気電子機器、送電設備、ケーブル端末および自動車部品、特にハイブリッド自動車・電気自動車用部品において安定した絶縁性ならびに耐衝撃性、剛性、難燃性と耐薬品性のバランスが求められる材料として好適に使用することができる。

Claims (13)

  1. 樹脂組成物を成形して得られる絶縁樹脂成形体であって、
    前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)水添ブロック共重合体(但し、スチレンと共役ジエンのランダム共重合体ブロックを含有するブロック共重合体を水添して得られる水添ランダムブロック共重合体を除く)と、(C)難燃剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であり、
    前記(A)〜(C)の合計100質量部に対し、前記(A)の含有量が60〜80質量部であり、前記(B)の含有量が8〜30質量部であり、前記(C)の含有量が9〜25質量部であり、
    前記熱可塑性樹脂組成物において、前記(B)水添ブロック共重合体が粒子状に分散し、該(B)の粒子の重量平均粒子径が0.3〜1μmであり、
    前記絶縁樹脂成形体が、異なる2つの導電性部分相互間又は導電部分と成形体の外表面間の絶縁距離が1mm以上20mm以下となる部分を有する絶縁樹脂成形体。
  2. ASTM D2303に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物の傾斜面トラッキング試験において、1.5kVでのトラキング成長距離が60分で25.4mm未満である、請求項1に記載の絶縁樹脂成形体。
  3. ASTM D2303に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物の傾斜面トラッキング試験において、2.5kVでのトラキング成長距離が25分で25.4mm未満である、請求項1に記載の絶縁樹脂成形体。
  4. IEC60112に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物のトラッキング試験において、プローブ間距離を1mmとし、375Vの電圧を印加した場合にトラッキングを起こすまでの電解液(塩化アンモニウム0.1質量%水溶液)の滴下数が30滴以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  5. IEC60112に準拠した前記熱可塑性樹脂組成物のトラッキング試験において、プローブ間距離を1mmとし、400Vの電圧を印加した場合にトラッキングを起こすまでの電解液(塩化アンモニウム0.1質量%水溶液)の滴下数が20滴以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  6. 前記熱可塑性樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を、前記熱可塑性樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が8以上であり、
    前記熱可塑性樹脂組成物(厚さ1.5mm)の、UL94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルがV−0である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  7. 前記(A)〜(C)の合計100質量部に対し、前記(A)の含有量が65〜75質量部であり、前記(B)の含有量が10〜20質量部であり、前記(C)の含有量が10〜20質量部であり、
    前記(B)の粒子の重量平均粒子径が0.4〜0.7μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  8. 前記熱可塑性樹脂組成物がシリコーンに対する耐薬品性を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  9. 前記熱可塑性樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度が30kJ/m2以上である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  10. 太陽電池用コネクタとして用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  11. 太陽電池用ジャンクションボックスとして用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  12. 電源アダプターとして用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
  13. 太陽電池モジュール用絶縁部品として用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の絶縁樹脂成形体。
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