JP7330153B2 - 酸化物超電導体及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明の実施形態は、酸化物超電導体及びその製造方法に関する。
超電導とは、冷凍機を開発したオランダのKamerring Onnesにより、水銀を用いて発見された抵抗値が完全にゼロとなる現象である。その後、BCS(Bardeen Cooper Schrieffer)理論により上限の超電導転位温度(Tc)が39Kとされたが、これは第1種超電導体のTcであり常圧では39K前後の値であった。
1986年にBednorz等が発見した銅系酸化物超電導体で39Kを上回る結果が示され、液体窒素温度で使用可能な酸化物超電導体開発へとつながっている。その酸化物超電導体は、超電導と非超電導状態の混在する第2種超電導体である。今日では、液体窒素温度で使用可能な高温酸化物超電導体が500m以上の長さのロットで多数販売されるに至っている。超電導線材は、超電導送電ケーブル、核融合炉、磁気浮上式列車、加速器、及び磁気診断装置(MRI)など、様々な大型機器への応用が期待されている。
これまでの超電導応用は直流での応用が主であり、超電導送電ケーブルや磁気浮上式列車や発動機などにおいて、超電導線材側の電流は変化させずに用いる応用が主であった。例えば、磁気浮上式列車であれば地上コイル側に通常の磁石を用い、強力な磁場を発生させる超電導磁石は車載であり、地上コイルの磁気を制御することにより磁気浮上式列車の運用が可能となる。数十トンの車体を時速600km程度で動かすことができるこの超電導技術応用は、超電導の特徴を部分的に生かしたものであった。
一方近年、モーターの固定子と回転子の両方の磁石を超電導磁石として破格の力を生み出す応用が検討されるようになっている。超電導航空機はその1つであり、モーターの固定子と回転子の両方を超電導化し、磁気浮上式列車の応用とは比較にならない強い力を利用しようとしている。例えば超電導航空機の場合、直径2mの推進装置を7千回転毎分で動作させ、作り出した気流で浮力を作り飛行機を運行する。超電導航空機の燃費は従来比で70%となるという試算もあり、2019年に開催された欧州での国際学会では注目を集めた。
超電導航空機への応用の実現には、少なくとも片方の超電導コイルの磁場を変動させる必要がある。すなわち電流を反転させる交流で用いるか、反転させなくても電流値を変動させることにより変化した磁場を作り、その変化した引力により推進力を発生させるためである。電流値の変動により磁界を時間変化させると、インダクタンス成分の損失が出てくる。これまでの超電導応用では片側にだけ超電導コイルを固定して用い、その電流値は一定であるためインダクタンス成分のエネルギーロスがほぼゼロであった。
なお、以下の記述では電流を反転せずに変化させ、インダクタンス成分が問題となる応用も交流応用と呼ぶことにする。この電流値を変動させて生じる損失は、超電導分野ではACロスと称されることが多い。超電導の交流応用では、インダクタンス成分によるエネルギーロスを低減させる機構が必要となる。
ACロスは、超電導線材を分割して細線化することで低減することが知られている。一般に膜厚がほぼ均一な超電導体の電流方向と平行な方向で超電導電流をn分割するとACロスはおおよそ1/nになるとされている。例えば一般的に用いられる4mm幅線材を、8分割し1本が0.5mm幅となれば、ACロスは1/8になる。しかし分割には電流が導通しない非超電導領域が必要である。例えば8分割された0.5mm幅のうち、例えば0.1mm幅で非超電導領域を形成すると、超電導電流は0.4mm幅にだけ流れることになり、電流値は初期値の80%のとなる。
電流値が80%でも、ACロスが1/8となれば8倍の効果があるため、総合的には6.4倍の効果が見込まれる。そのため超電導を細線化してACロスを低減しようという技術は、2000年頃から盛んにおこなわれている。例えば、レーザースクライビング技術による細線化に関する製法技術がある。細線化によるACロス低減は、超電導コイルの両側に超電導体を用いるハイパワー応用への必須技術でもある。
この超電導線材の細線化によるACロス低減技術は、主に、超電導膜の成膜後に加工した細線化する手法と、超電導膜の成膜時に細線化する手法に大別される。上記のレーザースクライビング法は超電導膜の成膜後に加工する手法であるため、超電導膜の製法を選ばない。もう一方の超電導膜の成膜時に細線形化する手法は、加工プロセスに依存する。
まず、超電導膜の成膜後に加工する手法であるが、学会報告や特許出願状況などからレーザースクライビング法が主流であると思われる。他の手法も過去に試みられたようであるが、現在はその報告件数は少なくこのレーザースクライビング法が主流と思われる。超電導膜の成膜後の加工手法としては、現時点で最も優れた手法であることが推測される。
レーザースクライビング法は、超電導膜にレーザーを照射して物質をアブレーション、つまり飛散させる手法である。そして形成した空隙部は超電導電流の導通が無いために超電導線材が分割され、ACロス低減効果を持つ。一つの報告例では、形成した空隙部は幅20μmであり、その両側に非超電導領域がそれぞれ40μmあり、合計で100μm幅の非超電導領域が形成される。
このレーザースクライビング法であるが、非超電導領域の幅を100μm以下に狭くするのが難しい。Y系超電導体とは酸化物のセラミックスであり、そのアブレーション時には1700℃相当に加熱されてセラミックスが飛散するとの報告もある。アブレーション後に形成された空隙に隣接する領域では、レーザースクライビング時の高エネルギーにより分解酸化物が存在する。つまり、YBCO超電導体から、CuOやY、BaCuOなどが形成される。
レーザースクライビング時の高エネルギーは、ペロブスカイト構造内の酸素数変化でも特性を低下させる。Y系超電導体は酸素数が6.93で最高の超電導特性が得られるが、ペロブスカイト構造は元来酸素数が9であり、2.07個の欠損で初めて良好な超電導体として機能する。この酸素数は最適値より0.07多い7.00でも超電導特性が大幅に低下しゼロ近くになる。
レーザースクライビング時の高エネルギーで周囲の物質が加熱され、例えば200℃で酸素分圧が大気の21%であっても酸素数6.93より低くなり、超電導特性は低下する。20μm幅の空隙部の近傍に分解酸化物層が存在し、その外側に酸素数が変化して非超電導となった領域の存在が想定される。この2つの領域の合計が、アブレーションで形成された空隙部の片側に広がる40μmの非超電導領域である。そのため20μm幅の空隙部の形成で、両側40μmの領域を含めてトータルで100μm幅の非超電導領域が形成される。
レーザースクライビング法で非超電導領域の幅を更に狭く作る場合には、次の問題が生じる。空隙部を20μm幅から10μm幅にするとアブレーション時に両サイドに逃げる単位時間当たりの熱は温度差に比例する。エネルギーを与える領域は狭くなるためより高いエネルギーが必要となる。しかし高エネルギーでのアブレーションは、分解酸化物層を増加させる、下地中間層であるCeO層へのダメージを増加させる、又は熱膨張係数差に起因するCeO層やYBCO層の剥離を生じさせる。
仮に、アブレーションによる1μm幅の空隙部が実現して、非超電導領域が形成できても、空隙部に隣接する分解酸化物層の幅と、酸素数が変化して非超電導となった領域の幅との合計は、上記の片側40μm幅よりも広くなる。片側の非超電導領域が60μm幅になる可能性もある。したがって、空隙部を20μm幅から狭くしても、両側にある片側それぞれ40μm幅の非超電導領域は広くなるため、レーザースクライビング法による非超電導領域のトータル幅は80μm以下にはならない。
上記のレーザースクライビング法で形成された構造には、非超電導領域の幅を狭くできないという問題点以外の問題点も存在する。
レーザースクライビング法でのアブレーションでは、空隙部の周囲に例えばCuOやYなどの分解酸化物層が形成される。これらはYBCO酸化物と熱膨張係数が異なり、超電導コイル応用での液体窒素温度以下への冷却時に、熱膨張係数差でYBCO酸化物との剥離が起きやすくなる。
そもそも、上記のCuOやYはYBCOから分解で生じたものであり、YBCOと格子結合は無く剥離は起きやすい。2020年7月時点において、500m長の線材をレーザースクライビング法で細線化し、大型応用製品に適用し継続して例えば3年以上の長期間運用できた実績例は報告されていない。上記の未解決問題が関連していると考えられる。
超電導膜の成膜後の加工によりACロス低減を目指す代表的技術が上記のレーザースクライビング法であるが、超電導膜の成膜時に細線構造を作りACロスを低減する試みも学会報告されている。現在製造されるY系超電導体は、主に真空物理蒸着法と化学溶液法に大別されるため、それぞれについて報告する。
まず真空物理蒸着法について、成膜時に細線化する手法の学会報告は2019年においてほとんどない。過去にはスリットなどを用い物質の堆積領域を制限する細線化手法が試みられたようであるが、真空物理蒸着法ではスリットへ物質が堆積し、堆積が進むと物質のスリット通過量が減少し、過剰な堆積物は時に落下する。落下した堆積物は、その後の酸素アニールにより酸素数を6.00から6.93に増加させる際の制御を乱し、YBCO超電導体の特性が大きく劣化する。
真空物理蒸着法には、PLD法やMOCVD法、CE法、RCE法、スパッター法など様々な手法が存在するが、現状ではレーザースクライビング法での細線化がこれら真空物理蒸着法にとっての最有力手段と考えられる。
もう一方の化学溶液法の代表例はTFA-MOD法となる。この手法はトリフルオロ酢酸塩を使うMOD法であり、500m長線材が再現性良く作られ、使用された超電導応用機器のトラブルは現時点でも聞かれず、信頼性や長期安定性に定評がある。
なお、この線材長500mは上限ではなく、4mm幅線材を巻いたリールの重さにより、これ以上の長尺は作業性が悪くなるための長さである。連続プロセスで作られているため、1000mでも2000mでも同じようにTFA-MOD法では作ることができる。
TFA-MOD法に関して、上記のレーザースクライビング法との組み合わせも可能であるが、その応用実績報告はない。TFA-MOD法は2009年時点で数百ロットの500m長線材が出荷された手法である。レーザースクライビング法での細線化に未解決の問題があるため、2020年時点でACロス低減構造が実現できていないと思われる。
TFA-MOD法での長尺線材への成膜は、メニスカスコートを基本とするダイコート法などでの成膜である。この手法で非超電導領域を狭く形成しようとする試みは、主に二つの超電導領域の間に空隙を形成する手法であった。
空隙形成以外の手法としては、理論的には同じペロブスカイト構造である非超電導物質、例えば人工ピンに用いられるBaZrOなどの形成も可能であると思われる。しかしBaZrOにはYBCOとの格子ミスマッチが約9%あり、1μmの膜厚に成膜するとBaZrO、YBCOは確実に分離してしまう。格子ミスマッチ約9%で格子結合が維持されるのは、関連するTEM観察結果から、5ユニットセル、長さは6nm程度である。
BaZrOは人工ピンとしてYBCO内へ分散されて形成する開発が進められている技術ではあるが、YBCOと同時に形成する場合、酸素分圧などの成膜条件の違いも問題となる。
例えばYBCOでは800℃本焼を行うなら、1000ppmの酸素分圧が望ましい。BaZrOの800℃成膜における最適条件は不明であるが、Y系側超電導体はYを他の希土類置換で、最適酸素分圧を1ppm~4000ppmへと変えることが理論上可能である。例えばSmBCOなら800℃本焼における最適酸素分圧は20ppmであるし、YBCOとの混合でその中間の酸素分圧が最適酸素分圧となる。Yサイトを希土類で適宜置換したREBCOと、BaZrOであれば、特定の条件でペロブスカイト構造を作ることは理論的には可能である。
ただし、その場合にもYBCOとBaZrOの格子ミスマッチが約9%であり、膜厚1μm厚のY系超電導体を成膜しても、BaZrOは上記の通り6nm程度で分離する。これとは別にBaZrOにはYBCOとの接合部は、YBCOの酸素を奪い酸素数は6.93から低下し超電導特性を低下させる影響もあるため、BaZrO3を形成するより空隙部を形成する方が有利だと思われる。次に空隙部形成によるACロス低減構造を議論する。
TFA-MOD法での長尺線材はメニスカスコートを基本とするダイコート法などである。この手法において、一部だけ成膜を行い、その他の部分を空隙とすれば超電導体が分離されるためACロス低減構造が実現する。
この手法はコーティング溶液の溶媒に粘性の低いメタノールを用いることが好ましく、成膜時の拡散速度が速く、空隙を狭く形成しにくい問題点がある。仮にその問題を解決しても別の大きな問題で超電導特性が低下しACロス低減効果が失われる。
TFA-MOD法は、本焼時に加湿ガスを導入することにより疑似液相ネットワークを形成し、化学平衡反応によりフッ化水素ガスを疑似液相から気相へ放出しながら、疑似液相の底である成長界面で、格子マッチによるエネルギー安定化サイトでユニットセルを次から次へと作れるように外部の成膜条件を選択する手法である。
このYBCOユニットセルであるが、成膜時の3軸の格子長比はほぼ1:1:3となる、1:1:2.94と言われている。高温ではa/b軸は未分化で、c軸長のみ約3倍となっている。超電導特性が得られるのはc軸方向に成長、すなわち一番長いc軸が基板と垂直となった時の構造であり、その場合に超電導電流が得られるCuO面が基板と平行となる。そのユニットセルの成長速度は、隣接する方向であるa/b軸方向へは速く、垂直方向であるc軸方向へは遅く、その比は100~1000倍ともいわれている。そのためc軸配向粒子が一つ核生成すれば、c軸配向粒子が広い範囲で形成されるようになる。c軸配向粒子は、c軸が基板と垂直となっている。
このユニットセル成長時に必要以上に核生成が起きるとa/b軸配向粒子が形成される。TFA-MOD法ではc軸配向粒子が成長しやすい本焼温度、酸素分圧、加湿条件を選択し、適度な核生成頻度でc軸配向粒子を形成する。しかし核生成頻度を大きくすると小さな格子サイズ差によりa/b軸配向粒子が形成されることがある。a/b軸配向粒子は、a/b軸が基板と垂直になっている。
ひとたびa/b軸配向粒子が形成されると、基板に垂直な方向の成長速度が100倍~1000倍であるため、表面まで成長が届き、井桁上の組織が形成されることが知られている。このおおきなa/b軸配向粒子の壁は、c軸配向方向の超電導電流を遮断し、特性が大きく低下することは良く知られている。
そのため、TFA-MOD法で良好なc軸配向粒子を形成したければ、a/b軸配向粒子が形成されにくい核生成頻度で成長させることが望ましく、疑似液相ネットワークモデルでは実験結果を含めてそれが立証されている。
核生成頻度が大きくなり、a/b軸配向粒子が多数形成される結果は単結晶基板上に成膜された超電導膜の端部でも見られて報告されている。10mm角LAO基板上YBCO成膜においては、膜の端部から100μm~300μmにa/b軸配向粒子が30%以上存在し超電導特性はほぼゼロになる。
TFA-MOD法の本焼時の疑似液相であるが、名前は疑似液相で流動性がありそうに聞こえるが、実はほとんど流動性が無い。本焼時に水平方向への移動は数10nm程度と考えられる。仮焼膜で形成されたクラックが、本焼後にそのまま残ることから上記の移動距離は妥当であると思われている。
この疑似液相は550℃前後で形成され、c軸配向YBCOユニットセルが形成可能となるのが725℃である。金属基材上への超電導膜の成膜温度は750~800℃であるため、ユニットセル形成が可能となった温度よりも少し高い温度である。このため、疑似液相は粘性が高く、水平方向への移動度がほとんどないものと思われる。また疑似液相の構成物質は、フッ素や酸素など電気陰性度最大及び2番目の元素、イットリウム、バリウムなど電気陰性度が小さい物質が存在し、電気陰性度差も大きくクーロン力での引力も大きい。このことも流動性が小さい原因と思われる。
例えば10mm角のLaAlO基板上へ成膜した場合、超電導膜の端部の100μm~300μm領域には多量のa/b軸配向粒子が形成される。例えば1μm厚の超電導体を本焼する場合、端部の疑似液相が1μm厚だったとするならば、移動可能な距離が10nmであるならば中央部で基板上10nm×10nm領域では、HFガス放出面積が100nmで体積が10nm×10nm×1μmあるのに対し、端部の10nm×10nm領域では、サイドにHFガス拡散面積である10nm×1000nmが加わる。放出面積は中央部のほぼ100倍となり、核生成頻度も100倍となり、a/b軸配向粒子が形成されやすくなる。
大量にユニットセルが形成される領域は端部から10nmには限られない。実際にa/b軸配向粒子が多く形成される領域は端部から100μm~300μmもの領域に及ぶ。疑似液相中の物質移動は上記で記載した通り小さいことが推測されるが、疑似液相内は様々なイオンなどの物質が平衡状態で存在していると疑似液相ネットワークモデルでは考えている。例えば一つのHF分子が放出されると、疑似液相内に平衡状態で存在するHとFが順に押し出す形で、気相界面まであたかも速いスピードで到達したかのようにふるまうことが疑似液相ネットワークモデルに関連した実験結果からわかっている。
疑似液相ネットワークモデルでは、YBCOユニットセルを構成する全ての物質が、疑似液相内の平衡状態を通じて遠くまで移動するように見える。そのため、端部から10nmではなく、100μm~300μm以上の領域において、多量のa/b軸配向粒子が観測されるのだと説明できる。
TFA-MOD法で、例えば、後にYBCOとなるゲル膜を400μm幅、空隙を100μm幅で形成したとする。ゲル膜は本焼時に疑似液相を形成するが、疑似液相の両端部の少なくとも100μm領域はa/b軸配向粒子が30%以上存在する領域となり、超電導特性は1/100以下となってしまう。仮に100μm幅だけa/b軸配向粒子が形成され、その超電導特性が1/100とした場合、1つの組である合計500μmの領域の内空隙が100μm、c軸配向が多いのは200μm幅、a/b軸配向粒子が多いのが200μm幅となる。もとの500μm幅特性の40.4%へと低下することとなる。4mm幅線を8分割し、ACロス低減の総合効果が8×40.4%=3.23倍になっても、レーザースクライビングでの6.4倍の効果には遠く及ばない。
次にACロス低減をより大きく実現するために、上記より更に細いピッチで、超電導と非超電導は同じ比率で形成することとし、超電導幅160μm幅、空隙部を40μm幅とした場合を考える。a/b軸配向粒子は形成が端部から100μmであり、c軸配向中心の領域は存在しない。残る160μm幅のすべてがa/b軸配向粒子となる。この場合、元ある200μm幅に超電導体があった場合の、0.8%しか特性が得られないこととなる。空隙形成でのACロス低減構造では超電導線幅を細くするほどa/b軸配向粒子の影響が大きくなり、特性低下が大きくなってしまう。
TFA-MOD法ではプリンター技術の一つ、インクジェットを使っての微細構造形成の試みもある。インクジェットは、既存の汎用性プリンターでさえ直径1μm液滴に制御が可能である。
インクジェットを使って4μmの液滴と、1μmの空隙を形成した場合、レーザースクライビング法で形成される400μmの超電導と100μmの空隙と比べ100倍の効果が期待でき、究極の構造に思える。しかし実際には4μm幅の全てがa/b軸配向粒子で形成され、特性は0.8%へと低下することとなる。この研究は2010年ころに国際学会で多く発表されたが、2020年時点で応用が実現していない。空隙に隣接する超電導領域の大きな特性低下が問題と思われる。
上記の結果からわかるように、TFA-MOD法では空隙を形成する手法でのACロス低減構造形成では、本体の超電導体にa/b軸配向粒子が多量に形成されるため、その特性低下の影響が大きい。
また真空物理蒸着法では非超電導領域を80μm幅以下とする手法は存在しない。つまり超電導特性を維持できて、非超電導領域を80μm幅以下とする手法がそもそも存在していなかった。
特許第4777749号公報 特許第6374365号公報 特許第6479251号公報 特許第6556674号公報
T. Araki, et. al. J. Appl. Phys. 92 (2002) 3318-3325 T. Araki and I. Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol. 16 (2003) R71-R94 M. Hayashi, et. al. Supercond. Sci. Technol. 31 (2018) 055013 (7pp) T. Araki, et. al. Supercond. Sci. Technol. 31 (2018) 065008 (8pp)
本発明が解決しようとする課題は、ACロスの低減が可能な酸化物超電導体及びその製造方法を提供することにある。
実施形態の酸化物超電導体は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、連続したペロブスカイト構造を有し、第1の方向に伸長する第1の超電導領域と、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、連続したペロブスカイト構造を有し、前記第1の方向に伸長する第2の超電導領域と、前記第1の超電導領域と前記第2の超電導領域との間に設けられ、前記第1の超電導領域及び前記第2の超電導領域に接し、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、前記第3の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上であり、前記第1の超電導領域のペロブスカイト構造及び前記第2の超電導領域のペロブスカイト構造と連続する連続したペロブスカイト構造を有し、前記第1の方向に伸長する非超電導領域と、を含む酸化物超電導層を、備える。
第1の実施形態の酸化物超電導体の模式断面図。 第1の実施形態の酸化物超電導体の模式上面図。 第1の実施形態の製造方法のコーティング溶液作製の一例を示すフローチャート。 第1の実施形態のコーティング溶液から超電導膜を成膜する方法の一例を示すフローチャート。 第1の実施形態のダイコート法によるゲル膜の形成の説明図。 第1の実施形態の代表的な仮焼プロファイルを示す図。 第1の実施形態の代表的な本焼プロファイルを示す図。 第1の実施形態において超電導膜形成の際の膜厚変化を示す図。 第1の実施形態のインクジェット法によるゲル膜の形成の説明図。 第1の比較例の酸化物超電導体の模式断面図。 第1の比較例の酸化物超電導体の模式上面図。 第2の比較例の酸化物超電導体の模式断面図。 第3の比較例の酸化物超電導体の模式断面図。 第4の比較例の酸化物超電導体の模式断面図。 第2の実施形態の酸化物超電導体の模式図。 第2の実施形態の比較例の酸化物超電導体の模式図。 第2の実施形態の酸化物超電導体の変形例の模式図。 実施例2の図18は、酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1、及び2F-Pr0.001.00BCO-2のマップでの超電導特性測定結果。 実施例2の酸化物薄膜2F-Pr0.220.78BCO-3、及び2F-Pr0.220.78BCO-4の超電導特性測定結果。 実施例2の酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cは、YBCOを下側に、22%Pr置換のYBCOを上側に設置した場合の超電導特性測定結果。 実施例2のYBCOが形成している2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWのXRD結果。 実施例2の図22は、22%Pr置換のYBCOと思われる2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CCのXRD結果。 実施例2のPr0.220.78BCOの(006)ピーク拡大図。 実施例2のYBCOに近いPr0.220.78BCOの(006)ピーク拡大図。 実施例2のYBCOの(006)ピーク拡大図。 実施例3の20万倍で観察した断面TEM像。 実施例3の217万倍で観察した断面TEM像。 実施例3の52万倍で観察した断面TEM像。
本明細書中、連続したペロブスカイト構造を「単結晶」又は結晶学的に連続とみなす。また、単結晶上c軸の方向の差が1.0度以下、金属基材上成膜であれば金属基板の配向層のデルタφを1.0度に加えた差以下の低傾角粒界を含む結晶も、連続したペロブスカイト構造を備えるとみなす。単結晶上c軸の方向の差が1.0度以下、金属基材上成膜であれば金属基板の配向層のデルタφを1.0度に加えた差以下の低傾角粒界を含む結晶も、「単結晶」又は結晶学的に連続とみなす。
上記定義による「単結晶」においてはTcがほとんど低下せず、本来の値の0.3K以内の値が得られると考えられる。そのためTc測定で、Tc値が理論値の0.3K以内の数値であれば、「単結晶」、あるいは結晶学的に連続とみなすことができる。
また本明細書中、上記「単結晶」でありながら液体窒素への冷却時に超電導電流が得られる超電導領域と、超電導電流が得られないペロブスカイト構造の非超電導領域が共存する構造を「超電導体」と称することがある。この構造体は部分的に非超電導領域が形成されていても、全体として超電導電流が通電できるために「超電導体」と称する。
本明細書中の酸化物超電導体を構成する部材の化学組成の定性分析及び定量分析は、例えば、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)により行うことが可能である。また、酸化物超電導体を構成する部材の幅、部材の厚さ、部材間の距離等の測定、結晶構造の連続性の同定には、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いることが可能である。また、酸化物超電導体を構成する部材の構成物質の同定、結晶軸の配向性の同定には、例えば、X線回折分析(X-ray Diffraction:XRD)を用いることが可能である。
以下、実施形態の酸化物超電導体について、図面を参照しつつ説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の酸化物超電導体は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、連続したペロブスカイト構造を有し、第1の方向に伸長する第1の超電導領域と、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、連続したペロブスカイト構造を有し、第1の方向に伸長する第2の超電導領域と、第1の超電導領域と第2の超電導領域との間に設けられ、第1の超電導領域及び第2の超電導領域に接し、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、第3の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上であり、第1の超電導領域のペロブスカイト構造及び第2の超電導領域のペロブスカイト構造と連続する連続したペロブスカイト構造を有し、第1の方向に伸長する非超電導領域と、を含む酸化物超電導層を、備える。
図1は、第1の実施形態の酸化物超電導体の模式断面図である。図2は、第1の実施形態の酸化物超電導体の模式上面図である。図2は、図1の金属層を除去した状態の上面図である。図1は、図2のAA’断面である。
第1の実施形態の酸化物超電導体は、超電導線材100である。
超電導線材100は、図1に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30と、金属層40とを備える。基板10は、酸化物超電導層30の機械的強度を高める。中間層20は、いわゆる配向中間層である。中間層20は、酸化物超電導層30を成膜する際に、酸化物超電導層30を配向させ単結晶とするために設けられる。金属層40は、いわゆる安定化層である。金属層40は、酸化物超電導層30を保護する。また、金属層40は、超電導線材100の実使用時に、超電導状態が部分的に不安定になった場合でも、電流を迂回させて安定化させる機能を備える。
基板10は、例えば、ニッケルタングステン合金などの金属である。また、中間層20は、例えば、基板10側から酸化イットリウム(Y)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO)である。基板10と中間層20の層構成は、例えば、ニッケルタングステン合金/酸化イットリウム/イットリア安定化ジルコニア/酸化セリウムである。この場合、酸化セリウム上に酸化物超電導層30が形成される。
基板10は、例えば、酸化物超電導層30と格子整合する単結晶層であっても構わない。単結晶層は、例えば、ランタンアルミネート(LaAlO、以下、LAOとも表現する)である。基板10にランタンアルミネートを適用する場合、中間層20は省略することが可能である。
また、基板10、中間層20として、例えば、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)基板を用いることも可能である。IBAD基板の場合、基板10が無配向層である。また、中間層20は、例えば5層構造から成る。例えば、下の2層が無配向層、その上にIBAD法によって製造された配向起源層、その上に金属酸化物の配向層が2層形成される。この場合、最上部の配向層が、酸化物超電導層30と格子整合する。格子整合とは一般的に7%以内の格子ミスマッチを示すことが多いが、超電導特性を改善するためにより小さい3%以下とすることが好ましい。
金属層40は、例えば、銀(Ag)や銅(Cu)が母材の金属である。金属層40は、例えば、合金である。金属層40は、例えば、金(Au)などの貴金属を少量含む。例えば、酸化物超電導層30側から、銀(Ag)を1μm、その上に銅(Cu)を20μm成膜する。
酸化物超電導層30は、基板10と金属層40との間に設けられる。酸化物超電導層30は、中間層20と金属層40との間に設けられる。酸化物超電導層30は、中間層20の上に、中間層20に接して設けられる。
酸化物超電導層30は、第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cを含む。第1の非超電導領域32aが非超電導領域の一例である。
第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cは、第1の方向に伸長する。
第1の非超電導領域32aは、第1の超電導領域31aと第2の超電導領域31bとの間に設けられる。第1の非超電導領域32aは、第1の超電導領域31a及び第2の超電導領域31bに接する。
第2の非超電導領域32bは、第2の超電導領域31bと第3の超電導領域31cとの間に設けられる。第2の非超電導領域32bは、第2の超電導領域31b及び第3の超電導領域31cに接する。
第3の非超電導領域32cは、第3の超電導領域31cと第3の超電導領域31cとの間に設けられる。第2の非超電導領域32bは、第2の超電導領域31b及び第4の超電導領域31dに接する。
以下、説明を容易にするために、第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、及び第4の超電導領域31dを総称して、単に超電導領域31と称する場合がある。また、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cを総称して、単に非超電導領域32と称する場合がある。
第1の方向に垂直で、非超電導領域32から超電導領域31に向かう方向が第2の方向である。第1の方向及び第2の方向に垂直な方向が第3の方向である。第1の方向及び第2の方向は、基板10の表面に平行である。また、第3の方向は基板10の表面に垂直である。
酸化物超電導層30は、非超電導領域32を間に挟んで複数の超電導領域31に分割されている。図1、図2の場合、酸化物超電導層30は、酸化物超電導層30は、4つの超電導領域31に分割されている。酸化物超電導層30は、例えば、5つ以上の領域に分割されていても構わない。
超電導領域31は、超電導特性を有する。非超電導領域32は、超電導特性を有しない。非超電導領域32は、超電導領域31を電気的に分離する。非超電導領域32は、超電導線材100に電流を流す際に、絶縁体として機能する。
酸化物超電導層30の第1の方向の長さ(図2中のL)は、例えば、1μm以上である。超電導領域31の第1の方向の長さは、例えば、1μm以上である。非超電導領域32の第1の方向の長さは、例えば、1μm以上である。
酸化物超電導層30の第1の方向の長さLは、例えば、1m以上である。超電導領域31の第1の方向の長さは、例えば、1m以上である。非超電導領域32の第1の方向の長さは、例えば、1m以上である。
酸化物超電導層30の第2の方向の幅(図2中のWx)は、例えば、4mmである。非超電導領域32の第2の方向の幅(図2中のW2)は、例えば、超電導領域31の第2の方向の幅(図2中のW1)よりも小さい。
超電導領域31の第2の方向の幅W1は、例えば、1μm以上80μm以下である。非超電導領域32の第2の方向の幅W2は、例えば、1μm以上80μm以下である。
超電導領域31の第2の方向の幅W1は、例えば、10μm以下である。非超電導領域32の第2の方向の幅W2は、例えば、10μm以下である。
非超電導領域32は、例えば、100nm×100nm×100nm以上のサイズである。
酸化物超電導層30の第3の方向の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
酸化物超電導層30は、希土類元素を含む酸化物である。酸化物超電導層30は、例えば、連続したペロブスカイト構造を有する単結晶である。希土類元素を含む酸化物は、例えば、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)(以下、REBCO)の化学組成を有する。REが希土類サイトである。
超電導領域31は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む。超電導領域31において、上記少なくとも一つの希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合は15%以下である。例えば、上記少なくとも一つの希土類元素がイットリウム(Y)である場合、超電導領域31に含まれるイットリウム(Y)の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が15%以下である。
超電導領域31は、例えば、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)(以下、REBCO)の化学組成を有する酸化物を含む。
超電導領域31は、連続したペロブスカイト構造を有する。超電導領域31は、例えば、連続したペロブスカイト構造を有する単結晶である。
非超電導領域32は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む。非超電導領域32において、上記少なくとも一つの希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である。例えば、上記少なくとも一つの希土類元素がイットリウム(Y)である場合、非超電導領域32に含まれるイットリウム(Y)の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である。
非超電導領域32は、例えば、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)(以下、REBCO)の化学組成を有する酸化物を含む。
非超電導領域32は、連続したペロブスカイト構造を有する。非超電導領域32は、例えば、連続したペロブスカイト構造を有する単結晶である。非超電導領域32は、例えば、中間層20に格子整合する。
超電導領域31及び非超電導領域32に含まれるペロブスカイト構造は、REBaCu7-y(-0.2≦y≦1)で記載される。価数変化したPrサイトを含むユニットセルであるPrBaCu7-z(-1≦z≦1)(以下、PrBCO)を超電導領域31では最大15%の量を含む。このため、平均酸素数は最大7.075となることがある。
また、非超電導領域32で、PrBaCu7-z(-1≦z≦1)(以下、PrBCO)を24%の量を含む場合、最大の平均酸素数は7.12となり、更にプラセオジム(Pr)量が増大すれば、プラセオジム(Pr)量に比例して平均酸素数は大きくなる。
非超電導領域32に、上記少なくとも一つの希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合は、例えば、50%以下である。
第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cのそれぞれの領域に含まれる上記群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素は、例えば、同一である。
例えば、第1の超電導領域31aに、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素が含まれ、第2の超電導領域31bに、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素が含まれ、第1の非超電導領域32aに、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素が含まれるとする。
例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素が同一の元素である。例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素が全てイットリウム(Y)である。
第1の超電導領域31a、第2の超電導領域31b、第3の超電導領域31c、第4の超電導領域31d、第1の非超電導領域32a、第2の非超電導領域32b、及び第3の非超電導領域32cのそれぞれの領域に含まれる上記群から選ばれる少なくとも一つの希土類元素は、異なっていても構わない。
例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素が異なる元素である。例えば、第1の希土類元素がイットリウム(Y)、第2の希土類元素がサマリウム(Sm)、第3の希土類元素がジスプロシウム(Dy)である。
例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素のいずれか又は全てが、2種以上の希土類元素であっても構わない。例えば、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素のいずれか又は全てが、3種以上の希土類元素であっても構わない。
非超電導領域32のペロブスカイト構造は、隣接する超電導領域31のペロブスカイト構造と連続している。例えば、第1の非超電導領域32aのペロブスカイト構造は、第1の超電導領域31a、及び、第2の超電導領域31bのペロブスカイト構造と連続している。
非超電導領域32と超電導領域31との間は、結晶学的に連続している。酸化物超電導層30は、例えば、連続したペロブスカイト構造を有する単結晶である。
非超電導領域32と超電導領域31の境界から、超電導領域31側に100μm以下の部分におけるa/b軸配向比率は、例えば、30%未満である。a/b軸配向比率は、超電導領域31に含まれる結晶粒子の中で、a/b軸配向粒子の占める割合である。a/b軸配向粒子は、基板の表面に垂直な方向にa/b軸が配向する結晶粒子である。
酸化物超電導層30は、例えば、2.0×1015atoms/cm以上5.0×1019atoms/cm以下のフッ素と、1.0×1017atoms/cm以上5.0×1020atoms/cm以下の炭素と、を含む。酸化物超電導層30に含まれるフッ素及び炭素は、TFA-MOD法による酸化物超電導層30の成膜に起因する残留元素である。
酸化物超電導層30に含まれるフッ素の濃度は、例えば、2.0×1016atoms/cm以上である。また、酸化物超電導層30に含まれる炭素の濃度は、例えば、1.0×1018atoms/cm以上である。
次に、第1の実施形態の酸化物超電導体の製造方法について説明する。第1の実施形態の酸化物超電導体の製造方法は、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含む第1のコーティング溶液を作製し、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含む第2のコーティング溶液を作製し、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、第3の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である第3のコーティング溶液を作製し、基板の上に、第1のコーティング溶液と第2のコーティング溶液との間に、第3のコーティング溶液が挟まれ、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液と第3のコーティング溶液が接するように、第1のコーティング溶液、第2のコーティング溶液、及び第3のコーティング溶液を塗布又は射出してゲル膜を形成し、ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成し、仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層を形成する。以下、第1のコーティング溶液と第2のコーティング溶液は、同時に作製された溶液の一部であり、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素は同一である場合を例に説明する。特に、第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素がイットリウム(Y)である場合を例に説明する。
以下、第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の第1の例について説明する。第1の例では、ゲル膜の形成にダイコート法を用いる。
第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の第1の例では、基板10上に中間層20を形成し、中間層20上に酸化物超電導層30を形成し、酸化物超電導層30上に金属層40を形成する。酸化物超電導層30はTFA-MOD法により形成される。
図3は、第1の実施形態の製造方法のコーティング溶液作製の一例を示すフローチャートである。
最初に、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液の作製について説明する。
図3に示すように、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。図3に示す溶媒をゲル内に取り込ませて不純物を低減する手法はSolvent-Into-Gel(SIG)法と呼ばれる。
イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)を含むコーティング溶液が、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液となる。第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液は、例えば、同時に作製されたコーティング溶液の一部である。以下、第1のコーティング溶液及び第2のコーティング溶液を、超電導領域形成用コーティング溶液と称する。
次に、第3のコーティング溶液の作製について説明する。
図3に示すように、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。
プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)を含むコーティング溶液が、第3のコーティング溶液となる。第3のコーティング溶液において、イットリウム(Y)及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上となるように、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)それぞれの金属酢酸塩の量を調整する。以下、第3のコーティング溶液を、非超電導領域形成用コーティング溶液と称する。
非超電導領域形成用コーティング溶液を作製する際、金属酢酸塩としては、例えば、REサイト(Y,Pr):Ba:Cu=1:2:3で金属塩を混合する。REサイト中のPrの量が、例えば、20%以上50%以下となるよう混合する。混合・反応以降はSIG(Stabilized Sovent-Into-Gel)法による高純度溶液精製プロセスにより、コーティング溶液中の残留水及び酢酸量は2重量%以下に低減する。第1の実施形態のSIG法は、PrBCOの分解を防止するため部分安定化を図る溶液の高純度化法であり、PS-SIG(Partially Stabilized Solvent-Into-Gel)法である。
非超電導領域形成用コーティング溶液の作製に用いる酢酸プラセオジムの純度は、例えば、99%以上である。
図4は、第1の実施形態のコーティング溶液から超電導膜を成膜する方法の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、先に調製したコーティング溶液を準備する(a)。コーティング溶液を基板上に、例えば、ダイコート法により塗布することで成膜し(b)、ゲル膜を得る(c)。その後、得られたゲル膜に、一次熱処理である仮焼を行い、有機物を分解し(d)、仮焼膜を得る(e)。さらに、この仮焼膜に二次熱処理である本焼を行い(f)、その後、例えば、純酸素アニールを行い(g)、超電導膜(h)を得る。
図5は、第1の実施形態のダイコート法によるゲル膜の形成の説明図である。図5(a)は基板10の上方向から見た図、図5(b)は基板10の横方向から見た図である。
図5に示すように、溶液容器33から、超電導領域形成用コーティング溶液35aと、非超電導領域形成用コーティング溶液35bを基板10に塗布する。図5(a)に示すように、基板10の上に、超電導領域形成用コーティング溶液35aの間に非超電導領域形成用コーティング溶液35bが挟まれ、かつ、超電導領域形成用コーティング溶液35aと非超電導領域形成用コーティング溶液35bが接するように、超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bを塗布する。
基板10は、溶液容器33に対して第1の方向に移動する。基板10の上に塗布された超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bは、第1の方向に伸長する。
基板10の上に塗布された、第2の方向に隣り合う超電導領域形成用コーティング溶液35aの間隔は、例えば、80μm以下である。言い換えれば、基板10の上に塗布された非超電導領域形成用コーティング溶液35bの第2の方向の幅は、例えば、80μm以下である。
基板10の上に塗布された超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bは、乾燥してゲル膜となる。基板10の上への超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bの塗布からゲル膜の形成までに要する時間は、例えば、3秒以内である。
図6は、第1の実施形態の代表的な仮焼プロファイルを示す図である。常圧下での仮焼では主に200℃以上250℃以下でトリフルオロ酢酸塩を分解する。その温度領域への突入防止のため200℃付近では昇温速度を下げる。250℃までの徐昇温で、トリフルオロ酢酸塩から分解された物質はフッ素や酸素を含み、フッ素や酸素は水素結合により膜中に残留しやすい。その物質の除去のために400℃までの昇温を行う。最終温度は350~450℃が一般的である。こうして酸化物やフッ化物から構成される、半透明茶色の仮焼膜が得られる。
図7は、第1の実施形態の代表的な本焼プロファイルを示す図である。100℃のtb1までは乾燥混合ガスであるが、そこから加湿を行う。加湿開始温度は100℃以上400℃以下でよい。疑似液層の形成開始が550℃近辺からと思われ、それ以下の温度で加湿し、膜内部に加湿ガスが行き渡り均一に疑似液層が形成されるようにする。
図7では、800℃本焼の代表的な温度プロファイルを示しているが、tb3での温度のオーバーシュートが無いように775℃以上800℃以下は緩やかな昇温プロファイルとなっている。これでも800℃でのオーバーシュートは2~3℃残り得るが、特に問題にはならない。最高温度での酸素分圧はマトリックス相に依存する。YBCO超電導体焼成の場合は800℃だと1000ppm、それから25℃温度が低下する毎に最適酸素分圧は半分となる。つまり775℃では500ppmであり、750℃では250ppmである。この本焼においてYBCO系の場合はYBaCuが形成される。この時点では超電導体ではない。
例えば、本焼の最高温度を750℃とする場合がある。この場合は、例えば、図7と同じ昇温速度を最高温度より25℃低い温度まで行い、昇温速度を下げて最高温度まで昇温を行う。
最高温度の本焼において、本焼が完了して温度を下げ始める前にtb4で乾燥ガスを流す。加湿ガスは700℃以下で超電導体を分解し酸化物となるため、tb6で酸素アニールを行い、超電導体の酸素数を6.00から6.93とする。この酸素数で超電導体となる。ただしPrBCOだけはペロブスカイト構造であるが超電導体ではない。またPrの価数が不明のため、ユニットセルの酸素数も不明であるが、酸素数は多いと思われる。Prの価数が3と4の間の値をとり、それに応じて酸素の数がユニットセルに増えるためである。酸素アニールの開始温度は375℃以上525℃以下である。その後の温度保持終了後にtb8から炉冷とする。
図8は、第1の実施形態において超電導膜形成の際の膜厚変化を示す図である。図8は、膜厚1.2μmの超電導膜を形成する際の膜厚変化を示す。物質の拡散は成膜時のみ起きることが解かっており、その拡散領域は幅1μmである。そのため非超電導領域の幅は10μm前後が最小値となると考えられる。
次に、第1の実施形態の超電導線材100の製造方法の第2の例について説明する。第2の例では、ゲル膜の形成にインクジェット法を用いる以外は、上記の第1の例と同様である。
図9は、第1の実施形態のインクジェット法によるゲル膜の形成の説明図である。図9(a)は基板10の上方向から見た図、図9(b)は基板10の横方向から見た図である。
図9に示すように、ノズル34から、超電導領域形成用コーティング溶液35aと、非超電導領域形成用コーティング溶液35bを基板10に向けて射出する。図9(a)に示すように、基板10の上に、超電導領域形成用コーティング溶液35aの間に非超電導領域形成用コーティング溶液35bが挟まれ、かつ、超電導領域形成用コーティング溶液35aと非超電導領域形成用コーティング溶液35bが接するように、超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bが射出される。
基板10は、ノズル34に対して第1の方向に移動する。基板10の上に射出された超電導領域形成用コーティング溶液35a及び非超電導領域形成用コーティング溶液35bは、第1の方向に伸長する。
基板10の上に射出された非超電導領域形成用コーティング溶液35bが基板10に達した際の液滴の平均直径は、例えば、10μm以下である。
以上の製造方法により、酸化物超電導層30を含む第1の実施形態の超電導線材100が製造される。
次に、第1の実施形態の酸化物超電導体及びその製造方法の作用及び効果について説明する。
図10は、第1の比較例の酸化物超電導体の模式断面図である。図11は、第1の比較例の酸化物超電導体の模式上面図である。図11は、図10の金属層を除去した状態の上面図である。図10は、図11のBB’断面である。
第1の比較例の酸化物超電導体は、超電導線材900である。
超電導線材900は、図10に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30と、金属層40とを備える。第1の比較例の超電導線材900は、酸化物超電導層30が非超電導領域を含まず、酸化物超電導層30が分割されていない点で、第1の実施形態の超電導線材100と異なる。酸化物超電導層30は、すべて超電導特性を有する超電導領域である。
第1の実施形態の超電導線材100は、酸化物超電導層30が非超電導領域32によって、複数の超電導領域31に分割されている。言い換えれば、酸化物超電導層30が複数の超電導領域31に細線化されている。
したがって、超電導線材100によれば、交流応用した際に、インダクタンス成分によるエネルギーロスが低減できる。よって、超電導線材100によれば、第1の比較例の超電導線材900と比較して、ACロスの低減が可能となる。
図12は、第2の比較例の酸化物超電導体の模式断面図である。
第2の比較例の酸化物超電導体は、超電導線材910である。
超電導線材910は、図12に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30を備える。第2の比較例の超電導線材910は、酸化物超電導層30が非超電導領域を含まない点で、第1の実施形態の超電導線材100と異なる。
超電導線材910の酸化物超電導層30は、レーザースクライビング法で酸化物超電導層30を膜上方(c軸方向)からアブレーション加工して、酸化物超電導層30を分割している。
レーザースクライビング法により、酸化物超電導層30を形成していた物質が飛散することで空隙部30xが形成される。同時に1700℃相当とも言われる高エネルギーで、空隙部の中間層20に変質した領域20xが形成される。中間層20には、例えば、CeOなどが用いられるが、領域20xは分解物であったりアブレーションで飛散した物質との複合酸化物であったりと、単一組成のものではない。
空隙部30xに隣接する領域には、分解物からなる分解酸化物層36が形成される。分解物はYやCuO、BaCuOなどであり非超電導体である。また、アブレーション時の高熱により、酸化物超電導層30の酸素数が変化し、YBCOでありながら酸素数が異なり非超電導体である領域37が形成される。空隙部30xは、例えば幅20μmであり、分解酸化物層36と領域37の片側の幅は40μmであるため、両側の幅を併せて非超電導領域の幅は合計100μmとなる。したがって、非超電導領域の幅を狭めることが困難である。よって、十分なACロス低減の効果が得られない。
また、アブレーションによる加工では、領域20x、分解酸化物層36、領域37が広がらないように必要最低限のエネルギーでアブレーションを行うことが多い。すると、エネルギーが十分でないために近隣の酸化物超電導層30の上に堆積物であるデブリ38が形成される。デブリ38は、例えば、酸化物超電導層30の膜厚と同じか、より大きい高さまで堆積すると考えられる。デブリ38が形成されると、例えば、超電導線材910にクラックが生じやすくなる。超電導線材910の機械的強度が低下する。
第1の実施形態の超電導線材100は、酸化物超電導層30が非超電導領域32によって、複数の超電導領域31に分割されている。非超電導領域32は、コーティング溶液の塗布又は射出により形成されている。したがって、非超電導領域32から超電導領域31に向けて非超電導領域32が広がることはない。
第1の実施形態の超電導線材100よれば、基板10の上の非超電導領域形成用コーティング溶液35bの幅で、非超電導領域32の幅が規定される。したがって、例えば、ダイコート法であれば80μm以下、インクジェット法であれば10μm以下と、極めて幅の狭い非超電導領域32が形成できる。したがって、第2の比較例の超電導線材910と比較して、高いACロス削減効果を得ることが可能となる。
また、超電導線材100は、超電導領域31と非超電導領域32が連続したペロブスカイト構造で形成されるため、十分な機械的強度も得られる。
図13は、第3の比較例の酸化物超電導体の模式断面図である。
第3の比較例の酸化物超電導体は、超電導線材920である。
超電導線材920は、図13に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30を備える。第3の比較例の超電導線材920は、酸化物超電導層30が非超電導領域を含まない点で、第1の実施形態の超電導線材100と異なる。
超電導線材920の酸化物超電導層30は、TFA-MOD法により形成される。基板10の上に、ゲル膜を形成する際に、コーティング溶液を塗布しない部分を形成することで、空隙部30xが形成される。
酸化物超電導層30の領域30pと領域30qは超電導領域である。領域30pは、c軸配向粒子の超電導体であり、良好な超電導特性が得られる領域である。しかし、領域30qはc軸配向粒子が横倒しとなったa/b軸配向粒子の超電導体であり、図の縦方向にだけ超電導電流が得られ、目的とする横方向には超電導電流がほとんど流れない領域である。
例えば、空隙部30xの幅を100μmとし、領域30pと領域30qの合計幅を400μmとする場合、超電導電流が得られる部分は領域30pのみであり、最大でも200μm幅となる。領域30qは実験結果からも、TFA-MOD法の成長モデルからも幅が100μm以上となるため、領域30pの幅は200μm以下であり、500μm幅の構造中、超電導領域は40%の200μm以下となる。したがって、非超電導領域の幅を狭めることが困難である。よって、十分なACロス低減の効果が得られない。
第1の実施形態の超電導線材100よれば、空隙部を形成しないため、コーティング溶液の端部が存在しない。したがって、非超電導領域32と超電導領域31の境界から、超電導領域31側に100μm以下の部分におけるa/b軸配向比率は、例えば、30%未満である。
第1の実施形態の超電導線材100よれば、基板10の上の非超電導領域形成用コーティング溶液35bの幅で、非超電導領域32の幅が規定される。したがって、例えば、ダイコート法であれば80μm以下と、極めて幅の狭い非超電導領域32が形成できる。したがって、第3の比較例の超電導線材920と比較して、高いACロス削減効果を得ることが可能となる。
図14は、第4の比較例の酸化物超電導体の模式断面図である。
第4の比較例の酸化物超電導体は、超電導線材930である。
超電導線材930は、図14に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30を備える。第4の比較例の超電導線材930は、酸化物超電導層30が非超電導領域を含まない点で、第1の実施形態の超電導線材100と異なる。
超電導線材930の酸化物超電導層30は、インクジェット法により形成される。基板10の上に、ゲル膜を形成する際に、ノズルからコーティング溶液を射出しない部分を形成することで、空隙部30xが形成される。
例えば、酸化物超電導層30は、インクジェット法により成膜した領域36m及び領域36nで形成される。領域36m及び領域36nは、いずれも、c軸配向粒子が横倒しとなったa/b軸配向粒子の超電導体であり、図の縦方向にだけ超電導電流が得られ、目的とする横方向には超電導電流がほとんど流れない領域である。
例えば、コーティング溶液の液滴の端部から100μmの範囲では、a/b軸配向粒子が形成しやすい。したがって、領域36mと領域36nを合わせた幅が200μm以下では、すべて、a/b軸配向粒子の超電導体となる。したがって、非超電導領域の幅を狭めることが困難である。よって、十分なACロス低減の効果が得られない。
第1の実施形態の超電導線材100よれば、例えば、インクジェット法で形成した場合でも、コーティング溶液の液滴の端部が存在しない。したがって、a/b軸配向粒子の超電導体が形成されにくい。TFA-MOD法の成長が膜表面からのフッ化水素ガス拡散に比例するため、通常の均一なYBCO膜を形成する場合と同じ状態になるためである。
第1の実施形態の超電導線材100によれば、インクジェット法であれば10μm以下と、極めて幅の狭い非超電導領域32が形成できる。したがって、第4の比較例の超電導線材930と比較して、高いACロス削減効果を得ることが可能となる。
第1の実施形態の超電導線材100の非超電導領域32は、YサイトをPrで20%以上置換した構造体が含まれる。この構造体は、超電導領域31のY系超電導ユニットセルと格子ミスマッチが1~2%以下であるため、超電導領域31と連続した共通のペロブスカイト構造を形成する。2つの超電導領域31が非超電導領域32を挟み、2つの超電導領域31と非超電導領域32のペロブスカイト構造が連続した構造を、Planted-Shared-Insulator(PSI)構造と呼ぶこととする。
TFA-MOD法ACロス低減のために空隙形成により非超電導領域を形成すると、a/b軸配向粒子が形成され超電導特性が大きく低下してしまう。しかし、PSI構造ではa/b軸配向粒子はほとんど形成されない。このPSI構造は、ダイコート法では、超電導領域形成用コーティング溶液と非超電導領域形成用コーティング溶液の同時成膜で形成する。また、インクジェット法では超電導領域形成用コーティング溶液と非超電導領域形成用コーティング溶液それぞれの液滴を基板に射出することにより、例えば、1μm幅のPSI構造を実現することも可能である。例えば、比較例のレーザースクライビング法での非超電導領域形成は幅100μmが限界であるため、ACロス低減は1/100に低減されることとなる。
第1の実施形態の超電導線材100において、非超電導領域32のサイズは、100nm×100nm×100nm以上であることが好ましい。非超電導領域32のサイズが100nm×100nm×100nm以上であることで、隣り合う超電導領域31の間の絶縁性が確保できる。
第1の実施形態の超電導線材100において、超電導線材100を線材として機能させる観点から、超電導領域31及び非超電導領域32の、第1の方向の長さは1μm以上であることが好ましく、1m以上であることがより好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、ACロスを低減させる観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図2中のW2)は、例えば、超電導領域31の第2の方向の幅(図2中のW1)よりも小さいことが好ましい。
第1の実施形態の超電導線材100において、ACロスを低減させる観点から、非超電導領域32の第2の方向の幅(図2中のW2)は、例えば、80μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
酸化物超電導層30は、2.0×1015atoms/cm以上5.0×1019atoms/cm以下のフッ素(F)と、1.0×1017atoms/cm以上5.0×1020atoms/cm以下の炭素(C)と、を含むことが好ましい。酸化物超電導層30に含まれるフッ素や炭素は、10Tを超す非常に強力な磁場下では、小さな効果ながらも人工ピンとして機能すると考えられる。したがって、超電導線材100の磁場特性が向上する。
超電導領域31は、プラセオジム(Pr)を含むことが好ましい。酸化物超電導層30の中に、非超電導体であるPrBCOが分散され、人工ピンとして機能する。したがって、超電導線材100の磁場特性が向上する。
超電導領域31が良好な超電導性を発現する観点から、酸化物超電導層30に含まれるプラセオジム(Pr)以外の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が15%以下であることが好ましい。
超電導領域31は、クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)を含むことが好ましい。クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)は、例えば、特許第6374365号公報、特許第6479251号公報、又は特許第6556674号公報に記載される人工ピンである。超電導領域31は、クラスター化原子置換型人工ピン(CARP)を含むことで、超電導線材100の磁場特性が向上する。
第1の実施形態の超電導線材100の製造方法において、インクジェット法を用いることが好ましい。インクジェット法を用いることで、非超電導領域形成用コーティング溶液35bが基板10に達した際の液滴の平均直径を、例えば、10μm以下、更には1μm以下にすることが可能である。したがって、非超電導領域32の幅を、10μm以下、更には1μm以下にすることが可能である。よって、第1の実施形態の超電導線材100のACロスを低減させることが可能である。
第1の実施形態の超電導線材100の最大の特徴は、ACロス低減のために超電導領域31を隔てる非超電導領域32を、空隙ではなくペロブスカイト構造を形成し、かつ、超電導領域31の連続したペロブスカイト構造で構成されていることである。そのため、超電導線材100には、ペロブスカイト構造を形成する非超電導領域32が含まれる。非超電導領域32は、YサイトにPrが20%以上置換された構造となる。
上記記載の空隙について、偶然に形成される小さなvoid、例えば直径数10nmの空隙などを意味するものではない。ここで言う空隙とは、TFA-MOD法の疑似液相ネットワークモデルにおいて、格子の過剰放出につながる空隙のことであり、例えばインクジェット法で形成が見込まれる1μm幅の空隙であればそれに該当する。
TFA-MOD法で形成される超電導体は膜厚が1μm前後で限界となる。そのため膜厚に匹敵する空隙であれば十分にHFガスを放出し、ユニットセルを過剰に形成することとなる。そしての過剰放出がa/b軸配向粒子を形成するのである。そのためここで言う空隙とは、約1μm以上のものを意味する。
a/b軸配向粒子は超電導電流を阻害することで知られている。厳密な言い方をすれば、c軸配向粒子と90度異なる方向へ超電導電流が流れるわけであるが、a/b軸配向粒子が30%も存在する超電導体では特性が1/100以下に低下してしまう。30%の存在では特性がほぼゼロと認識されるが、ここでは1/100程度得られるとして取り扱っている。a/b軸配向粒子が形成すると、超電導本体の特性が大きく低下するため、ACロス低減が実現できても得られる超電導電流が小さくなり、意義が薄れてしまう。
そのため、第1の実施形態の超電導線材100では、a/b軸配向粒子がほぼゼロとなる手法で非超電導となるペロブスカイト構造を形成し、ACロス低減構造を実現する。なお、連続したペロブスカイト構造を形成するため、機械的強度に非常に優れた構造となる。比較例ではいずれも非超電導領域に空隙を用いているため、超電導体の幅が細くなり、コイルなどで巻き取ると破損する可能性が高かった。しかし第1の実施形態の超電導線材100では、連続したペロブスカイト構造を形成しながら、YサイトにPrを20%以上置換することで、超電導領域31と共通な格子構造の非超電導領域32を実現している。
以上、第1の実施形態によれば、ACロスの低減が可能な酸化物超電導体及びその製造方法を提供できる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態の酸化物超電導体は、超電導共振器である点で、第1の実施形態の酸化物超電導体と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する場合がある。
図15は、第2の実施形態の酸化物超電導体の模式図である。図15(a)は断面図、図15(b)は上面図である。図15(a)は、図15(b)のCC’断面である。
第2の実施形態の酸化物超電導体は、超電導共振器200である。超電導共振器200は、マイクロストリップライン構造を有する。例えば、超電導共振器200を複数組み合わせることで、超電導フィルタを形成することが可能である。
超電導共振器200は、基板46、下部中間層47、下部酸化物超電導層48、上部中間層49、及び上部酸化物超電導層50を備える。下部中間層47は、基板46と下部酸化物超電導層48との間に設けられる。上部中間層49は、基板46と上部酸化物超電導層50との間に設けられる。下部中間層47及び上部中間層49は、例えば、CeOである。
基板46は、上部酸化物超電導層50と下部酸化物超電導層48の間に設けられる。基板46は、例えば、サファイア基板である。
上部酸化物超電導層50は、第1の超電導領域51a、第2の超電導領域51b、第3の超電導領域51c、第1の非超電導領域52a、及び第2の非超電導領域52bを含む。第1の非超電導領域52aが非超電導領域の一例である。
第1の超電導領域51a、第2の超電導領域51b、第3の超電導領域51c、第1の非超電導領域52a、及び第2の非超電導領域52bの少なくとも一部は、第1の方向に伸長する。
以下、説明を容易にするために、第1の超電導領域51a、第2の超電導領域51b、及び第3の超電導領域51cを総称して、単に超電導領域51と称する場合がある。また、第1の非超電導領域52a、及び第2の非超電導領域52bを総称して、単に非超電導領域32と称する場合がある。
上部酸化物超電導層50は、非超電導領域32を間に挟んで複数の超電導領域31に分割されている。
第1の超電導領域51aに含まれる第1の希土類元素、第2の超電導領域51bに含まれる第2の希土類元素、及び第1の非超電導領域52aに含まれる第3の希土類元素は同一である。第1の希土類元素、第2の希土類元素、及び第3の希土類元素は、例えば、イットリウム(Y)である。
図16は、第2の実施形態の比較例の酸化物超電導体の模式図である。図16(a)は断面図、図16(b)は上面図である。図16(a)は、図16(b)のDD’断面である。
比較例の酸化物超電導体は、超電導共振器950である。比較例の超電導共振器950は、上部酸化物超電導層50が非超電導領域を含まず、超電導領域が分割されていない点で、第2の実施形態の超電導共振器200と異なる。上部酸化物超電導層50は、すべて超電導特性を有する超電導領域である。
第2の実施形態の超電導共振器200は、上部酸化物超電導層50が非超電導領域52によって、複数の超電導領域51に分割されている。言い換えれば、酸化物超電導層30が複数の超電導領域51に細線化されている。
したがって、超電導共振器200によれば、インダクタンス成分によるエネルギーロスが低減できる。よって、超電導共振器200によれば、比較例の超電導共振器950と比べ、ACロスの低減が可能となる。
(変形例)
図17は、第2の実施形態の酸化物超電導体の変形例の模式図である。図17(a)は断面図、図17(b)は上面図である。図17(a)は、図17(b)のEE’断面である。
第2の実施形態の酸化物超電導体の変形例は、超電導共振器210である。超電導共振器210は、第1の超電導領域51aに含まれる第1の希土類元素と、第2の超電導領域51bに含まれる第2の希土類元素とが異なる点で、第2の実施形態の超電導共振器200と異なる。第1の希土類元素は、例えば、ジスプロシウム(Dy)である、第2の希土類元素は、例えば、イットリウム(Y)である。
以上、第2の実施形態によれば、ACロスの低減が可能な酸化物超電導体を提供できる。
実施形態の超電導線材及び超電導共振器では、Yサイトに22%Prを置換した構造体で、非超電導領域を形成しながら、a/b軸配向粒子の形成がほぼゼロに抑えられ、超電導特性が維持される。それにより幅400μmより狭い超電導体の成膜においてもa/b軸配向粒子の形成幅が200μmの幅で30%以下に抑えることができる。それによりACロス低減構造の高い線材を実現することができる。
実施形態の超電導線材及び超電導共振器では、超電導体の幅を10μmとしてもほぼa/b軸配向粒子の形成がゼロであると思われる。極図形測定の結果がそうなっているのと、高分解能TEM観察結果がそうなっているためである。空隙形成によらないACロス低減構造の実現は、Prが22%置換した構造により初めて実現するものと思われる。
以下、実施例について説明する。
(実施例1)
図3に示されるフローチャートに従い、10種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。最初に合成する5種類のコーティング溶液は、金属酢酸塩に純度98%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:1.00:2:3、0.10:0.90:2:3、0.15:0.85:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質1Mi-low-Pr0.001.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr低純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1Mi-low-Pr0.100.90BCO、1Mi-low-Pr0.150.85BCO、1Mi-low-Pr0.200.80BCO、1Mi-low-Pr0.220.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質1Mi-low-Pr0.001.00BCO、1Mi-low-Pr0.100.90BCO、1Mi-low-Pr0.150.85BCO、1Mi-low-Pr0.200.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.220.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質1Mi-low-Pr0.001.00BCO、1Mi-low-Pr0.100.90BCO、1Mi-low-Pr0.150.85BCO、1Mi-low-Pr0.200.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.220.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液を得ようとしたが、1Mi-low-Pr0.200.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.220.78BCOはメタノール溶解時に不透明緑白色の沈殿物が多量に発生し実験を中止した。そのほかの物質はメタノール溶解でも沈殿物は生じることなく、1CSi-low-Pr0.001.00BCO(実施例1で説明するコーティング溶液、Pr低純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1CSi-low-Pr0.100.90BCO、1CSi-low-Pr0.150.85BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液1CSi-low-Pr0.001.00BCO 、1CSi-low-Pr0.100.90BCO、及び1CSi-low-Pr0.150.85BCOを12時間保管すると、コーティング溶液1CSi-low-Pr0.150.85BCO中に不透明緑白色の沈殿が生じたため、そこで実験を中止した。
図3に示されるフローチャートに従い、他の5種類のコーティング溶液を合成及び生成を行う。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:1.00:2:3、0.10:0.90:2:3、0.15:0.85:2:3、0.20:0.80:2:3、0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質1Mi-high-Pr0.001.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr高純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1Mi-high-Pr0.100.90BCO、1Mi-low-Pr0.150.85BCO、1Mi-low-Pr0.200.80BCO、及び1Mi-low-Pr0.220.78BCOを得た。こちら側の溶液合成途上で沈殿を生じたコーティング溶液は無かった。
得られた半透明青色の物質1Mi-high-Pr0.001.00BCO、1Mi-high-Pr0.100.90BCO、1Mi-high-Pr0.150.85BCO、1Mi-high-Pr0.200.80BCO、及び1Mi-high-Pr0.220.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質1Mi-high-Pr0.001.00BCO、1Mi-high-Pr0.100.90BCO、1Mi-high-Pr0.150.85BCO、1Mi-high-Pr0.200.80BCO、及び1Mi-high-Pr0.220.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、1CSi-high-Pr0.001.00BCO(実施例1で説明するコーティング溶液、Pr高純度、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、1CSi-high-Pr0.100.90BCO、1CSi-high-Pr0.150.85BCO、1CSi-high-Pr0.200.80BCO、及び1CSi-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
先に得られたコーティング溶液と合わせての精製(図3のh)を行う。1CSi-low-Pr0.001.00BCO、1CSi-low-Pr0.100.90BCO、1CSi-high-Pr0.001.00BCO、1CSi-high-Pr0.100.90BCO、1CSi-high-Pr0.150.85BCO、1CSi-high-Pr0.200.80BCO、及び1CSi-high-Pr0.220.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質1M-low-Pr0.001.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr低純度、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、1M-low-Pr0.100.90BCO、1M-high-Pr0.001.00BCO(実施例1で説明する物質、Pr高純度、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、1M-high-Pr0.100.90BCO、1M-high-Pr0.150.85BCO、1M-high-Pr0.200.80BCO、及び1M-high-Pr0.220.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質1M-low-Pr0.001.00BCO、1M-low-Pr0.100.90BCO、1M-high-Pr0.001.00BCO、1M-high-Pr0.100.90BCO、1M-high-Pr0.150.85BCO、1M-high-Pr0.200.80BCO、及び1M-high-Pr0.220.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液1CS-low-Pr0.001.00BCO(実施例1、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure、Pr低純度)、1CS-low-Pr0.100.90BCO、1CS-high-Pr0.001.00BCO(実施例1、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure、Pr高純度)、1CS-high-Pr0.100.90BCO、1CS-high-Pr0.150.85BCO、1CS-high-Pr0.200.80BCO、及び1CS-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液1CS-low-Pr0.001.00BCO 、1CS-low-Pr0.100.90BCO、1CS-high-Pr0.001.00BCO、1CS-high-Pr0.100.90BCO、1CS-high-Pr0.150.85BCO、1CS-high-Pr0.200.80BCO、及び1CS-high-Pr0.220.78BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上に成膜を行い、半透明青色のゲル膜1Gel-low-Pr0.001.00BCO(実施例1、Pr低濃度、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Gel-low-Pr0.100.90BCO、1Gel-high-Pr0.001.00BCO(実施例1、Pr高濃度、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Gel-high-Pr0.100.90BCO、1Gel-high-Pr0.150.85BCO、1Gel-high-Pr0.200.80BCO、及び1Gel-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
得られたゲル膜、1Gel-low-Pr0.001.00BCO、1Gel-low-Pr0.100.90BCO、1Gel-high-Pr0.100.90BCO、1Gel-high-Pr0.100.90BCO、1Gel-high-Pr0.150.85BCO、1Gel-high-Pr0.200.80BCO、及び1Gel-high-Pr0.220.78BCOは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜1Cal-low-Pr0.001.00BCO(実施例1、Pr低濃度、calcined film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Cal-low-Pr0.100.90BCO 、1Cal-high-Pr0.001.00BCO(実施例1、Pr高濃度、calcined film of resulting 0%Pr, 100%Y films)、1Cal-high-Pr0.100.90BCO、1Cal-high-Pr0.150.85BCO、1Cal-high-Pr0.200.80BCO、及び1Cal-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
図7に示す本焼プロファイルで仮焼膜1Cal-low-Pr0.001.00BCO、1Cal-low-Pr0.100.90BCO、1Cal-high-Pr0.001.00BCO、1Cal-high-Pr0.100.90BCO、1Cal-high-Pr0.150.85BCO、1Cal-high-Pr0.200.80BCO、及び1Cal-high-Pr0.220.78BCOを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜1F-low-Pr0.001.00BCO (実施例1、fired oxide films of Pr0.001.00BCO、Pr低濃度)、1F-low-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.001.00BCO(実施例1、fired oxide films of Pr0.001.00BCO、Pr高濃度)、1F-high-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.150.85BCO、1F-high-Pr0.200.80BCO、及び1F-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
酸化物薄膜1F-low-Pr0.001.00BCO、1F-low-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.001.00BCO、1F-high-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.150.85BCO、1F-high-Pr0.200.80BCO、及び1F-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY、BaCuOなどの異相はバックグラウンドとの差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜1F-low-Pr0.001.00BCO、1F-low-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.001.00BCO、1F-high-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.150.85BCO、1F-high-Pr0.200.80BCO、及び1F-high-Pr0.220.78BCOをそれぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。誘導法での超電導特性評価は、原理的に対象となる超電導膜に直径約6mmの領域で超電導体が存在しなければ特性が評価できない。そのため中央部の4~6点のみの特性が得られるが、その最高値で超電導膜の特性としている。得られた超電導特性はそれぞれ、6.77、3.39、6.81、3.41、1.72、0.00、及び0.00MA/cm(77K,0T)であった。
誘導法による超電導特性の測定結果は、Pr量添加量の約5倍特性が低下する、5倍劣化現象の結果に従うものであった。すなわち10%Pr添加では約50%の特性低下がみられ、15%添加では75%の特性低下がみられるというものであった。酢酸プラセオジムの純度が98%であっても99%であってもほぼ同じ特性が得られ、5倍劣化現象による特性低下もほぼ同じであることが分かった。Pr量が20%と22%のものは誘導法では特性が確認できず、非超電導であることが分かった。
酸化物薄膜1F-low-Pr0.001.00BCO、1F-low-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.001.00BCO、1F-high-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.150.85BCO、1F-high-Pr0.200.80BCO、及び1F-high-Pr0.220.78BCOの膜表面の10mm角対角線方向に垂直に、幅2mmの銀を4本電子ビーム法での銀蒸着し、純酸素下180℃で熱処理を行い、蒸着銀と超電導層の接触性を改善した。両端部の2端子が電流端子で、中央部の2端子は電圧端子である。試料は液体窒素直上に設置した金属プレートを上下する手法で温度を制御し、直流4端子法により0.10μAの電流でTc測定を行った。Tcは1μV/cmの基準で判定した。
得られたTc値は酸化物薄膜1F-low-Pr0.001.00BCO、1F-low-Pr0.100.90BCO、1F-high-Pr0.001.00BCO、1F-high-Pr0.100.90BCO、及び1F-high-Pr0.150.85BCOがそれぞれ、90.71、90.68、90.69、90.73、90.65Kであった。測定誤差は半導体温度計の0.07Kであるためほぼ同じTc値であった。酸化物薄膜1F-high-Pr0.200.80BCO、及び1F-high-Pr0.220.78BCOは超電導転移せず、少なくとも接続した端子間では非超電導体であることが分かった。
XRD相同定の結果と誘導法及び直流4端子法から、酸化物薄膜1F-high-Pr0.200.80BCO、及び1F-high-Pr0.220.78BCOはYBCOと共通のペロブスカイト構造を持ちながらPrが持つ5倍劣化現象で超電導特性がゼロとなる、非超電導層であることがわかった。Prの5倍劣化現象はPr量が20%を超えてでも適用される現象であることが初めて分かった。
Pr量が10%の溶液は先の発明で実現し特許出願を提出している。Prを安定して存在させるためにPS-SIG法を用いている。ただPrの純度が98%と低い場合に沈殿が生じやすいことが分かった。Prは元来、溶液合成時にはイオン半径の大きさから単体でPrBCO溶液を合成しようとすると分解してしまう物質である。その抑制はYと混合することにより部分安定化するPS-SIG法で実現したのである。Prの純度が98%と低い場合には、含まれる不純物が溶液合成時に作用し、分解させる効果があると思われる。
Prの純度を99%としたときに22%のPr置換YBCO溶液が沈殿無しに得られている。ただ純度がこの先に更に改善しても、元来Prはイオン半径が大きく分解しやすい物質であるために22%を大きく超えて濃度を高められることは無いと考えられる。本来持つPrの混合限界が存在するはずであるからである。
Prの純度が98%でも99%でも、相同定結果や誘導法による超電導特性結果に差は無かった。不純物量は2%と1%であり、不純物が何であるかは不明であるが、それがPrBCOのような5倍劣化現象を示す物質ではないと思われる。つまり分解原因となった物質は共通のペロブスカイト構造を形成していないと思われる。Prの純度は、溶液合成時の分解、すなわち沈殿の有無に関係していると思われる。
YBCOとPrBCOが重ねて作られた例や、その成膜の試みはかねてから報告されている。例えばジョセフソン接合においては一度YBCOを成膜し、その後にPrBCOを成膜し、超電導と非超電導の接合部作成を試みている。しかしながら、上記の説明通りこのYBCOとPrBCOは同じ成膜温度で最適酸素分圧が極端に異なる物質である。例えば800℃での最適酸素分圧は1000ppmと1ppmであり、775℃ではその半分の500ppmと0.5ppmとなる。25℃毎に最適酸素分圧は半分になることが知られている。YBCOとPrBCOの酸素分圧は1000倍異なるのである。
YBCOを真空物理蒸着法であるPLD法やMOCVD法で成膜を試みた場合、許容される酸素分圧はたかだか2倍の500ppm~2000ppmである。しかも500ppmではかなり質の悪いYBCO層が形成されてしまう。そのためYBCOとPrBCOは別の条件で成膜されることとなり、それぞれがペロブスカイト構造での結合をもつことはあり得ない。
TFA-MOD法は疑似液相で成長し、ユニットセルが放出される成長界面は疑似液相の底に沈んだ状態である。酸素分圧の制御は疑似液相の外側となり、その酸素分圧が成長界面に大きくは影響しないため、YBCOとPrBCOが混在したペロブスカイト構造が得られる。そして先の特許出願で10%Pr置換のYBCOを報告した。
その特許出願での条件ではPrの純度が98%と低かったために、Yサイトに置換可能なPrは10%が限界で、コーティング溶液はそれ以上の濃度では沈殿してしまっていた。今回、Prの純度を99%と改善することによりPS-SIG法におけるPrの分解をさらに抑制し、得られたペロブスカイト構造にYBCOと20%を超すPrBCOが共存して存在していることは確実である。前例の無い構造体が得られた初めての報告である。それと同時にPrの5倍劣化現象が、Pr量20%や22%でも適用されて非超電導体となることが確認された初の報告でもある。
(実施例2)
図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:0.90:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質2Mi-Pr0.001.00BCO(実施例2で説明する物質、0%Pr、100%Y Matrial with impurity)、2Mi-Pr0.220.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質2Mi-Pr0.001.00BCO、及び2Mi-Pr0.220.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質2Mi-Pr0.001.00BCO、2Mi-Pr0.220.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液2CSi-Pr0.001.00BCO(実施例2で説明するコーティング溶液、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、及び2CSi-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液2CSi-Pr0.001.00BCO、2CSi-Pr0.220.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質2M-Pr0.001.00BCO(実施例2で説明する物質、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、2M-Pr0.220.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質2M-Pr0.001.00BCO、及び2M-Pr0.220.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液2CS-Pr0.001.00BCO(実施例2、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure)、及び2CS-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液2CS-Pr0.001.00BCO、及び2CS-Pr0.220.78BCOを用い、スピンコート法を用い加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sで10×10×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶上にそれぞれ2枚の成膜を行い、半透明青色のゲル膜2Gel-Pr0.001.00BCO-1(実施例2、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films、試料番号1)、2Gel-Pr0.001.00BCO-2、2Gel-Pr0.220.78BCO-3(実施例2、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films、試料番号1)、及び2Gel-Pr0.220.78BCO-4をそれぞれ得た。このゲル膜は本焼後に膜厚が150nmとなる成膜条件である。
上記とは別にコーティング溶液2CS-Pr0.001.00BCO、2CS-Pr0.220.78BCOを用い、10×25×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液2CS-Pr0.001.00BCOを、反対側コーティング溶液2CS-Pr0.220.78BCOを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜2Gel-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-C(実施例2、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films and 22%Pr, 78%Y films、chimera)を得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数4000rpm、保持時間60sである。
半透明青色のゲル膜2Gel-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、2Gel-Pr0.001.00BCO-1、2Gel-Pr0.001.00BCO-2、2Gel-Pr0.220.78BCO-3、及び2Gel-Pr0.220.78BCO-4、2Gel-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜2Cal-Pr0.001.00BCO-1(実施例2、calcined film of resulting 0%Pr, 100%Y films、試料番号1)、2Cal-Pr0.001.00BCO-2、2Cal-Pr0.220.78BCO-3、及び2Cal-Pr0.220.78BCO-4、及び2Cal-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cをそれぞれ得た。
図7に示す本焼プロファイルで仮焼膜2Cal-Pr0.001.00BCO-1、2Cal-Pr0.001.00BCO-2、2Cal-Pr0.220.78BCO-3、2Cal-Pr0.220.78BCO-4、及び2Cal-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1 (実施例2、fired oxide films of Pr0.001.00BCO、試料番号1)、2F-Pr0.001.00BCO-2、2F-Pr0.220.78BCO-3、2F-Pr0.220.78BCO-4、及び2F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cそれぞれ得た。
酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1、2F-Pr0.001.00BCO-2、2F-Pr0.220.78BCO-3、及び2F-Pr0.220.78BCO-4の中央部をそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定した結果、YBCO(00n)ピークのみが確認され、異相であるCuOやY2O3、BaCuO2などの異相はバックグラウンドと差が判別できないレベルであった。YBCO(006)が最強ピークであり、異相のピークは1/1000か、それ以下であった。原料のPrの純度によるXRD相同定結果に差は見られなかった。
酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1、2F-Pr0.001.00BCO-2、2F-Pr0.220.78BCO-3、及び2F-Pr0.220.78BCO-4それぞれ液体窒素中、自己磁場下で、誘導法により超電導特性を測定した。図18は、酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1、及び2F-Pr0.001.00BCO-2のマップでの超電導特性測定結果である。
誘導法による超電導特性の測定は単一の磁場発生ロッドと第三高調波の検出装置の組み合わせである。相手側超電導体に、印加磁場を打ち消すことができる効果が発揮していればそれは超電導状態であり、それを超えた際は第三高調波が発生し、その検知により非破壊で超電導特性が測定できる仕組みである。もちろんそうでなくてもシグナルは出てくるのであるが、波形が標準状態からずれたり、磁場印加時に検知電圧がゼロとならないものは超電導でないものと扱われる。
第三高調波の発生と検知は、超電導体側に直径6mmの領域が必要とされており、10mm各試料を2mmピッチでロッドを移動させて測定する今回の手法では、最大で1辺に3点までのデータは並ばない。
酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1の測定結果は図18(a)であり、Jc値(MA/cm2、77K,0T)が6.29~6.67までの5点が超電導特性を測定できた領域として扱われている。酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-2の測定結果は図18(b)で、6.43~6.85の特性となっている。最大値でないものは単結晶端部の影響を受け下がる可能性が高いため、得られた結果の最大値がJc値となる。
酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO-1、及び2F-Pr0.001.00BCO-2は中央部に6.67と6.85MA/cmの超電導特性を液体窒素中で持つ、良好な超電導体であることが分かった。
図19は、酸化物薄膜2F-Pr0.220.78BCO-3、及び2F-Pr0.220.78BCO-4の超電導特性測定結果である。を測定した結果を、2F-Pr0.220.78BCO-3は、図19(a)、2F-Pr0.220.78BCO-4は図19(b)に示す。こちらは全ての領域で超電導と判定できるシグナルが得られなかった。この結果は実施例1と同じ結果だが、その後にキメラ膜を成膜した原液確認のためこの実験を行った。全域で特性はゼロであり、膜内部に直径6mmφの超電導領域が存在しないことを示す。
図20は、酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cは、YBCOを下側に、22%Pr置換のYBCOを上側に設置した場合の超電導特性測定結果である。図の上側、22%Pr置換のYBCOは超電導特性を示していない。一方で下側のYBCOは超電導特性を示している。その境界部は誘導法の原理により超電導と判定されない部分が2~4mm幅で出てくることになる。
この酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CのJc値のYBCO部分は、2F-Pr0.001.00BCO-1、及び2F-Pr0.001.00BCO-2のJc値に近い結果であり、22%Pr-YBCO部分は、2F-Pr0.220.78BCO-3、及び2F-Pr0.220.78BCO-4と同じ結果である。
酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cの外観であるが、YBCO超電導部分はつやのある黒色で、22%Prが存在するところはやや白みがかった色となっている。これは22%Prが存在する部分の本焼時最適酸素分圧が1000ppmではないため異相が部分的に形成された可能性がある。しかし先に述べたとおり、TFA-MOD法は広い酸素分圧で本焼が可能であり、またXRD測定結果からもペロブスカイト構造であることは確認されている。仮に最適酸素分圧がYBCOで1000ppm、PrBCOで1ppmならば、対枢軸で比例なのであれば218ppmとなる。なおTFA-MOD法ではこの程度酸素分圧がずれていても超電導体が形成されることはわかっている。ただ最適酸素分圧のずれで表面に異相などが形成されて白く見える可能性がある。
酸化物薄膜2F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cの外観で、図20上部で白色の靄がかかった部分と、中央部の少し白い黒色部、及び反対側のつやのある黒色部のXRD法の2θ/ω測定結果を行い、結果をそれぞれ2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CW(実施例2のXRD測定結果、Chimera white area)、2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CC(center area)、及び2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CB(同、black area)とする。
2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CCと2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CBの結果はほぼ同一であった。そのためため、中央部エリアには22%Pr-YBCOが形成されているものと思われる。反対側の2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWの領域はYBCOに近い結果が得られているものと思われる。
図21は、YBCOが形成している2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWのXRD結果である。図22は、22%Pr置換のYBCOと思われる2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CCのXRD結果である。両方の結果ともYBCO(00n)ピークしか見えておらず、異相を示す小さなピークはバックグラウンドと同じレベルである。46.68°付近に見えるYBCO(006)ピークとバックグラウンドは1000倍の強度差があるため、ほぼYBCOであると考えられる。
そのYBCO(006)ピークの拡大図を図23に表示する。図23は2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWのYBCO(006)ピーク付近の拡大図である。近くにあるLAO(200)ピークの強度が少し含まれるため、この部分のピーク位置はピーク強度の半値の中央部分として議論することにする。LaAlO3基板(200)ピークの影響でYBCO(006)ピークは46.68°より、この手法では少し高角側に観測される。試料間の評価であれば2θの位置が0.2°とかずれなければLaAlO3基板(200)ピークの影響は大きく変わらないと考えられ、相対的な比較は可能であると思われる。
図23では、2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWのピークは一本のラインである。YBCOは46.68°に(006)ピークが来て、例えばSmBCOであれば46.53度に、NdBCOであれが46.46度にピークが来ると言われている。LaBCOは46.00度である。これはランタノイド収縮と関連があり、原子半径が大きなLaではc軸長が長くなり、(006)ピークは低角側に位置する。
PrBCOがもしペロブスカイト構造を組んでPrの価数が変化しないのであれば、ピーク位置はLaBCOとNdBCOの中央部分となる46.2度付近に現れるはずである。しかし図23の結果は、46.746度に一本のピークしかない。これはPrBCOとYBCOが、22%Pr混合でも共通のつまり単一のペロブスカイト構造を形成していることを意味している。単結晶あるいは結晶学的に連続であることを示す。ピーク強度は96000cps、2θ=46.746°であった。
図24は2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CCのXRD結果であるが、ピーク強度が少し強くなり位置が0.02度高角側に移動した以外は、図23とほぼ同じ結果である114000cps、2θ=46.744°であった。このことも2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CCが2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWに近い組成であることを暗に示している。
図23と図24から読めるFWHMと強度は、2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CWが0.380度と96000cps。2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CCは0.360度と114000cpsである。Prの量が多くなるとその部分が3価から4価へと変化し、c軸長が短くなりXRD測定においてずれが生じるためにピーク強度が弱くなることが予想される。そして幅がブロードになることが予想される。図24は境界をまたいで測定しているため、YBCOと22%Pr-YBCOの両方の中間的な結果となる。Δωに相当するFWHMは0.360°で小さく、ピークは114000cpsと強い。
最後にほぼYBCOである部分の結果が図25である。YBCO単体なので1本のピークであることは当然であるが、この手法での評価による(006)ピーク位置は46.722度である。この値は最もずれている図23と0.024度しか違わない結果である。PrBCOは形成直後では46.2度付近にピークが来る構造であると推測されるが、Prの価数変化でc軸長が短くなり、(006)ピークは高角側にシフトする。22%Prが入ったものとYBCOとの、ペロブスカイト構造を常温で比較した結果の差は、わずか0.024度であった。
この0.024度は非常に小さな値である。YBCOとSmBCOは、TFA-MOD法においては共通のペロブスカイト構造を作れることは広く知られているが、その(006)ピーク位置は0.15度異なるのである。Prが分散したYBCOは、2θの差がより小さく、c軸長で同じ値に近いことを示す。更に安定的に存在する構造であることが予想される。
図25に示した2XRD-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-CBの結果で、FWHMは0.32度であり、ピーク強度は124000cpsである。図23、図24、図25の結果から、連続した構造が原理的に形成可能であることをXRD結果は示しているし、連続したペロブスカイト構造が得られている証拠である。
これにより、かつてレーザースクライビング法で穴をあけた構造でないとACロス低減はできなかったが、新しいPlanted Shared Insulator(PSI)法により、仮に非超電導領域幅を同じ100μmで形成したとしても、超電導膜の機械強度に優れ、レーザースクライビングによるダメージの無い優れた構造が形成可能である。
TFA-MOD法での成膜ではメニスカス部を利用したダイコート法で成膜するのが連続成膜プロセスでは基本となっている。その形成の鍵は図5に示す、超電導領域と非超電導領域の同時成膜である。
TFA-MOD法ではかつて、インクジェット法により超電導領域だけを形成し、空隙部分で絶縁を保つ方式でACロス低減構造開発が報告されてきたが、その方式で超電導線材が完成して超電導コイルが形成し、応用されたという例は2020年時点で無い。開発から10年以上が経過した現状からすると難しい手法なのだと思われる。
難しさの一つは、粘度の低すぎるメタノール溶液の取り扱いである。インクジェットで液滴を射出した際に広がれば、超電導領域が隣接部と接続する恐れがある。仮に液滴を制御してゲル膜が存在する部分とそれが無い部分を形成で来たとしても、TFA-MOD法での本焼反応ではガスが揮散し易い両端部の核生成頻度が高くなり、そして横倒しで超電導特性が低下するa/b軸配向粒子が形成されて成長して壁になり、良好な超電導特性が望めない。
それに対して図8に示すPSI法では、最終的に形成される超電導膜は1.2ミクロン前後で、ゲル膜で12μmの厚みしかなく、同時に成膜することで数ミクロンの拡散層は形成されるかもしれないが、100μmを超えることが無いことは容易に理解できる。そのため図1に示すPSI構造が実現できるのである。
図1の構造が実現することは、この実施例でのデータ検証から明らかであり、PSI構造により超電導領域はa/b軸配向粒子の少なく、非超電導領域の幅は10μm程度で、超電導領域と非超電導領域が結晶学的に連結して強度に優れた構造が得られる。
(実施例3)
図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:0.90:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質3Mi-Pr0.001.00BCO(実施例3で説明する物質、0%Pr、100%Y Matrial with impurity)、3Mi-Pr0.220.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質3Mi-Pr0.001.00BCO、及び3Mi-Pr0.220.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質3Mi-Pr0.001.00BCO、3Mi-Pr0.220.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液3CSi-Pr0.001.00BCO(実施例3で説明するコーティング溶液、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、及び3CSi-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液3CSi-Pr0.001.00BCO、3CSi-Pr0.220.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質3M-Pr0.001.00BCO(実施例3で説明する物質、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、3M-Pr0.220.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質3M-Pr0.001.00BCO、及び3M-Pr0.220.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液3CS-Pr0.001.00BCO(実施例3、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure)、及び3CS-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
上記とは別にコーティング溶液3CS-Pr0.001.00BCO、3CS-Pr0.220.78BCOを用い、10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液3CS-Pr0.001.00BCOを、反対側コーティング溶液3CS-Pr0.220.78BCOを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜3Gel-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-C(実施例3、gel film of resulting 0%Pr, 100%Y films and 22%Pr, 78%Y films、chimera)を得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数2000rpm、保持時間60sである。
上記のスピンコート法での成膜条件と、コーティング溶液の金属イオン濃度から最終的に得られる超電導膜の膜厚は220nmであるはずだが、この成膜においてはコーティング溶液3CS-Pr0.001.00BCOを基板上に滴下後、停止位置を確認してから反対側にコーティング溶液3CS-Pr0.220.78BCOを滴下している。両方の溶液が混合した瞬間にスピンコートを開始しているが、それまでに先に滴下されたコーティング溶液3CS-Pr0.001.00BCOは基板上に20秒ほど成膜されずに保持されたことになる。
この手法におけるコーティング溶液の溶媒はメタノールであり、揮発性が激しく時間と共に蒸発してゆき、溶質濃度が上昇する。コーティング溶液中の溶質濃度の上昇は、溶液粘土の上昇につながり、溶液粘土は方対数比例で得られる膜厚が厚くなる。この手法で分析される超電導膜の膜厚が厚い理由はここにある。実験が失敗したわけではなく、成膜手法により厚くなったものであり、超電導膜で300~350nmを超える部分ではクラックが生じるのは臨界膜厚の関係から自然な結果となる。そのため得られた超電導膜の断面TEM観察では膜厚が350nm以下の観察部位で評価することとした。
以上のような手法で得られた半透明青色のゲル膜3Gel-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、3Gel-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜3Cal-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-C(実施例3、calcined film)が得られた。
図7に示すプロファイルで仮焼膜3Cal-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜3F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-C (実施例3、fired oxide films)が得られた。酸化物薄膜3F-Pr0.001.00BCO+Pr0.220.78BCO-Cの外観からはどこが二つの溶液の境界かは判別がつかないが、Pr0.220.78BCO部はやや白みがかった場所と思われるため、XRD測定で確認後、その近辺の高分解能TEM観察を実施した。
図26は20万倍で観察した断面TEM像である。TFA-MOD法は疑似液相で成長するため、液相が枯れた場所の膜厚が小さくなり、そうでない場所は厚くなることが知られている。その膜厚差は成膜条件に依存するが、800℃・1000ppm、加湿4.2%の成膜条件では70nmと言われている。
図26の下側の白い領域はLaAlO単結晶基板であり、その上部にやや黒い縞模様がついて見える領域がYBCO超電導体である。YBCO超電導体の膜厚はスケールがついており、薄い部分は223nmで、厚い部分は301nmである。膜厚差からはほぼ条件通りに成膜された試料であることが解かる。図26からは見づらいが縞模様は全て基板と並行方向に走っている。つまりc軸配向粒子がそろっていることを示す。
図26のLaAlO3単結晶基板とYBCO超電導体の境界部を217万倍の高倍観察したTEM画像が図27である。図の下にはLaAlO単結晶基板の各元素が見えており、その上部には横方向に縞模様で見える領域がYBCO超電導体のc軸配向粒子である。図27からわかるようにほぼ全面でc軸配向粒子が形成されており、図の左端に僅かに縦方向に縞がつながっている部分が見えるが、それがa/b軸配向粒子である。
a/b軸配向粒子はひとたび形成すると上側に早く成長するため壁を作って横方向(c軸配向粒子による超電流方向)の超電導電流を遮断し、大きく超電導特性を低下させることが多いが、この試料のこの視野ではa/b軸配向粒子が存在するのは図27の通り基板から高さ14ユニットセルまでしかなく、その上部には再びc軸配向粒子が形成していることが解かる。格子長が1:1:2.94であるため、a/b軸配向粒子とc軸配向粒子は共通な格子構造を形成できる。
図27で観察できるc軸配向粒子とa/b軸配向粒子は、XRD測定の極図形という手法で分離することが可能である。YBCO(102)面で極図形測定を行うと、a/b軸配向粒子はψ=56度付近で観測され、c軸配向粒子はψ=34度付近で観測される。その合計値とa/b軸配向強度の比から存在比率の定量評価可能であり、図27の結果では1.2%であった。a/b軸配向比率は3%以下であれば超電導特性はほぼ100%得られる。c軸配向部を超電導電流は自由に迂回できるためである。a/b軸配向比率が10%では特性が半分以下となり、30%ではゼロに近い1/100以下になる。
試料の別部位を52万倍で観察した結果は図28に示す。図28の下はLAO単結晶基板であり、その上部の黒い部分はYBCO超電導体である。横方向の縞模様はc軸配向粒子を示す。この視野ではa/b軸配向粒子は観測できない。
また、X線開設像を示す図の右上の結果も、c軸配向粒子がほぼ100%であることを示している。これらの観察結果は、右側がYBCOで左側は22%Pr置換されたYBCOであったが、境界は不明瞭でa/b軸配向粒子の形成は認められない。加えて極図形の結果からa/b軸配向粒子の存在比率は1.2%しかなかった。このことから、20%以上PrでYサイトを置換して非超電導体を形成する手法では、YBCOと共通のペロブスカイト構造を形成し、a/b軸配向粒子の形成は30%未満に抑制できることが解かった。
TFA-MOD法において超電導特性を低下させるa/b軸配向粒子は、過剰なユニットセルの放出により過剰な核生成に原因があると思われ、空隙を利用したACロス低減構造では、超電導体の特性が低下することとなる。空隙を形成してのACロス低減手法においては、超電導体部分へのa/b軸配向粒子形成は空隙から100μmと考えられ、その部分のa/b軸配向粒子の比率は30%以上にも達する。a/b軸配向粒子が30%に達すると超電導特性がほぼゼロとなるが、1/100として計算した場合、超電導幅が400μmの線材で、空隙形成によるACロス低減構造を実現ではa/b軸配向粒子が幅200μm形成され、特性が1/100となるため、400μm幅線材の総合的な特性は50.5%へと低下する。またその幅が短くなり、200μmとなれば全面がa/b軸配向粒子となるため、特性は1/100となる。
実施例では、空隙を形成しないことによりa/b軸配向粒子は1.2%と通常の形成量を維持している。また非超電導領域がより狭くなってもa/b軸配向粒子が形成されないことが期待され、大きなACロス低減効果を実現できる構造であることが解かる。
(実施例4)
図3に示されるフローチャートに従い、3種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。最初に第1のコーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質4Mi-Pr0.220.78BCO(実施例4で説明する物質、22%Pr、78%Y Matrial with impurity)を得た。
同じように図3に示されるフローチャートに従い、他の2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のHo(OCOCH、純度99%のDy(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
Ho(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物を金属イオンモル比1:2:3でイオン交換水中に溶解し、それとは別にDy(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物を金属イオンモル比1:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質4Mi-HoBCO、及び4Mi-DyBCOをそれぞれ得た。
得られた半透明青色の物質4Mi-Pr0.220.78BCO、4Mi-HoBCO、及び4Mi-DyBCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質4Mi-Pr0.220.78BCO、4Mi-HoBCO、及び4Mi-DyBCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液4CSi-Pr0.220.78BCO(実施例4で説明するコーティング溶液、22%Pr, 78%Y Material with impurity)、4CSi-HoBCO、及び4CSi-DyBCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液4CSi-Pr0.220.78BCO、4CSi-HoBCO、及び4CSi-DyBCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質4M-Pr0.220.78BCO(実施例4で説明する物質、22%Pr, 78%Y Material without impurity)、4M-HoBCO、及び4M-DyBCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質4M-Pr0.220.78BCO、4M-HoBCO、及び4M-DyBCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液4CS-Pr0.220.78BCO(実施例4、Coating Solution for 22%Pr, 78%Y perovskite structure)、4CS-HoBCO、及び4CS-DyBCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液4CS-Pr0.220.78BCO、及び4CS-HoBCOを用い、10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液4CS-Pr0.220.78BCOを、反対側コーティング溶液4CS-HoBCOを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜4Gel-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C(実施例4、gel film of resulting Pr0.220.78BCO film and HoBCO film、chimera)を得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数2000rpm、保持時間60sである。
同様にコーティング溶液4CS-Pr0.220.78BCO、及び4CS-DyBCOを用い、10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液4CS-Pr0.220.78BCOを、反対側コーティング溶液4CS-DyBCOを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜4Gel-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cを得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数2000rpm、保持時間60sである。
以上の手法で得られた半透明青色のゲル膜4Gel-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C、及び4Gel-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、4Gel-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C、及び4Gel-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜4Cal-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C(実施例4、calcined film)、及び4Cal-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cが得られた。
図7に示すプロファイルで仮焼膜4Cal-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C、及び4Cal-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜4F-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C(実施例4、fired oxide films)、及び4F-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cが得られた。酸化物薄膜4F-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C、及び4F-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cの外観からはどこが二つの溶液の境界かは判別がつかないが、それぞれPr0.220.78BCO部はやや白みがかった場所と思われるため、XRD測定で(006)ピーク位置の変化を調べた。
酸化物薄膜4F-Pr0.220.78BCO+HoBCO-Cにおける、Pr0.220.78BCOとHoBCOの(006)ピークの、LAO基板の影響を含めた角度2θ差;Δ2θ(006){Pr0.220.78BCO(006)- HoBCO (006)}を調べると、0.034度であった。同様に4F-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cにおける、Pr0.220.78BCOとDyBCOの(006)ピークの、LAO基板の影響を含めた角度2θ差;Δ2θ(006){Pr0.220.78BCO(006)- DyBCO (006)}を調べると、0.036度であった。
この結果は、YBCOに代えてHoBCOやDyBCOを用いても同じように共通のペロブスカイト構造を形成していることを示す結果であり、YBCOとSmBCOの格子長の差に相当する0.15度よりはるかに小さい値である。希土類元素で同様に超電導を示す材料であれば同じように共通のペロブスカイト構造を形成するであろうこともわかる。
酸化物薄膜4F-Pr0.220.78BCO+HoBCO-C、及び4F-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cにおいて、境界とみられる中央部をXRDの極図形法で(102)面を用い、得られた強度費を用いることによりa/b軸配向粒子の比率を調べた。結果は、酸化物薄膜4F-Pr0.220.78BCO+HoBCO-Cのa/b軸配向粒子比率が1.5%、4F-Pr0.220.78BCO+DyBCO-Cのa/b軸配向粒子比率が1.6%であった。
このレベルのa/b軸配向粒子は、LAO基板上では常に形成して超電導特性に影響を及ぼさないレベルである。過去の分析からa/b軸配向粒子の比率は3%以下であれば特性への影響が見られない。この実験結果からYBCOに代えてHoBCOやDyBCOを用いても、同様に疑似液相を形成してペロブスカイト構造が形成され、a/b軸配向粒子形成が抑制されながらACロス低減構造が得られることを示す結果と考えられる。
(実施例5)
図3に示されるフローチャートに従い、3種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。最初に第1のコーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質5Mi-Pr0.220.78BCO(実施例5で説明する物質、22%Pr、78%Y Matrial with impurity)を得た。
同じように図3に示されるフローチャートに従い、第2の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のSm(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のTm(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
Pr(OCOCH、Sm(OCOCH、Y(OCOCH、Tm(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物を金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解し、それとは別にPr(OCOCH、Sm(OCOCH、Y(OCOCH、Er(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物を金属イオンモル比1:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xをそれぞれ得た。
得られた半透明青色の物質5Mi-Pr0.220.78BCO、5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質5Mi-Pr0.220.78BCO、5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液5CSi-Pr0.220.78BCO(実施例5で説明するコーティング溶液、22%Pr, 78%Y Material with impurity)、5CSi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5CSi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液5CSi-Pr0.220.78BCO、5CSi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5CSi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質5M-Pr0.220.78BCO(実施例5で説明する物質、22%Pr, 78%Y Material without impurity)、5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質5M-Pr0.220.78BCO、5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5Mi-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液5CS-Pr0.220.78BCO(実施例4、Coating Solution for 22%Pr, 78%Y perovskite structure)、5CS-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x、及び5CS-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xをそれぞれ得た。
コーティング溶液5CS-Pr0.220.78BCO、及び5CS-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-xを用い、10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液5CS-Pr0.220.78BCOを、反対側コーティング溶液5CS-Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-xを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜5Gel-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C(実施例5、gel film of resulting Pr0.220.78BCO film and Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x film、chimera)を得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数2000rpm、保持時間60sである。
同様にコーティング溶液5CS-Pr0.220.78BCO、及び5CS-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xを用い、10×30×0.50mmtのLaAlO3(100)配向単結晶基板上にスピンコート法成膜時の中心から片側にコーティング溶液5CS-Pr0.220.78BCOを、反対側コーティング溶液5CS-Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xを滴下し、中央部が混合した瞬間にスピンコートを開始し、半透明青色のゲル膜5Gel-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cを得た。成膜条件は加速度10000rpm/s、最高回転数2000rpm、保持時間60sである。
以上の手法で得られた半透明青色のゲル膜5Gel-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C、及び5Gel-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cのスピンコート中央部に境界は目視では判別できない。
得られたゲル膜、5Gel-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C、及び5Gel-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cは直ちに乾燥ガスで満たされた炉内へ設置され、図6に示すプロファイルで400℃以下の加湿純酸素雰囲気で仮焼を行い、半透明茶色の仮焼膜5Cal-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C(実施例5、calcined film)、及び5Cal-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cが得られた。
図7に示すプロファイルで仮焼膜5Cal-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C、及び5Cal-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cを800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、酸化物薄膜5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C(実施例5、fired oxide films)、及び5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cが得られた。酸化物薄膜5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C、及び5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cの外観からはどこが二つの溶液の境界かは判別がつかないが、それぞれPr0.220.78BCO部はやや白みがかった場所と思われるため、XRD測定で(006)ピーク位置の変化を調べた。
酸化物薄膜5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-Cにおける、Pr0.220.78BCOとPr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-xの(006)ピークの、LAO基板の影響を含めた角度2θ差;Δ2θ(006){Pr0.220.78BCO(006)- HoBCO (006)}を調べると、0.032度であった。同様に5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cにおける、Pr0.220.78BCOとPr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xの(006)ピークの、LAO基板の影響を含めた角度2θ差;Δ2θ(006){Pr0.220.78BCO(006)- DyBCO (006)}を調べると、0.032度であった。
この結果は、YBCOに代えてPr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-xやPr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xを用いても同じように共通のペロブスカイト構造を形成していることを示す結果であり、希土類元素で同様に超電導を示す材料であれば同じように共通のペロブスカイト構造を形成するであろうこともわかる。
酸化物薄膜5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-C、及び5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cにおいて、境界とみられる中央部をXRDの極図形法で(102)面を用い、得られた強度費を用いることによりa/b軸配向粒子の比率を調べた。結果は、酸化物薄膜5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-Cのa/b軸配向粒子比率が1.7%、5F-Pr0.220.78BCO+Pr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-x-Cのa/b軸配向粒子比率が1.8%であった。
このレベルのa/b軸配向粒子は、LAO基板上では常に形成して超電導特性に影響を及ぼさないレベルである。過去の分析からa/b軸配向粒子の比率は3%以下であれば特性への影響が見られない。この実験結果からYBCOに代えてPr0.02Sm0.020.92Tm0.04BaCu7-x-CやPr0.02Sm0.020.92Er0.04BaCu7-xを用いても、同様に疑似液相を形成してペロブスカイト構造が形成され、a/b軸配向粒子形成が抑制されながらACロス低減構造が得られることを示す結果と考えられる。
ACロス低減技術は超電導電流を変化させる環境下で用いられることがほとんどであると思われる。その場合、超電導領域には磁場の影響を低減する人工ピンが存在することが好ましい。人工ピンはBaZrOのような外部から異物を入れる方式よりも、自然発生的にできあがるクラスター化原子置換型人工ピン(CARP)(特許第6374365、 T. Araki, et. al. Supercond. Sci. Technol. 31 (2018) 065008 (8pp))のような方式の方が、超電導膜の作成には有利であると考えられる。
YBCOとCARPの元素の違いは、1/6しか占めないYサイトの僅か8%を置換したものが上記のCARPである。Prの価数変化による収縮があるが、それでも格子長の変化は元のYBCOと大差なく、実験結果が示すように共通のペロブスカイト構造を形成し、a/b軸配向粒子形成は空隙を形成しないACロス低減構造のために抑制されたものと思われる。
(実施例6)
図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:0.90:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質6Mi-Pr0.001.00BCO(実施例6で説明する物質、0%Pr、100%Y Matrial with impurity)、6Mi-Pr0.220.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質6Mi-Pr0.001.00BCO、及び6Mi-Pr0.220.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質6Mi-Pr0.001.00BCO、6Mi-Pr0.220.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液6CSi-Pr0.001.00BCO(実施例6で説明するコーティング溶液、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、及び6CSi-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液6CSi-Pr0.001.00BCO、6CSi-Pr0.220.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質6M-Pr0.001.00BCO(実施例6で説明する物質、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、6M-Pr0.220.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質6M-Pr0.001.00BCO、及び6M-Pr0.220.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液6CS-Pr0.001.00BCO(実施例6、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure)、及び6CS-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
図5に示すような装置にコーティング溶液6CS-Pr0.001.00BCO、及び6CS-Pr0.220.78BCOを使って成膜を行う。コーティング溶液と反応しない容器で、液の吐出口が幅100μmと400μmのものを幅4mmとなるように並べ、高さを揃えて基板に対してメニスカス部が形成される位置に設置する。
成膜を行う基板として、Ni-W基板表面を配向させ、Y層、YSZ層、CeO層の3層を成膜したものを準備する。成膜部と基板の距離を一定に保ち、線材移動方向へ180mm/sの速度で引くことにより、コーティング溶液に金属イオン濃度1.52mol/Lのものを用いた場合、図8に示す高さ12μm厚のゲル膜が形成される。ゲル膜は連続成膜で作られるもので例えば長さ50mのものを作る。
成膜開始直後は液の混合などがあるためスタートから長さ5cm程度の部分は非超電導領域が超電導から混合した溶質でPr濃度が低下し、超電導体を示す層が本焼後は形成されると考えられる。この部分は本焼後に除去することにより非超電導で分割された角超電導領域は、絶縁性が保たれると思われる。
50m長のテープ状に成膜されたゲル膜は、引き続いて連続炉に入れられ、鳥フル尾曾酢酸塩が分解され、酸化フッ化物からなる仮焼膜となる。その時の仮焼プロファイルは図6に示したものでも可能であるが、仮焼時間を短くするために最適化されたものを用いる。仮焼膜は膜厚が約2.4μmとなる。
50m長線材上に成膜された仮焼膜は、連続本焼炉で750~800℃の温度で本焼され、引き続き酸素アニールで酸素数が6から6.93となることで超電導体となる。得られる超電導膜厚は1.2μmとなる。ただし超電導膜厚が0.3μm以上となる場合、仮焼時に物質が分解して応力が発生しクラックが生じやすくなる。その場合は1回塗り厚膜化によるクラック防止技術を併用することが望まれる。
この手法で得られる超電導領域と非超電導領域であるが、上記で議論したとおり物質の拡散は最大で1~2μmである。そのため非超電導領域は少なくとも6μm幅が非超電導領域となり、ACロス低減構造が実現する。
それと同時に、この手法では空隙部が形成されないため、超電導層のa/b軸配向粒子の比率は30%以下に抑えられる。そのほとんどは3%以下になるとみられる。加えてCeO2中間層はその上部にa/b軸配向粒子を形成しにくい中間層としても知られている。面内方向に45度回転することにより、横倒しのa/b軸配向粒子が形成しにくいためと言われている。ただし空隙が形成されてユニットセルが通常の100倍供給されると、a/b軸配向粒子はもとより、様々な異相が形成されて特性が低下するものと思われる。
(実施例7)
図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩に純度99%のPr(OCOCH、純度99%のY(OCOCH、純度99%のBa(OCOCH、純度99%のCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いた。
金属イオンモル比0.00:0.90:2:3、及び0.22:0.78:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCFCOOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質7Mi-Pr0.001.00BCO(実施例7で説明する物質、0%Pr、100%Y Matrial with impurity)、7Mi-Pr0.220.78BCOを得た。
得られた半透明青色の物質7Mi-Pr0.001.00BCO、及び7Mi-Pr0.220.78BCO中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。半透明青色の物質7Mi-Pr0.001.00BCO、7Mi-Pr0.220.78BCOに重量で20倍の無水メタノールを加え溶解し、コーティング溶液7CSi-Pr0.001.00BCO(実施例7で説明するコーティング溶液、0%Pr, 100%Y Material with impurity)、及び7CSi-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
得られたコーティング溶液7CSi-Pr0.001.00BCO、7CSi-Pr0.220.78BCOをロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質7M-Pr0.001.00BCO(実施例7で説明する物質、0%Pr, 100%Y Material without impurity)、7M-Pr0.220.78BCOがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質7M-Pr0.001.00BCO、及び7M-Pr0.220.78BCOをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液7CS-Pr0.001.00BCO(実施例7、Coating Solution for 0%Pr, 100%Y perovskite structure)、及び7CS-Pr0.220.78BCOをそれぞれ得た。
コーティング溶液7CS-Pr0.001.00BCO、及び7CS-Pr0.220.78BCOを、耐食性がある物質で作ったインクジェット法により、金属基板上成膜を行う。金属基板は例えばNi-Wであり、その上部にY層、YSZ層、及びCeO層を成膜したものを用いる。金属基板は圧延と焼鈍を繰り返し、表面を配向させたものを用いる。
インクジェット法での成膜は、全て1μmの液滴に射出できるヘッドを用い、コーティング溶液7CS-Pr0.001.00BCOを充填したヘッドを4つ並べ、コーティング溶液7CS-Pr0.220.78BCOを並べたヘッドを1つ隣接させる。これを所定の数だけ繰り返し設置し、例えば4mm幅の線材を形成する。
上記の方式ではACロス低減が従来の1/100まで期待できるが、例えばACロス低減が1/10でいいのであれば、10μmの液滴か、あるいは2μmの液滴が5つなどの手法で成膜を行う。ただここでは1μmの液滴を成膜する前提で話を進める。
液滴は、2種類のコーティング溶液を同時射出することにより行うが、液滴が制御されていれば同時成膜でなくともより。しかし1μmの液滴で、コーティング溶液7CS-Pr0.001.00BCO、及び7CS-Pr0.220.78BCOが混合する領域は1/10である0.1μmに制御する。この技術の重要な点は空隙を作らず、その後のa/b軸配向粒子を形成しないことにある。
このようにして1μm幅のPr0.220.78BCO用ゲル膜と、4μm幅のPr0.001.00BCOゲル膜を800回形成したものが4mm幅線材となる。このゲル膜は、図6に示す仮焼プロファイル、又は、反応を短時間で終了させるために最適化されたプロファイルを用いることで仮焼膜が得られる。例えば50m長線材の上に仮焼膜を成膜することができる。
上記で得られた50m長仮焼膜作線材は、連続炉で図7に示す本焼を行い、純酸素アニールを行うことで超電導体Pr0.001.00BCOが4μm幅、非超電導体Pr0.220.78BCOが1μm幅のストライプ構造ができ上がる。この超電導体は、超電導面積が元来の面積の80%であるため80%の超電導電流しか得られないが、4mm幅に800本の細線化された線材が並ぶ構造であるためACロス低減により従来の640倍の効果がある線材となる。
この技術で作られる超電導領域にa/b軸配向粒子はほとんど発生しない。それは非超電導領域が空隙でないために通常のTFA-MOD法の反応が起き、部分的にユニットセルが大量に形成されるものではないためである。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
10 基板
30 酸化物超電導層
31a 第1の超電導領域
31b 第2の超電導領域
32a 第1の非超電導領域
40 金属層
100 超伝導線材

Claims (16)

  1. イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、連続したペロブスカイト構造を有し、第1の方向に伸長する第1の超電導領域と、
    イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、連続したペロブスカイト構造を有し、前記第1の方向に伸長する第2の超電導領域と、
    前記第1の超電導領域と前記第2の超電導領域との間に設けられ、前記第1の超電導領域及び前記第2の超電導領域に接し、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)を含み、前記第3の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上であり、前記第1の超電導領域のペロブスカイト構造及び前記第2の超電導領域のペロブスカイト構造と連続する連続したペロブスカイト構造を有し、前記第1の方向に伸長する非超電導領域と、
    を含む酸化物超電導層を、備える酸化物超電導体。
  2. 前記非超電導領域は、100nm×100nm×100nm以上のサイズである請求項1記載の酸化物超電導体。
  3. 前記非超電導領域の、前記第1の方向の長さは1μm以上である請求項1又は請求項2記載の酸化物超電導体。
  4. 前記非超電導領域の、前記第1の方向に垂直で前記非超電導領域から前記第1の超電導領域に向かう第2の方向の幅は、前記第1の超電導領域の前記第2の方向の幅よりも小さい請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の酸化物超電導体。
  5. 前記非超電導領域の、前記第1の方向の長さは1m以上であり、前記非超電導領域の前記第2の方向の幅は、80μm以下である請求項4記載の酸化物超電導体。
  6. 前記非超電導領域の、前記第1の方向の長さは1m以上であり、前記非超電導領域の前記第2の方向の幅は、10μm以下である請求項4記載の酸化物超電導体。
  7. 前記第1の超電導領域と前記非超電導領域の境界から、前記第1の超電導領域の側に100μm以下の部分におけるa/b軸配向比率が30%未満である請求項1ないし請求項6いずれか一項記載の酸化物超電導体。
  8. 前記酸化物超電導層が、2.0×1015atoms/cm以上5.0×1019atoms/cm以下のフッ素(F)と、1.0×1017atoms/cm以上5.0×1020atoms/cm以下の炭素(C)と、を含む請求項1ないし請求項7いずれか一項記載の酸化物超電導体。
  9. 前記第1の希土類元素、前記第2の希土類元素、及び第3の希土類元素は同一である請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の酸化物超電導体。
  10. 前記第1の超電導領域がプラセオジム(Pr)を含み、前記第1の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が15%以下である請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の酸化物超電導体。
  11. 基板と、金属層とを更に備え、
    前記酸化物超電導層は、前記基板と前記金属層との間に設けられる請求項1ないし請求項10いずれか一項記載の酸化物超電導体。
  12. イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第1の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)の金属酢酸塩と、トリフルオロ酢酸を用いて第1のコーティング溶液を作製し、
    イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第2の希土類元素、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)の金属酢酸塩と、トリフルオロ酢酸を用いて第2のコーティング溶液を作製し、
    イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも一つの第3の希土類元素、プラセオジム(Pr)、バリウム(Ba)、並びに銅(Cu)の金属酢酸塩と、トリフルオロ酢酸を用いて、前記第3の希土類元素の原子数及びプラセオジム(Pr)の原子数の和に対するプラセオジム(Pr)の原子数の割合が20%以上である第3のコーティング溶液を作製し、
    基板の上に、前記第1のコーティング溶液と前記第2のコーティング溶液との間に、前記第3のコーティング溶液が挟まれ、前記第1のコーティング溶液及び前記第2のコーティング溶液と前記第3のコーティング溶液が接するように、前記第1のコーティング溶液、前記第2のコーティング溶液、及び前記第3のコーティング溶液を塗布又は射出してゲル膜を形成し、
    前記ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成し、
    前記仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層を形成する酸化物超電導体の製造方法。
  13. 前記第1のコーティング溶液と前記第2のコーティング溶液は、同時に作製された溶液の一部である請求項12記載の酸化物超電導体の製造方法。
  14. 前記第1の希土類元素、前記第2の希土類元素、及び第3の希土類元素は同一である請求項12又は請求項13記載の酸化物超電導体の製造方法。
  15. 前記ゲル膜を形成する際、前記第1のコーティング溶液、前記第2のコーティング溶液、及び前記第3のコーティング溶液を基板に塗布し、前記第1のコーティング溶液と前記第2のコーティング溶液の間隔が80μm以下である請求項12ないし請求項14いずれか一項記載の酸化物超電導体の製造方法。
  16. 前記ゲル膜を形成する際、前記第3のコーティング溶液をノズルから基板に向けて射出し、前記第3のコーティング溶液が基板に達した際の液滴の平均直径が10μm以下である請求項12ないし請求項14いずれか一項記載の酸化物超電導体の製造方法。
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