JP5826226B2 - 水素活性化触媒 - Google Patents

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Description

本発明は、水素活性化触媒の改良に関する。
水素を原料物質とする反応は、実験室レベル、工業生産レベルを問わず種々行われている。しかし、水素分子は、化学反応する際の活性化エネルギーが高いので、水素分子を酸化して水素イオンに変化させるには、白金やパラジウム等のレアメタルからなる金属触媒を使用することが一般的である。また、有機化合物への水素添加(還元付加)を行うにも白金やロジウム等のレアメタルからなる金属触媒を使用することが一般的である。
例えば、下記特許文献1には、白金・カーボン、酸化白金、白金コロイド、銅クロマイト、パラジウム・カーボン、ルテニウム・カーボン、ラネー(登録商標)ニッケル等を水素化触媒として使用し、1,4−ナフトキノンを接触水素還元して1,4−ナフトハイドロキノンを製造する方法が開示されている。
また、ヒドロゲナーゼ、デヒドロゲナーゼ、オキシダーゼ等の酵素を使用した水素を原料物質とする反応も種々行われている。例えば、下記特許文献2には、アカカビ由来のギ酸脱水素酵素を使用し、ギ酸及びNADを基質としてNADHを生産する方法が開示されている。
また、下記特許文献3、4には、ジアゾ基、スルホン酸基等を含む電極材料及びその製造方法が提案されている。
特開平7−223986号公報 特開2009−247296号公報 特開2012−160258号公報 特開2012−240886号公報
しかし、金属触媒として使用されるレアメタルは高価であり、資源量(埋蔵量)も限られていて、今後の需要増を賄うことは困難である。また、金属触媒は、これを構成する金属が酸性環境下で溶解して失活しやすい。
また、酵素はタンパク質であるため安定性に乏しく、pHや熱等の変動にきわめて弱く、失活しやすいという問題がある。
さらに、従来は、過酷な環境下においても失活せずに、水素添加反応の触媒として働き、あるいは水素分子から効率よく水素ラジカルを生成する触媒は提案されていなかった。
本発明の目的は、過酷な環境下においても失活せずに、水素添加反応の触媒として働き、あるいは水素分子から効率よく水素ラジカルを生成する触媒を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、水素活性化触媒であって、ジアゾ基と、スルホン酸基を含む電子吸引性基とが表面に結合し、対象物質に水素原子を付加することを特徴とする。
上記水素活性化触媒は、水素分子から水素ラジカルを発生させることを特徴とする。
また、上記水素活性化触媒は、グラファイト環のオルト位にジアゾ基と、スルホン酸基を含む電子吸引性基とが結合しているのが好適である。
また、上記ジアゾ基とスルホン酸基とは、ジアゼン構造を形成しているのが好適である。
また、本発明の他の実施形態は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの製造方法であって、上記水素活性化触媒を酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの水溶液中に入れ、水素ガスを通気することを特徴とする。
また、本発明のさらに他の実施形態は、1,4−ナフトハイドロキノンの製造方法であって、上記水素活性化触媒を1,4−ナフトキノンのエタノール溶液中に入れ、水素ガスを通気することを特徴とする。
本発明によれば、過酷な環境下においても失活せずに、水素添加反応の触媒として働き、あるいは水素分子から効率よく水素ラジカルを生成する触媒を実現できる。
カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化装置の構成例 アミノ基及びジアゾ基が結合した上記炭素材料を強酸水溶液中で電解改質する装置の構成例を示す図である。 NADHのサイクリックボルタモグラムの例を示す図である。 pH9.2における1mMのNAD水溶液中に水素ガスを40mL/分で通気した場合の、通気時間とNADHの生成量の関係を測定した結果を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
本実施形態にかかる水素活性化触媒は、ジアゾ基と、スルホン酸基を含む電子吸引性基とが炭素材料の表面に結合しており、上記ジアゾ基とスルホン酸基を含む電子吸引性基との恊働により対象物質に水素原子を付加する水素添加反応の触媒として働き、あるいは水素分子から水素ラジカルを発生させるものである。
上記炭素材料としては、黒鉛等が好ましく、例えば、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンフェルト、フラーレン、カーボンナノホーン、プラスチック成型カーボンまたはダイヤモンド電極等を挙げることができる。
本実施形態にかかる水素活性化触媒は、上記炭素材料として黒鉛等を使用する場合、グラファイト環のオルト位にジアゾ基と、スルホン酸基を含む電子吸引性基とが結合する。ただし、メタ位、パラ位に結合したものを排除する趣旨ではない。また、上記ジアゾ基とスルホン酸基とは、ジアゼン構造を形成していることが好適である。なお、グラファイト環とは、黒鉛を構成する炭素の正六角形の平面状環構造をいう。
上記水素活性化触媒は、炭素材料を、アルコールを含む親水性有機化合物と水との任意比率の溶液中で超音波照射処理し、この炭素材料の表面に含窒素官能基を電解酸化処理により共有結合させ、表面に含窒素官能基を共有結合させた炭素材料を強酸水溶液中で電解還元処理し、電解還元処理後の炭素材料を、亜硝酸ナトリウムを溶解した強酸中で反応させてジアゾ化することにより製造する。なお、上記ジアゾ化の後に再度強酸水溶液中で電解還元処理を行うことが好適である。
上記電解酸化処理により炭素材料の表面の炭素原子に共有結合する含窒素官能基は、例えばアミノ基、ジアゾ基等が挙げられる。アミノ基及びジアゾ基を炭素材料の表面の炭素原子に共有結合させるには、炭素材料を電極として例えばカルバミン酸と上記親水性有機化合物とを含む水溶液を電解酸化することによりカルバミン酸を炭素材料の表面の炭素原子に直接共有結合させ、その後脱炭酸してアミノ基、および電解で発生したカルバミン酸ラジカルがこのアミノ基に結合してさらに脱炭酸して生成したジアゾ基を炭素材料の表面の炭素原子に共有結合で直接導入する方法が好適である。
上記親水性有機化合物としては、例えばエタノール、プロパノールを含む低級アルコールを使用することができる。また、上記カルバミン酸と親水性有機化合物とを含む水溶液としては、エタノール等の水溶液にカルバミン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムを加えたものを好適に使用することができる。
本実施形態では、エタノール等の親水性有機化合物と水との任意比率の溶液中で炭素材料を超音波照射処理することにより、その後カルバミン酸と親水性有機化合物とを含む水溶液を電解酸化する際に、疎水性の炭素材料の表面にカルバミン酸を含む水溶液が浸透しやすくなる。このため、含窒素官能基が共有結合する炭素材料の表面積が増大し、触媒活性能を向上することができる。
以上の工程によりアミノ基及びジアゾ基を炭素材料の表面の炭素原子に直接共有結合させた例が以下に示される。
Figure 0005826226
なお、上記構造式(化1)では、炭素材料の一部の構造が示されており、炭素原子の六角形格子構造の数並びにアミノ基及びジアゾ基の数は、上記構造式(化1)のものに限定されない。
次に、上記表面に含窒素官能基(アミノ基及びジアゾ基)を共有結合させた炭素材料を強酸水溶液中で電解還元処理する。この場合の強酸としては、硫酸などの強酸及びリン酸緩衝液などの水溶液を使用することができる。これにより、硫酸中で電解還元した場合は炭素材料の表面の炭素原子に、スルホン酸基を含む電子吸引性基が共有結合することにより導入される。
以下に、アミノ基及びジアゾ基が表面に結合した炭素材料を硫酸水溶液中で電解還元処理し、スルホン酸基を導入する場合の反応が示される。
Figure 0005826226
上記反応においては、アミノ基及びジアゾ基が表面に結合した炭素材料を硫酸水溶液中で電解還元することにより、ジアゾ基が還元されて電子供与性のヒドラジノ基(−NHNH)となる。また、その際にHSO(硫酸)がHSO とOHに開裂してできたHSO イオンが、ヒドラジノ基に対してオルト位の電子リッチな炭素原子(C)を攻撃した結果、スルホン酸基が導入される。このようにして、表面に含窒素官能基(アミノ基またはヒドラジノ基)及びスルホン酸基を共有結合させた触媒中間体材料が生成される。この触媒中間体材料の構造式が以下に示される。
Figure 0005826226
上記触媒中間体材料では、グラファイト環のオルト位にヒドラジノ基とスルホン酸基(SO )とが結合していると考えられる。
上記触媒中間体材料のヒドラジノ基は空気中で酸化され、以下に示される水素活性化触媒(I)となる。水素活性化触媒(I)は、グラファイト環のオルト位にジアゾ基とスルホン酸基とが結合していると考えられる。
Figure 0005826226
上記水素活性化触媒(I)では、ヒドラジノ基が酸化されたジアゾ基とスルホン酸基(SO )とがグラファイト環のオルト位に結合していると考えられ、グラファイト環上で隣り合うジアゾ基とスルホン酸基とがイオン対を形成してジアゾ基が脱窒素して減少するのを防いでいる。さらに、上記オルト位に結合したジアゾ基とスルホン酸基とは、そのほとんどが化学結合してジアゼン構造(−N=N−)を形成する。安定性及び触媒活性能を向上させる点で上記イオン対よりも好適である。上記水素活性化触媒(I)からジアゼン構造が形成された水素活性化触媒(II)が以下に示される。
Figure 0005826226
また、上記水素活性化触媒(I)、(II)を、亜硝酸ナトリウムを溶解した硫酸中で反応させ、ジアゾ化すると、以下に示す水素活性化触媒(III)、(IV)が生成する。
Figure 0005826226
Figure 0005826226
水素活性化触媒(III)、(IV)では、表面の炭素原子に結合していたアミノ基がジアゾ化によりジアゾ基に変化しており、オルト位に結合していると考えられるスルホン酸基と相互作用するジアゾ基と新たに生成したフリーのジアゾ基の二種類のジアゾ基が存在する。この結果、ジアゾ基の数が水素活性化触媒(I)、(II)よりも増加している。
さらに、上記水素活性化触媒(III)、(IV)を硫酸水溶液中で電解還元することにより、上記フリーのジアゾ基について化2の反応が進行し、スルホン酸基がヒドラジノ基のオルト位に結合すると考えられる。また、一部のヒドラジノ基が空気酸化によりジアゾ基に戻るものもある。この結果、フリーのジアゾ基が減少し、スルホン酸基と相互作用するジアゾ基が増加する。このようにして生成した水素活性化触媒(V)、(VI)が以下に示される。
Figure 0005826226
Figure 0005826226
以上の様にして製造した本実施形態にかかる水素活性化触媒(I)〜(VI)は、ジアゾ基とスルホン酸基を含む電子吸引性基とが協働して水素添加反応の触媒として働くことができる。また、水素分子から水素ラジカルを発生させる特性が向上されているので、電源に接続して電位を与えなくても、水素分子を活性化させ、水素ラジカルを発生させることができる。このため、上記水素活性化触媒(I)〜(VI)を水素添加触媒等に使用するのが好適である。
本実施形態にかかる水素活性化触媒(I)〜(VI)を使用する水素添加反応としては、例えばDPPH(ジフェニルピクリルヒドラジル)の水素捕捉反応、1,4−ナフトキノンから1,4−ナフトハイドロキノンを製造する反応、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)から還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を製造する反応等が挙げられる。
以下、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
実施例1
(1)以下の手順により、炭素材料の表面の炭素原子に含窒素官能基を共有結合させた。
炭素材料として1×6×0.5cmの大きさのカーボンフェルトを選択し、これをエタノールと純水との任意比率の混合溶液中に浸して、1時間超音波照射処理を行った。この際に使用した超音波照射装置はブランソン1510であった。なお、この超音波照射処理に使用した容器は、後述する電解酸化装置に使用するガラス容器10である。
次に、上記超音波照射処理を行ったカーボンフェルトを作用電極として用いて、0.1M(モル/リットル)のカルバミン酸アンモニウム/エタノール/純水溶液を電解酸化した。この場合のカルバミン酸アンモニウム/エタノール/純水溶液は、上記混合溶液中にカルバミン酸アンモニウムを溶解して調製した。また、電解酸化の条件は、銀―塩化銀電極(Ag/AgCl)を基準電極として用いて、+1.1V(vs.Ag/AgCl)の電位とし、電解時間1時間とした。
図1には、上記カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化装置の構成例が示される。図1において、直径5cm深さ7cmのガラス容器10に電解液として0.1Mカルバミン酸アンモニウム/エタノール/純水溶液100mlを入れ、作用電極12としてカーボンフェルト(日本カーボン株式会社製 工業用カーボンフェルトGF−20−5F)を略球状として白金線14の先端に取り付けたもの、対極16として直径0.5mmの白金線、基準電極18として銀―塩化銀電極(Ag/AgCl)を用いた3電極法で定電位電解酸化を行った。カルバミン酸アンモニウムはメルク社製特級を用い、エタノールは和光純薬製特級を用い、純水に溶解して0.1Mとした。
上記定電位電解酸化は、ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工製HA−151)をポテンショスタット20として用い、作用電極12に、基準電極18に対して一定電位(1.1V)を印加して1時間行った。なお、定電位電解中はスターラー22によりカルバミン酸アンモニウム/エタノール/純水溶液を攪拌した。電解酸化処理後、作用電極12としてのカーボンフェルトを蒸留水で洗浄し、含窒素官能基であるアミノ基及びジアゾ基が結合した炭素材料(上記構造式化1)を作製した。
(2)上記手順(1)で得たアミノ基及びジアゾ基が結合した炭素材料(構造式化1)を、以下の手順により強酸水溶液中で電解改質した。
図2には、アミノ基及びジアゾ基が結合した上記炭素材料を強酸水溶液中で電解改質する装置の構成例が示され、図1と同一要素には同一符号を付している。図2において、ガラス容器10に電解液として1M硫酸水溶液100mLを入れ、上記手順(1)で得たアミノ基及びジアゾ基が結合したカーボンフェルトをカーボンロッド24の先端に取り付けた作用電極12、上記手順(1)で使用した対極16としての白金線及び基準電極18としての銀―塩化銀電極を用いた3電極法で定電位電解還元を行った。なお、上記カーボンロッド24としては、筆記具(シャープペンシル)の芯を使用した。また、硫酸水溶液は、和光純薬工業株式会社製の1M硫酸(容量分析用)を使用した。
上記定電位電解還元は、ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工製HAB−151)をポテンショスタット20として用い、作用電極12に、基準電極18に対して一定電位(−1.0V vs.Ag/AgCl)を印加して20時間行った。なお、定電位電解中はスターラー22により硫酸水溶液を攪拌した。電解還元処理を続けると、作用電極12と対極16との間に流れる電解還元電流が増加して行き、作用電極12の周囲から水素ガスが、対極16の周囲から酸素ガスが激しく発生した。これにより、アミノ基及びジアゾ基が表面に結合したカーボンフェルトの表面にスルホン酸基が導入される。また、ジアゾ基はヒドラジノ基となる(化2参照)。
上記電解還元処理後、作用電極12としてのカーボンフェルトを蒸留水で洗浄し、含窒素官能基であるアミノ基及びヒドラジノ基が結合し、かつ硫酸中で電解改質することによりスルホン酸基が共有結合した触媒中間体材料(化3参照)を作製した。この触媒中間体材料は、ヒドラジノ基のオルト位にスルホン酸基が共有結合していると考えられる。
さらに、上記触媒中間体材料は、空気中で酸化され、ヒドラジノ基がジアゾ基となった水素活性化触媒(I)(化4参照)を経て水素活性化触媒(II)(化5参照)となる。
(3)上記手順(2)で得た水素活性化触媒((I)及び(II))を、氷冷した0.1M亜硝酸ナトリウムを溶解した1M硫酸中に3時間浸し、ジアゾ化を行った。亜硝酸ナトリウムは和光純薬株式会社製一級を使用した。これにより、硫酸中において亜硝酸イオンが上記電極材料の表面に結合していた一級アミンと反応してジアゾ基を生成する。この結果、水素活性化触媒(III)または(IV)(化6、化7参照)を作製した。
(4)上記手順(3)を終了した後、上記手順(2)と同様にして、1M硫酸水溶液中で再度20時間、基準電極18に対して一定電位(−1.0V vs.Ag/AgCl)を印加して定電位電解還元を行った。これにより、電極材料(V)または(VI)(化8、化9参照)を得た。これにより、カーボンフェルトのグラファイト環のオルト位に共有結合しているジアゾ基とスルホン酸基の組の数を増やすことができる。
以上に述べた水素活性化触媒には、白金やパラジウム等の高価なレアメタル等の金属を使用する必要がなく安価に製造することができる。
実施例2
実施例1で作製した水素活性化触媒としてのカーボンフェルトを1×1×0.5cmの大きさに切断し、20mLのガラス容器中で、1mMのDPPH(ジフェニルピクリルヒドラジル 和光純薬製)溶液(溶媒は、体積比1:1(水:エタノール)のエタノール/水混合溶液)に浸漬し、水素ガスを50mL/分で通気した。水素ガスの通気開始から2分後に、DPPH溶液の色が紫色から黄色に変化した。
このことから、水素活性化触媒としてのカーボンフェルトにより水素分子が開裂して水素ラジカルが生成し、この水素ラジカルがDPPHと結合したことがわかる。
なお、空気下に放置した1mMのDPPH溶液に水素ガスを50mL/分で通気しても、DPPH溶液の色が紫色から黄色に変化した。これにより、酸素の存在下でも実施例1で作製した水素活性化触媒の触媒活性が低下しないことがわかる。
実施例3.
実施例1で作製した水素活性化触媒としてのカーボンフェルトを1×3×0.5cmの大きさに切断し、50mLのガラス容器中で、1mM 1,4−ナフトキノン(和光純薬製 試薬特級)のエタノール溶液40mLに浸漬し、水素ガスを10mL/分で通気した。水素ガスの通気開始から5分後に、黄色であった溶液の色が無色透明となった。このことから、上記水素活性化触媒により水素分子が開裂して水素ラジカルが生成し、この水素ラジカルが1,4−ナフトキノンの2つの酸素と結合したことがわかる。
次に、無色透明となった溶液をドラフト中で常温乾燥し、エタノールを蒸発させた。得られた生成物を重メタノールに溶解し、HNMRと13CNMRの両方で同定した。使用したNMR装置は、JEOL製で型式はJNM−ECP500である。
同定の結果、1,4−ナフトハイドロキノンの選択率が100%、収率が95%、5,6,7,8−テトラヒドロ−1,4−ナフトハイドロキノンの選択率が0%であった。
以上の結果から、実施例1で作製した水素活性化触媒は、1,4−ナフトキノンから高選択率で1,4−ナフトハイドロキノンを製造できることがわかる。これは、白金触媒と比べると実施例1で作製した水素活性化触媒の水素添加力がマイルドであり、目的の1,4−ナフトハイドロキノンのみが生成するためである。このため、実施例1で作製した水素活性化触媒には、白金などの金属触媒と異なり、生成物からの5,6,7,8−テトラヒドロー1,4−ナフトハイドロキノンの分離除去を必要としないという大きな利点があることが分かった。また、実施例1で作製した水素活性化触媒には、白金やパラジウム等の高価なレアメタル等の金属を使用する必要がなく安価に製造することができる。
実施例4
50mLのガラス容器中に酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の1mM水溶液を20mLいれ、これに実施例1で作製した水素活性化触媒としてのカーボンフェルトを1×1×0.5cmの大きさに切断したものを浸漬し、水素ガスを50mL/分で40分間通気した。40分経過後、上記水溶液の色が黄色に変色した。これは、NADが還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)に還元されたためである。
上記水素ガスを40分通気した後に黄色に変色した水溶液についてサイクリックボルタンメトリーを実施し、サイクリックボルタモグラムを測定した。サイクリックボルタンメトリーは、北斗電工株式会社製 Electrochemical Polarization System HZ−3000を使用し、以下の条件で行った。
<サイクリックボルタンメトリーの実施条件>
図2に示される例と同様にして、ガラス容器10に収容された各水溶液中に、カーボンロッド24を連結した作用電極12、白金線の対極16及び銀―塩化銀(Ag/AgCl))の基準電極18を入れ、+1.0Vから−0.4Vの電位範囲でサイクリックボルタンメトリーを実施した。電位の掃引速度は40mV/秒で行い、測定は常温で行った。また、測定溶液のpHは7.0であった。なお、電位範囲は実験目的によりその都度定めた。
図3には、以上のようにして得たNADHのサイクリックボルタモグラムの例が示される。図3において、横軸が測定電位であり、縦軸が電流値である。図3に示されるように、NADHの酸化電流が+0.4Vから現れている。これにより、NADがNADHに還元されたことが示されている。
なお、NADからNADHへの還元反応は、水溶液のpHに依存することがわかった。NADからNADHへの転換率(収率)は、pH=7.0のときに1.7%であったのに対し、pH=9.2のときに60.0%であった。
図4には、pH9.2における1mMのNAD水溶液中(20mL)に水素ガス(40mL/分)を通気し、通気時間とNADHの生成量の関係を測定した結果が示される。この測定は、北斗電工株式会社製 Electrochemical Polarization System HZ−3000を使用し、印加電位を一定にして、電流変化を測定した。図4では、縦軸が電解酸化電流値、横軸が経過時間を示す。図4において、生成したNADHの電解酸化電流の経時変化は+0.8V vs. Ag/AgClの一定電位をポテンショスタットで印加した直径3mmの無処理のグラッシーカーボン電極で測定した。この時、対極は白金線及び参照電極はAg/AgCl)を使用した。
図4に示されるように、電解酸化電流値が一定速度で増加していることから、水素ガスの通気によりNAD+がNADHへとほぼ一定速度で変換されたことがわかる。また、水素ガスを40分間通気した後、1mMのNADHを加えて1mMあたりのNADHの電流値の変化を求め、その値と比べることにより、40分間水素ガスを通気した後のNADからNADHへの転換率(収率)を求めたところ、60.0%であった。
以上より、実施例1で作製した水素活性化触媒としてのカーボンフェルトは、NADからNADHを生成する際に脱水素酵素として作用することがわかる。また、従来使用されていたギ酸脱水素酵素等は、酸素により失活しやすいが、実施例2で述べたように、実施例1で作製した水素活性化触媒は酸素による失活がない。
10 プラスチック容器、12 作用電極、14 白金線、16 対極、18 基準電極、20 ポテンショスタット、22 スターラー、24 カーボンロッド。

Claims (5)

  1. ジアゾ基と、スルホン酸基を含む電子吸引性基とが表面に結合し、対象物質に水素原子を付加する水素活性化触媒であって、前記ジアゾ基と、スルホン酸基を含む電子吸引性基とはグラファイト環のオルト位に結合している水素活性化触媒
  2. 請求項1に記載の水素活性化触媒は、水素分子から水素ラジカルを発生させることを特徴とする水素活性化触媒。
  3. 前記ジアゾ基とスルホン酸基とが、ジアゼン構造を形成していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素活性化触媒。
  4. 請求項1から請求項のいずれか一項に記載の水素活性化触媒を酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの水溶液中に入れ、水素ガスを通気する還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの製造方法。
  5. 請求項1から請求項のいずれか一項に記載の水素活性化触媒を1,4−ナフトキノンのエタノール溶液中に入れ、水素ガスを通気する1,4−ナフトハイドロキノンの製造方法。
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