JP5752301B2 - 電解銅箔及びその電解銅箔の製造方法 - Google Patents

電解銅箔及びその電解銅箔の製造方法 Download PDF

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Description

本件発明は、電解銅箔、その電解銅箔を用いた表面処理銅箔、その電解銅箔の製造方法及びその表面処理銅箔を用いた銅張積層板に関する。特に、析出面が低プロファイルであり、且つ、大きな機械的強度を備える電解銅箔及びその製造方法等に関する。
電解銅箔は、テープオートメーティド ボンディング(以下、「TAB」と称する。)製品、リチウム二次電池用負極集電体等を初めとする種々の分野で、その強度の向上が要求されてきた。例えば、TAB製品においては、製品の略中央部に位置するデバイスホールに配されるインナーリード(フライングリード)に対し、ICチップの複数の端子を直接ボンディングする。このときのボンディングは、ボンディング装置(ボンダー)を用いて、瞬間的に通電加熱して、且つ、一定のボンディング圧を付加して行う。このとき、電解銅箔をエッチング形成して得られたインナーリードが、ボンディング圧で引張られて延びるという問題がある。従って、インナーリードの線幅を細線化するにも、強度的側面からの問題が存在することになる。
また、リチウム二次電池用負極集電体の構成材料として、銅箔を用いる場合には、機械的強度に起因する2つの問題があった。まず、リチウム二次電池用負極集電体の製造プロセスにおける問題である。例えば、賦活剤の坦持プロセスにおいて、かなりの高温での熱履歴を受ける。その結果、用いた電解銅箔の強度の軟化が顕著で、耐久性に劣ることになるため、高寿命のリチウム二次電池の供給が不可能になる。また、機械的強度の低い電解銅箔をリチウム二次電池用負極集電体の構成材料として用いると、充放電を行う際のリチウム二次電池用負極集電体の変形が大きくなるため、高寿命化が達成できないことは当然であり、電池としての安全性にも懸念を生じることになる。このことは充電時の膨張が著しいケイ素や錫を含む負極活物質を使用した場合に、特に顕著となる。
そして一方では、近年の電子及び電気機器の小型化、軽量化等の所謂軽薄短小化に対する要求に併せて、限られた搭載スペースの中で小型化と高機能化に対応した回路形成がプリント配線板に要求される。このようなプリント配線板には、回路のファインピッチ化を行い、高密度化した回路を形成することが必要になる。従って、このようなファインピッチ回路を得るためには、当該電解銅箔の基材との張り合わせ面の粗度を下げて、オーバーエッチング時間の短縮化が必要になる。その結果、近年では、低プロファイル電解銅箔の使用が一般化されている。また、通常の配線板の分野でも、薄膜化する電解銅箔や銅張積層板のハンドリング性を良好にするため、電解銅箔の機械強度を大きくすることが求められてきた。具体的には、引張り強さが70kgf/mmを超え、リン青銅のハード材と同等の機械的強度が電解銅箔に対して望まれてきた。
以上のような要求に応えるべく、基材との張り合わせ面が低プロファイルで、且つ、機械的強度にも優れた電解銅箔として、種々の研究が行われてきた。例えば、特許文献1に開示の発明は、プリント配線板用途やリチウム二次電池用負極集電体用途に実用できる低粗面を持つと共に、疲労屈曲性にも優れた低粗面電解銅箔、具体的には、粗面粗さRzが2.0μm以下で該粗面に凹凸のうねりがなく均一に低粗度化された粗面を持ち、且つ、180℃における伸び率が10.0%以上である低粗面電解銅箔の提供を目的としている。そして、硫酸−硫酸銅水溶液を電解液とし、白金属元素又はその酸化物元素で被覆したチタン板からなる不溶性陽極と該陽極に対向する陰極にチタン製ドラムを用い、当該両極間に直流電流を通じる電解銅箔の製造方法が開示されている。この製造方法において、前記電解液にオキシエチレン系界面活性剤、ポリエチレンイミン又はその誘導体、活性有機イオウ化合物のスルホン酸塩及び塩素イオンを存在させることによって、粗面粗さRzが2.0μm以下で該粗面に凹凸のうねりがなく均一に低粗度化された粗面を持ち、且つ、180℃における伸び率が10.0%以上である低粗面電解銅箔を得られると記載している。
更に、この特許文献1の実施例を見ると、得られた電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rz)が0.9μm〜2.0μm、常態伸び率の値が10%〜18%、180℃における伸び率の値が10%〜20%、常態引張り強さの値が340MPa〜500MPa(34.66kgf/mm〜50.99kgf/mm)、180℃における引張り強さの値が180MPa〜280MPa(18.35kgf/mm〜28.55kgf/mm)であることが開示されている。更に、この電解銅箔の析出面の、幅方向に対する光沢度[Gs(85°)]は120〜132であることが開示されている。
また、特許文献2に開示の発明は、粗面が低粗度化され、時間経過又は加熱処理に伴う抗張力の低下率が低く、しかも高温における伸び率に優れた低粗面電解銅箔及びその製造方法を提供することを目的としている。そして、硫酸−硫酸銅水溶液からなる電解液にヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンイミン、アセチレングリコール、活性有機イオウ化合物のスルホン酸塩及び塩素イオンの五つの添加剤を存在させ、これを用いて電解銅箔を製造している。ここで得られる電解銅箔の粗面粗さRzは2.5μm以下であり、電着完了時点から20分以内に測定した25℃における抗張力が500MPa以上である。更に、電着完了時点から300分経過時に測定した25℃における抗張力の低下率が10%以下であり、電着完了時点から100℃にて10分間加熱処理を施した後に測定した25℃における抗張力の低下率が10%以下であり、且つ、180℃における伸び率が6%以上である低粗面電解銅箔を開示している。
そして、この特許文献2の実施例を見ると、更に具体的内容を把握できる。即ち、硫酸(HSO):100g/L、硫酸銅五水和物(CuSO・5HO):280g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液からなる電解液を基本溶液とし、添加剤としてヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンイミン、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、アセチレングリコール及び塩酸を添加し、この電解液を白金属酸化物にて被覆したチタンからなる不溶性陽極と陰極であるチタン製陰極ドラムとの間に充填し、電解電流密度:40A/dm、電解液温:40℃にて電析して得られた電解銅箔が開示されている。この電解銅箔は、厚さ18μm、析出面の表面粗さ(Rz)が1.5μm〜2.3μmであり、常態の抗張力が650MPa〜900MPa(66.28kgf/mm〜91.77kgf/mm)、100℃で10分間加熱後の抗張力の低下率が0%〜7.7%であったと記載されている。
上記の実施例によれば、これらの製造方法を用いて製造された電解銅箔の析出面は低プロファイルである。その低プロファイルレベルは、従来の低プロファイル電解銅箔から見れば優れており、ファインピッチ回路の形成には効果を発揮しうる。また、従来の電解銅箔よりも優れた機械的強度を得ることが可能なことも開示されている。なお、念のために記載するが、プリント配線板用銅箔における低プロファイルとは、銅箔の絶縁層構成材料との接合界面における凹凸が低いという意味で用いている。
更に、特許文献3には、制御された低プロフィルの電着銅箔が開示されている。具体的には、本質的に円柱状粒子および双晶境界がなくそして10ミクロンまでの平均粒子サイズを有する粒子構造を持つ電着銅箔であって、該粒子構造が実質的に一様でランダムに配向する粒子構造である、制御された低プロフィルの電着銅箔を開示している。そして、この電着銅箔は、23℃における最大抗張力が87,000〜120,000psi(61.18kgf/mm〜84.38kgf/mm)の範囲にあり、180℃における最大抗張力が25,000〜35,000psi(17.58kgf/mm〜24.61kgf/mm)の範囲にある等の物理的特性を備えていること等が開示されている。
この特許文献3の中の記述を見ると、図4には発明に係る銅箔の、倍率1600倍の断面の顕微鏡写真が掲載されている。この図4から理解できるように、特許文献3に開示の電着銅箔は、本質的に円柱状粒子および双晶境界がなくそして10ミクロンまでの平均粒子サイズを有する粒子構造を持つと記載されているように、確かに10ミクロン以下の粒径を備えるが、倍率1600倍で観察可能な結晶粒子を備えることが分かる。そして、厳密に言えば、この特許文献3の明細書中で、23℃における最大抗張力が100,000psi(70.32kgf/mm)を超える電解銅箔は、具体的に開示されていない。
以上の述べてきた従来技術の中でも、特にTAB用途、リチウム二次電池用負極集電体用途においては、多少のコストアップに繋がるとしても、コルソン合金箔を使用する動きがある。
特開2004−263289号公報 特開2004−339558号公報 特開平7−188969号公報
しかしながら、コルソン合金箔は、製造コストが高く、プリント回路の形成材料としては高い電気抵抗を備えることもあり、プリント配線板分野では広く普及し得ないと考えられる。そのため近年は、生産コストの低い電解銅箔にコルソン合金箔並みの機械的強度を備え、且つ、低電気抵抗と言う特性が求められ、代替え品としての高強度電解銅箔の提供が求められるようになっている。即ち、要求されているのは、コルソン合金箔並み又はこれを超える引張り強さ、伸び率、電気抵抗、破断強度等を備える電解銅箔である。なお、コルソン合金箔の場合、引張り強さは、常態で90.00kgf/mm〜99.00kgf/mm程度、180℃×60分の熱処理後でも殆ど変化せず、むしろ析出硬化が起こり値が上昇する場合もある。そして、伸び率は、常態で5.0%〜6.0%、180℃×60分の熱処理後では3.5%〜7.0%である。ここで、伸び率が低下したものは、加熱による析出硬化により引張り強さが上昇し、硬度が上昇したためである。
上記特許文献1に開示の電解銅箔の場合、その電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rz)は、0.9μm〜2.0μmの範囲と良好な低プロファイル表面を形成できているが、常態引張り強さの値が340MPa〜500MPa(34.66kgf/mm〜50.99kgf/mm)の範囲にある。従って、コルソン合金箔並みの高い機械的強度を備えるとは言い難い。
また、上記特許文献2に開示の電解銅箔の場合、析出面の表面粗さ(Rz)が1.5μm〜2.3μmの範囲にあり、ある程度良好な低プロファイル表面を備えている。しかし、常態の引張り強さが650MPa〜900MPa(66.28kgf/mm〜91.77kgf/mm)という範囲にあり、70kgf/mm未満の値が得られることを示している。しかも、本件発明者等が、特許文献2の実施例に基づいてトレース実験(以下の「比較例」に使用)を実施した結果、そこで得られた電解銅箔の引張り強さは、58kgf/mm程度であり、特許請求の範囲に記載された下限値である66.28kgf/mmを超える値が得られなかった。即ち、この特許文献2に開示の電解銅箔の製造方法は、製造安定性に欠けるものであり、得られる製品の品質バラツキも大きいと考えられる。コルソン合金箔並みの高い機械的強度と言えるためには、引張り強さの値が70kgf/mmを超える電解銅箔を安定生産できることが必須であり、特許文献2に開示の電解銅箔の製造方法では困難と考えられる。
更に、特許文献3に開示の電解銅箔の場合、円柱状粒子および双晶境界が無く、平均結晶粒子径が10μm以下の結晶組織(特許文献3の図4によれば、結晶粒径は2μm〜5μm程度と推測できる。)を備えることにより、23℃における最大抗張力が87,000〜120,000psi(61.18kgf/mm〜84.38kgf/mm)の範囲に出来たと解釈できる。しかし、ここでは最大抗張力が90.00kgf/mmを超えるコルソン合金箔並の抗張力は得られていない。また、この特許文献3に開示の電解銅箔の低プロファイルと称する表面粗さに関しては、特許文献3の段落0027〜段落0029に記載されている。この特許文献3では、表面粗さを表示するのに、「Rtm」を使用している。この値は、特許文献3の明細書の段落0029にあるように、「薄い箔のRtmは、厚い箔より小さい傾向がある。」と記載されており、従来の電解銅箔と同様の傾向を備えることが明らかにされている。そして、この特許文献3に開示の箔の場合、180℃における最大抗張力が25、000〜35、000psi(17.58kgf/mm〜24.6kgf/mm)の範囲にあると記載されている。特許文献3に開示の電解銅箔の場合、180℃×60分の加熱後の引張り強さが開示されていないが、当該加熱後の引張り強さが、常態の引張り強さの80%以下に低下する。この点を考慮すると、コルソン合金箔の代替えとはなり得ない。
以上のことから理解できるように、本件発明は、ファインピッチ回路を備えるプリント配線板材料としての電解銅箔であり、且つ、コルソン合金箔の使用が検討されているリチウム二次電池用負極集電体の構成材料等としても使用可能な高強度且つ低電気抵抗の電解銅箔の提供を目的とする。
そこで、本件発明者らは、鋭意研究の結果、以下に述べる電解銅箔を採用することで、コルソン合金箔と同等の高強度化を行うことができた。また、以下に述べる製造方法を採用することにより、コルソン合金箔と同等の高強度な電解銅箔の生産を可能にした。
本件発明に係る電解銅箔: 本件発明に係る電解銅箔は、銅電解液を電解することにより得られる電解銅箔において、当該電解銅箔は、硫黄を110ppm〜400ppm、塩素を150ppm〜280ppm(但し、280ppmは除く)含有し、導電率が48%IACS以上であり、且つ、常態における引張り強さの値が70kgf/mm以上であることを特徴とするものである。
本件発明に係る表面処理銅箔: 本件発明に係る表面処理銅箔は、上述の電解銅箔の表面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか1種又は2種以上を施したことを特徴とするものである。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法: 本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、硫酸系銅電解液を用いた電解法により、上述の電解銅箔を製造する方法であって、当該硫酸系銅電解液は、下記添加剤A〜添加剤Cを含み、塩素濃度が40ppm〜80ppmであるものを用いることを特徴とする。
添加剤A:複素環に1以上のNを含み同時にSH基が結合した5員環構造を有する化合物。
添加剤B:活性硫黄化合物のスルホン酸塩。
添加剤C:環状構造を持つアンモニウム塩重合体。
本件発明に係る銅張積層板: 本件発明に係る銅張積層板は、上述の表面処理電解銅箔を絶縁層構成材料と張合わせて得られることを特徴とするものである。なお、ここで言う銅張積層板の概念には、リジッド銅張積層板及びフレキシブル銅張積層板の双方が含まれる旨を、念のために明記しておく。
本件発明に係る電解銅箔は、上述のようなnmオーダーの析出結晶粒子で構成されているため、結晶粒の微細化効果により、極めて大きな機械的強度を備えるようになる。しかも、この本件発明に係る電解銅箔の機械的強度は、180℃×60分の加熱後においても、常態の機械的強度とほぼ変わらない。そして、その結晶の粒子径が微細であるが故に、従来の低プロファイル電解銅箔を超えるレベルの低プロファイルの析出面を備える。
そして、この本件発明に係る電解銅箔を用いて、その表面に防錆処理を目的とした表面処理、基材樹脂との密着性を向上させるための粗化処理、シランカップリング剤処理等を施して、表面処理銅箔が得られる。従って、この表面処理銅箔も、良好な機械的強度と滑らかな表面を備えるようになる。
また、当該表面処理電解銅箔を用いて得られる銅張積層板は、板厚が薄くても、電解銅箔の極めて大きな機械的強度により、ハンドリング時のたわみ及び変形が少なく、取扱いやすくなる。
更に、本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、使用する銅電解液の組成に特徴を備えている。この銅電解液は、溶液安定性に優れ、長期間の連続使用に耐えるため、経済的にも優れている。
以下、本件発明に係る電解銅箔、表面処理銅箔、電解銅箔の製造方法、銅張積層板のそれぞれの好ましい形態に関して、順を追って説明する。
本件発明に係る電解銅箔の形態: 本件発明に係る電解銅箔は、銅電解液を電解することにより得られる電解銅箔である。最初に、本件発明に係る電解銅箔が含有する成分であって、一般的な電解銅箔には含まれない成分に関して述べる。
本件発明に係る電解銅箔は、硫黄を110ppm〜400ppm、塩素を150ppm〜280ppm(但し、280ppmは除く)含有し、導電率が48%IACS以上であり、且つ、常態における引張り強さの値が70kgf/mm以上であることを特徴とすることが、第1の特徴である。純銅に近い銅成分で、コルソン合金箔に近い機械的特性を得ようとすることは、金属学的常識からしても不可能である。従って、電解銅箔の結晶組織中に硫黄を含有させ、その成分量を適正なレベルとすることで、機械的強度を向上させたのである。なお、念のために記載しておくが、成分の含有量表示に使用した単位「ppm」は、「mg/l」と同義である。
この電解銅箔に含まれる硫黄は、後述する製造方法で用いる電解液の含有成分に起因するものである。この硫黄の含有量が110ppm未満の場合には、電解析出により形成される結晶粒の粒径がnmレベルにならず、高い機械的強度を備える電解銅箔とはならない。一方、この硫黄の含有量が400ppmを超える場合には、電解銅箔の析出組織が脆化を引き起こしやすく、伸び率が減少するため、耐折り曲げ特性の要求されるフレキシブル銅張積層板の製造原料として不適になる。
また、当該電解銅箔は、その構成成分としての塩素は、後述する製造方法で用いる電解液の含有成分に起因するものである。ここで、電解銅箔の構成成分としての塩素が150ppm未満となると、電解析出により形成される結晶粒の粒径がnmレベルになりにくく、安定した高い機械的強度を備える電解銅箔とはならない。しかも、電解銅箔中の塩素濃度が低くなると、電解銅箔を長期間保存したときの機械的強度の変動が大きくなる傾向がある。
そして、本件発明に係る電解銅箔は、その構成成分として、炭素を含有することも好ましい。炭素を含有することで、電解銅箔としての高強度化が図れ、同時にレーザー加工による孔明け性能が向上するからである。この炭素も、後述する製造方法で用いる電解液の含有成分に起因するものである。電解銅箔に含まれる炭素は、250ppm〜470ppm、より好ましくは250ppm〜450ppmの範囲であることが好ましい。炭素含有量が250ppm未満の場合には、電解銅箔としての高強度化が図れず、レーザー加工による孔明け性能も向上させ難い。一方、470ppmを超える炭素濃度になると、電解銅箔が脆化しやすく、伸び率が急激に低下して、同時に電気抵抗の著しい上昇が起こるため、コルソン合金箔の代替えとなりにくい。より好ましい炭素濃度範囲(250ppm〜450ppm)では、電解銅箔としての高強度化と伸び率とのバランスに優れ、且つ、安定して電気抵抗の顕著な上昇を招かないからである。
更に、当該電解銅箔は、その構成成分として窒素を40ppm〜180ppm、より好ましくは40ppm〜120ppmの範囲であることが好ましい。この窒素は、後述する製造方法で用いる電解液の含有成分に起因するもので、電解銅箔への硫黄成分の取り込みを促進する作用があると思われる。ここで、電解銅箔の構成成分としての窒素が40ppm未満となる電解液を用いると、製造する電解銅箔に対し、硫黄成分の適正量の取り込みが困難であり、電解銅箔の構成成分としての窒素が180ppmを超えると、硫黄の含有量も400ppmを超えるようになり、電解銅箔の析出組織が脆化を引き起こしやすく、伸び率が減少するため、耐折り曲げ特性の要求されるフレキシブル銅張積層板の製造原料として不適になる。より好ましい窒素濃度範囲(40ppm〜120ppm)であれば、電解銅箔の製造条件に多少の変動があったとしても、電解銅箔中の硫黄の含有量が400ppmを超えることはなく、脆化しやすい電解銅箔の析出組織が得られることが無くなる。
そして、この電解銅箔は、導電率が48%IACS以上という導電性能を備える。なお、製造条件を最も適正に管理することで、当該電解銅箔の導電率を55%IACS以上とする事も可能である。ここで、市販されているコルソン合金箔の場合の導電率は、35%IACS〜60%IACSの範囲である。従って、本件発明に係る電解銅箔の場合には、コルソン合金箔と同等以上の電気的導電性能を備えることになる。ここで、本件発明に係る電解銅箔の導電率の上限値を明記していない。その理由は、導電率の値は、銅以外の成分の含有量、析出形成した銅結晶粒の粒径の相違等によって、変動するからである。経験的に言えば、上限値は78%IACS程度である。なお、ここで言う導電率(%IACS)は、標準軟銅(比抵抗1.7241μΩ・cm・20℃)の導電率を100%としたとき、同温同体積の他の物質の導電率との比で示したもので、数値が大きいほど電気的導電率が良い。
また、電解銅箔の析出結晶組織の中に、上述のような範囲で硫黄、炭素等を含有させることで、70kgf/mm以上と言う高い常態における引張り強さを備える電解銅箔になる。この高い機械的強度は、主に結晶粒微細化の効果が大きく寄与している。例えば、引張り試験における破断は、試験中の試料片の縁端部にマイクロクラックが発生し、そのマイクロクラックに引張り応力が集中し、クラックの伝播が起こって、破断に至ると考えられる。このときのクラック伝播は、結晶粒界に沿った伝播が主となる。従って、微細な結晶粒を備えていると、クラックの伝播経路が長くなり、破断応力が大きくなる。
そして、本件発明に係る電解銅箔の機械的特性として、常態における伸び率は、3%〜15%の範囲になる。この常態における伸び率の値が3%以上あれば、スルーホール基板を作成する際に、メカニカルドリルで銅張積層板に穴明け加工を行っても、フォイルクラックの発生が防止できる。一方、この常態伸び率の上限値は、本件発明に係る電解銅箔の実績を考慮した実測値の平均であり、経験的に15%程度である。
本件発明に係る電解銅箔の常態における機械的特性を左右する結晶組織は、析出開始面から析出終了面に向けて成長した結晶粒を備え、当該結晶粒の平均短径の長さが30nm〜110nm、平均長径の長さが80nm〜400nmであることが好ましい。ここで「析出開始面から析出終了面に向けて成長した結晶粒」と称しているのは、析出開始面から成長を始めた縦長の結晶粒を意味する。しかし、ここで言う結晶粒は、平均短径の長さが30nm〜110nm、平均長径の長さが80nm〜400nmであるために、10000倍を超える倍率でなければ結晶粒としての確認はできない。好ましくは、30000倍以上の観察倍率の使用が好ましい。従って、ガリウム(Ga)イオンを電界で加速したビームを細く絞った集束イオンビームを用いたFIB法で、電解銅箔の断面をスパッタリングエッチング加工して、そのエッチング表面に出現した結晶粒を走査型電子顕微鏡を使用して観察することが好ましい。
以上に述べたような微細な結晶粒径を電解銅箔が備えることにより、70kgf/mm以上と言う高い常態における引張り強さ及び上述の伸び率が得られる。そして、電解銅箔中の硫黄、炭素、塩素等の含有成分量、電解電流、液温等の電解条件等に影響を受ける要素もあるが、常態で88kgf/mm以上の引張り強さを得る場合には、平均短径の長さが30nm〜60nm、平均長径の長さが80nm〜150nmの範囲とすることが好ましい。
また、本件発明に係る電解銅箔の特徴として、180℃×60分の加熱後であっても、結晶粒のサイズが1μm以下の範囲にある。一般に、圧延銅箔の場合には、その加工度を上げることで常態の引張り強さの値を大きくすることができる。しかし、このような塑性加工的に高強度化した圧延銅箔は、加熱すると、低温でも内蔵転移の再編成による回復現象を起こし再結晶化しやすく、焼鈍効果として容易に軟化する傾向がある。これに対し、電解銅箔の場合には、本来の性質として、低温焼鈍での軟化は起こりにくい。中でも、上述のような硫黄、炭素、塩素を所定量含有した電解銅箔の場合には、180℃×60分の加熱後においても、析出開始面から析出終了面に向けて成長した結晶粒を備え、当該結晶粒の平均短径の長さが25nm〜120nm、平均長径の長さが100nm〜500nmの結晶粒で構成された析出組織を備える。このことから、本件発明に係る電解銅箔は、180℃×60分の加熱を受けても、引張り強さの値が大きく低下しないことが理解できる。
即ち、本件発明に係る電解銅箔は、180℃×60分の加熱を行った後においても、加熱後の引張り強さの値を常態引張り強さの値の85%以上に維持できるとも言える。このように、加熱後の引張り強さの値の低下が小さいのは、本件発明に係る電解銅箔の結晶粒がnmオーダーと微細で、且つ、結晶粒径のバラツキが小さく、電解時に内包される電解液の添加剤成分の結晶粒界への分布が均一なためと考えられる。この添加剤成分が、加熱時には金属銅の拡散バリアとして機能し、結晶粒の肥大化を抑制するため、結晶粒微細化の効果を加熱後も維持できると考えられる。そして、加熱後の引張り強さの値が常態引張り強さの値に対して、90%以上以上であれば、コルソン合金箔の代替品として、より好ましい。これに対し、従来の電解銅箔の場合、180℃×60分の加熱後の引張り強さの値は、常態引張り強さの値の60%以下となる。なお、ここで180℃×60分の加熱条件を選択したのは、一般的な銅張積層板の製造に採用されている加熱プレスの温度条件に近いからである。
また、本件発明に係る電解銅箔は、製造後30日経過後の常態引張り強さの値が70kgf/mm以上を維持できる。電解銅箔の機械的特性は、室温で保管しても、製造直後から経時的に変化して行き、製造後30日経過すると安定化し、その後室温で保管する限り顕著な機械的特性の変化が無くなる傾向がある。そこで、製造後30日経過した常態引張り強さを測定すれば、本件発明に係る電解銅箔の長期品質保証が事実上可能となる。
そして、本件発明に係る電解銅箔の180℃×60分の加熱後の伸び率の値は、3.0%以上、より好ましい実施態様では4.0%以上である。従来の低温アニール性に優れる電解銅箔では、180℃×60分の加熱後には、伸び率の値が常態伸び率の値に比べて大きくなる。これに対し、本件発明に係る電解銅箔は、180℃×60分の加熱後伸び率の値が、常態伸び率の値を基準として比較すると、ほぼ同等の値を示す。
以上に述べた本件発明に係る電解銅箔の備える高い引張り強さ及び伸び率は、その結晶粒の微細さ故に発揮できる機械的特性である。そして更に、この結晶組織は、析出面付近の断面における常態の結晶粒子の「平均長径の長さ」と「平均短径の長さ」とが、[平均短径の長さ]/[平均長径の長さ]=0.1〜0.5の関係を備えることが好ましい。ここで、結晶粒子の平均長径の長さと平均短径の長さとのバランスは、その結晶粒子で構成された電解銅箔の高強度特性及び析出面の低プロファイル性能を同時に安定して得るという観点からは重要なものである。ここで、[平均短径の長さ]/[平均長径の長さ]が0.1未満の場合には、得られる電解銅箔の析出面の低プロファイル化が出来ず、析出面の表面粗さ(Rzjis)が2.0μmを超えるようになるため、ファインピッチ回路の形成が困難な電解銅箔となる。一方、[平均短径の長さ]/[平均長径の長さ]が0.5を超える場合には、結晶粒子の形状が角形状に近づいて行き、高強度化が出来にくい。
そして、本件発明に係る電解銅箔の結晶組織を構成する結晶粒は、微細且つ均一であるため、その析出面の凹凸形状が滑らかになる。この本件発明に係る電解銅箔の析出面の滑らかさを示す指標として、光沢度を採用した。当該析出面の光沢度[Gs(60°)]は、100以上である事が好ましい。後述する実施例では、当該光沢度[Gs(60°)]は、全て100以上である。
なお、以上に述べてきた結晶粒の微細さを備えるが故に、本件発明に係る電解銅箔の析出表面の表面粗さは極めて低く、低プロファイル表面となる。以上に述べてきたような微細な結晶粒を備えることで、Rzjis=0.40μm〜1.80μmの範囲の表面粗さを備える析出表面の形成が可能になる。
以上に述べてきた電解銅箔に関しては、その厚さについての特段の限定はない。電解銅箔として一般的に製造される製品を考えると、7μm〜400μm、特に10μm〜40μmの範囲の厚さの電解銅箔として考えれば足りる。
本件発明に係る表面処理銅箔の形態: 本件発明に係る表面処理銅箔は、上述の電解銅箔の表面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか1種又は2種以上の表面処理を施したことを特徴とする。ここで言う表面処理は、用途別の要求特性を考慮し、接着強度、耐薬品性、耐熱性等を付与する目的で、電解銅箔の表面へ施される粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理等である。
ここで言う粗化処理とは、表面処理銅箔と絶縁層構成材料との密着性を物理的に向上させるための処理であり、一般的に電解銅箔の析出面上に施される。より具体的に例示すると、電解銅箔の表面(主に析出面側)に微細金属粒を付着形成させるか、エッチング法で粗化表面を形成する等の方法が採用される。そして、電解銅箔の表面に、微細金属粒を付着形成する場合には、微細金属粒を析出付着させるヤケめっき工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とを組み合わせて施すのが一般的である。
次に、防錆処理に関して説明する。この防錆処理では、銅張積層板及びプリント配線板等の製造過程で、表面処理銅箔の表面が酸化腐食することを防止するための被覆層として設ける。防錆処理の手法は、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等を用いる有機防錆、もしくは亜鉛、クロメート、亜鉛合金等の無機防錆のいずれを採用しても問題は無く、使用目的に最適と考えられる防錆手法を選択すればよい。そして、有機防錆の場合は、有機防錆剤の浸漬塗布法、シャワーリング塗布法、電着法等の形成手法を採用することが可能である。無機防錆の場合は、電解法、無電解めっき法、スパッタリング法や置換析出法等を用い、防錆元素を電解銅箔層の表面上に析出させることが可能である。
そして、シランカップリング剤処理とは、粗化処理、防錆処理等が終了した後に、表面処理銅箔と絶縁層構成材料との密着性を、化学的に向上させるための処理である。ここで言う、シランカップリング剤処理に用いるシランカップリング剤としては、特に限定を要するものではない。使用する絶縁層構成材料、プリント配線板製造工程で使用するめっき液等の性状を考慮して、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等から任意に選択使用することができる。そして、シランカップリング剤層を形成するには、シランカップリング剤を含有する溶液を用いて、浸漬塗布、シャワーリング塗布、電着等の手法を採用することができる。
本件発明に係る電解銅箔の製造形態: 本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、硫酸系銅電解液を用いた電解法を用いて、上述の電解銅箔を製造する方法である。そして、ここで用いる硫酸系銅電解液の組成に特徴がある。この硫酸系銅電解液は、以下に述べる添加剤A〜添加剤Cを含み、塩素濃度が40ppm〜80ppmであるものを用いることが好ましい。添加剤A〜添加剤C及び塩素の順で説明する。なお、ここで言う硫酸系銅電解液中の銅濃度は50g/L〜120g/L、より好ましくは50g/L〜80g/Lの範囲を用いる。また、フリー硫酸濃度は60g/L〜250g/L、より好ましくは80g/L〜150g/Lの範囲のものを前提として考える。
添加剤Aに関して説明する。この添加剤Aは、「複素環に1以上のNを含み同時にSH基が結合した5員環構造を有する化合物」である。この添加剤Aは、電解銅箔の電析時に結晶粒界に均一に分布し、析出銅の結晶粒の微細化を促進する効果に優れ、電解銅箔の製造の安定化に寄与する。この結果、高い引張り強さを備える電解銅箔が得られる。これらの添加剤Aと同様の効果を示す添加剤として、従来からチオ尿素が知られている。添加剤B、添加剤Cとの組み合わせること無く、このチオ尿素を単独で用いると、銅電解液中で低分子量の分解物が生成するため、その除去が困難で、電析した電解銅箔へ包含されたり、銅の析出状態が不安定化するため好ましくない。
次に、添加剤Aとしての「複素環に1以上のNを含み同時にSH基が結合した5員環構造を有する化合物」とは、イミダゾール系化合物、チオール系化合物である。これらの化合物を、より具体的に言えば、以下の化1として示す2−メルカプト−イミダゾール(以下、「2MI」と称する。)、化2として示す2−チアゾリン−2−チオール(以下、「2TT」と称する。)である。
Figure 0005752301
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以上に述べてきた添加剤Aの中から、2種以上を選択的に用いて、これらを併用することも可能である。添加剤Aの異なる成分を併用しても、添加剤Aとしての効果に変化はなく、むしろ混合使用することによって、硫酸系銅電解液中の銅濃度、液温等に応じた、電解液としての溶液性状の調整が容易になる場合がある。
従って、硫酸系銅電解液中の当該添加剤Aの濃度(2種以上を用いる場合は合算濃度)は、1ppm〜50ppmであることが好ましい。より好ましくは3ppm〜40ppmである。硫酸系銅電解液中の添加剤Aの濃度が1ppm未満の場合には、電解により析出する電解銅箔に取り込まれる添加剤Aの量が不足し、得られる電解銅箔が大きな機械的強度を得られなくなり、当該機械的強さの経時変化も大きくなる。一方、当該添加剤Aの濃度が50ppmを越えると、電解銅箔の析出面の滑らかさが損なわれ、光沢度が低下し、大きな機械的強度を得ることも困難になる。また、当該添加剤Aの群には、種々の分子量を持つ添加剤が含まれていることを考慮すると、モル濃度換算で管理することも好ましい。この場合、添加剤Aをモル濃度換算で10μmol/l〜110μmol/lの範囲で管理する事が好ましい。当該添加剤Aの濃度がモル濃度換算10μmol/l未満となると、電解により析出する電解銅箔に取り込まれる添加剤Aの量が不足し、得られる電解銅箔が大きな機械的強度を得られなくなり、当該機械的強度の経時変化も大きくなる。一方、当該添加剤Aの濃度がモル濃度換算110μmol/lを越えると、電解銅箔の析出面の滑らかさが損なわれ、光沢度が低下し、大きな機械的強度を得ることも困難になる。この銅電解液中の添加剤Aの含有量は、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)を用いて確認することが可能である。
なお、以上に具体的化合物名を特定して述べてきた添加剤Aは、実施例で使用したものを例示しているに過ぎない。従って、以上に述べてきた特徴的化学構造を備え、同様の効果を発揮する化合物であれば、いずれの化合物の使用も可能であることを、念のために明記しておく。
添加剤Bに関して説明する。この添加剤Bは、活性硫黄化合物のスルホン酸塩である。この添加剤Bは、得られる電解銅箔の表面の光沢化を促進するように作用する。添加剤Bを具体的に言えば、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸(以下、「MPS」と称する。)又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(以下、「SPS」と称する。)のいずれか又は混合物を用いることが好ましい。中でも、SPSが、当該電解液中で光沢剤としての効果を発揮すると考えられる。しかし、このSPSは、硫酸系銅電解液中にMPSを添加すると、当該溶液中で重合して2量体化する場合もある。従って、SPSの直接添加を行うこと無く、硫酸系銅電解液中にMPSを添加して、これをSPSに転化して用いても構わない。ここで、化3にMPSの構造式を、化4にSPSの構造式を示す。これら構造式の比較から、SPSがMPSの2量体であることが理解できる。
Figure 0005752301
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そして、当該添加剤Bの硫酸系銅電解液中の濃度は、1ppm〜80ppmの範囲であることが好ましく、より好ましい範囲は10ppm〜70ppm、更に好ましい範囲は10ppm〜60ppmである。当該濃度が1ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面の光沢が失われると同時に、高い機械的強度の電解銅箔を安定して得ることが困難になる。一方、当該濃度が80ppmを超えると、銅の析出状態が不安定になる傾向にあり、高い機械的強度の電解銅箔を安定して得ることが困難になる。なお、添加剤Bの濃度は、濃度計算を容易にするために、ナトリウム塩に換算した値を示した。
添加剤Cについて説明する。この添加剤Cは、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体である。この添加剤Cは、電解法で製造される電解銅箔の表面の平滑化を促進するように作用する。そして、具体的には、添加剤Cとして、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下、「DDAC」と称する。)重合体を用いることが好ましい。DDACは、4級アンモニウム塩が重合体構造をとる際に環状構造を成すものであり、環状構造の一部は4級アンモニウムの窒素原子で構成されることになる。そして、DDAC重合体には、5員環や6員環の環状構造等の複数の形態が存在する。しかし、実際の重合体の化学構造は、合成条件により決定づけられ、1種又は2種以上の化学構造を持つものが混在していると考えられる。従って、これら重合体の内、ここでは5員環構造をとっている化合物を代表とし、塩素イオンを対イオンとしたものを化5として以下に示している。このDDAC重合体とは、以下に示す化5のように、DDACが2量体以上の重合体構造をとっているものである。
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そして、当該添加剤Cの、硫酸系銅電解液中の濃度は0.5ppm〜100ppmの範囲であることが好ましく、より好ましい範囲は10ppm〜80ppm、更に好ましくは20ppm〜70ppmである。硫酸系銅電解液中の添加剤Cの濃度が0.5ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面の平滑化効果が不十分となり、SPSの濃度をいかに高めても、高い機械的強度を得るために必要な微細な結晶粒が得られず、当該析出面が粗くなり低プロファイル表面を得ることが困難になる。一方、当該添加剤Cの濃度が100ppmを超えても、銅の析出面を平滑にする効果は向上せず、むしろ析出状態が不安定になって、高い機械的強度を安定して得ることが困難になる。
更に、前記硫酸系銅電解液中における、前記添加剤Bの濃度と前記添加剤Cの濃度との重量濃度比[B濃度]/[C濃度]の値が0.07〜1.4であることが好ましい。前述のように、添加剤Bと添加剤Cとは、共に高濃度になると析出状態が不安定になる傾向がある。ところが、この銅の析出状態が不安定になる傾向は、一方の成分のみが高濃度となったときに特に顕著になる。従って、前記添加剤Bの濃度と前記添加剤Cの濃度との重量濃度比[B濃度]/[C濃度]の値を0.07〜1.4とすることによって、両添加剤が安定した効果を発揮し、電解操業の安定性も向上する。そして、重量濃度比[B濃度]/[C濃度]の値が0.07〜1.4であれば、後述する塩素添加の効果を発揮させやすくなり、より好ましい。
このような、前記硫酸系銅電解液中の、添加剤A〜添加剤Cの成分バランスが最も重要である。これらの添加剤成分の量的バランスが、上記範囲を逸脱した銅電解液を用いて電解銅箔を製造しても、その電解銅箔は、高い機械的強度を得ることの可能な微細な析出結晶粒を備えず、同時に、平滑で光沢のある析出面が得られず低プロファイル表面が得られなくなる。従って、これらのバランスを良好に維持することで、安定して本件発明に係る極めて大きな機械的強度を有する電解銅箔の製造が可能になる。
そして、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度に関して述べる。この塩素濃度は、40ppm〜80ppmの範囲にあることが重要である。この範囲の塩素濃度を採用することで、上記硫黄、炭素、塩素の各成分をバランス良く含有し、且つ、微細な結晶粒を含んだ高強度の電解銅箔の安定製造が可能になる。このときの塩素濃度は、添加剤A〜添加剤Cを添加した後の状態で、40pm〜80ppm、より好ましくは60ppm〜80ppmである。この、塩素濃度が40ppm未満の場合には、得られた電解銅箔に必要量の硫黄、炭素、塩素の各成分を含有させることができず、電解銅箔の機械的強度が低下する傾向が大きくなる。一方、塩素濃度が80ppmを超えると、コルソン合金並みの高い機械的強度の電解銅箔を得るために必要な電析状態が得られ難くなる。また、この硫酸系銅電解液中の塩素濃度の調整を必要とする場合には、塩酸又は塩化銅を用いて調整することが好ましい。硫酸系銅電解液の溶液性状を変化させないからである。
本件発明に係る銅張積層板の形態: 本件発明に係る銅張積層板は、上述の表面処理電解銅箔を絶縁層構成材料と張合わせて得られることを特徴とするものである。ここで言う銅張積層板の製造方法に関しては、特段の限定はない。但し、ここで言う銅張積層板の概念には、リジッド銅張積層板及びフレキシブル銅張積層板の双方が含まれる。リジッド銅張積層板であれば、ホットプレス方式や連続ラミネート方式を用いて製造することが可能である。そして、フレキシブル銅張積層板であれば、従来技術であるロールラミネート方式やキャスティング方式を用いることが可能である。
そして、本件発明に係る前記リジッド銅張積層板を用いてリジッドプリント配線板が得られ、電解銅箔層の機械的強度が極めて大きいため、物理的外力によるスクラッチ、断線不良等の少ない高品質なファインピッチ回路を備えることになる。また、フレキシブル銅張積層板は、その屈曲性と軽量性とが要求されるフレキシブルプリント配線板の製造に用いられる。本件発明に係る電解銅箔を用いたフレキシブル銅張積層板は、形成した導体の機械的強度が極めて大きいため、高屈曲性及び高いプリント配線板強度を示す。しかも、本件発明に係る電解銅箔は、低プロファイルであるため、フレキシブルプリント配線板に求められるレベルのファインパターン回路の形成に好適である。特に、TABテープのデバイスホールのフライングリードにICチップをボンディングする際のフライングリードの曲がり、ボンディング圧による伸びが解消できる。
以下、本件発明に係る電解銅箔及びその製造方法等の理解を容易にするため実施例を示す。
この実施例では、硫酸系銅電解液として、硫酸銅溶液であって銅濃度80g/L、フリー硫酸濃度140g/Lに調整した基本溶液を用い、表1に示す各添加剤濃度になるように調整した。添加剤BとしてMPS−Na(MPSのナトリウム塩)、添加剤CとしてDDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)、添加剤Aとして、2MIを用いて実施試料としての試料6を製造し、参考試料(試料1〜試料5、試料7及び試料8)を作成するため2M−5S、MSPMT−C、2TT及びEURから選択された1種のいずれかを用い、塩素濃度の調整には塩酸を用いた。そして、表1に示す添加剤の配合が異なる組成の硫酸系銅電解液を用いて、試料1〜試料8の8種類の電解銅箔を製造した。上記実施例に係る試料6及び参考試料である試料1〜試料5、試料7及び試料8の液組成及び電解条件は、比較例の液組成及び電解条件と併せて表1に掲載する。
電解銅箔の作成は、陰極として表面を#2000の研磨紙を用いて研磨を行ったチタン板電極を、陽極にはDSAを用いて、厚さ12μm〜18μmの電解銅箔を作成した。これらの電解銅箔の光沢面(析出面の反対側の面)の表面粗さ(Rzjis)は、0.84μmであった。各特性の評価結果は、以下の比較例及び参考例と対比可能なように表2に纏めて示す。
ここで、各種の測定条件等を述べておく。結晶粒径の測定は、走査型電子顕微鏡を用いて、加速電圧:20kV、観察倍率:×30,000、アパーチャー径:60mm、High Current modeを用いて、観察試料を70°に傾けて、方位差5°以上で粒界とみなし、結晶粒径測定を行った。なお、測定領域、ステップサイズは、結晶の大きさにより、下記の2種類の条件を採用した。実施例に係る試料1〜試料3及び試料5の常態および熱後の結晶粒径の測定は、測定領域:2×2μm、ステップサイズ:10nmとした。そして、以下に述べる比較例の比較試料B及び比較試料Cの常態および熱後結晶粒径の測定は、測定領域:5×5μm、ステップサイズ:30nmとした。そして、引張り強さ及び伸び率の測定に関しては、IPC−TM−650に準拠して行った。また、表面粗さの測定に関しては、JIS B 0601−2001に準拠して行った。さらに、光沢度の測定は、JIS Z 8741−1997に準拠して行った。以下の比較例も同様である。
比較例
[比較例1]
比較例1では、添加剤Aを含んでいないことを除いては、実施例と同様の電解液組成とした。この液組成を、実施例の液組成と併せて、後の表1に示す。
電解銅箔の作成は、陰極として表面を#2000の研磨紙を用いて研磨を行ったチタン板電極を、陽極にはDSAを用いて、液温50℃、電流密度60A/dmで電解し、厚さ15μmの電解銅箔(比較試料A)を作成した。この電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は0.88μmであり、析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.44μmで、光沢度[Gs(60°)]は600以上であった。そして、常態引張り強さの値が35.4kgf/mm、常態伸び率の値は14.3%であった。更に、この電解銅箔の加熱後引張り強さの値は30.7kgf/mm、加熱後伸び率の値は14.8%であった。実施例、他の比較例及び参考例の結果と併せて、後の表2に纏めて示す。
[比較例2]
比較例2では、特許文献2に開示の実施例2をトレースした。具体的には、硫酸濃度を100g/L、硫酸銅五水和物濃度を280g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を調製し、添加剤としてヒドロキシエチルセルロース:80mg/L、ポリエチレンイミン:30mg/L、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム:170μmol/L、アセチレングリコール:0.7mg/L 及び塩素イオン:80mg/Lを含む電解液を調製した。
この電解液の液温を40℃とし、実施例と同様の装置を用いて、電解電流密度40A/dmで電解し、厚さ18μmの電解銅箔(比較試料B)を作成した。この電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は、実施例と同じく、0.84μmであった。そして、析出面の表面粗さ(Rzjis)は1.94μm、常態引張り強さの値が57.7kgf/mm、常態伸び率の値は6.8%であった。また、この電解銅箔の加熱後引張り強さの値は54.7kgf/mm、加熱後伸び率の値は7.3%となった。実施例、他の比較例及び参考例の結果と併せて、後の表2に纏めて示す。
[比較例3]
比較例3では、特許文献2に開示の実施例3をトレースした。具体的には、硫酸濃度を100g/L、硫酸銅五水和物濃度を280g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を調製し、添加剤としてヒドロキシエチルセルロース:6mg/L、ポリエチレンイミン:12mg/L、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム:60μmol/L、アセチレングリコール:0.5mg/L 及び塩素イオン:30mg/Lを含む電解液を調製した。
この電解液の液温を40℃とし、実施例と同様の装置を用いて、電解電流密度40A/dmで電解し、厚さ18μmの電解銅箔(比較試料C)を作成した。この電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は実施例と同じく、0.84μmであった。そして、析出面の表面粗さ(Rzjis)は1.42μm、常態引張り強さの値が57.8kgf/mm、常態伸び率の値は6.4%であった。また、この電解銅箔の加熱後引張り強さの値は55.0kgf/mm、加熱後伸び率の値は8.4%となった。実施例、他の比較例及び参考例の結果と併せて、以下の表2に纏めて示す。
[比較例4]
比較例4では、本件発明で言う適正な範囲を外れた量の添加剤Aを含有した電解液組成を用いた。この液組成は、実施例の液組成と併せて、後の表1に示す。
そして、表1に示すように、実施例と同様の条件及び装置を用いて、電解電流密度60A/dmで電解し、厚さ12μmの電解銅箔(比較試料D)を作成した。この電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は、実施例と同じく、0.84μmであった。そして、析出面の表面粗さ(Rzjis)は26.0μm、常態引張り強さの値が21.1kgf/mm、常態伸び率の値は0.4%であった。また、この電解銅箔の加熱後引張り強さの値は17.7kgf/mm、加熱後伸び率の値は0.2%となった。実施例、他の比較例及び参考例の結果と併せて、後の表2に纏めて示す。
[比較例5]
比較例5では、本件発明で言う適正な範囲未満の塩素量の電解液組成を採用した。この液組成は、実施例の液組成と併せて、後の表1に示す。
そして、表1に示すように、実施例と同様の条件及び装置を用いて、電解電流密度60A/dmで電解し、厚さ18μmの電解銅箔(比較試料E)を作成した。この電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は、実施例と同じく、0.84μmであった。そして、析出面の表面粗さ(Rzjis)は20.9μm、常態引張り強さの値が44.2kgf/mm、常態伸び率の値は1.1%であった。また、この電解銅箔の加熱後引張り強さの値は42.4kgf/mm、加熱後伸び率の値は1.1%となった。実施例、他の比較例及び参考例の結果と併せて、後の表2に纏めて示す。
[参考例]
この参考例では、18μm厚さのコルソン合金箔を参考試料として用いた。このコルソン合金箔の製造に用いたコルソン合金は、Cu−2%Ni−0.5%Si−1%Zn−0.5%Snの組成のものである。このコルソン合金は、基地にNiSi析出物を分散して析出させた析出硬化型合金であり、比較的良好な導電性、強度、応力緩和特性及び曲げ加工性を兼ね備える合金として知られている。
このコルソン合金箔の常態引張り強さの値が91.5kgf/mm、常態伸び率の値は5.4%であった。また、この電解銅箔の加熱後引張り強さの値は92.7kgf/mm、加熱後伸び率の値は6.2%であった。実施例、比較例の結果と併せて、以下の表2に纏めて示す。
Figure 0005752301
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<実施例と比較例との対比>
最初に、表1を参照して理解できる実施例と比較例との対比を行う。本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、硫酸系銅電解液を用いた電解法により電解銅箔を製造するにあたって、当該電解液が、上述の添加剤A(「複素環に1以上のNを含み同時にSH基が結合した5員環構造を有する化合物」)、添加剤B(活性硫黄化合物のスルホン酸塩)、添加剤C(環状構造を持つアンモニウム塩重合体)を含有し、塩素濃度が40ppm〜80ppmの範囲にあるという条件が必要である。そして、当該硫酸系銅電解液中における、前記添加剤Bの濃度と前記添加剤Cの濃度との重量濃度比である[B濃度]/[C濃度]の値が0.07〜1.4であることが好ましい。
従って、実施例では、添加剤A〜添加剤Cの各添加剤を用いて、49.4ppm〜66.0ppmの範囲の塩素濃度の硫酸系銅電解液を用いている。これに対して、比較例の比較試料A及び比較試料Cの製造では塩素濃度30ppmの銅電解液を用いている。そして、比較例の比較試料Bの製造では、塩素濃度80ppmの銅電解液を用いているが、比較試料B及び比較試料Cの製造に用いた銅電解液は、本件発明に係る電解銅箔の製造に用いる銅電解液に含ませることの無いアセチレングリコールを含んでいるため、本件発明に係る製造方法の概念を適用することが不可能である。
更に、本件発明において用いる硫酸系銅電解液中における、前記添加剤Bの濃度と前記添加剤Cの濃度との重量濃度比である[B濃度]/[C濃度]の値が0.07〜1.4であることが好ましい。このとき、実施例の試料1の[B濃度]/[C濃度]=0.40、試料2の[B濃度]/[C濃度]=1.14、試料3の[B濃度]/[C濃度]=0.67、試料4の[B濃度]/[C濃度]=0.78、試料5の[B濃度]/[C濃度]=0.21、試料6〜試料8の[B濃度]/[C濃度]=0.86であり、適正な範囲にある。これに対し、比較例の比較試料Aの製造には、[B濃度]/[C濃度]=1.33の硫酸系銅電解液を用いているが、添加剤Aを添加していないため、後述するように良好な引張り強さ、良好な導電性が得られていない。更に、比較例の比較試料D及び比較試料Eの製造には、[B濃度]/[C濃度]=0.85の硫酸系銅電解液を用いているが、比較試料DはEUR含有量が適正な範囲を外れており、比較試料Eは塩素濃度が適正な範囲未満となっている。このため、後述するように、得られる銅箔の引張り強さが低く、析出面の表面粗さが粗いなどの不具合が生じている。
次に、表2を参照して理解できる実施例と比較例との対比を、各特性毎に行う。最初に導電率に関しての対比を述べる。参考例(18μm厚さの、圧延法で得られたコルソン合金箔)の場合は、導電率が48.2%IACSであり、電解法で得られた実施例及び比較例と比べて、低くなっている。これは、基本的なバルク組成が異なり、圧延箔であるコルソン合金箔は、圧延加工による集合組織の形成により、加工歪みの大きな結晶組織を備えることも要因として考えられる。そこで、実施例を見ると、その導電率は、49.3%IACS〜76.0%IACSの範囲となっている。一方、比較例では、63.2%IACS〜87.5%IACSの範囲にある。
ところが、ここで常態における引張り強さの値に着目してみると、実施例の試料の引張り強さが76.8kgf/mm〜94.6kgf/mmの範囲にある。そして、これに対して、比較例の比較試料の引張り強さが21.1kgf/mm〜57.8kgf/mmの範囲にある。即ち、実施例に係る試料の方が、比較例として用いた比較試料に比べて、圧倒的に高い引張り強さを備えることが分かる。
そして、加熱後の引張り強さに着目してみても、実施例の試料の加熱後引張り強さは、73.9kgf/mm〜93.4kgf/mmの範囲にあり、参考例に掲げたコルソン合金箔と同等の引張り強さを示すものもある。そして、実施例の試料1〜試料8毎に、常態と加熱後との値の変化をみても、大きな軟化現象は見られていない。これに対し、比較例の比較試料の加熱後引張り強さは、17.7kgf/mm〜55.0kgf/mmと低い範囲にある。
次に、表2に掲載した、実施例及び比較例で製造した電解銅箔の析出面の表面粗さをみると、比較試料D及び比較試料Eの表面粗さが極端に大きくなっている。このことから、銅電解液の組成バランスが崩れると、ロープロファイルの析出面が得られないことが理解できる。
ここで、平均結晶粒子径に関して、実施例と比較例とを対比してみる。常態における実施例の各試料の平均結晶粒子径は、平均短径が46.9nm〜104.9nm、平均長径が149.8nm〜381.5nmの範囲にある。即ち、本件発明において好適と称している「平均短径の長さが30nm〜110nm、平均長径の長さが140nm〜400nm」の範囲に入っている。これに対し、常態における比較例の各比較試料の平均結晶粒子径は、平均短径が487.7nm〜916.0nm、平均長径が1217.8nm〜2862.5nmの範囲にあり、即ち、本件発明において好適と称する範囲には含まれない。
更に、加熱後における実施例の各試料の平均結晶粒子径は、平均短径が33.0nm〜117.0nm、平均長径が113.7nm〜468.0nmの範囲にある。即ち、本件発明において好適と称している「平均短径の長さが25nm〜120nm、平均長径の長さが100nm〜500nm」の範囲に入っている。これに対し、加熱後における比較例の各比較試料の平均結晶粒子径は、平均短径が432.7nm〜974.0nm、平均長径が2617.5nm〜2872.7nmの範囲にあり、即ち、本件発明において、加熱後の結晶粒子径として好適と称する範囲には含まれない。
しかも、本件発明では、常態の結晶粒子の平均長径の長さと平均短径の長さとが、[平均短径の長さ]/[平均長径の長さ]=0.1〜0.5の関係を備えることを要求している。このとき、実施例の試料においては[平均短径の長さ]/[平均長径の長さ]=0.16〜0.45の範囲にある。
以上に述べてきた平均結晶粒子径に関して言えば、比較例に比べ、実施例の平均結晶粒子径の方が、常態及び加熱後の双方で、極めて小さなものであることが理解できる。この結晶粒子径の細かさ故に、実施例の電解銅箔は、高い引張り強さを示すと言える。一方で、比較例と比べ、実施例の結晶粒子径は微細であり、結晶組織内の結晶粒界の密度が上昇するため、電気抵抗が高くなると考えられる。その結果、比較例の導電率に比べて、実施例の導電率が低くなると考えられる。
次に、伸び率に関して述べておく。表2から明らかなように、比較試料Aを除いては、電解銅箔として一般的に見られる伸び率であり、電子材料分野において、その用途が限定されるような値ではないことを明記しておく。
更に、表面粗さに関して述べておく。本件発明に係る電解銅箔及び比較例として使用した電解銅箔は、全て低プロファイル銅箔として製造したものである。従って、表面粗さ計で測定したRzjisの値に関して、大きな差異があるとは言えない。
また、光沢度に着目してみると、本件発明に係る実施例で得られた電解銅箔の光沢度は、MD(流れ方向)光沢度で118〜636、TD(幅方向)光沢度で102〜586の範囲を示しており、十分に良好な光沢度を備えると言える。
最後に、表3について述べておく。本件発明に係る電解銅箔は、硫黄を110ppm〜400ppm含有し、炭素を250ppm〜470ppm含有し、塩素を150ppm〜280ppm(但し、280ppmを除く)、窒素を40ppm〜180ppm含有することが望ましいのは、上述のとおりである。表3から分かるように、実施例の各試料の硫黄、炭素、塩素、窒素の成分量は、この範囲に入っている。しかし、比較例の各比較試料の硫黄、炭素、塩素、窒素の各成分量は、いずれかの成分量が、上述の適正な範囲から外れていることが明らかである。そして、本件発明に係る電解銅箔の場合、特に硫黄量及び窒素量が高いことが顕著な特徴と言え、このことが上記の各機械的特性を総合的に満足させているものと思われる。
以上のことから、コルソン合金箔と同等の機械的強さを備える電解銅箔を市場に供給するという観点からみれば、本件発明に係る実施例として掲載した電解銅箔は、参考例であるコルソン合金箔と同等の機械的強さを備え、且つ、コルソン合金箔を超える導電性能を同時に備え、その他電子材料用途として電解銅箔に求められる基本的特性の全てを満足したと言えることが明らかである。
本件発明に係る電解銅箔は、上述のようなnmオーダーの析出結晶粒子で構成されているため、結晶粒の微細化効果により、コルソン合金箔と同等の極めて大きな機械的強度を備えるようにできる。しかも、この本件発明に係る電解銅箔の機械的強度は、180℃×60分の加熱後においても、常態の機械的強度とほぼ変わらない。そして、その結晶の粒子径が微細であるため、従来の低プロファイル電解銅箔と同等レベルの低プロファイルの析出面を備える。そして、この本件発明に係る電解銅箔を用いて、その表面に防錆処理を目的としてた表面処理、基材樹脂との密着性を向上させるための粗化処理、シランカップリング剤処理等を施すことで、良好な機械的強度と低プロファイル表面を備える表面処理銅箔が得られる。このような表面処理銅箔は、ファインピッチ回路を備える高品質のプリント配線板材料、高耐久性能が要求されるリチウム二次電池用負極集電体等の構成材料として好適である。
また、当該表面処理電解銅箔を用いて得られる銅張積層板は、板厚が薄くても、電解銅箔の極めて大きな機械的強度により、ハンドリング時のたわみ、変形が少なく、取扱いやすくなる。特に、当該電解銅箔を絶縁層形成材であるフィルムと張合わせてフレキシブル銅張積層板とし、これをファインピッチが要求されるTAB基板用途に用いれば、従来の技術では実用化出来ないレベルの微細なフライングリードの形成が可能になる。
更に、本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、使用する銅電解液の組成に特徴を備えている。この銅電解液は、溶液安定性に優れ、長期間の連続使用に耐えるため、経済的にも優れている。更に、使用する製造設備としても、新たな設備投資を必要とせず、従来の電解銅箔製造設備の使用が可能であり、製造コストの上昇を招かない。

Claims (13)

  1. 銅電解液を電解することにより得られる電解銅箔において、
    当該電解銅箔は、硫黄を110ppm〜400ppm、塩素を150ppm〜280ppm(但し、280ppmは除く)含有し、
    導電率が48%IACS以上であり、且つ、常態における引張り強さの値が70kgf/mm以上であることを特徴とする電解銅箔。
  2. 当該電解銅箔は、炭素を250ppm〜470ppm含有するものである請求項1に記載の電解銅箔。
  3. 当該電解銅箔は、窒素を40ppm〜180ppm含有するものである請求項1又は請求項2に記載の電解銅箔。
  4. 常態における当該電解銅箔は、析出開始面から析出終了面に向けて成長した結晶粒を備え、当該結晶粒の平均短径の長さが30nm〜110nm、平均長径の長さが140nm〜400nmの結晶粒で構成された析出組織を備える請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電解銅箔。
  5. 180℃×60分の加熱後における当該電解銅箔は、析出開始面から析出終了面に向けて成長した結晶粒を備え、当該結晶粒の平均短径の長さが25nm〜120nm、平均長径の長さが100nm〜500nmの結晶粒で構成された析出組織を備える請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電解銅箔。
  6. 析出面付近の断面における常態の結晶粒子の平均長径の長さと平均短径の長さとが、[平均短径の長さ]/[平均長径の長さ]=0.1〜0.5の関係を備える請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の電解銅箔。
  7. 180℃×60分の加熱後の引張り強さの値が、常態引張り強さの値の85%以上である請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の電解銅箔。
  8. 析出面の幅方向に対して測定した光沢度[Gs(60°)]の値が、100以上である請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の電解銅箔。
  9. 請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の電解銅箔の表面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか1種又は2種以上を施したことを特徴とする表面処理電解銅箔。
  10. 硫酸系銅電解液を用いた電解法により請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の電解銅箔を製造する方法であって、
    当該硫酸系銅電解液は、下記添加剤A〜添加剤Cを含み、塩素濃度が40ppm〜80ppmであるものを用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法。
    添加剤A:複素環に1以上のNを含み同時にSH基が結合した5員環構造を有する化合物。
    添加剤B:活性硫黄化合物のスルホン酸塩。
    添加剤C:環状構造を持つアンモニウム塩重合体。
  11. 前記添加剤Aである複素環に1以上のNを含み同時にSH基が結合した5員環構造を有する化合物は、
    2−メルカプト−イミダゾール、2−チアゾリン−2−チオールのいずれかを用いるものである請求項10に記載の電解銅箔の製造方法。
  12. 前記硫酸系銅電解液中における、前記添加剤Bの濃度と前記添加剤Cの濃度との重量濃度比である[B濃度]/[C濃度]の値が0.07〜1.4である請求項10又は請求項11に記載の電解銅箔の製造方法。
  13. 請求項9に記載の表面処理電解銅箔を絶縁層構成材料と張合わせて得られることを特徴とする銅張積層板。
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