[実施の形態1]
以下、本発明に係る音像定位制御装置の一例を、図面を用いて詳細に説明する。なお、背景技術において図面を示して説明した事項に該当する内容に関しては、同一の符号を用いて説明を行うものとする。
音像定位制御装置は、車載用のオーディオ装置やカーナビゲーションシステムなどに内設されており、車内において、次述する中域音像定位用バランス設定部および中域音像定位用フェダー設定部を用いてユーザが操作を行うことによって、音像の定位位置を調整することが可能となっている。
図1は、音像定位制御装置の概略構成を示したブロック図である。音像定位制御装置1は、帯域分割部(帯域分割手段)2と、定位制御部3と、加算部(帯域合成手段)4〜7と、中域音像定位用バランス設定部(バランス設定手段)8と、中域音像定位用フェダー設定部(フェダー設定手段)9とを有している。
なお、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、2チャンネルのステレオオーディオ信号(L側チャンネルのオーディオ信号(オーディオ信号L)とR側チャンネルのオーディオ信号(オーディオ信号R))が入力され、4チャンネルのステレオオーディオ信号(L側チャンネルのフロント用オーディオ信号(Front L)と、R側チャンネルのフロント用オーディオ信号(Front R)と、L側チャンネルのリア用オーディオ信号(Rear L)と、R側チャンネルのリア用オーディオ信号(Rear R))が出力される構成を一例として用いて説明する。
帯域分割部2は、入力された信号を、低域周波数成分のオーディオ信号(以下、低域信号とする)Lowと、中域周波数成分のオーディオ信号(以下、中域信号とする)Midと、高域周波数成分のオーディオ信号(以下、高域信号とする)Highとの3バンドに分割する役割を有している。そして、帯域分割部2は、分割された低域信号Lowと高域信号Highとを合成(Low+High L,Low+High R)して加算部4〜7へ出力すると共に、中域信号Mid(Mid L,Mid R)を定位制御部3へと出力する。
具体的に、帯域分割部2は、低域通過型のButterworthフィルタを2段カスケード接続することにより構成されるローパスフィルタと、高域通過型のButterworthフィルタを2段カスケード接続することにより構成されるハイパスフィルタとを備えている。入力されたオーディオ信号に対して、帯域分割部2は、ハイパスフィルタを適用することにより高域信号Highを生成し、ローパスフィルタを適用することにより低域信号Lowを生成し、ハイパスフィルタとローパスフィルタとの両方を適用することにより中域信号Midを生成する。
図2は、入力された信号を3バンドに分割するためのそれぞれのフィルタ特性を示した図である。図2に示すように、Highで示されるフィルタ特性では、カットオフ周波数が5kHzに設定され、Lowで示されるフィルタ特性では、カットオフ周波数が200Hzに設定され、Midで示されるフィルタ特性では、低域のカットオフ周波数が200Hzに設定され、高域のカットオフ周波数が5kHzに設定されている。
このため、高域信号Highは、図2に示すHighのフィルタ特性により、5kHz以上の高域周波数成分を備えたオーディオ信号となる。また、低域信号Lowは、図2に示すLowのフィルタ特性により200Hz以下の低域周波数成分を備えたオーディオ信号となる。さらに、中域信号Midは、図2に示すMidのフィルタ特性により、200Hz以上であって5kHz以下の中域周波数成分を備えたオーディオ信号となる。なお、この中域周波数成分を備えたオーディオ信号は、一般的に、オーディオ信号の音声帯域(ボーカル成分の帯域)に相当する信号である。
また、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、オーディオ信号Lとオーディオ信号Rとが入力されるため、帯域分割部2では、L側チャンネル用の中域信号Mid(図1に示すMid L)と、L側チャンネル用の低域信号Low+高域信号High(図1に示すLow+High L)と、R側チャンネル用の中域信号Mid(図1に示すMid R)と、R側チャンネル用の低域信号Low+高域信号High(図1に示すLow+High R)とを生成して、加算部4〜7および定位制御部3へ出力する。
このように、帯域分割部2におけるハイパスフィルタおよびローパスフィルタをそれぞれ適用することによって、図2に示すように、入力されたL側チャンネルのステレオ信号の帯域を低域周波数成分、中域周波数成分、高域周波数成分に分割することが可能となる。また同様に、帯域分割部2において、入力されたR側チャンネルのステレオ信号の帯域を低域周波数成分、中域周波数成分、高域周波数成分に分割することが可能となる。
中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9は、車載用オーディオ装置の操作部あるいは、カーナビゲーションシステムの操作パネル等に設けられる操作手段である。本実施の形態1に係る音像定位制御装置1において中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9は、中域信号のバランス調整およびフェダー調整を行うための操作部であり、オーディオ信号の全域(音源全体)におけるバランス調整およびフェダー調整を行う操作部とは別個に独立して設けられている。
なお、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、全域のバランス調整およびフェダー調整を行う操作部と、中域信号のバランス調整およびフェダー調整を行う中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9とを別々に設ける場合について説明するが、別々に設けるのではなく、全域のバランス調整と中域信号のバランス調整とを連動させて同時にバランス調整を行うバランス設定部や、全域のフェダー調整と中域信号のフェダー調整とを連動させて同時にフェダー調整を行うフェダー設定部を設ける構成とすることも可能である。
中域音像定位用バランス設定部8は、中域信号における音像の定位位置を左右方向に調整する際に操作される。中域音像定位用バランス設定部8では、基本位置(左右のバランスが等しい位置)が0に規定されており、左側寄りに中域音像定位用バランス設定部8が操作されると、その操作量に応じて0から−1までのいずれかに設定されたバランス信号が出力される構造となっている。一方で、中域音像定位用バランス設定部8が、右側寄りに操作されると、その操作量に応じて0から+1までのいずれかに設定されたバランス信号が出力される。
また、中域音像定位用フェダー設定部9は、中域信号における音像の定位位置を前後方向に調整する際に操作される。中域音像定位用フェダー設定部9では、基本位置(前後のバランスが等しい位置)が0に規定されており、後寄りに中域音像定位用フェダー設定部9が操作されると、その操作量に応じて0から+1までのいずれかに設定されたフェダー信号が出力される構造となっている。一方で、中域音像定位用フェダー設定部9が、前側寄りに操作されると、その操作量に応じて0から−1までのいずれかに設定されたフェダー信号が出力されることになる。
図3は、定位制御部3の概略構成を示したブロック図である。定位制御部3は、中域音像定位用バランス設定部8の操作により設定されるバランス信号および中域音像定位用フェダー設定部9の操作により設定されるフェダー信号に基づいて、中域周波数成分のゲイン調整を出力対象となるスピーカ(FL,FR,RL,RR)毎に行う役割を有している。
定位制御部3は、図3に示すように、減算部(ステレオ成分抽出手段)20と、加算部(モノラル成分抽出手段)21、加算部(中域周波数成分合成手段)22〜25と、第1ゲイン部26と、第2ゲイン部27と、重み付け部28とを有している。
減算部20は、L側チャンネルにおける中域信号Mid Lから、R側チャンネルにおける中域信号Mid Rを減算することにより、オーディオ信号から、中域周波数成分のモノラル信号、すなわちセンター成分の除去を行い、ステレオ成分の抽出を行う。
第1ゲイン部26および第2ゲイン部27では、減算部20においてセンター成分が除去されたステレオ成分の中域信号に対して、所定の重み付けを行う役割を有している。この第1ゲイン部26および第2ゲイン部27における重み付け処理は、低域信号と高域信号とが合成されたオーディオ信号(Low+High L、Low+High R)に対して、加算部4〜7で加算される中域信号の出力レベルが、低域信号および高域信号に比べて高すぎるレベルとなったり低すぎるレベルとなったりすることを防止することにより、干渉が発生してしまうことを回避する処理である。
本実施の形態1に係る第1ゲイン部26では、ステレオ信号に対して0.5の重み付けが行われ、第2ゲイン部27では、ステレオ信号に対して−0.5の重み付けが行われる。この重み付け処理における重み付けの正負の値の違いは、加算部4〜7における信号の合成処理での位相の補正を目的としたものである。
2チャンネルのオーディオ信号(L側チャンネルのオーディオ信号LとR側チャンネルのオーディオ信号R)が、チャンネル間で相関のない信号、すなわちステレオ信号である場合において、加算部4〜7の信号の合成処理における信号の干渉を、第1ゲイン部26および第2ゲイン部27における重み付け処理によって、抑制することが可能となる。
一方で、加算部21は、L側チャンネルの中域信号Mid Lと、R側チャンネルの中域信号Mid Rとの加算を行う役割を有している。加算部21により加算されたL側チャンネルおよびR側チャンネルの中域信号(Mid L+Mid R)は、重み付け部28へ出力される。
図4は、重み付け部28の概略構成を示したブロック図である。重み付け部28は、図4に示すように、第3ゲイン部30と、乗算部31,32(左右重み付け付加手段)、乗算部33〜36(前後重み付け付加手段)と、第1ゲイン設定部(左右重み付け付加手段)37と、第2ゲイン設定部(前後重み付け付加手段)38と、残響音付加部39とを有している。
第3ゲイン部30は、定位制御部3の加算部21において加算されたL側チャンネルおよびR側チャンネルの中域信号(Mid L+Mid R)に対して、重み付けを行う役割を有している。この重み付けの割合は、上述した第1ゲイン部26および第2ゲイン部27における重み付けの割合に応じて調整される。本実施の形態1に係る第3ゲイン部30においては、0.5の重み付けを行う。
残響音付加部39は、第3ゲイン部30において重み付けされた中域信号に対し、残響音をリバーブゲインの値に応じて重み付けして合成する役割を有している。なお、リバーブゲインは、中域音像定位用フェダー設定部9の設定に応じて値が決定される。
図5は、残響音付加部39の概略構成を示したブロック図である。残響音付加部39は、図5に示すように、残響音部(残響音信号生成手段)40と重み付け合成部(残響音付加手段)41とを有している。残響音部40は、第3ゲイン部30より入力された中域信号(Mid L+Mid R)に対して残響音を付加した信号(残響音信号)を生成する役割を有している。図6は、残響音部40の概略構成を示したブロック図である。残響音部40は、6つの加算部51〜56と、6つのゲイン部57〜62と、3つの遅延部63〜65を有している。
残響音部40は、図6に示すようなネスト型のオールパスフィルタにより構成されており、ゲイン部57〜62において設定されるゲインGは、g=1/√2、遅延部63の遅延D1は640サンプル、遅延部64の遅延D2は263サンプル、遅延部65の遅延D3は161サンプルであり、サンプリング周波数は44.1kHzである。
重み付け合成部41は、残響音の付加されていない中域信号(直接音)に対して、全体としての音量レベル(出力レベル)を変更することなく(保持したまま)、残響音部40において残響音が付加された中域信号(残響音、残響音信号)を、リバーブゲインの値に応じて合成(付加)する役割を有している。ここで、リバーブゲインとは、残響音の付加されていない中域信号(直接音)に対する残響音が付加された中域信号(残響音)の出力ゲインの差を示した値である。
従って、リバーブゲインが例えば−10dBである場合に、重み付け合成部41は、残響音の付加されていない中域信号(直接音)の出力ゲインに対して残響音が付加された中域信号(残響音)の出力ゲインが10dBだけ低くなるようにして、残響音が付加された中域信号(残響音)と残響音の付加されていない中域信号(直接音)と合成しつつ、全体の音量レベルを合成する前の音量に維持するように調整(重み付け合成)する。このようにして、中域信号に対して残響音の重み付けを行うことにより、後述するフェダー調整処理において中域周波数帯域におけるモノラル成分(センター成分)の音像定位位置をより効果的に制御(移動)させることが可能となる。
図7は、残響音付加部39におけるインパルス応答を示した図である。図7に示すように、残響音付加部39を適用することにより、インパルス応答における直接の反応(直接音)であるインパルス出力が生じた後に、波形の揺れが僅かながら長時間続く残響音が生成されて出力されることがわかる。
第1ゲイン設定部37は、中域音像定位用バランス設定部8より取得したバランス信号に基づいて、乗算部31および乗算部32において乗算処理を行うためのゲインの値を設定する役割を有している。
第1ゲイン設定部37は、図8(a)に示すような関係に従って、バランス信号に対するゲインの設定を行う。図8(a)に示すように、バランス信号が0の場合に、センター成分の定位位置が、スピーカ(FL、FR,RL,RR)の左右中心位置になるように設定されることになり、バランス信号が1の場合には定位位置が最も右寄りとなるように設定され、バランス信号が−1の場合には定位位置が最も左寄りとなるように設定されることになる。
バランス信号が0〜−1の間の値である場合には、中域音像定位用バランス設定部8が左右中心位置から左側寄りに操作されたことになる。この場合、第1ゲイン設定部37は、L側チャンネルの中域信号に乗算処理を行う乗算部31のゲイン(図4における制御信号G1Lに対応するゲイン出力)は低減させずに(0dBを保ったままにして)、R側チャンネルの中域信号に乗算処理を行う乗算部32のゲイン(図4における制御信号G1Rに対応するゲイン出力)を、バランス信号の値の減少に比例させて低減させる。このように、中域音像定位用バランス設定部8が左寄りに操作された場合において、R側チャンネルのオーディオ信号におけるゲインを低減させることによって、L側チャンネルとR側チャンネルとの中域周波数成分におけるゲインに相違が生じるので、センター成分の音像の定位位置を左側に移動させることが可能となる。
一方で、図8(a)に示すように、バランス信号が0〜+1の間の値である場合には、中域音像定位用バランス設定部8が右側寄りに操作されたことになる。この場合、第1ゲイン設定部37は、R側チャンネルの中域信号に乗算処理を行う乗算部32のゲイン(図4における制御信号G1Rに対応するゲイン出力)は低減させずに(0dBを保ったままにして)、L側チャンネルの中域信号に乗算処理を行う乗算部31のゲイン(図4における制御信号G1Lに対応するゲイン出力)を、バランス信号の値の増加に反比例させるようにして低減させる。このように、中域音像定位用バランス設定部8が右寄りに操作された場合において、L側チャンネルのオーディオ信号におけるゲインを低減させることによって、L側チャンネルとR側チャンネルの中域周波数成分におけるゲインに相違が生じるので、センター成分の音像の定位位置を右側に移動させることが可能となる。
例えば、図8(a)に示す場合において、バランス信号を−1に設定すると、制御信号G1Lは0dBとなり、G1Rは−20dBとなる。このように制御されることにより、バランス信号が0の場合に比べて、G1Rのゲインが低下し、センター成分(ボーカル成分)の音量が低下するので、センター成分の音像が左側に移動することになる。
第2ゲイン設定部38は、中域音像定位用フェダー設定部9より取得したフェダー信号に基づいて、乗算部33〜乗算部36において乗算処理を行うためのゲインの値を設定すると共に、残響音付加部39の重み付け合成部41で重み付け合成処理を行うためのリバーブゲインの値を設定する役割を有している。
第2ゲイン設定部38は、図8(b)に示すような関係に従って、フェダー信号およびリバーブゲインに対するゲインの設定を行う。図8(b)に示すように、フェダー信号が0の場合に、センター成分の定位位置が、スピーカ(FL、FR,RL,RR)の前後中心位置になるように設定されることになり、フェダー信号が1の場合には定位位置が最も後寄りとなるように設定され、フェダー信号が−1の場合には定位位置が最も前寄りとなるように設定されることになる。
フェダー信号が0〜−1の間の値である場合には、中域音像定位用フェダー設定部9が前側寄りに操作されたことになる。この場合、第2ゲイン設定部38は、後側の中域信号に対して乗算処理を行う乗算部34および乗算部36のゲイン(図4における制御信号G2Rに対応するゲイン出力)を、フェダー信号の値の減少に比例させるようにして低減させる。具体的に、第2ゲイン設定部38は、フェダー信号の値が0の場合にゲインを0dBとし、フェダー信号の値が−1の場合に制御信号G2Rのゲインが−20dBとなるようにゲインを減少させる。
このようにして、中域音像定位用フェダー設定部9が前側寄りに操作された場合において、後側の中域信号におけるゲインを低減させることによって、後側と前側の中域周波数成分におけるゲインに相違が生じるので、音像の定位位置を前側に移動させることが可能となる。
また、第2ゲイン設定部38は、前側の中域信号に乗算処理を行う乗算部33および乗算部35のゲイン(図4における制御信号G2Fに対応するゲイン出力)を、フェダー信号の値の減少に比例させて緩やかに低減させる。具体的に、第2ゲイン設定部38は、フェダー信号の値が0の場合に制御信号G2Fのゲインを0dBとし、フェダー信号の値が−1の場合に制御信号G2Fのゲインが−6dBとなるように、緩やかにゲインを減少させる。さらに、残響音付加部39において残響音の重み付け合成処理に用いられるリバーブゲインの値を、フェダー信号の値の減少に反比例させて増大させる。具体的に、第2ゲイン設定部38は、フェダー信号の値が0の場合にはリバーブゲインの値を−40dBとし、フェダー信号の値が−1の場合にリバーブゲインの値が−10dBとなるように、リバーブゲインの値を増大させる。
このように、中域音像定位用フェダー設定部9が前側寄り(前方向)に操作された場合において、リバーブゲインの値を増大させて、中域信号における残響音の付加比率を高めることにより、残響音による音の広がりを強調することが可能となる。さらに、中域音像定位用フェダー設定部9が前側寄りに操作された場合において、前側の中域信号におけるゲインを低減させることによって、ボーカル音などが中心となるセンター成分の音量が低減されるため、ボーカル音(センター成分)の定位位置がより車室60の前側へと移動されたような感覚をユーザHに与えることが可能となる。
従って、本実施の形態1に係る重み付け部28では、中域周波数成分における前側のゲインの低減によるセンター成分の音量低減と、リバーブゲインの増大による残響音の増大とが相俟って、センター成分の前方移動効果を、聴感上より効果的なものとすることが可能となり、図9に示すように、フロント側スピーカFR,FLの設置位置よりも前側位置へセンター成分S1を移動させることが可能となる。
このように、センター成分S1の定位位置を、図22に示すような従来の定位位置よりもさらに前側へ(フロント側スピーカFR,FLよりも前方へ)移動させることによって、スピーカFR,FL設置位置を中心としたステレオ成分の出力位置とセンター成分における定位位置との距離を広めに確保することが可能となり、またセンター成分における定位位置からユーザHの聴取位置を離すことが可能となるので、モノラル成分またはステレオ成分を含めた音楽の全体的な広がりや臨場感を向上させることが可能となる。
一方で、図8(b)に示すように、フェダー信号が0〜1の間の値である場合には、中域音像定位用フェダー設定部9が後側寄りに操作されたことになる。この場合、第2ゲイン設定部38は、後側の中域信号に対して乗算処理を行う乗算部34および乗算部36のゲイン(図4における制御信号G2Rに対応するゲイン出力)は低減させずに(0dBを保ったままにして)、前側の中域信号に対して乗算処理を行う乗算部33および乗算部35のゲイン(図4における制御信号G2Fに対応するゲイン出力)を、フェダー信号の値の増大に反比例させて低減させる。具体的に、第2ゲイン設定部38は、フェダー信号の値が0の場合に制御信号G2Fのゲインを0dBとし、フェダー信号の値が1の場合に制御信号G2Fのゲインが−20dBとなるように、ゲインを減少させる。
このように、中域音像定位用フェダー設定部9が後側寄り(後方向)に操作された場合において、後側の中域信号におけるゲインを変更させることなく(0dBに保ったまま)、前側の中域信号におけるゲインを低減させることにより、後側と前側の中域周波数成分においてゲインに相違が生じ、センター成分の音像の定位位置を後側に移動させることが可能となる。
なお、後側のセンター成分の定位において、後側の中域信号のゲインを、中域音像定位用フェダー設定部9が前側寄りに操作された場合における前側の中域信号のゲインのように低減させずに、0dBに維持している理由は、一般的に、リアスピーカがフロントスピーカよりも音圧が低いためである。従って、後側の中域信号のゲインは0dBの値に限定されるものではなく、リアスピーカの特性に応じて、0dB、もしくは最小限の減衰となるように調整することが可能である。
さらに、第2ゲイン設定部38は、フェダー信号が0から1へと増大されるのに応じて、リバーブゲインの値を増大させる。具体的に、第2ゲイン設定部38は、フェダー信号の値が0の場合にはリバーブゲインの値を−40dBとし、フェダー信号の値が1の場合にリバーブゲインの値が0dBとなるように、リバーブゲインの値を増大させる。
このように、中域音像定位用フェダー設定部9が後方向に操作された場合において、リバーブゲインの値を増大させて、中域信号における残響音の付加比率を高めることにより、残響音による音の広がりを強調することが可能となる。特に、フェダー信号の値が1の場合には、リバーブゲインの値が0dBとなり、中域信号における残響音の付加比率が50%(リバーブゲインの値が0dBということは、残響音の付加されていない中域信号と残響音の付加された中域信号とのゲインに差が生じない状態であるため、付加比率が50%となる)となって、より大きな残響音が加えられることになる。このため、センター成分S2における定位位置を、図9に示すように、リアスピーカRR,RLの設置位置よりも後方へと移動させることが可能となる。
このように、センター成分S2の定位位置を、従来の定位位置よりも後方へ(リアスピーカRR,RLよりも後方へ)移動させることにより、リアスピーカRR,RLの設置位置を中心としたステレオ成分の出力位置とセンター成分における定位位置との距離を広めに確保することが可能となり、また、センター成分における定位位置からユーザHの聴取位置を離すことが可能となるので、モノラル成分およびステレオ成分を含めた音楽の全体的な広がりや臨場感を向上させることが可能となる。
なお、図9において、フェダー信号の値が1および−1の場合にセンター成分S1,S2の定位位置を示す円の大きさが、フェダー信号の値が0の場合におけるセンター成分S0の定位位置を示す円の大きさよりも大きくなっているが、この大きさの違いは、残響音の付加によりセンター成分単体の臨場感が増大したためである。
乗算部31〜乗算部36は、第1ゲイン設定部37および第2ゲイン設定部38において設定されたゲインに基づく制御信号G1L、G1R、G2F、G2Rを、残響音が重み付けされた中域信号に対して乗算する処理を行い、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9により設定された音像の定位制御に対応する重み付けがなされた重み信号W1〜W4を、定位制御部3の加算部22〜加算部25に対して出力する。
加算部22〜加算部25は、第1ゲイン部26および第2ゲイン部27において重み付け処理されたステレオ成分のオーディオ信号と、重み付け部28より出力されたモノラル成分(センター成分)に関する重み信号W1〜W4との加算を行う役割を有している。加算部22〜加算部25において加算処理が行われた信号は、中域周波数成分(センター成分)の定位を制御するための定位制御信号C1〜C4として、音像定位制御装置1の加算部4〜加算部7にそれぞれ出力されることになる。
音像定位制御装置1の加算部4〜加算部7では、帯域分割部2より出力される低域周波数成分と高域周波数成分とが合成されたオーディオ信号(Low+High Lおよび、Low+High R)に対して、中域周波数成分における定位制御信号C1〜C4とを加算する。このように、加算部4〜加算部7で低高域周波数成分よりなるオーディオ信号に対して、モノラル成分に基づく音像の定位制御が行われた中域周波数成分のオーディオ信号を加算することにより、中域周波数成分のボーカル音部分のみを効果的に定位制御したオーディオ信号を生成することが可能となる。
加算部4〜加算部7において加算処理された各オーディオ信号(Front R、Rear R、Front L、Rear L)は、図示を省略するパワーアンプにおいて増幅処理された後に、図9に示すように車室60内の右側前に設置されるスピーカFR(オーディオ信号Front Rが出力されるスピーカ)、右側後に設置されるスピーカRR(オーディオ信号Rear Rが出力されるスピーカ)、左側前に設置されるスピーカFL(オーディオ信号Front Lが出力されるスピーカ)、左側後に設置されるスピーカRL(オーディオ信号Rear Lが出力されるスピーカ)に対して、それぞれ出力される。
次に、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1を用いて、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9の操作を行うことによって、車室60内のスピーカFR,FL,RR,RLより出力されるオーディオ信号(オーディオ信号Front R,オーディオ信号Front L,オーディオ信号Rear R,オーディオ信号Rear L)の出力波形を示すことにより、音像の定位位置の制御効果について説明する。
図10〜図13に示すグラフは、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9を操作した状態において、右側前に設置されるR側チャンネル用のフロントスピーカFR、右側後に設置されるR側チャンネル用のリアスピーカRR、左側前に設置されるL側チャンネル用のフロントスピーカFL、左側後に設置されるL側チャンネル用のリアスピーカRLより出力される、モノラル音源あるいはステレオ音源のオーディオ信号(モノラル信号およびステレオ信号)の出力波形(周波数特性)を示した図である。
ここで、音像定位制御装置1に入力される音源のオーディオ信号は、サンプリング速度が44.1kHz、符号長32,767のM系列符号であって、モノラル信号は、L側チャンネルとR側チャンネルとの符号が同一のオーディオ信号であり、ステレオ信号は、L側チャンネルとR側チャンネルとの符号が異なりほぼ無相関となっているオーディオ信号である。なお、音源より出力されるオーディオ信号のセンター成分には、残響音が加えられていないものとする。
ここで、ステレオ信号は、いわゆる音質や臨場感を顕著に表すものである。このため、中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9の操作により、ステレオ信号の出力波形が大きく変化する場合には、音像の定位制御により音質や臨場感が大きく変動(影響)されていると判断することができる。
一方で、モノラル信号は、バランス信号およびフェダー信号に基づいて、音像定位制御装置1の重み付け部28で定位制御が行われるセンター成分の信号(ボーカル音に該当する信号)である。定位制御部3では、加算部21において加算されたL側チャンネルおよびR側チャンネルのセンター成分のオーディオ信号に対して、重み付け部28により定位制御処理が施される。この重み付け部28に入力されるオーディオ信号は、加算された中域周波数成分の信号であるため、L側チャンネルおよびR側チャンネルのオーディオ信号において共通する成分の信号、つまり、モノラル信号としての特性を強く有している。
このため、中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9の操作により、モノラル信号の出力波形が大きく変化する場合には、ステレオ信号のように音楽の広がりや臨場感に対して直接的に大きな影響を与えることなく、音像の定位位置を制御することが可能となる。
図10は、フェダー信号の値が−1、バランス信号の値が0に設定される状態で、4つのスピーカFL,FR,RL,RRから出力されるステレオ信号の出力波形を示し、図12は、フェダー信号の値が−1、バランス信号の値が−1に設定される状態で、4つのスピーカFL,FR,RL,RRから出力されるステレオ信号の出力波形を示している。図10および図12に示されるように、フェダー信号の値およびバランス信号の値が異なっていても、それぞれスピーカFL,FR,RL,RRから出力される信号の周波数特性は全てフラットとなり、フェダー信号の値およびバランス信号の値に影響されることがない。
これは、本実施の形態1に係る中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9が、中域音像定位を目的として中域周波数成分(センター成分)のモノラル成分の定位制御を行うものであり、ステレオ信号に対して影響を与えないためである。このように、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、ステレオ信号に対して影響を与えることなく、センター成分の定位制御を行うことができるため、音楽の広がりや臨場感に対して直接的に大きな影響を与えることなく(つまり、音楽の広がりや臨場感を損なうことなく)、音像の定位位置を制御することが可能となる。
一方で、図11は、フェダー信号の値が−1、バランス信号の値が0に設定される状態で4つのスピーカFL,FR,RL,RRから出力されるモノラル信号の出力波形を示し、図13は、フェダー信号の値が−1、バランス信号の値が−1に設定される状態で4つのスピーカFL,FR,RL,RRから出力されるモノラル信号の出力波形を示している。図11および図13に示すように、モノラル信号の場合には、中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9の操作に応じて、センター成分の出力レベル(dB)が低減される。
まず、図11に示す出力波形を観察すると、図11の場合には、バランス信号の値が0に設定されているため、左右のスピーカにおいて出力されるモノラル信号の出力レベルに差は生じていない。一方で、フェダー信号の値が−1に設定されているため、L側チャンネルおよびR側チャンネルのフロントスピーカから出力されるモノラル信号(Front LおよびFront R)の出力レベルが、中域周波数成分において6dBだけ高低域周波数成分の出力レベルに比べて低減している。この6dBの減少は、図8(b)においてフェダー信号の値が−1の場合の制御信号G2Fのゲインである−6dBに該当するものである。
また、L側チャンネルおよびR側チャンネルのリアスピーカから出力されるモノラル信号(Rear LおよびRear R)の出力レベルは、図8(b)においてフェダー信号の値が−1の場合の制御信号G2Rのゲインである−20dBとが加えられた出力レベルに対応して、高低域周波数成分の出力レベルよりも中域周波数成分の出力レベルの方が20dBだけ低い値となって示されている。
また、図13の場合には、バランス信号の値が−1に設定され、フェダー信号の値が−1に設定されているため、中域周波数成分(センター成分)が、車室60内の前方右側に定位されることになる。このため、左側のフロントスピーカFLにおけるモノラル信号(Front L)の出力レベルは、図8(a)においてバランス信号の値が−1の場合の制御信号G1Lのゲインである0dBと、図8(b)においてフェダー信号の値が−1の場合の制御信号G2Fのゲインである−6dBとが加えられた出力レベル、つまり6dBだけ高低域周波数成分の出力レベルよりも低い値となって示されている。
また、右側のフロントスピーカFRにおけるモノラル信号(Front R)の出力レベルは、図8(a)においてバランス信号の値が−1の場合の制御信号G1Rのゲインである−20dBと、図8(b)においてフェダー信号の値が−1の場合の制御信号G2Fのゲインである−6dBとが加えられた出力レベル、つまり26dBだけ高低域周波数成分の出力レベルよりも低い値となって示されている。
さらに、左側のリアスピーカRLにおけるモノラル信号(Rear L)の出力レベルは、図8(a)においてバランス信号の値が−1の場合の制御信号G1Lのゲインである0dBと、図8(b)においてフェダー信号の値が−1の場合の制御信号G2Rのゲインである−20dBとが加えられた出力レベル、つまり20dBだけ高低域周波数成分の出力レベルよりも低い値となって示されている。
また、右側のリアスピーカRRかにおけるモノラル信号(Rear R)の出力レベルは、図8(a)においてバランス信号の値が−1の場合の制御信号G1Rのゲインである−20dBと、図8(b)においてフェダー信号の値が−1の場合の制御信号G2Rのゲインである−20dBとが加えられた出力レベル、つまり40dBだけ高低域周波数成分の出力レベルよりも低い値となって示されている。
このように、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、ステレオ信号における出力レベルには何ら影響を与えずに、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9を操作することにより、中域周波数成分におけるモノラル成分(センター成分)の音声帯域を効果的に制御することが可能となる。このため、聴感上でスピーカの配置位置よりもさらに前方(あるいは後方)に、中域周波数成分におけるモノラル成分(センター成分)を定位させることができ、モノラル成分およびステレオ成分を含めた全体的な音の広がりや臨場感を向上させることが可能となる。
また、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9を操作することにより、ステレオ感に影響を与えることなく、すなわち音質の低下や臨場感の偏り等を生じさせることなく、ボーカル音声などを含むセンター成分のみの定位位置を前後方向および左右方向に制御することが可能となる。
以上説明したように、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1を用いることにより、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9により設定されるバランス信号およびフェダー信号の値に基づいて、中域周波数帯域のモノラル成分(センター成分)に対する音像の定位制御を行うことができ、定位制御が行われた中域周波数帯域におけるモノラル成分に、中域周波数帯域におけるステレオ成分および低高域周波数成分のオーディオ信号を加算して各スピーカFR,FL,RR,RLより出力させることができる。このため、ボーカル音を構成する中域周波数帯域におけるモノラル成分(センター成分)に対して効果的に定位制御を行うことが可能となり、音質や臨場感を損なうことなく、さらに向上させて、音像の定位制御を行うことが可能となる。
特に、本実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、残響音付加部39において中域周波数帯域のモノラル成分に対して残響音を付加してから、センター成分の定位制御を行うため、スピーカFR,FL,RR,RLの設置位置よりも前方あるいは後方にセンター成分を定位させることができる。このため、図9に示すように、スピーカFR,FL,RR,RLの設置位置を中心としたステレオ成分の出力位置と、センター成分S1,S2における定位位置との距離を広めに確保することが可能となり、また、センター成分S1,S2における定位位置からユーザHの聴取位置を離すことが可能となるので、モノラル成分またはステレオ成分を含めた音楽の全体的な広がりや臨場感を向上させることが可能となる。
また、中域周波数帯域におけるモノラル成分のゲイン調整を行うことによって、効果的に定位位置の制御を行うことができるので、出力されるオーディオ信号の音質や臨場感を損なうことなく、また、車室60内の反射波や遮蔽の影響などを受けることなく、センター成分における音像定位制御を行うことが可能となる。
[実施の形態2]
次に、実施の形態2に係る音像定位制御装置について説明を行う。実施の形態1に示した音像定位制御装置1では、中域音像定位用バランス設定部8が中域信号のバランス調整のみ行い、中域音像定位用フェダー設定部9が中域信号のフェダー調整のみを行う場合について説明した。実施の形態2では、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9の替わりに、中域信号だけでなく全域信号に対しても音像の定位位置制御を行うための制御信号(バランス信号およびフェダー信号)を出力する音像定位用設定部について説明を行う。
なお、実施の形態2では、実施の形態1において既に説明した構成部分および同じ機能を奏する構成部分については、同一の符号を附すものとし、実施の形態2における詳細な説明を省略する。
図16は、本実施の形態2に係る音像定位制御装置1aの概略構成を示したブロック図である。音像定位制御装置1aは、図1に示した音像定位制御装置1に該当する構成(より具体的には、図1に示した音像定位制御装置1より中域音像定位用バランス設定部8と中域音像定位用フェダー設定部9とを除いた構成を意味し、本実施の形態2においては、この構成を「音像定位制御部1b」として示す。)に加えて、音像定位用設定部80および全域音像定位用設定部70を有している。
全域音像定位用設定部70は、音像定位制御部1bより出力される4チャンネルのオーディオ信号(Front L、Front R、Rear L、Rear R)のそれぞれに対して、バランス調整とフェダー調整とを行う役割を有している。全域音像定位用設定部70には、図16に示すように、バランス調整を行うためのバランスゲイン部(バランスゲイン設定手段)71〜74と、フェダー調整を行うためのフェダーゲイン部(フェダーゲイン設定手段)75〜78とが、4チャンネルのオーディオ信号(Front L、Front R、Rear L、Rear R)のそれぞれに対応して設けられている。バランスゲイン部71〜74およびフェダーゲイン部75〜78における出力信号のゲイン設定は、音像定位用設定部80より出力される制御信号(バランス信号およびフェダー信号)に基づいて決定される。
一方で、音像定位用設定部80は、図16に示すように、ディスプレイ部81と、タッチパネル部82と、操作制御部(バランス設定手段、ゲイン設定手段)83とを有している。本実施の形態2に係る音像定位用設定部80では、カーナビゲーション用の液晶ディスプレイおよびタッチパネルを用いて調整操作が行われるものとする。このため、音像定位用設定部80には、操作内容(設定内容)を示すディスプレイ部81と、タッチ操作により設定操作を行うためのタッチパネル部82とが設けられている。
操作制御部83は、タッチパネル部82の操作によって設定された設定値を取得してディスプレイ部81に表示させると共に、設定された設定値に基づいて、全域音像定位用設定部70のバランスゲイン部71〜74およびフェダーゲイン部75〜78に制御信号(バランス信号とフェダー信号)を出力する役割を有している。また、操作制御部83は、タッチパネル部82の操作によって設定された設定値に基づいて、図4に示した第1ゲイン設定部37および第2ゲイン設定部38に制御信号(バランス信号とフェダー信号)を出力する役割を有している。
本実施の形態2に係る音像定位制御部1bには、上述したように、中域音像定位用バランス設定部8および中域音像定位用フェダー設定部9が含まれていない。第1ゲイン設定部37に対するバランス信号の出力は、操作制御部83により行われ、また、第2ゲイン設定部38に対するフェダー信号の出力は、操作制御部83により行われる。なお、実施の形態1に示した第1ゲイン設定部37では、バランス信号として−1〜+1の値が設定され、第2ゲイン設定部38では、フェダー信号として−1〜+1の値が設定されることとなっていたが、本実施の形態2では、後述するように、バランス信号として−19〜+19、フェダー信号として−19〜+19の値が設定される。このように、バランス信号およびフェダー信号の値は異なるが、第1ゲイン設定部37および第2ゲイン設定部38において、−19〜+19の設定値を−1〜+1の設定値に対応させて処理させることによって、実施の形態1に示した処理と同様にして、乗算部31〜36に対するゲインの設定を行うことが可能である。
タッチパネル部82は、バランス設定値として、設定値0を左右中心として右方向に+1〜+9の9段階、左方向に−1〜−9の9段階、合計−9〜+9の19段階の設定を行うことが可能となっている。ユーザは、バランスの設定値をプラス方向に設定することにより、出力される音の定位位置を右寄りに設定することができる。バランスの設定値が+9に設定されると、音の定位位置が最も右寄りの位置に移動されることになる。また、ユーザは、バランスの設定値をマイナス方向に設定することにより、出力される音の定位位置を左寄りに設定することができる。バランスの設定値が−9に設定されると、音の定位位置が最も左寄りの位置に移動されることになる。
同様にタッチパネル部82は、フェダー設定値として、設定値0を前後中心としてリア方向に+1〜+9の9段階、フロント方向に−1〜−9の9段階、合計−9〜+9の19段階の設定を行うことが可能となっている。ユーザは、フェダーの設定値をプラス方向に設定することにより、出力される音の定位位置を後寄りに設定することができる。フェダーの設定値が+9に設定されると、音の定位位置が最も後寄りの位置に移動されることになる。また、ユーザは、フェダーの設定値をマイナス方向に設定することにより、出力される音の定位位置を前寄りに設定することができる。フェダーの設定値が−9に設定されると、音の定位位置が最も前寄りの位置に移動されることになる。
次に、音像定位用設定部80における設定方法として、2つの設定パターンについて説明を行う。1つめの設定パターンは、全域音像定位用設定部70に対するバランス信号およびフェダー信号の設定値と、第1ゲイン設定部37および第2ゲイン設定部38に対するバランス信号およびフェダー信号の設定値とを別々に設定する方法(以下、「個別設定パターン」という)である。もう1つの設定パターンは、全域音像定位用設定部70に対するバランス信号およびフェダー信号の設定値と、第1ゲイン設定部37および第2ゲイン設定部38に対するバランス信号およびフェダー信号の設定値とを一緒に設定する方法(以下、「共通設定パターン」という)である。
図17(a)は、個別設定パターンを用いる場合におけるディスプレイ部81の表示画面を示している。また、図18(a)は、個別設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から全域音像定位用設定部70のバランスゲイン部71〜74に出力されるバランス信号と、バランス信号に応じて制御される左側の出力信号(Left)のゲインと、右側の出力信号(Right)のゲインとを示した図である。
図18(b)は、個別設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から全域音像定位用設定部70のフェダーゲイン部75〜78に出力されるフェダー信号と、フェダー信号に応じて制御されるフロント側の出力信号(Front)のゲインと、リア側の出力信号(Rear)のゲインとを示した図である。
さらに、図19(a)は、個別設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から第1ゲイン設定部37に出力されるバランス信号と、第1ゲイン設定部37おいて設定される制御信号G1L、G1Rのゲインとを示した図である。制御信号G1Lは、既に図4を用いて説明したように、左側スピーカの出力音の定位設定を行うための制御信号であり、制御信号G1Rは、右側スピーカの出力音の定位設定を行うための制御信号である。
また、図19(b)は、個別設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から第2ゲイン設定部38に出力されるフェダー信号と、第2ゲイン設定部38おいて設定される制御信号G2F、G2Rのゲインとを示した図である。制御信号G2Fは、既に説明したように、フロント側スピーカの出力音の定位設定を行うための制御信号であり、制御信号G2Rは、リア側スピーカの出力音の定位設定を行うための制御信号である。
図17(a)に示すように、ディスプレイ部81の画面左側には、フロント(図面の上部「F」文字)およびリア(図面の下部「R」文字)の設定値を示す縦軸と、右側(図面右側「R」文字)および左側(図面の左部「L」文字)を示す横軸とが示された座標画面が示されている。この座標画面には、全域音像の定位設定位置を示すマーク(図面の白丸が該当、以下「全域マーク」という。)と、中域音像の定位設定位置を示すマーク(画面の黒丸が該当、以下、「中域マーク」という。)とが示されている。
また、画面右下部分には上下左右方向を示した矢印キーが設けられており、座標画面上の全域マークあるいは中域マークをタッチした後に、矢印キーをタッチ操作することによって、全域音像の定位設定位置の変更および中域の音像定位位置の変更を行うことが可能となっている。なお、画面右上側に示される全域および中域別の「パラメータ調整」アイコンをタッチした後に、矢印キーをタッチ操作することによって、同様の操作を行うことが可能である。
画面右上には、設定された全域音像の定位設定位置におけるバランス設定値とフェダー設定値とが示されている。バランス設定値は画面において「全成分 BAL:」で示され、L9〜L1、0、R1〜R9の19段階の値が設定可能である。この19段階の値は、上述したバランス設定における−9〜+9の19段階の設定に対応するものである。同様に、フェダー設定値は画面において「(全成分) FAD:」で示され、F9〜F1、0、R1〜R9の19段階の値が設定可能である。この19段階の値も、上述したフェダー設定における−9〜+9の19段階の設定に対応するものである。画面右上の全域音像の定位設定位置におけるバランス設定値とフェダー設定値との下段には、同様にして中域音像の定位設定におけるバランス設定値とフェダー設定値とが「センター成分 BAL:」「(センター成分) FAD:」として示されている。
図18(a)に示すように、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82により全域成分のバランス信号が−9〜0に設定された場合に、全域における右側の出力信号(図18(a)における「Right」ラインに該当)は、バランス信号が0から−9へと減少するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に減少されている。一方で、全域における左側の出力信号(図18(a)における「Left」ラインに該当)は、バランス信号が0から−9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により全域の音像定位位置が左側に設定されると、その設定量に応じて右側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、左側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、全域における音像定位位置を左方向へと移動させることができる。
同様にして、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82により全域成分のバランス信号が0〜+9に設定された場合に、全域における左側の出力信号(「Left」ライン)は、バランス信号が0から+9へと増加するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に低減されている。一方で、全域における右側の出力信号(「Right」ライン)は、バランス信号が0から+9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により全域の音像定位位置が右側に設定されると、その設定量に応じて左側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、右側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、全域の音像定位位置を右方向へと移動させることができる。
このように、バランス信号の0値を基準として左右方向に対して対象となるように左右の出力信号のゲインを振り分けることによって、タッチパネル部82の設定に応じた全域の音像定位制御を行うことができる。
フェダー設定においても同様である。図18(b)に示すように、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82により全域成分のフェダー信号が−9〜0に設定された場合に、全域におけるリア側の出力信号(図18(b)における「Rear」ラインに該当)は、フェダー信号が0から−9へと減少するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に低減されている。一方で、全域におけるフロント側の出力信号(図18(b)における「Front」ラインに該当)は、フェダー信号が0から−9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により全域の音像定位位置がフロント側に設定されると、その設定量に応じてリア側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、フロント側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、全域の音像定位位置をフロント方向へと移動させることができる。
同様に、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82により全域成分のフェダー信号が+9〜0に設定された場合に、全域におけるフロント側の出力信号(「Front」ライン)は、フェダー信号が0から+9へと増加するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に低減されている。一方で、全域におけるリア側の出力信号(図18(b)における「Rear」ラインに該当)は、フェダー信号が0から+9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により全域の音像定位位置がリア側に設定されると、その設定量に応じてフロント側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、リア側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、全域の音像定位位置をリア方向へと移動させることができる。
このように、フェダー信号の0値を基準として前後方向に対して対象となるように前後の出力信号のゲインを振り分けることによって、タッチパネル部82の設定に応じた全域の音像定位制御を行うことができる。
また、図19(a)に示すように、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりセンター成分(中域成分)のバランス信号が−9〜0に設定された場合に、中域における右側の出力信号(図19(a)における「G1R」ラインに該当)は、バランス信号が0から−9へと減少するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に減少されている。一方で、中域における左側の出力信号(図19(a)における「G1L」ラインに該当)は、バランス信号が0から−9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により中域の音像定位位置が左側に設定されると、その設定量に応じて右側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、左側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、中域の音像定位位置を左方向へと移動させることができる。
同様にして、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりセンター成分のバランス信号が0〜+9に設定された場合に、中域における左側の出力信号(「G1L」ライン)は、バランス信号が0から+9へと増加するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に低減されている。一方で、中域における右側の出力信号(「G1R」ライン)は、バランス信号が0から+9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により中域の音像定位位置が右側に設定されると、その設定量に応じて左側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、右側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、中域の音像定位位置を右方向へと移動させることができる。
このように、バランス信号の0値を基準として左右方向に対して対象となるように左右の出力信号のゲインを振り分けることによって、タッチパネル部82の設定に応じた中域の音像定位制御を行うことができる。
一方で、図19(b)に示すように、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82により中域のフェダー信号が−9〜0に設定された場合に、中域におけるリア側の出力信号(図19(b)における「G2R」ラインに該当)も中域におけるフロント側の出力信号(図19(b)における「G2F」ラインに該当)も、フェダー信号が0から−9へと減少するのに比例して、ゲインが低減されている。ただし、リア側の出力信号の方がフロント側の出力信号よりもゲインの値がわずかに低い値となるように設定されれている。このように、タッチパネル部82により中域の音像定位位置がフロント側に設定された場合に、その設定量に応じてフロント側およびリア側の出力信号のゲインを低減させつつ、リア側に対してフロント側のゲインをわずかに高い値に設定することにより、スピーカ位置よりも前方側へ音像の定位位置を移動させつつフロント側の出力音を残すことが可能となり、ユーザに対して違和感が生じないようにして、中域の音像定位位置をフロント方向へと移動させることができる。
また、個別設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりセンター成分(中域)のフェダー信号が+9〜0に設定された場合に、全域におけるフロント側の出力信号(「G2F」ライン)は、フェダー信号が0から+9へと増加するに従って、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に低減されている。一方で、中域におけるリア側の出力信号(「G2R」ライン)は、フェダー信号が0から+9へと変化してもそのゲインを0[dB]に維持し続ける。このように、タッチパネル部82により中域の音像定位位置がリア側に設定されると、その設定量に応じてフロント側の出力信号のゲインを低減させ、一方で、リア側の出力信号のゲインを変化させない設定を行うことにより、中域の音像定位位置をリア方向へと移動させることができる。
次に、「共通設定パターン」について説明する。上述したように、「個別設定パターン」の場合には、タッチパネル部82において、全域成分の音像定位位置と中域成分の音像定位位置とを個別に設定することにより、それぞれのバランス信号およびフェダー信号を調整して、全域の音像定位制御と中域の音像定位制御とを個別に行うことが可能である。しかしながら、全域の音像定位制御と中域の音像定位制御とを個別に行う操作方法では、ユーザにおける操作負担が増大してしまうという問題が生ずる。特に、全域の音像定位制御と中域の音像定位制御とはそれぞれの設定に応じてお互いに影響を及ぼし得る場合も存在する。このため、「共通設定パターン」において、タッチパネル部82により設定される値を全域の音像定位制御と中域の音像定位制御とに関連づけてあらかじめゲインの設定を決定することにより効果的に音像の定位制御を行うことが可能となる。
図17(b)は、共通設定パターンを用いる場合におけるディスプレイ部81の表示画面を示している。また、図20(a)は、共通設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から全域音像定位用設定部70のバランスゲイン部71〜74に出力されるバランス信号と、バランス信号に応じて制御される左側の出力信号(Left)のゲインと、右側の出力信号(Right)のゲインとを示した図である。
図20(b)は、共通設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から全域音像定位用設定部70のフェダーゲイン部75〜78に出力されるフェダー信号と、フェダー信号に応じて制御されるフロント側の出力信号(Front)ゲインと、リア側の出力信号(Rear)のゲインとを示した図である。
さらに、図21(a)は、共通設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から第1ゲイン設定部37に出力されるバランス信号と、第1ゲイン設定部37おいて設定される制御信号G1L、G1Rのゲインとを示した図である。図21(b)は、共通設定パターンの場合に、タッチパネル部82により設定された設定値に応じて、操作制御部83から第2ゲイン設定部38に出力されるフェダー信号と、第2ゲイン設定部38おいて設定される制御信号G2F、G2Rのゲインとを示した図である。
図17(b)に示すように、ディスプレイ部81の画面左側には、フロント(図面の上部「F」文字)およびリア(図面の下部「R」文字)の設定値を示す縦軸と、右側(図面右側「R」文字)および左側(図面の左部「L」文字)を示す横軸とが示された座標画面が示されている。この座標画面には、定位設定位置を示すマーク(図面の白丸が該当)が示されている。
また、画面右下部分には上下左右方向を示した矢印キーが設けられいる。矢印キーをタッチ操作することによって、音像の定位設定位置の変更を行うことが可能となっている。なお、画面右上には、設定された定位設定位置におけるバランス設定値とフェダー設定値とが示されている。バランス設定値は画面において「BAL:」で示され、L9〜L1、0、R1〜R9の19段階の値が設定可能である。この19段階の値は、上述したバランス設定における−9〜+9の19段階の設定に対応するものである。同様に、フェダー設定値は画面において「FAD:」で示され、F9〜F1、0、R1〜R9の19段階の値が設定可能である。この19段階の値も、上述したフェダー設定における−9〜+9の19段階の設定に対応するものである。
座標画面には、3種類のエリアが色別(図17(b)においてはハッチング別に)に表示されている。中心位置に近い最も小さいエリアは、中域の音像定位調整のみを行うことが可能な範囲となっており、バランス設定値における−4〜+4およびフェダー設定値における0〜−4がこの範囲に該当する。その外側には、中域音像と全域音像との両方の定位調整が可能な範囲が設定されており、バランス設定値における−6〜+6およびフェダー設定値における0〜−6の範囲のうち、中域の音像定位調整のみを行うことが可能な範囲(バランス設定値における−4〜+4およびフェダー設定値における0〜−4の範囲)を除いた範囲が該当する。
さらにその外側には、全域の音像定位調整のみが可能な範囲が設定されており、バランス設定値における−9〜+9およびフェダー設定値における−9〜+9の範囲のうち、中域音像と全域音像との両方の定位調整が可能な範囲(バランス設定値における−6〜+6およびフェダー設定値における0〜−6の範囲)を除いた範囲が該当する。このように、中域音像と全域音像との両方の定位調整を、設定されるバランス設定値およびフェダー設定値に応じて切り替えることにより、ユーザによる設定負担の低減を図ることが可能になると共に、あらかじめ最適な設定が行えるように中域および全域のそれぞれにおけるゲイン設定を行うことが可能となる。
図20(a)に示すように、共通設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりバランス信号が−4〜+4に設定された場合には、全域における右側の出力信号(図20(a)における「Right」ラインに該当)も、全域における左側の出力信号(図20(a)における「Left」ラインに該当)も、ゲインを0[dB]に維持し続ける。上述したように、バランス信号が−4〜+4の間は、中域における音像定位調整だけが行われるため、全域の定位調整を目的とした、ゲイン設定は行われない。
一方で、バランス信号が−4から−9へと減少するに従って、全域における右側の出力信号(「Right」ライン)は、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に減少されて、全域における左側の出力信号(「Left」ライン)は、ゲインを0[dB]に維持し続ける。また、バランス信号が+4から+9へと増加するに従って、全域における左側の出力信号(「Left」ライン)は、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に減少されて、全域における右側の出力信号(「Right」ライン)は、ゲインを0[dB]に維持し続ける。
このようにゲインの設定を行うことによって、タッチパネル部82により全域の音像定位位置が−4よりも左側に設定された場合には、その設定量に応じて全域における音像定位位置を左方向へと移動させることができ、タッチパネル部82により全域の音像定位位置が+4よりも右側に設定された場合には、その設定量に応じて全域における音像定位位置を右方向へと移動させることができる。
同様にして、図20(b)に示すように、共通設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりフェダー信号が−4〜0に設定された場合には、全域におけるフロント側の出力信号(図20(b)における「Front」ラインに該当)も、全域におけるリア側の出力信号(図20(b)における「Rear」ラインに該当)も、ゲインを0[dB]に維持し続ける。上述したように、フェダー信号が−4〜0の間は、中域における音像定位調整だけが行われるため、全域の定位調整を目的とした、ゲイン設定は行われない。
一方で、フェダー信号が−4から−9へと減少するに従って、全域におけるリア側の出力信号(「Rear」ライン)は、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に減少されて、全域におけるフロント側の出力信号(「Front」ライン)は、ゲインを0[dB]に維持し続ける。また、フェダー信号が0から+9へと増加するに従って、全域におけるフロント側の出力信号(「Front」ライン)は、ゲインが0〜−67[dB]へと段階的に減少されて、全域におけるリア側の出力信号(「Rear」ライン)は、ゲインを0[dB]に維持し続ける。
このようにゲインの設定を行うことによって、タッチパネル部82により全域の音像定位位置が−4よりもフロント側に設定された場合には、その設定量に応じて全域における音像定位位置をフロント方向へと移動させることができ、タッチパネル部82により全域の音像定位位置が0よりもリア側に設定された場合には、その設定量に応じて全域における音像定位位置をリア方向へと移動させることができる。
図21(a)に示すように、共通設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりバランス信号が−6〜−9あるいは+6〜+9に設定された場合には、中域における右側の出力信号(図21(a)における「G1R」ラインに該当)も、中域における左側の出力信号(図21(a)における「G1L」ラインに該当)も、ゲインを0[dB]に維持し続ける。上述したように、バランス信号が−6〜−9あるいは+6〜+9の間は、全域における音像定位調整だけが行われるため、中域の定位調整を目的とした、ゲイン設定は行われない。
一方で、バランス信号が0から−4へと減少するに従って、中域における右側の出力信号(「G1R」ライン)は、ゲインが0[dB]から−15[dB]へと段階的に減少され、バランス信号が−4から−6へと減少するに従って、ゲインが−15[dB]から0[dB]へと段階的に回復される。これは、上述したように、全域における右側の出力信号のゲインが、バランス信号が−4から−9にかけて段階的に減少するため、全域の減少に応じて中域の出力信号のゲインを回復させることにより、違和感なく音像の定位位置を右側へと移動させるためである。従って、中域における右側の出力信号(「G1R」ライン)は、バランス信号が−4の時のゲインを最も低いゲインとして、その前後において緩やかにゲインを0[dB]へと回復させるゲイン変化を示している。
一方で、バランス信号が0から−9へと減少する間、中域における左側の出力信号(「G1L」ライン)は、ゲインを0[dB]に維持し続けることにより、音像の左方向への移動に影響が生じないように設定がなされる。
また、バランス信号が0から+4へと増加する場合も同様にして、中域における左側の出力信号(「G1L」ライン)は、ゲインが0[dB]から−15[dB]へと段階的に減少され、バランス信号が+4から+6へと増加するに従って、ゲインが−15[dB]から0[dB]へと段階的に回復される。これは、上述したように、全域における右側の出力信号のゲインが、バランス信号の+4から+9にかけて段階的に減少するため、全域の減少に応じて中域の出力信号のゲインを回復させることにより、違和感なく音像の定位位置を右側へと移動させるためである。従って、中域における左側の出力信号(「G1L」ライン)は、バランス信号が+4の時のゲインを最も低いゲインとして、その前後において緩やかにゲインを0[dB]へと回復させるゲイン変化を示している。
一方で、バランス信号が0から+9へと増加する間、中域における右側の出力信号(「G1R」ライン)は、ゲインを0[dB]に維持し続けることにより、音像の右方向への移動に影響が生じないように設定がなされる。
また、図21(b)に示すように、共通設定パターンの場合であって、タッチパネル部82によりフェダー信号が−6〜−9あるいは0〜+9に設定された場合には、中域におけるフロント側の出力信号(図21(b)における「G2F」ラインに該当)も、中域におけるリア側の出力信号(図21(b)における「G2R」ラインに該当)も、ゲインを0[dB]に維持し続ける。上述したように、フェダー信号が−6〜−9あるいは0〜+9の間は、全域における音像定位調整だけが行われるため、中域の定位調整を目的とした、ゲイン設定は行われない。
一方で、フェダー信号が0から−4へと減少するに従って、中域におけるリア側の出力信号(「G2R」ライン)は、ゲインが0[dB]から−5[dB]へと段階的に減少され、フェダー信号が−4から−6へと減少するに従って、ゲインが−5[dB]から0[dB]へと段階的に回復される。また、同様にして、フェダー信号が−1から−4へと減少するに従って、中域におけるフロント側の出力信号(「G2F」ライン)は、ゲインが0[dB]から−3[dB]へと段階的に減少され、フェダー信号が−4から−6へと減少するに従って、ゲインが−3[dB]から0[dB]へと段階的に回復される。
これは、上述したように、全域におけるリア側の出力信号のゲインが、フェダー信号が−4から−9にかけて段階的に減少するため、全域の減少に応じて中域の出力信号のゲインを回復させることにより、違和感なく音像の定位位置をフロント側へと移動させるためである。従って、中域におけるフロント側およびリア側の出力信号は、フェダー信号が−4の時のゲインを最も低いゲインとして、その前後において緩やかに0[dB]へと回復させるゲイン変化を示している。
また、上述したように、タッチパネル部82により中域の音像定位位置が0から−4へとフロント側に設定された場合に、その設定量に応じてフロント側およびリア側の出力信号のゲインを低減させつつ、リア側に対してフロント側のゲインをわずかに高い値に設定することにより、スピーカ位置よりも前方側へ音像の定位位置を移動させつつフロント側の出力音を残すことが可能となり、ユーザに対して違和感が生じないようにして、中域の音像定位位置をフロント方向へと移動させることができる。
このように、中域および全域における音像の定位調整を、中域および全域に共通してバランス設定およびフェダー設定することによって、ユーザの設定値の操作負担を軽減させることが可能になると共に、全域の音像定位制御と中域の音像定位制御とに関連づけてあらかじめゲインの設定を決定することにより、効果的に音像の定位制御を行うことが可能となる。
以上、本発明に係る音像定位制御装置について、上述した音像定位制御装置1の実施例を示しつつ、図面を用いて詳細に説明を行ったが、本発明に係る音像定位制御装置は、実施の形態1または実施の形態2に記載された内容に限定されるものではない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上述した実施の形態1における残響音部40では、図6に示すようなネスト型のオールパスフィルタを用いて残響音を付加する場合を一例として示して説明を行ったが、残響音は、必ずしも図6に示すようなネスト型のオールパスフィルタにより付加されるものには限定されない。残響音付加部39に入力される中域信号に対して残響音を付加することができれば、どのような方法を用いてもよく、例えば、残響音を生じ得る音響環境のフィルタ特性を求めて、求められたフィルタ特性を備えたFIRフィルタを中域信号に適用することにより残響音を付加させる構成を採用してもよい。
さらに、上述した実施の形態1に係る音像定位制御装置1では、バランス信号、フェダー信号およびリバーブゲインを制御することにより、効果的に定位制御を行う場合について説明を行ったが、さらにセンター成分における帯域幅を中域音像定位用フェダー設定部9の操作に応じて変更させることにより、より効果的にセンター成分の定位制御を行うことが可能である。
一般的には、中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9による操作量が少量であって、センター成分の移動量が僅かである場合には、中域信号の帯域幅を狭くする方が効果的な定位位置の移動効果を得ることが可能となる。一方で、中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9による操作量が大きく、センター成分の移動量が多い場合には、中域信号の帯域幅を広くした方が効果的な定位位置の移動効果を得ることが可能となる。このため、中域音像定位用フェダー設定部9の操作によりフェダー信号の値が0から−1あるいは1に変更されるに従って、あるいは、中域音像定位用バランス設定部8の操作によりセンター信号の値が0から−1あるいは1に変更されるに従って、帯域分割部2において帯域分割される中域信号の帯域幅を拡大し、音声帯域において出力レベルが比較的小さなボーカルの低域成分や高域成分を効果的に含めることにより、より良好な定位制御を行うことが可能となる。
中域信号の帯域幅の調整は、帯域分割部2において、中域周波数成分の抽出に用いられるフィルタのカットオフ周波数を変更する方法や、フィルタの次数を変更する方法を用いることにより実現することが可能である。
図14は、帯域分割部2において中域周波数成分の抽出を行うために用いられるフィルタの低域カットオフ周波数を段階的に変化させたフィルタ特性を示している。具体的には、80Hzから800Hzまで1/3オクターブ毎に低域カットオフ周波数を変更させた場合を示している。また、中域周波数成分の抽出を行うために用いられるフィルタの高域カットオフ周波数も、2kHzから20kHzまで1/3オクターブ毎にカットオフ周波数を変更させる(図示省略)ものとする。中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9を操作することにより、バランス信号やフェダー信号が0から−1あるいは1のいずれかに設定されると、0からの設定量に応じて、低域のカットオフ周波数を800Hzから80Hzまで変更し、同様に、高域のカットオフ周波数を2kHzから20kHzへと変更する構成とすることにより、バランス信号やフェダー信号の設定量に応じて中域周波数成分の帯域幅を相対的に拡大させることが可能となる。
また、図15は、帯域分割部2において中域周波数成分の抽出を行うために用いられるフィルタのフィルタ次数を1から4まで段階的に変化させた場合のフィルタ特性を示している。図15に示すように、中域音像定位用バランス設定部8や中域音像定位用フェダー設定部9を操作することによりバランス信号やフェダー信号を0から−1あるいは1のいずれかに設定すると、0からの設定量に応じて、フィルタ次数が1〜4に変更される構成を採用することにより、バランス信号やフェダー信号の設定量に応じて中域周波数成分の帯域幅を相対的に拡大させることが可能となる。
さらに、図14に示したカットオフ周波数の変更処理と、図15に示したフィルタ次数の変更処理とを併用することにより、中域周波数成分の帯域幅をより多段的に拡大させることが可能となる。
また、実施の形態1および実施の形態2に係る音像定位制御装置1,1aでは、音像定位制御装置1に入力されるオーディオ信号が2チャンネル(L側チャンネル用のオーディオ信号LとR側チャンネル用のオーディオ信号R)の場合について説明したが、チャンネル数は2チャンネルに限定されるものではなく、より多くのチャンネル数からなるオーディオ信号(例えば、DVD等において用いられる5.1チャンネルや、それ以上のチャンネル数を備えるオーディオ信号)に対しても、センター成分の定位位置制御を行うことが可能である。
さらに、実施の形態1および実施の形態2に示した音像定位制御装置1,1aでは、車室60内に4つのスピーカFR,FL,RR,RLが設置される場合について説明したが、本発明に係る音像定位制御装置において適用可能なスピーカ数は4つに限定されず、3つ以下であっても5つ以上であっても適用することが可能である。