JP5824946B2 - 多気筒エンジン - Google Patents

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Description

本発明は、排気行程の時期が144°CAずつ異なる5つの気筒を有するエンジン本体と、エンジン本体の各気筒の排気ポートから排出された排気ガスが流通する排気装置とを備えた多気筒エンジンに関する。
従来、複数の気筒を有する多気筒エンジンにおいては、いわゆるエゼクタ効果を利用して排気効率を高めることが試みられてきた。エゼクタ効果とは、高速で噴出された流体の周囲に発生する負圧によって他の流体を吸い出す作用のことである。
例えば、下記特許文献1には、列状に並ぶ4つの気筒を有した直列4気筒エンジンの排気装置として、各気筒の排気ポートにそれぞれ接続された4つの独立排気通路と、各独立排気通路が1箇所に集合する合流部(集合部)と、この合流部の上流側に設けられ、各独立排気通路の流路面積を変更可能な可変排気バルブとを備えたものが開示されている。
この特許文献1に記載の排気装置では、上記可変排気バルブが作動して各独立排気通路の流路面積が縮小されることにより、ある気筒から排出された排気ガスが独立排気通路を通って高速で合流部に流入する。すると、この高速で流入した排気ガスの周囲に負圧が生成され、この負圧が他の独立排気通路に作用することで(エゼクタ効果)、当該他の独立排気通路内の排気ガスが下流側に吸い出され、掃気の促進等が図られる。
特開2009−97335号公報
ところで、上記特許文献1のような直列4気筒エンジンの場合、各気筒の排気行程がクランク角で180°の間隔を空けて順に実施される。このため、ある気筒が排気行程に移行して、排気弁の開弁直後に排出される高速の排気ガス(ブローダウンガス)が合流部に向けて流れ出たとき、上記気筒に対し排気順序(排気行程の順序)が1つ前の他の気筒では、排気行程から吸気行程への移行時期(排気上死点の近傍)となっている。このとき、当該他の気筒において、排気弁および吸気弁がともに開弁していれば、上記ブローダウンガスの排出に伴う負圧の作用(エゼクタ効果)が、排気ポートからの排気ガスの吸い出しを促すとともに吸気ポートから気筒内への空気の流入をも促し、上記他の気筒での掃気が充分に促進されることになる。そこで、上記特許文献1では、エゼクタ効果を得るために上記独立排気通路の流路面積を縮小させる制御(可変排気バルブによる絞り制御)を実行する際には、当該制御を実行しない場合に比べて、上記オーバーラップ期間を拡大させるようにしている。
しかしながら、ある気筒で排気弁が開弁し始めてブローダウンガスが排出されたとしても、その時点から、上記ブローダウンガスが下流側の合流部に到達し、そこで生成された負圧が上記気筒に対し排気順序が1つ前の他の気筒の排気ポートに遡って影響するまでには、ある程度の時間を要する。このため、ある気筒の排気弁の開弁開始時期と、他の気筒のオーバーラップ期間とがほとんど同時になる直列4気筒エンジンにおいては、ブローダウンガスによる負圧の作用(エゼクタ効果)が、オーバーラップ期間を過ぎてから他の気筒に及ぶこともあり、エンジン回転数によっては(特に高回転域では)上記エゼクタ効果による掃気の促進が期待ほどは得られないという問題があった。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エゼクタ効果による掃気の促進をより効率よく達成することが可能な多気筒エンジンを提供することを目的とする。
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、排気行程の時期が144°CAずつ異なる5つの気筒を有するエンジン本体と、エンジン本体の各気筒の排気ポートから排出された排気ガスが流通する排気装置とを備えた多気筒エンジンであって、上記排気装置は、1つの気筒もしくは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポートにそれぞれ接続される複数の独立排気通路と、上記各独立排気通路の下流端部どうしが互いに近接するように束ねられた集約部と、上記集約部の下流側に接続され、上記独立排気通路の全てと連通する共通の空間が内部に形成された合流部とを備え、上記集約部で束ねられた各独立排気通路の下流端部は、下流側に至るほど通路断面積が小さくなるように形成されており、2000rpmから6000rpmまでの速度域を含む運転領域において、上記各気筒の吸気弁および排気弁の開弁期間が所定のオーバーラップ期間重複し、かつ排気順序が連続する気筒間における排気順序が遅い方の気筒の排気弁の開弁開始時期から排気順序が早い方の気筒が上記オーバーラップ期間を迎えるまでの間に所定の時間差が生じるように、各気筒の吸気弁および排気弁の動作タイミングが設定されており、2000rpmから6000rpmまでの速度域を含む運転領域において、ある気筒からの排気ガスが上記合流部に噴出されるのに伴い生じる負圧が、排気順序が1つ前の他の気筒が上記オーバーラップ期間にあるときに当該他の気筒の排気ポートに作用するように、各気筒の排気ポートから上記合流部までの距離が設定されていることを特徴とするものである(請求項1)。
本発明では、各気筒の排気行程の時期が144°CAずつ異なる5気筒エンジンを対象として、各気筒の独立排気通路の下流端部どうしを集約部で束ねるとともに、排気順序が連続する気筒間における一方の気筒(排気順序が遅い方の気筒)で排気弁が開き始める時期と他方の気筒(排気順序が早い方の気筒)がオーバーラップ期間を迎える時期との間に所定の時間差を設けるようにしたため、ある気筒から排出されたブローダウンガス(排気弁の開弁直後に排出される高速の排気ガス)が上記集約部の下流側(合流部)に噴出された後、そこで生成された負圧が他の気筒(排気順序が1つ前の気筒)の排気ポートに遡って到達するタイミングが、当該他の気筒の排気上死点の近傍に合い易くなる。したがって、上記他の気筒がオーバーラップ期間にあるときに負圧が到達するケースが増え、エンジンのより幅広い速度域において、掃気の促進を図ることができる。
本発明において、好ましくは、上記独立排気通路は、排気順序が互いに連続しない2つの気筒に接続される第1独立排気通路と、第1独立排気通路が接続される気筒を除いた3つの気筒のうち排気順序が連続しない2つの気筒に接続される第2独立排気通路と、第1および第2独立排気通路のいずれもが接続されない残りの1つの気筒に接続される第3独立排気通路とを有し、上記第1および第2独立排気通路は、それぞれ、排気順序が連続しない2つの気筒から延びる2つの分岐通路部と、各分岐通路部の下流端部どうしが連結された連結部と、連結部から下流側に延びる単一の共通通路部とを有し、上記第1および第2独立排気通路の各共通通路部の下流端部と、上記第3独立排気通路の下流端部とが束ねられて上記集約部が形成される(請求項2)。
このように、排気順序が互いに連続しない2つの気筒にそれぞれ2股状の第1、第2独立排気通路を接続した場合には、排気干渉を回避しながらも、全ての気筒に単管状の独立排気通路を接続した場合と比べて排気装置を全体的にコンパクトにできる。そして、上記二股状の第1、第2独立排気通路の各下流端部に、もう1つの単管状の独立排気通路の下流端部を合わせて集約部で束ねることにより、この集約部の下流側(合流部)でブローダウンガスによる負圧を発生させ、その負圧よる作用(エゼクタ効果)で各気筒の掃気を効果的に促進することができる。
以上説明したように、本発明によれば、エゼクタ効果による掃気の促進をより効率よく達成することが可能な多気筒エンジンを提供することができる。
本発明の一実施形態にかかる多気筒エンジンの全体構成を示す図である。 図1のII−II線に沿った断面図である。 上記エンジンの各気筒におけるバルブタイミングを説明するための図である。 上記エンジンにおいて得られるエゼクタ効果を確認するために行った数値シミュレーションの結果を示すグラフである。 本発明の比較例にかかるエンジンのバルブタイミングを説明するための図である。 上記比較例のエンジンにおいて得られるエゼクタ効果を確認するために行った数値シミュレーションの結果を示すグラフである。 本発明の変形実施例を説明するための図である。
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルの火花点火式多気筒エンジンである。具体的に、当実施形態のエンジンは、列状に並ぶ5つの気筒2A〜2Eを有する直列5気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される空気(新気)が流通する吸気装置9と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気装置13とを備えている。
上記エンジン本体1の各気筒2A〜2Eには、それぞれピストン(図示省略)が往復摺動可能に挿入されており、各ピストンの上方に燃焼室が区画形成されている。この燃焼室は、図外のインジェクタ(燃料噴射弁)から噴射される燃料と空気とによる混合気を燃焼させるための空間である。すなわち、各気筒2A〜2Eの燃焼室では、火花点火(後述する点火プラグ7による点火)をきっかけに混合気が燃焼し、高温の排気ガスが生成される。生成された排気ガスは、各気筒2A〜2Eの排気行程において、燃焼室から上記排気装置13へと排出される。
上記エンジン本体1の上部(シリンダヘッド)には、上記吸気装置9から供給される空気を各気筒2A〜2Eの燃焼室に導入するための吸気ポート3と、吸気ポート3を開閉する吸気弁5と、各気筒2A〜2Eの燃焼室で生成された排気ガスを上記排気装置13に導出するための排気ポート4と、排気ポート4を開閉する排気弁6とが設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、1つの気筒につき吸気弁5および排気弁6が2つずつ設けられている。
上記エンジン本体1の上部(シリンダヘッド)には、各気筒2A〜2Eの燃焼室を上から臨むように5つの点火プラグ7が設けられている。各点火プラグ7は、図外の点火回路からの給電に応じて各気筒2A〜2Eの混合気に点火エネルギーを供給するものである。当実施形態のような直列5気筒エンジンでは、第1気筒2A→第2気筒2B→第4気筒2D→第5気筒2E→第3気筒2Cの順に、144°CAずつずれたタイミングで点火が行われて、この順に排気行程等が実施される。なお、「°CA」とは、エンジンの出力軸であるクランク軸の回転角(クランク角)を表す。
上記吸気装置9は、スロットル弁等の部品(図示省略)が装備される1本の吸気管10と、吸気管10の下流端部(エンジン本体1側の端部)に接続されたサージタンク11と、サージタンク11と各気筒2A〜2Eの吸気ポート3とを連通する4つの独立吸気通路12とを有している。
上記排気装置13は、各気筒2A〜2Eの排気ポート4から延びる3つの独立排気通路14,15,16と、各独立排気通路14,15,16の下流端部(エンジン本体1から遠ざかる方向の端部)が互いに近接するように束ねられた集約部17と、集約部17の下流側に接続され、上記独立排気通路14,15,16の全てと連通する共通の空間が内部に形成された合流部18と、合流部18の下流側に接続された1本の排気管19とを有している。なお、図1では図示を省略しているが、下流側の排気管19には、排気ガス浄化用の触媒や、サイレンサー等が装備される。
(2)排気装置の具体的構成
上記排気装置13が有する3つの独立排気通路14,15,16のうち、2つの独立排気通路14,15は、その上流側が二股状に分かれるように形成されており、残りの1つの独立排気通路16は、分岐のない単管状に形成されている。以下では、二股状の独立排気通路14,15を、それぞれ、第1独立排気通路14および第2独立排気通路15と称し、単管状の独立排気通路16を第3独立排気通路16と称する。
上記第1独立排気通路14は、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dの各排気ポート4から延びる2つの分岐通路部14a,14bと、各分岐通路部14a,14bの下流端部どうしが連結された連結部14cと、連結部14cから下流側に延びる単一の共通通路部14dとを有している。また、上記第2独立排気通路15は、第2気筒2Bおよび第5気筒2Eの各排気ポート4から延びる2つの分岐通路部15a,15bと、各分岐通路部15a,15bの下流端部どうしが連結された連結部15cと、連結部15cから下流側に延びる単一の共通通路部15dとを有している。
ここで、上述したように、当実施形態のような直列5気筒エンジンでは、第1気筒2A→第2気筒2B→第4気筒2D→第5気筒2E→第3気筒2Cの順に排気行程が実施される。このことから、上記第1独立排気通路14の各分岐通路部14a,14bが接続される第1気筒2Aおよび第4気筒2Dは、排気順序(排気行程が実施される順序)が1つ飛びの関係となっており、上記第2独立排気通路15の各分岐通路部15a,15bが接続される第2気筒2Bおよび第5気筒2Eもまた、排気順序が1つ飛びの関係となっている。すなわち、上記第1、第2独立排気通路14,15は、それぞれ、排気順序が連続しない2つの気筒に接続される通路であるということができる。
上記第3独立排気通路16は、その上流端部が第3気筒2Cの排気ポート4に接続されており、当該排気ポート4から、図1に示す上面視においてほぼ真っ直ぐ下流側に延びるように形成されている。
上記第1、第2独立排気通路14,15は、その各下流端部の位置が上記第3独立排気通路16の下流端部と一致するように、気筒列方向の中央側を指向して延びている。すなわち、第1独立排気通路14の共通通路部14dの下流端部と、第2独立排気通路15の共通通路部15dの下流端部と、第3独立排気通路16の下流端部とが、それぞれ、気筒列方向の中央に位置する第3気筒2Cから上面視でほぼ真っ直ぐ下流側に離間した位置において1箇所に束ねられている。そして、この束ねられた3つの独立排気通路14,15,16の各下流端部と、これらを束ねた状態に保持する保持部材等により、上記集約部17が構成されている。
図2に示すように、上記各独立排気通路14,15,16の各下流端部、つまり、第1独立排気通路14の共通通路部14dの下流端部と、第2独立排気通路15の共通通路部15dの下流端部と、第3独立排気通路16の下流端部とは、それぞれ、円を3分割したような扇型の断面を有しており、このような断面を有する各下流端部が3つ集まることにより、全体としてほぼ円形の集約部17が形成されている。
上記集約部17において近接配置された各独立排気通路14,15,16の下流端部は、下流側に至るほど通路断面積が小さくなるノズル状に形成されている(図1参照)。このため、上記各独立排気通路14,15,16の下流端部を通過した排気ガスは、そこで加速した後に(流速を高めた後に)合流部18へと噴出される。
図1に示すように、上記合流部18の内部には、下流側ほど通路断面積が小さくなるように形成されたノズル部20と、ほぼ一様の通路断面積を有するように形成されたストレート部21と、下流側ほど通路断面積が大きくなるように形成されたディフューザ部22とが、上流側から順に形成されている。このため、上記各独立排気通路14,15,16のいずれかの下流端部から噴出された排気ガスは、まずノズル部20へと流入し、そこでさらに加速する(圧力は低下する)。そして、ノズル部20で加速した排気ガスは、ディフューザ部22の通過時に減速され、これに伴って排気ガスの圧力が回復する。
上記のように各独立排気通路14,15,16のいずれかの下流端部から合流部18のノズル部20に向けて高速で排気ガスが噴出されると、その噴出ガスの周囲には、大気圧よりも低い負圧が生成される。したがって、ある気筒の独立排気通路(14,15,16のいずれか)から合流部18に排気ガスが噴出されるのに伴い、他の気筒の独立排気通路等に負圧が作用して、排気ガスが下流側へと吸い出される(エゼクタ効果)。
上記エゼクタ効果により排気ガスが吸い出されることで、掃気の促進を図ることができる。また、ある気筒の独立排気通路(14,15,16のいずれか)から排出された排気ガスが合流部18から他の気筒の独立排気通路に逆流することが防止されるので、排気干渉が抑制されるという利点もある。
ここで、上記エゼクタ効果による掃気を確実に図るには、ある気筒の排気弁6が開弁し始めてから所定の時間差の後に、当該気筒よりも排気順序が1つ前の他の気筒において、吸気弁5および排気弁6がともに開弁している必要がある。
図3は、上記のような掃気の促進を目的として設定された第1気筒2A〜第5気筒2Eの吸排気弁5,6の動作タイミングを示す図である。本図に示すように、第1気筒2A〜第5気筒2Eのいずれにおいても、排気行程の終期から吸気行程の始期にかけて(図中の期間O/Lにかけて)、吸気弁5および排気弁6がともに開弁している。以下では、このように吸排気弁5,6がともに開弁している期間、つまり、吸気弁5の開弁期間と排気弁6の開弁期間とが重複している期間O/Lを、オーバーラップ期間と称する。一方、ある気筒がオーバーラップ期間(O/L)にあるとき、当該気筒の次に排気行程を迎える気筒では、既に排気弁6が開弁している。
すなわち、当実施形態のような5気筒エンジンでは、各気筒での火花点火が144°CAずつずれたタイミングで行われ、ある気筒の排気行程の開始から、点火順序が次の気筒の排気行程の開始までに144°CAの間隔が空くことになる。例えば、第1気筒2Aの排気行程の開始から144°CAが経過して、点火順序が次の第2気筒2Bでの排気行程が開始されても、上記第1気筒2Aでは、未だ排気行程の途中にあり、排気行程の終了時点(排気上死点)までには、36°CA(180−144=36°CA)分の余裕がある。このため、第1気筒2Aが、排気上死点の前後のオーバーラップ期間(O/L)にあるとき、点火順序が次の第2気筒2Bでは、既に排気行程の途中段階(排気行程の開始から36°CA経過した時点)にあり、排気弁6が既に開弁している。換言すれば、第2気筒2Bの排気弁6の開弁開始時期から、第1気筒2Aがオーバーラップ期間を迎える時期(同気筒の吸気弁5が開き始める時期)までの間に、所定の時間差が存在している。
同様に、第2気筒2Bがオーバーラップ期間にあるとき、次に排気行程を迎える第4気筒2Dの排気弁6が既に開弁しており、第4気筒2Dがオーバーラップ期間にあるとき、次に排気行程を迎える第5気筒2Eの排気弁6が既に開弁しており、第5気筒2Eがオーバーラップ期間にあるとき、次に排気行程を迎える第3気筒2Cの排気弁6が既に開弁している。
吸排気弁5,6の動作タイミングが上記のように設定されていれば、ある気筒の排気弁6の開弁直後に排出される最も流速の速い排気ガス(いわゆるブローダウンガス)が合流部18に噴出されたときに、その噴出流の周りに生成される大きな負圧の作用(エゼクタ効果)により、当該気筒よりも排気順序が1つ前の気筒における掃気性が高められる。例えば、第3気筒2Cの排気弁6が開き始めて、高速の排気ガス(ブローダウンガス)が第3独立排気通路16を通じて合流部18に噴出されると、それに伴う負圧が、上記第3気筒2Cよりも排気順序が1つ前の第5気筒2Eに作用する。
ここで、上記第3気筒2Cの排気弁6が開き始めてブローダウンガスが排出された時点から、そのブローダウンガスが第3独立排気通路16を通って合流部18に到達し、そこで生成された負圧が第2独立排気通路15(共通通路部15dおよび分岐通路部15b)を遡って第5気筒2Eの排気ポート4に伝播するまでには、ある程度の時間を要する。このように、第5気筒2Eの排気ポート4に負圧が到達するまでに時間差が存在する一方で、上述したように、第3気筒2Cの排気弁6が開き始めてから第5気筒2Eが排気上死点(排気行程と吸気行程の間の上死点)を迎えるまでにも時間差が存在する。したがって、上記第3気筒2Cからのブローダウンガスに基づく負圧は、多くのケースにおいて、第5気筒2Eが排気上死点の近傍にあるときに同気筒の排気ポート4に到達すると考えられる。排気上死点の近傍とは、吸気弁5および排気弁6がともに開くオーバーラップ期間に一致する時期であるから、このような時期に負圧が到達すれば、上記第5気筒2Eでは、排気ポート4からの排気ガスの吸い出しと、吸気ポート3から筒内への空気の流入とが同時に行われ、掃気が充分に図られるとともに、吸気量が増大される。なお、図3において右斜め上方に延びる1点差線の矢印は、排気弁6の開弁直後のブローダウンガスに基づく負圧が、排気順序が1つの前の気筒に対し所定の時間差をあけて作用することを表している。
以上のことは、排気順序が連続するいずれの気筒間においても同様である。例えば、第5気筒2Eの排気弁6の開弁直後に排出されるブローダウンガスが第2独立排気通路15(分岐通路部15bおよび共通通路部15d)を通って合流部18に噴出されると、そこで生成された負圧は、第1独立排気通路14(共通通路部14dおよび分岐通路部14b)を遡って、オーバーラップ期間中にある第4気筒2Dの排気ポート4に到達する。同様に、第4気筒2Dから第1独立排気通路14(14b,14d)を通って排出されたブローダウンガスによる負圧は、第2独立排気通路15(15d,15a)を遡って、オーバーラップ期間中にある第2気筒2Bに到達し、第2気筒2Bから第2独立排気通路15(15a,15d)を通って排出されたブローダウンガスによる負圧は、第1独立排気通路14(14d,14a)を遡って、オーバーラップ期間中にある第1気筒2Aに到達し、第1気筒2Aから第1独立排気通路14(14a,14d)を通って排出されたブローダウンガスによる負圧は、第3独立排気通路16を遡って、オーバーラップ期間中にある第3気筒2Cに到達する。
図4は、当実施形態のような5気筒エンジンにおいて、ある特定の気筒(以下、対象気筒という)における排気ポート4の圧力を、回転速度が異なる複数の条件下で数値シミュレーションにより算出した結果である。なお、本図において、排気ポート4から合流部18までの距離は、全ての気筒について同じ値(250mm)であるものとした。
図4に示すように、対象気筒が排気上死点にあるとき、つまりクランク角が下死点後(ABDC)180°CAであるときの排気ポート圧は、エンジン回転速度が1000rpm(図中のグラフ線X)のときに正圧になっているが、それ以外の全ての回転速度(2000〜6000rpm)では、いずれも負圧となっている。このことは、2000〜6000rpmという幅広い速度域で、上記対象気筒の次に排気行程を迎える気筒からのブローダウンガスによる負圧が、上記対象気筒の排気上死点において排気ポート4に作用していることを表している。
なお、図4において、エンジン回転速度が1000rpmのときは、ブローダウンガスによる負圧が排気上死点よりも前に排気ポート4に到達していることになるが、排気ポート4から合流部18までの距離(独立排気通路14,15,16の通路長)が図4の条件よりも短ければ、1000rpmのときであっても、上記負圧を排気上死点の付近に排気ポート4に到達させることも可能である。この場合には、6000rpm等の高速域における負圧到達のタイミングが排気上死点と合わなくなると考えられるが、図4の例と異なり、1000rpmを含む低回転寄りの速度域で、排気上死点での排気ポート圧を負圧にすることができる。
(3)作用効果等
以上説明したように、当実施形態の多気筒エンジンは、排気行程の時期が144°CAずつ異なる5つの気筒2A〜2Eを有する(直列5気筒型の)エンジン本体1と、各気筒2A〜2Eの排気ポート4から排出された排気ガスが流通する排気装置13とを備える。排気装置13は、1つの気筒もしくは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポート4にそれぞれ接続される複数の独立排気通路14,15,16と、各独立排気通路14,15,16の下流端部どうしが互いに近接するように束ねられた集約部17と、集約部17の下流側に接続され、上記独立排気通路14,15,16の全てと連通する共通の空間が内部に形成された合流部18とを備える。上記集約部17で束ねられた各独立排気通路14,15,16の下流端部は、下流側に至るほど通路断面積が小さくなるように形成されており、上記各気筒2A〜2Dの吸排気弁5,6の動作タイミングは、排気順序が連続する気筒間における一方の気筒の排気弁6の開弁開始時期から他方の気筒がオーバーラップ期間(図3の期間O/L)を迎えるまでの間に所定の時間差が生じるように設定されている。このような構成によれば、エゼクタ効果による掃気の促進をより効率よく達成できるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、各気筒2A〜2Eの排気行程の時期が144°CAずつ異なる5気筒エンジンを対象として、各気筒2A〜2Eの独立排気通路14,15,16の下流端部どうしを集約部17で束ねるとともに、排気順序が連続する気筒間における一方の気筒で排気弁6が開き始める時期と他方の気筒がオーバーラップ期間(O/L)を迎える時期との間に所定の時間差を設けるようにしたため、ある気筒から排出されたブローダウンガス(排気弁6の開弁直後に排出される高速の排気ガス)が上記集約部17の下流側(合流部18)に噴出された後、そこで生成された負圧が他の気筒(排気順序が1つ前の気筒)の排気ポート4に遡って到達するタイミングが、当該他の気筒の排気上死点の近傍に合い易くなる。したがって、上記他の気筒がオーバーラップ期間にあるときに負圧が到達するケースが増え、エンジンのより幅広い速度域(図4の例では2000〜6000rpmの範囲)において、掃気の促進を図ることができる。
このような効果は、例えば直列4気筒エンジンのような、排気行程の時期が180°CAずつ異なるエンジンと比較することで、より明確に理解することができる。図5は、直列4気筒エンジンの場合に、ブローダウンガスによる負圧がどのようなタイミングで到達するかを示した比較例である。本図に示すように、直列4気筒エンジンでは、ある気筒の排気弁が開き始める時期と、排気順序が1つ前の他の気筒がオーバーラップ期間を迎える時期とがほとんど同時になるため、ある気筒からのブローダウンガスによる負圧が他の気筒の排気ポートに到達したときには、当該他の気筒では、既にオーバーラップ期間が終了している可能性が高くなる。すなわち、直列4気筒エンジンでは、上記ブローダウンガスによる負圧が排気ポートに到達するタイミングと、吸排気弁のオーバーラップ期間とが合致しにくくなる。
以上のことから、排気行程の時期が180°CAずつ異なる4気筒エンジンでは、ある気筒から排出されたブローダウンガスによる負圧を、オーバーラップ期間中の他の気筒に到達させて掃気の促進を図ろうとしても、上記実施形態の5気筒エンジンと比べれば、期待通りの効果を得ることは難しいと考えられる。もちろん、4気筒エンジンであっても、オーバーラップ期間を極端に長くとれば、そのオーバーラップ期間中に負圧を到達させることが可能となるが、オーバーラップ期間を長くし過ぎると、燃焼性に悪影響を与える等の問題が生じるため、オーバーラップ期間はむやみに長くとることはできない。
図6は、4気筒エンジンにおけるある特定の気筒(対象気筒)の排気ポート圧を数値シミュレーションにより算出した結果である。なお、この計算では、各気筒の排気ポートから合流部までの距離、および吸排気弁のオーバーラップ期間を、図4の計算時と同一とした。本図に示すように、4気筒エンジンの場合、排気上死点での排気ポート圧は、1000rpmおよび2000rpm(図中のグラフ線Y1,Y2)のときに負圧になるものの、それ以外の速度域(3000〜6000rpm)では、いずれも正圧になっている。このことは、3000〜6000rpmという幅広い速度域において、ブローダウンガスによる負圧を有効に利用できていないことを示している。
これに対し、上記実施形態のような5気筒エンジンでは、各気筒の排気行程の間隔が144°CAと短いため、既に図4に示したように、例えば2000〜6000rpmといった幅広い速度域で、ある気筒から排出されたブローダウンガスによる負圧を、他の気筒が排気上死点にあるときに排気ポート4に到達させることができる。これにより、4気筒エンジンの場合よりも幅広い速度域で、エゼクタ効果による掃気の促進を図ることができる。
また、上記実施形態では、独立排気通路として、排気順序が互いに連続しない2つの気筒の組(第1気筒2Aおよび第4気筒2Dの組と、第2気筒2Bおよび第5気筒2Eの組)に接続される2股状の第1、第2独立排気通路14,15と、残りの1つの気筒(第3気筒2C)に接続される単管状の第3独立排気通路16とが設けられており、第1、第2独立排気通路14,15の各下流端部と、第3独立排気通路16の下流端部とが束ねられて上記集約部17が形成されている。このような構成によれば、排気装置13を全体としてコンパクトに形成しながら、エゼクタ効果による掃気の促進を図ることができる。
すなわち、上記実施形態では、排気順序が互いに連続しない2つの気筒にそれぞれ2股状の第1、第2独立排気通路14,15を接続したため、排気干渉を回避しながらも、全ての気筒2A〜2Eに単管状の独立排気通路を接続した場合と比べて排気装置13を全体的にコンパクトにできる。そして、上記二股状の第1、第2独立排気通路14,15の各下流端部に、もう1つの単管状の独立排気通路16の下流端部を合わせて集約部17で束ねることにより、この集約部17の下流側(合流部18)でブローダウンガスによる負圧を発生させ、その負圧よる作用(エゼクタ効果)で各気筒の掃気を効果的に促進することができる。
(4)変形例
上記実施形態では、第1気筒2A→第2気筒2B→第4気筒2D→第5気筒2E→第3気筒2Cの順に排気行程を迎える直列5気筒エンジンを前提に、排気順序が連続しない第1気筒2Aおよび第4気筒2Dに二股状の第1独立排気通路14を接続し、同じく排気順序が連続しない第2気筒2Bおよび第5気筒2Eに二股状の第2独立排気通路15を接続し、残りの第3気筒2Cに単管状の第3独立排気通路16を接続したが、これ以外の組合せも当然に可能である。以下の(i)〜(iv)は、上記実施形態以外に考えられる4パターンの組合せを列挙したものである。各パターンにおいて、ハイフンでつないだ2つの数字の組合せは、二股状の独立排気通路が接続される気筒Noを表しており、末尾にある単独の数字は、単管状の独立排気通路が接続される気筒の気筒Noを表している。
(i) 1−5,2−3,4
(ii) 2−5,4−3,1
(iii)2−3,1−4,5
(iv) 1−5,4−3,2
図7は、上記(i)の組合せに基づく排気装置13’を図示したものである。すなわち、この排気装置13’には、第1気筒2Aおよび第5気筒2Eに接続される二股状の第1独立排気通路14’と、第2気筒2Bおよび第3気筒2Cに接続される二股状の第2独立排気通路15’と、第4気筒2Dに接続される単管状の第3独立排気通路16’とが含まれる。
具体的に、第1独立排気通路14’は、第1気筒2Aおよび第5気筒2Eから延びる2つの分岐通路部14a’,14b’と、各分岐通路部14a’,14b’の下流端部どうしが連結された連結部14c’と、連結部14c’から下流側に延びる単一の共通通路部14d’とを有している。また、第2独立排気通路15’は、第2気筒2Bおよび第3気筒2Cから延びる2つの分岐通路部15a’,15b’と、各分岐通路部15a’,15b’の下流端部どうしが連結された連結部15c’と、連結部15c’から下流側に延びる単一の共通通路部15d’とを有している。そして、上記第1独立排気14’の共通通路部14d’の下流端部と、上記第2独立排気15’の共通通路部15d’の下流端部と、第3独立排気通路16’の下流端部とが1箇所に束ねられて集約部17が形成され、そのさらに下流側に合流部18が接続されている。
なお、上記図7の例や、上記図1に示した実施形態では、排気順序が連続しない2つの気筒に二股状の独立排気通路を接続したが、5つの気筒2A〜2Eの全てに、第3独立排気通路16(または16’)と同様の単管状の通路を接続し、これら5つの独立排気通路の各下流端部を束ねて集約部を形成してもよい。
また、上記実施形態では、エンジンの運転領域にかかわらず、図3に示すように、各気筒2A〜2Eの吸気弁5および排気弁6の開弁期間が所定のオーバーラップ期間(O/L)重複し、かつ排気順序が連続する気筒間における一方の気筒の排気弁6の開弁開始時期から他方の気筒が上記オーバーラップ期間を迎えるまでの間に所定の時間差が生じるように、各気筒2A〜2Eの吸排気弁5,6の動作タイミング(バルブタイミング)を設定したが、例えばバルブタイミングを変更し得る可変機構を備えたエンジンである場合には、エンジンの一部の運転領域でのみ、上記図3に示したようなバルブタイミングに設定してもよい。特に、吸気量が増大するエンジンの高負荷域では、図3に示したようなバルブタイミングに設定することが望ましい。
また、上記実施形態では、図1に示したような直列5気筒エンジンに本発明を適用した例について説明したが、本発明は、5気筒のシリンダ列を2列有するV型10気筒エンジンに適用できることは言うまでもない。
2A〜2E 気筒
3 吸気ポート
4 排気ポート
5 吸気弁
6 排気弁
13 排気装置
14 第1独立排気通路
14a,14b 分岐通路部
14c 連結部
14d 共通通路部
15 第2独立排気通路
15a,15b 分岐通路部
15c 連結部
15d 共通通路部
16 第3独立排気通路
17 集約部
18 合流部

Claims (2)

  1. 排気行程の時期が144°CAずつ異なる5つの気筒を有するエンジン本体と、エンジン本体の各気筒の排気ポートから排出された排気ガスが流通する排気装置とを備えた多気筒エンジンであって、
    上記排気装置は、1つの気筒もしくは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポートにそれぞれ接続される複数の独立排気通路と、上記各独立排気通路の下流端部どうしが互いに近接するように束ねられた集約部と、上記集約部の下流側に接続され、上記独立排気通路の全てと連通する共通の空間が内部に形成された合流部とを備え、
    上記集約部で束ねられた各独立排気通路の下流端部は、下流側に至るほど通路断面積が小さくなるように形成されており、
    2000rpmから6000rpmまでの速度域を含む運転領域において、上記各気筒の吸気弁および排気弁の開弁期間が所定のオーバーラップ期間重複し、かつ排気順序が連続する気筒間における排気順序が遅い方の気筒の排気弁の開弁開始時期から排気順序が早い方の気筒が上記オーバーラップ期間を迎えるまでの間に所定の時間差が生じるように、各気筒の吸気弁および排気弁の動作タイミングが設定されており、
    2000rpmから6000rpmまでの速度域を含む運転領域において、ある気筒からの排気ガスが上記合流部に噴出されるのに伴い生じる負圧が、排気順序が1つ前の他の気筒が上記オーバーラップ期間にあるときに当該他の気筒の排気ポートに作用するように、各気筒の排気ポートから上記合流部までの距離が設定されていることを特徴とする多気筒エンジン。
  2. 請求項1記載の多気筒エンジンにおいて、
    上記独立排気通路は、排気順序が互いに連続しない2つの気筒に接続される第1独立排気通路と、第1独立排気通路が接続される気筒を除いた3つの気筒のうち排気順序が連続しない2つの気筒に接続される第2独立排気通路と、第1および第2独立排気通路のいずれもが接続されない残りの1つの気筒に接続される第3独立排気通路とを有し、
    上記第1および第2独立排気通路は、それぞれ、排気順序が連続しない2つの気筒から延びる2つの分岐通路部と、各分岐通路部の下流端部どうしが連結された連結部と、連結部から下流側に延びる単一の共通通路部とを有し、
    上記第1および第2独立排気通路の各共通通路部の下流端部と、上記第3独立排気通路の下流端部とが束ねられて上記集約部が形成されたことを特徴とする多気筒エンジン。
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