JP5763251B2 - 酸化物超電導体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明の実施形態は、酸化物超電導体の製造方法に関する。
金属テープ上へ配向酸化物薄膜を形成する技術は、第2世代超電導体において、最も進んでいる技術である。半導体やハードディスク関連の薄膜成膜技術は、一般的に成膜温度が400℃以下と低い場合がほとんどである。したがって、例えば、スパッターによる成膜において、飛来した粒子には、基材に着地した際に、他の粒子と原子レベルで結合できるほどのエネルギーを与えられていない。そのために、半導体などの技術分野において、配向組織の指標である面内配向度で議論されることはほとんど無い。
一方、800℃程度で成膜するイットリウム系(ランタノイド族を含む)酸化物超電導体の成膜技術において、成膜後の酸化物層は、原子レベルで配向する必要がある。そのため、成膜温度は、600〜800℃と高く、面内配向度を議論する技術分野である。現時点で薄膜技術における最も高度な配向性が要求されるのは、酸化物超電導体の技術分野である。
特許第2996568号 特許第3556586号 米国特許7071149号 米国特許6756139号 米国特許7071149号 米国特許2007−238619号公報 Takeshi Araki and Izumi Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol. 16 (2003) R71 Yasuhiro Iijima, et al., IEEE Trans. on Appl. Supercond. 11 (2001) 3457 Y.-Y. Xie et al. Physica C 426-431 (2005) 849 S.I. Kim, et al., Supercond. Sci. Technol. 19 (2006) 968 D.T. Verebelyi, et al., Appl. Phys. Lett. 76 (2000) 1755
本発明の実施形態は、配向性の向上を図ることができる酸化物超電導体の製造方法を提供する。
実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法は、下地に配向部分を形成し、前記配向部分上及び前記配向部分以外の部分上に、金属トリフルオロ酢酸塩を含む溶液を接触させて、前記下地上に前記金属トリフルオロ酢酸塩に含まれる金属及びフッ化物を含むゲル膜を形成する工程と、前記下地を熱処理し、前記配向部分上及び前記配向部分以外の部分上に、前記ゲル膜から前記配向部分といずれかの結晶軸が配向した配向超電導層を形成する工程と、を備える。
(a)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体を例示する断面図であり、(b)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体において、(a)に示すA−A’線及びB−B’線に示す断面を合成した模式図である。 (a)〜(d)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する工程断面図であり、(e)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法の工程平面図である。 第1の実施形態に係る酸化物超電導体膜の製造方法において、コーティング溶液の形成方法を例示するフローチャート図である。 第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法において、TFA−MOD法を例示するフローチャート図である。 第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。 第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法において、仮焼における温度プロファイルを例示するグラフ図であり、縦軸は温度を示し、横軸は時間を示す。 第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法において、本焼における温度プロファイルを例示するグラフ図であり、縦軸は温度を示し、横軸は時間を示す。 第2の実施形態に係る酸化物超電導体を例示する断面図である。 第2の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する工程断面図である。 (a)は、配向超電導層における薄膜X線回折法により測定した極図形図であり、(b)は、配向超電導層の結晶構造を例示する模式平面図であり、(c)は、配向超電導層の結晶構造を例示する模式断面図である。 基材上及び基材上に形成した金属層上に配向超電導層を形成した場合の模式断面図である。 Pt成膜境界面から5μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。 Pt成膜境界面から10μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。 Pt成膜境界面から20μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。 Pt成膜境界面から40μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1(a)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体を例示する断面図であり、(b)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体において、(a)に示すA−A’線及びB−B’線に示す断面を合成した模式図である。
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る酸化物超電導体1には、基材11、拡散防止層12、複数本の配向起源13(上部酸化物15と格子マッチし大きなアスペクト比を持つ酸化物)、無配向層14、配向超電導層15が設けられている。
基材11は、例えば、ステンレス鋼(SUS)を含むテープである。基板11の上面は、例えば、平滑である。
拡散防止層12は、基材11上に配置されている。拡散防止層12は、例えば、所定の材料の酸化物層である。拡散防止層12は、例えば、ステンレス鋼に含まれるニッケル(Ni)が、基材11上に形成される配向超電導層15に拡散することを防ぐものである。
複数本の配向起源13は、拡散防止層12上に配置されている。配向起源13は、例えば、酸化物を含むセラミックファイバーである。配向起源13の形状は、一方向に延びた形状である。配向起源13における延びた方向の長さは、例えば、10〜200マイクロメートル(μm)である。長いほど好ましいが、0.1マイクロメートルでもシート内で配向させられればそれで良い。配向起源13における延びた方向に直交する断面は、幅が10〜100ナノメートル(nm)であり、厚みが1〜10ナノメートル(nm)である。幅と厚みのアスペクト比は1:5〜1:30である場合が多い。各配向起源13は、拡散防止層12の上面において、延びる方向を配向させて分布されている。各配向起源13の長軸の面内配向度(Δφ)は、10度以内、好ましくは、2度以内である。Δφとは、配向方位の面内分布において統計的な分布を示したものであり、超電導界で一般に用いられる指標である。また極図形測定によりその値が測定可能である。
無配向層14は、拡散防止層12上における配向起源13間を埋め込むように形成されている。無配向層14の上面は、好ましくは、配向起源13の上面と同じ高さに位置している場合もあれば、配向起源13の上面より低く位置している場合もある。無配向層14の上面が配向起源13の上面よりも高い位置であっても配向層の伝播は可能である。
配向超電導層15は、配向起源13上及び無配向層14上に配置されている。配向起源13及び無配向層14は、配向超電導層15の下面に接して設けられている。配向超電導層15は、単結晶の部分を含んでいる。単結晶の部分は、例えば、a軸15a、b軸15b及びc軸15cの結晶軸を含んでいる。単結晶の部分において、結晶軸は配向している。配向超電導層15における単結晶の部分の結晶軸が配向する方向は、Δφが10度以内、さらに好ましくは、2度以内である。
a軸15a及びb軸15bは、例えば、配向起源13の上面に平行な面内における直交する2つの方向である場合と、配向起源がCeO2のように超電導体の格子長の約2の平行根倍の場合は、平面内45度傾いた方向となる。ここでは直行する場合を説明する。a軸15aは、例えば、配向起源13の長軸方向である。したがって、配向起源13は、配向超電導層15のa軸に対して揺れ角10度以内で配向している。b軸15bは、配向起源の長軸13が延びる方向に直交する方向である。ただし、超電導体はa軸とb軸長がほぼ同じため、その入れ代わりが頻繁に起こっている。c軸15cは、配向起源13の上面に直交する方向である。配向超電導層15における90%以上の部分は、c軸に配向している結晶を含んでいる。配向起源13は、配向起源13上に形成する配向超電導層15を配向させる配向起源として機能する。一方、無配向層14は極性の小さな金属であるか、または、配向超電導層15と格子整合性を有さない酸化物層が主である。格子整合性が無い酸化物の場合は配向していても良い。上部の配向層へ影響が及ばないことがわかっているためである。格子整合性を有さないとは、格子定数が5%以内であるか、45度面内回転時の格子定数が3%以内であることをさすことが多い。
配向超電導層15は、例えば、DyBaCu7−X超電導材料を含んでいる。無配向層14も、配向超電導層15と同じ材料、例えば、DyBaCu7−X超電導材料を含んでいる場合がある。しかし、無配向層14の単結晶の部分は、配向超電導層15の単結晶の部分より少ない。また、無配向層14における配向している結晶の割合は、配向超電導層15の割合より小さい。したがって、酸化物である無配向層14のΔφは、配向超電導層15のΔφより大きい。なお、Ptのような金属は電気的に等方的なため、測定でのΔφが小さい値となるが、配向超電導層15は、その直上においては配向層を作らない。極性が、金属の場合は、小さいため、上部に極性が大きな酸化物がΔφを引き継ぐ構造をとらないためである。
配向超電導層15は、2.0×1016〜5.0×1019原子/ccのフッ素及び1.0×1018〜5.0×1020原子/ccの炭素を含んでいる。これはTFA−MOD法に由来し、化学平衡の液相本焼反応により必然的に残る残渣である。
配向超電導層15におけるΔφ10度以内の部分の直下域の面積SSと、配向超電導層15の下面における10度以内の揺れ角に配向している配向起源13と接する部分の面積S13を合計した面積SOとの関係は、面積SO<0.3×面積SS、すなわち、面積SOは、面積SSの0.3倍未満となっている。また、好ましくは、面積SOは、面積SSの0.1以下である。本明細書において、例えば、面積SS及び面積SOを、領域S及び領域Sと表すこともある。配向超電導層15における配向起源13と接する部分の直上域以外の部分の短辺は、10ナノメートル程度でもよく1マイクロメートル以上でも良い。配向起源として機能するにはユニットセルが数個以上あれば十分であるため、無配向層14と接する部分の直上域において、配向超電導層15における無配向層14の上面に平行な方向の幅は、30ナノメートル(nm)以上、好ましくは、5マイクロメートル(μm)以上である。配向した酸化物を含む酸化物超電導体1は、配向酸化物の薄膜でもある。
次に、本実施形態に係る酸化物超電導体1の製造方法について説明する。
図2(a)〜(d)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する工程断面図であり、(e)は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法の工程平面図である。図2(e)は、図2(d)の平面図である。
先ず、図2(a)に示すように、先ず、基材11を用意する。基材11は、例えば、ステンレス鋼(SUS)を含むテープである。
次に、図2(b)に示すように、基材11上に、拡散防止層12を形成する。拡散防止層12は、例えば、所定の酸化膜層である。
次に、図2(c)に示すように、拡散防止層12上に、配向起源シート16を配置する。配向起源シート16は、例えば、有機成分を含むバインダー17と、複数の配向起源13とを含んでいる。各配向起源13は、配向してバインダー17内に分布している。配向起源シート16は、例えば、配向起源13を分散材で溶液中に分散させ、バインダー17内部に含めて細線化する。これにより、各配向起源13の方位分布を、Δφが10度以内、さらに好ましくは、2度以内とできる。
次に、図2(d)及び(e)に示すように、配向起源シート16を高温で加熱し、バインダー17を燃焼させて除去する。これにより、配向起源13は、拡散防止層12上に2度より小さなΔφで配向したまま残留する。このようにして、配向起源13を、拡散防止層12上に配置する。基材11、拡散防止層12及び配向起源13をあわせたものを下地という。下地は、配向した部分、すなわち、配向起源13と、配向していない部分を含んでいる。
次に、以下に示す金属トリフルオロ酢酸塩を用いるTFA−MOD法(Trifluoroacetates Metal Organic Deposition:有機酸塩熱分解法)により、拡散防止層12上及び小さなΔφで13上に配向超電導層を形成する。先ず、TFA−MOD法に用いるコーティング溶液を準備する。
図3は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体膜の製造方法において、コーティング溶液の形成方法を例示するフローチャート図である。
図3のステップS11に示すように、金属酢酸塩、例えば、Dy(OCOCH、Ba(OCOCH及びCu(OCOCHの各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のトリフルオロ酢酸(CFCOOH)と混合および攪拌を行って反応させる。これにより、金属イオンモル比1:2:3で混合された混合溶液が形成される。
次に、図3のステップS12に示すように、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中において減圧下で反応および精製を12時間行なうことによって、半透明青色のゲル又はゾルを形成する。
次に、図3のステップS13に示すように、ゲル又はゾルの一部をメタノール中に溶解し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液を形成する。これは高純度化を行っていない、不純物が混入しているコーティング溶液である。
次に、図3のステップS14に示すように、得られたゲル又はゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行う。これにより、半透明青色のゲル又はゾルが形成される。
次に、図3のステップS15に示すように、得られたゲル又はゾルをメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行う。これにより、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液が形成される。
図4は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法において、TFA−MOD法を例示するフローチャート図である。
図5は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。
図6は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法において、仮焼における温度プロファイルを例示するグラフ図であり、縦軸は温度を示し、横軸は時間を示す。
図7は、第1の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法において、本焼における温度プロファイルを例示するグラフ図であり、縦軸は温度を示し、横軸は時間を示す。
先ず、図4のステップS21に示すように、コーティング溶液を準備する。コーティング溶液は、例えば、前述の図3に示す方法により準備する。
次に、図4のステップS22及び図5に示すように、コーティング溶液23内に浸漬させて、コーティング溶液23を接触させた基材11を引き上げることにより、基材11上にゲル膜24を形成する。
次に、図4のステップS23に示すように、第1次熱処理、すなわち、仮焼を行う。
仮焼は、例えば、図6に示すように、先ず、乾燥酸素の雰囲気中で、0分からta1分、例えば、7分で、0℃から100℃に温度を上昇させる。その後、加湿酸素の雰囲気に代えて、ta1〜ta2まで、例えば、35分で200℃に温度を上昇させる。その後、ta2からta3まで、例えば、250分〜1000分で250℃に温度を上昇させる。その後、ta3からta4まで、例えば、100分で300℃に温度を上昇させる。その後、ta4からta5まで、例えば、20分で400℃に温度を上昇させる。その後、乾燥酸素の雰囲気に代えて炉冷する。
これにより、図4のステップS24に示すように、基材11上に仮焼膜が形成される。
次に、図4のステップS25に示すように、第2次熱処理、すなわち、本焼を行う。
本焼は、例えば、図7に示すように、先ず、0分からtb1分まで、乾燥酸素の雰囲気にした後、加湿したアルゴンArと酸素の混合気体の雰囲気に代えて、tb1〜tb2までに750℃まで温度を上昇させる。その後、tb2〜tb3までに750℃〜825℃のいずれかの温度まで上昇させる。その後、tb3からtb4まで750℃〜825℃のいずれかの温度に保つ。その後、乾燥させたアルゴンと酸素の混合気体の雰囲気に代えて、tb4からtb5まで、温度を保つ。その後、tb5からtb6までに、375℃〜525℃のいずれかの温度まで冷却する。その後、乾燥酸素雰囲気に代えて、tb6からtb7までに、325℃〜450℃のいずれかの温度まで冷却する。その後、tb7からtb8まで、375℃〜525℃で温度を保つ。その後、炉冷する。
これにより、図4のステップS26及び図1に示すように、酸化物超電導体1が製造される。このような製造方法の場合には、配向超電導層15には、2.0×1016〜5.0×1019原子/ccのフッ素残渣及び1.0×1018〜5.0×1020原子/ccの残留炭素が含まれている。
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導体1は、配向性が高い配向超電導層を含む。また、配向超電導層を、金属テープ上に形成することができる。さらに、配向超電導層の下面における配向起源13と接する部分の面積を、配向超電導層の直下域の面積の0.3倍未満、好ましくは0.1以下とすることができる。これにより、格子整合性のない固体、例えば金属の直上に配向超電導層を形成することができる。このような構造とすることにより、超電導層がクエンチした際に下地金属にクエンチ電流を流すことができる。
本実施形態の酸化物超電導体1の製造方法においては、常圧の雰囲気中で酸化物超電導体1を製造することができる。これにより、生産コストを低減することができる。
なお、拡散防止層12を、所定の材料の酸化物層としたがこれに限られない。例えば、白金(Pt)を含む金属層又はフッ化カルシウム(CaF)を含む弗化物でもよい。
また、配向起源13を、配向起源シート16を用いて拡散防止層12上に配向させたが、これに限らない。例えば、拡散防止層12上に直接配向起源13を配置させてもよい。
また、配向超電導層15は、DyBaCu7−Xを含むとしたが、これに限らない。
例えば、LnBaCu7−Xを含むものとしてもよい。ここで、Lnはイットリウム(Y)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)及びルテチウム(Lu)を除くランタノイド族である。上記の材料を含む配向超電導層15を製造する場合には、例えば、金属酢酸塩として、Y(OCOCH、Gd(OCOCH、Tm(OCOCH及びEr(OCOCHからなる群より選択された少なくとも1つの材料を用いる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
図8は、第2の実施形態に係る酸化物超電導体を例示する断面図である。
図8に示すように、本実施形態に係る酸化物超電導体には、基材21、金属層22、配向超電導層15が設けられている。
基材21は、例えば、ランタナムアルミネート(LaAlO)の単結晶を含んだ基板である。基材21の上面は、例えば、(100)面を含んでいる。基材21の上面は、配向している部分を含んでいる。基材21の上面における配向している部分の結晶軸は、例えば、a軸21a及びb軸21bを含んでいる。a軸21a及びb軸21bは、例えば、基材21の上面に平行な面内における直交する2つの方向である。c軸21cは、基材21の上面に直交する方向である。配向度はΔφが10度以内、好ましくは、2度以内である。単結晶基板の場合はΔφが0.5度以下である。
金属層22は、基材21上に選択的に配置されている。したがって、基材21の上面は、金属層22に覆われている部分と、金属層22に覆われていない部分を含んでいる。金属層22は、例えば、貴金属、例えば、白金(Pt)を含んでいる。
配向超電導層15は、基材21上及び金属層22上に配置されている。基材21及び金属層22は、配向超電導層15の下面に接して設けられている。配向超電導層15は、単結晶の部分を含んでいる。単結晶の部分は、a軸15a、b軸15b及びc軸15cの結晶軸を含んでいる。単結晶の部分において、結晶軸は配向している。配向超電導層15における単結晶の部分の結晶軸が配向する方向は、Δφが10度以内、好ましくは、2度以内に収まっている。
a軸15a及びb軸15bは、例えば、基材21の上面に平行な面内における直交する2つの方向とされている。a軸15aは、例えば、基材21のa軸21aと配向し、b軸15bは、基材21のb軸21bと配向している。a軸とb軸長はほぼ同じであるため場所によっては入れ替わっている構造をとっている。c軸15cは、基材21のc軸21c方向である。配向超電導層15における90%以上の部分は、配向している結晶を含んでいる。基材21の結晶軸は、基材21上に形成する配向超電導層15を配向させる配向起源として機能する。一方、金属層22における配向起源として機能する役割は、基材21の結晶軸に比べてほぼゼロである。
配向超電導層15は、例えば、DyBaCu7−X超電導材料を含んでいる。
配向超電導層15は、2.0×1016〜5.0×1019原子/ccのフッ素残渣及び1.0×1018〜5.0×1020原子/ccの残留炭素を含んでいる。
配向超電導層15における10度以内の揺れ角に配向している部分の直下域の面積SSと、配向超電導層15の下面における10度以内の揺れ角に配向している基材21と接する面積SOとの関係は、面積SO<0.3×面積SS、すなわち、面積SOは、面積SSの0.3倍未満となっている。また、好ましくは、面積SOは、面積SSの0.1以下である。配向超電導層15における基材21と接する部分の直上域以外の部分の厚さは、1マイクロメートル(μm)以上である。金属層22上において、配向超電導層15における金属層22の上面に平行な方向の幅は、1マイクロメートル(μm)以上、好ましくは、5マイクロメートル(μm)以上である。
次に、本実施形態に係る酸化物超電導体2の製造方法について説明する。
図9は、第2の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する工程断面図である。
先ず、図9に示すように、先ず、基材21を用意する。基材21は、例えば、ランタナムアルミネート(LaAlO)の単結晶を含んだ基板である。基材21の上面は、例えば、(100)面を含んでいる。基材21の上面は、配向している部分を含んでいる。基材21の上面における配向している部分のΔφは、10度以内、好ましくは、2度以内である。
次に、例えば、スパッター法により、金属、例えば、白金(Pt)を基材21上に堆積させ、基材21上に金属層22を形成する。例えば、フォトリソグラフィー法により、金属層22をパターニングして、基材21上を部分的に金属層22で覆うようにする。基材21及び金属層22を、下地という。下地は、配向した基材21の部分と、金属層22を含んでいる。
次に、図3で示したフローを実施してコーティング溶液を形成する。
次に、基材21上にコーティング溶液を塗布する。そして、スピンコート法により基材21上に、ゲル膜を形成する。スピンコート法において、加速時間を0.4秒、回転速度を4000r.p.m、保持時間を150秒とする。
次に、第1次熱処理、すなわち、仮焼を行う。
仮焼は、例えば、図6で示す熱処理工程により行う。ここで、図6におけるta2からta3までを11時間43分とし、4.2%の加湿純酸素雰囲気において熱処理を行う。
これにより、基材11上に仮焼膜が形成される。
次に、第2次熱処理、すなわち、本焼を行う。
本焼は、例えば、図7に示す熱処理工程により行う。ここで、図7におけるtb3からtb4までを4.2%加湿1000ppm酸素混合アルゴンの雰囲気中において800℃の温度に保ち、tb5からtb6までに、525℃まで温度を下げる。その後、乾燥酸素雰囲気に代え、tb6からtb7までに、450℃まで温度を下げる。その後、tb7からtb8まで、450℃で温度を保つ。
このようにして、図8に示すように、酸化物超電導体2が製造される。このような製造方法の場合には、配向超電導層15には、2.0×1016〜5.0×1019原子/ccのフッ素残渣及び1.0×1018〜5.0×1020原子/ccの残留炭素が含まれている。
次に、第2の実施形態の効果について説明する。
本実施形態においては、基材21として、単結晶を含むものを用いているので、酸化物超電導体の配向性を向上することができる。
金属層上に配向性の高い酸化物または結晶を形成することが一般的には困難であるが、本実施形態によれば、基材21の上面を配向起源として、金属層上にまで酸化物超電導体を拡大することができる。これにより、金属層上に配向性の高い結晶を形成することできる。本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
次に、実施例について説明する。
(実施例1)
金属酢酸塩、例えば、Dy(OCOCH、Ba(OCOCH及びCu(OCOCHの各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のトリフルオロ酢酸(CFCOOH)と混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得る。このゲルまたはゾルの一部をメタノール中に溶解し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Xを得た。これは高純度化を行っていないコーティング溶液である。
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得られる。
得られたゲルまたはゾルはメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
10mm角のLaAlO(100)単結晶基板の上部に完全にPtをスパッターで成膜した基板を基板1S1とし、半分だけPtでカバーした基板を基板1S2として準備した。コーティング溶液Aを用い、それぞれの基板にスピンコート法により、加速時間を0.4秒とし、回転速度を4000r.p.m.とし、保持時間を150秒とした条件で成膜を行い、図6に示す条件下200℃から250℃の間の熱処理時間を11時間43分として、4.2%加湿純酸素雰囲気下で熱処理を行い、それぞれ基板1S1及び基板1S2から仮焼膜1Fm1c、仮焼膜1Fm2cを得た。同様にして高純度化していない溶液Xからは1S2基板上に成膜を行い、仮焼膜1Fm3cを得た。
続いて図7に示す条件下の4.2%加湿1000ppm酸素混合アルゴン雰囲気下800℃で焼成を行い、525℃以下で乾燥純酸素を導入し、450℃で保持することにより純酸素アニールを行いDyBaCu7−xを得た。試料名はそれぞれ試料1Fm1f、試料1Fm2f及び試料1Fm3fである。
試料1Fm1f、試料1Fm2f及び試料1Fm3fをそれぞれ薄膜X線回折法により相同定を行った結果、良好なDyBaCu7−x(00n)ピークが観測された。試料1Fm2fとの比較で、試料1Fm1fのピークはかなり弱いものであったが、それでも(103)面を用いての極図形に測定に十分なピークであったため、試料1Fm1fの極図形測定を行った。なお、試料1Fm2fは極図形測定時にXRDのスポットが直径6mm程度で当たることがわかっており、直径10mm角でしかない試料1Fm2fのPt成膜面を測定しているのかいないのか、非Pt成膜面上のDyBaCu7−xを測定しているのかが不明である。
図10(a)は、配向超電導層における薄膜X線回折法により測定した極図形図であり、(b)は、配向超電導層の結晶構造を例示する模式平面図であり、(c)は、配向超電導層の結晶構造を例示する模式断面図である。
図10(a)に示すように、頂点から44〜46度の位置にピークが現れるが、そのピーク強度はほぼドーナツ状となっており垂直方向にc軸が向くものの、面内方位がばらばらの1軸配向組織であることがわかる。
DyBaCu7−xに限らず、LnBaCu7−x超電導体(LnはYまたはランタノイド族元素)は、c軸方向の結晶成長が遅く、a軸及びb軸方向の結晶成長が早いとされている。その比率は1:100から1:1000程度といわれている。図10(a)に示すように、配向超電導層において、c軸方位だけが揃っているが、面内の配向方向がばらばらである。
図10(b)及び(c)に示すように、上方から観察した場合に、基板上にc軸配向組織が揃ってはいるが面内方位がばらばらという状態である。
この結果は、基板から配向などの影響を受けない場合に、高純度溶液を用いた場合のTFA−MOD法がc軸配向組織をつくりやすいということを示唆している。TFA−MOD法は液相中で粒子が成長するため、成長速度の速い面内方向に粒子が結合しやすく、物理的にc軸が基板垂直方向を向きやすい。c軸配向となることを発見したおそらく世界初と思われる実験事実を元に、もう1軸の配向力を与えることにより配向層が完成することを図10(a)は示している。なお、高純度溶液を用いない場合に、この現象は確認されていない。その原因としては溶液中の不純物が膜表面に残留し、横方向の結晶成長を阻害することが想定される。
なお、PtとLnBaCu7−x超電導体は、格子定数が近く、格子整合している。例えば、PtはJCPDSカード00−004−0802では軸長が3.92Åの直方体である。DyBaCu7−x超電導体はJCPDSカード00−040−0211によればa軸長とb軸長がそれぞれ3.89Åと3.82Åであり、Ptと1%以下という小さい格子整合性を有することになる。このPt層はLaAlO(100)基板上に成膜されている。JCPDSカード01−085−0848によればLaAlOの3.79Åの軸長をもち、Ptとは3%以下の良好な格子整合性を持つことになる。それにもかかわらず図10(a)に示すように、配向しないのは極性が関係しているためと思われる。
LaAlOやDyBaCu7−xは金属酸化物であるため、金属がプラスに酸素がマイナスに帯電し大きな極性を持つ。これは電気陰性度の違いによるものであり、大きな極性を持つ物質同士は一定エネルギーを持つ約600℃以上の成膜に置いて、格子整合性を引き継いで配向する傾向が強い。一方、Ptは金属であるために表面に位置する全てのPt原子には大きな電荷の片よりは存在しない。すなわち極性がほとんど無い。そのためにLaAlO上に直接DyBaCu7−xを成膜した場合にきれいな配向組織が形成されるのに対し、Pt層を介すると基本的に配向が引き継がれなくなったものと思われる。
図11は、基材上及び基材上に形成した金属層上に配向超電導層を形成した場合の模式断面図である。
図11に示すように、試料1Fm2fは、Ptを半分だけ成膜し、その上部に超電導成膜を行ったものである。この試料1Fm2fは、配向層の伝播距離測定を目的としたものであり、Pt成膜境界層からどの程度の配向層伝播距離があるのかを調べたものである。XRDでは評価ができないため、高分解能TEMと回折像により評価を行った。それぞれ境界面からPt側に移動した距離が5μm、10μm、20μm、40μmの位置で断面観察を行った。多数の観察を行ったのは、見えてない(例えば奥側)場所からの配向層伝播の影響があれば、それが現れると考えたためである。上記4つの位置において一定の傾向があれば配向層伝播が確認できると考えられるためである。
図12は、Pt成膜境界面から5μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。
Pt層上成膜で格子マッチしない組織が形成されることは、図10(a)の結果から証明されている。すなわち、DyBaCu7−x超電導層が形成されても図の上向きにc軸が形成されることはわかるものの、その方向は面内方向ではランダムとなるはずである。 図12に示すように、LaAlO基板を基準として観察すれば、DyBaCu7−x超電導層とLaAlO単結晶基板の方位が一致している。すなわち、この結果は、LaAlO部分を配向起源として5μmの位置では配向層がほぼ完全に伝播することを示す結果である。
また、図12に示すように、金属層と酸化物配向層の距離は5nm以下であり、磁場により形成される配向層より金属に密着した配向層が実現できている。更にはこの図からわかるように、5μmまでの位置でははっきりした原子像が観察できている。これは、Δφ<0.2度を示すものであり、その状態は配向起源の両側に等しく広がっているものと考えられる。
図13は、Pt成膜境界面から10μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。
図13に示すように、この断面TEM像では、はっきりした格子像は見えておらず、右上に示される回折像からは弱いながらも配向が伝播している結果が示されている。5μmの位置で強い配向層伝播傾向が見受けられたが、10μmの位置ではc軸配向が回折像で確認できる程度に弱まっていることが判明した。
図14は、Pt成膜境界面から20μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。
図14に示すように、この断面TEM像では、原子の並びが観測されないだけでなく、回折像も更に乱れて配向が伝播してないことがわかる。
図15は、Pt成膜境界面から40μmの位置における配向超電導層の高分解能断面TEM写真図である。
図15に示すように、配向層はほとんど伝播しておらず、Pt上にほぼc軸1軸配向に近い組織が形成していることだけが観測されている。
以上の結果から、本条件での配向層伝播は5μmまではΔφ<0.2度の原子レベルで配向し、10μmでは2軸配向性が弱いながらも影響が確認されており、20μmでは更に弱くなり、40μmではほとんど影響が及ばない状態となっていた。この配向層伝播距離は熱処理温度の低下や加湿量の低減で増やすことが出来ると考えられており、直接の高分解能TEM観察を行ってはいないもの、それを間接的に示すXRD測定データの実験結果がそれをサポートしている。なお、それぞれのTEM観察結果から膜内部にCuOやYなどの異相が全く見られないが、これは高純度溶液による成膜に起因している。後述する試料1Fm3fの結果が示すように配向層伝播には高純度溶液が必要であると考えられる。
本条件を用いたとしても線状の配向起源を間隔10μm以下に設置すれば配向層が伝播する結果を示している。過去の実績からTFA−MOD法は下地金属やCeO中間層のΔφが8度であっても良好な超電導層を形成している。それは低傾角粒界で多少は特性が低減されるものの、超電導層同士が低傾角粒界を介して超電導電流を流すためである。ただし、この低傾角粒界は小さいほど超電導電流のロスが大きくなる。バイクリスタルを用いた実験から、低傾角粒界は4度以下であれば超電導電流の減衰が少ないものと考えられている。
IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法やRABiTS(Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)法で原理的に限界がある配向起源のΔφであるが、本実施例による配向層形成技術ではΔφを決める因子が配向起源を基板上に並べるときのΔφに相当する。これは配向源であるセラミックナノファイバーを分散材で溶液中に分散させ、加熱により燃焼する有機物内部に含めて細線化してファイバーのΔφを2度以下(ほとんどゼロ)とし、それをシート状にして基板に貼り付ければ配向起源のファイバーは小さなΔφで配列することになる。焼成して酸化物である配向起源のみが残るようにすれば高配向の配向起源が簡便な方法で実現する。第1及び第2の実施形態に係る酸化物超電導体及びその製造方法は、IBAD法やRABiTS法では原理的に実現し得ない小さな配向度を持つ配向組織を実現するための技術の一つである。
試料1Fm3fの高分解能TEM観察を同様に行ったが、この試料では、Pt界面から5μmの位置でも配向層が観察されなかった。Pt界面と観察位置までは、かなりの距離があるのでどのような現象が起きているかを高倍観察の高分解能TEM観察で知ることは難しいが、XRD測定の結果からc軸配向組織は形成しているものと考えられ、配向層の伝播のみが配向起源からうまく行かなかったものと思われる。おそらくは溶液中の不純物に由来する超電導層でない異相(CuOやYなど)を形成し、配向層が伝播しなかったものと思われる。配向層伝播現象はTFA−MOD法の高純度溶液と特性の熱処理条件が必要であると考えられる。
(実施例2)
金属酢酸塩、例えば、Y(OCOCH、Ba(OCOCH及びCu(OCOCHの各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得る。
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノールを加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得られる。
得られたゲルまたはゾルはメタノール中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Bを得た。超電導体作成までのフローチャートは図4に示すとおりである。
また、上記Y(OCOCHに代わり、Gd(OCOCH、Tm(OCOCH及びEr(OCOCHからを用い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液C、溶液D、溶液Eを得た。
10mm角のLaAlO(100)単結晶基板の上部に完全にPtでカバーした基板2S1と、半分だけ残してPtでカバーした基板2S2をそれぞれ4枚ずつ準備した。コーティング溶液B、C、D、Eを用い、それぞれの基板にスピンコート法により、前述の実施例1と同様の条件で成膜を行い、図6に示す前述の実施例1と同様の条件で熱処理を行い、基板2S1上に仮焼膜2Fm1Bc、仮焼膜2Fm1Cc、仮焼膜2Fm1Dc、仮焼膜2Fm1Ecを、基板2S2上に仮焼膜2Fm2Bc、仮焼膜2Fm2Cc、仮焼膜2Fm2Dc、仮焼膜2Fm2Ecを得た。
続いて、図7に示す前述の実施例1と同様の条件で熱処理を行い、LnBaCu7−xを得た。試料名は、それぞれ基板2S1上は試料2Fm1Bf、試料2Fm1Cf、試料2Fm1Df、試料2Fm1Ef、基板2S2上は試料2Fm2Bf、試料2Fm2Cf、試料2Fm2Df、試料2Fm2Efである。
全ての膜を薄膜X線回折法により相同定を行った結果、良好なLnBaCu7−x(00n)ピークが観測された。試料2Fm1Bf、試料2Fm1Cf、試料2Fm1Df、試料2Fm1EfのLnBaCu7−x(00n)ピークは相対比較で弱いものであったが、それでも(103)面を用いての極図形に測定に十分なピークであり、極図形測定により実施例1と同様に1軸配向(c軸のみ配向)の組織が得られることがわかった。
試料2Fm2Bf、試料2Fm2Cf、試料2Fm2Df、試料2Fm2EfはPtを半分だけ成膜し、その上部に超電導成膜を行ったものである。これらの試料は配向層の伝播距離測定を目的としたものであり、実施例1と同様に高分解能TEMと回折像により評価を行った。それぞれ境界面からPt側に移動した距離が5μm、10μm位置で断面観察を行った。観察の結果、距離が5μmの位置では良好な2軸配向組織が観測された。Lnの元素種を替えても特段の際はこの実験では見られなかった。
(実施例3)
10mm角のLaAlO(100)単結晶基板の上部に幅が5μm、長さが100μmのLaAlO突起部となるように周辺部を削り取り、その部分を含めてPt成膜を行った。更にその部分を研磨および洗浄し、Pt部分の間に5μm幅のLaAlO単結晶基板がはさまれた構造の基板3S1を準備した。また上記の基板準備において、幅が1μmとなる基板3S2も同時に準備した。
コーティング溶液Aを用い、それぞれの基板に前述の実施例1と同様の条件で成膜を行い、図6に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行い、それぞれ仮焼膜3Fm1c、仮焼膜3Fm2cを得た。
続いて、図7に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行い、DyBaCu7−xを得た。試料名はそれぞれ試料3Fm1f、試料3Fm2fである。
全ての膜を薄膜X線回折法により相同定を行った結果、良好なDyBaCu7−x(00n)ピークが観測された。このDyBaCu7−x(00n)ピークには1軸配向部分と2軸配向部分が混在すると見られるが、XRD測定でのX線照射領域は直径が6mm程度あるために分離は不可能である。それぞれの断面TEM観察を行った。
試料3Fm1fでは、LaAlO基板部分の5μm幅の直上はもちろんのこと、その両側5μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち、配向の起源となるLaAlO部分は幅5μmであるが、少なくとも、超電導層部分は幅15μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。配向起源層において格子マッチする方向に対し揺れ角10度以内となる領域を領域Soとすれば5μm×長さ100μmであり、超電導層における揺れ角10度以内のc軸配向領域を領域Ssとすれば15μm×長さ100μmとなる。従来は、配向源である領域Ssが領域Soとほぼ同一の面積であり、知りうる限り、領域So/領域Ss<0.95を満たす構造は報告は無い。今回得られた構造は領域So/領域Ss=0.33であり、2軸配向超電導層と金属であるPt層が接触している構造をはじめて実現した構造である。
試料3Fm2fでは、LaAlO基板部分の1μm幅の直上はもちろんのこと、その両側5μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち、配向の起源となるLaAlO部分は幅1μmであるが、少なくとも超電導層部分は幅11μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。領域Soは、1μm×長さ100μmであり、同様に領域Ssは、11μm×長さ100μmである。領域So/領域Ss=0.091と小さい構造であり、2軸配向超電導層と金属であるPt層が接触している構造となっている。
従来は領域So/領域Ss<0.95という構造が実現不可能であったが、本実施例において、領域So/領域Ssが0.30を下回る構造や0.10を下回る構造が実現した。かつ配向層が金属直上に形成される構造もはじめて実現した。
(実施例4)
10mm角のLaAlO(100)単結晶基板の全面にPtを成膜した。別のLaAlO(100)単結晶基板から幅1μm×厚み100nm×長さ100μmのストリップを切り出し、1本だけPt上に設置した基板を基板4S1、3本のストリップを配向方向に対して2度以内となるように設置した基板を基板4S2とする。基板4S2のPt上にはほぼ平行(ずれ角2度以内)に3本のストリップが間隔10μmで設置した。
コーティング溶液Aを用い、それぞれの基板に、前述の実施例1と同様の条件のスピンコート法により、成膜を行い、図6に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行い、基板4S1と基板4S2上に仮焼膜が成膜されたものを仮焼膜4Fm1c、仮焼膜4Fm2cとする。
続いて、図7に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行いDyBaCu7−xを得た。試料名はそれぞれ試料4Fm1f、試料4Fm2fである。
全ての膜を薄膜X線回折法により相同定を行った結果、良好なDyBaCu7−x(00n)ピークが観測された。このDyBaCu7−x(00n)ピークには1軸配向部分と2軸配向部分が混在すると見られるが、XRD測定でのX線照射領域は直径が6mm程度あるために分離は不可能である。内部構造を調べるために断面TEM観察を行った。
試料4Fm1fでは、LaAlO基板部分の1μm幅の直上はもちろんのこと、その両側5μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち、配向の起源となるLaAlO部分は幅1μmであるが、少なくとも、超電導層部分は幅11μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。配向起源層において格子マッチする方向に対し揺れ角10度以内となる領域を領域Soとすれば1μm×長さ100μmであり、超電導層における揺れ角10度以内のc軸配向領域を領域Ssとすれば11μm×長さ100μmとなる。今回得られた構造は領域So/領域Ss=0.091となる。
試料4Fm2fでは、LaAlO基板部分の合計3μm幅の直上はもちろんのこと、その両側5μmを含めた連続33μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち、配向の起源となるLaAlO部分は幅3μmであるが、少なくとも超電導層部分は幅33μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。配向起源層において格子マッチする方向に対し揺れ角10度以内となる領域を領域Soとすれば3μm×長さ100μmであり、超電導層における揺れ角10度以内のc軸配向領域を領域Ssとすれば33μm×長さ100μmとなる。今回得られた構造は領域So/領域Ss=0.091となる。
試料4Fm2fで実現された構造は、金属上ながら複数の配向起源から形成される超電導層のΔφが2度にも満たない構造である。微小領域であるために、この部分のΔφ測定を極図形測定を用いて観測することは出来ないが、配向起源であるLaAlOストリップから配向層が伝播しており、小さな傾角粒界で良好な超電導特性が得られるものと思われる。従来のIBAD法やRABiTS法では原理的にこのような小さなΔφの構造を金属テープ上に形成することは出来ない。本実施例により実現できた金属上に得られる初めてのΔφが小さな酸化物層の構造である。
(実施例5)
10mm角のLaAlO(100)単結晶基板の全面にPtを成膜した。別のLaAlO(100)単結晶基板から幅1μm×厚み100nm×長さ100μmのストリップを切り出し、1本だけPt上に設置した基板を5S1、3本のストリップを配向方向に対して2度以内となるように設置した基板を5S2とする。5S2のPt上にはほぼ平行に3本のストリップが間隔10μmで設置した。
コーティング溶液Bを用い、それぞれの基板に前述の実施例1と同様のスピンコート法により、成膜を行い、図6に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行い、基板5S1と5S2上に仮焼膜が成膜されたものを仮焼膜5Fm1c、仮焼膜5Fm2cとする。
続いて、図7に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行いYBaCu7−xを得た。試料名はそれぞれ試料5Fm1f、試料5Fm2fである。
全ての膜を薄膜X線回折法により相同定を行った結果、良好なYBaCu7−x(00n)ピークが観測された。このYBaCu7−x(00n)ピークには1軸配向部分と2軸配向部分が混在すると見られるが、XRD測定でのX線照射領域は直径が6mm程度あるために分離は不可能である。内部構造を調べるために断面TEM観察を行った。
試料5Fm1fでは、LaAlO基板部分の1μm幅の直上はもちろんのこと、その両側5μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち配向の起源となるLaAlO部分は幅1μmであるが、少なくとも超電導層部分は幅11μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。配向起源層において格子マッチする方向に対し揺れ角10度以内となる領域を領域Soとすれば1μm×長さ100μmであり、超電導層における揺れ角10度以内のc軸配向領域を領域Ssとすれば11μm×長さ100μmとなる。今回得られた構造は領域So/領域Ss=0.091となる。
試料5Fm2fでは、LaAlO基板部分の合計3μm幅の直上はもちろんのこと、その両側5μmを含めた連続33μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち配向の起源となるLaAlO部分は幅3μmであるが、少なくとも超電導層部分は幅33μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。配向起源層において格子マッチする方向に対し揺れ角10度以内となる領域を領域Soとすれば3μm×長さ100μmであり、超電導層における揺れ角10度以内のc軸配向領域を領域Ssとすれば33μm×長さ100μmとなる。今回得られた構造はSo/Ss=0.091となる。
試料5Fm2fで実現された構造は、金属上ながら複数の配向起源から形成される超電導層のΔφが2度にも満たない構造である。微小領域であるためにこの部分のΔφ測定を極図形測定を用いて観測することは出来ないが、配向起源であるLaAlOストリップから配向層が伝播しており、小さな傾角粒界で良好な超電導特性が得られるものと思われる。従来のIBAD法やRABiTS法では原理的にこのような小さなΔφの構造を金属テープ上に形成することはできない。配向起源を高度に配列して初めて得られる構造である。
(実施例6)
10mm角のLaAlO(100)単結晶基板の全面にPtを成膜した。別の基板に150nm厚で成膜したCeO(100)膜から幅1μm×厚み100nm×長さ100μmのストリップを切り出し、3本のストリップを配向方向に対して2度以内となるように設置した基板を基板6S1とする。基板6S1のPt上にはほぼ平行に3本のストリップが間隔6μmで設置されていることになる。
コーティング溶液Aを用い、それぞれの基板に前述の実施例1と同様のスピンコート法により、成膜を行い、図6に示す実施例1と同様の熱処理を行い、基板6S1上に仮焼膜が成膜されたものを仮焼膜6Fm1cとする。
続いて、図7に示す前述の実施例1と同様の熱処理を行いDyBaCu7−xを得た。試料名は試料6Fm1fである。
全ての膜を薄膜X線回折法により相同定を行った結果、良好なDyBaCu7−x(00n)ピークが観測された。このDyBaCu7−x(00n)ピークには1軸配向部分と2軸配向部分が混在すると見られるが、XRD測定でのX線照射領域は直径が6mm程度あるために分離は不可能である。内部構造を調べるために断面TEM観察を行った。なお本配向膜は45度面内方向で傾いた構造と考えられる。それはCeOの格子乗数が超電導体の約ルート2倍(1.41倍)となっているため、45度水平面内方向に傾いたものが格子として合致するためである。
試料6Fm1fではCeO部分の3μm幅の直上はもちろんのこと、3箇所の間の領域、およびその両側3μmの位置で良好な2軸配向超電導組織が観測された。すなわち配向の起源となるCeO部分は幅3μmであるが、少なくとも超電導層部分は幅21μmの位置まで配向層が連続している組織が形成していることとなる。配向起源層において格子マッチする方向に対し揺れ角10度以内となる領域を領域Soとすれば3μm×長さ100μmであり、超電導層における揺れ角10度以内のc軸配向領域を領域Ssとすれば21μm×長さ100μmとなる。今回得られた構造は領域So/領域Ss=0.145となる。
以上の説明のように、これらの実施例を用いれば、これまでIBAD法やRABiTS法で原理的に不可能であったΔφ<2の高配向組織を金属テープ上に形成することが可能である。また配向起源と配向層の比率である領域So/領域Ssがこれまでほとんど1であったのに対して、0.3や0.1を下回る構造が実現できる。金属直上に酸化物配向層を形成することは極性の観点から難しい技術ではあるが、これらの実施例により別に設置した配向層から配向組織を伝播させることによりその構造も実現できる。超電導層がクエンチした際に下地金属にクエンチ電流が流れるという利点がある。またこの構造を持つ酸化物という観点からも、おそらくは本実施例において初めて実現した構造であると思われる。
この技術を用いて、拡散防止層をMODで成膜し、配向起源をシート内に配列したテープを張って焼成する方法であれば、TFA−MOD法と併せて全て非真空プロセスであるばかりか、Δφが小さな組織が出来上がり高特性の超電導線材が期待できる。拡散防止層は酸化物だけでなく、CaFのようなフッ化物でもいい。また、配向起源のファイバーはそれを含めた細い線を作り、延ばしてテープ状に広げる形でシートとして配向起源をΔφを小さく配置することが可能である。そのシートを貼り付けた後に強く焼成し、酸化物以外が燃焼してなくなるようにすれば、Δφの小さな配向起源のみを形成することが出来る。このように本実施形態は、従来、IBAD法やRABiTS法では到達し得なかった小さなΔφの酸化物組織を、金属テープ状に形成する技術の一部である。
(比較例)
次に、比較例について説明する。
酸化物超電導体は超電導層がイットリウムやランタノイド系のペロブスカイト構造を持つものであるが、その配向起源は超電導層ではなく下地層に由来する。単結晶上に成膜を行う超電導回路形成技術は単結晶の配向度を利用して超電導層を配向性を利用するが、線材やコイル応用では金属テープ上に超電導膜を形成するため、どこかに配向起源が必要である。
その配向層形成技術に関して、主だったものはIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法による配向酸化物層形成技術と、RABiTS(Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)法などの圧延技術により金属層を配向させ、その上部に酸化物層を配向させる技術の2種類である。この他に液相形成と磁場力による配向層形成も提案されているが、IBAD法やRABiTS法での配向層形成技術に匹敵する結果は得られていない。主たる配向層形成は、上記のIBAD法とRABiTS法である。その二つの配向層形成技術を以下に説明する。
IBAD法は無配向金属上にアルゴンイオンを照射しながら酸化物を堆積させ、配向度が徐々に改善する技術である。無配向金属にはHastelloy-Cが、イオン源にはアルゴンイオンが使われることが多い。配向させる金属酸化物は、IBAD法登場初期ではYSZであり、その後、Ga2Zr2O7となり、近年は、MgOが多い。この技術は、ほぼ常温の70℃程度で酸化物配向層を形成する技術である。真空中で酸化物粒子を飛散させ、その際にアルゴンイオンビームを照射させることにより堆積された酸化物層の配向度が徐々に改善されてゆく技術である。その配向原理は完全に解明されているわけではない。
この技術で一番問題とされるのは配向度の改善が緩やかで、かつその配向度に極限値が存在すると考えられることである。無配向の下地金属テープ(Hastelloy−C)上にIBAD法で堆積層を形成すると、膜厚が10nm程度の初期成膜層のΔφは20度程度と非常に大きい。また成膜時の基板温度が70℃前後と低いためかΔφの改善は非常に緩やかであり、IBAD法による成膜層が1μm程度になってもΔφが10度程度であったりする。
IBAD法のこの欠点を改善するために配向層が比較的薄い堆積層でΔφが改善するような技術開発が行われている。それはIBAD層の直下に無配向層を形成する手法である。IBAD法による配向層改善はイオンビームのアシストがなければ配向層の改善は起きないために少なくともこのイオンの照射が配向度改善に関与している。
イオンビームがアシストされた飛来した酸化物粒子が基材上に着地した場合に、基材上に秩序だった大きな極性がある場合、低温成膜を行うIBAD法での配向性改善は、直下の層をアモルファスにした場合い比べ緩やかである。極性が小さなアモルファス上での場合、アルゴンイオンでアシストされた酸化物粒子がより自由に動けるためと考えられるが詳細は不明である。
このアモルファス層は1層ではなく、2層の場合により配向が改善しやすいらしく、現時点で商用的な超電導線材は下地のアモルファス層2層の上に、IBAD法による配向起源層があり、その上部2層に配向酸化物層を成膜している。実に5層もの積層構造を経て超電導層がその上部に形成されている。
このIBAD法により原理的にどこまで配向度が改善されるかを考察する必要がある。IBAD法は原理が完全に解明されたわけではないが、アルゴンイオンが堆積酸化物に何らかのアシストをして配向性を改善していることは間違いない。このアルゴンイオンが一方向照射でなければおそらく配向層は無秩序に配列するものと思われる。そのため少なくともこのアルゴンイオンが照射される平行度が配向性の改善に関与するものと思われる。
このアルゴンイオンの照射は、YSZ層を配向させる場合に斜め55度から照射することによりベストの配向が得られることがわかっている。アルゴンイオンの平行度とその影響を受けて配向層を形成する酸化物層のΔφは1:1の関係ではなく、少なくとも飛来時にアルゴンイオンが瞬間的にしか堆積酸化物に影響を及ぼしえないことを考えれば、アルゴンイオンの平行度の1/2や1/3でのみ配向度が改善することが予想される。そのアルゴンイオンの平行度であるが、イオンにして照射するため電気的に反発しあう粒子は拡がりを持って飛来する。またイオン照射源は成膜試料までの距離を無限に大きく出来ず、かつ照射源自体の大きさがあり、そこからアルゴンイオンが飛来するため平行なイオン照射にならない。Δφで5度ほどの角度がつくものと考えられる。大きなΔφの配向層を形成すると考えられるが、こちらは最適化によりファクターを1倍に近づけられる可能性がある。これらの議論からIBAD法で無限に膜厚を厚くして得られるΔφは5度か、あるいはそれ以上となることが予想される。
Δφを改善すると超電導特性が改善される超電導線材において、IBAD法により製膜された中間層のΔφは6度程度の報告が多い。もちろん短尺でΔφの小さな小サンプルも得られるかもしれないが、基本的にIBAD法による得られる配向成膜の最小Δφは5度程度と考えられる。
次に、RABiTS法の説明である。こちらはNi−Wなどの金属を圧延して塑性変形させ原子を圧延方向に配向させ、その上部に酸化物層を成膜させて配向性を伝搬させ、更に酸化物層を2層程度積層することにより超電導体の配向テンプレートを形成する技術である。金属の塑性変形は無限に繰り返せるわけではなく、テープが破壊されない範囲でのみ配向度は改善する。現時点で報告されている配向組織のΔφは6〜8度である。これは圧延された金属のΔφであるが、その上部3層の金属酸化物層積層でもこのΔφは悪化しない。むしろ条件によっては、上部金属酸化物層が自己配向性を持つためと考えられるが、Δφが0.2〜0.3度程度改善した値となる場合が多い。
RABiTS法により形成された金属直上の酸化物第1層目は極性が基本的に無い金属の配向層から酸化物層へと配向が引き継ぐ必要があるために成膜条件が狭いものとなり、成膜条件を外れると配向度が極度に悪化するとされている。その第1層はSEED層とも言われ、YやCeOなどが使われることが多い。第2層は下地金属からの拡散を防止する層であり、拡散防止層(バリアー層)といわれ、YSZなどが用いられる場合が多い。第1層と第2層は共に極性があるために配向度を維持しての成膜は容易と考えられる。同様に第3層であるが、これはTFA−MOD法での反応において、HFなどの化学的反応を防止する必要があり、キャップ層とも言われる層である。
これら3層の配向層はどれも700℃付近で成膜され、形成酸化物粒子は十分なエネルギーを持つために配向度が僅かに改善する傾向がある。いわゆる自己配向性という性質である。この自己配向性は、超電導層も自身が酸化物層であるためにその性質を示すことがある。この自己配向性であるが、超電導層を含む4層を合計しても0.3度程度の改善となることがわかっている。すなわち圧延金属層のΔφが6度の時に、超電導層が成膜条件が良ければΔφ=5.6度程度に改善するということである。ただしこのRABiTS法でΔφが6度以下の配向層実現は難しい。
以上説明した実施形態によれば、配向性の向上を図ることができる酸化物超電導体、配向酸化物薄膜及び酸化物超電導体の製造方法を提供することができる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
1、2:酸化物超電導体、11:基材、12:拡散防止層、13:配向起源、14無配向層、15:配向超電導層、15a:a軸、15b:b軸、15c:c軸、16:配向起源シート、17:バインダー、21:基材、22:金属層、23:コーティング溶液、24:ゲル膜、S13、SO、SS:面積、Ss、So:領域、1S1、1S2、3S1、3S2、4S1、4S2:基板、1Fm1c、1Fm2c、1Fm3c、2Fm1Bc、2Fm1Cc、2Fm1Dc、2Fm1Ec、2Fm2Bc、2Fm2Cc、2Fm2Dc、2Fm2Ec、3Fm1c、3Fm2c、4Fm1c、4Fm2c、5Fm1c、5Fm2c、6Fm1c:仮焼膜、1Fm1f、1Fm2f、1Fm3f、2Fm1Bf、2Fm1Cf、2Fm1Df、2Fm1Ef、2Fm2Bf、2Fm2Cf、2Fm2Df、2Fm2Ef、3Fm1c、3Fm2c、4Fm1f、4Fm2f、5Fm1f、5Fm2f:試料

Claims (3)

  1. 下地に配向部分を形成し、前記配向部分上及び前記配向部分以外の部分上に、金属トリフルオロ酢酸塩を含む溶液を接触させて、前記下地上に前記金属トリフルオロ酢酸塩に含まれる金属及びフッ化物を含むゲル膜を形成する工程と、
    前記下地を熱処理し、前記配向部分上及び前記配向部分以外の部分上に、前記ゲル膜から前記配向部分といずれかの結晶軸が配向した配向超電導層を形成する工程と、
    を備えた酸化物超電導体の製造方法。
  2. 前記配向部分を、ランタナムアルミネート(LaAlO)の単結晶とする請求項1記載の酸化物超電導体の製造方法。
  3. 前記配向部分を、セラミックのファイバーとする請求項1記載の酸化物超電導体の製造方法。
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