以下、本発明の実施の形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータについて、図1乃至図6を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータの構成図である。本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータは、病棟など複数の階床を有する建物10に設けられた昇降路11、12、13、14と、昇降路11、12、13、14をそれぞれ昇降するかご15、16、17、18と、それぞれかご15、16、17、18の昇降を制御する単体運行制御部19、20、21、22(運行制御部)とを備えている。
更にこのエレベータは各階の乗降口23、24及び乗降口23、24と同一階床内に区画されたフロアゾーンB間に設けられた2台のカメラ25と、これらのカメラ25からの画像より避難弱者を抽出し、避難弱者の進入退出方向を検知するカメラ映像処理部26(画像処理部)と、カメラ映像処理部26により中央のフロアゾーンBへの進入を検知された避難弱者の在館者数情報を階床毎に保持する在館者データベース27(データベース)と、検知された進入退出方向により在館者データベース27の在館者数情報を加減算する在館者データベース処理部28(在館者数処理部)とを備えている。
フロアゾーンA、B、Cは各階床の避難弱者の出入りによって各階床の在館者人数を積算するための平面領域であり、予め在館者データベース27に設定される。これらのフロアゾーンA、B、Cは、避難弱者がエレベータの乗降口23、24に近いところに位置するか、あるいは避難弱者がそれ以外の場所に位置するかを表す。フロアゾーンA、B、Cは在館者データベース27上で乗降口23、24と独立して設定されている。また、乗降口23、フロアゾーンB間と、乗降口24、フロアゾーンB間とに境界B1、B2が在館者データベース27上で設定されている。避難弱者が左端の乗降口23から境界B1を越えたことを画像より検知すると、避難弱者がフロアゾーンBに進入したと判定し、避難弱者が境界B1を越えて乗降口23へ向かったことを検知すると、避難弱者がフロアゾーンBから退出したと判定する。避難弱者が乗降口24から境界B2へ向かう方向と、その逆方向とをそれぞれ画像により検知し、在館者数の加減算により常時在館者数を管理するようになっている。
更に本実施形態によるエレベータは、この在館者データベース処理部28が積算開始後、火災発生階の情報を出力する火災発生検出部29(火災検出部)と、この火災発生検出部29からの火災検出により建物10内の残留者を救出する避難運転を実行する避難運転制御部30とを備えている。この避難運転制御部30は、在館者データベース27に保持された階床毎の在館者数情報及び火災発生階情報によって各階の優先順位を決定する。避難運転制御部30はこの優先順位によって救出階を決定し、救出階及び避難階間で往復運転を単体運行制御部19、20、21、22に行わせるようにしている。
建物10は全階床で同じ区画のフロアゾーンA、B、Cを有する。昇降路11は、かご15及びカウンタウェイトに連結された図示しないメインロープと、このメインロープが巻掛けられる図示しない巻上機とを備えている。単体運行制御部19による巻上機の駆動制御によってかご15とカウンタウェイトとが昇降路11内でつるべ式に移動する。昇降路12、13、14は昇降路11の例と同じである。かご15、16、17、18は何れも健常者及び避難弱者の乗降に利用される。かご15、16、17、18は車椅子利用者及び付添人が同時に乗込める程度のかご室容積を有する。
図2は本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータの運行制御部及び避難運転制御部を含むエレベータシステムの構成例を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。単体運行制御部19、20、21、22と、避難運転制御部30とは、全体制御を司るエレベータ制御装置31に設けられている。
第1の単体運行制御部19は、通常運転時、かご15のかご位置の検出と、かご呼び、及び乗場呼びボタン32からの乗場呼びの登録と、これらの呼びに応じたかご15の運行制御とを行う。単体運行制御部19は、避難運転時、避難時救出運転の制御を実行する。避難時救出運転とはかご15に避難階及び行き先階の間を往復させる運転を言う。この単体運行制御部19はかご15のかご内制御装置33とテールコードにより接続されており、このかご内制御装置33との間で通信可能になっている。単体運行制御部19はかご内防犯カメラ34によりかご15のかご室画像を取得可能にされている。単体運行制御部20、21、22も単体運行制御部19と同様であり、それぞれかご16、17、18との間で通信可能にされている。単体運行制御部19、20、21、22の機能は何れもプログラムを実装したROM、作業用RAM、このプログラムを実行するCPU等によって実行される。
また、避難運転制御部30は救出階を火災発生階又はそれよりも上の階に決定するというアルゴリズムを持つ。救出階の優先順位を決めるための別のアルゴリズムを予め避難運転制御部30は決めておいてもよい。避難運転制御部30は、優先順位を決めた後、フロアゾーンBから乗降口23又は乗降口24に向かって退出中の避難弱者がいるかどうかを検出し、検出した階の優先順位を高めるというアルゴリズムを用いてもよい。避難運転制御部30はエレベータ運転を通常運転から避難運転へ切替える。切替えの契機は運転モード切替部35の出力による。エレベータ制御装置31は更に上位コントローラとして、かご呼び及び乗場呼びを受付登録し配車を行う割当制御部36を備えている。
乗降口23、24(図1)は何れも避難弱者の乗車及び降車に使われる。乗降口23、24は平常時及び火災発生時の何れにおいても使われる。在館者数のデータ管理は、乗降口23、24から降車した避難弱者は必ず一旦フロアの部屋に入るものとして扱うようにしている。
2台のカメラ25の設置位置に、境界B1、B2が一致するようにこれらの境界B1、B2は設定されている。各カメラ25は撮影視野を乗降口23、24に向けている。各カメラ25は映像又は画像を出力する。映像とは決められた時間間隔で連続的に作成された静止画像、あるいはリアルタイムの動画像を言う。カメラ25には建物10の壁内配線が接続されており、カメラ25は映像信号をカメラ映像処理部26へ出力する。
カメラ映像処理部26は、避難弱者の存在の検知と、避難弱者の移動方向推定とを実行する。カメラ映像処理部26はカメラ25からの画像から画像視野内に車椅子や杖などの形状を抽出し、避難弱者の存在を検知する。カメラ映像処理部26は抽出処理を決められた時間間隔で常時行う。カメラ映像処理部26は、連続する複数枚の画像フレームより、乗場からフロアゾーンBへ向かう方向、及びフロアゾーンBから乗場へ向かう避難弱者の移動方向を推定演算する。カメラ映像処理部26は避難弱者を検知後、推定演算を行う。カメラ映像処理部26は、画像より炎や煙を検出し火災発生を検出する機能を有してもよい。カメラ映像処理部26は火災検知信号を火災発生検出部29に出力する。
在館者データベース27は建物内の在館者数情報を記憶するものであり、例えば1階、2階…N階という階床番号と、避難弱者の在館者数との対応関係を記憶するハードディスクドライブ装置である。在館者データベース27はカメラ映像処理部26により避難弱者が検知された時刻情報も対応付けて保持する。
在館者データベース処理部28は、避難弱者が乗降口23から境界B1を越えたこと及び乗降口24から境界B2を越えたことにより、在館者データベース27の在館者数を積算する。これらの境界B1、B2を逆方向に避難弱者が越えると、在館者データベース処理部28は、在館者数を減算する。在館者データベース処理部28は在館者データベース27から、どの階床に何人の避難弱者が残留しているかという情報データを読出してこれを出力する。在館者データベース処理部28にはCPU、ROM、RAMが用いられる。在館者データベース処理部28は長期在館者の有無を検知してもよい。病棟や介護施設等において一週間以上出入り無しで避難弱者が滞在していることを検知可能にされている。
また、火災発生検出部29は各階の火災報知器37からの火災報知信号及び識別情報によって火災発生場所及び火災発生階を特定する。これらの火災報知器37はカメラ25を内蔵してもよく、これらのカメラ25の何れかが火災を検知することにより火災発生検出部29は火災の発生場所及び発生階を検出してもよい。火災発生検出部29は、火災発生階情報を出力する。
図3は本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータの避難弱者の救出機能に着目した通常運転時の動作を説明するためのフローチャートである。
上述の構成を有する避難弱者優先救出機能付きエレベータは通常運転を行う。エレベータ制御装置31は割当制御部36により、かご呼びや乗場呼びによる呼び登録と、単体運行制御部19、20、21、22からの運行情報とによってかご15、16、17、18の何れかを配車割当てを行う。
ステップA1において、エレベータ制御装置31は火災が発生したかどうかを監視している。エレベータ制御装置31は、火災を検知しない間、Nルートを通り、ステップA2において、カメラ映像処理部26にカメラ25からの画像の画像解析を実行させる。ステップA3においてエレベータ制御装置31はカメラ映像処理部26から車椅子あるいは杖を検知したことを示す信号を通知されたかどうかを判定する。
図4はカメラ映像処理部26による避難弱者の検知処理例を示す図である。同図はカメラ25が乗降口23を斜め上方から撮影したものである。カメラ映像処理部26による車椅子の形状抽出は画像38より人の顔の高さを抽出することにより行われる。カメラ映像処理部26は決められた時間間隔で起動し、検知又は非検知の処理を行う。カメラ映像処理部26は画像38を複数の水平線によって分割する。カメラ映像処理部26は分割領域中に人の顔の大きさを持つ物体を認識し、物体P、Q、Rを頭部として抽出する。カメラ映像処理部26は頭の位置によりかご床に対する顔の高さを推測し、頭部の下方を下半身部分と推測する。カメラ映像処理部26は顔の高さが画像38の上側に入っていることを検出すると大人が立っていると判定する。
更にカメラ映像処理部26は身長に対して脚部の長さが予め保持する閾値よりも大きいか小さいかを判断する。カメラ映像処理部26は脚部の長さが閾値よりも小さければ子供と判断し、大きければ車椅子利用者と判断する。あるいは、カメラ映像処理部26は破線で囲った部分の大きさが、予め保持する閾値よりも大きいことを検知すると、物体Qは車椅子であると判断してもよい。カメラ映像処理部26は楕円形状の抽出により車椅子の車輪を検知したと判断してもよい。
杖については、例えば人と、線状の輪郭を有する物体とを検知し、この物体が人の移動方向と共に移動すること、人が手摺りに沿って移動すること、物体が傾動することを検知する等による。杖の利用者に反射材を貼っておくことを推奨しておき、反射材を検知するようにしてもよい。また、例えばカラー画像から輝度の高い線状の物体を抜き出し、物体先端が床面に接触していることを検出することにより、視覚障害者用の白杖であると判定すること等を用いてもよい。車椅子利用者や杖の検出方法は種々の方法を用いうることができる。
図3のステップA3において、エレベータ制御装置31は画像検知を示す割込みをカメラ映像処理部26から受信しない間、Nルートを通り、ステップA1に戻る。ステップA3において、エレベータ制御装置31はカメラ映像処理部26から画像検知を示す割込みを受信すると、Yルートを通り、ステップA4において移動方向推定処理を実行する。
カメラ映像処理部26による移動方向の推定は次の4つを推定する。避難弱者が乗降口23から境界B1を越えてフロアゾーンBへ移動したこと。避難弱者がフロアゾーンBから境界B1を越えて乗降口23へ移動したこと。避難弱者が乗降口24から境界B2を越えてフロアゾーンBへ移動したこと。及び避難弱者がフロアゾーンBから境界B2を越えて乗降口24へ移動したこと。また、画像フレーム間を比較すること等によって、カメラ映像処理部26は画像中に楕円形状の物体の移動方向を検出する。避難弱者の退出の検出では、カメラ映像処理部26はその人が既に入室済みか否かに関わらず、車椅子や杖の利用者であることによって加減算を行うようにする。
ステップA5においてカメラ映像処理部26は、移動方向がエレベータ側からフロア方向であるかどうかを判定する。乗降口23からフロアゾーンBへ向かう方向あるいは乗降口24からフロアゾーンBへ向かう方向であるとカメラ映像処理部26が判定すると、Yルートを通り、ステップA6において、在館者データベース処理部28は在館者データベース27の車椅子利用者の在館者数を1つ増やす。また、ステップA5においてカメラ映像処理部26は、移動方向がエレベータ側からフロア方向ではないと判定すると、Nルートを通り、ステップA7で、移動方向がフロア側からエレベータ方向であるかどうかを判定する。このステップA7において、フロアゾーンBから乗降口23へ向かう方向あるいはフロアゾーンBから乗降口24へ向かう方向であると判定すると、Yルートを通り、ステップA8において、在館者データベース処理部28は車椅子利用者の在館者数を1つ減らす。
ステップA6に続くステップA9において、在館者データベース処理部28は一週間以上加減算処理が実行されないフロアが存在するかどうかを判定してもよい。病棟の入院部屋等には通常、人が出入りしており、一週間以上も在館者数が留まっていることは不自然と考えられるからであり、在館者データベース処理部28は滞留を検知するようにする。在館者データベース処理部28は在館者データベース27の時刻情報を元に一週間以上の在館者の滞留の有無の判定を行う。ステップA9において在館者データベース処理部28は一週間以上全く在館者数が変化しないフロアが存在する場合、Yルートを通り、ステップA10において在館者データベース27の在館者数カウンタを0クリアしステップA1に戻る。また、ステップA8の処理が終わった場合、及びステップA7において移動方向がフロア側からエレベータ方向でないと判定された場合、何れも在館者データベース処理部28はステップA9の処理と同じ処理を行う。
また、ステップA1における火災発生の監視中、エレベータ制御装置31が火災を検知すると、Yルートを通り、避難運転("1"参照)に先立って火災管制運転を実行する。エレベータ制御装置31はかご15、16、17、18の何れかに人が乗車しているかどうかを判定し、かご15、16、17、18の何れかが乗車中である場合、乗車かごを最寄り階まで走行させて乗っている人をまず降ろす。何れのかご15、16、17、18も乗車中でない場合、エレベータ制御装置31はエレベータ運転を、火災管制運転から避難運転へ切替える。エレベータ制御装置31は以下に述べる図5の"1"に進み避難運転を実行する。
図5は本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータの避難運転時の動作を説明するためのフローチャートである。同図は避難弱者を迎えに行く運転と、避難弱者を乗車させて救助運搬するときの運転との一連の動作が示されている。
ステップB1において、エレベータ制御装置31は火災発生階を特定する。ステップB2において、エレベータ制御装置31は、火災発生階以上の階における車椅子利用者の在館者数を集計する。エレベータ制御装置31は在館者数情報によってどの辺りの階に避難弱者が集中しているかを集計する。
避難運転制御部30は優先順位を決定する。基本的には、避難運転制御部30は全階のうち乗場呼びボタン32が押されている階を最優先とする。決められた期間内において各階床からの乗場呼びを蓄積し、各階からの呼びの頻度を計測して、これらの階の間で最も頻度が大きい階を最優先としてもよい。更に、車椅子利用者の入居階を全て検索して乗場呼びボタン32が押されている階がない場合、火災階に最高順位を与え、火災階よりも上の複数の階にそれぞれ火災階に近い順に高い優先順位を付与するようにする。例えば3階に火災が発生すると、避難運転制御部30は乗場呼びが上がっている階又は乗場呼びの頻度が大きい階に最初にかご15、16、17、18の何れかを向かわせる。決められた時間以上乗場呼びが発生しないと、避難運転制御部30は3階、4階、5階にそれぞれ第1、第2、第3の優先順位を与える。
別のアルゴリズムとして、各階床のフロアゾーンBから境界B1又は境界B2を乗場へ向かって避難弱者が越えた時刻を収集し、これらの時刻の早い順に優先順位を上げてもよい。単に優先順位に沿って火災階に向かっても避難弱者が未だ乗場に現れていなかったという状況があり得るからである。別のアルゴリズムとして、避難弱者の検知頻度を用いてもよい。避難運転の開始後、避難弱者が連続的に境界B1又は境界B2を乗場へ向かって移動していることをカメラ映像処理部26が検出すると、避難運転制御部30がその階の優先順位を更に上げるようにする。別のアルゴリズムとして、エレベータに乗車中の人が、避難弱者が集中している状況が発生している階を目視できた場合、かご呼び操作盤を特殊操作することを使ってもよい。乗客が何れかの階を示す情報をボタン押下で入力しかご内制御装置33が階情報をエレベータ制御装置31へ通知して避難運転制御部30がその階の優先順位を更に上げてもよい。
ステップB3においてエレベータは避難運転を開始する。建物10は火災発生階の車椅子利用者等の在館者から優先的に救出する旨を館内に放送してもよい。エレベータ制御装置31は、その時点で最高の優先順位を持つ行き先階情報を選択し、この行き先階情報と、単体運行制御部19、20、21、22からの運行情報とによって、かご15、16、17、18の何れかを行き先階へ割当てる。ステップB4において、エレベータ制御装置31はかご15、16、17、18の何れかが救出階へ到着したかどうかを判定する。到着するまで(Nルート参照)、エレベータ制御装置31はそのままにし、到着すると、Yルートを通り、ステップB5においてエレベータ制御装置31は例えば乗場やかご内の報知機器に音声や表示アナウンスを行わせる。救出階の乗場の避難弱者はかご室に乗込む。ステップB6においてエレベータ制御装置31はかごが避難階へ到着したかどうかを判定する(Nルート参照)。エレベータ制御装置31は到着すると、Yルートを通り、ステップB7においてエレベータ制御装置31は火災発生階よりも上階の救出階について、在館者数情報をひとつ減らす処理を行う。
引き続き、ステップB8において、エレベータ制御装置31は火災発生階よりも上の全ての階について、在館者数が0になったかどうかを判定する。火災発生階よりも上の何れかの階の在館者数が0になっていない場合、Nルートを通り、エレベータ制御装置31はステップB9において次の救出階を特定する処理を実行し、ステップB3に戻る。以降、エレベータは避難弱者をピストン輸送する。ステップB8において、エレベータ制御装置31は火災発生階よりも上の全て階の在館者数が0であることを確認すると、Yルートを通り、ステップB10において、避難弱者の救出運転を完了させる。その後、エレベータ制御装置31の制御は、図3のステップA1に移る("2"参照)。
これにより、避難弱者がどれだけ階床フロアに入ってきてどれだけの人数が出て行ったかを各カメラ25からの画像を元に監視し、避難弱者の在館者数を漏れなく管理することができるようになる。
火災発生階を最優先にするアルゴリズムに別のアルゴリズムを適宜組み合わせることにより、救出階に迎えに来たかごに健常者が乗って行ってしまうことを避けられる。避難弱者が救出階の乗場にかご到着前にエレベータドアを開けて待っている間、避難弱者が乗場を離れてしまうと、迎えに来たかごに健常者が乗って避難弱者が乗れなくなってしまう。避難弱者の動きを検出するアルゴリズムを組み合わせることによって救助を確実にできる。火災発生直後に避難運転制御部30が決めた輸送計画を動的に変更することにより、漏れのない救助の確実性を高めることができる。
病院等では電子カルテシステムが設置されており、各階毎に在館者名や在館者数を、この電子カルテシステムのデータベースから抽出することが可能にされている。ところで車椅子利用者であっても体調のよい時は立って歩行する人がいる。階段を使って避難する高齢者がいる。付添人等に背負われて階段を下りることがある。これらの場合、データベースには現実の在館者数が反映されない。実際の在館者数と、データベース上の在館者数との間にズレが生じる。エレベータがデータベースだけを元にした避難運転では、エレベータが未だ在館中で救助を待っている避難弱者の階床へかごで迎えに行って戸開したとき、避難弱者が既に避難し終えて乗場には待ち客がいない可能性がある。他の階の乗場では、データベース上の在館者数よりも多い人数の避難弱者が待ち続けている場合がある。車椅子利用者が他階に車椅子を置いたまま車椅子を使わずに居住階へ戻った後、火災が発生すると、その人は建物に取り残される可能性がある。全ての避難弱者を漏れなく確認しつつ効率的に避難誘導を行うことができない。本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータによれば、在館している全ての避難弱者を安全に効率的に避難誘導することができる。
また、本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータは、火災報知器37がカメラ25を内蔵してもよい。複数台のカメラ付き火災報知器を予め建物10の複数の箇所に設けておく。このエレベータは、カメラ付き火災報知器の設置位置をベースにフロアゾーンを分割設定しておく。通常運転時、エレベータは各カメラ付き火災報知器から送信される画像や映像によって車椅子利用者や杖をついて歩く人など避難弱者を検出し、これらの人の流れを検出する。
火災発生時におけるエレベータの動作は上記例と実質同じである。エレベータは、カメラ映像から車椅子利用者又は杖をついて歩く避難弱者を検出し、その人がエレベータ側から来たのか、エレベータ側に向かったのかを記憶する。エレベータ側から来た場合、そのフロアに滞在する人数に加算し、エレベータ側へ行く場合には減算する。1つのフロアにカメラ25あるいは複数台のカメラ付き火災報知器がある場合、建物内をゾーンに分割し、各ゾーンに対する避難弱者が何人滞在しているかを管理する。そして、火災発生時には、エレベータは火災発生階より上の階への避難弱者の救出を行う。避難運転制御部30は同じ階床における隣のフロアゾーンから移動してくる避難弱者が検出された階が存在するかどうかを判定する。避難運転制御部30は避難弱者が検出された階の優先順位を上げる。エレベータでしか避難ができない避難弱者である車椅子利用者等に優先的に割付けして避難運転を行える。救出を停止する条件は、館内避難弱者数がゼロか、煙が充満しておりカメラ付き火災報知器が館内の映像を検出できないか、あるいはカメラ付き火災報知器が炎を検出するか等である。これらの条件が生じるまでエレベータは避難運転を続ける。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、フロアゾーンA、C側に乗場が設けられエレベータ号機数が4基であったが、エレベータ号機数は単基であってもよい。図6は本発明の第2実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータの構成図である。既述の符号はそれらと同じか同等の要素を表す。
本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータは、建物10に設けられた昇降路11と、昇降路11を昇降するかご15と、かご15の単体運行制御部19と、各階の乗降口23及びフロアゾーンB間に設けられた階床毎に1台のカメラ25と、各階のカメラ25からの画像より避難弱者を抽出し、避難弱者の進入退出方向を検知するカメラ映像処理部26とを備えている。更にこのエレベータは、フロアゾーンBへの進入を検知された避難弱者の在館者数情報を階床毎に保持する在館者データベース27と、検知された進入退出方向により在館者データベース27の在館者数情報を加減算する在館者データベース処理部28と、火災発生階の情報を出力する火災発生検出部29と、火災検出により避難運転を実行し、階床毎の在館者数情報及び火災発生階情報によって各階の優先順位を決定する避難運転制御部30とを備えている。この避難運転制御部30は、優先順位によって救出階を決定し、救出階及び避難階間で往復運転を単体運行制御部19に行わせる。
このような構成の本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータは、第1の実施形態の例と同様に動作する。エレベータは、通常運転時、カメラ25の映像から車椅子利用者や杖をついて歩く避難弱者を検出する。かご15がある階に着床後、乗場を視野とする画像や映像内で車椅子利用者を検出すると、エレベータは避難弱者が境界B1を越えて乗降口23からフロアゾーンBへ移動したかどうかを画像差分や映像の動きの検出によって判定する。エレベータは、フロアゾーンBへ向かった場合、在館者データベース27のその階の在館者数を1つ増やす。また、エレベータは、乗場の映像から、避難弱者を検出し、且つこの人がフロアゾーンBから乗降口23へ移動していることを検出すると、在館者数を1つ減らす。
火災が発生した場合、エレベータは、火災発生階を特定し、最初に乗場呼びが押されている階を探す。乗場呼びがない場合、エレベータは、例えば火災発生の3階から上の階の在館者がどれくらい残留しているかを検出し、3階に最高の優先順位を付し、次点からそれよりも下位の優先順位を、4階以降の上階に順番に付する。エレベータは、行き先階と、避難階との間を往復運転し、避難弱者をピストン輸送する。避難運転実施中もエレベータは何れかの階床のカメラ25から避難弱者を検出し続ける。優先順位を元に避難弱者のピストン輸送をしている間に、避難弱者を画像検知した場合、処理に割込んで多階の優先順位を上げてからその階へかごを向かわせてもよい。エレベータは、建物10の全ての在館者数が0になるまで救出階へ迎えに行くことと、救出階から避難階へ避難弱者を輸送することとを繰返す。
本発明のこの実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータによれば、各階床の乗場の数が一箇所であっても避難弱者の滞在状況を管理しながら避難運転を行える。火災発生時、優先順位を付けて避難計画を立てて効率的に全ての避難弱者を漏れなく避難誘導することができる。本実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータは、火災報知器37がカメラ25を内蔵してもよい。
(他の実施形態)
上記の実施形態は実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。上記実施形態では、エレベータ号機数は2〜3基及び5基以上でもよい。
フロアゾーンA、B、Cのゾーン数や、ゾーン設定の仕方及びゾーンどうしの境界の設定の仕方は種々変更可能である。乗降口23、24の位置は建屋物件の間取りによって異なるため、カメラ25の位置、カメラ25及び乗降口23間の位置関係、カメラ25及び乗降口24間の位置関係も種々変更可能である。例えば一フロアの中央に複数のエレベータ号機の昇降路空間を配置し、乗降口を集中させるような間取りを建物10はとってもよく、実施形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータはこのような間取りであっても対応可能である。複数の乗降口と、これらの乗降口の周囲に設けられたフロアゾーンとを複数の境界を設定してこれらの乗降口及びフロアゾーン間を切離し、カメラ25により避難弱者が何れかの境界を越えて内側から外側の方向へ移動したこと、及びその逆方向に移動したことを検知することにより、上記実施形態の効果と同様の効果を得られる。
また、カメラ25の視野は乗降口23、24方向とは逆にフロアゾーンBを向けて避難弱者の出入りを向けて設置してもよい。各カメラ25及びカメラ映像処理部26は、境界B1、B2を越える避難弱者の移動方向を上記実施形態の例と逆にする。
実施の形態に係る避難弱者優先救出機能付きエレベータは避難弱者の進入及び退出の判定に、かご内防犯カメラ34からの画像や映像を補助的に使ってもよい。かご内防犯カメラ34で避難弱者を検知したこと、及びその後、一定時間内に乗場においてカメラ25が避難弱者を検知したことによって避難弱者のフロアゾーンBへの移動とこのエレベータは検出するようにもできる。
また、かご15、16、17、18は車椅子利用者が2人以上乗込める程度のかご室容積を持ってもよい。例えば2台の車椅子利用者がゾーンBからゾーンAへ向かったことを、カメラ映像処理部26は1台の車椅子利用者の検知処理を、連続して繰返すことによって、1台の車椅子利用者の検知例と同様にして行う。
在館者データベース処理部28は、階床別の在館者数情報を表示可能なデータ形式に変換して出力してもよい。在館者データベース処理部28は、建物10の守衛や防災センタあるいは消防官の探索隊員の装備器材へ階床別の在館者数情報をリアルタイムで送ってもよい。車椅子利用者や杖の検知は種々の方法を使うことができる。
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。