JP5742477B2 - 浚渫窪地の埋め戻し方法 - Google Patents
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Description
東京湾、三河湾等の内湾には海砂採取の跡地や海底土砂掘削の跡地が散見される。これらは、戦後、沿岸埋め立て用の材料として、あるいは、海砂利の採取のための安価な土砂の供給源として掘削利用されたものである。浚渫跡地の中で、周辺の海底よりも特に深く掘り下げた窪地状の浚渫跡地が「浚渫窪地」と呼ばれている。例えば、東京湾では、このような「浚渫窪地」が約1億m3存在していることが明らかになっている。
[硫化物と溶存酸素との反応式]S2−+2O2→SO4 2− (1)
SO4 2−+2CH2O+2H+⇔H2S+2H2O+CO2 (2)
[H+][HS−]/[H2S(g)]= 10−7 (3)
[H+][S2−]/[HS−]=10−13 (4)
全硫化物=懸濁態硫化物(FeS、MnS等)+溶存態硫化物
ここで、溶存態硫化物=硫化水素[H2S(g)]+ 硫化物イオン
=[H2S(g)]+ [HS−]+ [S2−]
≒[H2S(g)]+[HS−](通常の海水域のpH)
このため、「浚渫窪地」の埋め戻しが各地で進められるようになってきている。この場合、埋め戻し材としては、海域での航路の維持や港湾工事等で大量に生成する「浚渫土砂」が用いられていることが多い。「浚渫土砂」は、「廃棄物」には相当しないため、海域で容易に有効利用され得る資材である。
このため、発明者らは、「浚渫土砂」に鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」を混合し、有機物含有割合を低下させると共に、固化を促進した「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻して海域環境の改善を図る方法を提案している(非特許文献2) 。
これに対して、発明者らは、「浚渫土砂」に鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」を混合し、固化を促進した「スラグ混合土」を用いて、浚渫窪地を埋め戻して海域環境改善方法を提案している(非特許文献2)。
そこで、本発明は、「浚渫土砂」及び鉄鋼プロセスから生成する「製鋼スラグ」を少なくとも含む「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻して海域環境改善効果を図る際に、「スラグ混合土」の固化の制御が硫酸還元反応制御の最も重要となる視点であると考え、「スラグ混合土」での硫酸還元反応を抑制する簡易な固化指標を提供し、より効率的に海域環境改善を達成することを目的とする。
本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(7)である。
(2) 前記スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率が50質量%以下であることを特徴とする(1)に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
(3) 前記製鋼スラグは、50%粒径が10mm未満の微細スラグを50質量%以上含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
(4) 前記混合工程において、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉とを混合して前記スラグ混合土を製造することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
(5) 前記スラグ混合土中に前記高炉水砕スラグ微粉を、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとの合計量の0.1質量%以上2質量%以下の範囲で含有させることを特徴とする(4)記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
まず、「スラグ混合土」を用いた際の硫化物生成抑制機構について説明する。
発明者らは、製鋼スラグと浚渫土砂を混合し、固化を促進した「スラグ混合土」を用いて浚渫窪地を埋め戻すと、硫化物の生成抑制と海域での貧酸素化を防止できることを知見している(非特許文献2)。
図1に示すように、浚渫窪地底質において嫌気化が進行すると、硫酸還元菌は、海水中の硫酸イオン(SO4 2−)を底質中の有機物(CH2O)によって還元し、この結果、硫化水素(H2S)等の硫化物を生成する。これに対して、「スラグ混合土」を用いて、浚渫窪地を埋め戻した際の硫化物の生成抑制機構として、以下のような機構を推定している。
2)土砂の固化により、海水からの硫酸イオンの供給が困難となり、硫酸イオン律速となり、硫化物生成が抑制される。
3)土砂の固化進行に伴い、硫化物が生成したとしても、硫化物の水中への溶出が抑制される。
浚渫窪地の埋め立て材として「浚渫土砂」に製鋼スラグの一定量を混合した「スラグ混合土」を用いると、「浚渫土砂」単独で浚渫窪地の埋め戻し材とするよりも、埋め戻し材に含まれる有機物量は削減する。製鋼スラグは、Ca、Si、Al、Fe等の化合物からなり、1500℃の高温で処理されているため、有機物は含まれていない。また、硫酸還元菌は一般の土壌に生息しており、「浚渫土砂」中にも生息しているが、製鋼スラグは、1500℃の高温で処理されており、また、水分も殆ど無いため、硫酸還元菌の生息は難しいと思われる。即ち、浚渫土砂と製鋼スラグを混合して活用する「スラグ混合土」を埋め立て材として用いることにより、浚渫土砂中の有機物割合及び硫酸還元菌数を減らせ、硫酸還元反応に伴う硫化物の生成を抑制することが可能となる。
浚渫窪地を埋め戻し材で埋め戻した場合、埋め戻し材に有機物が例え含まれているとしても、海水が埋め戻し材中に容易に浸透しなければ、海水中の硫酸イオンが常に硫酸還元菌に供給されなくなる。この結果、硫酸還元反応は抑制され、硫化物の生成も抑制される。硫酸イオンの供給は、土壌の透水性に依存するものであるから、浚渫窪地への埋め戻し材が透水性の小さい材料であればあるほど、海水から硫酸イオンが供給されなくなり、硫酸イオン律速となって硫化物の生成が抑制される。また、仮に、浚渫窪地内の埋め戻し材のさらに下部において、嫌気化が進行し、硫化物が生成・蓄積したとしても、上部の埋め戻し材が透水性の小さい材料であれば、硫化物は海水中へ容易に溶出できなくなる。
まず、浚渫土砂に製鋼スラグを0〜50質量%混合した「スラグ混合土」(試験用混合物)を複数種類作製する。浚渫土砂が採取後、時間を経ている等の理由から、生物分解可能な有機物量が減少し、浚渫土砂単独では硫化物の検出ができないと判断される場合には、グルコース等の有機物を浚渫土砂に予め混入しておく。このようにして作製した各「スラグ混合土」100gをそれぞれ1L容器(ガラスびん)に添加後、窒素で曝気し溶存酸素(DO)を除去した表1のイオン濃度の人工海水0.9Lを各ガラスびんに添加して養生する。なお、人工海水でなく淡水などがまじっていない実海水をもちいてもかまわない。その後、密閉状態、光遮断、室温で0〜30日間放置して養生する。
製鐵所から生成する鉄鋼スラグは、鉄鋼製造工程において副産物として発生する。鉄鋼スラグは大別して、高炉スラグと製鋼スラグに分けられ、それぞれ、有用資材として各方面で利用されている。本発明の海底の浚渫窪地修復に用いる鉄鋼スラグは、高炉スラグではなく、製鋼スラグである。
表4に性状を示したT湾浚渫土砂と転炉系製鋼スラグを表5に示す6条件(T0〜T5)の割合で混合し、「スラグ混合土」5系列を作製した。なお、事前調査でT湾浚渫土砂単独で、表5に示すスラグ混合土を用いた場合の溶存態硫化物濃度を測定する後述する方法と同様にして溶存態硫化物濃度を測定したが、有機物量が少なく硫化物の検出ができなかった。このため、有機物源としてT湾浚渫土砂50g当たりグルコース25mgを事前に添加し、よく混合した。また、T湾浚渫土砂はCODや含水率が比較的低いため、製鋼スラグを用いて固化させやすいことが予想された。
また、pH計によって、ろ過海水のpHを測定した。
T湾浚渫土砂(T0)及び「スラグ混合土砂(T1〜T5)」の10日後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度を表6に、また、スラグ混合土を製造後、10日間養生した後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度の関係を図2に示す。
したがって、スラグ混合土の圧入抵抗値の下限が20kPa以上となるように浚渫土砂に製鋼スラグを混合すれば、海域底層の貧酸素化を防止できると共に、スラグ混合土の圧入抵抗値が500kPa以上となるように製鋼スラグを混合し固化を促進すれば、硫化物の影響は無視できる程度まで改善されると思われる。
表7に性状を示したM湾浚渫土砂と転炉系製鋼スラグ及び高炉水砕スラグ微粉を表8に示す6条件(M0〜M5)の割合で混合し、「スラグ混合土」5系列を作成した。M湾浚渫土砂は、含水率が63.3%と高く、さらに、CODも19.7mg/gと高い。このため、浚渫土砂と製鋼スラグとを混合して、製鋼スラグの混合率が50質量%の混合物としても、混合物を10日間養生した後の圧入抵抗値が20kPa未満と固化し難いことが判った。このように水分やCODで表示される有機物が多い浚渫土砂の場合は、浚渫土砂に製鋼スラグを単独で添加しても固化を促進することが難しい場合がある。このため、表8に示すように、浚渫土砂に、製鋼スラグに加えて、高炉水砕スラグ微粉を浚渫土砂と製鋼スラグとの合計量の0.1〜2質量%混合した。
各系列の「スラグ混合土」をガラスびん(容量:1L)に添加した後、窒素で曝気し溶存酸素(DO)を除去した表1のイオン濃度の人工海水0.9Lを各ガラスびんに添加した。人工海水でなく淡水などがまじっていない実海水をもちいてもかまわない。各系列で計6本作製し、密閉状態、光遮断、室温で10日間(養生)放置し、10日後に海水の水質分析を実施した。
また、pH計によって、ろ過海水のpHを測定した。
T湾浚渫土砂(M0)及び「スラグ混合土砂(M1〜M5)」の10日後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度を表9に、また、高炉水砕スラグ微粉を含むスラグ混合土を製造後、10日間養生した後の圧入抵抗値と溶存態硫化物濃度の関係を図4に示す。
また、本検討では製鋼スラグの混合率は、浚渫土砂と製鋼スラグとの混合物の50質量%で一定であったが、高炉水砕スラグ微粉を混合して、10日後の圧入抵抗が20kPa以上に達するのであれば、製鋼スラグの混合率を50質量%以下としてもかまわない。
Claims (5)
- 海域環境を改善するためにスラグ混合土を用いて海底の浚渫窪地を埋め戻す方法であって、
少なくとも浚渫土砂と製鋼スラグとを混合して試験用混合物を製造し、前記試験用混合物の圧入抵抗値を測定する工程と、
前記試験用混合物の圧入抵抗値を用いて、前記スラグ混合土の製造後に海水中で10日間養生してから山中式硬度計で測定した前記スラグ混合土の圧入抵抗値が500kPa以上となるように、前記浚渫土砂に対する前記製鋼スラグの混合量を決定し、少なくとも前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとを混合して前記スラグ混合土を製造する混合工程と、
前記スラグ混合土を用いて前記浚渫窪地を埋め戻す工程とを備えることを特徴とする浚渫窪地の埋め戻し方法。 - 前記スラグ混合土中の製鋼スラグの混合率が50質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
- 前記製鋼スラグは、50%粒径が10mm未満の微細スラグを50質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
- 前記混合工程において、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉とを混合して前記スラグ混合土を製造することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
- 前記スラグ混合土中に前記高炉水砕スラグ微粉を、前記浚渫土砂と前記製鋼スラグとの合計量の0.1質量%以上2質量%以下の範囲で含有させることを特徴とする請求項4に記載の浚渫窪地の埋め戻し方法。
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