本明細書中、連続したペロブスカイト構造を「単結晶」又は結晶学的に連続とみなす。また、単結晶上c軸の方向の差が1.0度以下、金属基材上成膜であれば金属基板の配向層のデルタφを1.0度に加えた差以下の低傾角粒界を含む結晶も、連続したペロブスカイト構造を備えるとみなす。単結晶上c軸の方向の差が1.0度以下、金属基材上成膜であれば金属基板の配向層のデルタφを1.0度に加えた差以下の低傾角粒界を含む結晶も、「単結晶」又は結晶学的に連続とみなす。
上記定義による「単結晶」においてはTcがほとんど低下せず、本来の値の0.3K以内の値が得られると考えられる。そのためTc測定で、Tc値が理論値の0.3K以内の数値であれば、「単結晶」、あるいは結晶学的に連続とみなすことができる。
また本明細書中、上記「単結晶」でありながら液体窒素への冷却時に超電導電流が得られる超電導領域と、超電導電流が得られないペロブスカイト構造の非超電導領域が共存する構造を「超電導体」と称することがある。この構造体は部分的に非超電導領域が形成されていても、全体として超電導電流が通電できるために「超電導体」と称する。
本明細書中の酸化物超電導体を構成する部材の化学組成の定性分析及び定量分析は、例えば、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)により行うことが可能である。また、酸化物超電導体を構成する部材の幅、部材の厚さ、部材間の距離等の測定、結晶構造の連続性の同定には、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いることが可能である。また、酸化物超電導体を構成する部材の構成物質の同定、結晶軸の配向性の同定には、例えば、X線回折分析(X-ray Diffraction:XRD)を用いることが可能である。
図1は、第1の実施形態の酸化物超電導体の模式断面図である。図2は、第1の実施形態の酸化物超電導体の模式上面図である。図2は、図1の金属層を除去した状態の上面図である。図1は、図2のAA’断面である。
超電導線材100は、図1に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30と、金属層40とを備える。基板10は、酸化物超電導層30の機械的強度を高める。中間層20は、いわゆる配向中間層である。中間層20は、酸化物超電導層30を成膜する際に、酸化物超電導層30を配向させ単結晶とするために設けられる。金属層40は、いわゆる安定化層である。金属層40は、酸化物超電導層30を保護する。また、金属層40は、超電導線材100の実使用時に、超電導状態が部分的に不安定になった場合でも、電流を迂回させて安定化させる機能を備える。
また、基板10、中間層20として、例えば、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)基板を用いることも可能である。IBAD基板の場合、基板10が無配向層である。また、中間層20は、例えば5層構造から成る。例えば、下の2層が無配向層、その上にIBAD法によって製造された配向起源層、その上に金属酸化物の配向層が2層形成される。この場合、最上部の配向層が、酸化物超電導層30と格子整合する。格子整合とは一般的に7%以内の格子ミスマッチを示す。超電導特性を改善するためにより小さい3%以下とすることが好ましい。
金属層40は、例えば、銀(Ag)や銅(Cu)が母材の金属である。金属層40は、例えば、合金である。金属層40は、例えば、金(Au)などの貴金属を少量含む。例えば、酸化物超電導層30側から、銀(Ag)を1μm、その上に銅(Cu)を20μm成膜する。
酸化物超電導層30は、基板10と金属層40との間に設けられる。酸化物超電導層30は、中間層20と金属層40との間に設けられる。酸化物超電導層30は、中間層20の上に、中間層20に接して設けられる。
非超電導領域32は、超電導領域31と超電導領域31との間に設けられる。非超電導領域32は、両側に設けられた超電導領域31の両方に接する。両側に設けられた超電導領域31の一方が第1の超電導領域の一例である。また、他方が第2の超電導領域の一例である。
第1の方向に垂直で、非超電導領域32から超電導領域31に向かう方向が第2の方向である。第1の方向及び第2の方向に垂直な方向が第3の方向である。第1の方向及び第2の方向は、基板10の表面に平行である。また、第3の方向は基板10の表面に垂直である。
酸化物超電導層30は、非超電導領域32を間に挟んで複数の超電導領域31に分割されている。図1、図2の場合、酸化物超電導層30は、4つの超電導領域31に分割されている。酸化物超電導層30は、例えば、5つ以上の領域に分割されていても構わない。
超電導領域31は、超電導特性を有する。非超電導領域32は、超電導特性を有しない。非超電導領域32は、超電導領域31を電気的に分離する。非超電導領域32は、超電導線材100に電流を流す際に、絶縁体として機能する。
酸化物超電導層30の第1の方向の長さ(図2中のL)は、例えば、1μm以上である。超電導領域31の第1の方向の長さは、例えば、1μm以上である。非超電導領域32の第1の方向の長さは、例えば、1μm以上である。
酸化物超電導層30の第1の方向の長さLは、例えば、1m以上である。超電導領域31の第1の方向の長さは、例えば、1m以上である。非超電導領域32の第1の方向の長さは、例えば、1m以上である。
酸化物超電導層30の第2の方向の幅(図2中のWx)は、例えば、4mmである。非超電導領域32の第2の方向の幅(図2中のW2)は、例えば、超電導領域31の第2の方向の幅(図2中のW1)よりも小さい。
超電導領域31の第2の方向の幅W1は、例えば、1μm以上80μm以下である。非超電導領域32の第2の方向の幅W2は、例えば、1μm以上80μm以下である。
酸化物超電導層30は、希土類元素を含む酸化物である。酸化物超電導層30は、例えば、連続したペロブスカイト構造を有する単結晶である。希土類元素を含む酸化物は、例えば、REBa2Cu3O7-y(-0.2≦y≦1)(以下、REBCO)の化学組成を有する。REが希土類サイトである。
超電導領域31は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む。超電導領域31において、上記少なくとも一つの第1の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合は15%以下である。例えば、上記少なくとも一つの第1の希土類元素がイットリウム(Y)である場合、超電導領域31に含まれるイットリウム(Y)の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が15%以下である。
超電導領域31は、例えば、プラセオジム(Pr)を含む。超電導領域31において、上記少なくとも一つの希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合は、例えば、1%以上15%以下である。
非超電導領域32は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む。非超電導領域32において、上記少なくとも一つの第2の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である。例えば、上記少なくとも一つの第2の希土類元素がイットリウム(Y)である場合、非超電導領域32に含まれるイットリウム(Y)の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である。
非超電導領域32に、上記少なくとも一つの希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合は、例えば、50%以下である。
超電導領域31に含まれる第1の希土類元素と、非超電導領域32に含まれる第2の希土類元素は、例えば、同一である。例えば、第1の希土類元素及び第2の希土類元素は、イットリウム(Y)である。
超電導領域31に含まれる第1の希土類元素と、非超電導領域32に含まれる第2の希土類元素は、例えば、異なる。例えば、第1の希土類元素がイットリウム(Y)、第2の希土類元素がジスプロシウム(Dy)である。
例えば、第1の希土類元素及び第2の希土類元素のいずれか又は両方が、2種以上の希土類元素である。また、例えば、第1の希土類元素及び第2の希土類元素のいずれか又は両方が、3種以上の希土類元素である。
非超電導領域32のペロブスカイト構造は、隣接する超電導領域31のペロブスカイト構造と連続している。非超電導領域32と超電導領域31との間は、結晶学的に連続している。酸化物超電導層30は、例えば、連続したペロブスカイト構造を有する単結晶である。
非超電導領域32と超電導領域31の境界から、超電導領域31側に100μm以下の部分におけるa/b軸配向比率は、例えば、30%未満である。a/b軸配向比率は、超電導領域31に含まれる結晶粒子の中で、a/b軸配向粒子の占める割合である。a/b軸配向粒子は、基板の表面に垂直な方向にa/b軸が配向する結晶粒子である。
次に、第1の実施形態の酸化物超電導体の製造方法について説明する。第1の実施形態の酸化物超電導体の製造方法は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含む第1のコーティング溶液を作製し、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、第2の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である第2のコーティング溶液を作製し、基板の上に、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液が接するように、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液を塗布してゲル膜を形成し、ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成し、仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層を形成する。以下、第1の希土類元素及び第2の希土類元素は同一である場合を例に説明する。特に、第1の希土類元素及び第2の希土類元素がイットリウム(Y)である場合を例に説明する。
以下、第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の一例について説明する。第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の一例では、ゲル膜の形成にダイコート法を用いる。
第1の実施形態の超電導線材100の製造方法は、基板10上に中間層20を形成し、中間層20上に酸化物超電導層30を形成し、酸化物超電導層30上に金属層40を形成する。酸化物超電導層30はTFA-MOD法により形成される。
図3に示すように、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。図3に示す溶媒をゲル内に取り込ませて不純物を低減する手法はSolvent-Into-Gel(SIG)法と呼ばれる。
イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)を含むコーティング溶液が、第1のコーティング溶液となる。以下、第1のコーティング溶液を、超電導領域形成用コーティング溶液と称する。
図3に示すように、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。
プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)を含むコーティング溶液が、第2のコーティング溶液となる。第2のコーティング溶液において、イットリウム(Y)及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上となるように、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩の量を調整する。以下、第2のコーティング溶液を、非超電導領域形成用コーティング溶液と称する。
非超電導領域形成用コーティング溶液を作製する際、金属酢酸塩としては、例えば、REサイト(Y,Pr):Ba:Cu=1:2:3で金属塩を混合する。REサイト中のPrの量が、例えば、20%以上50%以下となるよう混合する。混合・反応以降はSIG(Stabilized Sovent-Into-Gel)法による高純度溶液精製プロセスにより、コーティング溶液中の残留水及び酢酸量は2重量%以下に低減する。第1の実施形態のSIG法は、PrBCOの分解を防止するため部分安定化を図る溶液の高純度化法であり、PS-SIG(Partially Stabilized Solvent-Into-Gel)法である。
図4に示すように、まず、先に調製したコーティング溶液を準備する(a)。コーティング溶液を基板上に、例えば、ダイコート法により塗布することで成膜し(b)、ゲル膜を得る(c)。その後、得られたゲル膜に、一次熱処理である仮焼を行い、有機物を分解し(d)、仮焼膜を得る(e)。さらに、この仮焼膜に二次熱処理である本焼を行い(f)、その後、例えば、純酸素アニールを行い(g)、超電導膜(h)を得る。
図5は、第1の実施形態のダイコート法によるゲル膜の形成の説明図である。図5(a)は基板10の上方向から見た図、図5(b)は基板10の横方向から見た図である。
図5に示すように、溶液容器33から、超電導領域形成用コーティング溶液35aと、非超電導領域形成用コーティング溶液35bを基板10に同時に塗布する。図5(a)に示すように、基板10の上に、超電導領域形成用コーティング溶液35aの間に非超電導領域形成用コーティング溶液35bが挟まれ、かつ、超電導領域形成用コーティング溶液35aと非超電導領域形成用コーティング溶液35bが接するように、超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bを塗布する。
基板10は、溶液容器33に対して第1の方向に移動する。基板10の上に塗布された超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bは、第1の方向に伸長する。
基板10の上に塗布された、第2の方向に隣り合う超電導領域形成用コーティング溶液35aの間隔は、例えば、80μm以下である。言い換えれば、基板10の上に塗布された非超電導領域形成用コーティング溶液35bの第2の方向の幅は、例えば、80μm以下である。
基板10の上に塗布された超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bは、乾燥してゲル膜となる。基板10の上への超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bの塗布からゲル膜の形成までに要する時間は、例えば、3秒以内である。
図6は、第1の実施形態の代表的な仮焼プロファイルを示す図である。常圧下での仮焼では主に200℃以上250℃以下でトリフルオロ酢酸塩を分解する。その温度領域への突入防止のため200℃付近では昇温速度を下げる。250℃までの徐昇温で、トリフルオロ酢酸塩から分解された物質はフッ素や酸素を含み、フッ素や酸素は水素結合により膜中に残留しやすい。その物質の除去のために400℃までの昇温を行う。最終温度は350~450℃が一般的である。こうして酸化物やフッ化物から構成される、半透明茶色の仮焼膜が得られる。
図7は、第1の実施形態の代表的な本焼プロファイルを示す図である。100℃のtb1までは乾燥混合ガスであるが、そこから加湿を行う。加湿開始温度は100℃以上400℃以下でよい。疑似液層の形成開始が550℃近辺からと思われ、それ以下の温度で加湿し、膜内部に加湿ガスが行き渡り均一に疑似液層が形成されるようにする。
図7では、800℃本焼の代表的な温度プロファイルを示しているが、tb3での温度のオーバーシュートが無いように775℃以上800℃以下は緩やかな昇温プロファイルとなっている。これでも800℃でのオーバーシュートは2~3℃残り得るが、特に問題にはならない。最高温度での酸素分圧はマトリックス相に依存する。YBCO超電導体焼成の場合は800℃だと1000ppm、それから25℃温度が低下する毎に最適酸素分圧は半分となる。つまり775℃では500ppmであり、750℃では250ppmである。この本焼においてYBCO系の場合はYBa2Cu3O6が形成される。この時点では超電導体ではない。
例えば、本焼の最高温度を750℃とする場合がある。この場合は、例えば、図7と同じ昇温速度を最高温度より25℃低い温度まで行い、昇温速度を下げて最高温度まで昇温を行う。
最高温度の本焼において、本焼が完了して温度を下げ始める前にtb4で乾燥ガスを流す。加湿ガスは700℃以下で超電導体を分解し酸化物となるため、tb6で酸素アニールを行い、超電導体の酸素数を6.00から6.93とする。この酸素数で超電導体となる。ただしPrBCOだけはペロブスカイト構造であるが超電導体ではない。またPrの価数が不明のため、ユニットセルの酸素数も不明であるが、酸素数は多いと思われる。Prの価数が3と4の間の値をとり、それに応じて酸素の数がユニットセルに増えるためである。酸素アニールの開始温度は375℃以上525℃以下である。その後の温度保持終了後にtb8から炉冷とする。
図8は、第1の実施形態の比較例の酸化物超電導体の模式断面図である。図9は、第1の実施形態の比較例の酸化物超電導体の模式上面図である。図9は、図8の金属層を除去した状態の上面図である。図8は、図9のBB’断面である。
超電導線材900は、隣り合う超電導領域31の間の領域30xには、非超電導領域は設けられない点で、第1の実施形態の超電導線材100と異なる。領域30xでは、超電導領域31が分断されており、金属層40が入り込んでいる。
超電導線材900は、酸化物超電導層30をレーザースクライビング法で分断し、複数の超電導領域31に分割している。超電導線材900は、酸化物超電導層30を複数の超電導領域31に分割することで、ACロスの低減を実現する。
超電導線材900の第2の問題点は、アブレーション時の高熱による中間層20内での剥がれや、中間層20と基板10との剥がれである。短時間に加熱される際に、下の層との加熱に時間差が生じ熱膨張差で剥がれが生じやすくなる。
超電導線材900の第3の問題点は、中間層20に形成される変質した領域20xである。例えば、変質した領域20xと上部の酸化物熱膨張差により、酸化物超電導層30と中間層20の剥がれが生じやすくなる。
超電導線材900の第4の問題点は、デブリ38の形成である。デブリ38によって形成される段差形状のため、例えば、超電導線材900をコイルとして巻く際に、大きな応力がデブリ38近傍にかかり、超電導線材900が破損する。
超電導線材900の第5の問題点は、領域30xに形成された凹部である。領域30xに形成された凹部によって形成される段差形状のため、例えば、超電導線材900をコイルとして巻く際に、大きな応力が領域30xの近傍にかかり、超電導線材900が破損する。
超電導線材900の第6の問題点は、酸化物超電導層30の分割により細線となった超電導領域31の脆弱性である。細線となった超電導領域31は、物理的に壊れやすくなる。
第1の実施形態の超電導線材100は、製造時に例えばダイコート法を用いる。レーザースクライビング法を用いないため、レーザースクライビング法に固有の問題である第1ないし第4の問題点は解消している。
さらに、第1の実施形態の超電導線材100は、分割された超電導領域31の間に、非超電導領域32を備える。超電導領域31のペロブスカイト構造と非超電導領域32のペロブスカイト構造は、連続している。
超電導領域31と結晶レベルで一体化した非超電導領域32が存在することで、酸化物超電導層30は、酸化物超電導層30の分割前と結晶構造は変わらない状態となっている。したがって、超電導線材900の第5の問題点及び第6の問題点も解消している。よって、第1の実施形態の超電導線材100の機械的強度は、比較例の超電導線材900に比べ高い。
第1の実施形態の超電導線材100において、酸化物超電導層30の機械的強度を高める観点から、非超電導領域32は、2つの超電導領域31の間に設けられることが好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、酸化物超電導層30の機械的強度を高める観点から、酸化物超電導層30の基板10と対向する領域の面積が、基板10の表面積の90%以上であることが好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、酸化物超電導層30の機械的強度を高める観点から、酸化物超電導層30の非超電導領域32は、中間層20と格子整合していることが好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、超電導線材100を線材として機能させる観点から、超電導領域31及び非超電導領域32の、第1の方向の長さは1μm以上であることが好ましく、1m以上であることがより好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、ACロスを低減させる観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図2中のW2)は、例えば、超電導領域31の第2の方向の幅(図2中のW1)よりも小さいことが好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、ACロスを低減させる観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図2中のW2)は、例えば、80μm以下であることが好ましい。
超電導領域31は、プラセオジム(Pr)を含むことが好ましい。酸化物超電導層30の中に、非超電導体であるPrBCOが分散され、人工ピンとして機能する。したがって、超電導線材100の磁場特性が向上する。
超電導領域31が良好な超電導性を発現する観点から、酸化物超電導層30に含まれるプラセオジム(Pr)以外の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が15%以下であることが好ましい。
超電導領域31は、クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)を含むことが好ましい。クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)は、例えば、特許第6374365号公報、特許第6479251号公報、又は特許第6556769号公報に記載される人工ピンである。超電導領域31は、クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)を含むことで、超電導線材100の磁場特性が向上する。
第1の実施形態の超電導線材100において、例えば、超電導領域31を構成するYBCO超電導体にPrがほぼ0%であり、非超電導領域32を構成するYBCO超電導体のYサイトにPrが20%含まれる。超電導領域31はPr量の増加と共に特性が低下するため、電流値を増減させるが磁場がほとんど印加されない状況下においては、超電導領域31にPrが含まれないものが用いられることが好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、例えば、超電導領域31を構成するYBCO超電導体に例えばPrが2%含まれる超電導体が用いられ、非超電導領域32を構成するYBCO超電導体のYサイトにPrが20%含まれる。磁場の影響を軽減するには、超電導体内部に5~10nm前後のサイズの非超電導部を形成する技術である人工ピンが知られている。人工ピンは非超電導であるため非磁場下では超電導特性が低下する。しかし、磁場下では量子磁束が超電導体内部を移動するため超電導特性が低下する現象がある。超電導体内部に非超電導部である5-10nmの人工ピンが存在すると、超電導と非超電導のポテンシャル差により量子磁束は固定され、磁場特性の低下が免れる。すなわち、超電導線材100磁場特性が改善する。
このクラスター化原子置換型人工ピン(CARP)はサイズが大きいと効果が無い。人工ピンは超電導と、非超電導の界面で量子磁束を捕捉して効果を発揮するものであるため、人工ピンのサイズが大きくなると界面の量、又は面積が減少し効果が小さくなるためである。クラスター化原子置換型人工ピンのサイズは現時点で10nm前後が実現しているが、第1の実施形態の非超電導領域32は100nm以上でサイズが異なり、別の技術である。100nmのCARPができたことは無いし、発明者により報告された成長機構からも分かるとおり、100nmのCARPを作ることも難しい。
PrBCOが関与する超電導応用としては、かつてジョセフソン接合が盛んに研究されていた(特開平4-357889号公報)。こちらもPrBCOとYBCOの接合ではあるが、YBCOとは別にPrBCOを形成したものであり、主にPLD法で形成したものである。PLD法では元素により最適酸素分圧が存在し、800℃の場合はYBCOが1000ppmであり、PrBCOは1ppmとなる。真空物理蒸着法においては成膜時の酸素濃度は最適値の0.5~2倍までしか許容されない。例えばYBCOを800℃の1ppmにて本焼するとYBCOは形成されない。Y2O3などバラバラの酸化物が形成される。最適酸素分圧が大きく異なるYBCOとPrBCO酸化物を共通のペロブスカイト構造に形成できるのは、現在のところ液相成長であるTFA-MOD法しか成功例が報告されていない。
第1の実施形態の超電導線材100は、例えば、超電導領域31に母相のYBCOを含み、非超伝導体であるPrBCOを超電導体が均一分散している。Yサイトに占めるPr濃度は15%以下であり、0%であってもよい。超電導領域31は非超電導領域32と共通のペロブスカイト構造を持っている。その非超電導領域32はPrがYサイトに20%以上含まれる。
PLD法を含むすべての真空物理蒸着法ではYBCOとPrBCOを共存させる構造は得られない。その理由は上記で示したYBCOとPrBCOの最適酸素分圧に、1000倍の差があるためである。なお真空物理蒸着法での酸素分圧許容値は最適値の0.5~2倍である。
全ての超電導体作成方法には、物質、特にYサイトに何が入るかにより本焼温度毎に最適酸素分圧が存在する。例えばYサイトにYが100%であれば最適酸素分圧は800℃本焼であれば1000ppmであり、775℃本焼では500ppm、750℃本焼では250ppmである。本焼温度が25℃低下するたびに最適酸素分圧は50%へと指数対数的に変化する。
SmBCOを800℃本焼する場合の最適酸素分圧は20ppmであり、同じく775℃本焼と750℃本焼ではそれぞれ10ppmと5ppmとなる。またNdBCOは800℃本焼で5ppmであり、LaBCOは0.2ppmと推定されている。800℃での最適酸素分圧は、原子半径が大きいほど小さくなる。そのため具体的な報告は無いものの、PrBCOが800℃でペロブスカイト構造を形成するための最適酸素分圧は1ppm前後であると推測される。それは原子半径がLa>Pr>Nd>Sm>…>Yが根拠となっている。
この最適酸素分圧は製法によらず同じである。すなわち、第1の実施形態に主に関わるTFA-MOD法、真空物理蒸着法であるPLD法、MOCVD法、その他の真空物理蒸着法であるElectron Beam(EB)法、共蒸着(CE)法、加速型共蒸着(RCE)法など全てにおいてである。また別の化学溶液法であるMOD法などでも最適酸素分圧は同じである。
最適酸素分圧は、その最適値で最も質の良い、つまり酸化物の分解物や異相の少ないベロ部スカイと構造が形成されることがわかっている。例えば、PLD法であれば800℃本焼時に1000ppmで成膜した場合、もっとも異相の少ないYBCOが得られることがわかっている。この酸素分圧を例えば500ppmにするとYBCO内の異相が増加し、超電導特性が低下する。そして250ppmではY2O3やCuOなどの分解物の集合体となり、YBCO超電導体は得られない。大きな酸素分圧側も同じである。ただし大きな酸素分圧側では、(001)配向ではない、(102)や(103)配向組織などが形成され、特性が低下する場合も含まれる。
そのため、最適酸素分圧が1000ppmと1ppmのYBCOとPrBCOが共通のペロブスカイト構造内に形成されることはできない。それは化学溶液法の一つのMOD法でも同じであった。MOD法は固相反応でYBCOを形成し、成長界面は外気に触れており最適酸素分圧の影響を受ける。そのため酸素分圧への依存が大きく、酸素分圧が異なりYBCOが形成可能な1000ppmとした場合、PrBCOが形成できなくなる。またPrBCOに有利な1ppmとした場合、YBCOが形成できなくなる。
TFA-MOD法はYBCOとPrBCOを共存したペロブスカイト構造を形成できるが、それは疑似液相を介した反応であるためと思われる。TFA-MOD法は疑似液相ネットワークモデルにより、一般のMOD法と異なる様々な本焼時の現象が説明でき、その成長機構でペロブスカイト構造のユニットセルが形成されていると考えられる。TFA-MOD法では本焼時に疑似液相が形成され、その疑似液相から気相へHFガスが散逸する量に比例して固相との境界である液相の底にある成長界面(T. Araki and I. Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol. 16 (2003) R71-R94)でYBCOなどのユニットセルが放出され、成長界面形成される成長スタイルをとる。
YBCOもPrBCOもいったんは疑似液相を形成する。その疑似液相からユニットセルが放出され、ペロブスカイト構造が形成される。この時、良いペロブスカイト構造を形成するための最適酸素分圧は確かに存在する。純粋なYBCOであれば800℃で1000ppmであるし、SmBCOであれば800℃で20ppmである。実験結果もそうなっている。
しかしTFA-MOD法では現にCARPが形成(特許第6374365号公報、特許第6556769号公報、T. Araki, et. al. Supercond. Sci. Technol. 31 (2018) 065008 (8pp))しているように同じペロブスカイト構造内にYBCO、PrBCO、SmBCO、TmBCOなどの様々なユニットセルを同時に共存させることが可能である。それは外部の酸素分圧と疑似液相が酸素をやり取りするものの、成長界面は疑似液相の底部にあり、外部の酸素分圧の影響を大きく受けないからではないかと推定されている。混合時の最適酸素分圧は、各元素の指数対数的な平均値となっている可能性が高い。
他の真空物理蒸着法である、例えばMOCVD法もほぼ同様にYBCOとPrBCOを混在させては作れない。この手法では金属元素が基板までやってきてから有機物が分解する手法である。成長界面が気相に触れているから酸素分圧が影響するのである。TFA-MOD法のように酸素分圧が間接的に影響する機構を持っていないからだと思われる。化学溶液法の一つのMOD法、その他の真空物理蒸着法のすべてでYBCOとPrBCOが同じペロブスカイト構造内に隣接する構造は作れない。
仮に、TFA-MOD法以外にYBCOとPrBCOが共存するペロブスカイト構造ができたとするならば、それはTFA-MOD法のように液相が関与し、液相の海の底に成長界面が存在し、外部の酸素分圧とは遮断された世界を形成している手法と思われる。少なくとも現時点で、Y系超電導体作成方法にそのような方法は報告されていない。TFA-MOD法が唯一の方法である。
バルク体でYBCO+PrBCOを作り磁場特性を改善する試みでは大きなTc低下が報告されている。これはPrBCOとYBCOがそれぞれ集合体として形成され、その後のPrの価数変化で3価から4価近くに変動した際に、PrBCOの集合体の格子定数が12~14%も収縮し、YBCOの集合体との物理的な剥離が生じユニットセルの結合状況が悪化した結果と思われる。ユニットセル間の隙間はTcを低下させる。別な言い方をすれば、バルク体での報告では、第1の実施形態で提示されるYBCOとPrBCOのユニットセルが同じペロブスカイト構造を形成する構造が実現できていないことが示されている。
かつて超電導を利用したジョセフソン接合素子の開発においても、非超電導体としてPrBCOを用い、YBCOと接合して素子を作る試みは多数見られた。しかしこの素子形成においてもPLD法などを用いていたために、YBCOとPrBCOは同時に成膜されたものではなく、一度YBCOを成膜後にPrBCOを成膜するなどの手法で形成されていたため、連続するペロブスカイト構造ではない。非超電導であればいいということで、YBCOと同じ酸素分圧でPrBCOを成膜した例があったとしても、その場合にPrBCOはペロブスカイト構造を形成できない。最適酸素分圧が1ppmであるため、1000ppm下では別のバラバラな酸化物の集合体が形成されるためである。更にTc値も2-3K低下しているケースが多い。
YBCOとPrBCOが共通のペロブスカイト構造を組んだりCARPを構成している時の臨界温度Tc低下は0.3K以下である。この0.3K以内のTc値が、共通なペロブスカイト構造を示していると考えられる。
第1の実施形態に関して、発明者は、関連するPrBCO添加のYBCO構造体において、PrとYのような原子半径差が大きな元素が共存したペロブスカイト構造を報告している。その実現には溶液の高純度化が望ましかった。上記報告の実施例でPrが10%ものを報告しているが20%程度まで高めると不安定で溶液が得られたり、分解したりと再現性がやや低かった。その時点での酢酸プラセオジムの純度はメーカーの推定で98%前後と思われた。
今回、酢酸プラセオジムの純度を推定で99%まで高めることにより、Yサイトに最大24%のPrを置換したYBCOのコーティング溶液を実現している。Prは上記での説明の通りイオン半径が大きく分解しやすい。そのため本来混合できる量以下でも不純物が一定以上存在すると分解してしまうものと推定できる。
またPrのような不安定な元素でも、Yのような安定な元素を混合して溶液を合成すれば、全体として安定な溶液が得られる。部分安定化SIG法である、PS-SIG法により分解なくコーティング溶液が得られる。PS-SIG法で混合可能なPr量は20%未満であったと先に報告したが、今回はPr塩の高純度化により20%の溶液が安定して得られ、22%や24%のものまで安定して得られている。
Prの添加に関して、Pr量添加の5倍量の超電導特性が低下(M. Hayashi, et. al. Supercond. Sci. Technol. 31 (2018) 055013 (7pp))することがわかっている。これはPrの価数が3価から4価へ変化し、酸素数がそのユニットセルでは6.93→7.42へと変化し、それに伴い酸素欠損サイトに酸素が存在することにより、上下のCuと引力が働き、c軸長が短くなりユニットセルが非超電導体になると考えられる。
その非超電導体は、PrBCOだけでなく、隣接するユニットセルにも及ぶようであり、ab面に隣接する4つのユニットセルが非超電導体へと変化するようである。そのためにPr添加量の5倍特性が劣化する、5倍劣化現象が確認されるものと考えられている。
以前の報告で不安定であったPr量20%以上のコーティング溶液は、後述する実施例では20%、22%、24%の3種類が形成されている。5倍劣化現象では理論的に20%で特性がゼロとなるはずであるが、原子レベルまで均一な20%が存在するかはわからない。ただ19%の領域が存在しても、周囲に20%や21%の領域に二つの通電端子の一つが完全に包囲されていれば電流は流れない。もちろん22%や24%では微細領域でもPr量が20%を超えると考えられ、すなわちペロブスカイト構造を持ちながらの非超電導体が形成される。
Prが20%を超える超電導体が形成されれば、レーザースクライビング法の第1ないし第6の問題点がすべて解決する。レーザースクライビング法は歴史ある技術ではあるが、物理的に様々な弱点があり現時点では大型装置で成功例が報告されていない。レーザースクライビング法が実現したのと同じ100μm幅で、TFA-MOD法により22%PrBCOのYBCO超電導体が非超電導となり、YBCO超電導体を共通のペロブスカイト構造で形成されていれば先に議論した第1ないし第6の問題点は解決する。
図11は、第2の実施形態の酸化物超電導体の模式図である。図11(a)は断面図、図11(b)は上面図である。図11(a)は、図11(b)のCC’断面である。
第2の実施形態の酸化物超電導体は、超電導共振器200である。超電導共振器200は、マイクロストリップライン構造を有する。例えば、超電導共振器200を複数組み合わせることで、超電導フィルタを形成することが可能である。
基板46は、上部酸化物超電導層50と下部酸化物超電導層48の間に設けられる。基板46は、例えば、サファイア基板である。下部中間層47は、基板46と下部酸化物超電導層48との間に設けられる。上部中間層49は、基板46と上部酸化物超電導層50との間に設けられる。下部中間層47及び上部中間層49は、例えば、CeO2である。
上部酸化物超電導層50は、複数の超電導領域51と、複数の非超電導領域52を含む。超電導領域51及び非超電導領域52の少なくとも一部は、第1の方向に伸長する。
超電導領域51に含まれる第1の希土類元素及び非超電導領域52に含まれる第2の希土類元素は、例えば、同一である。第1の希土類元素及び第2の希土類元素は、例えば、イットリウム(Y)である。
図12は、第2の実施形態の比較例の酸化物超電導体の模式図である。図12(a)は断面図、図12(b)は上面図である。図12(a)は、図12(b)のDD’断面である。
比較例の酸化物超電導体は、超電導共振器950である。比較例の超電導共振器950は、上部酸化物超電導層50が複数の超電導領域51に分割されている。したがって、超電導共振器950のACロスが低減する。
比較例の超電導共振器950は、上部酸化物超電導層50が非超電導領域を含まず、隣り合う超電導領域51の間に空隙50xが設けられる点で、第2の実施形態の超電導共振器200と異なる。
比較例の超電導共振器950は、例えば、上部酸化物超電導層50を、イオンミリングで加工することでパターン形成を行う。超電導共振器950は、超電導領域51の間に空隙50xが存在することで、上部酸化物超電導層50の機械的強度が低下する。
第2の実施形態の超電導共振器200は、隣り合う超電導領域51の間に非超電導領域52が設けられる。したがって、第2の実施形態の超電導共振器200の機械的強度は、比較例の超電導共振器950に比べ高い。
実施例においては多数の金属酢酸塩を混合して溶液やペロブスカイト構造の超電導体を作成する。Y系超電導体を形成するが、BaとCuサイトに置換物質は用いない。そのため基本的にYサイトのみに別の物質などが入った場合を説明する。その必須の置換物質はPrであり、Prが唯一Yサイトに置換して非超電導層を形成する物質であるため。その他の希土類元素でYサイトに入り超電導性を示すものは、Yの代わりに使っても同じような効果が期待できる。なおここでは超電導を示す物質の代表例としてYを使い説明を行う。
Y系超電導体は本焼後の酸素アニール処理条件が異なると、一部の元素(La、Nd、Sm)に関してYサイトとBaサイトの置換が生じて非超電導体となることは広く知られている。超電導体は本焼で酸素数6.00のペロブスカイト構造が形成されるが、その後の酸素アニールにより6.93へと酸素数は増加する。その酸素アニールを適正温度範囲外の高温から行い、YサイトとBaサイトが入れ替わる、Ba置換が起きることは広く知られている。Ba置換の起きやすさはYサイトに入る元素のイオン半径に依存し、イオン半径が大きい、すなわち原子番号が小さなLaやNd、Smは特にBaと置換しやすいことが知られている。ただ置換後でもBaの価数は2でありLa、Nd、Smは3価であり、ペロブスカイト構造はそのまま維持される。そのためペロブスカイト構造全体が崩壊したり部分的に崩れたりということが無い。XRD測定にて(00n)ピーク位置はほぼ同じであるが、面の歪みによりRocking CurveのFWHMが少し広がる程度である。実施例においては、Ba置換を敢えて起こし、Baサイトに希土類元素が含まれる場合は議論しないが、その場合も希土類元素をYサイトで置換した量で議論を進めることとする。
なお、ペロブスカイト構造形成時に、Yサイトのみ3価の陽イオンが入り、その他のBaやCuは2価の陽イオンであり、その場合にペロブスカイト構造が形成されるが、例えばTbのように800℃程度の高温、すなわち本焼時に2価の陽イオンとなる場合にはペロブスカイト構造が形成されない。Smは2価と3価をとるが、3価でペロブスカイト構造を形成する。一方でPrは800℃で3価であるが、冷却時に4価になると考えられている。その場合はペロブスカイト構造を形成するが、CuO面は超電導電流が流れないと考えられる。
実施例において、非超電導領域となるペロブスカイト構造は、YサイトにPrを20%以上置換したものとなる。Prは18%、20%、22%、24%でコーティング溶液が沈殿や分解なく合成できたが、ペロブスカイト構造を持ちながら非超電導を形成できたものは20%、22%、24%の3つのケースのみであった。Pr量が27%、30%と40%置換の場合、コーティング溶液は合成時に分解反応が起き沈殿が生じた。沈殿が生じるとTFA-MOD法としては成立しない。MOD法は一般に、均一な溶液から各金属イオンが均等に成膜されることを前提としているためその前提が崩れた溶液からの成膜は行えないためである。
発明者の先の特許出願では主にPrが10%の溶液合成や試料を報告した。20%前後は溶液が沈殿しやすく、安定的にコーティング溶液が得られなかったため10%までの報告となっている。今回はその20%を含め、より高濃度の22%や24%のPrでコーティング溶液が安定的に得られて報告できたのは、原料である酢酸プラセオジムの純度が改善したことが理由と考えられる。
プラセオジムのイオン半径は、ランタノイド収縮現象のため希土類元素の3価陽イオンで比較するとかなり大きいサイズである。しかも原子量は小さい。大サイズで原子量が小さいことは、結合力が小さくなることを示し、コーティング溶液合成時に分解しやすくなる原因となる。事実、コーティング溶液合成において、Yを完全に置換する物質のコーティング溶液を合成しようとした場合、SmとNd、Laは分解がしやすく、特別な方法が必要であるために関連する研究を私たちが行ってきた。
合成しようとする溶液に不安定な物質を用い、そこに別な不純物が含まれる場合、分解反応が促進される。過去に20%前後のPrを含むコーティング溶液が不安定だったのはこれが原因だと思われる。今回安定的に20%以上のPrを含むYBCOコーティング溶液が合成できたのは、原料の高純度化が関係している可能性が高い。
Pr量の限界値に関連して、3価のイオン半径がより小さなSmの場合は50%前後まで置換してもコーティング溶液に沈殿物は生じない。論文報告ではYBCOに対してSmBCOが30%前後混合された結果報告があるが、この結果はコーティング溶液を高純度化してない場合のものである。
超電導領域及び非超電導領域のYサイトに、DyやHoなどの超電導性を示す他の希土類元素を用いても同じような発明考案の構造体が作ることができる。そしてPrは20%以上であれが非超電導領域として機能する。PS-SIG法(特許第6479251号公報)は安定的な元素、例えばYなどをマトリックス層に用いるために可能となる手法である。そのためYを代替できる希土類元素は、Smより原子番号が大きな元素、たとえばDyやHoなどとなる。なお、Tbは上記に述べたとおり、コーティング溶液合成時に3価と思われるが、本焼時に2価となるようでペロブスカイト構造を形成しない。そのためTbもYを置換して超電導体を形成する候補から除外される。ただし少量の不純物は常に希土類元素に混入があるはずで、1%未満と思われる量のTbなどが混入していても問題なくペロブスカイト構造が形成されている。このため少量の2価となる物質が存在しても問題無いと思われる。
超電導領域となる部分に、クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)(特許第6374365号公報、特許第6556769号公報)が形成しても問題がない。CARPは、超電導体のマトリックスの中で、5~10nm前後の長さの非超電導クラスター化領域を形成する技術である。しかし、非超電導クラスター化領域以外の部分はほぼYBCO超電導体である。
CARP形成において、La、Nd、Smを用いるが、CARP量は40%以下である。例えば、Tm-CARPであれば、Yサイトに置換して形成する元素はPr、Sm、Tmとなるが、大きな半径のPrとSmの合計は20%以下、小さな半径のTmも20%以下である。一般的な手法である、例えばPr:Sm=1:1で形成する場合、Pr量は10%以下となる。CARP形成で、それを含むYBCOのc軸長はわずかに長い方向へ変化するようである。このc軸長は、Tm-CARPのケースでは、Tmはc軸が短い方へ、PrとSmが長い方へ変化させることになる。しかしPrは3価→4価でc軸長が短い方へ寄与し、全体としてのc軸長はほとんど変化が無かった。
Prが22%含まれるYBCO膜のc軸長の変化は極めて小さい値であった。CARP入りYBCO膜を2θ/ωのXRD測定で測定した場合の(006)ピークの位置と、SmBCOの(006)ピーク位置はそれぞれ46.68°と46.53°と一般には言われている。この数値は非常に小さな角度であるために測定装置により変化することがあり、測定装置により議論する必要があるが、実施例で得られた22%Pr混合YBCOと、通常のYBCOの(006)ピーク位置の差は0.02°であった。YBCOとSmBCOの差が0.15°であることからして僅かな差である。PrBCOは4価に変化したときにこの数値であるが、ペロブスカイト構造が形成時に3価でありc軸長が長くても、実際にペロブスカイト構造が形成されているため、形成自体は可能であり、実施例の構造形成時にはc軸長差はより母相のYBCOに近くなり、安定的に存在するものと思われる。22%Prで置換したYBCOでこのc軸長変化であるため、ほぼYBCOと扱っていいものと思われる。
実施例を実施するにあたり、ゲル膜を形成し、仮焼炉で焼成することにより有機成分を分解して酸化フッ化物を形成し、それを本焼成、及び酸素アニールすることにより超電導層が形成できることがわかっている。まずはゲル膜の形成であるが、ダイコート法のようなコーティング溶液と基板との間にメニスカス部を形成し、基板を動かすことによりゲル膜を形成し、そのゲル膜を仮焼により仮焼膜とし、本焼成及び酸素アニールにより超電導体とする。メニスカス部形成においてコーティング溶液の吐出口の幅を100μmとすることで非超電導領域であるPrが20%含まれた領域が形成可能となる。成膜時に同時にYBCO超電導形成領域として幅400μmとすることにより、旧来法であるレーザースクライビング法と同等のACロス低減効果が期待できる。ゲル膜の成膜方法に関して、ディップコートなどを用いる単結晶上成膜と、連続法であるダイコート法を応用した成膜方法での中間層付金属テープ上基材への成膜に関しては差があまりない。それはゲル膜成膜方法がメニスカス部を利用して形成する手法であるためである。
得られたゲル膜は連続炉などで仮焼を行う。主に400℃以下、特に常圧であれば200~250℃で有機成分を分解するのが仮焼反応である。仮焼で得られる物質は、酸化物とフッ化物が混在する、酸化フッ化物となる。この反応も単結晶上と、酸化部中間層が形成された金属テープ上では差異がほとんどない。それは過熱による有機物の分解を行うのが仮焼プロセスであり、下地の基盤が反応に影響を及ぼさないからである。
得られた仮焼膜は本焼と酸素アニールにより超電導層を形成する。この工程においてはじめて単結晶上と、中間層付金属上成膜で差が出てくる。本焼に関して、TFA-MOD法では全金属元素と水素、酸素、及びフッ素で疑似液相を形成することが間接的に分かっている。その疑似液相からユニットセルが格子マッチした成長界面へ供給されるのだが、初期の成長界面は単結晶がその基板最表面であり、中間層付金属テープは最表面に使われることが多いCeO2中間層が最表面となる。そこに格子マッチしたユニットセルが形成されるのであるが、単結晶基板は表面のデルタφが0.2度前後で同じ方向を向くが、金属基板上は配向層形成手法とその反復形成回数にもよるが、デルタφは5度前後となる。TFA-MOD法の場合、その上部に転写されるように超電導体が形成されるため、超電導層のデルタφもほぼ同じ値となる。デルタφは数値が小さいほど超電導特性としては高い特性が得られる。
形成された超電導体には直ちに保護層が形成される。例えば接触性を改善させるため1μm厚の銀を蒸着し、その上部に銅が20μm成膜された線材がある。更にその外部にSUSテープなどで補強を行い、超電導線材として完成するが、ここでは超電導層までを議論の対象としているため、超電導層上部の成膜層に関しては議論を省略する。
こうして結晶学的に単一のペロブスカイト構造が形成され、一部にPrが20%以上存在し、5倍劣化現象により非超電導体が形成される。他方の領域には、Prが15%以下となる超電導体が形成される。交流損失を低減するのが実施形態の一つであり、この場合、磁場中で使う用途が多く、磁場の影響を避けるために、超電導領域にはCARPを形成することが多いと思われる。例えば、Tm-CARPであれば、YサイトにTmが4%、PrとSmがそれぞれ2%置換された構造である。形成されたCARPはサイズが10nm直径前後であり、実施形態のような単結晶基板上数cmの長さにおいて、また金属テープ上成膜の場合は例えば500m長において超電導体が、Pr20%以上の非超電導領域で分割されることとなる。しかもその構造には先に挙げたレーザースクライビング法で形成された手法と比較して、第1ないし第6の問題点が解決されたものとなっている。
ゲル膜成膜時にどの程度周辺領域に物質が移動するかを次に説明する。TFA-MOD法という手法は、ゲル膜成膜後に物質が水平方向にほとんど動かない手法である。というのはゲル膜にトリフルオロ酢酸塩を含み、そこには電気陰性度が全元素中最強の4.0のフッ素を含み、ゲル膜時点では溶媒のメタノールに水素が含まれ、水素結合が多数存在して移動できないためである。ゲル膜形成後には更に移動は難しく水平方向に1nm動けるかどうかのレベルとなる。
ゲル膜を仮焼すると、酸化フッ化物が形成されるが、こんどはプラスに帯電する金属元素と強いクーロン力で引力が発生することとなる。そのためゲル膜から仮焼膜へと処理する仮焼時も各元素はほぼ水平方向には動けない。動けても数nm程度得あることは容易に推測できる。
TFA-MOD法でゲル膜成膜以降に最も物質が動きやすいのが本焼時である。本焼時は疑似液相を形成するため、超電導のユニットセルを放出する疑似液相中を、各イオンがある程度移動できる。しかしこの疑似液相は形成して超電導がユニットセルで成膜可能な温度が725℃であり、成膜温度が750~800℃というのは温度が少し高いだけの条件である。そのため疑似液相は粘度が高く流動性が低く、数十nm幅の仮焼膜亀裂がそのまま維持されて超電導膜が形成されることもわかっている。そのため水平方向への移動距離は数ナノm程度と推測される。また、それにより、Prが多く含まれる部分と、そうでない部分の物資の移動は最大でも100nm程度と考えられる。
疑似液相を形成するぎりぎりの低温である750~800℃で本焼することが多いのは、金属テープへのダメージを避けるためである。金属上成膜は金属層の最表面にあるCeO2中間層の配向層を保護するため、800℃以上の温度で焼成できない。そのため相互拡散距離も水平方向に100nm程度か、最悪のケースでも膜厚相当の1μmと推定される。
上記の議論から、旧来から研究されてきたレーザースクライビング法で形成されたACロス低減のための100μm幅は、この手法で形成されるペロブスカイト構造が連続する構造体においても、相互拡散領域が1μmにも満たない試算から、有効に機能すると考えられる。仮に1μmの相互拡散があっても100μm幅で非超電導領域を形成する場合、その最小幅は98μmとなり影響は小さい。
また超電導領域にも同じことが言える。超電導領域は400μm幅であるが、仮に1μm両側で非超電導領域が拡散したとしても超電導体の幅は398μm幅となる。特性低下は0.5%でしかない。そのため同じ幅で非超電導領域を形成するのであれば、ほぼ同等のACロス低減効果が得られることは明白である。
一方で、形成される構造体としては非常に優れた構造体となる。まず第1の問題点であるペロブスカイト構造以外の物質がそもそも形成されない。比較例のレーザースクライビング法では高温で物質を分解して除去する。そのためその近傍では当然ながら分解物であるY2O3やCuOが形成されることが予想される。実施形態であるPlanted-Shared-Insulator(PSI)法ではその分解物がそもそも形成されず、第1の問題点が解決される。
第2の問題点は、中間層への加熱と、その熱膨張係数差による剥離又は剥離の原因となる起点形成であった。しかしPSI法ではそもそも超電導体形成後に過熱を行わずに非超電導層を形成するため、この第2の問題点もそもそも存在しない。
第3の問題点は、下地中間層の変質により配向層が失われるか、それに近い状態となり、上部の層との剥離などが生じやすくなることである。これもPSI法では問題が生じない。上記で議論したとおり、非超電導層が本焼時に同時に形成され、超電導層形成後に加熱の原因となるレーザー照射などを行わないためである。そのため第3の問題点も解決される。
第4の問題点であるデブリはそもそも形成されない。それはPSI法ではそもそもアブレーションによる物質除去を行わないために超電導形成後に飛散する物質がそもそもないためである。そうであっても非超電導領域は形成されるため、ACロス低減ができる構造体が得られる。
第5の問題点である凹部形成はそもそも形成されない。それはPSI法ではそもそもアブレーションによる物質除去を行わないためである。そのため平滑な構造体が形成され、ACロス低減ができる構造体が得られる。
第6の問題点である物理的に壊れやすい構造もPSI法では存在しない。レーザースクライビング法では、例えば4mmの線幅を8分割し、0.5mm毎に線材を分割すればペロブスカイト構造が連続する領域は最大でも0.50mmとなる。しかも超電導領域の端部には非超電導体のCuOやY2O3が存在し、コイル化時に壊れやすい構造体であることに変わりはない。
一方のPSI法で形成されたACロス低減構造であるが、こちらは幅4mmの超電導線材をPSI技術で8分割しても、ペロブスカイト構造が連続する領域は4mmのままである。なおかつc軸長はほぼ同じであることがXRD測定からもわかっており、非常に安定的な構造体であることは明白である。
以上のことから、PSI法は、第1ないし第6の問題点を同時に解決しながら、ACロス低減を実現した構造体を実現できる新技術である。
(実施例1)
図3に示されるフローチャートに従い、10種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。最初に合成する5種類のコーティング溶液は、金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:1.00:2:3、0.10:0.90:2:3、0.15:0.85:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質1Mi-low-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr低純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1Mi-low-Pr0.10Y0.90BCO、1Mi-low-Pr0.15Y0.85BCO、1Mi-low-Pr0.20Y0.80BCO、1Mi-low-Pr0.22Y0.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質1Mi-low-Pr0.00Y1.00BCO、1Mi-low-Pr0.10Y0.90BCO、1Mi-low-Pr0.15Y0.85BCO、1Mi-low-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.22Y0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質1Mi-low-Pr0.00Y1.00BCO、1Mi-low-Pr0.10Y0.90BCO、1Mi-low-Pr0.15Y0.85BCO、1Mi-low-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.22Y0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液を得ようとしたが、1Mi-low-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.22Y0.78BCOはメタノール溶解時に不透明緑白色の沈殿物が多量に発生し実験を中止した。そのほかの物質はメタノール溶解でも沈殿物は生じることなく、1CSi-low-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1で説明するコーティング溶液、Pr低純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1CSi-low-Pr0.10Y0.90BCO、1CSi-low-Pr0.15Y0.85BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液1CSi-low-Pr0.00Y1.00BCO 、1CSi-low-Pr0.10Y0.90BCO、及び1CSi-low-Pr0.15Y0.85BCOを12時間保管すると、コーティング溶液1CSi-low-Pr0.15Y0.85BCO中に不透明緑白色の沈殿が生じたため、そこで実験を中止した。
図3に示されるフローチャートに従い、他の5種類のコーティング溶液を合成及び生成を行う。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:1.00:2:3、0.10:0.90:2:3、0.15:0.85:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質1Mi-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr高純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1Mi-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Mi-low-Pr0.15Y0.85BCO、1Mi-low-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.22Y0.78BCOを得た。こちら側の溶液合成途上で沈殿を生じたコーティング溶液は無かった。
得られた半透明青色の物質1Mi-high-Pr0.00Y1.00BCO、1Mi-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Mi-high-Pr0.15Y0.85BCO、1Mi-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Mi-high-Pr0.22Y0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質1Mi-high-Pr0.00Y1.00BCO、1Mi-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Mi-high-Pr0.15Y0.85BCO、1Mi-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Mi-high-Pr0.22Y0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、1CSi-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1で説明するコーティング溶液、Pr高純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1CSi-high-Pr0.10Y0.90BCO、1CSi-high-Pr0.15Y0.85BCO、1CSi-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1CSi-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
先に得られたコーティング溶液と合わせての精製(図3のh)を行う。1CSi-low-Pr0.00Y1.00BCO、1CSi-low-Pr0.10Y0.90BCO、1CSi-high-Pr0.00Y1.00BCO、1CSi-high-Pr0.10Y0.90BCO、1CSi-high-Pr0.15Y0.85BCO、1CSi-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1CSi-high-Pr0.22Y0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質1M-low-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr低純度、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、1M-low-Pr0.10Y0.90BCO、1M-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr高純度、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、1M-high-Pr0.10Y0.90BCO、1M-high-Pr0.15Y0.85BCO、1M-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1M-high-Pr0.22Y0.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質1M-low-Pr0.00Y1.00BCO、1M-low-Pr0.10Y0.90BCO、1M-high-Pr0.00Y1.00BCO、1M-high-Pr0.10Y0.90BCO、1M-high-Pr0.15Y0.85BCO、1M-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1M-high-Pr0.22Y0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液1CS-low-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure、Pr低純度)、1CS-low-Pr0.10Y0.90BCO、1CS-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure、Pr高純度)、1CS-high-Pr0.10Y0.90BCO、1CS-high-Pr0.15Y0.85BCO、1CS-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1CS-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液1CS-low-Pr0.00Y1.00BCO 、1CS-low-Pr0.10Y0.90BCO、1CS-high-Pr0.00Y1.00BCO、1CS-high-Pr0.10Y0.90BCO、1CS-high-Pr0.15Y0.85BCO、1CS-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1CS-high-Pr0.22Y0.78BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上に成膜を行い、半透明青色のゲル膜1Gel-low-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、Pr低濃度、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Gel-low-Pr0.10Y0.90BCO、1Gel-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、Pr高濃度、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Gel-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Gel-high-Pr0.15Y0.85BCO、1Gel-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Gel-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
得られたゲル膜、1Gel-low-Pr0.00Y1.00BCO、1Gel-low-Pr0.10Y0.90BCO、1Gel-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Gel-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Gel-high-Pr0.15Y0.85BCO、1Gel-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Gel-high-Pr0.22Y0.78BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜1Cal-low-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、Pr低濃度、calcined film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Cal-low-Pr0.10Y0.90BCO 、1Cal-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、Pr高濃度、calcined film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Cal-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Cal-high-Pr0.15Y0.85BCO、1Cal-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Cal-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
図7に示す本焼プロファイルで仮焼膜1Cal-low-Pr0.00Y1.00BCO、1Cal-low-Pr0.10Y0.90BCO、1Cal-high-Pr0.00Y1.00BCO、1Cal-high-Pr0.10Y0.90BCO、1Cal-high-Pr0.15Y0.85BCO、1Cal-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1Cal-high-Pr0.22Y0.78BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜1F-low-Pr0.00Y1.00BCO (実施例1、fired oxide films of Pr0.00Y1.00BCO、Pr低濃度)、1F-low-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.00Y1.00BCO(実施例1、fired oxide films of Pr0.00Y1.00BCO、Pr高濃度)、1F-high-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.15Y0.85BCO、1F-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1F-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
酸化物薄膜1F-low-Pr0.00Y1.00BCO、1F-low-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.00Y1.00BCO、1F-high-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.15Y0.85BCO、1F-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1F-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドとの差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜1F-low-Pr0.00Y1.00BCO、1F-low-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.00Y1.00BCO、1F-high-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.15Y0.85BCO、1F-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1F-high-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。誘導法での超電導特性評価は、原理的に対象となる超電導膜に直径約6mmの領域で超電導体が存在しなければ特性が評価できない。そのため中央部の4~6点のみの特性が得られるが、その最高値で超電導膜の特性としている。得られた超電導特性はそれぞれ、6.77、3.39、6.81、3.41、1.72、0.00、及び0.00MA/cm2(77K,0T)であった。
誘導法による超電導特性の測定結果は、Pr量添加量の約5倍特性が低下する、5倍劣化現象の結果に従うものであった。すなわち10%Pr添加では約50%の特性低下がみられ、15%添加では75%の特性低下がみられるというものであった。酢酸プラセオジムの純度が98%であっても99%であってもほぼ同じ特性が得られ、5倍劣化現象による特性低下もほぼ同じであることが分かった。Pr量が20%と22%のものは誘導法では特性が確認できず、非超電導であることが分かった。
酸化物薄膜1F-low-Pr0.00Y1.00BCO、1F-low-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.00Y1.00BCO、1F-high-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.15Y0.85BCO、1F-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1F-high-Pr0.22Y0.78BCOの膜表面の10mm角対角線方向に垂直に、幅2mmの銀を4本電子ビーム法での銀蒸着し、純酸素下180℃で熱処理を行い、蒸着銀と超電導層の接触性を改善した。両端部の2端子が電流端子で、中央部の2端子は電圧端子である。試料は液体窒素直上に設置した金属プレートを上下する手法で温度を制御し、直流4端子法により0.10μAの電流でTc測定を行った。Tcは1μV/cmの基準で判定した。
得られたTc値は酸化物薄膜1F-low-Pr0.00Y1.00BCO、1F-low-Pr0.10Y0.90BCO、1F-high-Pr0.00Y1.00BCO、1F-high-Pr0.10Y0.90BCO、及び1F-high-Pr0.15Y0.85BCOがそれぞれ、90.71、90.68、90.69、90.73、90.65Kであった。測定誤差は半導体温度計の0.07Kであるためほぼ同じTc値であった。酸化物薄膜1F-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1F-high-Pr0.22Y0.78BCOは超電導転移せず、少なくとも接続した端子間では非超電導体であることが分かった。
XRD相同定の結果と誘導法及び直流4端子法から、酸化物薄膜1F-high-Pr0.20Y0.80BCO、及び1F-high-Pr0.22Y0.78BCOはYBCOと共通のペロブスカイト構造を持ちながらPrが持つ5倍劣化現象で超電導特性がゼロとなる、非超電導層であることがわかった。Prの5倍劣化現象はPr量が20%を超えてでも適用される現象であることが初めて分かった。
Pr量が10%の溶液は先の発明で実現して特許出願を提出している。Prを安定して存在させるためにPS-SIG法を用いている。ただPrの純度が98%と低い場合に沈殿が生じやすいことが分かった。Prは元来、溶液合成時にはイオン半径の大きさから単体でPrBCO溶液を合成しようとすると分解してしまう物質である。その抑制はYと混合することにより部分安定化するPS-SIG法で実現したのである。Prの純度が98%と低い場合には、含まれる不純物が溶液合成時に作用し、分解させる効果があると思われる。
Prの純度を99%としたときに22%のPr置換YBCO溶液が沈殿無しに得られている。ただ純度がこの先に更に改善しても、元来Prはイオン半径が大きく分解しやすい物質であるために22%を大きく超えて濃度を高められることは無いと考えられる。本来持つPrの混合限界が存在するはずであるためである。
Prの純度が98%でも99%でも、相同定結果や誘導法による超電導特性結果に差は無かった。不純物量は2%と1%であり、不純物が何であるかは不明であるが、それがPrBCOのような5倍劣化現象を示す物質ではないと思われる。つまり分解原因となった物質は共通のペロブスカイト構造を形成していないと思われる。Prの純度は、溶液合成時の分解、すなわち沈殿の有無に関係していると思われる。
YBCOとPrBCOが重ねて作られた例や、その成膜試みはかねてから報告されている。例えばジョセフソン接合においては一度YBCOを成膜し、その後にPrBCOを成膜し、超電導と非超電導の接合部作成を試みている。しかしながら、上記の説明通りこのYBCOとPrBCOは同じ成膜温度で最適酸素分圧が極端に異なる物質である。例えば800℃での最適酸素分圧は1000ppmと1ppmであり、775℃ではその半分の500ppmと0.5ppmとなる。25℃毎に最適酸素分圧は半分になることが知られている。YBCOとPrBCOの酸素分圧は1000倍異なるのである。
YBCOを真空物理蒸着法であるPLD法やMOCVD法で成膜を試みた場合、許容される酸素分圧はたかだか2倍の500ppm~2000ppmである。しかも500ppmではかなり質の悪いYBCO層が形成されてしまう。そのためYBCOとPrBCOは別の条件で成膜されることとなり、それぞれがペロブスカイト構造での結合をもつことはあり得ない。
TFA-MOD法は疑似液相で成長し、ユニットセルが放出される成長界面は疑似液相の底に沈んだ状態である。酸素分圧の制御は疑似液相の外側となり、その酸素分圧が成長界面に大きくは影響しないため、YBCOとPrBCOが混在したペロブスカイト構造が得られる。そして先願で10%Pr置換のYBCOを報告した。
その先願での条件ではPrの純度が98%と低かったために、Yサイトに置換可能なPrは10%が限界で、コーティング溶液はそれ以上の濃度では沈殿してしまっていた。今回、Prの純度を99%と改善することによりPS-SIG法におけるPrの分解をさらに抑制し、得られたペロブスカイト構造にYBCOと20%を超すPrBCOが共存して存在していることは確実である。前例の無い構造体が得られた初めての報告である。それと同時にPrの5倍劣化現象が、Pr量20%や22%でも適用されて非超電導体となることが確認された初の報告でもある。
(実施例2)
図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:0.90:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質2Mi-Pr0.00Y1.00BCO(実施例2で説明する物質、0%Pr、100%Y Matrial with impurity)、2Mi-Pr0.22Y0.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質2Mi-Pr0.00Y1.00BCO、及び2Mi-Pr0.22Y0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質2Mi-Pr0.00Y1.00BCO、2Mi-Pr0.22Y0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液2CSi-Pr0.00Y1.00BCO(実施例2で説明するコーティング溶液、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、及び2CSi-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液2CSi-Pr0.00Y1.00BCO、2CSi-Pr0.22Y0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質2M-Pr0.00Y1.00BCO(実施例2で説明する物質、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、2M-Pr0.22Y0.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質2M-Pr0.00Y1.00BCO、及び2M-Pr0.22Y0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液2CS-Pr0.00Y1.00BCO(実施例2、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure)、及び2CS-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液2CS-Pr0.00Y1.00BCO、及び2CS-Pr0.22Y0.78BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上にそれぞれ2枚の成膜を行い、半透明青色のゲル膜2Gel-Pr0.00Y1.00BCO-1(実施例2、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films、試料番号1)、2Gel-Pr0.00Y1.00BCO-2、2Gel-Pr0.22Y0.78BCO-3(実施例2、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films、試料番号1)、及び2Gel-Pr0.22Y0.78BCO-4をそれぞれ得た。このゲル膜は本焼後に膜厚が150nmとなる成膜条件である。
上記とは別にコーティング溶液2CS-Pr0.00Y1.00BCO、2CS-Pr0.22Y0.78BCOを用い、10×25×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液2CS-Pr0.00Y1.00BCOを、反対側コーティング溶液2CS-Pr0.22Y0.78BCOを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜2Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C(実施例2、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films and 22%Pr, 78%Y films、chimera)を得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sである。
半透明青色のゲル膜2Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、2Gel-Pr0.00Y1.00BCO-1、2Gel-Pr0.00Y1.00BCO-2、2Gel-Pr0.22Y0.78BCO-3、及び2Gel-Pr0.22Y0.78BCO-4、2Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜2Cal-Pr0.00Y1.00BCO-1(実施例2、calcined film of resulting 0%Pr, 100%Y films、試料番号1)、2Cal-Pr0.00Y1.00BCO-2、2Cal-Pr0.22Y0.78BCO-3、及び2Cal-Pr0.22Y0.78BCO-4、及び2Cal-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜2Cal-Pr0.00Y1.00BCO-1、2Cal-Pr0.00Y1.00BCO-2、2Cal-Pr0.22Y0.78BCO-3、2Cal-Pr0.22Y0.78BCO-4、及び2Cal-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-1 (実施例2、fired oxide films of Pr0.00Y1.00BCO、試料番号1)、2F-Pr0.00Y1.00BCO-2、2F-Pr0.22Y0.78BCO-3、2F-Pr0.22Y0.78BCO-4、及び2F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cそれぞれ得た。
酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-1、2F-Pr0.00Y1.00BCO-2、2F-Pr0.22Y0.78BCO-3、及び2F-Pr0.22Y0.78BCO-4の中央部をそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-1、2F-Pr0.00Y1.00BCO-2、2F-Pr0.22Y0.78BCO-3、及び2F-Pr0.22Y0.78BCO-4それぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。図13は、酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-1、及び2F-Pr0.00Y1.00BCO-2のマップでの超電導特性測定結果である。
誘導法による超電導特性の測定は単一の磁場発生ロッドと第三高調波の検出装置の組み合わせである。相手側超電導体に、印加磁場を打ち消すことができる効果が発揮していればそれは超電導状態であり、それを超えた際は第三高調波が発生し、その検知により非破壊で超電導特性が測定できる仕組みである。もちろんそうでなくてもシグナルは出てくるのであるが、波形が標準状態よりもずれたり、磁場印加時に検知電圧がゼロとならないものは超電導でないものと扱われる。
第三高調波の発生と検知は、超電導体側に直径6mmの領域が必要とされており、10mm各試料を2mmピッチでロッドを移動させて測定する今回の手法では、最大で1辺に3点までのデータは並ばない。
酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-1の測定結果は図13(a)であり、Jc値(MA/cm2、77K,0T)が6.43~6.85までの7点が超電導が測定できた領域として扱われている。酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-2の測定結果は図13(b)で、6.29~6.67の特性となっている。最大値でないものは単結晶端部の影響を受け下がる可能性が高いため、得られた結果の最大値がJc値となる。
酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO-1、及び2F-Pr0.00Y1.00BCO-2は中央部に6.85と6.67MA/cm2の超電導特性を液体窒素中で持つ、良好な超電導体であることが分かった。
図14は、酸化物薄膜2F-Pr0.22Y0.78BCO-3、及び2F-Pr0.22Y0.78BCO-4の超電導特性測定結果である。2F-Pr0.22Y0.78BCO-3が図14(a)、2F-Pr0.22Y0.78BCO-4が図14(b)である。こちらは全ての領域で超電導と判定できるシグナルが得られなかった。この結果は実施例1と同じ結果だが、その後にキメラ膜を成膜する原液確認のためこの実験を行った。全域で特性はゼロであり、膜内部に直径6mmφの超電導領域が存在しないことを示す。
図15は、酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cを、YBCOを下側に、22%Pr置換のYBCOを上側に設置した場合の超電導特性測定結果である。図の上側、22%Pr置換のYBCOは超電導特性を示していない。一方で下側のYBCOは超電導特性を示している。その境界部は誘導法の原理により超電導と判定されない部分が2~4mm幅で出てくることになる。
この酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CのJc値のYBCO部分は、2F-Pr0.00Y1.00BCO-1、及び2F-Pr0.00Y1.00BCO-2のJc値に近い結果であり、22%Pr-YBCO部分は、2F-Pr0.22Y0.78BCO-3、及び2F-Pr0.22Y0.78BCO-4と同じ結果である。
酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cの外観であるが、YBCO超電導部分はつやのある黒色で、22%Prが存在するところはやや白みがかった色となっている。これは22%Prが存在する部分の本焼時最適酸素分圧が1000ppmではないため異相が部分的に形成された可能性がある。しかし、先に述べたとおり、TFA-MOD法は広い酸素分圧で本焼が可能であり、またXRD測定結果からもペロブスカイト構造であることは確認されている。仮に最適酸素分圧がYBCOで1000ppm、PrBCOで1ppmならば、対数軸で比例なのであれば218ppmとなる。なお、TFA-MOD法ではこの程度酸素分圧がずれていても超電導体が形成されることはわかっている。ただ、最適酸素分圧のずれで表面に異相などが形成されて白く見える可能性がある。
酸化物薄膜2F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cの外観で、図15上部で白色の靄がかかった部分と、中央部の少し白い黒色部、及び反対側のつやのある黒色部のXRD法の2θ/ω測定結果を行い、結果をそれぞれ2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CW(実施例2のXRD測定結果、Chimera white area)、2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CC(center area)、及び2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CB(同、black area)とする。
2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CCと2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CBの結果は、ほぼ同一であった。そのためため、中央部エリアには22%Pr-YBCOが形成されているものと思われる。反対側の2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CWの領域はYBCOに近い結果が得られているものと思われる。
図16は、YBCOが形成されている2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CWのXRD結果である。また、図17は、22%Pr置換のYBCOと思われる2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CCのXRD結果である。両方の結果ともYBCO(00n)ピークしか見えておらず、異相を示す小さなピークはバックグラウンドと同じレベルである。46.68°付近に見えるYBCO(006)ピークとバックグラウンドは1000倍の強度差があるため、ほぼYBCOであると考えられる。
そのYBCO(006)ピークの拡大図を図18に表示する。図18は2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CWのYBCO(006)ピーク付近の拡大図である。近くにあるLAO(200)ピークの強度が少し含まれるため、この部分のピーク位置はピーク強度の半値の中央部分として議論することにする。LaAlO3基板(200)ピークの影響でYBCO(006)ピークは46.68°より、この手法では少し高角側に観測される。試料間の評価であれば2θの位置が0.2°とかずれなければLaAlO3基板(200)ピークの影響は大きく変わらないと考えられ、相対的な比較は可能であると思われる。
図18は、2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CWのピークは一本のラインである。YBCOは46.68°に(006)ピークが来て、例えばSmBCOであれば46.53度に、NdBCOであれが46.46度にピークが来ると言われている。LaBCOは46.00度である。これはランタノイド収縮と関連があり、原子半径が大きなLaではc軸長が長くなり、(006)ピークは低角側に位置する。
PrBCOがもしペロブスカイト構造を組んでPrの価数が変化しないのであれば、ピーク位置はLaBCOとNdBCOの中央部分となる46.2度付近に現れるはずである。しかし、図18の結果は、46.746度に一本のピークしかない。これはPrBCOとYBCOが、22%Pr混合でも共通のつまり単一のペロブスカイト構造を形成していることを意味している。単結晶あるいは結晶学的に連続であることを示す。ピーク強度は96000cps、2θ=46.746°であった。
図19は、2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CCのXRD結果であるが、ピーク強度が少し強くなり位置が0.02度高角側に移動した以外は、図18とほぼ同じ結果である114000cps、2θ=46.744°であった。このことも2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CCが2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CWに近い組成であることを暗に示している。
図18と図19から読めるFWHMと強度は、2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CWが0.380度と96000cps。2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CCは0.360度と114000cpsである。Prの量が多くなるとその部分が3価から4価へと変化し、c軸長が短くなりXRD測定においてずれが生じるためにピーク強度が弱くなることが予想される。そして幅がブロードになることが予想される。図19は、境界をまたいで測定しているため、YBCOと22%Pr-YBCOの両方の中間的な結果となる。Δωに相当するFWHMは0.360°で小さく、ピークは114000cpsと強い。
最後にほぼYBCOが形成されている領域の結果が図20である。YBCO単体なので1本のピークであることは当然であるが、この手法での評価による(006)ピーク位置は46.722度である。この値は最もずれている図18と0.024度しか違わない結果である。PrBCOは形成直後では46.2度付近にピークが来る構造であると推測されるが、Prの価数変化でc軸長が短くなり、(006)ピークは高角側にシフトする。22%Prが入ったものとYBCOとの、ペロブスカイト構造を常温で比較した結果の差は、わずか0.024度であった。
この0.024度は非常に小さな値である。YBCOとSmBCOは、TFA-MOD法においては共通のペロブスカイト構造を作れることは広く知られているが、その(006)ピーク位置は0.15度異なるのである。Prが分散したYBCOは、2θの差がより小さく、c軸長で同じ値に近いことを示す。更に安定的に存在する構造であることが予想される。
図20に示した2XRD-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO-CBの結果で、FWHMは0.32度であり、ピーク強度は124000cpsである。図18、図19、図20の結果から、連続した構造が原理的に形成可能であることをXRD結果は示しているし、連続したペロブスカイト構造が得られている証拠である。
これによりかつてレーザースクライビング法で穴をあけた構造でないとACロス低減はできなかったが、新しいPlanted Shared Insulator(PSI)法により、仮に非超電導幅を同じ100μmで形成したとしても、強度やダメージ回避に優れた構造が形成可能であることの原理が示された。
YBCOが形成されている領域と、22%Pr置換のYBCOが形成されている領域の境界と思われる近辺の高分解能TEM観察を実施した。
図21は20万倍で観察した断面TEM像である。TFA-MOD法は疑似液相で成長するため、液相が枯れた場所の膜厚が小さくなり、そうでない場所は厚くなることが知られている。その膜厚差は成膜条件に依存するが、800℃・1000ppm、加湿4.2%の成膜条件では70nmと言われている。
図21の下側の白い領域はLaAlO3単結晶基板であり、その上部にやや黒い縞模様がついて見える領域がYBCO超電導体である。YBCO超電導体の膜厚はスケールがついており、薄い部分は223nmで、厚い部分は301nmである。膜厚差からはほぼ条件通りに成膜された試料であることが解かる。図21からは見づらいが縞模様は全て基板と並行方向に走っている。つまりc軸配向粒子がそろっていることを示す。
図21のLaAlO3単結晶基板とYBCO超電導体の境界部を217万倍の高倍観察したTEM画像が図22である。図の下にはLaAlO3単結晶基板の各元素が見えており、その上部には横方向に縞模様で見える領域がYBCO超電導体のc軸配向粒子である。図22からわかるようにほぼ全面でc軸配向粒子が形成されており、図の左端に僅かに縦方向に縞がつながっている部分が見えるが、それがa/b軸配向粒子である。
a/b軸配向粒子はひとたび形成すると上側に早く成長するため壁を作って横方向(c軸配向粒子による超電流方向)の超電導電流を遮断し、大きく超電導特性を低下させることが多いが、この試料のこの視野ではa/b軸配向粒子が存在するのは図22の通り基板から高さ14ユニットセルまでしかなく、その上部には再びc軸配向粒子が形成していることが解かる。格子長が1:1:2.94であるため、a/b軸配向粒子とc軸配向粒子は共通な格子構造を形成できる。
図22で観察できるc軸配向粒子とa/b軸配向粒子は、XRD測定の極図形という手法で分離することが可能である。YBCO(102)面で極図形測定を行うと、a/b軸配向粒子はψ=56度付近で観測され、c軸配向粒子はψ=34度付近で観測される。その合計値とa/b軸配向強度の比から存在比率の定量評価可能であり、図22の結果では1.2%であった。a/b軸配向比率は3%以下であれば超電導特性はほぼ100%得られる。c軸配向部を超電導電流は自由に迂回できるためである。a/b軸配向比率が10%では特性が半分以下となり、30%ではゼロに近い1/100以下になる。
試料の別部位を52万倍で観察した結果は図23に示す。図23の下はLAO単結晶基板であり、その上部の黒い部分はYBCO超電導体である。横方向の縞模様はc軸配向粒子を示す。この視野ではa/b軸配向粒子は観測できない。
また、X線開設像を示す図の右上の結果も、c軸配向粒子がほぼ100%であることを示している。これらの観察結果は、右側がYBCOで左側は22%Pr置換されたYBCOであったが、境界は不明瞭でa/b軸配向粒子の形成は認められない。加えて極図形の結果からa/b軸配向粒子の存在比率は1.2%しかなかった。このことから、20%以上PrでYサイトを置換して非超電導体を形成する手法では、YBCOと共通のペロブスカイト構造を形成し、a/b軸配向粒子の形成は30%未満に抑制できることが解かった。
TFA-MOD法において超電導特性を低下させるa/b軸配向粒子は、過剰なユニットセルの放出により過剰な核生成に原因があると思われ、空隙を利用したACロス低減構造では、超電導体の特性が低下することとなる。空隙を形成してのACロス低減手法においては、超電導体部分へのa/b軸配向粒子形成は空隙から100μmと考えられ、その部分のa/b軸配向粒子の比率は30%以上にも達する。a/b軸配向粒子が30%に達すると超電導特性がほぼゼロとなるが、1/100として計算した場合、超電導幅が400μmの線材で、空隙形成によるACロス低減構造を実現ではa/b軸配向粒子が幅200μm形成され、特性が1/100となるため、400μm幅線材の総合的な特性は50.5%へと低下する。またその幅が短くなり、200μmとなれば全面がa/b軸配向粒子となるため、特性は1/100となる。
実施例では、空隙を形成しないことによりa/b軸配向粒子は1.2%と通常の形成量を維持している。また非超電導領域がより狭くなってもa/b軸配向粒子が形成されないことが期待され、大きなACロス低減効果を実現できる構造であることが解かる。
TFA-MOD法での成膜ではメニスカス部を利用して成膜するのが連続成膜プロセスでは基本となっている。その形成の鍵は図5に示す、超電導領域と非超電導領域の同時成膜である。
TFA-MOD法ではかつて、インクジェット方式により超電導領域だけを形成し、空隙部分で絶縁を保つ方式でACロス低減構造開発が報告されてきたが、その方式で超電導線材が完成して超電導コイルが形成し、応用されたという例は2020年時点で無い。開発から10年以上が経過した現状からすると難しい手法なのだと思われる。
難しさの一つは、粘度の低すぎるメタノール溶液の取り扱いである。インクジェットで液滴を射出した際に広がれば、超電導領域が隣接領域と接続する恐れがある。仮に液滴を制御してゲル膜が存在する部分とそれが無い部分を形成で来たとしても、TFA-MOD法での本焼反応ではガスが揮散し易い両端部の成長が早くなり、そして横倒しで超電導特性が低下するa/b軸配向粒子の量が増えることになり、良好な超電導特性が望めない。
それに対して図5に示すPSI法では、最終的に形成される超電導膜は1ミクロン前後で、ゲル膜で10μmの厚みしかなく、同時に成膜することで数ミクロンの拡散層は形成されるかもしれないが、100μmを超えることが無いことは容易に理解できる。そのため図1、図2に示すPSI構造が実現できるのである。
図1、図2の構造が実現することは、この実施例でのデータ検証からも明らかであり、PSI構造によりレーザースクライビング法で問題となった6つの問題点をすべて解決できることが理解できる。共通のペロブスカイト構造で非超電導領域を形成するPSI法は、線材化での機械的強度にも優れる。この技術が展開されればACロス低減が実現し、超電導のハイパワー応用が世界に広がることが容易に想像できる。
(実施例3)
図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:0.90:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質3Mi-Pr0.00Y1.00BCO(実施例3で説明する物質、0%Pr、100%Y Matrial with impurity)、及び3Mi-Pr0.22Y0.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質3Mi-Pr0.00Y1.00BCO、及び3Mi-Pr0.22Y0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質3Mi-Pr0.00Y1.00BCO、及び3Mi-Pr0.22Y0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液3CSi-Pr0.00Y1.00BCO(実施例3で説明するコーティング溶液、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、及び3CSi-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液3CSi-Pr0.00Y1.00BCO、及び3CSi-Pr0.22Y0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質3M-Pr0.00Y1.00BCO(実施例3で説明する物質、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、及び3M-Pr0.22Y0.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質3M-Pr0.00Y1.00BCO、及び3M-Pr0.22Y0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液3CS-Pr0.00Y1.00BCO(実施例3、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure)、及び3CS-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
メニスカスコートで成膜を実施するため、厚みが約0.2mmで3×4×5mmのプラスチック製の直方体で、3×4mm、及び3×5mmの隣接する二つの側面が無い容器を6つ準備する。4×5mmの面で、同じ面が開く向きで3つを接続する。
立てた10×30×0.50mmtの単結晶基板に、CVの3×4mm面を押し付けて、もう片方(3×5mm)の開放面が上方に向くようにする。両サイドの容器にコーティング溶液3CS-Pr0.00Y1.00BCOを上から1mm程度まで満たし、中央の溶液にコーティング溶液3CS-Pr0.22Y0.78BCOを上から1mm程度まで満たす。
単結晶基板を約12mm/sで引くと、ゲル膜3Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCO(実施例3のゲル膜)が形成される。ゲル膜形成時にコーティング溶液の境界部は少し混合が生じる可能性がある。約12mm/sの速度で引くと、約1.5μm厚のゲル膜が形成され、仮焼及び本焼後に0.15μm厚の酸化物薄膜となる。なお基板の下部がCVの下を通過すると、CV内の液は漏れ出て落下する。この状態では成膜速度が速くなり、膜厚は速度の0.5乗に比例するため厚くなり混合も起きる。そのため下部5mmもリン酸エッチングで除去する。
また同様に10×30×0.50mmtの単結晶基板にCVをセットし、その全ての容器にコーティング溶液3CS-Pr0.00Y1.00BCOを上から1mm程度まで満たす。
単結晶基板を約20mm/sで引くと、ゲル膜3Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOが形成される。ゲル膜形成時にコーティング溶液の境界部は少し混合が生じることになる。約12mm/sの速度で引くと、約2μm厚のゲル膜が形成され、仮焼及び本焼後に0.15μm厚の酸化物薄膜となる。
得られたゲル膜3Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCO、及び3Gel-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜3Cal-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCO(実施例3、calcined film)、及び3Cal-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜3Cal-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCO、及び3Cal-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCO (実施例3、fired oxide films)、及び3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOそれぞれ得た。
酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCOに耐薬品テープを貼り上部1mm、下部5mmを露出させ、0.7%リン酸水溶液中に60s浸すことにより不均質な超電導部を除去した。得られた約9mm幅、長さ15mmの酸化物薄膜は、長手方向に3mm毎にPr0.00Y1.00BCO、Pr0.22Y0.78BCO、Pr0.00Y1.00BCOが形成されているものと思われる。
酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCOの両サイドのPr0.00Y1.00BCOにそれぞれ3か所ずつ、銀蒸着を行い、180度下純酸素アニールにより銀と酸化物薄膜との接触性を改善した。各サイド、3か所の電極を3E-A1(実施例3の電極、A1)、3E-A2、3E-A3、逆サイドの3か所の電極を3E-B1、3E-B2、3E-B3とする。
液体窒素中に酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCOを設置し、各電極の導通を測定すると、3E-A1、3E-A2、3E-A3の相互で導通が確認され、3E-B1、3E-B2、3E-B3の相互でも導通が確認された。しかしその他の組み合わせでは導通は確認されなかった。そのため中央部のPr0.22Y0.78BCOが絶縁層として機能していることが分かった。
同様に酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOに耐薬品テープを貼り上部1mm、下部5mmを露出させ、0.7%リン酸水溶液中に60s浸すことにより不均質な超電導部を除去した。得られた約9mm幅、長さ15mmの酸化物薄膜は、長手方向に3mm毎にPr0.00Y1.00BCO、Pr0.00Y1.00BCO、Pr0.00Y1.00BCOが形成されているものと思われる。
各両サイドのPr0.00Y1.00BCOにそれぞれ3か所、銀蒸着を行い、180度下純酸素アニールにより銀と酸化物薄膜との接触性を改善した。各サイド、3か所の電極を3E-A1(実施例3の電極、A1)、3E-A2、3E-A3、逆サイドの3か所の電極を3E-B1、3E-B2、3E-B3とする。
液体窒素中に酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOを設置し、各電極の導通を測定すると、3E-A1、3E-A2、3E-A3、3E-B1、3E-B2、3E-B3の全ての組み合わせで導通が確認された。
この方式で成膜された超電導層は簡易的な手法であるため境界部に成膜されてない領域が存在し、導通が取れない可能性を考慮し、酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.00Y1.00BCOを準備したが、導通試験の結果からゲル膜成膜時に何らかの液の広がりが生じて連続したペロブスカイト構造が形成され、超電導電流が全ての電極において導通することが確認できた。
一方で、酸化物薄膜3F-Pr0.00Y1.00BCO+Pr0.22Y0.78BCO+Pr0.00Y1.00BCOは中央部が導通してないことは測定結果から明らかである。このことは実施例1、2の結果も含め共通のペロブスカイト構造を形成しながら、導通が無い構造体が形成されたことの証明ともなっている。この実験結果も、膜厚150nmの広い領域である100μm四方以上にわたって連続する領域で、共通のペロブスカイト構造を形成しながら超電導体が2か所に分けることができた最初の成功例としての証拠になると思われる。PSI法でのACロス低減技術の基礎が確認された。
(実施例4)
図3に示されるフローチャートに従い、8種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。コーティング溶液は、金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
Pr(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及びCu(OCOCH3)2の各水和物を、金属イオンモル比0.18:0.82:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3、0.24:0.76:2:3、0.27:0.73:2:3、0.30:0.70:2:3、0.35:0.65:2:3、及び0.40:0.60:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。
金属イオンモル比0.18:0.82:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3、0.24:0.76:2:3、0.27:0.73:2:3、0.30:0.70:2:3、0.35:0.65:2:3、及び0.40:0.60:2:3の原料からの反応及び精製からは、半透明青色の物質4Mi-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4で説明する物質、18%Pr, 82%Y Material with impurity)、4Mi-Pr0.20Y0.80BCO、4Mi-Pr0.22Y0.78BCO、4Mi-Pr0.24Y0.76BCO、4Mi-Pr0.27Y0.73BCO、4Mi-Pr0.30Y0.70BCO、4Mi-Pr0.35Y0.65BCO、及び4Mi-Pr0.40Y0.60BCOが得られた。
得られた半透明青色の物質4Mi-Pr0.18Y0.82BCO、4Mi-Pr0.20Y0.80BCO、4Mi-Pr0.22Y0.78BCO、4Mi-Pr0.24Y0.76BCO、4Mi-Pr0.27Y0.73BCO、4Mi-Pr0.30Y0.70BCO、4Mi-Pr0.35Y0.65BCO、及び4Mi-Pr0.40Y0.60BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
半透明青色の物質4Mi-Pr0.18Y0.82BCO、4Mi-Pr0.20Y0.80BCO、4Mi-Pr0.22Y0.78BCO、4Mi-Pr0.24Y0.76BCO、4Mi-Pr0.27Y0.73BCO、4Mi-Pr0.30Y0.70BCO、4Mi-Pr0.35Y0.65BCO、及び4Mi-Pr0.40Y0.60BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解したところ、4Mi-Pr0.27Y0.73BCO、4Mi-Pr0.30Y0.70BCO、4Mi-Pr0.35Y0.65BCO、及び4Mi-Pr0.40Y0.60BCOは不透明緑白色の沈殿が生じたため実験を中止した。メタノールとカルボンさんのエステル化反応が起きたものと思われる。
その他の溶液は精製を行い、コーティング溶液4CSi-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4で説明するコーティング溶液、18%Pr, 82%Y Material with impurity)、4CSi-Pr0.20Y0.80BCO、4CSi-Pr0.22Y0.78BCO、及び4CSi-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液4CSi-Pr0.18Y0.82BCO、4CSi-Pr0.20Y0.80BCO、4CSi-Pr0.22Y0.78BCO、及び4CSi-Pr0.24Y0.76BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質4M-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4で説明する物質、18%Pr, 82%Y Material without impurity)、4M-Pr0.20Y0.80BCO、4M-Pr0.22Y0.78BCO、及び4M-Pr0.24Y0.76BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質4M-Pr0.18Y0.82BCO、4M-Pr0.20Y0.80BCO、4M-Pr0.22Y0.78BCO、及び4M-Pr0.24Y0.76BCOをメタノール(図2のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液4CS-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4、Coating Solution for 18%Pr, 82%Y perovskite structure)、4CS-Pr0.20Y0.80BCO、4CS-Pr0.22Y0.78BCO、及び4CS-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液4CS-Pr0.18Y0.82BCO、4CS-Pr0.20Y0.80BCO、4CS-Pr0.22Y0.78BCO、及び4CS-Pr0.24Y0.76BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上に成膜を行い、半透明青色のゲル膜4Gel-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4、gel film of resulting 18%Pr, 82%Y films)、4Gel-Pr0.20Y0.80BCO、4Gel-Pr0.22Y0.78BCO、及び4Gel-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれ得た。
得られたゲル膜、4Gel-Pr0.18Y0.82BCO、4Gel-Pr0.20Y0.80BCO、4Gel-Pr0.22Y0.78BCO、及び4Gel-Pr0.24Y0.76BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜4Cal-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4、calcined film of resulting 18%Pr, 82%Y films)、4Cal-Pr0.20Y0.80BCO、4Cal-Pr0.22Y0.78BCO、及び4Cal-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜4Cal-Pr0.18Y0.82BCO、4Cal-Pr0.20Y0.80BCO、4Cal-Pr0.22Y0.78BCO、及び4Cal-Pr0.24Y0.76BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4、fired oxide films of Pr0.18Y0.82BCO)、4F-Pr0.20Y0.80BCO、4F-Pr0.22Y0.78BCO、及び4F-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれ得た。
酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCO(実施例4、fired oxide films of Pr0.18Y0.82BCO)、4F-Pr0.20Y0.80BCO、4F-Pr0.22Y0.78BCO、及び4F-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。
酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCO、4F-Pr0.20Y0.80BCO、4F-Pr0.22Y0.78BCO、及び4F-Pr0.24Y0.76BCOをそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。得られた超電導特性はそれぞれ、0.00、0.00、0.00、及び0.00MA/cm2(77K,0T)であった。
Prの5倍劣化現象が効いたとしても、酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCOには超電導部が10%残るはずであるが、測定結果はゼロであった。誘導法で判別できるJc値は0.20MA/cm2(77K、0T)と推定され、計算上は0.67MA/cm2(77K、0T)の特性が得られるはずで誘導法でも検知できるはずだが、0.00であった。
酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCO、4F-Pr0.20Y0.80BCO、4F-Pr0.22Y0.78BCO、及び4F-Pr0.24Y0.76BCOの膜表面の10mm角対角線方向に垂直に、幅2mmの銀を4本電子ビーム法での銀蒸着し、純酸素下180℃で熱処理を行い、蒸着銀と超電導層の接触性を改善した。両端部の2端子が電流端子で、中央部の2端子は電圧端子である。試料は液体窒素直上に設置した金属プレートを上下する手法で温度を制御し、直流4端子法により0.10μAの電流でTc測定を行った。Tcは1μV/cmの基準で判定した。
得られたTc値は酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCOが、90.34Kであった。その他の酸化物薄膜4F-Pr0.20Y0.80BCO、4F-Pr0.22Y0.78BCO、及び4F-Pr0.24Y0.76BCOは、超電導転移が確認できなかった。
XRD相同定の結果と誘導法及び直流4端子法から、酸化物薄膜4F-Pr0.20Y0.80BCO、4F-Pr0.22Y0.78BCO、及び4F-Pr0.24Y0.76BCOはYBCOと共通のペロブスカイト構造を持ちながらPrが持つ5倍劣化現象で超電導特性がゼロとなる、非超電導層であることがわかった。ただし酸化物薄膜4F-Pr0.18Y0.82BCOは、誘導法での特性が示されなかったものの、Tc測定においては超電導転移が確認されている。このことから低いながらも超電導転移で連続した導通路が測定電流端子間では存在し、Tc測定結果だけが得られたことが推測される。そのため18%Pr置換のYBCO超電導体を用いる場合、不完全な超電導電流の遮断によりACロス低減効果が小さくなることが考えられる。
しかし、超電導応用の用途によっては18%Pr置換の超電導体でも使用可能な応用先も存在するかもしれない。電流値の漏れの許容量で応用の可否が決まると思われるが、基本的により確実なACロス低減効果を見込むのであれば、20%以上のPrでYを置換したYBCOを用いることが望ましいことが解かった。
Prの置換量、27%、30%、35%、40%では初日の反応及び溶液生成時には分解反応などが起きていないが、メタノール溶液としたら沈殿が生じている。これはPS-SIG法による安定化が限界となったものと思われ、エステル化反応によりメタノールとトリフルオロ酢酸塩が反応しコーティング溶液が分解したものと思われる。今後、酢酸プラセオジムの純度が改善するとPr置換量の上限は多少改善することが予想される。不純物がエステル化反応を引き起こしている可能性が考えられ、それが抑制されるためである。
しかしPrの純度が改善しても、置換可能量の上昇には限界があると思われる。Prは元来大きなイオン半径を持つ物質であり、メタノール溶液中ではエステル化反応を起こしやすい物質である。Prよりもイオン半径が小さなSmBCOをYBCOを使って安定化させる場合においても、SmのYに対する置換量は約50%が限界であることから、Prにも限界の置換量が存在することが容易に想定できる。
Pr置換量は20%、22%、24%であれば100μm四方の領域の非超電導体を形成して超電導領域を分割し、ACロス低減効果が見込める構造が得られることが実験結果からわかった。
(実施例5)
図3に示されるフローチャートに従い、4種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。最初に合成する2種類のコーティング溶液の一つは、金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH3)3、純度99%のDy(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用いた組み合わせで溶液を合成し、もう一つは金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH3)3、純度99%のHo(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用いた組み合わせで溶液を合成した。
上記の2種類の組み合わせにおいてそれぞれ、順に金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質5Mi-low-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5で説明する物質、Pr低純度、22%Pr, 78%Dy Material with impurity)、及び5Mi-low-Pr0.22Ho0.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質5Mi-low-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5Mi-low-Pr0.22Ho0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質5Mi-low-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5Mi-low-Pr0.22Ho0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解したところ、緑白色の沈殿が生じたため実験を中止した。
図3に示されるフローチャートに従い、合成する残り2種類のコーティング溶液の一つは、金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のDy(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用いた組み合わせで溶液を合成し、もう一つは金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のHo(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用いた組み合わせで溶液を合成した。
上記の2種類の組み合わせにおいてそれぞれ、順に金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質5Mi-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5で説明する物質、Pr高純度、22%Pr, 78%Dy Material with impurity)、及び5Mi-high-Pr0.22Ho0.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質5Mi-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5Mi-high-Pr0.22Ho0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質5Mi-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5Mi-high-Pr0.22Ho0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、5CSi-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5で説明するコーティング溶液、Pr高純度、22%Pr, 78%Dy Material with impurity)、及び5CSi-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液5CSi-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5CSi-high-Pr0.22Ho0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質5M-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5で説明する物質、Pr高純度、22%Pr, 78%Dy Material without impurity)、及び5M-high-Pr0.22Ho0.78BCOが得られた。
半透明青色の物質5M-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5で説明する物質、Pr高純度、22%Pr, 78%Dy Material without impurity)、及び5M-high-Pr0.22Ho0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液5CS-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5で説明するコーティング溶液、Pr高純度、22%Pr, 78%Dy Material without impurity)、及び5CS-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液5CS-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5CS-high-Pr0.22Ho0.78BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上に成膜を行い、半透明青色のゲル膜5Gel-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5、Pr高濃度、gel film of resulting 22%Pr, 78%Dy films)、及び5Gel-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれ得た。
得られたゲル膜、5Gel-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5Gel-high-Pr0.22Ho0.78BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜5Cal-high-Pr0.22Dy0.78BCO(実施例5、Pr高濃度、calcined film of resulting 22%Pr, 78%Dy films)、及び5Cal-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜5Cal-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5Cal-high-Pr0.22Ho0.78BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜5F-high-Pr0.22Dy0.78BCO (実施例5、fired oxide films of Pr0.22Dy0.78BCO、Pr高濃度)、及び5F-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれ得た。
酸化物薄膜5F-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5F-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、DyBCO(00n)及びHoBCO(00n)のピークが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。DyBCO(006)及びHoBCO(006)がそれぞれ最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。また希土類のペロブスカイト構造の特徴的なピーク強度もまた観測された。すなわち(00n)ピークの7本の内で、強度の大きな3本のピークは(001)、(003)、(006)である特徴である。YBCOの場合は(003)、(005)、(006)の3本が強いピークとなる。
酸化物薄膜5F-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5F-high-Pr0.22Ho0.78BCOをそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。得られた超電導特性はそれぞれ、0.00、及び0.00MA/cm2(77K,0T)であった。
酸化物薄膜5F-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5F-high-Pr0.22Ho0.78BCOの膜表面の10mm角対角線方向に垂直に、幅2mmの銀を4本電子ビーム法での銀蒸着し、純酸素下180℃で熱処理を行い、蒸着銀と超電導層の接触性を改善した。両端部の2端子が電流端子で、中央部の2端子は電圧端子である。試料は液体窒素直上に設置した金属プレートを上下する手法で温度を制御し、直流4端子法により0.10μAの電流でTc測定を行った。Tcは1μV/cmの基準で判定した。
酸化物薄膜5F-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5F-high-Pr0.22Ho0.78BCOの超電導転移は観測されず、Tc測定レベルでも超電導体は観測されなかった。
XRD相同定の結果と誘導法及び直流4端子法から、酸化物薄膜5F-high-Pr0.22Dy0.78BCO、及び5F-high-Pr0.22Ho0.78BCOと共通のペロブスカイト構造を持ちながらPrが持つ5倍劣化現象で超電導特性がゼロとなる、非超電導層であることがわかった。Prの5倍劣化現象はPr量が20%を超えてでも適用される現象が、マトリックスの超電導体がYBCOでなくても、DyBCOでもHoBCOでも共通に適用されることが解かった。
今回の溶液合成において、マトリックス元素がYからDyやHoに替わってもPrの純度が98%の溶液合成においては沈殿が生じていた。沈殿物は色からPr化合物であると考えられる。Prが22%置換できる条件は、Prが高純度であることが条件として考えられる。その条件下で、PS-SIG法を適用すると溶液が得られることが解かった。
(実施例3)
図3に示されるフローチャートに従い、3種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。第1のコーティング溶液は、金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH3)3、純度99%のDy(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用いた組み合わせで溶液を合成し、第2のコーティング溶液は、金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH3)3、純度99%のHo(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用い、第3のコーティング溶液は金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH3)3、純度99%のYb(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を用いた組み合わせで溶液を合成した。
上記の3種類の組み合わせにおいてそれぞれ、順に金属イオンモル比0.15:0.85:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質6Mi-low-Pr0.15Dy0.85BCO(実施例6で説明する物質、Pr低純度、15%Pr, 85%Dy Material with impurity)、6Mi-low-Pr0.15Ho0.85BCO、及び6Mi-low-Pr0.15Yb0.85BCOを得た。
得られた半透明青色の物質6Mi-low-Pr0.15Dy0.85BCO、6Mi-low-Pr0.15Ho0.85BCO、及び6Mi-low-Pr0.15Yb0.85BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質6Mi-low-Pr0.15Dy0.85BCO、6Mi-low-Pr0.15Ho0.85BCO、及び6Mi-low-Pr0.15Yb0.85BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解したところ、全ての溶液で緑白色の沈殿が生じたため実験を中止した。
マトリックス元素をDyやHoとした系で、Pr量が15%へと低減した場合に沈殿が生じずにコーティング溶液が得られるかを調べたが得られなかった。Prの純度は98%のものは沈殿が生じやすいとみられ、ACロス低減構造を実現するにはPr純度が99%以上のものを用いることが好ましいことが、この実験ではわかった。
また重希土類であるYbをマトリックスにした系を試してみたが、結果は同じであった。Pr純度が高いことが共通のペロブスカイト構造を形成しながら非超電導体を形成できる条件であることが解かった。現時点ではマトリックス元素に何を用いても変化は生じなかった。
(実施例7)
図3に示されるフローチャートに従い、4種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。第1のコーティング溶液は、金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物及び無水物を用いた組み合わせで溶液を合成した。
順に金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質7Mi-Pr0.22Y0.78BCO(実施例7で説明する物質、22%Pr, 78%Y Material with impurity)を得た。
第2~第4のコーティング溶液は、上記の純度99%のY(OCOCH3)3に代えて、純度99%のDy(OCOCH3)3、純度99%のHo(OCOCH3)3、及び純度99%のYb(OCOCH3)3を用い、金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質7Mi-Pr0.22Dy0.78BCO、7Mi-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7Mi-Pr0.22Yb0.78BCOをそれぞれ得た。
得られた半透明青色の物質7Mi-Pr0.22Y0.78BCO、7Mi-Pr0.22Dy0.78BCO、7Mi-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7Mi-Pr0.22Yb0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質7Mi-Pr0.22Y0.78BCO、7Mi-Pr0.22Dy0.78BCO、7Mi-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7Mi-Pr0.22Yb0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、7CSi-high-Pr0.22Y0.78BCO(実施例7で説明するコーティング溶液、22%Pr, 78%Y Material with impurity)、7CSi-high-Pr0.22Dy0.78BCO、7CSi-high-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7CSi-high-Pr0.22YB0.78BCOをそれぞれ得た。
得られた7CSi-high-Pr0.22Y0.78BCO、7CSi-high-Pr0.22Dy0.78BCO、7CSi-high-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7CSi-high-Pr0.22YB0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと、半透明青色の物質7M-high-Pr0.22Y0.78BCO(実施例7で説明する物質、22%Pr, 78%Y Material without impurity)、7M-high-Pr0.22Dy0.78BCO、7M-high-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7M-high-Pr0.22Yb0.78BCOが得られた。
半透明青色の物質7M-high-Pr0.22Y0.78BCO、7M-high-Pr0.22Dy0.78BCO、7M-high-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7M-high-Pr0.22Yb0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.78BCO(実施例7で説明するコーティング溶液、22%Pr, 78%Y without impurity)、7CS-Pr0.22Dy0.78BCO、7CS-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7CS-Pr0.22Yb0.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液2種類を混合し、新たなコーティング溶液を作成する。まず7CS-Pr0.22Y0.78BCOと7CS-Pr0.22Dy0.78BCOを1:3、2:2、3:1の比でそれぞれ混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO(実施例7で説明するコーティング溶液、22%Pr, 19.5%Y, 58.5%Dy without impurity)、7CS-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、及び7CS-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCOをそれぞれ得た。
同様にコーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.78BCOと7CS-Pr0.22Ho0.78BCOを1:3、2:2、3:1の比でそれぞれ混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7CS-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、及び7CS-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCOをそれぞれ得た。
同様にコーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.78BCOと7CS-Pr0.22Yb0.78BCOを1:3、2:2、3:1の比でそれぞれ混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7CS-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、及び7CS-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCOをそれぞれ得た。
同様にコーティング溶液7CS-Pr0.22Dy0.78BCOと7CS-Pr0.22Ho0.78BCOを1:3、2:2、3:1の比でそれぞれ混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7CS-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、及び7CS-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCOをそれぞれ得た。
同様にコーティング溶液7CS-Pr0.22Dy0.78BCOと7CS-Pr0.22Yb0.78BCOを1:3、2:2、3:1の比でそれぞれ混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7CS-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、及び7CS-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液3種類を混合し、新たなコーティング溶液を作成する。7CS-Pr0.22Y0.78BCO、7CS-Pr0.22Dy0.78BCO、及び7CS-Pr0.22Ho0.78BCOを1:1:1で混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCOを得た。
コーティング溶液4種類を混合し、新たなコーティング溶液を作成する。7CS-Pr0.22Y0.78BCO、7CS-Pr0.22Dy0.78BCO、7CS-Pr0.22Ho0.78BCO、及び7CS-Pr0.22Yb0.78BCOを1:1:1:1で混合し、コーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOを得た
コーティング溶液7CS-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7CS-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7CS-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7CS-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7CS-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7CS-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7CS-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7CS-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7CS-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7CS-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7CS-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7CS-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7CS-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7CS-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7CS-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7CS-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7CS-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上に成膜を行い、半透明青色のゲル膜7Gel-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO(実施例7、gel film of resulting 22%Pr, 19.5%Y、58.5%Dy films)、7Gel-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7Gel-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7Gel-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7Gel-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7Gel-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7Gel-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7Gel-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7Gel-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7Gel-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7Gel-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOをそれぞれ得た。
得られたゲル膜、7Gel-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7Gel-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7Gel-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7Gel-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7Gel-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7Gel-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7Gel-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7Gel-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7Gel-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7Gel-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7Gel-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7Gel-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜7Cal-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO(実施例7、calcined film of resulting 22%Pr, 19.5%Y, 58.5%Dy films)、7Cal-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7Cal-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7Cal-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7Cal-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7Cal-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7Cal-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7Cal-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7Cal-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7Cal-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7Cal-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜7Cal-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7Cal-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7Cal-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7Cal-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7Cal-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7Cal-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7Cal-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7Cal-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7Cal-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7Cal-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7Cal-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7Cal-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜7F-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO(実施例7、fired oxide films of Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO)、7F-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7F-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOをそれぞれ得た。
酸化物薄膜7F-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7F-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)、DyBCO(00n)、HoBCO(00n)及びYbBCO(00n)のピークが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。ピークの強度はYBCOの比率が高いものは(003)、(005)、及び(006)ピーク強度が強く、それ以外のものは(001)、(003)、及び(006)ピーク強度が強い、ReBCO(00n)の特徴が表れていた。それぞれの結果において、最強ピーク(006)と、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。
酸化物薄膜7F-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7F-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOをそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。得られた超電導特性はすべて0.00MA/cm2(77K,0T)であった。
酸化物薄膜7F-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7F-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOの膜表面の10mm角対角線方向に垂直に、幅2mmの銀を4本電子ビーム法での銀蒸着し、純酸素下180℃で熱処理を行い、蒸着銀と超電導層の接触性を改善した。両端部の2端子が電流端子で、中央部の2端子は電圧端子である。試料は液体窒素直上に設置した金属プレートを上下する手法で温度を制御し、直流4端子法により0.10μAの電流でTc測定を行った。Tcは1μV/cmの基準で判定した。
酸化物薄膜7F-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7F-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOの全てにおいて超電導転移は観測されず、Tc測定レベルでも超電導体は観測されなかった。
XRD相同定の結果と誘導法及び直流4端子法から、酸化物薄膜7F-Pr0.22Y0.195Dy0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Dy0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Dy0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.195Yb 0.585BCO、7F-Pr0.22Y0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Ho0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Ho0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Ho0.195BCO、7F-Pr0.22Dy0.195Yb0.585BCO、7F-Pr0.22Dy0.38Yb0.38BCO、7F-Pr0.22Dy0.585Yb0.195BCO、7F-Pr0.22Y0.26Dy0.26Ho0.26BCO、及び7F-Pr0.22Y0.195Dy0.195Ho0.195Yb0.195BCOは、YBCOと共通のペロブスカイト構造を持ちながらPrが持つ5倍劣化現象で超電導特性がゼロとなる、非超電導層であることがわかった。母相となる溶液元素がY、Dy、Ho、及びYbの場合を今回は調べたが、基本的に分解しやすいLa、Nd、Smを除けばどの元素を用いても沈殿の無いコーティング溶液が得られ、その溶液から成膜、仮焼、本焼、及び酸素アニールによりペロブスカイト構造を有する非超電導体が形成されることが解かった。
これに関連して母相となる元素が例えばYの場合、7F-Pr0.22Y0.585Yb0.195BCOの組成であればCARPを形成する可能性がある。母相であるYに対して、大サイズのイオン半径であるPrと小サイズのイオン半径のYbが存在するためである。関連出願ではPr量が20%までの組成の実験しかしておらず、本実施例が初の実験例となる。
この場合、仮にCARPを形成した場合PrとYbがそれぞれ19.5%、合計で38%の量がCARPを形成することとなる。CARPサイズが十分小さく分散していれば隣接セルが非超電導化するため、ペロブスカイト構造を形成した非超電導層となる。
一方で大きなCARPを形成していれば、その周辺部は非超電導となるが、それ以外の部分は超電導のままである。その場合にはTc測定で少なからず超電導電流の通電が確認されるはずであるが、実験結果はそうなってはいない。そのためサイズは不明ながら十分に小さい、例えば5nm以下のCARPが形成して全体として超電導電流の導通が無い構造体ができ上がったものと思われる。
(実施例8)
図3に示されるフローチャートに従い、3種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。コーティング溶液は、金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
Pr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物を、金属イオンモル比0.18:0.82:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。
金属イオンモル比0.18:0.82:2:3、0.20:0.80:2:3、及び0.22:0.78:2:3の原料からの反応及び精製からは、半透明青色の物質8Mi-Pr0.18Y0.82BCO(実施例8で説明する物質、18%Pr, 82%Y Material with impurity)、8Mi-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Mi-Pr0.22Y0.78BCOが得られた。
得られた半透明青色の物質8Mi-Pr0.18Y0.82BCO、8Mi-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Mi-Pr0.22Y0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質8Mi-Pr0.18Y0.82BCO、8Mi-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Mi-Pr0.22Y0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加えコーティング溶液8CSi-Pr0.18Y0.82BCO(実施例8で説明するコーティング溶液、18%Pr, 82%Y Material with impurity)、8CSi-Pr0.20Y0.80BCO、及び8CSi-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液8CSi-Pr0.18Y0.82BCO、8CSi-Pr0.20Y0.80BCO、及び8CSi-Pr0.22Y0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質8M-Pr0.18Y0.82BCO(実施例8で説明する物質、18%Pr, 82%Y Material without impurity)、8M-Pr0.20Y0.80BCO、及び8M-Pr0.22Y0.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質8M-Pr0.18Y0.82BCO、8M-Pr0.20Y0.80BCO、及び8M-Pr0.22Y0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液8CS-Pr0.18Y0.82BCO(実施例8、Coating Solution for 18%Pr, 82%Y perovskite structure)、8CS-Pr0.20Y0.80BCO、及び8CS-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液8CS-Pr0.18Y0.82BCOと8CS-Pr0.20Y0.80BCOを1:1で混合することにより、コーティング溶液8CS-Pr0.19Y0.81BCOを得た。濃度は金属イオン換算で1.50mol/lである。
同様にコーティング溶液8CS-Pr0.20Y0.80BCOと8CS-Pr0.22Y0.82.BCOを1:1で混合することにより、コーティング溶液8CS-Pr0.21Y0.79BCOを得た。濃度は金属イオン換算で1.50mol/lである。
更にコーティング溶液8CS-Pr0.18Y0.82BCOと8CS-Pr0.22Y0.78BCOを1:1で混合することにより、コーティング溶液8CS-mixed-Pr0.20Y0.80BCOを得た。濃度は金属イオン換算で1.50mol/lである。
コーティング溶液8CS-Pr0.19Y0.81BCO、8CS-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8CS-Pr0.21Y0.79BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上に成膜を行い、半透明青色のゲル膜8Gel-Pr0.19Y0.81BCO(実施例8、gel film of resulting 19%Pr, 81%Y films)、8Gel-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Gel-Pr0.21Y0.79BCOをそれぞれ得た。
得られたゲル膜、8Gel-Pr0.19Y0.81BCO、8Gel-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Gel-Pr0.21Y0.79BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜8Cal-Pr0.19Y0.81BCO(実施例8、calcined film of resulting 19%Pr, 81%Y films)、8Cal-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Cal-Pr0.21Y0.79BCOをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜8Cal-Pr0.19Y0.81BCO、8Cal-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8Cal-Pr0.21Y0.79BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCO(実施例4、fired oxide films of Pr0.19Y0.81BCO)、8F-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8F-Pr0.21Y0.79BCOをそれぞれ得た。
酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCO、8F-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8F-Pr0.21Y0.79BCOをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。
酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCO、8F-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8F-Pr0.21Y0.79BCOをそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。得られた超電導特性はそれぞれ、0.00、0.00、及び0.00MA/cm2(77K,0T)であった。
Prの5倍劣化現象が効いたとしても、酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCOには超電導部が5%残るはずであるが、測定結果はゼロであった。誘導法で判別できるJc値は0.20MA/cm2(77K、0T)と推定され、計算上は0.33MA/cm2(77K、0T)の特性が得られるはずである。実施例4と同様に超電導の電流流路が太くつながっていないだけの可能性もあるため、Tc測定による導通を調べることとした。
酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCO、8F-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8F-Pr0.21Y0.79BCOの膜表面の10mm角対角線方向に垂直に、幅2mmの銀を4本電子ビーム法での銀蒸着し、純酸素下180℃で熱処理を行い、蒸着銀と超電導層の接触性を改善した。両端部の2端子が電流端子で、中央部の2端子は電圧端子である。試料は液体窒素直上に設置した金属プレートを上下する手法で温度を制御し、直流4端子法により0.10μAの電流でTc測定を行った。Tcは1μV/cmの基準で判定した。
得られたTc値は酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCOが、90.43Kであった。その他の酸化物薄膜8F-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8F-Pr0.21Y0.79BCOは、超電導転移が確認できなかった。
XRD相同定の結果と誘導法及び直流4端子法から、酸化物薄膜8F-mixed-Pr0.20Y0.80BCO、及び8F-Pr0.21Y0.79BCOと共通のペロブスカイト構造を持ちながらPrが持つ5倍劣化現象で超電導特性がゼロとなる、非超電導層であることがわかった。ただし酸化物薄膜8F-Pr0.19Y0.81BCOは、誘導法での特性が示されなかったものの、Tc測定においては超電導転移が確認されている。このことから低いながらも超電導転移で連続した導通路が測定電流端子間では存在し、Tc測定結果だけが得られたことが推測される。そのため19%Pr置換のYBCO超電導体を用いる場合、不完全な超電導電流の遮断によりACロス低減効果が小さくなることが考えられる。
しかし、実施例4で記載したとおり、超電導応用の用途によっては19%Pr置換の超電導体でも使用可能な応用先も存在するかもしれない。電流値の漏れの許容量で応用の可否が決まると思われるが、基本的により完全なACロス低減効果を見込むのであれば、20%以上のPrでYを置換したYBCOを用いることが望ましいことが再び解かった。
(実施例9)
図3に示されるフローチャートに従いコーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
Pr(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及びCu(OCOCH3)2を金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質9Mi-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9で説明する物質、22%Pr、78%Y Matrial with impurity)を得た。
上記のコーティング溶液とは別のコーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のSm(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のTm(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
Pr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及びCu(OCOCH3)2を金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質9Mi-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO(実施例9で説明する物質、2%Pr、2%Sm、92%Y、4%Tm Matrial with impurity)を得た。
得られた半透明青色の物質9Mi-Pr0.22Y0.78BCO、及び9Mi-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質9Mi-Pr0.22Y0.78BCO、及び9Mi-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液9CSi-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9で説明するコーティング溶液22%Pr, 78%Y Material with impurity)、9CSi-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液9CSi-Pr0.22Y0.78BCO、及び9CSi-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質9M-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9で説明する物質、22%Pr, 78%Y Material without impurity)、9M-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質9M-Pr0.22Y0.78BCO、及び9M-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液9CS-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9、Coating Solution for 22%Pr, 78%Y perovskite structure)、及び9CS-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液9CS-Pr0.22Y0.78BCO、及び9CS-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上にそれぞれ2枚の成膜を行い、半透明青色のゲル膜9Gel-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9、gel film of resulting 22%Pr, 78%Y films)、及び9Gel-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOをそれぞれ得た。このゲル膜は本焼後に膜厚が150nmとなる成膜条件である。
コーティング溶液9CS-Pr0.22Y0.78BCO、及び9CS-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOを用い、スピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液9CS-Pr0.22Y0.78BCOを、反対側コーティング溶液9CS-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜9Gel-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-C(実施例9、gel film of resulting 22%Pr, 78%Y films and 2%Pr, 2%Sm, 92%Y, 4%Tm films、chimera)を得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sであり、用いた単結晶基板は10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板である。
半透明青色のゲル膜9Gel-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、9Gel-Pr0.22Y0.78BCO、9Gel-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO、及び9Gel-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜9Cal-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9、calcined film of resulting 22%Pr, 78%Y films、)、9Cal-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO、及び9Cal-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜9Cal-Pr0.22Y0.78BCO、9Cal-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO、及び9Cal-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜9F-Pr0.22Y0.78BCO(実施例9、fired oxide films of Pr0.22Y0.78BCO)、9F-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO、及び9F-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cそれぞれ得た。
酸化物薄膜9F-Pr0.22Y0.78BCO、9F-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO、及び9F-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cの中央部をそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜9F-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cは上記中央部以外に2点、中心部から両側長手方向の中心部より10mmPr0.22Y0.78BCO側、及び10mmPr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO側に移動した位置を中心にXRD測定の2θ/ω法で測定を行った。結果はYBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜9F-Pr0.22Y0.78BCO、及び9F-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。得られた結果はそれぞれ、0.00MA/cm2(77K,0T)、及び6.24MA/cm2(77K,0T)であった。このことから9F-Pr0.22Y0.78BCOは非超電導のペロブスカイト構造を形成した酸化物薄膜であり、9F-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOはペロブスカイト構造を有する超電導薄膜であることが解かった。
酸化物薄膜9F-Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOは4%Tm-CARPと読んでおり、クラスター化原子置換型人工ピンであるCARPが内部に形成されたYBCO超電導膜である。この構造体は磁場中では量子磁束をCARPが捕捉するため、特性が高いという特徴を持つが、ゼロ磁場では非超電導部で電流が稼げない分、特性か低下する傾向があり、その結果がやや低い超電導特性となって表れたものと思われる。
酸化物薄膜9F-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cの外観であるが、22%Prが存在するところはやや白みがかった色であり、4%Tm-CARP部分は艶のある黒色であった。これは実施例2で説明の通り、22%Prが存在する部分の本焼時最適酸素分圧が1000ppmではないためである。仮に最適酸素分圧がYBCOで1000ppm、PrBCOが1ppmならば、対枢軸で比例なのであれば218ppmとなる。なおTFA-MOD法ではこの程度酸素分圧がずれていても超電導体が形成されることはわかっている。ただ最適力のずれで表面に異相などが形成されて白く見える可能性がある。
一方、Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOの800℃本焼での最適酸素分圧はほぼ1,000ppmと考えられる。最適酸素分圧を小さくするPr,Smと同じ比率で最適酸素分圧を大きくするTmが含まれており、ある程度相殺されるからである。そのため800℃・1,000ppmの本焼条件下で最適条件に近い場合に見られる黒い艶のある構造体が得られたものと考えられる。
酸化物薄膜9F-Pr0.22Y0.78BCO+ Pr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCO-Cの中央部と、両側に10mm移動した位置を中心とするXRD測定結果は実施例2の結果とほぼ同じであり、YBCOがPr0.02Sm0.02Y0.92Tm0.04BCOに入れ替わっただけの結果にも思える。特に強度がYBCOとReBCOで変化しにくい(006)ピークでは実施例2とほぼ同じ結果となった。格子定数差が小さいため、共通のペロブスカイト構造を形成していると思われる。
Prが22%YBCOのYサイトを置換した酸化物薄膜であるが、YBCOと共通のペロブスカイト構造を形成するだけでなく、そのYBCOのYサイトが合計8%Pr、Sm、Tmに置換した4%Tm-CARPでも同じように共通のペロブスカイト構造を形成しているものと思われる。
なお、4%Tm-CARP部分であるが、Tm-CARPを形成し磁場特性を改善できる構造体である可能性が高い。今回の実験では測定を行っていないが、今回成膜された超電導体は膜厚が150nmしかない。仮焼時でも膜厚は約5倍の750nmしかなく、本焼時に疑似液相を形成してもその液相の厚み、あるいは深さは300nm程度と予想される。仮に仮焼膜と同じ密度であっても750nmでしかない。
TFA-MOD法は格子マッチしたサイトのみから成長を施すのが特徴で、そのために本焼時の焼成温度は比較的低温で行うこととなり、疑似液相の流動性は低くなる。また物質はフッ素や酸素と共に金属元素が多数存在し、電気陰性度差から強くクーロン力が作用し元素が移動しにくくなっている。そのため水平方向への移動距離、あるいは組成の異なる物質の界面での拡散距離は限られたものとなり、1μmですら移動ができないと思われる。
仮に4%Tm-CARPを幅100μmで形成した場合、量端部1μmに22%Pr-YBCOが拡散しても、98μm幅が残ることとなる。その残った98μm幅部分は4%Tm-CARPであり、800℃・1000ppmの条件下で本焼を行えばCARPが形成される。本焼条件は22%Pr含有側でない物質の条件に合わせるためである。
結果として、4%Tm-CARPを共通のペロブスカイト構造を持つ非超電導物質で分割した構造体が得られたものと、各種実験結果からは推測される。
(実施例10)
図3に示されるフローチャートに従い3種類のコーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH3)3、純度99%のY(OCOCH3)3、純度99%のBa(OCOCH3)2、純度99%のCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用いた。
Pr(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及びCu(OCOCH3)2を金属イオンモル比0.10:0.90:2:3、0.15:0.85:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質10Mi-Pr0.10Y0.90BCO(実施例10で説明する物質、10%Pr、90%Y Matrial with impurity)、10Mi-Pr0.15Y0.85BCO、及び10Mi-Pr0.22Y0.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質10Mi-Pr0.10Y0.90BCO、10Mi-Pr0.15Y0.85BCO、及び10Mi-Pr0.22Y0.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質10Mi-Pr0.10Y0.90BCO、10Mi-Pr0.15Y0.85BCO、及び10Mi-Pr0.22Y0.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液10CSi-Pr0.10Y0.90BCO(実施例10で説明するコーティング溶液10%Pr, 90%Y Material with impurity)、10CSi-Pr0.15Y0.85BCO、及び10CSi-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
得られた10CSi-Pr0.10Y0.90BCO、10CSi-Pr0.15Y0.85BCO、及び10CSi-Pr0.22Y0.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質10M-Pr0.10Y0.90BCO(実施例10で説明する物質、10%Pr, 90%Y Material without impurity)、10M-Pr0.15Y0.85BCO、及び10M-Pr0.22Y0.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質10M-Pr0.10Y0.90BCO、10M-Pr0.15Y0.85BCO、及び10M-Pr0.22Y0.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液10CS-Pr0.10Y0.90BCO(実施例10、Coating Solution for 10%Pr, 90%Y perovskite structure)、10CS-Pr0.15Y0.85BCO、及び1CS-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液10CS-Pr0.10Y0.90BCO、10CS-Pr0.15Y0.85BCO、及び10CS-Pr0.22Y0.78BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上にそれぞれ2枚の成膜を行い、半透明青色のゲル膜10Gel-Pr0.10Y0.90BCO(実施例10、gel film of resulting 10%Pr, 90%Y films)、10Gel-Pr0.15Y0.85BCO、及び1Gel-Pr0.22Y0.78BCOをそれぞれ得た。このゲル膜は本焼後に膜厚が150nmとなる成膜条件である。
コーティング溶液10CS-Pr0.10Y0.90BCO、及び10CS-Pr0.22Y0.78BCOを用い、単結晶基板は10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上に半分ずつ液を滴下し、それぞれの液が中央部到達時にスピンコート法により、加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sの成膜条件により半透明青色のゲル膜10Gel-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C(実施例10、gel film of resulting 10%Pr, 90%Y and 22%Pr, 78%Y films、chimera)を得た。
同様に、コーティング溶液10CS-Pr0.15Y0.85BCO、及び10CS-Pr0.22Y0.78BCOを用い、単結晶基板は10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上に半分ずつ液を滴下し、それぞれの液が中央部到達時にスピンコート法により、加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sの成膜条件により半透明青色のゲル膜10Gel-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cを得た。
半透明青色のゲル膜10Gel-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C、及び10Gel-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、10Gel-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C、及び10Gel-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜10Cal-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C(実施例10、calcined film of resulting 10%Pr, 90%Y and 22%Pr, 78%Y films、Chimera)、及び10Cal-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cをそれぞれ得た。
図7に示すプロファイルで仮焼膜10Cal-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C、及び10Cal-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、10F-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C(実施例10、fired oxide of 10%Pr, 90%Y and 22%Pr, 78%Y films、Chimera)、及び10F-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cそれぞれ得た。
酸化物薄膜10F-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cの中央部(Center)と、10%Pr部、及び22%Pr部を中心とした領域の、2θ/ω法でのXRD測定結果10XRD-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-Center、10XRD-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-10%Pr、及び10XRD-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-22%Prがそれぞれ得られた。
また、酸化物薄膜10F-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cの中央部(Center)と、15%Pr部、及び22%Pr部を中心とした領域の、2θ/ω法でのXRD測定結果10XRD-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-Center、10XRD-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-10%Pr、及び10XRD-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-22%Prがそれぞれ得られた。
全てのXRD測定結果、10XRD-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-Center、10XRD-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-10%Pr、及び10XRD-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-22%Pr、10XRD-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-Center、10XRD-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-10%Pr、及び10XRD-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C-22%Prにおいて、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜10F-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-C、及び10F-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。
10F-Pr0.10Y0.90BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cの10%Pr部、及び22%Pr部における最高特性はそれぞれ、3.32MA/cm2(77K,0T)、及び0.00MA/cm2(77K,0T)であった。10F-Pr0.15Y0.85BCO+Pr0.22Y0.78BCO-Cの15%Pr部、及び22%Pr部における最高特性はそれぞれ、1.41MA/cm2(77K,0T)、及び0.00MA/cm2(77K,0T)であった。
超電導特性の測定結果は、Pr量の5倍特性が劣化する5倍劣化現象に近い結果が得られていた。また22%Pr部は超電導特性がゼロとなっており、ペロブスカイト構造を形成しながら超電導特性がゼロとなった構造であることが解かった。またXRD測定結果のYBCO(006)ピークはほぼ同じ角度である2θ=46.68度付近に観測されており、c軸長がほぼ同じであることから共通のペロブスカイト構造を形成していることが解かった。
これらの結果から、22%Pr置換のYBCOに共有するペロブスカイト構造として、10%Prや15%Prが置換されたYBCO超電導体とも共通するペロブスカイト構造を形成することが解かった。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。