以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る可変磁力メモリモータドライブ装置1の構成を示すブロック図である。なお、以降の図における同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。以降の実施形態も同様にして重複する説明を省略する。
可変磁力メモリモータドライブ装置1は、可変磁力メモリモータ2と、回転数検出センサ3と、インバータ4と、直流電源5と、平滑コンデンサ(フィルタコンデンサ)6と、電流遮断回路7と、交流電流検出器8U,8Wと、直流電圧検出器9、制御部10とを備えている。
直流電源5の正極側は、電流遮断回路7を介して、インバータ4の入力側(直流側)と接続されている。直流電源5の負極側は、インバータ4の入力側(直流側)と接続されている。可変磁力メモリモータ2は、インバータ4の出力側(交流側)と接続されている。平滑コンデンサ6は、インバータ4の直流側に設けられている。平滑コンデンサ6の2つの端子は、それぞれ直流の正極と負極とに接続されている。
可変磁力メモリモータ2は、磁束を変化させることのできる永久磁石同期電動機である。可変磁力メモリモータ2の回転子には、回転子鉄心に固定磁石及び可変磁石が組み込まれている。固定磁石は、磁束密度(磁束量)を変化させずに用いる永久磁石である。可変磁石は、磁束密度(磁束量)を変化させる永久磁石である。可変磁石には、低保磁力の磁性体を用いている。インバータ4から可変磁力メモリモータ2に瞬時に大きな磁化電流を流すことにより、可変磁石を増磁又は減磁する。可変磁力メモリモータ2の磁束は、固定磁石と可変磁石のそれぞれの磁束の総和である。従って、可変磁石の磁束を変化させる(可変磁石を磁化する)ことにより、可変磁力メモリモータ2の磁束が増磁又は減磁をする。
回転数検出センサ3は、可変磁力メモリモータ2の回転子の回転数Nrを検出する。回転数検出センサ3は、検出した回転数Nrを、制御部10に出力する。回転数検出センサ3は、例えばレゾルバである。
インバータ4は、直流電源5から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。インバータ4は、変換した交流電力を可変磁力メモリモータ2に供給する。インバータ4は、可変磁力メモリモータ2に交流電力を出力することで、可変磁力メモリモータ2を駆動する。
交流電流検出器8Uは、インバータ4から出力されるU相電流Iuを検出する。交流電流検出器8Uは、検出したU相電流Iuを信号として、制御部10に出力する。交流電流検出器8Wは、インバータ4から出力されるW相電流Iwを検出する。交流電流検出器8Wは、検出したW相電流Iwを、制御部10に出力する。
直流電源5は、インバータ4に直流電力を供給するための電源である。直流電源5から出力された直流電力は、インバータ4に供給される。
電流遮断回路7は、スイッチング素子71と、ダイオード72と、リアクトル73とを備えた回路である。ここで、リアクトル73は、配線のインダクタンスとして設計されたものでもよい。ダイオード72は、スイッチング素子71と逆並列に接続されている。リアクトル73は、スイッチング素子71とダイオード72とが逆並列に接続された回路と直列に接続されている。ダイオード72のアノードは、直流電源5の正極に接続されている。ダイオード72のカソードは、リアクトル73の一端に接続されている。リアクトル73の他方の一端は、インバータ4の正極に接続されている。
電流遮断回路7は、スイッチング素子71がオンされると、インバータ4の直流側に印加される直流電圧Vdcを直流電源5の電圧Edcと同電位にする。電流遮断回路7は、スイッチング素子71がオフされると、インバータ4(又は、平滑コンデンサ6)から直流電源5への電流の流れを遮断する。従って、スイッチング素子71がオフされれば、電流遮断回路7は、インバータ4の直流電圧Vdcが直流電源5の電圧Edcより高くなっても、インバータ4から直流電源5へは電流を流さない。一方、直流電源5からインバータ4に流れる電流は、ダイオード72を介して流れる。リアクトル73は、直流電圧Vdcの急峻な変化を抑制するために設けられている。
平滑コンデンサ6は、インバータ4と直流電源5との間に印加される直流電圧Vdcを平滑するコンデンサである。直流電圧検出器9は、平滑コンデンサ6の直流電圧Vdcを検出する。直流電圧Vdcは、インバータ4の入力電圧でもある。直流電圧検出器9は、検出した直流電圧Vdcを制御部10に出力する。
制御部10は、ゲート信号SGを出力して、インバータ4の出力を制御する。これにより、可変磁力メモリモータ2の駆動が制御される。制御部10は、ゲート信号SGiを出力して、電流遮断回路7を制御する。これにより、電流遮断回路7のスイッチング素子71がオン又はオフされる。
制御部10は、磁化管理部21と、磁束管理部22と、通常時電流指令演算部23と、磁化時電流指令演算部24と、指令選択部25と、電流制御部26と、座標変換部27と、PWM回路28と、電流遮断回路制御部29と、放電制御部30と、減算器SUd,SUqとを備えている。
磁化管理部21には、回転数検出センサ3により検出された回転数Nr、直流電圧検出器9により検出された直流電圧Vdc及びトルク指令値TmRが入力される。
磁化管理部21は、回転数Nr、トルク指令値TmR及び直流電圧Vdcに基づいて、可変磁石の磁力を変化させる(磁化する)か否か判断する。磁化管理部21は、磁化すると判断した場合、磁化要求フラグFrqを立てる(磁化要求フラグFrq=「H」)。この場合、磁化管理部21は、磁化後の磁束目標値φTを演算する。磁化管理部21は、演算した磁束目標値φTを磁束管理部22に出力する。
磁化管理部21は、磁化すると判断した場合、磁化するために直流電圧Vdcを昇圧する必要があるか否かを判断する。磁化管理部21は、昇圧が必要と判断した場合、昇圧要求フラグFvupを立てる(昇圧要求フラグFvup=「H」)。この場合、磁化管理部21は、昇圧後の目標値である直流電圧目標値VdcTを演算する。磁化管理部21は、昇圧要求フラグFvupの状態及び演算した直流電圧目標値VdcTを磁化時電流指令演算部24の直流電圧指令演算部53に出力する。磁化管理部21は、直流電圧目標値VdcTを放電制御部30に出力する。
磁化管理部21は、磁化を開始してから完了するまでの各段階を示す磁化モードMDを決定する。磁化管理部21は、磁化モードMDを次のように決定する。
磁化管理部21は、通常時(磁化していない時)は、磁化モードMDを「0」にする。
磁化管理部21は、磁化要求フラグFrqが立つと、磁化モードMDを「0」から「1」にする。
磁化管理部21は、磁化モードMDを「1」にした後、所定時間経過すると、磁化モードMDを「1」から「2」にする。この所定時間は、直流電圧指令値VdcR(又は直流電圧Vdc)が直流電圧目標値VdcTに達するまでに必要な時間である。よって、磁化モードMDが「1」から「2」に変わるときは、インバータの入力電圧(直流電圧Vdc)が直流電圧目標値VdcTに達している状態である。換言すると、磁化モードMDが「2」であることは、インバータ4の入力電圧に、磁化電流を流すために必要な電圧が印加されていることを意味する。よって、磁化管理部21は、直流電圧Vdcを昇圧しない場合(昇圧要求フラグFvupを立てない場合)、磁化モードMDを「1」にした後、所定時間の経過を待たずに、磁化モードMDを「2」にする。または、磁化管理部21は、磁化モードMDを「1」にせずに、磁化モードMDを「0」から直接「2」にしてもよい。
磁化管理部21は、磁化電流指令値IdRmgが磁化電流目標値ImgTに達すると、磁化モードMDを「2」から「3」にする。磁化時電流指令演算部24は、磁化電流指令値IdRmgが磁化電流目標値ImgTに達したことを、磁化管理部21に通知する。即ち、磁化モードMDが「2」から「3」に変わるときは、磁化電流(D軸電流)Idが磁化電流目標値ImgTに達している状態である。
ここで、DQ軸座標について説明する。
DQ軸上のD軸とは、磁石磁束方向の軸であり、磁気トルクに作用しない軸である。DQ軸上のQ軸とは、磁石磁束方向と直交する軸(D軸と直交する軸)であり、磁気トルクに作用する軸である。
磁化管理部21は、磁化モードMDを「3」にした後、所定時間経過すると、磁化モードMDを「3」から「4」にする。この所定時間は、磁化電流Idが減少して、直流電源5の直流電圧Vdcの昇圧が不要となるまでに必要な時間である。よって、磁化管理部21は、直流電圧Vdcを昇圧していない場合は、磁化モードMDを「3」にした後、所定時間の経過を待たずに、磁化モードMDを「4」にする。または、磁化管理部21は、磁化モードMDを「3」にせずに、磁化モードMDを「2」から直接「4」にしてもよい。
磁化管理部21は、磁化モードMDを「4」にした後、所定時間経過すると、磁化モードMDを「4」から「0」にする。この所定時間は、直流電圧指令値VdcR(又は直流電圧Vdc)が直流電源5の電源電圧に達するまでに必要な時間である。又は、DQ軸電流Id,Iqが通常時のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnrに追従するまでに必要な時間である。即ち、磁化管理部21は、磁化するための一連の処理が終了すると、磁化モードMDを「4」から「0」にする。
磁化管理部21は、磁化モードMDを「0」にすると、磁化要求フラグFrq及び昇圧要求フラグFvupをクリアする(「L」にする)。
磁化管理部21は、昇圧要求フラグFvupが「H」であり、かつ磁化モードMDが「1」〜「4」の間にある(「0」以外の)場合(又は、磁化要求フラグFrqが「H」の場合)、直流電圧制御フラグFvcを「H」にする。それ以外は、直流電圧制御フラグFvcは、「L」である。よって、直流電圧制御フラグFvcは、昇圧要求フラグFvupと磁化要求フラグFrqとの論理積で設定してもよい。磁化管理部21は、直流電圧制御フラグFvcの状態を電流遮断回路制御部29に出力する。
磁化管理部21は、磁化モードMDに基づいて、指令選択部25の切替操作をする。磁化管理部21は、直流電圧制御フラグFvcに基づいて、磁化時電流指令演算部24のトルク電流指令選択部55の切替操作をする。磁化管理部21は、磁化モードMDを、磁束管理部22及び磁化時電流指令演算部24に出力する。
図2は、本実施形態に係る磁束管理部22の構成を示すブロック図である。
磁束管理部22は、記憶指令部221と、記憶部222とを備えている。
磁束管理部22には、磁化管理部21から磁化モードMD及び磁束目標値φTが入力される。磁束管理部22は、磁化管理部21から入力された磁束目標値φTを磁化時電流指令演算部24の磁化電流指令演算部51にそのまま出力する。
記憶指令部221には、磁化モードMDが入力される。記憶指令部221は、昇圧している場合は、磁化モードMDが「2」から「3」に変わると、記憶部222に記憶させるための信号を出力する。記憶指令部221は、昇圧していない場合は、磁化モードMDが「2」から「4」に変わると、記憶部222に記憶させるための指令信号を出力する。
記憶部222には、磁化管理部21から磁束目標値φTが入力される。記憶部222は、記憶指令部221から記憶させるための指令信号が入力されると、最新の磁束目標値φTを現在の磁束値φPとして、記憶する。磁束管理部22は、記憶部222に記憶した現在の磁束値φPを、通常時電流指令演算部23、磁化時電流指令演算部24の磁化電流指令演算部51及びトルク電流指令演算部52に出力する。
通常時電流指令演算部23には、トルク指令値TmR、及び磁束管理部22から出力された現在の磁束値φPが入力される。通常時電流指令演算部23は、トルク指令値TmR及び現在の磁束値φPに基づいて、通常時のD軸電流指令値IdRnr及び通常時のQ軸電流指令値IqRnrを演算する。ここで、通常時とは、磁化時でない時である。通常時電流指令演算部23は、演算した通常時のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnrを指令選択部25に出力する。通常時電流指令演算部23は、演算した通常時のD軸電流指令値IdRnrを磁化時電流指令演算部24の磁化電流指令演算部51に出力する。
通常時のD軸電流指令値IdRnrは、通常時に可変磁力メモリモータ2に流すD軸電流(磁化電流)Idを制御するための指令値である。通常時のQ軸電流指令値IqRnrは、通常時に可変磁力メモリモータ2に流すQ軸電流(トルク電流)Iqを制御するための指令値である。即ち、Q軸電流指令値IqRnrは、可変磁力メモリモータ2のトルクを制御するための指令値である。
磁化時電流指令演算部24には、トルク指令値TmR、直流電圧検出器9により検出された直流電圧Vdc、磁化管理部21から出力された直流電圧目標値VdcT、磁化モードMD、昇圧要求フラグFvupの状態、及び直流電圧制御フラグFvcの状態、磁束管理部22から出力された磁束目標値φT及び現在の磁束値φP、及び通常時電流指令演算部23により演算された通常時のD軸電流指令値IdRnrが入力される。
磁化時電流指令演算部24は、トルク指令値TmR、直流電圧Vdc、磁化モードMD、磁束目標値φT、現在の磁束値φP、通常時のD軸電流指令値IdRnr、昇圧要求フラグFvupの状態、及び直流電圧制御フラグFvcの状態に基づいて、磁化時のD軸電流指令値(磁化電流指令値)IdRmg及び磁化時のQ軸電流指令値(トルク電流指令値)IqRmgを演算する。磁化時電流指令演算部24は、演算した磁化時のDQ軸電流指令値IdRmg,IqRmgを指令選択部25に出力する。
磁化時のD軸電流指令値IdRmgは、磁化時に可変磁力メモリモータ2に流すD軸電流(磁化電流)Idを制御するための指令値である。即ち、磁化時のD軸電流指令値IdRmgは、可変磁力メモリモータ2の可変磁石を磁化するための磁化電流を制御するための指令値である。磁化時のQ軸電流指令値IqRmgは、磁化時に可変磁力メモリモータ2に流すQ軸電流(トルク電流)Iqを制御するための指令値である。
次に、磁化時電流指令演算部24の構成についてより詳細に説明する。
磁化時電流指令演算部24は、磁化電流指令演算部51と、トルク電流指令演算部52と、直流電圧指令演算部53と、直流電圧制御部54と、トルク電流指令選択部55と、減算器SU1とを備えている。
磁化電流指令演算部51には、磁束目標値φT、現在の磁束値φP、磁化モードMD、及び通常時のD軸電流指令値IdRnrが入力される。磁化電流指令演算部51は、現在の磁束値(磁化前の磁束目標値)φP及び磁束目標値φTに基づいて、磁化電流目標値ImgTを演算する。磁化電流指令演算部51は、この磁化電流目標値ImgTに到達するように、磁化モードMDの各段階に応じた磁化電流指令値(磁化時のD軸電流指令値)IdRmgを演算する。磁化電流指令演算部51は、演算した磁化電流指令値IdRmgを指令選択部25及びトルク電流指令演算部52に出力する。
次に、磁化電流指令演算部51における磁化電流指令値IdRmgの算出方法について説明する。
磁化モードMDが「1」の場合、磁化電流指令演算部51は、通常時電流指令演算部23が算出した通常時のD軸電流指令値IdRnrを、磁化電流指令値IdRmgとする。
磁化モードMDが「2」の場合、磁化電流指令演算部51は、磁化電流指令値IdRmgを磁化電流目標値ImgTに向かって徐々に漸増(又は漸減)させる。
磁化モードMDが「3」又は「4」の場合、磁化電流指令演算部51は、磁化電流指令値IdRmgを通常時のD軸電流指令値IdRnrに向かって徐々に漸減(又は漸増)させる。
トルク電流指令演算部52には、トルク指令値TmR、現在の磁束値φP、及び磁化電流指令値IdRmgが入力される。トルク電流指令演算部52は、トルク指令値TmR、現在の磁束値φP、及び磁化電流指令値IdRmgに基づいて、磁化中のトルク変動を抑制するようなトルク電流指令値(磁化時のQ軸電流指令値)IqRmg0を演算する。トルク電流指令演算部52は、演算したトルク電流指令値IqRmg0をトルク電流指令選択部55に出力する。
直流電圧指令演算部53には、直流電圧Vdc、直流電圧目標値VdcT、磁化モードMD、及び昇圧要求フラグFvupの状態が入力される。直流電圧指令演算部53は、直流電圧Vdc、直流電圧目標値VdcT、磁化モードMD、及び昇圧要求フラグFvupの状態に基づいて、直流電圧指令値VdcRを演算する。直流電圧指令値VdcRは、直流電圧(インバータ4の入力電圧)Vdcを制御するための指令値である。直流電圧指令演算部53は、演算した直流電圧指令値VdcRを減算器SU1に出力する。
次に、直流電圧指令演算部53における直流電圧指令値VdcRの算出方法について説明する。
直流電圧指令演算部53は、磁化モードが「0」の場合、直流電圧指令値VdcRの初期値を、直流電圧検出器9により検出された(現在の)直流電圧Vdcに一致させておく。
直流電圧指令演算部53は、昇圧要求フラグFvupが「H」の場合、磁化モードMDに応じて、以下のように、直流電圧指令値VdcRを演算する。
磁化モードMDが「1」の場合、直流電圧指令演算部53は、直流電圧目標値VdcTよりも少し高い電圧に向かって昇圧するように、直流電圧指令値VdcRを漸増させる。直流電圧Vdc(又は、直流電圧指令値VdcR)が直流電圧目標値VdcTよりも少し高い電圧まで昇圧されると、磁化モードMDは、「1」から「2」になる。
磁化モードMDが「2」又は「3」の場合、直流電圧指令演算部53は、直流電圧目標値VdcTよりも少し高い電圧を維持するように、直流電圧指令値VdcRを保持する。
磁化モードMDが「4」の場合、直流電圧指令演算部53は、直流電圧指令値VdcRを直流電源5の電源電圧に向かって漸減させる。
減算器SU1には、直流電圧Vdc及び直流電圧指令演算部53により演算された直流電圧指令値VdcRが入力される。減算器SU1は、直流電圧指令値VdcRから直流電圧Vdcを減算する。減算器SU1は、減算した値を直流電圧制御部54に出力する。
直流電圧制御部54には、減算器SU1により演算された差分が入力される。直流電圧制御部54は、入力された差分に基いて、直流電圧Vdcが直流電圧指令値VdcRに追従するように、トルク電流指令値(磁化時のQ軸電流指令値)IqRAVRを演算する。直流電圧Vdcが直流電圧指令値VdcRに追従するように演算されたトルク電流指令値IqRAVRは、条件によっては、力行運転中であっても、回生トルク電流指令(マイナスのトルク電流指令値IqRAVR)となる。直流電圧制御部54は、演算したトルク電流指令値IqRAVRをトルク電流指令選択部55に出力する。
トルク電流指令選択部55には、トルク電流指令演算部52により演算されたトルク電流指令値IqRmg0及び直流電圧制御部54により演算されたトルク電流指令値IqRAVRが入力される。トルク電流指令選択部55は、入力されたトルク電流指令値IqRmg0,IqRAVRのうち選択されたいずれか一方のトルク電流指令値(磁化時のQ軸電流指令値)IqRmgを指令選択部25に出力する。
トルク電流指令選択部55は、直流電圧制御フラグFvcの状態に応じて、トルク電流指令値IqRmgを選択する。直流電圧制御フラグFvcが「H」の場合、トルク電流指令選択部55は、直流電圧制御部54により演算されたトルク電流指令値IqRAVRを選択する。直流電圧制御フラグFvcが「L」の場合、トルク電流指令選択部55は、トルク電流指令演算部52により演算されたトルク電流指令値IqRmg0を選択する。
指令選択部25には、通常時電流指令演算部23により演算された通常時のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnr及び磁化時電流指令演算部24により演算された磁化時のDQ軸電流指令値IdRmg,IqRmgが入力される。指令選択部25は、入力された2組のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnr,IdRmg,IqRmgのうち選択されたいずれか1組のDQ軸電流指令値IdR,IqRを減算器SUd,SUqに出力する。
指令選択部25は、磁化モードMDに応じて、DQ軸電流指令値IdR,IqRを選択する。磁化モードMDが「0」の場合、指令選択部25は、通常時のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnrを選択する。磁化モードMDが「0」以外の場合、指令選択部25は、磁化時のDQ軸電流指令値IdRmg,IqRmgを選択する。
座標変換部27は、交流電流検出器8U,8Wにより検出された相電流Iu,Iwを、回転数検出センサ3により検出された回転数Nrに基づいて、DQ軸電流値Id,Iqに変換する。なお、三相交流電流のV相電流は、他の2つの相電流Iu,Iwから演算される。座標変換部27は、演算したDQ軸電流値Id,Iqを減算器SUd,SUqに出力する。
減算器SUdには、指令選択部25から出力されたD軸電流指令値IdR及び座標変換部27により演算されたD軸電流値Idが入力される。減算器SUdは、D軸電流指令値IdRからD軸電流値Idを減算する。減算器SUdは、減算したD軸電流の差分を電流制御部26に出力する。
減算器SUqには、指令選択部25から出力されたQ軸電流指令値IqR及び座標変換部27により演算されたQ軸電流値Iqが入力される。減算器SUqは、Q軸電流指令値IqRからQ軸電流値Iqを減算する。減算器SUqは、減算したQ軸電流の差分を電流制御部26に出力する。
電流制御部26には、減算器SUd,SUqにより演算されたDQ軸電流の差分及び回転数検出センサ3により検出された回転数Nrが入力される。電流制御部26は、インバータ4から出力されるDQ軸電流Id,IqをDQ軸電流指令値IdR,IqRに追従させる制御をする。
電流制御部26は、減算器SUd,SUqにより演算されたDQ軸電流の差分及び回転数検出センサ3により検出された回転数Nrに基づいて、三相交流電圧指令値VuvwRを演算する。三相交流電圧指令値VuvwRは、インバータ4の出力電圧である三相交流の各相の電圧を制御するための指令値である。電流制御部26は、演算した三相交流電圧指令値VuvwRをPWM回路28に出力する。
PWM回路28は、電流制御部26により演算された三相交流電圧指令値VuvwRに基づいて、インバータ4をPWM(Pulse Width Modulation)制御するためのゲート信号SGを生成する。PWM回路28は、生成したゲート信号SGをインバータ4のゲート回路に出力する。これにより、インバータ4の出力が制御される。
放電制御部30には、直流電圧Vdc、直流電圧目標値VdcT、及び直流電圧制御フラグFvcの状態が入力される。直流電圧制御フラグFvcが「H」の場合、放電制御部30は、直流電圧Vdc及び直流電圧目標値VdcTに基づいて、放電要求信号Sdcを生成する。放電制御部30は、生成した放電要求信号Sdcを電流遮断回路制御部29に出力する。放電要求信号Sdcは、電流遮断回路制御部29に電流遮断回路7をオンさせるための信号である。放電制御部30は、直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTを超えると、放電要求信号Sdcを出力する。電流遮断回路7がオンになると、インバータ4と直流電源5との間を流れる電流は相互に流れる。これにより、平滑コンデンサ6は、放電され、直流電源5側の直流電圧Edcとインバータ4側の直流電圧Vdcは、同電位になる。よって、直流電圧Vdcの昇圧時では、電流遮断回路7をオンすることで、直流電圧Vdcが低下する。このようにして、放電制御部30は、直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTを超えて昇圧されることを抑制する制御をする。
電流遮断回路制御部29は、放電制御部30から入力される放電要求信号Sdc及び直流電圧制御フラグFvcの状態に基づいて、電流遮断回路7に電流遮断回路ゲート指令SGiを出力する。これにより、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路7を制御する。
直流電圧制御フラグFvcが「H」の場合、電流遮断回路制御部29は、原則として、電流遮断回路ゲート指令SGiをオフ指令にして、電流遮断回路7に出力する。これにより、電流遮断回路7のスイッチング素子71はオフされる。これにより、磁化時にインバータ4側の直流電圧Vdcが昇圧されても、インバータ4側から直流電源5側に電流は流れない。従って、インバータ4の入力電圧Vdcを直流電源5の電源電圧Edcよりも高く昇圧することができる。
但し、直流電圧制御フラグFvcが「H」であっても、放電制御部30から放電要求信号Sdcが入力されると、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオン指令にして、電流遮断回路7に出力する。これにより、電流遮断回路7のスイッチング素子71はオンされる。従って、電流遮断回路制御部29は、インバータ4の入力電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTを超える度に、電流遮断回路7をオンすることで、入力電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTになるように制御する。
直流電圧制御フラグFvcが「L」の場合、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオン指令にして、電流遮断回路7に出力する。これにより、電流遮断回路7のスイッチング素子71はオンされる。これにより、インバータ4と直流電源5との間を流れる電流は相互に流れる。従って、直流電源5側の直流電圧Edcとインバータ4側の直流電圧Vdcは、同電位になる。
次に、磁化管理部21において、磁化するために直流電圧Vdcを昇圧する必要があるか否かを判断する方法について説明する。
磁石磁束は、固定磁石の磁束と可変磁石の磁束とを合わせた総磁束である。Φを磁石磁束、ΦFIXを固定磁石の磁束、ΦVALを可変磁石の磁束とすると、磁石磁束は、次式で表される。なお、ΦVAL(Id)は、可変磁石の磁束を磁化電流Idにより変化させることができることを表している。
Φ=ΦFIX+ΦVAL(Id) …式(1)
ΦVALは、ある正の磁束量をΦ0として、可変可能な磁束量の範囲を次のように定義することができる。
−Φ0<=ΦVAL<=Φ0 …式(2)
これを可変磁石の磁束率として正規化する。即ち、可変磁石の磁束率は、次のように表すことができる。
−1<=可変磁石の磁束率<=1 …式(3)
磁石磁束Φは、固定磁石の磁束と可変磁石の磁束とを合わせた総磁束であることから、式(3)の可変磁石の磁束率は、次のように換算できる。
可変磁石の磁束率[PU]=(Φ−ΦFIX)/Φ0 …式(4)
このとき、VdをD軸電圧、VqをQ軸電圧、Rを巻線抵抗、LdをD軸インダクタンス、LqをQ軸インダクタンスとすると、次式が成り立つ。
Vd=R×Id−ω×Lq×Iq+Ld×dId/dt …式(5)
Vq=R×Iq+ω×Ld×Id+ω×Φ …式(6)
ここで、Vdの右辺最終項は、D軸電流(磁化電流)を変化させるために必要な電圧項である。Q軸電流も変化させるためには、同様な項がVqの右辺に必要である。
式(5)及び式(6)を用いて、必要なD軸電圧及びQ軸電圧が求められる。
このようにして求められたD軸電圧及びQ軸電圧を、インバータ4で出力するために必要なインバータ4の直流電圧Vdcは、図3に示す領域図を用いて求めることができる。
図3は、本実施形態に係るインバータ4における磁化に必要な直流電圧Vdcの領域を示す領域図である。横軸は、回転数[PU]を示している。縦軸は、可変磁石の磁束率[PU]を示している。
領域D1は、0〜100[V]の直流電圧Vdcが必要な領域である。領域D2は、100〜200[V]の直流電圧Vdcが必要な領域である。領域D3は、200〜300[V]の直流電圧Vdcが必要な領域である。領域D4は、300〜400[V]の直流電圧Vdcが必要な領域である。領域D5は、400〜500[V]の直流電圧Vdcが必要な領域である。領域D6は、500〜600[V]の直流電圧Vdcが必要な領域である。
図3に示す領域図では、回転数Nrが低いほど、直流電圧目標値VdcTは低い。これは、回転数Nrが低い場合、逆起電圧が小さいため、変調率(インバータ4の出力電圧)に余裕があるからである。また、磁束目標値φTの絶対値が大きいほど、直流電圧目標値VdcTは高い。さらに、増磁をする場合に比べて、減磁をする場合の方が、直流電圧目標値VdcTは低い。これは、増磁をする場合に比べて、減磁をする場合の方が、磁気飽和が小さいため、必要とされる磁化電流Idが少ないからである。
即ち、回転数Nrが低い場合や磁束目標値φTが小さい場合などの変調率に余裕がある場合は、直流電圧Vdcは低くてよい。
ここでは、変調率は、次のように定義する。
変調率=実際に出力しているDQ軸上のインバータ出力電圧/DQ軸上で出力可能なインバータ出力電圧の最大値 …式(7)
ここで、DQ軸上の出力電圧=√(D軸電圧の2乗+Q軸電圧の2乗)である。
また、DQ軸上で出力可能なインバータ出力電圧の最大値V1maxは、1パルスモードのときの出力電圧である。インバータ4への直流入力電圧をVdcとすると、インバータ出力電圧の最大値V1maxは、次式を用いて求めることができる。
V1max=Vdc×√6/π …式(8)
図3に示す領域図において、磁化するための条件が、ある領域D1〜D6に属している場合、その領域の上限の電圧以上の直流入力電圧があれば、磁化電流Idを流すことができる。
次に、直流電源5の電源電圧が200[V]の場合の可変磁力メモリモータドライブ装置1の動作について説明する。
磁化を行う際の領域が、領域D1又は領域D2に属している場合(領域DAに属している場合)、直流電圧Vdcは、200[V]あれば足りる。直流電源5の電源電圧は200[V]であるため、直流電圧Vdcを昇圧させる必要はない。
この場合、磁化管理部21は、昇圧要求フラグFvupを「L」のままにする。電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオン指令にして、電流遮断回路7に出力する。磁化時電流指令演算部24は、トルク変動を抑制するように、Q軸電流指令値IqRmgを出力する。
磁化を行う際の領域が領域D3に属している場合、直流電圧Vdcは、300[V]にする必要がある。直流電源5の電源電圧は200[V]であるため、直流電圧Vdcを昇圧させる必要がある。
この場合、磁化管理部21は、昇圧要求フラグFvupを「H」にする。電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオフ指令にして、電流遮断回路7に出力する。磁化時電流指令演算部24は、直流電圧Vdcを予めV1として設定されている300[V]よりも少し高い電圧に昇圧するように、Q軸電流指令値IqRmgを出力する。
磁化を行う際の領域が領域D4に属している場合、直流電圧Vdcは、400[V]にする必要がある。直流電源5の電源電圧は200[V]であるため、直流電圧Vdcを昇圧させる必要がある。
この場合、磁化管理部21は、昇圧要求フラグFvupを「H」にする。電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオフ指令にして、電流遮断回路7に出力する。磁化時電流指令演算部24は、直流電圧Vdcを予めV2として設定されている400[V]よりも少し高い電圧に昇圧するように、Q軸電流指令値IqRmgを出力する。
なお、高回転で高磁束域となる領域D5,D6については、可変磁力メモリモータドライブ装置1では使用しない。
図4は、本実施形態に係る磁化電流指令演算部51における磁化電流目標値ImgTを求めるためのグラフ図である。横軸は、磁化電流Id[PU]を示している。縦軸は、可変磁石の磁束率[PU]を示している。
現在の磁束値φPが磁束目標値φTよりも小さい場合、制御部10は、可変磁石を増磁する。この場合、磁化電流指令演算部51は、増磁特性Tiに基づいて、磁化電流目標値ImgTを演算する。
現在の磁束値φPが磁束目標値φTよりも大きい場合、制御部10は、可変磁石を減磁する。この場合、磁化電流指令演算部51は、減磁特性Tdに基づいて、磁化電流目標値ImgTを演算する。
図5から図13を参照して、本実施形態に係る制御部10におけるインバータ4の入力電圧(直流電圧)Vdcを昇圧する場合の磁化(増磁)動作の一例について説明する。
図5は、直流電圧Vdcの推移を示すグラフ図である。図6は、磁石磁束Φの推移を示すグラフ図である。図7は、D軸電流Id(又は、D軸電流指令値IdR)の推移を示すグラフ図である。図8は、Q軸電流Iq(又は、Q軸電流指令値IqR)の推移を示すグラフ図である。図9は、磁化モードMDの状態の推移を示すグラフ図である。図10は、電流遮断回路ゲート指令SGiの推移を示すグラフ図である。図11は、直流電圧制御フラグFvcの推移を示すグラフ図である。図12は、磁化要求フラグFrqの推移を示すグラフ図である。図13は、昇圧要求フラグFvupの推移を示すグラフ図である。
時刻t11における制御部10の動作について説明する。
磁化管理部21は、磁化すべきであると判断すると、磁化要求フラグFrqを立てる。これにより、磁化管理部21は、磁化モードMDを「0」から「1」にする。磁化管理部21は、磁化に際し、直流電圧Vdcの昇圧が必要であると判断すると、昇圧要求フラグFvupを立てる。このとき、磁化管理部21は、演算した直流電圧目標値VdcTを直流電圧指令演算部53に出力する。磁化管理部21は、磁化要求フラグFrq及び昇圧要求フラグFvupがともに「H」になると、直流電圧制御フラグFvcを立てる。直流電圧制御フラグFvcが「H」になると、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオフ指令として出力し、電流遮断回路7のスイッチング素子71をオフする。
Q軸電流Iqは、直流電圧Vdcを直流電源5の電源電圧Edcから直流電圧目標値VdcTよりも少し高い電圧に昇圧するように流れ始める。これにより、直流電圧Vdcが昇圧される。
時刻t12における制御部10の動作について説明する。
直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTに昇圧されると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「1」から「2」にする。
D軸電流Idは、磁化電流目標値ImgTに到達するように流れ始める。このようにD軸電流Idが流れることにより、可変磁力メモリモータ2の磁石磁束φは、磁束目標値φTに向かって上昇を始める。
Q軸電流Iqは、直流電圧Vdcを直流電圧目標値VdcTよりも少し高い電圧に維持するように流れる。直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTを超えると、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路7をオンにする。これにより、直流電圧Vdcは、低くなる。直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTより下がると、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路7をオフに戻す。これにより、直流電圧Vdcは、上昇する。この動作を繰り返すことにより、直流電圧Vdcは、常に直流電圧目標値VdcT近傍に維持される。
時刻t13における制御部10の動作について説明する。
D軸電流Idが磁化電流目標値ImgTに到達すると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「2」から「3」にする。このとき、磁石磁束φは、磁束目標値φTになる。
D軸電流Idは、通常時のD軸電流指令値IdRnrに向かって減少する。この通常時のD軸電流指令値IdRnrは、トルクを一定に維持するために、磁化前のトルクと同一になるようにD軸電流Idを制御する。磁化後の通常時のD軸電流指令値IdRnrは、磁化により磁石磁束φが増加しているため、磁化前の通常時のD軸電流指令値IdRnrよりも高くなる。
時刻t14における制御部10の動作について説明する。
直流電圧Vdcの昇圧が必要なくなるまでD軸電流Idが減少すると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「3」から「4」にする。
Q軸電流Iqは、通常時のQ軸電流指令値IqRnrに向かって増加する。この通常時のQ軸電流指令値IqRnrは、トルクを一定に維持するために、磁化前のトルクと同一になるようにQ軸電流Iqを制御する。磁化後の通常時のQ軸電流指令値IqRnrは、磁化により磁石磁束φが増加しているため、磁化前の通常時のQ軸電流指令値IqRnrよりも低くなる。
時刻t15における制御部10の動作について説明する。
直流電圧Vdcが電源電圧Edcにまで降圧されると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「4」から「0」にする。直流電圧Vdcが電源電圧Edcにまで降圧されたときは、DQ軸電流Id,Iqは、通常時のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnrに到達したときである。このとき、磁化管理部21は、磁化要求フラグFrq及び昇圧要求フラグFvupをともにクリアする。これにより、直流電圧制御フラグFvcもクリアされる。直流電圧制御フラグFvcが「L」になると、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオン指令として出力し、電流遮断回路7のスイッチング素子71をオンする。これにより、直流電源5から供給される直流電圧Vdcが、昇圧されずにインバータ4に供給される。
図14から図22を参照して、本実施形態に係る制御部10における直流電圧Vdcを昇圧しない場合の磁化(増磁)動作の一例について説明する。
図14は、直流電圧Vdcの推移を示すグラフ図である。図15は、磁石磁束Φの推移を示すグラフ図である。図16は、D軸電流Id(又は、D軸電流指令値IdR)の推移を示すグラフ図である。図17は、Q軸電流Iq(又は、Q軸電流指令値IqR)の推移を示すグラフ図である。図18は、磁化モードMDの状態の推移を示すグラフ図である。図19は、電流遮断回路ゲート指令SGiの推移を示すグラフ図である。図20は、直流電圧制御フラグFvcの推移を示すグラフ図である。図21は、磁化要求フラグFrqの推移を示すグラフ図である。図22は、昇圧要求フラグFvupの推移を示すグラフ図である。
時刻t21における制御部10の動作について説明する。
磁化管理部21は、磁化すべきであると判断すると、磁化要求フラグFrqを立てる。これにより、磁化管理部21は、磁化モードMDを「0」から「1」にする。磁化管理部21は、磁化に際し、直流電圧Vdcの昇圧が必要でないと判断すると、昇圧要求フラグFvupを「L」のままにする。これにより、磁化管理部21は、磁化モードMDを「1」から「2」にする。昇圧要求フラグFvupが「L」であるため、直流電圧制御フラグFvcも「L」のままである。これにより、電流遮断回路制御部29は、電流遮断回路ゲート指令SGiをオン指令として出力したままにし、電流遮断回路7のスイッチング素子71をオンのままに維持する。
D軸電流Idは、磁化電流目標値ImgTに到達するように流れ始める。このようにD軸電流Idが流れることにより、可変磁力メモリモータ2の磁石磁束φは、磁束目標値φTに向かって上昇を始める。Q軸電流Iqは、トルク変動を抑制するように流れる。
時刻t22における制御部10の動作について説明する。
D軸電流Idが磁化電流目標値ImgTに到達すると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「2」から「3」にする。このとき、磁石磁束φは、磁束目標値φTになっている。直流電圧Vdcを昇圧していないため、磁化管理部21は、磁化モードMDを「3」にした後、時間の経過を待たずに「4」にする。
D軸電流Idは、通常時のD軸電流指令値IdRnrに向かって減少する。この通常時のD軸電流指令値IdRnrは、トルクを一定に維持するために、磁化前のトルクと同一になるようにD軸電流Idを制御する。磁化後の通常時のD軸電流指令値IdRnrは、磁化により磁石磁束φが増加しているため、磁化前の通常時のD軸電流指令値IdRnrよりも高くなる。Q軸電流Iqは、トルク変動を抑制するように、D軸電流Idに伴って、減少する。
時刻t23における制御部10の動作について説明する。
DQ軸電流Id,Iqが通常時のDQ軸電流指令値IdRnr,IqRnrに到達すると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「4」から「0」にする。このとき、磁化管理部21は、磁化要求フラグFrqをクリアする。
本実施形態によれば、制御部10は、トルク電流Iqを制御することで、インバータ4の入力電圧Vdcを磁化に必要な電圧に昇圧することができる。
また、インバータ4と直流電源5とを接続するパワーライン(直流リンク)に、電流遮断回路7を設けることで、インバータ4に入力電圧Vdcを昇圧しても、インバータ4から直流電源5に電流が流れることを抑止することができる。これにより、昇圧状態を維持することができる。
さらに、電流遮断回路7は、スイッチング素子71、ダイオード72、及びリアクトル73で構成することのできる簡易な回路である。よって、インバータ4の直流側の回路に直流チョッパなどの大型になる変換器を設けなくても、インバータ4の入力電圧Vdcを昇圧することができる。これにより、可変磁力メモリモータドライブ装置1は、インバータ4の直流側に設ける装置類を小型化、軽量化、及びコストダウンすることができる。
また、電流遮断回路7にリアクトル73を設けることで、電流遮断回路7をオンした場合に、放電によるインバータ4の入力電圧Vdcの急峻な減少を抑制することができる。これにより、入力電圧Vdcの制御精度を向上させることができる。また、リアクトル73は、配線のインダクタンスとしても設計することができるため、可変磁力メモリモータドライブ装置1の小型化、軽量化、及びコストダウンを妨げずに、電流遮断回路7は、リアクトル73を備えた構成にすることができる。
さらに、磁化電流Idを流すための瞬時電力を直流電源5から負担する必要がないため、直流電源5にバッテリなどを使った場合には、バッテリの劣化する寿命を延ばすことができる。また、磁化電流Idを流すために、バッテリの仕様をアップさせる必要もない。さらに、インバータ4の直流側に電磁接触器を備えている場合、この電磁接触器の電流定格を低くした仕様にすることができる。
また、可変磁力メモリモータドライブ装置1を鉄道車両の駆動システムとして設けた場合、架線が直流電源5に相当するシステムになる。架線からの電流は、信号系にも利用される。このため、架線の急峻な電流変化は、誘導障害を引き起こす。可変磁力メモリモータドライブ装置1であれば、磁化による直流側の急峻な電流変化が架線に伝わることを抑制することができる。これにより、誘導障害の発生を抑制することができる。
さらに、制御部10は、図3に示す領域図を用いて、回転数Nr及び磁束目標値φT(可変磁石の磁束率)に応じて区分けされた複数の領域に基づいて、直流電圧Vdcの昇圧後の電圧となる直流電圧目標値VdcTを決定している。
ここで、インバータ4の直流側電圧Vdcの増加は、インバータ4のスイッチング損失を増加させる。このため、磁化による直流電圧Vdcの昇圧は、インバータ4のスイッチング素子の温度上昇(素子破壊)の要因の一つである。
このため、制御部10は、図3に示す領域図を用いて制御することで、磁化電流Idの大きさに応じて、直流電圧目標値VdcTを段階的に高く設定している。これにより、インバータ4のスイッチング素子の温度上昇を極力小さく抑制することができる。
また、制御部10は、回転数Nrが低い場合や磁束目標値φTが小さい場合などの変調率に余裕がある場合は、磁化時に直流電圧Vdcを昇圧しない。これにより、Q軸電流Iqによる昇圧動作を行わないため、Q軸電流Iqをトルク変動の抑制に利用することができる。
(第2の実施形態)
図23は、本発明の第2の実施形態に係る可変磁力メモリモータドライブ装置1Aの構成を示すブロック図である。
可変磁力メモリモータドライブ装置1Aは、図1に示す第1の実施形態に係る可変磁力メモリモータドライブ装置1において、電流遮断回路7を電流遮断回路7Aに代え、制御部10を制御部10Aに代え、放電回路11を追加した構成である。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
電流遮断回路7Aは、第1の実施形態に係る電流遮断回路7からリアクトル73を取り除いた構成である。
放電回路11は、平滑コンデンサ6を放電するための回路である。放電回路11は、スイッチング素子111と、抵抗112とを備えている。スイッチング素子111がスイッチング制御されることにより、平滑コンデンサ6から放電される電力が抵抗112で消費される。
制御部10Aは、第1の実施形態に係る制御部10において、電流遮断回路制御部29を電流遮断回路制御部29Aに代え、放電制御部30を放電制御部30Aに代えた構成である。
電流遮断回路制御部29Aは、第1の実施形態での放電要求信号Sdcによる制御を行わない。即ち、電流遮断回路制御部29Aは、直流電圧制御フラグFvcの状態のみで、電流遮断回路7Aを制御する。その他の点は、第1の実施形態に係る電流遮断回路制御部29と同様である。
放電制御部30Aは、第1の実施形態に係る放電制御部30において、放電要求信号Sdcを出力する代わりに、放電回路11を制御するための放電回路ゲート指令SGdを出力する。放電制御部30Aは、放電回路ゲート指令SGdを放電要求信号Sdcと同様のタイミングで出力する。即ち、放電制御部30Aは、第1の実施形態で電流遮断回路制御部29を介して行っていた電流遮断回路7よる放電制御を行う代わりに、放電回路11を直接的に制御して放電制御を行うようにしたものである。
次に、第1の実施形態で説明した磁化動作におけるインバータ4の入力電圧Vdcの制御と同一の条件で、放電制御部30A及び電流遮断回路制御部29Aで行う場合について説明する。
図24は、本実施形態に係る電流遮断回路制御部29Aにより生成される電流遮断回路ゲート指令SGiの推移を示すグラフ図である。図25は、本実施形態に係る放電制御部30Aにより生成される放電回路ゲート指令SGdの推移を示すグラフ図である。
ここで、放電制御部30A及び電流遮断回路制御部29A以外の制御部10Aにおける制御は、第1の実施形態に係る制御部10と同様である。従って、第1の実施形態に係る制御部10と同一の構成による動作は、本実施形態に係る制御部10Aも同一の動作となる。よって、必要に応じて、第1の実施形態で用いた図5〜9,11〜22を参照して説明する。
時刻t11において、直流電圧制御フラグFvcが「H」になると、電流遮断回路制御部29Aは、電流遮断回路ゲート指令SGiをオフ指令として出力し、電流遮断回路7Aのスイッチング素子71をオフする。電流遮断回路7Aがオフされると、直流電圧Vdcの昇圧が開始される。
時刻t12において、直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTに昇圧されると、磁化管理部21は、磁化モードMDを「1」から「2」にする。
直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTを超えると、放電制御部30Aは、放電回路ゲート指令SGdをオン指令にして出力する。これにより、放電回路11のスイッチング素子111がオンされると、平滑コンデンサ6が放電される。平滑コンデンサ6が放電されると、直流電圧Vdcは低下する。従って、直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTを超える度に、放電回路11がオンされることで、放電制御部30Aは、直流電圧Vdcを直流電圧目標値VdcTにするように制御する。
放電制御部30Aによるこの制御は、直流電圧Vdcを直流電圧目標値VdcTに維持する必要がある時間t12から時間t14までの間、実行される。このようにして、電流遮断回路制御部29A及び放電制御部30Aにより、直流電圧Vdcは、直流電圧目標値VdcTで常に一定に維持される。
本実施形態によれば、平滑コンデンサ6を放電させるための放電回路11を設け、電流遮断回路7Aと放電回路11とを別々に制御することで、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、既存のモータドライブ装置を改造して、本実施形態に係る可変磁力メモリモータドライブ装置1Aを製造する場合、既存のモータドライブ装置に放電回路11相当の回路が予め設けられていれば、この回路を放電回路11として利用することができる。このようにして、可変磁力メモリモータドライブ装置1Aを製造することで、製造コストを低減することができる。
なお、各実施形態は、以下のように変形した形態として用いることができる。
各実施形態において、直流電圧目標値VdcTを決定するための領域の分け方は、図3に示したものに限らない。例えば、リラクタンスを利用する永久磁石モータでは、トルクが小さい場合にも必要なモータ印加電圧は小さい。このため、トルクが小さい場合には、変調率(インバータ出力電圧)に余裕がある。よって、可変磁力メモリモータ2にリラクタンスを利用する永久磁石モータを採用した可変磁力メモリモータドライブ装置1,1Aにおいては、トルクをパラメータとして取り入れて、直流電圧目標値VdcTを決定するための領域を図3に示す領域図よりもさらに細かく分けてもよい。これにより、トルクが小さい場合にも、直流電圧目標値VdcTを小さくする(又は昇圧しない)ことができる。これにより、リラクタンスを利用する永久磁石モータを採用した可変磁力メモリモータドライブ装置1,1Aでは、インバータ4のスイッチング素子の温度上昇をより小さく抑制することができる。
また、各実施形態において、直流電圧Vdcを昇圧するための磁化時のQ軸電流指令値IqRAVRは、直流電圧目標値VdcTに基づいて演算しなくてもよい。例えば、磁化時に必要とされる最大の直流電圧Vdcを超えるような電圧に常になるように、磁化時のQ軸電流指令値IqRAVRを決定してもよい。また、磁化時のQ軸電流指令値IqRAVRを決定する場合において、昇圧可能な最大の直流電圧Vdcになるように演算してもよいし、予め固定値として、Q軸電流指令値IqRAVRが設定されていてもよい。このように、磁化するために必要な電圧を超える電圧になるように直流電圧Vdcを制御し、電流遮断回路7又は放電回路11を用いて、直流電圧Vdcが直流電圧目標値VdcTになるように制御することで、Q軸電流指令値IqRAVRを演算するための計算機の演算負荷を軽減することができる。
さらに、各実施形態において、磁化管理部21は、磁化モードMDを「1」にした後、直流電圧指令値VdcR(又は直流電圧Vdc)が直流電圧目標値VdcTに達するまでに必要な時間の経過後に、磁化モードMDを「1」から「2」にする構成としたが、これに限らない。磁化管理部21は、直流電圧検出器9により検出した直流電圧値Vdcが直流電圧目標値VdcTに達したことを検出して、磁化モードMDを「1」から「2」にしてもよい。
また、各実施形態において、放電制御部30,30Aによるインバータ4の入力電圧Vdcの制御において、入力電圧Vdcを下げる制御を開始する閾値となる基準電圧及び入力電圧Vdcを上げる制御を開始する閾値となる基準電圧は、直流電圧目標値VdcTでなくてもよい。例えば、入力電圧Vdcを下げる(電流遮断回路7をオンする)場合の基準電圧を直流電圧目標値VdcTよりも少し高くし、入力電圧Vdcを上げる(電流遮断回路7をオフする)場合の基準電圧を直流電圧目標値VdcTよりも少し低くしてもよい。このようにヒステリシス特性のような制御をすることにより、電流遮断回路7のスイッチング素子71がチャタリングすることを防止することができる。また、磁化時のQ軸電流指令値IqRmgは、直流電圧目標値VdcTよりも少し高い電圧になるような値ではなく、そのまま直流電圧目標値VdcTになるような値に演算してもよい。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。