しかしながら、前者の技術では、一時的には幅の狭い溝が出来るが、左右からの圧力によって溝の形状が維持出来なくなり、短時間で溝が潰れて左右の土壌によって埋まってしまう。更に、幅の狭い溝の上方を幅の広いパケット状の治具で掘削すると、掘削された溝の部分が耕作不能になるだけではなく、後の降雨によって表土が溝に流れ込み、溝が埋まってしまう。
後者の技術では、ブレードと弾丸部を有する掘削具を、油圧ショベルやバックホーなどに設けた揺動可能なアームの先端に装着して牽引するようにしており、掘削具をトラクタやブルドーザなどの機体に装着して自走移動だけで牽引するのに比べ、掘削具の可動範囲や姿勢自由度が拡大し、これにより、掘削面に段差や傾斜があったり、掘削場所の端部で作業空間が小さい場合でも、弾丸部による暗渠の形成を可能としている。
しかし、土壌を貫通する弾丸部には、依然として圧力の逃げ場がなく、弾丸部は土壌中で大きな進行抵抗を受けるため、小さい径の弾丸部による細い暗渠しか形成できない上、形成された暗渠も、周囲からの圧力によって閉塞するおそれがあった。
また、土壌を農耕地として使用するに当たって、その土質や状態によりそのままでは農耕に適さない場合がある。
例えば、硬質の土壌の場合は、植物が根を張りにくいだけでなく、降雨の際も水が地表面を流れるだけで、地中まで浸透しにくく保水力に乏しい。粘土質などのように含水量が多くて水はけが悪い場合は、排水性に劣り、植物が根腐れを起こしやすく、降雨の後には水たまりもできる。永年耕作してきた土壌の場合であっても、長い間表層の土壌のみを耕耘した結果、表層の土壌が粘土状になる一方、耕転機によって耕されない深部の土壌は、長い間の圧力により硬質化し、透水性が悪化する。
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、爪部と翼部を左右に並設した簡単な構成のアタッチメントでありながら、閉塞しにくい溝や暗渠を形成すると共に土壌の土質や状態を向上させる、走行作業機用のアタッチメント式のリッパーと、アタッチメント式のリッパーにより溝形成と土壌充填の2工程を単純に連続して繰り返すだけで、様々な掘削場所にて多孔質土壌を溝内に充填させることができ、閉塞しにくい溝や暗渠を形成すると共に土壌の土質や状態を向上させる、土壌改良方法とを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明の走行作業機用のアタッチメント式のリッパーは、リッパーの上部にあって走行作業機のアームに着脱可能に装着される装着部と、該装着部から垂設されると共に、リッパー進行方向の前端縁で土壌を破砕し左右に分割する爪部と、前記リッパー進行方向に対して90度より後方に傾斜した傾斜姿勢にて、前記爪部で前端縁よりも後方の左右側面に固設されると共に、前記爪部の下端に設けた爪先に近いほど幅狭となる略三角形状に形成される翼部とを備えている。
そして、走行作業機のアームに着脱可能に装着される装着部が、リッパーの上部に設けられることによって、掘削面に段差や傾斜があったり、掘削場所の端部で作業空間が小さい場合でも、溝を容易に形成することができる。すなわち、リッパーが、揺動可能なアームの先端に装着部を介して装着されるため、リッパーの可動範囲や姿勢自由度が拡大し、様々な掘削場所へのリッパーの移動、挿入、牽引を自在に行うことができる。
更に、リッパー進行方向の前端縁で土壌を破砕し左右に分割する爪部が、装着部から垂設されることによって、リッパー進行方向前方の大きな石や土塊を確実に排除すると共に、溝内に落下する土塊の整粒化を図ることができる。すなわち、通常のリッパーや幅の狭いパケットよりも狭い、爪部の前端縁が、土壌中に挿入されて牽引されるため、大きな石や土塊があっても小片に分割することができる。
加えて、翼部が、リッパー進行方向に対して90度より後方に傾斜した傾斜姿勢にて、爪部で前端縁よりも後方の左右側面に固設されることによって、加圧や表土流入による溝の閉塞を防ぐと共に、暗渠の形成時には暗渠の径の拡大や暗渠内への土砂の流入防止が可能となって、排水能力の向上を図ることができ、更には、土壌の土質や状態も改良することができる。すなわち、爪部の前縁端で土壌が破砕され左右に分割されて整粒化した土塊が、爪部の左右側面から傾斜姿勢の翼部上を通って後ろ斜め上方に摺動してきた後、翼部上端を乗り越えて溝内に落下し、均一な大きさの土塊が隙間をあけて配置された多孔質土壌が溝内に充填される。この多孔質土壌によって、溝にかかる圧力が支持されると共に、溝内に表土が流れ込まないようにすることができ、更に、リッパーに設けた弾丸部によって暗渠を形成する場合には、溝内を貫通する弾丸部の進行抵抗を減少させて弾丸部に作用する土壌からの抵抗負荷を軽減し、使用可能な弾丸部の径を大きくすると共に、フィルター効果が発揮されて土砂がせき止められ、加えて、土塊間の隙間や暗渠によって溝内の透水性や排水性を向上させることができる。
そして、翼部が、爪部の下端に設けた爪先に近いほど幅狭となる略三角形状に形成されることによって、多孔質土壌を溝内に均質に充填することができる。すなわち、翼部で土壌と最初に接触する部分の面積が小さいため、土壌中を通る翼部の進行抵抗が減少し、土塊の翼部上での流れを滑らかにできると共に、翼部の上部ほど左右幅が拡大するため、翼部上を摺動してきた塊を、幅方向に圧縮させることなく互いに離間した状態で、溝内に均一に落下させることができる。
また、掘削時に土壌を貫通して暗渠を形成する弾丸部が、屈曲可能な連結部材を介し、リッパー進行方向に対して爪先の後方に配置される場合には、爪部と翼部により形成された溝内に充填された多孔質土壌の下端部に、弾丸部を貫通させることができる。これにより、溝内を通る弾丸部の進行抵抗を減少させることができ、弾丸部に作用する土壌からの抵抗負荷を軽減して使用可能な弾丸部の径を大きくし、形成可能な暗渠の径を拡大することができる。
また、爪部が1つから成る1本リッパーの場合には、掘削作業に必要な作業空間が小さくて済むと共に、爪部が複数のリッパーに比べ、リッパー全体および該リッパーを装着した走行作業機に作用する土壌からの抵抗負荷を軽減させることができる。これにより、狭い掘削場所や硬質の土壌であっても短時間で掘削作業を終えることができ、作業効率の向上を図ることができる。
また、爪部が3つから成る3本リッパーの場合には、爪部が一つのリッパーに比べ、一度の牽引で掘削可能な面積を大きくすることができる。これにより、広い掘削場所であっても短時間で掘削作業を終えることができ、作業効率の向上を図ることができる。
また、3本リッパーの爪部が、左右方向に等間隔に並設されると共に、中央の爪部が、土壌面からの深さが左右の爪部よりも浅く、かつリッパー進行方向に対して左右の爪部よりも後方に配置される場合には、まず左右の二つの爪部によって溝を形成した後に、中央の一つの爪部によって相対的に浅い溝を形成させることができ、3つの爪部が同一深さで同一の前後位置に配置される3本リッパーの場合に比べ、リッパー全体および該リッパーを装着した走行作業機に作用する土壌からの抵抗負荷を軽減させることができる。これにより、たとえ土壌が硬質であっても、作業性が低下しないようにすることができる。
また、爪部のうちの両端の爪部にのみ弾丸部が配置される場合には、相互干渉の少ない左右離間位置に、一度に2本の暗渠を形成することができる。これにより、安定した暗渠を効率よく形成することができる。特に、中央の爪部が左右の爪部よりも浅い場合には、暗渠が相対的に深部に形成されるため、後の掘削による影響が小さく、一層安定した暗渠を形成することができる。
また、翼部のリッパー進行方向背面と爪部の左右側面との間に、補強部材が介設される場合には、該補強部材によって翼部を爪部によって強固に支持することができる。これにより、たとえ翼部に作用する土壌からの抵抗負荷が大きい土壌や深さであっても、掘削作業が可能となる。
また、本発明の土壌改良方法は、走行作業機のアームに上部の装着部を介して着脱可能に装着されたアタッチメント式のリッパーを、土壌中に突き刺し、前記走行作業機の自走移動および/またはアームの揺動を駆動力として土壌面に沿って牽引することにより、前記装着部から垂設される爪部と、該爪部のリッパー進行方向の前端縁よりも後方の左右側面に、リッパー進行方向に対して90度より後方に傾斜した傾斜姿勢にて固設される略三角形状の翼部とによって土壌を掘削し、断面視略V字状の溝を形成する溝形成工程と、前記前端縁で土壌が破砕され左右に分割されて生じた土塊が、前記翼部上を摺動しながら乗り越えて前記溝内に落下し、該溝内に隙間の多い多孔質土壌を充填する土壌充填工程とを備えている。
そして、走行作業機のアームに上部の装着部を介して着脱可能に装着されたアタッチメント式のリッパーを、土壌中に突き刺し、走行作業機の自走移動および/またはアームの揺動を駆動力として土壌面に沿って牽引することにより、装着部から垂設される爪部と、該爪部のリッパー進行方向の前端縁よりも後方の左右側面に、リッパー進行方向に対して90度より後方に傾斜した傾斜姿勢にて固設される略三角形状の翼部とによって土壌を掘削し、断面視略V字状の溝を形成する溝形成工程によって、掘削面に段差や傾斜があったり、掘削場所の端部で作業空間が小さい場合でも、走行作業機の自走移動および/またはアームの揺動を利用してリッパーを土壌面に沿って牽引することにより、リッパーの可動範囲や姿勢自由度を拡大し、溝を容易に形成することができる。更に、リッパー進行方向前方に大きな石や土塊があっても、爪部の前端縁を利用して土壌を破砕し左右に分割してから、爪部の左右側面から翼部に導くことにより、リッパー進行方向前方から大きな石や土塊を確実に除去することができる。加えて、翼部に導かれた土塊を、傾斜姿勢にある翼部上を通り後ろ斜め上方に向かって摺動させることにより、爪部と翼部の前方から土塊を円滑に排除し、断面視略V字状の溝を効率よく形成することができる。
更に、前端縁で土壌が破砕され左右に分割して生じた土塊が、翼部上を摺動しながら乗り越えて溝内に落下し、該溝内に隙間の多い多孔質土壌を充填する土壌充填工程によって、該多孔質土壌で、溝にかかる圧力が内側から支持されると共に、溝内に表土が流れ込まないようにされ、加圧や表土流入による溝の閉塞を防止することができる。そして、リッパーに設けた弾丸部によって暗渠を形成する場合には、溝内を貫通する弾丸部の進行抵抗を減少させることにより、弾丸部に作用する土壌からの抵抗負荷を軽減して使用可能な弾丸部の径を大きくし、暗渠の径の拡大が可能になると共に、多孔質土壌のフィルター効果により、土砂がせき止められて暗渠内への土砂の流入が防止される。加えて、土塊間の隙間や暗渠によって溝内の透水性や排水性を向上することにより、土壌の土質や状態を改良することができる。
また、リッパー進行方向に対して爪部の爪先よりも後方に配置した弾丸部を、多孔質土壌が充填された溝内の下端部を貫通させることにより、暗渠を形成する作孔工程を備える場合には、工程中に溝内を貫通する弾丸部の進行抵抗を減少させることができる。これにより、弾丸部に作用する土壌からの抵抗負荷を軽減して使用可能な弾丸部の径を大きくし、形成可能な暗渠の径を拡大することができ、排水性の著しい向上を図ることができる。
また、爪部が1つから成る1本リッパーにより、走行作業機の無限軌道幅と同じ間隔で平行に掘削する場合には、走行作業機の無限軌道部分が無限軌道跡の上を通るようにして掘削作業を行うことにより、既に形成された溝が無限軌道部分によって踏圧されることを確実に防止することができる。これにより、加圧や表土流入による溝の閉塞を防ぐことができる。
また、爪部が1つから成る1本リッパーにより、走行作業機の無限軌道幅と同じ間隔で平行に掘削して、複数の溝および暗渠を形成した後に、暗渠よりも浅い深度で、爪部が3つから成る3本リッパーにより掘削する場合には、暗渠を閉塞することなく、土壌の表面から深部にわたって多面的な溝を形成することができ、土壌の土質や状態、あるいは掘削場所の状況に応じて、適切な溝と暗渠の形成が可能となる。
また、3本リッパーによる掘削が、1本リッパーにより形成した隣接する溝の間で、該溝に平行に行われる場合には、同一方向のみに溝や暗渠を形成することができ、排水口の向きが限定されるような排水態様にも対応することができる。
また、3本リッパーによる掘削が、1本リッパーにより形成した溝に直角に行われる場合には、直交する四方向に溝や暗渠を形成することができ、高い排水能力を確保することができる。
また、3本リッパーによる掘削が、1本リッパーにより形成した溝に平行に行われた後に、続いて、1本リッパーにより形成した溝に直角に行われる場合には、一方向と、該一方向に直交する他方向との排水能力に差を設けることができ、排水口の向きによって排水能力に差があるような排水態様にも対応することができる。
また、リッパー進行方向と逆方向にリッパーを移動しながら、該リッパーで掘削部位と反対側の部位により土壌充填工程後の土壌を均し、該土壌面を整地する整地工程を備える場合には、リッパーを整地用のアタッチメントに交換することなく、掘削作業に続けて整地作業を行うことができ、交換作業にかかる時間を省き、アタッチメントの種類も減らすことができ、掘削作業の作業効率の向上や、部品点数の削減による部品コストや保守管理コストの低減を図ることができる。
本発明に係わる走行作業機用のアタッチメント式のリッパーは、爪部と翼部を左右に並設した簡単な構成のアタッチメントでありながら、閉塞しにくい溝や暗渠を形成すると共に土壌の土質や状態を向上させるものとなっている。
また、本発明に係わる土壌改良方法は、アタッチメント式のリッパーにより溝形成と土壌充填の2工程を単純に連続して繰り返すだけで、様々な掘削場所にて多孔質土壌を溝内に充填させることができ、閉塞しにくい溝や暗渠を形成すると共に土壌の土質や状態を向上させるものとなっている。
以下、走行作業機用のアタッチメント式のリッパーに関する本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
なお、本発明に係わるリッパーは、スケーラピリティーを有し、人力や農耕動物によって駆動するときは小型のものを作製して使用すればよく、以下の実施例で説明するような、大型の油圧ショベル等の建設機械を用いて駆動するときは、大型のものを作製して使用することができる。そして、掘削場所の環境や土質、栽培する作物、そこの気候等あらゆる条件に対して、適宜な数値に調整可能である。
更に、以下の実施例では、20トンクラスの油圧ショベルを用いて駆動する場合の標準的な数値をもって説明するが、本質的に同種の機能を実現すべく、あらゆる数値変更を行ったものであっても、本発明の技術的範囲に属するものである。
また、図1の矢印Fで示す方向を、走行作業機である油圧ショベル2がリッパー1を牽引する際のリッパー進行方向とし、以下で述べる各部の位置や方向等は、このリッパー進行方向を前方として説明する。
まず、本発明を適用した走行作業機用のアタッチメント式のリッパー1を装着した油圧ショベル2の全体構成について、図1、図2により説明する。
図1に示すように、油圧ショベル2では、左右一対の無限軌道である履帯3・3によって走行する走行体4の上に、旋回台5を介して旋回体6が設けられている。そして、この旋回体6には、図示せぬエンジンおよび該エンジンによって駆動される油圧ポンプなどの動力源装置7、オペレータを囲んで保護するキャビン8、および油圧によって駆動される作業装置9が搭載されている。
このうちの作業装置9においては、旋回体6に軸支されたブーム10がブームシリンダ11によって上下方向に揺動され、該ブーム10の先端に軸支されたアーム12がアームシリンダ13によって前後方向に揺動される。
そして、該アーム12の先端には、図示せぬ通常のバケットに替えて、本発明に係わるアタッチメント式のリッパー1が、アタッチメントシリンダ22によって前後回動可能に装着されている。
詳しくは、図1、図2に示すように、アタッチメントシリンダ22の下端からは、下方に伸縮可能なシリンダロッド22aが突出され、該シリンダロッド22aの下端には、左右一対のリンクステー14・14の一端と、リンクステー15の一端とが、前後回動可能に連結されると共に、リンクステー14・14の他端は、アーム12の途中部から左右方向に突設した軸部材16の左右端に、前後回動可能に連結されている。
そして、該アーム12の下端とリンクステー15の他端には、それぞれ、軸部材17と軸部材18が前後回動可能に左右方向に挿通され、このうちの軸部材17は、リッパー1の上部を構成する装着部材19の前部に設けた左右の貫通軸受孔24a1・25a1に挿通されて、図示せぬピンによって抜け止めされている。
同様にして、軸部材18も、装着部材19の後部に設けた左右の貫通軸受孔24b1・25b1に挿通されて、図示せぬピンによって抜け止めされており、リッパー1は、装着部材19を介して、油圧ショベル2のアーム12とリンクステー15に着脱可能に装着されている。
従って、リッパー1全体の交換、装着が容易になり、規格に則って製作することにより、特定の油圧ショベル2の機種に依存することなく、汎用のリッパー1として製造することができる。
これにより、アタッチメントシリンダ22に圧油を供給してシリンダロッド22aを伸張させると、軸部材16・17を中心にしてリンクステー15が下降し、リッパー1を矢印26に示す方向に回動させることができる。逆に、アタッチメントシリンダ22から圧油を排出してシリンダロッド22aを縮めると、軸部材16・17を中心にしてリンクステー15が上昇し、リッパー1を矢印27に示す方向に回動させることができる。
以上のような構成において、通常のショベルに代えてリッパー1の装着部材19を軸部材17・18に外嵌させてから、油圧ショベル2を走行操作して所定の掘削場所まで移動した後、作業装置9のブーム10、アーム12を揺動させてリッパー1を所定の位置に設定すると共に、シリンダロッド22aを伸縮させてリッパー1を所定の前後傾倒姿勢に設定することができる。
その上で、再び、ブーム10、アーム12を揺動させてリッパー1を土壌28中に突き刺した後、前方に向かって、油圧ショベル2を走行操作したり、アーム12を揺動操作することにより、土壌28中で、リッパー1を土壌面28aに沿って牽引することができる。
次に、リッパー1について、図2乃至図4により説明する。
該リッパー1には、前述した装着部材19に加え、該装着部材19から垂設される爪部材20と、該爪部材20の左右の側面20a・20bにそれぞれ固設される左右の翼部材21a・21bから成る翼部材21とが備えられている。そして、このリッパー1は、爪部材20が一つだけの1本リッパーである。
このうちの装着部材19は、基板23と、該基板23の左右側端より立設する左右の側板24・25と、該側板24・25のそれぞれの外側の基板23上に立設して内側を保護する左右の保護板29L・29Rと、基板23の下面の前部に横設されて内端間で爪部材20の上端を左右から挟持して固定する左右の補強板30L1・30R1と、基板23の下面の後部に横設されて内端間で爪部材20の上端を左右から挟持して固定する左右の補強板30L2・30R2とから構成される。
ここで、爪部材20が、略平面状の金属板を基にし、板面を左右方向に向けて配置した板状部材であり、装着部材19に対して左右方向への強度が低いことから、前述した補強板30L1・30R1・30L2・30R2を爪部材20の上端に設けるようにしている。
そして、側板24・25の上半部の前部には、それぞれ短筒状のボス部24a・25aが、軸心を左右方向に向けて固設され、該ボス部24a・25a内に、それぞれ、前述した貫通軸受孔24a1・25a1が穿孔されている。同様にして、側板24・25の上半部の後部には、短筒状のボス部24b・25bが、軸心を左右方向に向けて固設され、該ボス部24b・25b内に、それぞれ、前述した貫通軸受孔24b1・25b1が穿孔されている。
爪部材20は、下端に設けたアタッチメント式の爪先20dに近いほど前後幅が狭く形成されると共に、爪部材20がリッパー進行方向に移動して土壌28と接触する刃先に相当する前端縁20cは、リッパー進行方向に対して爪先20dを向けた半月状に形成されている。
更に、爪部材20の厚みは、基になる金属板の厚みを選択することにより、4〜12cm、好ましくは5〜10cm、特に好ましくは8cmである。
加えて、前端縁20cは、金属板を切断したままで、リッパー進行方向に対して垂直かつ直線状に形成してもよいが、前後に傾倒して鋭角にして、土壌28からの抵抗負荷が小さい低負荷で掘削を行うようにしてもよい。
この鋭角にする方法としては、リッパー進行方向に角部を向けた略三角形の部材を取り付けたり、爪部材20自体を直線的にまたは段階的に鋭角に加工するようにしてもよい。なお、爪部材20の上端から爪先20dまでの長さは、所望する掘削深さに応じて変更することができ、100〜150cm、好ましくは115〜125cm、特に好ましくは120cmである。
更に、爪先20dは、最も摩耗する部分であり、摩耗によってリッパー1全体が使用不能になったり、または作業効率の低下を招く恐れがあるため、本実施例の如く、別体にしてアタッチメントとして装着するのが望ましい。
これにより、爪先20d自体が摩耗してきた場合に取り替えることにより、リッパー1の使用を継続することができ、掘削作業の作業性の向上、治具コストの低下を図ることができる。
左右の翼部材21a・21bは、リッパー進行方向に対して90度より後方に傾斜した傾斜姿勢にて、爪部材20で前端縁20cよりも後方の左右の側面20a・20bに固設されると共に、爪部材20の下端に設けた爪先20dに近いほど幅狭となる略三角形状に形成されている。
このうちの傾斜姿勢については、傾斜角、すなわち左右の翼部材21a・21bの爪部材20との接合線31と、リッパー進行方向に対する後方延長線32との間の傾斜角33は、15〜80度、好ましくは30〜60度、特に好ましくは45度である。これは掘削場所の土壌28の硬さに応じ、リッパー1に作用する土壌28からの抵抗負荷と油圧ショベル2からの駆動力との兼ね合いで選択される。
左右の翼部材21a・21bの取り付け位置については、接合線31から爪部材20の前端縁20cまでの間に適切な間隔が設けられている。特に、左右の翼部材21a・21bが最大幅35となる接合線31上端から、爪部材20の前端縁20cまでの最大長さ34は、所望する掘削深さに応じて変更することができ、60〜100cm、好ましくは80〜95cm、特に好ましくは90cmである。
左右の翼部材21a・21bの形状については、爪部材20の基部に近い方、すなわち上方では広く、爪部材20の爪先20dに近い方、すなわち下方では狭くなると共に、左右の翼部材21a・21bの最大幅35は、10〜35cm、好ましくは20〜30cm、特に好ましくは28cmである。そして、この最大幅35は、前述した傾斜角33と併せて考慮され、掘削後に形成される断面視略V字状の溝36の溝角37を勘案して選択されるようにしている。
更に、左右の翼部材21a・21bは、爪部材20を挟んで、その両側に左右対称に取り付けられると共に、上方から下方への幅の変化は、直線的に変化する場合、すなわち三角形、円弧状に変化する場合、階段状に変化する場合のいずれであってもよい。
加えて、左右の翼部材21a・21bの背面には、それぞれ、上下の補強板38L・39Lと補強板38R・39Rが設けられており、左翼部材21aと爪部材20の左側面20aとの間が、補強板38L・39Lによって強固に連結され、右翼部材21bと爪部材20の右側面20bとの間も、補強板38R・39Rによって強固に連結されている。
これにより、前方からの抵抗負荷に対する左右の翼部材21a・21bの支持強度を高めることができ、掘削可能な土壌28の硬さや掘削深さを拡大することができる。
また、リッパー進行方向に対して爪部材20の爪先20dよりも後方には、弾丸部材40が配置されている。
詳しくは、爪部材20で爪先20dと反対側、すなわちリッパー進行方向に対して後側からは、連結ステー41が後方に突設され、該連結ステー41からは、連結ピン42が前後回動可能に左右方向に延設されており、該連結ピン42の両端に、前方に開いたU字形状の連結アーム43の左右の先端部が固設されている。
そして、該連結アーム43の後部には、屈曲可能な連結鎖44の前端が連結され、該連結鎖44の後端に、弾丸部材40が連結されている。この連結鎖44の長さは、50〜120cm、好ましくは80〜110cm、特に好ましくは100cmである。
この弾丸部材40の上方空間は、リッパー1の爪部材20と左右の翼部材21a・21bとによって一度掘削されるため、弾丸部材40が前方の土壌から受ける進行抵抗が小さくなり、弾丸部材40に作用する土壌28からの抵抗負荷を軽減させることができる。
更に、弾丸部材40の最大径は、所望する暗渠45の直径に応じて決めることができ、5〜30cm、好ましくは8〜20cmである。そして、弾丸部材40のリッパー進行方向の先端は、円錐形状または先端に行くに従って段階的に細くなる略円錐形状に形成されており、土壌からの抵抗負荷が減らせるようにしている。
次に、前述したリッパー1の別形態であるリッパー1Aについて、図6、図7により説明する。
該リッパー1Aは、爪部材20が3つから成る3本リッパーであり、一度の牽引で掘削可能な面積を大きくして、広い掘削場所であっても短時間で掘削作業を終えることができ、作業効率の向上を図ったものである。なお、このリッパー1Aは、基本的には、1本リッパーであるリッパー1と同様の考えによって構成されるが、前述した用途の違いから、多少の変更、すなわち3本リッパーとしての最適化が行われている。
該リッパー1Aには、リッパー1と同様に、装着部材49と、該装着部材49より、左から順に垂設される3つの爪部材50L・50M・50Rと、該爪部材50L・50M・50Rのそれぞれの左右の側面50La・50Lb、50Ma・50Mb、50Ra・50Rbに固設される左右の翼部材51La・51Lb、51Ma・51Mb、51Ra・51Rbとが備えられている。
このうちの装着部材49は、基板53と、該基板53の左右方向略中央部より立設する左右の側板54・55とから構成される。
そして、該側板54・55の上半部の前部には、それぞれ短筒状のボス部54a・55aが、軸心を左右方向に向けて固設され、該ボス部54a・55a内に、それぞれ、貫通軸受孔54a1・55a1が穿孔されている。同様にして、側板54・55の上半部の後部には、短筒状のボス部54b・55bが、軸心を左右方向に向けて固設され、該ボス部54b・55b内に、それぞれ、貫通軸受孔54b1・55b1が穿孔されている。
更に、貫通軸受孔54a1・55a1に、アーム12に設けた軸部材17が挿通されると共に、貫通軸受孔54b1・55b1に、リンクステー15に設けた軸部材18が挿通されており、リッパー1Aが、装着部材49を介して、油圧ショベル2のアーム12とリンクステー15に着脱可能に装着されている。
爪部材50L・50M・50Rは、中央の爪部材50Mを中心として、左右方向に等間隔に配置されている。その間隔は、40〜90cm、好ましくは50〜70cm、とくに好ましくは65cmである。従って、両側の爪部材50L・50Rの間隔は、80〜180cm、好ましくは100〜140cm、特に好ましくは130cmとなる。
そして、中央の爪部材50Mは、土壌面28aからの深さが左右の爪部材50L・50Rよりも浅く、かつ前記リッパー進行方向に対して左右の爪部材50L・50Rよりも後方に配置されている。
つまり、中央の爪部材50Mの爪先50Mdは、左右の爪部材50L・50Rの爪先50Ld・50Rdに対し、リッパー進行方向の後方かつ上方にオフセットして配置され、後方への前後オフセット量56と、上方への上下オフセット量57は、それぞれ独立して、20〜40cm、好ましくは28〜30cmから選択することができる。
これにより、左右の爪部材50L・50Rが溝36L・36Rを形成した後に、中央の爪部材50Mが相対的に浅い溝36Mを形成するため、3本が同一位置にある3本リッパーに比べ、リッパー1A全体および油圧ショベル2に作用する土壌からの抵抗負荷が軽減され、3本の溝36L・36M・36Rを効率よく形成することができる。
更に、3つの爪部材50L・50M・50Rの上下途中部には、棒状の連結部材58が横架されている。該連結部材58は、油圧ショベル2への装着部材49から中央の爪部材50Mの翼部材51Mの上端との間であれば良く、ほぼ中間に配置するのが好ましい。加えて、爪部材50L・50M・50Rで連結部材58を接続する位置には、図7に示すような肉厚部50Le・50Me・50Reを設けるなどして、補強をしておくとなお好ましい。連結部材58としては、丸棒、角棒、平面板など、断面形状は任意に選択することができる。
これにより、3つの爪部材50L・50M・50Rを、それぞれ、爪先50Ld・50Md・50Rdまで等間隔に強固に維持することができる。なお、該爪部材50L・50M・50Rの前端縁50Lc・50Mc・50Rcと、前述のリッパー1の爪部材20の前端縁20cの形状は、いずれも本実施例ではリッパー進行方向に対して略平坦としているが、後で詳述する溝形成工程における土壌の破砕性能を向上させるため、鋭角加工や角棒状部材を装着するなどして、前端縁20c・50Lc・50Mc・50Rcに、平面断面視でリッパー進行方向に突出する鋭角角部を設けるようにしてもよい。
翼部材51La・51Lb、51Ma・51Mb、51Ra・51Rbも、前述の翼部材21a・21bと同様に、リッパー進行方向に対して90度より後方に傾斜した傾斜姿勢にて、爪部材50L・50M・50Rで前端縁50Lc・50Mc・50Rcよりも後方の左右の側面50La・50Lb、50Ma・50Mb、50Ra・50Rbに固設されると共に、爪先50Ld・50Md・50Rdに近いほど幅狭となる略三角形状に形成されている。
そして、前述したリッパー1に対しては、角度や寸法上おいて、翼部材51La・51Lb、51Ma・51Mb、51Ra・51Rbの傾斜角33が、30〜85度、好ましくは45〜60度、特に好ましくは52度である点、最大長さ34が、40〜80cm、好ましくは50〜70cm、特に好ましくは60cmである点、最大幅35が、5〜20cm、好ましくは10〜18cm、特に好ましくは15cmである点で異なっている。
なお、翼部材51La・51Lb、51Ma・51Mb、51Ra・51Rbの背面にも、それぞれ、前述した上下の補強板38L・39Lと補強板38R・39Rが設けられており、前方からの抵抗負荷に対する翼部材51La・51Lb、51Ma・51Mb、51Ra・51Rbの支持強度を高めるようにしている。
次に、以上のような構成の1本リッパーのリッパー1、3本リッパーのリッパー1Aを用いた土壌改良方法について、図1、図5、図7、図8により説明する。
図1、図5に示すように、本発明に係わる土壌改良方法では、基本動作として、まず、アタッチメント式のリッパー1・1Aを、油圧ショベル2によって、土壌面28aに翼部材21・51L・51M・51Rが隠れる程度に突き刺した後、土壌面28aに沿って牽引する。すると、土壌28が、爪部材20・50L・50M・50Rと翼部材21・51L・51M・51Rによって掘削され、断面視略V字状の溝36・36L・36M・36Rが形成されるようにして、溝形成工程が行われる。
続いて、該溝形成工程において、爪部材20・50L・50M・50Rの前端縁20c・50Lc・50Mc・50Rcで土壌が破砕され左右に分割されて生じる多数の土塊59が、翼部材21・51L・51M・51Rの前面を摺動しつつ上端縁を乗り越え、リッパー進行方向の後方にできた溝36・36L・36M・36R内に落下して充填され、隙間の多い多孔質土壌60が形成されるようにして、土壌充填工程が行われる。
これにより、以下のような、多岐にわたる土壌改良効果が得られる。
すなわち、土塊59で溝36・36L・36M・36Rが埋め戻されてできたことにより、溝36・36L・36M・36Rが内側から支持されてその形状が維持されると共に、一度耕されて硬度が低下したことにより、弾丸部材40の進行抵抗が減少し、更には、土塊59間の隙間により、透水性の向上、暗渠45への導水による排水性の向上、および暗渠45内への土砂流入に対するフィルター効果による暗渠45の形状維持を図ることができる。
なお、硬質の土壌28については、掘削を複数回に分けて行い、初めは浅く掘削し、最後に目的の深さまで掘削するようにしてもよい。
更に、リッパー1・1Aを土壌面28aに沿って牽引するための駆動力としては、油圧ショベル2自体の自走によるもの、アームシリンダ13の伸縮によるアームの揺動によるもの、あるいはその両方が、利用可能である。
また、リッパー1・1Aに弾丸部材40を付けて掘削すると、前述したように暗渠45を形成することができる。
このうちの1本リッパーであるリッパー1に弾丸部を付けた場合は、後の耕作による影響を受けない深部に、安定した暗渠45を形成することができる。
該リッパー1を用い、20トンクラスの油圧シャベル2により粘土質の土壌を掘削した結果の外観図を図8に示す。掘り返された土塊59が落下してできた多孔質土壌60、該多孔質土壌60が充填される略V字状の溝36、および暗渠45が形成されており、土壌の透水性、排水性を改良することができる。
3本リッパーであるリッパー1Aの場合は、相互干渉の少ない左右離間位置にあって、図7に示すように、中央の爪部材50Mよりも深部に位置する左右の爪部材50L・50Rにのみ、弾丸部材40を配置するようにしてもよい。これにより、安定した暗渠45を、一度に2本も効率よく形成することができる。
なお、暗渠45は、通常、土壌の高位から低位に向けて形成し、土壌の排水性を高めることに貢献するものである。従って、当然のことながら、暗渠45形成後に本発明のリッパー1・1Aで、あるいは通常の耕転機で作業する場合は、暗渠45の深度位置まで届かない範囲で作業し、暗渠45を破壊しないようにすることが望まれる。
また、リッパー1・1Aによる掘削作業の種々の態様について説明する。
まず、1本リッパーであるリッパー1を用いて、油圧ショベル2の履帯3・3間の幅(以下、「無限軌道幅」とする)と同じ間隔で平行に掘削することにより、深い溝36と暗渠45を形成することができる。
更に、リッパー1を用いた後に、3本リッパーであるリッパー1Aを用いて浅い多数の溝36L・36M・36Rを形成することにより、土壌28の土壌面28aから深部にわたって、多面的な掘削を行うことができる。そして、リッパー1Aによる掘削は、リッパー1によって形成した溝36と平行であっても、直角であっても、さらにその両方であってもよい。
特に好ましくは、リッパー1を用いて、20トンクラスの油圧ショベル2の無限軌道幅に対応する150cm間隔で、深さ90cmの溝36および暗渠45を形成した後に、リッパー1Aを用いて、リッパー1で形成した2本の溝36の中間で該溝36に平行に、深さ60cmの溝36L・36M・36Rを形成し、続いて、リッパー1Aを用いて、溝36と直角で等間隔に深さ60cmの溝36L・36M・36Rを形成する。
また、リッパー1・1Aをリッパー進行方向と逆方向に移動させながら、リッパー1・1Aで掘削部位と反対側の部位である、爪部材20・50L・50M・50Rと翼部材21・51L・51M・51Rの各背面を用いて土壌28を均すことにより、土壌面28aを整地することもできる。この整地工程による整地性は、弾丸部材40を配置せず、リッパーの面積が広い3本リッパーであるリッパー1Aを用いる場合に、特に優れている。
なお、上記実施例において説明したリッパー1・1Aおよび土壌改良方法の数値は、20トンクラス油圧ショベル2を用いる場合に適した一例を示したものであって、作業する土壌の大きさ、土質、作付けをする作物などに応じて、750キロ〜24トンクラスの油圧ショベル2を適宜選択し、最適なサイズのリッパー1・1Aを用いるための数値変更が可能である。このため、より広範囲な目的を達成することができる。従って、例示した数値によって本発明が限定されるものではない。
以上のように、本発明を適用した走行作業機用のアタッチメント式のリッパーは、爪部と翼部を左右に並設した簡単な構成のアタッチメントでありながら、閉塞しにくい溝や暗渠を形成すると共に土壌の土質や状態を向上させるものとなっている。
また、本発明を適用した土壌改良方法は、アタッチメント式のリッパーにより溝形成と土壌充填の2工程を単純に連続して繰り返すだけで、様々な掘削場所にて多孔質土壌を溝内に充填させることができ、閉塞しにくい溝や暗渠を形成すると共に土壌の土質や状態を向上させるものとなっている。