以下に、本発明の実施の形態による無線通信技術について、図面を参照しながら説明を行う。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施形態では、まず、図1に示すシステムにおいてIAを適用する場合に、受信装置からフィードバックしたCSIと、IAを適用した信号を実際に送信装置から受信装置へ送信する際のCSIとが異なる、つまりCSIに誤差が生じるような状況における受信特性の劣化を低減する受信ウェイトを示す。
図1に示すように、2つの送信装置1−1、1−2はそれぞれ2本ずつの送信アンテナAT1、2、AT3、4を有し、2つの受信装置3−1、3−2はそれぞれ3本ずつの受信アンテナAT5、6、7、AT8、9、10を有しているものとする。また、xijは送信装置jから送信される受信装置i宛の信号を、vijは送信装置jから送信される受信装置i宛の信号に乗算される送信ウェイトベクトル(プリコーディングベクトル)を、Hijは送信装置jと受信装置iの間の伝搬路行列をそれぞれ表わしている(i≠j)。このような場合において、受信時に干渉(非所望信号)の等価伝搬路のベクトルが揃うように各送信装置の送信ウェイトベクトルを協調して調整するIAを適用し、CSIに誤差がないものとすると、Hiivji=kHijvjjが成り立つため、受信装置iで受信される受信信号yiは次式(6)で表わされる。但し、kは任意のスカラー値であり、受信装置で加わる熱雑音の成分は無視している。
一方、CSIに誤差がある場合には、受信信号yiは次式(7)のように表わされる。但し、H’はCSI推定時から変動した伝搬路行列をそれぞれ示している。
このように、CSIに誤差がある場合には、Hiivji=kHijvjjが成り立つように各送信装置の送信ウェイトベクトルを協調して調整したとしても、受信時に干渉のベクトルを揃えることができず、自由度が足りない状況が生じてしまう。この場合、干渉を完全に除去することは不可能となるが、干渉の影響をできるだけ低減するためには、以下のような受信ウェイトベクトルを用いる必要がある。
まず、所望信号xiiを抽出するための受信ウェイトベクトルuiiは、以下の行列をSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小の特異値に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルとなる。
つまり、式(9)におけるベクトルe3_iiから、uii=e3_ii Hとして求めることができる。但し、Fii、Eiiはユニタリ行列、Diiは対角成分が正の実数となる対角行列である。
この式(9)の左辺(または式(8))に示す行列は、抽出すべき所望信号(ここではxii)以外の信号、つまり、干渉の等価伝搬路ベクトルを全て並べた行列の複素共役転置行列となっている。この行列をSVDして得られるベクトルe3_iiは、変動後の等価伝搬路において最も小さいゲインで干渉(xij,xji,xjj)を受信するためのベクトルであるため、このベクトルを受信信号に乗算することにより、干渉を最小に抑えることが可能となる。
また、所望信号xijを抽出するための受信ウェイトベクトルuijは、uiiと同様に、以下の行列をSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小の特異値に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルとなる。
つまり、式(11)におけるベクトルe3_ijから、uij=e3_ij Hとして求めることができる。但し、Fij、Eijはユニタリ行列、Dijは対角成分が正の実数となる対角行列である。
以上のような受信ウェイトベクトルを用いる場合には、式(7)は次式(12)のようになり、干渉を完全に除去することはできず、zで表わされる干渉が残るものの、干渉を最小限に抑えつつ、所望信号xiiとxijをそれぞれ抽出することができる。
また、これを行列演算で表わすと、[uii T uij T]Tyiとなる。このように得られる所望信号の位相も補償する場合には、干渉低減のための受信ウェイトベクトルuiiとuijを受信信号にそれぞれ乗算した後に、(uiiHii’vii)Hと(uijHij’vij)Hをそれぞれ乗算すればよい。つまり、各所望信号の等価伝搬路に受信ウェイトベクトルを乗算して得られるベクトルの複素共役転置を乗算することにより、所望信号の位相を補償することができる。さらに、ウェイト乗算後に得られる信号のノルムの2乗で除算することにより振幅も補償することができる。
また、ここでは、式(9)や式(11)に示すように、干渉の等価伝搬路を並べた行列の複素共役転置行列をSVDしているため、最小特異値に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとしていたが、干渉の等価伝搬路を並べた行列をSVDしてもよく、その場合には、最小特異値に対応する左特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いることとなる。
以上に示したような受信ウェイトベクトルを用いることにより、IAを適用したものの、CSIの誤差の影響により干渉ベクトルを完全に揃えることができず、受信装置が有する自由度を超える干渉を受信する場合にも、干渉の影響を最小に抑えて、受信信号から所望信号を抽出することが可能となる。したがって、IAを用いるシステムにおいて、CSIに誤差が生じるような状況においても、受信特性の劣化を低減することができる。
図2は、本実施形態における送信装置の一構成例を示す機能ブロック図である。但し、図1に示す送信装置(1)1−1、送信装置(2)1−2は同じ構成であるものとする。図2に示すように、本実施形態における送信装置は、上位層10、変調部11、送信ウェイト乗算部12、第1及び第2のD/A部13−1、13−2、第1及び第2の無線部14−1、14−2、第3の無線部20、送信アンテナ部15−1、15−2、パイロット信号生成部16、送信ウェイト算出部17、受信部18、A/D部19、受信アンテナ部21から構成される。
図2に示す送信装置では、まず、IAを行うために必要となる受信装置における伝搬路(CSI)を推定させるために、伝搬路推定用の既知のパイロット信号(リファレンス信号とも呼ばれる)を各送信アンテナ15−1、15−2から送信する。このパイロット信号はパイロット信号生成部16において生成され、第1及び第2のD/A部13−1、13−2へそれぞれ入力される。第1及び第2のD/A部13−1、13−2では、入力されたディジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換が行われ、D/A変換後の信号が第1及び第2の無線部14−1、14−2へ入力される。第1及び第2の無線部14−1、14−2では、入力されたベースバンド信号を無線送信可能な周波数帯の信号に周波数変換する処理が行われ、送信アンテナ部15−1、15−2からそれぞれ送信されることとなる。このようなパイロット信号の伝送は、データ信号の伝送に先だって行われるものであり、データ信号が伝送されるフレームとは異なるフレームで伝送される構成としてもよい。
ここで、各送信装置が有する各送信アンテナ15−1、15−2との間の伝搬路を受信装置に推定させるためには、各送信アンテナ15−1、15−2から送信するパイロット信号を互いに直交させる(干渉し合わないようにする)必要がある。パイロット信号を直交させる方法としては、時間領域で直交させる方法、周波数領域で直交させる方法、直交符号を用いて直交させる方法等があり、本発明ではいずれの方法でも適用可能である。ここでは、時間領域においてパイロット信号を直交化する場合の例を図3に示す。図3は、互いに重複しない時間に各送信装置の各送信アンテナから順番に伝送されるパイロット信号を示しており、図3の番号はパイロット信号を送信する送信アンテナ部の番号と対応させて示している。本実施形態における送信装置では、図3に示すようにパイロット信号を時間的に直交させて伝送し、受信装置において伝搬路を推定させるものとする。但し、図3に示すパイロット信号の伝送順序は一例であり、この順序に限るものではない。
また、先に述べたように、パイロット信号は、周波数領域においても直交化することができ、その場合は、マルチキャリア伝送における各サブキャリアにおいて、各送信アンテナからパイロット信号をそれぞれ伝送する構成とすればよい。これは例えば、4つのサブキャリアがある場合に、サブキャリア1で送信装置1の送信アンテナ部15−1からパイロット信号を送信し、サブキャリア2で送信装置1の送信アンテナ部15−2からパイロット信号を送信し、サブキャリア3で送信装置2の送信アンテナ部15−1からパイロット信号を送信し、サブキャリア4で送信装置2の送信アンテナ部15−2からパイロット信号を送信するといったことで実現することができる。
さらに、直交符号を用いてパイロット信号を直交化する場合には、各送信アンテナから伝送するパイロット信号にそれぞれ異なる直交符号を乗算する。そして、受信装置において、受信したパイロット信号に再びそれらの直交符号を乗算することにより、各送信アンテナから伝送されたパイロット信号を分離し、それぞれの伝搬路を推定するという構成となる。
このように、送信装置では直交したパイロット信号を伝送し、受信装置ではそのパイロット信号を基に伝搬路の推定が行われ、推定された伝搬路はCSIとして受信装置から送信装置にフィードバックされる。ここで、フィードバックされるCSIは、上記式(6)における各伝搬路行列Hであり、本実施の形態では、全ての伝搬路行列が各送信装置にフィードバックされるものとする。受信装置からフィードバックされたCSIは、図2に示す送信装置の受信アンテナ部21で受信され、第3の無線部20へ入力される。第3の無線部20では、無線周波数帯からベースバンドへの周波数変換が行われ、周波数変換された信号はA/D部19へ入力される。A/D部19では、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換が行われ、A/D変換後の信号は受信部18へ入力される。受信部18では、受信装置からフィードバックされたCSIの再生が行われ、送信装置において各伝搬路行列Hを把握することができる。
受信部18で再生された伝搬路行列は送信ウェイト算出部17へ入力され、送信ウェイトの算出に用いられる。ここで、複数の送信装置間でIAを行う場合には、受信装置において干渉ベクトルの向きが揃うように、用いる送信ウェイトベクトルを送信装置間で協調して調整する必要があるが、本発明では、この送信ウェイトベクトルの算出方法については特に問わず、どのような方法を用いてもよい。例えば、送信装置(1)1−1においてv11を、送信装置(2)1−2においてv22をそれぞれ決定した後に、決定した送信ウェイトベクトルに関する情報を互いに通知し合い、送信装置(1)1−1ではv21=kH11 +H12v22よりv21を算出し、送信装置(2)1−2ではv12=kH22 +H21v11よりv12を算出するといった方法でもよい。但し、kは任意のスカラーであり、+は一般逆行列を表わしている。
この時、最初に決定されるv11、v22は任意のベクトルで構わないが、送信電力の制限を考慮すると、ユニタリベクトルであることが好ましい。また、H11をSVDして得られる、最大特異値に対応する右特異ベクトルをv11とし、H22をSVDして得られる、最大特異値に対応する右特異ベクトルをv22とするというような決定方法でもよい。
また、先に送信装置(1)1−1で2つの送信ウェイトベクトルv11、v21を決定し、決定した送信ウェイトベクトルに関する情報を送信装置(2)1−2に通知して、通知された情報を基に送信装置(2)1−2において、v12=kH22 +H21v11、v22=kH12 +H11v21の関係を用いてv12、v22を決定する方法でもよい。この場合には、最初に決定されるv11、v21は、v11≠av21(aは任意のスカラー)の関係を満たす任意のベクトルで構わないが、受信装置における干渉除去を効率よく行うためには、直交するベクトルであることが好ましい。また、H11をSVDして得られる、最大特異値に対応する右特異ベクトルをv11とし、H21をSVDして得られる、最大特異値に対応する右特異ベクトルをv21とするといった決定方法でもよい。ここでは、送信装置(1)1−1において2つの送信ウェイトベクトルを先に決定する例を挙げたが、逆に、送信装置(2)1−2において先に送信ウェイトベクトルを決定し、決定した送信ウェイトベクトルに関する情報を送信装置(1)1−1に通知するようにしてもよい。
ここで示したような送信ウェイトベクトルの協調した算出方法は、あくまで一例であり、本発明ではその算出方法は特に問わないが、このような送信ウェイトベクトルの算出が送信ウェイト算出部17において行われることとなる。但し、先に述べたように、本実施の形態における送信ウェイトベクトルは、最初に決定されるものと、最初に決定された送信ウェイトベクトルを基に算出されるものがあり、最初に決定される送信ウェイトベクトルを他方の送信装置に通知する構成と、他方の送信装置から通知された送信ウェイトベクトルに関する情報を受信する構成が必要となる。このため、送信ウェイト算出部17で最初に決定された送信ウェイトベクトルは、上位層10へ入力された後、変調部11においてQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)や16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)等の変調方式を用いて変調され、第1のD/A部13−1においてD/A変換された後に第1の無線部14−1を経由して第1の送信アンテナ部15−1から送信される。決定した送信ウェイトベクトルに関する情報を他方の送信装置に通知する必要がある場合には、このように通知されることとなる。但し、本実施形態では、他方の送信装置への送信ウェイトベクトルの通知は1つのアンテナからのみ行われる例について示している。また、他方の送信装置から通知された送信ウェイトベクトルに関する情報は、受信装置からフィードバックされるCSIと同様に、受信アンテナ部21で受信され、無線部20、A/D部19、受信部18を経由して送信ウェイト算出部17へ入力される。ここでは、送信ウェイトベクトルに関する情報を無線伝送により送受信する例について示しているが、セルラシステムにおける基地局装置のように、送信装置同士が有線ネットワークで接続されている場合には、有線ネットワーク経由で送信ウェイトベクトルを通知する構成としてもよい。
以上の構成により、送信ウェイトベクトルの算出を行うことができるが、次に、算出した送信ウェイトベクトルを用いたデータ信号の伝送について説明する。まず、送信ウェイト算出部17で算出された送信ウェイトベクトル(送信装置(1)1−1ではv11とv21、送信装置(2)1−2ではv12とv22)は、送信ウェイト乗算部12へ入力される。送信ウェイト乗算部12には、上記送信ウェイトベクトルの他に、上位層10から変調部11へ入力され、変調されたデータ信号も入力され、送信ウェイト乗算部12において送信ウェイトベクトルとデータ信号との乗算が行われる。
また、送信ウェイト乗算部12には、既知のパイロット信号がパイロット信号生成部16から入力され、データ信号と同様に、既知のパイロット信号と送信ウェイトベクトルとが乗算される。このパイロット信号は、受信装置において用いられる受信ウェイトベクトルを算出するために必要になる信号であり、受信ウェイトベクトルを算出するためには、式(8)や式(10)のような等価伝搬路を推定する必要があるため、データ信号と同じ送信ウェイトベクトルが乗算され、伝送されることとなる。
このように、送信ウェイト乗算部12において送信ウェイトベクトルと乗算されたパイロット信号とデータ信号とは、第1、第2のD/A部13−1、13−2に入力され、そこでD/A変換された後に、第1、第2の無線部14−1、14−2において無線周波数帯へ周波数変換され、送信アンテナ部15−1、15−2からそれぞれ送信される。ここで、送信ウェイトベクトルが乗算されたパイロット信号は、受信ウェイトベクトルの算出、つまりデータ信号の復調に用いられるため、データ信号と同一フレームに多重されて伝送される。
但し、式(8)や式(10)に示すような等価伝搬路を推定するためには、CSI推定用のパイロット信号と同様に、パイロット信号同士が干渉し合わないように直交化して伝送する必要があり、例えば時間領域において直交化する場合には、図4に示すようにパイロット信号を伝送することとなる。この図4は、ベースとなる既知のパイロット信号pに送信ウェイトベクトルvがそれぞれ乗算された信号が、互いに重複しない時間に各送信装置から伝送されることを表わしている。図4は、図3に示すCSI推定用のパイロット信号とほぼ同様の図となっているが、CSI推定用のパイロット信号は各送信装置の送信アンテナ毎に直交化されて伝送されるのに対し、受信ウェイトベクトル算出用のパイロット信号は各送信装置の2つの送信アンテナから送信される点が異なる。これは、例えば、v11pは2行1列のベクトルとなり、1行1列目の成分が送信装置(1)1−1の送信アンテナ部15−1から、2行1列目の成分が送信装置(1)1−1の送信アンテナ部15−2から送信されるということである。
また、ここでは、時間領域において直交化したパイロット信号について示したが、時間領域に限らず、周波数領域で直交化する構成としてもよいし、異なる複数の直交符号を各パイロット信号に乗算して直交化する構成としてもよい。本発明で対象とするIAを用いる、CSIの誤差が生じないようなシステムにおいては、受信される干渉ベクトルの向きが揃うことから、式(3)に示すような等価伝搬路を推定できれば受信ウェイトベクトルを算出することができるため、全ての干渉源から到来する干渉の等価伝搬路を推定する必要はない。しかし、CSIの誤差が生じる場合には、式(8)や式(10)に示すような、全ての干渉源から到来する全ての干渉の等価伝搬路を推定するために、データ信号と同一の送信ウェイトベクトルを乗算したパイロット信号を全て直交化して伝送する必要がある。
以上に示すような送信装置の構成とすることにより、IAを適用した伝送を行うことが可能となり、また、CSIの誤差が生じる場合に、その影響による特性劣化を最小に抑える受信ウェイトベクトルを受信装置が算出する際に必要な等価伝搬路を推定させることができる。
次に、本実施形態における受信装置の一構成例による機能ブロック図を図5に示す。但し、図1に示す受信装置(1)3−1、受信装置(2)3−2は同じ構成であるものとする。図5に示すように、本実施形態における受信装置は、受信アンテナ部30−1、30−2、30−3と、第1〜第3までの無線部31−1、31−2、31−3、及び無線部41と、第1〜第3までのA/D部32−1、32−2、32−3と、信号分離部33と、受信ウェイト乗算部34と、復調部35と、上位層36と、伝搬路推定部37と、受信ウェイト算出部38と、送信部39と、D/A部40と、送信アンテナ部42と、から構成される。
図5に示す受信装置では、送信装置から送信された信号が受信アンテナ部30−1〜3の各受信アンテナで受信され、無線部31−1〜3へ入力される。無線部31−1〜3では、無線周波数帯からベースバンドへ受信信号の周波数変換が行われ、次にA/D部32−1〜3において、受信信号がアナログ信号からディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換された受信信号は、信号分離部33に入力され、ここでパイロット信号とデータ信号とが分離される。そして、データ信号は受信ウェイト乗算部34へ、パイロット信号は伝搬路推定部37へそれぞれ入力される。但し、先に述べたように、CSI推定用のパイロット信号はデータ信号と異なるフレームにおいて単独で伝送されることもあり、そのような場合には、信号分離部33では、信号の分離は行われず、入力されたパイロット信号をそのまま伝搬路推定部37へ入力する処理が行われる。
受信パイロット信号が入力された伝搬路推定部37では、既知のパイロット信号を用いた伝搬路推定が行われる。この伝搬路推定は、CSI推定用のパイロット信号(図3参照)を用いて行う際は、各送信装置の各送信アンテナと受信装置の各受信アンテナの間の伝搬路行列Hをそれぞれ推定する処理となり、受信ウェイト算出用のパイロット信号(図4参照)を用いて行う際は、式(8)や式(10)に示すような等価伝搬路Hvをそれぞれ推定する処理となる。伝搬路推定部37では、これらの推定が行われ、CSI推定用のパイロット信号を用いて推定された伝搬路行列は送信部39へ、受信ウェイト算出用のパイロット信号を用いて推定された等価伝搬路は受信ウェイト算出部38へそれぞれ入力される。
CSI推定用のパイロット信号を用いて推定された伝搬路行列が入力された送信部39では、伝搬路行列が送信可能な形式に変換され、D/A部40においてディジタル信号からアナログ信号に変換された後、無線部41を経由して送信アンテナ部42から送信装置へ向けて信号が送信される。このような処理により、送信装置の各送信アンテナと受信アンテナとの間の伝搬路を推定し、推定した結果をCSIとして送信装置にフィードバックすることができる。
また、受信ウェイト算出用のパイロット信号を用いて推定された等価伝搬路が入力された受信ウェイト算出部38では、本実施形態における受信ウェイトの算出に必要となる等価伝搬路をまず抽出し、抽出した等価伝搬路により式(8)や式(10)に示すような行列を構成する。そして、式(9)や式(11)に示す演算(SVD)を行って、CSI誤差の影響により生じる干渉の影響を最小に抑えるための受信ウェイトベクトルu(受信装置(1)3−1ではu11とu12、受信装置(2)3−2ではu21とu22)を算出する。また、この受信ウェイトベクトルuは、先に述べたように、所望信号の位相や振幅も補償するように算出してもよい。
このように受信ウェイト算出部38において算出された受信ウェイトベクトルuは受信ウェイト乗算部34へ入力され、信号分離部33から入力されたデータ信号に乗算される。この乗算により、式(12)に示すような信号、または式(12)における所望信号成分の位相や振幅も補償した信号が得られ、この信号を復調部35において復調して上位層36へ入力する。
このような受信装置の構成とすることにより、IAを用いるシステムにおいてCSIの誤差が生じる場合に、全ての干渉源から到来する干渉の等価伝搬路を推定することが可能となり、CSI誤差の影響による特性劣化を最小に抑える受信ウェイトベクトルを算出することができる。また、各送信装置の各送信アンテナとの伝搬路を推定し、CSIとしてフィードバックすることもできる。
以上のような受信ウェイトベクトルを受信データ信号に乗算して所望信号を抽出することにより、IAを用いるシステムでCSIの誤差が生じる場合においても、その影響による特性劣化を低減することが可能となるが、この他にも、特性劣化を低減する受信ウェイトベクトルの算出方法がある。例えば、CSIの誤差が生じなければ、IAを用いることにより揃うはずだった干渉のベクトル(等価伝搬路)を受信装置が把握できる場合には、その揃うはずだった等価伝搬路を用いて受信ウェイトベクトルを算出してもよい。具体的には、例えば式(8)の代わりに、[Hij ’vij Hiivji]HをSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小特異値(ゼロ)に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いることができる。但し、H’vはCSIの誤差が生じる場合の等価伝搬路を、HvはCSIの誤差がない場合の等価伝搬路をそれぞれ表わしている。
また、CSIの誤差によって揃わなかった干渉の等価伝搬路の中点となるベクトルを算出し、その中点ベクトルを用いて受信ウェイトベクトルを算出してもよい。具体的には、例えば、式(8)の代わりに、[Hij ’vij (Hii ’vji+Hij ’vjj)/2]HをSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小特異値(この場合にはゼロ)に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いることとなる。但し、ここで、中点となるベクトルを算出する対象となるベクトル(Hii ’vjiとHij ’vjj)は、いずれも所望信号ではない信号の等価伝搬路を表わすベクトルであり、Hij ’vijはxiiを抽出する際には干渉として扱われるが、実際にはxij、つまり所望信号の等価伝搬路であるため、中点となるベクトルの算出には用いられない。このように、干渉の等価伝搬路の中点となるベクトルを受信ウェイトベクトルの算出に用いる方法は、CSI誤差の生じる主な原因が受信装置でパイロット信号に加わる雑音である場合に、CSI誤差の影響による特性劣化を低減する方法として非常に有効である。
さらに、CSIの誤差によって揃わなかった干渉のうち、等価伝搬路のノルム(大きさ)が最も大きいものを用いて受信ウェイトベクトルを算出してもよい。具体的には、例えば、|Hii ’vji|2 >|Hij ’vjj|2 である場合に、式(8)の代わりに、[Hij ’vij Hii ’vji]HをSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小特異値(この場合にはゼロ)に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いることとなる。このような受信ウェイトベクトルを用いることにより、より大きな干渉成分を完全に除去することが可能となるため、CSIの誤差により生じる特性劣化を低減することができる。
また、本実施の形態における受信ウェイトベクトルの算出は、図1に示すシステム構成だけでなく、図6に示すようなシステムにおいても適用することができる。ここで、図6は、それぞれ2つの送信アンテナを有する送信装置が、それぞれ2つの受信アンテナを有する受信装置へ1ストリーム(ランクとも呼ばれる)ずつを伝送するシステムの一部を表わしており、送信装置(1)1−1は信号x1を受信装置(1)3−1へ、送信装置(2)1−2は信号x2を図示しない受信装置2へ、送信装置(3)1−3は信号x3を図示しない受信装置3へ、それぞれ送信するシステムを表わしている。この時、受信装置(1)3−1にとっては、H2v2x2とH3v3x3とが干渉となるため、これらの干渉のベクトルが受信装置(1)3−1において受信される際に揃うようにIAを適用するものとする。つまり、H2v2=kH3v3(kは任意のスカラー)となるように、送信装置(2)1−2と送信装置(3)1−3において送信ウェイトベクトルが調整されて伝送される。このようなシステムにおいて、伝搬路HがH’へ変動してしまう場合には、H2’v2≠kH3’v3となり、干渉のベクトルが揃わなくなってしまい、自由度を超える干渉の影響により受信特性が大きく劣化してしまう。しかし、このような場合においても、先に述べたように、干渉の等価伝搬路ベクトルを並べた行列の複素共役転置行列[H2 ’v2 H3 ’v3]HをSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小特異値に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いることにより、干渉の影響を最小に抑えることが可能となる。
さらに、送信装置が1つ増加して、送信装置4が送信ウェイトベクトルv4を用いて信号x4を受信装置4に送信する場合に、CSIの誤差が生じると、受信装置1には、H2’v2x2、H3’v3x3、H4’v4x4の3つの干渉が到来することとなるが、このような場合にも同様の方法により受信ウェイトベクトルを算出することにより干渉の影響を低減することができる。具体的には、[H2 ’v2 H3 ’v3 H4 ’v4]HをSVDして得られる右特異ベクトルのうち、最小特異値に対応する右特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いればよい。また、[H2 ’v2 H3 ’v3 H4 ’v4]をSVDする場合には、最小特異値に対応する左特異ベクトルの複素共役転置ベクトルを受信ウェイトベクトルとして用いることもできる。
このように、干渉源が増加する場合にも、伝搬路変動後の干渉の等価伝搬路を基に受信ウェイトベクトルを算出して用いることにより、干渉の影響を低減することが可能となる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図面を参照しながら説明を行う。
第1の実施形態では、IAを用いるシステムでCSIに誤差が生じるような状況において、CSIの誤差により生じる干渉を最小限にする受信ウェイトを例にして説明したが、受信装置における受信特性は、干渉だけでなく受信装置内の熱雑音にも依存するため、干渉と熱雑音の両方を考慮した受信ウェイトを用いることにより、干渉のみを考慮した受信ウェイトを用いる場合に比べ特性が改善することがある。本実施形態では、CSIの誤差により生じる干渉だけでなく、受信装置における熱雑音も考慮した受信ウェイトについて説明する。具体的には、図6に示すシステムを例として、受信信号と所望信号の平均2乗誤差を最小とするMMSE(Minimum Mean Square Error)基準により受信ウェイトを算出する。
先に述べたように、図6は、それぞれ2つの送信アンテナを有する送信装置が、それぞれ2つの受信アンテナを有する受信装置へ1ストリームずつを伝送するシステムの一部を表わしており、送信装置(1)1−1は送信ウェイトベクトルv1によりプリコーディングを施した信号x1を受信装置3へ、送信装置(2)1−2は送信ウェイトベクトルv2によりプリコーディングを施した信号x2を図示しない受信装置2へ、送信装置(3)1−3は送信ウェイトベクトルv3によりプリコーディングを施した信号x3を図示しない受信装置3へ、それぞれ送信するシステムを表わしている。この時、受信装置1にとってはH2v2x2とH3v3x3が干渉となるため、これらの干渉のベクトルが受信装置1において受信される際に揃うようにIAを適用するものとする。
このようなシステムにおいて、CSIの誤差が生じない場合の受信装置1における受信信号y1は次式で表わされる。但し、IAによりH2v2=kH3v3であり、n1は受信装置において受信信号に加わる、分散がσ2のガウス雑音を表わしている。
一方、伝搬路行列HがH’に変動してCSIの誤差が生じる場合には、H2’v2≠kH3’v3となり、受信信号y1は次式で表わされる。
ここで、受信装置1の所望信号はx1であるため、式(14)に示す受信信号y1は、所望信号と2つの干渉信号H2 ’v2x2、H3 ’v3x3と熱雑音n1の和となっていることがわかる。このような受信信号y1と所望信号x1の平均2乗誤差を最小とするための受信ウェイトベクトルuは、以下の式を解くことにより求めることができる。
但し、この式(15)の第1式は、受信信号に受信ウェイトベクトルuを乗算した結果と所望信号の誤差εのノルムの2乗の平均(E(c)はcの平均値を表わす)が最小となるuを求めることを意味している。ここで、各送信信号x1、x2、x3の電力をそれぞれ1と仮定すると、式(15)を満たす受信ウェイトベクトルuは次式で表わされる。
このように、IAを用いるシステムにおける、所望信号との平均2乗誤差が最小となる受信ウェイトベクトルは、所望信号、干渉それぞれの等価伝搬路を基に算出することが可能であり、この受信ウェイトベクトルを受信信号に乗算することにより、CSI誤差の影響による特性劣化を低減することができる。但し、ここでは、各送信信号x1、x2、x3の電力をそれぞれ1と仮定しているため、式(16)においてσ2が単位行列に乗算されているが、一般的には、SNRの逆数が単位行列に乗算されることとなる。
この式(16)に示す受信ウェイトベクトルは、1つの所望信号と2つの干渉が到来する場合の通常のMMSE受信ウェイトベクトルとなっているが、図6に示すように、本実施形態では2本の受信アンテナを有する受信装置に同程度の電力を有する3つの信号(所望信号1、干渉2)が到来し、干渉を除去して所望信号を抽出するための自由度が足りない状況を対象としているため、通常のシステムでは式(16)に示す受信ウェイトベクトルを用いても所望信号を正しく抽出することが困難となる。例えば、式(16)における干渉の等価伝搬路はH2 ’v2とH3 ’v3の2つのベクトルで表わされるが、IAではない通常のシステムでは、これら2つのベクトルが完全に独立(相関が低い)であり、受信側で除去し易いように制御されていないため自由度が足りず、式(16)を用いても所望信号と干渉を分離できない。
しかし、本発明で対象とするIAでは、受信時に干渉の等価伝搬路のベクトルが揃う、つまり受信側で除去し易いよう(ここでは、H2v2=kH3v3となるよう)に、送信装置で用いられる送信ウェイトベクトルが制御されているため、CSI誤差がさほど大きくない状況では、H2 ’v2とH3 ’v3の相関が非常に高くなる。これは、ベクトルが完全には揃わないものの、H2 ’v2≒kH3 ’v3が成り立っている状況と言え、このような状況では、受信アンテナ数以上の信号が到来する場合にも自由度が完全に足りないとは言えないため、式(16)に示す受信ウェイトベクトルを用いることにより、所望信号と干渉を分離し、所望信号を抽出することが可能となる。したがって、IAによって受信側で除去し易いように制御したものの、CSIの誤差により、干渉を除去しきれない場合に、式(16)に示すようなMMSE受信ウェイトベクトルを用いることで、所望信号を抽出することができ、通常のシステムでは得られない特別な効果が得られる。
このような受信ウェイトベクトルを用いる受信装置は、図5に示す受信装置と同じ構成で実現できる。但し、本実施形態における受信装置1が有する受信アンテナ数は2であるため、図5における受信アンテナ部30−3からA/D部32−3は不要となる。また、本実施形態における受信装置では、受信ウェイト算出部38において式(16)に示す受信ウェイトが算出されることとなる。
本実施形態における送信装置も、図2に示す送信装置と同じ構成で実現可能である。但し、本実施形態における各送信装置(図6に示す3つの送信装置)はいずれも1ストリームずつを送信するため、上位層10から変調部11へ入力されて変調され、送信ウェイト乗算部において送信ウェイトベクトルと乗算されるデータ信号は1ストリームとなる。また、本実施形態では、H2v3=kH3v3となるように、図6に示す送信装置(2)1−2と送信装置(3)1−3の間で送信ウェイトベクトルが調整される。第1の実施形態でも述べたように、本発明では、この送信ウェイトベクトルの算出、調整方法については特に問わず、どのような方法を用いてもよい。例えば、送信装置(3)1−3においてv3を決定した後に、決定した送信ウェイトベクトルに関する情報を送信装置(2)1−2に通知し、送信装置(2)1−2ではv2=kH2 −1H3v3よりv2を算出するといった方法でもよい。この時、最初に決定されるv3は任意のベクトルで構わない。また、本実施形態におけるv1については、他の信号とベクトルの向きを揃える必要がないため任意のベクトルでよく、H1をSVDして得られる、最大特異値に対応する右特異ベクトルを用いてもよい。
また、パイロット信号についても、図3や図4に示すパイロット信号と同一の構成でよい。さらに、図3や図4に示すような時間領域での直交化を行う場合に限らず、マルチキャリア伝送システムにおいて、各送信アンテナからのパイロット信号を異なるサブキャリアにより送信するというように周波数領域で直交化してもよいし、異なる直交符号を用いて直交化してもよい。
また、図6に示すシステムでは、受信装置1における所望信号はx1だけであるが、x2またはx3のいずれかをもうひとつの所望信号とみなしてMMSE受信ウェイトベクトルを算出してもよい。これは例えば、x2を所望信号とみなし、等価伝搬路行列Heq=[H1 ’v1 H2 ’v2]とする場合に、受信ウェイトベクトルがHeq H{HeqHeq H+(H3 ’v3)(H3 ’v3)H+σ2I}−1の一行目のベクトルとして得られることを示している。但し、x2とx3のいずれを所望信号とみなしてもよく、この式の一行目と式(16)の演算結果は同一となる。
このように、干渉の一部を所望信号とみなして受信ウェイトベクトルを算出する際に、次のように所望信号とみなすベクトルと干渉のベクトルを求めてもよい。それは、IAが適用された2つの干渉の等価伝搬路H2 ’v2とH3 ’v3は相関が非常に高いベクトル同士であることから、いずれか一方のベクトルを、他方に射影したベクトルとそれに直交するベクトルに分割し、射影されたベクトルと他方のベクトルとを所望信号の等価伝搬路ベクトル、他方のベクトルに直交するベクトルを干渉の等価伝搬路ベクトルとする方法である。この方法について、図7を参照しながら説明する。
図7は、H2 ’v2を、H3 ’v3に射影したベクトルp(=aH3 ’v3)と、それに直交するベクトルqに分解した様子を表わしている。但し、aは任意のスカラーである。また、H2 ’v2やH3 ’v3は複素ベクトルであるため、実際にはこのように2次元平面上のベクトルとして表わすことはできないが、ここでは説明の簡単化のため、2次元平面上に表わしている。このようにベクトルを分解した場合、pとH3 ’v3は向きが揃ったベクトルであり、この合成ベクトルp+H3 ’v3を1つの信号の等価伝搬路ベクトルとみなすことができる。そこで、p+H3 ’v3を所望信号の等価伝搬路ベクトル、qを干渉の等価伝搬路ベクトルとして、受信ウェイトベクトルを算出することもできる。この場合には、等価伝搬路行列がHeq=[H1 ’v1 p+H3 ’v3]となり、受信ウェイトベクトルがHeq H{HeqHeq H+qqH+σ2I}−1の一行目のベクトルとして得られることとなる。
また、等価伝搬路行列はHeq=[H1 ’v1 H3 ’v3]とし、ベクトルpについては信号の電力換算により考慮してもよい。これは、p=aH3 ’v3であることから、H3 ’v3の等価伝搬路を経由して受信された信号の電力を1+a2として扱うことを意味しており、この場合の受信ウェイトベクトルはHeq H{HeqΣHeq H+qqH+σ2I}−1の一行目のベクトルとして得られることとなる。但し、Σは[1 1+a2]を対角成分とする対角行列である。
以上のように、干渉の一部を所望信号とみなして受信ウェイトベクトルを算出し、算出した受信ウェイトベクトルを用いることによっても、CSI誤差の影響による受信特性の劣化を低減することが可能となる。
さらに、第1の実施形態でも述べたように、干渉の等価伝搬路の中点となるベクトルを算出し、その中点ベクトルを用いて受信ウェイトベクトルを算出してもよい。具体的には、Heq=[H1 ’v1 (H2 ’v2+H3 ’v3)/2]とし、受信ウェイトベクトルをHeq H{HeqΣHeq H+σ2I}−1の一行目のベクトルとする。但し、Σは[1 2]を対角成分とする対角行列である。また、中点ではなく、合成ベクトルを算出し、その合成ベクトルを用いて受信ウェイトベクトルを算出してもよい。この場合には、Heq=[H1 ’v1 H2 ’v2+H3 ’v3]となり、受信ウェイトベクトルはHeq H{HeqHeq H+σ2I}−1の一行目のベクトルとなる。このように、干渉の等価伝搬路の中点となるベクトルや合成ベクトルを受信ウェイトベクトルの算出に用いる方法は、CSI誤差の生じる主な原因が受信装置でパイロット信号に加わる雑音である場合に、CSI誤差の影響による特性劣化を低減する方法として非常に有効である。
また、本実施形態では、図6に示すシステムを対象としたが、これに限らず、干渉源となる送信装置が増加する場合にも適用可能である。これは図6に、送信ウェイトベクトルをv4用いて信号x4を受信装置4宛に伝送する送信装置4が加わったような場合であるが、このような場合にも、式(16)に示す受信ウェイトベクトルを算出する際に、送信装置4からの干渉の等価伝搬路ベクトルH4 ’v4も考慮すればよい。したがって、式(16)に示す受信ウェイトベクトルは、(H1 ’v1)H{(H1 ’v1)(H1 ’v1)H+(H2 ’v2)(H2 ’v2)H+(H3 ’v3)(H3 ’v3)H+(H4 ’v4)(H4 ’v4)H+σ2I}−1となる。
さらに、図1に示すような、複数の送信装置からそれぞれ異なるデータ信号を受信する場合にも、抽出すべき所望信号以外の信号を干渉とすることにより、式(16)に示す受信ウェイトベクトルを適用することができる。
以上2つの実施形態では、複数の送信アンテナを有する送信装置において、送信アンテナ間でプリコーディングが行われ、また、受信装置も複数の受信アンテナを有しており、複数の受信アンテナで受信された信号に受信ウェイトベクトルを乗算することにより所望信号を抽出する場合について示した。これは、本発明で対象とするIAが、複数の空間リソース(アンテナ)を用いて行われていることを意味している。しかし、本発明によるCSI誤差の低減方法は、複数の空間リソースを用いて行われるIAに限らず、複数の時間リソースや周波数リソースを用いて行われるIAにも適用可能である。例えば、マルチキャリア伝送が行われるシステムにおいては、1つのデータ信号に対するプリコーディングが複数のサブキャリアにわたって行われることとなるが、このような場合にも、プリコーディング単位で等価伝搬路ベクトルを推定して式(16)に示すような受信ウェイトベクトルを算出し、その受信ウェイトベクトルをプリコーディング単位で受信信号に乗算することにより、複数の空間リソースを用いる場合と同様に、CSI誤差が生じる状況においても所望信号を抽出することが可能となる。但し、以上の実施形態と同様に、IAによって受信時の等価伝搬路ベクトルが揃うように送信側で制御される干渉(非所望信号)の数、換言して、CSI誤差の影響により等価伝搬路ベクトルが揃わずに受信される干渉の数は、複数のリソースを用いることによる自由度以上である。
また、以上2つの実施形態では、干渉源となる複数の送信装置から到来する干渉成分の等価伝搬路の向き(ベクトル)が受信時に揃うように送信側で協調して制御する基本的な場合を対象としていたが、IAでは、必ずしも干渉成分の等価伝搬路の向きを完全に揃える必要はない。これは、干渉成分の等価伝搬路が受信ウェイトに直交するように制御されれば干渉は除去されるためであり、上記実施形態のように、例えば干渉の等価伝搬路がH2v2=kH3v3を満たさなくても構わない。このように、等価伝搬路の向きを完全に揃えない場合のIAでは、以下の式を満たせばよい。
ここで、uは受信ウェイト、vは送信ウェイト、Hは伝搬路、dはゼロでない正の整数をそれぞれ表わしており、式(17)の第一式は、受信装置iにおいて受信された受信装置j宛の信号は受信ウェイト乗算後にゼロとなる、つまり干渉が除去されることを意味している。また、式(17)の第二式は、受信装置iにおいて受信され、受信ウェイトを乗算された受信装置i宛の信号のランク(ストリームとも呼ばれる)がdiであること、つまり所望信号は除去されずに受信されることを意味している。この式(17)に示す関係を満たす送信ウェイトvと受信ウェイトuを求めることにより、干渉成分の等価伝搬路の向き(ベクトル)は受信時に揃わないものの、自由度以上の干渉を除去しつつ所望信号を抽出することが可能となる。このような送信ウェイト、受信ウェイトの算出方法は、特に、図6に示すように3以上の送信装置が互いに異なる宛先に所望信号を送信する際に有効となるが、干渉成分の等価伝搬路の向きが揃うように制御する場合に比べ、複雑な演算を繰り返し行う必要があり、演算量が大幅に増加してしまう。また、このような演算は、全ての伝搬路行列等を把握する集中制御局のような装置において行うことが望ましく、その集中制御局において算出された送信ウェイト、受信ウェイトをそれぞれ各送信装置、各受信装置に通知し、それらの装置で信号との乗算に用いられるようにする必要がある。
このような制御を行う場合にも、CSI誤差が生じる状況では、集中制御局での繰り返し演算により算出された送信ウェイト、受信ウェイトを用いても干渉を効果的に除去することが困難となる。そこで、各受信装置では、式(9)や式(11)に示すように、伝搬路変動の影響を受けた干渉成分の等価伝搬路を並べた行列にSVDを施して得られる受信ウェイトベクトルを用いることにより、干渉の影響を最小限とすることが可能となる。また、式(15)を解いて得られる式(16)のような受信ウェイトを用いることにより、干渉だけでなく雑音の影響も考慮して所望信号の抽出を行うことができる。
式(16)は、1つの所望信号と2つの干渉が到来する場合の通常のMMSE受信ウェイトベクトルとなっているが、本発明では、干渉を除去して所望信号を抽出するための自由度が足りない状況を対象としているため、IAとは異なる通常のシステムでは式(16)に示す受信ウェイトベクトルを用いても所望信号を正しく抽出することが困難となる。しかし、先に述べたように、IAを行うシステムでは、自由度以上の数だけ到来する干渉信号の各等価伝搬路が受信ウェイトベクトルに直交し、受信側で除去し易いように制御されているため、それらにCSI誤差によるずれが生じたとしても、式(16)を用いることにより、誤差の影響を低減し、所望信号を抽出することが可能となる。
また、本発明に関わる端末装置および基地局装置で動作するプログラムは、本発明に関わる上記実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的にRAMに蓄積され、その後、各種ROMやHDDに格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行なわれる。プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光記録媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD等)、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよい。また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本発明の機能が実現される場合もある。
また市場に流通させる場合には、可搬型の記録媒体にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されたサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれる。また、上述した実施形態における端末装置および基地局装置の一部、または全部を典型的には集積回路であるLSIとして実現してもよい。端末装置および基地局装置の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。