本発明の非水電解質電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という場合がある)は、前記一般式(1)で表されるポリアミン基を含有する微粒子(以下、「ポリアミン基含有微粒子」という場合がある)を主体として含む耐熱多孔質層と、ポリオレフィン製の多孔質膜とを有している。セパレータに係る耐熱多孔質層中に存在する前記一般式(1)で表されるポリアミン基によって、電池の有する非水電解液中に溶出した金属イオンを効果的にトラップすることが可能となる。
非水電解質電池、特に充電が可能なリチウムイオン電池などの非水電解質電池では、電池内に混入した金属製の不純物や正極活物質などから非水電解液中に溶出した金属イオンが負極表面で析出することで、電池性能の低下や内部短絡の要因になりやすい。そのため、特に、正極活物質に主成分として用いられているNi、CoおよびMnや、不純物として電池内に混入する可能性の高いFe、ZnおよびCuなどのイオンを効果的にトラップする一方で、電池の充放電に関与するLiイオンについては、できるだけトラップしないことが好ましい。
前記一般式(1)で表されるポリアミン基は、遷移金属や重金属のトラップ能力に優れる一方で、アルカリ金属やアルカリ土類金属のトラップ能力は低い。そのため、本発明の電池では、セパレータ中に存在する前記一般式(1)で表されるポリアミン基の存在によって、充放電反応を損なうことなく、電池性能の低下や内部短絡の要因を引き起こす金属イオンを良好にトラップすることができる。よって、本発明のセパレータによれば、前記の金属イオンによって生じ得る内部短絡やデンドライトの発生を抑制して、非水電解質電池の信頼性を高めることができ、また、その安全性も高めることができる。更に、前記の通り、非水電解液中への金属イオンの溶出は、電池が高温環境下に置かれた際により生じやすいが、本発明のセパレータを用いることで、高温環境下に置かれた電池の非水電解液中に溶出した金属イオンも良好にトラップできるため、かかる金属イオンによって生じ得る電池の特性低下も抑制することができる。
前記一般式(1)で表されるポリアミン基は、その長さが長い方が、金属イオンをトラップする能力がより高くなる。よって、前記一般式(1)におけるnは2以上であり、3以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。また、前記一般式(1)におけるnは、20以下であることが好ましい。
ポリアミン基含有微粒子は、基材となる耐熱性微粒子が、その表面に前記一般式(1)で表されるポリアミン基を含有することにより構成されているが、その耐熱性微粒子における「耐熱性」とは、少なくとも200℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味している。すなわち、前記耐熱性微粒子は、耐熱温度が、200℃以上であり、300℃以上であることが好ましい。
このような耐熱性微粒子を基材とするポリアミン基含有微粒子を有する耐熱多孔質層を備えたセパレータとすることにより、100〜150℃といった高温下においても、セパレータの形態を維持することができる。そのため、本発明のセパレータを用いた非水電解質電池(本発明の非水電解質電池)では、内部が高温となっても、セパレータの熱収縮による正極と負極との接触が抑えられることから、高い安全性を確保することができる。
ポリアミン基含有微粒子の基材となる耐熱性微粒子としては、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後述する非水電解液や、耐熱多孔質層形成用組成物(媒体を含む組成物)に用いる媒体(溶媒)に安定であり、高温状態で非水電解液に溶解しないものであれば特に制限はなく、無機微粒子であっても有機微粒子(樹脂微粒子)であってもよい。
無機微粒子の具体例としては、例えば、酸化鉄、SiO2(シリカ)、Al2O3(アルミナ)、TiO2、BaTiO3、ZrO2などの酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイトなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物;などの無機微粒子が挙げられる。また、金属微粒子;SnO2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子;などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記の電気絶縁性の耐熱性微粒子を構成する材料など)で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。前記の無機微粒子は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記の無機微粒子の中でも、シリカ、アルミナ、ベーマイトがより好ましく、ベーマイトが特に好ましい。
有機微粒子としては、耐熱性および電気絶縁性を有しており、非水電解液に対して安定であり、更に、電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定な材料により構成された微粒子が好ましく、このような材料としては、例えば、樹脂架橋体が挙げられる。より具体的には、スチレン樹脂〔ポリスチレン(PS)など〕、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂〔ポリメチルメタクリレート(PMMA)など〕、ポリアルキレンオキシド〔ポリエチレンオキシド(PEO)など〕、フッ素樹脂〔ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など〕およびこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂の架橋体;尿素樹脂;ポリウレタン;などが例示できる。有機微粒子には、前記例示の樹脂を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、有機微粒子は、必要に応じて、樹脂に添加される公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤などを含有していても構わない。前記の構成材料の中でも、スチレン樹脂架橋体、アクリル樹脂架橋体およびフッ素樹脂架橋体が好ましく、架橋PMMAが特に好ましく用いられる。
前記のような耐熱性微粒子の表面に前記一般式(1)で表されるポリアミン基を導入するには、耐熱性微粒子を、シランカップリング剤を用いて化学的または物理的に表面処理すればよい。
このようなシランカップリング剤としては、例えば、H2NCH2CH2NHCH2CHCH2Si(OCH3)3、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3、H2NCH2CH2NHCH2PhCH2CH2Si(OCH3)3、H2NCH2CH2NH(CH2)11Si(OCH3)3、(CH3O)3SiCH2CH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、H2NC2H4NHC2H4OSiO〔CH(CH3)CH3〕3、H2NC2H4NHC3H6SiCH3(OCH3)2、H2NC2H4NHC3H6Si(OCH3)3、H2NC2H4NHC3H6Si(OC2H5)3などが挙げられる(なお、例示のシランカップリング剤を表す前記の各式中、Phはフェニレンを表す)。
前記のシランカップリング剤の構造は、前記一般式(1)で表されるポリアミン基の構造に反映されるため、例えば、前記一般式(1)におけるnは、それに応じた構造のシランカップリング剤を選択することで調整できる。
ポリアミン基含有微粒子においては、ポリアミン基による金属イオンのトラップ能力を良好に確保する観点から、耐熱性微粒子の表面積当たりの前記ポリアミン基の被覆率(以下、「ポリアミン基の被覆率」と省略する場合がある)が、1%以上である。ただし、ポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の被覆率が高すぎると、この微粒子を含有するセパレータを用いた非水電解質電池の充放電に関与するLiを吸着して、非水電解質電池の特性を損なう虞がある。よって、ポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりの前記ポリアミン基の被覆率は、20%以下である。
耐熱性微粒子の表面積当たりの前記ポリアミン基の被覆率(%)は、耐熱性微粒子の比表面積A1(m2/g)、耐熱性微粒子の使用量A2(g)、シランカップリング剤の最小被覆面積B1(m2/g)およびシランカップリング剤の使用量B2(g)から、下記(2)式を用いて算出される。
被覆率 = 100×(B1×B2)/(A1×A2) (2)
前記のシランカップリング剤の最小被覆面積B1(m2/g)は、シランカップリング剤の分子量Msを用いて下記(3)式により求められる値である。
B1 = 6.02×1023×13×10−20/Ms (3)
ポリアミン基含有微粒子を製造するに当たっては、例えば、シランカップリング剤と耐熱性微粒子とを、媒体(水など)の共存下で混合する方法が採用できるが、ポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の被覆率を前記の値に調整するには、比較的強いせん断力がかかる混合手段によって、シランカップリング剤と耐熱性微粒子と媒体とを混合することが好ましい。このような混合手段としては、例えば、ボールミル、ハイブリッドミキサー、フィルミックスなどが挙げられる。
また、ポリアミン基含有微粒子における前記一般式(1)で表されるポリアミン基の含有量は、ポリアミン基による前記の効果をより良好に確保する観点から、0.20質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。ただし、ポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量が多すぎると、この微粒子を含有するセパレータを用いた非水電解質電池の充放電に関与するLiを吸着して、非水電解質電池の特性を損なう虞がある。よって、ポリアミン基含有微粒子における前記一般式(1)で表されるポリアミン基の含有量は、0.99質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。
ポリアミン基含有微粒子における前記一般式(1)で表されるポリアミン基の含有量を測定する方法は特に限定されない。例えば液体クロマトグラフィーを用いることで物質の組成解析を行うことや、熱重量分析などの測定により得られる熱重量分析重量減少率から、耐熱性微粒子の表面に導入されたポリアミン基の含有量を測定できる。
前記の方法によって測定される熱重量分析重量減少率は、耐熱性微粒子の表面に導入された有機基[すなわち、前記一般式(1)で表されるポリアミン基]の含有量(含有率)となる。すなわち、熱重量分析重量減少率は、熱重量分析前に高分子物質の良溶媒を用いて洗浄し、ポリアミン基含有微粒子の重量に対して、100〜700℃まで昇温して行った熱重量分析において生じる、粒子表面に結合しているポリアミン基の脱着や燃焼などによって生じる重量減少量の割合であり、具体的には、下記式により求められる。
熱重量分析重量減少率 = 100×a/b(%)
(前記式中、a:熱重量分析において100〜700℃まで昇温した際の重量減少量、b:熱重量分析前における試料の重量、である。)
熱重量分析の際の条件などは特に限定されず、前処理や昇温速度などについては、通常の条件を採用すればよい。測定装置としては、例えば、リガク社製のTG測定装置「TG8120」などを使用することができる。
ポリアミン基含有微粒子を構成する耐熱性微粒子は、比表面積が小さすぎると、ポリアミン基の被覆率が高くなりやすくなる。よって、ポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の被覆率を前記の値に調整することを容易にして、この微粒子を含有するセパレータを用いた非水電解質電池の特性低下を抑制する観点から、耐熱性微粒子の比表面積は、1m2/g以上であることが好ましく、3m2/g以上であることがより好ましい。また、ポリアミン基含有微粒子を構成する耐熱性微粒子の比表面積が大きすぎると、ポリアミン基の被覆率が低くなりやすくなる。よって、ポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の被覆率を前記の値に調整することを容易にして、この微粒子を含有するセパレータを用いた非水電解質電池において、この微粒子を使用することによる効果を良好に確保できるようにする観点から、耐熱性微粒子の比表面積は、250m2/g以下であることが好ましく、150m2/g以下であることがより好ましい。
本明細書でいう耐熱性微粒子の比表面積は、窒素ガスを用いてBET法により測定される値である。
また、ポリアミン基含有微粒子を構成する耐熱性微粒子は、粒径が大きすぎるとポリアミン基含有微粒子の粒径も大きくなりすぎて、耐熱多孔質層を薄く形成することが難しくなり、また、リチウムイオンの運動の障害となって電池の出力密度が小さくなる虞があることから、その平均粒子径が、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。一方、ポリアミン基含有微粒子を構成する耐熱性微粒子の粒径が小さすぎると、ポリアミン基含有微粒子の粒径も小さくなりすぎて、その表面積が大きくなるため、耐熱多孔質層中でのポリアミン基含有微粒子の分散性が低下し、また、ポリアミン基含有微粒子の付着水が増加して、電池内の水分量の制御が困難となる。電池内の水分量が多くなると、電池特性が低下する虞がある。よって、こうした問題の発生を抑えて、良好な特性の電池を構成し得るようにする観点から、ポリアミン基含有微粒子を構成する耐熱性微粒子の平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
本明細書でいうポリアミン基含有微粒子を構成する耐熱性微粒子の平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、耐熱性微粒子を膨潤させたり溶解させたりしない媒体(例えば水)に分散させて測定した体積基準の積算分率における50%での粒径(D50)である。
本発明のセパレータに係る耐熱多孔質層は、例えば、ポリアミン基含有微粒子をバインダで結着して形成することができる。また、耐熱多孔質層に使用するバインダを、耐熱多孔質層とポリオレフィンを主体とする多孔質膜との接着に利用することもできる。
耐熱多孔質層において、ポリアミン基含有微粒子は、その主体をなすもので、耐熱多孔質層におけるポリアミン基含有微粒子の量は、耐熱多孔質層の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積。以下同じ。)中、50体積%以上であり、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。また、耐熱多孔質層には、前記の通り、ポリアミン基含有微粒子同士の結着などのためにバインダを含有させることが好ましいことから、耐熱多孔質層におけるポリアミン基含有微粒子の量は、耐熱多孔質層の構成成分の全体積中、99体積%以下であることが好ましく、98体積%以下であることがより好ましい。
耐熱多孔質層に使用するバインダは、例えば、耐熱多孔質層の構成成分同士を良好に接着でき、電気化学的に安定で、更に非水電解液に対して安定であれば特に制限はない。具体的には、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35mol%のもの)、アクリレート共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアセトアミド(PNVA)などの樹脂が挙げられ、また、これらの樹脂の一部に、非水電解液への溶解を防止するために架橋構造を導入したものも用いることができる。これらのバインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、架橋構造を有するアクリレート共重合体が好ましく、PNVAが特に好ましい。
耐熱多孔質層におけるバインダの量は、ポリアミン基含有微粒子同士をより良好に結着したり、また、ポリオレフィン製の多孔質膜も有するセパレータの場合、耐熱多孔質層とポリオレフィン製の多孔質膜とをより良好に接着したりする観点から、耐熱多孔質層の含有するポリアミン基含有微粒子を100体積%としたときに、1体積%以上であることが好ましく、2体積%以上であることがより好ましい。ただし、耐熱多孔質層におけるバインダの量が多すぎると、耐熱多孔質層の空孔が塞がれて、負荷特性に代表される電池特性が低下する虞がある。よって、耐熱多孔質層におけるバインダの量は、耐熱多孔質層の含有するポリアミン基含有微粒子を100体積%としたときに、20体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましい。
本発明のセパレータに係るポリオレフィン製の多孔質膜を構成するポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのポリオレフィンは、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が80〜180℃の熱可塑性樹脂であり、セパレータが、このようなポリオレフィンで構成された多孔質膜を有していることで、電池内が高温となった際にポリオレフィンが軟化してセパレータの空孔が閉塞される、いわゆるシャットダウン特性を確保することができる。
本発明のセパレータがシャットダウン特性を有する場合、そのシャットダウン温度は、低すぎると非水電解質電池の通常の使用時において電池特性の低下を引き起こす虞があることから、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、セパレータのシャットダウン温度は、高すぎると、このセパレータを用いた非水電解質電池の熱暴走にシャットダウンが追いつかなくなる虞があることから、180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。
本明細書でいうセパレータのシャットダウン温度は、以下の方法により測定される値である。直径16mmの2枚のステンレス鋼板に直径25mmとした前記セパレータを挟んだ積層体を挿入し、更にエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとを体積比1:2で混合した溶媒にLiPF6を1.0mol/lの濃度で溶解した電解液を注入して密閉したセルを、恒温槽に入れ、槽内の温度を1℃/minの割合で昇温し、その間に前記積層体に係る2枚のステンレス鋼板の間の抵抗値を測定し続け、前記抵抗値が40Ωになった温度を、セパレータのシャットダウン温度とする。
セパレータのシャットダウン温度は、ポリオレフィン製の多孔質膜の主体となるポリオレフィンの融点に依存するため、かかるポリオレフィンの種類の選択によって調整することができる。
ポリオレフィン製の多孔質膜には、従来から知られている溶剤抽出法や、乾式または湿式延伸法などにより形成された孔を多数有するイオン透過性の多孔質膜(電池のセパレータとして汎用されている微多孔膜)を用いることができる。この場合、ポリオレフィン製の多孔質膜(微多孔膜)は、例えば、PEのみを使用したものやPPのみを使用したものであってもよく、また、PE製の微多孔膜とPP製の微多孔膜との積層体(例えば、PP/PE/PP三層積層体など)などであってもよい。
ポリオレフィンを主体とする多孔質膜は、フィラーなどを含有していてもよい。このようなフィラーとしては、例えば、耐熱多孔質層に係るポリアミン基含有微粒子の基材となる耐熱性微粒子として例示した前記の各種微粒子が挙げられる。
本発明のセパレータにおいては、シャットダウン特性を良好に確保する観点から、ポリオレフィンの量が以下のようであることが好ましい。セパレータの構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中におけるポリオレフィン製の多孔質膜に係るポリオレフィンの量が、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましい。また、ポリオレフィン製の多孔質膜の構成成分の全体積(空孔部分を除く全体積)中、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましい(ポリオレフィンが100体積%であってもよい。)。更に、耐熱多孔質層の空孔率が30〜70%であり、かつポリオレフィン製の多孔質膜に係るポリオレフィンの体積が、耐熱多孔質層の空孔体積の50%以上であることが好ましい。
本発明のセパレータにおいて、耐熱多孔質層、およびポリオレフィン製の多孔質膜は、それぞれ1層ずつであってもよく、いずれか一方または両方が複数であってもよい。すなわち、前記セパレータは、ポリオレフィン製の多孔質膜の片面に耐熱多孔質層を有する構造の他に、例えば、ポリオレフィン製の多孔質膜の両面に耐熱多孔質層を有する構造や、耐熱多孔質層の両面にポリオレフィン製の多孔質膜を有する構造などを有していてもよい。ただし、セパレータを構成する層の総数は、あまり多すぎると、セパレータの全厚みを増やして電池の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるため、5層以下であることが好ましい。
セパレータの厚みは、十分な強度を確保する観点から、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。ただし、セパレータが厚すぎると、電池の高出力化の効果が小さくなる虞があることから、セパレータの厚みは、40μm以下であることが好ましく35μm以下がより好ましい。
また、耐熱多孔質層の厚み(セパレータが耐熱多孔質層を複数有する場合には、その合計厚み。耐熱多孔質層の厚みについて、以下同じ。)は、セパレータの熱収縮を制御し、かつ混入した異物や正極から溶出した金属イオンを吸着し、内部短絡を防止して電池の信頼性をより良好に高める観点から、3μm以上であり、4μm以上であることがより好ましい。ただし、耐熱多孔質層の厚みが厚すぎると、充放電に関与するLiを吸着したり、またセパレータの全厚みが大きくなってしまい、電池負荷特性の低下を引き起こしたりする虞がある。よって、耐熱多孔質層の厚みは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
更に、ポリオレフィン製の多孔質膜の厚み(セパレータがポリオレフィン製の多孔質膜を複数有する場合には、その合計厚み。ポリオレフィン製の多孔質膜の厚みについて、以下同じ。)は、電池のシャットダウン特性を良好に確保する観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、セパレータの全厚みを小さくして、電池の容量や出力密度をより向上させる観点から、ポリオレフィン製の多孔質膜の厚みは、35μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
セパレータの空孔率としては、非水電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。セセパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(2)式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P ={1−(m/t)/(Σai・ρi)}×100 (4)
ここで、前記式中、ai:全体の質量を1としたときの成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
また、前記(4)式において、mを、ポリオレフィン製の多孔質膜の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを、ポリオレフィン製の多孔質膜の厚み(cm)とし、aiを、ポリオレフィン製の多孔質膜全体の質量を1としたときの成分iの比率とすることで、前記(4)式を用いてポリオレフィン製の多孔質膜の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められるポリオレフィン製の多孔質膜の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
更に、前記(4)式において、mを、耐熱多孔質層の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを、耐熱多孔質層の厚み(cm)とし、aiを、耐熱多孔質層全体の質量を1としたときの成分iの比率とすることで、前記(4)式を用いて耐熱多孔質層の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる耐熱多孔質層の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
本発明に係るセパレータの熱収縮率は、150℃の温度雰囲気下に静置したときの熱収縮率が、10%以下であることが好ましく、5%であることがより好ましい。セパレータが前記のような熱収縮率を有する場合には、電池内に導電性異物が混入することによる内部短絡の発生時における問題をより良好に回避でき、また、仮に内部短絡が発生し電池内の温度が上昇し始めても、セパレータの形状が良好に維持されるため、更なる問題の発生を抑えることができ、より安全性に高い電池とすることが可能となる。セパレータの前記熱収縮率は、セパレータを、これまで説明してきた構成とすることで確保することができる。
本明細書でいう「150℃の温度雰囲気下に静置したときのセパレータの熱収縮率」は、具体的には、後述する実施例で用いた方法により測定する。
本発明に係るセパレータは、例えば、耐熱多孔質層を構成するポリアミン基含有微粒子およびバインダなどを、水や有機溶媒といった媒体に分散させてスラリー状やペースト状の耐熱多孔質層形成用組成物(バインダは、媒体に溶解していてもよい)を調製し、これを用いて耐熱多孔質層を形成する工程を経て製造することができる。
例えば、前記の耐熱多孔質層形成用組成物を、ポリオレフィン製の多孔質膜の表面に塗布し、乾燥することで、本発明のセパレータを製造することができる。
また、前記の耐熱多孔質層形成用組成物を、樹脂フィルムなどの基材の表面に塗布し乾燥して形成した耐熱多孔質層を基材から剥離し、これをポリオレフィン製の多孔質膜と貼り合わせて本発明のセパレータを製造してもよい。この場合、耐熱多孔質層とポリオレフィン製の微多孔膜とは、重ね合わせた後にロールプレスなどを用いて貼り合わせることができる。
ポリオレフィン製の多孔質膜や基材の表面への耐熱多孔質層形成用組成物の塗布は、例えば、耐熱多孔質層形成用組成物を公知の塗工装置により塗布する方法によって実施することができる。耐熱多孔質層形成要素生物を塗布する際に使用できる塗工装置としては、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、ダイコーターなどが挙げられる。
耐熱多孔質層形成用組成物に用いられる媒体は、ポリアミン基含有微粒子などを均一に分散でき、また、バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般的な有機溶媒が好適に用いられる。尚、これらの媒体に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、前記の通り水を媒体としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)や各種界面活性剤を適宜加えて界面張力を制御することもできる
耐熱多孔質層形成用組成物は、その固形分(媒体を除く成分)の含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
ポリオレフィン製の多孔質膜には、耐熱多孔質層との接着性を高めるために、表面改質を行うことができる。ポリオレフィン製の多孔質膜は、表面の接着性が一般に高くないため、表面改質が有効であることが多い。
ポリオレフィン製の多孔質膜の表面改質方法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、紫外線照射処理などが挙げられる。なお、環境問題への対応の観点から、例えば耐熱多孔質層形成用組成物の媒体には水を用いることがより望ましく、このことからも、表面改質によってポリオレフィン製の多孔質膜の表面の親水性を高めておくことは非常に好ましい。
本発明の非水電解質電池は、正極、負極、セパレータおよび非水電解液を有しており、セパレータが本発明のセパレータであればよく、その他の構成および構造については、従来から知られている非水電解質電池で採用されている各種構成および構造を適用することができる。なお、本発明の非水電解質電池には、一次電池と二次電池が含まれるが、以下には、特に主要な用途である二次電池(リチウム二次電池)を例に挙げて説明する。
正極としては、従来から知られている非水電解質電池に用いられている正極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。例えば、正極活物質としては、LiMxMn2−xO4(ただし、Mは、Li、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Sn、Sb、In、Nb、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.01≦x≦0.5)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LixMn(1−y−x)NiyMzO(2−k)Fl(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦x≦1.2、0<y<0.5、0≦z≦0.5、k+l<1、−0.1≦k≦0.2、0≦l≦0.1)で表される層状化合物、LiCo1−xMxO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi1−xMxO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiM1−xNxO2(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるオリビン型複合酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の電池は、正極から溶出し、負極に析出することで電池特性を低下させたり短絡を引き起こしたりする金属イオンを、セパレータの有するポリアミン基含有微粒子の作用によって効果的にトラップすることができる。そのため、本発明の電池においては、Mnの溶出が生じやすい前記のスピネル型リチウムマンガン複合酸化物を正極活物質に用いた場合に、その効果が特に顕著となる。
正極には、前記の正極活物質と、導電助剤やバインダとを含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に形成した構造のものを使用することができる。
正極のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などフッ素樹脂などが、また、正極の導電助剤としては、例えば、カーボンブラックなどの炭素材料などが使用される。
また、正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
負極としては、従来から知られている非水電解質電池に用いられている負極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する負極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素を含む単体、化合物およびその合金、リチウム含有窒化物、または酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金、更にはLi4Ti5O12で表されるようなTi酸化物も負極活物質として用いることができる。これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどのバインダなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極合剤層)に仕上げたもの、または前記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体上に負極剤層として積層したものなどが用いられる。
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、下限は5μmであることが望ましい。また、負極側のリード部は、正極側のリード部と同様にして形成すればよい。
前記の正極と前記の負極とは、前記のセパレータを介して積層した積層電極体や、更にこれを巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。
本発明の非水電解質電池に係る非水電解液には、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液を使用することができる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLi+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限は無い。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6 などの無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩;などを用いることができる。
非水電解液に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。
このリチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
本発明の非水電解質電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
本発明の非水電解質電池は、従来から知られている非水電解質電池が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。なお、各実施例および比較例に記載のポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、前記の熱重量分析法により求めた値である。
実施例1
<ポリアミン基含有微粒子の作製>
水900g中に、耐熱性微粒子であるベーマイト(二次粒子径D50=0.6μm、比表面積16m2/g)100gを加え、更に、シランカップリング剤であるTrimethoxysilylpropyl Modified Polyethlenimineを、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が3%となるように添加したものを、ボールミルで24hr分散し、その後、80℃で5hr乾燥させ、更に120℃で15hr真空乾燥を行って、ポリアミン基含有微粒子を得た。得られたポリアミン基含有微粒子に係るポリアミン基の、前記一般式(1)におけるnは14〜17である。また、このポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、0.42質量%であった。
<セパレータの作製>
水600gを入れた容器中に、前記のポリアミン基含有微粒子500gと、バインダであるアクリレート共重合体(モノマー成分としてブチルアクリレートを主成分とする市販のアクリレート共重合体7.5gとを加え、スリーワンモーターを用いて1時間攪拌させて分散させて、均一な耐熱多孔質層形成用液状組成物を調製した。
ポリオレフィン製の多孔質膜として、PP層とPE層とを、PP/PE/PPの順に3層積層した微多孔膜(厚み:16μm、空孔率:45%、各層の厚み;PP層:5μm/PE層:6μm/PP層:5μm)を用意し、その片面にコロナ放電処理を施した。そして、この3層構造の微多孔膜のコロナ放電処理面に、前記の耐熱多孔質層形成用組成物を、ダイコーターを用いて、乾燥後の耐熱多孔質層の厚みが5.0μmになるように均一に塗布し乾燥して、セパレータを得た。
得られたセパレータの、耐熱多孔質層におけるポリアミン基含有微粒子(ポリアミン基含有ベーマイト)の含有量は、耐熱多孔質層の構成成分の全体積中39体積%であり、バインダの含有量は、ポリアミン基含有微粒子100体積%に対して5体積%である。
<正極の作製>
正極活物質であるLiMn2O4:92質量%と、導電助剤であるアセチレンブラック:4質量%と、分散剤であるポリビニルピロリドン:0.3質量%とを混合し、ここに、正極合剤中において3.7質量%となる量のPVDF(バインダ)を含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を加え、よく混練して正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚みが10μmのアルミニウム箔の片面に、乾燥後の正極合剤層の質量が、正極集電体の片面あたり18.3mg/cm2となる量で前記のスラリーを均一に塗布し、その後80℃で乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して正極を得た。なお、正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するようにした。前記正極の正極合剤層の厚みは、集電体(アルミニウム箔)の片面あたり、70μmであった。
前記の正極を、正極合剤層の大きさが41mm×25.5mmで、かつアルミニウム箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのアルミニウム製リード片を、アルミニウム箔の露出部に溶接した。
<負極の作製>
負極活物質である天然黒鉛:97.8質量%と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース:1.2質量%とを混合し、ここに、負極合剤中において1質量%となる量のSBR(バインダ)を含むNMP溶液を加え、よく混練して負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚み10μmの圧延銅箔の片面に、乾燥後の負極合剤層の質量が、負極集電体の片面あたり6.2mg/cm2となる量で前記のスラリーを均一に塗布し、その後80℃で乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して負極を得た。なお、負極合剤含有スラリーを圧延銅箔に塗布する際には、圧延銅箔の一部が露出するようにした。前記負極の負極合剤層の厚みは、集電体(圧延銅箔)の片面あたり、50μmであった。
前記の負極を、負極合剤層の大きさが42mm×27mmで、かつ圧延銅箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのニッケル製リード片を、圧延銅箔の露出部に溶接した。
<電池の組み立て>
前記のセパレータ、前記の正極および前記の負極を、80×80mmのラミネートフィルム上に、負極、セパレータ、正極の順に重ねて積層し、ポリイミドテープで仮止めして積層電極体とした。その後、積層電極体の上に80×80mmのラミネートフィルムを重ね、積層電極体の上下に配置した両ラミネートフィルムの3辺を熱封止し、60℃で1日真空乾燥を行った後に、両ラミネートフィルムの残りの1辺から非水電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとを2:4:4の体積比で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させた溶液)を注入した。その後、両ラミネートフィルムの前記残りの1辺を真空熱封止して、図1に示す外観で、図2に示す断面構造の非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。得られた電池の定格容量は15mAhである(後記の各実施例および比較例の非水電解質電池も、定格容量は全て実施例1の電池と同じである)。
ここで、図1および図2について説明すると、図1は非水電解質電池を模式的に表す平面図であり、図2は、図1のA−A線断面図である。非水電解質電池1は、2枚のラミネートフィルムで構成したラミネートフィルム外装体2内に、正極5と負極6とをセパレータ7を介して積層して構成した積層電極体と、非水電解液(図示しない)とを収容しており、ラミネートフィルム外装体2は、その外周部において、上下のラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、図2では、図面が煩雑になることを避けるために、ラミネートフィルム外装体2を構成している各層や、正極5および負極6の各層を区別して示していない。
正極5は、電池1内でリード片を介して正極外部端子3と接続しており、また、図示していないが、負極6も、電池1内でリード片を介して負極外部端子4と接続している。そして、正極外部端子3および負極外部端子4は、外部の機器などと接続可能なように、片端側がラミネートフィルム外装体2の外側に引き出されている。
実施例2
シランカップリング剤の添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が8.9%となる量に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、1.26質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
実施例3
シランカップリング剤の添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が9.8%となる量に変更した以外は、実施例2と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、2.1質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
実施例4
シランカップリング剤を(3−trimethoxysilylpropyl)diethylenetriamineに変更し、その添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が18.4%となる量に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子に係るポリアミン基の、前記一般式(1)におけるnは2である。また、このポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、0.32質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
実施例5
耐熱性微粒子を、二次粒子径D50=0.05μmで、比表面積120m2/gのベーマイトに変更し、シランカップリング剤の添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が4.2%となる量に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、0.84質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
実施例6
耐熱性微粒子を、シリカ(二次粒子径D50=0.03μm、比表面積250m2/g)に変更し、その添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が1%となる量に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、0.42質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
なお、前記のセパレータの、耐熱多孔質層におけるポリアミン基含有微粒子(ポリアミン基含有シリカ)の含有量は、耐熱多孔質層の構成成分の全体積中39体積%であり、バインダの含有量は、ポリアミン基含有微粒子100体積%に対して5体積%である。
比較例1
実施例1でセパレータの本体に用いたものと同じ3層構造の微多孔膜を、そのままセパレータに用いた以外は、実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
比較例2
耐熱性微粒子を、多面体形状のベーマイト合成品(アスペクト比1.4、D50=0.6μm、比表面積16m2/g)に変更し、これをシランカップリング剤で表面処理せずに用いた以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
比較例3
シランカップリング剤を、3−aminopropyl−trimethoxysilaneに変更し、その添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が22%となる量に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子に係るポリアミン基の、前記一般式(1)におけるnは1である。また、このポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、0.19質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
比較例4
シランカップリング剤の添加量を、得られるポリアミン基含有微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのポリアミン基の被覆率が0.5%となる量に変更した以外は、実施例5と同様にしてポリアミン基含有微粒子を作製した。得られたポリアミン基含有微粒子におけるポリアミン基の量は、0.42質量%であった。
そして、前記のポリアミン基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
比較例5
シランカップリング剤を、N−(trimethoxysilylpropyl)ethylenediamine Triacetic Acid,Trisodium Salt(イミノジ酢酸基被覆用試薬)に変更し、得られる処理微粒子における耐熱性微粒子の表面積当たりのイミノジ酢酸基の被覆率(ポリアミン基の被覆率と同じ方法で求められる被覆率)が4.8%となる量に変更した以外は、実施例1と同様にしてイミノジ酢酸基含有微粒子を作製した。得られたイミノジ酢酸基含有微粒子におけるイミノジ酢酸基の量は、0.5質量%であった。
そして、ポリアミン基含有微粒子に代えて前記のイミノジ酢酸基含有微粒子を用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして非水電解質電池(リチウム二次電池)を作製した。
実施例および比較例の非水電解質電池、並びに、これらの電池に用いたセパレータについて、以下の各評価を行った。
<セパレータの熱収縮率測定>
実施例および比較例の各電池に用いたものと同じセパレータを縦5cm、横10cmの長方形に切り取り、黒インクで縦方向に平行に3cm、横方向に平行に3cmの十字線を描いて測定試料を作製した。なお、セパレータを長方形に切り取るに当たっては、その縦方向が、セパレータの微多孔膜の機械方向MD:Machine Directionとなるようにし、前記十字線は、その交点が、セパレータ片の中心となるようにした。前記の各測定試料を150℃に設定した恒温槽中に吊るし、1時間経過後に各測定試料の縦方向および横方向の直線の長さを測定して、恒温槽中に吊るす前の直線の長さからの変化量を求め、これらの変化量の、恒温槽中に吊るす前の直線の長さに対する比率を百分率で表して、縦方向および横方向の熱収縮率とした。そして、各測定試料の縦方向の熱収縮率と横方向の熱収縮率のうち、より値の大きい方を、各セパレータの熱収縮率とした。
<電池の信頼性測定>
実施例および比較例の各電池について、定格容量に対して1/2Cの電流値で4.2Vまで充電し、0.5Cの電流地で3Vになるまで放電する操作を2回繰り返し、2サイクル目の放電容量を求めて、各電池の初期容量とした。
また、初期容量測定後の各電池について、前記と同じ条件で充電を行い、その後、各電池の劣化診断するため、80℃恒温状態で24時間貯蔵し、自己放電状態を確認した。
自己放電状態の評価は、前記恒温貯蔵後の各電池を、0.5Cの電流値で3Vになるまで放電して求めた放電容量と、恒温貯蔵前の充電容量とを比較し、下記式を用いて容量維持率を求めることにより行った。
容量維持率 = 100×(恒温貯蔵後の放電容量)/(恒温貯蔵前の充電容量)
恒温貯蔵後の放電容量を求めた各電池について、恒温貯蔵前の充電と同じ条件で充電を行い、更に恒温貯蔵後の放電と同じ条件で放電を行う充放電サイクルを2回繰り返し、サイクル2回目での放電容量を求めた。そして、このサイクル2回目の放電容量と、前記初期容量(恒温貯蔵前の2サイクル目の放電容量)とから、下記式に従って回復率(%)を求め、これにより各電池の回復特性を評価した。電池の劣化が小さいときには、数回の充放電で容量が回復するため、この回復率が大きいほど、電池の劣化が小さいことを意味している。
回復率 = 100×(サイクル2回目の放電容量)/(初期容量)
<金属イオン吸着効果の検討>
前記の信頼性測定を行った後の各電池を解体して負極を取り出し、ジエチルカーボネート中に24時間浸漬して洗浄を行った後、ドラフト内で乾燥した。乾燥後の各負極をX−ray Fluoresence(XRF)分析を実施した。XRF分析は、エスアイエス・ナノテクノロジー社製の「SEA10000AII」を使用し、各負極に析出したMn由来のX線光子数を測定することにより行った。
実施例および比較例の非水電解質電池に係るセパレータに用いた微粒子の構成を表1に示し、前記の各評価結果を表2に示す。
表2に示す通り、ポリアミン基の被覆率が適正なポリアミン基含有微粒子を含有するセパレータを備えている実施例1〜6の非水電解質電池は、恒温貯蔵における容量維持率および恒温貯蔵後の回復率が高く、信頼性が良好で、高温貯蔵時の特性低下が良好に抑制できている。実施例の各電池では、負極表面に析出したMn量が少ないが、セパレータの含有するポリアミン基含有微粒子によって、高温貯蔵時に非水電解液中に溶出した金属イオンがトラップされることで、電池特性の低下が抑えられ、信頼性が向上したと考えられる。
また、実施例の非水電解質電池に使用したセパレータは、いずれも150℃における熱収縮率が小さく、高温時における収縮が良好に抑制されている。よって、これらのセパレータを有する実施例の非水電解質電池は、内部が高温となってもセパレータの収縮による短絡の発生が抑制され得るため、安全性が高いといえる。