JP5780422B2 - ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明はポリフェニレンスルフィドを基材とする組成物及びその成形体に関する。本発明はさらに詳しくは、ポリフェニレンスルフィドを含有する改良された電気特性、特に優れた絶縁寿命を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形体に関する。
ポリアリーレンサルファイド(以下、「PAS」と略記する)樹脂は卓越した耐熱性、耐薬品性を有するエンジニアリングプラスチックスとして知られている。このため、これらの優れた特徴を活かして、他の熱可塑性樹脂や硬化性樹脂との組成物を、電気・電子部品などとして用いる検討が種々なされている。例えば、PAS樹脂組成物でケーシングなどの成形体を射出成形し、その後、エポキシ樹脂で封入して得られる電気・電子部品への適用に際して、PAS樹脂製ケーシング中に導電体を装着し、固着した後に未硬化のエポキシ樹脂を流し込み、その後加熱等により該エポキシ樹脂を硬化させて電気・電子部品とする例が知られている。
PASをこの様な用途に用いる場合は、PAS本来の長期の耐熱性や耐薬品性に加え、特に広範囲な使用環境温度下で長期に亘りエポキシ樹脂との密着性に優れること、すなわち、PAS樹脂成形体を用いたエポキシ樹脂封入部品を、例えば−40℃程度から140℃程度の温度範囲で繰り返し使用しても、封入されたエポキシ樹脂とPAS樹脂成形体の界面で剥離が起こらない性能が求められる。しかし、PAS樹脂は、本来、エポキシ樹脂との密着性に劣り、更にガラス繊維等で強化した場合でも脆弱であるため、本用途での使用に耐ええないものであった。
そこで、PAS樹脂固有の優れた耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、冷熱時のエポキシ樹脂密着性を飛躍的に改善させるため、エポキシ樹脂とオキサゾリン基含有非晶性ポリマーを含有するPAS樹脂組成物が提供されるに至り、さらに耐衝撃性改質樹脂を併用することによって、冷熱衝撃時の耐クラック性を大幅に向上させることが可能となった(特許文献1)。
ところで、近年、電気・電子装置の高出力・高電圧化と、小型化/軽量化に伴う樹脂成形品の薄肉化に耐えうる電気絶縁性、特に樹脂成形品の厚み方向(沿面に対し垂直方向)に対して高い電圧に耐えうる優れた絶縁性を長時間維持することが望まれている。
しかしながら、前記特許文献1に記載のPAS樹脂組成物は成形品の厚み方向に対して必ずしも優れた絶縁寿命を付与できるわけではなく、改良の余地があった。
特開2000−103964号公報
そこで、本発明が解決しようとする課題は、成形品の厚み方向に対する絶縁寿命を向上させることができるPAS樹脂組成物および該組成物を用いた成形品を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、エポキシ樹脂(B)、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)及びマグネシウム化合物(D)を必須成分として含有するポリアリーレンサルフィド樹脂組成物が、樹脂成形体の厚み方向の絶縁寿命を向上させ、高い電圧に耐えうる優れた絶縁性を長期間維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)及びマグネシウム化合物(D)を必須成分として含有することを特徴とするポリアリーレンサルフィド樹脂組成物、
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を成形して得られる成形品、
前記成形品を組み込んで成る電子・電気部品、に関する。
本発明によれば、成形品の厚み方向に対する絶縁寿命を向上させることができるPAS樹脂組成物および該組成物を用いた成形品を提供することができる。
本発明に使用するポリアリーレンサルファイド樹脂(A)としては、特に制限されるものではないが、一般式(1)〔−Ar−S−〕(式中、−Ar−は少なくとも1つの炭素6員環を含む2価の芳香族基を示す)で示される繰り返し単位を主要構造単位として有するものであり、特に、前記一般式(1)で示される構造単位を70モル%以上含有するものが、耐熱性と耐薬品性とに優れる点から好ましい。この一般式(1)で示される構造単位のなかでも特に、一般式(2)
で表わされる繰り返し単位を有する、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記する)が好ましく、とりわけ一般式(2)で表わされる繰り返し単位を、70モル%以上含有するポリマーが、特に結晶性ポリマーとしての特徴である十分な強度が得られ、かつ、靭性、耐薬品性にも優れる点から好ましい。ここで、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に含有される、前記一般式(2)で示される構造単位との共重合成分としては、下記に示すようなメタ結合、エーテル結合、スルホン結合、スルフィドケトン結合、ビフェニル結合、置換フェニルスルフィド結合、3官能フェニルスルフィド、ナフチル結合等が挙げられる。共重合体成分の含有率は、30モル%未満が好ましいが、3官能性以上の結合を含有させる場合の含有率は、5モル%以下、中でも3モル%以下であることが好ましい。
また、本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、特に(B)成分や(C)成分との反応性に優れ、冷熱時のエポキシ密着性を飛躍的に高めることができる点から、ΔHClが10μmol/g以下、ΔNaOHが5〜30μmol/gで、かつ、(ΔNaOH−ΔHCl)≧5μmol/gであることが、(B)及び(C)成分の分散性が良好で、冷熱時のエポキシ密着性が一層良好なものとなり好ましい。
ここで、ΔHCl、ΔNaOH及び(ΔNaOH−ΔHCl)は以下の様にして測定される値である。
[測定方法]
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)10gを1mol/lのHCl10mlを加えて攪拌し、その後濾過する。次いでHClが検出されなくなるまで水洗を繰り返し、水洗で用いた濾液を全て回収し、該濾液中のHClをNaOHで滴定し、消費されたHClのモル数をΔHClとする。次いで、水洗後のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を再度蒸留水に分散させ、そこに1mol/lNaOH10mlを加えて攪拌する。攪拌後濾過し、NaOHが検出されなくなるまで水洗を繰り返す。水洗で用いた濾液を全て回収し、該濾液中のNaOHをHClで滴定し、消費されたNaOHのモル数をΔNaOHとする。尚、ΔNaOH−ΔHClは、この様にしてもとめたΔNaOHとΔHClの差である。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、末端チオール基の濃度が5〜50μモル/gの範囲であることが、(B)及び(C)成分との反応性が良好で分散性に優れると共に、流動性に優れ成形性が良好となる点から好ましい。即ち、5μモル/g以上においては、分散性により優れたものとなり、また、50μモル/g以下においては流動性に優れたものとなる。
尚、本発明における末端チオール基濃度の測定方法は、ヨードアセトアミド法により定量することができる。ここで、ヨードアセトアミド法とは、PAS樹脂を一旦塩酸等により全て酸性化してチオール基とし、その後全末端チオール基とヨードアセトアミドとの加熱下での反応により沃素を生成させて、酸性化に費やされた酸のモル数とUV分光法により定量された沃素のモル数から、初期段階でポリマー中存在した末端チオール基を算出するものである。
具体的測定方法としては、具体的には、以下の方法が挙げられる。
[測定方法]
粉末状のポリマーサンプル10mg〜1g程度を精秤し、密栓型試験管に入れ、アセトン1mlと純水3mlを加え、更に希塩酸を加えて撹拌後、濾別した濾液をNaOH水溶液により逆滴定して末端酸性化に消費された塩酸のモル数を測定する。次いで濾別されたポリマーサンプルを純水にて30分間洗浄し、アセトン2.5mlおよびヨードアセトアミド50mモルからなるアセトン溶液2.5mlを加え、密栓し、100℃で60分間加熱し、水冷し、開栓し、それから液相部を分離し、紫外線吸光度計を用いて、450nmの吸光度(I2の吸光度)を測定する。前もってモデルチオール化合物「Cl−CH-SH」に関して作製しておいた検量線を用いて吸光度から酸性化後の全末端チオール基濃度を算出する(サンプル量はアセトンスラリー中のチオール基の濃度が0.1〜0.3mモルの範囲になるように適当に選ぶことが好ましい。)。この酸性化後の全末端チオール基濃度から末端酸性化に費やされた塩酸のモル数を差し引いたモル数が、求めるべきPAS樹脂の末端チオール基となる。同一粉末状サンプルにつき3回ずつ測定を行って、末端チオール基濃度の平均値を求める。
本発明で用いるポリアリーレンサルファイド樹脂(A)は、実質的に線状で分岐又は架橋構造を有しない分子構造、或いは、分岐や架橋を有する構造の何れでもよいが、実質的に線状構造を有するものが、反応性、相溶性等の点から好ましい。
この様なポリアリーレンサルファイド樹脂(A)の重合方法としては、特に限定されるものではないが、求核置換反応による重合として、方法1として、ハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとを反応させる方法があり、具体的には、
方法1−1:p−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、
方法1−2:p−ジクロルベンゼンを、極性溶媒中で、硫化ナトリウムと反応させる方法、
方法1−3:p−ジクロルベンゼンを、極性溶媒中で、水硫化ナトリウム及び水酸化ナトリウムと反応させる方法、
方法1−4:p−ジクロルベンゼンを、極性溶媒中で、硫化水素と水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法、
が挙げられ、また、方法2として、p−クロルチオフェノール等のチオフェノール類を炭酸カリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ触媒又は沃化銅等の銅塩の共存下で自己縮合させる方法が挙げられる。また、方法1にて使用し得る極性溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等が挙げられる。
また、求電子置換反応による重合として、ベンゼン等の芳香族化合物をフリーデルクラフツ反応によりルイス酸触媒存在下塩化硫黄と縮合させる方法(方法3)等が挙げられる。
これらのなかでも特に、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)の分子量が高くなり、かつ、収率が高くなる点から方法1−2の方法が好ましく、具体的には、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が最も適当である。また、該方法1−2においては、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加したりすることが好ましい。
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、実質的に線状構造を有するものが、反応性、相溶性等の点から好ましい。実質的に線状構造を有するPAS樹脂を製造する方法は、特に特定されないが、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物及び酢酸リチウム等の有機アルカリ金属カルボン酸塩を反応させる方法や有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物を反応させるにおいて重合反応途中で多量の水を添加しつつ且つ同時に重合温度を上昇させる水添加二段重合法などで代表される製造方法が挙げられる。
本発明で好適に使用される実質的に線状構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、酸処理の後洗浄されたものであることが特に好ましい。
この酸処理に使用される酸としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を分解する作用を有するものでなければ特に制限はないが、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸等を挙げることができ、なかでも酢酸、塩酸が好ましく使用される。酸処理の方法としては、酸または酸水溶液にポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を浸漬する方法等がある。この際、必要に応じ撹拌または加熱することができる。例えば、酢酸により酸処理する場合、pH4の水溶液を80〜90℃に加熱した中にPAS樹脂を浸漬し、30分間撹拌することにより、十分な効果が得られる。酸処理されたPAS樹脂は、残存している酸または塩等を物理的に除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。このときに使用される水としては、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
上記酸処理には、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の粉粒体を用いても、或いは重合後のスラリー状態にあるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をそのまま酸処理に供してもよい。
次に、本発明で用いるエポキシ樹脂(B)は、エポキシ樹脂硬化物との密着性を飛躍的に向上させる必須の成分であり、また、後述する衝撃性改質樹脂(E)を併用する場合には、該(E)成分の分散性も著しく向上するものである。
この様なエポキシ樹脂(B)としては、特に制限されるものでなく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂及びビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、このうちビスフェノール型エポキシ樹脂、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合に、エポキシ接着性が飛躍的に向上するため好ましい。これらのエポキシ樹脂(B)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
このビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、具体的にはビスフェノールAのグリシジルエーテル、及び、該グリジシジルエーテルを更にビスフェノールAで高分子量化した構造のものが挙げられる。
このエポキシ樹脂(B)としては、特に、組成物中の成形加工性、相溶性が良好である点からエポキシ当量150〜2100g/eqの範囲であることが好ましい。とりわけ成形加工性の点から700〜2100g/eqの範囲が好ましい。
次に、本発明において必須の成分として用いられるオキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)は、上記(B)成分と同様にエポキシ樹脂硬化物との密着性を飛躍的に向上させ、また、後述する耐衝撃性改質樹脂(E)の分散性をも向上させるものである。即ち、本発明においては、(B)成分と(C)成分とを併用することにより従来にない優れたエポキシ接着性を発現するのである。また、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)は、特にPAS樹脂中での耐衝撃性改質樹脂(E)の微細分散化に効果を発現して樹脂組成物全体の冷熱衝撃性を向上させるという効果を奏する。
ここでオキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)とは、ガラス転移点又は融点以上の温度条件で液化した状態から冷却により固化させた状態であって、かつ、200℃以下の温度領域内で非晶領域を80重量%以上含有するポリマーをいう。具体的にはオキサゾリニル基含有重合性不飽和モノマーの単独重合体、及び該モノマーとその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。
ここで、オキサゾリニル基含有重合性不飽和モノマーとしては、
で示されるオキサゾリニル基含有不飽和モノマーを含有する共重合体である。ここでXは、ラジカル重合可能な二重結合を有する置換基であり、次のものが挙げられる。

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基で、好ましくはメチル基、i−またはn−プロピル基、ブチル基である。)。
本発明に用いるオキサゾリニル基含有重合性不飽和モノマーとしては、ビニルオキサゾリンが好ましい。ここで、ビニルオキサゾリンとしては、例えば
(式中、Rは水素原子またはメチル基)で示されるビニルオキサゾリンが挙げられる。
また、該オキサゾリニル基含有重合性不飽和モノマーと共重合し得るその他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン等の芳香族ビニル、アクリロニトリル等のシアン化ビニルや酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体成分、さらにエチレンプロピレン等のα−オレフィンやブタジエン、イソプレン等のジエン成分が挙げられる。これらの中でも特に、相溶性の点からスチレン、アクリロニトリルが好ましい。
また、オキサゾリニル基含有重合性不飽和モノマーとその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体としては、上記単量体成分から選択される二元共重合体又は三元共重合体であることが好ましく、具体的には、ビニルオキサゾリンと、スチレン及び/又はアクリロニトリルであることが好ましい。
本発明においては、上記(A)〜(C)の各成分に加え、更に、マグネシウム化合物(D)を併用することにより、絶縁耐力に優れ、成形物の厚み方向における絶縁寿命性を飛躍的に改善することができる。本発明で用いるマグネシウム化合物(D)としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。このうち、上記の絶縁寿命を大幅に改善できることから、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムが好ましく、さらに、酸化マグネシウムがより好ましい。
本発明の樹脂組成物における上記した各成分の含有比率としては、特に制限されるものではないが、樹脂組成物の合計に対し、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)100質量部に対してエポキシ樹脂(B)が1〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部であり、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)が1〜100質量部、より好ましくは3〜20質量部であり、マグネシウム化合物(D)が1〜50質量部、より好ましくは5〜30質量部である。当該範囲で本発明の効果が顕著なものとなり、特に好ましい範囲において、成形物のエポキシ接着強度を維持しつつ、厚み方向の絶縁寿命に優れた効果を示すことができる。
本発明においては、上記(A)〜(D)の各成分に加え、更に、耐衝撃性改質樹脂(E)を併用することにより、成形物の靭性が飛躍的に改善され、エポキシ密着性が飛躍的に向上する他、前述した通り、熱衝撃時の耐クラック性を大幅に改善できる。
耐衝撃性改質樹脂(E)としては、特に限定されるものではないが、特に、酸基又はエポキシ基含有ビニル系重合体(E1)、及び、酸基又はエポキシ基含有ゴム質重合体(E2)であることが冷熱衝撃に対する耐クラック性に優れる点から好ましい。
また、酸基又はエポキシ基含有ビニル系重合体(E1)としては、特に制限されないが、酸基若しくはエポキシ基含有α−ポリオレフィン(E1−1)、又は、酸基若しくはエポキシ基含有α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル重合体(E1−2)が挙げられる。
ここで、酸基若しくはエポキシ基含有α−ポリオレフィン(E1−1)としては、特に限定されないが、α−オレフィン、及びα,β−不飽和カルボン酸若しくはその無水物の共重合体、α−オレフィン、α,β−不飽和カルボン酸若しくはその無水物、及びα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルの共重合体、α−オレフィン、及びα,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとの共重合体、α−オレフィン、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル、及びα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルの共重合体が挙げられる。
ここで、α−オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1及びこれらの混合物等が含まれるが、特にエチレンが好ましい。
また、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クリトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸及びその無水物などがあり、特に無水マレイン酸、無水コハク酸が好ましく使用される。
次に、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとは、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどであり、特にメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
また、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルは、例えば炭素数3〜8個の不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸イソブチル等が挙げられ、これらのうち特にアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルが好ましい。
α−オレフィンに対する、各単量体成分の変性割合は、特に制限されるものではないが、該共重合体中の変性部位を各単量体重量に換算し、共重合体重量に対する割合として、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物の場合、10重量%以下、好ましくは0.1〜5重量%共重合であることが好ましく、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルの場合、0.1〜15重量%、なかでも0.5〜10重量%の範囲が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルを併用する場合は5〜35重量%の範囲が好ましい。
次に、酸基若しくはエポキシ基含有α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル重合体(E1−2)は、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル重合体に酸基またはエポキシ基を導入した構造を有するものであり、具体的にはα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルに対し、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物またはα,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルを共重合した構造のものが挙げられる。
ここで、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、上記したものが何れも使用でき、例えば炭素原子数3〜8個の不飽和カルボン酸、具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸イソブチル等のアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、併用してもよい。なかでも、特にアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルが好ましい。
次に、これらα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルと共重合させる、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリリ酸、クリトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸及びその無水物などが挙げられ、特に無水マレイン酸、無水コハク酸が好ましい。
また、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルと共重合させる、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとは、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルと共重合させる、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物又はα,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルの変性割合としては、得られる共重合体中の共重合成分構成部位を単量体重量に換算した際の、該重合体に対する比率で、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物の場合、0.01〜10重量%、中でも0.05〜5重量%の範囲、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルの場合、0.1〜15重量%、中でも0.5〜10重量%の範囲が好ましい。
次に、酸基又はエポキシ基含有ゴム質重合体(E2)としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸基若しくはエポキシ基を含有する、共役ジエンと芳香族ビニル系単量体との共重合体の水添物が好ましい。具体的には、共役ジエンと芳香族ビニル系単量体との水添共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸若しくはその無水物又はα,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルをグラフト共重合した構造を有するものが挙げられる。
ここで、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素の水添共重合体とは、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素とのブロック共重合体またはランダム共重合体であって、かつ、その少なくとも80%が水素添加により還元されているものである。この場合、なかでも共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素とのブロック共重合体が好ましく用いられる。尚、本発明においては、水素添加により還元される不飽和結合として、芳香核の二重結合は含まれない。
ここで、共役ジエンとしては、1、3−ブタジエン、イソプレン、1、3−ペンタジエンなどが挙げられ、なかでも、1、3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
芳香族ビニル炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1、3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、なかでもスチレンが好ましい。
共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素の水添共重合体の具体例としては、スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック水添共重合体、スチレン/イソプレン/スチレントリブロック水添共重合体などが挙げられるが、なかでもクラック防止効果が顕著である点からスチレン/ブタジエン/スチレントリブロック水添共重合体が好ましい。
詳述した水添共重合体にグラフト共重合させるα,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリリ酸、クリトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸及びその無水物などが挙げられ、特に無水マレイン酸、無水コハク酸が好ましい。
α,β−不飽和カルボン酸グリシジルとは、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルが好ましい。
水添物(E2)中の、酸基若しくはエポキシ基の含有量としては、特に制限されるものではないが、該水添物(E2)中の官能基量を原料単量体量に換算した場合の、水添物(E2)に対する割合で、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその無水物の場合、0.01〜10重量%、なかでも0.05〜5重量%の範囲であることが好ましく、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルに場合、0.1〜15重量%、なかでも0.5〜10重量%の範囲であることが好ましい。
上記した酸基又はエポキシ基含有ビニル系重合体(E1)、及び酸基又はエポキシ基含有ゴム質重合体(E2)のなかでも、特に、官能基として酸基を持つものがエポキシ接着性や耐クラック性に著しく優れる点からこのましく、特に酸基含有のビニル系重合体(E1)、なかでも酸基含有α−オレフィン(E1−1)、とりわけα−オレフィン、α,β−不飽和カルボン酸若しくはその無水物及びα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルの共重合体が、当該効果が顕著なものとなり好ましい。
本発明の組成物における上記した成分(E)の含有比率としては、特に制限されるものではないが、樹脂組成物中、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)100質量部に対して、0質量部を超える範囲で添加することにより、エポキシ密着性、冷熱衝撃時の耐クラック性を改善する効果を発揮することができるが、さらに0.5〜100質量部、さらに好ましくは5〜100質量部となる範囲であることが本発明のエポキシ密着性及び耐クラック性改善がより顕著となるため好ましい。
本発明においては、上記(A)〜(D)成分、又は、(A)〜(E)成分に加え、さらに繊維状強化材(F)を含有させることが好ましい。
繊維状強化材(F)は冷熱時の耐クラック性向上のため好適に使用され、繊維状強化材を含むことにより、冷熱時のPAS樹脂自身の熱伸縮に起因した応力に耐え得る強度が発現され、冷熱時におけるPAS樹脂製成形物のクラック発生が、より一層抑止される。
繊維状強化材は、本発明の目的を達し、且つ用途に適合すれば特に限定されないが、具体的にはガラス繊維、炭素繊維、酸化亜鉛ウイスカ、アスベスト繊維、シリカ繊維、ほう酸アルミウイスカ、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真ちゅう等の金属の繊維状物の無機質繊維状物質、並びに、アラミド繊維、ポリアミド、フッ素樹脂及びアクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質等が挙げられるが、中でもガラス繊維が好ましい。
繊維状強化材(F)の添加量は、特に制限されないが、樹脂組成物中、PAS100質量部に対して、0質量部を超える範囲で添加することにより、冷熱時のクラック発生を抑止することができるが、さらに1〜200質量部の範囲であり、さらに5〜100重量%の範囲であることが、冷熱時のクラック発生を顕著に抑止することができるため好ましい。
また本発明の組成物は、さらにシラン化合物(G)を含有させることにより、PAS樹脂(A)とオキサゾリン基含有重合体(C)との相溶性、更に耐衝撃性改質樹脂(E)との相溶性を一層向上させることができる。特に、シラン化合物(G)はPAS樹脂中での耐衝撃性改質樹脂(E)を良好に微細分散させ、樹脂組成物全体の耐衝撃性を飛躍的に向上させることができる。
この様なシラン化合物(G)は、有機官能基及び珪素原子を構造中に含有するシランカップリング剤が何れも使用できるが、なかでもエポキシ基を含むアルコキシシラン又はフェノキシシラン、アミノ基を含むアルコキシシラン又はフェノキシシラン、或は、イソシアネート基を含むアルコキシシラン又はフェノキシシランが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、または、2種以上を併用してもよい。
エポキシアルコキシシラン又はエポキシフェノキシシランとしては、1分子中にエポキシ基を1個以上有し、アルコキシ基又はフェノキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物が好ましく、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
アミノアルコキシシラン又はアミノフェノキシシランとしては、1分子中にアミノ基を1個以上有し、アルコキシ基又はフェノキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物が好ましく、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリフェノキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
イソシアネートアルコキシシラン又はイソシアネートフェノキシシランとしては、1分子中にイソシアネート基を1個以上有し、アルコキシ基又はフェノキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物が好ましく、例えば、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリフェノキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルメチリルジエトキシシランなどが挙げられる。
シラン化合物(G)の添加量は、樹脂組成物中、PAS樹脂100質量部に対して、0質量部を超える範囲で添加することにより樹脂組成物全体の耐衝撃性を向上させる効果を発揮させるが、さらに0.01〜3.0重量%となる範囲が、前記耐衝撃性の向上効果が顕著となるため好ましい。
本発明の組成物は、上記各成分に加え、さらに多価アルコールの高級脂肪酸エステル(H)を併用することが、金型からの型離れを良好とする離型剤としての役割と同時に、樹脂組成物のエポキシ樹脂との密着性を向上させる点から好ましい。
ここで言う多価アルコールとは、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有するアルコールを指し、また高級脂肪酸とは炭素数8〜45の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸が好ましい。
多価アルコールの高級脂肪酸エステル(H)の具体例としては、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸、モンタン酸、オレイン酸及びパルミチン酸などの脂肪酸と、エチレングルコール、グリセリン、2−メチルプロパン−1.2.3.−トリオール及びペンタエリスリトールなどの多価アルコールとのエステル及びその分岐ポリエステルオリゴマーなどが挙げられる。
多価アルコールの高級脂肪酸エステル(H)の添加量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、0質量部を超えて添加することで金型からの離型性、組成物とエポキシ樹脂との密着性を向上させる効果を発揮するが、さらに0.01〜10質量部の範囲が当該離型性およびエポキシ樹脂との密着性がより顕著となるため好適である。
さらに、PAS樹脂の高い加工温度に耐えるための耐熱分解性に優れるという点で、好ましくは、エチレングルコール、2−メチルプロパン−1.2.3.−トリオール又はペンタエリスリトールのモンタン酸エステル及びその分岐ポリエステルオリゴマーを添加することができる。
また本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、無機フィラーを併用してもよい。無機フィラーとしては、炭化珪素、窒化ホウ素、各種金属粉末、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、雲母、ネフェリンシナイト、タルク、アタルパルジャイト、ウオラストナイト、PMF、フェライト、硅酸アルミニウム、硅酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、三酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、黒鉛、石膏、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、シリカ、石英ガラス等を挙げることができる。
また本発明の組成物には、本発明の目的を損わない範囲で下記の如きその他の重合体を混合して使用できる。その他の重合体としては、例えばエチレン、ブチレン、ペンテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの単量体の単独重合体または共重合体、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアーリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポリアリールエーテルなどの単独重合体、ランダム共重合体またはブロック共重合体、グラフト共重合体等を挙げることができる。
また、本発明の組成物には、可塑剤、少量の離型剤、着色剤、滑剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤等を添加してもよい。
本発明の組成物は、公知の方法で調製が可能である。例えば、PAS樹脂(A)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)、オキサゾリン基含有重合体(C)およびマグネシウム化合物(D)と、必要に応じ更に、耐衝撃性改質樹脂(E)及びその他の原料(例えば成分(F〜H))とをタンブラー又はヘンシェルミキサーのような混合機で均一に混合の後、1軸又は2軸押出混練機に供給して200℃〜350℃の温度範囲下で溶融混練し、ペレットとして本発明の組成物を得る方法が挙げられる。
本発明の組成物は、特にエポキシ樹脂硬化物との密着性に極めて優れるが、ここで言うエポキシ樹脂硬化物とは、熱硬化性エポキシ樹脂と硬化剤とを硬化反応させて得られる硬化物である。
ここで、エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAF、ビスフェノールAD、4、4−ジヒドロキシビフェニール、レゾルシン、サリゲニン、トリヒドロキシジフェニルジメチルメタン、テトラフェニロールメタン、これらのハロゲン置換体及びアルキル基置換体、ブタンジオール、エチレングリコール、エリスリット、ノボラック、グリセリン、ポリオキシアルキレン等のヒドロキシル基を分子内に2個以上含有する化合物とエピクロルヒドリン等から合成されるグルシジルエーテル系、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系、アニリン、ジアミノジフェニルメタン、メタキシリレンジアミン、1、3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の第一または第二アミンとエピクロルヒドリン等から合成されるグルシジルアミン系、等等のグルシジルエポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の非グリシジルエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独または2種以上の混合物として使用される。
またこれらのエポキシ樹脂は、前記した通り、硬化剤により硬化させて使用され、前述のように電子部品、各種素子をエポキシ樹脂で封入する用途では、例えば未硬化のエポキシ樹脂と硬化剤とを混合後PAS樹脂製ケーシング中に流し込み、その後加熱等により該エポキシ樹脂を硬化させるのが一般的である。硬化剤としては、アミン類、ポリアミド、アミノ樹脂、酸無水物類、多価フェノール類、フェノール樹脂、多硫化物、イソシアネート等が例示できる。
本発明のPAS樹脂組成物を用いた成形体は、耐トラッキング性などの成形体表面(沿面方向)の絶縁特性や成形体の厚み方向に対する優れた絶縁寿命を有するだけでなく、さらに冷熱衝撃時の耐クラック性、耐衝撃性等の機械的特性やエポキシ樹脂との接着強度にも優れる。このため本発明のPAS樹脂組成物は、電気・電子部品、半導体部品などはもちろん、その優れた特性、例えば優れた耐クラック性、耐衝撃性等により種々の用途に利用でき、さらに粉体塗料、溶液型の接着剤、塗料等としても使用できるだけでなく、封止材としてエポキシ樹脂を用いる場合のケース・部品として使用することができる。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、例中の部は重量部を意味する。尚、以下の参考例で得られるPPSの末端チオール基濃度、対数粘度〔η〕、メルトフローレート、全ナトリウム含有量の測定は以下の通りである。
(1)末端チオール基濃度
前述のヨードアセトアミド法に準拠。
(2)対数粘度〔η〕
PPSのα−メチルクロルナフタレン溶液(PPS濃度0.4g/100ml)の206℃(400°F)における相対粘度値を測定し、次式 〔η〕=ln(相対粘度値)/PPS濃度 に基づき算出。
(3)メルトフローレート
ASTM D1238による316℃/5000g荷重下、オリフィス;0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さでの値。
(4)全ナトリウム含有量
ポリマーを硫酸分解して、原子吸光法により測定。
(5)ΔHCl、ΔNaOH
ポリマー10gを1mol/lのHCl10mlを加えて攪拌し、その後濾過する。次いでHClが検出されなくなるまで(AgNO3溶液を滴下して白濁しなくなるまで)水洗を繰り返し、水洗で用いた濾液を全て回収し、該濾液中のHClをNaOHで滴定し、消費されたHClのモル数をΔHClとした。次いで、水洗後のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を再度蒸留水に分散させ、そこに1mol/lNaOH10mlを加えて攪拌する。攪拌後濾過し、NaOHが検出されなくなるまで(フェノールフタレイン溶液を滴下して赤色化しなくなるまで)水洗を繰り返す。水洗で用いた濾液を全て回収し、該濾液中のNaOHをHClで滴定し、消費されたNaOHのモル数をΔNaOHとした。
参考例1(PPS−1の製造)
撹拌機付の5lオートクレーブにN−メチルピロリドン 1233gと硫化ナトリウム2.7水塩 636g(5.0モル、分析61.5%)、酢酸リチウム二水和物 510g(5.0モル)及び水 90g(5.0モル)とを仕込み、窒素雰囲気下で205℃において約1時間20分撹拌しながら水 257gを含む留出液290mlを生じた。次いで、反応系を150℃に冷却したのちp−ジクロルベンゼン 750g(5.1モル)をN−メチルピロリドン 400g中に溶解させた溶液を加え、265℃で3時間反応させたが、この間、重合反応終了時の内圧は9.0Kg/cmであった。しかるのち、オートクレーブを冷却して内容物を濾別し、次いでケーキを熱水で3回洗浄し、さらにアセトンで2回洗浄した後、pH 1のHCl水溶液に室温で30分間浸漬後、脱イオン水で洗浄/80℃下減圧乾燥により467gのPPSを得た。(収率=86%)
ここに得られたPPSは、末端チオール基濃度が35μモル/g、固有粘度〔η〕0.25、メルトフローレート550g/10分、全ナトリウム含有量が100ppm、ΔHCl=1.0μmol/g、ΔNaOH=12.0μmol/gであった。これをPPS−1と称す。
参考例2(PPS−2の製造)
オートクレーブにN−メチルピロリドン 7900gと硫化ナトリウム 3260g(25モル、結晶水40%を含む)、水酸化ナトリウム 4.0gおよび酢酸ナトリウム三水和物 3400g(25モル)とを仕込み、窒素雰囲気下に205℃まで約2時間かけて撹拌しながら徐々に昇温させて、水 1360gを含む1500mlの留出水を除去した。
次いで、反応系を150℃に冷却したのちp−ジクロルベンゼン 3750g(25.5モル)とN−メチルピロリドン 2000gを加え、230℃で4時間反応させ、さらに260℃で2時間反応させた。
しかるのち、オートクレーブを冷却して内容物を濾別し、次いでケーキを70℃の温水で5回洗浄し、80℃で24時間減圧乾燥せしめて、約2200gの顆粒状のPPSを得た(収率82%)。
さらに、この顆粒状のPPS樹脂約2200gを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液 20l中に投入し、約30分間撹拌し続けた後濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄し、120℃で24時間乾燥した。
ここに得られたPPSは、末端チオール基濃度が40μモル/g、固有粘度〔η〕0.32、メルトフローレート100g/10分、全ナトリウム含有量が250ppm、ΔHCl=2.0μmol/g、ΔNaOH=20.0μmol/gであった。これをPPS−2と称す。
実施例1〜10
上記の各参考例で製造したPPS樹脂及び第1表〜第3表に示す各配合成分を表中に示す割合で均一に混合の後、35mmφの2軸押出機にて300℃で溶融混練しペレットを得た。このペレットをインラインスクリュー式の3オンス射出成形機を用いシリンダー温度300℃、金型温度140℃、射出圧力1000Kgf/cm、射出スピード中速にて、各種特性評価用の成形とテストピース作成し、各種特性を評価した。この結果を第1表〜第3表に示す。ガラス繊維は、10μm径のチョップドストランドを使用した。なお、評価項目は以下のとおりである。
<貫通(厚み)方向の絶縁寿命性の測定>
JIS−C2110−1994の絶縁破壊強さの測定方法(7.1(1))に準拠し、25〔KV〕/50〔Hz〕の交流電圧を印加して導通するまでの時間を測定し、材料の厚み方向の絶縁寿命を評価した。但し、厚み方向の絶縁寿命は、比較例1の寿命を1(基準値)としたときの倍率で表した。
<トラッキング指標(CTI)の測定>
JIS−C2134−2007に準拠し、規定の溶液Aを用いて、材料の沿面方向(表面)の絶縁耐性として比較トラッキング指数(CTI)を評価した。
<エポキシ接着強度>
25mm(幅)×75mm(長さ)×3mm(厚み)の試験片を成形し、接着面積:25mm×10mmにて下述のエポキシ樹脂を暑さ:40〜50μmに塗布してクリップにて固定後、85℃/3時間→150℃/3時間→徐冷のプロセスにて硬化させた。
この後、5mm/minの速度にて引張せん断強度を測定し、実荷重を記録した。
接着強度測定用エポキシ樹脂:
主剤;エピクロン850(DIC(株)製)/シリカ(充填率50wt.%)
硬化剤;無水ヘキサヒドロフタル酸
主剤/硬化剤=100/30
第1〜2表中、成分(A)及び(D)のかっこ内数値、並びに、成分(B)、(C)、(E)及びガラス繊維の各数値は質量部を表し、各略称は以下の通りである。
エポキシ樹脂(B−1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量2000
エポキシ樹脂(B−2):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量190
オキサゾリン変性樹脂(C−1):ビニルオキサゾリン5wt%含有オキサゾリン/スチレン/アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロにトリス=70/25)
オキサゾリン変性樹脂(C−2):ビニルオキサゾリン5wt%含有オキサゾリン/スチレン共重合体
フィラー(D−1):酸化マグネシウム
フィラー(D−2):水酸化マグネシウム
フィラー(D−3):炭酸マグネシウム
フィラー(D−4):硫酸マグネシウム
フィラー(D−5):水酸化アルミニウム
フィラー(D−6):水酸化カルシウム
フィラー(D−7):水酸化バリウム
フィラー(D−8):水酸化ストロンチウム
フィラー(D−9):ホウ酸カルシウム
フィラー(D−10):炭酸カルシウム
フィラー(D−11):炭酸カルシウムウィスカ
フィラー(D−12):マイカ
フィラー(D−13):ドロマイト
フィラー(D−14):タルク
耐衝撃性樹脂(E−1):無水マレイン酸(Gaah)グラフトスチレン/ブタジエン/スチレンブロック水添共重合体(エチレン・ブテン/スチレン/Gaah=68/30/2)
耐衝撃性樹脂(E−2):エチレン/エチルアクリレート(EA)/無水マレイン酸三元共重合体(Et/EA/Gaah=66/32/2)
耐衝撃性樹脂(E−3):無水マレイン酸グラフトエチレン(Et)プロピレン(PP)共重合体(Et/PP/Gaah=58/40/2)
表1〜3の結果から、ケイ酸金属塩(タルク、カオリン、マイカ)といった、いわゆる耐トラッキング性や耐アーク性を付与する材料を用いても、必ずしも、試験片の厚み方向の絶縁寿命に優れるわけではないことが明らかとなった。一方、フィラーとしてマグネシウム化合物を用いた場合には、比較トラッキング指数が優れるだけでなく、試験片の厚み方向の絶縁寿命に優れることも明らかとなった。
現時点で、なぜ試験片の厚み方向の絶縁寿命が良好になったのか、そのメカニズムについて明らかになっていないが、少なくとも、材料表面に微小電流のアーク(電弧)をとばして、試料表面を強制的に炭化して絶縁性が失われるまでの瞬間を測定する、いわゆる耐アーク性や耐トラッキング性とは異なる特性、作用機乍であり、マグネシウム化合物をフィラーとして用いることによって有効となることが始めて明らかとなった。

Claims (7)

  1. ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)及びマグネシウム化合物(D)を必須成分として含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
    ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)100質量部に対してエポキシ樹脂(B)が1〜50質量部の範囲であり、オキサゾリン基含有非晶性ポリマー(C)が1〜100質量部の範囲であり、マグネシウム化合物(D)が1〜50質量部の範囲であり、
    かつ、マグネシウム化合物(D)が酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするポリアリーレンサルフィド樹脂組成物。
  2. (A)〜(D)成分に加え、さらに耐衝撃性改良樹脂(E)を含有する請求項1記載のポリアリーレンサルフィド樹脂組成物。
  3. 耐衝撃性改良樹脂(E)が、酸基又はエポキシ基含有ビニル系重合体(E1)、および、酸基又はエポキシ基含有ゴム質重合体(E2)から選択される樹脂成分である請求項2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  4. (A)〜(D)成分に加え、さらに繊維状強化材(F)を含有する請求項1記載のポリアリーレンスフィド樹脂組成物。
  5. エポキシ樹脂(B)がビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を成形して得られる成形品。
  7. 請求項6に記載の成形品を組み込んで成る電子・電気部品。
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