JP5834959B2 - バインダー組成物及びその製造方法、スラリー組成物、二次電池用正極の製造方法、並びに二次電池 - Google Patents
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Description
本発明は前記の課題に鑑みて創案されたもので、充放電サイクル特性に優れる二次電池が得られるバインダー組成物及びその製造方法、そのバインダー組成物を含むスラリー組成物、そのスラリー組成物を用いた二次電池用正極の製造方法、並びに、その製造方法で得られた正極を備える二次電池を提供することを目的とする。
即ち、本発明は以下の通りである。
前記バインダー組成物中の白金族元素の量が、前記バインダー組成物に含まれる前記水添重合体100重量部に対して8×10−4重量部以下であり、
前記水添重合体の、25℃におけるウォーレス可塑度が30〜97である、バインダー組成物。
〔2〕 前記水素化が、ヒドラジン、過酸化物及び触媒の存在下で行われた、〔1〕記載のバインダー組成物。
〔3〕 前記水素化が、置換芳香族アルコール化合物、ジヒドロキノリン化合物、ベンズイミダゾール化合物及び芳香族第2級アミン化合物からなる群より選択される1種類以上の酸化防止剤の存在下で行なわれた、〔2〕記載のバインダー組成物。
〔4〕 前記触媒が、ホウ素を含む化合物である、〔2〕又は〔3〕記載のバインダー組成物。
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のバインダー組成物の製造方法であって、
共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体を、ヒドラジン、過酸化物及び触媒の存在下で水素化することを含む、バインダー組成物の製造方法。
〔6〕 〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のバインダー組成物の製造方法であって、
水添重合体から白金族元素を除去することを含む、バインダー組成物の製造方法。
〔7〕 正極活物質、導電剤、溶媒及び〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のバインダー組成物を含む、二次電池用正極を製造するためのスラリー組成物。
〔8〕 〔7〕記載のスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥することを含む、二次電池用正極の製造方法。
〔9〕 正極、負極、電解液及びセパレーターを有する二次電池であって、
前記正極が、〔8〕記載の製造方法により製造された二次電池用正極である、二次電池。
また、「正極活物質」とは正極用の電極活物質を意味し、「負極活物質」とは負極用の電極活物質を意味する。さらに、「正極活物質層」とは正極に設けられる電極活物質層を意味し、「負極活物質層」とは負極に設けられる電極活物質層を意味する。
本発明のバインダー組成物は、二次電池用正極を製造するためのバインダー組成物であって、共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体(以下、適宜「ベースポリマー」と呼ぶことがある。)を水素化した水添重合体を含む。また、通常は、本発明のバインダー組成物は溶媒を含む。
共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体を水素化した水添重合体をバインダーとして用いる従来の技術においては、バインダーに白金族元素が多く含まれる傾向があった。このような傾向は、水素化反応の触媒として白金族元素を含む触媒を用いることが多く、その触媒がバインダーに残留したために生じたものと考えられる。しかし、白金族元素を含むバインダーを用いて正極を製造すると、白金族元素の作用により正極活物質の表面において局所的に電解液の分解が促進され、不均一な厚みの電解液分解膜が生成することがある。この電解液分解膜は正極の抵抗を増加させるので、従来の二次電池では、充放電サイクル特性が低くなっていたものと考えられる。
本発明に係る水添重合体は、共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含むベースポリマーを水素化したものである。
共役ジエン単量体単位は、共役ジエン単量体を重合して得られる構造単位を表す。共役ジエン単量体単位は剛性が低く柔軟な構造単位であるので、共役ジエン単量体単位を含むベースポリマーを用いることにより、水添重合体の柔軟性を向上させてウォーレス可塑度を高めることができる。
また、ベースポリマーにおける共役ジエン単量体単位の比率は、通常、ベースポリマーを製造する際に用いる共役ジエン単量体の仕込み比と一致する。
ニトリル基含有単量体単位は、ニトリル基含有単量体を重合して得られる構造単位を表す。ニトリル基含有単量体単位は、ニトリル基(−CN)を含有するので、当該ニトリル基が集電体及び正極活物質の表面の極性基と相互作用することにより、高い密着性を奏することができる。このため、集電体に対する正極活物質層の密着性を高くできるので、充放電サイクル特性を向上させることができる。
ベースポリマーは、不飽和カルボン酸単量体単位を含んでいてもよい。不飽和カルボン酸単量体単位とは、カルボン酸基(−COOH基;カルボキシル基ともいう。)を含む不飽和の単量体を重合して得られる構造単位を表す。不飽和カルボン酸単量体単位を含むことにより、集電体に対する正極活物質層の密着性を高めて、充放電サイクル特性を向上させることができる。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等が挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノ−2−ヒドロキシエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等が挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
カルボン酸基を含む不飽和の単量体、及び、不飽和カルボン酸単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
ベースポリマーは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位を表す。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことにより、水添重合体の可塑性を高めて、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
ベースポリマーは、本発明の効果を著しく損なわない限り、前記の共役ジエン単量体単位、ニトリル基含有単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。また、任意の構造単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、ベースポリマーにおける上記任意の構造単位の比率は、通常10重量%以下である。
ベースポリマーは、上述した単量体を重合させることにより製造しうる。重合方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、溶液重合法などを採用しうる。中でも、乳化重合法が好ましい。
乳化剤の使用量は、密着性の観点から、単量体の総量100重量部に対して、通常1重量部以上、好ましくは2重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは6重量部以下である。
アゾ系重合開始剤としては、例えば、アゾビスニトリル化合物及びアゾニトリル化合物などが挙げられる。アゾビスニトリル化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類;2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類;1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリルなどの1,1’−アゾビス−1−シクロアルカンニトリル類;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾビスシアノカルボン酸;などが挙げられる。また、アゾニトリル化合物としては、例えば、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリルなどのアゾブチロニトリル類;2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾバレロニトリル類;などが挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの重合溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
重合温度は、通常50℃以上、好ましくは60℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは90℃以下である。
また、重合反応は、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスの雰囲気において行ってもよい。
さらに、重合方式としては、回分式、半回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。
前記のベースポリマーを水素化することにより、本発明に係る水添重合体が得られる。水素化により、ベースポリマーが有する炭素−炭素不飽和結合に水素が導入され、当該不飽和結合は飽和結合に変化する。
ただし、本発明に係る水添重合体は、白金族元素の含有量が少ないか、若しくは白金族元素を含まないことが求められる。そこで、水素化は、下記の第一の水素化方法又は第二の水素化方法により実施することが好ましい。
第二の水素化方法:ベースポリマーを任意の方法で水素化して水添重合体を得ることと、この水添重合体から白金族元素を除去することとを含む方法。
第一の水素化方法では、ベースポリマーを、ヒドラジン、過酸化物及び触媒の存在下で水素化する。第一の水素化方法では、水素化のために白金族元素を含まない触媒を用いうるので、系内に白金族元素が入り込まない。したがって、白金族元素を含まないバインダー組成物が得られる。
ここで、触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
第二の水素化方法では、ベースポリマーを任意の方法で水素化して水添重合体を得た後、この水添重合体から白金族元素を除去する。白金族元素を除去する工程を含むので、水添重合体に含まれる白金族元素の量が低下し、ひいてはバインダー組成物における白金族元素の量も減らすことができる。
本発明に係る水添重合体は、ベースポリマーを水素化した重合体である。したがって、ベースポリマーが有していた炭素−炭素不飽和結合の一部又は全部は、水添重合体においては飽和結合となっている。
厚み3mmの水添重合体のフィルムを作製する。このフィルムを十分に乾燥させた後、ウォーレス可塑度計の圧縮板間に挟み、25℃にて15秒で1mmになるように圧縮し、荷重10kgを15秒間加え、さらに荷重を開放し、15秒後の厚みをダイヤルゲージで読み取り、その戻り率をウォーレス可塑度とする。
バインダー組成物は、通常、溶媒を含む。バインダー組成物が溶媒を含む場合、水添重合体は、溶媒に溶解していてもよく、分散していてもよい。中でも、水添重合体は溶媒に溶解していることが好ましい。
バインダー組成物は、水添重合体及び溶媒以外にも、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例を挙げると、本発明に係る水添重合体以外のバインダー、並びに、後述するスラリー組成物が含んでいてもよい成分などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
本発明に係るバインダー組成物は、白金族元素の含有量が少ない。具体的には、バインダー組成物に含まれる水添重合体100重量部に対して、バインダー組成物中の白金族元素の量は、通常8×10−4重量部以下、好ましくは4×10−4重量部以下、より好ましくは2.4×10−4重量部以下であり、理想的にはゼロである。このように白金族元素の含有量が少ないことによって、充放電サイクル特性に優れた二次電池を実現できる。
本発明のスラリー組成物は、正極活物質、導電剤、溶媒及び上述したバインダー組成物を含む。スラリー組成物は、通常は流体状の組成物である。本発明の水添重合体を含むため、本発明のスラリー組成物においては意図しない増粘が生じ難いので、本発明のスラリー組成物は塗布性に優れる。さらに、本発明のスラリー組成物を用いて二次電池用正極を製造すれば、当該二次電池用正極を備える二次電池のサイクル特性を改善することができる。
正極活物質は、正極において用いられる電極活物質であり、二次電池の正極において電子の受け渡しをする物質である。正極活物質は、二次電池の種類に応じて適切なものを用いうる。好ましい二次電池としては、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池が挙げられる。以下、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池に適した電極活物質について説明する。
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。ここで、前記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が挙げられる。無機化合物からなる正極活物質の具体例を挙げると、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O−P2O5、MoO3、V2O5、V6O13等の遷移金属酸化物;などが挙げられる。
一方、有機化合物からなる正極活物質の具体例を挙げると、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子化合物が挙げられる。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
また、これらの正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極活物質として用いてもよい。
ここで、50%体積累積径とは、レーザー回折法で測定された粒度分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径である。
導電剤としては、例えば、導電性を有する、炭素の同素体からなる粒子が挙げられる。導電剤を用いることにより、正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合に放電負荷特性を改善することができる。
溶媒としては、正極活物質、導電剤及び水添重合体、並びに必要に応じて用いられる任意の成分を溶解又は分散しうるものを使用しうる。通常、正極活物質及び導電剤は、溶媒中に粒子状に分散する。また、溶媒の中でも水添重合体を溶解しうる溶媒を用いると、水添重合体が正極活物質の粒子の表面に吸着して正極活物質の分散が安定化するので、好ましい。さらに、溶媒の具体的な種類は、乾燥速度及び環境上の観点から選択することが好ましい。
本発明のスラリー組成物は、上述した本発明のバインダー組成物を含む。したがって、本発明のスラリー組成物は、本発明に係る水添重合体を含む。水添重合体は、二次電池用正極において正極活物質及び導電剤等を結着するバインダーとして機能する。
本発明のスラリー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正極活物質、導電剤、溶媒及びバインダー組成物以外に、任意の成分を含んでいてもよい。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
本発明のスラリー組成物は、例えば、正極活物質、導電剤、溶媒及び本発明のバインダー組成物、並びに、必要に応じて用いられる任意の成分を混合して製造される。通常は、バインダー組成物が溶媒を含む流体状組成物であるので、バインダー組成物の溶媒をスラリー組成物の溶媒として使用できる場合には、必ずしもスラリー組成物の溶媒をバインダー組成物の溶媒とは別に混合しなくてもよい。
二次電池用正極は、通常、集電体と、当該集電体の表面に形成された正極活物質層とを備える。正極活物質層は、集電体の少なくとも片面に設ければよいが、両面に設けることが好ましい。このような二次電池用正極は、例えば、本発明のスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥することを含む製造方法により、製造しうる。以下、この製造方法について詳細に説明する。
また、正極活物質層の接着強度及び導電性を高めるために、集電体の表面に中間層を形成してもよい。
本発明の二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレーターを備える。また、本発明の二次電池においては、正極が、上述した本発明のスラリー組成物を用いて製造した本発明の二次電池用正極である。本発明の二次電池は、本発明に係る水添重合体を含む正極を用いているので、正極と負極とのバランスを取り易く、また、電解液の分解による電解液分解膜の生成を抑制できる。さらに、正極用のバインダーとして柔軟な水添重合体が用いられるので、充放電に伴う膨張により正極内の導電パスが切断され難い。このため、本発明の二次電池によれば、共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体を水素化した水添重合体をバインダーとして用いた従来の二次電池よりも、充放電サイクル特性を改善することができる。
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、例えば、非水溶媒に支持電解質を溶解した非水電解液が用いられる。支持電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほど、リチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
負極としては、通常、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層とを備えるものを用いる。
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属又はこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物又は硫酸塩;金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等が挙げられる。また、負極活物質として、当該負極活物質の粒子の表面に、例えば機械的改質法によって導電剤を付着させたものを用いてもよい。また、負極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や、芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;などを用いてもよい。具体例を挙げると、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの又はその不織布;絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くし二次電池内の活物質比率を上げて体積あたりの容量を上げることができるため、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
二次電池の具体的な製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電を防止してもよい。二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
1.残留する白金族元素の量の測定方法
ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS4000)により、バインダー組成物に含まれる白金族元素の量を測定した。
水添重合体を0.05mmの厚みになるように25℃にてキャストさせたのちに、キャストにより得られたフィルムを切り出してサンプルを得た。このサンプルを、THFに48時間浸漬させた。浸漬後、不溶分を取り出し、常圧下25℃、1時間乾燥させた後に、減圧下105℃、1時間乾燥させることにより完全にTHFを揮発させた。サンプルのTHFに浸漬させる前後の重量変化から、THF不溶分量を求めた。
バインダー組成物をテフロン(登録商標)シャーレに、乾燥後のフィルムの厚みが3mmになるように流し込み、イナートオーブン内で120℃で5時間乾燥させ、溶媒であるN−メチルピロリドンを揮発させることにより、バインダーフィルムを得た。このバインダーフィルムを、ウォーレス可塑度計の圧縮板間に挟み、25℃にて15秒で1mmになるように圧縮し、荷重10kgを15秒間加え、さらに荷重を開放し、15秒後の厚みをダイヤルゲージで読み取り、戻り率をウォーレス可塑度とした。
水添重合体のNMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥した。乾燥した重合体Aのヨウ素価をJIS K6235;2006に従って測定した。
JIS Z8803:1991に準じて、単一円筒形回転粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)によりスラリー組成物の粘度を測定し、測定開始後1分の値を求め、これをスラリー粘度μAとした。また、スラリー組成物を作製して1日後のスラリー組成物の粘度を測定して、これをスラリー粘度μBとした。このスラリー組成物の粘性変化率を下記の式より算出し、以下の基準で評価する。粘性変化率が低いほど、スラリー組成物が安定性に優れることを示す。
粘性変化率(%)=(μB−μA)/μA×100
A:50%未満
B:50%以上100%未満
C:100%以上200%未満
D:200%以上500%未満
E:500%以上
10セルのリチウムイオン二次電池を、45℃において1Cの定電流法によって4.2Vまで充電し、その後1Cにて3.0Vまで放電する操作を200回繰り返した。10セルの平均値を測定値として、200サイクル後の放電容量CBと、初期放電容量(1サイクル後の放電容量)CAとを測定した。200サイクル後の放電容量CBと初期放電容量CAとの比(CB/CA(%))を計算し、これを容量保持率とした。この容量保持率を充放電サイクル特性の評価指標とし、以下の基準で評価した。この値が高いほど特性に優れている。
A:80%以上
B:70%以上80%未満
C:60%以上70%未満
D:50%以上60%未満
E:50%未満
充放電サイクル特性の評価を行った後のセルをグローブボックス内で解体し、正極を取り出し、DECに2回浸漬させることにより洗浄した。洗浄した正極の厚みTBを測定し、充放電サイクル特性の評価を行う前の正極の厚みTAとの比較から、厚み変化率を下記式より算出し、以下の基準で評価した。
厚み変化率(%)=(TB−TA)/TA×100
A:102%未満
B:102%以上103%未満
C:103%以上105%未満
D:105%以上
充放電サイクル特性の評価を行った後のセルをグローブボックス内で解体し、正極を取り出し、DECに2回浸漬させることにより洗浄した。洗浄した正極を集束イオンビームを用いて切り出し、正極活物質上の皮膜を電子顕微鏡により観察した。1.5μm2の視野で3ヶ所測定を実施し、観察される皮膜の最大厚みを以下の基準で評価した。
A:5nm未満
B:5nm以上10nm未満
C:10nm以上25nm未満
D:25nm以上50nm未満
E:50nm以上
(ベースポリマーA1の作製)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル20部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸4.5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した。その後、共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン45.5部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。重合転化率が85%となった時点で重合を終了し、重合体A1の水分散液を得た。この重合体A1のウォーレス可塑度は、10であった。
前記の重合体A1の水分散液を、水を用いて希釈して、固形分濃度を25%に調整した水分散液を用意した。
ガラス製のトップかく拌機(上部から攪拌羽根で攪拌しうるタイプの攪拌機)、冷却器、蠕動ポンプを備えた攪拌容器中に、水5.5部、ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部、触媒としてホウ酸(H3BO3)0.68部、前記の希釈した重合体A1の水分散液25部、酸化防止剤として1,4−ジメチルフェニル(−N’−フェニル)−p−フェニレンジアミン0.625部、消泡剤としてシリコーンオイルを数滴添加した。
また、上述した方法により、水添重合体A2のウォーレス可塑度を測定したところ、75であった。また、上述した方法により、水添重合体A2のヨウ素価を測定したところ、12mg/100mg以下であった。
さらに、上述した方法により、水添重合体A2のTHF不溶分量を測定した。
正極活物質として層状構造を有するコバルト酸リチウム(LiCoO2)(粒子径:12μm)100部と、アセチレンブラック(電気化学工業「HS−100」)2.0部と、バインダー組成物として水添重合体A2の8%NMP溶液12.5部と、適量のNMPとをプラネタリーミキサーにて攪拌し、スラリー組成物を調製した。ここでNMPの量は、B型粘度計で測定した60rpm粘度が5000mPa・sとなるように設定した。
上述した方法により、このスラリー組成物の安定性の評価を行った。
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上記正極用のスラリー組成物をコンマコーターでアルミ箔上に、乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布した。その後、60℃で20分、120℃で20分間乾燥して、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.8g/cm3の正極活物質層と、アルミ箔とからなる正極を作製した。
前記正極を直径16mmの円盤状に切り抜いた。この正極の正極活物質層面側に、直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、対極として用いる金属リチウム、及びエキスパンドメタルをこの順に積層した。これを、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのリチウムイオンコイン電池(ハーフセル)を作製した。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:EMC=3:7(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
得られたリチウムイオン二次電池を用いて、上述した方法により、充放電サイクル特性と、充放電後の正極厚みの変化率、及び、電解液の分解物の皮膜の厚みの評価を行った。
前記の(水添工程)において、ヒドラジンの酸化触媒としてホウ酸の代わりに1%硫酸銅水溶液2部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、バインダー組成物、スラリー組成物、正極及びリチウムイオン二次電池の製造及び評価を行った。
(ベースポリマーB1の作製)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル20部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸4.5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した。その後、共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン45.5部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。重合転化率が85%となった時点で重合を終了し、重合体B1の水分散液を得た。この重合体B1のウォーレス可塑度は、60であった。
前記の重合体B1の水分散液を、水を用いて希釈して、固形分濃度を12%に調整した水分散液を用意した。この水分散液400ミリリットル(全固形分48グラム)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体中の溶存酸素を除去した。他方、水素化触媒として酢酸パラジウム75mgを用意した。この酢酸パラジウムを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、水素化触媒溶液を調製した。この水素化触媒溶液を、オートクレーブに添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(以下、「第一段階の水素化反応」ということがある。)をさせた。
得られた水添重合体B2の水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水及びNMPを蒸発させて、水添重合体B2のNMP溶液を得た。このNMP溶液100グラムを0.5M塩酸に滴下し、ろ過により得られた析出物を再びNMPに溶解させる操作を2回繰り返した。その後、NMP溶液をイオン交換水に滴下し、ろ過により得られた析出物を再びNMPに溶解させる操作を2回繰り返すことにより、金属触媒の除去を行い、バインダー組成物として、水添重合体B2の8%NMP溶液を得た。
また、上述した方法により、水添重合体B2のウォーレス可塑度を測定したところ、60であった。また、上述した方法により、水添重合体B2のヨウ素価を測定したところ、12mg/100mg以下であった。
さらに、上述した方法により、水添重合体B2のTHF不溶分量を測定した。
バインダー組成物として水添重合体A2の8%NMP溶液の代わりに水添重合体B2の8%NMP溶液を用いたこと以外は実施例1の(スラリー組成物の調製)、(正極の製造)及び(リチウムイオン二次電池の製造法)と同様にして、スラリー組成物、正極及びリチウムイオン二次電池の製造及び評価を行った。
前記の(洗浄)の操作を行なわなかったこと以外は実施例3と同様にして、バインダー組成物、スラリー組成物、正極及びリチウムイオン二次電池の製造及び評価を行った。
重合体B1の水分散液の代わりに、実施例1の(ベースポリマーA1の作製)で得た重合体A1の水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、バインダー組成物、スラリー組成物、正極及びリチウムイオン二次電池の製造及び評価を行った。
重合体B1の水分散液の代わりに、実施例1の(ベースポリマーA1の作製)で得た重合体A1の水分散液を用いた。また、前記の(洗浄)の操作を行なわなかった。以上の事項以外は実施例3と同様にして、バインダー組成物、スラリー組成物、正極及びリチウムイオン二次電池の製造及び評価を行った。
前記の実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を、下記の表1及び表2に示す。
実施例と比較例とを比べると、実施例においては、比較例よりも充放電サイクル特性が改善している。したがって、本発明によれば、共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体を水素化した水添重合体を含む正極を用いた二次電池において、従来よりも充放電サイクル特性を改善しうることが確認された。
Claims (10)
- 共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体を水素化した水添重合体を含む、二次電池用正極を製造するためのバインダー組成物であって、
前記バインダー組成物中の白金族元素の量が、前記バインダー組成物に含まれる前記水添重合体100重量部に対して8×10−4重量部以下であり、
前記水添重合体の、25℃におけるウォーレス可塑度が30〜97である、バインダー組成物。 - 前記水添重合体のヨウ素価が、50mg/100mg以下である、請求項1記載のバインダー組成物。
- 前記水添重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が、30重量%以上である、請求項1又は2記載のバインダー組成物。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のバインダー組成物の製造方法であって、
共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体を、ヒドラジン、過酸化物及び触媒の存在下で水素化することを含む、バインダー組成物の製造方法。 - 前記水素化が、置換芳香族アルコール化合物、ジヒドロキノリン化合物、ベンズイミダゾール化合物及び芳香族第2級アミン化合物からなる群より選択される1種類以上の酸化防止剤の存在下で行なわれる、請求項4記載のバインダー組成物の製造方法。
- 前記触媒が、ホウ素を含む化合物である、請求項4又は5記載のバインダー組成物の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のバインダー組成物の製造方法であって、
水添重合体から白金族元素を除去することを含む、バインダー組成物の製造方法。 - 正極活物質、導電剤、溶媒及び請求項1〜3のいずれか一項に記載のバインダー組成物を含む、二次電池用正極を製造するためのスラリー組成物。
- 請求項8記載のスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥することを含む、二次電池用正極の製造方法。
- 正極、負極、電解液及びセパレーターを有する二次電池の製造方法であって、
前記正極が、請求項9記載の製造方法により製造される、二次電池の製造方法。
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