以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
実施形態に係る超電導体は、例えば、超電導線材及びその応用に係る。実施形態は、例えば、酸化物超電導線に係る。酸化物超電導線は、例えば、超電導送電ケーブル、超電導コイル、超電導マグネット、MRI装置、磁気浮上式列車及びSMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)の少なくともいずれかに使用される。
図1A〜図1Cは、実施形態に係る超電導体を示す模式図である。
図1Aは、斜視図であり、図1Bは、断面図であり、図1Cは、断面図である。
図1Aに示すように、実施形態に係る超電導体110は、基材15と、超電導層50と、を含む。超電導層50は、基材15の上に設けられる。
この例では、基材15は、基板10と、下地層11と、を有する。下地層11は、基板10と超電導層50との間に設けられる。すなわち、基板10の上に、下地層11が設けられ、下地層11の上に超電導層50が設けられる。
超電導層50は、REA1−xREBxBa2Cu3O7−zを含む。組成比xは、例えば、0.01以上0.40以下である。組成比zは、例えば、0.02以上0.20以下である。REAは、Y、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの少なくとも1つを含む。REBは、Nd及びSmの少なくとも1つを含む。
実施形態において、REBは、例えば、Smを含む。このとき、組成比xは、0.01以上0.40以下である。実施形態において、記REBがNdを含む場合、組成比xは、例えば、0.01以上0.30以下である。
図1Aに示すように、超電導層50は、第1面50aと、第2面50bと、を有する。第1面50aは、基材15の側の面である。第1面50aは、基材15に対向する。第2面50bは、第1面50aとは反対側の面である。第1面50aは、例えば、下面であり、第2面50bは、例えば、上面である。
第1面50aから第2面50bに向かう第1方向D1を、例えば、Z軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。
基板10は、例えば、単結晶基板である。基板10は、例えば、LaAlO3、SrTiO3、NdGaO3、Al2O3、MgO、及び、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)の少なくともいずれかを含む。
下地層11が設けられる場合において、下地層11は、例えば、CeO2、LaMnO3、SrTiO3及びLaAlO3の少なくともいずれかを含む。下地層11は、例えば、1つの層でも良い。下地層11は、複数の層を含んでも良い。下地層11は、例えば、CeO2層、YSZ層及びY2O3層の積層体を含んでも良い。
例えば、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数と実質的に整合する。格子定数は、第1方向D1(Z軸方向)に対して実質的に垂直な1つの方向に沿った格子長である。この場合、3種類の整合が存在する。
例えば、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数と実質的に同じである。すなわち、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数の0.93倍以上1.07倍以下である。
または、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数の21/2倍と実質的に同じである。すなわち、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数の1.32倍以上1.54倍以下である。
または、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数の(1/(21/2))倍と実質的に同じである。すなわち、基材15の格子定数は、超電導層50の格子定数の0.649倍以上0.758倍以下である。
第1面50aから第2面50bに向かう第1方向D1に対して垂直な方向に沿った超電導層50の格子定数を、第1格子定数とする。このとき、基材15は、第1格子定数の0.93倍以上0.107倍以下の、上記の垂直な方向に沿った第2格子定数、及び、第1格子定数の1.32倍以上1.54倍以下の、上記の垂直な方向に沿った第3格子定数、及び、第1格子定数の0.649倍以上0.758倍以下の、上記の垂直な方向に沿った第4格子定数のいずれかを有する。
例えば、基板10は、第1格子定数の0.93倍以上0.107倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の1.32倍以上1.54倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の0.649倍以上0.758倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数のいずれかを有する。
例えば、下地層11は、第1格子定数の0.93倍以上0.107倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の1.32倍以上1.54倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数、及び、第1格子定数の0.649倍以上0.758倍以下の、上記の垂直な方向に沿った格子定数のいずれかを有する。
図1Bに示すように、超電導層50は、第1面側領域55を含む。第1面側領域55は、第1面50aの一部を含む。
第1方向D1に沿った第1面側領域55の厚さt55は、第1方向D1に沿った超電導層の平均の厚さt50の70%である。すなわち、第1面側領域55は、第1面50aから、超電導層50の平均の厚さt50の70%の位置まで、の間の領域である。
第1面側領域55の第2方向D2に沿った長さを長さL55とする。第2方向D2は、第1面50aに対して平行な方向である。実施形態において、長さL55は、例えば、2マイクロメートル(μm)である。
例えば、第1面側領域55は、第1領域51と、第2領域52と、を含む。第1領域51は、配向性を有する。第2領域52は、第1方向D1に対して交差する方向(例えば第2方向D2でも良い)において、第1領域51と並ぶ。第2領域52における配向性は、第1領域51における配向性よりも低い。第2領域52は、例えば、無配向領域40である。
超電導層50は、例えば、c軸配向領域20を含む。超電導層50は、例えば、a/b軸配向領域30を含んでも良い。a/b軸配向領域30は、a軸配向またはb軸配向を有する領域である。超電導層50は、例えば、無配向領域40をさらに含んでも良い。
第1領域51は、c軸配向領域20を含む。第1領域51は、例えば、a/b軸配向領域30を含んでも良い。第1領域51は、例えば、ペロブスカイト構造を有する。
実施形態においては、第1面側領域55において、第2領域52(例えば、無配向領域40)の量が少ない。実施形態においては、第1面側領域55は、第1領域51(例えば、c軸配向領域20、及び、a/b軸配向領域30など)の量が多い。
第2方向D2に沿った第2領域52の長さL52は、第1面側領域55の長さL55の0.15倍以下(例えば、0.15倍未満)である。長さL52は、長さL55の0.147倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.123倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.118倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.08倍以下でも良い。
このような超電導体110において、臨界電流密度を高くすることができる。
実施形態において、第1面側領域55が、複数の第2領域52を含む場合がある。この場合においては、長さL52は、複数の第2領域52のそれぞれの第2方向D2に沿った長さの計とする。このとき、長さL52は、長さL55の0.15倍以下(例えば0.15倍未満)でも良い。長さL52は、長さL55の0.147倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.123倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.118倍以下でも良い。
実施形態において、第1面側領域55が、複数の第2領域52を含み、複数の第2領域52の2つ以上が第1方向D1において重なっている場合がある。このとき、第1方向D1において重なっている2つ以上の第2領域52は、1つの第2領域52と見なす。そして、1つの第2領域52と見なされた領域の、第2方向D2に沿った長さは、第1方向D1において重なっているその2つ以上の第2領域52の少なくともいずれかの第2方向D2に沿った長さの計とする。この場合においては、長さL52は、第1方向D1において重なっている2つ以上の第2領域52を1つの第2領域52と見なして、複数の第2領域52のそれぞれの第2方向D2に沿った長さの計とする。この場合において、第2領域52の第1面側領域55の長さL55の0.15倍以下(例えば0.15倍未満)である。長さL52は、長さL55の0.147倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.123倍以下でも良い。長さL52は、長さL55の0.118倍以下でも良い。
実施形態において、第1面側領域55に、第2領域52(例えば、無配向領域40)が存在していなくでも良い。すなわち、長さが2μmの範囲において、第2領域52(例えば、無配向領域40)が存在しない。すなわち、長さが2μmの第1面側領域55において、第1領域51(例えば、c軸配向領域20、及び、a/b軸配向領域30など)からなる。すなわち、第1面側領域55は、c軸配向領域20、及び、a/b軸配向領域30(a軸配向領域及びb軸配向領域)からなる。
このような超電導体110において、臨界電流密度を高くすることができる。
実施形態において、超電導層50の平均の厚さ(第1方向D1に沿った平均の厚さ)は、例えば、200ナノメートル以上である。厚さは、220ナノメートル以上でも良い。厚さは、1μm以上でも良い。
実施形態において、第1面側領域55におけるフッ素の濃度は、2×1016atoms/cm3以上5×1019atoms/cm3以下である。第1面側領域55における炭素の濃度は、1×1018atoms/cm3以上5×1020atoms/cm3以下である。
上記のフッ素の濃度(例えば残留フッ素量)、及び、炭素の濃度(例えば残留炭素量)は、例えば、TFA−MOD(Metal Organic Deposition using TriFluoroAcetates)法において得られる量である。残留炭素量が増大すると、特性が低下する。実施形態に係る熱処理パターンなどを用いることで、残留炭素量を抑制することができ、良好な超電導特性が得られる。残留フッ素量が過度に多くない場合に、良好な電導特性が得られる。
図1Cに示すように、実施形態に係る超電導体110において、超電導層50は、第1部分領域R1と、第2部分領域R2と、第3部分領域R3と、を含む。
第1部分領域R1の第1方向D1の中心は、第1中心位置PC1である。
第1部分領域R1の第2方向D2の中心は、第1中心位置PC1である。
第1部分領域R1の第1方向D1に沿った長さを長さL11とする。
第1部分領域R1の第2方向D2に沿った長さを長さL12とする。
第1中心位置PC1と第1面50aとの間の第1方向D1に沿った距離は、第1厚さt50の1/2である。
第2部分領域R2の第1方向D1の中心は、第2中心位置PC2である。
第2部分領域R2の第2方向D1の中心は、第2中心位置PC2である。
第2部分領域R2の第1方向D1に沿った長さを長さL21とする。
第2部分領域R2の第2方向D2に沿った長さを長さL22とする。
第2中心位置PC2と第1面50aとの間の第1方向D1に沿った距離は、第1厚さt50の1/2である。
第3部分領域R3の第1方向D1の中心は、第3中心位置PC3であり。
第3部分領域R3の第2方向D2の中心は、第3中心位置PC3である。
第3部分領域R3の第1方向D1に沿った長さを長さL31とする。
第3部分領域R3の前2方向D2に沿った長さを長さL32とする。
第3中心位置PC3と第1面50aとの間の第1方向D1に沿った距離は、第1厚さt50の1/2である。
例えば、第1厚さt50は、100nm以上である。このとき、例えば、上記の長さL11及び長さL12のそれぞれは2nmであり、上記の長さL21及びL22のそれぞれは、10nmであり、上記の長さL31及びL32のそれぞれは50nmとする。
このとき、第1部分領域R1に含まれる金属元素の量(全ての量)を、量Ta1とする。一方、第1部分領域R1に含まれるREBの量を、量Tb1とする。このとき、第1部分領域R1に含まれる金属元素の量に対する、第1部分領域R1に含まれるREBの量の比を、第1比RR1とする。第1比RR1は、Tb1/Ta1である。第2部分領域R2に含まれる金属元素の量(全ての量)を、量Ta2とする。一方、第2部分領域R2に含まれるREBの量を、量Tb2とする。このとき、第2部分領域R2に含まれる金属元素の量に対する、第2部分領域R2に含まれるREBの量の比を、第2比RR2とする。第2比RR2は、Tb2/Ta2である。第3部分領域R3に含まれる金属元素の量(全ての量)を、量Ta3とする。一方、第3部分領域R3に含まれるREBの量を、量Tb3とする。このとき、第3部分領域R3に含まれる金属元素の量に対する、第3部分領域R3に含まれるREBの量の比を、第3比RR3とする。第3比RR1は、Tb3/Ta3である。
実施形態においては、第1比RR1と、第2比RR2と、第3比RR3と、の分散は、第1比RR1と、第2比RR2と、第3比RR3と、の平均(算術平均)の0.325倍以下である。すなわち、これらの領域において、含まれるREBの量のばらつきは小さい。
このように、超電導層50において、REBに関する量(例えば、第1比RR1、第2比RR2及び第3比RR3など)は、均一である。これにより、臨界電流密度を高くすることが可能な超電導体を提供できる。
実施形態において、例えば、第1面側領域55のうちの第1面50aに近い部分におけるREBの濃度は、第1面側領域55のうちの第1面50aから遠い部分におけるREBの濃度よりも高い。
すなわち、図1Bに示すように、第1面側領域55は、第3領域55cと、第4領域55dと、を含む。第4領域55dは、第3領域55cと基体15との間に設けられる。第4領域55dは、第1面50aを含む。第4領域55dの第1方向D1に沿った厚さは、50nmである。第1面側領域55のうちの第4領域55dを除く部分(上側部分)が、第3領域55cとなる。第4領域55dに含まれる金属元素の量(全ての金属元素の量)に対する、第4領域55dに含まれるREBの量の比(第4領域比)は、第3領域55cに含まれる金属元素の量(全ての金属元素の量)に対する、第3領域55cに含まれるREBの量の比(第3領域比)以上である。例えば、第4領域比は、第3領域比1倍よりも高くても良い。例えば、第4領域比は、第3領域比の3.5倍以下でも良い。
例えば、第1面側領域55の第3領域55cにおけるREBの濃度(比)は、比較的均一である。すなわち、第3領域55cに、複数の第5領域55e(図1B参照)が含まれる場合において、複数の第5領域55eにおけるREBの量(比)は比較的均一である。例えば。第3領域55cが、複数の第5領域55eを含む。複数の第5領域55は、例えば、第1方向D1に沿って並ぶ。複数の第5領域55eのそれぞれの第1方向D1に沿った長さは、10nmである。複数の第5領域55eのそれぞれの第2方向D2に沿った長さは、10nmである。このような、複数の第5領域55eのそれぞれにおけるREBの量が比較的均一である。例えば、複数の第5領域55eのそれぞれは、複数の第5領域55eに含まれる金属元素の量に対する、複数の第5領域55eのそれぞれに含まれるREBの量の比(第5領域比)を有する。このとき、複数の第5領域55eのそれぞれの第5領域比の分散は、複数の第5領域55eのそれぞれの第5領域比のそれぞれの平均(算術平均)の0.18倍以下である。複数の第5領域55eにおけるREBの量(比)が均一であることで、良好な特性(高いJc値)が得易くなる。
以下、本実施形態に係る超電導体110の製造方法の例について説明する。
図2A〜図2Dは、実施形態に係る超電導体の製造方法を例示する模式図である。
図2Aは、実施形態に係る超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。
図2B〜図2Dは、実施形態に係る超電導体の製造方法を例示する模式的断面図である。
図2Aに示すように、本製造方法は、膜形成工程(ステップS110)と、第1熱処理工程(ステップS120)と、第2熱処理工程(ステップS130)と、第3熱処理工程(ステップS140)と、を含む。
図2Bに示すように、膜形成工程においては、トリフルオロ酢酸塩と、ペンタフルオロプロピオン酸塩と、メタノールと、を含む溶液を、基体15の上に塗布して、基体15の上に溶液を含む膜50fを形成する。トリフルオロ酢酸塩は、Y、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの少なくとも1つを含むREAと、Nd及びSmの少なくとも1つを含むREBと、を含む。一方、上記のペンタフルオロプロピオン酸塩は、上記のREBを含む。
第1熱処理工程においては、上記の膜50fを第1温度で熱処理する。
図2Cに示すように、第2熱処理工程において、第1熱処理工程の後に、上記の膜50fを、第1温度よりも高い第2温度で熱処理して、膜50fからペロブスカイト構造を有する第1層50gを形成する。
図2Dに示すように、第3熱処理工程では、第1層50gを、酸素を含む雰囲気で熱処理して、REA1−xREBxBa2Cu3O7−zを含む第2層50hを形成する。組成比xは、0.01以上0.40以下である。組成比zは、0.02以上0.20以下である。
実施形態において、上記の溶液に含まれるREBに結合する3つの基のうちの少なくとも1つは、トリフルオロ酢酸である。
このような製造方法により、臨界電流密度を高くすることが可能な超電導体の製造方法が提供できる。
上記の第1温度は、200℃以上450℃以下である。第1熱処理工程は、膜50fに含まれる有機物の少なくとも一部を分解することを含む。上記の第2温度は、700℃以上900℃以下である。これにより、ペロブスカイト構造を有する第1層50gが形成される。第2層50hの組成において、酸素数(すなわち、上記の「7−z」)は、6.80以上6.98以下である。良好な超電導特性が得られる。酸素数は、6.85以上6.95以下でもよい。さらに良好な超電導特性が得られる。
実施形態において、上記の溶液は、REBを含むヘプタフルオロブチル酸塩、及び、REBを含むノナフルオロペンタン酸塩の少なくともいずれかをさらに含んでも良い。
実施形態においては、まず高純度なSm塩を合成するために、例えば、以下の手法を用いて、Sm−ペンタフルオロプロピオン酸(Sm−PFP)を合成および精製する。
このSm−PFPにおける、PEP基のうちの1/3以上を、トリフルオロ酢酸(TFA)基と置換する。置換は、分解反応(例えばエステル化反応)が実質的に生じない条件で行う。この置換反応は生じにくい。このため、Sm−PFP塩を大量のメタノールで希釈した状態で、置換反応を実施する。置換反応後は、エステル化反応を抑制した条件下での精製および濃縮を行う。それにより、PFPの一部が、TFAに置換された物質を作る。
第1物質と、第2物質と、を混合して溶液を調製する。第1物質は、REBと、TFAと、を含む。第1物質において、REBに結合されているPFPの一部が、TFAに置換されている。第2物質は、Ba及びCuを含む。調製された溶液において、金属モル比REB:Ba:Cuは、実質的に1:2:3である。そして、この溶液を用いて超電導膜を作製する。
REB(例えばSm)に結合するPFPの数は、処理の初期において、3である。実施形態においては、このPFPの数を低減させる。精製回数を増やすと、エステル化反応も増えるため、精製回数を過度に増やすことは困難である。そのため、例えば、精製回数を1〜7回として、精製を実施する。PFPの一部がTFAに置換された物質と、YBCOと、を混合する際の、PFPの一部がTFAに置換された物質の比率は、PFPの一部がTFAに置換された物質がSm−PFPである場合は、例えば40mol%以下とする。PFPの一部がTFAに置換された物質がNd−PFPである場合は、比率は、例えば、30mol%以下とする。これにより、部分的にSmBCO超電導体またはNdBCO超電導体の性質を持ち、YサイトにSmまたはNdが均一に分散され、かつ、無配向領域40の形成が抑制された超電導体が得られる。
実施形態において、「Y」として、特定の元素を用いても良い。特定の元素は、Eu以降の重希土類で、Luまでの任意の元素である。使用された元素は、Yサイトに入り、超電導体が得られる。この特定の元素の溶液合成プロセスは、Yを用いる場合の合成プロセスと同じである。REAを含む金属酢酸塩からの溶液合成は、TFA塩を用いた合成と精製とが可能であり、PFPは必要ではない。
以下、本願発明者が行った実験について説明する。
図3A及び図3Bは、実験に係るフローチャートである。
図3Aは、コーティング溶液の調製方法を例示するフローチャートである。
図3Aに示すように、SmBCOおよびNdBCO超電導体の原料溶液においては、まず半溶液のSm−PFPおよびNd−PFPメタノール溶液を調製し、フルオロカルボン酸として、ペンタフルオロプロピオン酸を用いる。その他の場合は、半溶液(例えば、金属イオンモル比Y:Ba:Cuが1:2:3の溶液、及び、金属イオンモル比Ba:Cuが2:3の溶液など)を含め、金属酢酸塩が何種類あっても、フルオロカルボン酸としてトリフルオロ酢酸を用いる。Sm及びNd以外のREAの金属を含む金属酢酸塩においては、分解反応であるエステル化反応が生じ難く、強い条件での精製が可能であり、良好な超電導特性を得やすい。
図3Bは、半溶液であるSm−PFPまたはNd−PFPメタノール溶液の精製フローチャートである。
複数回の精製が行われる。初回の精製では、ステップhCs−aにおけるフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸だけである。2回以降の精製では、ステップhCs−aにおけるフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸とトリフルオロ酢酸との混合物となる。
図3Cは、超電導体の製造方法を例示するフローチャートである。
RE溶液と、「Ba+Cu」溶液と、に基づいて、コーティング溶液が得られる。コーティング溶液を塗布してゲル膜が得られる。第1熱処理(仮焼、ステップSc−e)と、第2熱処理(本焼、ステップSc−g)と、が行われる。その後、例えば、「純酸素アニール」(ステップSc−h)処理を行う。これにより、超電導体が得られる。純酸素アニール処理において、雰囲気中に含まれる酸素の濃度は、例えば、10%以上100%以下である。実施形態において、純酸素雰囲気における酸素の濃度は、例えば、10%以上100%以下である。
図4は、第1熱処理を例示する模式図である。
図4の横軸は、時間tp(分)であり、縦軸は、温度Tp(℃)である。時刻0〜ta1の間、乾燥酸素雰囲気DO中で昇温する。時刻ta1〜時刻ta5の間、加湿酸素雰囲気WO中で昇温する。このとき、期間ta1〜ta2、ta2〜ta3、ta3〜ta4、及び、ta4〜ta5において、温度の上昇率は、互いに異なる。時刻ta1は、例えば、7分であり、時刻ta2は、例えば、35分である。期間ta2〜ta3、ta3〜ta4、及び、ta4〜ta5のそれぞれの長さは、変更しても良い。時刻ta2〜ta4に対応する温度は、分解反応が起きる温度領域である。これらの期間に対応する処理は、行われる処理のうちで最も長い時間の熱処理となる場合が多い。分解温度を高くして、期間を短くすることもできる。図4は、分解熱処理の一例であり、図4に例示した熱処理に相当する熱処理であれば、これらの期間及び温度は、変更しても良い。時刻ta5以降、乾燥酸素雰囲気DO中で、炉冷FCが行われる。
図5は、第2熱処理を例示する模式図である。
図5の横軸は、時間tp(分)であり、縦軸は、温度Tp(℃)である。時刻0〜tb1の間、ArとO2とを含む乾燥Ar/O2雰囲気DOMA中で昇温する。時刻tb1〜時刻tb4の間、加湿Ar/O2雰囲気WOMA中で熱処理を行う。時刻tb4〜時刻tb6の間、乾燥Ar/O2雰囲気DOMA中で降温する。時刻tb6以降、乾燥酸素雰囲気DO中で、炉冷FCが行われる。
以下、実験について具体的に説明する。
(第1の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、金属酢酸塩として、Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。この際、金属モル比Y:Ba:Cuは、1:2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質1MAi(第1の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質1MAi中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質1MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質1MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質1MAが得られる。半透明青色の物質1MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液1Cs−Y(第1の実験、Coating Solution for Y-based superconductor)を得た。
上記とは別に、同じ要領で、BaとCuとが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。この際、金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質1MBiが得られる。この半透明青色の物質1MBi中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質1MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質1MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質1MBが得られる。半透明青色の物質1MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液1hCs-BaCu(第1の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記の2種類の物質とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質1MCiが得られる。
得られた半透明黄色の物質1MCiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質1MCiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質1MCが得られる。半透明黄色の物質1MCをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液1hCs-Sm1(第1の実験、Half coating Solution Sm step 1)を得た。
半コーティング溶液1hCs-BaCuと、半コーティング溶液1hCs-Sm1と、を混合し、コーティング溶液1Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度(Sm+Ba+Cuの濃度)は、1.33mol/lとなる。
コーティング溶液1Cs−Yと1Cs−Smを混合して得られた溶液が1Cs−YSmである。この溶液において、金属モル比Y:Smは、95:5である。
コーティング溶液1Cs−Smを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃以下の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の20ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、375℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料1FS−Sm(第1の実験、Film of SuperConductor、SmBCO)が得られた。
これとは別に、コーティング溶液1Cs−YSmを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料1FS−YSm(第1の実験、Film of SuperConductor、YBCO+SmBCO)が得られた。
図6A及び図6Bは、試料の評価結果を示すチャートである。
これらの図は、XRD測定結果を例示している。この結果は、2θ/ω法に基づく。これらの図の横軸は、角度2θである。縦軸は、検出されたピーク強度である。図6Aは、試料1FS−YSmに対応する。図6Bは、1FS−Smに対応する。これらの図は、XRD測定の2θ/ω測定における、SmBCO超電導体、および、5%混合SmBCO+YBCO超電導体の相同定図である。
図6Bにおいて、SmBCOに特徴的な(006)ピーク(2θが46.53度の位置)が観察される。なお、YBCOにおいては、(006)ピークに対応する2θは、46.68度である。さらに、図6Bにおいて、SmBCOに特徴的な、(001)、(003)及び(006)ピークが強い傾向が、観測される。この試料のJc値(臨界電流密度)は、5.42MA/cm2(77K、0T)であった。SmBCO超電導層の厚さは、113nmと考えられる。厚さが標準的なYBCO膜よりも薄いのは、SmBCO用の溶液が希釈された溶液でしか得られないためである。溶液濃度が低ければ粘度が低下する。粘度が低下すれば指数的に成膜後の厚さが減少することが知られており、得られる厚さが薄くなる。
図6Aは、1FS−YSmのXRD測定結果を示す。YBCO膜の特徴である、(003)、(005)及び(006)ピークが強い傾向が示されている。(006)ピークの位置における、2θは、46.68度であり、YBCOと同じ位置である。1FS−YSmと1FS−Smとを比較すると、1FS−YSmにおいては、各ピークの強度が著しく低下していることが分かる。通常のYBCO膜において、この測定条件において(006)ピーク強度は15万cps程度である。従って、図6Aに示す測定結果における(006)ピーク強度は、かなり弱いピークである。この試料のJc値は、低く、1.3MA/cm2(77K、0T)であった。YBCO溶液とSmBCO溶液とを混合したコーティング溶液から得られる超電導体のJc値は、大きく上下することが多い。この実験結果は、超電導層の内部に、再現性を乱す原因が含まれることを示唆する。
試料1FS−YSmの内部構造を調べるために、断面透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。
図7A〜図7Hは、試料の断面TEM像である。
これらの図は、「5%混合SmBCO+YBCO超電導膜」についての断面TEM像である。
これらの図において、基板10(単結晶基板)、及び、超電導層が観察される。超電導層は、c軸配向領域20と、a/b軸配向領域30と、無配向領域40と、を含む。
図7Aにおいて、倍率は、21000倍である。図7Aに観察される、図中の縦方向に長い領域は、a/b軸配向領域30(a/b軸配向粒子)に対応する。図7Aからもわかるように、面積比で10%程度のa/b軸配向粒子が観察できる。
図7Aを52000倍に拡大した観察像が、図7Bである。図7Bにおける破線部分の拡大図が、図7Cおよび図7Dである。図7Bにおいて、倍率は52000倍であり、この観察像からは、はっきりした配向組織は観察できない。しかし、20万倍の観察像である図7Cおよび図7Dにおいては、やや荒れた配向組織が観察できる。
図7Cでは、基板10と平行であるはずのab面が、やや荒れた状態であることが分かった。これに加えて、特性劣化の原因となる無配向領域40が観察できる。無配向領域40は、基板10からの膜剥がれなどの原因となる。無配向領域40がどれぐらい存在しているかを、無配向領域40を単結晶基板に平行な面に投影した長さで、定量的に評価する。投影した領域により評価する理由は、次の通りである。
超電導体内の無配向領域40は、直接的に超電導特性を大きく劣化させるわけではない。それは、超電導電流が、無配向領域40を迂回して流れることができるからである。ただし、無配向領域40によりc面が乱れていれば、この乱れは、特性劣化の要因となりうる。無配向領域40は、クラックや膜剥がれなどの物理的な損傷に大きく影響する。これにより、超電導特性はゼロに低下することがある。そのため、無配向領域40がどの程度拡大しているかの評価において、投影領域の長さは、意味を持つ。
ここで、評価を行う試料において、基板面に対して平行な連続した1つの領域を、基準の領域とする。基準の領域の、基板面に対して平行な方向の長さを、基準長BLとする。基準の領域に無配向領域40を投影したときの、無配向領域40の合計長を、NLとする。無配向領域比率Rnbを、NL/BLと定義する。
無配向領域40の状態は、場所ごとに異なる。この試料の観察領域において、複数の無配向領域40どうしの間の最大距離は、0.80μmであった。そのため、基準領域の長さ(基準長BL)を2μm程度とすれば、安定した無配向領域比率Rnbの値が得られる、と考えられる。そこで、この試料において、基準長BLを1μm、2μm、または、4μmとし、無配向領域比率Rnbがどのような値となるかを調べた。その結果を表1にまとめた。
表1は、無配向領域比率Rnb(=NL/BL)の解析結果である。表1は、無配向投影比率の計算結果を示す。
無配向領域比率Rnb(NL/BL)は、次のように計算される。断面TEM観察において、基準領域を設ける。基準領域は、20万倍の倍率の視野において、基板上面に対して平行な方向に連続する領域である。基準領域の、その平行な方向に沿った長さは、1μm、2μm、または、4μmである。20万倍の倍率において、無配向領域40が判別可能である。基準領域の設定において、倍率は、20万倍以上であり、50万倍以下でも良い。基準領域は、基板上面に対して平行な方向に延びる線状である。無配向領域40を、基準領域(基準線)上へ投影し、投影された部分の合計長をNLとする。そして、NL/BLにより、無配向領域比率Rnbが得られる。
本実施形態において、無配向領域40は、無配向であると判別される領域である。無配向領域40は、高分解能観察である210万倍のTEM電子顕微鏡観察において、原子を示すドットが判別できない領域である。例えば、図7Dの無配向領域40の一部を拡大した図7G(520,000倍)において、原子を示すドットが観察されない。図7G(210万倍)においても、原子を示すドットが確認できない。TEM観察においては、厚さ方向の50nm程度の領域の平均として、観察が行われる。このため、局所的には、原子が配列しているところが存在している可能性がある。しかし、原子が配列した領域の、全体の領域に対する比率が極端に低い場合には、210万倍のTEM観察において原子のドットは判別できない。無配向領域40は、実質的に無配向として扱える領域である。本願明細書において、TEM観察において原子像(ドット)が観察できない領域を無配向領域40とする。TEM観察において原子像(ドット)が観察できる領域を、配向領域とする。
表1から、基準長BLが1μmのとき、無配向領域比率Rnbは、35.2%〜56.8%であり、無配向領域比率Rnbの分布が比較的大きい。基準長BLが2μmのときは、無配向領域比率Rnbは、42.3%〜48.9%となり、無配向領域比率Rnbの分布が小さい。基準長BLが4μmのとき、無配向領域比率Rnbは、44.8%〜48.4%となった。それぞれの試料の平均値Ave及び標準偏差σは、表1に記載の通りである。
表1の結果から、基準長BLを2μmとして無配向領域40の評価を行えば、無配向領域40の状態を適切に評価できる、と考えられる。基準長BLを2μmとしたときに、第1の実験の手法で作製した1FS−YSmにおいては、無配向領域比率Rnbの平均値Aveは、46.0%である。標準偏差σは、2.3である。6σは、32.2%である。
一方、以下の第1参考例がある。第1参考例では、ペンタフルオロプロピオン酸サマリウムを調製した後、トリフルオロ酢酸を直接かけて置換を行う。第1参考例の実験は、親水性の強いトリフルオロ酢酸であれば、ペンタフルオロプロピオン酸と容易に置換するであろうという類推から行われている。
第1参考例において、PFP塩をTFA塩とするために置換を行うには、大量の溶媒(メタノール)が必要である。第1参考例において大量の溶媒を用いた場合においても、置換が十分に進まないことは、後述する第2の実験で説明する。第1参考例の方法において、大量のメタノール中へ溶解を行い、PFPをTFAで効率良く置換することは、困難である。
表2は、第1参考例による方法で作製された第1〜第3参考試料Rsp−1〜3の無配向領域比率Rnbを示している。表2中の「1FS−YSm]は、表1に示した第1の実験による試料である。
表2に示す通り、第1参考例の手法による参考試料においては、無配向領域比率Rnbは、37.8%〜47.8%である。無配向領域40を有する試料においては、複数の無配向領域40が、その試料中に分散されて存在する。この場合には、無配向領域比率Rnbは、30%程度の比率となることが多い。第1参考例などの技術では、無配向領域比率Rnbを15%以下とすることは困難である。
図7E、図7F及び図7Gは、第1の実験で得られた1FS−YSmを52万倍で観察した結果を示す。
図7Eでは、図中の右の薄い層状の無配向領域40と、左の塊状の無配向領域40が存在し、無配向領域比率Rnbは、56.7%と計算される。
図7Fでは、薄い層状の無配向領域40が存在しており、無配向領域比率Rnbは、39.7%と計算される。
図7Gでは、図中の縦方向に延びる無配向領域40が存在している。無配向領域比率Rnbは、29.5%と計算される。これらの無配向領域40は、長期にわたって悪影響を及ぼす、と考えられる。
無配向領域比率Rnbの計算は、超電導層の基板との界面から層の上部までが観察可能な領域に基づいて行う。TFA−MOD法は、疑似液相からの成長であり、平均厚さに対して±70nmの凹凸が生じる。液が少なくなる層の上部において、正常な成長時でも組成がずれやすい。このため、実用的には、平均厚さの70%以下の領域に基づいて評価を行う。
図7Hは、1FS−YSmの210万倍の観察像である。図7Hは、高倍観察結果である。図7Hにおいて、ab面が非常に揺らいだ構造が観察できる。この観察像からは、無配向領域40は観察できない。それは、基板近傍のみを拡大した観察したためである。無配向領域40の定義は、超電導層の基板との界面から層の上部までが観察できる視野で観察し、標準の観察倍率を20万倍とし、連続する2μmの基準領域(投影評価)が用いられる。そして、その前後の倍率で観察することにより、評価が可能である。それにより、無配向領域40の定量評価が可能となる。
第1の実験の結果から、SmBCOコーティング溶液とYBCOコーティング溶液とを混合すると、超電導体として著しく不利な状況が作られていることが分かる。SmBCOコーティング溶液は、Sm−PFPと、Ba−TFAと、Cu−TFAのメタノール溶液と、を含む。成膜で得られるゲル膜は、溶質と、溶質の間に挟まれたメタノール分子と、を含む。そのメタノール分子のゲル膜中での体積比率は、30vol%程度であることがわかっている。仮焼時にこのメタノールの大半が蒸発する。その際に、メタノールとTFA基とが水素結合で強く引き合う。一方、メタノールとPFP基とが互いに引き合う程度は、メタノールとTFA基との間の場合に比べて、低い。そのため、少量のPFP塩が混合していた場合には、PFPが結合する金属種が、大きく偏析することとなる。
SmBCOとYBCOとの比率を5:95とすると、Sm−PFPは、ごく少量となる。金属イオンの濃度が、約0.83%である。この状況下では、Sm−PFPは、特に、基板10上に偏析しやすい。
一方で、大量のPFP塩が含まれる場合は、メタノールによる力が加わらない分子が多数存在するために、偏析が小さい可能性がある。Sm−PFP、Ba−TFA及びCu−TFAを用いる場合には、PFPの濃度は、約16.7%であるこのPFP比率は、後述する実験と比較して、非常に多い。PFPは、仮焼時にメタノールが蒸発する際にクーロン力を受けにい。このため、大量のTFAの中に少量のPFPが存在した場合には、PFPは、基板に向かう方向に相対的に移動することとなる。一方、大量のPFPが存在する場合には、基板に向かう方向に移動しようとする物質が大量となるため、移動が起きにくくなり、偏在が緩和される。この際、移動できなかったPFPは、TFAよりも大きな分子量のために、残留炭素の原因となる。その残留炭素により、特性が低下する傾向が強くなる。その膜厚は、150nmを超えた場合に顕著であった。この残留炭素増加の傾向は、厚さが増大すると、増大する。
PFPはTFAよりも高温で分解する。このため、超電導層が厚い場合、PFPが蒸発しやすい成分となって散逸する可能性が、TFAに比べて、低下する。残留炭素が増えれば、無配向領域40の比率が増大する。このため、第1参考例の手法では、より多くの無配向領域40が形成される。この傾向は、超電導層の厚さが厚いと、著しくなる。150nm以上の厚さにおいて、特に、多くの無配向領域40が形成されると考えられる。
PFPが大量に含まれる系において、炭素残渣が基板界面などに大量に存在すると、炭素残渣の位置を起点として、ランダムな配向層が形成される。ランダムな配向層の上においてエピタキシャルにペロブスカイト構造が形成されにくく、特性が低下する、と考えられる。超電導層が厚い場合に、特にSmBCOにおける特性が低下していたのは、このような理由からである、と考えられる。分析結果も、このモデルと一致する。超電導層が薄い場合において比較的高い特性が得られたのも、同様に説明できる。
1FS−YSmには、Sm−PFPは、少量しか含まれていない。SmBCOコーティング溶液を5%で、YBCOコーティング溶液を95%として、混合したため、Sm−PFPの濃度は、0.83%である。すなわち、Sm−PFPの濃度は、低下する。この状況から、メタノール分子が蒸発して上方に移動する際に、Sm−PFPだけが水素結合によるクーロン力を受けないことになる。この場合は、Sm−PFPが少量であるために、基板界面において、顕著な偏析が生じる。超電導体において、SmはYサイトに入る原子である。そのため、その原子が基板界面に集中的に存在すると、化学量論がずれてしまう。その化学量論ずれは、無配向領域40の形成につながる。基板界面にSmが集中すると、そこにはペロブスカイト構造ではない層が生成されやすくなる。このため、構造変動が大きい組織が形成されるため、特性が低下しやすい。その結果、少量のSmBCOコーティング溶液を混合した場合に、特性が顕著に低下する。これにより、断面観察像から、無配向領域40が大量に観察された、と考えられる。
(第2の実験)
第1の実験で観察された悪影響は、Smに結合するPFP基をTFA基に置換すれば、改善される、と考えられる。ただし、この置換は、容易ではない。そもそもSm−TFAにおいては、エステル化反応が起こりやすい。エステル反応を抑制するために、上記の第1参考例の手法がある。第1参考例により、PFP基もTFA基も、金属と結合して塩を作れば、水素を含まない物質となる。溶液精製により水素を含有する不純物(副生成物の酢酸など)が除去されたSmBCO超電導体が、TFA−MOD法で作られるようになる。しかしながら、TFAでPFPの置換が進むかどうかは、わからない。関連する実験として、以下の第2の実験を行った。
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。この際、金属モル比は、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ(egg-plant shaped flask)中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質2MAi(第2の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質2MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質2MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質2MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質2MAが得られる。半透明青色の物質2MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液2hCs−BaCu(第2の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質2MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質2MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質2MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質2MBが得られる。半透明黄色の物質2MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液2hCs−Sm1(第2の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。2hCs−Sm1に、100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに100hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液2hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。この操作を更に2回繰り返し、2hCs−Sm3と2hCs−Sm4とを得た。
高速液体クロマトグラフィー法により、PFP及びTFAの定量分析を行った。
表3は、残留PFPに関する高速液体クロマトグラフィーの分析結果である。表3には、置換回数N_rep(replaced)、PFP比率A_PFP、及び、TFA比率A_TFAが、示されている。PFP比率A_PFPは、単位体積において、PFPの量の、PFPの量とTFAの量との合計に示す比である。TFA比率A_TFAは、単位体積において、TFAの量の、PFPの量とTFAの量との合計に示す比である。表3は、TFAによって置換されたPFPの量を示す。
表3において、試料1Cs−Sm1において、置換回数N_repは、0である。試料1Cs−Sm2において、置換回数N_repは、1である。試料1Cs−Sm3において、置換回数N_repは、2である。試料1Cs−Sm4において、置換回数N_repは、3である。
置換操作前である半コーティング溶液2hCs−Sm1からは、PFPしか検出されなかった。すなわち、PFP中において、不純物として含まれる可能性のあるTFA比率が、極めて少ない。1回置換を行った半コーティング溶液2hCs−Sm2においては、この条件下で、56%のPFPが残留していた。すなわち、44%のTFAしか置換しなかった。TFAの推定pHが−0.6であり、PFPの推定pHは−1.0と考えられる。PFPの親水性は、TFAの親水性よりも低く、PFPの強酸性は、TFAの強酸性よりも強い。TFAによるPFPの置換は、難しい。
PFPが強酸性を有するため、TFAによるPFPの置換は、進み難い。PFPの乖離の程度はTFAの乖離の程度よりも高いいため、TFAとPFPとを溶液状態で混在させれば、TFAはPFPよりも溶液中から追い出されやすい。このため、HPLCにおいてTFA比率A_TFAが44%となったと考えられる。実施形態においては、大量の溶媒中にPFP塩が溶解される。これにより、TFAと混合したときに、エステル化反応が抑制される。実施形態においては、比較的緩い条件を用いることで、PFPを大量に置換することができる。
PFP塩にTFA塩を直接混合させて置換を行う第2参考例がある。第2参考例において、PFP塩にTFAを直接振り掛けての置換においては、PFP基やTFA基の移動が十分に行われない。今回実施した第2の実験は、第2参考例において、十分な溶媒を用いた場合に対応する。従って、第2参考例における置換量は、この第2の実験において得られた44%をはるかに下回ると考えられる。第2参考例においては、TFA比率A_TFAが、10%〜15%であると推定される。第2参考例においては、溶液をそのまま振り掛けただけなので、Sm−PFPが十分に乖離できていないと考えられる。
TFAによるPFPの置換において、効果が発揮される量は、モデルから推測可能である。仮焼時において溶媒(メタノール)が蒸発するときにSm−PFPが分離するのは、リガンドの全てに、水素結合しにくいPFP基が結合していたからである。3つのPFP基がSmと結合している場合において、3つのPFP基のうちの1つでもTFAで置換されていれば、メタノールの蒸発時に上部へ引っ張られる影響が生じる。
以下、TFAによる置換において、どのように置換が進むかを考察する。TFAの乖離定数よりもPFPの乖離定数は大きい。TFAに比べて、PFPは、結合しやすい。従って、TFAによる置換量が増えても、特定のSm−PFPにおいて、PFPの全部がTFAにより置換されてSm−TFA3が形成され、そのSm−TFA3が、置換されていないSm−PFP3どうしの間に存在するとは考えにくい。従って、置換量に応じて、Smに結合するTFA比率は、均等に増える、と考えるのが自然である。例えば、TFA比率が33%のときに、全てのSmのそれぞれにTFAが結合する、と考えられる。このときに、一定の効果が生じる。TFA比率が67%のときに、平均的に、1つのSmに結合する3つの基の内の2つが、TFAにより置換される、と考えられる。TFA比率が67%以上において、特に大きな効果が期待される、と考えられる。このモデルは、本願の発明者が初めて見いだした。このモデル及び関連実験事実をベースに、実施形態が提案されている。
置換回数を増やした場合、置換量が増えるとともに、エステル化による分解も促進される。そのため、回数を大幅に増やすことは難しい可能性がある。置換回数は、7回程度以下が実用的である、と考えられる。本実施形態において最も置換が進んでいない1回置換でも、PFPの44%がTFAにより置換される。この状態では、Sm(PFP)3において、平均的に、Smに結合するPFPの1つは、TFAにより置換される。そして、2つのTFAと結合するSm塩が存在する、と考えられる。これにより、Sm偏析を低減する効果が働くと考えられる。それについての実験と調査を行った。
(第3の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質3MAi(第3の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質3MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質3MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質3MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質3MAが得られる。半透明青色の物質3MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液3hCs−BaCu(第3の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質3MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質3MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質3MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質3MBが得られる。半透明黄色の物質3MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液3hCs−Sm1(第3の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。3hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液3hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液3hCs−BaCuと、半コーティング溶液3hCs−Sm2と、を混合し、コーティング溶液3Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液3Cs−Sm2と、を混合して、溶液3Cs−YSmが得られる。金属モル比Y:Smは、95:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.48mol/lとなる。
コーティング溶液3Cs−YSmを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料3FS−YSm(第3の実験、Film of SuperConductor、YBCO+SmBCO)が得られた。
3FS−YSmを、XRD測定の2θ/ω法で測定した。測定により、配向した異相などの存在が、確認できる。超電導体のピーク強度の強さから、超電導体の膜質が推定できる。
図8は、実験結果を示すグラフである。
図8は、溶液を1回TFA置換した「5%混合SmBCO+YBCO超電導体」の相同定図である。
図8から、YBCO膜の特徴である(003)、(005)及び(006)のピークが強い傾向が示されていることが分かる。(006)ピークに対応する2θは、46.68度であり、YBCOの場合と、ほぼ同じである。そして、これらのピークのそれぞれが、非常に強い。この試料のJc値は、7.1MA/cm2(77K、0T)と、良好な値を示している。この試料と第1の実験との間において、顕著な差異が認識できる。
この試料3FS−YSmの内部構造を観察するため、断面TEM観察を行った。
図9A〜図9Fは、試料の断面TEM像である。
これらの図は、1回TFA置換を行ったSmBCO溶液を、YBCO溶液に、5%の濃度で混合して得られた溶液を用いた「SmBCO+YBCO超電導体」の断面TEM像である。
図9Aは、21000倍の観察像である。図9Aにおいて、基板10(LaAlO3基板)、c軸配向領域20(c軸配向したYBCO層)、及び、a/b軸配向領域30が観察される。a/b軸配向領域30は、a/b軸配向したYBCO層である。図9Aから、a/b軸配向粒子が非常に少ないこと、及び、塊状の無配向領域40がこの倍率では見えないことが分かる。
図9Bは、図9Aの破線部分を拡大した観察像である。図9Bは、52000倍の観察像である。図9Bにおいて、液相成長に基づく厚さの変動が、観察される。この厚さの変動は、TFA−MOD法による超電導層の特徴である。図9Bにおいて、この倍率においても、無配向領域40は観察されない。
図9Cは、図9Bの破線部分を拡大した観察像である図。図9Cは、20万倍の観察像である。図9Cにおいて、均一に配向した組織が見られている。図9Cの観察像からは、無配向領域40は観察されない。既に説明したように、無配向領域40が存在している場合には、図7Dの20万倍の倍率によって無配向領域40が観察される。このように、無配向領域40が観察可能な20万倍の観察結果である図9Cにおいて、無配向領域40が観測されていない。
図9Dは、図9Cの破線部分を拡大した観察像である。図9Dでは、均一なc軸配向組織が観察されている。全面に渡って、均一なc軸配向組織が維持されている。図9Dにおいて、無配向領域比率Rnbを計算すれば、0%となる。
図9Eは、図9Dに破線で示す、基板近傍領域の、高倍観察像である。
図9Fは、図9Dに破線で示す、表面近傍領域の、高倍観察像である。
図9Eでは、LaAlO3基板の直上において、多少揺らいだYBCO+SmBCOのペロブスカイト構造が、観察できる。基板から25nm程度離れた位置では、それが解消し、さらに、基板からの距離が25nmよりも長い位置では、揺らぎ(乱れ)の無いペロブスカイト構造が存在している。
図9F(表面近傍領域の観察結果)においては、膜上部まで異相の全く無いペロブスカイト構造が観察される。そして、無配向領域40は観察されない。試料3FS−YSmにおいては、基板近傍を除いて、均一な層が形成されていることが観察できた。
この結果は、先に説明したモデルに基づく推測と、合致する。第2の実験の説明で記載したモデルでは、仮焼時において、メタノール分子が蒸発時にTFA基に作用して、TFA基を上方に移動させる。第3の実験において、Sm−PFPにおいて、3つのPFPの少なくとも1つは、TFAに置換できた、と考えられる。例えば、Sm(PFP)2(TFA)の分子においては、メタノールの蒸発による移動の影響を受け、基板近傍におけるSm偏析が抑制されたと考えられる。その効果は、図9A〜図9Fの断面TEM観察像で観察された通りである。
試料3FS−YSmにおいて、YBCO内におけるSmの分散の状態を調べた。断面TEM観察像の中央部を中心とした、3つの異なる領域で分析を行い、Smの偏在の状態を評価する。具体的には、2nm×2nmの領域、10nm×10nmの領域、及び、50nm×50nmの領域のそれぞれにおいて、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometer)マップ分析を行った。
図10A〜図10Dは、試料の分析結果を示す模式図である。
図10Aは、試料の分析位置を示す図である。
図10B〜図10Dは、試料の分析結果を示す図である。
図10Aは、EDS分析を行った領域(area 1、area 2、及び、area 3)を示す断面TEM像である。領域area 1は、2nm×2nmの領域である。領域area 2は、10nm×10nmの領域である。領域area 3は、50nm×50nmの領域である。図10B〜図10Dは、area 1、area 2、及び、area 3の領域のEDS分析結果を示す。図10B〜図10Dにおいて、横軸は、エネルギー(keV)であり、縦軸は、量(カウント)である。
図10B〜図10Dから、領域が互いに異なっていても、Y、Ba、Cu及びSmのそれぞれの分布がほぼ同じであることがわかった。例えば、Smが偏在していた場合において、ユニットセルの幅は0.4nmであり、ユニットセルの高さは1.2nm程度である。そのため、観察結果が奥行き方向において平均されるTEM観察の場合においても、Smが偏在している場合には、2nm×2nmの領域の分析において、Smの分布が大きくが異なる、と考えられる。しかしながら、図10B〜図10Dに示すように、これらの3つの領域で差が実質的に無い結果が得られた。大きい面積の50nm×50nmの領域でも、小さい面積の他の領域と同じような分布となっている。このことは、SmBCOのユニットセルが、YBCOユニットセルのユニット毎に分散している状態(例えば究極分散)が得られていることを示している。
高いTcを有するSmを含有する超電導体において、従来の技術では、原子レベルでSmが究極分散させることは困難である。従来のTFA−MOD法においては、Eu以降の元素と、Yと、を任意の比率で混合できた実績は、ある。しかしながら、SmBCOが実現された参考例でも、上記の説明の通り、多くの無配向領域40が含まれていたと考えられる。第3の実験の試料は、単体では作るのが難しいSmBCOを、YBCOと混合することにより、初めて得られた構造を有する。第3の実験の試料の構造は、混合時に影響をおよぼすPFPの少なくとも一部をTFAで置換することにより、初めて実現できた構造である。
(第4の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質4MAi(第4の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質4MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質4MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質4MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質4MAが得られる。半透明青色の物質4MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液4hCs−BaCu(第4の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質4MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質4MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質4MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質4MBが得られる。半透明黄色の物質4MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液4hCs−Sm1(第4の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。4hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液4hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。TFAによる置換プロセスを、更に2回繰り返し、コーティング溶液4hCs−Sm4(同上、step 4)を得た。
半コーティング溶液4hCs−BaCuと、半コーティング溶液4hCs−Sm4と、を混合し、コーティング溶液4Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液4Cs−Sm4と、を混合して、溶液4Cs−YSmが得られる。金属モル比Y:Smは、85:15である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は1.47mol/lとなる。
コーティング溶液4Cs−YSmを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料4FS−YSm(第4の実験、Film of SuperConductor、YBCO+SmBCO)が得られた。
得られた試料4FS−YSmの内部構造を観察するため、断面TEM観察およびEDSマップ分析を行った。この試料は、TFAで3回置換したコーティング溶液を、YBCO用のコーティング溶液に、15%加えた溶液を用いて得られた超電導体である。この試料における置換回数N_repは、3である。表3に関して既に説明したように、置換回数N_repが3の場合、Smに結合したPFP比率A_PFPは、40%である。Smは3価であり、3つのPFP基がSmに結合することができる。PFP比率A_PFPが40%であることは、平均して、1.2個のPFPがSmに結合していることを意味している。従って、この実験の試料においても、PFP比率A_PFPは、40%である。この試料の溶液において、SmBCO溶液の金属イオン中で、Smは、1/6を占める。第4の実験の溶液においては、その溶液を、15%の割合で混合している。TFAとPFPとの合計に対する、PFPの比率(PFP比率A_PFP)は、40%×(1/6)×15%となり、1.0%となる。
1FS−YSmでは、コーティング溶液中のPFP比率は、TFA+PFPに対して、0.83%であった。全く置換していないSm−PFPを5%使用したからである。すなわち、PFP比率A_PFPは、100%×(1/6)×5%であり、0.83%となる。例えば、図7Dで示された無配向領域40が含まれる試料のための溶液よりも、4FS−YSmのための溶液の方が、PFP含有量が多いことになる。TFAで精製した試料3FS−YSmにおいては、56%のPFPが結合したSm(金属イオン中では1/6)を、YBCO溶液へ、5%混合している。この場合のPFP比率は、0.45%となる。
第4の実験の試料の評価結果について説明する。
図11A〜図11Fは、試料の断面TEM像である。
これらの図は、1回TFA置換を行ったSmBCO溶液を、YBCO溶液に、15%の濃度で混合した溶液により得られた「SmBCO+YBCO超電導体」の断面TEM像である。
図11Aは、試料4FSc−YSmの21000倍の断面TEM観察像である。
図11Aにおいて、無配向領域40と考えられる2つの領域と、a/b軸配向領域と考えられる3つの領域と、が観察される。仮に、この観察像内の2か所だけが無配向領域40であるの場合、無配向領域比率Rnb(NL/BL)は、3.9%となる。
図11B及び図11Cは、図11Aを52000倍で観察した像である。図11Bでは、2か所に無配向領域40が観測されており、NL/BLは、6.8%となる。図11Cでは、1つの無配向領域40が観察され、NL/BLは、5.5%となる。図11Bに示される図の一部において2μmの基準長BLを設定する場合に、NL/BLが最も大きくなる。このときに、NL/BLは、7.7%となる。この値は、過去に実現できなかったと考えられる15%を、大きく下回る。
試料4FS−YSmに対応するコーティング溶液におけるPFPの含有量は、第1の実験、第3の実験、及び、第4の実験の試料1FS−YFS、3FS−YSm、4FS−YSmの中で、最大である。その影響が、基板界面に現れるか否かを調べるため、高倍観察を進めた。
図11Dは、図11Bの中央部付近において均質に観察される部分を、20万倍に拡大して観察した観察像である。図11Eは、更に拡大した観察像であるあり、図11Eにおける倍率は、42万倍である。図11Eから、基板から50nmの距離までの領域において、揺らいだ構造が観察されるが、その領域から膜表面までの領域においては、揺らいだ構造は観測されない。無配向領域40も含まれない。図11Eは、基板界面から膜上部まで観察可能な像であり、図11Eから計算される無配向領域比率Rnbは、0%となる。
それに対して、参考例の手法で成膜された膜では、無配向領域比率Rnbは、15%よりも高い。第4の実験の試料においては、SmBCOを部分的に混合することで、無配向領域比率Rnbを15%以下にできた。
図11Fは、この試料を210万倍で観察した観察像である。図11Fでは、ペロブスカイト構造を構成する原子の1つ1つが観察でき、基板であるLaAlO3との境界面も、はっきりと認識できる。この視野では、基板から40nm程度の距離までの領域で、配向層が乱れていて、その上部では配向層が、乱れていない。この配向層の乱れは、Smの偏在に起因することが後述する分析からわかっている。
試料4FS−YSmにおいては、のPFP比率A_PFPが、1.0%であり、図7D及び図7Eに示した試料1FS−YSmよりも多くのPFPを含んでいることが分析結果からもわかっている。PFPが残留すると、残留炭素などにより影響が生じる。それとは別に、Smが偏析した影響が、試料4FS−YSmと、試料1FS−YSmと、の差となる。Smに結合するPFPの33%以上を、TFAで置換することで、良好な特性が得られる。Smに1つでもTFAが結合していれば、仮焼時にメタノールが蒸発する際に、メタノールがそのTFAに引き寄せられて、基板界面におけるの極端な偏析が抑制される。それにより、高特性の超電導体が得られる。
PFP比率A_PFPは、低いほど良いと考えられる。PFPの全てをTFAにより置換して、SmBCOを成膜しても良い。
試料4FS−YSmのSmが、どこに含まれるかを確認するために、EDSマップ分析を行った。試料4FS−YSmにおいて、Y、Ba及びCuのそれぞれの、全金属元素の量に対する比率は、10%以上であるので問題ないが、Smの量については、試料形成前の状態の量が2.5%であり、Smの絶対量は、少ない。これに加えて、Smのピークは、Baの強度が強いピークと重なる。このため、Smに関しては、最強線での定量評価が困難であり、2番目に強いピークでの評価となる。そのため、測定領域を事前に指定することとした。
図12は、試料の評価結果を示すチャートである。
図12は、EDX測定結果と、データ解析に用いた計算範囲と、を示している。図12において横軸は、エネルギー(keV)であり、縦軸は、検出された量(強度、カウント)である。図12は、試料4FS−YSmの膜中央部の50nm×50nmの領域における、EDX分析結果を示している。
図12において、Yのバックグランド領域BG(Y)と、Yの量の計算に用いた領域CL(Y)と、Baのバックグランド領域BG(Ba)と、Baの量の計算に用いた領域CL(Ba)と、Smのバックグランド領域BG(Sm)と、Smの量の計算に用いた領域CL(Sm)と、Cuのバックグランド領域BG(Cu)と、Cuの量の計算に用いた領域CL(Cu)と、が示されている。
図12において、Yの最強線Y−1、Baの最強線Ba−L1、Smの最強線Sm−L1、及び、Cuの最強線Cu−K1が示されている。この他、Baの線Ba−L2、Ba−L3、Ba−L4、及び、Ba−L5が示されている。さらに、Smの線Sm−L2が示されている。さらに、Cuの線Cu−K2が示されている。
Yの最強線Y−L1、Baの最強線Ba−L1、及びCuの最強線Cu−K1は、他のピークと重ならないため、問題は無い。一方、Smの最強線Sm−L1は、Baの線Ba−L4の影響を受けている。そこで、Smの評価においては、線Sm−L2を用いることとし、図12で示したバックグランド領域BG(Sm)の強度をバックグランド値とした。
まず膜の均質性を調べるため、平均厚さの50%の位置を中心とする、2nm×2nmの領域、10nm×10nmの領域、及び、50nm×50nmの領域のそれぞれにおけるSmの量(Smの比)を調べた。
図13は、試料の測定結果を示すグラフである。
図13は、SmBCOの、基板から平均厚さの0.50倍の位置を中心とする、2nm×2nmの領域、10nm×10nmの領域、及び、50nm×50nmの領域のそれぞれの領域においてSmの量(Smの比)を測定した結果である。
図13の横軸は、測定対象の領域の1辺の長さRL(nm)である。横軸は、対数で表示している。縦軸は、検出されたSmの比AR(%)である。Smの比ARは、原子パーセントである。Smの比ARは、これらの領域のそれぞれに含まれる全ての金属の量に対する、これらの領域のそれぞれに含まれるSmの量の比である。Smの比の測定における誤差は、±0.5%であると考えられる。
図13に示すように、長さRLが、2nmのときに、Smの比ARは、約3%である。長さRLが、10nmのときに、Smの比ARは、約2.1%である。長さRLが、50nmのときに、Smの比ARは、約2.4%である。
3つの測定領域におけるSmの比ARの測定結果は、測定における誤差の範囲内である。従って、図13から、試料内において、Smが均一に分布していることが分かる。YBCO膜で高い配向性を示すペロブスカイト構造が得られたことは、これまで多数報告されている。しかしながら、一定の量(濃度)で均一にSmが設けられた系は、この実験結果において初めて実現されたと考えられる。
この試料において、SmBCOユニットセルは、2つのYBCOユニットセルの間に配置され、1つのSmBCOユニットセルは、別のSmBCOユニットセルと隣接せず、究極分散している、と考えられる。SmBCOユニットセルのサイズは大きいため、疑似液相からユニットセルが形成される際に、SmBCOユニットセルどうしが隣接すると、SmBCOユニットセルが成長しにくいと考えられる。そのため、SmBCOに隣接する可能性が高いのは、YBCOユニットセルとなる。これにより、ユニットセル毎に、SmBCOユニットセルと、YBCOユニットセルとが、究極分散していると考えられる。
複数の測定領域において統計計算を行い、標準偏差を平均値で割った値(σ/Ave)を求めると、σ/Aveは、0.162であった。実施形態に係る技術を用いれば、このσ/Aveは、0.325以下となると、と考えられる。この均一性は、過去には実現できなかったと考えだれる。
試料中のSmの量の分布を測定した。測定においては、試料中の9箇所の領域において測定が行われた。
図14は、試料の評価結果を示すグラフである。
図14は、基板から表面に向かって並ぶ複数の領域(10nm×10nm)におけるSm量を測定した結果である。図14の横軸は、測定領域の位置Mpである。縦軸は、Smの比AR(%)である。position Nの領域の中心と、基板と、の間の距離は、{20(N−1)+10}nmである。例えば、position 3の領域の中心と、基板と、の間の距離は、50nmとなる。
図14に示すように、基板から50nmまでの位置(position 1〜position 3)では、Sm量が多く、それ以降は、Sn量は均一で少なくなっている。平均で、2.5%のSmが存在するはずであるが、基板近傍におけるSm量は約5%であり、平均の2倍近いSm量が検出されている。基板近傍におけるSmの偏在により、positon 4以降では、Sm量が平均2.0%程度と少なくなったと考えられる。
このように、基板から50nmまでの位置(position 1〜position 3)におけるSmの比ARは、基板から離れた位置(position 4〜position 10)におけるSmの比ARよりも高い。すなわち、第1面側領域55は、第3領域55cと第4領域55dとを含む(図1B参照)。第4領域55dは、第3領域55cと基体15との間に設けられる。第4領域55d厚さは、50nmである。第4領域55dに含まれる金属元素の量(全ての金属元素の量)に対する、第4領域55dに含まれるREBの量の比(第4領域比)は、第3領域55cに含まれる金属元素の量(全ての金属元素の量)に対する、第3領域55cに含まれるREBの量の比(第3領域比)以上である。例えば、第4領域比は、第3領域比の1倍以上3.5倍以下である。
なお、最も表面に近い領域では、部分的に厚さが不足してシグナルが得られない領域が存在する、と考えられ、測定された値は実際の値よりも小さい可能性がある。
図14の結果は、Smがより偏析すると、影響が及ぶことを間接的に示している。基板界面のSm量は、他の部分の2倍近くになっている。これまでのEDSマップの観察結果では、最大で3.5倍の差までが測定されている。
図14に示されるpositon 4〜position 9におけるSmの比ARの標準偏差を平均値で割った値(σ/Ave)は、0.090と小さい。
実施形態に係る技術を用いれば、このσ/Aveは、0.18以下である、と考えられる。実施形態において、例えば、複数の第5領域55e(図1B参照)のそれぞれは、複数の第5領域55eに含まれる金属元素の量に対する、複数の第5領域55eのそれぞれに含まれるREBの量の比(第5領域比)を有する。このとき、複数の第5領域55eのそれぞれの第5領域比の分散は、複数の第5領域55eのそれぞれの第5領域比のそれぞれの平均(算術平均)の0.18倍以下である。複数の第5領域55eにおけるREBの量(比)が均一であることで、良好な特性(高いJc値)が得易くなる。このような均一性は、過去には実現しえなかったと考えられる。
以上の結果から、Smに結合するPFP基のうちの60%をTFAで置換した溶液を、15%の比率で、YBCOコーティング溶液に混合した溶液においても、良好なペロブスカイト構造の超電導体が得られることが分かった。第4の実験の試料のJc値は、7.2MA/cm2(77K、0T)であった。PFPの総量(PFPの物質量)がJc値に与える影響よりも、Smに結合するPFPの比率(PFP比率A_PFP)がJc値に与える影響が大きいことが分かった。
(第5の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質5MAi(第5の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質5MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質5MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質5MAi完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質4MAが得られる。半透明青色の物質4MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液5hCs−BaCu(第5の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質5MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質5MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質5MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質5MBが得られる。半透明黄色の物質4MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液5hCs−Sm1(第5の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。5hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液5hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液5hCs−BaCuと、半コーティング溶液5hCs−Sm2と、を混合し、コーティング溶液5Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液5Cs−Sm4と、を混合して、以下のコーティング溶液が得られる。
コーティング溶液5Cs−YSm5(第5の実験、Coating solution YBCO with SmBCO 5% mixied)において、金属モル比Y:Smは、95:5である。
コーティング溶液5Cs−YSm10において、金属モル比Y:Smは、90:10である。
コーティング溶液5Cs−YSm15において、金属モル比Y:Smは、85:15である。
コーティング溶液5Cs−YSm20において、金属モル比Y:Smは、80:20である。
コーティング溶液5Cs−YSm25において、金属モル比Y:Smは、75:25である。
コーティング溶液5Cs−YSm30において、金属モル比Y:Smは、70:30である。
コーティング溶液5Cs−YSm35において、金属モル比Y:Smは、65:35である。
コーティング溶液5Cs−YSm40において、金属モル比Y:Smは、60:40である。
コーティング溶液5Cs−YSm45において、金属モル比Y:Smは、55:45である。
コーティング溶液5Cs−YSm50において、金属モル比Y:Smは、50:50である。
得られたコーティング溶液のそれぞれにおける全金属イオンの濃度は、1.41〜1.49mol/lとなる。
コーティング溶液5Cs−YSm5、5Cs−YSm10、5Cs−YSm15、5Cs−YSm20、5Cs−YSm25、5Cs−YSm30、5Cs−YSm35、5Cs−YSm40、5Cs−YSm45、及び、5Cs−YSm50のそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料5FS−YSm5(第5の実験、Film of Superconductor、YBCO with 5% SmBCO)、5FS−YSm10、5FS−YSm15、5FS−YSm20、5FS−YSm25、5FS−YSm30、5FS−YSm35、5FS−YSm40、5FS−YSm45、及び、5FS−YSm50、をそれぞれ得た。
上記の試料について、XRD測定2θ/ω法による相同定、および、誘導法によるJc測定を行った。YBCO(006)付近に現れるピーク強度が15万cpsを超えた試料は、5FS−YSm5、5FS−YSm10、5FS−YSm15、5FS−YSm20、5FS−YSm25、5FS−YSm30、5FS−YSm35、及び、5FS−YSm40であった。5FS−YSm45及び5FS−YSm50のそれぞれにおいて、YBCO(006)付近に現れるピーク強度は、約12万cpsと8万cpsと、であった。Jc値は、5FS−YSm5、5FS−YSm10、5FS−YSm15、5FS−YSm20、5FS−YSm25、5FS−YSm30、5FS−YSm35、5FS−YSm40、5FS−YSm45、及び、5FS−YSm50の順に、MA/cm2(77K、0T)の単位で、7.5、7.2、7.3、7.1、7.6、7.8、6.9、6.7、5.4、及び、4.1であった。試料5FS−YSm5及び5FS−YSm15においては、無配向領域40が少ないことが観察され、Jc値は、7MA/cm2(77K、0T)に近い。これに対して、参考例では無配向領域40が含まれていたと考えられ、Jc値は、約5MA/cm2(77K、0T)である。上記の結果から、40mol%以下のSmの比率において、無配向領域40が少ない状態が維持されていると考えられる。
(第6の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質6MAi(第6の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質6MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質6MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質6MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質6MAが得られる。半透明青色の物質6MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液6hCs−BaCu(第6の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質6MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質6MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質6MBi完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質6MBが得られる。半透明黄色の物質6MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液6hCs−Sm1(第6の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。6hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液6hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。同様の手法での置換処理を更に2回繰り返し、それぞれ半コーティング溶液6hCs−Sm3(同上、step 3)及び6hCs−Sm4(同上、step 4)を得た。
半コーティング溶液6hCs−BaCuと、半コーティング溶液6hCs−Sm4と、を混合し、コーティング溶液6Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液6Cs−Sm4と、を混合し、コーティング溶液6Cs−YSm(第6の実験、Coating solution YBCO with SmBCO)を得た。金属イオン濃度Y:Smは、95:5である。このコーティング溶液における全金属イオンの濃度は1.47mol/lとなる。コーティング溶液において、3回の置換が行われているので、Sm−PFPのうちの60%が、TFAにより置換されたと考えられる。そのため、平均的に、3つのPFP基のうちの2つが、TFAであると考えられる。
コーティング溶液6Cs−YSmを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料6FS−YSm5−1(第6の実験、Film of Superconductor、YBCO with 5% SmBCO 、sample 1)が得られた。
得られた膜の断面TEM観察を、21000倍〜210万倍の倍率で行った。2μmの基準長BLでの無配向領域比率Rnb(NL/BL)は最大で4.5%であった。図11Aと比較して、無配向領域比率Rnbが小さいのは、3回の置換を行った効果が表れた、と考えられる。誘導法によるJc測定を行った。7.4MA/cm2(77K、0T)のJc値が、得られた。この超電導体の厚さは、約150nmである、と考えられる。
コーティング溶液6Cs−YSmを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数2000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料6FS−YSm5−2が得られた。誘導法によるJc測定を行った。6.8MA/cm2(77K、0T)のJc値が、得られた。この超電導体の厚さは、約220nmである、と考えられる。厚さが増加しても特性低下があまり見られていない。この傾向は、TEM観察結果のa/b軸配向粒子の少なさからも、説明が可能である。この傾向は、PFPをTFAにより置換したことによる。実施形態によれば、超電導体の内部の分離を抑制できる。
(第7の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質7MAi(第7の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質7MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質7MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質7MAi完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質7MAが得られる。半透明青色の物質4MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液7hCs−BaCu(第7の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質7MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質7MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質7MBi完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質7MBが得られる。半透明黄色の物質7MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液7hCs−Sm1(第7の実験、half coating solution for SmBCO step 01)を得た。7hCs−Sm01に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液7hCs−Sm02(同上、step 02)を得た。同様の手法での置換処理を更に19回繰り返し、半コーティング溶液7hCs−Sm03〜7hCs−Sm21を得た。置換回数は、半コーティング溶液に関する上記の表記において、「Smの後の文字」から1を減じた数である。
半コーティング溶液7hCs−BaCuと、半コーティング溶液7hCs−Sm04、6hCs−Sm06、7hCs−Sm08、7hCs−Sm11、7hCs−Sm14、7hCs−Sm17及び7hCs−Sm21のそれぞれと、を混合し、コーティング溶液7Cs−Sm04、7Cs−Sm06、7Cs−Sm08、7Cs−Sm11、7Cs−Sm14、7Cs−Sm17及び7Cs−Sm21のそれぞれを調製した。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は1.33mol/lとなる。それぞれの溶液において、Sm:Ba:Cu比は、1:2:3である。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液7Cs−Sm04、7Cs−Sm06、7Cs−Sm08、7Cs−Sm11、7Cs−Sm14、7Cs−Sm17及び7Cs−Sm21のそれぞれと、を混合し、コーティング溶液7Cs−YSm04(第7の実験、Coating solution YBCO with SmBCO、derived from step 04)、7Cs−YSm06、7Cs−YSm08、7Cs−YSm11、7Cs−YSm14、7Cs−YSm17及び7Cs−YSm21を得た。これらの溶液において、金属モル比Y:Smは、95:5である。これらのコーティング溶液のそれぞれにおける全金属イオンの濃度は、「1.47mol/lとなる。
コーティング溶液7Cs−YSm04、7Cs−YSm06、7Cs−YSm08、7Cs−YSm11、7Cs−YSm14、7Cs−YSm17及び7Cs−YSm21のそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料7FS−YSm04(第7の実験、Film of Superconductor、YBCO with SmBCO 、derived from step 04)、7FS−YSm06、7FS−YSm08、7FS−YSm11、7FS−YSm14、7FS−YSm17及び7FS−YSm21が得られた。誘導法によるJc測定を行った。それぞれのJc値(MA/cm2(77K、0T))は、7.3、7.5、7.4、6.5、5.2、5.1、及び、4.8であった。
(第8の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質8MAi(第8の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質8MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質8MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質8MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質8MAが得られる。半透明青色の物質8MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液8hCs−BaCu(第8の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質8MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質8MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質8MBi完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質8MBが得られる。半透明黄色の物質6MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液8hCs−Sm1(第8の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。8hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液8hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。同様の手法での置換処理を更に2回繰り返し、それぞれ半コーティング溶液8hCs−Sm3と8hCs−Sm4を得た。
半コーティング溶液8hCs−BaCuと、半コーティング溶液8hCs−Sm4と、を混合し、コーティング溶液8Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.33mol/lとなる。
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、金属酢酸塩として、Gd(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用い、イオン交換水中に溶解する。金属モル比Gd:Ba:Cuは、1:2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質8MCiが得られる。この半透明青色の物質8MCi中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質8MCiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質8MCiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質8MCが得られる。半透明青色の物質8MCをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液8Cs−Eu(第8の実験、Coating Solution for Eu-based superconductor)を得た。同様の手法でEuに代わり、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを用い、それぞれ1.50mol/lのコーティング溶液8Cs−Gd、8Cs−Tb、8Cs−Dy、8Cs−Ho、8Cs−Er、8Cs−Tm、8Cs−Yb、及び、8Cs−Luを得た。
コーティング溶液8Cs−Gd、8Cs−Tb、8Cs−Dy、8Cs−Ho、8Cs−Er、8Cs−Tm、8Cs−Yb、及び、8Cs−Luのそれぞれに、コーティング溶液8Cs−Smを混合し、コーティング溶液8Cs−EuSm(第8の実験、Coating solution EuBCO with SmBCO)、8Cs−GdSm、8Cs−TbSm、8Cs−DySm、8Cs−HoSm、8Cs−ErSm、8Cs−TmSm、8Cs−YbSm、及び、8Cs−LuSmのそれぞれを得た。各溶液において、金属モル比(希土類元素(例えばEu、Gdなど):Sm)は、85:15である。これらのコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.47mol/lとなる。これらの試料においては、Yサイトに、別の希土類元素が配置される。
コーティング溶液8Cs−LuSm、8Cs−GdSm、8Cs−TbSm、8Cs−DySm、8Cs−HoSm、8Cs−ErSm、8Cs−TmSm、8Cs−YbSm、及び、8Cs−LuSmのそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料8FS−EuSm(第8の実験、Film of Superconductor、EuBCO with SmBCO)、8FS−GdSm、8FS−TbSm、8FS−DySm、8FS−HoSm、8FS−ErSm、8FS−TmSm、8FS−YbSm、及び、8FS−LuSmがそれぞれ得られた。
誘導法によるJc測定を行った。それぞれのJc値(MA/cm2(77K、0T))は、6.6、6.5、7.5、7.4、7.2、7.4、7.0、6.8、及び、6.5であった。
超電導膜である試料8FS−GdSm、8FS−DySm、及び、8FS−LuSmの断面TEM観察を行い、TEM像から2μmの基準長BLでNL/BLを求めた。NL/BLは、それぞれ5.3%、0.0%、及び、4.4%であった。試料8FS−DySmの観察視野では、無配向領域40が観察できなかった。PFP基がTFA基により置換されたことにより、仮焼時の偏析が低減される効果が表れた、と考えられる。
断面TEM像の中心線に中心を置く3つの領域においてEDSマップ測定を、超電導膜である試料8FS−GdSm、8FS−DySm、8FS−LuSmについて、実施した。どの試料においても、Sm量は、2.2%±0.4であった。TEM観察結果から、原子レベルの、良好なc軸配向組織が観測された。Yサイトを、Eu〜Luのいずれかで置換した超電導体において、実施形態に係る技術を用いれば、均一にSmが分散された構造が実現できることが分かった。
(第9の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質9MAi(第9の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質9MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質9MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質9MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質9MAが得られる。半透明青色の物質9MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液9hCs−BaCu(第9の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、NdおよびLaが含まれる半溶液を、それぞれ合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3およびLa(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、それぞれ半透明紫色および半透明白色の物質9MBiおよび9MCiが得られる。
得られた半透明紫色および半透明白色の物質9MBiおよび9MCiのそれぞれに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質9MBiおよび9MCiのそれぞれを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明紫色および半透明白色の物質9MBおよび9MCが得られる。半透明紫色および半透明白色の物質9MBおよび9MCをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/lおよび0.98mol/lとし、半コーティング溶液9hCs−Nd1(第9の実験、half coating solution for NdBCO step 1)および9hCs−La1を得た。9hCs−Nd1および9hCs−La1にそれぞれ100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液9hCs−Nd2(同上、step 2)および9hCs−La2を得た。
半コーティング溶液3hCs−BaCuと、半コーティング溶液9hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液9Cs−Nd2を調製した。コーティング溶液9Cs−Nd2において、金属モル比Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。半コーティング溶液3hCs−BaCuと、半コーティング溶液9hCs−La2と、を混合し、コーティング溶液9Cs−La2を調製した。コーティング溶液9Cs−La2において、金属モル比La:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液のそれぞれにおける全金属イオンの濃度は、1.31mol/lおよび1.38mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液9Cs−Nd2および9Cs−La2のそれぞれと、を混合し、コーティング溶液9Cs−YNdおよび9Cs−YLaが得られた。それぞれの溶液において、金属モル比Y:Ndは、95:5である。これらのコーティング溶液のそれぞれにおける全金属イオンの濃度は、1.49mol/lとなる。
コーティング溶液9Cs−YNdおよび9Cs−YLaのそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料9FS−YNd(第1の実験、Film of SuperConductor、YBCO+NdBCO)および9FS−YLaが得られた。
試料9FS−YNdおよび9FS−YLaをXRD測定の2θ/ω法で測定した。試料9FS−YNdにおいては、YBCO(006)付近に、15万cpsの良好なピークが得られた。試料9FS−YLaにおいては、6万cps程度のピークが得られ。誘導法によるJc測定を行った。9FS−YNdおよび9FS−YLaのそれぞれのJc値は、6.7MA/cm2(77K、0T)および1.4MA/cm2(77K、0T)であった。試料9FS−YLaにおいては、LaBCO溶液の完全性に問題があり、特性が改善しなかった可能性がある。
LaBCO系超電導体は、最も高いTcを持つと考えられるが、参考例においても十分な特性を持つ超電導体は得られていない。そのことが原因となり、YBCO超電導体と混合した超電導体を作っても、特性が改善しなかった可能性が考えられる。La系材料による特性改善は、現状の技術では困難と考えられるため、Nd系のみで検討することにした。
(第10の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質10MAi(第10の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質10MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質10MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質10MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質10MAが得られる。半透明青色の物質10MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液10hCs−BaCu(第10の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明紫色の物質10MBiが得られる。
得られた半透明紫色の物質10MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質10MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明紫色の物質10MBが得られる。半透明紫色の物質10MBをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液10hCs−Nd1(第10の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。10hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液10hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液10hCs−BaCuと、半コーティング溶液10hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液10Cs−Nd2を得た。金属モル比Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.31mol/lである。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液10Cs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液10Cs−YNdを得た。金属モル比Y:Ndは、95:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.49mol/lである。
コーティング溶液10Cs−YNdを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料10FS−YNd(第10の実験、Film of SuperConductor、YBCO+NdBCO)が得られた。
試料10FS−YNdの断面TEM観察とEDSマップ分析とを行い、無配向領域比率Rnbと、Ndの分散状況と、について評価を行った。断面TEM観察において、21000倍〜210万倍の倍率での観察を行い、a/b軸配向粒子の少ない良好な観察像が観察された。2μmの基準長BLにおいて、NL/BLを求めると、NL/BLは、最大で4.3%であった。この結果が、YBCO+SmBCOとの混合の場合に比べて、やや悪化した結果であるのは、Nd系コーティング溶液が、Sm系ほど質が良くないためと考えられる。
参考例のNdBCO超電導体成膜においては、最も高いTcを示した試料でも、Tcは、93.6Kであった。一方、理論的なTcは、96.0Kと言われている。このことは、参考例における溶液が、ベストのものではないことを、間接的に示している。一方、SmBCO成膜では、理論Tcが94.0Kであり、Tcの最高値は、93.9Kである。参考例における溶液合成において、SmBCO用の溶液に比べて、NdBCO用の溶液が、より不完全である。溶液の不完全性が、YBCO溶液との混合により、Nd成分の偏析だけでなく、残留炭素及び残留炭素に起因する無配向領域の形成などにつながり、影響が拡大した、と考えられる。
しかしながら、本実験の試料の上記の無配向領域比率Rnbは、十分に低い値である。NdBCO超電導体が一部として含まれ、高特性の超電導特性を示すペロブスカイト構造が、この試料において、初めて観察された。
(第11の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質11MAi(第11の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質11MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質11MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質11MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質11MAが得られる。半透明青色の物質11MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液11hCs−BaCu(第11の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明紫色の物質11MBiが得られる。
得られた半透明紫色の物質11MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質11MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明紫色の物質11MBが得られる。半透明紫色の物質11MBをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液11hCs−Nd1(第11の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。11hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液11hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。この溶液のTFA比率は35%であった。
半コーティング溶液11hCs−BaCuと、半コーティング溶液11hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液11Cs−Nd2を得た。金属モル比Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.31mol/lである。
第11の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液11Cs−Nd2と、を、で混合し、コーティング溶液11Cs−YNd05(第11の実験、Coating solution YBCO+NdBCO05%)、11Cs−YNd10、11Cs−YNd15、11Cs−YNd20、11Cs−YNd25、11Cs−YNd30、11Cs−YNd35、11Cs−YNd40、11Cs−YNd45、及び、11Cs−YNd50を得た。コーティング溶液11Cs−YNd05、11Cs−YNd10、11Cs−YNd15、11Cs−YNd20、11Cs−YNd25、11Cs−YNd30、11Cs−YNd35、11Cs−YNd40、11Cs−YNd45、及び、11Cs−YNd50のそれぞれにおける、金属モル比Y:Ndは、95:05、90:10、85:15、80:20、75:25、70:30、65:35、60:40、55:45、及び、50:50である。これらのコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.46mol/lである。
コーティング溶液11Cs−YNd05、11Cs−YNd10、11Cs−YNd15、11Cs−YNd20、11Cs−YNd25、11Cs−YNd30、11Cs−YNd35、11Cs−YNd40、11Cs−YNd45、及び、11Cs−YNd50のそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料11FS−YNd05(第11の実験、Film of SuperConductor、YBCO+NdBCO05% mixed)、11FS−YNd10、11FS−YNd15、11FS−YNd20、11FS−YNd25、11FS−YNd30、11FS−YNd35、11FS−YNd40、11FS−YNd45、及び、11FS−YNd50が得られた。
誘導法によるJc測定を行った。それぞれのJc値(MA/cm2(77K、0T))は、それぞれ7.5、7.3、7.4、7.2、7.3、7.0、6.6、6.0、5.6、4.9であって。XRD測定においてYBCO(006)ピーク位置で15万cpsを超える強度を記録した試料は、超電導膜である試料11FS−YNd05、11FS−YNd10、11FS−YNd15、11FS−YNd20、11FS−YNd25、11FS−YNd30であった。Jc値の高さやXRD測定強度の強さなどから、無配向領域40が少ない試料はNdBCO溶液を30%以下混合した場合の溶液である、と考えられる。Smよりも少ない混合比で特性が低下しているのは、NdBCO溶液の純度がSmBCO溶液の純度に劣るために差が生じた、と考えられる。本技術を用いてNdBCO混合超電導体を成膜する場合、Nd量が30%以下であれば良好なペロブスカイト構造が得られる、と考えられる。
(第12の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質12MAi(第12の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質12MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質12MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質12MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質12MAが得られる。半透明青色の物質12MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液12hCs−BaCu(第12の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明紫色の物質12MBiが得られる。
得られた半透明紫色の物質12MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質12MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明紫色の物質12MBが得られる。半透明紫色の物質10MBをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液12hCs−Nd1(第12の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。12hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液12hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液12hCs−BaCuと、半コーティング溶液12hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液12Cs−Nd2を得た。金属モル比Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.31mol/lである。
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、金属酢酸塩にGd(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を用い、イオン交換水中に溶解する。金属モル比Gd:Ba:Cuは、1:2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質12MCiが得られる。この半透明青色の物質12MCi中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質12MCiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのCs−f)を加えて、物質12MCiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質12MCが得られる。半透明青色の物質12MCをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液12Cs−Eu(第12の実験、Coating Solution for Eu-based superconductor)を得た。同様の手法でEuに代わり、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを用い、それぞれ1.50mol/lのコーティング溶液12Cs−Tb、12Cs−Dy、12Cs−Ho、12Cs−Er、12Cs−Tm、12Cs−Yb、及び、12Cs−Luを得た。
コーティング溶液12Cs−Eu、12Cs−Gd、12Cs−Tb、12Cs−Dy、12Cs−Ho、12Cs−Er、12Cs−Tm、12Cs−Yb、及び、12Cs−Luのそれぞれに、コーティング溶液12Cs−Smを混合し、コーティング溶液12Cs−EuSm(第12の実験、Coating solution EuBCO with SmBCO)、12Cs−GdSm、12Cs−TbSm、12Cs−DySm、12Cs−HoSm、12Cs−ErSm、12Cs−TmSm、12Cs−YbSm、及び、12Cs−LuSmのそれぞれを得た。これらのコーティング溶液において、金属モル比(希土類(例えば、Eu、Gdなど):Sm)は、95:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.47mol/lとなる。
コーティング溶液12Cs−EuSm、12Cs−GdSm、12Cs−TbSm、12Cs−DySm、12Cs−HoSm、12Cs−ErSm、12Cs−TmSm、12Cs−YbSm、及び、12Cs−LuSmのそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料12FS−EuSm(第12の実験、Film of Superconductor、EuBCO with SmBCO)、12FS−GdSm、12FS−TbSm、12FS−DySm、12FS−HoSm、12FS−ErSm、12FS−TmSm、12FS−YbSm、及び、12FS−LuSmが、それぞれ得られた。
誘導法によるJc測定を行った。上記の試料のそれぞれのJc値(MA/cm2(77K、0T))は、6.3、6.0、7.1、6.9、7.2、6.8、6.6、6.1、及び、6.5であった。
(第13の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質13MAi(第13の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質13MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質13MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質13MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質13MAが得られる。半透明青色の物質13MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液13hCs−BaCu(第13の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明紫色の物質13MBiが得られる。
得られた半透明紫色の物質13MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質13MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明紫色の物質13MBが得られる。半透明紫色の物質13MBをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液13hCs−Nd1(第13の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。13hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液13hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。
更に上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質13MCiが得られる。
得られた半透明黄色の物質13MCiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質13MCi完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質13MCが得られる。半透明黄色の物質13MCをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液13hCs−Sm1(第13の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。13hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液13hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液13hCs−BaCuと、半コーティング溶液13hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液13Cs−Nd2を得た。金属モル比Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.31mol/lである。
半コーティング溶液13hCs−BaCuと、半コーティング溶液13hCs−Sm2と、を混合し、コーティング溶液13Cs−Sm2を得た。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1,44mol/lである。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液13Cs−Nd2および13Cs−Sm2と、を混合し、コーティング溶液13Cs−YNdSmを得た。得られたコーティング溶液13Cs−YNdSmにおける、超電導体Yサイトに入る金属モル比Y:Nd:Smは、90:5:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.48mol/lである。
コーティング溶液13Cs−YNdSmを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料13FS−YNdSm(第13の実験、Film of SuperConductor、YBCO+NdBCO+SmBCO)が得られた。
試料13FS−YNdSmの断面TEM観察とEDSマップ分析と、を行い、無配向領域40の分散状況の評価を行った。21000倍〜210万倍の倍率による断面TEM観察を行った。a/b軸配向粒子の少ない良好な観察像が観察された。無配向領域比率Rnbは、最大で、3.1%であった。
この試料を誘導法でJc測定を行った。Jc値は、7.2MA/cm2(77K、0T)であった。
(第14の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質14MAi(第14の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質14MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質14MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質14MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質14MAが得られる。半透明青色の物質14MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1,50mol/lの半コーティング溶液14hCs−BaCu(第14の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明紫色の物質14MBiが得られる。
得られた半透明紫色の物質14MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質14MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明紫色の物質14MBが得られる。半透明紫色の物質14MBをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液14hCs−Nd1(第14の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。14hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液14hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。
更に上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行う。得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質14MCiが得られる。
得られた半透明黄色の物質14MCiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質14MCiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質14MCが得られる。半透明黄色の物質14MCをそれぞれメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/l、半コーティング溶液14hCs−Sm1(第14の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。14hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液14hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液14hCs−BaCuと、半コーティング溶液14hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液14Cs−Nd2を得た。金属モル比Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.31mol/lである。
半コーティング溶液14hCs−BaCuと、半コーティング溶液14hCs−Sm2と、を混合し、コーティング溶液14Cs−Sm2を得た。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.44mol/lである。
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、金属酢酸塩にEu(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。各水和物の金属モル比Eu:Ba:Cuは、1:2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質8MCiが得られる。この半透明青色の物質14MDi中には、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質14MDiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質14MDiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質14MDが得られる。半透明青色の物質8MCをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lのコーティング溶液14Cs−Eu(第14の実験、Coating Solution for Eu-based superconductor)を得た。同様の手法で、Euに代わり、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのそれぞれを用い、コーティング溶液14Cs−Gd、14Cs−Tb、14Cs−Dy、14Cs−Ho、14Cs−Er、14Cs−Tm、14Cs−Yb、及び、14Cs−Luを得た。これらの溶液のおける全金属イオンの濃度は、1.50mol/lである。
コーティング溶液14Cs−Eu、14Cs−Gd、14Cs−Tb、14Cs−Dy、14Cs−Ho、14Cs−Er、14Cs−Tm、14Cs−Yb、及び、14Cs−Luのそれぞれと、コーティング溶液14Cs−Nd及び14Cs−Smと、を混合し、コーティング溶液14Cs−EuNdSm(第14の実験、Coating solution EuBCO with NdBCO and SmBCO)、14Cs−GdNdSm、14Cs−TbNdSm、14Cs−DyNdSm、14Cs−HoNdSm、14Cs−ErNdSm、14Cs−TmNdSm、14Cs−YbNdSm、及び、14Cs−LuNdSmを得た。これらのコーティング溶液において、金属モル比(希土類(例えばEu、Gdなど):Nd:Sm)は、90:5:5である。これらのコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.47mol/lとなる。
コーティング溶液14Cs−EuNdSm、14Cs−GdNdSm、14Cs−TbNdSm、14Cs−DyNdSm、14Cs−HoNdSm、14Cs−ErNdSm、14Cs−TmNdSm、14Cs−YbNdSm、及び、14Cs−LuNdSmのそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料14FS−EuNdSm(第14の実験、Film of Superconductor、EuBCO with NdBCO、SmBCO)、14FS−GdNdSm、14FS−TbNdSm、14FS−DyNdSm、14FS−HoNdSm、14FS−ErNdSm、14FS−TmNdSm、14FS−YbNdSm、及び、14FS−LuSmのそれぞれが得られた。
誘導法によるJc測定を行った。これらの試料のそれぞれのJc値(MA/cm2(77K、0T))は、6.5、6.4、7.2、7.3、7.3、7.1、7.2、6.8、及び、6.6であった。
(第15の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質15MAi(第15の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質15MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質15MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質15MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質15MAが得られる。半透明青色の物質15MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液15hCs−BaCu(第15の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質15MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質15MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質15MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質15MBが得られる。半透明黄色の物質15MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液15hCs−Sm1(第15の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。15hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液15hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液15hCs−BaCuと、半コーティング溶液15hCs−Sm2と、を混合し、コーティング溶液15Cs−Smを調製した。金属モル比Sm:Ba:Cuは、1:2:3である。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液15Cs−Sm2と、を混合して、溶液15Cs−YSmが得られる。金属モル比Y:Smは、95:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.48mol/lとなる。
基材15が用意される。基材15は、YSZ単結晶基板(基板10に対応する)と、配向CeO2層(下地層11に含まれる)と、を含む。YSZ単結晶基板の上に、配向CeO2層が形成されている。配向CeO2層の厚さは、100nmである。この基材15を「CeO2/YSZ」と記載する。
コーティング溶液15Cs−YSmを用い、CeO2/YSZの上に、超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料15FS−YSm(第15の実験、Film of SuperConductor、YBCO+SmBCO)が得られた。
この試料のJc値は、7.3MA/cm2(77K、0T)と良好な数値を示した。格子整合性のある基材であれば、例えば、LaAlO3においても同様の特性が得られる。
(第16の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質16MAi(第16の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質16MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質16MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質16MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質16MAが得られる。半透明青色の物質16MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液16hCs−BaCu(第16の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質16MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質16MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質16MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質16MBが得られる。半透明黄色の物質16MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/lの半コーティング溶液16hCs−Nd1(第16の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。16hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液16hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液16hCs−BaCuと、半コーティング溶液16hCs−Nd2と、を混合し、Nd:Ba:Cu=1:2:3となるようにコーティング溶液16Cs−Ndを調製した。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.31mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液16Cs−Nd2と、を混合して、溶液16Cs−YNdが得られる。金属モル比Y:Ndは、95:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.48mol/lとなる。
コーティング溶液16Cs−YNdを用い、CeO2/YSZの上に、超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料16FS−YNd(第16の実験、Film of SuperConductor、YBCO+NdBCO)が得られた。
この試料のJc値は、6.8MA/cm2(77K、0T)と良好な数値を示していた。SmBCOと同様に、格子整合性のある基材上であれば本技術により良好な特性が得られることが分かったされた。
(第17の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質17MAi(第17の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質17MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質17MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質17MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質17MAが得られる。半透明青色の物質17MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液17hCs−BaCu(第17の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質17MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質17MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質17MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質17MBが得られる。半透明黄色の物質17MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液17hCs−Sm1(第17の実験例、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。17hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液17hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液17hCs−BaCuと、半コーティング溶液17hCs−Sm2と、を混合し、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるようにコーティング溶液17Cs−Smを調製した。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液17Cs−Sm2と、を混合して、溶液17Cs−YSmが得られる。金属モル比Y:Smは、95:5である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、1.48mol/lとなる。
コーティング溶液17Cs−YSmを用い、配向中間層(100nmの厚さのCeO2層/250nmの厚さのYSZ層/100nmの厚さのY2O3層)が成膜された圧延配向Ni基板(以下、CeO2/YSZ/Y2O3/Niと記載)上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数4000rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料17FS−YSm(第17の実験、Film of SuperConductor、YBCO+SmBCO)が得られた。
この試料のJc値は、1.2MA/cm2(77K、0T)であった。単結晶基板よりも特性が小さいのは、Ni配向層の面内配向性を示すΔφが7.0度であり、最上部のCeO2層のΔφが少し改善した6.8度であるためである。その影響により特性が低下している分を反映したJc値であり、ほぼ単結晶基板上の結果を反映した結果である、と考えられる。ICP測定による超電導体の厚さは150nmであり、溶液粘度から計算される厚さと同じであった。
(第18の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質18MAi(第18の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質18MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質18MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質18MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質18MAが得られる。半透明青色の物質18MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液18hCs−BaCu(第18の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Smが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Sm(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明黄色の物質18MBiが得られる。
得られた半透明黄色の物質18MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質18MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質18MBが得られる。半透明黄色の物質18MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.20mol/lの半コーティング溶液18hCs−Sm1(第18の実験、half coating solution for SmBCO step 1)を得た。18hCs−Sm1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液18hCs−Sm2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液18hCs−BaCuと、半コーティング溶液18hCs−Sm1と、を混合し、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるようにコーティング溶液18Cs−Sm1を調製した。同様に、半コーティング溶液18hCs−BaCuと、半コーティング溶液18hCs−Sm2と、を混合し、Sm:Ba:Cu=1:2:3となるようにコーティング溶液18Cs−Sm2を調製した。得られたコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、それぞれ1.33mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液18Cs−Sm1と、を混合して、溶液18Cs−YSm1(第18の実験、Coating solution for YBCO+SmBCO、No.1)、及び、18Cs−YSm2が得られる。これらの溶液のそれぞれにおいて、金属モル比Y:Smは、95:5及び85:15である。コーティング溶液における全金属イオンの濃度は、それぞれ1.49、及び、1.47mol/lとなる。コーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液18Cs−Sm1、および18Cs−Sm2と、混合して、溶液18Cs−YSm3が得られる。この溶液において、1Cs−Y:18Cs−Sm1:18Cs−Sm2は、90:5:5である。コーティング溶液18Cs−YSm3における全金属イオンの濃度は、1.48mol/lとなる。コーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液18Cs−Sm2と、混合して、溶液18Cs−YSm4、18Cs−YSm5、18Cs−YSm6、及び、18Cs−YSm7が得られる。溶液18Cs−YSm4、18Cs−YSm5、18Cs−YSm6、及び、18Cs−YSm7のそれぞれにおいて、金属モル比Y:Smは、95:5、85:15、70:30、及び、65:35である。これらのコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、それぞれ1.49、1.47、1.44、及び、1.43mol/lとなる。
コーティング溶液18Cs−YSm1、18Cs−YSm2、18Cs−YSm3、18Cs−YSm4、18Cs−YSm518Cs−YSm6、及び、18Cs−YSm7のそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い、最高回転数はそれぞれ2000rpm、1900rpm、1900rpm、2000rpm、1900rpm、1800rpm、及び、1750rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料18FS−YSm1(第18の実験、Film of SuperConductor、YBCO+SmBCO、No.1)、18FS−YSm2、18FS−YSm3、18FS−YSm4、18FS−YSm5、18FS−YSm6及び、18FS−YSm7が得られた。これらの試料のそれぞれの厚さは、220nmと考えられる。
それぞれの試料について、超電導特性であるJc値を、誘導法により、液体窒素中(77K、0T)で測定した。試料のJc値を表4に示す。さらに、第3の実験に関して説明した手法により、無配向領域比率Rnb(NL/BL)を求めた。21万倍の断面TEM観察像で、2μmの基準長BLを設定し、無配向領域比率Rnb(NL/BL)を計算した。その結果も表4に示す。
試料18FS−YSm7においては、無配向領域比率Rnbは、約15%(14.7%)である。そして、試料18FS−YSm7においては、Jc値は5.7MA/cm2(77K、0T)であり、高い。
試料18Sc−YSm4及び18Sc−YSm5などでJc値が高い。試料18FS−YSm1及び18FS−YSm2においてJc値が低いのは、これらの試料の厚さが220nmであり、無配向領域40が内部に存在したため、その上部が大きく影響を受けて、Jc値が低下した、と考えられる。試料18Cs−YSm3の特性が低いのは、偏在の原因となるSm−PFPが溶液に存在しており、かつ、それらが周囲のTFAと容易に置換しないことに起因していると、考えられる。
無配向領域40を抑制すれば、220nmの厚さでも、低いJc値を得易い。無配向領域40が存在すると、220nmの厚さにおいては、無配向領域40の影響を大きく受ける、と考えられる。
図15は、超電導体の特性を示すグラフである。
図15は、無配向領域比率Rnb(%)とJc値との関係を示している。図15は、上記の表4に示した試料における、NL/BLと特性の関係を示している。の特性を示している。図15の横軸は、無配向領域比率Rnb(すなわち、NL/BL)である。縦軸は、Jc値(MA/cm2、77K、0T)である。
図15に示すように、無配向領域比率Rnbが15%以下(例えば15%未満)のときに、高いJc値が得られる。無配向領域比率Rnbが12.3%以下のときに、より高いJc値が得られる。無配向領域比率Rnbが11.8%以下のときに、より高いJc値が得られる。無配向領域比率Rnbが81.%以下のときに、より高いJc値が得られる。無配向領域比率Rnbが7.2%以下のときに、さらに高いJc値が得られる。参考例などの技術では、無配向領域比率Rnbは38%以上である。
無配向領域比率Rnb(NL/BL)が15%を以下の領域で、高いJc値が、安定的に得られている。これらの試料の厚さは、約220nmである。高いJc値が得られたことは、このような厚さにおいて、内部の無配向領域40が抑制されたことと、深い関係がある。
(第19の実験)
図3Aの溶液フローチャートにより、YBCO超電導体用コーティング溶液を合成および精製する。すなわち、Ba(OCOCH3)2、及び、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。金属モル比Ba:Cuは、2:3である。反応等モル量のCF3COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明青色の物質19MAi(第19の実験、Material A with impurity)が得られる。この半透明青色の物質19MAiには、溶液合成時の反応副生成物である水や酢酸が、7wt%程度含まれる。
得られた半透明青色の物質19MAiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質19MAiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明青色の物質19MAが得られる。半透明青色の物質19MAをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.50mol/lの半コーティング溶液19hCs−BaCu(第19の実験、half coating Solution Ba and Cu)を得た。
上記とは別に、Ndが含まれる半溶液を合成および精製する。すなわち、Nd(OCOCH3)3の水和物の粉末をイオン交換水中に溶解する。反応等モル量のCF3CF2COOHとの混合および攪拌を行い、得られた混合溶液をナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行い、半透明紫色の物質19MBiが得られる。
得られた半透明紫色の物質19MBiに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図3AのステップCs−f)を加えて、物質19MBiを完全に溶解する。その溶液をロータリーエバポレータ中に入れ再び減圧下で反応および精製を12時間行うと、半透明黄色の物質19MBが得られる。半透明黄色の物質19MBをメタノール(図3AのステップCs−j)中に溶解する。メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で0.80mol/lの半コーティング溶液19hCs−Nd1(第19の実験、half coating solution for NdBCO step 1)を得た。19hCs−Nd1に100倍体積相当のメタノールを混合した後に、反応当モル量のTFAを混合し、加熱せずに200hPa下で減圧精製して、半コーティング溶液19hCs−Nd2(同上、step 2)を得た。
半コーティング溶液19hCs−BaCuと、半コーティング溶液19hCs−Nd1と、を混合し、コーティング溶液19Cs−Nd1を調製した。Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。半コーティング溶液19hCs−BaCuと、半コーティング溶液19hCs−Nd2と、を混合し、コーティング溶液19Cs−Nd2を調製した。Nd:Ba:Cuは、1:2:3である。これらのコーティング溶液における全金属イオンの濃度は、それぞれ1.31mol/lとなる。
第1の実験の手法で得られたコーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液19Cs−Nd1と、を混合して、溶液19Cs−YNd1(第19の実験、Coating solution for YBCO+NdBCO、No.1)、及び、19Cs−YNd2が得られる。溶液19Cs−YNd1及び19Cs−YNd2のそれぞれにおける金属モル比Y:Ndは、95:5、及び、85:15である。これらのコーティング溶液のそれぞれにおける全金属イオンの濃度は、1.49、及び、1.47mol/lとなる。コーティング溶液1Cs−Yと、今回調製したコーティング溶液19Cs−Nd2と、混合して溶液19Cs−YNd3及び19Cs−YNd4が得られる。溶液19Cs−YNd3及び19Cs−YNd4のそれぞれにおける金属イオン濃度Y:Ndは、95:5、及び、85:15である。これらのコーティング溶液のそれぞれにおける全金属イオンの濃度は、1.49、及び、1.47mol/lとなる。
コーティング溶液19Cs−YNd1、19Cs−YNd2、19Cs−YNd3、及び、19Cs−YNd4のそれぞれを用い、LaAlO3単結晶基板上に超電導体の成膜を行った。スピンコート法を用い最高回転数は、それぞれ2000rpm、1900rpm、2000rpm、及び、1900rpmで成膜を行い、図4に示すプロファイルで400℃の純酸素雰囲気で仮焼を行い、図5に示すプロファイルで800℃の1000ppm酸素混合アルゴンガス中で本焼を行い、525℃以下の純酸素中でアニールを行い、超電導膜である試料19FS−YNd1(第19の実験、Film of SuperConductor、YBCO+NdBCO 、No.1)、19FS−YNd2、19FS−YNd3、及び、19FS−YNd4が得られた。これらの試料のそれぞれの厚さは、220nmと考えられる。
それぞれの試料について、超電導特性であるJc値を、誘導法により、液体窒素中(77K、0T)で測定した。試料のJc値を上記の表4に示す。第3の実験に関して説明した手法により、無配向領域比率Rnb(NL/BL)を求めた。21万倍の断面TEM観察像において、2μmの基準長BLを設定し、無配向領域比率Rnb(NL/BL)を計算した。その結果を上記の表4に併せて示す。すなわち、表4は、Y+Smと、Y+Ndと、を含む溶液から得られた超電導体における、Jc値と、NL/BL(Rnb)と、を示す。
試料19FS−YNd1及び19FS−YNd2のJc値が低いのは、これらの試料の超電導層の厚さが220nmであり、無配向領域40に存在しその影響を受けた、と考えられる。ほぼ同じNL/BL値を示す試料18Sc−YSm6及び19Sc−YNd4を比較すると、YBCO+NdBCOである試料19Sc−YNd4のJc値は、試料18Sc−YSm6のJc値よりも低い。NdBCOをYBCOに混合した場合の超電導体におけるJc値が、SmBCOをYBCOに混合した場合の超電導体のJc値よりも低いのは、NdBCO溶液の質の低さに由来する、と考えられる。Ndの原子半径は大きく、Ndは化学反応を起こしやすい。このため、分解反応であるエステル化反応が生じ易くなる。このため、Nd系溶液の純度は、Sm系溶液の純度よりも低くなると、考えられる。
これらの結果を図15に追記した。
無配向領域40を抑制することで、220nmの厚さでも、高いJc値を得やすい。Smに関して説明したのと同様に、無配向領域比率Rnbが15%以下のように、Jc値が大幅に改善する。
第18の実験及び第19の実験の結果からも明らかなように、実施形態は、特に厚い超電導体において、SmBCO及びNdBCOの少なくともいずれかが含まれる場合に、効果を大きく発揮する。無配向領域40の原因となるPFPの影響を、TFAにより置換することにより、抑制することができる。これにより、Sm成分及びNd成分の少なくともいずれかの偏析を抑制することができる。本実施形態によれば、220nmよりも厚い超電導層において、15%以下の無配向領域比率が得られる。実施形態によれば、Sm及びNdの少なくともいずれかを含む超電導体において、良好な特性が得られる。本実施形態は、送電ケーブルの応用につながる。
実施形態によれば、例えば、Sm及びNdの少なくともいずれかを含み、無配向領域40が抑制され、長期安定性を得ることが期待され、高特性な超電導体が提供できる。
超電導送電ケーブルに用いられる高Tc超電導膜をTFA−MOD法で作る場合に、PFPが用いられる。しかし、PFPは、電気陰性度差によって孤立し、基板界面にSmやNdが偏析する原因となる。偏析があっても、超電導層が110nm程度と薄い場合には、疑似液相により、偏析が解消される。しかし、超電導層の厚さが150nmや220nmのように厚い場合には、PFPの影響が大きくなり、所望の特性を安定して得ることが困難である。これは、無配向領域40が存在するためである。無配向領域40の原因は、PFPである。実施形態において、SmまたはNdに結合する3つのPFPの少なくとも1つを、TFAにより置換する。これにより偏析が抑制される。そして、超電導層の内部の無配向領域40が抑制される。良好なペロブスカイト構造が得られる。
内部に無配向領域40が存在すると、膜剥がれが生じ易くなり、長期使用での膜剥離などの影響が出やすくなる。長さ2μmの基準長BLを用いて、NL/BLを評価することで、無配向領域40を正しく評価することができる。
無配向領域40の形成には水素のみが関与するとこれまで考えられてきたが、PFPが3つ結合するSmやNdでも、無配向領域40が形成されることが分かった。Smの全ての位置にPFPが結合すると、TFAが結合する場合に比べて、電気陰性度が低下する。電気陰性度が低下すると、ゲル膜からメタノールが蒸発する時に、PFPに結合した分子は上方への応力を受け難くなる。これにより、基板界面側において、Smの偏析が生じる。Smの分布に差が生じることで、ペロブスカイト構造とはならない領域が生じる。これにより、無配向領域40が形成される。これにより、Jc値が低くなり、安定した特性を得ることが困難になる。
これに対して、実施形態においては、置換されにくいPFPを、大量のメタノール溶媒中に分散させ、化学量論のTFAを混合する。これにより、TFAによる置換を促進する。これにより、TFAによる置換比率は、33%以上の値が得られる。反復して操作すれば、より大きな効果が期待される。67%を超える置換比率が実現できる、と考えられる。
ゲル膜中において、メタノールからのクーロン力を受けない物質を、減らすことにより、超電導体の内部の均質性が向上する。これにより、基板近傍におけるSmの偏析を抑制すことができる。この現象は、Smの代わりにNdを用いても、ほぼ同じである。この技術により、約220nmの厚さの超電導層において、無配向領域40の生成が抑制される。基板界面から膜上部までが、ペロブスカイト構造を有する。この技術により、厚いSmBCO層、及び、厚いNdBCO層を得ることができる。
SmBCOやNdBCOは、送電ケーブルに有効に用いられる。良好な特性(Jc値)を有する、SmBCO及びNdBCOを含む材料を、本技術で実現した。
超電導は、冷凍機を開発したオランダのKamerring Onnesにより、水銀を用いて発見された現象である。その後、BCS理論により、上限の超電導転位温度(Tc)が39Kとされた。しかし、このTcは、第1種超電導体のTcである。1986年にBednorz等が発見した第2種超電導体である酸化物超電導体においては、超電導と非超電導状態との混在が、可能である。第2種超電導体においては、BCS理論よりも高いTcを有する。今日では、液体窒素温度で使用可能な高温酸化物超電導体が、500m程度の長さで販売されている。主に線材の形態で、超電導送電ケーブル、核融合炉、磁気浮上式列車、加速器、及び、磁気診断装置(MRI)などの様々な大型機器への、超電導体の応用が期待されている。
高温酸化物超電導体には、第1世代のビスマス系超電導線材と、第2世代のイットリウム系超電導線材と、がある。第1世代においては、60vol%以上の銀が用いられる。第2世代においては、基材が安価であり、物理強度が優れる。第2世代において、線材の総販売長が、3,000kmを超えた。多量の線材を用いて作られた50MVAの直流送電ケーブルシステムは、2年半以上の運用実績を持つ。例えば、500MVAの容量を持つ直流送電ケーブルシステムが、運用されている。この容量は、標準的な原子力炉の電力の50%近い値に相当する。直径15cm程度のケーブルシステムにより、送電が行われている。
3,000km以上販売されたY系超電導線材の主な用途は、送電ケーブルシステムである。送電ケーブルの検証試験は、他用途よりも進んでいる。磁場特性が不要であることも関係している、と考えられる。長さが20km以上である線材は、例えば、TFA-MOD(Metal Organic Deposition using TriFluoroAcetates)法による。第2世代の他の主要製造法として、Pulsed Laser Deposition法とMetal Organic Chemical Vapor Deposition法がある。この方法は、組成制御の課題を有しており、安定的な500m長の線材の量産は行われていない。そのため、送電ケーブル用途の線材は、主にTFA-MOD法に基づく。
Pulsed Laser Deposition法やMetal Organic Chemical Vapor Deposition法の将来は、否定されない。原子量が2倍以上互いに異なる3種の元素を真空中に飛来させる低コストな手法において、TFA-MOD法並みの組成ずれ1%以下に制御できれば、量産可能となる。この課題は、解決が難しいとも言われている。コイル応用では、Pulsed Laser Deposition法や、Metal Organic Chemical Vapor Deposition法による線材が、先行している。しかしながら、500m程度の長さの線材が量産されて実装された実績は、まだない。組成制御の問題が影響していると、考えられる。
TFA-MOD法の線材が安定して作られるようになった主要因は、次の2つと考えられる。溶液中に存在する水素含有化合物量の低減と、1回塗り厚膜化と、である。
TFA-MOD法において、溶媒のメタノールを除いて、水素を含有する物質が溶液に含まれると、様々な副反応を引き起こし、特性が低下する。TFA-MOD法においては、トリフルオロ酢酸(TFA)が用いられ、トリフルオロ酢酸塩には、フッ素原子が含まれる。溶液中に水素があると、成膜後のゲル膜中で、水素と、TFA基のフッ素と、が水素結合を作り、内部応力が増大する。このため、仮焼時に一定以上の温度となると、反応が生じ、フッ化水素が形成される。炭素に結合したフッ素が引き抜かれれば、その炭素が低温で蒸発しにくくなり、炭素残留の可能性が増大する。炭素は、YBa2Cu3O7-x(YBCO)超電導体において、超電導電流を担うCu-O面に、COxの形で拡散し、超電導特性を大きく低下させる。
TFA-MOD法において、トリフルオロ酢酸塩自身に炭素が大量に含まれるにもかかわらず、得られる超電導体には、炭素は、ほとんど残留しない。その理由は、仮焼時において、炭素を追い出す機構にある。仮焼時にゆっくり昇温して、トリフルオロ酢酸塩を分解すれば、金属と酸素との結合が維持されたまま、別の化学結合が切れる、と考えられる。この分解で形成される炭化フッ化物類(C2F2、C2F6、及びCF2Oなど)の化合物の沸点は、60-70℃前後で、低い。これらの炭化フッ化物類は、ガスとして散逸しやすい。これにより、炭素が追い出される。
炭素追い出し機構を機能させるために、激しい燃焼を起こさず、トリフルオロ酢酸の有機鎖を徐々に分解させる。激しい燃焼が起きると、反応しやすいフッ素が金属と反応し、炭素成分が残る。
炭素追い出し機構は、仮焼時に水素原子が存在しても、阻害される。水素原子は、酸素やフッ素と強く引き合う水素結合を形成する。これにより、炭化フッ化物類の形成時に、炭素の散逸が妨げられ、炭素が残留する。水素は、炭素と結合したフッ素と反応して、フッ化水素を生成する。その場合も、骨格の炭素が残留する。
炭素または炭素化合物が残留すると、本焼によるペロブスカイト構造の形成時にも、影響が生じる。TFA-MOD法における本焼においては、温度は約800℃であり、酸素分圧は約1,000ppmである。この条件では炭素は、燃焼しない。炭素は、蒸気によって揮散しない。残留する炭素成分は、本焼時に形成される疑似液相内において、エピタキシャル成長を妨害する。YBCOのペロブスカイト構造は、核の生成に基づいて、a/b面内すなわち水平方向へ、速く成長する。成長途上で残留炭素が存在すると、成長は止まる。残留炭素上に核が生成されると、配向が乱れ、無配向領域(無配向層)が形成される。TFA-MOD法の特徴である組成の均一性は、残留炭素の影響を受ける。無配向領域が形成される。残留炭素の原因は、水素である。
TFA-MOD法において、溶媒としてメタノールを使用する。メタノールは、水素を含むが、最終的に得られる超電導膜には、炭素が残留せず、無配向領域は形成されない。成膜時に、メタノールの殆どが蒸発し、さらに、仮焼時において、ゲル膜中に残留する約30vol%のメタノールの殆どが蒸発するためである。メタノールは、大量の線材製造において、溶媒として用いられた実績がある。メタノールは、TFA-MOD法において、例外的に使用が可能な、水素を含む物質である。
TFA-MOD法において、溶媒として、より大きな分子量のアルコール類を用いると超電導特性が低下する。エタノール、1プロパノール、または、2プロパノールを溶媒として用いると、蒸発させるためには、メタノールを用いた場合よりも高い温度が用いられる。蒸発前に、フッ素とアルコールの水素とが反応し易いため、残留炭素量が増大し、無配向領域が形成される。
メタノール中にも、0.5mol%以下のエタノールまたはプロパノールなどが含まれる。微量のアルコールは、大量生産においても影響していないと考えられる。量が少なければ、エタノールの分子量以上の分子量を有するアルコールの影響は少ない、と考えられる。
従って、TFA-MOD法においては、溶媒のメタノールを除いて、水素を含む物質の使用を抑制することが望ましい。水素を大量に含むオクチル酸などの系においては、長線材が作られ、コイルや送電ケーブルに実装された実績は、まだない。上述の理由による、と考えられる。以下、オクチル酸系物質を用いたTFA-MOD法における水素量と、1回塗り厚膜化で用いられる水素による水素比率と、について説明する。
オクチル酸を用いるTFA-MOD法においては、Cuと結合するTFA塩を、オクチル酸に代えられる。TFA-MOD法では、フッ素及び水素の和における、水素比率RHF(水素原子数/(水素原子数+フッ素原子数))が、低く維持される。水素比率RHFは、2%以下にされ、1%以下にされることが望ましい。水素比率RHFの計算において、メタノールは除外される。上記の説明の通り、メタノールは、仮焼時に蒸発して影響を及ぼさないためである。Cuと結合するTFAの全てをオクチル酸で置換した場合は、水素比率RHFは、81.1%となる。この場合、大量の水素により、内部に無配向領域が形成される。このため、500mの長さの線材が得られる可能性は、非常に低くなる、と考えられる。
オクチル酸の量を低減し、Cuと結合すべき全ての基のうちの10%をオクチル酸とする場合でも水素比率RHFは、19.5%となる。この場合の水素比率も高いため、影響が大きい。500m程度の長さの線材における実装実績は無い。水素による影響と考えられる。TFA-MOD法においては、水素比率RHFは、0%である。
TFA-MOD法において、0.8μm以上の厚さを有する実用的な線材を作る際には、水素が用いられる。それは、1回塗り厚膜化のために用いられるクラック防止剤が、水素を含むためである。クラック防止剤として使用可能な化学物質は、パーフルオロカルボン酸である。この物質の炭素骨格部の全てに、フッ素が結合し、水素は存在しない。このため、パーフルオロカルボン酸は、TFA塩と、水素結合で引き合わない。内部応力も増大しない。仮焼時において、クラック防止剤は分解せずに、周辺の物質と結合して、仮焼時の乾燥応力を緩和する機能が、求められる。
TFA−MOD法において、クラック防止剤以外の物質は、主にフッ素で満たされている。このため、応力緩和には、クラック防止剤に水素原子を配置することが有効である。構造の両端部に水素を有する構造が、クラック防止剤として、有効である。水素化パーフルオロカルボン酸においては、炭素鎖の1つの端部に、1つの水素原子が存在し、炭素鎖の反対側の端部に、カルボキシル基の水素原子が1つだけ存在する。一対の水素原子が、周囲のフッ素と結合を作り、仮焼時の乾燥応力を緩和する。仮焼時の後は、水素化パーフルオロカルボン酸は、分解し、炭化フッ化物類となって、ガス化する。これにより、水素化パーフルオロカルボン酸を用いることで、1回塗り厚膜化が実現する。
1回塗り厚膜化で使用されるクラック防止剤の1つとして、8H-PFCAがある。この材料において、添加量は、10mol%である。この場合の水素比率RHFを計算する。1ユニットセルにおいて、必要なY,Ba,Cu(1:2:3)のTFA塩には、水素は無い。1ユニットセルには、トリフルオロ酢酸イットリウム塩、トリフルオロ酢酸バリウム塩及びトリフルオロ酢酸銅塩の塩が設けられる。これらの塩の全てにフッ素が結合すると、フッ素の数は39個となる。8H-PFCAを10mol%の量で添加する。このとき、平均のフッ素原子の数は、1.4であり、平均の水素原子の数は、0.2個となる。この場合、水素比率RHFは、0.49%となる。この場合の水素比率RHFは、十分に小さい。従って、8H-PFCAは、長線材の製造に適している。TFA-MOD法に用いられるクラック防止剤においては、水素の影響を避けるために、従来のMetal Organic Deposition法で用いられてきたクラック防止剤とは異なる特殊な物質が用いられる。
上記のように、1回塗り厚膜化において、水素の量を低減させ、無配向領域の形成を抑制する。YBCO超電導線材製造においてTFA−MOD法を用い、反復コートによって厚膜化を行うと、界面が形成される。しかしながら、YBCO超電導線材においては、2軸配向組織が求められる。従って、界面における影響の許容が厳しくなる。
TFA-MOD法に用いられる溶液は、-0.6程度のpHを有する強酸である。1回目に仮焼を行った層の表面は、金属酸化物となるため、強酸と反応し、異相の原因となる。酸性度を低くするために、Cu-TFAのTFAをオクチル酸に置換することを試みされる。しかしながら、Cuに結合するTFAの全てをオクチル酸に変更しても、全体の酸は、50%低減されるだけである。このとき、-0.3のpHを有する強酸である。このため、仮焼後の表面酸化物層と反応し、影響が生じる。さらに、オクチル酸の持つ大量の水素による影響が生じ、無配向領域も形成される。
反復コート法によって原子レベルで界面が均一となる可能性は、極めて低い。例として、10mの2回コートにより、95%の歩留まりが得られる場合に、500m線の製造の歩留まりを計算してみる。
10mの長さの2回コート法において、特性が低下しない超電導線材が得られる歩留まり率をγ=R(10,2)と表記する。歩留まりが95%のとき、γ=R(10,2)=0.95である。この表記によれば、R(α、β)=γ(α/10×(β-1))となる。3回コート時には、熱履歴により、1回コートにおける表面が劣化するが、この例では、劣化しないと仮定して計算する。γ=0.95の場合、500mの線材製造の歩留まりは、R(500,2)=0.077である。3回コートにより500mの線材を製造するときの歩留まりは、R(500,3)=0.0059である。8回コートの場合には、500m線における歩留まりは、R(500,8)=1.60×10-8と、著しく低くなる。
実用的に、歩留まりは80%以上であることが求められる。すなわち、R(500,8)>0.80である。このとき、γは、0.9994となる。表面酸化層が強酸と反応して、この影響が生じる。このため、10m長の2回コートにおいて、99.94%の歩留まりを得ることは、著しく困難である。過去の反復コート法が実用化されていないのは、このような問題のためと考えられる。従って、TFA-MOD法においては、1回塗り厚膜化技術が、実用上用いられる。
上記の説明の通りTFA-MOD法には、水素系物質を抑制するための技術と、1回塗り厚膜化のための技術と、が求められる。さらに、送電ケーブル応用には、高Tc超電導体を得るための技術が求められる。
送電ケーブルシステムでは、例えば、5km毎に冷却ポストが設置され、冷却液体窒素が供給される。例えば、良好な臨界電流密度(Jc値)を持つY系超電導体の臨界温度Tcは、90.7Kである。一方、液体窒素温度は、77.4Kである。臨界温度Tcと、液体窒素温度と、の差は、13.3Kと、小さい。YBCOにおいて、バルク体のように、低いJc値においては、92K〜93kの臨界温度Tcが得られる。しかしながら、良好な超電導特性(高いJc値)を有するYBCOにおいては、臨界温度Tcは、90.7Kである。YBCO超電導体においては、温度の上昇により超電導特性(Jc値)が急激に低下する。このため、送電ケーブルシステムへの応用において、温度上昇は、実質的に許容されない。
ケーブルシステム全域における温度を安定的に77.4K以下に維持するために、液体窒素をより冷却して送り出す検討が行われている。しかし、過度に冷却すると、液体窒素が固化する。例えば、約69Kで液体窒素を冷却ポストから送り出し、戻り時に77.4K以下を維持するためには、冷却ポストどうしの間隔が短くなり、コストが上昇する。このように、送電ケーブルシステムへの応用において、TFA−MOD法により安定的な特性(高いJc値)を持ち、より高い臨界温度Tcを有する長い超電導体が、望まれる。
臨界温度Tcが高い超電導体としては、Bi系の他にHg系及びTl系などが存在する。Tl系における臨界温度Tcは、約130Kであると報告されている。しかし、77.4Kの温度では、Tl系超電導体のJcは、YBCO超電導体が示す値の1/100以下のJc値となる。このため、送電ケーブルには、実質的に使用できない。そのため実用的には、大きなJc値を持つYBCO系超電導体と同種の、高い臨界温度Tcを有する超電導体が候補となる。具体的には、LaBa2Cu3O7−x(LaBCO)超電導体、NdBa2Cu3O7−x(NdBCO)超電導体、及び、SmBa2Cu3O7−x(SmBCO)超電導体などが挙げられる。
LaBCO超電導体の製造は、難しい。LaBCO超電導体の臨界温度Tcは、103Kと言われるが、正確な値は、定かではない。NdBCO超電導体の臨界温度Tcは、96.0Kと言われている。SmBCO超電導体の臨界温度Tcは、94.0Kと言われている。これらの臨界温度Tcは、現状のYBCO超電導体の臨界温度Tcと液体窒素温度との間の温度差(マージン)を、それぞれ、40%及び25%改善することに対応する。
NdBCO超電導体及びSmBCO超電導体をTFA-MOD法により製造する際に用いる溶液の合成において、メタノールとトリフルオロ酢酸塩とが、エステル化反応により、分解する。NdやSmのイオン半径が大きく化学的に活性であるため、NdBCO超電導体及びSmBCO超電導体において、この反応(エステル化反応)が生じ易い。
エステル化反応の抑制のため、溶液の精製条件を緩めると、精製不完全により、不純物量が増え、超電導特性が低下する。精製条件を緩めると、炭化物に起因すると考えられる無配向領域40が形成され、超電導特性(Jc値)が、著しく低下する。そのため、精製条件を緩める方法ではない方法でエルテル化反応を抑制することが望まれる。例えば、TFAと同じ化学構造を持ち分解温度が高いペンタフルオロプロピオン酸(PFP)、または、ヘプタフルオロブチル酸を用いてエステル化反応を抑制する参考例がある。PFPの金属塩、及びヘプタフルオロブチル酸の金属塩においても、TFAの金属塩と同様に、水素を含まない。従って、クラック防止剤を用いない場合には、水素比率RHFは、0.0である。
この参考例によりエステル化が抑制され、Sm系及びNd系の、高特性の超電導体が得られるようになった。例えば、PFPを用いれば、Sm系の超電導体において93.9Kの臨界温度Tc(理論値に近い値)が得られる。例えば、Nd系の超電導体において、93.6Kの臨界温度Tcが得られていた。PFPにおける炭素数は、TFAにおける炭素数よりも1つ大きい。PFPは、水素を含まない。参考例においては、PFPとTFAとが混在しても、良好な特性が得られると考えられていた。
送電ケーブル用には、薄膜(200nm未満)ではなく、厚膜(200nm以上、望ましくは1μm以上)が必要とされる。この技術を用いて、厚膜のSmBCOを実現しようと試みると、特性が大きく低下してしまった。サイズが小さい試料においては、220nmや300nmの厚さにおいて、高いJc値が得られることがある。しかしながら、再現性が低く、長い線材を安定して製造することが困難である。
この原因を調べるために断面TEM観察を行うと、基板界面にSmが偏析している状態が観察された。例えば、110nmの厚さ(薄さ)においては、7MA/cm2(77K、0T)という高いJc値が得られ。しかしながら、超電導体が薄いときに高いJc値が得られるのは、薄いために、偏析の影響が緩和されたためであると、TEM観察結果から、推測された。さらに、TEM観察像において、内部に無配向領域が観察された。1回塗り厚膜化を用いると、クラック防止剤の影響で、超電導体に空隙が形成される。しかし、Sm−PFPの系で示される無配向領域は、空隙ではない、別なものであった。
長い線材の製造において問題となるのは、無配向領域である。無配向層領域には物質が充填されている。その物質は、化学量論でない組成を有することが多い。無配向領域は、化学量論ずれにより、互いに異なる複数の相の形成の原因となる。一方、1回塗り厚膜化技術で形成される空隙の内部には、何も含まれない。このため、1回塗り厚膜化技術で形成される空隙の周囲の部分において、化学量論は、維持される。
長い線材の製造において、超電導体の経時劣化の問題がある。この問題は、無配向領域による吸湿による、と考えられる。無配向領域は、比表面積が大きい。無配向領域の表面に水蒸気が吸着し、無配向領域の周辺におけるペロブスカイト構造へ、水蒸気を長期間供給すると、ペロブスカイト構造は分解し、酸化物が形成される。ペロブスカイト構造の少なくとも一部が分解した後における平均の密度は、ペロブスカイト構造(超電導体)における密度の6.3g/cm3よりも、低くなる。分解した後の構造における平均の密度(Y2O3の密度、またはCuOの密度)は、3程度となる。そして、体積は、増大する。増加した体積は、内部破壊を起こし、深刻な影響を及ぼす。
さらに、無配向領域の形成によって、機械的強度が低下することも問題である。ペロブスカイト構造を有していない部分の強度は、低下する。無配向領域は、抑制されることが望ましい。
TFA−MOD法でも無配向領域の形成が、従来見られたが、それは、溶液内に存在するメタノール以外の水素原子が原因であった。ところが、今回のSm系超電導体においては、PFPはSmと塩を形成しており、水素は、存在しない。従来知られていない現象が起きている、と考えられる。
無配向領域は存在していても、ある程度の臨界温度Tc、及び、ある程Jc値が得られる。超電導電流は、無配向領域を迂回するためであると、考えられる。従って、従来は、無配向領域は問題とされていない。しかしながら、本願発明者の検討によると、この無配向領域は、長い線材の製造の歩留まり、及び、製品としての使用時の長期安定性などに影響を及ぼす。本願の実施形態は、この無配向領域に着目している。
無配向領域は、PFPに起因すると、考えられる。PFPの分子構造は、TFAの分子構造と、類似している。しかしながら、PFPは、極性の点で、TFAと、大きく異なる。TFAにおいては、TFAの端部に、マイナスに帯電するフッ素原子が端部に存在する。このため、TFAは、周辺の物質と、クーロン力で強く引き合う。一方、PFPにおいては、最もマイナスに帯電するフッ素原子は、カルボキシル基に隣接した炭素に結合したフッ素である。カルボキシル基に隣接した炭素に結合したそのフッ素とは異なるフッ素においては、マイナスの帯電の程度は低い。そのため、PFPは、TFAよりも極性が低い。このため、TFAとPFPとが混在している場合には、これらが分離することが予想される。
TFA−MOD法において用いられる溶液に含まれる分子は、密度の差及び原子量の差により分離する可能性がある。TFA−MOD法において用いられる溶液に含まれる分子は、クーロン力により分離が抑制される可能性がある。それらについての考察を、以下に記載する。まず、参考となる結果として、TFA塩のゲル膜のTOF−SIMS分析結果がある。TFA塩は、均一に混合されていた。(CF3COO)3Y、(CF3COO)2Ba、及び、(CF3COO)2Cuのそれぞれの分子量は、427.95、363.37、及び、289.58である。次に、おおよその密度を計算するために、分子の体積を見積もる。
トリフルオロ酢酸塩の体積は、トリフルオロ酢酸基の数でほぼ決まる。この分子は、中心に1つ金属元素を持つ。陽イオンが、中心金属元素である。その中心金属元素に、7つの元素を含むトリフルオロ酢酸基が結合している。(CF3COO)2Ba、及び、(CF3COO)2Cuの体積は、15個の原子に相当する体積を有する。中心元素のイオン半径は、原子量に比例している。イオン半径は、Cu2+、Y3+、及び、Ba2+において、それぞれ、0.73、1.02、及び1.35(×0.1ナノメートル)である。Cu2+、Y3+、及び、Ba2+のそれぞれの原子量は、63.55、88.91、及び、137.3である。元素の原子量が大きいと、半径が大きく、密度差は縮小する方向にある。
簡単のため、中心金属元素の体積が同じと仮定して密度計算を行う。このとき、分子量比がそのまま密度差に対応するため、(CF3COO)2Baの密度は、(CF3COO)2Cuの密度の約1.25倍となる。一方、(CF3COO)3Yの体積は(CF3COO)2Cuの体積の1.5倍とすると、(CF3COO)3Yの密度は、(CF3COO)2Cuの密度の0.99倍となる。
このように、3種類のトリフルオロ酢酸金属塩において、質量に起因する密度差は、わずかである。TOF−SIMSの結果から、均質な金属イオン分布が確認されている。そのため、TFA−MOD法におけるゲル膜の均質性を決めるのは、分子の密度ではなくクーロン力である、と考えられる。
PFPとTFAとにおいて、極性が異なるため、クーロン力に差が生じると考えられる。仮焼時にゲル膜中のメタノールが蒸発する。蒸発がTFA塩に大きく影響を及ぼし、トリフルオロ酢酸基を上方へ引っ張る。PFP塩に働くクーロン力は小さく、PFPは、相対的に基板側に集まる。TFA塩に中に少量のPFP塩が存在する場合に、特に顕著に分離が進む。
参考例として、PFPをTFAによって置換する試みがある。例えば、薄膜の超電導体において、PFP塩とTFA塩とを混在させての試験がある。例えば、参考例として、PFP塩にTFAを直接振り掛け、TFAに戻す試みがある。従来では、TFAによるPFPの置換は、十分に進まなかった考えられる。理由は、以下であると考えられる。
PFPとTFAとにおいて、1つの物質の乖離定数が大きければ、置換が進みやすいと考えられる。つまり、TFAの乖離定数がPFPの乖離定数よりもが大きければ、TFAとPFPとの混合により、TFAによる置換が進むと考えられる。しかしながら、TFAのpHは、−0.6程度であり、PFPのpHは、−1.0程度である。TFAは、極性が強いが、TFAは、PFPよりも弱い酸である。
TFA基が結合している金属元素、または、水素から、TFA基のフッ素が、電子を奪う。これにより、TFA基は、強酸となる。TFA基において、電子を奪うフッ素の数は、3である。一方、PFPにおいて、フッ素の数は、5である。このことで、PFPは、TFAよりも強い酸になっている、と考えられる。このことは、TFAとPFPとを単に混合しても、TFAによる置換が進みにくいことを示している。更に、参考例では、PFP塩をメタノールなどで希釈することなく、塩を直接混合している。そのため、乖離が不十分な状態で、PFPと、弱い酸であるTFAと、をふれさせたことになり、置換は進まなかった、と考えられる。多量の溶媒中でロータリーエバポレータを用いて、置換を行いたい溶液の精製を行う。これにより、PFPの40%をTFAにより置換している。従来の方法では、置換率が10%〜15%であると考えられる。
Smは3価であり、3つの基(例えばPFP及びTFAの少なくともいずれか)がSmに結合可能である。例えば、Smに3つのPFPが結合していると、3つのPFPが結合したSmと、TFAと、の間の電気陰性度の差は大きく、これらの物質は、混在しにくくなる。仮焼時には、体積比で30%程度のメタノールが存在して、蒸発する。メタノールは、フッ素を有する物質と、水素結合を作りながら、蒸発していく。例えば、Smに結合する3つの基の全てが、TFA塩による基の場合は、密度差の影響が小さいため、仮焼時のメタノール蒸発時に、TFA塩が上方の応力を受ける。結果として、均質性が維持される。
一方、TFA塩に混在して、Sm(PFP)3が存在している場合は、Sm(PFP)3に加わる応力は、小さい。その結果、Sm成分が基板界面に偏在する。参考例の手法で形成された膜を分析すると、Smの偏在が確認された。過去に、薄膜において理論値に近いと考えられる7MA/cm2(77K、0T)のJc値が得られたが、これは、薄膜のためにSmの偏在が解消され、良好な特性が得られたと、推測される。
例えば、超電導層の厚さが250nm程度以上(例えば、220nm以上)であり、Sm量の偏在が大きくなると、本焼時の疑似液相形成により、Smの偏在は、解消することが困難である。Smは、Yサイトに入る元素であり、Baサイト及びCuサイトには入らない。Smの偏在は、化学量論のずれとなり、ペロブスカイト構造以外のこうぞう(無配向領域)の形成につながる。Smの偏在は、厚さの増大に比例すると考えられる。従来の技術では、Smの偏在に着目していないと考えられる。従来は、無配向領域の形成過程が知られていない。従来は、無配向領域の影響も知られていない。このため、従来技術においては、課題が存在しない。従来の技術では、良好な特性を得ることの再現性は、低い。
Smに結合するPFP基をTFA基によって置換することは、簡単ではない。置換処理を増やすことも考えられるが、置換の処理回数を増やすとエステル化反応が進むため、置換の処理回数は過度に大きくできない。従来の技術では、無配向領域を含まない高Jc値の厚いSmBCOを製造することは、難しい。
SmBCOの特性を持つ超電導体の実現を目指す。しかし、少量のSm−PFPをY−TFAの系に混合すると、分離が生じる。例えば、5%の比率でSm−PFPを含むコーティング溶液(Sm:Ba:Cuが、1:2:3)に、YBCOのコーティング溶液を混合した場合は、溶液中のPFP塩は、SmのPFP塩である。そして、他の多くの金属塩は、TFA塩である。その場合に、Sm偏在がより顕著に進む。そのため、SmBCO溶液とYBCO溶液とを単に混合するだけでは、解決にはならない。
基板付近にSmが偏在した場合、Smが偏在している領域においては、例えば、6つの成分中で、Smの濃度だけが高い。これにより、疑似液相の形成が、高温で始まる。疑似液相は、6つの元素が、一定の濃度で集まり加熱された場合に形成される。疑似液相においては、成分が不足する場合がある。疑似液相において、一部の成分が過剰の場合は、疑似液相がより高温で形成される。
Sm偏析により無配向領域が形成されると、無配向領域の上部に、ペロブスカイト構造から構造が大きく乱れた層が、生成され、成長する。界面への偏在を抑制し、無配向領域の形成を抑制することが望まれる。これにより、SmBCO及びNdBCOにおける高い特性(Jc値)を有する超電導体が得られる。
実施形態によれば、臨界電流密度を高くすることが可能な超電導体及びその製造方法が提供できる。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、超電導体に含まれる基板及び超電導層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した超電導体及びその製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての超電導体及びその製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。