本明細書中、結晶学的に連続している構造を「単結晶」とみなす。また、c軸の方向の差が1.0度以下の低傾角粒界を含む結晶も「単結晶」とみなすこととする。
本明細書中、PA(Pinning Atom)とは、酸化物超電導層の人工ピンとなる希土類元素である。PAは非超電導ユニットセルを形成する。PAはプラセオジウム(Pr)のみである。
本明細書中、SA(Supporting Atom)とは、人工ピンのクラスター化を促進する希土類元素である。SAの3価のイオン半径はPAの3価のイオン半径よりも小さく、後述するMAの3価のイオン半径よりも大きい。
本明細書中、MA(Matrix Atom)とは、酸化物超電導層のマトリックス相を形成する希土類元素である。
本明細書中、CA(Counter Atom)とは、PAやSAとクラスターを形成する希土類元素である。CAの3価のイオン半径は、MAの3価のイオン半径よりも小さい。
本明細書中、第1世代型の原子置換型人工ピン(1st−ARP:1st−Atom Replaced Pin)とは、MAを含む超電導ユニットセルのマトリックス相中に、PAを含む非超電導ユニットセルが究極分散している形態の人工ピンを意味する。究極分散とは、非超電導ユニットセルがマトリックス相中に単独で存在する形態である。
本明細書中、第2世代型のクラスター化原子置換型人工ピン(2nd−CARP:2nd−generation Clustered Atom Replaced Pin)とは、MAを含む超電導ユニットセルのマトリックス相中に、PAを含むユニットセル、SAを含むユニットセル及びCAを含むユニットセルがクラスター化した形態の人工ピンを意味する。1st−ARPよりも人工ピンのサイズが大きい。
本明細書中、第3世代型のクラスター化原子置換型人工ピン(3rd−CARP:3rd−generation Clustered Atom Replaced Pin)とは、MAを含む超電導ユニットセルのマトリックス相中に、PAを含むユニットセル及びCAを含むユニットセルがクラスター化した形態の人工ピンを意味する。SAを含まない点で2nd−CARPと異なる。
以下、実施形態の酸化物超電導体について、図面を参照しつつ説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する酸化物超電導層を備える。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素、を含む。そして、上記第1の元素の原子数をN(PA)、上記第2の元素の原子数をN(SA)、上記第4の元素の原子数をN(CA)とした場合に、1.5×(N(PA)+N(SA))≦N(CA)である。
図1は、本実施形態の酸化物超電導体の模式断面図である。図1(a)は酸化物超電導体のc軸に平行な方向の全体断面図、図1(b)は酸化物超電導層のc軸に垂直な方向の拡大模式断面図である。
本実施形態の酸化物超電導体は、超電導線材である。本実施形態の酸化物超電導体は、例えば、超電導コイル、超電導マグネット、MRI装置、磁気浮上式列車、SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)など、磁場が印加される状況下での用途に適する。また、本実施形態の酸化物超電導体は、磁場が印加される状況下での送電ケーブルにも適用可能である。
酸化物超電導体100は、図1(a)に示すように、基板10と、中間層20と、酸化物超電導層30と、金属層40とを備える。基板10は、酸化物超電導層30の機械的強度を高める。中間層20は、いわゆる配向中間層である。中間層20は、酸化物超電導層30を成膜する際に、酸化物超電導層30を配向させ単結晶とするために設けられる。金属層40は、いわゆる安定化層である。金属層40は、酸化物超電導層30を保護する。また、金属層40は、酸化物超電導体100の超電導線材としての実使用時に、超電導状態が部分的に不安定になった場合でも、電流を迂回させて安定化させる機能を備える。
基板10は、例えば、ニッケルタングステン合金などの金属である。また、中間層20は、例えば、基板10側から酸化イットリウム(Y2O3)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO2)である。基板10と中間層20の層構成は、例えば、ニッケルタングステン合金/酸化イットリウム/イットリア安定化ジルコニア/酸化セリウムである。この場合、酸化セリウム上に酸化物超電導層30が形成される。
基板10は、例えば、酸化物超電導層30と格子整合する単結晶層であっても構わない。単結晶層は、例えば、ランタンアルミネート(LaAlO3、以下、LAOとも表現する)である。この場合、中間層20は省略することが可能である。
また、基板10、中間層20として、例えば、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)基板を用いることも可能である。IBAD基板の場合、基板10が無配向層である。また、中間層20は、例えば5層構造から成る。例えば、下の2層が無配向層、その上にIBAD法によって製造された配向起源層、その上に金属酸化物の配向層が2層形成される。この場合、最上部の配向層が、酸化物超電導層30と格子整合する。
酸化物超電導層30は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素、を含む。
以下、第1の元素をPA(Pinning Atom)、第2の元素をSA(Supporting Atom)、第3の元素をMA(Matrix Atom)、第4の元素をCA(Counter Atom)と称する。
本実施形態の酸化物超電導層30は、上記第1の元素の原子数をN(PA)、上記第2の元素の原子数をN(SA)、上記第4の元素の原子数をN(CA)とした場合に、1.5×(N(PA)+N(SA))≦N(CA)である。すなわち、酸化物超電導層30中のCAの量が、PAの量とSAの量との和の1.5倍以上である。
本実施形態の酸化物超電導層30は、第2世代型のクラスター化原子置換型人工ピン(2nd−CARP:2nd−generation Clustered Atom Replaced Pin)を含む。
酸化物超電導層30に含まれる希土類元素の種類は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて同定することが可能である。
酸化物超電導層30は、連続したぺロブスカイト構造を有する単結晶である。上記ペロブスカイト構造は、例えば、REBa2Cu3O7−y(−0.2≦y≦1)(以下、REBCO)で記載される。REが希土類サイトである。
酸化物超電導層30の層厚は、例えば、0.1μm以上10μm以下である。酸化物超電導層30は、例えば、層厚方向において、全て単結晶である。
また、単結晶は、例えば、酸化物超電導層30内の、酸化物超電導層30の基板10側から50nm以上、かつ、酸化物超電導層30の平均層厚の70%以下の範囲内に存在する。単結晶は、酸化物超電導層30の層厚方向の断面において、例えば、500nm×100nm以上のサイズを有する。
酸化物超電導層30は、例えば、2.0×1015atoms/cc以上5.0×1019atoms/cc以下のフッ素と、1.0×1017atoms/cc以上5.0×1020atoms/cc以下の炭素と、を含む。酸化物超電導層30に含まれるフッ素及び炭素は、TFA−MOD法による酸化物超電導層30の成膜に起因する残留元素である。酸化物超電導層30中のフッ素及び炭素は、例えば、単結晶の粒界に存在する。
酸化物超電導層30に含まれるフッ素の濃度は、例えば、2.0×1016atoms/cc以上である。また、酸化物超電導層30に含まれる炭素の濃度は、例えば、1.0×1018atoms/cc以上である。
酸化物超電導層30中のフッ素及び炭素の濃度は、例えば、SIMSを用いて測定することが可能である。
金属層40は、例えば、銀(Ag)や銅(Cu)が母材の金属で、合金である場合もある。また、金(Au)などの貴金属を少量含む場合もある。
図1(b)は酸化物超電導層30の膜上方、すなわちc軸方向から見た拡大模式断面図である。各四角形は単結晶中のユニットセルを示している。
図1(b)では、PAがプラセオジウム(Pr)、SAがサマリウム(Sm)、MAがイットリウム(Y)、CAがルテチウム(Lu)の場合を例示している。酸化物超電導層30は、プラセオジウム(Pr)を含むPBCO、サマリウム(Sm)を含むSmBCO、イットリウム(Y)を含むYBCO、ルテチウム(Lu)を含むLuBCOのユニットセルで構成される。
PrBCO、SmBCO、LuBCOの各ユニットセルを示す四角形は、それぞれPr、Sm、Luが記される。図中空白の四角形は、マトリックス相であるYBCOのユニットセルである。
酸化物超電導層30中で、PrBCO、SmBCO、LuBCOのユニットセルがマトリックス相であるYBCO内で集合体を形成している。この集合体を、クラスターと称する。図1(b)で、太い実線で囲まれる領域が、クラスターである。
PrBCOは、非超電導体である。PrBCOを含むクラスターが、酸化物超電導層30の人工ピンとして機能する。
プラセオジウム(Pr)、サマリウム(Sm)、イットリウム(Y)、ルテチウム(Lu)の3価のイオン半径の関係は、Pr>Sm>Y>Luである。クラスターには、マトリックス相であるYBCOよりも大きな希土類元素を含むPrBCO及びSmBCOと、YBCOよりも小さな希土類元素を含むLuBCOとが集合している。以下、マトリックス相よりも大きな希土類元素を含むユニットセルを大ユニットセル、マトリックス相よりも小さな希土類元素を含むユニットセルを小ユニットセルと称する。
酸化物超電導層30中では、クラスターを形成しないLuBCOが、マトリックス相であるYBCO内に散在する。
MAを含むユニットセルはマトリックス相である。酸化物超電導層30中に含まれる希土類元素の中で、MAの量が最大となる。例えば、希土類元素の原子数をN(RE)とし、第3の元素であるMAの原子数をN(MA)とした場合に、N(MA)/N(RE)≧0.6である。言い換えれば、酸化物超電導層30中に含まれる希土類元素中のMAのモル比が0.6以上である。
酸化物超電導層30中の、希土元素の原子数あるいはモル数の量比は、例えば、SIMSによる元素の濃度測定の結果に基づいて算出することが可能である。
図2は、本実施形態の酸化物超電導層30のX線回折(XRD)測定の結果を示す図である。酸化物超電導層30をXRD測定の2θ/ω法で測定した。
図2は、プラセオジウム、サマリウム、イットリウム、ルテチウムの希土元素中の割合が1%、1%、96%、2%の第1の試料と、1%、1%、88%、10%の第2の試料を測定した結果である。ルテチウムの割合の大きい第2の試料が本実施形態の酸化物超電導層30に相当する。図2中、第1の試料が点線、第2の試料が実線で示される。
図2では、第1の試料、第2の試料のいずれも、ピークはYBCOのピークと一致し、その他に明瞭なピークは確認されない。ルテチウムを10%含む第2の試料でも、ピークの分離は見られない。したがって、ルテチウムを10%含む第2の試料も連続したぺロブスカイト構造を有する単結晶であることが分かる。
なお、図2には基板で用いたLAOのピークも出現している。
次に、本実施形態の酸化物超電導体100の製造方法について説明する。基板10上に中間層20を形成し、中間層20上に酸化物超電導層30を形成し、酸化物超電導層30上に金属層40を形成する。酸化物超電導層30はTFA−MOD法により形成される。
酸化物超電導層30の形成は、まず、プラセオジウム(Pr)である第1の元素の酢酸塩、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素の酢酸塩、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素の酢酸塩、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素の酢酸塩、バリウム(Ba)の酢酸塩、並びに、銅(Cu)の酢酸塩を含む水溶液を作製する。水溶液は、上記第1の元素のモル数をM(PA)、上記第2の元素のモル数をM(SA)、上記第4の元素のモル数をM(CA)とした場合に、1.5×(M(PA)+M(SA))≦M(CA)である。次に、水溶液を、トリフルオロ酢酸を主に含むパーフルオロカルボン酸と混合して混合溶液を作製し、混合溶液の反応及び精製を行い第1のゲルを作製する。次に、第1のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解してアルコール溶液を作製し、アルコール溶液の反応及び精製を行い第2のゲルを作製する。次に、第2のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解して、残留水及び残留酢酸の総重量が2重量%以下のコーティング溶液を作製し、基板上にコーティング溶液を塗布してゲル膜を形成する。次に、ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成する。次に、仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層(酸化物超電導体膜)30を形成する。
パーフルオロカルボン酸は、超電導特性を低下させない観点から、トリフルオロ酢酸を98mol%以上含むことが望ましい。
図3は、本実施形態のコーティング溶液作製の一例を示すフローチャートである。以下、第1の元素であるPAがプラセオジウム(Pr)、第2の元素であるSAがサマリウム(Sm)、第3の元素であるMAがイットリウム(Y)、第4の元素であるCAがルテチウム(Lu)である場合を例に説明する。
図3に示すように、イットリウム、プラセオジウム、サマリウム、ルテチウム、バリウム、銅それぞれの金属酢酸塩を準備する(a1)。また、トリフルオロ酢酸を準備する(a2)。次に、準備した金属酢酸塩を水に溶解させ水溶液を作製する(b)。プラセオジウムのモル数をM(Pr)、サマリウムのモル数をM(Sm)、ルテチウムのモル数をM(Lu)とした場合に、1.5×(M(Pr)+M(SA))≦M(CA)である。
得られた水溶液を、準備したトリフルオロ酢酸と混合する(c)。得られた溶液を反応・精製し(d)、不純物入りの第1のゲルを得る(e)。その後、得られた第1のゲルをメタノールに溶解し(f)、不純物入りの溶液を作成する(g)。得られた溶液を反応・精製し不純物を取り除き(h)、溶媒入りの第2のゲルを得る(i)。さらに、得られた第2のゲルをメタノールに溶解し(j)、コーティング溶液が準備される(k)。
金属酢酸塩としては、例えば、REサイト(Y,Pr,Sm,Lu):Ba:Cu=1:2:3で金属塩を混合する。REサイト中のPrの量が、例えば、0.00000001以上0.20以下となるよう混合する。混合・反応以降はSIG(Stabilized Sovent−Into−Gel)法による高純度溶液精製プロセスにより、コーティング溶液中の残留水及び酢酸量は2重量%以下に低減する。本実施形態のSIG法は、PrBCOの分解を防止するため部分安定化を図る溶液の高純度化法であり、PS−SIG(Partially Stabilized Solvent−Into−Gel)法である。Prのような不安定な元素でも、Yのような安定な元素を混合して溶液を合成すれば、全体として安定な溶液が得られる。Pr/(Y+Pr+Sm+Lu)の量は、例えば、0.0025となるよう混合する。
図4は、本実施形態のコーティング溶液から超電導体を成膜する方法の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、先に調製したコーティング溶液を準備する(a)。コーティング溶液を基板上に、例えば、ダイコート法により塗布することで成膜し(b)、ゲル膜を得る(c)。その後、得られたゲル膜に、一次熱処理である仮焼を行い、有機物を分解し(d)、仮焼膜を得る(e)。さらに、この仮焼膜に二次熱処理である本焼を行い(f)、その後、例えば、純酸素アニールを行い(h)、超電導体膜(h)を得る。
図5は、本実施形態の代表的な仮焼プロファイルを示す図である。常圧下での仮焼では主に200℃以上250℃以下でトリフルオロ酢酸塩を分解する。その温度領域への突入防止のため200℃付近では昇温速度を下げる。250℃までの徐昇温で、トリフルオロ酢酸塩から分解された物質はフッ素や酸素を含み、フッ素や酸素は水素結合により膜中に残留しやすい。その物質の除去のために400℃までの昇温を行う。最終温度は350〜450℃が一般的である。こうして酸化物やフッ化物から構成される、半透明茶色の仮焼膜が得られる。
図6は、本実施形態の代表的な本焼プロファイルを示す図である。100℃のtb1までは乾燥混合ガスであるが、そこから加湿を行う。加湿開始温度は100℃以上400℃以下でよい。疑似液層の形成開始が550℃近辺からと思われ、それ以下の温度で加湿し、膜内部に加湿ガスが行き渡り均一に疑似液層が形成されるようにする。
図6では、800℃本焼の代表的な温度プロファイルを示しているが、tb3での温度のオーバーシュートが無いように775℃以上800℃以下は緩やかな昇温プロファイルとなっている。これでも800℃でのオーバーシュートは2〜3℃残り得るが、特に問題にはならない。最高温度での酸素分圧はマトリックス相に依存する。YBCO超電導体焼成の場合は800℃だと1000ppm、それから25℃温度が低下する毎に最適酸素分圧は半分となる。つまり775℃では500ppmであり、750℃では250ppmである。この本焼においてYBCO系の場合はYBa2Cu3O6が形成される。この時点では超電導体ではない。
最高温度の本焼において、本焼が完了して温度を下げ始める前にtb4で乾燥ガスを流す。加湿ガスは700℃以下で超電導体を分解し酸化物となるため、tb6で酸素アニールを行い、超電導体の酸素数を6.00から6.93とする。この酸素数で超電導体となる。ただしPrBCOだけはペロブスカイト構造であるが超電導体ではない。またPrの価数が不明のため、ユニットセルの酸素数も不明であるが、酸素数は多いと思われる。Prの価数が3と4の間の値をとり、それに応じて酸素の数がユニットセルに増えるためである。酸素アニールの開始温度は375℃以上525℃以下である。その後の温度保持終了後にtb8から炉冷とする。
以上の製造方法により、酸化物超電導層30を含む本実施形態の酸化物超電導体100が製造される。
次に、本実施形態の酸化物超電導体100及びその製造方法の作用及び効果について説明する。
本実施形態の酸化物超電導体100は、酸化物超電導層30にマトリックス相のYBCOを含む。非超電導体であるPrBCOを超電導体のSmBCO及びLuBCOと共にマトリックス相中でクラスター化している。このクラスターが原子レベルの人工ピンとして機能し、磁場特性が向上する。また、本実施形態の酸化物超電導体100の製造方法によれば、上記クラスターを人工ピンとして備え、磁場特性の向上した酸化物超電導体100を製造することが可能となる。
本実施形態の酸化物超電導層30は、PA、SA、MA、CAからなる。SAとCAを有することでクラスター化現象が引き起こされる。SAの一部としてPAがクラスターに取り込まれ、クラスター化原子置換型人工ピン(Clustered Atom−Replaced Pin:CARP)が形成される。このクラスター化原子置換型人工ピンにより、磁場特性が向上する。
さらに、PA及びSAに対して、CAを余剰に加えることにより、クラスターのサイズを小さくすることが可能となる。クラスターのサイズを小さくすることにより、温度の低い領域での磁場特性が向上する。言い換えれば、人工ピンのサイズを小さくすることにより、温度の低い領域でのJc−B特性が改善する。
PLD法やMOCVD法で製造された超電導線材がコイル応用としてうまくいかない理由は解明されたわけではない。超電導線材内で局所的に臨界温度(Tc)が低下することにより、内部迂回電流(Inner Bypass Current:IBC)が形成される。内部迂回電流が引き起こす数十μVに達する異常な局部的な電圧発生が観測されている。この異常な電圧発生が引き金になってクエンチ事故を引き起こす可能性は高いと思われる。
IBC問題を根本的に解決し、異常な電圧発生を回避するには、原子置換型人工ピン(Atom−replaced Pin:ARP)の適用が考えられる。ARPは、ペロブスカイト構造を維持し、大半が超電導ユニットセルでありながら、一部が非超電導ユニットセルの人工ピンとなる。
ARPとして、PrBCO(PrBa2Cu3Oy)を形成することが望ましい。PrBCOは、ペロブスカイト構造を有し、非超電導である人工ピンを形成する。PrBCO中のPrは、ペロブスカイト構造の形成時にPr3+となり、常温へ冷却する過程でPr4+近くに価数が変化すると考えられる。Prが4価となればペロブスカイト構造内で欠損していた酸素サイトに酸素が入ることになり、クーロン力により格子長が短くなる。
ペロブスカイト構造のユニットセルはPrBCOの場合、2つのBa原子と1つのPr原子からなる1/3ユニットセルの集合体である。Prが4価となればPrを含む1/3ユニットセルが収縮し、Baを含むユニットセルが膨張する側に圧力が加わり、1ユニットセルとしては収縮率が緩和されると考えられる。そのため、隣接するYBCOのユニットセルと、PrBCOのユニットセルは、ユニットセルの上下の同一面を共有して連続したペロブスカイト構造を形成すると思われる。このため、PrBCOを含むYBCOを、XRD測定の2θ/ω法で測定した場合、単一のぺロブスカイト構造のピークが観測される。
しかし、PrBCOを人工ピンとして含むことによる変形は、超電導電流が形成されるCuO面に影響する。そして、PrBCOに隣接したYが中心の1/3ユニットセルに存在するならば(第1隣接セル)、そのユニットセルに変形がおよび、非超電導化すると考えられる。影響を受けるのはa/b面内の4つの1/3ユニットセルである。Pr投入量の5倍の人工ピンが形成され、Jc(臨界電流密度)値は5倍低下する“5倍劣化現象” (5times degradation phenomenon)が観測されている。
PrBCOのペロブスカイト構造を形成するための最適酸素分圧(p(O2))は、800℃で1ppmであると推定される。PrサイトがNdやSmとなるNdBCOやSmBCOの最適酸素分圧がそれぞれ5ppm、20ppmであり、かつ、ランタノイド族のイオン半径に反比例して最適酸素分圧は低下する。そのため、PrBCOの形成条件が1ppm前後、すなわち、0.5〜2ppmであると推定される。
PLD法やMOCVD法などの物理蒸着法では、PrBCOとYBCOを混在させての形成は困難である。YBCOのペロブスカイト構造を形成するための最適酸素分圧は1000ppmであり、500〜2000ppmでYBCOの形成は可能である。加えて、例えばPLD法でターゲットにPrBCOとYBCOを混在させての成膜では、仮にPrBCOとYBCOのペロブスカイト構造の同時形成が実現したとしても、格子サイズが異なるために、分離して個々の集合体が形成されると思われる。その点からも、ペロブスカイト構造でYBCOとPrBCOを混在させて作ることは原理的に困難である。また、YBCOを形成する条件で成膜を行うとPrBCOは分解物になる。
MOCVD法もほぼ同様にYBCOとPrBCOを混在させては作ることは困難である。MOCVD法では、金属元素が基板までやってきてから有機物が分解する。成膜時の最適な酸素分圧はYBCOで800℃であれば1000ppmであり、PrBCOは1ppmである。YBCOとPrBCOを共存させての成膜は困難である。
PLD法と同じ物理蒸着法であるスパッター法でYBCOに共存させてPrBCOを成膜させた場合も、10%のPrBCO添加によりTcが4Kも低下する。しかも、PrBCOは、ペロブスカイト構造を組まない形で偏在するとされている。先の説明の通り、YBCOとPrBCOを、連続したぺロブスカイト構造内、あるいは、単結晶内に形成することが物理蒸着法では困難と考えられる。
バルク体でYBCO+PrBCOを作り磁場特性を改善する試みでは、大きなTc低下が報告されている。これはPrBCOとYBCOがそれぞれ集合体として形成され、その後のPrの価数変化で3価から4価近くに変動した際に、PrBCOの集合体の格子定数が12〜14%も収縮し、YBCOの集合体との物理的な剥離が生じユニットセルの結合状況が悪化した結果と思われる。ユニットセル間の隙間はTcを低下させる。別な言い方をすれば、バルク体での報告では、本実施形態で提示されるYBCOとPrBCOのユニットセルが、連続したペロブスカイト構造を形成する構造が実現できていないことが示されている。
PrBCOとYBCOを混在させて形成可能な唯一の方法は、疑似液相からペロブスカイト構造を形成し、最適酸素分圧が希土類サイトの元素の最適酸素分圧の平均値で成膜が可能なTFA−MOD法であると考えられる。TFA−MOD法は本焼時に成長が液相で起こり、疑似液相を形成する。外部磁場印加の実験で、成長方向が特性に影響を与えるという結果も疑似液相が形成されていることを示す証拠の一つである。疑似液相からの成長において、溶液を高純度化して異相形成を防げば、複数の希土類元素が混在した連続したペロブスカイト構造が形成される。XRD測定や高倍率の断面TEM観察像からも、連続したペロブスカイト構造が形成されることは確認される。
TFA−MOD法において形成条件の大きく異なる複数の希土類、例えばPrBCOとYBCOを混在させて成膜する際、溶液中に異相形成の足掛かりとなる不純物が存在すれば、PrBCOとYBCOは分離して形成されるか、あるいは一方が分解物で異相を形成する。
TFA−MOD法は、旧来のMOD法の特殊な形態の一つである。旧来のMOD法はフッ素フリーMOD法も含めて固相反応で成長する。TFA−MOD法はMOD法の極めて特殊な形態であり、フッ素の存在により疑似液相を形成し成長するのである。フッ素の代わりに塩素を使うと固相反応になるとの報告もあるため、PrBCOとYBCOなど成膜条件の大きく異なるユニットセルが連続したぺロブスカイト構造を形成できるのは現時点でTFA−MOD法のみとなる。
PrBCOとYBCOのような、希土類イオン半径が大きく異なるペロブスカイト構造を、連続したぺロブスカイト構造内で形成できる原動力はクラスター化現象であると考えられる。クラスター化現象を生じさせるためには、ペロブスカイト構造のユニットセル、正しくは1/3ユニットセルサイズが異なるものを組み合わせる。ユニットセルサイズは、含まれる希土類元素のサイズ、すなわちイオン半径で決まる。
マトリックス相を形成するMA(Matrix Atoms)のサイズに対し、人工ピンを形成するPA(Pinning Atom)とそれをサポートするSA(Supporting Atoms)はサイズの大きな元素、CA(Counter Atoms)はサイズの小さな元素である。クラスター化現象は、マトリックス相のユニットセルに対して、大きなサイズと小さなサイズのユニットセルが、形状異方性により集積する現象である。
ペロブスカイト構造を形成する際の本焼時の最適酸素分圧と、元素のイオン半径とには関連がある。イオン半径が大きいほど最適酸素分圧が小さい。イオン半径はサイズ順に、La>Pr>Nd>Sm>Gd>Dy>Tm>Luなどとなる。それぞれの元素がぺロブスカイト構造を形成するために必要な本焼時の最適酸素分圧は、800℃では単位をppmとして、0.2、1、5、20、200、1000、2000、3000前後であると考えられる。
高純度溶液を用いるTFA−MOD法により、最適酸素分圧が大幅に異なる元素を同時に成膜し、マトリックス相と連続したぺロブスカイト構造を備えるクラスター化原子置換型人工ピン(Clustered Atom−replaced Pin:CARP)が形成できる。
特定の温度領域で、最適な磁場特性を実現するためには、人工ピンのサイズを調整することが望ましい。一般に、温度の低い領域での磁場特性を向上するためには、温度の高い領域よりもサイズの小さい人工ピンが望まれる。したがって、温度の低い領域で最適な磁場特性を実現するためには、温度の高い領域よりもサイズの小さい人工ピンの形成が望まれる。
しかし、CARPのサイズの変更が容易ではないことが分かってきた。例えば、YをMAとし、SAにSm、CAにLuを選ぶ。PAの候補となるのはPrのみである。この系において、Pr:Sm:Lu=1:1:2で固定し、全体に対するPr、Sm及びLuの合計量を4%、8%、16%と変化させて、磁場特性を測定(Jc−B測定)する。合計量を変えても磁場特性のカーブの温度依存性に大きな変化がない。この事実は、Pr、Sm及びLuの合計を変えた場合、入れた元素の量と核生成頻度が比例し、結果的に平均サイズが同じCARPが、その数だけを変えて形成されることを示している。
本実施形態では、PA及びSAに対して、CAを余剰に加える。すなわち、酸化物超電導層30中の、PAである第1の元素の原子数をN(PA)、SAである第2の元素の原子数をN(SA)、CAである第4の元素の原子数をN(CA)とした場合に、1.5×(N(PA)+N(SA))≦N(CA)である。酸化物超電導層30中のCAの原子数が、PAとSAの原子数の和の1.5倍以上である。言い換えれば、酸化物超電導層30中のCAのモル数が、PAとSAのモル数の和の1.5倍以上である。
本実施形態では、CAの数を増やすことで、人工ピンの核生成頻度を高くする。その結果、CAを余剰に入れない場合と比較して、サイズの小さい人工ピンが形成できる。言い換えれば、CAの数を増やすことで、CARPの核生成頻度を高くする。その結果、CAを余剰に入れない場合と比較して、サイズの小さいCARPが形成できる。
図7は、本実施形態の作用及び効果を示す図である。図7は、比較形態の酸化物超電導層の拡大模式断面図である。比較形態は、本実施形態と異なり、PA及びSAに対して、CAを余剰に入れない場合の酸化物超電導層である。図7は、本実施形態の図1(b)に対応する断面図である。
図7と図1(b)との比較より明らかなように、本実施形態では、PAであるPr、及び、SAであるSmに対して、CAであるLuを余剰に加えることにより、サイズの小さいクラスターが形成できる。余剰のLuを含むユニットセルが、マトリックス相内に散在する。
CARPは、PA、SA、CAのそれぞれを含むユニットセルが、集積して形成される。PA+SA=CAの量で形成される場合、クラスターにMA以外の全ての元素が集積し、もっとも安定的な構造になると考えられる。PA+SAの量を変えず、核生成に関与するCAの量を増やすと、核生成頻度が高くなり、クラスターのサイズが小さくなると考えられる。
本実施形態では、酸化物超電導層30がサイズの小さい人工ピンを備えることにより、温度の低い領域での磁場特性が改善される。
希土類元素の原子数をN(RE)とし、MAである第3の元素の原子数をN(MA)とした場合に、N(MA)/N(RE)≧0.6であることが望ましい。上記範囲を下回ると、酸化物超電導層30中の超電導ユニットセルの割合が低下し、十分な超電導特性が得られないおそれがある。
希土類元素の原子数をN(RE)とし、PAである第1の元素、すなわちプラセオジウムの原子数をN(PA)とした場合に、Pr比はN(PA)/N(RE)と記述できる。したがって、0.00000001≦N(PA)/N(RE)であることが望ましい。上記範囲を下回ると、人工ピンが不足し、十分な磁場特性の改善効果が得られないおそれがある。
MAである第3の元素の原子数をN(MA)とし、第3の元素に含まれるイットリウムの原子数をN(Y)とした場合に、N(Y)/N(MA)≧0.5であることが望ましい。イットリウム(Y)は材料が比較的安価であるため、酸化物超電導体100のコストを低減することが可能となる。
希土類元素の原子数をN(RE)とし、PAである第1の元素の原子数をN(PA)とし、SAである第2の元素の原子数をN(SA)とした場合に、(N(PA)+N(SA))/N(RE)≦0.2であることが望ましい。上記範囲を上回ると、超電導ユニットセルの割合が低下し、十分な超電導特性が得られないおそれがある。
酸化物超電導層30は、2.0×1015atoms/cc以上5.0×1019atoms/cc以下のフッ素と、1.0×1017atoms/cc以上5.0×1020atoms/cc以下の炭素と、を含むことが望ましい。
残留フッ素及び残留炭素は、例えば、15Tを超えるような非常な高磁場で磁場特性を維持する効果があると考えられる。
上記観点から、酸化物超電導層30に含まれるフッ素の濃度は、2.0×1016atoms/cc以上であることがより望ましい。また、酸化物超電導層30に含まれる炭素の濃度は、例えば、1.0×1018atoms/cc以上であることがより望ましい。
酸化物超電導層30中の、PAである第1の元素の原子数をN(PA)、SAである第2の元素の原子数をN(SA)、CAである第4の元素の原子数をN(CA)とした場合に、4×(N(PA)+N(SA))≦N(CA)であることが望ましい。サイズの小さいCARPが形成され、温度の低い領域での磁場特性が更に改善される。
1.5×(N(PA)+N(SA))≦N(CA)であり、第2の元素がネオジウム(Nd)及びサマリウム(Sm)の群の少なくとも一種類であり、第3の元素がイットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類であり、第4の元素がエルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)の群の少なくとも一種類であることが望ましい。また、第2の元素がサマリウム(Sm)であり、第3の元素がイットリウム(Y)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類であり、第4の元素がエルビウム(Er)及びツリウム(Tm)の群の少なくとも一種類であることが更に望ましい。MAとCAとのイオン半径の差が小さくなることで、CARPの核生成頻度が高くなる。したがって、サイズの小さいCARPが形成され、温度の低い領域での磁場特性が更に改善される。
以上、本実施形態によれば、サイズの小さい人工ピンの形成が可能で、温度の低い領域での磁場特性が向上した酸化物超電導体及びその製造方法が実現される。
(第2の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する酸化物超電導層を備える。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素、を含む。そして、上記第1の元素の原子数をN(PA)、上記第2の元素の原子数をN(SA)、上記第4の元素の原子数をN(CA)とした場合に、2×(N(CA)−N(PA))≦N(SA)である。
また、本実施形態の酸化物超電導体の製造方法は、まず、プラセオジウム(Pr)である第1の元素の酢酸塩、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素の酢酸塩、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素の酢酸塩、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素の酢酸塩、バリウム(Ba)の酢酸塩、並びに、銅(Cu)の酢酸塩を含む水溶液を作製する。水溶液は、上記第1の元素のモル数をM(PA)、上記第2の元素のモル数をM(SA)、上記第4の元素のモル数をM(CA)とした場合に、2×(M(CA)−M(PA))≦M(SA)である。次に、水溶液を、トリフルオロ酢酸を主に含むパーフルオロカルボン酸と混合して混合溶液を作製し、混合溶液の反応及び精製を行い第1のゲルを作製する。次に、第1のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解してアルコール溶液を作製し、アルコール溶液の反応及び精製を行い第2のゲルを作製する。次に、第2のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解して、残留水及び残留酢酸の総重量が2重量%以下のコーティング溶液を作製し、基板上にコーティング溶液を塗布してゲル膜を形成する。次に、ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成する。次に、仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層(酸化物超電導体膜)30を形成する。
本実施形態の酸化物超電導体は、SAが酸化物超電導層30に余剰に加えられている点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
本実施形態では、SAを余剰に加える。すなわち、酸化物超電導層30中の、PAである第1の元素の原子数をN(PA)、SAである第2の元素の原子数をN(SA)、CAである第4の元素の原子数をN(CA)とした場合に、2×(N(CA)−N(PA))≦N(SA)である。酸化物超電導層30中のSAの原子数が、CAとPAの原子数の差の2倍以上である。言い換えれば、酸化物超電導層30中のSAのモル数が、CAとPAのモル数の差の2倍以上である。
CAと同様、SAも人工ピンとなるクラスターの核生成に関与すると考えられる。本実施形態では、SAの数を増やすことで、人工ピンの核生成頻度を高くする。その結果、SAを余剰に入れない場合と比較して、サイズの小さい人工ピンが形成できる。言い換えれば、SAの数を増やすことで、CARPの核生成頻度を高くする。その結果、SAを余剰に入れない場合と比較して、サイズの小さいCARPが形成できる。
本実施形態によれば、第1の実施形態同様、サイズの小さい人工ピンの形成が可能で、温度の低い領域での磁場特性が向上した酸化物超電導体及びその製造方法が実現される。
(第3の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する酸化物超電導層を備える。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第2の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第3の元素、を含む。そして、上記第1の元素の原子数をN(PA)、上記第3の元素の原子数をN(CA)とした場合に、1.5×N(PA)≦N(CA)である。
本実施形態の酸化物超電導体は、酸化物超電導層30が、第1の実施形態のSA(Supporting Atom)を含まない点で、第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
本実施形態の酸化物超電導層30は、第3世代型のクラスター化原子置換型人工ピン(3rd−CARP:3rd−generation Clustered Atom Replaced Pin)を含む。
本実施形態の酸化物超電導層30は、PA、MA、CAからなる。第1の元素がPA(Pinning Atom)、第2の元素がMA(Matrix Atom)、第3の元素がCA(Counter Atom)である。
本実施形態では、PAに対してCAの数を増やすことで、人工ピンの核生成頻度を高くする。その結果、CAを余剰に入れない場合と比較して、サイズの小さい人工ピンが形成できる。
さらに、本実施形態の酸化物超電導層30は、超電導ユニットセルであるSAが存在しないため、人工ピンのポテンシャルは完全な非超電導体と同等となる。このため、ピン力は理論上最大となる。
本実施形態によれば、第1の実施形態同様、サイズの小さい人工ピンの形成が可能で、温度の低い領域での磁場特性が向上した酸化物超電導体及びその製造方法が実現される。さらに、人工ピン内で超電導ユニットセルを形成するSAを含まないことで、磁場特性が向上する。
(第4の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する酸化物超電導層を備える。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも二種類の第4の元素、を含む。
また、本実施形態の酸化物超電導体の製造方法は、まず、プラセオジウム(Pr)である第1の元素の酢酸塩、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも一種類の第2の元素の酢酸塩、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素の酢酸塩、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも二種類の第4の元素の酢酸塩、バリウム(Ba)の酢酸塩、並びに、銅(Cu)の酢酸塩を含む水溶液を作製する。次に、水溶液を、トリフルオロ酢酸を主に含むパーフルオロカルボン酸と混合して混合溶液を作製し、混合溶液の反応及び精製を行い第1のゲルを作製する。次に、第1のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解してアルコール溶液を作製し、アルコール溶液の反応及び精製を行い第2のゲルを作製する。次に、第2のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解して、残留水及び残留酢酸の総重量が2重量%以下のコーティング溶液を作製し、基板上にコーティング溶液を塗布してゲル膜を形成する。次に、ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成する。次に、仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層(酸化物超電導体膜)30を形成する。
本実施形態の酸化物超電導体は、第4の元素であるCAが少なくとも二種類、酸化物超電導層30に加えられている点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
本実施形態では、酸化物超電導層30は、少なくとも一種類のPA、少なくとも一種類のSA,少なくとも一種類のMA、少なくとも二種類のCAを含む。例えば、PAがプラセオジウム(Pr)、SAがサマリウム(Sm)、MAがイットリウム(Y)、CAがイッテルビウム(Yb)とルテチウム(Lu)である。
特定の温度領域で、最適な磁場特性を実現するためには、人工ピンのサイズを調整する必要がある。言い換えれば、特定の温度領域で、最適な磁場特性を実現するための人工ピンのサイズが存在する。
人工ピンの核生成頻度と人工ピンのサイズには相関関係がある。人工ピンの核生成頻度が高い程、人工ピンのサイズは小さくなり、人工ピンの核生成頻度が低い程、人工ピンのサイズは大きくなる。
本実施形態では、例えば、CAとしてイオン半径の異なるイッテルビウム(Yb)とルテチウム(Lu)が酸化物超電導層30に含まれる。イオン半径の異なる2種のCAを含むことにより、人工ピンのサイズの制御が実現される。
例えば、YBCO内でのCARP形成においては、ルテチウム(Lu)に対し、イッテルビウム(Yb)を加えた方が、人工ピンの核生成頻度が高くなる。言い換えれば、人工ピンの核としての生成頻度は、YbBCOがLuBCOよりも高い。人工ピンの核としての生成頻度は、YbBCOがLuBCOの約7倍と考えられる。イッテルビウム(Yb)のイオン半径はルテチウム(Lu)のイオン半径よりも大きい。
核生成頻度の大きさは、MAのイオン半径と、CAのイオン半径との差によって決まると考えられる。CAのイオン半径とMAのイオン半径の差が小さければ核生成頻度が高くなり、CAのイオン半径とMAのイオン半径の差が大きければ核生成頻度が低くなると考えられる。
本実施形態では、イオン半径の異なる二種のCAを含むことにより、それぞれが単体で実現する核生成頻度の中間の核生成頻度が実現できる。したがって、二種のCAそれぞれが単体で実現する人工ピンの中間のサイズの人工ピンが実現できる。
例えば、CAとしてイッテルビウム(Yb)とルテチウム(Lu)が酸化物超電導層30に含まれる場合、CAとしてルテチウム(Lu)のみを含む場合よりも高く、CAとしてイッテルビウム(Yb)のみを含む場合よりも低い、核生成頻度が実現できる。したがって、CAとしてルテチウム(Lu)のみを含む場合よりも大きく、CAとしてイッテルビウム(Yb)のみを含む場合よりも小さい人工ピンが形成可能である。
第2の元素がネオジウム(Nd)及びサマリウム(Sm)の群の少なくとも一種類であり、第3の元素がイットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類であり、第4の元素がエルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)の群の少なくとも二種類以上であることが望ましい。また、第2の元素がサマリウム(Sm)であり、第3の元素がイットリウム(Y)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類であり、第4の元素がエルビウム(Er)及びツリウム(Tm)の群の少なくとも二種類以上であることが、更に望ましい。MAとCAとのイオン半径の差が小さくなることで、CARPの核生成頻度が高くなる。したがって、サイズの小さいCARPが形成され、温度の低い領域での磁場特性が更に改善される。
本実施形態によれば、人工ピンのサイズの制御が可能で、特定の温度領域での磁場特性の向上が可能な酸化物超電導体及びその製造方法が実現される。
(第5の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する酸化物超電導層を備える。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも二種類の第2の元素、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素、を含む。
また、本実施形態の酸化物超電導体の製造方法は、まず、プラセオジウム(Pr)である第1の元素の酢酸塩、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)及びガドリニウム(Gd)の群の少なくとも二種類の第2の元素の酢酸塩、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素の酢酸塩、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも一種類の第4の元素の酢酸塩、バリウム(Ba)の酢酸塩、並びに、銅(Cu)の酢酸塩を含む水溶液を作製する。次に、水溶液を、トリフルオロ酢酸を主に含むパーフルオロカルボン酸と混合して混合溶液を作製し、混合溶液の反応及び精製を行い第1のゲルを作製する。次に、第1のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解してアルコール溶液を作製し、アルコール溶液の反応及び精製を行い第2のゲルを作製する。次に、第2のゲルにメタノールを含むアルコールを加えて溶解して、残留水及び残留酢酸の総重量が2重量%以下のコーティング溶液を作製し、基板上にコーティング溶液を塗布してゲル膜を形成する。次に、ゲル膜に400℃以下の仮焼を行い、仮焼膜を形成する。次に、仮焼膜に加湿雰囲気下で725℃以上850℃以下の本焼、及び、酸素アニールを行い、酸化物超電導層(酸化物超電導体膜)30を形成する。
本実施形態の酸化物超電導体は、第2の元素であるSAが少なくとも二種類、酸化物超電導層30に加えられている点で、第4の実施形態と異なっている。以下、第4の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
本実施形態では、酸化物超電導層30は、少なくとも一種類のPA、少なくとも二種類のSA,少なくとも一種類のMA、少なくとも一種類のCAを含む。例えば、PAがプラセオジウム(Pr)、SAがサマリウム(Sm)とユウロピウム(Eu)、MAがイットリウム(Y)、CAがイッテルビウム(Yb)である。
本実施形態では、例えば、SAとしてイオン半径の異なるサマリウム(Sm)とユウロピウム(Eu)が酸化物超電導層30に含まれる。イオン半径の異なる2種のSAを含むことにより、人工ピンのサイズの制御が実現される。サマリウム(Sm)のイオン半径は、ユウロピウム(Eu)のイオン半径よりも大きい。
核生成頻度の大きさは、MAのイオン半径と、SAのイオン半径との差によって決まると考えられる。SAのイオン半径とMAのイオン半径の差が小さければ核生成頻度が高くなり、SAのイオン半径とMAのイオン半径の差が大きければ核生成頻度が低くなると考えられる。
本実施形態では、イオン半径の異なる二種のSAを含むことにより、それぞれが単体で実現する核生成頻度の中間の核生成頻度が実現できる。したがって、二種のSAそれぞれが単体で実現する人工ピンの中間のサイズの人工ピンが実現できる。
例えば、SAとしてサマリウム(Sm)とユウロピウム(Eu)が酸化物超電導層30に含まれる場合、SAとしてサマリウム(Sm)のみを含む場合よりも高く、SAとしてユウロピウム(Eu)のみを含む場合よりも低い、核生成頻度が実現できる。したがって、SAとしてサマリウム(Sm)のみを含む場合よりも大きく、SAとしてユウロピウム(Eu)のみを含む場合よりも小さい人工ピンが形成可能である。
本実施形態によれば、人工ピンのサイズの制御が可能で、特定の温度領域での磁場特性の向上が可能な酸化物超電導体及びその製造方法が実現される。
(第6の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有する酸化物超電導層を備える。上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第2の元素、並びに、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群の少なくとも二種類の第3の元素、を含む。
本実施形態の酸化物超電導体は、酸化物超電導層30が、第3の実施形態のSA(Supporting Atom)を含まない点で、第3の実施形態と異なる。以下、第3の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
本実施形態の酸化物超電導層30は、第3世代型のクラスター化原子置換型人工ピン(3rd−CARP:3rd−Clustered Atom Replaced Pin)を含む。
本実施形態の酸化物超電導層30は、PA、MA、CAからなる。第1の元素がPA(Pinning Atom)、第2の元素がMA(Matrix Atom)、第3の元素がCA(Counter Atom)である。
本実施形態では、例えば、CAとしてイオン半径の異なるイッテルビウム(Yb)とルテチウム(Lu)が酸化物超電導層30に含まれる。イオン半径の異なる2種のCAを含むことにより、人工ピンのサイズの制御が実現される。
本実施形態では、イオン半径の異なる二種のCAを含むことにより、それぞれが単体で実現する核生成頻度の中間の核生成頻度が実現できる。したがって、二種のCAそれぞれが単体で実現する人工ピンの中間のサイズの人工ピンが実現できる。
例えば、CAとしてイッテルビウム(Yb)とルテチウム(Lu)が酸化物超電導層30に含まれる場合、CAとしてルテチウム(Lu)のみを含む場合よりも高く、CAとしてイッテルビウム(Yb)のみを含む場合よりも低い、核生成頻度が実現できる。したがって、CAとしてルテチウム(Lu)のみを含む場合よりも大きく、CAとしてイッテルビウム(Yb)のみを含む場合よりも小さい人工ピンが形成可能である。
本実施形態によれば、人工ピンのサイズの制御が可能で、特定の温度領域での磁場特性の向上が可能な酸化物超電導体が実現される。さらに、人工ピン内で超電導ユニットセルを形成するSAを含まないことで、磁場特性が向上する。
(第7の実施形態)
本実施形態の酸化物超電導体は、希土類元素、バリウム(Ba)、及び、銅(Cu)を含む連続したぺロブスカイト構造を有し、上記希土類元素は、プラセオジウム(Pr)である第1の元素、サマリウム(Sm)である第2の元素、イットリウム(Y)及びホルミウム(Ho)の群の少なくとも一種類の第3の元素、並びに、ツリウム(Tm)である第4の元素、を含む酸化物超電導層を、備える。
本実施形態の酸化物超電導体は、特に、第2の元素であるSAがサマリウム(Sm)、第3の元素であるMAがイットリウム(Y)又はホルミウム(Ho)、第4の元素であるCAがツリウム(Tm)に限定される点で第1の実施形態と異なっている。また、SA又はCAが必ずしも過剰に含まれていない点で第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
本実施形態では、MAのイオン半径とCAのイオン半径とのの差が比較的小さいことで、核生成頻度が高くなる。したがって、人工ピンのサイズが小さくなり、特に、低温域での磁場特性に優れた酸化物超電導体が実現できる。
以下、本実施形態の作用・効果について説明すると共に、CARPの形成モデルについても含めて説明する。
例えば、送電ケーブルや限流器への応用の場合、77K〜50Kの温度領域で磁場特性が改善することが求められる。一方、例えば、重粒子線がん治療機や磁気浮上列車への応用の場合、30K付近で磁場特性が改善することが求められる。したがって、低温域での磁場特性改善も必要とされる。
低温域で人工ピンとしての効果を発揮させるには、人工ピンのサイズを小さくする必要がある。したがって、人工ピンとしてCARPを用いる場合、CARPのサイズを小さくする必要がある。CARPサイズの縮小のために、現在実現されているCARPのサイズを把握し、そのサイズを小さく制御することが必要となる。しかし、CARPのサイズを把握することは困難である。
過去に開発されてきたBaZrO3人工ピンは、マトリックス相のYBCOと格子定数が異なるため構造が分離しており、明確な界面が存在する。このため、BZOの位置が特定しやすかった。したがって、サイズの把握も容易であった。
しかし。CARPは従来のBZOとは全く異なる構造であり、連続するペロブスカイト構造の一部が人工ピンを形成する。そのため、TEM観察でもCARPなのかYBCO超電導体なのかの判別が難しく、CARPのサイズの直接観察は極めて困難である。
CARPのサイズの直接観察は困難であるが、ピンサイズ制御技術を用いて、温度30K、磁場1T〜3Tの条件で、小さな磁場特性改善効果が得られている試料がある。従来の報告例を基に考えると、この試料の人工ピンのサイズは15nm〜20nm程度と推測される。したがって、CARPのサイズが15nm〜20nm程度であると類推される。
CARPの存在位置は、TEMにより観察できるCu原子の位置の揺らぎなどから類推し、膜全体に塊状に分布している可能性が高い。その塊状のCARPは、膜中に略均一に分布し、その直径は15nm〜20nmと想定される。したがって、CARP形成モデル(CARP growth model)が理解できれば、そのモデルを応用することで、CARPのサイズ制御が可能となる。
上記のCARPは、クラスター化現象によりPA、SA、及びCAが集積し、PAがa/b面内の隣接4ユニットセルを非超電導化することで形成される。そして、CARP全体が人工ピンとして機能すると推測される。CARPのサイズ制御のためには、どのユニットセルがCARP形成の起点となるかについて知る必要がある。
CARP形成の起点は、CAの可能性が高いと思われる。YBCOのペロブスカイト構造においては、Yサイトに入る元素のイオン半径と、成膜時の最適酸素分圧とに相関がある。最適酸素分圧とは、得られた超電導体のJc値が、液体窒素中で最大となる値である。またその酸素分圧はイオン半径と逆の相関関係にある。
例えば、LaBCOでは最適酸素分圧は0.2ppm、NdBCOでは5ppm、SmBCOでは20ppmである。イオン半径はLa>Nd>Sm>Y>Tm>Yb>Luである。YBCOでは1000ppmである。TmBCO、YbBCO、LuBCOは正確な値は不明ながら2000ppm、3000ppm、4000ppm前後であると考えられる。
元素間の実効的なイオン半径の差は、YBCOの最適酸素分圧と対数的にどれ位差があるかで決まると思われる。YBCOの最適酸素分圧との差はCARPを構成するSmBCOの最適酸素分圧ではYBCOの1/50、すなわち50倍の差がある。TmBCOは2倍、YbBCOは3倍、LuBCOは4倍である。PrBCOのデータは無いが、LaとNdの間に位置し、0.2ppm〜5ppmと推測されるが、1ppm程度と考えられる。YBCOと実効的なイオン半径の差が最も小さいのがCAとなる。イオン半径の差が小さいほど核生成頻度は相対的に高いはずであり、CARP成長の起点がCAである可能性が高い。PAやSAの核生成頻度はCAと比較し低い。
CARPサイズを決める重要な因子は、MAとCAの核生成頻度である。CAの核生成頻度がMAの1/100万である場合、100万個のMAに対し1つCAが成長し、周辺のCARP構成元素を集積する。それらがCARPを形成する。仮の話でCA=Luの時に、100万個のMAに1つCAが成長すると仮定する。そうるすと、核生成頻度がLuの100倍のTmをCAに用いた場合、100万個のMAに対し100個のCAすなわちTmが核生成する。
図8は、第7の実施形態の作用及び効果を示す図である。図8は、イオン半径の異なるCAを適用した場合のCARPの成長の違いを模式的に示す図である。
図8(a)はCAがTmの場合、図8(b)はCAがYbの場合である。Tmは、Yとのイオン半径差が、Ybよりも小さい。このため、TmBCOのユニットセルサイズとYBCOのユニットセルサイズとの差は、YbBCOのユニットセルサイズとYBCOのユニットセルサイズとの差よりも小さく、核生成頻度が大きくなる。核生成頻度がYbに対して大きいTmの場合、CARP構成元素が同じ密度で存在するならば、Ybより多くのCARPが形成されるとともに、CARPのサイズ、すなわちCARPの平均の直径は小さくなる。
一度核生成が起きればCARP構成元素を周囲から供給され続ける限り優先的に成長し、CARPが大きくなっていくと考えられる。しかし、CARP構成元素は、例えば、全体の高々8%程度でしかない。CARP構成元素が使われればその近傍に存在するCARP構成元素の濃度が低下し、YBCOが成長する確率が高まる。YBCOがいったん成長すると、隣接セルに同一のユニットセルのYBCOが成長しやすくなる。すると、成長していたCARPはMAであるYBCOに取り囲まれ塊状になる。以上が現時点で判明しているCARP成長モデルである。
上記のモデルから、Pr:Sm:Yb=1:1:2で形成されるCARPは、CARP構成元素量が2倍になっても同じサイズのCARPが形成されることが推測される。試料1としてPr:Sm:Yb=1:1:2(%)、試料2として同比2:2:4(%)の物を成膜したとする。後者のYb核生成量は前者の2倍なので同一体積内にCARP数は2倍となる。CARP構成元素を取り込める領域は1/2になる。しかしその領域にCARP構成元素の濃度が2倍あるわけなので、結局は同じ量のCARPサイズとなる。更に一般化して1:1:2のn倍でも同じ結果となる。PA:SA:CA比が同一の場合で総量が異なるものを成膜すると、サイズが同じCARPの数量だけが増加する。
上記のケースで例えば、PA:SA:CA=1:1:2の場合に、CAのみ増やしPA:SA:CA=1:1:10とすると、CARP構成元素の体積は同じであるが(CAの余剰分8はCARPを形成しない)、核生成数は増加前の5倍となる。つまり従来のCAの5倍のCARPが形成されることになる。これが現時点で判明しているCARP形成モデルである。
CARPサイズを小さくする時に、特に有効な手段は、(1)CAのみを増加させる、(2)核生成頻度のより高いCAを使うことである。また核生成数を増加させた場合にCARP構成元素の量により最後のCARPサイズが決まる。現状でのCARP成長モデルにおける、CARPサイズは次のように書き表せる。
D(CP)=k×M(CP)×V(MA)/V(CA)、
上記の式において、各記号の定義は以下のとおりである。
D(CP):CARPの平均直径(Diameter of CARP)
M(CP):CARP構成元素の単位体積当たりのモル数(Mass of CARP)
V(MA):MAの核生成速度(頻度)(Velosity of MA nucleation)
V(CA):CAの核生成速度(頻度)(Velosity of CA nucleation)
k:CARP成長モデルにおける定数(CARP constant)。
以下、実施例について説明する。
以下の実施例においては多数の金属酢酸塩を混合して溶液やペロブスカイト構造の超電導体を作成している。ペロブスカイト構造のY系超電導体は、Yサイト(希土類サイト)にY又はランタノイド族の元素が入り、その他はBaとCuである。その比率はおよそ1:2:3となる。そのためYサイトに用いられる金属元素に着目し、次のように記載する。
Yサイトの元素には少なくとも4種類の元素(一部は少なくとも3種類の元素)が以下の実施例では必要となる。人工ピンを作り出すPA、それを補助するSA、マトリックス相となるMA、最後にイオン半径が小さく、クラスターを形成するのに必要なCAである。PAはPrしかない。SAはNd、Sm、Eu、Gdを用いることができる。MAはTb、Dy、Ho、Yを用いることができる。CAにはEr、Tm、Yb、Luを用いることができる。なお、3rd−CARPの場合、GdはMAの一部として用いることも可能である。
希土類元素を3種類で構成する場合はSA無しとなる。この場合、MAにGdを使うことができる。PAはPrのみであるが、MAはGdにYなどを加え、CAはTmなどでクラスターが形成される。
以下の実施例において、元素はランタノイド族の原子番号が小さいものから記載し、PA、SA、MA、CAの順で記載する。MAでYを使う場合、Yは最後に記載する。PA+SA、MA、CAはバーでつなぐ。例えばMA=Yで、Pr、Sm、Luをそれぞれ4%、4%、8%混合したものは、4%Pr4%Sm−Y−8%Luと記載する。
ただし、次の2つの場合は、各元素の割合の記載を省略できるものとする。PA=SAの場合と、CA=2×PAの場合である。クラスター化技術はPA=SAかつPA+SA=CAをベースに議論することが多いため、このような省略記載方法をとる。
例えば、MA=Yで、Pr、Sm、Luがそれぞれ2%、2%、10%の場合、2%PrSm−Y−10%Luと記載できる。またPr、Sm、Luがそれぞれ2%、6%、4%の場合、2%Pr6%Sm−Y−Luと記載できる。さらにPr、Sm、Luがそれぞれ2%、2%、4%の場合、2%PrSm−Y−Luと記載できる。
また磁場特性の改善度合いを調べるため、CARPを含まないYBCOを参照試料として、特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を、以下のように定義する。
Eff(X、T、B1、B2)=[Jc(X、T、B2)/Jc(YBCO、T、B2)]/[Jc(X、T、B1)/Jc(YBCO、T、B1)]
例えば超電導膜1FS−1%PrSm−Y−10%Luの、77Kにおける1T→5Tの特性改善比率は次のように書き表せる。
Eff(1FS−1%PrSm−Y−10%Lu、77K、1T、5T)=[Jc(1FS−1%PrSm−Y−10%Lu、77K、5T)/Jc(YBCO、77K、5T)]/[Jc(1FS−1%PrSm−Y−10%Lu、77K、1T)/Jc(YBCO、77K、1T)]であり、この値は2.028であった。以下の実施例では、上記定義で特性改善の有無を評価するものとする。
(実施例1)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Lu(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.96:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質1Mi−1%PrSm−Y−Lu(実施例1で説明する物質、Y−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Lu(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.88:0.10:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質1Mi−1%PrSm−Y−10%Luを得た。
得られた半透明青色の物質1Mi−1%PrSm−Y−Lu、1Mi−1%PrSm−Y−10%Lu中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質1Mi−1%PrSm−Y−Lu、1Mi−1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質1M−1%PrSm−Y−Lu(実施例1で説明する物質、Y−based Material without impurity)、1M−1%PrSm−Y−10%Luがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質1M−1%PrSm−Y−Lu、1M−1%PrSm−Y−10%Luをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液1Cs―1%PrSm−Y−Lu(実施例1、Coating Solution for Y−based superconductor)、1Cs―1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ得た。
コーティング溶液1Cs―1%PrSm−Y−Lu、1Cs―1%PrSm−Y−10%Luを、7:1、6:2、4:4、2:6でそれぞれ混合し、コーティング溶液1Cs―1%PrSm−Y−3%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−4%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−6%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−8%Luを得た。
コーティング溶液1Cs―1%PrSm−Y−Lu、1Cs―1%PrSm−Y−3%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−4%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−6%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−8%Lu、1Cs―1%PrSm−Y−10%Luを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
次に、図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行った。超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Lu(実施例1、Y−based Film of Superconductor)、1FS−1%PrSm−Y−3%Lu、1FS−1%PrSm−Y−4%Lu、1FS−1%PrSm−Y−6%Lu、1FS−1%PrSm−Y−8%Lu、1FS−1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ得た。
超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Lu、1FS−1%PrSm−Y−3%Lu、1FS−1%PrSm−Y−4%Lu、1FS−1%PrSm−Y−6%Lu、1FS−1%PrSm−Y−8%Lu、1FS−1%PrSm−Y−10%LuをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。
超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Luと1FS−1%PrSm−Y−10%LuのXRD測定結果が図2である。図2中、1FS−1%PrSm−Y−Luが点線、1FS−1%PrSm−Y−10%Luが実線で示される。
図2の1FS−1%PrSm−Y−Luにおいて、BaCu系複合酸化物の小さな異相が見られるものの、ほぼYBCO(00n)の単一ピークと同じであり、それぞれのピークは分離せずに1本である。2θ=46.68度のYBCO(006)ピークからもそれがよくわかる。しかも強度は十分に強い強度であり、すべての材料が連続したペロブスカイト構造を形成していると推定される。つまりこの系においてYBCOのペロブスカイト構造に、PrBCO、SmBCO、LuBCOが組み込まれていることを示す。
もう一つの超電導膜1FS−1%PrSm−Y−10%Luであるが、このピークや強度は1FS−1%PrSm−Y−Luとほぼ同じであることが図2からわかる。この系ではLuBCOが8%分余剰に含まれる系であるが、ペロブスカイト構造内にLuBCOが組み込まれていることを示している。つまり実施例1で得られる構造は、図1(b)に示されるように連続したペロブスカイト構造を維持したまま、CARPが小さくなっただけの構造が得られていると推測できる。
超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Lu、1FS−1%PrSm−Y−3%Lu、1FS−1%PrSm−Y−4%Lu、1FS−1%PrSm−Y−6%Lu、1FS−1%PrSm−Y−8%Lu、1FS−1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ6.3、6.4、6.3、6.1、6.0、6.2MA/cm2(77K,0T)であった。このJc値は比較的良好なJc値であると考えられる。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の5%劣化に相当するため確認は難しい。ただし、クラスター化が起きていれば、Jc−B測定にて効果が確認されることとなる。
図9は、実施例1のJc−B測定の結果を示す図である。超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Lu、1FS−1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ、77Kで1〜5Tの磁場中でJc値を測定した結果を示す。参照試料としてYBCO超電導体の場合の測定結果も示す。図の横軸は磁場で単位はT、縦軸はJc値で対数軸である。
超電導膜1FS−1%PrSm−Y−LuはYBCO超電導体よりも2Tで特性が高くなり、5Tではより高い特性が得られていることがグラフからわかる。また、超電導膜1FS−1%PrSm−Y−10%Luは同じように2Tで参照試料であるYBCO超電導体の特性を逆転し、4Tや5Tでは特性がさらに伸びている。ルテチウムを余剰に加えることにより、磁場特性が改善したことを上記結果は示している。
図10は、実施例1のJc−B測定の結果を示す図である。超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Lu、1FS−1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ、60Kで1〜5Tの磁場中でJc値を測定した結果を示す。図の横軸は磁場で単位はT、縦軸はJc値で対数軸である。超電導膜1FS−1%PrSm−Y−LuのJc−B特性は、参照試料であるYBCO超電導体の特性と比べ全般的に特性がやや低めであった。
特性改善比率を調べると、Eff(1FS−1%PrSm−Y−Lu、60K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−3%Lu、60K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−4%Lu、60K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−6%Lu、60K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−8%Lu、60K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−10%Lu、60K、1T、5T)はそれぞれ、1.074、1.112、1.127、1.133、1.146、1.152であった。小さいながらも参照試料であるYBCO超電導体に対し、磁場特性改善の効果が見られることが分かった。
超電導膜1FS−1%PrSm−Y−10%Luは、1Tで1FS−1%PrSm−Y−Luの超電導特性に近い結果を示す。1FS−1%PrSm−Y−10%Luは、高磁場になるほど特性が改善し、5Tでは、YBCO超電導体にほぼ追いついた結果となっている。
この結果は、Lu量を2%から10%に増やすことにより核生成頻度が高くなって、人工ピンのサイズが小さくなり、より低温で磁場特性改善の効果を発揮したものと考えられる。
図11は、実施例1のJc−B測定の結果を示す図である。超電導膜1FS−1%PrSm−Y−Lu、1FS−1%PrSm−Y−10%Luをそれぞれ、50Kで1〜5Tの磁場中でJc値を測定した結果を示す。この結果から、1FS−1%PrSm−Y−Luと1FS−1%PrSm−Y−10%Lu特性差は小さく見える。
特性改善比率を調べると、Eff(1FS−1%PrSm−Y−Lu、50K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−3%Lu、50K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−4%Lu、50K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−6%Lu、50K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−8%Lu、50K、1T、5T)、Eff(1FS−1%PrSm−Y−10%Lu、50K、1T、5T)はそれぞれ、1.086、1.098、1.092、1.095、1.101、1.106であった。Effが1以上であるため磁場特性改善の効果が無いとは判断できないが、明確な効果は見えていない。この温度領域では、そもそも人工ピンのサイズが適切でなかった可能性がある。
以上の結果は、次のように解釈できる。超電導膜1FS−1%PrSm−Y−LuのCARPは図7のように形成されていると考えられる。添加する元素であるPr、Sm、Luの量比を、CARP部分に集積することが可能な化学量論比としているため、CARP以外の部分にはPr、Sm、Luがほとんど存在しないものと思われる。
一方で、超電導膜1FS−1%PrSm−Y−10%LuのCARPは、図1(b)のように形成されていると考えられる。余剰のLuが存在するために核生成頻度はその余剰量に比例して増加する。すなわち、Lu量が5倍となっているため、核生成頻度も5倍増加したと考えられる。核生成量が通常の5倍多ければ、CARPの体積量も1/5となる。ただ、CARPは平たいコイン状であると考えられ、CARPの半径が1/2.236前後になったものと考えられる。
CARPの形成条件は、MAに対するSA又はCAの核生成頻度が関与していると考えられ、その核生成頻度を制御してCARPをより小さく形成できた結果が超電導膜1FS−1%PrSm−Y−10%Luであると考えられる。2nd−CARPは内部迂回電流(IBC)が小さく、コイルを形成した場合にクエンチしにくい線材であると考えられる。2nd−CARPのピンサイズを、Tcが維持されたまま小さく制御できた超電導材料を、実施例1で提供することができた。
(実施例2)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Lu(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.96:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質2Mi−1%PrSm−Y−Lu(実施例2で説明する物質、Y−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Lu(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.10:0.88:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質2Mi−1%Pr10%Sm−Y−Luを得た。なおこの物質のLu量は、記載の定義によりPr量の2倍の2%である。
得られた半透明青色の物質2Mi−1%PrSm−Y−Lu、2Mi−1%Pr10%Sm−Y−Lu中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質2Mi−1%PrSm−Y−Lu、2Mi−1%Pr10%Sm−Y−Luをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質2M−1%PrSm−Y−Lu(実施例2で説明する物質、Y−based Material without impurity)、2M−1%PrSm−Y−10%Luがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質2M−1%PrSm−Y−Lu、2M−1%Pr10%Sm−Y−Luをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液2Cs―1%PrSm−Y−Lu(実施例2、Coating Solution for Y−based superconductor)、2Cs―1%Pr10%Sm−Y−Luをそれぞれ得た。
コーティング溶液2Cs―1%PrSm−Y−Lu、2Cs―1%Pr10%Sm−Y−Luを、8:1、6:3、4:5、2:7でそれぞれ混合し、コーティング溶液2Cs―1%Pr2%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr4%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr6%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr8%Sm−Y−Luを得た。
コーティング溶液2Cs―1%PrSm−Y−Lu、2Cs―1%Pr2%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr4%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr6%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr8%Sm−Y−Lu、2Cs―1%Pr10%Sm−Y−Luを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
次に、図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行った。超電導膜2FS−1%PrSm−Y−Lu(実施例2、Y−based Film of Superconductor)、2FS−1%Pr2%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr4%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr6%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr8%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr10%Sm−Y−Luをそれぞれ得た。
超電導膜2FS−1%PrSm−Y−Lu、2FS−1%Pr2%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr4%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr6%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr8%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr10%Sm−Y−LuをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。この結果はYBCOと連続したぺロブスカイト構造内に、PrBCO、SmBCO、LuBCOが形成されたことを示している。
超電導膜2FS−1%PrSm−Y−Lu、2FS−1%Pr2%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr4%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr6%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr8%Sm−Y−Lu、2FS−1%Pr10%Sm−Y−Luをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ6.3、6.5、6.4、6.8、7.1、7.3MA/cm2(77K,0T)であった。Smの影響かやや高めの値ではあるが、良好なJc値が得られていた。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の5%劣化に相当するが、その現象は確認されていない。ただし、クラスター化が起きて人工ピンとなっていれば、Jc−B測定にて効果が確認されることとなる。
特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を用い、特性改善効果の有無を調べた。Eff(2FS−1%PrSm−Y−Lu、77K、1T、5T)、Eff(2FS−1%Pr2%Sm−Y−Lu、77K、1T、5T)、Eff(2FS−1%Pr4%Sm−Y−Lu、77K、1T、5T)、Eff(2FS−1%Pr6%Sm−Y−Lu、77K、1T、5T)、Eff(2FS−1%Pr8%Sm−Y−Lu、77K、1T、5T)、Eff(2FS−1%Pr10%Sm−Y−Lu、77K、1T、5T)はそれぞれ、1.501、1.662、1.723、1.775、1.799、1.832であった。Sm量はCA量とPA量との差の2倍以上あれば、参照試料であるYBCO超電導体に対し、磁場特性改善の効果が見られることが分かった。
Sm量が増えることでクラスター部にはSmがPrよりも優先的に入るとも考えられる。実験結果からはSm:Pr=1:1を維持したままクラスター部に組み入れられ、Smの増えた量が核生成増加に関わっているものと思われる。CAだけでなく、SAを増やすことで人工ピンの核生成頻度が高められることがわかった。
また、SAを余剰に加えることで、核生成頻度が高められ人工ピンのサイズが小さくなっていると考えられる。したがって、SAを余剰に加えない場合に比較して、77Kよりも温度の低い領域、特に70Kや60Kでの磁場特性が改善すると考えられる。核生成頻度がより高い系、特にCAにTmなどを用いた系では更に低温側の特性が改善されると考えられる。
(実施例3)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Gd(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.48:0.48:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質3Mi−1%PrSm−GdY−Yb(実施例3で説明する物質、GdY−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Gd(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.44:0.44:0.10:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質3Mi−1%PrSm−GdY−10%Ybを得た。
得られた半透明青色の物質3Mi−1%PrSm−GdY−Yb、3Mi−1%PrSm−GdY−10%Yb中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質3Mi−1%PrSm−GdY−Yb、3Mi−1%PrSm−GdY−10%Ybをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解した。その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質3M−1%PrSm−GdY−Yb(実施例3で説明する物質、Y−based Material without impurity)、3M−1%PrSm−GdY−10%Ybがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質3M−1%PrSm−GdY−Yb、3M−1%PrSm−GdY−10%Ybをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液3Cs―1%PrSm−GdY−Yb(実施例3、Coating Solution for Y−based superconductor)、3Cs―1%PrSm−GdY−10%Ybをそれぞれ得た。
コーティング溶液3Cs―1%PrSm−GdY−Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−10%Ybを、7:1、6:2、4:4、2:6でそれぞれ混合し、コーティング溶液3Cs―1%PrSm−GdY−3%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−4%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−6%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−8%Ybを得た。
コーティング溶液3Cs―1%PrSm−GdY−Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−3%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−4%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−6%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−8%Yb、3Cs―1%PrSm−GdY−10Ybを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
次に、図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行った。超電導膜3FS−1%PrSm−GdY−Yb(実施例3、Y−based Film of Superconductor)、3FS−1%PrSm−GdY−3%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−4%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−6%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−8%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−10%Ybをそれぞれ得た。
超電導膜3FS−1%PrSm−GdY−Yb、3FS−1%PrSm−GdY−3%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−4%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−6%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−8%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−10%YbをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。この結果はYBCOと連続したぺロブスカイト構造内に、PrBCO、SmBCO、YbBCOが形成されたことを示している。
超電導膜3FS−1%PrSm−GdY−Yb、3FS−1%PrSm−GdY−3%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−4%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−6%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−8%Yb、3FS−1%PrSm−GdY−10%Ybをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ6.5、6.5、6.4、6.3、6.4、6.1MA/cm2(77K,0T)であった。このJc値は比較的良好なJc値であると考えられる。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の5%劣化に相当するため確認は難しい。ただしクラスター化が起きていれば、Jc−B測定にて効果が確認されることとなる。
特性改善の有無を調べるため、特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を調べると、Eff(3FS−1%PrSm−GdY−10%Yb、77K、1T、5T)=2.402であった。
同様にEff(3FS−1%PrSm−GdY−Yb、77K、1T、5T)=1.743であり、Ybが標準の2%から10%と増えることにより、Effは1.743から2.402へ改善しており、核生成頻度が高くなり人工ピンのサイズが小さくなり、77Kでの磁場特性が改善していることがわかる。
上記と同様にEff(3FS−1%PrSm−GdY−3%Yb、77K、1T、5T)、Eff(3FS−1%PrSm−GdY−4%Yb、77K、1T、5T)、Eff(3FS−1%PrSm−GdY−6%Yb、77K、1T、5T)、Eff(3FS−1%PrSm−GdY−8%Yb、77K、1T、5T)を調べると、それぞれ1.967、2.135,2.257,2.312であり、Yb量が1.5倍でも明らかに効果があることが分かった。
この実施例では、YをGdYの1:1混合とし、LuをYbとしたものである。クラスター条件からすると平均のMAのイオン半径がPAやSAに近くなり、CAもLuよりYbとすることでイオン半径を近づけた形となる。この状況でもCAを増やせば核生成頻度が高くなり、人工ピンサイズが小さくなることが分かった。
人工ピンのサイズを余剰のCAやSAで小さくする技術であるが、MAがこのようにY単体と異なる系、あるいは混合して平均イオン半径が異なるものとなっても同様の効果が得られることが分かった。TFA−MOD法では、人工ピンのクラスター化に、イオン半径や格子定数などの形状異方性が特別な意味を待つ。人工ピンのサイズ制御技術においても、加える元素のイオン半径の平均値が特別な意味を持つといえる。
人工ピンのサイズ制御技術において鍵となるのはPA、SA、MA、CAの各平均イオン半径である。各平均イオン半径が所望の条件を満たしさえすれば、核生成頻度が増加してCARPサイズが小さくなり、磁場特性が改善することを示している。クラスター化する元素であれば、実施例3以外の元素を用いても同様の効果が期待されると思われる。
(実施例4)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Lu(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質4Mi−2%PrSm−Y−Lu(実施例4で説明する物質、Y−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質4Mi−2%PrSm−Y−Ybを得た。
得られた半透明青色の物質4Mi−2%PrSm−Y−Lu、4Mi−2%PrSm−Y−Yb中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質4Mi−2%PrSm−Y−Lu、4Mi−2%PrSm−Y−Ybをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質4M−2%PrSm−Y−Lu(実施例4で説明する物質、Y−based Material without impurity)、4M−2%PrSm−Y−Ybがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質4M−2%PrSm−Y−Lu、4M−2%PrSm−Y−Ybをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液4Cs―2%PrSm−Y−Lu(実施例4、Coating Solution for Y−based superconductor)、4Cs―2%PrSm−Y−Ybをそれぞれ得た。
コーティング溶液4Cs―2%PrSm−Y−Lu、4Cs―2%PrSm−Y−Ybを、1:3、2:2、3:1でそれぞれ混合し、コーティング溶液4Cs―2%PrSm−Y−3%Yb1%Lu、4Cs―2%PrSm−Y−2%Yb2%Lu、4Cs―2%PrSm−Y−1%Yb3%Luを得た。
コーティング溶液4Cs―2%PrSm−Y−Lu、4Cs―2%PrSm−Y−3%Yb1%Lu、4Cs―2%PrSm−Y−2%Yb2%Lu、4Cs―2%PrSm−Y−1%Yb3%Lu、4Cs―2%PrSm−Y−Ybを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
次に、図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行った。超電導膜4FS−2%PrSm−Y−Lu(実施例4、Y−based Film of Superconductor)、4FS−2%PrSm−Y−1%Yb3%Lu、4FS−2%PrSm−Y−2%Yb2%Lu、4FS−2%PrSm−Y−3%Yb1%Lu、4FS−2%PrSm−Y−Ybをそれぞれ得た。
超電導膜4FS−2%PrSm−Y−Lu、4FS−2%PrSm−Y−1%Yb3%Lu、4FS−2%PrSm−Y−2%Yb2%Lu、4FS−2%PrSm−Y−3%Yb1%Lu、4FS−2%PrSm−Y−YbをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。この結果はYBCOと連続したぺロブスカイト構造内に、PrBCO、SmBCO、YbBCO、LuBCOが形成されたことを示している。
超電導膜4FS−2%PrSm−Y−Lu、4FS−2%PrSm−Y−1%Yb3%Lu、4FS−2%PrSm−Y−2%Yb2%Lu、4FS−2%PrSm−Y−3%Yb1%Lu、4FS−2%PrSm−Y−Ybをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ5.9、6.1、5.8、6.0、6.3MA/cm2(77K,0T)であった。このJc値は比較的良好なJc値であると考えられる。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の10%劣化に相当するが、見られないと考えられる。
特性改善の有無を調べるため、特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を調べると、Eff(4FS−2%PrSm−Y−Yb、77K、1T、5T)=1.852であった。
同様にEff(4FS−2%PrSm−Y−Lu、77K、1T、5T)=1.501であり、LuとYbを混合した試料は次のとおりである。Eff(4FS−2%PrSm−Y−1%Yb3%Lu、77K、1T、5T)=1.589、Eff(4FS−2%PrSm−Y−2%Yb2%Lu、77K、1T、5T)=1.650、Eff(4FS−2%PrSm−Y−3%Yb1%Lu、77K、1T、5T)=1.737。結果はYb量が増えるほど磁場特性改善比率が高まるという結果であった。
YBCO内でのCARP形成において、LuBCOよりYbBCOは核生成頻度が高く、その頻度は推定で約7倍程度と思われる。MAのYに対し、LuもYbもイオン半径がかなり異なるのである。そのイオン半径差はLuからYbに変わることで約25%程度小さくなることが分かっている。MAがYの場合、LuやYbによる核生成頻度は、イオン半径の差により決まると考えられている。イオン半径の差が大きくなれば核生成頻度は低くなるのである。
この議論は格子ミスマッチの議論に近いと思われる。格子ミスマッチは7%程度で成長しなくなると言われている。この状態は核生成頻度が0まで低下した状態でもある。格子ミスマッチがゼロの場合に核生成頻度は最高となるが、ミスマッチがリニアに変化するのに対し、核生成頻度は指数対数的に変化する。すなわち25%のミスマッチ縮小で、核生成頻度は約10倍程度改善すると計算科学者は指摘している。LuからYbへCAを変えることにより、この核生成頻度の上昇が起きたと思われる。
この先、イオン半径がより小さい条件や組み合わせが開発されるはずであるが、当然ながらそのイオン半径差に応じた、最良の磁場特性改善の温度領域が存在するはずである。CAにErやTm、Yb、Luが入った場合、磁場特性改善の効果があることは分かっている。しかし、それらの元素をCAに100%入るのであれば、磁場特性が改善する温度領域はとびとびの値になってしまうと考えられる。そこで、その中間領域で効果を発生する技術が望まれる。
実施例1から実施例3までのピンサイズ制御はCAサイトの元素を増やして核生成頻度を高めることしかできない。しかし、実施例4では、YbとLuを混合すればその中間的な核生成頻度を実現するCAが得られることが分かった。これにより任意の温度領域で、磁場特性が最大となるCARPが形成可能となる。
(実施例5)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質5Mi−2%PrSm−Y−Yb(実施例5で説明する物質、Y−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Eu(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質5Mi−2%PrEu−Y−Ybを得た。
得られた半透明青色の物質5Mi−2%PrSm−Y−Yb、5Mi−2%PrEu−Y−Yb中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質5Mi−2%PrSm−Y−Yb、5Mi−2%PrEu−Y−Ybをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質5M−2%PrSm−Y−Yb(実施例5で説明する物質、Y−based Material without impurity)、5M−2%PrEu−Y−Ybがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質5M−2%PrSm−Y−Yb、5M−2%PrEu−Y−Ybをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液5Cs―2%PrSm−Y−Yb(実施例5、Coating Solution for Y−based superconductor)、5Cs―2%PrEu−Y−Ybをそれぞれ得た。
コーティング溶液5Cs―2%PrSm−Y−Yb、5Cs―2%PrEu−Y−Ybを、3:1、2:2、1:3でそれぞれ混合し、コーティング溶液5Cs―2%Pr1%Sm3%Eu−Y−Yb、5Cs―2%Pr2%Sm2%Eu−Y−Yb、5Cs―2%Pr3%Sm1%Eu−Y−Ybを得た。
コーティング溶液5Cs―2%PrSm−Y−Yb、5Cs―2%Pr1%Sm3%Eu−Y−Yb、5Cs―2%Pr2%Sm2%Eu−Y−Yb、5Cs―2%Pr3%Sm1%Eu−Y−Yb、5Cs―2%PrEu−Y−Ybを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行った。超電導膜5FS−2%PrSm−Y−Yb(実施例5、Y−based Film of Superconductor)、5FS−2%Pr3%Sm1%Eu−Y−Yb、5FS−2%Pr2%Sm2%Eu−Y−Yb、5FS−2%Pr1%Sm3%Eu−Y−Yb、5FS−2%PrEu−Y−Ybをそれぞれ得た。
超電導膜5FS−2%PrSm−Y−Yb、5FS−2%Pr3%Sm1%Eu−Y−Yb、5FS−2%Pr2%Sm2%Eu−Y−Yb、5FS−2%Pr1%Sm3%Eu−Y−Yb、5FS−2%PrEu−Y−YbをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。この結果はYBCOと連続したぺロブスカイト構造内に、PrBCO、SmBCO、EuBCO、YBCO、YbBCOが形成されたことを示している。
超電導膜5FS−2%PrSm−Y−Yb、5FS−2%Pr3%Sm1%Eu−Y−Yb、5FS−2%Pr2%Sm2%Eu−Y−Yb、5FS−2%Pr1%Sm3%Eu−Y−Yb、5FS−2%PrEu−Y−Ybをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ7.2、7.0、6.9、6.7、6.4MA/cm2(77K,0T)であった。このJc値は比較的良好なJc値であると考えられる。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の10%劣化に相当するが、見られないと考えられる。
特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を調べると、Eff(5FS−2%PrSm−Y−Yb、77K、1T、5T)=1.852であった。
同様にEff(5FS−2%PrEu−Y−Yb、77K、1T、5T)=2.232であり、YbとYbを混合した試料は次のとおりである。Eff(5FS−2%Pr3%Sm1%Eu−Y−Yb、77K、1T、5T)=1.956、Eff(5FS−2%Pr2%Sm2%Eu−Y−Yb、77K、1T、5T)=2.044、Eff(5FS−2%Pr1%Sm3%Eu−Y−Yb、77K、1T、5T)=2.150。結果はEu量が増えるほど磁場特性改善比率が高まるという結果であった。
YBCO内でのCARP形成において、SmBCOよりEuBCOは核生成頻度が高く、その頻度は推定で約10倍程度と思われる。MAのYに対し、SmもEuもイオン半径が異なるのであるが、そのイオン半径差はSmからEuに変わることで約30%程度小さくなることが分かっている。MAがYの場合、SmやEuによる核生成頻度は、イオン半径の差により決まると考えられている。イオン半径の差が大きくなれば核生成頻度は低くなるのである。
この議論は実施例4とほぼ同じである。SA側も2種類の元素を使えば中間的な核生成頻度が実現し、核生成頻度が制御できることを示している。言い換えれば、所望の温度領域において、最高の磁場特性を実現するための、人工ピンのサイズ制御が可能である。
なお、実施例4も実施例5も2種類の元素を混合してCAやSAのサイズを微調整した結果を示した。しかし、3種類以上の元素でも同様の効果が得られると考えられる。
(実施例6)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Dy(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.96:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質6Mi−1%PrSmDyTm(実施例6で説明する物質、Dy−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Dy(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.88:0.10:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質6Mi−1%PrSm−Dy−10%Tmを得た。
加えて上記のDyに替えてHoでも同様の溶液を準備し、半透明青色の物質6Mi−1%PrSmHoTm、6Mi−1%PrSm−Ho−10%Tmを得た。
得られた半透明青色の物質6Mi−1%PrSm−Dy−Tm、6Mi−1%PrSmDy10%Tm、6Mi−1%PrSm−Ho−Tm、6Mi−1%PrSm−Ho−10%Tm中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質6Mi−1%PrSm−Dy−Tm、6Mi−1%PrSm−Dy−10%Tm、6Mi−1%PrSm−Ho−Tm、6Mi−1%PrSm−Ho−10%Tmをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質6M−1%PrSm−Dy−Tm(実施例6で説明する物質、Dy−based Material without impurity)、6M−1%PrSmDy10%Tm、6M−1%PrSm−Ho−Tm、6M−1%PrSm−Ho−10%Tmがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質6M−1%PrSm−Dy−Tm、6M−1%PrSm−Dy−10%Tm、6M−1%PrSm−Ho−Tm、6M−1%PrSm−Ho−10%Tmをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液6Cs―1%PrSm−Dy−Tm(実施例6、Coating Solution for Dy−based superconductor)、6Cs―1%PrSm−Dy−10%Tm、6Cs−1%PrSm−Ho−Tm、6Cs−1%PrSm−Ho−10%Tmをそれぞれ得た。
コーティング溶液6Cs―1%PrSm−Dy−Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−10%Tmを、7:1、6:2、4:4、2:6でそれぞれ混合し、コーティング溶液6Cs―1%PrSm−Dy−3%Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−4%Tm、6Cs―1%PrSmDy6%Tm、6Cs―1%PrSmDy8%Tmを得た。
同様に、コーティング溶液6Cs―1%PrSm−Ho−Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−10%Tmを、7:1、6:2、4:4、2:6でそれぞれ混合し、コーティング溶液6Cs―1%PrSm−Ho−3%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−4%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−6%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−8%Tmを得た。
コーティング溶液6Cs―1%PrSm−Dy−Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−3%Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−4%Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−6%Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−8%Tm、6Cs―1%PrSm−Dy−10%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−3%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−4%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−6%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−8%Tm、6Cs―1%PrSm−Ho−10%Tmを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行った。超電導膜6FS−1%PrSmDyTm(実施例6、Dy−based Film of Superconductor)、6FS−1%PrSm−Dy−3%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−4%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−6%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−8%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−10%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−Tm、6FS−1%PrSm−Ho−3%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−4%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−6%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−8%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−10%Tmをそれぞれ得た。
超電導膜6FS−1%PrSm−Dy−Tm、6FS−1%PrSm−Dy−3%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−4%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−6%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−8%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−10%TmをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、DyBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。
同様に、超電導膜6FS−1%PrSm−Ho−Tm、6FS−1%PrSm−Ho−3%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−4%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−6%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−8%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−10%TmをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、HoBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。
超電導膜6FS−1%PrSm−Dy−Tm、6FS−1%PrSm−Dy−3%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−4%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−6%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−8%Tm、6FS−1%PrSm−Dy−10%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−Tm、6FS−1%PrSm−Ho−3%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−4%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−6%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−8%Tm、6FS−1%PrSm−Ho−10%Tmをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ6.2、6.1、6.5、6.4、6.3、6.0、6.2、6.0、6.3、6.3、6.4、6.2MA/cm2(77K,0T)であった。このJc値は比較的良好なJc値であると考えられる。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の5%劣化に相当するため確認は難しい。ただしクラスター化が起きていれば、Jc−B測定にて効果が確認されることとなる。
特性改善の有無を調べるため、特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を調べると、Eff(6FS−1%PrSm−Dy−Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Dy−3%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Dy−4%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Dy−6%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Dy−8%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Dy−10%Tm、77K、1T、5T)はそれぞれ、2.112、2.403、2.512、2.630、2.670、2.703であった。
同様に特性改善の有無を調べるため、Eff(6FS−1%PrSm−Ho−Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Ho−3%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Ho−4%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Ho−6%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Ho−8%Tm、77K、1T、5T)、Eff(6FS−1%PrSm−Ho−10%Tm、77K、1T、5T)を調べた結果、2.060、2.388、2.482、2.570、2.630、2.654であった。
上記の結果は、MAがYである場合と近い結果となっている。CARPは形状異方性で形成される傾向が強く、その傾向が反映された結果だと思われる。すなわち、MAはイオン半径の近い別の元素に代替が可能であり、Yに替わってそのイオン半径に近いと考えられているDyやHoを用いても同じようにクラスター化を起こすことができ、CARPを形成し、磁場特性改善効果があることがわかる。
また、基準となる2%Tmや2%Tmの試料に対し、3%Tmや3%Tmでも効果があることが分かっている。このことは、核生成頻度が1.5倍となっただけでもCARPサイズが小さくなり、Jc−B測定で効果が示されたものと考えられる。
YにかわりGd+YをMAとした系でもCARPは形成され、磁場特性は改善した。TFA−MOD法でのCARP形成が形状異方性により決定される可能性は非常に高く、DyやHoを、Yなどと混合して用いても同様な効果が発揮されると思われる。
(実施例7)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Gd(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.48:0.48:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質7Mi−2%Pr−GdY−2%Tm(実施例7で説明する物質、GdY−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Gd(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.44:0.44:0.10:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質7Mi−2%Pr−GdY−10%Tmを得た。
得られた半透明青色の物質7Mi−2%Pr−GdY−2%Tm、7Mi−2%PrSm−GdY−10%Tm中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質7Mi−2%Pr−GdY−2%Tm、7Mi−2%Pr−GdY−10%Tmをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質7M−2%Pr−GdY−2%Tm(実施例7で説明する物質、Y−based Material without impurity)、7M−2%Pr−GdY−10%Tmがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質7M−2%Pr−GdY−2%Tm、7M−2%Pr−GdY−10%Tmをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液7Cs―2%Pr−GdY−2%Tm(実施例7、Coating Solution for Y−based superconductor)、7Cs―2%Pr−GdY−10%Tmをそれぞれ得た。
コーティング溶液7Cs―2%Pr−GdY−2%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−10%Tmを、7:1、6:2、4:4、2:6でそれぞれ混合し、コーティング溶液7Cs―2%Pr−GdY−3%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−4%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−6%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−8%Tmを得た。
コーティング溶液7Cs―2%Pr−GdY−2%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−3%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−4%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−6%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−8%Tm、7Cs―2%Pr−GdY−10%Tmを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行った。
図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行った。次に、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行った。次に、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜7FS−2%Pr−GdY−2%Tm(実施例7、Y−based Film of Superconductor)、7FS−2%Pr−GdY−3%Tm、7FS−2%Pr−GdY−4%Tm、7FS−2%Pr−GdY−6%Tm、7FS−2%Pr−GdY−8%Tm、7FS−2%Pr−GdY−10%Tmをそれぞれ得た。
超電導膜7FS−2%Pr−GdY−2%Tm、7FS−2%Pr−GdY−3%Tm、7FS−2%Pr−GdY−4%Tm、7FS−2%Pr−GdY−6%Tm、7FS−2%Pr−GdY−8%Tm、7FS−2%Pr−GdY−10%TmをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)ピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。この結果はGdBCO+YBCOと連続したぺロブスカイト構造内に、PrBCO、TmBCOが形成されたことを示している。
超電導膜7FS−2%Pr−GdY−2%Tm、7FS−2%Pr−GdY−3%Tm、7FS−2%Pr−GdY−4%Tm、7FS−2%Pr−GdY−6%Tm、7FS−2%Pr−GdY−8%Tm、7FS−2%Pr−GdY−10%Tmをそれぞれ液体窒素中に設置し、誘導法により自己磁場下での超電導特性を測定した。Jc値はそれぞれ6.5、6.5、6.4、6.3、6.4、6.1MA/cm2(77K,0T)であった。このJc値は比較的良好なJc値であると考えられる。PrBCOが究極分散したことによる5倍劣化現象は、上記の試料ではJc値の5%劣化に相当するため確認は難しい。ただしクラスター化が起きていれば、Jc−B測定にて効果が確認されることとなる。
特性改善の有無を調べるため、特性改善比率Eff(X、T、B1、B2)を調べると、Eff(7FS−2%Pr−GdY−2%Tm、77K、1T、5T)、Eff(7FS−2%Pr−GdY−3%Tm、77K、1T、5T)、Eff(7FS−2%Pr−GdY−4%Tm、77K、1T、5T)、Eff(7FS−2%Pr−GdY−6%Tm、77K、1T、5T)、Eff(7FS−2%Pr−GdY−8%Tm、77K、1T、5T)、Eff(7FS−2%Pr−GdY−10%Tm、77K、1T、5T)はそれぞれ、1.203、1.350、1.404、1.450、1.482、1.521であった。
上記の系はSA無しで人工ピンを形成する3rd−CARPである。理論的には、高いピン力が期待される。実施例7では、磁場特性改善の効果は小さいながらも見られている。3rd−CARPにおいてもCAを増やすとCARPのサイズが小さくなり、磁場特性が改善する効果があることが分かった。
実施例7では、形状異方性によりCARPが形成されることを考え、比較的イオン半径の大きなTmを用いた。Tmが2%から3%となればCARPサイズが小さくなると見られ、磁場特性改善に効果があることが分かった。SAが存在しない3rd−CARPでは、CA量を増大させることで小さな人工ピンが実現し、2種類以上のCAがある場合にその混合により中間的なサイズに人工ピンが実現するはずである。実施例7では、そのことが裏付けられた。
(実施例8)
まず、図3に示されるフローチャートに従い、2種類の超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質8Mi−2%PrSm−Y−Yb(実施例8で説明する物質、Y−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.80:0.16:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質8Mi−2%PrSm−Y−16%Ybを得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Yb(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.90:0.08:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質8Mi−1%PrSm−Y−8%Ybを得た。
得られた半透明青色の物質8Mi−2%PrSm−Y−Yb、8Mi−2%PrSm−Y−16%Yb、8Mi−1%PrSm−Y−8%Yb中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質8Mi−2%PrSm−Y−Yb、8Mi−2%PrSm−Y−16%Yb、8Mi−1%PrSm−Y−8%Ybをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質8M−2%PrSm−Y−Yb(実施例8で説明する物質、Y−based Material without impurity)、8M−2%PrSm−Y−16%Yb、8M−1%PrSm−Y−8%Ybがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質8M−2%PrSm−Y−Yb、8M−2%PrSm−Y−16%Yb、8M−1%PrSm−Y−8%Ybをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液8Cs―2%PrSm−Y−Yb(実施例8、Coating Solution for Y−based superconductor)、8Cs―2%PrSm−Y−16%Yb、8Cs―1%PrSm−Y−8%Ybをそれぞれ得た。
コーティング溶液8Cs―2%PrSm−Y−Yb、8Cs―2%PrSm−Y−16%Ybを、2:1、1:2でそれぞれ混合し、コーティング溶液8Cs―2%PrSm−Y−8%Yb、8Cs―2%PrSm−Y−12%Ybを得た。
コーティング溶液8Cs―2%PrSmYYb、8Cs―2%PrSm−Y−8%Yb、8Cs―2%PrSm−Y−12%Yb、8Cs―2%PrSm−Y−16%Yb、8Cs―1%PrSm−Y−8%Ybを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行い、図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜8FS−2%PrSm−Y−Yb(実施例8、Y−based Film of Superconductor)、8FS−2%PrSm−Y−8%Yb、8FS−2%PrSm−Y−12%Yb、8FS−2%PrSm−Y−16%Yb、8FS−1%PrSm−Y−8%Ybをそれぞれ得た。
超電導膜8FS−2%PrSm−Y−Yb、8FS−2%PrSm−Y−8%Yb、8FS−2%PrSm−Y−12%Yb、8FS−2%PrSm−Y−16%Yb、8FS−1%PrSm−Y−8%YbをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)単体のピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。
強度は十分に強い強度であり、すべての材料がペロブスカイト構造を形成していると推定される。つまりこの系においてYBCOのペロブスカイト構造に、PrBCO、SmBCO、YbBCOが組み込まれていることを示す。
図12は、実施例8のJc−B測定の結果を示す図である。超電導膜8FS−2%PrSm−Y−16%Ybを30〜77Kの温度範囲で、1〜5Tの磁場中で、Jc値を測定した結果を示す。図12にはCARPを含まないYBCOの測定結果も併せて示す。YBCOの結果は破線で示したものである。
図12からわかるように、50K・5Tや60K・5Tの条件での結果はYBCOのJc値よりも小さい値であることがわかる。この結果は、この領域で人工ピンがあまり効果を示さなかったことを意味している。単にCARP部分に相当する20%体積分が障害物として存在することになり、Jc値を低下させたためにこのような結果が得られたものと思われる。
一方で図12から、1Tでは特性が大きく伸びていることが解る。20%のCARPが存在するにも関わらず、YBCOよりも高い特性のJc値が得られている。このことはCARPが人工ピンとして機能したことを意味していると思われる。低温低磁場ほど効果があるという結果は、従来の酸化物超電導体の結果とは矛盾するようにも思われるが、原理から考えれば必ずしもそうともいえない。
超電導膜8FS−2%PrSm−Y−16%YbのCARPは、まだサイズが適正ではなく、やや大きめのCARPとなり、量子磁束を捕捉していると思われる。その場合に捕捉しやすいのはCARP内の量子磁束数が少なくなりやすい低磁場ということになる。図12の30Kのデータを見ればわかるように、低磁場ほど効果が大きいように見えるのはそのためと思われる。
一方、温度に関して、試料温度が高くなるほど熱擾乱の項目が効果を発揮し、量子磁束は理想的な人工ピンであるCARPを越えやすくなることが想定される。1Tのデータの比較において、50K→40K→30KとなるにつれてCARPの効果が大きくなるのはこのためと思われる。
今回得られた結果は従来報告されているBZO人工ピンの結果とは必ずしも一致しない。しかし、原子置換型人工ピンを形成しているCARPは、超電導との境界面で大きなピン力を発揮する世界初の人工ピンでもある。また、モデルを考えた場合にも上記のとおりモデルに合致したふるまいをしている。BZO人工ピンは境界が不明瞭な構造の人工ピンであることを考え合わせると、むしろ今回得られた結果とその解釈がより理想的な人工ピンに近いものと思われる。
30K・1〜3Tでの特性改善効果が本当にCARPに起因するものであるかを調べるため、超電導膜8FS−1%PrSm−Y−8%Ybの測定を行った。
図13は、実施例8のJc−B測定の結果を示す図である。超電導膜8FS−1%PrSm−Y−8%Ybが持つCARPは、超電導膜8FS−2%PrSm−Y−16%Ybと比較した場合、サイズが同じで数量が半分であると考えられる。すなわち、CARPの効果が小さい領域ではYBCOの特性を低下させる効果が半分しかなく、CARPが効果を発揮する領域では、その効果も半分しかないと考えられる結果である。
図13と図12を比較すると、CARPの効果が小さい50K・5Tや60K・5TでのJc特性低下が半分程度になったように見える。もちろん、測定誤差や膜厚変動分もこの結果に含むため、厳密にその低下量が半分にはならない。またCARPが効果を発揮したと考えられる30〜50K・1Tや、30K・2〜3Tでは、Jc特性改善の効果が半分に低減しているように見える。
図12と図13から、CARPが磁場特性改善効果を、低温低磁場で発揮したと考えられる。すなわち、30〜50K・1Tや30K・2〜3Tで磁場特性改善効果を発揮したと考えられる。もちろん、その他の領域でも小さいながらに効果を発揮しているはずであるが、実験誤差に埋もれて見えなくなっている可能性がある。
Ybを含むCARPは、PA:SA:CA=1:1:2の化学量論比、すなわち大小ユニットセルが同数存在する条件下では顕著な効果が見られなかった。しかし、その組成比からCAを増大させれば効果が表れることが解った。
(実施例9)
図3に示されるフローチャートに従い、超電導体用コーティング溶液を合成及び精製する。金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.02:0.02:0.92:0.04:2:3でイオン交換水中に溶解し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質9Mi−2%PrSm−Y−Tm(実施例9で説明する物質、Y−based Material with impurity)を得た。
同様に金属酢酸塩であるPr(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3、Y(OCOCH3)3、Tm(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の水和物の粉末を用い、金属イオンモル比0.01:0.01:0.96:0.02:2:3でイオン交換水中に溶解したものを準備し、反応等モル量のCF3COOHと混合及び攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応及び精製を12時間行った。半透明青色の物質9Mi−1%PrSm−Y−Tmを得た。
得られた半透明青色の物質9Mi−2%PrSm−Y−Tm、9Mi−1%PrSm−Y−Tm中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質9Mi−2%PrSm−Y−Tm、9Mi−1%PrSm−Y−Tmをそれぞれ、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応及び精製を12時間行うと半透明青色の物質9M−2%PrSm−Y−Tm(実施例9で説明する物質、Y−based Material without impurity)、9M−1%PrSm−Y−Tmがそれぞれ得られた。
半透明青色の物質9M−2%PrSm−Y−Tm、9M−1%PrSm−Y−Tmをメタノール(図3のj)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、それぞれ金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液9Cs―2%PrSm−Y−Tm(実施例9、Coating Solution for Y−based superconductor)、9Cs―1%PrSm−Y−Tmをそれぞれ得た。
コーティング溶液9Cs―2%PrSm−Y−Tm、9Cs―1%PrSm−Y−Tmを用い、スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行い、図5に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図6に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜9FS−2%PrSm−Y−Tm(実施例9、Y−based Film of Superconductor)、9FS−1%PrSm−Y−Tmをそれぞれ得た。
超電導膜9FS−2%PrSm−Y−Tm、9FS−1%PrSm−Y−TmをそれぞれXRD測定の2θ/ω法で測定し、YBCO(00n)単体のピークとほぼ同じ位置にピークが得られることが確認された。
強度は十分に強い強度であり、すべての材料がペロブスカイト構造を形成していると推定される。つまりこの系においてYBCOのペロブスカイト構造に、PrBCO、SmBCO、TmBCOが組み込まれていることを示す。
図14は、実施例9のJc−B測定の結果を示す図である。超電導膜9FS−2%PrSm−Y−Tm及び9FS−1%PrSm−Y−Tmを30K、1〜5Tで、Jc測定を行った結果を示す。図14の上側のデータが当該サンプルである。図14にはCARPを含まないYBCOの測定結果も併せて破線で示す。
超電導膜9FS−2%PrSm−Y−TmのCARPは8%である。その分だけ30K・5T近辺では特性が低下することを予想される。しかし、図14の結果を見てわかるようにYBCOよりも遥かに高いJc値が得られている。Yb及びTmのYに対する格子ミスマッチの本焼時800℃での詳細データは不明ではあるが、それぞれ約3%と約2%ではないかと思われる。この格子ミスマッチ差では、Tmの方がYbよりも10〜20倍核生成頻度が大きい、あるいは核生成速度が速い可能性がある。
核生成速度が10〜20倍早ければ、単位体積内のCARP数も10〜20倍となることをCARP形成モデルが示している。CARPサイズはその3乗根の逆数に比例するため、CARP半径は0.46〜0.37倍と思われる。Yb過剰型のCARPで効果が見えかけていた状況で、Tmを用いてCARPが一気に小さくなったため、量子磁束がCARPに容易に捕捉されるようになり効果が表れたものと考えられる。
その効果を確認するため、CARP量を半分とした超電導膜9FS−1%PrSm−Y−Tmの磁場中測定結果を併せて図14に示す。図の中央のデータである。この超電導膜中のCARPは理論的にはサイズが同じで数が半分である。結果もほぼ半分程度ではないかという結果が得られている。厳密な議論をすると、CARPの障害物としての低下量と、9FS−2%PrSm−Y−Tmの中間値と思われるが、その差異は実験誤差に埋もれてわからないと思われる。
この結果からわかるように、CARPはCAにTmや、TmよりもMAに近い元素を用いると効果を発揮することが理論的にわかる。それはCARPサイズが、CARP形成モデルで説明がつくからである。核生成頻度とそこに存在する物質量でCARPサイズが決まるため、核生成頻度が大きなMAやCAの組み合わせで効果を発揮するのである。
これまでの実験から、MAに用いることができる物質は単体ではYか、Gdのみである。しかし、混合すれば溶液となることが解っている。これらのMAに対するCAは、ErやTmが良く、一部Ybを加えてサイズを調整することも考えられる。もちろんErよりも原子番号が小さい元素を一部混合して調整することも可能である。上記の範囲の元素の組み合わせで、特に実用上重要と思われる30Kでの特性改善が見られている。
以上のように、CARP形成モデルを応用し、30Kで特性が改善する人工ピンが特に形成されやすい組み合わせが判明した。それは主としてCAにErやTmを用いる超電導体であり、MAにはYなどを用いる場合である。またこのモデルに合致した組み合わせであれば効果を発揮すると考えられ、特に30Kでの効果発揮には上記の組み合わせが良いようである。
実施形態では、超電導線材を例に説明したが、本実施形態の酸化物超電導体は、高磁場特性が必要な単結晶基板上薄膜等、その他の用途にも適用可能である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。