以下に、添付図面を参照して、本発明に係る音像定位手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る音像定位手法の概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る音像定位手法を適用した車載用オーディオ装置および車載用オーディオシステムについての実施例を図2〜図15を用いて説明することとする。
また、以下では、「位相」と「移相」との混同を避けるために、位相をずらすなど、位相を変化させる意味の「移相」については常に「」で囲んで記載することとする。
まず、実施例の詳細な説明に先立って、本発明に係る音像定位手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る音像定位手法の概要を示す図である。なお、図1の(A)には、車両50を上方からみた場合の着座位置およびスピーカの配置例を、図1の(B)には、本発明に係る音像定位手法の概要を、それぞれ示している。また、図1の(B)においては、聴取者200の音像定位位置を星印にて示すこととする。
図1の(A)に示すように、車両50は車室51を備えている。また、車室51は、前方(図中の破線の矩形Fで囲まれた部分参照)および後方(図中の破線の矩形Rで囲まれた部分参照)に、それぞれ左右一対のスピーカと着座位置(図中の聴取者200の位置参照)とを備えているものとする。
ここで、図1の(B−1)に示すように、従来の手法によれば、車室右側に配置されたRスピーカ13および車室左側に配置されたLスピーカ14の出力音声波の合成波Sに関しては、聴取者200における両耳間の位相関係が考慮されていなかった。
具体的には、図1の(B−1)に示すように、たとえば、Lスピーカ14寄りに着座する聴取者200に両耳に到達する合成波Sの位相は(図中の区間α参照)、右耳においては正相となり、左耳においては逆相となる場合があった。
また、図1の(B−1)に示すように、Rスピーカ13寄りに着座する聴取者200については(図中の区間β参照)、右耳においては逆相となり、左耳においては正相となる場合があった。
かかる場合、Lスピーカ14寄りに着座する聴取者200については、音像がLスピーカ14寄りの位置へ、Rスピーカ13寄りに着座する聴取者200については、音像がRスピーカ13寄りの位置へ、それぞれ偏って定位していた(図中の星印参照)。すなわち、聴取者200にとって適切な位置へ音像を定位させられなかった。
なお、図1の(B−1)において破線の矩形ForRで示すように、このような音像定位の偏りは、車室51の前方および後方で同様に生じていた。
そこで、本発明に係る音像定位手法では、合成波Sの位相を、聴取者200の両耳間においては同相となるように調整することとした。具体的には、Rスピーカ13が出力するR信号およびLスピーカ14が出力するL信号の位相をそれぞれ「移相」することによって、合成波Sの位相を聴取者200の両耳間においては正相のみ、あるいは逆相のみとなるように調整する。
たとえば、図1の(B−2)には、合成波Sの位相が、Lスピーカ14寄りの聴取者200については正相のみと(図中の区間α参照)、Rスピーカ13寄りの聴取者200については逆相のみと(図中の区間β参照)、それぞれなるように調整された例を示している。
この結果、Lスピーカ14寄りの聴取者200およびRスピーカ13寄りの聴取者200のいずれについても、音像を前方へ定位させることが可能となる(図中の星印参照)。すなわち、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させることができる。
なお、上述した「移相」の詳細については、図3および図4を用いて後述する。また、ここまでは、車室51の前後方のいずれについても同様の制御を行う場合について説明したが(図1の(B−2)の破線の矩形ForR参照)、前方へのみ聴取者200が着座している場合などに、後方のスピーカについては異なる制御を行うこととしてもよい。
具体的には、前方に着座する聴取者200にとって、後方スピーカからの到達音は音の拡がり感に寄与することから、音の拡がりをより強調するために後方からの到達音に対して残響成分を付与することとしたうえで、車室51後方のRスピーカ13およびLスピーカ14からかかる残響成分を付与した出力信号を出力してもよい。
かかる場合、車室51前方のRスピーカ13およびLスピーカ14によっては、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させつつ、後方のRスピーカ13およびLスピーカ14によっては、聴取者200へ音の拡がり感を与えることができる。なお、かかる残響成分を付与する場合の詳細については、図8から図10を用いて後述する。
このように、本発明に係る音像定位手法によれば、Rスピーカ13が出力するR信号およびLスピーカ14が出力するL信号の位相をそれぞれ「移相」することによって、合成波Sの位相を、聴取者200それぞれの両耳間においては同相となるように調整することとしたので、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させることができる。
また、車室51の前方へのみ聴取者200が着座している場合などに、後方スピーカの出力信号については残響成分を付与することとしたので、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させつつ、聴取者200へ音の拡がり感を与えることができる。
以下では、図1を用いて説明した音像定位手法を適用した車載用オーディオ装置および車載用オーディオシステムについての実施例1〜実施例5を順に説明する。なお、実施例1では、L信号およびR信号をそれぞれ「移相」する基本的な構成について、実施例2では、L信号およびR信号の低周波帯域に基づいてモノラル信号を生成する構成を実施例1の構成へ追加した場合について、それぞれ説明することとする。
また、実施例3では、後方スピーカ向けの信号へ残響成分を付与する構成を実施例1の構成へ追加した場合について、実施例4では、実施例2および実施例3の構成を組み合わせた場合について、それぞれ説明することとする。また、実施例5では、「移相」などに用いるパラメータ情報を管理装置から取得する構成について、説明することとする。
本実施例1では、L信号およびR信号をそれぞれ「移相」する基本的な構成について説明するが、まず、本実施例1を含む以下の各実施例に係る車載用オーディオ装置1の構成例について、図2を用いて説明する。
図2は、車載用オーディオ装置1の構成例を示す図である。図2に示すように、車載用オーディオ装置1は、音響ソース2と、Rアンプ3と、Lアンプ4と、マイコン5と、ディスプレイ6と、操作部7と、セレクタ9と、DSP(Digital Signal Processor)10とを備えている。また、外部にRスピーカ13およびLスピーカ14を配置している。
音響ソース2は、FMチューナー、AMチューナーあるいはCDプレイヤーといった音響デバイス群である。かかる音響ソース2は、マイコン5によって制御される。Rアンプ3は、後述するDSP10から入力されたR信号を増幅してRスピーカ13に対して出力するデバイスである。同様に、Lアンプ4は、DSP10から入力されたL信号を増幅してLスピーカ14に対して出力するデバイスである。
マイコン5は、車載用オーディオ装置1全体を制御する中央制御ユニットであり、セレクタ9やDSP10といった各ユニットからの指示要求を受け付け、かかる指示要求に対応する制御信号を通知する。なお、マイコン5は、機能ごとに分化した複数のユニットで構成することとしてもよい。以下では、マイコン5が単一のユニットであるものとして説明を行う。
ディスプレイ6は、操作者に対して各種の表示情報を表示する出力デバイスである。操作部7は、操作者の入力操作を受け付ける操作部品である。かかる操作部品には、ダイヤルやボタンといったハードスイッチだけでなく、ディスプレイ6に表示されたボタンなどのソフトスイッチが含まれる。
セレクタ9は、マイコン5からの切り替え要求に基づき、音響ソース2の中から特定の音響ソースを選択し、選択した音響ソースのR信号およびL信号をDSP10に対して出力するデバイスである。
DSP10は、セレクタ9を介して入力された音響ソース2のR信号およびL信号の音像定位処理を行うマイクロプロセッサである。また、DSP10は、音像定位処理を施したR信号およびL信号を、Rアンプ3およびLアンプ4に対して出力する。
なお、DSP10は、音像定位処理だけでなく音響信号に関わる種々のデジタル信号処理を行うことができるが、以下では、音像定位処理に特化して説明を行うものとする。また、DSP10の詳細については後述する。
Rスピーカ13は、Rアンプ3から入力されたR信号を物理振動に変えて音として出力する出力デバイスである。同様に、Lスピーカ14は、Lアンプ4から入力されたL信号を音として出力する出力デバイスである。
なお、Rスピーカ13およびLスピーカ14は、電気信号を音へ変換して出力することが可能なデバイスであればその構造については限定されない。すなわち、コーンスピーカを用いることとしてもよいし、セラミックスピーカやエキサイタを用いることとしてもよい。
次に、音像定位処理を行うDSP10の構成例について図3を用いて説明する。図3は、実施例1に係るDSP10の構成を示すブロック図である。なお、図3では、DSP10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
図3に示すように、DSP10は、制御部15と、記憶部16とを備えている。また、制御部15は、位相調整部15aをさらに備えている。そして、記憶部16は、移相情報16aaを記憶する。
制御部15は、セレクタ9(図2参照)から入力されたR信号およびL信号の位相調整による音像定位処理を行う処理部である。
位相調整部15aは、入力されたR信号およびL信号をそれぞれ「移相」することによって、聴取者200の両耳間における合成波S(図1参照)の位相が同相のみとなるように調整する処理を行う処理部である。
なお、かかる「移相」は、位相調整部15aが備えるR信号用の移相器15aa、および、L信号用の移相器15abを用いて行う。移相器15aaあるいは移相器15abの詳細については図4を用いて後述する。
また、位相調整部15aは、調整後のR信号をDSP10外部のRアンプ3を介して車載用オーディオ装置1外部のRスピーカ13へ、調整後のL信号を同じくDSP10外部のLアンプ4を介して車載用オーディオ装置1外部のLスピーカ14へ、それぞれ出力する処理を併せて行う。
記憶部16は、不揮発性メモリやレジスタといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、移相情報16aaを記憶する。
移相情報16aaは、移相器15aaおよび移相器15abのそれぞれの特性を決定づける「移相」に関するパラメータ情報である。かかるパラメータ情報には、移相器15aaおよび移相器15abがそれぞれ有する遅延器の遅延値や増幅器のゲイン値などを含む。
次に、図3に示した位相調整部15aにおける位相調整処理の詳細について、図4を用いて説明する。図4は、位相調整部15aにおける位相調整処理を説明するための図である。なお、図4の(A)には、移相器15aaまたは移相器15abの回路例を、図4の(B)には、パラメータによる位相特性の違いを、それぞれ示している。
図4の(A)に示したように、位相調整部15aが備える移相器15aaまたは移相器15abは、無限インパルス応答(Infinite Impulse Response;以下、「IIR」と記載する)フィルタで実装することができる。すなわち、複数の遅延器と増幅器とによってフィードバックパスとフォワードパスとを構成することによって、演算数の少ない高性能な信号処理を行うことができる。
また、位相調整部15aは、かかる移相器15aaまたは移相器15abが有する各遅延器および各増幅器に対して個別の遅延値およびゲイン値を設定することによって、移相器15aaおよび移相器15abのそれぞれに異なる位相変化を行わせる。
なお、個別の遅延値およびゲイン値は移相情報16aaに含まれており、位相調整部15aは、かかる移相情報16aaを参照して、移相器15aaおよび移相器15abのそれぞれに個別の特性を与えることとなる。
これにより、図4の(B)に示すように、任意の周波数帯域のR信号−L信号間へ任意の「位相差」をつけることができる。また、音像定位が偏る要因となりやすいといわれる低周波帯域についてのみ「移相」することも可能となる。
すなわち、位相調整部15aは、聴取者200の両耳間における合成波S(図1参照)の位相が同相のみとなるように「位相差」をつける位相調整処理を行うこととなる。
したがって、移相情報16aaの各遅延値および各ゲイン値は、移相器15aaおよび移相器15abのそれぞれによる位相変化における中心周波数およびQ値が、着座位置のそれぞれにおいて最適なものとなるように、すなわち、聴取者200の両耳間における合成波Sの位相が同相のみとなるように、DSP10の開発過程の検証実験などにおいて調整され、あらかじめ記憶部16へ記憶される。
なお、かかる各遅延値および各ゲイン値の調整は、車室51の幅方向の左右に配置されたスピーカ間の距離や、聴取者200の耳とスピーカとの距離、複数の着座位置の配置パターンなどの影響を受けるため、車種とオーディオ構成との組み合わせごとに検証実験を重ねることによって適正値を得られるように行われることが好ましい。
また、かかる各遅延値および各ゲイン値を含む移相情報16aaは、エンドユーザの好みやオーディオ構成の変更、DSP10の載せ換えなどに応じて適宜調整可能であってもよい。たとえば、車載用オーディオ装置1が有する操作部7からエンドユーザが直接調整することとしてもよいし、管理装置などから取得することとしてもよい。なお、管理装置から取得する例については、図13から図15を用いて後述する。
また、移相情報16aaの調整については、入力信号の位相特性のみを変化させ、周波数特性については変化させないような調整を行うことによって、音質の劣化を軽減することが可能となる。また、かかる点は、位相特性のみを変化させるような移相器15aaまたは移相器15abを設計することによっても対応することができる。
なお、ここでは、IIRフィルタで実装した移相器15aaまたは移相器15abを例に挙げて説明を行ったが、特にIIRフィルタに限るものではなく、有限インパルス応答(Finite Impulse Response;以下、「FIR」と記載する)フィルタで実装することとしてもよい。
次に、実施例1に係るDSP10が実行する処理手順について図5を用いて説明する。図5は、実施例1に係るDSP10が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5に示すように、DSP10の位相調整部15aは、電源オンなどによる車載用オーディオ装置1の初期稼動段階などにおいて、移相情報16aaからL信号向けおよびR信号向けの「移相」に関する情報(すなわち、遅延器の遅延値や増幅器のゲイン値など)を読み出す(ステップS101)。
そして、位相調整部15aは、読み出した個別の「移相」に関する情報に基づき、位相変化によって位相差が出るように移相器15aaおよび移相器15abの特性をそれぞれ個別に設定し、かかる移相器15aaおよび移相器15abを用いてL信号およびR信号をそれぞれ「移相」する(ステップS102)。
そして、位相調整部15aは、「移相」後のL信号およびR信号をそれぞれ出力して(ステップS103)、処理を終了する。なお、以下では、図5に示したステップS101からステップS103の処理手順を、「位相調整処理」と記載することとする。
上述してきたように、本実施例1では、位相調整部が、L信号およびR信号をそれぞれ「移相」することによって、車室の幅方向の左右に配置されたスピーカの出力に基づく合成波の位相が、着座位置にそれぞれ対応する聴取者の両耳間においては同相となる調整を行うように車載用オーディオ装置のDSPを構成した。したがって、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させることができる。
ところで、上述した実施例1では、入力されたL信号およびR信号のそれぞれをそのまま「移相」する場合について説明した。しかし、かかるL信号およびR信号に基づいて一般に音像定位感が出やすいといわれるモノラル信号を生成したうえで、かかるモノラル信号について「移相」することとしてもよい。そこで、以下に示す実施例2では、かかる場合について説明することとする。
本実施例2では、L信号およびR信号の低周波帯域に基づいてモノラル信号を生成する構成を実施例1の構成へ追加した場合について説明する。図6は、実施例2に係るDSP10aの構成を示すブロック図である。なお、図6では、図3に示した実施例1に係るDSP10と同一の構成要素には同一の符号を付しており、以下では、上述した実施例1と重複する構成要素についての説明は省略するか簡単な説明にとどめることとする。
図6に示したように、実施例2に係るDSP10aは、制御部15に帯域分割部15bと、モノラル信号生成部15cと、加算部15dとをさらに備える点で、上述した実施例1に係るDSP10とは異なる。
帯域分割部15bは、入力されたL信号およびR信号のそれぞれを、低周波帯域分と高周波帯域分とに分割する処理を行う処理部である。かかる帯域分割には、ローパスフィルタ(以下、「LPF」と記載する)やハイパスフィルタ(以下、「HPF」と記載する)などを用いることができる。なお、分割周波数については、600Hz周辺が好ましい。
また、帯域分割部15bは、低周波帯域分のL信号およびR信号をモノラル信号生成部15cに対して、高周波帯域分のL信号およびR信号を加算部15dに対して、それぞれ出力する処理を併せて行う。
モノラル信号生成部15cは、帯域分割部15bから入力された低周波帯域分のL信号およびR信号を加算してモノラル信号を生成したうえで増幅し、位相調整部15aに対して出力する処理を行う処理部である。
ここで、実施例2に係る位相調整部15aは、実施例1の場合とは異なり、モノラル信号生成部15cからモノラル信号が入力された場合、かかるモノラル信号を分岐したうえで、分岐した一方をL信号用に「移相」し、もう一方をR信号用に「移相」する。
なお、以下では、L信号用に「移相」されたモノラル信号を「L信号成分」と、R信号用に「移相」されたモノラル信号を「R信号成分」と、それぞれ記載する。
また、位相調整部15aは、かかるL信号成分およびR信号成分を加算部15dに対して出力する処理を併せて行う。
加算部15dは、位相調整部15aから入力されたL信号成分と、帯域分割部15bから入力された高周波帯域分のL信号とを加算して、外部のLスピーカ14向けのL信号を合成する処理を行う処理部である。
同様に、加算部15dは、位相調整部15aから入力されたR信号成分と、帯域分割部15bから入力された高周波帯域分のR信号とを加算して、外部のRスピーカ13向けのR信号を合成する処理を併せて行う。なお、このように、高周波帯域分のL信号およびR信号を加算することで、モノラル化による音像定位の安定感を得つつ、ステレオ成分をも付与することができる。
また、加算部15dは、合成後のL信号を外部のLアンプ4を介してLスピーカ14へ、合成後のR信号を同じく外部のRアンプ3を介してRスピーカ13へ、それぞれ出力する処理を併せて行う。
次に、実施例2に係るDSP10aが実行する処理手順について図7を用いて説明する。図7は、実施例2に係るDSP10aが実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、帯域分割部15bが、入力されたL信号およびR信号をそれぞれ低周波帯域分と高周波帯域分とに分割する(ステップS201)。そして、モノラル信号生成部15cが、分割されたうちの低周波帯域分についてモノラル信号を生成する(ステップS202)。
そして、位相調整部15aが、L信号向けおよびR信号向けの「移相」に関する情報を移相情報16aaから読み出す(ステップS203)。なお、かかる読み出しは、電源オンなどによる車載用オーディオ装置1の初期稼動段階などにおいて行われてもよい。
そして、位相調整部15aが、読み出した個別の「移相」に関する情報に基づき、位相変化によって位相差が出るように移相器15aaおよび移相器15abの特性をそれぞれ個別に設定し、かかる移相器15aaおよび移相器15abを用いてL信号成分およびR信号成分をそれぞれ「移相」する(ステップS204)。
そして、加算部15dが、「移相」後のL信号成分およびR信号成分と、分割されたうちの高周波帯域分のL信号およびR信号とを合成し(ステップS205)、合成後のL信号およびR信号をそれぞれ出力して(ステップS206)、処理を終了する。なお、以下では、かかる図7に示したステップS201からステップS206の処理手順を、「モノラル化位相調整処理」と記載することとする。
上述してきたように、本実施例2では、帯域分割部が、入力されたL信号およびR信号をそれぞれ低周波帯域分と高周波帯域分とに分割し、モノラル信号生成部が、分割された低周波帯域分に基づいてモノラル信号を生成し、位相調整部が、かかるモノラル信号に基づいてL信号成分およびR信号成分を「移相」し、加算部が、「移相」後のL信号成分およびR信号成分と高周波帯域分のL信号およびR信号とを加算するように車載用オーディオ装置のDSPを構成した。
したがって、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させることができる。また、モノラル化による音像定位の安定感を得つつ、ステレオ成分をも付与することができる。
ところで、上述した実施例1および実施例2では、車室51の前方および後方(図1の破線の矩形FおよびR参照)において、音像定位に関する同様の制御を行う場合について説明した。しかし、車室51の前方へのみ聴取者200が着座している場合などには、後方のスピーカについては異なる制御を行うこととしてもよい。そこで、以下に示す実施例3では、かかる場合について説明することとする。
本実施例3では、後方スピーカ向けの信号へ残響成分を付与する構成を実施例1の構成へ追加した場合について説明する。図8は、実施例3に係るDSP10bの構成を示すブロック図である。なお、図8では、図3に示した実施例1に係るDSP10と同一の構成要素には同一の符号を付しており、以下では、上述した実施例1と重複する構成要素についての説明は省略するか簡単な説明にとどめることとする。
また、図8に示すように、実施例3に係るDSP10bは、車室51の前方スピーカであるFRスピーカ13aおよびFLスピーカ14aと、同じく後方スピーカであるRRスピーカ13bおよびRLスピーカ14bとを出力対象とする。
ここで、FRスピーカ13aは、車室51の前方右側へ配置され、位相調整部15aが出力する「移相」後のR信号を音として出力する出力デバイスである。同様に、FLスピーカ14aは、車室51の前方左側へ配置され、位相調整部15aが出力する「移相」後のL信号を音として出力する出力デバイスである。
また、RRスピーカ13bは、車室51の後方右側へ配置され、残響付与部15eが出力する残響成分付与後のR信号を音として出力する出力デバイスである。同様に、RLスピーカ14bは、車室51の後方左側へ配置され、残響付与部15eが出力する残響成分付与後のL信号を音として出力する出力デバイスである。かかる各スピーカは、車載用オーディオ装置1の外部へ配置される。
なお、FRアンプ3aはFRスピーカ13aに、FLアンプ4aはFLスピーカ14aに、RRアンプ3bはRRスピーカ13bに、RLアンプ4bはRLスピーカ14bに、それぞれ対応する増幅デバイスであり、DSP10bの外部かつ車載用オーディオ装置1の内部へ配置される。
図8に示すように、実施例3に係るDSP10bは、制御部15に残響付与部15eを、記憶部16に残響付与情報16abをさらに備える点で、上述した実施例1に係るDSP10とは異なる。
残響付与部15eは、入力されたR信号およびL信号のそれぞれについて、音の拡がり感を演出する残響成分を付与したうえで、後方向けのRRスピーカ13bおよびRLスピーカ14bへ出力する処理を行う処理部である。
なお、残響付与部15eは、FIRフィルタなどを用いることによって残響成分の付与を行うことができるが、かかる点の詳細については図9Aから図9Cを用いて後述する。
記憶部16の残響付与情報16abは、残響付与部15eが備えるフィルタ用の係数など、残響成分付与のパラメータに関する情報である。
ここで、残響付与部15eにおける残響付与処理の詳細について、図9A、図9Bおよび図9Cを用いて説明する。図9Aは、残響付与部15eにおける残響付与処理を説明するための図その1、図9Bは、残響付与部15eにおける残響付与処理を説明するための図その2、図9Cは、残響付与部15eにおける残響付与処理を説明するための図その3である。
図9Aに示したように、残響付与部15eは、FIRフィルタで実装することができる。すなわち、複数の遅延器による遅延結果を増幅器で増幅しつつ畳み込むことによって、入力信号へ残響成分を付与することができる。
このとき、残響付与部15eが付与する残響成分は、上述した残響付与情報16abによって決定することができる。たとえば、残響付与情報16abには、残響付与部15eが有する遅延器の遅延値や増幅器のゲイン値といったフィルタ用の係数を含むことができる。
また、次第に残響音を減衰させる場合には、車室51の環境に応じて用意した信号の減衰カーブなどをあらかじめ残響付与情報16abに含めて設定しておけばよい。
また、あらかじめ目標とする残響特性(たとえば、リスニングルームの残響特性など)を定めておき、かかる目標の残響特性を擬似的に再現できるように、残響付与情報16abを設定あるいは調整してもよい。
なお、ここでは、FIRフィルタを用いる例を挙げているが、IIRフィルタを用いることとしてもよいし、他の手法を用いることとしてもよい。
たとえば、図9Bに示したように、残響付与部15eは、L信号とR信号における相関性を低くすることで残響成分を付与するとみなしてもよい。つまり、L信号とR信号における相関性を低くする処理を行うことで聴取者の感じる拡がり感を強め、残響成分付加と同等の効果を得ることができる。
具体的には、図9Bに示したように、L信号およびR信号をそれぞれ2系統に分岐したうえで、一方の系統(以下、「主系統」と記載する)については独立成分生成部152が備える遅延器によって遅延させる。また、もう一方の系統については、L信号およびR信号において相関性の高い共通成分の抽出を、共通成分抽出部151において行う。
なお、主系統における遅延は、共通成分抽出部151における処理過程で生じる遅延と時間軸上の整合をとるために行われる。
ここで、共通成分抽出部151における共通成分抽出処理について説明しておく。共通成分抽出部151は、実部および虚部を含む複素信号に基づいて共通成分の生成を行う。
図9Bに示したように、共通成分抽出部151は、直交化部151aと、相関係数計算部151bと、LPF151cと、共通成分生成部151dとを備えている。
直交化部151aは、L信号およびR信号を実部および虚部を含んだ複素信号へ変換する。ここで、複素信号への変換は、ヒルベルト変換やFFT(Fast Fourier Transform)などを用いて行うことができる。なお、図9Bには、直交化フィルタおよび遅延回路を用いたヒルベルト変換の例を示している。また、直交化部151aは、変換した複素信号の実部の成分(Re)および虚部(Im)の成分をそれぞれ相関係数計算部151bへ出力する。
相関係数計算部151bは、直交化部151aから受け取ったL信号およびR信号の実部の成分(Re)および虚部(Im)の成分を用いて相関係数(α)を算出する。そして、算出された相関係数(α)は、LPF151cによって平滑化され、平滑化後の相関係数(α’)が共通成分生成部151dへ出力される。
共通成分生成部151dは、直交化部151aから受け取ったL信号およびR信号の実部の成分(Re)およびLPF151cから受け取った平滑化後の相関係数(α’)を用いて共通成分を生成する。また、共通成分生成部151dは、生成した共通成分を独立成分生成部152へ出力する。
そして、独立成分生成部152では、共通成分抽出部151において抽出された共通成分を、主系統のL信号およびR信号から減算して、L信号およびR信号それぞれの独立成分「L’」および「R’」を生成する。抽出した共通成分の減算量は、共通成分抽出後に増幅器を配置し調整できるようにしてもよい。
そして、かかる独立成分「L’」および「R’」をL信号およびR信号の代わりに出力する。これにより、聴取者に対して音の拡がり感を与えることが可能となる。
また、音の拡がり感を与えるためにはL信号とR信号における相関性が低くなればよいため、「L’」と「R’」を増幅器で調整したうえで、主系統のL信号およびR信号へ加算してもよい。
具体的には、図9Cに示したように、独立成分生成部152において、主系統から分岐したL信号およびR信号について共通成分を減算することで独立成分「L’」および「R’」を生成する。そして、拡がり感を出すために、遅延器を介してかかる独立成分「L’」および「R’」を主系統に対して遅延させ、増幅器による調整を行ったうえで主系統のL信号およびR信号へ加算する。
主系統の信号から減算する方法だと、計算精度によって音質の劣化が懸念されるが、これにより、計算精度による音質劣化を抑えつつ、聴取者に対して音の拡がり感を与えることが可能となる。
次に、実施例3に係るDSP10bが実行する処理手順について図10を用いて説明する。図10は、実施例3に係るDSP10bが実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図10に示すように、「前方」スピーカ向けの信号については、位相調整部15aが、「位相調整処理」(図5参照)を行う(ステップS301)。
また、「後方」スピーカ向けの信号については、残響付与部15eが、残響成分の付与に関する各種パラメータ情報を残響付与情報16abから読み出す(ステップS302)。なお、かかる読み出しは、電源オンなどによる車載用オーディオ装置1の初期稼動段階などにおいて行われてもよい。
そして、残響付与部15eが、読み出した残響付与情報16abの各種パラメータに基づいてL信号およびR信号へ残響成分を付与する(ステップS303)。
そして、残響付与部15eは、残響成分付与後のL信号およびR信号を後方スピーカへ向けて出力して(ステップS304)、処理を終了する。なお、以下では、かかる図10に示したステップS302からステップS304の処理手順を、「残響付与処理」と記載することとする。
上述してきたように、本実施例3では、位相調整部が、入力されたL信号およびR信号をそれぞれ「移相」して車室前方のスピーカへ出力し、残響付与部が、入力されたL信号およびR信号へそれぞれ残響成分を付与して車室後方のスピーカへ出力するように車載用オーディオ装置のDSPを構成した。したがって、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させつつ、音の拡がり感をも与えることができる。
ところで、上述した実施例2では、L信号およびR信号の低周波帯域に基づいてモノラル信号を生成する構成を実施例1の構成へ追加した場合について説明した。また、上述した実施例3では、後方スピーカ向けの信号へ残響成分を付与する構成を実施例1の構成へ追加した場合について説明した。
ここで、かかる実施例2および実施例3の構成を組み合わせることとしてもよい。そこで、以下に示す実施例4では、かかる場合について説明することとする。
本実施例4では、実施例2および実施例3の構成を組み合わせた場合について説明する。図11は、実施例4に係るDSP10cの構成を示すブロック図である。なお、図11では、図6に示した実施例2に係るDSP10a、および、図8に示した実施例3に係るDSP10bと同一の構成要素には同一の符号を付しており、以下では、上述した実施例2および実施例3と重複する構成要素についての説明を省略するか簡単な説明にとどめることとする。
図11に示すように、実施例4に係るDSP10cは、入力されたL信号およびR信号のそれぞれを、車室51前方向けの系統と、車室51後方向けの系統とに分岐する。
そして、前方向けの系統については、実施例2と同様に、モノラル信号生成部15cにおいて低周波帯域分に基づくモノラル信号を生成したうえで、位相調整部15aにおいてかかるモノラル信号を「移相」する。
そして、「移相」後のL信号成分およびR信号成分へ高周波帯域分を加算したうえで、車室51前方のFRスピーカ13aおよびFLスピーカ14aへ向けて出力する。
一方、後方向けの系統については、実施例3と同様に、残響付与部15eにおいて残響成分を付与したうえで、RRスピーカ13bおよびRLスピーカ14bへ向けて出力する。
これにより、モノラル化による音像定位の安定感を得つつ、ステレオ成分をも付与することができる。さらに、聴取者へ音の拡がり感をも与えることが可能となる。
次に、実施例4に係るDSP10cが実行する処理手順について図12を用いて説明する。図12は、実施例4に係るDSP10cが実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図12に示すように、「前方」スピーカ向けの信号については、DSP10cは、「モノラル化位相調整処理」(図7参照)を行う(ステップS401)。
また、「後方」スピーカ向けの信号については、DSP10cは、「残響付与処理」(図10参照)を行い(ステップS402)、処理を終了する。
上述してきたように、本実施例4では、帯域分割部が、入力されたL信号およびR信号をそれぞれ低周波帯域分と高周波帯域分とに分割し、モノラル信号生成部が、分割された低周波帯域分に基づいてモノラル信号を生成し、位相調整部が、かかるモノラル信号に基づいてL信号成分およびR信号成分を「移相」し、加算部が、「移相」後のL信号成分およびR信号成分と高周波帯域分のL信号およびR信号とを加算して車室前方のスピーカへ出力するように車載用オーディオ装置のDSPを構成した。
また、残響付与部が、入力されたL信号およびR信号へそれぞれ残響成分を付与して車室後方のスピーカへ出力するように車載用オーディオ装置のDSPを構成した。したがって、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させることができる。また、モノラル化による音像定位の安定感を得つつ、ステレオ成分をも付与することができる。さらに、聴取者へ音の拡がり感をも与えることが可能となる。
ところで、上述した実施例1から実施例4では、「移相」や残響成分付与に関するパラメータ情報を、あらかじめ車載用オーディオ装置において記憶する場合について説明した。しかし、かかるパラメータ情報を、管理装置などから適宜ダウンロードすることによって設定することとしてもよい。そこで、以下に示す実施例5では、かかる場合について説明することとする。
本実施例5では、「移相」や残響成分の付与に用いるパラメータ情報を、車載用オーディオ装置が管理装置から取得可能な車載用オーディオシステムについて説明する。図13は、実施例5に係る車載用オーディオシステムの構成を示すブロック図である。なお、図13では、図2に示した車載用オーディオ装置1と同一の構成要素には同一の符号を付しており、以下では、重複する構成要素についての説明は省略するか簡単な説明にとどめることとする。
図13に示したように、実施例5に係る車載用オーディオシステムの車載用オーディオ装置1は、無線通信デバイスである通信I/F(インタフェース)8を備え、かかる通信I/F8を介して管理装置100との間でデータ送受信を行う。
また、マイコン5は、表示制御部5aと、要求送信部5bと、パラメータ情報取得部5cとを備える。表示制御部5aは、ディスプレイ6に表示されるパラメータ情報取得に関する操作画面や取得結果などの表示制御を行う処理部である。
操作部7は、ディスプレイ6に表示されるソフトスイッチなどの操作部品に対応しており、操作者からのパラメータ情報取得要求操作を受け付ける。
要求送信部5bは、操作部7から受け付けたパラメータ情報取得要求を、通信I/F8を介して管理装置100の要求受付部102aへ通知する処理を行う処理部である。
パラメータ情報取得部5cは、管理装置100のパラメータ情報通知部102bから通信I/F8を介して通知されるパラメータ情報を取得して、実施例1から実施例4に係るDSP10,10a〜10cへ通知する処理部である。
なお、DSP10,10a〜10cでは、通知されたパラメータ情報を上記した移相情報16aaまたは残響付与情報16abとして記憶する。また、パラメータ情報取得部5cは、パラメータ情報の取得結果を表示制御部5aに対して通知する処理を併せて行う。
なお、図示していないが、マイコン5内部を制御部と記憶部とで構成することとしたうえで、表示制御部5a、要求送信部5bおよびパラメータ情報取得部5cを制御部に備えることとし、取得したパラメータ情報は、マイコン5の記憶部へ記憶することとしてもよい。かかる場合には、DSP10,10a〜10cは、電源オンなどにともなう初期稼動段階において、マイコン5の記憶部からパラメータ情報をロードすればよい。
つづいて、管理装置100について説明する。図13に示すように、管理装置100は、通信I/F(インタフェース)101と、制御部102と、記憶部103とを備えている。また、制御部102は、要求受付部102aと、パラメータ情報通知部102bとをさらに備えている。そして、記憶部103は、移相情報103aaと残響付与情報103abとを含むパラメータ情報103aを記憶する。
通信I/F101は、無線通信デバイスであり、管理装置100と車載用オーディオ装置1との間のデータ送受信を行う。制御部102は、車載用オーディオ装置1からのパラメータ情報取得要求を受け付けたうえで、要求に応じたパラメータ情報を抽出し、車載用オーディオ装置1に対して通知する処理を行う処理部である。
要求受付部102aは、通信I/F101を介して車載用オーディオ装置1の要求送信部5bから通知されたパラメータ情報取得要求を受け付ける処理を行う処理部である。また、要求受付部102aは、受け付けたパラメータ情報取得要求をパラメータ情報通知部102bへ通知する処理を併せて行う。
パラメータ情報通知部102bは、要求受付部102aから通知されたパラメータ情報取得要求に基づき、要求に応じたパラメータ情報を記憶部103のパラメータ情報103aから抽出する処理を行う処理部である。
また、パラメータ情報通知部102bは、抽出したパラメータ情報を、通信I/F101を介して車載用オーディオ装置1のパラメータ情報取得部5cへ通知する処理を併せて行う。
パラメータ情報103aは、車載用オーディオ装置1のDSP10,10a〜10cが用いる「移相」や残響成分の付与に関するパラメータ情報である。移相情報103aaは、DSP10,10a〜10cの移相情報16aaに対応する「移相」に関する情報である。同様に、残響付与情報103abは、残響付与情報16abに対応する情報である。
なお、移相情報103aaまたは残響付与情報103abは、車室51の幅方向の左右に配置されたスピーカ間の距離や、聴取者の耳とスピーカとの距離、複数の着座位置の配置パターンなどの影響を考慮した検証実験などを経て調整された、メーカーや車種、オーディオ構成別の情報であるものとする。
次に、実施例5に係る車載用オーディオシステムにおける具体的なパラメータ情報の取得操作例について、図14を用いて説明する。図14は、パラメータ情報の取得操作例を示す図である。なお、図14の(A)には、車載用オーディオ装置1の概略図を、図14の(B)には、具体的な操作例を、それぞれ示している。
図14の(A)に示すように、車載用オーディオ装置1は、ディスプレイ6を備えている。また、かかるディスプレイ6の近傍には、複数のハードスイッチ40を備えることができる。
ハードスイッチ40は、ボタンやダイヤルといったハードウェアとしての操作部品である。なお、図示していないが、ハードスイッチ40やその近傍には、「設定」や「音量」などの各操作部品の役割を示す文字列が付されることが一般的である。
また、ディスプレイ6には、メニューやソフトスイッチ30といったソフトウェアによる操作部品が表示される。なお、図14の(A)には、メニューとして「音響設定メニュー」が表示されている場合を示している。これらソフトスイッチ30や上記したハードスイッチ40などの操作部品が、車載用オーディオ装置1の操作部7に対応する。
ここで、図14の(A)に示すように、操作者は、「音響設定メニュー」の「ダウンロード」項目をタッチ操作することによって、パラメータ情報の取得要求操作画面へ移行できるものとする。
次に、図14の(B)は、かかるパラメータ情報の取得要求操作画面の表示例である。ここでは、「音響調整パラメータ ダウンロード」画面として、「メーカー」、「車種」、オーディオ構成の「グレード」ごとに、パラメータ情報を絞り込む例を示している。
たとえば、図14の(B)においては、「メーカー」、「車種」および「グレード」に黒色の三角形アイコンが付されており、かかる黒色の三角形アイコンをタッチ操作することにより、各カテゴリの選択メニューが表示されるものとする(図中の(B−1)参照)。
かかる場合、操作者は、「メーカー」として「AAA」を選択した後、「AAA」メーカーの「車種」である「BBB」を選択し、かかる車種「BBB」における「グレード」を「CCC」や「DDD」などから選ぶことができる(図中の(B−2)参照)。
そして、操作者が、たとえば、「CCC」を選択したうえで、「ダウンロード」ボタンをタッチ操作したならば(図中の(B−3)参照)、車載用オーディオ装置1は、「AAA」メーカーの車種「BBB」に関するグレード「CCC」のパラメータ情報取得要求を、管理装置100に対して通知する。
なお、図示していないが、かかるパラメータ情報取得要求に対応するパラメータ情報が取得できたならば、図14の(B)に示す「現在設定値」欄に取得結果を表示することが好ましい。
このようなユーザインタフェースを設けることによって、操作者は、車載用オーディオ装置1が初期状態である場合は言うまでもなく、オーディオ構成を変更した場合(たとえば、スピーカの増設など)や、車載用オーディオ装置1を他の車両へ載せ換えた場合などに、音響環境に応じたパラメータ情報を適宜取得することができる。
すなわち、ユーザの利便性を高めつつ、車室51の音響環境に応じた音像定位の制御を行うことができる。
次に、実施例5に係る車載用オーディオシステムが実行する処理手順について図15を用いて説明する。図15は、実施例5に係る車載用オーディオシステムが実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図15に示すように、車載用オーディオ装置1のマイコン5の表示制御部5aが表示制御した操作画面を介して、操作者によるパラメータ情報の取得要求(以下、「ダウンロード要求」と記載する)操作を受け付ける(ステップS501)。
そして、ダウンロード要求操作を受け付けたならば、マイコン5の要求送信部5bが、かかるダウンロード要求を管理装置100の要求受付部102aへ通知する(ステップS502)。
管理装置100では、要求受付部102aが、かかるダウンロード要求を受け付け(ステップS503)、受け付けた同要求をパラメータ情報通知部102bへ通知する。そして、パラメータ情報通知部102bは、ダウンロード要求に応じたパラメータ情報を記憶部103のパラメータ情報103aから抽出し(ステップS504)、抽出したパラメータ情報をマイコン5のパラメータ情報取得部5cへ通知する(ステップS505)。
そして、車載用オーディオ装置1では、マイコン5のパラメータ情報取得部5cが、かかる管理装置100において抽出されたパラメータ情報を取得し(ステップS506)、DSP10,10a〜10cに対して通知する。
そして、車載用オーディオ装置1のDSP10,10a〜10cでは、かかる通知されたパラメータ情報に基づいて「移相」や残響成分付与などの音響調整を行い(ステップS507)、処理を終了する。
上述してきたように、本実施例5では、操作者のパラメータ情報取得要求を受け付けた場合に、マイコンの要求送信部がかかる取得要求を管理装置へ通知し、管理装置のパラメータ情報通知部がかかる取得要求に応じたパラメータ情報を抽出して通知し、マイコンのパラメータ情報取得部が、管理装置から通知されたパラメータ情報を取得してDSPへ通知し、DSPが、かかるパラメータ情報に基づき、L信号およびR信号についてそれぞれ「移相」または残響成分を付与するように車載用オーディオシステムを構成した。したがって、複数の聴取者に対して良好に音像を定位させることを、利便性を高めつつ、かつ、車室の音響環境の変化に応じつつ、行うことができる。
なお、上述した実施例5では、「移相」や残響成分の付与に関するパラメータ情報を管理装置から取得する場合について説明したが、車室の音響環境に関わる他のパラメータを適宜含むこととしてもよい。
また、上述した実施例1から実施例5では、車室に2列4席の着座位置が設けられている場合について主に説明したが、かかるシート構成に限られるものではない。したがって、たとえば、3列にわたって着座位置が設けられている場合や、1列に3席の着座位置が設けられている場合などにも、本発明を適用することができる。