以下に、本発明に係るクラッチの係合制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係るクラッチの係合制御装置を備える車両の駆動装置の模式図である。本実施形態に係るクラッチの係合制御装置2は、車両(図示省略)の駆動装置1が有するクラッチの係合制御を行う装置として、車両に備えられている。係合制御装置2で係合制御が行われるクラッチを有する駆動装置1は、内燃機関であるエンジン5と、電気で駆動するモータジェネレータ10とを備えている。この駆動装置1を備える車両は、走行時における動力源として設けられるエンジン5とモータジェネレータ10とを、車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)20によって協調制御することにより走行する、いわゆるハイブリッド車両となっている。このため、エンジン5とモータジェネレータ10とは、共にECU20に接続されており、ECU20によって制御可能に構成されている。
また、モータジェネレータ10は、供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能とを兼ね備えた周知の電動発電機により構成されており、第1モータジェネレータ(MG1)と第2モータジェネレータ(MG2)との2つのモータジェネレータ10が備えられている。このうち、MG1は、主に発電機として使用され、MG2は、主に電動機として使用される。これらのモータジェネレータ10には、インバータ(図示省略)等を介して電源であるバッテリ(図示省略)が接続されており、動力を発生する際には、バッテリの電力によって動力を発生し、発電をした際には、この発電した電力をバッテリに充電する。
また、駆動装置1には、エンジン5やモータジェネレータ10で発生した動力を、車両の駆動輪(図示省略)に伝達する際における動力伝達機構として、エンジン5で発生した動力を分割する動力分割機構30として設けられる遊星歯車機構31と、動力分割機構30から伝達された回転を減速し、トルクを増大させて駆動輪側に伝達する減速機構40と、MG2で発生した動力を変速して駆動輪側に伝達する変速機構50を有している。
このうち、動力分割機構30は、エンジン5で発生した動力を、MG1を駆動する動力と減速機構40側に伝達するする動力に分割可能な遊星歯車機構31と、エンジン5で発生した動力を遊星歯車機構31から減速機構40に伝達可能な動力伝達部材36と、を有している。動力分割機構30が有する遊星歯車機構31は、互いに同軸的に配置されたサンギア32及びリングギア33と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア34と、プラネタリギア34を自転可能に、且つ、サンギア32やリングギア33の回転中心軸を中心として公転可能に支持するプラネタリキャリア35とを有している。エンジン5とMG1とは、この遊星歯車機構31に接続されている。
エンジン5からの動力が動力分割機構30に入力される際における回転軸として設けられる動力分割機構30の入力軸6は、遊星歯車機構31のプラネタリキャリア35と一体回転可能に接続されている。これにより、遊星歯車機構31は、エンジン5から伝達された動力を、プラネタリキャリア35が支持するプラネタリギア34から、サンギア32に伝達する動力と、リングギア33に伝達する動力とに分割可能になっている。
一方、MG1は、回転軸11が遊星歯車機構31のサンギア32と一体回転可能に接続されている。MG1は、このように遊星歯車機構31のサンギア32に接続されているため、エンジン5から遊星歯車機構31に入力された動力は、プラネタリキャリア35、プラネタリギア34及びサンギア32を介してMG1に伝達可能になっている。これによりMG1は、エンジン5から伝達された動力によって発電可能になっている。これらのように、エンジン5やMG1は、共に遊星歯車機構31との間で動力の伝達が可能に設けられている。
また、動力分割機構30が有する動力伝達部材36は、遊星歯車機構31が有するリングギア33と一体に回転可能に構成されており、この動力伝達部材36には、減速機構40が有するカウンタシャフト41を駆動するカウンタドライブギア37が設けられている。このカウンタドライブギア37は、遊星歯車機構31からの動力を減速機構40に伝達することにより、遊星歯車機構31側からの出力側である駆動輪側に動力を伝達可能な動力出力ギアとなっている。
また、減速機構40は、動力分割機構30のカウンタドライブギア37に噛み合う低速側カウンタギア42と、低速側カウンタギア42と結合されているカウンタシャフト41と、カウンタシャフト41に結合され、車両の左右の駆動輪に対して動力を伝達する差動装置(図示省略)に対して出力するファイナルドライブギア45と、を有している。このため、減速機構40は、動力分割機構30の動力伝達部材36から伝達された動力を、回転速度を減速することによりトルクを増大させて差動装置に伝達可能になっている。
さらに、減速機構40は、変速機構50が有するMG2高速側出力ギア55に噛み合う高速側カウンタギア43を有しており、高速側カウンタギア43は、低速側カウンタギア42やファイナルドライブギア45と同様にカウンタシャフト41に結合されている。また、低速側カウンタギア42は、動力分割機構30のカウンタドライブギア37のみでなく、変速機構50が有するMG2低速側出力ギア51にも噛み合っている。
これらのMG2高速側出力ギア55と高速側カウンタギア43との変速比と、MG2低速側出力ギア51と低速側カウンタギア42との変速比とは異なっている。詳しくは、MG2高速側出力ギア55と高速側カウンタギア43との変速比よりも、MG2低速側出力ギア51と低速側カウンタギア42との変速比の方が、変速機構50側から減速機構40側への減速の度合いが大きくなっている。
また、変速機構50は、MG2で発生する動力を減速機構40に伝達するギアを、MG2低速側出力ギア51とMG2高速側出力ギア55とで切り替えることにより、MG2から減速機構40に動力を出力する際における変速比を切り替えることが可能になっている。詳しくは、変速機構50は、MG2低速側出力ギア51に結合され、MG2で発生した動力をMG2低速側出力ギア51に伝達する低速側出力軸52と、MG2高速側出力ギア55に結合され、MG2で発生した動力をMG2高速側出力ギア55に伝達する高速側出力部材56と、を有している。
詳しくは、低速側出力軸52は、一部が高速側出力部材56の内側を通っており、低速側出力軸52と高速側出力部材56とは、共に回転中心軸が一致し、カウンタシャフト41の回転中心軸に対して平行になる向きで回転可能に配設されている。MG2高速側出力ギア55は、この高速側出力部材56の外周面に結合されており、MG2低速側出力ギア51は、低速側出力軸52における高速側出力部材56の外部に出ている部分に結合されている。
また、変速機構50は、MG2で発生した動力の出力を、低速側出力軸52と高速側出力部材56とで切り替える変速部材60を有している。この変速部材60は、MG2の回転軸15の内側に配設されており、スプライン等の公知の係合要素によって、回転軸15の内面に連結されている。これにより、変速部材60は、MG2の回転軸15の回転中心軸を中心とする回転方向には、回転軸15に対して相対回動不可で、回転中心軸に沿った方向には回転軸15に対して相対移動が可能に配設されている。即ち、変速部材60は、MG2の回転軸15の回転時には、回転軸15と一体となって回転可能に構成されている。
この変速部材60は、クラッチによって低速側出力軸52や高速側出力部材56との係合や解放が切り替え可能に設けられている。つまり、変速部材60は、低速側出力軸52に対する係合と解放とを切り替え可能な変速部材低速側クラッチ61と、高速側出力部材56に対する係合と解放とを切り替え可能な変速部材高速側クラッチ62と、を有している。これらの変速部材低速側クラッチ61と変速部材高速側クラッチ62とは、共に動力源であるMG2で発生した動力を伝達する動力源側クラッチになっている。
このうち、変速部材低速側クラッチ61は、変速部材60における回転中心軸寄りに位置している。この変速部材低速側クラッチ61は、低速側出力軸52に設けられる低速軸クラッチ53との係合と解放とが切り替え可能になっている。
即ち、低速側出力軸52は、MG2低速側出力ギア51に結合されている側の他端側が変速部材60の近傍に位置しており、低速軸クラッチ53は、低速側出力軸52における変速部材60の近傍に位置する部分に設けられている。変速部材60は、変速部材低速側クラッチ61が、この低速軸クラッチ53に対して係合したり解放したりすることにより、低速側出力軸52に対する係合と解放との切り替えが可能になっている。
また、変速部材60の変速部材高速側クラッチ62は、回転中心軸を中心とする径方向における外方寄りに位置している。この変速部材高速側クラッチ62は、高速側出力部材56に設けられる高速部材クラッチ57との係合と解放とが切り替え可能になっている。
即ち、高速側出力部材56は、回転中心軸の軸方向において、MG2高速側出力ギア55に結合されている側の反対側の端部付近が変速部材60の近傍に位置しており、高速部材クラッチ57は、高速側出力部材56における変速部材60の近傍に位置する部分に設けられている。変速部材60は、変速部材高速側クラッチ62が、この高速部材クラッチ57に対して係合したり解放したりすることにより、高速側出力部材56に対する係合と解放との切り替えが可能になっている。また、この高速部材クラッチ57と、低速側出力軸52に設けられる低速軸クラッチ53とは、クラッチの係合時に動力源側クラッチを介して動力源からの動力が伝達される被駆動側クラッチになっている。
図2は、クラッチの説明図である。係合と解放との切り替えが可能な変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53、及び変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57とは、共に係合方向に突設した複数のクラッチ歯70同士を噛み合わせることにより係合する噛み合いクラッチであるドグクラッチにより構成されている。
例えば、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とを用いて説明すると、クラッチ歯70は、複数が変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とのそれぞれに設けられている。双方に設けられる複数のクラッチ歯70は、隣り合うクラッチ歯70同士が離間しながら変速部材60や低速側出力軸52の回転中心軸を中心とする円周方向に並んで設けられており、隣り合うクラッチ歯70同士の間には、歯溝75が形成されている。円周方向における歯溝75の幅は、円周方向におけるクラッチ歯70の幅よりも僅かに大きくなっている。
また、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とのそれぞれのクラッチ歯70は、他方側の端部、つまり、クラッチ歯70の突設方向の先端部分である歯先71に、面取り部74が形成されている。即ち、クラッチ歯70において隣り合うクラッチ歯70に対向する面であり、歯溝75を形成する面である側面部73と、クラッチ歯70における突設方向の先端に位置する面である先端部72とは、面取り部74によって接続されている。
つまり、先端部72は、円周方向に沿って形成され、側面部73は、係合方向に沿って形成されており、面取り部74は、先端部72と側面部73との双方に対して傾斜する面となって双方に接続されている。この面取り部74は、円周方向におけるクラッチ歯70の両側に形成されており、側面部73から先端部72の方向に向うに従って、円周方向におけるクラッチ歯70の幅が狭くなる方向に、先端部72と側面部73とに対して傾斜している。このように、クラッチ歯70の歯先71には、先端部72のみでなく面取り部74も設けられている。
変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53は、面取り部74が形成される複数のクラッチ歯70を有するドグクラッチにより構成されているが、変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57も、同様なドグクラッチにより構成されている。即ち、変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57も、面取り部74が形成される複数のクラッチ歯70を有するドグクラッチにより構成されている。
また、低速軸クラッチ53と高速部材クラッチ57とは、低速軸クラッチ53が変速部材低速側クラッチ61と係合する際における変速部材60の位置と、高速部材クラッチ57が変速部材高速側クラッチ62と係合する際における変速部材60の位置とが異なる位置になるように設けられている。このため、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とが係合状態の場合には、変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57とは係合せず、反対に、変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57とが係合状態の場合には、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とは係合しないように構成されている。
さらに、変速部材60は、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53、及び変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57が、いずれも係合しない位置に移動することが可能になっている。このように、いずれのクラッチも係合しない位置は、変速部材60の移動方向において、変速部材低速側クラッチ61が係合する位置と、変速部材高速側クラッチ62が係合する位置との間の位置になっており、この位置は、変速機構50のニュートラルの位置になっている。
また、変速部材60の近傍には、通電することにより電磁力を発生可能な電磁コイル(図示省略)が配設されており、変速部材60は、電磁コイルで発生する電磁力によって、回転中心軸に沿った方向への移動が可能になっている。また、変速部材60の変速部材低速側クラッチ61と変速部材高速側クラッチ62とは、回転中心軸に沿った方向における変速部材60の位置によって、低速軸クラッチ53または高速部材クラッチ57のいずれかに係合するか、いずれのクラッチも係合しない状態になるようになっている。
このため、変速部材60は、電磁コイルで発生する電磁力によって、低速側出力軸52や高速側出力部材56に対する係合と解放との切り替えが可能になっている。さらに、変速部材60は、MG2の回転軸15と一体となって回転可能に設けられているため、変速部材60と、低速側出力軸52、高速側出力部材56との係合と解放とを切り替えることにより、MG2の回転軸15と、低速側出力軸52や高速側出力部材56との連結、非連結の切り替えが可能になっている。従って、変速機構50は、MG2からの出力を、低速段からの出力と高速段からの出力とに変速する変速機構として設けられている。
また、電磁コイルで発生する電磁力は、ECU20によって制御可能になっている。このため、変速部材60が有する変速部材低速側クラッチ61及び変速部材高速側クラッチ62と、低速軸クラッチ53や高速部材クラッチ57との係合や解放の切り替えは、ECU20で電磁コイルの電磁力を制御することにより行うことができる。従って、ECU20は、MG2の回転軸15と、低速側出力軸52や高速側出力部材56との連結、非連結を切り替えることが可能になっている。
この実施形態に係るクラッチの係合制御装置2を備える駆動装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行時には、運転者の運転操作や車両の走行状態に応じてECU20でエンジン5やモータジェネレータ10を制御することにより、エンジン5やモータジェネレータ10は、運転者の運転操作に応じた動力を発生し、この動力で車両は走行する。詳しくは、エンジン5で発生した動力は、動力分割機構30が有する遊星歯車機構31のプラネタリギア34からリングギア33に伝達され、動力伝達部材36に設けられるカウンタドライブギア37から、減速機構40に伝達される。その際に、ECU20は、MG1の駆動制御を行い、MG1で発生する駆動力によって遊星歯車機構31のサンギア32を回転させる。これにより、プラネタリギア34からリングギア33に動力が伝達される際における変速比を、運転者の運転操作や車両の走行状態に適した変速比にする。
動力分割機構30から減速機構40に伝達される動力は、カウンタドライブギア37から低速側カウンタギア42に伝達され、カウンタシャフト41、ファイナルドライブギア45を介して差動装置に伝達される。これにより、エンジン5で発生した動力は、駆動輪に伝達され、駆動輪で発生する駆動力として用いられる。
また、車両の減速時には、車両の走行時における慣性による回転トルクが、差動装置側から減速機構40に入力され、減速機構40から動力分割機構30に入力される。動力分割機構30に入力された回転トルクは、動力伝達部材36から遊星歯車機構31を介して、MG1に伝達される。MG1は、この回転トルクによって発電を行い、駆動装置1は、この発電時における回転抵抗により、回生制動を行う。
また、車両の走行時には、ECU20はMG2の駆動制御も行い、MG2で発生した動力も用いて走行制御を行う。MG2で発生した動力は、変速機構50を介して減速機構40に伝達され、即ち、変速機構50が有するクラッチの係合によって減速機構40に伝達されるため、MG2で発生した動力を駆動輪側に出力する際には、変速機構50の変速制御も行う。変速機構50の変速制御は、電磁力によって変速部材60を移動させることができる電磁コイルへの通電をECU20で制御し、変速機構50が有するクラッチの係合制御を行うことによって行う。
例えば、変速機構50を低速段にする際には、ECU20によって電磁コイルへの通電を制御することにより、変速部材低速側クラッチ61が低速軸クラッチ53と係合する方向に変速部材60を移動させる(図1参照)。これにより、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とが係合し、MG2の回転軸15は、変速部材60を介して低速側出力軸52に連結される。即ち、変速機構50は、低速段に切り替えられた状態になる。従って、MG2で発生した動力は、MG2低速側出力ギア51及び低速側カウンタギア42を介して減速機構40のカウンタシャフト41に出力され、駆動輪に伝達される。
図3は、変速機構を高速段に切り替えた状態を示す説明図である。変速機構50を高速段に切り替える場合には、低速段に切り替える場合と同様にECU20によって電磁コイルへの通電を制御することにより、変速部材高速側クラッチ62が高速部材クラッチ57と係合する方向に変速部材60を移動させる。これにより、変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57とが係合し、MG2の回転軸15は、変速部材60を介して高速側出力部材56に連結される。即ち、変速機構50は、高速段に切り替えられた状態になる。従って、MG2で発生した動力は、MG2高速側出力ギア55及び高速側カウンタギア43を介して減速機構40のカウンタシャフト41に出力され、駆動輪に伝達される。
図4は、変速機構をニュートラルに切り替えた状態を示す説明図である。変速機構50をニュートラルに切り替える場合も同様に、ECU20によって電磁コイルへの通電を制御することにより、変速部材低速側クラッチ61と変速部材高速側クラッチ62とのいずれもが低速軸クラッチ53や高速部材クラッチ57に係合しない位置に、変速部材60を移動させる。これにより、変速部材低速側クラッチ61と変速部材高速側クラッチ62とは、共に低速軸クラッチ53や高速部材クラッチ57に対して解放した状態になり、MG2の回転軸15は、低速側出力軸52と高速側出力部材56とのいずれにも連結しない状態になる。即ち、変速機構50は、ニュートラルに切り替えられた状態になる。従って、MG2で発生した動力は、減速機構40には伝達されなくなり、駆動輪に対して出力されなくなる。
MG2の駆動制御時は、これらのように変速機構50の変速制御も行うことにより、MG2で発生した動力が駆動輪に伝達される際における回転速度とトルクを調節する。その際、ECU20は、MG2の回転数制御を行いながら変速制御を行う。つまり、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53、及び変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57とは、クラッチ歯70が噛み合うことによりトルクを伝達するドグクラッチになっている。このため、解放状態のクラッチを係合させる際には、MG2の回転数制御を行い、変速部材低速側クラッチ61や変速部材高速側クラッチ62の回転速度を調節することにより、係合するクラッチ同士のクラッチ歯70が噛み合い易い状態にする。
具体的には、解放しているクラッチを係合させる場合は、低速軸クラッチ53や高速部材クラッチ57の回転数に対して、変速部材低速側クラッチ61や変速部材高速側クラッチ62の回転数が若干高い回転数になるようにMG2の回転数制御を行う。この場合における低速軸クラッチ53や高速部材クラッチ57の回転数は、低速側出力軸52や高速側出力部材56の回転数を検出するセンサを設けることによって検出してもよく、カウンタシャフト41の回転数を検出するセンサを設け、このセンサの検出結果と、カウンタシャフト41と、低速側出力軸52や高速側出力部材56との変速比とに基づいて取得してもよい。
変速機構50のクラッチの係合は、このようにMG2の回転数制御を行い、係合させるクラッチ同士の回転数差を低減させた状態で、ECU20で電磁コイルへの通電を制御して、クラッチの係合方向に変速部材60を移動させることにより行う。これにより、係合する一対のクラッチの双方がそれぞれ有する複数のクラッチ歯70を、他方のクラッチの歯溝75に入り込ませ、クラッチを係合させる。その際に、本実施形態に係る係合制御装置2では、双方のクラッチのクラッチ歯70に形成される面取り部74同士が接触した場合には、MG2の回転数制御を解除することにより、クラッチ歯70を、他方のクラッチの歯溝75に入り込ませる。
次に、クラッチの係合時にクラッチ歯70の面取り部74同士が接触した際における制御について説明する。図5は、クラッチ歯同士が係合する前の状態を示す説明図である。解放状態のクラッチを係合させる係合制御について、例えば、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とを用いて説明すると、係合前の変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70は、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70に対して、係合方向において離れている。変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とが解放状態の場合は、これにより、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とが相対的に回転しても双方のクラッチのクラッチ歯70同士は接触しないため、回転トルクはクラッチ間で伝達されないようになっている。
このように、解放状態の変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とを係合させる際には、低速軸クラッチ53の回転数に対して変速部材低速側クラッチ61の回転数が若干高い回転数になるように、MG2の回転数制御を行いながら、変速部材低速側クラッチ61を低速軸クラッチ53の方向に移動させる。これにより、変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70は、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70に対して、回転方向の相対速度が近い状態で、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70に近付く。
図6は、図5に示すクラッチ歯の面取り部同士が衝突した状態を示す説明図である。変速部材低速側クラッチ61は、回転しながら低速軸クラッチ53に近付くため、係合時の状態によっては、変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70は、面取り部74が、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70の面取り部74に接触し、衝突する場合がある。即ち、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とは、共にクラッチ歯70の先端部72側が、他方のクラッチに対向しており、また、変速部材低速側クラッチ61は、低速軸クラッチ53よりも若干回転数が高くなっている。このため、クラッチの係合時に、低速軸クラッチ53に変速部材低速側クラッチ61が近付いた際には、変速部材低速側クラッチ61の各クラッチ歯70において回転方向の前方側に位置する面取り部74が、低速軸クラッチ53の各クラッチ歯70において回転方向の後方側に位置する面取り部74に衝突する場合がある。このように、クラッチ歯70の面取り部74同士が衝突した場合は、MG2の回転数制御を解除する。
図7は、クラッチの係合時における回転数制御についての説明図である。ここで、クラッチの係合時におけるMG2の回転数制御について説明すると、クラッチの係合制御時には、変速部材低速側クラッチ61の回転数である変速部材回転数91が、低速軸クラッチ53の回転数である出力側回転数92よりも、僅かに高くなるようにMG2の回転数を調節する。この場合、変速部材低速側クラッチ61の回転トルクである変速部材トルク95は、低速軸クラッチ53の回転トルクである出力側トルク96よりも大きくなる。つまり、MG2で発生する動力は、低速側出力軸52側には伝達されていないため、MG2の回転軸15と共に回転をする変速部材60が有する変速部材低速側クラッチ61の回転トルクは、低速側出力軸52が有する低速軸クラッチ53の回転トルクよりも大きくなっている。
クラッチの係合制御時には、この状態で変速部材低速側クラッチ61を低速軸クラッチ53に近付けるが、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53との双方のクラッチ歯70の面取り部74同士が衝突した場合、変速部材低速側クラッチ61の回転数は、一気に低下する。これにより、変速部材回転数91は、出力側回転数92と同程度の大きさになる。
一方、トルクは、変速部材低速側クラッチ61が低速軸クラッチ53に衝突することにより変速部材低速側クラッチ61に対する回転抵抗が急激に大きくなるため、クラッチ歯70の面取り部74同士が衝突した場合には、変速部材トルク95が急激に大きくなる。詳しくは、変速部材低速側クラッチ61は、クラッチ歯70における回転方向の前方側に位置する面取り部74が、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70に衝突することにより、変速部材低速側クラッチ61の回転方向の抵抗が急激に大きくなり、急激にトルクが大きくなる。
本実施形態に係る係合制御装置2では、クラッチの係合時における変速部材トルク95の所定値であるトルク制限値98が予め設定されており、変速部材トルク95がトルク制限値98以上になったら、MG2の回転数制御を解除する。詳しくは、トルク制限値98は、クラッチで伝達するトルクである変速部材トルク95の上限値として予め設定されて、ECU20の記憶部に記憶されている。また、変速部材トルク95は、MG2の駆動制御を行う際にMG2に流れる電流値に基づいてECU20で推定する。ECU20は、クラッチの係合制御時に、電流値に基づいて推定した変速部材トルク95がトルク制限値98以上になったら、MG2の回転数制御を解除する。換言すると、クラッチの係合制御時におけるMG2の負荷が、所定値以上になった場合に、MG2の回転数制御を解除する。
MG2の回転数制御を解除した場合には、MG2で発生するトルクは0になるので、変速部材低速側クラッチ61には、MG2からの回転方向のトルクは伝達されなくなる。これにより、変速部材低速側クラッチ61は、外部から入力される力に応じて回転可能な状態になる。
一方、クラッチの係合が完了していない場合には、変速部材低速側クラッチ61には、電磁コイルで発生する電磁力により、低速軸クラッチ53に近付く方向の力が付与され続けている。このため、変速部材低速側クラッチ61には、この電磁力により発生する力によって回転方向の力が付与され、この回転方向の力によって変速部材低速側クラッチ61が回転することにより、変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70は、回転方向における位置が変化する。
図8は、図6に示すクラッチ歯同士が係合した状態を示す説明図である。面取り部74同士が接触した状態で、MG2の回転数制御を解除した場合には、変速部材低速側クラッチ61は、クラッチ歯70の面取り部74同士の傾斜角度に沿って、係合方向に移動する。つまり、面取り部74は、先端部72から側面部73の方向に向うに従ってクラッチ歯70の幅が広くなる方向に傾斜している。このため、変速部材低速側クラッチ61の回転方向におけるクラッチ歯70の先端側に位置する面取り部74が、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70に接触した状態で、変速部材低速側クラッチ61が係合方向に移動した場合、変速部材低速側クラッチ61は、回転方向の反対側に回転する。
即ち、変速部材低速側クラッチ61は、クラッチ歯70の面取り部74同士が接触した状態で係合方向に移動した場合には、クラッチ歯70における回転方向の前方側に位置する側面部73が、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70との接触部分に近付く方向に向かって、変速部材低速側クラッチ61が回転する。これにより、変速部材低速側クラッチ61は、変速部材低速側クラッチ61全体が低速軸クラッチ53に対して回転方向の反対方向側に回転する。詳しくは、回転中の変速部材低速側クラッチ61は、係合方向に付与される力とクラッチ歯70の面取り部74の傾斜角度とによって回転速度が減速し、低速軸クラッチ53に対する相対回転の方向が、現在の回転方向の反対方向になる。従って、変速部材低速側クラッチ61は、面取り部74の傾斜に沿って、変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70の側面部73が、低速軸クラッチ53のクラッチ歯70の側面部73の回転方向における位置に到達するまで回転する。
変速部材低速側クラッチ61が回転することにより、変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70の側面部73が、この位置まで到達したら、電磁力による係合方向の力により、変速部材低速側クラッチ61は、係合方向に移動する。これにより、変速部材低速側クラッチ61のクラッチ歯70は、低速軸クラッチ53の歯溝75(図2参照)に入り込み、同様に低速軸クラッチ53のクラッチ歯70も、変速部材低速側クラッチ61の歯溝75に入り込む。つまり、図8の軌跡Aで示すように、係合時に面取り部74同士が衝突した変速部材低速側クラッチ61は、回転方向に移動しながら衝突した後、MG2の回転数制御を解除することにより、回転方向の反対方向に回転しながら係合方向に移動して、低速軸クラッチ53と係合する。
変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53との係合時は、双方のクラッチのクラッチ歯70がそれぞれ他方のクラッチの歯溝75に入り込むことにより、双方のクラッチが有するクラッチ歯70の側面部73同士が当接する。これにより、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とは一体で回転するため、変速部材回転数91と出力側回転数92とは、同じ回転数になる(図7参照)。また、双方のクラッチの側面部73同士が当接することにより、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53とは、クラッチ歯70の側面部73同士の間で力を伝達させることが可能になり、クラッチ同士の間でトルクの伝達が可能になる。従って、変速部材トルク95と出力側トルク96とは、同じ大きさになる(図7参照)。
なお、このようにクラッチの係合制御時において、クラッチ歯70の面取り部74同士が衝突することにより、変速部材トルク95がトルク制限値98以上になった場合にMG2の回転数制御を解除する制御は、変速部材高速側クラッチ62と高速部材クラッチ57との係合制御時にも行う。
車両の走行時におけるMG2の駆動制御時には、これらのようにクラッチの係合制御を行い、所望のクラッチを確実にすることにより、MG2で発生した動力を、クラッチを介して駆動輪側に伝達する。
以上のクラッチの係合制御装置2は、クラッチの係合制御時にクラッチ歯70の面取り部74同士が接触することにより、変速部材トルク95がトルク制限値98以上になった場合は、MG2の回転数制御を解除している。これにより、クラッチ歯70同士の接触時に、クラッチ間での伝達トルクが過大になることを抑制することができるため、クラッチが噛み合った際におけるショックが大きくなり過ぎることを抑えることができる。また、クラッチ歯70の面取り部74同士が接触した際には、MG2の回転数制御を解除することにより、面取り部74の傾斜と係合方向の力によってクラッチ同士の相対的な回転方向を、クラッチ歯70を歯溝75に入り込ませる方向にすることができる。これにより、クラッチ歯70を、回転方向における次の歯溝75ではなく、回転方向において若干戻った位置にある直近の歯溝75に入り込ませることができるので、短時間で係合させることができる。これらの結果、係合時におけるショックを抑え、且つ、係合完了時間の短縮化を図ることができる。
また、変速部材トルク95がトルク制限値98以上になった場合は、MG2の回転数制御を解除するため、クラッチ間での伝達トルクが過大なることに起因してクラッチ歯70への入力荷重が過大になることを抑制することができる。この結果、クラッチ歯70への入力荷重を低減することができ、クラッチ歯70の耐久性を向上させることができる。
また、クラッチの係合制御時における回転数制御は、変速部材低速側クラッチ61等の動力源側クラッチの回転数を、低速軸クラッチ53等の被駆動側クラッチの回転数よりも高くするため、クラッチ歯70の面取り部74同士を接触させ易くすることができる。この結果、より確実にクラッチ歯70を他方のクラッチの歯溝75に入り込ませ易くすることができ、より確実に係合完了時間の短縮化を図ることができる。
〔変形例〕
なお、上述したクラッチの係合制御装置2では、変速部材トルク95は、MG2に流れる電流値に基づいて推定しているが、変速部材トルク95は、これ以外の手法によって取得してもよい。例えば、変速部材60を、回転方向の捩れを検出できる構成にし、変速部材60の捩れに基づいて、変速部材トルク95を取得してもよい。クラッチの係合制御時に、クラッチで伝達するトルクを短時間で適切に取得することができる手法であれば、その手法は問わない。
また、クラッチ歯70の面取り部74は、上記の説明や図示した形状以外でもよく、例えば、傾斜角が面取り部74の途中で変化していたり、または、面取り部74は曲面状に形成されていたりしてもよい。また、上述した説明では、係合するクラッチのクラッチ歯70同士の相対的な形状については特記していないが、変速部材低速側クラッチ61と低速軸クラッチ53などの係合するクラッチ間で、クラッチ歯70や面取り部74の形状は同形状であってもよく、クラッチ間で形状が異なっていてもよい。
また、上述したクラッチの係合制御装置2は、ハイブリッド車両に搭載されるモータジェネレータ10の変速機構50用の係合制御装置2になっているが、係合制御装置2は、ハイブリッド車両以外に用いられてもよい。例えば、係合制御装置2は、電気モータで発生する動力のみで走行をする電気自動車に搭載される変速装置のクラッチの係合制御用に用いられてもよい。クラッチの係合制御装置2は、歯先71に面取り部74が形成されたドグクラッチの係合制御を、クラッチを回転させた状態で行うものであれば、上述した形態以外の装置に搭載されるものであってもよい。