以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.鋼矢板基礎の全体構成]
最初に、本発明の好適な実施形態に係る鋼矢板基礎の全体構成について説明する。鋼矢板基礎は、隣接する複数の鋼矢板の継手部を相互に嵌合させた状態で、複数の鋼矢板を地盤に連設して構築される基礎構造である。以下では、井筒型の鋼矢板基礎(図1、図2参照。)と、壁型の鋼矢板基礎(図3、図4参照。)の構成例について説明する。
[1.1.井筒型の鋼矢板基礎の全体構成]
まず、図1、図2を参照して、本発明の第1の実施形態に係る井筒型の鋼矢板基礎1の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る井筒型の鋼矢板基礎1の先端部を示す水平断面図であり、図2は、本実施形態に係る井筒型の鋼矢板基礎1を示す正面図である。
図1及び図2に示すように、井筒型の鋼矢板基礎1は、複数の鋼矢板10を筒型に接合した基礎であり、井筒型の鋼矢板基礎1全体で閉鎖断面が形成される。この井筒型の鋼矢板基礎1は、例えば、橋脚・橋台基礎、建築基礎などに適用される。
井筒型の鋼矢板基礎1の筒型形状は、図1に示すように、正方形又は長方形等の矩形状が一般的であるが、例えば、三角形、五角形等の多角形状や、略円形、楕円形等の環状など、筒状であれば任意の形状であってもよい。また、井筒型の鋼矢板基礎1は、鋼矢板10単独で基礎構造を構成してもよいし、或いは、他の基礎と鋼矢板基礎とを組み合わせた基礎構造であってもよい。後者の例としては、構造物の直接基礎(フーチング)の周囲に鋼矢板10を打設した矢板併用直接基礎などにも、本実施形態に係る井筒型の鋼矢板基礎1を適用することができる。なお、図示の例では、鋼矢板10としてハット形鋼矢板を用いているが、U形鋼矢板などの他のタイプの鋼矢板を筒状に連設しても、井筒型の鋼矢板基礎を構築可能である。
井筒型の鋼矢板基礎1では、相隣接する鋼矢板10の継手11が相互に嵌合した状態で、複数の鋼矢板10が地盤中に打設されている。この際、少なくとも一部の鋼矢板10の先端は、地盤の中間層4を貫通して支持層3に至る深さにまで打設されている。なお、1枚の鋼矢板10で支持層3まで到達しない場合には、複数枚の鋼矢板10を軸方向(長手方向)に継ぎ足して、鋼矢板基礎1の全長を延長してもよい。
また、支持層3に打設された各鋼矢板10の先端部には、根固め部20が築造されている。根固め部20は、鋼矢板10の先端部に噴射された流動性固化材(セメントミルク)が固化したものであり、図示の例では、個々の鋼矢板10の先端部において、ウェブとフランジとで囲まれる凹部に根固め部20が築造されている。比較的硬質で安定した支持層3まで鋼矢板10の先端部を打設し、当該先端部の周囲に根固め部20を築造することで、鋼矢板10の先端支持力を大幅に増加させることができる。かかる根固め部20の築造方法は、本実施形態に係る鋼矢板基礎の施工方法の特徴であり、その詳細は後述する。
図2(a)に示す通常の矢板基礎構造では、全ての鋼矢板10の先端部が支持層3まで打設されている。かかる構造により、高い先端支持力を得ることができるので、比較的軟弱な地盤に対しても対応可能となる。一方、図2(b)に示す脚付き矢板基礎構造では、所定間隔で配置される一部の長い鋼矢板10Lの先端部のみが支持層3まで打設され、他の短い鋼矢板10Sの先端部は中間層4までしか打設されていない。かかる構造により、全ての鋼矢板10を支持層3まで打設して根固め部を築造しなくてすむので、施工コスト及び施工時間を節減することができる。この脚付き矢板基礎構造は、地盤が比較的安定している場合などに好適に適用できる。
[1.2.井筒型の鋼矢板基礎の全体構成]
次に、図3、図4を参照して、本発明の第2の実施形態に係る壁型の鋼矢板基礎2の全体構成について説明する。図3は、本実施形態に係る壁型の鋼矢板基礎2の先端部を示す水平断面図であり、図4は、本実施形態に係る壁型の鋼矢板基礎2を示す正面図である。
図3及び図4に示すように、壁型の鋼矢板基礎2は、複数の鋼矢板10を一方向に壁状に接合した基礎である。この壁型の鋼矢板基礎2は、例えば、道路や宅地の擁壁、地盤沈下対策などに適用される。
この壁型の鋼矢板基礎2についても、鋼矢板10単独で基礎構造を構成してもよいし、或いは、他の基礎と鋼矢板基礎とを組み合わせた基礎構造(例えば矢板併用直接基礎)であってもよい。なお、図示の例では、鋼矢板10としてハット形鋼矢板を用いているが、U形鋼矢板、直線形鋼矢板などの他のタイプの鋼矢板を壁状に連設しても、壁型の鋼矢板基礎を構築可能である。
また、壁型の鋼矢板基礎2でも、相隣接する鋼矢板10の継手11が相互に嵌合した状態で、複数の鋼矢板10が地盤中に打設されている。この際、少なくとも一部の鋼矢板10の先端は、地盤の中間層4を貫通して支持層3に至る深さにまで打設され、支持層3に打設された各鋼矢板10の先端部には、上記根固め部20が築造されている。
壁型の鋼矢板基礎2においても、図4(a)に示す通常の矢板基礎構造、図4(b)に示す脚付き矢板基礎構造のいずれかを採用しうる。図4(a)に示す通常の矢板基礎構造では、全ての鋼矢板10の先端部が支持層3まで打設される。一方、図4(b)に示す脚付き矢板基礎構造では、所定間隔で配置される一部の長い鋼矢板10Lの先端部のみが支持層3まで打設され、他の短い鋼矢板10Sの先端部は中間層4までしか打設されていない。図4(a)、図4(b)の構造それぞれの効果は、上述した井筒型の鋼矢板基礎1の場合と同様である。
以上、本実施形態に係る鋼矢板基礎の代表例として、井筒型の鋼矢板基礎1と、壁型の鋼矢板基礎2について説明した。以下では、かかる鋼矢板基礎の施工方法について詳述する。なお、本発明の鋼矢板基礎は、上記2つの例の基礎構造に限定されるものではなく、複数の鋼矢板を接合して構築される基礎であれば、任意の基礎構造に適用可能である。
[2.鋼矢板基礎の施工方法の要点]
次に、本実施形態に係る鋼矢板基礎の施工方法の要点について説明する。
上述した構造の鋼矢板基礎1、2を施工する場合、複数の鋼矢板10を1枚ずつ順次、地盤に打設していく。この際、先に打設完了した鋼矢板10の継手11に、後に打設する鋼矢板10の継手11を嵌合させた状態で、当該後の鋼矢板10を先の鋼矢板10に対して軸方向にスライドさせながら、地盤中の所望深度まで打設する必要がある。一方、鋼矢板基礎1、2を支持杭として利用するためには、鋼矢板基礎1、2の軸方向の支持力を確保する必要がある。このために、各鋼矢板10の軸方向の先端部に、流動性固化材として例えばセメントミルクを噴射して根固め部20を築造し、当該先端部付近の地盤を改良することで、各鋼矢板10の先端支持力の増加を図る。
かかる鋼矢板基礎1、2の施工では、以下の(1)〜(3)の技術的課題が生じる。
(1)鋼矢板10の先端部に根固め部20を築造するために、どのように鋼矢板10を支持層3に打設し、どのようにセメントミルクを注入したらよいか。
(2)十分な先端支持力を得るために、鋼矢板10の先端部周辺の適切な範囲にどのようにしてセメントミルクを噴射して根固め部20を築造したらよいか。
(3)先に打設した鋼矢板10Aの先端部に形成された根固め部20と、後に打設する鋼矢板10Bの先端部との干渉をどのようして防止したらよいか。即ち、先に打設した鋼矢板10Aの先端部のセメントミルクが固化する前に、先後の鋼矢板10A、10Bの継手11、11を嵌合させながら、後の鋼矢板10Bを所望深度までどのように打設するかが問題となる。後の鋼矢板10Bの打設前に、先の鋼矢板10Aの先端部に噴射されたセメントミルクが固化してしまうと、先の鋼矢板10Aと継手11、11を嵌合させながら後の鋼矢板10Bを打設するときに、当該後の鋼矢板10Bの先端部の継手11が、先の鋼矢板10Aの先端部に形成された根固め部20と干渉してしまい、後の鋼矢板10Bを所望深度まで打設できないという問題が生じる。
まず、上記(1)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、図5に示すように、鋼矢板10の軸方向(長手方向)に沿って配管30、31、32を配置する。図5は、本実施形態に係る鋼矢板10と配管30、31、32の配置を示す斜視図である。
配管30、31、32は、例えば、柔軟性を有するホース等で構成され、セメントミルク等の流動性固化材を地上から地盤中の鋼矢板10の先端部10aまで搬送して地盤中に注入するためのセメントミルク注入管として機能する。かかる配管30、31、32は、鋼矢板10とともに地盤中に打設可能であり、鋼矢板10の打設完了後には、配管30、31、32を地盤中から引き抜いて除去することが可能である。かかる配管30、31、32により、支持層3に打設された鋼矢板10の先端部10aにセメントミルクを噴射して、根固め部20を築造可能となる。
次に、上記(2)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、図5に示すように、鋼矢板10の軸方向(長手方向)に沿って複数本の配管30、31、32を配置する。図5の例では3本の配管30、31、32を配置されている。配管30は、鋼矢板10のウェブ12の内面に沿って軸方向に延びるように配置され、配管31、32はそれぞれ、鋼矢板10の左右のフランジ13、13の外面に沿って軸方向に延びるように配置される。
このように、複数の配管30、31、32を設置することで、鋼矢板10の先端部10aの周囲の地盤に広範囲に渡ってセメントミルクを噴射して、大きな根固め部20を築造できる。例えば、配管30は、鋼矢板10の先端部10aにおけるウェブ12の内面と一対のフランジ13、13の内面とで囲まれた内側領域(凹部)にセメントミルクを噴射し、当該内側領域に根固め部20を築造する。また、配管31、32は、鋼矢板10の先端部10aにおけるフランジ13、13の外面の外側領域にセメントミルクを噴射し、当該外側領域に根固め部20を築造する。
さらに、上記(2)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、図6に示すように、本実施形態に係る配管30、31、32の先端には、周方向に所定間隔で複数の噴射口37、38が形成されている。図6は、本実施形態に係る配管30の先端に形成された噴射口37、38を示す正面図及び水平断面図である。
図6(a)に示す例では、配管30の先端部に周方向に等間隔で4つの噴射口37が形成されている。また、図6(b)に示す例では、配管30の先端部に周方向に等間隔で8つの噴射口38が形成されている。いずれの噴射口37、38も、略水平方向に向けてセメントミルクを噴射するようになっている。かかる噴射口37、38の配置及び形状により、鋼矢板10の先端部10a周囲の地盤に対して、上下方向だけでなく水平方向にもセメントミルクを噴射して、セメントミルクを広範囲に注入することができる。なお、地盤に対してより広範囲に渡ってセメントミルクを拡散させるためには、セメントミルク注入用の配管の先端部に上記のような噴射口を設けた方が好ましい。しかし、本発明では配管の先端部に噴射口を設けなくてもよく、例えば、ホース状の配管を用いて、当該配管の端部開口からセメントミルクを噴射するようにしてもよい。
加えて、上記(2)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、鋼矢板10を支持層3に打設する際に、配管30によりセメントミルクを注入しながら、鋼矢板10の先端部10aを設計深度まで打設した後に、先端部10aを支持層3の上端まで引き上げた後に、再度、設計深度まで打ち込む(図9参照)。これにより、鋼矢板10の軸方向にも広範囲にわたってセメントミルクを注入することができるとともに、セメントミルクと支持層3の原位置土とを攪拌混合して、良好な根固め部を築造できるようになる。
次に、上記(3)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、まず、先の鋼矢板10Aを地盤に打設し(第1工程)、次いで、当該先の鋼矢板10Aに沿って配置された配管30の先端からセメントミルクを噴出する(第2工程)。その後、当該セメントミルクが固化する前に、当該先の鋼矢板10Aの継手11に嵌合する後の鋼矢板10Bを打設して(第3工程)、当該後の鋼矢板10Bに沿って配置された配管30の先端からセメントミルクを噴出する(第4工程)。かかる第1〜第4工程を繰り返しながら、複数の鋼矢板10を1枚ずつ順次、打設していく。
かかる施工手順により、先に打設した鋼矢板10Aの先端のセメントミルクが固化しないうちに、後の鋼矢板10Bを順次打設していくことができる。従って、先の鋼矢板10Aと継手11、11を嵌合させながら後の鋼矢板10Bを打設するときに、当該後の鋼矢板10Bの先端部の継手11が、先の鋼矢板10Aの先端部に形成された根固め部20と干渉しない。よって、先の鋼矢板10Aの先端部10aに形成された根固め部20と、後の鋼矢板10Bの先端部10aの継手11との干渉を防止できるので、後の鋼矢板10Bを所望深度まで打ち込むことが可能となる。この結果、各鋼矢板10の先端に根固め部20を有する鋼矢板基礎の施工性が向上する。
しかし、上記の施工手順に従って、いくら各鋼矢板10の打設を迅速に行ったとしても、後の鋼矢板10Bの打設完了前に、先の鋼矢板10Aの先端部10aでセメントミルクが固化してしまう場合も考えられる。
そこで、かかる場合に対処して、上記(3)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、図7に示すように、各鋼矢板10の打設前に予め、各鋼矢板10の先端部10aの継手部11aを除去しておくことが好ましい。図7は、本実施形態に係る鋼矢板10の先端部10aの継手部11aを除去した状態を示す正面図である。
図7に示すように、鋼矢板10の継手11のうち、根固め部20が築造される先端部10aの継手部11aを、鋼矢板10の打設前に予め切断・除去しておく。そして、このように先端部10aの継手部11aが除去された鋼矢板10を1枚ずつ順次打設していく。これにより、先に打設した鋼矢板10Aの先端部10aでセメントミルクが固化して根固め部20が形成されているときでも、当該鋼矢板10Aと継手を嵌合させながら後の鋼矢板10Bを打設するときに、当該後の鋼矢板10Bの先端部の継手部11aが当該先の鋼矢板10Aの根固め部20と干渉することを防止できる。よって、先の鋼矢板10Aの先端部10aでセメントミルクが固化しているか否かに関わらず、後の鋼矢板10Bを支持層3の所望深度まで好適に打ち込むことが可能となる。なお、鋼矢板10の先端部10aの継手11を除去する際には、継手11のみならず、鋼矢板10のフランジ13若しくはアームの一部をも除去してもよい。これにより、先に築造された根固め部20との干渉をより適切に回避して、鋼矢板10の先端部10aを容易に打設可能となる。なお、これら除去される継手11、フランジ13若しくはアームの一部は、本願発明の継手部に相当する。
また、上記(3)の課題を解決するために、本実施形態に係る施工方法によれば、先に打設される鋼矢板10Aのウェブ12内側に配置される配管30(図5参照。)は、当該鋼矢板10Aの打設時に使用され、当該鋼矢板10Aのフランジ13、13外側に配置される配管31、32は、後の鋼矢板10Bが打設されて、先後2枚の鋼矢板10A、10Bによって閉鎖領域が形成された後に使用される。かかる配管30、31、32の使用手順によっても、上記根固め部20と後の鋼矢板10Bの先端部10aが干渉する問題を解決できるが、この詳細は後述する。
[3.鋼矢板基礎の施工方法の詳細]
次に、本実施形態に係る鋼矢板基礎の施工方法について詳細に説明する。
[3.1.鋼矢板基礎の施工方法の全体フロー]
まず、図8を参照して、本実施形態に係る鋼矢板基礎の施工方法の手順について説明する。図8は、本実施形態に係る鋼矢板基礎の施工方法を示すフローチャートである。
図8に示すように、まず、鋼矢板基礎の施工箇所の地上に、鋼矢板10を打設するための施工機(図示せず。)を設置する(S10)。この施工機は、例えば、バイブロハンマ又は圧入機などであり、バイブロハンマ工法又は圧入工法などにより鋼矢板10を地盤中に打ち込む。
次いで、鋼矢板10の打設前に予め、図5に示したように、当該鋼矢板10の軸方向に沿って、セメントミルク注入用の配管30、31、32を取り付けるとともに、図7に示したように、当該鋼矢板10の先端部10aの継手11を切断して除去する(S12)。
その後、施工機により鋼矢板10を地盤中に打ち込み(S14)、鋼矢板10の先端部10aが支持層3に達した後に、配管30の先端からセメントミルクを噴射しながら(S16)、先端部10aを所定深度まで打設する。そして、当該セメントミルクが固化する前に、配管30を地盤中から引き抜く(S18)。このように先に打設された鋼矢板10を、先の鋼矢板10Aと称する。
次いで、上記先の鋼矢板10Aの次に打設される鋼矢板10(以下、後の鋼矢板10Bと称する。)についても同様に、打設前に予め、配管30、31、32を取り付け、継手11を除去しておく(S12)。次いで、先の鋼矢板10Aの先端部10aに噴射されたセメントミルクが固化する前に、後の鋼矢板10Bの継手11を先の鋼矢板10Aの継手に嵌合させながら、当該後の鋼矢板10Bを地盤に打ち込む(S14)。これにより、後の鋼矢板10Bは、継手11が嵌合した状態で先の鋼矢板10Aに沿って軸方向にスライドしながら、地盤に打設される。そして、後の鋼矢板10Bの先端部10aが支持層3に達したときに、上記先の鋼矢板10Aと同様に、後の鋼矢板10Bの先端部10aの周囲にセメントミルクを噴射しながら(S16)、先端部10aを所定深度まで打設する。その後、当該セメントミルクが固化する前に、配管30を地盤中から引き抜く(S18)。
このようにして、先の鋼矢板10Aの先端部10aのセメントミルクが固化する前に、後の鋼矢板10Bを支持層3まで打設すれば、先の鋼矢板10Aの先端部10aに形成される根固め部20により、後の鋼矢板10Bの打設が妨げられることがない。また、もし仮に、先の鋼矢板10Aの先端部10aのセメントミルクが固化してしまっている場合であっても、後の鋼矢板10Bの先端部10aの継手部11aが予め除去されているので、先の鋼矢板10Aと後の鋼矢板10Bを嵌合させながら、後の鋼矢板10の先端部10aを支持層3の所定深度まで、支障なく打設可能である。このように、根固め部20に対応する領域の継手11を予め除去しておくことで、鋼矢板10の打設性が向上する。
その後、上記のS12〜S18を繰り返すことで、隣接する鋼矢板10、10の継手11、11を相互に嵌合させながら、複数の鋼矢板10が1枚ずつ順次、地盤中に打設されていき、鋼矢板基礎1、2が構築される。そして、鋼矢板基礎1、2を構成する全ての鋼矢板10の打設が終了したら(S20)、施工機を撤去し(S22)、鋼矢板基礎1、2の施工を完了する。
[3.2.個々の鋼矢板の打設方法]
次に、図9を参照して、個々の鋼矢板10の打設方法の詳細について説明する。図9は、本実施形態に係る1枚の鋼矢板10の打設方法を示す工程図である。なお、図9では、説明の便宜上、1枚の鋼矢板10に対して1本の配管30のみが取り付けられる例について説明するが、かかる例に限定されず、図5に示したように1枚の鋼矢板10に対して複数本の配管30、31、32が取り付けられても勿論よい。
まず、図9(a)に示すように、鋼矢板10のウェブ12とフランジ13、13で囲まれる凹部15に配管30が設置され、当該配管30とともに鋼矢板10が地盤中に打ち込まれる。次いで、図9(b)に示すように、鋼矢板10の先端部10aが支持層3の上端に達したときに、配管30の先端からセメントミルク21を噴射開始し、図9(c)に示すように、支持層3にセメントミルク21を注入して地盤を緩めながら、鋼矢板10の先端部10aを支持層3の所定深度まで打ち込む。その後、図9(d)に示すように、一旦、鋼矢板10の先端部10aが支持層3の上端付近に位置するまで、鋼矢板10を引き上げた後に、図9(e)に示すように、再度、鋼矢板10の先端部10aを支持層3の所定深度まで打ち込む。
このようにして鋼矢板10を打設することで、鋼矢板10の先端部10a周辺の支持層3に対して、上下方向及び水平方向に十分な量のセメントミルク21を注入・撹拌して、地盤を改良できる。従って、支持層3に打設される鋼矢板10の先端部10aの周囲に、強固かつ大きな根固め部20を安定的に築造できるので、個々の鋼矢板10の先端支持力を大幅に向上できる。
[4.配管の設置位置]
次に、図10及び図11を参照して、本実施形態に係る鋼矢板に取り付けられるセメントミルク注入用の配管の設置位置について詳細に説明する。以下では、鋼矢板10が、ハット形鋼矢板40である場合の配管の設置位置(図10参照。)と、U形鋼矢板50である場合の配管の設置位置(図11参照。)についてそれぞれ説明する。
[4.1.ハット形鋼矢板に対する配管の設置位置]
まず、図10を参照して、鋼矢板10がハット形鋼矢板40である場合について説明する。図10は、本実施形態に係るハット形鋼矢板40に対する配管30〜35の設置位置を示す上面図である。
図10に示すように、ハット形鋼矢板40は、帽子(ハット)形の水平断面形状を有する鋼矢板である。ハット形鋼矢板40は、中央部のウェブ42と、当該ウェブ42の両側に設けられる一対のフランジ43、43と、当該フランジ43、43の外側に設けられる一対のアーム44、44と、当該アーム44、44の先端に設けられる一対の鈎形の継手41、41とを備える。両端の継手41、41は、相互に逆向きになっており、当該継手41、41を用いて、同一の向きに配置された2枚のハット形鋼矢板40、40を接合できるようになっている。かかるハット形鋼矢板40に対して、図10(a)〜(d)に示すように、セメントミルク注入用の配管30〜35を多様な配置で取り付けることができる。
まず、図10(a)に示すように、ハット形鋼矢板40のウェブ42に沿って1本又は複数本の配管30を設置してもよい。この際、配管30は、ウェブ42の内面側に取り付けられる。かかる配置の配管30により、ハット形鋼矢板40のウェブ42と2つのフランジ43、43によって囲まれる凹部45に対してセメントミルク21を噴出し、当該凹部45を満たすように根固め部20を築造できる。
また、図10(b)に示すように、ハット形鋼矢板40のフランジ43、43に沿って一対又は複数対の配管31、32、33、34を設置してもよい。この際、一対の配管31、32は、フランジ43、43の外面側に取り付けられ、一対の配管33、34は、フランジ43、43の内面側に取り付けられる。フランジ43、43の外面側の配管31、32により、ハット形鋼矢板40のフランジ43、43の外側領域46に対してセメントミルク21を噴出し、当該外側領域46に根固め部20を築造できる。また、フランジ43、43の内面側の配管33、34により、上記凹部45に対してセメントミルク21を噴出し、当該凹部45に根固め部20を築造できる。なお、一対の配管31、32又は一対の配管33、34のいずれか一方のみを配置してもよい。
また、図10(c)に示すように、ハット形鋼矢板40のウェブ42及びフランジ43、43の双方に沿って複数の配管30、31、32、33、34を設置してもよい。この際、配管30は、ウェブ42の内面側に取り付けられる。また、一対の配管31、32は、フランジ43、43の外面側に取り付けられ、一対の配管33、34は、フランジ43、43の内面側に取り付けられる。フランジ43、43の外面側の配管31、32により、ハット形鋼矢板40のフランジ43、43の外側領域46に対してセメントミルク21を噴出し、当該外側領域46に根固め部20を築造できる。また、ウェブ42の内面側の配管30と、フランジ43、43の内面側の配管33、34により、上記凹部45に対してセメントミルク21を噴出し、当該凹部45に根固め部20を築造できる。
また、図10(d)に示すように、ハット形鋼矢板40のウェブ42及びフランジ43、43で囲まれる凹部45の中心又はその付近、例えば、当該凹部45の重心に配管35を設置してもよい。この際、配管35は、支持部材36を介してウェブ42の内面側に取り付けられる。このように凹部45の重心に配置された配管35により、凹部45内の地盤全体に均等にセメントミルク21を注入して、凹部45内に均質な根固め部20を築造できる。さらに、フランジ43、43の外面側に一対の配管31、32を設置することで、ハット形鋼矢板40のフランジ43、43の外側領域46に対してセメントミルク21を噴出し、当該外側領域46に根固め部20を築造できる。
[4.2.U形鋼矢板に対する配管の設置位置]
次に、図11を参照して、鋼矢板10がU形鋼矢板50である場合について説明する。図11は、本実施形態に係るU形鋼矢板50に対する配管30〜35の設置位置を示す上面図である。
図11に示すように、U形鋼矢板50は、略コの字形の水平断面形状を有する鋼矢板である。U形鋼矢板50は、中央部のウェブ52と、当該ウェブ52の両側に設けられる一対のフランジ53、53と、当該フランジ53、53の先端に設けられる一対の鈎形の継手51、51とを備える。両端の継手51、51は、相互に同一の向きになっており、当該継手51、51を用いて、逆向きに配置された2枚のU形鋼矢板50、50を接合できるようになっている。かかるU形鋼矢板50に対しても、図11(a)〜(d)に示すように、セメントミルク注入用の配管30〜35を多様な配置で取り付けることができる。
まず、図11(a)に示すように、U形鋼矢板50のウェブ52に沿って1本又は複数本の配管30を設置してもよい。この際、配管30は、ウェブ52の内面側に取り付けられる。かかる配置の配管30により、U形鋼矢板50のウェブ52と2つのフランジ53、53によって囲まれる凹部55に対してセメントミルク21を噴出し、当該凹部55を満たすように根固め部20を築造できる。
また、図11(b)に示すように、U形鋼矢板50のフランジ53、53に沿って一対又は複数対の配管31、32、33、34を設置してもよい。この際、一対の配管31、32は、フランジ53、53の外面側に取り付けられ、一対の配管33、34は、フランジ53、53の内面側に取り付けられる。フランジ53、53の外面側の配管31、32により、U形鋼矢板50のフランジ53、53の外側領域56に対してセメントミルク21を噴出し、当該外側領域56に根固め部20を築造できる。また、フランジ53、53の内面側の配管33、34により、上記凹部55に対してセメントミルク21を噴出し、当該凹部55に根固め部20を築造できる。なお、一対の配管31、32又は一対の配管33、34のいずれか一方のみを配置してもよい。
また、図11(c)に示すように、U形鋼矢板50のウェブ52及びフランジ53、53の双方に沿って複数の配管30、31、32、33、34を設置してもよい。この際、配管30は、ウェブ52の内面側に取り付けられる。また、一対の配管31、32は、フランジ53、53の外面側に取り付けられ、一対の配管33、34は、フランジ53、53の内面側に取り付けられる。フランジ53、53の外面側の配管31、32により、U形鋼矢板50のフランジ53、53の外側領域56に対してセメントミルク21を噴出し、当該外側領域56に根固め部20を築造できる。また、ウェブ52の内面側の配管30と、フランジ53、53の内面側の配管33、34により、上記凹部55に対してセメントミルク21を噴出し、当該凹部55に根固め部20を築造できる。
また、図11(d)に示すように、U形鋼矢板50のウェブ52及びフランジ53、53で囲まれる凹部55の中心又はその付近、例えば、当該凹部55の重心に配管35を設置してもよい。この際、配管35は、支持部材36を介してウェブ52の内面側に取り付けられる。このように凹部55の重心に配置された配管35により、凹部55内の地盤全体に均等にセメントミルク21を注入して、凹部55内に均質な根固め部20を築造できる。さらに、フランジ53、53の外面側に一対の配管31、32を設置することで、U形鋼矢板50のフランジ53、53の外側領域56に対してセメントミルク21を噴出し、当該外側領域56に根固め部20を築造できる。
以上、図10、図11を参照して、本実施形態に係るハット形鋼矢板40及びU形鋼矢板50に対する配管30〜35の設置位置の例について説明した。かかる配管30〜35により、打設されたハット形鋼矢板40又はU形鋼矢板50の先端部周辺にセメントミルク21を噴射して、根固め部20を築造できる。なお、配管の設置位置や設置本数は、上記例に限定されるものではなく、鋼矢板の形状又は地盤状態等に応じて適宜変更してもよい。
[5.根固め部を築造する施工手順]
次に、本実施形態に係る鋼矢板基礎の施工方法において、鋼矢板基礎1、2を築造する際に複数の鋼矢板10の先端部10aにセメントミルクを噴射して根固め部20を築造する施工手順について詳細に説明する。以下では、鋼矢板10が、ハット形鋼矢板40である場合の施工手順と、U形鋼矢板50である場合の施工手順についてそれぞれ説明する。
[5.1.ハット形鋼矢板の施工手順]
まず、鋼矢板10がハット形鋼矢板40である場合の根固め部20の施工手順について説明する。
(1)ハット形鋼矢板40の内側にのみ根固め部20を築造する場合
図12を参照して、本実施形態に係るハット形鋼矢板40の凹部45にのみ根固め部20を築造する場合の施工手順について説明する。図12は、本実施形態に係るハット形鋼矢板40の内側にのみ根固め部20を築造する場合の施工手順を示す工程図である。この場合、1枚のハット形鋼矢板40のウェブ42内面に沿って1本の配管30のみが設置される。
図12(A)に示すように、まず、第1番目のハット形鋼矢板40Aを打設するときに、ハット形鋼矢板40Aのウェブ42Aの内面に沿って設置された配管30Aから、ハット形鋼矢板40Aの先端部のウェブ42A及びフランジ43A、43Aで囲まれる半閉鎖空間(即ち、凹部45A)にセメントミルク21を噴射する。これにより、ハット形鋼矢板40Aの先端部の凹部45A内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20Aが築造される(図12(B)参照。)。なお、セメントミルク21の注入後に、配管30Aは、引き抜かれる(図12(B)参照。)。
次いで、図12(B)に示すように、第1番目のハット形鋼矢板40Aに隣接する第2番目のハット形鋼矢板40Bを打設する。この際、ハット形鋼矢板40Aの継手41Aとハット形鋼矢板40Bの継手41Bとを嵌合させながら、ハット形鋼矢板40Bが軸方向に打ち込まれる。このようにハット形鋼矢板40Bを打設するときに、当該ハット形鋼矢板40Bのウェブ42Bの内面に設置された配管30Bから、ハット形鋼矢板40Bの先端部の凹部45Bにセメントミルク21を噴射する。これにより、ハット形鋼矢板40Bの凹部45B内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20Bが築造される(図12(C)参照。)。なお、セメントミルク21の注入後に、配管30Bも、引き抜かれる(図12(C)参照。)。
その後、図12(C)に示すように、第2番目のハット形鋼矢板40Bに隣接する第3番目のハット形鋼矢板40Cを打設するときにも、同様にして、配管30Cからハット形鋼矢板40Cの凹部45Cにセメントミルク21を噴射して、当該凹部45Cに根固め部(図示せず。)が築造される。
以上のようにして、ハット形鋼矢板40を1枚ずつ打設する度に、そのハット形鋼矢板40の先端部の凹部45に配管30からセメントミルク21を噴射して、凹部45内に根固め部20が築造される。かかる施工方法によれば、セメントミルク21の注入範囲を凹部45及びその近傍に収めて、継手51付近に到達しないように制限しておくことで、先のハット形鋼矢板40Aの根固め部20Aが、後のハット形鋼矢板40Bの打設の障害とならないようにすることができる。
(2)ハット形鋼矢板40の内側及び外側に根固め部20を築造する場合
図13を参照して、本実施形態に係るハット形鋼矢板40の内側及び外側に根固め部20を築造する場合の施工手順について説明する。図13A〜図13Cは、本実施形態に係るハット形鋼矢板40の内側及び外側に根固め部20を築造する場合の施工手順を示す工程図である。この場合、1枚のハット形鋼矢板40のウェブ42内面及び左右のフランジ43、43の外面に沿って3本の配管30、31、32が設置される。なお、図13Aに示すように、ハット形鋼矢板40の先端の継手部41’(例えば、先端の継手41と、先端のアーム44の一部若しくは全部)は、打設前に予め除去されている。
図13Aに示すように、まず、第1番目のハット形鋼矢板40Aを打設するときに、ハット形鋼矢板40Aのウェブ42Aの内面に設置された配管30Aから、ハット形鋼矢板40Aの先端部の内側閉鎖空間(即ち、凹部45A)にセメントミルク21を噴射する。この際、ハット形鋼矢板40Aのフランジ43A、43Aの外面に沿って設置された配管31A、32Aからは、セメントミルク21を噴射しない。これにより、ハット形鋼矢板40Aの先端部の凹部45A内の地盤のみにセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20A(図13B参照。)が築造される。なお、凹部45Aに対するセメントミルク21の注入後に、配管30Aは引き抜かれるが、配管31A、32Aは残留される。
次いで、図13Bに示すように、第1番目のハット形鋼矢板40Aに隣接する第2番目のハット形鋼矢板40Bを打設する。このとき、先のハット形鋼矢板40Aの継手部嵌合側のフランジ43Aの外面に沿って設置された配管32A(本願発明の第1の配管に相当する。)と、後のハット形鋼矢板40Bの継手部嵌合側のフランジ43Bの外面に沿って設置された配管31B(本願発明の第2の配管に相当する。)とから、ハット形鋼矢板40A、40Bの継手部嵌合側のフランジ43A、43Bで囲まれた空間(以下、外側凹部46ABという。)にセメントミルク21を噴射する。
ここで、外側凹部46ABは、ハット形鋼矢板40Aの継手部嵌合側のフランジ43A及びアーム44Aと、ハット形鋼矢板40Bの継手部嵌合側のフランジ43B及びアーム44Bとで囲まれた半閉鎖空間を意味する。かかる外側凹部46ABに配管32A、31Bからセメントミルク21を噴射することにより、ハット形鋼矢板40Aと40Bの間の外側凹部46AB内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20ABが築造される(図13C参照。)。
さらに、上記後のハット形鋼矢板40Bを打設するときには、上記配管32A、31Bからのセメントミルク21の噴射と同時に、ハット形鋼矢板40Bのウェブ42Bの内面に設置された配管30B(本願発明の第3の配管に相当する。)からも、ハット形鋼矢板40Bの先端部の凹部45Bにセメントミルク21を噴射する。これにより、当該凹部45B内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20Bが築造される(図13C参照。)。なお、上記の外側凹部46AB及び凹部45Bに対するセメントミルク21の注入後に、配管32A、31B及び30Bは引き抜かれるが、配管32Bは残留される(図13C参照。)。
その後、図13Cに示すように、第2番目のハット形鋼矢板40Bに隣接する第3番目のハット形鋼矢板40Cを打設するときにも、同様にして、配管32B、31Cから、ハット形鋼矢板40Bと40Cの間の半閉鎖空間(即ち、外側凹部46BC)にセメントミルク21を噴射して、当該外側凹部46BCに根固め部(図示せず。)が築造される。これと同時に、配管30Cからハット形鋼矢板40Cの凹部45Cにセメントミルク21を噴射して、当該凹部45Cに根固め部(図示せず。)が築造される。
以上のようにして、ハット形鋼矢板40を1枚ずつ打設する度に、そのハット形鋼矢板40の内側の凹部45に配管30(第3の配管)からセメントミルク21が噴射され、根固め部20が築造されるとともに、先後のハット形鋼矢板40A、40B間の外側凹部46ABにも、継手部嵌合側の配管31、32(第1、第2の配管)からセメントミルク21が噴射され、根固め部20が築造される。
この際、先のハット形鋼矢板40Aの内側の凹部45Aにセメントミルク21を噴射するタイミングは、当該ハット形鋼矢板40Aの打設時である。これに対し、先後のハット形鋼矢板40A、40B間に形成される外側凹部46ABにセメントミルク21を噴射するタイミングは、先のハット形鋼矢板40Aの打設時ではなく、後のハット形鋼矢板40Bの打設時であることを特徴としている。この理由を、図14を参照して説明する。
図14に示すように、先のハット形鋼矢板40Aの打設時に、フランジ43A外側の配管32Aから外側凹部46ABにセメントミルク21を噴射する場合を考える。この場合、配管32Aから噴射されたセメントミルク21が、後のハット形鋼矢板40Bと嵌合する側の継手41Aを超えた外側領域47にまで拡散して固化してしまい、当該外側領域47の根固め部20ABにより、後のハット形鋼矢板40Bを所望深度まで打設不可能になるおそれがある。
そこで、本実施形態では、先後のハット形鋼矢板40A、40Bで形成される外側凹部46ABを根固めする場合は、後のハット形鋼矢板40Bを打設して、先後のハット形鋼矢板40A、40B間に外側凹部46ABが区画された段階で、継手部嵌合側の配管32A、31Bからセメントミルク21を噴射して、根固め部20ABを築造する。これにより、先後のハット形鋼矢板40A、40B間の必要範囲に確実にセメントミルク21を注入できるとともに、当該セメントミルク21が固化することで後のハット形鋼矢板40Bが打設不能になることを防止できる。
[5.2.U形鋼矢板の施工手順]
次に、鋼矢板10がU形鋼矢板50である場合の根固め部20の施工手順について説明する。
(1)U形鋼矢板50の内側にのみ根固め部20を築造する場合
図15を参照して、本実施形態に係るU形鋼矢板50の凹部55にのみ根固め部20を築造する場合の施工手順について説明する。図15は、本実施形態に係るU形鋼矢板50の内側にのみ根固め部20を築造する場合の施工手順を示す工程図である。この場合、1枚のU形鋼矢板50のウェブ52内面に沿って1本の配管30のみが設置される。
図15(A)に示すように、まず、第1番目のU形鋼矢板50Aを打設するときに、U形鋼矢板50Aのウェブ52Aの内面に沿って設置された配管30Aから、U形鋼矢板50Aの先端部のウェブ52A及びフランジ53A、53Aで囲まれる半閉鎖空間(即ち、凹部55A)にセメントミルク21を噴射する。これにより、U形鋼矢板50Aの先端部の凹部55A内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20Aが築造される(図15(B)参照。)。なお、セメントミルク21の注入後に、配管30Aは、引き抜かれる(図15(B)参照。)。
次いで、図15(B)に示すように、第1番目のU形鋼矢板50Aに隣接する第2番目のU形鋼矢板50Bを打設する。この際、U形鋼矢板50AとU形鋼矢板50Bは、厚み方向に逆向きに配置され、U形鋼矢板50Aの継手51AとU形鋼矢板50Bの継手51Bとを嵌合させながら、U形鋼矢板50Bが軸方向に打ち込まれる。このようにU形鋼矢板50Bを打設するときに、当該U形鋼矢板50Bのウェブ52Bの内面に設置された配管30Bから、U形鋼矢板50Bの先端部の凹部55Bにセメントミルク21を噴射する。これにより、U形鋼矢板50Bの凹部55B内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20B(図15(C)参照。)が築造される。なお、セメントミルク21の注入後に、配管30Bも、引き抜かれる(図15(C)参照。)。
その後、図15(C)に示すように第2番目のU形鋼矢板50Bに隣接する第3番目のU形鋼矢板50Cを打設するとき、及び、図15(D)に示すように第3番目のU形鋼矢板50Cに隣接する第4番目のU形鋼矢板50Dを打設するときにも、同様にして、配管30C、30DからU形鋼矢板50C、50Dの凹部55C、55Dにセメントミルク21を噴射して、当該凹部55C、55Dに根固め部20C、20Dが築造される。
以上のようにして、U形鋼矢板50を1枚ずつ打設する度に、そのU形鋼矢板50の先端部の凹部55に配管30からセメントミルク21を噴射して、凹部55内に根固め部20が築造される。かかる施工方法によれば、セメントミルク21の注入範囲を凹部55及びその近傍に収めて、継手51付近に到達しないように制限しておくことで、先のU形鋼矢板50Aの根固め部20Aが、後のU形鋼矢板50Bの打設の障害とならないようにすることができる。
(2)U形鋼矢板50の内側及び外側に根固め部20を築造する場合
図16を参照して、本実施形態に係るU形鋼矢板50の内側及び外側に根固め部20を築造する場合の施工手順について説明する。図16A〜図16Dは、本実施形態に係るU形鋼矢板50の内側及び外側に根固め部20を築造する場合の施工手順を示す工程図である。この場合、1枚のU形鋼矢板50のウェブ52内面及び左右のフランジ53、53の外面に沿って3本の配管30、31、32が設置される。なお、図16Aに示すように、U形鋼矢板50の先端の継手部51’は、打設前に予め除去されている。
図16Aに示すように、まず、第1番目のU形鋼矢板50Aを打設するときに、U形鋼矢板50Aのウェブ52Aの内面に設置された配管30Aから、U形鋼矢板50Aの先端部の内側閉鎖空間(即ち、凹部55A)にセメントミルク21を噴射する。この際、U形鋼矢板50Aのフランジ53A、53Aの外面に沿って設置された配管31A、32Aからは、セメントミルク21を噴射しない。これにより、U形鋼矢板50Aの先端部の凹部55A内の地盤のみにセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20A(図16B参照。)が築造される。なお、凹部55Aに対するセメントミルク21の注入後に、配管30Aは引き抜かれるが、配管31A、32Aは残留される。
次いで、図16Bに示すように、第1番目のU形鋼矢板50Aに隣接する第2番目のU形鋼矢板50Bを打設する。このとき、先のU形鋼矢板50Aの継手部嵌合側のフランジ53Aの外面に沿って設置された配管32A(本願発明の第1の配管に相当する。)と、後のU形鋼矢板50Bの継手部嵌合側のフランジ53Bの外面に沿って設置された配管31B(本願発明の第2の配管に相当する。)とから、当該先後のU形鋼矢板50A、50Bの継手51、51の嵌合部位(以下、継手嵌合部位という。)の周辺空間56AB、57ABにセメントミルク21を噴射する。
ここで、継手嵌合部位の周辺空間56ABは、先のU形鋼矢板50Aの継手部嵌合側のフランジ53Aの外側、かつ、後のU形鋼矢板50Bの凹部55Bの外側の開放空間である。継手嵌合部位の周辺空間57ABは、後のU形鋼矢板50Bの継手部嵌合側のフランジ53Bの外側、かつ、先のU形鋼矢板50Aの凹部55Aの外側の開放空間である。かかる継手嵌合部位の周辺空間56AB、57ABに配管32A、31Bからセメントミルク21を噴射することにより、凹部55A及び凹部55Bの外側にある周辺空間56AB、57ABの地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20AB、20ABが築造される(図16C参照。)。
さらに、上記後のU形鋼矢板50Bを打設するときには、上記配管32A、31Bからのセメントミルク21の噴射と同時に、後のU形鋼矢板50Bのウェブ52Bの内面に設置された配管30Bからも、U形鋼矢板50Bの先端部の凹部55Bにセメントミルク21を噴射する。これにより、当該凹部55B内の地盤にセメントミルク21が注入され、当該セメントミルク21の固化により根固め部20Bが築造される(図16C参照。)。なお、上記の周辺空間56AB、57AB及び凹部55Bに対するセメントミルク21の注入後に、配管32A、31B及び30Bは引き抜かれるが、配管32Bは残留される(図16C参照。)。
その後、図16Cに示すように、第2番目のU形鋼矢板50Bに隣接する第3番目のU形鋼矢板50Cを打設するときにも、同様にして、配管32B、31Cから継手嵌合部位の周辺空間56BC、57BCにセメントミルク21を噴射して、当該周辺空間56BC、57BCに根固め部20BC、20BC(図16D参照。)が築造される。これと同時に、配管30CからU形鋼矢板50Cの凹部55Cにセメントミルク21を噴射して、当該凹部55Cに根固め部20C(図16D参照。)が築造される。さらに、図16Dに示すように、第3番目のU形鋼矢板50Cに隣接する第4番目のU形鋼矢板50Dを打設するときも、同様にして、継手嵌合部位の周辺空間56CD、57CD及び凹部55Dにセメントミルク21を噴射して、それぞれの位置に根固め部が築造される。
以上のようにして、U形鋼矢板50を1枚ずつ打設する度に、そのU形鋼矢板50の内側の凹部55に配管30からセメントミルク21が噴射され、根固め部20が築造されるとともに、先後のU形鋼矢板50A、50Bの継手嵌合部位の周辺空間56AB、57ABにも、継手部嵌合側の配管31、32からセメントミルク21が噴射され、根固め部20が築造される。
この際、上記ハット形鋼矢板40の場合と同様に、凹部55にセメントミルク21を噴射するタイミングは、先のU形鋼矢板50の打設時であるのに対し、先後のU形鋼矢板50A、50Bの継手嵌合部位の周辺空間56AB、57ABにセメントミルク21を噴射するタイミングは、先のU形鋼矢板50Aの打設時ではなく、後のU形鋼矢板50Bの打設時であることを特徴としている。
この理由は、先のU形鋼矢板50Aの打設時に、配管32Aを用いて継手嵌合部位の周辺空間56にセメントミルク21を噴射してしまうと、セメントミルク21が当該周辺空間56AB、57ABに拡散して固化してしまい、該周辺空間56AB、57ABの根固め部20AB、20ABにより、後のU形鋼矢板50Bを所望深度まで打設不可能になるおそれがあるからである。
そこで、本実施形態では、後のU形鋼矢板50Bを打設する段階で、継手部嵌合側の配管31、32からセメントミルク21を噴射して、継手嵌合部位の周辺空間56AB、57ABに根固め部20AB、20ABを築造する。これにより、先後のU形鋼矢板50A、50Bの継手嵌合部位周辺の必要範囲にセメントミルク21を注入できるとともに、当該セメントミルク21が固化することで後のU形鋼矢板50Bが打設不能になることを防止できる。
[6.まとめ]
以上、本実施形態に係る鋼矢板基礎1、2の構成と、鋼矢板基礎の施工方法について詳述した。鋼矢板基礎1、2を構成する各鋼矢板10の先端部10aに根固め部20を築造することで、各鋼矢板10の先端支持力を増加させ、鋼矢板基礎1、2の軸方向の支持力を大幅に増強できる。よって、硬質地盤は勿論、軟弱地盤であっても、鋼矢板基礎1、2を適用することができる。また、本実施形態に係る鋼矢板基礎1、2を矢板併用型直接基礎に適用することで、当該基礎の適用範囲が拡大する。さらに、鋼矢板基礎1、2を単独で用いたとしても、各種構造物の基礎として利用可能である。
また、鋼矢板基礎の施工時には、先に打設した鋼矢板10Aの先端のセメントミルク21が固化する前に、後の鋼矢板10Bを順次打設していく。これにより、先の鋼矢板10Aと継手11、11を嵌合させながら後の鋼矢板10Bを打設するときに、当該後の鋼矢板10Bの継手11が、先の鋼矢板10Aの先端の根固め部20と干渉しないので、後の鋼矢板10Bを所望深度まで打ち込むことが可能となる。
さらに、各鋼矢板10の打設前に予め、各鋼矢板10の先端部10aの継手部11aを除去しておく。これにより、後の鋼矢板10Bを打設するときに、当後の鋼矢板10Bの先端部の継手部11aが先の鋼矢板10Aの根固め部20と干渉することを防止できる。よって、先の鋼矢板10Aの先端部10aでセメントミルクが固化しているか否か関わらず、後の鋼矢板10Bを支持層3の所望深度まで好適に打ち込むことが可能となる。
以上により、鋼矢板基礎1、2の施工時に、先に打設した鋼矢板先端10Aの根固め部20により後の鋼矢板10Bの打設が不可能となることを防止して、鋼矢板10の打設性、施工性を向上させることができる。よって、鋼矢板基礎1、2の長所である高い施工性を確保できる。そして、鋼矢板10の先端部の適切な範囲に根固め部20を築造することで、鋼矢板基礎1、2の杭先端が高い支持力を発揮できるようになる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。