以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<金属微粒子複合体>
図1は、本実施の形態に係る金属微粒子複合体としての金属微粒子分散ナノコンポジット(以下、単に「ナノコンポジット」ともいう)10の厚み方向の断面構造を模式的に示している。また、図2は図1のナノコンポジット10の部分平面図である。ナノコンポジット10は、マトリックス樹脂1と、該マトリックス樹脂1に固定された多数の金属微粒子3と、金属微粒子3において、マトリックス樹脂1の表面Sから外部に突出した部位(本明細書において、「突出部位」と記すことがある)3aを被覆する金属膜7と、を備えている。図3は、金属微粒子3(ただし、金属膜7で被覆されていない状態)を拡大して説明する図面である。なお、図3では、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径をD1L、小さい方の金属微粒子3の粒子径をD1Sと表しているが、両者を区別しない場合は単に粒子径D1と表記する。
ナノコンポジット10は、図示しない基材を備えていてもよい。そのような基材としては、例えばガラス、セラミックス、シリコンウェハー、半導体、紙、金属、金属合金、金属酸化物、合成樹脂、有機/無機複合材料等を用いることができ、その形状としては、例えばプレート状、シート状、薄膜状、メッシュ状、幾何学パターン形状、凹凸形状、繊維状、蛇腹状、多層状、球状等のものを適用できる。なお、これらの基材の表面には、例えばシランカップリング剤処理、化学的エッチング処理、プラズマ処理、アルカリ処理、酸処理、オゾン処理、紫外線処理、電気的研磨処理、研磨剤による研磨処理等を施したものも利用できる。
(マトリックス樹脂)
マトリックス樹脂1は、全体がフィルム状に形成されていてもよいし、樹脂フィルムの一部分として形成されていてもよい。マトリックス樹脂1が、樹脂フィルムの一部分として形成されている場合には、樹脂フィルムの厚さは、好ましくは3μm〜100μmの範囲内、より好ましくは10μm〜50μmの範囲内とすることができる。
マトリックス樹脂1を構成する樹脂は、金属微粒子3の局在型表面プラズモン共鳴を生じさせるために光透過性を有することが好ましく、特に、380nm以上の波長の光を透過する材質であることが好ましい。このようなマトリックス樹脂1は、局在型表面プラズモン共鳴を光透過系として計測することが可能となる。一方、光透過性が殆どない樹脂において、マトリックス樹脂1として適用でき、局在型表面プラズモン共鳴を光反射系として計測することが可能となる。このような形態は、光透過系及び光反射系に限らず、例えばマトリックス樹脂1の外部変化を感知する感度センサーとしての利用が可能となる。
マトリックス樹脂1に使用可能な樹脂材料としては、特に限定されるものではなく、例えばポリイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、カルド樹脂(フルオレン樹脂)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)のようなポリシロキサン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂等や、イオン交換樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、金属イオンとの相互作用によって、金属イオンと錯体を形成したり、金属イオンを吸着したりできる官能基を有している樹脂は、金属イオンを均一な分散状態で吸着できるので好ましい。そのような官能基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、4級アンモニウム基、1〜2級アミノ基、フェノール性水酸基などを挙げることができる。このような観点から、例えば、ポリアミド酸樹脂、イオン交換樹脂などが好ましい。また、金属微粒子3を析出させる過程で熱処理を適用しやすいという観点から、少なくとも140℃の温度での耐熱性を有する材質であることが好ましい。このような観点から、ポリイミド樹脂は、その前駆体であるポリアミド酸樹脂が金属イオンと錯体を形成可能なカルボキシル基を有しており、前駆体の段階で金属イオンを吸着することが可能であり、更に熱処理における耐熱性を有するため、マトリックス樹脂1の材料として特に好ましく用いることができる。ポリイミド樹脂及びポリアミド酸樹脂の詳細については後述する。なお、上記の樹脂材料は単独の樹脂からなるものであっても、複数の樹脂を混合して用いたものでも良い。
(金属微粒子)
金属微粒子3は、その材質に特に制限はないが、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の金属種を用いることができる。また、これらの金属種の合金(例えば白金−コバルト合金など)を用いることもできる。これらの中でも、金(Au)又は銀(Ag)が特に好ましい。
金属微粒子3の形状は、例えば球体、長球体、立方体、切頭四面体、双角錘、正八面体、正十面体、正二十面体等の種々の形状であってよいが、金属膜7同士の凝集を抑制し、ほぼ均一に近い状態で、金属膜7を間接的に固定させるために、球体(球形)が最も好ましい。ここで、金属微粒子3の形状は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することにより確認できる。また、球体の金属微粒子3とは、形状が球体及び球体に近い金属微粒子で、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。さらに、それぞれの金属微粒子3における長径と短径との関係が、好ましくは長径<短径×1.35の範囲内、より好ましくは長径≦短径×1.25の範囲内がよい。なお、金属微粒子3が球体でない場合(例えば正八面体など)は、その金属微粒子3におけるエッジ長さが最大となる長さを金属微粒子3の長径とし、エッジ長さが最小となる長さを金属微粒子3の短径として、さらに前記長径をその金属微粒子3の粒子径D1と見做すこととする。
金属微粒子3は、各々の金属微粒子同士が接することなく、独立して存在していることが好ましい。特に、隣り合う金属微粒子における粒子径が大きい方の粒子径以上の間隔で存在することが好ましい。例えば、隣り合う金属微粒子3の間隔(粒子間距離)L1が、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径D1L以上(L1≧D1L)であることが好ましい。このような関係とすることで、マトリックス樹脂1から露出させた金属微粒子3を金属膜7で被覆した後でも、隣り合う金属膜7どうしの融合一体化を極力抑制できる。一方、粒子間距離L1は大きくても特に問題はないが、例えば熱拡散を利用して分散状態になる金属微粒子3における各々の粒子間距離L1は、金属微粒子3の粒子径D1と後述する金属微粒子3の体積分率と密接な関係があるので、粒子間距離L1の上限は、金属微粒子3の体積分率の下限値によって制御することが好ましい。粒子間距離L1が大きい場合、言い換えるとナノコンポジット10に対する金属微粒子3の体積分率が低い場合は、金属微粒子3に固定化される金属膜7の数も減少するため、金属膜7に由来する局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度が小さくなる。このような場合は、例えば後述する金属膜7の平均直径を80nm以上とすることが好ましい。
金属微粒子3の粒子径D1は、例えば1nm〜50nmの範囲内、好ましくは3nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。金属微粒子3の粒子径D1が50nmを超えると、金属微粒子3に固定化される金属膜7の数が減少する傾向となり、金属膜7に由来する十分な局在型表面プラズモン共鳴の効果が得られにくい場合がある。一方、金属微粒子3の粒子径D1が1nm未満であると、後述する金属膜7の金属微粒子3によるアンカー効果が得られにくくなる傾向になる。また、金属微粒子3の全体の90〜100%の粒子径D1が2nm〜30nmの範囲内であることがより好ましい。このような範囲にすることで、金属膜7に由来する局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープとなりやすい。
金属微粒子3が球形でない場合は、見掛け上の直径が大きくなる程、その突出部位3aに固定される金属膜7が凝集しやすい傾向になるので、金属微粒子3が球形でない場合の粒子径D1は、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下がよい。また、金属微粒子3が球形でない場合には、マトリックス樹脂1に存在する個々の金属微粒子3の形状は他と金属微粒子3の形状と比較して、好ましくは全体の80%以上、より好ましくは90%以上がほぼ同じ形状ものがよく、相対的にほぼ同じ形状のものが特に好ましい。
ナノコンポジット10には、粒子径D1が1nm未満の金属微粒子3も存在してもよく、このようなナノコンポジット10は局在型表面プラズモン共鳴に影響を与えにくいので特に問題はない。なお、粒子径D1が1nm未満の金属微粒子3は、ナノコンポジット10における金属微粒子3の全量100重量部に対し、例えば金属微粒子3が銀微粒子である場合、好ましくは10重量部以下、より好ましくは1重量部以下とすることがよい。ここで、粒子径D1が1nm未満の金属微粒子3は、例えば高分解能の透過電子顕微鏡により観察することができる。
また、金属膜7同士の融合一体化を抑制し、マトリックス樹脂1の表面Sに、ほぼ均一に近い状態で金属膜7を形成するために、金属微粒子3の平均粒子径は3nm以上、好ましくは3nm以上30nm以下、より好ましくは3nm以上20nm以下とすることができる。ここで、金属微粒子3の平均粒子径は、任意100粒の金属微粒子3を測定したときの面積平均径を意味する。
本実施の形態のナノコンポジット10において、少なくとも一部分の金属微粒子3は、マトリックス樹脂1に埋包された部位と、マトリックス樹脂1の表面Sから外部に突出した突出部位3aとを備えており、該突出部位3aが金属膜7により覆われている。金属微粒子3は、マトリックス樹脂1に埋包された部位を備えることにより、アンカー効果によって金属微粒子3、さらに金属膜7がマトリックス樹脂1に強固に固定される。また、金属微粒子3は、突出部位3aを備えることにより、そこに金属膜7を形成することが可能となる。従って、マトリックス樹脂1に固定されたすべての金属微粒子3が突出部位3aを有しており、該突出部位3aの一部又は全部が金属膜7により覆われているものであることが好ましいが、マトリックス樹脂1中に完全に埋包され、金属膜7が形成されていない金属微粒子3が存在していてもよい。突出部位3aを有する金属微粒子3は、例えば、マトリックス樹脂1の表面積(但し、突出部位3aの表面積を含む)に対して突出部位3aの合計の面積比率(以下、「面積分率」ともいう。)が、好ましくは0.1〜18%、より好ましくは0.2〜10%となるように存在することがよい。なお、金属微粒子3の突出部位3aの表面積は、マトリックス樹脂1の表面側から、例えば電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察したときに得られる2次元の画像から算出することができる。また、マトリックス樹脂1の表面積に対する突出部位3aの合計の面積比率は、金属微粒子3の体積分率と密接な関係があるので、後述する金属微粒子3の体積分率によって、好ましい範囲内に制御することができる。
本実施の形態のナノコンポジット10において、金属微粒子3は、マトリックス樹脂1の表面S(ナノコンポジット10の表面)と平行な面方向に、一定の厚みを有する層状に分散して存在し、金属微粒子層5を形成している。金属微粒子層5の厚みTは、金属微粒子3の粒子径D1によっても異なるが、局在型表面プラズモン共鳴を利用する用途においては、例えば20nm〜25μmの範囲内が好ましく、30nm〜1μmの範囲内がより好ましい。ここで、「金属微粒子層5の厚みT」とは、マトリックス樹脂1の厚み方向の断面において、最も上に位置する金属膜7の上端から、最も下(深部)に位置する金属微粒子3(但し、粒子径が1nm〜50nmの範囲内にあるもの)の下端までの範囲の厚さ、を意味する。
また、マトリックス樹脂1の外部変化の検出を行う用途においては、マトリックス内部に完全に埋包される金属微粒子3は外部変化のセンシングに殆ど関与しないことになるので、このような観点から、金属微粒子層5の厚みTは、例えば10nm〜80nmの範囲内が更に好ましい。
更に、マトリックス樹脂1の表面Sに平行な断面を観察した場合に、全ての金属微粒子3が、各々完全に独立して観察されることがナノコンポジット10の最も好ましい態様である。このような場合、突出部位3aを有する金属微粒子3のみにより構成される金属微粒子層5の厚みT’は、例えば20nm〜40nmの範囲内が特に好ましい。また、この場合の金属微粒子3の粒子径D1は、例えば10nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。このような範囲内とすることによって、金属微粒子3に由来する局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を低く抑制することができる。ここで、「金属微粒子層5の厚みT’」とは、マトリックス樹脂1の厚み方向の断面において、最も上に位置する金属膜7の上端から、最も下(深部)に位置する突出部位3aを有する金属微粒子3(但し、粒子径が10nm〜30nmの範囲内にあるもの)の下端までの範囲の厚さ、を意味する。
また、マトリックス樹脂1に存在する金属微粒子3の粒子径D1を10nm以上とすることで、単層に点在した金属微粒子3によって、吸収スペクトルの強度が高い平均直径が80nm程度の比較的大きな金属膜7を凝集なく数多く形成することができるので、より高感度な検出が可能となる。ここで、金属微粒子3が単層に点在するとは、マトリックス樹脂1の表面Sとほぼ平行な面方向に、二次元的に分散していることを言う。言い換えると、金属微粒子3の全体の90%以上が、マトリックス樹脂1の表面Sから40nm以内の深さの範囲において、該表面Sと平行な面方向に分散して金属微粒子層5を形成しており、かつ、該金属微粒子層5において、粒子径D1が10nm〜30nmの範囲内である金属微粒子3が前記深さ方向に一つのみ存在することが好ましい。つまり、図示は省略するが、ナノコンポジット10においてマトリックス樹脂1の表面Sに平行な断面を観察した場合に、マトリックス樹脂1の内部(もしくは表面S)に、粒子径D1が10nm〜30nmの範囲内である多数の金属微粒子3が粒子間距離L1をあけて点在し、拡散した状態が観察されるとともに、マトリックス樹脂1の深さ方向の断面を観察すると、図1に示したように、粒子径D1が10nm〜30nmの範囲内である多数の金属微粒子3が、金属微粒子層5の範囲内で、各々完全に独立してほぼ単層に(多少の位置のばらつきはあるが、ほぼ一列をなすように)点在した状態になる。なお、マトリックス樹脂1の表面Sに平行な断面を観察する方法としては、例えばスパッタリング機能を付与した走査型電子顕微鏡(SEM)等を用い、マトリックス樹脂1の表層をスパッタリングして観察する方法を挙げることができる。
粒子径D1が1nm以上10nm未満の範囲内にある金属微粒子3の存在割合は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、マトリックス樹脂1の断面観察により観測した場合、ナノコンポジット10における全金属微粒子3の合計に対して、好ましくは50%未満、より好ましくは10%未満、更に好ましくは1%未満がよい。ここでいう「存在割合」とは、粒子径D1が1nm以上10nm未満の範囲内にある金属微粒子3における断面積の合計を、全ての金属微粒子3における断面積の合計で除することで算出されるものである。ここで、粒子径D1が10nm未満の金属微粒子3が存在する場合には、ナノコンポジット10の厚さ方向に対して、金属微粒子3の見掛け上の重なりが確認されることがある。このような場合には、観察される全金属微粒子3における断面積の合計に対して、完全に独立して観察される金属微粒子3の断面積の合計が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上であることがよい。
また、金属微粒子3の粒子径分布を小さくする程、突出部位3aの面積を均一に制御しやすいので、金属微粒子3の粒子径分布を小さく制御することが好ましい。このような観点から、金属微粒子3の粒子径分布は、最大粒子径(D1max)及び最小粒子径(D1min)の関係が、(1/3×D1max)≦(1×D1min)となる範囲内にあることが好ましい。また、金属微粒子3の粒子径D1は、金属微粒子層5の厚み(T’)と密接な関係にあるので、金属微粒子層5の厚みT’(nm)と最大粒子径D1maxとの関係が、(1/2×T’)≦(1×D1max)となる範囲内であることが好ましい。
本実施の形態のナノコンポジット10において、金属微粒子3は、マトリックス樹脂1の内部に三次元的に分散していてもよい。この場合、ナノコンポジット10においてフィルム状のマトリックス樹脂1の厚み方向の断面を観察すると、図1に示したように、多数の金属微粒子3が上記粒子径D1L以上の粒子間距離L1をあけて縦方向及び横方向に点在した状態になる。また、ナノコンポジット10においてマトリックス樹脂1の表面Sに平行な断面を観察すると、図示は省略するが、マトリックス樹脂1の内部に多数の金属微粒子3が上記粒子径D1L以上の粒子間距離L1をあけて点在し、拡散した状態が観察される。
さらに、本実施の形態のナノコンポジット10において、金属微粒子3の90%以上が、上記粒子径D1L以上の粒子間距離L1をあけて点在する単一粒子であることが好ましい。ここで、「単一粒子」とは、マトリックス樹脂1中の各金属微粒子3が独立して存在していることを意味し、複数の粒子が凝集したもの(凝集粒子)は含まない。すなわち、単一粒子とは、複数の金属微粒子が分子間力によって凝集した凝集粒子は含まない。また、「凝集粒子」とは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した場合に、個体の金属微粒子の複数個が寄り集まって、一つの凝集体となっていることが明らかに確認されるものをいう。なお、ナノコンポジット10における金属微粒子3は、その化学構造上、加熱還元等により生成する金属原子が凝集によって形成される金属微粒子とも解されるが、このような金属微粒子は金属原子の金属結合によって形成されるものと考えられるので、複数の粒子が凝集した凝集粒子とは区別し、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した場合に、一つの独立した金属微粒子3として確認されるものである。上記のような単一粒子が90%以上、好ましくは95%以上存在することにより、間接的に金属膜7を均一に固定することができるので、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープ且つ安定になり、高い検出精度が得られる。このことは、換言すると、凝集粒子又は上記粒子径D1L以下の粒子間距離L1で分散する粒子が10%未満であることを意味する。また、凝集粒子又は上記粒子径D1L以下の粒子間距離L1で分散する粒子が10%を超えてしまうと、粒子径D1の制御も極めて困難になる。
本実施の形態のナノコンポジット10において、マトリックス樹脂1中の金属微粒子3の体積分率は、ナノコンポジット10に対して、0.1〜23%とすることが好ましく、0.3〜12%がより好ましい。ここで、「体積分率」とは、ナノコンポジット10の一定体積あたりに占める金属微粒子3の合計の体積を百分率で示した値である。金属微粒子3の体積分率が、0.1%未満であると、局在型表面プラズモン共鳴効果が得られにくい。一方、体積分率が23%を超えると、隣り合う金属微粒子3の間隔(粒子間距離L1)が、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径D1Lより狭くなるため、隣り合う金属膜7間の融合・一体化が生じやすくなる。
本実施の形態のナノコンポジット10において、金属微粒子3は、マトリックス樹脂1又はその前駆体の樹脂に含まれる金属イオン又は金属塩を還元することによって得られるものであることが好ましい。還元方法としては、光還元や加熱還元等が挙げられるが、金属微粒子3における粒子間隔の制御のしやすさの観点から、加熱還元によって得られるものが好ましい。この還元方法の具体的内容については後述する。
(金属膜)
金属膜7は、一定の曲率を以って金属微粒子3の表面を覆うドーム状の膜である。金属膜7は、例えば図2に示したように、ナノコンポジット10の平面視において(つまり、マトリックス樹脂1の表面Sに対して直角に観察した場合)、ほぼ一定の間隔(後述する距離L3)で均等に存在する。金属膜7を設けることによって、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を大きくし、且つシャープにすることができる。金属膜7の材質に特に制限はないが、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の金属種を用いることができる。また、これらの金属種の合金(例えば白金−コバルト合金など)を用いることもできる。これらの中でも、局在型表面プラズモン共鳴を奏する金属種として好適に利用できるものとして、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)が挙げられるが、金(Au)又は銀(Ag)が特に好ましい。金属膜7は、金属微粒子3と同じ材質の金属種であってもよいし、異なる材質の金属種でもよい。局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を十分に大きく、かつシャープにするという観点、及び、金属膜7と金属微粒子3との密着性を高める観点からは、金属膜7には、金属微粒子3の金属種に格子定数が近似した金属種や合金を用いることが好ましく、同種の金属種や合金を用いることがより好ましい。
金属膜7は、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を大きくし、且つシャープにする観点から、金属微粒子3の突出部位3aの全面を被覆していることが望ましいが、部分的に金属微粒子3の突出部位3aの表面が露出している箇所があってもよい。金属膜7による突出部位3aの被覆率は、例えば80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、100%が望ましい。
また、金属膜7の形状は、例えば球体、長球体、立方体、切頭四面体、双角錘、正八面体、正十面体、正二十面体等の種々の形状であってよいが、局在型表面プラズモン共鳴により、強度が大きく、且つシャープな吸収スペクトルを得るために、外観が球状又は球状に近い形状であることが好ましい。従って、金属膜7は、平面視(マトリックス樹脂1の表面Sに対して平行又は直角に観察した場合)において、例えば円形、楕円形、多角形等の形状であってよいが、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルをシャープにするためには、平面形状が真円形に近いほど好ましい。ここで、金属膜7の形状は、電界放出型走査顕微鏡(FE−SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することにより確認できる。ここで、金属膜7の形状が、球状又は球状に近い形状とは、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。さらに、それぞれの金属膜7における長径と短径との関係が、好ましくは長径<短径×1.35の範囲内、より好ましくは長径≦短径×1.25の範囲内がよい。なお、金属膜7が球体でない場合(例えば正八面体など)は、その金属膜7におけるエッジ長さが最大となる長さを金属膜7の長径とし、エッジ長さが最小となる長さを金属膜7の短径として、さらに前記長径をその金属膜7の直径D2と見做すこととする。
金属膜7の直径D2は、例えば10nm〜250nmの範囲内が好ましく、30nm〜200nmの範囲内がより好ましい。金属膜7の直径D2が250nmを超えると、バルク金属に近い状態となり、局在型の表面プラズモン共鳴が発生しにくくなるため、局在型表面プラズモン共鳴効果を増強させる作用が十分に得られない場合がある。また、金属膜7の直径D2が10nm未満では、局在型表面プラズモン共鳴効果を増強させる作用が十分に得られない場合がある。
また、金属膜7の平均直径は30nm〜150nmの範囲内が好ましく、より好ましくは50nm〜100nmの範囲内がよい。ここで、金属膜7の平均直径は、任意100個の金属膜7を測定したときの面積平均径を意味する。また、金属膜7の全体の90〜100%の直径D2が30nm〜150nmの範囲内であることがより好ましい。金属微粒子3の平均粒子径と金属膜7の平均直径との関係は、平均粒子径<平均直径であるが、局在型表面プラズモン共鳴効果を向上させるためには、平均粒子径と平均直径の比(平均直径/平均粒子径)が、1〜50の範囲内であることが好ましく、15〜50の範囲内がより好ましい。
<製造方法>
次に、本実施の形態のナノコンポジット10の製造方法について説明する。ナノコンポジット10の製造は、(1)金属イオン(又は金属塩)含有樹脂膜の形成工程、(2)還元工程、(3)エッチング工程、(4)めっき皮膜形成工程及び(5)熱処理工程を含む。ここでは、マトリックス樹脂1がポリイミド樹脂により構成される場合について代表的に例示して説明を行う。図4〜図7は、還元工程より後の工程を説明する説明図である。
(1)金属イオン(又は金属塩)含有樹脂膜の形成工程:
まず、金属イオン(又は金属塩)を含有するポリアミド酸樹脂膜(又はポリアミド酸樹脂層)を準備する。金属イオン(又は金属塩)を含有するポリアミド酸樹脂膜(又はポリアミド酸樹脂層)は、例えば以下に挙げるキャスト法又はアルカリ改質法のいずれかの方法で調製できる。
キャスト法:
キャスト法は、ポリアミド酸樹脂を含有するポリアミド酸樹脂溶液を任意の基材上にキャストすることによりポリアミド酸樹脂膜を形成する方法であるが、以下の(I)〜(III)のいずれかの方法によって、金属イオン(又は金属塩)を含有するポリアミド酸樹脂膜を形成することができる。
(I)ポリアミド酸樹脂と金属化合物とを含有する塗布液を任意の基材上にキャストすることにより金属イオン(又は金属塩)を含有するポリアミド酸樹脂膜を形成する方法。
(II)金属イオン(又は金属塩)を含有しないポリアミド酸樹脂溶液を任意の基材上にキャストしてポリアミド酸樹脂膜を形成した後に、該ポリアミド酸樹脂膜に金属イオン(又は金属塩)を含有する溶液(以下、「金属イオン溶液」とも記す)を含浸させる方法。
(III)上記の(I)の方法によって形成した、金属イオン(又は金属塩)を含有するポリアミド酸樹脂膜に、更に金属イオン(又は金属塩)を含有する溶液を含浸させる方法。
キャスト法は、金属微粒子層5やマトリックス樹脂1の厚みの制御が容易である点や、ポリイミド樹脂の化学構造に特に制限されず適用が容易である点など、後述するアルカリ改質法よりも有利である。
上記(I)の方法の有利な点としては、ポリアミド酸樹脂溶液中での金属化合物としての含有量を調整しやすいので、ナノコンポジット10に含有する金属量の調整が容易にできることや、粒子径D1が30nm以下の金属微粒子3を含有するナノコンポジット10を容易に作製できることにとどまらず、30nmを超える比較的に大きい金属微粒子3を含有するナノコンポジット10を容易に作製できることなどが挙げられる。
上記(II)の方法の有利な点としては、金属イオン(又は金属塩)が均一に溶解した状態でポリアミド酸樹脂膜中に含浸し、金属イオン(又は金属塩)の状態からポリアミド酸樹脂膜中でバラツキが少なく均一に分散された状態になるので、粒子径分布が比較的小さい金属微粒子3を含有するナノコンポジット10を作製できることなどが挙げられる。
キャスト法で用いる基材としては、ナノコンポジット10を基材から剥離してセンサー等に使用する場合や、ナノコンポジット10に基材を付けた状態で光反射系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する場合は、特に制限はない。ナノコンポジット10に基材を付けた状態で光透過系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する場合は、基材は、光透過性であることが好ましく、例えばガラス基板、透明な合成樹脂製基板等を用いることができる。透明な合成樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、PET樹脂、アクリル樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、シロキサン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸樹脂(以下、「前駆体」と記すことがある)としては、公知の酸無水物とジアミンから得られる公知のポリアミド酸樹脂を使用できる。ポリアミド酸樹脂は、例えばテトラカルボン酸二無水物とジアミンをほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、例えば0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることで得られる。反応にあたっては、得られるポリアミド酸樹脂が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解することがよい。重合反応に用いる有機溶媒については、極性を有するものを使用することがよく、有機極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の一部使用も可能である。
合成されたポリアミド酸樹脂は溶液の形態で使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。このように調整した溶液は、金属化合物を添加することにより、塗布液として利用することができる。
ポリアミド酸樹脂は、イミド化後のポリイミド樹脂が熱可塑性又は低熱膨張性のポリイミド樹脂を含むように選定することが好ましい。なお、ポリイミド樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。
ポリアミド酸樹脂の調製に好適に用いられるジアミンとしては、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。また、ジアミンとしては、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン等が好ましく例示される。
その他のジアミンとして、例えば、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
特に好ましいジアミン成分としては、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン(DANPG)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、パラフェニレンジアミン(p−PDA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE34)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE44)から選ばれる1種以上のジアミンが挙げられる。
ポリアミド酸樹脂の調製に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が挙げられる。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等も好ましく例示される。さらに、酸無水物として、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物等も好ましく例示される。
特に好ましい酸無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)から選ばれる1種以上の酸無水物が挙げられる。
ジアミン、酸無水物はそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記以外のジアミン及び酸無水物を併用することもできる。
本実施の形態では、金属化合物を含有する塗布液あるいは金属イオン(又は金属塩)を含有しないポリアミド酸樹脂溶液を調製するために、ポリアミド酸樹脂を含有する溶液として市販品も好適に使用可能である。熱可塑性のポリイミド樹脂の前駆体となるポリアミド酸溶液としては、例えば、新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリアミド酸樹脂ワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、同SPI−1000G(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)等が挙げられる。また、非熱可塑性のポリイミド樹脂の前駆体となるポリアミド酸樹脂溶液としては、例えば宇部興産株式会社製の非熱可塑性ポリアミド酸樹脂ワニスであるU−ワニス−A(商品名)、同U−ワニス−S(商品名)等が挙げられる。
ナノコンポジット10が、例えば光透過系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する用途に適用される場合には、透明または無色を呈するポリイミド樹脂として、分子内、分子間の電荷移動(CT)錯体を形成しにくいもの、例えば嵩高い立体構造の置換基を有する芳香族ポリイミド樹脂、脂環式ポリイミド樹脂、フッ素系ポリイミド樹脂、ケイ素系ポリイミド樹脂等を用いることが好ましい。
上記の嵩高い立体構造の置換基としては、例えばフルオレン骨格やアダマンタン骨格などが挙げられる。このような嵩高い立体構造の置換基は、芳香族ポリイミド樹脂における酸無水物の残基又はジアミン残基のいずれか一方に置換しているか、あるいは酸無水物の残基及びジアミンの残基の両方に置換していてもよい。嵩高い立体構造の置換基を有するジアミンとしては、例えば9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどを挙げることができる。
脂環式ポリイミド樹脂とは、脂環式酸無水物および脂環式ジアミンを重合して形成される樹脂である。また、脂環式ポリイミド樹脂は、芳香族ポリイミド樹脂を水素化することによっても得られる。
フッ素系ポリイミド樹脂は、例えばアルキル基、フェニル基等の炭素に結合する一価元素をフッ素、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基、パーフルオロフェノキシ基等に置換した酸無水物および/またはジアミンを重合して形成される樹脂である。フッ素原子は、一価元素全部もしくは一部が置換したものいずれも用いることができるが、50%以上の一価元素がフッ素原子に置換したものが好ましい。
ケイ素系ポリイミド樹脂とは、ケイ素系ジアミンと酸無水物を重合してから得られる樹脂である。
このような透明ポリイミド樹脂は、例えば10μmの厚さにおいて、波長400nmでの光透過率が80%以上であり、可視光平均透過率が90%以上であることが好ましい。
上記ポリイミド樹脂の中でも、特に透明性に優れたフッ素系ポリイミド樹脂が好ましい。フッ素系ポリイミド樹脂としては、一般式(1)で現される構造単位を有するポリイミド樹脂を用いることができる。ここで、一般式(1)中、Ar1は式(2)、式(3)または式(4)で表される4価の芳香族基を示し、Ar2は式(5)、式(6)、式(7)または式(8)で表される2価の芳香族基を示し、pは構成単位の繰り返し数を意味する。
また、Rは、独立にフッ素原子またはパーフルオロアルキル基を示し、Yは下記構造式で表される2価の基を示し、R1はパーフルオロアルキレン基を示し、nは1〜19の数を意味する。
上記一般式(1)において、Ar2はジアミンの残基ということができ、Ar1は酸無水物の残基ということができるので、好ましいフッ素系ポリイミド樹脂を、ジアミンと、酸無水物若しくはこれと同等に利用可能なテトラカルボン酸、酸塩化物、エステル化物等(以下、「酸無水物等」と記す)とを挙げて説明する。但し、フッ素系ポリイミド樹脂は、ここで説明するジアミンと酸無水物等とから得られるものに限定されることはない。
Ar2となる原料のジアミンとしては、分子内のアミノ基を除くアルキル基、フェニル環等の炭素に結合するすべての1価元素をフッ素またはパーフルオロアルキル基としたものであれば、どのようなものでもよく、例えば、3,4,5,6,−テトラフルオロ−1,2−フェニレンジアミン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−アミノフェニル)エーテル、ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−アミノフェニル)スルフォン、ヘキサフルオロ−2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等を挙げることができる。
Ar1となる原料の酸無水物等としては、例えば1,4−ジフルオロピロメリット酸、1−トリフルオロメチル−4−フルオロピロメリット酸、1,4−ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸、1,4−ジ(ペンタフルオロエチル)ピロメリット酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビスフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3,4’−ジカルボキシトリフルオロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−オキシビスフタル酸、4,4’―(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸等が挙げられる。
上記の(I)の方法で用意されるポリアミド酸樹脂とともに塗布液中に含有される金属化合物、あるいは上記の(II)の方法で用意される金属イオン(又は金属塩)を含有する溶液中に含有される金属化合物としては、金属微粒子3を構成する上述の金属種を含む化合物を特に制限無く用いることができる。金属化合物としては、前記金属の塩や有機カルボニル錯体などを用いることができる。金属の塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などを挙げることができる。また、上記金属種と有機カルボニル錯体を形成し得る有機カルボニル化合物としては、例えばアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン類、アセト酢酸エチル等のβ−ケトカルボン酸エステルなどを挙げることができる。
金属化合物の好ましい具体例としては、H[AuCl4]、Na[AuCl4]、AuI、AuCl、AuCl3、AuBr3、NH4[AuCl4]・n2H2O、Ag(CH3COO)、AgCl、AgClO4、Ag2CO3、AgI、Ag2SO4、AgNO3、Ni(CH3COO)2、Cu(CH3COO)2、CuSO4、CuSO4、CuSO4、CuCl2、CuSO4、CuBr2、Cu(NH4)2Cl4、CuI、Cu(NO3)2、Cu(CH3COCH2COCH3)2、CoCl2、CoCO3、CoSO4、Co(NO3)2、NiSO4、NiCO3、NiCl2、NiBr2、Ni(NO3)2、NiC2O4、Ni(H2PO2)2、Ni(CH3COCH2COCH3)2、Pd(CH3COO)2、PdSO4、PdCO3、PdCl2、PdBr2、Pd(NO3)2、Pd(CH3COCH2COCH3)2、SnCl2、IrCl3、RhCl3などを挙げることができる。
上記の(I)の方法で用意されるポリアミド酸樹脂と金属化合物とを含有する塗布液において、金属種によって、金属化合物が解離して生じた金属イオンが、ポリアミド酸樹脂との間で3次元の架橋形成反応が生じることがある。このため、時間の経過とともに塗布液の増粘・ゲル化が進行し、塗布液としての使用が困難となる場合がある。このような増粘、ゲル化を防ぐため、塗布液中に安定剤として粘度調整剤を添加することが好ましい。粘度調整剤の添加によって、塗布液中の金属イオンがポリアミド酸樹脂とキレート錯体を形成する代わりに、粘度調整剤と金属イオンがキレート錯体を形成する。このように、粘度調整剤によってポリアミド酸樹脂と金属イオンとの3次元の架橋形成がブロックされ、増粘・ゲル化が抑制される。
粘度調整剤としては、金属イオンと反応性の高い(つまり、金属錯体を形成しうる)低分子有機化合物を選定することが好ましい。低分子有機化合物の分子量は50〜300の範囲内が好ましい。このような粘度調整剤の具体例としては、例えばアセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ピリジン、イミダゾール、ピコリンなどを挙げることができる。また、粘度調整剤の添加量は、形成しうるキレート錯体化合物1モルに対して1〜50モルの範囲内、好ましくは2〜20モルの範囲内で添加することが好ましい。
塗布液中の金属化合物の配合量は、ポリアミド酸樹脂、金属化合物及び粘度調整剤の合計の重量部100に対して、3〜80重量部の範囲内、好ましくは20〜60重量部の範囲内となるようにする。この場合、金属化合物が3重量部未満では、金属微粒子3の析出が不十分となり、80重量部を超えると塗布液中に溶解できない金属塩が沈殿したり、金属微粒子3が凝集しやすくなることがある。
なお、塗布液には、上記成分以外の任意成分として、例えばレベリング剤、消泡剤、密着性付与剤、架橋剤などを配合することができる。
金属化合物を含有する塗布液あるいは金属イオン(又は金属塩)を含有しないポリアミド酸樹脂溶液を塗布する方法は、特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能であるが、これらの中でも、塗布膜(又はポリアミド酸樹脂膜)を均一に形成することが可能でマトリックス樹脂1の厚みを高精度に制御しやすいスピンコーター、グラビアコーター、バーコーターを用いることが好ましい。
また、上記の(II)又は(III)の方法で用いる金属イオン溶液中には、金属化合物を30〜300mMの範囲内で含有することが好ましく、50〜100mMの範囲内で含有することがより好ましい。金属化合物の濃度が30mM未満では、金属イオン溶液をポリアミド酸樹脂膜中に含浸させるための時間がかかり過ぎるので好ましくなく、300mM超では、ポリアミド酸樹脂膜の表面が腐食(溶解)する懸念がある。
金属イオン溶液は、金属化合物のほかに、例えば緩衝液などのpH調整を目的とする成分を含有することができる。
上記の(II)又は(III)の方法における金属イオン溶液の含浸方法は、ポリアミド酸樹脂膜の表面に金属イオン溶液が接触することができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、浸漬法、スプレー法、刷毛塗りあるいは印刷法等を用いることができる。含浸の温度は0〜100℃、好ましくは20〜40℃付近の常温でよい。また、含浸時間は、浸漬法を適用する場合、例えば1分〜5時間が好ましく、5分〜2時間がより好ましい。浸漬時間が1分より短い場合には、ポリアミド酸樹脂膜への金属イオン溶液の含浸が不十分になる。一方、浸漬時間が5時間を越えても、金属イオン溶液のポリアミド酸樹脂膜への含浸の程度は、ほぼ横ばいになっていく傾向になる。
金属化合物を含有する塗布液あるいは金属イオン(又は金属塩)を含有しないポリアミド酸樹脂溶液を塗布した後は、乾燥させてポリアミド酸樹脂膜を形成する。乾燥においては、ポリアミド酸樹脂の脱水閉環の進行によるイミド化を完結させないように温度を制御する。乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、60〜200℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間をかけて行うことがよいが、好ましくは、60〜150℃の範囲内の温度条件で乾燥を行うことがよい。乾燥後のポリアミド酸樹脂膜はポリアミド酸樹脂の構造の一部がイミド化していても差し支えないが、イミド化率は50%以下、より好ましくは20%以下としてポリアミド酸樹脂の構造を50%以上残すことがよい。なお、ポリアミド酸樹脂のイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品として、例えば日本分光製FT/IR620)を用い、透過法にて膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1,000cm−1のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1,710cm−1のイミド基由来の吸光度から算出される。
ポリアミド酸樹脂膜は、単層でもよく、また複数のポリアミド酸樹脂膜から形成される積層構造のものでもよい。複数層とする場合、異なる構成成分からなるポリアミド酸樹脂の層の上に他のポリアミド酸樹脂を順次塗布して形成することができる。ポリアミド酸樹脂の層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリアミド酸樹脂を2回以上使用してもよい。層構造が簡単である2層又は単層、特に単層は、工業的に有利に得ることができる。
また、シート状支持部材の上に、単層又は複数層のポリアミド酸樹脂の層を積層し、一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド樹脂層とした後に、更にその上にポリアミド酸樹脂膜を形成することも可能である。この場合、ポリイミド樹脂層とポリアミド酸樹脂膜の層との密着性を向上させるため、ポリイミド樹脂層の表面をプラズマにより表面処理することが好ましい。このプラズマによる表面処理によって、ポリイミド樹脂層の表面を粗化させるか、又は表面の化学構造を変化させることができる。これによって、ポリイミド樹脂層の表面の濡れ性が向上し、ポリアミド酸樹脂の溶液との親和性が高まり、該表面上にポリアミド酸樹脂膜を安定的に保持できるようになる。
アルカリ改質法:
アルカリ改質法は、ポリイミドフィルムの表面をアルカリ改質してポリアミド酸樹脂層を形成した後に、該ポリアミド酸樹脂層に金属イオン溶液を含浸させる方法である。なお、使用するポリイミド樹脂としては、上記キャスト法と同様であるため、説明を省略する。
アルカリ改質法の有利な点としては、金属イオン(又は金属塩)が均一に溶解した状態でポリアミド酸樹脂層中に含浸し、金属イオン(又は金属塩)の状態からポリアミド酸樹脂層中でバラツキが少なく均一に分散された状態になるので、粒子径分布が比較的小さい金属微粒子3を含有するナノコンポジット10を作製できること、ポリイミドフィルム基材と密着性の高い一体型のナノコンポジット10を作製できること、ポリイミドフィルムの表面側にナノコンポジット10を作製した場合にポリイミドフィルムの裏面側にも同時に同じ工程で作製できること、あるいは金属イオン溶液の金属イオンが、アルカリ水溶液に起因するアルカリ金属とポリイミド樹脂末端のカルボキシル基との塩に対して、容易にイオン交換できる(含浸時間を短縮できる)こと、などが挙げられる。
ポリイミドフィルムを処理するアルカリ水溶液としては、濃度が0.5〜50重量%の範囲内、液温が5〜80℃の範囲内の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのアルカリ水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液は、例えば浸漬法、スプレー法あるいは刷毛塗り等により適用することができる。例えば、浸漬法の場合、ポリイミドフィルムをアルカリ水溶液で10秒〜60分間処理することが有効である。好ましくは濃度が1〜30重量%の範囲内、液温が25〜60℃の範囲内のアルカリ水溶液で、ポリイミドフィルムの表面を30秒〜10分間処理することがよい。ポリイミドフィルムの構造によって、適宜、その処理条件を変更することができる。一般的にアルカリ水溶液の濃度が薄い場合、ポリイミドフィルムの処理時間は長くなる。また、アルカリ水溶液の液温が高くなると、処理時間は短縮される。
アルカリ水溶液で処理すると、ポリイミドフィルムの表面側からアルカリ水溶液が浸透し、ポリイミド樹脂が改質される。このアルカリ処理による改質反応は主にイミド結合の加水分解であると考えられる。アルカリ処理により形成されるアルカリ処理層の厚みはポリイミドフィルムの厚みの1/5000〜1/2の範囲内が好ましく、1/3000〜1/5の範囲内がより好ましい。別の観点からは、アルカリ処理層の厚みは0.005〜3.0μmの範囲内、好ましくは0.05〜2.0μmの範囲内、更に好ましくは0.1〜1.0μmの範囲内がよい。このような厚みの範囲とすることで、後の工程で金属微粒子3を形成する際に有利となる。アルカリ処理層の厚みが上記下限(0.005μm)未満であると、金属イオンを十分に含浸することが困難である。一方、ポリイミド樹脂のアルカリ水溶液による処理では、ポリイミド樹脂のイミド環の開環と同時に、ポリイミド樹脂の最表層部の溶解を生じる傾向があるので、上記上限(3.0μm)を超えることは困難である。更に、金属微粒子3をほぼ二次元的に分散させる場合には、アルカリ処理により形成されるアルカリ処理層の厚みはポリイミドフィルムの厚みの1/5000〜1/20の範囲内が好ましく、1/500〜1/50の範囲内がより好ましい。また、別の観点からは、アルカリ処理層の厚みは20nm〜150nmの範囲内、好ましくは50nm〜150nmの範囲内、更に好ましくは100nm〜120nmの範囲内がよい。このような厚みの範囲とすることで、後の工程で金属微粒子3を形成する際に有利となる。
ポリイミドフィルムのアルカリ水溶液による改質のしやすさの観点から、ポリイミドフィルムは吸水率が高いものを選択することが望ましい。ポリイミドフィルムの吸水率は好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であることがよい。吸水率が0.1%未満であると、十分に改質できないか、又は改質時間を十分に長くする必要があるので好ましくない。
また、ポリイミドフィルムは、そのポリイミドフィルムを構成するポリイミド樹脂の化学構造の違いにより、アルカリ水溶液による改質処理の程度が異なる場合があるので、改質処理しやすいポリイミドフィルムを選択することが好ましい。このようなアルカリ水溶液による好適に改質処理されやすいポリイミドフィルムとしては、例えばポリイミド樹脂の構造中にエステル結合を有するものや、酸無水物由来のモノマーとして無水ピロメリット酸を使用したもの(酸無水物成分100モルに対し、好ましくは50モル以上のもの、より好ましくは60モル以上のもの)が挙げられる。
用途によっては、ポリイミドフィルムの両面を同時にアルカリ処理して改質してもよい。低熱膨張性のポリイミド樹脂で構成されるポリイミド樹脂層は、アルカリ処理が特に有効であり、好適である。低熱膨張性のポリイミド樹脂は、アルカリ水溶液とのなじみ(濡れ性)が良好であるために、アルカリ処理によるイミド環の開環反応が容易に起こり易い。
アルカリ処理層中には、アルカリ水溶液に起因するアルカリ金属とポリイミド樹脂末端のカルボキシル基との塩等が形成されている場合がある。このカルボキシル基のアルカリ金属塩は、後に続く金属イオン溶液の含浸工程における金属イオン溶液含浸処理によって、金属イオンの塩に置換することが可能であるので、金属イオン溶液含浸工程に付す前に金属イオンの塩が存在していても問題はない。また、アルカリ性に変化したポリイミド樹脂の表面層を、酸水溶液で中和してもよい。酸水溶液としては、酸性であればいかなる水溶液も用いることができるが、特に、塩酸水溶液や硫酸水溶液が好ましい。また、酸水溶液の濃度は、例えば0.5〜50重量%の範囲内にあることがよいが、好ましくは0.5〜5重量%の範囲内にあることがよい。酸水溶液のpHは2以下とすることが更に好ましい。酸水溶液による洗浄後は、水洗した後、乾燥して、次の金属イオン溶液含浸工程に供することがよい。
アルカリ改質層が形成されたポリイミドフィルムに対して、金属イオン溶液を含浸させた後、乾燥させて、金属イオン(又は金属塩)含有層を形成する。この含浸処理によって、アルカリ改質層中に存在していたカルボキシル基は、カルボキシル基の金属塩となる。
金属イオン及び金属化合物、並びに含浸工程で用いる金属イオン溶液としては、上記キャスト法と同様のものを用いることができる。
含浸方法は、アルカリ改質層の表面に金属イオン溶液が接触することができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、浸漬法、スプレー法、刷毛塗りあるいは印刷法等を用いることができる。含浸の温度は0〜100℃、好ましくは20〜40℃付近の常温でよい。また、含浸時間は、浸漬法を適用する場合、例えば1分〜5時間が好ましく、5分〜2時間がより好ましい。
含浸後、乾燥する。乾燥方法は、特に限定されず、例えば自然乾燥、エアガンによる吹きつけ乾燥、あるいはオーブンによる乾燥等を用いることができる。乾燥条件は、10〜150℃で5秒〜60分間、好ましくは25〜150℃で10秒〜30分間、更に好ましくは30〜120℃で、1分〜10分間である。
以上のキャスト法又はアルカリ改質法によって形成された「金属イオン若しくは金属塩を含有するポリアミド酸樹脂膜又はポリアミド酸樹脂層」(以下、「金属イオン含有ポリアミド酸樹脂層」とも記す)中で、金属イオンとポリアミド酸樹脂のカルボキシル基との相互作用によってカルボキシル基に吸着したり、錯体を形成したりすることがある。このような現象は、金属イオン含有ポリアミド酸樹脂層中における金属イオンの濃度分布を均質化するように作用するため、マトリックス樹脂1中に析出する金属微粒子3の偏在や凝集を防ぎ、均一な形状の金属微粒子3を均一な分布で析出させる効果がある。
(2)還元工程:
還元工程では、上記のようにして得られた金属イオン含有ポリアミド酸樹脂層を、好ましくは140℃以上、より好ましくは160〜450℃の範囲内、更に好ましくは200〜400℃の範囲内で熱処理することにより金属イオン(又は金属塩)を還元して金属微粒子3を析出させる。熱処理温度が140℃未満では、金属イオン(又は金属塩)の還元が十分に行われず、金属微粒子3の平均粒子径を前述の下限(3nm)以上にすることが困難となる場合がある。また、熱処理温度が140℃未満では、還元によって析出した金属微粒子3のマトリックス樹脂1中での熱拡散が十分に起こらない場合がある。さらに、熱処理温度が140℃未満では、マトリックス樹脂1としてポリイミド樹脂を適用した場合に、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸樹脂のイミド化が不十分となり、再度加熱によるイミド化の工程が必要となる場合がある。一方、熱処理温度が450℃を超えると、マトリックス樹脂1が熱により分解し、局在型表面プラズモン共鳴に由来する吸収以外のマトリックス樹脂1の分解に伴う新たな吸収が生じやすくなることや、隣り合う金属微粒子3の間隔が小さくなることによって、隣り合う金属微粒子3同士での相互作用を生じやすくなるなど、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがブロードになる原因となる。
加熱還元のための熱処理時間は、目標とする粒子間距離に応じて、さらに熱処理温度や、金属イオン含有ポリアミド酸樹脂層中に含まれる金属イオン(又は金属塩)の含有量に応じて決定することができるが、例えば熱処理温度が200℃では10〜180分の範囲内、加熱温度が400℃では1〜60分の範囲内に設定することができる。
金属微粒子3の粒子径D1及び粒子間距離L1は、還元工程における加熱温度及び加熱時間並びにマトリックス樹脂1(又はその前駆体)に含まれる金属イオン(又は金属塩)の含有量等によって制御できる。本発明者らは、加熱還元における加熱温度及び加熱時間が一定であって、マトリックス樹脂1中(又はその前駆体中)に含有する金属イオン(又は金属塩)の絶対量が異なる場合には、析出する金属微粒子3の粒子径D1が異なるという知見を得ていた。また、加熱温度及び加熱時間の制御なしに加熱還元を行った場合には、粒子間距離L1が隣接する金属微粒子3の大きい方の粒子径D1Lより小さくなることがあることや、マトリックス樹脂1の表面Sに金属微粒子3が凝集して島状となることがあるという知見も得ていた。
以上のような知見を生かし、加熱温度を制御することによって金属微粒子3の粒子径D1が制御できること、及び加熱時間を制御することによって粒子間距離L1が制御できること、を見出した。これらの点について、実例をもとに具体的に説明する。例えば、厚みが200nmであるポリアミド酸樹脂(マトリックス樹脂1の前駆体の樹脂)中に、単位体積cm3当たり18重量%(単位面積cm2当たり5.2μg)で含有する金イオンを大気中で加熱還元した場合、加熱還元によって形成される金属金微粒子の粒子径D1及び粒子間距離L1は、加熱温度及び加熱時間に応じて変化した。すなわち、粒子径D1は、200℃の10分間の処理で約9nm(平均粒子径;約9nm)、300℃の3分間の処理で約13nm(平均粒子径;約13nm)、400℃の1分間の処理で約15nm(平均粒子径;約15nm)であり、いずれの場合においても、それぞれ隣り合う金属金微粒子の間隔が、隣り合う金属金微粒子における大きい方の金属金微粒子の粒子径D1L以上(ほぼ粒子径D1Lに近い状態)でナノコンポジットが形成された。このような実例をもとにして、更に金属微粒子層5の厚みTを上記の範囲内に制御することで、上記の要件を満足するナノコンポジット10を形成することができる。
また、上記知見を応用し、例えば還元工程における熱処理を複数の工程に分けて実施することもできる。例えば、第1の加熱温度で金属微粒子3を所定の粒子径D1まで成長させる粒子径制御工程と、第1の加熱温度と同じか、又は異なる第2の加熱温度で、金属微粒子3の粒子間距離L1が所定の範囲になるまで保持する粒子間距離制御工程を行なうことができる。このようにして、第1及び第2の加熱温度と加熱時間を調節することにより、粒子径D1及び粒子間距離L1をさらに精密に制御することができる。
還元方法として加熱還元を採用する理由は、還元の処理条件(特に加熱温度と加熱時間)の制御によって比較的簡便に粒子径D1及び粒子間距離L1を制御できることや、ラボスケールから生産スケールに至るまで特に制限なく簡便な設備で対応できること、また枚葉式のみならず連続式にも特段の工夫なくとも対応できることなど、工業的に有利な点が挙げられることにある。加熱還元は、例えば、Ar、N2などの不活性ガス雰囲気中、1〜5kPaの真空中、又は大気中で行うことができる。還元方法として、水素などの還元性ガスを用いる気相還元や光(紫外線)還元は不適である。気相還元では、マトリックス樹脂1の表面付近に金属微粒子3が存在せず、還元性ガスによってマトリックス樹脂1の熱分解が促進され、金属微粒子3の粒子間隔を制御することが困難となる。また、光還元では、マトリックス樹脂1に由来する光透過度によって表面付近と深部での金属微粒子3の密度のバラつきが生じやすく、金属微粒子3の粒子径D1及び粒子間距離L1を制御することが困難である上に還元効率も低い。
還元工程では、還元処理で使用する熱を利用してポリアミド酸樹脂のイミド化も完結させることができるので、金属微粒子3の析出からイミド化までの工程をワンポットで行うことができ、生産工程を簡略化できる。
加熱還元では、マトリックス樹脂1(又はその前駆体)中に存在する金属イオン(又は金属塩)を還元し、熱拡散によって個々の金属微粒子3が独立した状態で析出させることができる。このように形成された金属微粒子3は、一定以上の粒子間距離L1を保った状態でしかも形状が略均一であり、マトリックス樹脂1中で金属微粒子3が偏りなく分散している。特に、金属イオン含有ポリアミド酸樹脂層中の金属イオン(又は金属塩)がポリアミド酸樹脂のカルボキシル基に吸着したり、錯体を形成したりしている場合には、金属微粒子3の形や粒子径D1が均質化され、最終的にマトリックス樹脂1中に金属微粒子3が略均一な粒子間距離L1で均等に析出、分散したナノコンポジット10を得ることができる。また、マトリックス樹脂1を構成する樹脂の構造単位を制御することや、金属イオン(又は金属塩)の絶対量及び金属微粒子3の体積分率を制御することで、金属微粒子3の粒子径D1とマトリックス樹脂1中での金属微粒子3の分布状態を制御することもできる。
(3)エッチング工程:
エッチング工程では、マトリックス樹脂1中に存在する金属微粒子3の一部をマトリックス樹脂1の表面Sから露出させる。例えばナノコンポジット10において、金属微粒子3を露出させたい面側のマトリックス樹脂1の表層をエッチングによって除去することによって行う。図4はエッチング工程を行う前のナノコンポジット10Aを、図5はエッチング工程後のナノコンポジット10Bを、それぞれ模式的に示している。エッチング方法としては、例えばヒドラジド系溶液やアルカリ溶液を用いた湿式のエッチング方法や、プラズマ処理を用いた乾式のエッチング方法が挙げられる。
湿式のエッチング方法において、例えばアルカリ溶液によるエッチングが好適に利用できるマトリックス樹脂1としては、エッチング溶液の浸透のしやすさの観点から、吸水率が高いものを選択することが望ましく、吸水率は好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であることがよい。
乾式のエッチング方法において、例えばプラズマによるエッチングが好適に利用できるマトリックス樹脂1としては、プラズマ状態のガスとの反応性の高さの観点から、例えばハロゲン原子、−OH、−SH、−O−、−S−、−SO−、−NH−、−CO−、−CN、−P=O、−PO−、−SO2−、−CONH−、−SO3Hなどの極性基を有するものを選択することが望ましい。また、別の観点から、アルカリ溶液によるエッチングの場合と同様に、吸水率が高いマトリックス樹脂1を選択することが望ましく、吸水率は好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であることがよい。
エッチングによって、図5に示したように、マトリックス樹脂1の表面Sから外側に突出した突出部位3aが形成された複数の金属微粒子3を有するナノコンポジット10Bが得られる。このときのエッチング量は、金属微粒子3の粒子径D1や、金属微粒子層5の厚みTなどに応じて設定できる。なお、突出部位3aが形成された複数の金属微粒子3を有するナノコンポジット10Bを「未処理のナノコンポジット(金属微粒子複合体)10B」と記すことがある。
(4)めっき皮膜形成工程:
めっき皮膜形成工程では、未処理のナノコンポジット10Bにおける金属微粒子3の突出部位3aの表面にめっき皮膜7Aを形成する。めっき皮膜7Aの形成は、好ましくは、無電解めっき法により行うことができる。この場合、金属微粒子3の突出部位3aがめっき核となり、その表面にめっき皮膜7Aが成長する。無電解めっきは、例えば金属微粒子3の突出部位3aが形成されたエッチング工程後のナノコンポジット10Bを無電解めっき液に浸漬することによって行うことができる。この無電解めっきにより、図6に示したように、金属微粒子3の突出部位3aを覆うめっき皮膜7Aが形成されたナノコンポジット10Cが得られる。上記のとおり、めっき皮膜7Aは、金属微粒子3と同種の金属であってもよいし、異なる金属であってもよいが、同種の金属が好ましい。
めっき皮膜7Aは、金属微粒子3の突出部位3aとその周囲に形成されるようにする必要があり、マトリックス樹脂1の全面に形成されることがないように、めっき条件を調節する。無電解めっき処理で用いる無電解めっき液としては、めっき皮膜がマトリックス樹脂1の全面に形成されることがないようにめっき皮膜を制御するために、例えば還元型の塩化金系、亜硫酸金系又はシアン金系のめっき液を選択することが好ましい。亜硫酸金系及びシアン金系のめっき液の市販品として、例えば、奥野製薬社製のセルフゴールドOTK(商品名)又はOPCムデンゴールド25(商品名)等を挙げることができる。また、金以外の無電解めっき液については、例えば、奥野製薬社製のニッケル無電解めっき液であるトップニコロンYM(商品名)や銅無電解めっき液であるOPCカッパーT(商品名)を挙げることができる。
無電解めっき処理の温度は、めっき皮膜がマトリックス樹脂1の全面に形成されることがないように、めっき皮膜を制御する観点から、例えば塩化金系の無電解めっき液を用いる場合、処理温度は、例えば0〜30℃の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは10〜25℃の範囲内とすることがよく、処理時間は、例えば、5秒〜30分とすることが好ましく、10秒〜1分がより好ましい。
めっき皮膜形成工程において、めっき皮膜7Aは、金属微粒子3の突出部位3aとその周辺のマトリックス樹脂1の表面Sを覆うように偏平に形成されることがある。平面視(マトリックス樹脂1の表面Sに対して直角に観察した場合)において、めっき皮膜形成工程で形成されるナノコンポジット10Cにおけるめっき皮膜7Aは、局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルをシャープにするという理由から、例えば、それぞれのめっき皮膜7Aにおける長径と短径との関係が、好ましくは長径<短径×1.35の範囲内、より好ましくは長径≦短径×1.25の範囲内であることがよい。なお、めっき皮膜7Aが球体でない場合(例えば正八面体など)は、そのめっき皮膜7Aにおけるエッジ長さが最大となる長さをめっき皮膜7Aの長径とし、エッジ長さが最小となる長さをめっき皮膜7Aの短径として、さらに前記長径をそのめっき皮膜7Aの直径D3と見做すこととする。また、めっき皮膜7Aにおける長径と短径との関係が、長径<短径×1.35の範囲内でない場合においても、後述の熱処理工程で金属膜7の形状を球状に近づけることができ、局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルをシャープにすることが可能となる。めっき皮膜7Aの直径D3が大きすぎると、隣り合うめっき皮膜7A同士が接して(隣接するものの距離L2=0となって)しまうため、次の熱処理工程で隣接する金属微粒子3のめっき皮膜7Aと融合して巨大化してしまうものが現れ、金属膜7の大きさが不均一になって、局在型表面プラズモン共鳴効果を向上させることが困難になるばかりか、その効果が失われる場合がある。一方、めっき皮膜7Aの直径D3が小さすぎると、次の工程で熱処理を行っても、金属膜7の外観が球状に形成されなかったり、突出部位3aの全面を覆うことが困難になったりして、金属膜7の形状が不均一になり、局在型表面プラズモン共鳴効果自体の低下を招く場合がある。
金属微粒子3aの表面に形成されるめっき皮膜7Aの直径D3と膜厚は、無電解めっき処理の条件(特に処理時間、処理温度、めっき液の種類)によって調節することができる。
(5)熱処理工程
熱処理工程では、めっき皮膜形成工程で得られためっき皮膜7Aを熱処理することにより金属膜7を形成する。この熱処理により、偏平なめっき皮膜7Aは小径化して中心が盛り上がり、図7に示したように外観がほぼ球状の金属膜7が形成される。熱処理によって、めっき皮膜7Aを、より小径な、外観がほぼ球状の金属膜7に形状変化させることにより、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を増強させ、かつシャープにすることが可能であり、各種センサー等の用途に利用した場合に、より高感度の検出が可能になる。
熱処理工程における加熱温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350〜450℃の範囲内、更に好ましくは350〜400℃の範囲内である。熱処理温度が300℃未満では、めっき皮膜7Aの変形(小径化)が進まず、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を大きくし、かつシャープにする効果が十分に得られない。一方、熱処理温度が450℃を超えると、マトリックス樹脂1が熱分解し、局在型表面プラズモン共鳴に由来する吸収以外のマトリックス樹脂1の分解に伴う新たな吸収が生じやすくなることや、隣り合う金属膜7の間隔が小さくなることによって、金属膜7同士の相互作用を生じやすくなるなど、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがブロードになる原因となる。
熱処理は、例えばAr、N2などの不活性ガス雰囲気、水素などの還元性ガス雰囲気、1〜5kPaの真空中、又は大気中で行うことができるが、マトリックス樹脂1の外部に突出しためっき皮膜7Aの酸化を防ぐ観点から、不活性ガス雰囲気中又は還元ガス雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理時間は、例えば熱処理温度が300℃では30〜180分の範囲内、加熱温度が400℃では5〜60分の範囲内に設定することができる。
熱処理工程では、偏平な形状のめっき皮膜7Aが熱エネルギーにより小径化してその中心が盛り上がり、金属微粒子3の突出部位3aを覆うように外観がほぼ球状の金属膜7が形成される。めっき皮膜7Aと金属膜7との比較では、図6及び図7に示したように、直径がD3からD2へ小径化し、隣接するめっき皮膜7A間、金属膜7間の距離がL2からL3へ広がる。従って、隣り合う金属膜7どうしの融合が、めっき皮膜7Aの状態に比べて減少し、独立して存在する金属膜7の比率が多くなる。また、マトリックス樹脂1の表面Sを基準とする金属膜7の高さH2は、偏平状のめっき皮膜7Aの高さH1よりも大きくなる。このように、熱処理後の金属膜7は、外観がほぼ球状になることによって、マトリックス層1の外部に突出する金属部分(金属膜7及び金属微粒子3)の突出量が大きくなるため、外部変化の検出を行う用途において検出感度を高めることができる。
このように形成された金属膜7は、一定以上の距離L3を保った状態で、しかも形状が略均一に、マトリックス樹脂1の表面Sに偏りなく分散した状態で形成される。従って、ナノコンポジット10は、ナノコンポジット10A,10B,10Cに比べて、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度が大きく、かつシャープな形状に改善されている。
以上のようにして、図1及び図2に示すような構成を有するナノコンポジット10を製造することができる。なお、マトリックス樹脂1として、ポリイミド樹脂(ポリアミド酸樹脂)以外の樹脂を用いる場合についても、上記製造方法に準じて製造することができる。
ナノコンポジット10の製造においては、上記(1)〜(5)の工程以外に、さらに任意工程を行うこともできる。例えば、ナノコンポジット10の金属膜7に、さらに結合化学種を付加させる工程や、ナノコンポジット10をパターニングする工程等含むことができる。
結合化学種の固定化工程:
金属膜7への結合化学種の固定化工程では、結合化学種を金属膜7の表面に固定させることができる。結合化学種の固定化工程は、結合化学種を金属膜7の表面に接触させることにより行うことができる。例えば結合化学種を溶剤に溶解した処理液で、金属膜7の表面処理を行うことが好ましい。結合化学種を溶解する溶剤としては、水、炭素数1〜8の炭化水素系アルコール類、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等、炭素数3〜6の炭化水素系ケトン類、例えば、アセトン、プロパノン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等、炭素数4〜12の炭化水素系エーテル類、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等、炭素数3〜7の炭化水素系エステル類、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、マロン酸ジエチル等、炭素数3〜6のアミド類、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド等、炭素数2のスルホキシド化合物、例えば、ジメチルスルホキシド等、炭素数1〜6の含ハロゲン化合物、例えば、クロロメタン、ブロモメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、1、2−ジクロロエタン、1、4−ジクロロブタン、トリクロルエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン等、炭素数4〜8の炭化水素化合物、例えば、ブタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
処理液中の結合化学種の濃度は、例えば0.0001〜1M(mol/L)で用いることが好ましく、この範囲内でも低濃度である方が金属膜7の表面への余分な結合化学種の付着が少ない点で有利と考えられるが、結合化学種による十分な膜形成の効果を得たい場合には、より好ましくは0.005〜0.05Mである。
上記処理液で金属膜7の表面を処理する場合、処理液と金属膜7の表面が接触すればよく、その方法は限定されないが、均一に接触させることが好ましい。例えば、金属膜7が形成されたナノコンポジット10をマトリックス樹脂1ごと処理液に浸漬してもよいし、また、スプレー等でナノコンポジット10における金属膜7に吹き付けてもよく、適当な工具で塗布してもよい。また、この際の処理液の温度は、特に限定されるものではないが、例えば0〜50℃の範囲内の温度が好ましい。また、例えば、表面処理に浸漬法を採用した場合には、浸漬時間を1分〜24時間とすることが好ましい。
表面処理を終了後、金属膜7の表面に余分に付着した結合化学種を有機溶剤で溶解除去する洗浄工程を行うことが好ましい。この洗浄工程で使用する有機溶剤には、結合化学種を溶解することができる有機溶媒を使用することができる。例としては、上記の溶剤を用いることができる。洗浄工程で金属膜7の表面を有機溶剤で洗浄する方法は限定されない。有機溶剤に浸漬してもよく、また、スプレー等で吹き付けて洗い流しても、適当な基材にしみ込ませてふき取ってもよい。この洗浄では、金属膜7の表面に余分に付着した結合化学種を溶解除去するが、結合化学種の全部を除去してはならない。有利には、結合化学種の膜が金属膜7の表面に単分子膜程度の厚みとなるように結合化学種を洗浄除去する。この方法としては、まず水で洗浄する工程を上記洗浄工程の前に設け、次に上記洗浄工程を行い、その後、更に水で洗浄する工程を設ける方法がある。この際の上記洗浄工程における有機溶剤の温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは5〜50℃の範囲である。また、洗浄時間は、好ましくは1〜1000秒間、より好ましくは3〜600秒間の範囲である。有機溶剤の使用量は、好ましくはナノコンポジット10の表面積1m2あたり1〜500L、より好ましくは3〜50Lの範囲である。
また、必要に応じて、マトリックス樹脂1の表面に付着した結合化学種をアルカリ水溶液で除去することが好ましい。このとき使用するアルカリ水溶液は、濃度が10〜500mM(mmol/L)、温度が0〜50℃であることが好ましい。例えば、アルカリ水溶液の浸漬による場合には、浸漬時間を5秒間〜3分間とすることが好ましい。
パターニング工程:
パターニングは、フォトリソグラフィー技術とエッチングを組み合わせて、例えば以下の手順で実施できる。まず、任意の基材上に、ナノコンポジット10を積層形成したものを準備する。ここで、基板としては、上述のものを使用できる。そして、ナノコンポジット10の上に、レジスト液を塗布し、乾燥することによりレジスト層を形成する。次に、レジスト層を所定のパターンのフォトマスクを使用して露光し、現像することにより、ナノコンポジット10上のレジスト層をパターン形成する。このパターン形成されたレジスト層をマスクとして用い、上述のエッチング工程と同様の方法によって、レジスト層でマスクされていない部分のナノコンポジット10を除去する。エッチングは、基材が露出するまで行うことができる。次に、レジスト層を除去することにより、基材上にパターン化されたナノコンポジットを得ることができる。このようにパターン化されたナノコンポジットは、例えばマルチチャネルのセンサー基板等の用途に好ましく適用できる。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例において特にことわりのない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
[金属微粒子の平均粒子径の測定]
金属微粒子の平均粒子径の測定は、試料の断面をミクロトーム(ライカ社製、ウルトラカットUTCウルトラミクロトーム)を用いて超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子社製、JEM−2000EX)により観測した。尚、ガラス基板上に作製した試料を上記の方法で観測することは困難であるため、ポリイミドフィルム上に同条件で作製したものを用い観測した。また、金属微粒子の平均粒子径は面積平均径とした。
[金属微粒子及び金属膜の露出面積径の測定]
金属微粒子及び金属膜の露出面積径の測定は、試料の表面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM;日立ハイテクノロジーズ社製)により観測して行った。
[試料の吸収スペクトル測定]
作製した試料の吸収スペクトルは、紫外・可視・近赤外分光法(日立製作所社製、UV−vis U−4000)により観測した。
[光透過率の測定]
光透過率は、紫外・可視分光分析(日本分光社製、UV−vis V−550)を用いて測定した。
[ピーク波長変化量及びピーク強度変化量の評価方法]
紫外・可視・近赤外分光法(日立製作所社製、UV−vis U−4000)を用いて、作製した試料について、大気及び水中のそれぞれの環境下における吸収スペクトルを観測した。ピーク波長変化量は、大気及び水の屈折率(但し、大気の屈折率を1、水の屈折率を1.33として計算する)を横軸にプロットし、大気及び水中で観測された試料のそれぞれのピーク波形におけるピークトップの波長を縦軸にプロットしたグラフから、最小二乗法により直線の傾きを算出し、単位屈折率変化におけるピーク波長変化量とした。ピーク強度変化量は、大気、水及びエタノールの屈折率(但し、大気の屈折率を1、水の屈折率を1.33として計算する)を横軸にプロットし、大気及び水中で観測された試料のそれぞれのピーク波形におけるピークトップの強度を縦軸にプロットしたグラフから、最小二乗法により直線の傾きを算出し、単位屈折率変化におけるピーク強度変化量とした。優れた局在型表面プラズモン共鳴効果を得るための単位屈折率変化におけるピーク強度変化量は作製例2の0.22nmを基準とし、それ以上を「良」とし、さらに0.42nmを「優良」と評価した。
[吸水率の測定]
吸水率の測定は、試料を80℃の温度条件で2時間乾燥させ、乾燥後の試料の質量aを測定し、次に、乾燥後の試料を温度23℃、湿度50%で24時間放置(環境試験)し、24時間放置後の試料の質量bを測定した。このようにして測定された試料の質量を利用して下記式(A)にしたがって吸水率を求めた。
[吸水率(%)]={(重量b−重量a)/重量a}×100 … (A)
合成例1
500mlのセパラブルフラスコ内において、撹拌しながら、15.24gの2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル (TFMB)47.6mmolを170gのDMAcに溶解させた。次に、その溶液に窒素気流下で14.76gの4,4’−オキシジフタル酸無水物 (ODPA)47.6mmolを加え、室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、無色の粘調なポリアミド酸樹脂溶液S1を得た。得られたポリアミド酸溶液S1の粘度は、E型粘度計(ブルックフィールド社製、DV−II +Pro CP型)により測定した結果、3251cP (25℃)であった。重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;東ソー株式会社製、HLC−8220GPC)により測定し、Mw=163,900であった。
得られたポリアミド酸樹脂溶液S1を、ステンレス基材の上に塗布し、125℃で3分間乾燥した後、更に160℃で2分、190℃で30分、200℃で30分、220℃で3分、280℃、320℃、360℃で各1分ずつ段階的な熱処理を行い、イミド化を完結させ、ステンレス基材に積層されたポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムをステンレス基材から剥離し、10μmの厚みのポリイミドフィルムP1を得た。このフィルムの400nmでの光透過率は95%、可視光平均透過率は96%であった。
作製例1
無アルカリガラス(旭硝子株式会社製、AN−100)の試験片10cm×10cm(厚み0.7mm)を50℃の5N水酸化ナトリウム水溶液により5分間処理した。次に、試験片のガラス基板を、純水で洗浄し、乾燥した後、1重量%の3−アミノプロピルトリメトキシシラン(以下、「γ−APS」と略す)水溶液に浸漬させた。このガラス基板を、γ−APS水溶液から取り出した後乾燥し、150℃で5分間加熱して、ガラス基板G1を作製した。
作製例2
無アルカリガラス(旭硝子株式会社製、AN−100)の試験片10cm×10cm(厚み0.7mm)を、圧力1×10−5Pa以下の真空蒸着により表面処理し、ガラス基板の上に厚さ約5nmの金属金薄膜を形成した。この基板に500℃、1時間の加熱処理を行うことによって、ガラス基板上の金属金薄膜を金属金微粒子に変換し、金属金微粒子がガラス基板上に分散状態で付着した試験片を作製した。この試験片における金属金微粒子の特徴は、次のとおりであった。
形状;半球形、平均粒子径;約32nm、最小粒子径;約9.5nm、最大粒子径;約61nm、粒子間距離の平均値;約13nm、試験片の表面積に対する金微粒子の合計の面積分率は、約19%であった。
また、試験片の局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルは、ピークトップが559nm、半値幅が75nmの吸収ピークが観測された。観測された吸収ピークの単位屈折率変化に対するピーク波長変化量及びピーク強度変化量は、それぞれ52nm及び0.22であった。
[実施例1]
<金属微粒子が分散したナノコンポジットフィルムの作製>
合成例1で得られたポリアミド酸樹脂溶液S1の2.67gに、17.33gのDMAcに溶解した0.522gの塩化金酸・四水和物を加え、窒素雰囲気下、室温で15分間攪拌することにより、金錯体含有ポリアミド酸樹脂溶液を調製した。得られた金錯体含有ポリアミド酸樹脂溶液をスピンコーター(ミカサ株式会社製、SPINCOATER 1H−DX2)を用いて、作製例1のガラス基板G1の上に塗布した後、70℃で3分間及び130℃で20分間乾燥して、ガラス基板G1上に厚さ50nmの金錯体含有ポリアミド酸樹脂膜を形成した。この金錯体含有ポリアミド酸樹脂膜を300℃、10分間加熱処理することによって、赤色に呈色した金属金微粒子分散ナノコンポジットフィルム1a(厚さ30nm)を作製した。ナノコンポジットフィルム1a中に形成した金属金微粒子は、該フィルムの表層部から厚さ方向に至るまでの領域内で、各々が完全に独立し、隣り合う金属金微粒子における大きい方の粒子径以上の間隔で分散していた。また、該フィルム中に形成した金属金微粒子の特徴は、TEM観察により、次のとおりであった。
形状;ほぼ球形、平均粒子径;約20nm、最小粒子径;約12nm、最大粒子径;約26nm、ナノコンポジットフィルム1aに対する体積分率;3.96%、粒子間距離の平均値;約25nm。金属金微粒子の平均長径/平均短径;1.03。
また、ナノコンポジットフィルム1aの金属金微粒子による局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルは、ピークトップが570nm、半値幅が102nmの吸収ピークが観測された。
<ナノコンポジットのエッチング工程>
真空プラズマ装置(モリエンジニアリング社製、プラズマクリーナー VE−1500II)を用いて、酸素流量比率10体積%、高周波パワー900Wで60秒間処理し、ナノコンポジットフィルム1aの表面側の面から7nmの厚さ範囲内に至るまでの領域をプラズマエッチングによって除去して、ナノコンポジットフィルム1bを得た。このフィルムの表面側の面には、金属金微粒子の一部がマトリックス樹脂の表面から突出かつ露出しており、SEM観察により、該金属金微粒子の露出面積径の平均値は約20nmであることが確認された。このときのナノコンポジットフィルム1bの表面積に対する金属金微粒子における突出部位の合計の面積分率は、3.2%であった。また、金属金微粒子の平均長径と平均短径との比は1.03であった。このナノコンポジットフィルム1bの表面のSEM写真を図8Aに示した。
また、ナノコンポジットフィルム1bの金属金微粒子による局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルは、ピークトップが568nm、半値幅が80nmの吸収ピークが観測された。観測された吸収ピークの単位屈折率変化に対するピーク波長変化量及びピーク強度変化量は、それぞれ−4.5nm及び0.01であった。このナノコンポジットフィルム1bの局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを図9Aに示した。
<めっき皮膜形成工程>
次に、塩化金酸・四水和物1.6474gを水100mlに溶解させ、30重量%の過酸化水素水溶液0.2267gを添加して、40mM HAuCl4−20mM
H2O2水溶液を調製し、金めっき液とした。金属金微粒子の一部を突出させたナノコンポジットフィルム1bを、上記金めっき液に19℃、1分間浸漬して無電解めっき処理をした後、水洗することにより、金めっき皮膜が形成されたナノコンポジットフィルム1cを得た。
SEM観察により、金属金微粒子の突出部位を覆うように形成された金めっき皮膜は偏平な形状であり、ナノコンポジットフィルム1cにおける金めっき皮膜の露出面積径の平均値は約100nmであることを確認した。また、このときのナノコンポジットフィルム1cの表面積に対する金めっき皮膜の露出部の合計の面積分率は、約35%であった。ナノコンポジット1cの表面のSEM写真を図8Bに示した。
また、ナノコンポジットフィルム1cの金めっき皮膜による局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルは、ピークトップが540nm、半値幅が約100nmの吸収ピークが観測された。観測された吸収ピークの単位屈折率変化に対するピーク波長変化量及びピーク強度変化量は、それぞれ50nm及び0.16であった。このナノコンポジットフィルム1cの局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを図9Bに示した。
<熱処理工程>
上記ナノコンポジットフィルム1cに対し、加熱温度400℃で30分間の熱処理を行い、金めっき皮膜を小径化し、外観がほぼ球状の金属膜に形状変化させたナノコンポジットフィルム1dを得た。
SEM観察により、ナノコンポジットフィルム1dにおける金めっき皮膜の露出面積径の平均値は約70nmであることを確認した。また、このときのナノコンポジットフィルム1dの表面積に対する金めっき皮膜の露出部の合計の面積分率は、約25%であった。また、金めっき皮膜の平均長径と平均短径との比は1.15であった。ナノコンポジット1dの表面のSEM写真を図8Cに示した。
また、ナノコンポジットフィルム1dの金めっき皮膜による局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルは、ピークトップが543nm、半値幅が約75nm、の吸収ピークが観測された。観測された吸収ピークの単位屈折率変化に対するピーク波長変化量及びピーク強度変化量は、それぞれ52nm及び0.31であった。このナノコンポジットフィルム1dの局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを図9Cに示した。
以上の結果から、実施例1で得られたナノコンポジットフィルムは、金属膜による局在型表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルの強度が十分に大きく、かつ半値幅が狭いシャープな吸収ピークを呈するものであり、各種センサー等の用途に利用することにより高感度の検出が可能であることが確認された。
以上、本発明の実施の形態を述べたが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。