JP6602427B2 - 酸化物超電導体 - Google Patents

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Description

本発明の実施形態は、酸化物超電導体に関する。
例えば、送電ケーブル、核融合炉、磁気浮上式列車、加速器、または、磁気診断装置(MRI)などへの超電導体の応用が期待されている。超電導体において、臨界電流密度を高くすることが望まれる。これにより、同じ断面積において大電流を流すことができる。例えば、磁場中において、高い臨界電流密度を得ることが望まれる。
超電導は、冷凍機を開発したオランダのKamerring Onnesにより、水銀を用いて発見された、抵抗値が完全にゼロとなる現象である。その後、BCS理論により上限の超電導転温度(Tc)が39Kとされた。これは、第1種超電導体のTcであった。1986年にBednorz等が発見した第2種超電導体において、39Kを上回る結果が示された。液体窒素温度で使用可能な酸化物超電導体開発へとつながっている。その酸化物超電導体は、超電導と非超電導状態の混在が可能な第2種超電導体である。今日では、液体窒素温度で使用可能な高温酸化物超電導体が、500m長ものロットで、多数販売されている。超電導送電ケーブル、核融合炉、磁気浮上式列車、加速器、及び磁気診断装置(MRI)などの様々な大型機器への、超電導材の応用が、期待されている。
高温酸化物超電導体として開発された主なものとして、第1世代と呼ばれるビスマス系超電導線材と、第2世代と呼ばれるイットリウム系超電導線材と、がある。60vol%以上の銀を用いる第1世代に関しては、メーカの撤退が相次ぎ、現在製造する会社は、世界において少数である。一方、基材が安価で物理強度に優れる第二世代に関しては、素線の総販売延長が、3,000kmを超えた。多量の線材を用いて作られた50MVAの直流送電ケーブルシステムは、2014年08月時点で、既に2年半以上の運用実績を持つ。2014年9月からは、500MVAの容量を持つ直流送電ケーブルシステムが運用されている。500MVAの送電容量は、標準的な原子力炉の50%近い電力に相当する大規模である。
累計で3,000km以上の線材が販売されている。素線長で20km以上となる納入実績および応用実績は、全てTFA−MOD(Metal Organic Deposition using TriFluoroAcetates)法による。TFA−MOD法は、500m長の線材を安定的に製造し、大量に供給可能でかつ応用実績のある最初の手法である[1]。第2世代の他の主要製造法として、Pulsed Laser Deposition法とMetal Organic Chemical Vapor Deposition法がある。この方法において、組成制御に課題があり、現時点では500m長線材の安定的な量産が行われていない。そのため、現時点では、TFA−MOD法の線材シェアは、ほぼ100%である。
この事実は、Pulsed Laser Deposition法またはMetal Organic Chemical Vapor Deposition法の将来を否定しない。組成制御に困難さが伴う物理蒸着法による量産は、真空中に飛来し原子量が2倍以上異なる3種の元素を低コストな手法でTFA−MOD法並みの組成ずれ1%以下に制御できる技術が開発されれば、可能である。この課題は、1987年から28年以上も未解決である。
一方で、高い磁場特性が求められるコイル応用では、Pulsed Laser Deposition法またはMetal Organic Chemical Vapor Deposition法による線材が、先行している。磁場特性の改善のための人工ピンを導入しやすいため、これらの方法による線材は、磁場特性面において、一歩先を進んでいる。上述の通り、これらの方法においては組成制御が難しく、これらの方法による500m級線材については、量産および実装報告はない。
一方で、量産実績のあるTFA−MOD法において、過去に問題があった。TFA−MOD法において何の対策も行わなければ、1回あたりの成膜で得られる超電導膜の厚さは、最大で0.30μm程度となる。この手法においては、仮焼時の分解反応で、密度が2g/cm前後の有機物が、3〜4g/cmの金属酸化物に変化し、かつ、分子量(式量)が、大幅に低下する。このため、体積減少率は、約85%となる。それに伴う大きな乾燥応力で、クラックが生じやすい。高純度化した溶液では、臨界膜厚が0.30μm程度となる。超電導線においては大きい電流値が求められるため、1μm程度の膜厚が求められる。そのため、TFA−MOD法では反復コート法による厚膜化などが試みられてきた。
従来のMOD法で用いられている反復コート法による厚膜化は、TFA−MOD法には適用困難であった。仮焼後に形成される酸化物は、次の成膜時において、pHが0近い強酸であるトリフルオロ酢酸と接触する。強酸と酸化物とが反応し不均質な界面が形成される。不均質な界面を起点に、特性が低下する。10m線での歩留まりが95%の場合、その技術で3回コートにより500m長線材を製造すると、良品は、200回に1回しか得られない。TFA−MOD法における1回塗り厚膜化技術[2]が、求められる。
1回塗り厚膜化に用いられるクラック防止剤は、有機物である。100万種類以上の有機物の中に、多数のクラック防止剤が存在すると思われていた。しかし、最近の研究から、TFA−MOD法に適用可能な厚膜化材については、わずか2系統であり、約10種類程度しかないことがわかっている。1回塗り厚膜化技術で作られた線材においては、上記のような不安定な界面が存在せず、歩留まりが飛躍的に向上する。TFA−MOD法が躍進した原動力の一つが、この技術であり、現在のほぼシェア100%に至ったものと思われる。
超電導線材の応用分野は、磁場がほぼゼロで使用される送電ケーブル用途と、強磁場下で用いられるコイル用途と、に大別される。最初に大量の線材供給を可能としたプロセスであるTFA−MOD法による線材の用途は、現時点では送電ケーブル向けが主である。TFA−MOD法での線材を磁場中で用いるには、人工ピンが求められる。均質な溶液から超電導体を作るTFA−MOD法[3]では、人工ピンのサイズが、他の手法よりも大きくなりやすい。このため、磁場特性が改善しなかった。TFA−MOD法での線材は、磁場中利用できなかった。
磁場特性を改善させる人工ピンは、例えば、超電導体内に形成される非超電導領域である。第2種超電導体では、この非超電導領域の混在が可能である。超電導が作り出す強力な磁場および量子磁束線がこの人工ピンに捕捉されればその他の部分が安定的に超電導体として機能し、磁場中の特性が維持される。この人工ピンでの量子磁束線の捕捉されやすさは、人工ピンのサイズに関係がある。
人工ピンは非超電導部である。人工ピンと超電導部との界面において、磁束を押し返す力(ピンニング力)が生じる。人工ピンのサイズが、1つの量子磁束が存在するサイズに近づけば、ピンニング力による捕捉が、最大限発揮されると考えられる。人工ピンのサイズが大きくなり、複数の量子磁束が人工ピン内に存在すると、複数の量子磁束のそれぞれにローレンツ力が働き、隣接する量子磁束を押す。このため、この場合には、量子磁束は、界面を超えて、超電導部に入りやすくなる。それによるエネルギーロスにより、超電導特性が低下すると考えられる。これまでの報告のほとんどにおいて、熱処理時に人工ピンサイズが大きくなっている。
人工ピンのサイズの増大は、人工ピンの数、または、人工ピンの密度の点からも、不利である。人工ピンが粒子状だと仮定し、目標の2倍の半径の人工ピンが得られたと仮定する。複数の人工ピンのそれぞれの体積は、想定したサイズの8倍であり、投入物質量当たりの人工ピンの密度は、8分の1になる。もし、3nmのサイズの人工ピンを目指して、30nmのサイズの人工ピンが得られた場合、得られた人工ピンの体積は、目指したサイズの1000倍となる。得られた人工ピンの数は、目指した人工ピンの数の1000分の1になる。これが、均質性に優れるが磁場特性の改善が難しいTFA−MOD法により形成されたの人工ピンの実態である。
人工ピンの最適なサイズは、温度依存または磁場依存により、3nmからシフトすることがある。過去に、3nmのサイズの均質な人工ピンが形成できた実績もなく、測定結果も無い。このため、3nmというサイズが最も有効かどうかが、不明である。
3nmサイズの人工ピンの形成を目指して、物理蒸着法であるPLD法やMOCVD法では、BaZrOなどの人工ピンの形成が試みられてきた。PLD法で作製可能な人工ピンは、2種類に大別されると考えられる。1つは、ペロブスカイト構造に影響を与えず独立で粒成長などを行う人工ピンである。もう1つは、ペロブスカイト構造と相関を持つ人工ピンである。
ペロブスカイト構造と相関を持たずに異物の形で人工ピンを形成するタイプでは、成膜温度が700℃以上と高温である。このため、人工ピンと、ペロブスカイト構造の超電導体と、の分離は激しくなる。このタイプの報告がほとんどないのは、人工ピンサイズが100nm〜1μmになり、サイズと量との両方から、効果が無いためであると考えられる。
一方、PLD法でペロブスカイト構造と相関を持ちながら人工ピンを形成する物質もある。その物質は、例えば、BaZrOである。相関を持ちながら人工ピンを形成するため、人工ピンのサイズとしては、比較的小さくできる。最小で6nmの観察像が報告されているが、平均で10nm以上であると考えられる。しかし、この種の物質は、YBCO層と相関を持つため、この種の物質は、YBCO層へ影響を及ぼし、超電導体の酸素数減少と超電導特性低下とを引き起こす。超電導体としては致命的とも言える、臨界温度(Tc)の低下を引き起こす。臨界温度Tcが場所ごとに低下するような不均質な線材では、コイル設計と実装とは、困難である。
BaZrO量が非常に少ない場合にTcがほぼ低下しないという報告もある。この報告においては、Tc測定は、微弱な電流で測定されている。線材の内部構造に不安要因のある線材は、電流値を増やすと不均一性により、特性低下が大きくなる。このことは、長さが不安定でありながらも物理蒸着法により得られた線材のコイルへの応用が進まない理由の1つと考えられる。
PLD法またはMOCVD法などの物理蒸着法での成膜においては、超電導線膜時に一般に700℃以上に加熱される。超電導体のペロブスカイト構造に影響を与えない人工ピンの形成は、上記の通り、磁場特性改善に効果が無い。ペロブスカイト構造に影響を与える人工ピンを形成すれば、Tc低下と、内部の不均一化と、が起きる。その人工ピンのサイズは、平均で10nm程度であり、最小で6nm程度と考えられており、磁場特性改善に効果があるサイズではない。そのため、PLD法またはMOCVD法などの物理蒸着法による実用的な線材の量産には、過去に無い新しい技術が必要であると考えられる。
一方、ケーブル応用のシェアがほぼ100%であるTFA−MOD法においても、人工ピンの実現のめどは立たなかった。Dyの人工ピンを形成すれば、90.7KのTcが維持される。これは、DyがYBCOと分離して成長するからである。人工ピンのサイズは20nm〜30nmとなり、効果は、ほとんどなくなる。
一方、ペロブスカイト構造に影響を与える物質を入れた場合においては、均質なゲル膜からスタートするTFA−MOD法では、内部構造への影響が極度に大きい。このため、ペロブスカイト構造そのものが形成されず、非超電導体となる。TFA−MOD法による超電導体は、物理蒸着法よりも、不純物などの影響を受けやすい。TFA−MOD法においては、そもそもBaZrOなどの人工ピンの形成は、難しい。形成した場合においても、Tc低下または不均質性と、が、より強く表れる。
以上のように、Y系超電導線材では、Tcを維持しながら人工ピンを入れてJc−B特性を改善する必要がある。しかし、Tcが維持されるペロブスカイト構造を維持した形での人工ピンにおいては、人工ピンの全てのサイズが大きくなる。ペロブスカイト構造に影響を与える系では、様々な悪影響がおよび、実用的ではなくなる。そのため、全く新しい方法で、ペロブスカイト構造が維持された超電導体であって、超電導体の一部のみが人工ピンとして機能する超電導体が望まれる。
この解決策として、2つの手法が現在開発されている。その一部は、出願されている。どちらも、ユニットセルサイズの人工ピンをベースとする。どちらも、原子置換により人工ピンとなる原子置換型人工ピンである。ARP(Atom-replaced Pinning)と称す。1つにおいては、YBCOペロブスカイト構造に、SmBCOユニットセルを分散させ、SmBCOのBaとSmを置換させる。この方法においては、いわゆるBa置換によりユニットセルが非超電導体となることが利用される。
もう1つの手法においては、YBCOペロブスカイト構造にPrBCOユニットセルを形成させる。PrBCOが非超電導であることは広く知られているが、非超電導となる原理は、不明である。現状では、暫定的に、Prが非超電導となる原理は、次のように考えられいる。PrBCOは、ペロブスカイト構造を形成するため、800℃付近では、3価であると考えられる。通常のペロブスカイト構造が形成される。しかし冷却すると、3価と4価との間の中間体になると考えられる。その場合、2ユニットセル内の酸素数が増えて、c軸長が短くなる。XRD測定結果は、この仮説を肯定している。酸素数の増加は、超電導特性の低下をもたらす。Prの場合、詳細な機構は不明であるが、PrBCOが完全に非超電導化し、かつa/b面内の隣接4ユニットセルが非超電導化されている可能性が高い。
上記の過程が正しいならば、投入したPr量の約5倍の特性劣化が起きることになる。そして、実験結果からも特性の5倍の劣化が、何度も確認されている。しかし、その場合でも、幅方向には、3ユニットセルのサイズしかなく1.2nmのサイズの人工ピンとなる。その人工ピンのサイズは、過去に例が無い小さなものであるが、目標の3nmに対して小さすぎて、効果が小さくなる。
PrBCOとYBCOとを混在させて得られる超電導体は、究極分散状態となる。究極分散状態においては、PrBCOが単独のユニットセルで分散する。SmBCOをYBCOと混合して形成されるSmBCOユニットセルも、究極分散することが実験結果からわかっている。SmBCOユニットセルにおいて、BaとSmとが置換すれば、ユニットセルの全体で、非超電導の人工ピンとなりうる。更に、隣接ユニットセルへの影響があれば、最大で5倍程度のユニットセルが、人工ピンとなるかもしれない。しかし、その場合も、人工ピンのサイズとしては、1.2nmにしかならない。
どちらの手法で原子レベルの人工ピンを形成したとしても、サイズが小さすぎることとなる。この人工ピンを集合化させて、3nm付近のサイズにすることで、磁場中におけるより高い臨界電流密度が期待できる。
T. Araki, Bull. Chem. Soc. Jpn., 77, (2004), 1051-1061
本発明の実施形態は、磁場中の臨界電流密度を向上できる酸化物超電導体を提供する。
本発明の実施形態によれば、2.0×1016atom/cc以上5.0×1019atom/cc以下の濃度のフッ素と、1.0×1018atom/cc以上5.0×1020atom/cc以下の濃度の炭素と、を含み、REBaCu7−x(REは“RE元素群”Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれかの元素)を有し、REに少なくとも3種類の金属元素(M1、M2、M3)を含み、かつその3種類の金属元素はRE元素群の順に選択されたいずれかの元素(ただし、M2はPr、Nd、Smを除く。)であり、M1+M2+M3におけるM1の平均の金属元素比をR(M1)とする場合に、R(M1)≦20mol%、R(M2)≧60mol%、R(M3)≦20mol%を満たし、前記REBaCu7−xがc軸に配向した単一のペロブスカイト構造を有し、R(M1)及びR(M3)の大きくない方の金属元素をMsとし、前記c軸を含む断面の平均膜厚の50%の位置において、Msの濃度の標準偏差/平均値をSD(Ms)とする場合、SD(Ms)>0.15を満たし、前記c軸を含む前記断面の前記平均膜厚の50%の前記位置において、Msの濃度の最大値と最小値とをそれぞれMsmaxとMsminとする場合、Msmax≧1.5×Msminを満たすことを特徴とする酸化物超電導体が提供される。
図1(a)及び図1(b)は、実施形態に係る酸化物超電導体を示す模式図である。 図2(a)〜図2(d)は、実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。 実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。 実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。 実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。 実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。 実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。 図8(a)及び図8(b)は、酸化物超電導体の分析結果を示すチャートである。 酸化物超電導体の分析結果のチャートである。 酸化物超電導体の透過型電子顕微鏡像である。 酸化物超電導体の分析結果を示す表である。 酸化物超電導体の分析結果を示す表である。 酸化物超電導体を示すグラフである。 酸化物超電導体の分析結果を示す表である。 図15(a)〜図15(f)は、酸化物超電導体のユニットセルを示す模式図である。 図16(a)〜図16(f)は、酸化物超電導体の形成過程を例示する模式図である。 図17(a)及び図17(b)は、酸化物超電導体の構成を示す模式図である。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の分析結果を示すチャートである。 酸化物超電導体の分析結果を示すチャートである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。 酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
本発明の実施形態は、例えば、酸化物超電導線材およびコイル応用に関わる。実施形態は、例えば、磁場中での応用に関わる。実施形態は、超電導コイル、超電導マグネット、MRI装置、磁気浮上式列車及びSMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)などに応用される。実施形態は、例えば、磁場が印加される状況下で使用される送電ケーブルに応用される。実施形態は、例えば、Y系酸化物超電導線に関する。Y系酸化物超電導線は、このような用途に用いられる。
図1(a)及び図1(b)は、実施形態に係る酸化物超電導体を示す模式図である。
図1(a)は、斜視図であり、図1(b)は、断面図である。
図1(a)に示すように、実施形態に係る酸化物超電導体110は、基材15と、酸化物層50と、を含む。酸化物層50は、基材15の上に設けられる。
この例では、基材15は、基板10と、下地層11と、を有する。下地層11は、基板10と酸化物層50との間に設けられる。すなわち、基板10の上に、下地層11が設けられ、下地層11の上に酸化物層50が設けられる。
図1(a)に示すように、酸化物層50は、第1面50aと、第2面50bと、を有する。第1面50aは、基材15の側の面である。第1面50aは、基材15に対向する。第2面50bは、第1面50aとは反対側の面である。第1面50aは、例えば、下面であり、第2面50bは、例えば、上面である。
第1面50aから第2面50bに向かう第1方向を、例えば、Z軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。
第1面50aと第2面50bとの間の第1方向に沿った距離が、酸化物層50の厚さに対応する。TFA−MOD法で製造される酸化物層50表面において、その成長機構により最大70nm程度の凹凸が、出来る。加えて製造工程のばらつきなどもある。これらに起因して、酸化物層50の厚さが均一ではない場合がある。このとき酸化物層50の厚さの平均値が用いられる。例えば、酸化物層50について、複数の位置において、第1面50aと第2面50bとの間の第1方向に沿った距離が求められる。例えば、酸化物層50の断面の電子顕微鏡像などにより厚さが求められる。別の試料についてのICP分析による物質量と、成膜面積と、からも、厚さが求められる。求められた複数の値から平均値が求められる。これにより、酸化物層50の平均の厚さt50が得られる。
酸化物層50は、平均の厚さt50の1/2の位置50pを有する。位置50pと第1面50aとの間の第1方向に沿った距離d50pは、平均の厚さt50の1/2である。
酸化物層50は、位置50pに位置する複数の領域(例えば、第1領域51及び第2領域52など)を含む。これらの領域のそれぞれの中心と、第1面50aと、の間の第1方向に沿った距離は、平均の厚さt50の1/2である。
例えば、酸化物層50の断面において、これらの領域は、第1方向に沿った第1辺と、第1方向と直交する方向に沿った第2辺と、を有する。第1辺の第1方向に沿った長さは、例えば、5nmである。第2辺の、第1方向と直交するその方向に沿った長さは、例えば、5nmである。これらの領域は、例えば、5nm角である。
例えば、酸化物層50に含まれる上記の複数の領域(例えば、第1領域51及び第2領域52など)において、例えば、分析などが行われても良い。
基板10は、例えば、単結晶基板である。基板10は、例えば、LaAlO、SrTiO、NdGaO、Al、MgO、及び、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)の少なくともいずれかを含む。
下地層11が設けられる場合において、下地層11は、例えば、CeO、LaMnO、SrTiO及びLaAlOの少なくともいずれかを含む。下地層11は、例えば、1つの層でも良い。下地層11は、複数の層を含んでも良い。下地層11は、例えば、CeO層、YSZ層及びY層の積層体を含んでも良い。
例えば、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数と実質的に整合する。格子定数は、第1方向(Z軸方向)に対して実質的に垂直な1つの方向に沿った格子長である。この場合、3種類の整合が存在する。
例えば、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数と実質的に同じである。すなわち、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数の0.93倍以上1.07倍以下である。
または、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数の21/2倍と実質的に同じである。すなわち、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数の1.32倍以上1.54倍以下である。
または、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数の(1/(21/2))倍と実質的に同じである。すなわち、基材15の格子定数は、酸化物層50の格子定数の0.649倍以上0.758倍以下である。
第1面50aから第2面50bに向かう第1方向に対して垂直な方向に沿った酸化物層50の格子定数を、第1格子定数とする。このとき、基材15は、第1格子定数の0.93倍以上0.107倍以下の、上記の垂直な方向に沿った第2格子定数、及び、第1格子定数の1.32倍以上1.54倍以下の、上記の垂直な方向に沿った第3格子定数、及び、第1格子定数の0.649倍以上0.758倍以下の、上記の垂直な方向に沿った第4格子定数のいずれかを有する。
例えば、基板10は、第1格子定数の0.93倍以上0.107倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の1.32倍以上1.54倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の0.649倍以上0.758倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数のいずれかを有する。
例えば、下地層11は、第1格子定数の0.93倍以上0.107倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の1.32倍以上1.54倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の0.649倍以上0.758倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数のいずれかを有する。
酸化物層50は、例えば、2.0×1016atom/cc以上5.0×1019atom/cc以下の濃度のフッ素と、1.0×1018atom/cc以上5.0×1020atom/cc以下の濃度の炭素と、を含む。
上記のフッ素の濃度(例えば残留フッ素量)、及び、炭素の濃度(例えば残留炭素量)は、例えば、TFA−MOD(Metal Organic Deposition using TriFluoroAcetates)法において得られる量である。残留炭素量が増大すると、特性が低下する。実施形態に係る熱処理パターンなどを用いることで、残留炭素量を抑制することができ、良好な超電導特性が得られる。残留フッ素量が過度に多くない場合に、良好な電導特性が得られる。
実施形態においては、酸化物層50は、REBaCu7−x(REは“RE元素群”Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれかの元素)を有する。REに少なくとも3種類の金属元素(M1、M2、M3)を含む。そして、その3種類の金属元素は、RE元素群の順に選択されたいずれかの元素である。M1+M2+M3におけるM1の平均の金属元素比をR(M1)とする場合に、R(M1)≦20mol%、R(M2)≧60mol%、R(M3)≦20mol%を満たす。酸化物層50は、酸化物系である。
上記REBaCu7−xが、c軸に配向した単一のペロブスカイト構造を有している。c軸とZ軸方向との間の角度(絶対値)は、例えば、4度以下である。R(M1)及びR(M3)の大きくない方の金属元素をMsとする。c軸を含む断面の平均膜厚の50%の位置におけるMsの濃度の標準偏差/平均値をSD(Ms)とする。SD(Standard Distribution)は、偏差指数である。例えば、c軸を含む断面の平均膜厚の50%において、例えば10点の濃度分析を行い、Msの濃度が求められる実施形態において、SD(Ms)>0.15を満たす。例えば、SD(Ms)>0.25を満たす。
Msの濃度の最大値と最小値とをそれぞれMsmaxとMsminとする場合、Msmax≧1.5×Msminを満たす。例えば、Msmax≧2.3×Msminを満たす。
例えば、酸化物層50は、基材15上、または、中間層11を含む基材15上に設けられる。例えば、上記のM1は、Pr、Nd、またはSmである。
a/b面は、a軸とb軸とで規定される面である。a/b面は、a軸とb軸とを含む面である。a/b面は、例えばc面である。
実施形態に係る酸化物超電導体110は、REBaCu7−xの酸化物層50を含む。酸化物層50は、例えば、2.0×1016atom/cm以上5.0×1019atom/cm以下の濃度のフッ素と、1.0×1018atom/cm以上5.0×1020atom/cm以下の濃度の炭素と、含む。
酸化物層50のREBaCu7−xにおいて、REは、第1〜第3元素を含む。第1元素は、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなるRE元素群から選択された1つである。第2元素は、このRE元素群のうちの第1元素よりも後ろのいずれかから選択された1つである。第3元素は、このRE元素群のうちの第2元素よりも後ろのいずれかから選択された1つである。
酸化物層50は、酸化物層50における第1元素の平均の第1組成比(例えばモル%)と、酸化物層50における第2元素の平均の第2組成比(例えばモル%)と、酸化物層50における第3元素の平均の第3組成比(例えばモル%)と、を有する。第1組成比、第2組成比及び第3組成比の合計に対する第1組成比の比は、20%以下である。この合計に対する第2組成比の比は、60%以上である。この合計に対する第3組成比の比は、20%以下である。
酸化物層50は、ペロブスカイト構造を有する。このペロブスカイト構造は、c軸に配向している。c軸とZ軸方向(第1面50aから第2面50bに向かう第1方向)との間の角度の絶対値は、例えば、4度以下である。例えば、このペロブスカイト構造は、単一である。例えば、第1領域51の結晶軸は、第2領域52の結晶軸に沿っている。例えば、第1領域51の結晶は、第2領域52の結晶と連続している。
図1(b)に示すように、酸化物層50は、酸化物層50の平均の厚さt50の1/2の位置50pを有する。位置50pは、例えば複数である。位置50pの数は、例えば、10個である。複数の位置50pは、例えば、c軸を含む断面に含まれる。複数の位置50pは、例えば、Z軸方向に対して垂直な方向(例えばX軸方向またはY軸方向など)に沿って並ぶ。
酸化物層50は、この複数の位置50pのそれぞれにおいて、元素の濃度を有する。酸化物層50は、複数の位置50pにおける第1元素の複数の第1濃度C1、及び、複数の位置50pにおける第3元素の複数の第3濃度C3を有する。例えば、複数の位置50pの数が10である場合、酸化物層50は、10個の位置50pにおける第1元素の複数の第1濃度C1、及び、10個の位置50pにおける第3元素の複数の第3濃度C3を有する。
複数の第1値V1を以下のように定める。第1組成比(第1元素の平均の組成比)が、第3組成比(第3元素の平均の組成比)以下のときは、複数の第1値V1は、複数の第1濃度C1のそれぞれである。第1組成比が、第3組成比よりも大きいときは、複数の第1値V1のそれぞれは、複数の第3濃度C3のそれぞれである。複数の位置50pの数が、10である場合、複数の第1値V1の数は、10である。
実施形態においては、この複数の第1値V1について、以下のようである。複数の第1値V1の平均値AV1に対する、複数の第1値V1の標準偏差σV1の比(σV1/AV1)は、0.15よりも高い。実施形態において、例えば、平均値AV1に対する複数の第1値V1の標準偏差σV1の比(σV1/AV1)は、0.25よりも高くても良い。
実施形態において、例えば、複数の第1値V1の最大値は、複数の第1値V1の最小値の1.5倍以上である。実施形態において、複数の第1値V1の最大値は、複数の第1値V1の最小値の2.3倍以上でも良い。
実施形態において、上記の第1元素は、例えば、Pr、Nd、またはSmである。上記の第3元素は、例えば、Luである。上記の第2元素は、Yである。
実施形態において、第1組成比の上記の比と、第2組成比の上記の比と、第3組成比の上記の比と、の合計は、実質的に100%である。例えば、第1組成比と第3組成比との差は、第1組成比の1/10以下である。1/15以下でも良い。
実施形態においては、適切なサイズの人工ピンが酸化物超電導体110(酸化物層50)に導入される。これにより、例えば、磁場特性が向上できる。例えば、Y系超電導線材において、高い臨界温度(Tc)を維持しながら、人工ピンを導入する。これにより、電流密度−磁場特性(Jc−B特性)を向上する。Tcが維持されるペロブスカイト構造を維持しつつ人工ピンを導入しようとすると、人工ピンのサイズが過度に大きくなりやすい。このため、ペロブスカイト構造に影響を与え、特性に悪影響が生じる。実施形態においては、小さい人工ピンを導入できる。
実施形態においては、人工ピンのサイズを、例えば、実質上約3nm程度にする。非超電導となっているユニットセルは、a/b面内に隣接する4つのセルを非超電導化している可能性が高い。ペロブスカイト構造で非超電導となるPrBCOにおいても、Ba置換で非超電導となるSmBCO超電導体においても、同様の傾向が見られる。
実施形態においては、酸化物層50にクラスターが設けられる。クラスターにおいては、非超電導となるユニットセルと、超電導体と、が交互に配置される。クラスターの全体が非超電導となると考えられる。
実施形態に係る酸化物層50は、例えば、TFA−MOD(Metal Organic Deposition using TriFluoroAcetates)法により形成される。NdまたはSmは、人工ピンになりやすい。Prの場合は、元からユニットセルが人工ピンとなる。TFA−MOD法により、Nd、SmまたはPrを用いて、所望の人工ピンを形成するのは、難しい。これらの元素を含む人工ピンがクラスター化される。他の元素も、非超電導化すれば、用いても良い。Nd、Sm及びPrと同様に、この他の元素の周囲の4つのユニットセルが非超電導化される可能性がある。実施形態においては、元素を集合化させるクラスター化が実現される。人工ピンのサイズが制御できる。
例えば、酸化物層50となるベース材料において、例えば、725℃〜850℃の温度で、本焼の処理が行われる。この時に、疑似液層からユニットセルが形成される。このときに、超電導体において、超電導体のユニットセルよりも大きなセルサイズを持つ領域(大セルサイズ領域)と、ユニットセルよりも小さなセルサイズを持つ領域(小セルサイズ領域)と、が設けられる。
大きいセルサイズに対応する元素をM1とする。小さいセルサイズに対応する元素をM3とする。中間のセルサイズに対応する元素をM2とする。酸化物層50において、元素M2が母相となる。母相のM2の比率は、例えば60mol%以上である。M1及びM3のそれぞれの比率は、例えば、20mol%以下である。M1及びM3のそれぞれに比率が20mol%を超えると、母相が安定せずに、異相が増える。
M1、M2及びM3は、溶液において混合される。M1として、例えば、原子半径が大きく分解しやすいPr、Nd及びSmの少なくともいずれかが用いられる。このとき、ペンタフルオロプロピオン酸(PFP)を用いて、分解を抑制するプロセスを用いることが望ましい。その後、PFPをトリフルオロ酢酸(TFA)で置換すると、残留PFPの影響が低減され、良好な特性が得られやすい。Pr、Nd及びSmとは異なる元素を用いる場合は、TFA塩での合成が可能である。TFA塩ベースの溶液において、任意の比率で、混合が可能である。
混合溶液調製後は、焼成が行われる。その焼成条件は、例えば、母相のM2を用いたときの適切な条件と同じ、または、その条件に似た条件が用いられる。M1やM3の混合比に応じて、M2を用いたときの適切な条件から異なる条件を用いても良い。成膜に用いられる基材15は、例えば、単結晶である。基材15は、金属テープでも良い。この金属テープには、例えば、中間層(例えば、下地層11)が設けられても良い。
実施形態において、M1及びM3を含む人工ピンをクラスター化できるのは、ペロブスカイト構造形成時のユニットセルにおけるサイズの差に起因すると考えられる。その差が、過度に小さいと、部分クラスター化状態となる。部分クラスター化状態においては、一部の領域においてクラスターが形成される。部分クラスター化状態の領域に非超電導ユニットセルが存在しても、人工ピンの効果が小さくなる。
例えば、Tbよりもイオン半径が小さいサイズ、すなわち、例えば、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの群において、記載順の後ろの元素では、原子番号が増加してもイオン半径の減少は大きくない。そのため、サイズ差が小さく、クラスター化が生じ難くなる。Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの群では、この記載順において隣接したものではなく、この記載順で2つ以上離れた2つの元素を用いることで、クラスター化が生じやすくなる。
一方、Pr、Nd及びSmにおいては、互いの原子半径の差が大きい。これらの元素においては、記載順で隣接している2つの元素を用いた場合にも、クラスター化が生じやすい。但し、Pr、Nd及びSmにおいては、原子半径が大きい。このため、Pr、Nd及びSmを用いた場合には、溶液合成時や超電導膜を成膜したときに、分解しやすい。このため、M2として、Pr、NdまたはSmを用いることは、望ましくない。M2の元素は、望ましくはEu以降の元素(すなわち、Eu、Gd、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)が望ましい。なお、Yは、ランタノイドではないが、Yは、ほぼGdの大きさとして扱うことが出来る。
実施形態においては、上記の条件を満たす溶液が用いられる。M1を含む領域と、M3を含む領域と、が互いに隣接するクラスターが形成される。この現象により、酸化物層50の内部に、クラスターが形成される。例えば、M1としてSmが用いられ、SmをBaと置換させて非超電導化する。例えば、M1としてPrが用いられ、PrをBaと置換させる。非超電導の領域が得られる。このような場合、クラスターにおいて、例えば、M1を含む領域と、M3を含む領域と、が交互に配置していると考えられる。互いに隣接するユニットセルにおいても非超電導化すると考えられる。実施形態において、適切なサイズの人工ピンが得られる。
M1を含む領域とM3を含む領域とにおいては、わずかなセルサイズの差で、クラスター化している。実施形態において、例えば、形成時に用いられる溶液(メタノール溶液)中の不純物の低減は不可欠である[4]。溶液中に、水または酢酸が過度に存在すると、例えば、成長界面が不純物の影響を受ける。良好なクラスター化が得られない場合がある。磁場特性の向上効果も限定的である。
実施形態においては、ペロブスカイト構造において、セルサイズの異なる複数のユニットセルがクラスター化される。原子レベルの人工ピンでも一定の効果が確認できるが、クラスター化により、より大きな効果が得られる。本実施形態は、原子レベルの人工ピンのクラスター化により、より大きな磁場特性を実現する。
以下、本実施形態に係る酸化物超電導体110の製造方法の例について説明する。
図2(a)〜図2(d)は、実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。
図2(a)は、実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。
図2(b)〜図2(d)は、実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式的断面図である。
図2(a)に示すように、本製造方法は、第1膜形成工程(ステップS110)と、第1熱処理工程(ステップS120)と、第2熱処理工程(ステップS130)と、第3熱処理工程(ステップS140)と、を含む。
図2(b)に示すように、第1膜形成工程においては、溶液を基材15の上に塗布して、基材15の上に第1膜50fを形成する。第1膜50fは、その溶液の少なくとも一部(その溶液に含まれる成分)を含む。溶液は、第1元素を含む第1トリフルオロ酢酸塩と、第2元素を含む第2トリフルオロ酢酸塩と、第3元素を含む第3トリフルオロ酢酸塩と、メタノールと、を含む。
第1元素は、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなるRE元素群から選択された1つである。第2元素は、このRE元素群のうちの、第1元素よりも後ろのいずれかから選択された1つである。第3元素は、このRE元素群のうちの、第2元素よりも後ろのいずれかから選択された1つである。
図2(c)に示すように、第1熱処理工程では、第1膜50fを第1温度で熱処理して、第2膜50gを形成する。第2膜50gは、上記の第1〜第3元素と、フッ素と、を含む。
図2(d)に示すように、第2熱処理工程では、上記の第1熱処理工程の後に、第2膜50gを、水を含む雰囲気中で、第1温度よりも高い第2温度で熱処理して、第2膜50gから第3膜50hを形成する。
この後、第3熱処理工程では、第2熱処理工程の後に、第3膜50hを酸素を含む雰囲気中で加熱処理して、第3膜50hから、酸素数が6.0のペロブスカイト構造を有する酸化物層50を形成する。
以下、本願発明者が行った実験について説明する。
図3〜図5は、実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。
これらの図は、実験に係るフローチャートでもある。
図3は、コーティング溶液の調製方法を例示するフローチャートである。
図3はコーティング溶液、または、半溶液調製のフローチャートである。ReBCO(Reは、YまたはEu〜Lu)コーティング溶液の場合は、図3の金属酢酸塩に、全ての金属種を、Re:Ba:Cu=1:2:3となるように混合して、コーティング溶液を得る。フルオロカルボン酸として、ペンタフルオロプロピオン酸を用いる。または、フルオロカルボン酸としてトリフルオロ酢酸を用いる。
図4は、実施形態に係る酸化物超電導体の形成に用いられる溶液の製造方法を例示するフローチャートである。
図4は、フルオロカルボン酸を主にトリフルオロ酢酸に置換するフローチャートである。
複数回の精製が行われる。初回の精製では、ステップhCs−aにおけるフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸だけである。2回以降の精製では、ステップhCs−aにおけるフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸とトリフルオロ酢酸との混合物となる。
図5は、酸化物超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。
図5は、コーティング溶液から超電導体を形成するまでのフローチャートである。
コーティング溶液を塗布してゲル膜が得られる(ステップSc−a)。第1熱処理(仮焼、ステップSc−d)と、第2熱処理(本焼、ステップSc−f)と、が行われる。その後、例えば、「純酸素アニール」(ステップSc−g)処理を行う。これにより、超電導体が得られる。純酸素アニール処理において、雰囲気中に含まれる酸素の濃度は、例えば、10%以上100%以下である。実施形態において、純酸素雰囲気における酸素の濃度は、例えば、10%以上100%以下である。
図6及び図7は、実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法を例示する模式図である。 図6は、第1熱処理を例示する模式図である。
図6は、図3に例示した仮焼のプロファイルの例を示す。
図6の横軸は、時間tp(分)であり、縦軸は、温度Tp(℃)である。時刻0〜ta1の間、乾燥酸素雰囲気DO中で昇温する。時刻ta1〜時刻ta5の間、加湿酸素雰囲気WO中で昇温する。このとき、期間ta1〜ta2、ta2〜ta3、ta3〜ta4、及び、ta4〜ta5において、温度の上昇率は、互いに異なる。時刻ta1は、例えば、7分であり、時刻ta2は、例えば、35分である。期間ta2〜ta3、ta3〜ta4、及び、ta4〜ta5のそれぞれの長さは、変更しても良い。時刻ta2〜ta4に対応する温度は、分解反応が起きる温度領域である。これらの期間に対応する処理は、行われる処理のうちで最も長い時間の熱処理となる場合が多い。分解温度を高くして、期間を短くすることもできる。図6は、分解熱処理の一例であり、図6に例示した熱処理に相当する熱処理であれば、これらの期間及び温度は、変更しても良い。時刻ta5以降、乾燥酸素雰囲気DO中で、炉冷FCが行われる。
図7は、第2熱処理を例示する模式図である。
図7は、図3に例示した本焼のプロファイルの例を示す。
図7の横軸は、時間tp(分)であり、縦軸は、温度Tp(℃)である。時刻0〜tb1の間、ArとOとを含む乾燥Ar/O雰囲気DOMA中で昇温する。時刻tb1〜時刻tb4の間、加湿Ar/O雰囲気WOMA中で熱処理を行う。時刻tb4〜時刻tb6の間、乾燥Ar/O雰囲気DOMA中で降温する。時刻tb6以降、乾燥酸素雰囲気DO中で、炉冷FCが行われる。
以下、超電導体に関する実験例について説明する。
(第1実験例)
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Y(OCOCH3、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Y:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。半透明青色の物質1MAi(第1実験例で説明する物質 Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質1MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質1MAiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質1MAが得られる。半透明青色の物質1MAをメタノール(図3のCs−j)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液1Cs−Y(第1実験例、Coating Solution for Y-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
上記と同様の手法で、図3のチャートで示される溶液フローチャートで、LuBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩としてLu(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Lu:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質1MBi(第1実験例で説明する物質Material B with impurity)が得られる。この半透明青色の物質1MBi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質1MBiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質1MBが得られる。半透明青色の物質1MBをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液1Cs−Lu(第1実験例、Coating Solution for Lu-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
上記と同様の手法で、図3のチャートで示される溶液フローチャートで、DyBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Dy(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Dy:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において減圧下で反応および精製を12時間行なう。これにより、半透明青色の物質1MCi(第1実験例で説明する物質Material C with impurity)が得られる。この半透明青色の物質1MCi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質1MCiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質1MCiが得られる。半透明青色の物質1MCiをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液1Cs−Dy(第1実験例、Coating Solution for Dy-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
上記とは別に、図3のチャートで示される溶液フローチャートで、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Ba:Cu=2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質1MDiが得られる。この半透明青色の物質1MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質1MDiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質1MDが得られる。半透明青色の物質1MDをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液1hCs-BaCu(第1実験例、half coating Solution Ba and Cu)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
上記に加え、図3のチャートで示される溶液フローチャートで、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。Sm(OCOCHの水和物の粉末をイオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質1MEiが得られる。
物質1MEiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質1MEが得られる。半透明黄色の物質1MEをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液1hCs-Sm1(第1実験例、Half coating Solution Sm step 1)が得られる。金属イオン濃度は、1.20×10−3mol/mである。
半コーティング溶液1hCs-Sm1に対して、図4で示されるフローチャートで、PFP基のTFA置換が行われる。半コーティング溶液1hCs-Sm1にメタノールを加えて20倍に希釈し、PFPの反応当モル量に相当するTFAを加え精製を行う。これにより、1hCs-Sm2(同上、step 2)が得られる。半コーティング溶液1hCs-BaCuと半コーティング溶液1hCs-Sm2とを混合し、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるように混合する。これにより、コーティング溶液1Cs−Smが得られる。コーティング溶液における金属イオン濃度は、約1.41×10−3mol/mである。
1Cs−Yと1Cs−Smと1Cs−Luとを、金属イオンモル比で80:10:10となるように混合する。これにより、コーティング溶液1Cs−X1(第1実験例、coating solution mixed 1)が得られる。
コーティング溶液1Cs−X1を用いて、LaAlO単結晶基板上に、超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い、最高回転数4000rpmで、成膜が行われる。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼が行われる。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼が行われる。525℃以下の純酸素中でアニールが行われる。これにより、超電導膜の試料1FS−X1(第1実験例、Film of Superconductor, from mixed solution 1)が得られる。
1Cs−Yと1Cs−Luと1Cs−Dyとを、金属イオンモル比で80:10:10となるように混合する。コーティング溶液1Cs−X2(第1実験例、coating solution mixed 2)が得られる。コーティング溶液1Cs−X2を用い、図5に示す手順で、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い、最高回転数4000rpmで成膜を行う。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼が行われる。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼が行われる。525℃以下の純酸素中でアニールが行われる。これにより、超電導膜の試料1FS−X2(第1実験例、Film of Superconductor, from mixed solution 2)が得られる。
上記と同様の手法で、コーティング溶液1Cs−Yおよび1Cs−Luを用いて、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用いて、最高回転数4000rpmで成膜が行われる。図6に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼が行われる。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼が行われる。525℃以下の純酸素中でアニールが行われる。これにより、超電導膜の試料1FS−Y(第1実験例、Film of Superconductor, Y−based)、および1FS−Lu(同上、Lu−based)が得られる。
図8(a)及び図8(b)は、酸化物超電導体の分析結果を示すチャートである。
図8(a)は試料1FS−X1(80%YBCO+10%SmBCO+10%LuBCOの試料)に対応する。図8(b)は、試料1FS−Lu(LuBCOの試料)に対応する。これらの図は、XRD(2θ/ω法)の測定結果を示す。横軸は、角度2θである。縦軸は、検出強度Int(cps: counts per sec)である。縦軸は、対数表示である。
図8(a)に示すように、試料1FS−X1において、強度がかなり小さいBa−Cu複合酸化物のピークが見られものの、YBCOの(00n)ピークと、基板ピークと、が主である。
図8(b)に示すように、試料1FS−Luにおいて、33度付近の角度2θに、同定されてないピークがある。この他、いろいろな異相が認められる。
ペロブスカイト構造を持つ超電導体において、Yサイトにランタノイド元素が位置する場合、本焼時における適切な酸素分圧が、原子番号の増加とともに増えていく。800℃の本焼の場合に、Nd、Sm、Gd及びDyが、Yサイトに位置する場合、Nd、Sm、Gd及びDyのそれぞれにおいて、本焼における適切な酸素分圧は、5、20、200及び1000ppm付近と考えられている。このことから、Luにおいては、適切な酸素分圧は、4000ppm前後であると考えられる。第1実験における本焼においては、酸素分圧1000ppmである。このため、図8(b)の破線で示されるように、33度〜34度の角度2θに対応する異相が形成された可能性がある。
図8(a)に示す試料1FS−X1においては、試料1FS−Luで見られた異相は、確認できない。SmBCO単独熱処理の場合は適切な酸素分圧は、800℃の本焼において、約20ppmである。このため、異相形成が予想される。しかしながら、図8(a)に示す試料1FS−X1からは、異相は、確認されない。試料1FS−X1においては、YBCOの単一相が形成されているような結果が得られる。
比較のために、良好な超電導特性を持つYBCO超電導体である試料1FS−YのXRD測定結果について説明する。
図9は、酸化物超電導体の分析結果のチャートである。
図9は、YBCOのXRD(2θ/ω法)の測定結果を示す。
図9において、異相がほとんど確認されず、YBCO(00n)ピークが主に観測されている。この試料において、Jc値は、6.5MA/cm@(77K、0T:テスラ)である。この試料は、低傾角粒界を含むほぼ完全な結晶化された組織の超電導体である。この試料において、YBCOピークの特徴である、(003)、(005)、(006)ピークの強度は、比較的強い。さらに、(001)ピークの強度が、(002)ピークよりも弱い。これは、YBCOの特徴である。Yサイトに別の金属種が入ると、ピークの強弱が変化する。例えば、YサイトにSmが入ると、(001)、(003)及び(006)のそれぞれのピークが強くなる。YBCOに少量のSmBCOを混合して得られるペロブスカイト構造において、XRDから得られる格子定数の変化は、わずかである。もし、混合により中間的な格子定数のユニットセルが形成されたのであれば、格子定数の差は、わずかであり、格子定数は、連続的に変化すると考えられる。YBCO(00n)ピークにおいて、回折経路に原子などが存在して回折を邪魔することにより、YBCO(00n)のそれぞれのピークが弱くなり、特徴的なピーク強度の分布となる。例えば、YBCOにおいては、(003)、(005)及び(006)のピークが強くなる。Yの代わりにSmが入ると、(001)、(003)及び(006)のピークが強くなる。YとSmとにおいて、原子半径の差は、わずかである。YとSmとの混合状態の超電導体膜であれば、これらのピークの強度は、連続的に変化する。そのため、クラスター化により、YBCO中にSmBCO及びLuBCOが混在してペロブスカイト構造が形成されている場合には、これらのピークの強度は、これらのピークのそれぞれが持つ本来のピーク強度の中間的な強度となるはずである。
図8においては、(001)ピークの強度が(002)ピークの強度に近い。SmまたはLuの影響により、(001)ピークの強度が強くなる方向に変化したためと考えられる。試料1FS−X1においては、格子定数は、Yをベースとして、Sm及びLuが混合されたことによる影響を受けている。
YBCO、SmBCO及びLuBCOを含む試料の高分解能TEM(透過型電子顕微鏡)観察の結果について説明する。
図10は、酸化物超電導体の透過型電子顕微鏡像である。
図10は、80%YBCO+10%SmBCO+10%LuBCOの試料の断面観察TEM像である。倍率は、200万倍である。
図10から、200万倍の高分解能TEM観察像の視野の全体で、ペロブスカイト構造に対応する均質な構造が確認される。試料における格子定数は、単一と考えられる。EDS分析から、Y、Sm及びLuが検出される。試料の格子定数は、YBCOの格子定数に近い。この試料においては、80%のYBCOの格子定数に合わせるように結晶格子が歪んでいると考えられる。この試料は、単一のペロブスカイト構造を有すると考えられる。
実施形態においては、SmBCO及びLuBCOを偏在させ集合化させる。クラスター化を生じさせる。クラスター化においては、Sm及びLuが偏在する。例えば、Sm及びLuの配置を、高分解能TEMを用いたEDSマップ測定で調べる方法が考えられる。この方法において、試料を薄くした場合でも、50nm程度の厚さとなる。このため、試料の厚さ方向の平均値が検出される。そのため、高分解能TEMを用いたEDSマップ測定で調べるこの方法においては、Sm及びLuの量(濃度)を単純に調べる方法では、クラスター化の程度を評価することは困難である。
上記の実験の試料においては、Sm及びLuがクラスターを形成しており、クラスターのサイズは、5nm程度と推測される。EDSマップにおける元素の測定領域は、例えば、2nm角である。奥行き方向の最小の厚さは、試料加工の制限から50nmである。EDS検出においては、奥行き方向の平均値が算出される。クラスターサイズが5nm前後であるならば、5nm角の測定視野中にクラスターが存在する場合としない場合とで、大きな差異が観測される。クラスターが存在すれば、Sm及びLuが、連動して変化する。
以下、究極分散の試料(10%Sm+Y)の分析結果について説明する。究極分散の試料においては、クラスターは形成されない。
図11は、酸化物超電導体の分析結果を示す表である。
図11は、80%YBCO+10%SmBCOの試料の断面観察における濃度測定結果を示す。試料の第1〜第3観測領域AR1〜AR3のそれぞれにおけるSmの検出強度Intが示されている。
第1観測領域AR1に関して、5nm角の6個の領域のそれぞれにおける、EDSによるSmの検出強度Intが示されている。6つのデータの標準偏差σは、1.31である。標準偏差σに基づいて、偏差指数SDが定義される。6点のデータの平均をAVとすると、SD=σ/AVである。図11に示すように、第1観測領域AR1においては、Smに関する偏差指数SD(Sm)は、0.091である。第2観測領域AR2に関して、5nm角の10個の領域におけるEDSによるSmの検出結果が示されている。第3観測領域AR3に関して、5nm角の8個の領域におけるEDSによるSmの検出結果が示されている。第2観測領域AR2においては、偏差指数SD(Sm)は、0.087である。第3観測領域AR3においては、SD(Sm)は、0.076である。このように、究極分散状態においては、偏差指数SDは、0.076〜0.091となる。
図11において、第2観測領域AR2の10個のデータのばらつきは小さく見える。最大値と最小値との差異を示す値として、差異指数Dmm(元素名)を定義する。差異指数Dmm(元素名)は、(元素の検出強度の最大値)/(元素の検出強度の最小値)である。第2観測領域AR2においては、差異指数Dmm(Sm)は、1.27である。この値は小さい。この値は、超電導体の内部にSmが均一に分散していることに対応する。
以下、試料1FS−X1のEDS分析結果について説明する。この試料においては、クラスター化が生じていると考えられる。
図12は、酸化物超電導体の分析結果を示す表である。
図12は、試料1FS−X1(80%YBCO+10%SmBCO+10%LuBCOの試料)の断面観察における濃度測定結果である。図12には、Smの濃度が12.5%〜17.5%の試料の分析結果も記載されている。
EDS測定において、Sm−Laピークは、Ba−Lrピークと重なる。このため、Sm−LbピークによりSmの濃度が計算されている。Smのピーク強度とLuのピーク強度と、が示されている。これらのピーク強度は、互いに連動して変化する。
図13は、酸化物超電導体を示すグラフである。
図13は、超電導体内部におけるSmとLuとの偏在の連動性(クラスター化)を示すグラフである。
図13は、試料FS−XのEDS分析を示す。図13は、Smの濃度(量)と、Luの濃度(量)、の間の関係を示す。図13の横軸は、Smの検出強度Int(Sm)(cps)である。縦軸は、Luの検出強度Int(Lu)(cps)である。
図13からわかるように、Sm量とLu量とは、互いに連動して変化する。この試料においては、Smの偏差指数SD(Sm)は、0.378である。Smは、Luと共に偏在する。5nm角の観測領域においては、クラスターが観測領域に入るか否かで数値が大きく変動する。このため、偏差指数SD(Sm)が大きくなったと考えられる。この試料における差異指数Dmm(Sm)も、5.02と大きい。
一方、Luについては、偏差指数SD(Lu)は、0.339である。Smと連動してLuが偏在する。このため、SD(Lu)は大きくなったと考えられる。差異指数Dmm(Lu)は、3.52である。差異指数Dmm(Lu)は、非常に大きい。この値は、クラスター化による偏在を示唆する。
上記の偏在は、原子半径の違いに基づくクラスター化の証拠であると考えられる。以下、Dy及びLuを含む試料1FS−X2の、断面TEM観察におけるEDSマップ測定の結果について説明する。Dy及びLuの両方において、原子サイズはYの原子サイズよりも小さい。
図14は、酸化物超電導体の分析結果を示す表である。
図14は、試料1FS−X2(80%YBCO+10%DyBCO+10%LuBCOの試料)の断面観察におけるDyとLuの濃度測定結果を示す。図14は、Dyの濃度とLu濃度とに着目したEDS測定の結果である。図14には、第4〜第6観測領域AR4〜AR6の3か所において、10個の測定領域(5nm角のサイズ)のEDS測定の結果が示されている。
図14からわかるように、Dyの濃度(検出強度Int)、及び、Luの濃度(検出強度Int)は、複数の測定領域において、ほぼ変化が無い。
図14に示すように、Dyに関する偏差指数SD(Dy)は、0.059〜0.087である。Luに関する偏差指数SD(Lu)は、0.071〜0.090である。Dyに関する差異指数Dmm(Dy)は、1.22〜1.28である。Luに関する差異指数Dmm(Lu)は、1.19〜1.29である。この結果は、図11の結果に近い。Dyの原子半径はLuの原子半径とは異なるものの、共にYの原子半径よりも小さい。小さいユニットセルの隣には小さいユニットセルが成長する確率は低いと考えられる。このため、この試料においては、クラスター化が生じなかったと考えられる。
以下、クラスター形成モデルの例を説明する。例えば、互いに異なる格子定数の複数のユニットセルが存在することで、クラスター化が生じる。
図15(a)〜図15(f)は、酸化物超電導体のユニットセルを示す模式図である。 図15(a)及び図15(b)は、YBCOのユニットセルに対応する。図15(c)及び図15(d)は、SmBCOのユニットセルに対応する。図15(e)及び図15(f)は、LuBCOのユニットセルに対応する。図15(b)、図15(d)及び図15(f)は、1つの方向(例えばZ軸方向)から見た模式図である。図15(a)、図15(c)及び図15(e)は、その1つの方向に対して垂直な方向(例えばX−Y平面に沿う方向)から見た模式図である。これらの図は、クラスター化の際に用いられるユニットセルサイズを例示する。
この例では、YBCO中に、SmBCOとLuBCOとが混合されて、クラスター化が生じる。YBCOのユニットセルが母相となる。SmBCOのユニットセルのサイズは、YBCOのユニットセルのサイズよりも大きい。LuBCOのセルサイズは、YBCOのユニットセルのサイズよりも小さい。この試料では、YBCOの全体に対する比率が高い。このため、核生成から成長までにおいて、結晶は、YBCOのサイズで成長していると考えられる。このような構成において、クラスター化が進む。以下、クラスター化の例について説明する。
図16(a)〜図16(f)は、酸化物超電導体の形成過程を例示する模式図である。 これらの図において、Smが、上記のM1に対応する。Yが、上記のM2に対応する。Luが、上記のM3に対応する。この例においては、a/b面内において、M1元素及びM3元素を含むクラスター化が形成される。
図16(a)に示すように、YBCOのセルサイズよりもSmBCOのセルサイズは大きい。YBCOのセルサイズよりもLuBCOのセルサイズは小さい。
図16(b)に示すように、例えば、YBCOユニットセルに隣接して、サイズの大きなSmBCOが成長する。SmBCOユニットセルにおいて、図中の上下と右側から束縛が無い。この場合、SmBCOユニットセルは、やや大きめである。
図16(c)に示すように、そのSmBCOユニットセルに隣接した位置には小さいセルサイズのLuBCOが成長し易い。これは、下地の影響による。LuBCOの1つと、SmBCOの1つと、を含む領域のセルサイズが、YBCOの2倍である場合に、必ずしもYBCOが成長し易くはない。クラスターの奥の方向において、SmBCOが成長しやすいと考えられる。
このため、図16(d)に示すように、SmとLuとの集合体が形成される。
図16(e)に示すように、LuBCOに隣接してSmBCOが成長し易い。このような過程が繰り返される。
図16(f)に示すように、このようにして、クラスターが成長する。クラスターのサイズは、SmBCO及びLuBCOの存在量で決まると考えられる。Sm及びLuが供給されないと、YBCOが成長する。
図17(a)及び図17(b)は、超電導体の構成を示す模式図である。
これらの図に示すように、格子が歪みながらクラスターが成長し全体としてペロブスカイト構造が形成される。図17(a)に示すように、クラスター化領域が、YBCO内に形成される。図17(a)においては、SmBCOのサイズがYBCOのサイズよりも大きく描かれ、LuBCOのサイズがYBCOのサイズよりも小さく描かれている。この状態は、格子に歪みがあり、不安定である。格子定数にマッチした状態がエネルギー的に安定である。
このため、図17(b)に示すように、成長後には、SmBCOのサイズ、LuBCOのサイズ、及び、YBCOのサイズは、互いに同じになる。これにより、実質的に単一のペロブスカイト構造が得られる。この構造においては、SmBCO及びLuBCOを内包しつつ、ペロブスカイト構造が維持される。ペロブスカイト構造が維持された構造内においては、SmBCOは、元来の格子サイズよりも小さく、LuBCOは、元来の格子サイズよりも大きくなり、かつ、YBCOの格子サイズとなる。この際に、YBCO、SmBCO及びLuBCOのそれぞれのc軸の方向は、互いにほぼ同じである。そのため、XRD測定においては、最強ピークである(006)ピークが1本のピークとして観測される。
クラスターを含む超電導体において、クラスターの1つが、人工ピンとなると、例えば、Jc−B特性が向上する。
図18は、酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
図18は、試料のJc−B測定結果の例を示す。
図18は、試料SPL01、試料SPL02及び試料SPL03の測定結果を示す。試料SPL01は、10%Sm、10%Lu及び80%YBCOを含む。試料SPL02は、10%Sm及び90%YBCOを含む。試料SPL03は、30%Sm及び70%YBCOを含む。図18の横軸は、磁場B(T:テスラ)である。縦軸は、臨界電流Ic(A:アンペア)である。
図18に示すように、試料SPL01においては、臨界電流Icが高い。例えば、磁場Bが0.9Tのとき、試料SPL01における臨界電流Icは、試料SPL02及び試料SPL03の臨界電流Icの1.81倍である。
Smを含みLuを含まない試料SPL02及びSPL03においては、究極分散状態である。これらの試料においては、人工ピンとしての効果は発揮されない。Sm及びLuを含む試料SPL01においては、クラスターが存在する。Smが偏在する。このため、Ba置換が生じて人工ピンとなるサイトが集中的に存在する。これにより、人工ピンとしての効果が発揮される。
(第2実験例)
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Y:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質2MAi(第2実験例で説明する物質Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質2MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質2MAiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質2MAが得られる。半透明青色の物質2MAをメタノール(図3のCs−j)中で溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液2Cs−Y(第2実験例、Coating Solution for Y-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、LuBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Lu(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Lu:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質2MBi(第2実験例で説明する物質Material B with impurity)が得られる。この半透明青色の物質2MBi中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が7wt%程度含まれる。
物質2MBiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質2MBが得られる。半透明青色の物質2MBをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液2Cs−Lu(第2実験例、Coating Solution for Lu-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Ba:Cu=2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質2MDiが得られる。この半透明青色の物質2MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質2MCiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質2MCが得られる。半透明青色の物質2MCをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液2hCs−BaCu(第2実験例、half coating Solution Ba and Cu)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。Sm(OCOCHの水和物の粉末をイオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質2MEiが得られる。
物質2MDiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて、完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質2MDが得られる。半透明黄色の物質2MDをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液2hCs−Sm1(第2実験例、Half coating Solution Sm step 1)が得られる。金属イオン濃度は、1.20×10−3mol/mである。
半コーティング溶液2hCs−Sm1に対して、図4で示されるフローチャートで、PFP基のTFA置換が行われる。半コーティング溶液2hCs−Sm1にメタノールを加えて20倍に希釈し、PFPの反応当モル量に相当するTFAを加え精製を行う。これにより、半コーティング溶液2hCs−Sm2(同上、step 2)が得られる。
半コーティング溶液2hCs−BaCuと半コーティング溶液2hCs−Sm2とを、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるように混合する。これにより、コーティング溶液2Cs−Smが得られる。コーティング溶液における金属イオン濃度は、約1.41×10−3mol/mである。
溶液2Cs−Y、溶液2Cs−Sm、及び、溶液2Cs−Luを、混合する。このとき、混合比が変更される。これにより、4種類のコーティング溶液2Cs−X1(第2実験例、coating solution mixed 1)、コーティング溶液2Cs−X2、コーティング溶液2Cs−X3、及び、コーティング溶液2Cs−X4が得られる。これらのコーティング溶液のそれぞれにおける金属イオンモル比(Y:Sm:Lu)は、80:12.5:7.5、80:15:5、80:17.5:2.5、及び、80:20:0である。
コーティング溶液2Cs−X1、2Cs−X2、2Cs−X3、及び、2Cs−X4を用い、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行う。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行う。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppmの酸素混合アルゴンガス中で本焼を行う。525℃以下の純酸素中でアニールを行う。これにより、超電導膜の試料2FS−X1(第2実験例、Film of Superconductor, from mixed solution 1)、2FS−X2、2Fs−X3、及び、2FS−X4が得られる。
図19は、酸化物超電導体の分析結果を示すチャートである。
図19は、試料2FS−X2のXRD(2θ/ω法)の測定結果を示す。
横軸は、角度2θ(度)である。縦軸は、検出強度Int(cps、対数表示)である。試料2FS−X2において、小さい強度のBa−Cu複合酸化物のピークがみられるものの、YBCOの(00n)ピークと、基板ピークと、が主である。YBCO(00n)ピークは強い。この試料は、単一なペロブスカイト構造を有する。Sm及びLuのそれぞれの濃度が5%であるときにクラスターが形成されると考えられる。クラスター形成を示すピーク強度が大きい。
図20は、酸化物超電導体の分析結果を示すチャートである。
図20は、試料2FS−X4のXRD測定(2θ/ω法)の測定結果を示す。横軸は、角度2θ(度)である。縦軸は、検出強度Int(cps、対数表示)である。図20に示すように、試料2FS−X4においては、試料2FS−X2と比べて、YBCO(00n)ピークの強度が弱い。試料FS−X4においては、YBCOピークと比較して、Ba−Cuの相対異相強度が、強くなっている。この試料の状態は、究極分散に対応する。究極分散においては、YBCOピーク強度が低下する。
図21は、酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
図21は、Sm量と、YBCO(005)ピークの強度と、の関係を示す。図21には、第1実験に関して説明した試料1FS−X1の結果も表示されている。図21の横軸は、Smの比率R(Sm)である。Smの比率R(Sm)は、Sm及びLuの合計の量に対するSmの量の比である。縦軸は、YBCO(005)ピーク強度の相対比R1である。相対比R1は、YBCO(005)ピークの強度の、LAO(200)ピークの強度に対する比である。
図21に示すように、Smの比率R(Sm)が0.5のときに、相対比R1が大きい。SmとLuとの比が、1:1になると、YBCO強度が増大する。この超電導体においては、YBCOが母材である。YBCOのサイズとは異なるサイズのSmBCOとLuBCOとが存在することで、内部の応力などが緩和する。このことが、異相形成に対して有利に作用する。一方、Smの比率R(Sm)が1のとき、YBCO(005)ピークの強度の相対比R1は低い。この試料は、究極分散に対応し、20%Sm+80%Yの試料(100%Smの試料)に対応する。この試料においては、20%の量のSmが究極分散して、格子が歪む。大きな面指数のYBCO(005)での回折が困難になる。このため、ピークの強度が弱まると考えられる。
図22は、酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
図22は、上記の試料に関して、面外配向度に対応するΔωと、Sm量と、の相関を示す。
Δωが小さいと、揺らぎが小さい。Δωが小さいことは、質の良い単結晶状であることに対応する。横軸は、Smの比率R(Sm)である。縦軸は、Δωである。
Smの比率R(Sm)が0.5のとき(SmとLuとの比が1:1のとき)に、Δωが小さい。ユニットセルサイズが大きなSmBCOと、ユニットセルサイズが小さなLuBCOと、の比が1:1のときに、良好な結果が得られる。
Sm量が15%である試料2FS−X2の断面TEM観察により、良好なペロブスカイト構造の超電導体であることが認識できる。
Δωの違いなどの判別は、難しい。良好な単一ペロブスカイト構造の超電導体である場合には、クラスター化が生じている。XRD測定とΔωがYBCO単独の強度と同等かそれ以上であれば、クラスター化が起きていることが、簡易的に推測できる。
図23〜図25は、酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
図23は、試料2Fs−X1に対応する。図24は、試料2Fs−X2に対応する。図25は、試料2Fs−X3に対応する。これらの図は、試料の高分解能TEM観察を行い、EDS分析を行い、Sm量(濃度)と、Lu量(濃度)と、の間の相関を求めた結果を示す。これらの図において横軸は、Smの検出強度Int(Sm)である。縦軸は、Luの検出強度Int(Lu)である。
図23に示すように、多くのプロットにおいて、Luの濃度は、Smの濃度と連動している。図23に示す第1データ群D1において、連動性を示す。第1データ群に対応する試料においては、Smの濃度が12.5%であり、Luの濃度が7.5%である。SmとLuとがクラスターを形成するとすると、7.5%のSmと、7.5%のLuと、がクラスターを形成する。SmとLuとの合計で20%である。7.5%のSmと、7.5%のLuと、の合計の15%の量が、クラスター化する。このとき、導入量(20%)の75%の金属元素が、クラスターの形成に関わる。
この試料において、量が少ないLuが、クラスターに伴う偏在を示す。Smにおいては、クラスター化している部分と、究極分散している部分と、が混在する。図23に示す第2データ群D2が、この混在に対応する。Luのほとんどが、Smとクラスターを形成する。Luは、究極分散状態にくらべて偏在する。図23に示したデータの一部が、図12に示した試料2FS−X1に対応する。
図23のデータにおいて、偏差指数SD(Sm)は、0.219である。偏差指数SD(Lu)は、0.330と大きい。クラスター化に伴う偏在の影響を受けていると考えられる。差異指数Dmm(Sm)が2.11であるのに対して、差異指数Dmm(Lu)は、2.77である。異なる量(濃度)で2つの元素(Sm及びLu)が導入されるときは、量が少ない元素に着目すると、クラスターの状態が分かる。
図24は、試料2Fs−X2(15%Smと5%Luとを含む試料)に対応する。この試料においては、クラスター化を示す第1データ群D1内のデータが少ない。第2データ群D2内のデータが増えている。第2データ群D2内のデータにおいては、余剰のSmの影響を受けたと考えられる。5%のSmと、5%のLuと、がクラスター化したと考えられる。Sm及びLuの導入量の50%がクラスター化する。残りのSmは、究極分散していると考えられる。この試料においては、図12に示す通り、偏差指数SD(Lu)は、0.223と、やや小さい。偏差指数SD(Sm)は、0.100である。差異指数Dmm(Sm)は、1.85であり、差異指数Dm(Sm)は、1.39である。偏在に対応する値は小さいが、クラスターは部分的に存在する。
図25は、試料2FS−X3(17.5%Smと2.5%Luとを含む試料)に対応する。2.5%のLuは、クラスター化し偏在することが期待されるが、偏差指数SD(Lu)は、0.068と小さく、差異指数Dmm(Lu)は、1.23である。偏差指数SD(Sm)は、0.072であり、差異指数Dmm(Sm)は、1.24である。クラスター化の程度は、偏差指数SDと、差異指数Dmmと、により判別できる。
上記の例において、クラスター化物質は、「Sm+Lu」(全体の20%)である、その「Sm+Lu」において、例えば、全体でSmが15%であり、Luが5%である場合、クラスター化形成に参加するSm及びLuは、全体において、Smが5%であり、Luが5%となる。全体の合計10%となるため、クラスター化物質の50%がクラスター化に参加する計算となる。一方、Smが17.5%であり、Luが2.5%の場合は、クラスター化に参加するのは、Smが2.5%であり、Luが2.5%であり、合計5%である。その場合、全体(20%)に対して、25%の物質しかクラスター化に参加しないことになる。この参加率が50%の場合は、図25からわかるように、クラスター化現象が認められる。一方、参加率が25%の場合は、クラスター化の傾向が、顕著には認められない。
図26は、酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
図26は、77Kの温度で、0.9Tの磁場における臨界電流密度を示す。横軸は、Luの偏差指数SD(Lu)である。縦軸は、臨界電流密度向上率RJcである。臨界電流密度向上率RJcは、参照試料の臨界電流密度との差に対応する。臨界電流密度向上率RJcは、参照試料の臨界電流密度で規格化されている。図26には、上記で説明した試料の他に、他の実験例で得られた結果も記載されている。
偏差指数SD(Lu)の値が0.07〜0.09の試料においては、臨界電流密度向上率RJcが低い。Jc−B特性において、参照試料とほとんど変化が無い。これらの試料は、究極分散試料に対応する。人工ピンのサイズが小さすぎるために、臨界電流密度が実質的に向上しないと考えられる。
一方、偏差指数SD(Lu)が大きいと、臨界電流密度向上率RJcは高い。このような試料においては、SmのBa置換型の人工ピンが存在する。このような人口ピンをクラスター化して集合化させれば、置換された人工ピンサイトの周辺も人工ピン化する。このため、Jc−B特性が向上する。偏差指数SD(Lu)が0.15以上において、特性の向上が明確である。偏差指数SD(Lu)が0.25よりも高くなると、より明確なクラスター化状態となり、特性の向上の程度が大きい。究極分散状態においては、偏差指数SD(Lu)は、0.15よりも低い。
図27は、酸化物超電導体の特性を示すグラフである。
図27は、図26に関して説明した試料について、Luの差異指数Dmm(Lu)と、磁場中の臨界電流密度(77K、0.9T)と、の関係を示す。図27の横軸は、Luの差異指数Dmm(Lu)である。縦軸は、臨界電流密度向上率RJcである。究極分散の試料における差異指数Dmmの最大値は、1.3程度である。
図27に示すように、差異指数Dmm(Lu)が1.5を超えると、臨界電流密度が向上する。差異指数Dmm(Lu)が2.3以上では、クラスター化が強く生じ、向上効果がより顕著になる。差異指数Dmm(Lu)が3.5のときに、参照試料の1.81倍のJc値が得られる。
(第3実験例)
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、及びCu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物を、金属イオンモル比Y:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質3MAi(第3実験例で説明する物質Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質3MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質3MAiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質3MAが得られる。半透明青色の物質3MAをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液3Cs−Y(第3実験例、Coating Solution for Y-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
EuBCO、GdBCO、TbBCO、DyBCO、HoBCO、ErBCO、TmBCO、YbBCO、及び、LuBCOの超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。例えば、EuBCOにおいて、金属酢酸塩として、Eu(OCOCHが用いられる。他の元素についても、同様の手法により、コーティング溶液3Cs−Eu、3Cs−Gd、3Cs−Tb、3Cs−Dy、3Cs−Ho、3Cs−Er、3Cs−Tm、3Cs−Yb、及び、3Cs−Luが得られる。これらの溶液は、高純度化されている。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を、金属イオンモル比Ba:Cu=2:3で、イオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質3MDiが得られる。この半透明青色の物質3MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質3MCiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質3MCが得られる。半透明青色の物質3MCをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液3hCs−BaCu(第3実験例、half coating Solution Ba and Cu)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。Sm(OCOCHの水和物の粉末をイオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質3MEiが得られる。
物質3MDiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより半透明黄色の物質3MDが得られる。半透明黄色の物質3MDをメタノール(図3のCs−j)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液3hCs−Sm1(第3実験例、Half coating Solution Sm step 1)が得られる。金属イオン濃度は、1.20×10−3mol/mである。
上記で得られた半コーティング溶液3hCs−Sm1に対して、図4で示されるフローチャートで、PFP基のTFA置換を行う。半コーティング溶液3hCs−Sm1にメタノールを加えて20倍に希釈し、PFPの反応当モル量に相当するTFAを加えて精製を行う。これにより、半コーティング溶液3hCs−Sm2(同上、step 2)が得られる。
半コーティング溶液3hCs−BaCuと、半コーティング溶液3hCs−Sm2と、を、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるように混合する。これにより、コーティング溶液3Cs−Smが得られる。コーティング溶液における金属イオン濃度は、約1.33×10−3mol/mである。
コーティング溶液3Cs−Y及び3Cs−Smに、コーティング溶液3Cs−Eu、3Cs−Gd、3Cs−Tb、3Cs−Dy、3Cs−Ho、3Cs−Er、3Cs−Tm、3Cs−Yb、及び、3Cs−Luのそれぞれを、混合する。これにより、コーティング溶液3Cx−Eu、3Cx−Gd、3Cx−Tb、3Cx−Dy、3Cx−Ho、3Cx−Er、3Cx−Tm、3Cx−Yb、及び、3Cx−Luが得られる。コーティング溶液3Cx−Euにおいては、Y:Sm:Eu=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Gdにおいては、Y:Sm:Gd=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Tbにおいては、Y:Sm:Tb=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Dyにおいては、Y:Sm:Dy=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Hoにおいては、Y:Sm:Ho=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Erにおいては、Y:Sm:Er=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Tmにおいては、Y:Sm:Tm=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Ybにおいては、Y:Sm:Yb=80:10:10である。コーティング溶液3Cx−Luにおいては、Y:Sm:Lu=80:10:10である。
コーティング溶液3Cx−Eu、3Cx−Gd、3Cx−Tb、3Cx−Dy、3Cx−Ho、3Cx−Er、3Cx−Tm、3Cx−Yb、及び、3Cx−Luを用い、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い、最高回転数4000rpmで成膜を行う。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行う。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行う。525℃以下の純酸素中でアニールを行う。これにより、超電導膜の試料3FS−Eu(第3実験例、Film of Superconductor containing Eu)、3FS−Gd、3FS−Tb、3FS−Dy、3FS−Ho、3FS−Er、3FS−Tm、3FS−Yb、及び、3FS−Luがそれぞれ得られる。
クラスター化実現時にはXRD測定の結果が改善する傾向がある。クラスター化実現時には、ピーク強度が改善し、Δωが改善し、異相形成が抑制される。単一のペロブスカイト構造が実現している場合には、複数の元素がYサイトに入っても単一構造となっている。このため、SmBCOとYBCOとLuBCOとが存在していても、SmBCO、YBCO及びLuBCOのそれぞれのピーク位置は、それぞれの本来の位置に別れて観測されるのではなく、単一のピークが観測される。SmBCO及びYBCOのそれぞれが100nm程度の十分大きな塊を形成するならば、XRDでは、46.53度と46.68度のそれぞれの角度2θの位置にピークが現れ、ピークが分離しているように見える。クラスター化した場合には、そのようなピークの分離が観測されず、1本のピークが観測される。クラスター化分析において、原子像が見える200万倍の高分解能TEM観察が、直接的な観察では、必要なため、このクラスター化分析は、非常に高額となってしまう。クラスター化が実現していれば、ピーク強度の改善、Δωの改善、かつ(006)ピークが1本であるという特徴が、XRD測定からわかる。このような簡易的な代替分析法でクラスター化を推測することが可能である。
試料3FS−Dy、3FS−Ho、3FS−Er、3FS−Tm、3FS−Yb、及び、3FS−Luにおいては、XRD測定において、YBCOよりも強いピーク強度が観測され、Δωが小さく、異相形成が抑制されている。これらの試料において、(006)ピークは、1本のピークとして観測される。これに対して、試料3FS−Eu、3FS−Gd、及び、3FS−Tbにおいては、XRD測定において、ピーク強度は、YBCO単体のそれよりも弱く、Δωが大きく、異相が形成されている。この分析結果から、クラスター化が、あまり強く起きていないと考えられる。
試料3FS−Dyについて、高分解能TEM観察とEDSマップ測定とが実施される。5nm角の10個の領域の分析により、偏差指数SDと差異指数Dmmとが求められる。偏差指数SD(Dy)は0.251であり、差異指数Dmm(Dy)は、3.3である。簡易的な分析手法によりクラスター化が確認できる。
上記のように、試料3FS−Eu、3FS−Gd及び、3FS−Tbにおいては、クラスター化が生じない。または、クラスター化の効果が小さい。この現象は、原子半径の差に起因すると考えられる。Gdの原子半径は、Yの原子半径に相当する。GdとSmとを用いてクラスター化しようとしても、Gdの原子半径はYの原子半径に近いため、YとGdとが一体として振る舞い、実質上2元素混合の究極分散に近い状態となると、推測される。Euのイオン半径は、Yのイオン半径よりも大きく、クラスター化の効果が顕著に得られないと考えられる。Tbのイオン半径は、Yのイオン半径に近いために、クラスター化の効果が小さいと考えられる。この場合、効果は小さいものの、微視的な領域では、クラスター化は生じていると考えられる。Gdよりも原子番号が大きいランタノイド系元素においては、周期律表で隣接する2つの元素における原子半径の差が小さくなる。このため、周期律表において隣接する2つの元素を用いた場合には、クラスター化が生じ難いと、推測される。
(第4の実験例)
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を用いる。これらの水和物の粉末を、金属イオンモル比Y:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質4MAi(第4実験例で説明する物質Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質4MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質4MAiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質4MAが得られる。半透明青色の物質4MAをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液4Cs−Y(第4実験例、Coating Solution for Y-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
DyBCO及びTmBCOの超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。例えば、DyBCOにおいては、金属酢酸塩としてDy(OCOCHを用いる。TmBCOにおいても、同様の手法で、コーティング溶液が得られる。これにより、コーティング溶液4Cs−Dy及び4Cs−Tmが得られる。これらの溶液は、高純度化されている。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を、金属イオンモル比Ba:Cu=2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質4MDiが得られる。この半透明青色の物質4MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質4MCiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質4MCが得られる。半透明青色の物質4MCをメタノール(図3のCs−j)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液4hCs−BaCu(第4実験例、half coating Solution Ba and Cu)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。Nd(OCOCHの水和物の粉末を、イオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCFCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質4MEiが得られる。
物質4MDiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質4MDが得られる。半透明黄色の物質4MDをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液4hCs−Nd1(第4実験例、Half coating Solution Nd step 1)が得られる。金属イオン濃度は、0.80×10−3mol/mである。
上記で得られた半コーティング溶液4hCs−Nd1に対して、図4で示されるフローチャートで、PFP基のTFA置換を行う。半コーティング溶液4hCs−Nd1にメタノールを加えて20倍に希釈し、PFPの反応当モル量に相当するTFAを加え精製を行う。これにより、半コーティング溶液4hCs−Nd2(同上、step 2)が得られる。
半コーティング溶液4hCs−BaCuと、半コーティング溶液4hCs−Nd2と、を、Nd:Ba:Cu=1:2:3となるように混合する。これにより、コーティング溶液4Cs−Ndが得られる。コーティング溶液における金属イオン濃度は、約1.31×10−3mol/mである。
コーティング溶液4Cs−Y及びコーティング溶液4Cs−Ndに、コーティング溶液4Cs−Dyを、Y:Nd:Dyが80:10:10となるよう混合し、コーティング溶液4Cx−Dyが得られる。コーティング溶液4Cs−Y及びコーティング溶液4Cs−Ndに、コーティング溶液4Cs−Tmを、Y:Nd:Tmが80:10:10となるよう混合し、コーティング溶液4Cx−Tmが得られる。
コーティング溶液4Cx−Dy、及び、4Cx−Tmを用いて、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い、最高回転数4000rpmで成膜を行う。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行う。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行う。525℃以下の純酸素中でアニールを行う。これにより、超電導膜の試料4FS−Dy(第4実験例、Film of Superconductor containing Dy)、及び、試料4FS−Tmが得られる。
クラスター化実現時にはXRD測定の結果が改善する傾向がある。これらの試料において、ピーク強度が改善され、Δωが改善され、異相形成が抑制される。4FS−Dy及び4FS−Tmにおいて、XRD測定における(006)ピークは、単一のピークであり、単一のペロブスカイト構造を持つことが分かる。
試料4FS−Dy及び4FS−Tmについて、高分解能TEM観察とEDSマップ測定とが実施される。5nm角の10個の領域の分析が行われる。偏差指数SDと差異指数Dmmとが求められる。試料4FS−Dyにおいて、偏差指数SD(Dy)は、0.213であり、差異指数Dmm(Dy)は、2.78である。試料4FS−Tmにおいて、偏差指数SD(Tm)は0.263であり、差異指数Dmm(Tm)は、3.12である。これらの試料において、クラスターが存在していると考えられる。
Ndの原子半径は、大きい。このため、Ndにおいて、Smと同様に、溶液調製が難しい。例えば、PFP合成とその置換法とが用いられる。これにより、クラスター化された試料が作製できる。Ndを用いると、Smを用いたときと同様に、Ba置換により人工ピンが形成しやすい。Nd系超電導材料において、磁場特性改善効果が得られる。
(第6実験例)
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、PrBCO+YBCOの超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩にPr(OCOCH、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末が用いられる。これらの粉末を、金属イオンモル比Pr:Y:Ba:Cu=0.05:0.95:2:3で、イオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質6MAi(第6実験例で説明する物質Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質6MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質6MAiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質6MAが得られる。半透明青色の物質6MAをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液6Cs−Y(第6実験例、Coating Solution for Y-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
LuBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩として、Lu(OCOCHが用いられる。同様の手法で、コーティング溶液6Cs−Luが得られる。この溶液は、高純度化されている。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を、金属イオンモル比Ba:Cu=2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質6MDiが得られる。この半透明青色の物質6MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質6MCiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質6MCが得られる。半透明青色の物質6MCをメタノール(図3のCs−j)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液6hCs−BaCu(第6実験例、half coating Solution Ba and Cu)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。Sm(OCOCHの水和物の粉末をイオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質6MEiが得られる。
物質6MDiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質6MDが得られる。半透明黄色の物質6MDをメタノール(図3のCs−j)中に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液6hCs−Sm1(第6実験例、Half coating Solution Sm step 1)が得られる。金属イオン濃度は、1.20×10−3mol/mである。
半コーティング溶液6hCs−Sm1に対して、図4で示されるフローチャートで、PFP基のTFA置換が行われる。半コーティング溶液6hCs−Sm1にメタノールを加えて20倍に希釈し、PFPの反応当モル量に相当するTFAを加え精製を行う。これにより、半コーティング溶液6hCs−Sm2(同上、step 2)が得られる。
半コーティング溶液6hCs−BaCuと半コーティング溶液6hCs−Sm2と、を、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるように混合する。これにより、コーティング溶液6Cs−Smが得られる。このコーティング溶液における金属イオン濃度は、約1.44×10−3mol/mである。
コーティング溶液6Cs−PrYとコーティング溶液6Cs−Smとを、Y:Pr:Sm=90:5:5となるように混合する。これにより、コーティング溶液6Cx−Smが得られる。コーティング溶液6Cs−PrYとコーティング溶液6Cs−Luとを、Y:Pr:Lu=90:5:5となるように混合する。これにより、コーティング溶液6Cx−Luが得られる。
コーティング溶液6Cx−Smまたはコーティング溶液6Cx−Luを用い、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い、最高回転数4000rpmで成膜が行われる。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼が行われる。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼が行われる。525℃以下の純酸素中でアニールが行われる。これにより、超電導膜の試料6FS−Sm(第6実験例、Film of Superconductor containing Sm)、及び、試料6FS−Luが得られる。
クラスター化実現時にはXRD測定の結果が改善する傾向がある。これらの試料において、ピーク強度が改善し、Δωが改善し、異相形成が抑制される。6FS−Luにおいて、XRD測定における(006)ピークは、単一のピークであり、単一のペロブスカイト構造を持つことが分かる。6FS−Smにおいては、(006)ピークが弱かった。
試料6FS−Sm及び6FS−Luについて、高分解能TEM観察とEDSマップ測定とが実施される。5nm角の10個の領域の分析が行われ、偏差指数SDと差異指数Dmmとが求められる。試料6FS−Smにおいて、偏差指数SD(Sm)は、0.080であり、差異指数Dmm(Sm)は、1.24である。試料6FS−Luにおいて、偏差指数SD(Lu)は、0.23であり、差異指数Dmm(Lu)は、2.8である。
YサイトにPrが単独で含まれるPrBCOのコーティング溶液合成においては、Prの原子半径が大きく化学反応が起きやすく、TFA塩合成時にエステル化反応による分解が激しい。そのため、現時点では、Prは、Yと混合する形で5%までしか入れることができない。すなわち、Yサイトに95%のYと、5%のPrと、を入れるコーティング溶液しか合成に成功していない。しかし、M1及びM3として、Pr及びLuを選択すると、クラスター化が起きているようである。実施形態において、5%のPrと5%のLuと、を90%のYに混合したコーティング溶液の合成に成功している。第6実験から、クラスター化においては、Prは、Ndよりも大きなイオン半径を有する元素の振る舞いをすると、考えられる。Prは、3価〜4価となり、非超電導となると言われている。Prが4価だと、Prの原子半径が小さい。Prを含むペロブスカイト構造においては、ペロブスカイト構造を形成するときにはPrは3価であり、その後、Prが4価になると考えられる。Prを含む人工ピンにおいても、クラスター化が生じる。
(第7実験例)
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、YBCO超電導体用のコーティング溶液を合成および精製する。金属酢酸塩にY(OCOCH、Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末が用いられる。これらの水和物の粉末を、金属イオンモル比Y:Ba:Cu=1:2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質7MAi(第7実験例で説明する物質Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質7MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質7MAiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質7MAが得られる。半透明青色の物質7MAをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、コーティング溶液7Cs−Y(第7実験例、Coating Solution for Y-based superconductor)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
DyBCO及びTmBCO超電導体用のコーティング溶液を合成および精製する。例えばDyBCOにおいては、金属酢酸塩にDy(OCOCHが用いられる。同様の手法でコーティング溶液7Cs−Dy及び7Cs−Tmが得られる。これらのコーティング溶液は、高純度化されている。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。Ba(OCOCH、及び、Cu(OCOCHの各水和物の粉末を、金属イオンモル比Ba:Cu=2:3で、イオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質7MDiが得られる。この半透明青色の物質7MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水または酢酸が、7wt%程度含まれる。
物質7MCiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明青色の物質7MCが得られる。半透明青色の物質7MCをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液7hCs−BaCu(第7実験例、half coating Solution Ba and Cu)が得られる。金属イオン濃度は、1.50×10−3mol/mである。
図3のチャートで示される溶液フローチャートで、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。Sm(OCOCHの水和物の粉末をイオン交換水に溶解する。反応等モル量のCFCFCOOHと混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ中において、減圧下、で反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質7MEiが得られる。
物質7MDiを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3のCs−f)に加えて完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータに入れ、減圧下で、反応および精製を12時間行う。これにより、半透明黄色の物質7MDが得られる。半透明黄色の物質7MDをメタノール(図3のCs−j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈する。これにより、半コーティング溶液7hCs−Sm1(第7実験例、Half coating Solution Sm step 1)が得られる。金属イオン濃度は、0.80×10−3mol/mである。
半コーティング溶液7hCs−Sm1に対して、図4で示されるフローチャートで、PFP基のTFA置換が行われる。半コーティング溶液7hCs−Sm1にメタノールを加えて20倍に希釈し、PFPの反応当モル量に相当するTFAを加え精製を行う。これにより、半コーティング溶液7hCs−Sm2(同上、step 2)が得られる。
半コーティング溶液7hCs−BaCuと半コーティング溶液7hCs−Sm2とを、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるように混合する。これにより、コーティング溶液7Cs−Smが得られる。コーティング溶液における金属イオン濃度は、約1.31×10−3mol/mである。
コーティング溶液7Cs−Y及び7Cs−Smに、コーティング溶液7Cs−Dy及び7Cs−Tmを混合して、コーティング溶液7Cx−DyTmが得られる。コーティング溶液7Cx−DyTmにおける、Yサイトに入る金属イオン濃度Y:Sm:Dy:Tmは、80:10:5:5である。
コーティング溶液7Cx−DyTmを用い、LaAlO単結晶基板上に超電導体の成膜が行われる。スピンコート法を用い、最高回転数4000rpmで成膜が行われる。図6に示すプロファイルで、400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼が行われる。図7に示すプロファイルで、800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で、本焼が行われる。525℃以下の純酸素中で、アニールが行われる。これにより、超電導膜の試料7FS−DyTm(第7実験例、Film of Superconductor containing Dy)が得られる。
クラスター化実現時にはXRD測定の結果が改善する傾向がある。この試料において、ピーク強度が改善し、Δωが改善し、異相形成が抑制される。7FS−DyTmにおいて、XRD測定における(006)ピークは、単一のピークであり、単一のペロブスカイト構造を持つことが分かる。
7FS−DyTmについて、高分解能TEM観察とEDSマップ測定とが実施される。5nm角の10個の領域の分析を行い、偏差指数SD及び差異指数Dyが求められる。偏差指数SD(Dy)は、0.24であり、偏差指数SD(Tm)は、0.26である。差異指数Dmm(Dy)は、2.90であり、差異指数Dmm(Tm)は、3.01である。この試料において、クラスター化が生じている。クラスター化は、例えば、ペロブスカイト構造を形成する際における格子定数の差に依存すると考えられる。クラスターに含まれる元素M1及び元素M3の少なくともいずれかとして、複数の種類元素を用いても良い。
実施形態においては、例えば、Y系ペロブスカイト構造を有する超電導体において、母相となる超電導体のペロブスカイト構造のユニットセルに、そのユニットセルのサイズよりも大きいサイズのペロブスカイト構造と、そのサイズよりも小さいサイズのペロブスカイト構造と、を隣接させて、クラスター化させる。クラスターのサイズは、ユニットセルのサイズ(例えば0.4nm程度)の数倍程度(例えば、5倍以上25倍以下)である。実施形態においては、クラスターを形成する一方の超電導体に、非超電導物質が用いられる。例えば、クラスターを形成する超電導体に含まれる元素を、Ba置換処理などにより、選択的に置換しても良い。これにより、ナノレベルのサイズの人工ピンが得られる。これにより、特性が改善される。実施形態によれば、ナノサイズのクラスターが初めて形成される。実施形態は、磁場特性改善に応用できる。実施形態は、磁場特性に関連する分野に応用できる。
TFA−MOD法による超電導線材において、人工ピンによる磁場特性が改善される。これにより、超電導の様々なコイル応用が進展する。実施形態に係るクラスターにおいて、超電導体膜の成膜温度または加湿量または投入元素量などにより、クラスターのサイズの制御が可能であると考えられる。人工ピンにおいて、任意のサイズが得られる。実施形態により、超電導の市場が拡大し、産業のすそ野が広がり、新たな創意工夫または提案が誘発される。
実施形態によれば、磁場中の臨界電流密度を向上できる酸化物超電導体及びその製造方法が提供できる。
(参考文献)
[1]M. Rupich, et al., Supercond. Sci. Technol., 23, (2010), 014015(9pp)
[2]T. Araki, et al., JP 4,738,322; US 7,833,941 B2, (2006)
[3]T. Araki, et al., J. Appl. Phys., 92, (2002), 3318-3325
[4]T. Araki, Bull. Chem. Soc. Jpn., 77, (2004), 1051-1061
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
10…基板、 11…下地層、 15…基材、 50…酸化物層、 50a…第1面、 50b…第2面、 50f…第1膜、 50g…第2膜、 50…第3膜、 50p…位置、 51、52…第1、第2領域、 110…酸化物超電導体、 B…磁場、 D1、D2…第1、第2データ群、 DO…乾燥酸素雰囲気、 DOMA…乾燥Ar/O雰囲気、 Dmm…差異指数、 FC…炉冷、 Ic…臨界電流、 Int…検出強度、 R1…相対比、 RJc…臨界電流密度向上率、 SD…偏差指数、 SPL01〜SPL03…第1〜第3試料、 Tp…温度、 WO…加湿酸素雰囲気、 WOMA…加湿Ar/O雰囲気、 d50p…距離、 t50…厚さ、 ta1〜ta5、tb1〜tb6…時刻、 tp…時間

Claims (5)

  1. 2.0×1016atom/cc以上5.0×1019atom/cc以下の濃度のフッ素と、1.0×1018atom/cc以上5.0×1020atom/cc以下の濃度の炭素と、を含み、REBaCu7−x(REは“RE元素群”Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Y、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれかの元素)を有し、REに少なくとも3種類の金属元素(M1、M2、M3)を含み、かつその3種類の金属元素はRE元素群の順に選択されたいずれかの元素(ただし、M2はPr、Nd、Smを除く。)であり、M1+M2+M3におけるM1の平均の金属元素比をR(M1)とする場合に、R(M1)≦20mol%、R(M2)≧60mol%、R(M3)≦20mol%を満たし、
    前記REBaCu7−xがc軸に配向した単一のペロブスカイト構造を有し、
    R(M1)及びR(M3)の大きくない方の金属元素をMsとし、
    前記c軸を含む断面の平均膜厚の50%の位置において、Msの濃度の標準偏差/平均値をSD(Ms)とする場合、SD(Ms)>0.15を満たし、
    前記c軸を含む前記断面の前記平均膜厚の50%の前記位置において、Msの濃度の最大値と最小値とをそれぞれMsmaxとMsminとする場合、Msmax≧1.5×Msminを満たす酸化物超電導体。
  2. 請求項1の酸化物超電導体において、
    SD(Ms)>0.25を満たす酸化物超電導体。
  3. 請求項1または2の酸化物超電導体において、
    Msmax≧2.3×Msminを満たす酸化物超電導体。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1つの酸化物超電導体において、
    基材上、あるいは中間層を含む基材上にもうけられた、酸化物超電導体。
  5. 請求項1〜請求項3のいずれか1つの酸化物超電導体において、
    M1がPr、Nd、及びSmよりなる群から選択された少なくとも1つを含み、
    M2がGd、Y、Dy、Ho、Er及びTmよりなる群から選択された少なくとも1つを含む、酸化物超電導体。
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