JP5835129B2 - 表面処理方法 - Google Patents
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Description
また、特許文献1に記載の技術においては、高価なフラーレン類を使用しているため、コストが悪化する点でも不利である。
表面処理工程S1は、基材10の表面に形成された皮膜100に対して所定の処理を施す工程である。
基材10は、合金工具鋼鋼材(例えば、SKD61)等の鉄系材料から構成されている。基材10としては、金型、または鋳抜きピン等を適用可能である。
皮膜100は、表面処理工程S1を行うにあたり、予め基材10の表面に形成される。例えば、不活性ガス雰囲気とした雰囲気炉にて、アセチレン(C2H2)、硫化水素(H2S)およびアンモニア(NH3)を供給しつつ、基材10を加熱することによって、基材10の表面に皮膜100を形成することが可能である。
皮膜100は、拡散層101と、窒化化合物層102と、浸硫層103と、炭素膜104とを具備する。
炭素膜104は、硬質非晶質炭素104a、およびナノカーボン104bを有する。
ここで、本発明におけるナノカーボン類とは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、またはカーボンナノフィラメント等である。
音波振動装置20は、本発明に係る圧力付与手段の一実施形態である。音波振動装置20は、皮膜100に対して近接および離間するように、所定の周波数の音波によって振動し、皮膜100を断続的に押圧する。
そのため、音波振動装置20によって、皮膜100に断続的に圧力を付与することにより、皮膜100の加熱と冷却とが短時間で繰り返されることとなる。換言すれば、皮膜100が間欠的に加熱され、皮膜100に周期的な温度変化が生じることとなる。
なお、皮膜100に付与する圧力は、皮膜100を熱することができる程度に設定される。
つまり、表面処理工程S1を経ることによって、基材10の表面に処理皮膜1が形成されることとなる。
なお、ナノカーボン類は、約350℃で酸化するため、不活性雰囲気下で、音波振動装置20によって、皮膜100に断続的に圧力を付与することが好ましい。
例えば、本発明に係る圧力付与手段として、エアハンマまたはジェットタガネ(登録商標)等を採用可能である。
なお、圧力付与手段による振動によって皮膜100の剥離が発生することを防止するために、圧力付与手段と皮膜100との間に所定の部材を介装し、当該部材を介して、皮膜100に断続的に圧力を付与してもよい。
窒化化合物層12は、Fe4N等の窒化化合物を含んでいる。つまり、窒化化合物層12は、Fe4Nを含む点で、皮膜100の窒化化合物層102と異なる。表面処理工程S1を経ることにより、皮膜100の窒化化合物層102に含まれていたFe2NおよびFe3NがFe4Nへと変化している。
ここで、Fe4Nは、Fe2NまたはFe3Nと比較して、緻密な構造を有している。
そのため、処理皮膜1は、Fe4Nが含まれた窒化化合物層12によって、その剥離強度が向上している。
炭素膜14は、硬質非晶質炭素14a、およびナノカーボン14bを有する。
ナノカーボン14bは、音波振動装置20によって、微細な繊維状のナノカーボン104bが断続的に押圧されることによって形成されるため、ナノカーボン14b同士が密着した状態となっている。
また、ナノカーボン14bは、音波振動装置20によって、間欠的に加熱されているため、熱によってナノカーボン14b同士が結合した状態となっている。
したがって、炭素膜14は、炭素膜104と比較して、緻密な構造を有し、小さい摩擦係数を有する。更に、炭素膜14においては、ナノカーボン14bの破断が生じ難いため、炭素膜14は、炭素膜104と比較して、優れた強度および耐摩耗性を有する。
つまり、皮膜100においては、炭素膜140の深部(図1における下部)に硫黄が濃縮しているのに対して、処理皮膜1においては、炭素膜14全体に硫黄が拡散している。
したがって、ナノカーボン14b同士の隙間が硫黄で満たされているため、炭素膜14の摩擦係数が低下している。
図4(a)に示すように、皮膜100においては、全体的には硫黄が分布せず、深部(図4(a)における下部)に多くの硫黄が存在するのに対し、図4(b)に示すように、処理皮膜1においては、表面近傍(図4(b)における上部)にも多くの硫黄が存在することが確認できる。
したがって、少なくとも炭素膜104を具備し、炭素膜104が最も外側に位置する皮膜に対して、断続的に圧力を付与することにより、少なくとも炭素膜14を具備し、炭素膜14が最も外側に位置する処理皮膜を形成できればよい。
音波の周波数を4000Hzに設定した音波振動装置20によって、10分間、皮膜100に断続的に圧力を付与した。
音波の周波数を10000Hzに設定した音波振動装置20によって、10分間、皮膜100に断続的に圧力を付与した。
音波の周波数を40Hzに設定した音波振動装置20によって、10分間、皮膜100に断続的に圧力を付与した。
表1においては、各処理皮膜の剥離強度を○および×で示している。各処理皮膜の剥離強度において、○は、皮膜100よりも極めて高い剥離強度を有する処理皮膜が形成されたことを意味し、×は、皮膜100と同程度の剥離強度を有する処理皮膜が形成されたことを意味する。
また、表1においては、各処理皮膜中の硫黄の拡散状態を○、△および×で示している。各処理皮膜中の硫黄の拡散状態において、○は、硫黄が表面まで充分に拡散した処理皮膜が形成されたことを意味し、△は、硫黄が概ね表面まで拡散した処理皮膜が形成されたことを意味し、×は、硫黄の拡散状態が皮膜100と同程度である処理皮膜が形成されたことを意味する。
一方、硫黄の拡散状態は、若干充分ではなかったが、皮膜100よりも小さい摩擦係数を有する処理皮膜を形成できたと推測される。
また、硫黄の拡散状態も充分であり、皮膜100よりも極めて小さい摩擦係数を有する処理皮膜を形成できたと推測される。
これは、音波振動装置20を振動させるための音波の周波数が低く、皮膜100の炭素膜104に対する押圧が不充分であったためと考えられる。つまり、皮膜100の炭素膜104に対する押圧が不充分であったため、炭素膜104のナノカーボン104b同士が充分に密着した状態になっていなかったと考えられる。更に、炭素膜104に供給される熱量が不足し、炭素膜104のナノカーボン104b同士が充分に結合した状態になっていなかったと考えられる。
また、比較例においては、硫黄の拡散状態も不充分であった。
これは、音波振動装置20を振動させるための音波の周波数が低く、かつ、皮膜100に断続的に圧力を付与する時間が実施例1および2と同一の10分であったためと考えらえる。つまり、皮膜100における温度変化の回数が不足したためと考えられる。
なお、音波振動装置20を振動させるための音波の周波数を4000Hz未満とした場合でも、充分に長い時間、皮膜100に断続的に圧力を付与すれば、良好な特性を有する処理皮膜を形成することができると考えられる。
しかしながら、作業時間が増加するため、皮膜100に断続的に圧力を付与する時間を10分以下とし、音波振動装置20を振動させるための音波の周波数を4000Hz以上とすることが好ましい。
これにより、炭素膜104よりも摩擦係数が小さく、緻密な構造の炭素膜14を具備する処理皮膜1を、基材10の表面に形成することができる。更に、炭素膜104と比較して、優れた耐摩耗性および強度の炭素膜14を具備する処理皮膜1を、基材10の表面に形成することができる。
また、表面処理工程S1においては、フラーレン等の高価な材料を使用しないため、炭素膜14を具備する処理皮膜1を低コストで基材10の表面に形成できる。
これにより、Fe2NおよびFe3Nが含まれる窒化化合物層102を、緻密な構造を有するFe4Nが含まれる窒化化合物層12へと変化させることができる。
したがって、炭素膜104と比較して、優れた剥離強度の炭素膜14を具備する処理皮膜1を、基材10の表面に形成することができる。
これにより、処理皮膜1の炭素膜14中に硫黄を拡散させることができる。
したがって、処理皮膜1の摩擦係数を低下させることができる。
これにより、皮膜100の炭素膜104の酸化を防止し、良好に処理皮膜1を形成することができる。
これにより、短時間で処理皮膜1を形成することができる。
10 基材
11、101 拡散層
12、102 窒化化合物層
13、103 浸硫層
14、104 炭素膜
14a、104a 硬質非晶質炭素
14b、104b ナノカーボン
20 音波振動装置
100 皮膜
Claims (4)
- カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、またはカーボンナノフィラメントを含む炭素膜を具備し、当該炭素膜が最も外側に位置する皮膜、が表面に形成された基材の表面処理方法であって、
圧力付与手段によって、前記皮膜に対して、断続的に圧力を付与する工程を含み、
前記圧力付与手段は、前記皮膜に対して近接および離間するように、音波によって振動する音波振動装置であって、
前記音波振動装置における音波の周波数は、4000Hz以上である、
ことを特徴とする表面処理方法。 - 前記基材は、鉄系材料であり、
前記皮膜は、窒化化合物を含む窒化化合物層を更に具備し、
前記窒化化合物層は、前記基材と前記炭素膜との間に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。 - 前記皮膜は、硫化化合物を含む浸硫層を更に具備し、
前記浸硫層は、前記窒化化合物層と前記炭素膜との間に位置する、
ことを特徴とする請求項2に記載の表面処理方法。 - 前記工程は、不活性雰囲気下にて行われる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の表面処理方法。
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