以下に、本発明にかかるブラシレスDCモータおよび換気送風機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本実施の形態のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。ブラシレスDCモータは、駆動回路2と、モータ部3と、位置センサ4と、速度検出部5と、直流母線電圧検出部6と、直流母線平均電流検出部7と、電機子電流制御部8と、を備える。また、駆動回路2と、速度検出部5と、直流母線電圧検出部6と、直流母線平均電流検出部7と、電機子電流制御部8と、からモータトルク制御部12aを構成する。
まず、駆動回路2について説明する。駆動回路2は、整流平滑回路1からの直流電圧を可変電圧・可変周波数の交流電力に変換して前記モータ部3に電力供給する。駆動回路2は、交流電源20を整流平滑回路1にて直流化した直流電源から供給される正負直流母線間に、各相2個ずつでそれぞれを直列接続した直列接続点を3相交流出力端子とするスイッチング素子(T1,T4)、(T2,T5)、(T3,T6)と各スイッチング素子T1〜T6にそれぞれ逆並列に還流ダイオードD1〜D6を備えたインバータ主回路2aと、位置センサ4の信号から3相電圧波形を生成する3相分配回路2bと、3相電圧波形の電圧を電機子電流制御部8からの指示に従いパルス幅変調し、6個のスイッチング素子のオンオフ指令として出力するPWM変調回路2mと、そのオンオフ指令を各スイッチング素子へ出力し駆動するゲート駆動回路2gと、から構成される。
モータ部3は、回転軸や永久磁石から成る回転子3rと、回転子3rから発する磁束が有効に鎖交するように配置された電機子巻線3cと、それらを保持収納する外殻部材(図示せず)等の固定子と、から構成される。モータ部3は、電機子巻線3cに流れる電機子電流Iaと、回転子3rから発生し電機子巻線3cに鎖交する磁束との電磁気的作用により回転子3rに回転力を発生する。
位置センサ4は、ホールIC等の3個のセンサを回転子3rの近傍へ配置され、回転子3rの永久磁石から到来する磁束の極性を検知し、回転子3rの回転位相を示す位置信号を3相分配回路2bおよび速度検出部5へ出力する。位置センサ4では、電機子巻線3cの各相の中心の位置(角度)と同じ位置(角度)に配置された場合、位置信号の位相は電機子巻線3cの各相に鎖交する磁束と同じ位相を検知できるが、回転方向にずれた位置(角度)に配置された場合、そのずれた角度分検知位相もずれる。また、回転子3rの回転に伴い、電機子巻線3cに鎖交する磁束が変化して、電機子巻線3cに誘起電力が発生するが、鎖交磁束に対して誘起電力の位相は電気角で90度進んだ位相となり、位置信号の位相と誘起電力の位相もその分ずれる。なお、ここでは、位置センサ4の個数を3個の場合について説明するが、これに限定するものではなく、3個以外の個数としてもよい。
速度検出部5は、図1の場合、FG部5fが、位置センサ4から得た3個の位置信号を排他的論理和などの論理処理を行って合成し、電気角で120度周期の回転速度に比例した周波数のパルス列とし、速度演算部5cが、その周波数を計測して回転子3rの回転速度ωrを求め、回転速度フィードバック値ωrfとして電機子電流制御部8へ出力する。
直流母線電圧検出部6は、直流電源の正負直流母線間に抵抗R1およびR2を直列に接続し、その分圧電圧を検出し直流母線電圧フィードバック値Vdcfとして電機子電流制御部8へ出力する。直流母線電圧フィードバック値Vdcfは、「Vdcf=Vdc×R1/(R1+R2)」として表すことができる。
なお、ここでは、交流電源20から整流平滑回路1経由で供給される電源を直流電源とする。整流平滑回路1は、一例として、ブリッジ型に配置された4つのダイオードからなる整流回路1dと、コンデンサ1cと、から構成しているが、これに限定するものではない。
直流母線平均電流検出部7は、直流電源の正負直流母線の一方の直流母線とインバータ主回路2aの間に介在させたシャント抵抗器7rと、平均化回路7aと、から構成される。シャント抵抗器7rは、インバータ主回路2aのスイッチング時に直流母線に流れるパルス状の電流を、その電流に比例したパルス状電圧に変換し、平均化回路7aへ出力する。平均化回路7aは、シャント抵抗器7rから入力されるパルス状電圧を、ローパスフィルタに通してインバータ主回路2aの直流母線に流れる電流の平均値(直流母線平均電流Idc)相当に変換し、それを直流母線の直流母線平均電流フィードバック値Idcfとして電機子電流制御部8へ出力する。
電機子電流制御部8は、電機子巻線3cに流す電流の目標値である指令値(電機子電流指令値)Ia*と、前記回転速度フィードバック値ωrfと、前記直流母線電圧フィ−ドバック値Vdcfと、前記直流母線平均電流フィードバック値Idcfと、を入力する。電機子電流推定部8fは、このうち、前記回転速度フィードバック値ωrfと、前記直流母線電圧フィ−ドバック値Vdcfと、前記直流母線平均電流フィードバック値Idcfと、を変数として電機子電流Iaを演算により推定して電機子電流フィードバック値Iafとして出力する。偏差算出部8dは、電機子電流指令値Ia*に対する電機子電流フィードバック値Iafの偏差ΔIaを求める。制御アンプ8aは、偏差ΔIaに対して比例動作や積分動作等の演算を実施し、その演算結果を駆動回路2へ出力電圧を指示する電圧指示値である信号Vsとして出力する。ここでは、偏差ΔIaがなくなるような信号Vsを出力する。これらの制御により、電機子電流指令値Ia*に対して電機子電流フィードバック値Iafを一致させることができる。
<電機子電流指令値Ia*の設定方法について>
発生トルクTmに対して必要な電機子電流Iaは、非突極のブラシレスDCモータを電機子巻線3cに生ずる誘起電力の位相と電機子電流Iaの位相とが一定の位相差となるように制御した場合は、電機子電流Iaにトルク定数Ktを乗じ、係数倍したものが発生トルクTmになるという比例関係を利用して求めている。すなわち、電機子電流指令値Ia*は、所望の発生トルクTmを係数倍して求めたものである。
<電機子電流の推定方法について>
電機子巻線3cに生ずる誘起電力の位相と電機子電流Iaの位相とがほぼ一定の位相差となるように制御されたモータ部3は、永久磁石界磁のブラシ付DCモータに近い特性を示し、図2のように表すことができる。図2は、ブラシレスDCモータの近似等価回路を示す図である。ここで、Raは電機子巻線抵抗を、Laは電機子巻線インダクタンスを、Keは誘起電力定数を、ωrは回転速度を、Vmはモータ印加電圧を、Iaは電機子電流を、それぞれ表す。したがって、インバータ主回路2aからモータ部3へ供給される電力は、定常的にはモータ印加電圧Vmと電機子電流Iaとの積となる。また、インバータ主回路2aの入力電力は、直流母線電圧Vdcと直流母線平均電流Idcとの積で求まる。エネルギー保存の法則により、モータ部3へ供給される電力は、インバータ主回路2aの入力電力からインバータ主回路2aの損失Pdを差し引いた分と等しくなり、下記式(1)の関係が成り立つ。
Vm×Ia=(Ra×Ia+Ke×ωr)×Ia
=Vdc×Idc−Pd
=Vdc×Idc×η …(1)
ここで、式(1)におけるηは、インバータ主回路2aの効率である。一般的にインバータ主回路2aの損失Pdは、入出力電力の数%と小さく設計される。また、インバータ主回路2aの損失Pdは、入力電力(Vdc×Idc)の増減に対し全く比例するわけではないが、増減する関係にあるので定数と近似することができる。式(1)を電機子電流Iaについて解くと、電機子電流Iaは、下記式(2)のようになる。なお、√(A)は、Aの平方根を示すものとする。
Ia=(√((Ke×ωr)2+4×Ra×Vdc×Idc×η)−Ke×ωr)
÷(2×Ra) …(2)
ここで、式(2)の直流母線電圧Vdc、直流母線平均電流Idc、回転速度ωrに、それぞれのフィードバック値である、直流母線電圧フィードバック値Vdcf、直流母線平均電流フィードバック値Idcf、回転速度フィードバック値ωrfを変数として代入する。また、電機子巻線抵抗Ra、誘起電力定数Ke、インバータ主回路効率ηを定数として設定する。電機子電流推定部8fでは、これらの変数および定数を用いて電機子電流Iaを演算により推定し、電機子電流フィードバック値Iafを得る。上記変数を代入した場合、上記の式(2)は、以下の式(2´)のように表すことができる。
Iaf=(√((Ke×ωrf)2+4×Ra×Vdcf×Idcf×η)
−Ke×ωrf)÷(2×Ra) …(2´)
電機子電流制御部8では、電機子電流推定部8fが、上記の式(2´)を用いて演算により電機子電流フィードバック値Iafを求める。つぎに、偏差算出部8dは、電機子電流指令値Ia*に対する電機子電流フィードバック値Iafの偏差ΔIaを求め、そして、制御アンプ8aが、偏差ΔIaに対して演算を実施した結果を駆動回路2へ電圧指示値である信号Vsとして出力する。制御アンプ8aは、偏差ΔIaをなくす信号Vsを出力する。
以上説明したように、本実施の形態では、発生トルクに比例する電機子電流の目標値である電機子電流指令値Ia*に対して、電機子電流制御部8が、直流母線電圧フィードバック値Vdcf、直流母線平均電流フィードバック値Idcf、および回転速度フィードバック値ωrfから演算により求めた電機子電流フィードバック値Iafを一致するように制御することとした。これにより、電機子電流フィードバック値Iafの大きさを所望の発生トルクに必要な電機子電流Iaの大きさにできることから、発生トルクを任意に高精度に制御することができる。
このとき、電機子巻線3cに流れる電流の大きさをCT(カレントトランスフォーマー)などの高価で大きな部品を使って直接検出することなく、直流母線電圧検出部6、直流母線平均電流検出部7、速度検出部5といった比較的小形で安価な部品の構成で高精度な検出が可能な情報を元に演算して求める構成としたので、高精度なトルク制御が可能なブラシレスDCモータを、小形で安価に実現することができる。
実施の形態2.
図3は、本実施の形態のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図3では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
図3に示すように、本実施の形態のブラシレスDCモータでは、電機子電流制御部8に替えて電機子電流制御部9を備える点が、実施の形態1のブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。また、駆動回路2と、速度検出部5と、直流母線電圧検出部6と、直流母線平均電流検出部7と、電機子電流制御部9と、からモータトルク制御部12bを構成する。電機子電流制御部9では、電機子電流推定部8fに替えて電機子電流推定部9fを備える。電機子電流推定部9fは、さらに、電機子電流指令値Ia*を取り込んで電機子電流Iaを演算により推定し、電機子電流フィードバック値Iafを得る。ここで、電機子電流推定部9fでは、式(1)を以下の式(3)のように展開する。
Ia=Vdc×Idc×η/(Ra×Ia+Ke×ωr) …(3)
右辺の電機子電流Iaには電機子電流指令値Ia*を用い、また、他の直流母線電圧Vdc、直流母線平均電流Idc、回転速度ωrには、実施の形態1と同様、それぞれ、直流母線電圧フィ−ドバック値Vdcf、直流母線平均電流フィードバック値Idcf、回転速度フィードバック値ωrfを用いる。ここから前記電機子電流フィードバック値Iafを求める場合、式(3)は、以下の式(3´)のように表すことができる。
Iaf=Vdcf×Idcf×η/(Ra×Ia*+Ke×ωrf) …(3´)
電機子電流推定部9fは、式(3´)を用いて電機子電流Iaを演算により推定し、電機子電流フィードバック値Iafを得ることができる。この場合においても、実施の形態1と同様、電機子電流Iaを目標値である電機子電流指令値Ia*に近づくように制御することができる。
以上説明したように、本実施の形態では、電機子電流推定部9fにおいて、さらに、電機子電流指令値Ia*を取り込んで電機子電流Iaを演算して推定し、電機子電流フィードバック値Iafを得ることとした。これにより、実施の形態1と同様の効果を得られるほか、電機子電流の演算による推定において平方根の演算が不要となるため、演算が容易となる。
実施の形態3.
図4は、本実施の形態のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図4では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
図4に示すように、本実施の形態のブラシレスDCモータでは、電機子電流制御部8に替えて電機子電流制御部10を備える点が、実施の形態1のブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。また、駆動回路2と、速度検出部5と、直流母線電圧検出部6と、直流母線平均電流検出部7と、電機子電流制御部10と、からモータトルク制御部12cを構成する。電機子電流制御部10では、電機子電流推定部8fに替えて直流母線平均電流指令演算部10rを備える。直流母線平均電流指令演算部10rは、電機子電流指令値Ia*と、回転速度フィードバック値ωrfと、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、を入力し、直流母線に流すべき平均電流の指令値である直流母線平均電流指令値Idc*を生成する。ここで、直流母線平均電流指令演算部10rは、式(1)を以下の式(4)のように展開する。
Idc=(Ra×Ia+Ke×ωr)×Ia/(Vdc×η) …(4)
電機子電流Ia、回転速度ωr、直流母線電圧Vdcに、それぞれ電機子電流指令値Ia*、回転速度フィードバック値ωrf、直流母線電圧フィ−ドバック値Vdcfを代入し、直流母線平均電流Idcを直流母線平均電流指令値Idc*へ変換する。この場合、式(4)は、以下の式(4´)のように表すことができる。
Idc*=(Ra×Ia*+Ke×ωrf)×Ia*/(Vdcf×η)…(4´)
電機子電流制御部10では、直流母線平均電流指令演算部10rが上記式(4´)を用いた演算により直流母線平均電流指令値Idc*を求めた後、偏差算出部8dが、直流母線平均電流指令値Idc*と直流母線平均電流フィードバック値Idcfとの偏差ΔIdcを求める。そして、制御アンプ8aが、偏差ΔIdcに対して比例動作や積分動作等の演算を実施し、その演算結果を駆動回路2の出力電圧を指示する信号Vsとして出力する。制御アンプ8aは、偏差ΔIdcをなくす信号Vsを出力する。これらの制御により、電機子電流制御部10では、直流母線平均電流指令値Idc*に対して直流母線平均電流フィードバック値Idcfの大きさを一致させることができる。その結果、式(1)の関係が成り立っていることから、電機子電流指令値Ia*で指示した大きさと同じ大きさの電機子電流Iaを流すことができる。
以上説明したように、本実施の形態では、直流母線平均電流指令演算部10rにおいて、電機子電流指令値Ia*と、回転速度フィードバック値ωrfと、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、を入力して直流母線平均電流指令値Idc*を生成し、偏差算出部8dが、直流母線平均電流指令値Idc*と直流母線平均電流フィードバック値Idcfとの偏差ΔIdcを求め、制御アンプ8aが、偏差ΔIdcをなくす出力電圧を指示する信号Vsを出力することとした。この場合においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態1のような平方根の演算が不要であるため、演算が容易となる。また、直流母線電圧Vdcの値の変動が小さい場合は係数とみなせることから、除算が不要となり、さらに演算が容易となる。
実施の形態4.
図5は、本実施の形態のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図5では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
図5に示すように、本実施の形態のブラシレスDCモータでは、電機子電流制御部8に替えて電機子電流制御部11を備える点が、実施の形態1のブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。また、駆動回路2と、速度検出部5と、直流母線電圧検出部6と、直流母線平均電流検出部7と、電機子電流制御部11と、からモータトルク制御部12dを構成する。電機子電流制御部11では、電機子電流推定部8fに替えて速度指令演算部11rを備える。速度指令演算部11rは、電機子電流指令値Ia*、と、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、直流母線平均電流フィードバック値Idcfと、を入力し、回転速度の指令値である回転速度指令値ωr*を生成する。ここで、速度指令演算部11rは、式(1)を以下の式(5)のように展開する。
ωr=(Vdc×Idc×η/Ia−Ra×Ia)/Ke …(5)
電機子電流Ia、直流母線電圧Vdc、直流母線平均電流Idcに、それぞれ電機子電流指令値Ia*、直流母線電圧フィ−ドバック値Vdcf、直流母線平均電流フィードバック値Idcfを代入し、回転速度ωrを回転速度指令値ωr*へ変換する。この場合、式(5)は、以下の式(5´)のように表すことができる。
ωr*=(Vdcf×Idcf×η/Ia*−Ra×Ia*)/Ke …(5´)
電機子電流制御部11では、速度指令演算部11rが上記式(5´)を用いた演算により回転速度指令値ωr*を求めた後、つぎに、偏差算出部8dが、回転速度指令値ωr*と回転速度フィードバック値ωrfとの偏差Δωrを求める。そして、制御アンプ8aが、偏差Δωrに対して比例動作や積分動作等の演算を実施し、その演算結果を駆動回路2の出力電圧を指示する信号Vsとして出力する。制御アンプ8aは、偏差Δωrをなくす信号Vsを出力する。これらの制御により、電機子電流制御部11では、回転速度指令値ωr*に対して回転速度フィードバック値ωrfの大きさを一致させることができる。その結果、式(1)の関係が成り立っていることから、電機子電流指令値Ia*で指示した大きさと同じ大きさの電機子電流Iaを流すことができる。
以上説明したように、本実施の形態では、速度指令演算部11rにおいて、電機子電流指令値Ia*と、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、直流母線平均電流フィードバック値Idcfと、を入力して回転速度指令値ωr*を生成し、偏差算出部8dが、回転速度指令値ωr*と回転速度フィードバック値ωrfとの偏差Δωrを求め、制御アンプ8aが、偏差Δωrをなくす信号Vsを出力することとした。この場合においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態1のような平方根の演算が不要であるため、演算が容易となる。また、回転速度の制御ループを形成しているので、制御アンプ8aのゲイン設定により、回転速度の応答性を自在に設定することが可能となる。
実施の形態5.
図6は、本実施の形態のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図6では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
ここでは、実施の形態1〜4に示したブラシレスDCモータのモータトルク制御部12を用いて、負荷トルクに応じて回転速度ωrが変化する誘導モータのような制御特性を実現する構成について説明する。
図6において、モータトルク制御部12は、実施の形態1〜4に示したモータトルク制御部12a、12b、12c、12dのいずれかとする。さらに、図6に示すブラシレスDCモータでは、モータトルク制御部12の外部に電機子電流指令生成部13aを備える点が、実施の形態1のブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。電機子電流指令生成部13aは、回転速度フィードバック値ωrfを入力し、電機子電流指令値Ia*を生成する。
まず、誘導モータの特性について説明する。図7は、誘導モータの特性を模擬するのに使用する回転速度ωrと発生トルクTとの関係を示す特性図である。図7において、横軸は回転速度ωr[r/min]、縦軸はトルクT[mN・m]を示す。図7では、回転速度ωrに応じて変化する3つのトルク特性Tm1、Tm2、Tm3を示す。これらは、誘導モータのトルク特性である。この特性は、誘導モータ実機の特性を測定して得ることができ、また、実機が無くても、誘導モータの構造で決まる巻線抵抗やインダクタンス等を用いて等価回路から計算により求めることもできる。
また、図7では、例えば、遠心式換気送風機に搭載した場合における圧力損失特性に対応した3つの負荷トルク特性21a、21b、21cを示す。負荷トルク特性21aは圧力損失が無い時の特性、負荷トルク特性21bは圧力損失が小さい場合の特性、負荷トルク特性21cは圧力損失が大きい場合の特性であり、各圧力損失状態において回転速度ωrはモータの発生トルク特性と負荷トルク特性の交点で釣り合い安定する。すなわち、図7では、遠心式換気送風機に搭載した誘導モータは、圧力損失に応じて発生トルクおよび回転速度ωrが変化することを示している。図7では、比較のため、さらに一定速度制御モータの特性22を示す。
前述の特許文献1に開示される一定速度制御モータでは、特性22に示すように、圧力損失の変化により負荷トルクが変化しても、回転速度ωrは変化せず一定である。そのため、このような特性のモータを遠心式換気送風機に搭載した場合、静圧変動に対する風量変化が大きくなり、遠心式換気送風機としての性能が低下してしまうという問題があった。これに対し、誘導モータでは、図7に示すように、圧力損失が大きくなるに連れて回転速度が速くなるように変化するので、静圧変動に対する風量変化が少なく、換気送風機としての性能低下を軽減することができる。
本実施の形態では、3つのトルク特性Tm1、Tm2、Tm3のうち、トルク特性Tm1を実現する場合について説明する。なお、後述する実施の形態6では、3つのトルク特性Tm1、Tm2、Tm3のうちの少なくとも2つを実現する場合について説明する。
図8は、電機子電流指令生成部13aが生成する電機子電流指令値Ia*と回転速度ωrとの関係を示す特性図である。図8では、回転速度ωrに応じて変化する2つの電機子電流指令値Ia1*、Ia2*、Ia3*の特性が、回転速度ωrを変数とする関数f1、f2として示されている。電機子電流指令値Ia1*、Ia2*、Ia3*は、それぞれ、図7に示すトルク特性Tm1、Tm2、Tm3を得るために必要な特性として示している。本実施の形態では、そのうちの電機子電流指令値Ia1*を生成する場合を示す。後述する実施の形態6では、3つの電機子電流指令値Ia1*、Ia2*、Ia3*のうちの少なくとも2つを生成する場合を示す。
ここで、電機子電流指令生成部13aは、回転速度ωrとして回転速度フィードバック値ωrfを入力し、回転速度フィードバック値ωrfに対応して必要とされる電機子電流指令値Ia1*を求める手段として、回転速度フィードバック値ωrfに対する発生トルクTmを係数倍して求めたものをあらかじめテーブルとして備えておく。回転速度フィードバック値ωrfに対する発生トルクTmの特性が、例えば、図7に示すトルク特性Tm1の場合、電機子電流指令生成部13aは、モータトルク制御部12から得られる回転速度フィードバック値ωrfのところのテーブルを参照し、その回転速度フィードバック値ωrfのときに必要とされる電機子電流指令値Ia1*を求めて、モータトルク制御部12へ出力する。すなわち、電機子電流指令生成部13aは、回転速度フィードバック値ωrfに対応する所望のモータトルクを得る電機子電流指令値Ia1*を、モータトルク制御部12へ出力する。
以上説明したように、本実施の形態では、電機子電流指令生成部13aが、回転速度ωrとして回転速度フィードバック値ωrfに対する発生トルクTmを示すテーブルを参照し、モータトルク制御部12内の速度検出部5で求められる回転速度フィードバック値ωrfに対応して所望のトルク特性Tm1を発生させるのに必要な電機子電流Iaを指令する電機子電流指令値Ia*を生成し、モータトルク制御部12に出力することとした。これにより、回転速度フィードバック値ωrfに応じて順次電機子電流指令値Ia*を変化させ、モータトルク制御部12にて発生トルクTmが制御されるので、任意の回転速度−発生トルク特性となるブラシレスDCモータを得ることができる。
なお、電機子電流指令生成部13aにて回転速度ωrに対して所望のトルクを得る電機子電流指令値Ia*を導出する方法は、テーブル参照方式に限定するものではなく、例えば、関数式にて算出する方式などでも実現できる。
実施の形態6.
図9は、本実施の形態のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図9では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
ここでは、実施の形態1〜4に示したブラシレスDCモータのモータトルク制御部12を用いて、負荷トルクに応じて回転速度ωrが変化する誘導モータのような制御特性を実現する構成について説明する。
図9において、モータトルク制御部12は、実施の形態5と同様、実施の形態1〜4に示したモータトルク制御部12a、12b、12c、12dのいずれかとする。さらに、図9に示すブラシレスDCモータでは、電機子電流指令生成部13bと、ノッチ指令生成部23と、ノッチ切替スイッチ24と、を備える点が実施の形態1のブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。また、整流平滑回路1と、モータ部3と、モータトルク制御部12と、電機子電流指令生成部13bと、ノッチ指令生成部23と、からPWMインバータ回路内蔵のブラシレスDCモータ26aを構成する。電機子電流指令生成部13bは、さらに、ノッチ指令生成部23からノッチ指令値N*を入力して、電機子電流指令値Ia*を生成する。
通常、交流電源20と整流回路1dとを接続する2線のうちの片側線に、電源スイッチ25が挿入されている。ノッチ切替スイッチ24の一端は、電源スイッチ25の整流回路1d側端に接続されている。ノッチ指令生成部23は、ノッチ切替スイッチ24の他端とインバータ主回路2aの直流母線との間に配置されている。
ノッチ指令生成部23は、アノード端子がノッチ切替スイッチ24の他端に接続されるダイオード23aと、ダイオード23aのカソード端子とインバータ主回路2aの直流母線との間に直列に接続配置される抵抗器23b、23cと、を備え、抵抗器23b、23cの接続端(分圧出力端)から電機子電流指令生成部13bへノッチ指令値N*を出力する。
電源スイッチ25がオンしている運転状態では、ノッチ指令生成部23が電機子電流指令生成部13bへ出力するノッチ指令値N*は、ノッチ切替スイッチ24がオンしている場合とオフしている場合で異なり、2種類の電圧レベルを示す。
そのため、電機子電流指令生成部13bは、例えば、図8に示す電機子電流指令値Ia1*およびIa2*の2つのテーブルを備え、ノッチ指令値N*の状態に応じて参照するテーブルを選択し、対応する電機子電流指令値Ia*をモータトルク制御部12に出力する。すなわち、電機子電流指令生成部13bは、入力したノッチ指令値N*にしたがって、回転速度フィードバック値ωrfに対応する所望のモータトルクを得る電機子電流指令値Ia*を切り替えて出力する。これにより、モータトルク制御部12では、速度検出部5で求められる回転速度ωrに対応する回転速度フィードバック値ωrfに対して、所望のトルク特性の運転パターンを、図7に示すトルク特性Tm1の運転パターンとトルク特性Tm2の運転パターンとに切り替えることができる。
なお、電機子電流指令生成部13bでは、さらに格納する運転パターンを増やして3種類を超える運転パターンを切り替える構成も実現できる。例えば、ノッチ切替スイッチ24を2つ以上設け、それぞれに分圧出力が1つであるノッチ指令生成部23を1対1で接続することにより実現することができる。
以上説明したように、本実施の形態では、ノッチ指令生成部23が、ノッチ切替スイッチ24のオン/オフ状態を検知して対応したノッチ指令値N*を生成して出力し、電機子電流指令生成部13bでは、入力したノッチ指令値N*に応じて回転速度フィードバック値ωrfに対する発生トルクの運転パターンを切り替えることとした。これにより、タップ切替等によるノッチ切替を行っている誘導モータを用いた電気製品のモータを、上記の制御を行う効率の良いブラシレスDCモータへ切り替えることが容易となる。
ここで、電機子電流指令生成部13bは、生成した電機子電流指令値Ia*をそのままモータトルク制御部12へ出力するのではなく、回転速度フィードバック値ωrfに対して必要な電機子電流指令値Ia*を切り替える際、切替前の電機子電流指令値から切替後の電機子電流指令値への移行を移動平均や1次遅れにより徐々に移行させる移行緩衝処理を行ってもよい。移行緩衝処理として、ノッチ切替スイッチ24の切り替えを高頻度で行うことにより、切替前と切替後との中間の電機子電流指令値を生成することが可能となる。
例えば、図7に示すトルク特性Tm1とトルク特性Tm2とのちょうど中間のトルク特性Tm3の運転パターンが必要となる場合、ノッチ切替スイッチ24が、図8に示す電機子電流指令値Ia1*のノッチ指令値N*と電機子電流指令値Ia2*のノッチ指令値N*とを50%ずつの頻度で繰り返し電機子電流指令生成部13bへ与えることにより、電機子電流指令生成部13bでは、中間の電機子電流指令値Ia3*を生成することができる。
また、2種類の運転パターンを切り替える場合、片方の運転パターンを発生トルクが回転速度によらず零となるように設定しておけば、ちょうど誘導モータで行われている、トライアックなどの半導体スイッチでオン/オフして通電時間の比率を任意に変化させて、発生トルクを平均的に任意に変化させる通電率制御と同じような制御が可能となる。誘導モータの通電率制御では、発生トルクが脈動して振動・騒音の原因となる場合があるが、本実施の形態によれば、発生トルクの脈動がなくなるという効果を得ることができる。
実施の形態7.
図10は、ブラシレスDCモータを搭載した換気送風機の外観構成例を示す図である。ここでは、一例として、実施の形態6に示すブラシレスDCモータを搭載した場合について説明するが、実施の形態5に示すブラシレスDCモータを搭載した場合についても適用可能である。
図10では、実施の形態6(図9参照)に示すブラシレスDCモータ26の回転軸3aに遠心式羽根車27を取り付け、ケーシング28で風路を形成した換気送風機を示す。ブラシレスDCモータ26には、交流電源20からの2本の接続線と、ノッチ切替スイッチ24からの1本の接続線と、が接続されている。
まず、図11を用いて遠心式羽根車27を用いた換気送風機の風量と負荷トルクとの関係について説明する。図11は、遠心式羽根車27の翼部断面を示す図である。図11において、遠心式羽根車27に作用する負荷トルクTLは、作動流体の密度ρと、体積風量Qと、羽根車の直径Dと、絶対風速cの旋回速度成分cθと、を用いて、以下の式(6)のように表すことができる。
TL=ρ×Q×D×cθ/2 …(6)
ここで、羽根車出口の周速度uと、周速度uの方向と接線方向速度wの方向との間の相対流出角βと、回転速度ωrと、羽根車出口での径方向速度crと、羽根車の出口幅bと、を用いることにより、絶対風速cの旋回速度成分cθを式(7)で、羽根車出口の周速度uを式(8)で、羽根車出口での径方向速度crを式(9)で、それぞれ表すことができる。これにより、式(6)に示す負荷トルクTLを式(10)のように表すことができる。
cθ=u−cr/tanβ …(7)
u=π×D×ωr …(8)
cr=Q/(π×D×b) …(9)
TL=ρ×(π×D2×Q×ωr―Q2/(π×b))/(2×tanβ)…(10)
式(10)に示すように、体積風量Qを一定とした場合、負荷トルクTLと回転速度ωrとは1次関数の関係になる。そこで、速度検出部5で求められた回転速度ωrに対する電機子電流指令値Ia*を図12に示すように1次関数とすることにより、回転速度ωrと発生トルクTmとの関係も図13に示すように1次関数となり、羽根車の負荷トルクTLと釣り合うときの体積風量Qは図14に示すように静圧Pとは無関係に一定とすることができる。
図12は、電機子電流指令生成部13bが生成する電機子電流指令値Ia*と回転速度ωrとの関係を示す特性図である。図12では、4つの圧力損失特性29a、29b、29c、29dに対応した回転速度ωrに対する電機子電流指令値Ia*の特性を示す。圧力損失がこの順に大きくなっている場合、1次の項が正の1次関数で表される2つの電機子電流指令値Ia1*、Ia2*は、変極点30a、30bが共に同じ圧力損失特性29c上で変化するように設定する。
図13は、実現される回転速度ωrとトルク特性Tとの関係を示す特性図である。図13では、4つの負荷トルク特性TL0、TL1、TL2、TL3が示されている。実現されるトルク特性Tm1、Tm2は、1次関数で表され、変極点31a、31bが共に同じ負荷トルク特性TL2上で変化するように設定される。
図14は、風量Qと静圧Pとの関係を示す特性図である。図14において、横軸は風量Q[m3/h]、縦軸は静圧P[Pa]を示す。図14では、図13に示した負荷トルク特性TL0、TL1、TL2に対応する圧力損失特性32a、32b、32cが示され、圧力損失特性32c上に、電機子電流指令値Ia1*の場合の特性Q1の変極点33cと、電機子電流指令値Ia2*の場合の特性Q2の変極点35cと、が示されている。圧力損失特性32cより圧力損失が小さい領域(図14において圧力損失特性32cより下の領域)では、例えば、圧力損失特性32aや圧力損失特性32bの圧力損失が変動しても33aや33b、あるいは35aや35bの動作点で送風特性と圧力損失が釣り合って、電機子電流指令値Ia1*、Ia2*での各風量は圧力損失特性32a、32bと無関係に一定風量となることが示されている。
なお、式(10)は理論値のため実機との誤差があるが、その影響を考慮して風量の絶対値を高精度で合わせこむ場合には、式(10)の各項に補正係数を掛け合わせればよい。また、制御や回路構成をより簡素化する場合には、1次関数の1次の項の係数と0次の項の係数は、風量Qに対してそれぞれ1乗および2乗に比例することから、風量が小さい場合や、羽根車の出口幅bやtanβが大きい場合には、0次の項を無視してもよい。したがって、発生トルクTmを、回転速度ωrに対して比例の関係となるように制御してもよい。
また、0次の項の係数が負の場合や、正であっても小さい場合は、モータが起動しなくなる。また、理論値と実機との誤差により、圧力損失が低い領域では、圧力損失が高い領域と比較して、0次の項の係数を大きく、1次の項の係数は小さく補正したほうが風量が一定になりやすい場合がある。そのため、図15に示すように、圧力損失の低い領域と高い領域とで係数が異なる2つの1次関数の関係となるように制御を行ってもよい。
図15は、電機子電流指令生成部13bが圧力損失の高低領域に応じて生成する電機子電流指令値Ia*と回転速度ωrとの関係を示す特性図である。図15では、低い圧力損失特性29bと、高い圧力損失特性29cと、を示す。2つの電機子電流指令値Ia1*、Ia2*は、互いに相似の関係で並行して、圧力損失の低い領域(圧力損失特性29bから左側の領域)と高い領域(圧力損失特性29bと圧力損失特性29cとの間の領域)とに跨って設定されるが、圧力損失特性29b上に変極点34a、34bがあり、圧力損失の低い領域と高い領域とで異なる傾きになっている。
次に、風量Qの強弱を切り替えるようにした場合、図12、図13、図15に示した変極点30a、30b、31a、31b等を設けずに、モータが出せる限界の回転速度までモータの回転速度に対する発生トルクの関係を1次の項が正の1次関数で制御すると出力限界では制御から外れた特性となって、いずれの風量設定においても同じ回転速度−発生トルク特性となり、特に、圧力損失が高い場合には、強と弱とが同じ回転速度となり、故障と間違われるおそれがある。また、強を弱に切り替える目的で風量を下げる以外に、騒音を小さくしたい場合もある。そのため、図12に示すように、電機子電流指令値Ia*を回転速度ωrの1次関数となるように制御する回転速度の上限を違える。これにより、どのような圧力損失上にて使用されても、強弱の違いが明確になり、上記のような問題を解決することができる。
すなわち、電機子電流指令生成部13bでは、回転速度ωrとして回転速度フィードバック値ωrfを入力し、回転速度フィードバック値ωrfの上昇に伴って、一定もしくは上昇する領域を有する電機子電流指令値Ia*を生成する。また、一定して上昇する場合として、回転速度フィードバック値ωrfと電機子電流指令値Ia*が1次関数の関係で変化するように制御してもよい。
このように、本実施の形態で説明したブラシレスDCモータを用いることにより、現在誘導モータが用いられている換気送風機などの電気製品のモータを、当該ブラシレスDCモータに置き替えることができる。これにより、省エネを図ることが容易となる。特に、換気送風機に応用した場合には、静圧変動に対する風量変動の少ない換気送風機を得ることが可能となる。
実施の形態8.
図16は、本実施の形態の換気送風機搭載用のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図16では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
図16において、ブラシレスDCモータ26bでは、電機子電流制御部8に替えて、直流母線平均電流指令生成部14と、偏差算出部8dと、制御アンプ8aと、を備え、さらに、ノッチ指令生成部23と、ノッチ切替スイッチ24と、を備える点が実施の形態1によるブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。直流母線平均電流指令生成部14は、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、回転速度フィードバック値ωrfと、ノッチ指令値N*と、を入力し、直流母線平均電流指令値Idc*を出力する。
実施の形態7で説明したように、遠心式羽根車を用いた換気送風機では、回転速度ωrに対して電機子電流Iaが1次関数となるように制御した場合、風量Qは静圧Pと無関係に一定とすることができる。ここで、1次関数式を式(11)のように定義する。
Ia=α×ωr+β …(11)
この式(11)を式(1)に代入すると、式(12)のように表すことができる。
Vdc×Idc×η=(Ra×(α×ωr+β)+Ke×ωr)
×(α×ωr+β) …(12)
そのため、換気送風機では、上記の式(12)が成り立つように制御すればよいことになる。したがって、式(12)をIdcについて解くと、式(13)となる。
Idc=(Ra×(α×ωr+β)+Ke×ωr)×(α×ωr+β)
÷(Vdc×η) …(13)
そのため、ブラシレスDCモータ26bでは、直流母線平均電流指令生成部14が、直流母線電圧フィードバック値Vdcfおよび回転速度フィードバック値ωrfを変数として、式(13)の直流母線電圧Vdcおよび回転速度ωrにそれぞれ代入して演算し、直流母線平均電流指令値Idc*として出力する。この場合、式(13)は、式(13´)のように表すことができる。
Idc*=(Ra×(α×ωrf+β)+Ke×ωrf)×(α×ωrf+β)
÷(Vdcf×η) …(13´)
偏差算出部8dは、直流母線平均電流フィードバックIdcfとの偏差ΔIdcを算出し、そして、制御アンプ8aが、偏差ΔIdcに対して比例動作や積分動作等の演算を実施し、その演算結果を駆動回路2へ出力電圧を指示する信号Vsとして出力する。制御アンプ8aは、偏差ΔIdcをなくす信号Vsを出力する。
なお、ここでは、図16に示すように、ノッチ指令生成部23およびノッチ切替スイッチ24を備える場合について説明したが、実施の形態5、6に示すように、ノッチ指令生成部23およびノッチ切替スイッチ24を備えない構成にすることも可能である。この場合、風量−静圧特性を決める係数αおよびβは一意に決定する。
以上説明したように、本実施の形態では、直流母線平均電流指令生成部14が、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、回転速度フィードバック値ωrfと、ノッチ指令値N*と、を入力して直流母線平均電流指令値Idc*を出力し、偏差算出部8dが直流母線平均電流フィードバックIdcfとの偏差ΔIdcを算出し、制御アンプ8aが偏差ΔIdcをなくす信号Vsを出力することとした。これにより、直流母線平均電流指令値Idc*に対して直流母線平均電流フィードバック値Idcfが一致するため、式(13)が成り立ち、回転速度ωrに対して、電機子電流Iaが1次関数となり、風量Qは静圧Pと無関係に一定とすることができる。なお、係数αおよびβをノッチ指令値N*にしたがって変えることにより、風量Qの設定値を変えることができる。
実施の形態9.
図17は、本実施の形態の換気送風機搭載用のブラシレスDCモータの構成を示すブロック図である。なお、図17では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、本実施の形態に関わる部分を中心に説明する。
図17において、ブラシレスDCモータ26cでは、電機子電流制御部8に替えて、速度指令生成部15と、偏差算出部8dと、制御アンプ8aと、を備え、さらに、ノッチ指令生成部23と、ノッチ切替スイッチ24と、を備える点が実施の形態1によるブラシレスDCモータ(図1参照)と異なる。速度指令生成部15は、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、直流母線平均電流フィードバック値Idcfと、ノッチ指令値N*と、を入力し、回転速度指令値ωr*を出力する。
ここでは、回転速度指令値ωr*を出力することから、式(12)を回転速度ωrについて解くと、式(14)の様に表すことができる。
ωr=(√((2×Ra×α+Ke)2×β2+4×α×(Ra×α+Ke)
×(Vdc×Idc×η−Ra×β2))−β×(2×Ra×α+Ke))
÷(2×α×(Ra×α+Ke)) …(14)
速度指令生成部15では、直流母線電圧フィードバック値Vdcfおよび直流母線平均電流フィードバック値Idcfを変数として、式(14)の直流母線電圧Vdcおよび直流母線平均電流Idcに代入して演算し、それを回転速度指令値ωr*として出力する。この場合、式(14)は、式(14´)のように表すことができる。
ωr*=(√((2×Ra×α+Ke)2×β2+4×α×(Ra×α+Ke)
×(Vdcf×Idcf×η−Ra×β2))−β×(2×Ra×α+Ke))
÷(2×α×(Ra×α+Ke)) …(14´)
偏差算出部8dは、回転速度フィードバック値ωrfとの偏差Δωrを算出し、そして、制御アンプ8aが、偏差Δωrに対して比例動作や積分動作等の演算を実施し、その演算結果を駆動回路2へ出力電圧を指示する信号Vsとして出力する。制御アンプ8aは、偏差Δωrをなくす信号Vsを出力する。
なお、ここでは、図17に示すように、ノッチ指令生成部23およびノッチ切替スイッチ24を備える場合について説明したが、実施の形態5、6に示すように、ノッチ指令生成部23およびノッチ切替スイッチ24を備えない構成にすることも可能である。この場合、風量−静圧特性を決める係数αおよびβは一意に決定する。
以上説明したように、本実施の形態では、速度指令生成部15が、直流母線電圧フィードバック値Vdcfと、直流母線平均電流フィードバック値Idcfと、ノッチ指令値N*と、を入力して回転速度指令値ωr*を出力し、偏差算出部8dが回転速度フィードバック値ωrfとの偏差Δωrを算出し、制御アンプ8aが、偏差Δωrをなくす信号Vsを出力することとした。これにより、回転速度指令値ωr*に対して速度フィードバック値ωrfが一致するため、式(14)が成り立ち、回転速度ωrに対して、電機子電流Iaが1次関数となり、風量Qは静圧Pと無関係に一定とすることができる。なお、係数αおよびβをノッチ指令値N*にしたがって変えることにより、風量Qの設定値を変えることが出来る。
なお、図1、図3、図4、図5において、インバータ主回路2aのスイッチング素子T1〜T6としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の絵で示したが、これを、ワイドギャップ半導体素子(SiC)からなるMOS−FET(図示せず)とすることで、式(1)のインバータ主回路損失Pdを構成する、スイッチング損失と導通損失の両方を小さくすることができる。そのため、式(1)〜(5)、式(2´)〜(5´)、および式(12)〜(14)、式(13´)〜(14´)にて係数として取り扱っているインバータ主回路効率ηのばらつきを小さくでき、発生トルクおよび風量Qの制御精度を上げることが出来る。
なお、以上の各実施の形態では、電源が交流電源の場合について説明したが、一例であり、直流電源の場合でも同様の効果を得ることができる。誘導モータでは、直接直流電源を入力できず、家庭内へ直流配線を普及させる妨げとなっていたが、上記で説明したブラシレスDCモータ、およびそれを搭載した換気送風機を用いることにより、直流でも交流でも使うことができる。なお、用途が直流配線に限定できる場合、整流回路1dが不要となるので削除してもよい。
また、図9に示すノッチ切替スイッチ24およびノッチ指令生成部23は、直流配線用のブラシレスDCモータでは、ノッチ切替スイッチ24の一端が直流配線の正極配線に接続され、ノッチ指令生成部23は、ノッチ切替スイッチ24の他端とインバータ主回路2aの負極母線との間に配置されることになる。
また、上記の各実施の形態では、演算式を用いて制御することにより、モータ発生トルクを高精度に制御するものであるが、各式を変形して近似式として簡略化し、または、制御精度への影響が少ない項については省略することも可能である。
また、以上で説明した各実施の形態では、駆動回路2の出力電圧の調整をインバータ主回路2aをスイッチングしてパルス幅変調を行う例で示したが、リニアドライブ回路として電圧調整を行う構成としても、同様の効果を得ることができる。
上記で説明したブラシレスDCモータは、モータ発生トルクを高精度に制御できる小形で安価なブラシレスDCモータとして有用であり、換気送風機は、前記ブラシレスDCモータを用いて、静圧変動に対する風量変動の少ない換気送風機として有用である。