JP5742477B2 - 浚渫窪地の埋め戻し方法 - Google Patents

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Description

本発明は、浚渫土砂と製鋼スラグを混合した「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻す方法に関する。
まず、海域内湾に見られる「浚渫窪地」の現状と「浚渫窪地」の存在による海域環境への悪影響について説明する。
東京湾、三河湾等の内湾には海砂採取の跡地や海底土砂掘削の跡地が散見される。これらは、戦後、沿岸埋め立て用の材料として、あるいは、海砂利の採取のための安価な土砂の供給源として掘削利用されたものである。浚渫跡地の中で、周辺の海底よりも特に深く掘り下げた窪地状の浚渫跡地が「浚渫窪地」と呼ばれている。例えば、東京湾では、このような「浚渫窪地」が約1億m存在していることが明らかになっている。
また、このような「浚渫窪地」では、夏季に硫化物が生成・集積し易く、この生成した硫化物が(1)式のように海水中の溶存酸素を消費する。このため、青潮、苦潮等と呼ばれる酸素を含まない水塊(「貧酸素水塊」)が生成し易い。この「貧酸素水塊」が沿岸域に押し寄せると、魚介類が死滅し、大きな漁業被害が生じる。このため、近年、浚渫窪地の埋め戻し等による修復の必要性が強く指摘されるようになっている(非特許文献1)。
[硫化物と溶存酸素との反応式]S2−+2O→SO 2− (1)
この「浚渫窪地」における硫化物と貧酸素水塊域の生成メカニズムについて詳細に説明する。海水中には、表1に示すように、硫酸イオン(SO 2−)が28mM(2.7g/L、SO 2−−Sとして930mg/L)も存在する。このため、「浚渫窪地」内の海域底質に有機物が十分に存在し、また、SO 2−よりも高次の酸化剤(溶存酸素等)が無くなる環境条件(嫌気条件と呼ばれる)が整えば、硫酸還元菌(SRB:Sulfate Reducing Bacteria)が活性化し、(2)式のような硫酸還元反応が容易に進行する。硫酸還元菌(SRB)とは、酸化剤として硫酸イオン(SO 2−)を用い有機物を酸化する細菌群の総称である。この結果、硫化水素(HS)の生成が促進される(図1)。
SO 2−+2CHO+2H⇔HS+2HO+CO (2)
Figure 0005742477
さらに、このようにして、底質において生成し海水中に溶出した硫化水素(HS)の存在形態は、以下のようにpHによって支配される。
[H][HS]/[HS(g)]= 10−7 (3)
[H][S2−]/[HS]=10−13 (4)
水中の全硫化物濃度は、以下のように整理される。
全硫化物=懸濁態硫化物(FeS、MnS等)+溶存態硫化物
ここで、溶存態硫化物=硫化水素[HS(g)]+ 硫化物イオン
=[HS(g)]+ [HS]+ [S2−
≒[HS(g)]+[HS](通常の海水域のpH)
溶存態硫化物の中で最も毒性の強いとされる遊離態の硫化水素[HS(g)]の存在割合は、pHが7以下では50%以上であるが、pHが8を超えると10%以下まで下がる。一方、pHが7〜13の領域では溶存態の硫化物イオン[HS]の存在割合が最も高い。通常、海水のpHは、8〜8.5程度であるから、溶存態硫化物の中で、大半が溶存態の硫化物イオン[HS]として存在すると考えられる。
いずれにせよ、硫化物は、(2)式のように海水中の溶存酸素を短時間で消費し、海水の「貧酸素化」を招くと共に、硫化物自体も水生生物への毒性があるため、硫化物は海水中への溶出を極力抑制することが望ましい。
このため、「浚渫窪地」の埋め戻しが各地で進められるようになってきている。この場合、埋め戻し材としては、海域での航路の維持や港湾工事等で大量に生成する「浚渫土砂」が用いられていることが多い。「浚渫土砂」は、「廃棄物」には相当しないため、海域で容易に有効利用され得る資材である。
一方で、硫酸還元反応の律速要因は、海水中の硫酸塩ではなく、土砂に含まれる有機物である。したがって、硫化物生成に由来する「貧酸素化」を防止するためには、埋め戻し材に用いる「浚渫土砂」も、有機物含有量が極力小さいことが望ましいと考えられる。
このため、発明者らは、「浚渫土砂」に鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」を混合し、有機物含有割合を低下させると共に、固化を促進した「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻して海域環境の改善を図る方法を提案している(非特許文献2) 。
内湾における環境修復の方向性と新手法、平成20年度日本水産工学会秋季シンポジウム、2008 製鋼スラグの深掘埋め戻し適用時の海域環境改善予測、平成22年度海洋理工学会秋季大会講演論文集、2010 古タイヤを用いたゴムチップ混合固化処理土の靭性およびせん断変形に伴う透水性の変化、土木学会論文集C、Vol.64,No.2,181−196,2008 土壌環境分析法、土壌環境分析法編集委員会編、33−35、1997
浚渫窪地は、元々は良質な無機物が主体の海砂から成っていたと推定される。したがって、本来であれば、浚渫窪地への埋め戻し材としては有機物を極力含まない天然砂等の無機物が望ましい。しかし、実際には大量の天然砂はもはや入手が難しく、地元の海域から生成する「浚渫土砂」が入手の容易さ、コスト、安定的な量の確保の観点から最も現実的な埋め戻しの有用資材と考えられる。加えて、鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」もまた、入手の容易さ、コスト、安定的な量の確保、安全性の観点から現実的な埋め戻しの有用資材と考えられる。
浚渫窪地においては、硫酸還元細菌による硫酸還元反応(図1参照)が硫化物生成の主要な要因であり、この硫酸還元反応を抑制することが、硫化物生成に由来する海水中の「貧酸素化」を防止する最も効果的な手段である。即ち、浚渫窪地内底質での硫酸還元反応をどのように制御し、低減するかが海域環境改善のポイントとなる。
これに対して、発明者らは、「浚渫土砂」に鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」を混合し、固化を促進した「スラグ混合土」を用いて、浚渫窪地を埋め戻して海域環境改善方法を提案している(非特許文献2)。
しかし、従来技術では「スラグ混合土」の相当の固化促進を前提としているが、「スラグ混合土」の固化程度と硫酸還元反応抑制の関係は必ずしも明確ではない。
そこで、本発明は、「浚渫土砂」及び鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」を少なくとも含む「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻して海域環境改善効果を図る際に、「スラグ混合土」の固化の制御が硫酸還元反応制御の最も重要となる視点であると考え、「スラグ混合土」での硫酸還元反応を抑制する簡易な固化指標を提供し、より効率的に海域環境改善を達成することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を重ねた結果、浚渫土砂に製鋼スラグを混合した「スラグ混合土」内において、硫酸還元細菌による硫酸還元反応を抑制する簡易な固化指標を見出し、効率的に海域の環境改善を達成する方法の確立に成功した。
本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(7)である。
(1) 海域環境を改善するためにスラグ混合土を用いて海底の浚渫窪地を埋め戻す方法であって、少なくとも浚渫土砂と製鋼スラグとを混合して試験用混合物を製造し、前記試験用混合物の圧入抵抗値を測定する工程と、前記試験用混合物の圧入抵抗値を用いて、前記スラグ混合土の製造後に海水中で10日間養生してから山中式硬度計で測定した前記スラグ混合土の圧入抵抗値が500kPa以上となるように、前記浚渫土砂に対する前記製鋼スラグの混合量を決定し、少なくとも前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとを混合して前記スラグ混合土を製造する混合工程と、前記スラグ混合土を用いて前記浚渫窪地を埋め戻す工程とを備えることを特徴とする浚渫窪地の埋め戻し方法。
(2) 前記スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率が50質量%以下であることを特徴とする(1)に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
(3) 前記製鋼スラグは、50%粒径が10mm未満の微細スラグを50質量%以上含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
(4) 前記混合工程において、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉とを混合して前記スラグ混合土を製造することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
(5) 前記スラグ混合土中に前記高炉水砕スラグ微粉を、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとの合計量の0.1質量%以上2質量%以下の範囲で含有させることを特徴とする(4)記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
本発明により、スラグ混合土を用いて浚渫窪地を埋め戻す際に、固化程度を指標として硫化物生成抑制効果を推定し、浚渫窪地内の硫酸還元反応をより効率的に抑制して海域の貧酸素化を防止することができる。
硫酸還元菌(SRB)によって硫酸イオンと有機物から硫化物が生成する機構を示す図である。 スラグ混合土を製造後、10日間養生した後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度の関係を示す図である。 スラグ混合土の製鋼スラグ混合率と、スラグ混合土を製造後、10日間養生した海水のpHの関係を示す図である。 高炉水砕微粉を含むスラグ混合土を製造後、10日間養生した後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度の関係を示す図である。
本発明は、「浚渫土砂」に鉄鋼プロセスから生成する製鋼スラグを混合して得られる「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻して海域環境改善効果を図る際に、「スラグ混合土」内部での硫酸還元反応を抑制する簡易な固化指標を提供し、より効率的に海域環境改善を達成する方法である。即ち、発明者らは、後述する「山中式硬度計」を用いてスラグ混合土の「圧入抵抗値」を測定し、スラグ混合土の「圧入抵抗値」と硫酸還元反応抑制に密接な関係があることを見出し、より効率的に海域環境の改善を達成することに成功したものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、「スラグ混合土」を用いた際の硫化物生成抑制機構について説明する。
発明者らは、製鋼スラグと浚渫土砂を混合し、固化を促進した「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻すと、硫化物の生成抑制と海域での貧酸素化を防止できることを知見している(非特許文献2)。
図1に示すように、浚渫窪地底質において嫌気化が進行すると、硫酸還元菌は、海水中の硫酸イオン(SO 2−)を底質中の有機物(CHO)によって還元し、この結果、硫化水素(HS)等の硫化物を生成する。これに対して、「スラグ混合土」を用いて、浚渫窪地を埋め戻した際の硫化物の生成抑制機構として、以下のような機構を推定している。
1)スラグ混合により浚渫土砂単独の場合と比較し、有機物量が減少し、有機物律速となり、硫化物生成が抑制される。
2)土砂の固化により、海水からの硫酸イオンの供給が困難となり、硫酸イオン律速となり、硫化物生成が抑制される。
3)土砂の固化進行に伴い、硫化物が生成したとしても、硫化物の水中への溶出が抑制される。
まず、1)の有機物律速の機構を説明する。
浚渫窪地の埋め立て材として「浚渫土砂」に製鋼スラグの一定量を混合した「スラグ混合土」を用いると、「浚渫土砂」単独で浚渫窪地の埋め戻し材とするよりも、埋め戻し材に含まれる有機物量は削減する。製鋼スラグは、Ca、Si、Al、Fe等の化合物からなり、1500℃の高温で処理されているため、有機物は含まれていない。また、硫酸還元菌は一般の土壌に生息しており、「浚渫土砂」中にも生息しているが、製鋼スラグは、1500℃の高温で処理されており、また、水分も殆ど無いため、硫酸還元菌の生息は難しいと思われる。即ち、浚渫土砂と製鋼スラグを混合して活用する「スラグ混合土」を埋め立て材として用いることにより、浚渫土砂中の有機物割合及び硫酸還元菌数を減らせ、硫酸還元反応に伴う硫化物の生成を抑制することが可能となる。
次に、2)の硫酸イオンを減らし、硫化物の生成を抑制する機構、及び、3)の硫化物が生成したとしても、水中への溶出を防止する機構について説明する。
浚渫窪地を埋め戻し材で埋め戻した場合、埋め戻し材に有機物が例え含まれているとしても、海水が埋め戻し材中に容易に浸透しなければ、海水中の硫酸イオンが常に硫酸還元菌に供給されなくなる。この結果、硫酸還元反応は抑制され、硫化物の生成も抑制される。硫酸イオンの供給は、土壌の透水性に依存するものであるから、浚渫窪地への埋め戻し材が透水性の小さい材料であればあるほど、海水から硫酸イオンが供給されなくなり、硫酸イオン律速となって硫化物の生成が抑制される。また、仮に、浚渫窪地内の埋め戻し材のさらに下部において、嫌気化が進行し、硫化物が生成・蓄積したとしても、上部の埋め戻し材が透水性の小さい材料であれば、硫化物は海水中へ容易に溶出できなくなる。
このように、水の透水性を減少させることが、土砂内での硫酸還元反応を抑制する上で極めて重要である。土砂の透水性とは、土砂の間隙中における水の移動し易さであり、一般的には、表2に示すような、透水係数k(cm/sec)で評価される。また、このような土砂の透水性は、土砂の固化状態と密接な関係にある。土木工事の分野では、軟弱な土砂や地盤の改良のため、さまざまな材料を用いた固化処理が公知であり、また、固化処理土の透水性に関しては、固化処理することで固化処理前よりも小さな透水係数が得られるとされている。また、固化剤の添加量を増加させ、固化強度が大きいほど透水性も小さくなり、また、長期養生による固化強度増加に伴い、透水係数はさらに小さくなるとされている(非特許文献3)。
Figure 0005742477
今回の発明に用いている製鋼スラグは、製鋼スラグ単独でも弱い水硬性があり、水中に製鋼スラグを放置すれば、製鋼スラグの透水性は長期的に低下し、k=10−5〜10−6cm/sec程度まで低下する。
また、浚渫土砂そのものは透水性が極めて大きいが、製鋼スラグを混合した「スラグ混合土」の場合には、固化が進行し易くなる。これは、浚渫土砂から溶解性シリカが、また、製鋼スラグからカルシウムイオンが主として供給され、これらの反応によって、浚渫土砂粒子間にケイ酸カルシウム(CSH)が生成し、「スラグ混合土」の固化が進むと考えられている。固化が進んだ「スラグ混合土」の場合、その透水係数は、1×10−6〜10−7cm/secまで低下し、硫化物の生成を抑制すると考えられる。
発明者らは、このような「スラグ混合土」の固化の進行の指標として、「山中式硬度計」を用いてスラグ混合土の「圧入抵抗値」を用いることを発案し、また、スラグ混合土の初期の「圧入抵抗値」と硫化物の生成の抑制が密接な関係があることを見出した。即ち、海域環境を改善するために、海底の浚渫窪地を浚渫土砂と製鋼スラグを混合したスラグ混合土を用いて埋め戻しする方法であって、浚渫土砂に対して製鋼スラグを混合して得られた試験用混合物の圧入抵抗値を測定し、その圧入抵抗値を用いて、製造後に海水中で1日〜10日間養生してから測定したスラグ混合土の圧入抵抗値が20kPa以上となるよう「スラグ混合土」中の製鋼スラグの混合率を決定する(混合率決定工程)。
土壌硬度の測定方法としては、「山中式土壌硬度計法」、「貫入式土壌硬度計法」、「代かき土壌硬度法」等が広く知られており(非特許文献4)、どのような測定方法で測定してもかまわない。中でも「山中式土壌硬度計法」は、測定装置が安価に入手でき、かつ、操作も簡易でかつ短時間で測定可能であり、また、測定者による誤差も生じ難いため、土壌硬度の測定法として最も望ましいものである。
ここでは、「山中式硬度計」を用いたスラグ混合土の圧入抵抗値の測定について説明する。山中式硬度計は、加えられた外力に対する土壌の抵抗力(圧入抵抗値)を計測する機器である。山中式硬度計の円錐部を土壌に圧入すると、土壌の硬度に応じて円錐部が抵抗を受け、円錐底面を支えているコイルばねが縮み、その分だけ円錐部分は内部に後退する。山中式硬度計の胴体部側面の指標硬度(mm)値から圧入抵抗値(kPa)を計算する。圧入抵抗値(kPa)は、土壌の性状把握や農業用用地といった土壌の目的に適しているかを判断する際の指標となっている(表3、非特許文献4)。
Figure 0005742477
「スラグ混合土」の圧入抵抗値の具体的な測定方法は、以下のように実施する。まず、浚渫土砂に製鋼スラグを(スラグ混合土中製鋼スラグ混合率:0〜50質量%)を混合した「スラグ混合土」を1kg作成する。この「スラグ混合土」1kgを2Lのポリ容器にいれ、海水1Lで容器を満たして養生する。その後、海水で満たした「スラグ混合土」を常温・静置で30日間放置すると共に、「スラグ混合土」表面の複数点(3〜5か所)の圧入抵抗値を山中式硬度計によって、経日で30日間測定する。
なお、海水量は特に限定するものではなく、コンクリートなどの湿潤養生試験と同様に、養生期間中に「スラグ混合土」の表面が蒸発して乾燥しない海水量程度でもかまわない。養生中におけるpHなど海水の水質変化を見たい場合には多めに海水を添加する必要があるが、海水量と養生期間中におけるスラグ混合土の固化促進には特に関係はない。養生期間が30日間である場合、製造後のスラグ混合土の圧入抵抗値は、養生期間の経過に伴って増大する。
「スラグ混合土」の圧入抵抗値が、海水中で早期に上昇すればするほど、硫化物の生成抑制効果は大きい。本実施形態においては、製造後に海水中で1日〜10日間養生した「スラグ混合土」の圧入抵抗値を固化指標として用いる。「スラグ混合土」の圧入抵抗値は、「スラグ混合土」の表面の複数点(3〜5か所)を、山中式硬度計を用いて測定した平均値であることが望ましい。硫化物の溶出が大きくない場合には、「スラグ混合土」の固化進行の指標として用いる圧入抵抗値として、スラグ混合後20〜30日の圧入抵抗値の平均値を固化指標として用いてもかまわない。
次に、このようにして測定した「スラグ混合土」の圧入抵抗値と硫化物生成の関係の把握し、製鋼スラグの混合量を決定する方法について説明する。
まず、浚渫土砂に製鋼スラグを0〜50質量%混合した「スラグ混合土」(試験用混合物)を複数種類作製する。浚渫土砂が採取後、時間を経ている等の理由から、生物分解可能な有機物量が減少し、浚渫土砂単独では硫化物の検出ができないと判断される場合には、グルコース等の有機物を浚渫土砂に予め混入しておく。このようにして作製した各「スラグ混合土」100gをそれぞれ1L容器(ガラスびん)に添加後、窒素で曝気し溶存酸素(DO)を除去した表1のイオン濃度の人工海水0.9Lを各ガラスびんに添加して養生する。なお、人工海水でなく淡水などがまじっていない実海水をもちいてもかまわない。その後、密閉状態、光遮断、室温で0〜30日間放置して養生する。
その後、1日以降10日以内、例えば、5日間又は10日間養生した容器中の海水を0.45μmフィルター(ミリポア社製)を充填した注射器で採取(以下、ろ過海水)する。このろ過海水に硫酸(容積比で水1と硫酸1を混合した液)を添加し、窒素曝気し、硫化水素を発生させ、生成した硫化水素を酢酸亜鉛溶液でZnSとして固定化する。その後、ZnSを再溶解させ、よう素滴定法で5日後又は10日後にろ過海水中に存在している硫化物濃度を測定する。
また、山中式硬度計を用いて、前述した方法によって、製造後に海水中で1日〜10日間養生した「スラグ混合土」の圧入抵抗値、例えば、5日間又は10日間養生した「スラグ混合土」の圧入抵抗値を測定し、近傍の海水中の硫化物濃度との関係を検討する。
後述の実施例1で示すように、「スラグ混合土」の1日以降10日以内の圧入抵抗値が僅かに上昇しただけで、海水中の硫化物濃度は、浚渫土砂単独の場合と比較し、急速に低下する。「スラグ混合土」の圧入抵抗値が20kPa以上になると、海水中の硫化物濃度は1mg/L以下まで低下する。硫化物濃度が1mg/L以下となれば、消費される溶存酸素濃度は(1)式から2mg/L以下と推定される。海域の溶存酸素は通常5mg/L以上はあるため、海域底層の溶存酸素濃度を水産用水基準の3mg/L以上に維持することは可能と考えられる。
また、「スラグ混合土」の圧入抵抗値が500kPa以上となると、海水中の硫化物濃度は0.2〜0.6mg/L、2000kPa以上となると検出限界(0.2mg/L)以下まで低下する。したがって、スラグ混合土を製造する際には、製造後に海水中で1日〜10日間養生してから測定したスラグ混合土の圧入抵抗値の下限が20kPa以上、望ましくは500kPa以上となるように、浚渫土砂に対する製鋼スラグの混合量(スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率)を決定する(混合工程)。「スラグ混合土」の圧入抵抗値の上限は、特に定める必要はないが、2000kPa以上あれば、海水中の硫化物溶出は無視できる程度まで抑制できると考えられる。
次に、浚渫土砂に混合する製鋼スラグについて説明する。
製鐵所から生成する鉄鋼スラグは、鉄鋼製造工程において副産物として発生する。鉄鋼スラグは大別して、高炉スラグと製鋼スラグに分けられ、それぞれ、有用資材として各方面で利用されている。本発明の海底の浚渫窪地修復に用いる鉄鋼スラグは、高炉スラグではなく、製鋼スラグである。
また、製鋼スラグは、製鋼炉(転炉、電気炉)において、銑鉄やスクラップから鋼を製造する際に生成するスラグの総称であるが、本発明の海底の浚渫窪地修復に用いる製鋼スラグは、転炉系の製鋼スラグであることが好ましい。転炉系の製鋼スラグは電気炉系製鋼スラグと比較し、成分組成が安定しており、品質管理が容易である。また、近年、鋼品質の高度化に対応するため、転炉による精錬のみでは不純物の除去が不十分となり、転炉前後の工程(溶銑予備処理、2次精錬)を付加された高級鋼製造工程から生成する溶銑予備処理スラグや2次精錬スラグも、転炉スラグと同様に転炉系の製鋼スラグに含まれる。
転炉系の製鋼スラグは、粗鋼1t当たり約110〜130kg生成し、ヤードやピットに高温の溶けた状態のスラグを流し込み、自然放冷と適度の散水によってゆっくりと冷却し製造する。転炉系スラグは、f−CaO(可溶性石灰)の含有量が高く、水と接触すると膨張し易い特性があるため、屋外エージング処理や蒸気等を用いた促進エージング処理により、膨張防止対策を施した後、道路用路盤材等、セメントクリンカー原料(FeO供給材)、地盤改良材、土木工事用資材として広く用いられている。
さらに、このような転炉系の製鋼スラグを浚渫土砂に混合して「スラグ混合土」として用いる場合、「スラグ混合土」中の製鋼スラグの混合率は、50質量%以下とする。これは、浚渫土砂に製鋼スラグを混合して用いても、海水による希釈効果により、近傍の海水のpHが上昇することは殆どないが、「スラグ混合土」中の製鋼スラグの混合率をあまりに高めると、海水交換速度が小さい場合等、近傍の海水のpHが一時的に9.5を超えて上昇する可能性もあるためである。
pHが9.5を超えると、海水中のMg2+がMg(OH)となり、析出し易くなる。したがって、「スラグ混合土」中の製鋼スラグの混合率は50質量%が上限と考えられる。また、用いる製鋼スラグは、「スラグ混合土」の早期の固化促進の観点からは、50%粒径が10mm未満の微細スラグを50質量%以上含むことが望ましい。粒径が10mmよりも大きい製鋼スラグは、pHが上昇し難いものの、逆に、固化促進に必要なカルシウムイオンやシリカの溶解速度が低下するため、固化速度が低下する。したがって、用いる製鋼スラグはカルシウムイオンやシリカの溶解速度が大きい50%粒径が10mm未満の微細スラグを50質量%以上含むことが望ましい。
いずれにせよ、スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率は50質量%以下を目安とし、事前にバッチ実験等を実施し、固化促進と共に近傍の海水のpHが8以上9.5以下となるように、浚渫土砂への製鋼スラグの混合率を定めることが望ましい。
スラグ混合土の圧入抵抗値は、スラグ混合土に用いる浚渫土砂の含水率やCOD(化学的酸素要求量)が高いと低くなる。本発明では、浚渫土砂の水分量が特に多い場合は、前記「スラグ混合土」中の製鋼スラグ混合率が50質量%であっても、該スラグ混合土の圧入抵抗値が20kPa未満となる場合があることを知見した。このような場合でも、pHが上昇し易いため、製鋼スラグ混合率を50質量%超とすることは困難である。そこで、スラグ混合土の圧入抵抗値が20kPa以上となるよう、浚渫土砂に製鋼スラグとともに高炉水砕スラグ微粉を加えて混合し、「スラグ混合土」の固化を促進することが好ましい。
このような場合に用いる高炉水砕スラグ微粉について説明する。高炉スラグは、高炉で銑鉄を製造する際に生成するスラグの総称である。高炉で溶融された鉄鉱石の鉄以外の成分や副原料の石灰石やコークスの灰分が高炉スラグとなる。高炉スラグは、銑鉄1tあたり290〜300kg程度生成する(スラグ比kg/t−銑鉄)。高炉から取り出されたばかりのスラグは、約1500℃の溶融状態にあるが、製造方法(冷却方法)によって、さらに、高炉水砕スラグと高炉徐冷スラグの2種類のスラグに分類される。
高炉徐冷スラグは、ヤードやピットに高温のスラグを流し込み、自然放冷と適度の散水によってゆっくりと冷却し製造したスラグであり、結晶質・岩石状である。徐冷スラグは、主としてコンクリート用粗骨材やセメントクリンカー原料(粘土代替材)として用いられている。また、1〜3ヶ月の屋外養生処理(以下、エージングと称する)により、硫黄臭や黄濁水の生成防止対策を施した後、道路用の路盤材等にも用いられている。
これに対して、高炉水砕スラグは、約1500℃の溶融状態にあるスラグに加圧水を噴射し、急激に冷却して製造したスラグであり、非晶質(ガラス質)・粒状である。高炉水砕スラグ微粉は、このような高炉水砕スラグを粉砕処理したもので、強い潜在水硬性を有しており、高炉セメント原料、コンクリート混和剤等に広く使用されている。
本発明の「スラグ混合土」に用いる高炉スラグは、強い潜在水硬性を有している高炉水砕スラグ微粉である。高炉水砕スラグ微粉は、スラグ混合土中に、浚渫土砂と製鋼スラグとの合計量の0.1質量%以上2質量%以下の範囲で含有することが望ましい。高炉水砕スラグ微粉の使用は、固化促進に対して大きな効果は得られるものの、コスト、操作性の観点から極力小さいことが望ましいが、浚渫土砂と製鋼スラグとの合計量の0.1質量%以下では、顕著な効果は得られない。後述する実施例2に示すように、スラグ混合土中の製鋼スラグ混合率を50質量%にしても圧入抵抗値が20kPa以上に固化が進行し難い浚渫土砂であっても、浚渫土砂と製鋼スラグに加え、高炉水砕スラグ微粉を浚渫土砂と製鋼スラグとの合計量の0.1質量%〜2質量%添加して使用すると、固化促進に対して大きな効果が得られる。圧入抵抗値(10日後)は、28kPa〜1200kPaに達した。硫化物の生成は、浚渫土砂単独の場合と比較し急速に低下し、圧入抵抗値が20kPa以上になると、硫化物は1mg/L以下と、浚渫土砂単独の場合と比較し60%以上低下した。また、圧入抵抗値が500kPa以上となると0.3mg/L以下、1200kPa以上となると検出限界(0.2mg/L)以下まで低下した。
なお、スラグ混合土として、浚渫土砂と製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉とを混合してなるものを製造する場合、スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率は特に限定されるものではない。しかし、スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率を、近傍の海水のpHが9.5以下となる50質量%以下の範囲で多くするほど、少ない高炉水砕スラグ微粉の含有量で、製造後に海水中で1日〜10日間養生してから測定したスラグ混合土の圧入抵抗値を20kPa以上とすることができ好ましい。
(実施例1)製鋼スラグを浚渫土砂に混合し固化を促進したスラグ混合土の事例
表4に性状を示したT湾浚渫土砂と転炉系製鋼スラグを表5に示す6条件(T0〜T5)の割合で混合し、「スラグ混合土」5系列を作製した。なお、事前調査でT湾浚渫土砂単独で、表5に示すスラグ混合土を用いた場合の溶存態硫化物濃度を測定する後述する方法と同様にして溶存態硫化物濃度を測定したが、有機物量が少なく硫化物の検出ができなかった。このため、有機物源としてT湾浚渫土砂50g当たりグルコース25mgを事前に添加し、よく混合した。また、T湾浚渫土砂はCODや含水率が比較的低いため、製鋼スラグを用いて固化させやすいことが予想された。
Figure 0005742477
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各系列の「スラグ混合土」をガラスびん(容量:1L)に添加した後、窒素で曝気し溶存酸素(DO)を除去した表1のイオン濃度の人工海水0.9Lを各ガラスびんに添加した。なお、人工海水でなく淡水などがまじっていない実海水をもちいてもかまわない。各系列で計6本作成し、密閉状態、光遮断、室温で10日間(養生)放置し、10日後に海水の水質分析を実施した。
硫化物は、分析過程で散逸し易いため、以下の方法で分析した。10日後に容器中の海水を0.45μmフィルター(ミリポア社製)を充填した注射器で採取し、ろ過海水とした。このろ過海水に硫酸(容積比で水1と硫酸1を混合した液)を添加し、窒素曝気し、硫化水素を発生させ、生成した硫化水素を酢酸亜鉛溶液でZnSとして固定化した。その後、ZnSを再溶解させ、よう素滴定法で10日後にろ過海水中に存在している硫化物濃度を測定した(以下、溶存態硫化物濃度)。
また、pH計によって、ろ過海水のpHを測定した。
「スラグ混合土」の圧入抵抗値は、以下のように測定した。表5に示す6条件と同じ割合でT湾浚渫土砂と転炉系製鋼スラグとを混合し「スラグ混合土」を1kg作成する。この「スラグ混合土」1kgを2Lのポリ容器にいれ、海水1Lで容器を満たし、常温・静置で10日間(養生)放置した。その後、10日後の「スラグ混合土」表面の複数点(5か所)の圧入抵抗値を山中式硬度計によって測定した。
T湾浚渫土砂(T0)及び「スラグ混合土砂(T1〜T5)」の10日後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度を表6に、また、スラグ混合土を製造後、10日間養生した後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度の関係を図2に示す。
Figure 0005742477
T湾浚渫土砂(T0)の場合、10日後の圧入抵抗値は0kPaであり、溶存態硫化物濃度は2.4mg/Lまで上昇した。本硫化物濃度は(1)式から4.8mg/Lの溶存酸素(DO)を消費し、海域底層の貧酸素化を招いてしまうと考えられる。
一方、製鋼スラグを浚渫土砂に混合した「スラグ混合土」の場合、固化は容易に進行した。製鋼スラグの混合率が9質量%のT2系では、10日後の圧入抵抗値が20kPa以上に達し、溶存態硫化物濃度は1mg/L以下まで低下していた。溶存態硫化物濃度が1mg/L以下であれば、通常の海域では5mg/L以上の溶存酸素が存在するため、極端な貧酸素化を防止でき、海域底層の溶存酸素を3mg/L以上に維持することは可能と思われる。このように、浚渫土砂に対して製鋼スラグを比較的少量混合することによって、固化が進行すると共に、顕著な溶存態硫化物削減率が得られた。
さらに、10日後の海水中の溶存態硫化物濃度は、「スラグ混合土」の10日後の圧入抵抗値が500kPa以上となるT3系では0.3mg/L、「スラグ混合土」の10日後の圧入抵抗値が2000kPa以上となるT4、T5系では、溶存態硫化物濃度は検出限界(0.2mg/L)以下まで低下していた。
したがって、スラグ混合土の圧入抵抗値の下限が20kPa以上となるように浚渫土砂に製鋼スラグを混合すれば、海域底層の貧酸素化を防止できると共に、スラグ混合土の圧入抵抗値が500kPa以上となるように製鋼スラグを混合し固化を促進すれば、硫化物の影響は無視できる程度まで改善されると思われる。
また、「スラグ混合土」中の製鋼スラグ混合率とスラグ混合土を製造後、10日間養生した海水pHの関係を図3に示す。製鋼スラグの混合率が50質量%であるT5系でもpH9.2前後で推移しており、pH9.5以下に維持されていた。
(実施例2)製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉を浚渫土砂に混合し固化を促進したスラグ混合土の事例
表7に性状を示したM湾浚渫土砂と転炉系製鋼スラグ及び高炉水砕スラグ微粉を表8に示す6条件(M0〜M5)の割合で混合し、「スラグ混合土」5系列を作成した。M湾浚渫土砂は、含水率が63.3%と高く、さらに、CODも19.7mg/gと高い。このため、浚渫土砂と製鋼スラグとを混合して、製鋼スラグの混合率が50質量%の混合物としても、混合物を10日間養生した後の圧入抵抗値が20kPa未満と固化し難いことが判った。このように水分やCODで表示される有機物が多い浚渫土砂の場合は、浚渫土砂に製鋼スラグを単独で添加しても固化を促進することが難しい場合がある。このため、表8に示すように、浚渫土砂に、製鋼スラグに加えて、高炉水砕スラグ微粉を浚渫土砂と製鋼スラグとの合計量の0.1〜2質量%混合した。
Figure 0005742477
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また、事前調査でM湾浚渫土砂単独で実施例1と同様にして溶存態硫化物濃度を測定したが、有機物量が少なく硫化物の検出ができなかったため、有機物源としてM湾浚渫土砂50g当たりグルコース25mgをさらに添加しよく混合した。
各系列の「スラグ混合土」をガラスびん(容量:1L)に添加した後、窒素で曝気し溶存酸素(DO)を除去した表1のイオン濃度の人工海水0.9Lを各ガラスびんに添加した。人工海水でなく淡水などがまじっていない実海水をもちいてもかまわない。各系列で計6本作製し、密閉状態、光遮断、室温で10日間(養生)放置し、10日後に海水の水質分析を実施した。
硫化物は、分析過程で散逸し易いため、以下の方法で分析した。10日後に容器中の海水を0.45μmフィルター(ミリポア社製)を充填した注射器で採取し、ろ過海水とした。このろ過海水に硫酸(容積比で水1と硫酸1を混合した液)を添加し、窒素曝気し、硫化水素を発生させ、生成した硫化水素を酢酸亜鉛溶液でZnSとして固定化した。その後、ZnSを再溶解させ、よう素滴定法で10日後にろ過海水中に存在している硫化物濃度を測定した(以下、溶存態硫化物濃度)。
また、pH計によって、ろ過海水のpHを測定した。
「スラグ混合土」の圧入抵抗値は、以下のように測定した。表9に示す6条件と同じ割合でT湾浚渫土砂と転炉系製鋼スラグとを混合し「スラグ混合土」を1kg作成する。この「スラグ混合土」1kgを2Lのポリ容器にいれ、海水1Lで容器を満たし、常温・静置で10日間(養生)放置した。その後、10日後の「スラグ混合土」表面の複数点(5か所)の圧入抵抗値を山中式硬度計によって測定した。
T湾浚渫土砂(M0)及び「スラグ混合土砂(M1〜M5)」の10日後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度を表9に、また、高炉水砕スラグ微粉を含むスラグ混合土を製造後、10日間養生した後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度の関係を図4に示す。
Figure 0005742477
M湾浚渫土砂(M0)の場合、10日後の圧入抵抗は0kPaであり、溶存態硫化物濃度は2mg/L以上まで上昇した。本硫化物濃度は(1)式から4mg/L以上の溶存酸素(DO)を消費し、海域底層の貧酸素化を招いてしまうと考えられる。一方、製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉を浚渫土砂に混合した「スラグ混合土」の場合、固化は容易に進行した。
高炉水砕スラグ微粉の混合率が0.1質量%のM1系では、10日後の圧入抵抗値が20kPa以上に達し、また、溶存態硫化物濃度は1mg/L以下まで低下した。溶存態硫化物濃度が1mg/L以下であれば極端な貧酸素化を防止でき、海域底層の溶存酸素を3mg/L以上に維持することは可能と思われる。このように、浚渫土砂に対して製鋼スラグ単独では固化しにくい土砂の場合、高炉水砕スラグ微粉を比較的少量混合することによって、固化が進行し、同時に溶存態硫化物を削減できる。
さらに、10日後の海水中の溶存態硫化物濃度は、「スラグ混合土」の10日後の圧入抵抗値が500kPa以上となるM4系では0.3mg/L以下、「スラグ混合土」の10日後の圧入抵抗値が1000kPa以上となるM5系では、検出限界(0.2mg/L)以下まで低下した。
したがって、スラグ混合土の圧入抵抗値の下限が20kPa以上となるように浚渫土砂に製鋼スラグ及び高炉水砕スラグ微粉を混合すれば、海域底層の貧酸素化を防止できると考えられる。また、スラグ混合土の圧入抵抗値が500kPa以上となるように浚渫土砂に製鋼スラグ及び高炉水砕スラグ微粉を混合し固化を促進すれば、硫化物の影響は無視できる程度まで改善されると思われる。
また、「スラグ混合土(M1〜M5)」は、製鋼スラグの混合率が50質量%以下で一定であったため、いずれの「スラグ混合土(M1〜M5)」の10日後のpHも9.2前後で推移しており、pH9.5以下に維持されていた。高炉水砕スラグ微粉添加のpHへの影響はほぼ無視できる。
また、本検討では製鋼スラグの混合率は、浚渫土砂と製鋼スラグとの混合物の50質量%で一定であったが、高炉水砕スラグ微粉を混合して、10日後の圧入抵抗が20kPa以上に達するのであれば、製鋼スラグの混合率を50質量%以下としてもかまわない。

Claims (5)

  1. 海域環境を改善するためにスラグ混合土を用いて海底の浚渫窪地を埋め戻す方法であって、
    少なくとも浚渫土砂と製鋼スラグとを混合して試験用混合物を製造し、前記試験用混合物の圧入抵抗値を測定する工程と、
    前記試験用混合物の圧入抵抗値を用いて、前記スラグ混合土の製造後に海水中で10日間養生してから山中式硬度計で測定した前記スラグ混合土の圧入抵抗値が500kPa以上となるように、前記浚渫土砂に対する前記製鋼スラグの混合量を決定し、少なくとも前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとを混合して前記スラグ混合土を製造する混合工程と、
    前記スラグ混合土を用いて前記浚渫窪地を埋め戻す工程とを備えることを特徴とする浚渫窪地の埋め戻し方法。
  2. 前記スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率が50質量%以下であることを特徴とする請求項に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
  3. 前記製鋼スラグは、50%粒径が10mm未満の微細スラグを50質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
  4. 前記混合工程において、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉とを混合して前記スラグ混合土を製造することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
  5. 前記スラグ混合土中に前記高炉水砕スラグ微粉を、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとの合計量の0.1質量%以上2質量%以下の範囲で含有させることを特徴とする請求項に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
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