JP5788657B2 - 高純度メタクリル酸クロリドの製造方法 - Google Patents
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上記非特許文献1によると、塩化ベンゾイルをメタクリル酸に対し2モル倍用い、80%収率でメタクリル酸クロリドを得たとされる。また、特許文献1では塩化ベンゾイルをメタクリル酸に対し1.12モル倍用いる実施例が開示されている。反応ルートを考察すると、塩化ベンゾイルはメタクリル酸を混合酸無水物として活性化するのに1当量必要であり(反応式1)、塩素化剤として1当量必要(反応式2)であり、理論量は2当量必要と思われる。しかし、中間に生成する酸無水物(BAA)がアシル化剤となりメタクリル酸の混合酸無水物を形成するために(反応式3)、実際には2当量までは必要ないことが考えられる(下記反応スキーム参照)。さらに問題を複雑にしているのは、メタクリル酸の重合反応が進行し、これによりメタクリル酸クロリドの反応基質として利用されない部分が相当量ありえることである。
[1]一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと、式(2)で表されるメタクリル酸とを反応させ、式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを製造するに当たり、前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]とのモル比[A/B]を1.2〜1.65として反応させるメタクリル酸クロリドの製造方法であって、
前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドを反応釜に入れ、前記式(2)で表されるメタクリル酸を当該反応釜に滴下し、同時に生成した前記式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを前記反応釜外に留出するメタクリル酸クロリドの製造方法。
(一般式(1)中、Xは水素原子、塩素原子、またはメチル基を表し、nは0〜2の整数を表す。)
[2]前記反応釜外に留出したメタクリル酸クロリドを前記反応釜外で捕集する[1]に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[3]前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと前記式(2)で表されるメタクリル酸とのモル比[A/B]を1.3〜1.6とすることを特徴とする[1]または[2]に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[4]一定容量の反応容器で前記反応を行うことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[5]前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと前記式(2)で表されるメタクリル酸とを、反応釜温度100〜120℃、圧力25〜47kPaで反応させる[1]〜[4]のいずれか1項に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[6]前記式(2)で表されるメタクリル酸を3〜6時間掛けて反応釜に滴下する[1]〜[5]のいずれか1項に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[7]一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと、式(2)で表されるメタクリル酸とを反応させ、式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを製造するに当たり、前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]との使用量を調節して反応させるメタクリル酸クロリドの製造方法であって、
前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドを反応釜に入れ、前記式(2)で表されるメタクリル酸を当該反応釜に滴下し、同時に生成した前記式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを前記反応釜外に留出するメタクリル酸クロリドの製造方法。
(一般式(1)中、Xは水素原子、塩素原子、またはメチル基を表し、nは0〜2の整数を表す。)
[8]前記反応釜外に留出したメタクリル酸クロリドを前記反応釜外で捕集する[7]に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[9]前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]との使用量の調節を、前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]とのモル比[A/B]で調節する[7]または[8]に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
[10]前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]とのモル比[A/B]を1.14〜2の範囲で調節する[9]に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
本実施態様は、メタクリル酸と芳香族酸クロリドを用いてメタクリル酸クロリドを製造する方法に関し、その変換反応はメタクリル酸の塩素化反応に属し、塩素化剤として芳香族酸クロリドを用いるものである。芳香族酸クロリドとして用いることができるものに制限はないが、産業界で安価に入手容易なものとして塩化ベンゾイル、パラクロロ安息香酸クロリド、オルトクロロ安息香酸クロリド、パラメチル安息香酸クロリド等が用いられる。なかでも、安価で入手容易な塩化ベンゾイルを用いることが好ましい。
上述した設定条件によれば、本実態様の製造方法において、特に式(2)で表されるメタクリル酸誘導体の重合反応を最少化した設定にすることも可能であり、メタクリル酸クロリドの製造原価をその製造設備において最小にすることができ好ましい。
上述のとおり、本実施態様の反応に原料として用いるメタクリル酸は重合しやすい。重合禁止剤を添加しても塩化水素雰囲気下での反応ではその効果が薄く、重合物の生成を抑止することは難しい。特にスケールアップし、実生産で必要な反応量を確保しようとして反応時間がかかる場合は重合物が増加する。したがって反応容器内に存在するメタクリル酸の滞在時間を極力減少することが好ましい。かかる観点からメタクリル酸を一定の時間かかって反応系に滴下する方法が好ましい。また、生成物であるメタクリル酸クロリドも重合する可能性があり、生成と同時に系外に抜き出す方式が好ましい。したがって、本実施態様の好ましい形態として、芳香族酸クロリドを反応温度まで加熱しておき、メタクリル酸を滴下すると同時にメタクリル酸クロリドを蒸留する製造方法を採用することが挙げられる。その場合、メタクリル酸クロリドが反応釜温度100〜120℃で蒸留されるためには、反応系内を減圧にしなければならない。減圧にしすぎるとメタクリル酸クロリドが捕捉できない。当該分野で通常使用できる冷却水温度範囲(マイナス10℃〜プラス10℃)でメタクリル酸クロリドを捕集するために熱収支の計算と実験を繰り返した結果によれば、上述のとおり反応釜の内部圧力を25〜47kPaの範囲内で行うことが好ましい。
メタクリル酸クロリドの純度は特に限定されるものではないが、上記のような高純度化のニーズを考慮したときには98%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
<実施例・参考例>
1000mlの丸底フラスコに884.4gの安息香酸クロリド(6.35モル、730ml)を取り、所定の減圧条件下、所定温度まで昇温した後、所定量のメタクリル酸を滴下した。メタクリル酸約160gの滴下が終了した時点で、メタクリル酸クロリドの留出が始まり、これ以降はメタクリル酸クロリドを留出させながらメタクリル酸の滴下を続ける。メタクリル酸クロリドの留出開始時点で反応系内の容量は約900mlとなるが、メタクリル酸クロリドの留出速度とメタクリル酸の滴下速度を合わせて、系内の容量を一定に保った。メタクリル酸の滴下終了後は、徐々に昇温し、最終温度160℃まで留出させることで、メタクリル酸クロリドを得た。結果を表1に纏めた。
表1および図1の結果を見ると明らかなように、本発明は芳香族酸クロリドを100〜120℃に加熱した中に、圧力を25〜47kPaとしてメタクリル酸を3〜6時間かかり滴下すると同時に生成するメタクリル酸クロリドを蒸留する経済性に優れた製造方法の提供である。芳香族酸クロリドの量は滴下するメタクリル酸に対しとりわけ1.3〜1.6モル倍として用いる反応容器の容量内での向上がみられることが分かる。このようにして得たものを再蒸留すると、例えば高純度(99.8%以上)のメタクリル酸クロリドであっても、ロスなく容易な操作で得ることができる。なお、BOC/MAのモル比が小さくなりすぎると重合物の生成率が高くなり望ましくない。
特許文献1(特開2000−229911号公報)の段落0029に記載の条件で、上記実施例と同じスケールで実施した場合の収率及び得量を見積もった。すなわち、総容量900mLになるように行うと、メタクリル酸(MA)354mL(361g、4.2モル)、安息香酸クロリド(BOC)546mL(660g、4.7モル)で一括反応させることとなる。この場合は、BOC/MA比が1.12であり、収率63%でMAOCを得ることができるとすると、277gの得量となる。
これに対し、前記参考例S6(BOC/MA=1.14)ですでにその得量は291gであり、滴下法の方が生成物の収率が高いことが分かる。これは、反応開始時において塩素化剤であるBOCのモル比が3.4モルであることで初期の反応速度が速いことが原因である。
Claims (10)
- 一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと、式(2)で表されるメタクリル酸とを反応させ、式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを製造するに当たり、前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]とのモル比[A/B]を1.2〜1.65として反応させるメタクリル酸クロリドの製造方法であって、
前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドを反応釜に入れ、前記式(2)で表されるメタクリル酸を当該反応釜に滴下し、同時に生成した前記式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを前記反応釜外に留出するメタクリル酸クロリドの製造方法。
(一般式(1)中、Xは水素原子、塩素原子、またはメチル基を表し、nは0〜2の整数を表す。) - 前記反応釜外に留出したメタクリル酸クロリドを前記反応釜外で捕集する請求項1に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと前記式(2)で表されるメタクリル酸とのモル比[A/B]を1.3〜1.6とすることを特徴とする請求項1または2に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 一定容量の反応容器で前記反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと前記式(2)で表されるメタクリル酸とを、反応釜温度100〜120℃、圧力25〜47kPaで反応させる請求項1〜4のいずれか1項に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 前記式(2)で表されるメタクリル酸を3〜6時間掛けて反応釜に滴下する請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 一般式(1)で表される芳香族酸クロリドと、式(2)で表されるメタクリル酸とを反応させ、式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを製造するに当たり、前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]との使用量を調節して反応させるメタクリル酸クロリドの製造方法であって、
前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリドを反応釜に入れ、前記式(2)で表されるメタクリル酸を当該反応釜に滴下し、同時に生成した前記式(3)で表されるメタクリル酸クロリドを前記反応釜外に留出するメタクリル酸クロリドの製造方法。
(一般式(1)中、Xは水素原子、塩素原子、またはメチル基を表し、nは0〜2の整数を表す。) - 前記反応釜外に留出したメタクリル酸クロリドを前記反応釜外で捕集する請求項7に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]との使用量の調節を、前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]とのモル比[A/B]で調節する請求項7または8に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
- 前記一般式(1)で表される芳香族酸クロリド[モル量A]と前記式(2)で表されるメタクリル酸[モル量B]とのモル比[A/B]を1.14〜2の範囲で調節する請求項9に記載のメタクリル酸クロリドの製造方法。
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