JP5766092B2 - 磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ - Google Patents
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Description
そして、とくに車両用変速機等に使用するものでは、ロックアップ機能も必須であるので、磁気粘性流体を用いることで磁力制御による精度の高いロックアップ制御が可能となることも期待される。
このような磁気粘性流体を用いたトルクコンバータとして、例えば実開平7−2663号公報に開示されたものがある。
そして、励磁コイルによる磁力で磁気粘性流体を磁化させるとその降伏応力(見掛け上の粘度)が変化する。したがって磁力を制御することによりポンプインペラとタービンランナ間の滑り抵抗を変化させ、例えば負荷側の回転が十分に上がっていない場合は磁気粘性流体に磁力制御をかけないで磁気粘性流体の慣性力でタービンランナにトルクを発生させ、負荷側の回転が上昇してきたら磁気粘性流体に磁力をかけてポンプインペラとタービンランナの滑りを小さくして、ロックアップまできめ細かな制御が可能となることを狙っている。
逆に、磁気粘性流体における磁束は発散特性を有するので、インペラ羽根とタービン羽根の外周縁対向部位で励磁コイルからの磁力を磁気粘性流体に及ぼすと、磁束密度の広域の分散化が生じてトルクコンバータの流体回路内に漏れ、循環流に粘度の影響を与えることになり、トルクコンバータ本来のトルク増幅機能を低下させてしまう可能性がある。
したがって上記従来の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータは、その狙いにもかかわらず、いまだ実用は困難であるのが実情である。
そして、ヨーク部材と磁性部材との間隙内の磁気粘性流体の見掛け上の粘度を変化させている間、磁気回路の磁束は離間した循環路の磁気粘性流体に影響を与えないので、循環流によるトルク増幅機能を低下させることもない。
図1は実施の形態を示す断面図である。
トルクコンバータ1は、主軸2を回転中心として、コンバータハウジング10内にインペラ羽根3と、タービンランナ5と、ステータ4とが収納配置され、同じくコンバータハウジング10内にクラッチ用部材が配置されている。
コンバータハウジング10は、エンジンなど不図示の動力源に連結されるドライブプレート12と、ポンプインペラ20と、スリーブ部材25、およびドライブプレート12とポンプインペラ20をつなぐヨーク部30とからコンバータハウジング10を構成し、コンバータハウジング10内にポンプインペラ20と、タービンランナ5と、ステータ4とで作動流体の循環流Bを生起する循環路を形成している。
コンバータハウジング10内にはさらに、クラッチ用部材45が配置されている。
ドライブプレート12は円盤部13の外周にドラム部14を有し、ヨーク部30はドラム部14に結合され軸方向に延びて、内周に平滑な円筒面35を有する。
スリーブ部材25は、外周縁をポンプインペラ20の上記内周縁と接続した円盤部26と、円盤部26の中央からドライブプレート12と反対方向へ延びるスリーブ部27とからなり、スリーブ部27において主軸2と同心の例えば固定軸上を回転可能である。
タービンランナ5はインペラ羽根3と対向するタービン羽根6を備え、内周部を主軸2とスプライン結合した出力ハブ7に連結されている。また、クラッチ用部材45もその内周部を出力ハブ7に連結されて、タービンランナ5とドライブプレート12の円盤部13との間を延びている。クラッチ用部材45については後述する。
コンバータハウジング10内は作動流体として磁気粘性流体で満たされ、出力ハブ7とドライブプレート12の円盤部13間、タービンランナ5とステータベース9間、およびステータベース9とスリーブ部材25の円盤部26間にはシール23a、23b、23cが設けられて、磁気粘性流体の漏れを阻止するようになっている。
ヨーク部30は鉄など透磁率の高い磁性体で、前述のように、内周が平滑な円筒面となっている。ヨーク部30の外周は、コイル収納溝36が形成されるとともにドライブプレート12のドラム部14でカバーされる第1面31と、ドラム部14の外周面に連続して延びる第2面32とを有する段差形状をなし、その段差部をドラム部14の開口端面に当接させている。これによりヨーク部30はドライブプレート12のドラム部14に挿入された形態となっている。
なお、ヨーク部30は、後述するコイルの保守・交換等の便宜のため、とくに図示しないが例えばヨーク部30を軸方向に貫通するボルトで第1面31と第2面32間の段差部をドラム部14の開口端面に連結して、ドライブプレート12と結合すればよい。
コイル収納溝36と内周の円筒面35との間には薄い壁部が残されて、磁気粘性流体が漏れないようになっている。
第1クラッチ板部41の主体は透磁率の高い材質とするが、コイル収納溝36の尖った先端に対向する領域41aはアルミニウムなど透磁率の低い材質とし、第1接続壁40も透磁率の低い材質とするのが好ましい。
すなわち、円盤部46は、出力ハブ7との連結部から径方向にタービン羽根6の中間付近までタービンランナ5と略平行に延びた後、ドライブプレート12の円盤部13寄りに進み、第1クラッチ板部41の根元(第1接続壁40側)近傍まで延びている。
第2クラッチ板部47は円盤部46の外周縁から第1クラッチ板部41より内径側を第1クラッチ板部41との間に一定間隙を保持して軸方向に延び、第3クラッチ板部49は第1クラッチ板部41の先端近傍で第2接続壁48を経て折り返し、第1クラッチ板部41とヨーク部30の円筒面35との間を第1クラッチ板部41の根元近傍まで軸方向に延びている。
第2クラッチ板部47と第3クラッチ板部49間の第2接続壁48、および第3クラッチ板部49におけるコイル収納溝36の尖った先端に対向する領域49aも、透磁率の低い材質とするのが好ましい。
第1クラッチ板部41と第2、第3クラッチ板部47、49、およびヨーク部30とでいわゆる多板クラッチが構成される。すなわち、コイル38に通電することによりヨーク部30から第3クラッチ板部49、第1クラッチ板部41、第2クラッチ板部47を経由する実効的な磁気回路が形成されるので、通電を制御することにより各多板クラッチ構成部材間を埋めている磁気粘性流体の見掛け上の粘度(降伏応力)を制御することができる。
以下では、見掛け上の粘度を、簡単のため単に「粘度」と言う。
図2は実験に用いたシミュレーションモデルを示す図である。
図2のモデル(a)は、コイル38を矩形の断面外形をもつ鉄材で囲んだヨーク60の1面(対向面61)に対して、間隙dをもって磁性体ブロック70を対向させたものである。磁性体ブロック70も鉄材とした。
磁性体ブロック70は略逆三角形をなして、その上部には一定幅部分を有しており、その広い面積をもつ上面をヨーク60の対向面61に平行に対向させている。ただし、磁性体ブロック70の上面の幅はヨーク60の対向面61の幅よりも小さい。
コイル38をヨーク60の磁性体ブロック70との対向面61に向かって尖った形状としたのは、コイル38で生起される磁束Jがヨーク60と磁性体ブロック70間の間隙G(距離d)のできるだけ広範囲にわたって横切るようにするためである。
コイル38の仕様、ヨーク60および磁性体ブロック70のサイズ等は一般の乗用車用トルクコンバータを想定して等価となるように設定した。磁性体ブロック70は後述のようにクラッチ用部材45に対応する。
ヨーク60における磁性体ブロック70Aとの対向面61の一端側から垂直に延ばした側壁62の下端から、対向面61と平行に他端側へ第1クラッチ板相当部63が延びている。
磁性体ブロック70Aは、モデル(a)の磁性体ブロック70の上部一定幅部分を側方から切り欠いて、第1クラッチ板相当部63を収容可能な空間Kとしたものである。空間Kの上壁を第1クラッチ板相当部63と同等板厚の第3クラッチ板相当部73としている。
第3クラッチ板相当部73は側壁72により磁性体ブロックの残余部(ブロック本体71)に接続している。第1クラッチ板相当部63を収容する空間Kの底面(ブロック本体71の上面)はヨーク60の対向面61と平行である。
ヨーク60の対向面61と第3クラッチ板相当部73間、第3クラッチ板相当部73と第1クラッチ板相当部63間、および第1クラッチ板相当部63とブロック本体71の上面間はそれぞれ同一の一定距離d(モデル(a)参照)を有する間隙G1、G2、G3となっている。
その他はモデル(a)と同じである。
その他はモデル(b)と同じである。
また、コイル(束)38先端の底面65とヨーク60の対向面61との厚みは薄いので、ヨーク60内において当該部分を通る磁束は極めて少なく、磁束Jの大部分は底面65と対向面61に挟まれた平行面領域を除く広い範囲にわたって磁気粘性流体を横切って磁性体ブロック70(71)へ流れる。
一方、モデル(b)については、ヨーク60から第1クラッチ板相当部63につながる側壁62、並びに、第3クラッチ板相当部73をブロック本体71に接続する側壁72に磁束Jの若干が流れるが、モデル(a)と同様に、ほとんどがヨーク60の対向面61から間隙G1を横切って第3クラッチ板相当部73の幅全体に流れる。
間隙G1では磁束Jは最短距離で対向面61から垂直に流れるが、第3クラッチ板相当部73や第1クラッチ板相当部63内では板内を流れる方向へ傾斜するので、第3クラッチ板相当部73および第1クラッチ板相当部63を経るごとに次の間隙G2、G3を横切る磁束Jは順次減少していく。
しかしながら、間隙Gが1つだけのモデル(a)と比較して多数の間隙G1、G2、G3を磁束Jが横切るから、磁化される磁気粘性流体の量が大きい。
さらに、第3クラッチ板相当部73と第1クラッチ板相当部63の中間領域78、68も磁束を通しにくく、それぞれ磁束が板面に沿って流れるのを阻止するから、第3クラッチ板相当部73に入った磁束Jの大部分が間隙G2を横切って第1クラッチ板相当部63に流れ、順次第1クラッチ板相当部63に入った磁束Jも大部分が間隙G3を横切ってブロック本体71に流れる。ブロック本体71に入った磁束は透磁率の小さい中間領域がないのでブロック本体71内を流れて磁気回路を閉じるから、外部へ漏れない。
これは伝達トルクの差として現れ、具体的にモデル(a)において得られた最大伝達トルク71.5Nmに対して、モデル(b)では86.9Nm、モデル(c)では111.4Nmの最大伝達トルクとなった。
これらの伝達トルクは車両の重量・駆動トルクに応じて選択すればいずれもトルクコンバータを十分にロックアップ可能である。
これにより、トルクコンバータ1は上述のクラッチ機構CLを備えることにより、循環流Bに影響を与えることなく、確実なロックアップが可能である。
そして、ヨーク部30および各クラッチ板部41、47、49の間隙内の磁気粘性流体の粘度を変化させている間、磁気回路の磁束は離間した循環路の磁気粘性流体に影響を与えないので、循環流によるトルク増幅機能を低下させることもない。
さらに、第1、第3クラッチ板部41、49はそれぞれの円筒面に沿う磁束の流れを阻止するように透磁率の小さい領域41a、49aが各々設けられているので、各間隙を横切る磁束の密度が高くなり、一層ロックアップ機能を向上させている。
2 主軸
3 インペラ羽根
4 ステータ
5 タービンランナ
6 タービン羽根
7 出力ハブ
8 ワンウエイクラッチ
9 ステータベース
10 コンバータハウジング
12 ドライブプレート
13 円盤部
14 ドラム部
16 周壁部
20 ポンプインペラ
21 インペラ保持部
23a、23b、23c シール
25 スリーブ部材
26 円盤部
27 スリーブ部
28 スリップリング
30 ヨーク部
31 第1面
32 第2面
34 小径部
35 円筒面
36 コイル収納溝
38 コイル
38a リード線
39 接点ブラシ
40 第1接続壁
41 第1クラッチ板部
41a 領域
45 クラッチ用部材
46 円盤部
47 第2クラッチ板部
48 第2接続壁
49 第3クラッチ板部
49a 領域
60 ヨーク
61 対向面
62、62A 側壁
63 第1クラッチ板相当部
65 底面
68、78 中間領域
70、70A 磁性体ブロック
71 ブロック本体
72、72A 側壁
73 第3クラッチ板相当部
B 循環流
CL クラッチ機構
G、G1、G2、G3 間隙
J 磁束
K 空間
Claims (4)
- ポンプインペラとタービンランナの間に作動流体を循環させてトルク伝達を行うトルクコンバータにおいて、
前記作動流体を磁気粘性流体とし、
トルクコンバータハウジング内であって、前記作動流体の循環路の外部に、
前記ポンプインペラ側に連結されコイルを備えたヨーク部材と、前記タービンランナ側に連結された磁性部材とを、所定の間隙をもって対向させて配置すると共に、
前記ヨーク部材、および前記ヨーク部材と一体に回転するヨーク部材側のクラッチ板と、
前記磁性部材、および前記磁性部材と一体に回転する磁性部材側のクラッチ板とを、前記ヨーク部材と前記磁性部材との対向方向に所定間隔で交互に配置して、クラッチ機構を構成し、
前記ヨーク部材が備える前記コイルを、前記磁性部材側が尖った断面となるように設けると共に、前記ヨーク部材側のクラッチ板と前記磁性部材側のクラッチ板における前記コイルの尖った先端に対向する領域を透磁率の低い材質で形成し、
前記ヨーク部材と、前記ヨーク部材側のクラッチ板と、前記磁性部材側のクラッチ板と、前記磁性部材との間に前記コイルの通電による磁気回路を形成するように構成したことを特徴とする磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。 - 前記ヨーク部材と、前記ヨーク部材側のクラッチ板と、前記磁性部材側のクラッチ板と、前記磁性部材と、を互いに重合する中空円筒形状とし、前記ヨーク部材と、前記ヨーク部材側のクラッチ板と、前記磁性部材側のクラッチ板と、前記磁性部材とが、所定の間隙を開けて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。
- 前記ヨーク部材側のクラッチ板は、前記ヨーク部材から前記磁性部材側に延びる接続壁を介して前記ヨーク部材に連結されており、
前記磁性部材側のクラッチ板は、前記磁性部材から前記ヨーク部材側に延びる接続壁を介して前記磁性部材に接続されており、
前記ヨーク部材から前記磁性部材側に延びる接続壁と、前記磁性部材から前記ヨーク部材側に延びる接続壁を、それぞれ透磁率の低い材質で形成したことを特徴とする請求項2に記載の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。 - 前記ヨーク部材と前記磁性部材の対向部が前記循環路より径方向外側に配置され、前記ヨーク部材と前記磁性部材が互いに径方向に対向していることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。
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