ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は、力学特性や寸法安定性に優れるため、用途が多様化し、様々な機能性を付与した繊維が数多く開発されるようになった。
例えば、衣料用途では、ソフトな風合い等を付与する狙いで単糸細繊度化・多フィラメント化や、吸水・速乾性の向上や光沢感を変更する等の狙いで単糸異形断面化、また、鮮明性に優れた染色の実現等の新たな機能性付与の狙いでポリマーを改質する等の改良が行われている。また、産業用途では、同様に単糸細繊度化・多フィラメント化や単糸異形断面化の他、高強度化、高弾性化や、耐候性、難燃性等の新たな機能性付与を狙ったポリマーの改質等の改良が行われている。さらに、上記改良に加えて、2種類以上のポリマーを組み合わせることによって、単一成分のポリマーでは不十分な性能を補完したり、また、全く新しい機能を付与する複合繊維の開発も盛んに行われている。
この複合繊維を製造する手法には、芯鞘、サイドバイサイド、海島型と言った複合口金を利用した複合紡糸法と、ポリマー同士を溶融混練するポリマーアロイ法がある。複合紡糸法は、2種類以上のポリマーを複合繊維とする原理的な面では、ポリマーアロイ法と差は無いが、複合口金で複合ポリマー流を精密に制御し、特に、糸の走行方向において高精度な糸断面形態を形成できる点においては、ポリマーアロイ法よりも優位性が高いと考えられる。
複合紡糸法を用いた例として、芯鞘型は、芯成分を鞘成分が被覆することで、単独繊維では達成されない風合い、嵩高性などといった感性的効果、また、強度、弾性率、耐摩耗性などといった力学特性の付与が可能となる。また、サイドバイサイド型では、単独繊維では不可能であった捲縮性を発現させ、ストレッチ性等を付与することが可能となる。また、海島型では、溶融紡糸した後に易溶出成分(海成分)を溶出することにより、難溶出成分(島成分)だけが残存し、例えば、糸径がナノオーダーの極細繊維を得ることができる。この極細繊維は、糸表面積が大きいことから、肌触りやドレープ性に優れており、不織布や織物の構成材料に幅広く使用されている。
そこで、これら複合紡糸法では、一般的に、2種類以上のポリマーを口金内で複合ポリマー流とし、同一の吐出孔から吐出する方法が採用されているが、当然のことながら、この複合口金技術が繊維形態を決定する上で極めて重要となっている。
上記の複合口金の一つとして、海島型の複合口金を大きく二つに区分けすると、パイプ方式口金と分配板方式口金になる。分配板方式口金の代表的な例として、図12に示すように、特許文献1の複合口金が開示されている。図12は特許文献1の複合口金の部分拡大平面図である。図中、黒丸の1は島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔、白丸の4は海成分ポリマーを吐出する海成分吐出孔、2は上層板、8は分配溝をそれぞれ示す。以下、各図面において、説明済みの図に対応する部材が存在する場合は、同じ参照符号を用いて説明を省略することがある。特許文献1は、分配板を複数枚重ね、その分配板の最下層に、分配溝8、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4を設けた上層板2を配設し、分配板により島成分ポリマーと海成分ポリマーを予め多数に分配した後、上層板2の島成分吐出孔1と海成分吐出孔4より両成分のポリマーを各々吐出し、吐出直後に複合化させることで複雑な断面を形成できることが記載されている。また、孔群の配設パターンの例として、図13に示すように、特許文献2の複合口金が開示されている。図13は特許文献2の複合口金の部分拡大平面図である。特許文献2の口金板の一つを、上層板2とし、また、上層板2に配設された島成分吐出孔1、海成分吐出孔4と見なす。
しかしながら、特許文献1、および特許文献2の分配方式口金では、上層板2の同一面に島成分吐出孔1と海成分吐出孔4を配置するために、島成分吐出孔1を多く配置することができず、孔充填密度を大きくできない場合がある。特に、特許文献2では、島成分ポリマー同士の合流を防止するために、一つの島成分吐出孔1の周囲に複数の海成分吐出孔4を配置していることから、上層板2には、島成分吐出孔1より多い孔数の海成分吐出孔4が配置されているため、島成分吐出孔1を配置する箇所が限定されて、島成分吐出孔1の孔数を多くできない場合がある。このように、孔充填密度が大きくできない場合には、複合口金が大型化し、繊維分野の多錘型の紡糸設備では生産性、操業性が好ましくない問題が生じる場合がある。
また、パイプ方式口金の代表的な例として、図14に示すように、特許文献3の複合口金が開示されている。図14は特許文献3の複合口金の概略断面図である。図中、30はパイプ、31は海成分ポリマー導入流路、32は島成分ポリマー導入流路、33は上口金板、34は中口金板、35は下口金板、40は海成分ポリマー分配室、41はパイプ挿入孔、42は口金吐出孔をそれぞれ示す。
特許文献3は、一般的に海島型繊維を製造するパイプ方式口金として知られており、海成分ポリマー導入流路31、島成分ポリマー導入流路32、およびパイプ30を設けた上口金板33と、パイプ30の外径と同等、もしくは大きな口径のパイプ挿入孔41を設けた中口金板34と、口金吐出孔42を設けた下口金板35にて構成されている。そこで、易溶出成分の海成分ポリマーは、海成分ポリマー導入流路31から海成分ポリマー分配室40に導かれ、パイプ30の外周を充満するのに対して、難溶出成分の島成分ポリマーは、島成分ポリマー導入流路32からパイプ30に導かれ、パイプ30から吐出することで、両成分のポリマーが合流し、海島複合断面を形成した後、パイプ挿入孔41を経て、口金吐出孔42から複合ポリマー吐出し、海島複合繊維を製造することができると記載されている。
しかしながら、特許文献3のパイプ方式口金の大きな問題点は、1島を製作するのに、パイプ厚みが加算されることから、1つのパイプ当たりの面積が拡大する。また、口金の製作上、パイプ30を上口金板33に圧入し溶接固定していることから、溶接代が必要であり、さらに、パイプ30を挿入するための孔を設けることから、強度上の問題によりパイプ間同士の間隙を狭化できない。そのため、パイプ30を単位面積当たりに密に配置することができず(以降、孔充填密度と呼ぶ)、孔充填密度を大きくできず、糸径がナノオーダーの超極細繊維を製造することが困難である。また、所望の繊維形態を得るためには、複数の複合口金を試作して紡糸評価を幾つか繰り返す必要があるが、この複合口金の構造は非常に複雑であるため、口金の製作に期間や手間、費用が必要となり、この点においても設備費が過大となる問題がある。また、パイプ30が密集して配設されたパイプ群の外周に、海成分ポリマー導入流路31が配設されていることから、パイプ群の中心に海成分ポリマーを十分に供給することが困難となり、特に、パイプ群の中心のパイプ30から吐出された島成分ポリマー同士の合流が発生する場合がある。特に、孔充填密度を大きくするために、パイプ30をより密集して配置すれば、上記問題は、より顕著となる。本発明者らの知見によると、パイプ30のパイプ群の中には、海成分ポリマー導入流路31を自由に配設することは、構造的に困難な場合がある。これは、例えば、パイプ群の中に配設するためには、パイプ30を途中で屈曲させる等をして、海成分ポリマー導入流路31を設ける必要があるため、口金の構造が非常に複雑になり、設備費が過大となる問題がある。
また、パイプ方式口金に類似した例として、図15に示すような、特許文献4の複合口金が開示されている。図15は、特許文献4の複合口金の概略断面図である。図中、25は吐出孔、29は上板、43は突出部を示す。特許文献4は、海成分ポリマー、島成分ポリマーを均一に分配するために、吐出孔25、および島成分吐出孔1の周囲に突出部43を有して、上口金板33の下面と、吐出孔25の周囲に形成された突出部43の上面との間隙、および上板29の下面と、島成分吐出孔1の周囲に形成された突出部43の上面との間隙を狭幅化し、圧損を大きくすることで、ポリマーの分配性を向上させることができると記載されている。また、本発明者らの知見によると、パイプを用いずに、機械加工にて孔を形成していることから、特許文献3のような、口金製作の際のパイプ使用の問題が回避できることから、特許文献3と比べて、孔充填密度を幾分は大きくすることが可能となる。
しかしながら、本発明者らの知見によると、上述の様に、両成分ポリマー分配性に関して、一定の効果は確認できるが、島成分吐出孔1、および海成分吐出孔4の周囲に突出部43を有した構造であることから、孔間ピッチが大きくなり、孔充填密度を大きくできない。これは、特許文献4の実施形態からも明らかであり、島数/1口金当たり=500個、島数/1G当たり=25個、各成分ポリマーの吐出量9g〜21g/(min・口金)と言ったように、太繊度糸を対象としており、近年の超極細糸には対応できない場合がある。また、本発明者らの知見によると、間隙を通過するポリマー通過量が多いため、流路圧損が大きくなり、両成分ポリマーの均一分配は可能となるが、本発明の複合口金が対象とする、ポリマー通過量がごく微量となる超細繊度糸では、流路圧損が大きくできないため、上述のような効果は得られない場合がある。
また、特許文献4に類似した例として、図16に示すような、特許文献5の複合口金が開示されている。図16は、特許文献5の複合口金の概略断面図である。図中、27は放射状溝、28は同心円状溝を示す。特許文献5は、島成分吐出孔1の周囲に放射状溝27や、吐出孔25に周囲に同心円上溝28を形成させることで、海成分ポリマーの分配性を向上させることができると記載されている。
しかしながら、島成分吐出孔1や、吐出孔25の周囲に溝加工を施していることから、孔間ピッチが大きくなり、孔充填密度を大きくできない場合がある。また、口金に複雑な溝加工を行っているため、口金の製作に期間や手間、費用が必要となり、この点においても設備費が過大となる問題がある。
以下、図面を参照しながら、本発明の複合口金の実施形態について詳細に説明する。図6は本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金の概略断面図であり、図1は図6の部分拡大断面図であり、図5は図1のY−Y矢視図であり、図9、図17は本発明の第1の実施形態に用いられる上層板、分配板の概略部分断面図であり、図2は本発明の第2の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図であり、図3は本発明の第3の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図であり、図10は本発明の第1の別の実施形態に用いられる複合口金の部分拡大断面図であり、図4は図3のX−X矢視図であり、図11は図10のZ−Z矢視図であり、図7は本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金と、紡糸パック、冷却装置周辺の概略断面図である。図中、3は中層板、5は下層板、6は分配板、7は分配孔、9は計量板、10は吐出孔、11は吐出導入孔、12は縮小孔、15は紡糸パック、16はスピンブロック、17は冷却装置、18は複合口金、19は上層突出部、20は仮想外接円、21は上層突出部の下面、22は下層板の上面、24は合流室、25は吐出孔、26は仮想内接円をそれぞれ示す。なお、これらは、本発明の要点を正確に伝えるための概念図であり、図を簡略化しており、本発明の複合口金は特に制限されるものでなく、孔および溝の数ならびにその寸法比などは実施の形態に合わせて変更可能なものとする。
本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金18は、図7に示すように、紡糸パック15に装備され、スピンブロック16の中に固定され、複合口金18の直下に冷却装置17が構成される。そこで、複合口金18に導かれた2成分以上のポリマーは、各々、計量板9、分配板6、上層板2、中層板3、下層板5を通過して、吐出板10の口金吐出孔42から吐出された後、冷却装置17により吹き出される気流により冷却され、油剤を付与された後に、マルチフィラメン糸として巻き取られる。なお、図7では、環状内向きに気流を吹き出す環状の冷却装置17を採用しているが、一方向から気流を吹き出す冷却装置を用いてもよい。また、計量板9の上流側に装備する部材に関しては、既存の紡糸パック15にて使用された流路等を用いればよく、特別に専有化する必要が無い。
本発明の第1の実施形態に用いられる複合口金18は、図6に示すように、計量板9と、複数の分配板6、上層板2、中層板3、下層板5、吐出板10を順に積層して構成され、特に、分配板6、上層板2、中層板3、下層板5は薄板にて構成されるのが好ましい。その場合、計量板9と分配板6、および上層板2、中層板3、下層板5と吐出板10は、位置決めピンにより、紡糸パック18の中心位置(芯)が合うように位置決めを行い、積層した後に、ネジ、ボルト等で固定してもよく、熱圧着により金属接合(拡散接合)させてもよい。特に、分配板6同士や、分配板6と上層板2、上層板2と中層板3、中層板3と下層板5は、薄板を使用するため、熱圧着により金属接合(拡散接合)させるのが好ましい。
そこで、図6、および図1に示すように、計量板9より供給された各成分のポリマーは、複数の積層された分配板6の分配溝8、および分配孔7を通過した後、上層板5の島成分ポリマーを吐出するための島成分吐出孔1、および海成分ポリマーを吐出するための海成分吐出孔4より、中層板3の合流室24に吐出することで、島成分ポリマーの外周を海成分ポリマーが囲い込むように合流し、芯鞘型海島複合ポリマー流が形成される。その後、芯鞘型海島複合ポリマー流は、下層板5の吐出孔25を経て、吐出板10の吐出導入孔11、縮小孔12を通過して、口金吐出孔42より吐出される。
まず、本発明の最も重要なポイントである、複合口金18の孔充填密度を大きくしつつ、繊維断面形態を高精度に形成(=島成分ポリマーを均一に分配し、島成分ポリマー同士の合流を防止する)できる原理について説明する。
ここで、孔充填密度を大きくするためには、図12に示すように、上層板2に配設する島成分吐出孔1を密接させ、孔数を可能な限り多く配置しなければいけないが、その場合には、島成分ポリマー同士の合流を防止するために、島成分吐出孔1の周囲に海成分吐出孔4を配置する必要があり、そのため、上層板2に配置できる島成分吐出孔1の孔数が制約される。これは、本発明者らの知見によると、島成分ポリマー同士の合流を防止するためには、上層板2に配設された島成分吐出孔1の孔数と同一か、それ以上の海成分吐出孔4が必要となることが分かっている。例えば、図13に示すように、一個の島成分吐出孔1を基準として、6個の海成分吐出孔4を六方向から囲い込む配列等が挙げられるが、この場合には、島成分吐出孔1の3倍の海成分吐出孔4が必要となる。
つまりは、孔充填密度を大きくするために、島成分吐出孔1の孔数を多く、海成分吐出孔4の孔数を極力少なくした場合には、島成分ポリマー同士の合流が発生し、反対に、島成分ポリマー同士の合流を抑制するために、海成分吐出孔4の孔数を多く、島成分吐出孔1の孔数を少なく配置した場合には、孔充填密度が大きくできないため、島充填密度と島成分ポリマー同士の合流にはトレードオフの関係が発生する。
また、上記に加えて、上層板2に配設された全ての島成分吐出孔1より島成分ポリマーを均一に吐出するためには、島成分吐出孔1や、その上流側において、島成分ポリマーを均一に供給・分配し、且つ計量する機構が必要となる。そこで、例えば、図15に示すように、計量機構として、島成分吐出孔1の周囲に突出部43を有し、間隙を狭化することで、流路圧損を大きくする等が挙げられるが、この場合には、島成分吐出孔1を密接して配設できず、上層板2に配置できる島成分吐出孔1の孔数が制約されて、孔充填密度を大きくできない。更には、上層板2に配設された全ての島成分吐出孔1の周囲に、海成分ポリマーを供給するために、例えば、図16に示すように、海成分ポリマーの分配機構として、島成分吐出孔1の周囲に放射状溝27や、また、吐出孔25の周囲に同心円上溝28を配設する等が挙げられるが、この場合には、島成分吐出孔1や、それに対向する吐出孔25を密接して配設できず、上層板2に配置できる島成分吐出孔1の孔数が制約されて、孔充填密度を大きくできない。
従って、孔充填密度を大きくしつつ、島成分ポリマーを均一に分配し、島成分ポリマー同士の合流を防止することが複合繊維を製造する上で極めて重要な技術となる。そこで、本発明者らは、従来の技術では、何の配慮もされていなかった、上記問題に関して、鋭意検討を重ねた結果、本発明の新たな技術を見出すに至った。 即ち、本発明の第1の実施形態の複合口金18は、図1に示すように、複数の積層された分配板6には、島成分ポリマーと海成分ポリマーを各々分配するための分配孔7および/又は分配溝8が形成され、上層板2には、分配孔7または分配溝8に連通した、1つ以上の海成分吐出孔4と、海成分吐出孔4の孔数よりも多く配置された島成分吐出孔1とが形成され、中層板3には、島成分吐出孔1と海成分吐出孔4とに連通した合流室24が形成され、下層板5には、合流室24に連通した吐出孔25が、島成分吐出孔1と対向した位置に形成されている。そして、ポリマーの紡出経路方向の上端の分配板6の分配孔7、または分配溝8から上層板2の島成分吐出孔1に至る複数のポリマー通流経路において、流路圧損が等しくなるような構造となっている。その場合、分配板6には、分配孔7と分配溝8が形成されていてもよく、この場合には、一枚の分配板6の片側の面には分配孔7が、他方の面には分配溝8が形成され、分配孔7と分配溝8が連通している。また、分配孔7が分配板6を貫通して形成されていてもよく、また、分配溝8が分配板7を貫通して形成されていてもよい。
このような構造とすることで、全ての島成分吐出孔1の周囲に海成分ポリマーが充満している合流室24に島成分ポリマーが吐出されることから、吐出直後に、島成分ポリマーの外周を海成分ポリマーが囲い込み、芯鞘型海島複合ポリマー流を形成した後、吐出孔25に導かれるため、島成分ポリマー同士の合流が発生し難くなる。また、島成分ポリマー同士の合流を防止するために、島成分吐出孔1の周囲に多くの海成分吐出孔4を配置する必要がなく、また、合流室24に海成分ポリマーを供給する海成分吐出孔4の孔数を少なくできるため、島成分吐出孔1を密接して配設することができ、孔充填密度を大きくすることが可能となる。更には、ポリマー紡出経路方向の上端の分配板6から上層板2の島成分吐出孔1に至る複数のポリマー通流経路の流路圧損を等しくすることで、上層板2に配設された全ての島成分吐出孔1から島成分ポリマーを均一に吐出し、島成分ポリマー同士の合流を抑制できる。上記の結果、均一な芯鞘型海島複合ポリマー流を形成し、高精度な繊維断面形態を形成することができる。
ここで、上記の複数のポリマー通流経路の流路圧損を等しくする構造としては、図9に示すように、複数の積層された分配板6において、分配板6に形成された分配孔7の孔数が、ポリマーの紡出経路方向の下流側に向かい増加するように構成し、ポリマーの紡出経路方向にポリマーを導く分配孔7が形成された分配板6と、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向にポリマーを導く分配溝8が形成された分配板6とを交互に積層させて、ポリマーの紡出経路方向の上流側に位置する分配孔7と、ポリマーの紡出経路方向の下流側に位置する分配孔7とを連通するように分配溝8が形成されている。そこで、一つの分配孔7に対して、そのポリマー紡出経路方向の下流側の位置に連通する一つの分配溝8を形成し、その分配溝8の端部に連通する複数個(図9では二つ)の分配孔7を構成するトーナメント方式のポリマーの通流経路が形成されている。このトーナメント方式のポリマーの通流経路路では、ポリマー紡出経路方向の上端に位置する分配板6の分配孔7、または分配溝8から上層板2の島成分吐出孔1に至る経路長が等しくなっている。そして、複数の積層された分配板6において、各々の分配板6においては、分配孔7の孔径、分配溝8の溝幅、溝深さ、溝長を等しくした構造となっている。この場合、ポリマーの紡出経路方向の上流側に向い、トーナメント流路の数が減少するに伴って、分配溝8や、分配孔7を通過するポリマーの流量が順次大きくなり、流路圧損が大きくなるため、それに合わせて、分配孔7の孔径や、分配溝8の溝幅、溝深さを順次大きくし、流路圧損の増大を抑制するのが好ましい。また、図9に示すように、一つの分配溝8が、ポリマーの紡出経路方向の下流側に対して、二つの分配孔7に連通する2分岐のトーナメント方式のポリマーの通流経路が好適であるが、これに限定はしない。分配溝8が二つ以上の分配孔7に連通する場合(2分岐以上のトーナメント方式の流路の場合)は、ポリマー紡出経路方向の上流側の分配孔7から、下流側の分配孔7に至る分配溝8の溝長、溝幅、溝深さをそれぞれ等しくすることで、各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくするのがよい。また、分配溝8の端部に分配孔7を配設することで、ポリマーの異常滞留を無くし、ポリマーの分配性が高く、精密に制御できる利点を有する。
ここで、その他の各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくする構造としては、分配孔7および分配溝8によって形成された分配板6内部の複数のポリマー通流経路について、分配板6の上端から下端(上層板2の海成分吐出孔4)に至るまでのポリマー通流経路の長さが相対的に長い経路における分配孔6の孔径を、相対的に短い経路における分配孔6の孔径より大きくすることが挙げられ、これにより流路圧損を均等にすることが可能となる。
また、その他の各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくする構造としては、図17に示すように、一つの分配溝8が、ポリマー紡出経路方向の下流側に対して、複数個の分配孔7に連通し、また、ポリマー紡出経路方向の上流側に対しても、複数個の分配孔7に連通していてもよい。この場合、分配溝8の中央部に連通した分配孔7と、端部に連通した分配孔7を通過するポリマーの流量を等しくするために、中央部と比較して、端部に位置する分配孔7の孔径を大きくすることで、流路圧損を均等にすることが可能となる。
また、その他の各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくする構造としては、上層板2の島成分吐出孔1の孔径を、その上流側の分配板6の各流路における流路圧損差を等しくするように調整する構造が挙げられる。具体的には、流路圧損が大きな流路に連通する島成分吐出孔1の孔径を大きくし、流路圧損が小さな上流側の流路に連通する島成分吐出孔1を小さくすることで、流路圧損を等しくすることが可能となる。
また、上記の様な、合流室24に分配される島成分ポリマーの均一化だけでなく、海成分ポリマーの分配も同様の構造であってもよい。つまりは、ポリマー紡出経路方向の上端に位置する分配板6の分配孔7、または分配溝8から上層板2の海成分吐出孔4に至る流路圧損を等しくし、合流室24に分配される海成分ポリマーを均一化することで、均一な芯鞘型海島複合ポリマー流を形成でき、それにより、高精度な繊維断面形態を形成することができる。
次に、分配板6、上層板2、中層板3、下層板5の作製方法としては、通常電気・電子部品の加工に用いられるエッチング加工が好適である。ここで、エッチング加工とは、エッチング液などの化学薬品による化学反応・腐食作用を応用して薄板を食刻(溶解加工・化学切削)する加工方法であり、目的とする加工形状にマスキング(必要な部分表面を部分的に被覆保護すること)による防食処理を施した上で、エッチング液などの腐食剤によって不要部分を除去することで目的の加工形状を非常に高精度に得ることができる。これを用いることにより、機械加工等を用いた際に発生する熱歪みの懸念が無く、特に、上層板2においては、隣り合う島成分吐出孔1間の距離が近接化でき、下層板5においても、隣り合う吐出孔25間の距離を近接化できるため、孔充填密度をより大きくすることが可能となる。ここで、エッチング加工に用いられる薄板の板厚みは、具体的には、0.01〜1mm範囲となるのがよく、更には、0.1〜0.5mmの範囲となるのが好適である。また、他の作製方法としては、従来の口金作製で用いられるドリル加工や金属精密加工である旋盤、マニシング、プレス、レーザー加工等を用いることも可能である。但し、これらの加工は被加工物の歪抑制という観点から、加工板の厚みに制約があるため、複数の分配板を積層させる本発明の複合口金に適用するには板厚みを考慮する必要がある。
そこで、エッチング加工にて形成された島成分吐出孔1の中で最小となる孔の直径DMINと、その最小孔が形成された上層板2の板厚みBTが、式(1)の式を満たすことで、孔充填密度をより大きくすることができる。また、分配溝8が形成されている場合には、溝幅をDMINとし、分配板6の板厚みBTとが、式(1)を満たすことで、上記と同様に、孔充填密度をより大きくすることができる。
BT/DMIN≦2 ・・・(1)
ここで、BT/DMIN>2の場合には、上記の通り、孔充填密度をより大きくすることが可能であるが、更に、孔の加工精度を高め、島成分ポリマーの吐出斑を最小化しようとすると、式(1)を満たすことがより好ましい。
また、本発明における上層板2は、図5に示すように、孔群を形成した島成分吐出孔1の周囲に海成分吐出孔4が配設されている。これにより、島成分吐出孔1を密集して配設し、孔充填密度を大きくすることができる。この場合、孔群を形成した島成分吐出孔1は、周期性を持って配設されているのが好適であるが、非周期に配設されていてもよい。また、島成分吐出孔1の周囲に配設された海成分吐出孔4は、孔群の全周を取り囲む様に配設するのが好適であるが、その限りではない。例えば、孔群が矩形の場合には、対向する二つの側面にのみ海成分吐出孔4を配設しても良い。
また、図11に示すように、上層板2に配設された島成分吐出孔1が孔群を形成する領域内(図11では、5行×4列の孔群領域)において、海成分吐出孔4を配設してもよい。この場合、図5に示すような島成分吐出孔1の孔配列と比較すると、孔充填密度は若干低くなるが、海成分吐出孔4を配設することで、孔群領域の中心部に海成分ポリマーを供給することも可能となる。これにより、孔群領域内の全ての島成分吐出孔1において、島成分ポリマーの外周を囲い込むように、海成分ポリマーを供給することができる。このように、島成分吐出孔1の孔群領域内に海成分吐出孔4を配設するには、図10に示すように、分配孔7や、分配溝8が形成された分配板6を積層させ、島成分吐出孔1の領域内に海成分吐出孔4に連通する流路を形成することで可能となる。本発明の複合口金は、分配板6を複数枚用いて流路を形成することから、流路の自由度が高く、必要な位置に必要な数、島成分吐出孔1、および海成分吐出孔4を配設することができる。よって、上記の様に、ポリマー物性、および紡糸条件等に合わせた、島成分吐出孔1、および海成分吐出孔4の孔配置を適宜決定すればよい。
次に、図2、図3、図4に示す本発明の別の実施形態について説明する。図2に示す本発明の第2の実施形態は、上層板2と中層板3が同一の薄板で構成されている。この実施形態では、予め1枚の薄板に合流室24、および島成分吐出孔1、海成分吐出孔4をエッチング加工にて形成することで、積層する薄板の枚数を削減し、その結果、複合口金の製造コストを抑えることが可能となる。但し、エッチング加工の際に、薄板に形成する孔や、溝の加工精度が悪化する場合があるため、事前に加工精度を確認し、板厚み、孔径、溝幅等を決定するのが好ましい。また、明細書では省略したが、中層板3と下層板5が同一の薄板で構成されていても良く、この場合、上記と同様の特徴を有する。
また、図3、図4に示す本発明の第3の実施形態は、島成分吐出孔1を中心とした周囲に、上層板2の下面よりもポリマーの紡出経路方向の下流側に突出した上層突出部19を有しており、上層突出部19の外周形状よりも大きな仮想外接円20と、上層突出部19の外周形状よりも小さな仮想内接円26とを持つ吐出孔25が形成され、上層突出部19の下面21が、下層板5の上面22と、同一、またはポリマーの紡出経路方向の下方に配設され、上層突出部19の端部周りに海成分ポリマーを供給する外端部孔44が形成されている。ここで、上層突出部19の下面21と、下層板5の上面22とが同一面の場合は、金属圧着により拡散接合されているのが好適である。
これにより、吐出孔25において、島成分ポリマーがポリマーの紡出経路方向の下流側に向かって吐出され、海成分ポリマーが、上層突出部19の端部周りの外端部孔44よりポリマーの紡出経路方向の下流側に向かって吐出され、その後、島成分ポリマーの外周を海成分ポリマーが囲い込むように合流し、芯鞘複合ポリマー流が形成され、ポリマーの紡出経路方向の下流側に導かれる。よって、本発明の第1の実施形態において、高精度な島成分ポリマーの断面形態が形成できるが、本発明の第3の実施形態とすることで、島成分ポリマーと海成分ポリマー、そして芯鞘複合ポリマー流を全て同じ方向に形成し、ポリマー流の不必要な衝突を回避し、ポリマー流乱れを抑制できることから、より高精度な島成分ポリマーの断面形態を形成し、この断面形態を高い寸法安定性で維持することができる。また、本発明の第1の実施形態において、薄板を多層に構成し、圧着することにより、分配板の強度向上が可能であるが、本発明の第3の実施形態において、上層突出部19の下面21と、下層板5の上面22を同一面で接合することにより、更に、薄板の強度が向上し、撓み等を抑制することができ、撓みによるポリマー分配不良を抑制することができる。また、島成分吐出孔1のポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面を丸形状、吐出孔25のポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面を異形状とすることにより、得られる島成分断面を異形状とすることができる。例えば、図4に示すように、島成分吐出孔1を丸形状、吐出孔25を十字の形状とすることで、得られる島成分断面は十字となる。このように、所望の島成分断面形状に合わせて、島成分吐出孔1、吐出孔25の断面形状を適宜決定すればよい。また、明細書では省略したが、島成分吐出孔1を十字、吐出孔25を丸形成として構成されていても良く、この場合、上記と同様の特徴を有する。
また、本発明の複合繊維の製造方法としては、図6に示すように、本発明の計量板9、分配板6、上層板2、中層板3、下層板5、吐出板10から構成される複合口金18を用いて、溶融紡糸を行うことで、芯鞘複合繊維を得ることができる。
次に、図1、図2、図3に示した本発明の実施形態の複合口金18に共通した各部材、各部材の形状について詳細に説明する。
本発明における複合口金18は、円形状に限定されず、四角形であってもよく、多角形であってもよい。また、複合口金18における口金吐出孔42の配列は、マルチフィラメント糸の本数、糸条数、冷却装置17に応じて、適宜決定すればよい。冷却装置17として、環状の冷却装置では、口金吐出孔42を一列、もしくは複数列に渡り環状に配列するのがよく、また、一方向の冷却装置では、口金吐出孔42を千鳥に配列するのがよい。
また、口金吐出孔42のポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、丸形以外の断面状や中空断面状であってもよい。但し、丸形状以外の断面形状とする場合は、ポリマーの計量性を確保するために、口金吐出孔42の長さを大きくするのが好ましい。また、本発明における島成分吐出孔1は、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、丸形以外の断面状であってもよい。島成分吐出孔1が丸形以外の断面状の場合には、その直上に連通して丸形断面状の分配孔7を配置することで、直上の丸形断面の分配孔7にてポリマーの計量性を確保した後、丸形以外の断面形状の島成分吐出孔1にて島成分ポリマーを吐出するのが好ましい。また、本発明における海成分吐出孔4は、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、丸形以外の断面状であってもよい。
次に、本発明の複合口金によって得られる繊維とは、2種類以上のポリマーが組み合わされた繊維のことを意味し、繊維横断面において2種類以上のポリマーが海島状等の形態をとって存在している繊維のことを言う。ここで、本発明で言う2種類以上のポリマーとは、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等々の分子構造が異なるポリマーを2種類以上使用するということが含まれるのは言うまでもないが、製糸安定性等を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色顔料、表面改質剤等の各種機能性粒子や有機化合物等の添加剤や粒子の添加量が異なること、また、分子量が異なること、あるいは、共重合がなされている等などが含まれる。
また、本発明の複合口金18によって得られる繊維の単糸断面は、丸形状はもとより、三角、扁平等の丸形以外の形状や中空であってもよい。また、本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、複合繊維の単糸繊度により特に限られるものではなく、複合繊維の単糸数により特に限られるものではなく、さらに、複合繊維の糸条数により特に限られるものでも無く、1糸条であってもよく、2糸条以上の多糸条であってもよい。
本発明の複合口金によって得られる海島複合繊維とは、図8(a)に示すように、異なる2種類以上のポリマーが繊維軸方向に垂直な断面において、海島構造(ここで言う海島構造とは、島成分ポリマー13で構成されている島部分が、海成分ポリマー14で構成されている海部分により複数に区別されている構造)が形成されている繊維を言う。その場合、島部分の断面形状に制約はなく、島成分吐出孔1の断面形状によって島部分の断面形状が制御され、また、島成分吐出孔1と吐出孔25の断面形状の組合せによって島部分の断面形状が制御される。また、易溶出成分である海成分ポリマー14を溶出することにより、いわゆる極細繊維だけでなく、分割繊維等も得ることができる。また、図8(b)に示すように、島成分吐出孔1を丸形状とし、吐出孔25を星型とする、または、島成分吐出孔1を星型、吐出孔25を丸形状とすることで、島部分の形状を星形にすることができる。また、図8(c)に示すように、海島複合繊維の島部分を2種類の島成分ポリマー13(c)、島成分ポリマー13(d)で構成することで、芯鞘複合繊維を得ることができる。芯鞘複合繊維とは、異なる2成分以上のポリマーが繊維軸方向に垂直な断面において、芯成分を鞘成分が被覆するように構成しているものである。この芯鞘複合繊維の製造方法としては、本明細書の図には記載していないが、下層板5の吐出孔25で得られた複合芯鞘成分ポリマー流を取り囲む、3成分目のポリマーを吐出する分配板を積層することで、多重芯鞘繊維とすることができる。また、島成分の個数に関しては、理論的には2島からスペースの許す範囲で無限に作製することは可能であるが、実質的に実施可能な範囲として2〜60000島が好ましい範囲である。本発明の複合口金の優位性を得る範囲としては1000〜30000島がさらに好ましい範囲である。
また、本発明においては、孔充填密度が1孔/mm2以上であることが好ましい。孔充填密度が1孔/mm2以上であれば、従来の複合口金技術との差異がより明確となる。本発明者らが検討した範囲では、孔充填密度は1〜15孔/mm2の範囲であれば実施可能であった。この孔充填密度という観点では、本発明の複合口金の優位性が得られる範囲としては1〜15孔/mm2が好ましい範囲である。
また、本発明における海島複合繊維は、海成分ポリマーを溶出することで、単独紡糸では得ることができない非常に縮小された極細繊維として、繊維径が10〜1000nm、かつ繊維径バラツキを表す繊維径CV%が0.1〜30%の均一性の優れた長繊維型ナノファイバーを作製することができる。この長繊維型ナノファイバーは、シート状物とすることで、磁気記録ディスクなどに用いるアルミニウム合金基板やガラス基板を超高精度の仕上げ加工を施すのに好適に用いることができる。また、他の用途として、あえて一部の島を合流させ、繊維径分布を自由に制御したシート状物も作製可能である。
以上のように、本発明の複合口金18で製造可能な複合形態を従来公知の断面形態を例示して説明したが、本発明の複合口金18においては、断面形態を任意に制御することができるため、形態にとらわれることなく、自由な形態を作製することができる。
また、本発明の複合繊維の強度は、強度は2cN/dtex以上が好ましく、産業資材用途で必要とされる力学的特性を考えれば、5cN/dtex以上であることが好ましい。現実的な上限としては20cN/dtexである。また、伸度は延伸糸で2〜60%、特に高強度が必要とされる産業資材分野では2〜25%、衣料用では25〜60%とすることが好ましい。また、本発明の複合繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布、紙、液体分散体など多用な繊維製品とすることができる。
以下実施例を挙げて、本発明の複合口金の効果を具体的に説明する。各実施例、比較例では、本発明の複合口金を使用して海島型複合繊維を紡糸し、下記の通り、島成分ポリマーの合流有無を判定した。なお、実施例1,2,4および5は参考例である。
(1)海島型複合繊維の島成分の析出
海島型複合繊維から島成分を析出するために、易溶出成分の海成分が溶出可能な溶液などに複合繊維を浸漬して除去し、難溶出成分の島成分の繊維を得た。易溶出成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが共重合された共重合PETやポリ乳酸(PLA)等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いた。また、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めることができるため、また、流体染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をすることができる。
(2)島成分ポリマーの合流有無
極細繊維からなるマルチフィラメントをエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)キーエンス製 VE−7800型走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率5000倍で撮影した。上記で撮影した断面写真より、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、得られた繊維の全島数を測定し、全島数を全吐出孔数(最下層板に配設された吐出孔と近接吐出孔の合計)で除した値が1であれば、島成分ポリマー同士の合流は無く(合流無し)、1未満であれば、島成分ポリマー同士の合流は有り(合流有り)とした。また、断面形態の経時的な変化を評価するために、紡糸開始時より72時間連続して紡糸を行い、この72時間後の海島型複合繊維の断面も同様の方法で撮影し、島成分ポリマー同士の合流有無を判別した。
(3)極細繊維の繊維径および繊維径バラツキ(CV%)
前述した繊維径および繊維径バラツキと同様の方法で、極細繊維の断面を撮影し、得られた写真から無作為に選定した150本の極細繊維を抽出し、写真について画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての外接円径(繊維径)を測定し、平均繊維径および繊維径標準偏差を求めた。これらの結果から下記式に基づき繊維径CV%を算出した。以上の値は全て3ヶ所の各写真について測定を行い、3ヶ所の平均値とし、nm単位で小数点1桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入する。
繊維径バラツキ(CV%)=(繊維径標準偏差/平均繊維径)×100
(4)極限粘度[η]
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
[実施例1]
島成分として、極限粘度[η]0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)と、海成分ポリマーとして、極限粘度[η]0.58の5−ナトリウムスルホイソフタル酸5.0モル%共重合したPET(共重合PET)を285℃で別々に溶融後、計量し、図6に示した本発明の複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、口金吐出孔から芯鞘型海島複合ポリマー流を吐出した。なお、下層板には、島成分ポリマー用として、1つの吐出導入孔に対して、1800の島成分吐出孔が等間隔に穿孔されている。海/島成分の複合比は、30/70とし、吐出された複合ポリマー流を冷却固化後油剤付与し、紡糸速度1500m/minで巻き取り、150dtex−15フィラメント(単孔吐出量2.25g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラ間で3.0倍延伸を行い、50dtex−15フィラメントの延伸繊維とし、前述した方法で、海成分を99%以上溶解し、27000本の極細繊維からなるマルチフィラメントを採取した。
ここで、実施例1に用いた複合口金は、図9に示すように、分配孔が穿孔された分配板と、分配溝が穿孔された分配板を交互に積層することで、2分岐となるトーナメント方式の流路を形成し、その下流側に上層板、中層板、下層板が順に積層されている。これらの板厚み0.1mm、孔直径0.2mm、溝幅0.3mm、溝深さ0.1mm、最小孔間ピッチ0.4mmにて穿孔されている。そして、1枚の分配板に穿孔されている分配溝の溝長は等しくすることで、上端の分配孔から島成分吐出孔至るポリマーの通流経路の流路圧損が均等になるようにしている。表1に記載のとおり、紡糸開始時、および72時間経過後共に、島成分ポリマーの合流は無く、また、繊維径バラツキは、紡糸開始時5.8%、72時間経過後5.9%となった。
[実施例2]
図11に示すように、上層板に穿孔された島成分吐出孔の孔群の領域内の一部に海成分吐出孔を穿孔する以外は実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、吐出比、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して海島型複合繊維を製造した。表1に記載のとおり、紡糸開始時、72時間経過後共に、島成分ポリマーの合流は無く、また、繊維径バラツキは、紡糸開始時、および72時間経過後共に、4.5%となった。
[実施例3]
図3に示すように、上層板には上層突出部を形成し、上層突出部の端部周りに海成分ポリマーを供給する外端部孔が形成された複合口金を用いて、実施例1の同等のポリマー、吐出比、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して海島型複合繊維を製造した。
ここで、実施例3に用いた複合口金は、図4に示すように、島成分吐出孔は丸形状、吐出孔は十字形状となるように穿孔されており、上層突出部の下面と、下層板の上面の一部は拡散接合により圧着固定され、そして、非圧着部の外端部孔から、海成分ポリマーが供給されている。表1に記載のとおり、紡糸開始時、および72時間経過後共に、島成分ポリマーの合流は無く、得られた島成分断面は、十字型となった。また、繊維径バラツキは、紡糸開始時7.2%、72時間経過後7.3%となった。
[実施例4]
1枚の分配板に穿孔されている分配溝の最長長さと最短長さとの比が1.2(分配溝長さが同じ場合は1.0)である以外は、実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、吐出比、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して海島型複合繊維を製造した。表1に記載のとおり、紡糸開始時、72時間経過後共に、島成分ポリマーの合流は無く、また、繊維径バラツキは、紡糸開始時9.5%、および72時間経過後共9.6%となった。
[実施例5]
1枚の分配板に穿孔されている分配溝の最長長さと最短長さとの比が1.5(分配溝長さが同じ場合は1.0)である以外は、実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、吐出比、同等の繊度、紡糸条件で紡糸して海島型複合繊維を製造した。表1に記載のとおり、紡糸開始時、72時間経過後共に、島成分ポリマーの合流は無く、また、繊維径バラツキは、紡糸開始時10.2%、および72時間経過後共10.6%となった。
[比較例1]
分配板が無く、計量板に配設された孔が、上層板の海成分吐出孔、および島成分吐出孔に連通している以外は実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、吐出比、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し海島型複合繊維を製造した。表1に記載のとおり、紡糸開始時、72時間経過後共に、島成分ポリマーの合流が発生し、また、繊維径バラツキは、紡糸開始時22.1%、72時間経過後24%となり、繊維所望の断面の複合繊維を得ることができなかった。