ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は、力学特性や寸法安定性に優れるため、用途が多様化し、様々な機能性を付与した繊維が数多く開発されるようになった。
例えば、衣料用途では、ソフトな風合い等を付与する狙いで単糸細繊度化・多フィラメント化や、吸水・速乾性の向上や光沢感を変更する等の狙いで単糸異形断面化、また、鮮明性に優れた染色の実現等の新たな機能性付与の狙いでポリマーを改質する等の改良が行われている。また、産業資材用途では、同様に単糸細繊度化・多フィラメント化や単糸異形断面化の他、高強度化、高弾性化や、耐候性、難燃性等の新たな機能性付与を狙ったポリマーの改質等の改良が行われている。さらに、上記改良に加えて、2種類以上のポリマーを組み合わせることによって、単一成分のポリマーでは不十分な性能を補完したり、また、全く新しい機能を付与する複合繊維の開発も盛んに行われている。
この複合繊維には、複合口金を用いて得られる芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型繊維と、ポリマー同士を溶融混練することで得られるアロイ型や、海島型繊維がある。芯鞘型は、芯成分を鞘成分が被覆することで、単独繊維では達成されない風合い、嵩高性などといった感性的効果、また、強度、弾性率、耐摩耗性などといった力学特性の付与が可能となる。また、サイドバイサイド型では、単独繊維では不可能であった捲縮性を発現させ、ストレッチ性等を付与することが可能となる。
そして、海島型では、溶融紡糸した後に易溶出成分(海成分)を溶出することにより、難溶出成分(島成分)だけが残存し、単繊維の糸径がナノオーダーの極細繊維を得ることが可能となる。このような極細繊維になると、衣料用途では、一般の繊維では得ることができない柔軟なタッチやきめ細やかさが発現し、人工皮革や新感触テキスタイル等に適用でき、また、繊維間隔が緻密となることから、高密度織物として、防風性、撥水性が必要とされるスポーツ衣料用途にも展開できる。また、産業資材用途では、比表面積が増大し、塵埃捕集性が高まることによる高性能フィルタ等への適用や、また、極細繊維が微細な溝に入りこみ、汚れを拭き取ることによる精密機器などのワイピングクロスや、精密研磨布等にも適用が可能となる。
なお、複合口金により複合繊維を製造する手法を、一般的に、複合紡糸法と言い、ポリマー同士の溶融混練にて製造する手法を、ポリマーアロイ法と言う。上述のような極細繊維を製造するには、ポリマーアロイ法でも可能であるが、繊維径の制御には限界があり、均一、均質な極細繊維を得るのが困難である。それに対して、複合紡糸法は、複合口金で複合ポリマー流を精密に制御し、特に、糸の走行方向において高精度な糸断面形態を均一、均質に形成できる点においては、ポリマーアロイ法よりも優位性が高いと考えられている。当然のことながら、この複合紡糸法における複合口金技術が、安定的に糸断面形態を決定する上で極めて重要であり、従来から、様々な提案が行われている。
例えば、特許文献1では、図12に示すような複合口金が開示されている。図12の(b)は特許文献1の複合口金の平面図であり、図12の(a)は(b)の部分拡大平面図である。図中、黒丸の1は島成分ポリマーを吐出する島成分吐出孔、白丸の4は海成分ポリマーを吐出する海成分吐出孔、5は最下層分配板、8は分配溝をそれぞれ示す。以下、各図面において、説明済みの図に対応する部材が存在する場合は、同じ参照符号を用いて説明を省略することがある。特許文献1は、分配板を複数枚重ね、その分配板の最下層に、分配溝8、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4を設けた最下層分配板5を配設し、分配板により難溶出成分の島成分ポリマーと、易溶出成分の海成分ポリマーを予め多数に分配した後、最下層分配板5の島成分吐出孔1と海成分吐出孔4より両成分のポリマーを各々吐出し、吐出直後に複合化させることで海島型の複合繊維を製造できることが記載されている。また、この複合口金を用いることで、島形状が六角形断面(ハニカム形状)となる、61個の均斉に分配された複合繊維を製造できることが記載されている。なお、この複合口金は、一般的には、分配板方式口金と呼ばれている。
しかしながら、特許文献1の複合口金では、最下層分配板5の同一面に島成分吐出孔1と海成分吐出孔4を配置するために、島成分吐出孔1を多く配置できずに、孔充填密度が大きくできず、その結果、ナノオーダーの極細繊維を得られない場合がある。特に、島成分ポリマー同士の合流を防止するために、一つの島成分吐出孔1の周囲に複数の海成分吐出孔4を配置していることから、最下層分配板5には、島成分吐出孔1より多い孔数の海成分吐出孔4が配置されているため、島成分吐出孔1を配置する箇所が限定されて、島成分吐出孔1の孔数を多くできない場合がある。これは、実施例に記載されている通り、得られる繊維が0.06デニール(繊維径試算:約φ2.5μm)と、繊維径がミクロンサイズであり、ナノオーダーには至っていない。そこで、島成分吐出孔1を多く配置しようとすると、複合口金が大型化し、繊維分野の多錘型の紡糸設備では生産性、操業性が好ましくない問題が生じる場合がある。また、本発明者らの知見によると、孔群の配設パターンとして、島成分吐出孔1の周囲に六角形を形成するように海成分吐出孔4を配設することで、島形状は六角形断面となるが、それ以外の孔群の配設パターンは提示されておらず、多種な島形状を有する海島型の複合繊維を得ることができない場合がある。
また、特許文献1と別の孔配設パターンとして、図9、図10が開示されている。図9、図10は、特許文献5の複合口金の部分拡大平面図である。本発明者らの知見によると、特許文献5は、島成分吐出孔1の周囲に、海成分吐出孔4を3等配、もしくは4等配に配設したパターンであり、一見、島成分が多角形となる海島型の複合繊維が得られそうであるが、実際は、島成分ポリマー同士の合流が発生する場合があり、特に、島成分ポリマーの比率を大きくした場合により顕著となる。
また、特許文献2では、図13に示すような複合口金が開示されている。図13は、特許文献2の複合口金の概略断面図である。図中、10は吐出板、42は口金吐出孔、43は多層板、44は分割板、45は配列板をそれぞれ示す。特許文献2は、多層板43、分割板44、配列板45、吐出板10を順に積層して構成され、上流側から流入した海成分ポリマーと島成分ポリマーを多層化し、部分的に分割した上で、それを並べ替え、更に分割を繰り返すことで、多数の島成分を有する海島複合流へと変化させて、最終的に口金吐出孔42から吐出することで、海島型の複合繊維を製造できることが記載されている。そして、島成分ポリマーを溶解し、得られる極細繊維は、長時間の紡糸においても海島構造に乱れが無く、島形状は円形で太さが均一であり、繊維径がナノオーダーに到達可能であることが記載されている。
しかしながら、特許文献2の複合口金を用いて得られる極細繊維の島形状は、円形か、それに類似した楕円形状に限定されるため、複雑な形状、例えば多角形となる島形状を有する極細繊維を得ることができない場合がある。また、特許文献2では、理論島数に対して、実際の島数のバラツキ((最大島数−最小島数)/平均島数×100[%])が±20%の範囲となることから、高精密な島数の制御ができない場合がある。また、使用できる海成分ポリマーの種類が、ポリエチレン、ポリスチレンに限定されており、多種多様なポリマー(ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン等々の分子構造が異なるポリマー)を使用できない場合がある。
また、特許文献3では、図14に示すような複合口金が開示されている。図14は特許文献3の複合口金の概略断面図である。図中、30はパイプ、31は海成分ポリマー導入流路、32は島成分ポリマー導入流路、33は上口金板、34は中口金板、35は下口金板、40は海成分ポリマー分配室、41はパイプ挿入孔をそれぞれ示す。特許文献3は、一般的にパイプ方式口金として知られており、海成分ポリマー導入流路31、島成分ポリマー導入流路32、およびパイプ30を設けた上口金板33と、パイプ30の外径と同等、もしくは大きな口径のパイプ挿入孔41を設けた中口金板34と、口金吐出孔42を設けた下口金板35にて構成されている。そこで、易溶出成分の海成分ポリマーは、海成分ポリマー導入流路31から海成分ポリマー分配室40に導かれ、パイプ30の外周を充満するのに対して、難溶出成分の島成分ポリマーは、島成分ポリマー導入流路32からパイプ30に導かれ、パイプ30から吐出することで、両成分のポリマーが合流し、海島複合断面を形成した後、パイプ挿入孔41を経て、口金吐出孔42から複合ポリマー吐出し、海島型の複合繊維を製造することができると記載されている。
しかしながら、特許文献3のパイプ方式口金の大きな問題点は、1島を製作するのに、パイプ厚みが加算されることから、1つのパイプ当たりの面積が拡大する。また、口金の製作上、パイプ30を上口金板33に圧入し溶接固定していることから、溶接代が必要であり、さらに、パイプ30を挿入するための孔を設けることから、強度上の問題によりパイプ間同士の間隙を狭化できない。そのため、パイプ30を単位面積当たりに密に配置することができず、繊維径がナノオーダーの超極細繊維を製造することが困難な場合がある。また、円筒状のパイプ30を使用するため、得られる島形状は、円形か、それに類似した楕円形状に限定されるため、複雑な形状、例えば多角形となる島形状を有する海島型の複合繊維を得ることができない場合がある。
また、所望の繊維形態を得るためには、複数の複合口金を試作して紡糸評価を幾つか繰り返す必要があるが、この複合口金の構造は非常に複雑であるため、口金の製作に期間や手間、費用が必要となり、この点においても設備費が過大となる問題がある。また、パイプ30が密集して配設されたパイプ群の外周に、海成分ポリマー導入流路31が配設されていることから、パイプ群の中心に海成分ポリマーを十分に供給することが困難となり、特に、パイプ群の中心のパイプ30から吐出された島成分ポリマー同士の合流が発生する場合がある。特に、孔充填密度を大きくするために、パイプ30をより密集して配置すれば、上記問題は、より顕著となる。本発明者らの知見によると、パイプ30のパイプ群の中には、海成分ポリマー導入流路31を自由に配設することは、構造的に困難な場合がある。これは、例えば、パイプ群の中に配設するためには、パイプ30を途中で屈曲させる等をして、海成分ポリマー導入流路31を設ける必要があるため、口金の構造が非常に複雑になり、設備費が過大となる問題がある。
また、パイプ方式口金に類似した例として、図15に示すような、特許文献4の複合口金が開示されている。図15は、特許文献4の複合口金の概略断面図である。図中、25は吐出孔、27は放射状溝、28は同心円状溝を示す。特許文献4は、島成分吐出孔1の周囲に放射状溝27や、吐出孔25に周囲に同心円上溝28を形成させることで、海成分ポリマーの分配性を向上させ、海成分ポリマー比率が少ない場合であっても、島成分同士の合流を抑制した海島型複合繊維を得ることができると記載されている。また、本発明者らの知見によると、パイプを用いずに、機械加工にて孔を形成していることから、特許文献3のような、口金製作の際のパイプ使用の問題が回避できることから、特許文献3と比べて、孔充填密度を幾分は大きくすることが可能となる。
しかしながら、島成分吐出孔1や、吐出孔25の周囲に溝加工を施していることから、孔間ピッチが大きくなり、孔充填密度を充分には大きくできず、繊維径がナノオーダーの超極細繊維を製造することが困難な場合がある。これは、実施例に記載されている通り、得られる繊維の最小径が1μmであることから、ナノオーダーには到達できていない。また、口金に複雑な溝加工を行っているため、口金の製作に期間や手間、費用が必要となり、この点においても設備費が過大となる問題がある。
以下、図面を参照しながら、本発明の複合口金の実施形態について詳細に説明する。図5は、本発明の実施形態に用いられる複合口金の概略断面図であり、図7は図5のX−X矢視図であり、図1は図7の部分拡大平面図であり、図2、図3、図4、図16、図18、図19は本発明の別の実施形態に用いられる最下層分配板の部分拡大平面図であり、図6は本発明の実施形態に用いられる複合口金と、紡糸パック、冷却装置周辺の概略断面図、図17は本発明の実施形態に用いられる分配板、最下層分配板の概略部分断面図である。なお、これらは、本発明の要点を正確に伝えるための概念図であり、図を簡略化しており、本発明の複合口金は特に制限されるものでなく、孔および溝の数ならびにその寸法比などは実施の形態に合わせて変更可能なものとする。
本発明の実施形態に用いられる複合口金18は、図6に示すように、紡糸パック15に装備され、スピンブロック16の中に固定され、複合口金18の直下に冷却装置17が構成される。そこで、複合口金18に導かれた2成分以上のポリマーは、各々、計量板9、分配板6、最下層分配板5を通過して、吐出板10の口金吐出孔42から吐出された後、冷却装置17により吹き出される気流により冷却され、油剤を付与された後に、海島型複合繊維として巻き取られる。なお、図6では、環状内向きに気流を吹き出す環状の冷却装置17を採用しているが、一方向から気流を吹き出す冷却装置を用いてもよい。また、計量板9の上流側に装備する部材に関しては、既存の紡糸パック15にて使用された流路等を用いればよく、特別に専有化する必要が無い。
本発明の実施形態に用いられる複合口金18は、図5に示すように、計量板9と、少なくとも1枚以上の分配板6、最下層分配板5、吐出板10を順に積層して構成され、特に、分配板6と最下層分配板5は薄板にて構成されるのが好ましい。その場合、計量板9と分配板6、および最下層分配板5と吐出板10は、位置決めピンにより、紡糸パック18の中心位置(芯)が合うように位置決めを行い、積層した後に、ネジ、ボルト等で固定してもよく、熱圧着により金属接合(拡散接合)させてもよい。特に、分配板6同士や、分配板6と最下層分配板5は、薄板を使用するため、熱圧着により金属接合(拡散接合)させるのが好ましい。
ここで、薄板の板厚みは、0.01〜0.5mmの範囲とするのが良く、更には、0.05〜0.3mmの範囲となるのが好適である。薄板の板厚みを薄くすることで、加工できる孔の孔径や溝幅、そして孔間、溝間ピッチを小さくでき、孔充填密度を大きくできる利点を有する。具体的には、島成分吐出孔1の中で最小となる孔の直径DMINと、その最小孔が形成された最下層分配板5の板厚みBTが、式(6)の式を満たすことで、孔充填密度をより大きくすることができる。また、分配溝8が形成されている場合には、溝幅をDMINとし、分配板6の板厚みBTとが、式(6)を満たすことで、上記と同様に、孔充填密度をより大きくすることができる。
BT/DMIN≦2 ・・・(6)
ここで、BT/DMIN>2の場合には、上記の通り、孔充填密度をより大きくすることが可能であるが、更に、島成分ポリマーの吐出斑を最小化しようとすると、式(6)を満たすことがより好ましい。
但し、分配板6、最下層分配板5の板厚みを0.01〜0.5mmの範囲の中において、薄くすると、薄板の強度が低下し、撓みが発生し易くなるため、使用できるポリマーの種類が制限される場合がある(高粘度ポリマーでは圧損が大きくなり、撓みが発生する)。その場合、薄板を複数枚積層させて、それらを金属接合させることで、全体厚みを大きくし、強度を向上させれば良い。また、薄板の板厚みを厚くすることで、一枚当りの強度が向上することから、使用できるポリマーの種類が増える利点を有する。但し、厚くし過ぎると、加工できる孔径、溝幅、孔・溝間ピッチを狭くできず、延いては、孔充填密度を大きくできない場合がある。その場合には、孔数が多い分配板の厚みを薄くし、孔数が少なくなるに従い厚みを厚くすればよい。
そこで、計量板9より供給された各成分のポリマーは、少なくとも1枚以上積層された分配板6の分配溝8、および分配孔7を通過した後、最下層分配板5の島成分ポリマーを吐出するための島成分吐出孔1、および海成分ポリマーを吐出するための海成分吐出孔4より吐出することで、各成分のポリマーが合流し、複合ポリマー流が形成される。その後、複合ポリマー流は、吐出板10の吐出導入孔11、縮小孔12を通過して、口金吐出孔42より吐出される。
また、最下層分配板5に配設された島成分吐出孔1の孔径は、全て均等な大きさが好ましく、また、海成分吐出孔4の孔径も、全て均等な大きさが好ましい。それにより、島成分吐出孔1から吐出される島成分ポリマー、および海成分吐出孔4から吐出される海成分ポリマーの吐出速度を均一化できることから、均斉度の優れた島成分断面を得ることができる。また、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4の孔径は異なっていてもよく、島成分/海成分ポリマー比率により適宜決定すればよい。これは、島成分ポリマーの比率を多くした場合、一つの島成分吐出孔1から吐出される島成分ポリマーの吐出速度(吐出速度とは、吐出流量を、島成分吐出孔1または海成分吐出孔4の断面積で除した値を言う。)と、一つの海成分吐出孔4から吐出される海成分ポリマーの吐出速度をおよそ等しくなるように、ポリマー吐出量の多い島成分吐出孔1の孔径を大きく、または、ポリマー吐出量の小さい海成分吐出孔4の孔径を小さくすることが好ましい。それにより、得られる島成分の断面形態を著しく安定させ、精度よく形態を維持することができる。島成分吐出孔1、および海成分吐出孔4の孔径は、0.01〜0.5mmの範囲とするのが良く、更には、0.05〜0.3mmの範囲となるのが好適である。
まず、本発明の最も重要なポイントである、複合口金18の孔充填密度を大きくしつつ、島成分のポリマー同士の合流を防止し、多様な繊維断面形態、特に異形断面を高精度に形成できる原理について説明する。ここで、孔充填密度を大きくするためには、島成分吐出孔1の間隔を極力近接しなければならないが、その場合、隣り合う島成分吐出孔間において、島成分ポリマー同士の合流が発生する。そこで、この島成分ポリマー同士の合流を防止するために、例えば図12に示すように、島成分吐出孔1の周りを、海成分ポリマーを吐出する海成分吐出孔4にて囲い込む配置を行うと、隣り合う島成分ポリマー同士の合流を抑制し、島成分が六角形断面となる繊維を得ることができる。しかしながら、その反面、島成分吐出孔間距離が大きくなり過ぎて、孔充填密度を大きくすることができない。つまりは、孔充填密度と島成分ポリマーの合流防止にはトレードオフの関係が発生する。
ここで、島成分の断面形態が丸形状における島成分ポリマー同士の合流は、隣り合う島成分吐出孔1の中心を結ぶ線上において主に発生するが、エッジ(角)部を複数有する異形状の場合には、島成分吐出孔1の重心を結ぶ線上だけでは無く、隣り合うエッジ部間においても発生する。また、生産効率を考えると島成分ポリマー比率を極力大きくし、海成分ポリマー比率を小さくすることが好ましいが、その場合、島成分ポリマー同士の合流発生がより顕著となる。
従って、孔充填密度を大きくし、島成分ポリマー同士の合流を抑制し、高精度な繊維断面形態を有する繊維を製造するのは極めて重要な技術となる。そこで、本発明者らは、従来の技術では、何の配慮もされていなかった、上記問題に関して、鋭意検討を重ねた結果、本発明の新たな技術を見出すに至った。
即ち、本発明の実施形態の最下層分配板5は、島成分吐出孔1を中心とした半径R1の仮想円周線C1上に海成分吐出孔4と、半径R2の仮想円周線C2上に海成分吐出孔4と、半径R4の仮想円周線C4上に島成分吐出孔1とを一つの孔群とし、この孔群が複数配置されており、式(1)を満足し、且つ(2)の条件イ〜ニのいずれかとなるように配置されている。ここで、(2)の条件イ、条件ロは、島成分が三角形断面、条件ハは六角形断面、条件ニは四角形断面となる島成分吐出孔1、および海成分吐出孔4の配置パターンを示している。
一つ目のパターンとしては、図1に示すように、ある島成分吐出孔1を基準とし、その基準の島成分吐出孔1に最も短い中心間距離で隣接する海成分吐出孔4aとしたとき、基準の島成分吐出孔1と海成分吐出孔4aの中心点を結ぶ線分を半径R1とした仮想円周線をC1とし、その仮想円周線C1上に海成分吐出孔4を配置し、次いで、2番目に短い中心間距離で隣接する海成分吐出孔4bとしたとき、基準の島成分吐出孔1と海成分吐出孔4bの中心を結ぶ線分を半径R2とした仮想円周線C2とし、その仮想円周線C2上に海成分吐出孔4を配置し、さらに、基準となる島成分吐出孔1に最も短い中心間距離で隣接する島成分吐出孔1aとしたとき、基準の島成分吐出孔1、1aの中心を結ぶ線分を半径R4とした仮想円周線C4とし、仮想円周線C1と仮想円周線C2とに挟まれた領域内に、仮想円周線C4を配置し、式(1)を満足し、且つ、各々の仮想円周線C1、C2、およびC4上には(2)の条件イとなるように配置する。ここで、式(1)は、小数点第4位を四捨五入して算出する。
(1)R2≧R4≧√3×R1 式(1)
(2)条件イ.C1:3つの海成分吐出孔が中心角120度にて等分配置
C2:3つの海成分吐出孔が中心角120度にて等分配置
C4:6つの島成分吐出孔が中心角60度にて等分配置
θ3:C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が60度
θ5:C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が30度
条件ロ.C1:3つの海成分吐出孔が中心角120度にて等分配置
C2:3つの海成分吐出孔が中心角120度にて等分配置
C4:3つの島成分吐出孔が中心角120度にて等分配置
θ3:C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が60度
θ5:C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が30度
条件ハ.C1:6つの海成分吐出孔が中心角60度にて等分配置
C2:6つの海成分吐出孔が中心角60度にて等分配置
C4:6つの島成分吐出孔が中心角60度にて等分配置
θ3:C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が0度
θ5:C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が30度
条件ニ.C1:4つの海成分吐出孔が中心角90度にて等分配置
C2:8つの海成分吐出孔が配置
C4:4つの島成分吐出孔が中心角90度にて等分配置
θ3:C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が26.6度
θ5:C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が0度
それにより、最も合流が発生し易い、基準の島成分吐出孔1と、島成分吐出孔1aとの間における島成分ポリマー同士の合流を防止し、且つ、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4aの配置により異形断面(三角形断面)の直線部を形成し、仮想円周線C2上の海成分吐出孔4bの配置によりエッジ部を形成することで、島成分が均一で、高精度な断面(三角形断面)形態となる繊維を得ることができる。
上記の本発明の原理をポリマーの流れ形態に沿って説明すると、島成分ポリマー、海成分ポリマーの両ポリマーは、最下層分配板5の下流側の吐出導入孔11に向けて一斉に吐出され、各ポリマーがポリマーの紡出経路方向に垂直な方向に拡幅しつつ、ポリマーの紡出経路方向に沿って流れ、両ポリマーが合流し、複合ポリマー流を形成する。その際、基準の島成分吐出孔1と島成分吐出孔1aから吐出された島成分ポリマー同士が合流するのを防止するためには、島成分ポリマーを物理的に分断する海成分ポリマーを介在させることが有効であり、この役割を仮想円周線C1上の海成分吐出孔4aから吐出される海成分ポリマーが果たしている。
そして、もう一つ、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4aの重要な役割は、島成分が異形断面となる形態を形成することである。これは、基準の島成分吐出孔1から吐出された島成分ポリマーの拡幅を部分的に抑制する、つまりは、島成分が三角形断面となる形態を得るために、3つの海成分吐出孔4aを中心角120度にて等分配置することで、3箇所から島成分ポリマーの拡幅を抑制する。そして、仮想円周線C2上の海成分吐出孔4bを、位相角60度を有して、中心角120度にて等分配置することで、海成分吐出孔4aの孔間から流れ出す島成分ポリマーを海成分吐出孔4bから吐出された海成分ポリマーにより抑制させる。海成分吐出孔4aと海成分吐出孔4bが位相差を有し、且つ半径が異なる仮想円周線上C1と仮想円周線C2上に配置されていることから、内周側に配置された海成分吐出孔4aにおいて三角形断面の辺を形成し、外周側に配置された海成分吐出孔4bにおいて、三角形断面のエッジ(角)部を形成する役割を有する。
それに加えて、基準となる島成分吐出孔1から吐出された島成分ポリマーと、仮想円周線C4上の島成分吐出孔1aから吐出される島成分ポリマーとの合流を抑制する役割も有している。
これは、島充填密度を大きく、島成分が異形断面となる繊維を得るためには、仮想円周線C4の半径R4を小さくし、基準の島成分吐出孔1と島成分吐出孔1aとを近接すれば良いが、その場合、それぞれの孔から吐出された島成分ポリマーが拡幅し、島成分ポリマー同士が合流する限界となる距離があることを本発明者らは見出した。これは、仮想円周線C1と仮想円周線C2に挟まれた空間において、島成分吐出孔1から吐出された島成分ポリマーを充分に拡幅させる空間を形成しつつ、島成分ポリマーの合流を抑制できる孔配置がポイントとなる。つまり、それは、基準となる島成分吐出孔1に隣接する島成分吐出孔1aとの中心点間距離となる半径R4が、式(1)を満足するように決定すればよい。
ここで、式(1)のR4>R2の場合には、基準となる島成分吐出孔1と仮想円周線C4上に配置された島成分吐出孔1同士を近接することができず、その結果、島充填密度を大きくすることができない。また、式(1)のR4<√3×R1の場合には、基準となる島成分吐出孔1と、仮想円周線C4上に配置された島成分吐出孔1とから吐出される島成分ポリマー同士の合流が発生する場合がある。また、この配置の特徴としては、島数を多く配置し、島充填密度を大きくできる反面、島成分ポリマー比率を50%以上にできない場合があるため、ナノファイバーと言った、繊維径がナノサイズとなる複合繊維を得ることに適合している。
次いで、島成分が三角形断面となるその他の配置パターンとしては、図2に示すように、(2)の条件ロの配置がある。これは、基準となる島成分吐出孔1の周囲の仮想円周線C1上に3つの海成分吐出孔4を中心角120度にて等分配置し、その外周の仮想円周線C4上に位相角0度を有して、3つの島成分吐出孔1を中心角120度にて等分配置し、その外周の仮想円周線C2上に位相角60度を有して、3つの海成分吐出孔4を中心角120度にて等分配置する。このような配置とすることで、島成分ポリマー比率を大きくでき、70%以上と言った高い島比率においても、島成分ポリマー同士の合流が無く、島成分が均一な三角形断面となる繊維を得ることができる。
また、図3に示すように、島成分が六角形断面となる配置パターンとしては、(2)の条件ハに配置がある。(2)のハの配置では、基準となる島成分吐出孔1の周囲の仮想円周線C1上に6つの海成分吐出孔4を中心角60度にて等分配置し、その外周の仮想円周線C4上に位相角30度を有して、6つの島成分吐出孔1を中心角60度にて等分配置し、その外周の仮想円周線C2上に位相角30度を有して、6つの海成分吐出孔4を中心角60度にて等分配置する。このような配置とすることで、孔充填密度を大きく、且つ、島成分ポリマー比率を大きくでき、70%以上と言った高い島比率においても、島成分ポリマー同士の合流が無く、島成分が均一な六角形断面となる繊維を得ることができる。
また、図4に示すように、島成分が四角形断面となる配置パターンとしては、(2)の条件ニに配置がある。(2)の条件ニの配置では、基準となる島成分吐出孔1の周囲の仮想円周線C1上に4つの海成分吐出孔4を中心角90度にて等分配置し、その外周の仮想円周線C4上に位相角0度を有して、4つの島成分吐出孔1を中心角90度にて等分配置し、その外周の仮想円周線C2上に位相角22.5度を有して、8つの海成分吐出孔4を配置する。このような配置とすることで、孔充填密度を大きく、且つ、島成分ポリマー比率を大きくでき、70%以上と言った高い島比率においても、島成分が均一な四角形断面となる繊維を得ることができる。
次いで、異形度の高い断面形態を形成し、これを高い孔充填密度にて達成できる原理について説明する。ここで、本発明者らの知見によると、異形度が高い断面形状になるに従い、隣り合う島成分吐出孔1の重心を結ぶ線上だけでは無く、島成分断面のエッジ(角)部間においても島成分ポリマー同士の合流が発生し易くなる。また、島成分吐出孔1を所望の形となるように複数個を密集させて配置させ、島成分吐出孔1から吐出された島ポリマーを合流させることで高い異形度の断面形態を形成することが考えられるが、本発明者らの知見によると、一つの島成分の断面形態を形成するのに、複数個の島成分吐出孔1が必要となることから、複合口金に配置できる孔数には制約があり、その結果、孔充填密度を大きくすることができず、数百、数千の島成分の断面形態を形成するには限界がある。
従って、島成分の断面形状の異形度が大きくなるほどに、島成分ポリマー同士の合流が発生し易くなり、高い生産効率の下、それを達成するためには、更に難易度が高くなる。そこで、本発明者らは、従来の技術では、配慮されていなかった上記問題に関して、鋭意検討を重ねた結果、本発明の新たな技術を見出すに至った。
即ち、図18に示すように、本発明の別の実施形態の最下層分配板5は、(2)の条件ロ、ニのいずれかを満足し、基準となる島成分吐出孔1が仮想中心Oを中心として、半径R7の仮想円周線C7上にn個(nは3、4の自然数、以下同じ)に分割して配置され、仮想円周線C4上の島成分吐出孔1が仮想群中心Pを中心として、半径R7の仮想円周線C7上にn個に分割して配置されている。ここで、nが3個の場合は島成分がY型断面、nが4個の場合は十字断面となる島成分吐出孔1、および海成分吐出孔4の配置パターンを示している。nの個数が小さい方が、高い異形度の断面形状を得ることができる。
まず、nが3個のパターンとしては、図18に示すように、仮想中心Oと仮想円周線C7上の3個の島成分吐出孔1b、1c、1dとの中心点間距離、および、仮想群中心Pに隣接した3個の島成分吐出孔1との中心点間距離を半径R7とし、式(3)を満足し、且つ、(4)の条件となるように配置する。ここで、式(3)は、小数点第4位を四捨五入して算出する。
(3)R7≦R1・cos(180/n[度])
(4)C7:n個の島成分吐出孔が中心角360/n度にて等分配置
θ6:C7とC1に配置された吐出孔間の位相角が180/n度
それにより、仮想円周線C7上の3つの島成分吐出孔1b、1c、1dから吐出された島成分ポリマーが合流することで、三角形断面の角辺に凹みを形成しつつ、最も合流が発生し易い、仮想円周線C7上の島成分吐出孔1の孔群と、仮想円周線C4上の島成分吐出孔1の群との間における島成分ポリマー同士の合流を防止することで、島成分が均一で、高い異形断面(Y字断面)形態となる繊維を得ることができる。
上記の本発明の原理をポリマーの流れ形態に沿って説明すると、島成分ポリマー、海成分ポリマーの両ポリマーは、最下層分配板5の下流側の吐出導入孔11に向けて一斉に吐出され、各ポリマーがポリマーの紡出経路方向に垂直な方向に拡幅しつつ、ポリマーの紡出経路方向に沿って流れ、両ポリマーが合流し、複合ポリマー流を形成する。その際、仮想中心Oを中心とした島成分吐出孔1b、1c、1dの孔群と、仮想群中心Pを中心とした3つの島成分吐出孔1の孔群から吐出された島成分ポリマー同士が合流するのを防止するためには、島成分ポリマーを物理的に分断する海成分ポリマーを介在させることが有効であり、この役割を仮想円周線C1上の海成分吐出孔4から吐出される海成分ポリマーが果たしている。
そして、もう一つ、本発明の重要なポイントは、3つの島成分吐出孔1b、1c、1dから吐出された島成分ポリマーが合流して、1つの島成分の異形断面を形成することである。これは、3つの島成分吐出孔1b、1c、1dから吐出された島成分ポリマーが合流すると、各々の島成分吐出孔1をおよそ頂点とした三角形の断面を形成する。その際、島成分吐出孔1b、1cとの間、島成分吐出孔1c、1dとの間、そして、島成分吐出孔1d、1bとの間に、海成分吐出孔4より海成分ポリマーを吐出させ、合流する島成分ポリマー間に海成分ポリマーの一部を進入させることで、三角形断面の角辺に凹みを形成することができ、その結果、高い異形度を有する断面形態(Y字断面)を形成することができる。つまり、これを達成する吐出孔配置としては、仮想中心Oを中心に、仮想円周線C7上に配置された島成分吐出孔1a、1b、1cを、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4と位相角30度を有して、中心角120度にて等分配置し、仮想群中心Pを中心に、半径R7となる仮想円周線C7上に配置された3つの島成分吐出孔1を、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4と位相角30度を有して、中心角120度にて等分配置する。
ここで、式(3)のR7>R1・cos(60[度])の場合(n=3個の場合)には、仮想中心Oを中心とした仮想円周線C7上に配置された島成分吐出孔1から吐出される島成分ポリマーと、仮想群中心Pを中心とした仮想円周線C7上に配置された島成分吐出孔1から吐出される島成分ポリマーの合流が発生する場合がある。また、式(3)のR7を小さくすれば、上記のような島成分ポリマー同士の合流を抑制することができる反面、得られる島成分の断面形状の異形度が小さくなるため、所望の断面形態に合わせて、R7を決定すればよい。ここで、R7を小さくできる下限としては、島成分吐出孔1の半径rとした場合には、R7≧√3・rとするのが好ましく、この範囲とすることで、高い異形度を有したY字断面糸を得ることができる。
このY字断面糸となる孔配置パターンの特徴としては、島成分ポリマー比率を大きくでき、70%以上と言った高い島比率においても、島成分ポリマー同士の合流が無く、島成分が均一なY字断面となる繊維を得ることができる。更には、島数を多く配置し、島充填密度を大きくできるため、ナノファイバーと言った、繊維径がナノサイズとなる複合繊維を得ることに適合している。
次いで、島成分が十字断面となる配置としては、図19に示すように、nが4個のパターンがある。これは、仮想中心Oを中心に、半径R7の仮想円周線C7上に配置された4つの島成分吐出孔1を、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4と位相角45度を有して、中心角90度にて等分配置し、仮想群中心Pを中心に、半径R7の仮想円周線C7上に配置された4つの島成分吐出孔1を、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4と位相角45度を有して、中心角90度にて等分配置する。この十字断面糸となる孔配置パターンの特徴は、式(3)よりも狭い条件である式(5)を満足するように、仮想中心Oを中心とした仮想円周線C7上の島成分吐出孔1の孔群と、仮想群中心Pを中心とした仮想円周線C7上の島成分吐出孔1の孔群との間に、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4を配置することである。
(5)R7≦R1/2 式(5)
また、R7を小さくできる下限としては、島成分吐出孔1の半径rとした場合には、R7≧1.5・√2・rとするのが好ましい。このような配置とすることで、仮想中心Oを中心とした仮想円周線C7上の4つの島成分吐出孔1の孔群と、仮想群中心Pを中心とした仮想円周線C7上の4つの島成分吐出孔1の孔群から吐出された島成分ポリマー同士が合流するのを防止し、特に、島成分ポリマー比率が50%以上において、高い異形度(十字断面)となる繊維を得ることができる。
以上のように、nの個数が3、4と増えるに従い、仮想円周線C1の半径R1に対して、仮想円周線C7の半径R7の範囲が狭くなることから、nの個数の応じて、島成分ポリマー同士の合流を防止しつつ、高い異形度の断面形態を、高い島成分ポリマー比率で達成できるR7の範囲を見出すに至った。
また、図17に示すように、複数の積層された分配板6において、分配板6に形成された分配孔7の孔数が、ポリマーの紡出経路方向の下流側に向かい増加するように構成し、ポリマーの紡出経路方向にポリマーを導く分配孔7が形成された分配板6と、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向にポリマーを導く分配溝8が形成された分配板6とを交互に積層させて、ポリマーの紡出経路方向の上流側に位置する分配孔7と、ポリマーの紡出経路方向の下流側に位置する分配孔7とを連通するように分配溝8が形成されている。
そこで、一つの分配孔7に対して、そのポリマー紡出経路方向の下流側の位置に連通する一つの分配溝8を形成し、その分配溝8の端部に連通する複数個(図17では二つ)の分配孔7を構成するトーナメント方式のポリマーの通流経路が形成されている。
このトーナメント方式のポリマーの通流経路では、ポリマー紡出経路方向の上端に位置する分配板6の分配孔7、または分配溝8から最下層分配板5の島成分吐出孔1に至る経路長が等しくなっている。そして、複数の積層された分配板6において、各々の分配板6においては、分配孔7の孔径、分配溝8の溝幅、溝深さ、溝長を等しくした構造となっている。この場合、ポリマーの紡出経路方向の上流側に向い、トーナメント流路の数が減少するに伴って、分配溝8や、分配孔7を通過するポリマーの流量が順次大きくなり、流路圧損が大きくなるため、それに合わせて、分配孔7の孔径や、分配溝8の溝幅、溝深さを順次大きくし、流路圧損の増大を抑制するのが好ましい。また、図17に示すように、一つの分配溝8が、ポリマーの紡出経路方向の下流側に対して、二つの分配孔7に連通する2分岐のトーナメント方式のポリマーの通流経路が好適であるが、これに限定はしない。分配溝8が二つ以上の分配孔7に連通する場合(2分岐以上のトーナメント方式の流路の場合)は、ポリマー紡出経路方向の上流側の分配孔7から、下流側の分配孔7に至る分配溝8の溝長、溝幅、溝深さをそれぞれ等しくすることで、各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくするのがよい。また、分配溝8の端部に分配孔7を配設することで、ポリマーの異常滞留を無くし、ポリマーの分配性が高く、精密に制御できる利点を有する。
ここで、その他の各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくする構造としては、分配孔7および分配溝8によって形成された分配板6内部の複数のポリマー通流経路について、分配板6の上端から最下層分配板5に至るまでのポリマー通流経路の長さが相対的に長い経路における分配孔6の孔径を、相対的に短い経路における分配孔6の孔径より大きくすることが挙げられ、これにより流路圧損を均等にすることが可能となる。また、その他の各ポリマーの通流経路の流路圧損を等しくする構造としては、上層板2の島成分吐出孔1の孔径を、その上流側の分配板6の各流路における流路圧損差を等しくするように調整する構造が挙げられる。具体的には、流路圧損が大きな流路に連通する島成分吐出孔1の孔径を大きくし、流路圧損が小さな上流側の流路に連通する島成分吐出孔1を小さくすることで、流路圧損を等しくすることが可能となる。
次に、図1、図2、図3、図4、図5、図6、図18、図19に示した本発明の実施形態の複合口金18に共通した各部材、各部材の形状について詳細に説明する。
本発明における複合口金18は、円形状に限定されず、四角形であってもよく、多角形であってもよい。また、複合口金18における口金吐出孔42の配列は、海島型複合繊維の本数、糸条数、冷却装置17に応じて、適宜決定すればよい。冷却装置17として、環状の冷却装置では、口金吐出孔42を一列、もしくは複数列に渡り環状に配列するのがよく、また、一方向の冷却装置では、口金吐出孔42を千鳥に配列するのがよい。口金吐出孔42のポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、丸形以外の断面状や中空断面状であってもよい。但し、丸形以外の断面形状とする場合は、ポリマーの計量性を確保するために、口金吐出孔42の長さを大きくするのが好ましい。
また、本発明における島成分吐出孔1は、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、丸形以外の異形断面状や中空断面状であってもよい。この場合、最下層分配板5に配設された島成分吐出孔1の形状は、全て同形状とするのが好ましい。丸形断面以外の場合、島成分に所望の形となるように、予め島成分吐出孔1をその相似形とすることで、異形断面の繊維が得やすくなる。また、島成分の異形断面繊維において、角部をよりシャープに形成しやすくなる。(曲率半径を小さくし易くなる。)但し、島成分吐出孔1が丸形以外の断面状の場合には、その直上に連通して丸断面の分配孔7を配置することで、直上の丸断面の分配孔7にてポリマーの計量性を確保した後、丸形以外の断面形状の島成分吐出孔1にてポリマーを吐出するのが好ましい。
また、本発明における吐出導入孔11は、ポリマーの紡出経路方向において、最下層分配板5の下面より一定の助走区間を設けることで、島成分ポリマーと海成分ポリマーが合流した直後の流速差を緩和させ、複合ポリマー流を安定化させることができる。また、吐出導入孔11の孔径は、最下層分配板5に配設された島成分吐出孔1と海成分吐出孔4の各吐出孔群の仮想円19の外径よりも大きく、かつ、仮想円19の断面積と、吐出導入孔11の断面積比が極力小さくなるように構成されるのが好ましい。それにより、最下層分配板5より吐出された各ポリマーの拡幅が抑えられ、複合ポリマー流を安定化させることができる。
また、本発明における縮小孔12は、吐出導入孔11から口金吐出孔42に至る流路の縮小角度αを50〜90°の範囲に設定することで、複合口金18を小型化でき、且つ、複合ポリマー流のドローレゾナンス等の不安定現象を抑え、安定的に複合ポリマー流を供給することができる。
また、本発明における島成分吐出孔1、海成分吐出孔4および分配孔7は、ポリマー紡出経路方向に孔断面積が一定であるのが好適であるが、断面積が漸減、または漸増、もしくは漸減と漸増していてもよい。これは、本発明における分配板6、最下層分配板5では、主にエッチング処理を用いて孔加工していることから、微小な孔を加工する際に、孔断面積が一定とならない場合があるためであり、その場合には、加工条件等を適宜適正化すれば良い。
また、本発明における最下層分配板5は、1枚であってもよいが、複数枚が積層されていてもよい。この場合、1枚の最下層分配板5では、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4のポリマー計量性が得られず、繊維形態が経時的に変化した場合には、複数枚を積層することで、ポリマーの計量性を確保することができる。
また、本発明の1枚の分配板6には、分配板6の上流側に分配孔7が配設され、それに連通して分配溝8(下流側)が配設されていてもよく、また、分配板6の上流側に分配溝8が配設され、それに連通して分配孔7(下流側)が配設されていてもよい。このように、分配孔7と分配溝8を連通させ、これを1回以上繰り返すことで、ポリマーを分配することができる。
ここで、最下層分配板5の島成分吐出孔1の孔充填密度を大きくした、つまりは、基準の島成分吐出孔1と仮想円周線C1上の海成分吐出孔4や、仮想円周線C4上の島成分吐出孔1、仮想円周線C2上の海成分吐出孔4との間隔、あるいは、仮想円周線C7上の島成分吐出孔1と、仮想円周線C1上の海成分吐出孔4との間隔を小さくするために、本発明の分配板6、および最下層分配板5は、薄板の積層構造となっている。分配板6に配設された分配孔7は、主にポリマー紡出経路方向にポリマーを分配し、分配溝8は、主にポリマー紡出経路方向に垂直な方向にポリマーを分配する。分配孔7が配設された分配板6と、分配溝8が配設された分配板6を交互に積層させることで、繊維断面方向にポリマーを自由、かつ容易に分配することができる。これを利用して、極めて狭い領域内に島成分吐出孔1、海成分吐出孔4を配置できる。
次に、図1、図2、図3、図4、図5、図6、図18、図19に示した本発明の実施形態の複合口金18に共通した複合繊維の製造方法について詳細に説明する。
本発明の複合繊維の製造方法は、公知の複合紡糸機で、本発明の複合口金18を使用すればよい。例えば、溶融紡糸の場合には、紡糸温度は、2種類以上のポリマーのうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下であれば、紡糸ヘッドあるいは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制されるため、好ましい。紡糸速度はポリマーの物性や複合繊維の目的によって異なるが、500〜6000m/分程度とすることができる。特に、産業資材用途で高い力学的特性が必要な場合には、高分子量ポリマーを用い、500〜2000m/分とし、その後高倍率延伸することが好ましい。延伸に際しては、ポリマーのガラス転移温度など、軟化できる温度を目安として、予熱温度を適切に設定することが好ましい。予熱温度の上限としては、予熱過程で繊維の自発伸長により糸道乱れが発生しない温度とすることが好ましい。例えば、ガラス転移温度が70℃付近に存在するPETの場合には、通常この予熱温度は80〜95℃程度で設定される。
また、本発明の島成分吐出孔1、海成分吐出孔4から吐出される各成分のポリマーの吐出速度比は、吐出量、孔径および孔数によって、制御することが好ましい。この吐出速度の範囲としては、単孔当たりの島成分ポリマーの吐出速度Va、海成分ポリマーの吐出速度をVbとした場合、その比(Va/VbあるいはVb/Va)が0.05〜20であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10の範囲であり、この範囲であれば、最下層分配板5から吐出されたポリマーは層流として、吐出導入孔11を経て、縮小孔12に導かれるため、断面形態が著しく安定し、精度よく形態を維持することができる。
また、本発明に使用されるポリマーの溶融粘度比は、2.0未満とすることで、安定的に複合ポリマー流を形成することができる。溶融粘度比が2.0以上の場合は、島成分ポリマーと海成分ポリマーが合流する際に不安定化し、得られた繊維断面の走行方向において糸の太さ斑が発生する場合がある。
次に、本発明の分配板6および最下層分配板5の作製方法としては、通常電気・電子部品の加工に用いられる、薄板にパターンを転写し、化学的に処理することで微細加工を施すエッチング加工が好適である。ここで、エッチング加工とは、エッチング液などの化学薬品による化学反応・腐食作用を応用して薄板を食刻(溶解加工・化学切削)する加工方法であり、目的とする加工形状にマスキング(必要な部分表面を部分的に被覆保護すること)による防食処理を施した上で、エッチング液などの腐食剤によって不要部分を除去することで目的の加工形状を非常に高精度に得ることができる。この加工方法では、被加工物の歪への配慮が必要ないため、上記した他の加工方法と比較して、被加工物の厚みの下限に制約がなく、極めて薄い金属板に本発明で言う合流溝8や分配孔7、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4を穿設することができる。また、エッチング加工で作製した分配板6、および最下層分配板5は1枚当たりの厚みを薄くすることが可能になるため、複数枚積層させても、複合口金18の総厚みに与える影響はほとんど無く、所望の断面形態の複合繊維に合わせて、他のパック部材を新設する必要がない。言い換えれば、分配板6と最下層分配板5のみを交換すれば、断面形態を変更することも可能になるため、繊維製品の高性能多品種化が進む昨今では、好ましい特徴と言える。また、他の作製方法としては、従来の口金作製で用いられるドリル加工や金属精密加工である旋盤、マニシング、プレス、レーザー加工等を用いることで可能である。但し、これらの加工は被加工物の歪抑制という観点から、加工板の厚みの下限に制約があるため、複数の分配板を積層させる本発明の複合口金に適用するには分配板6の厚みを考慮する必要がある。
次に、本発明の複合口金によって得られる繊維とは、2種類以上のポリマーが組み合わされた繊維のことを意味し、繊維横断面において2種類以上のポリマーが海島状等の形態をとって存在している繊維のことを言う。ここで、本発明で言う2種類以上のポリマーとは、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等々の分子構造が異なるポリマーを2種類以上使用するということが含まれるのは言うまでもないが、製糸安定性等を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色顔料、表面改質剤等の各種機能性粒子や有機化合物等の添加剤や粒子の添加量が異なること、また、分子量が異なること、あるいは、共重合がなされている等などが含まれる。
また、本発明の複合口金18によって得られる繊維の単糸断面は、丸形状はもとより、三角、扁平等の丸形以外の形状や中空であってもよい。また、本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、複合繊維の単糸繊度により特に限られるものではなく、複合繊維の単糸数により特に限られるものではなく、さらに、複合繊維の糸条数により特に限られるものでも無く、1糸条であってもよく、2糸条以上の多糸条であってもよい。
本発明の複合口金によって得られる海島型複合繊維とは、図8の(a)、(b)、(c)、図20(a)、(b)に示すように、異なる2種類以上のポリマーが繊維軸方向に垂直な断面において、海島構造(ここで言う海島構造とは、島成分ポリマー13で構成されている島部分が、海成分ポリマー20で構成されている海部分により複数に区別されている構造)が形成されている繊維を言う。その場合、島部分の断面形状に制約はなく、図1、または図2に示すように、1つの島成分吐出孔1によって島部分の断面形状が構成されていてもよく、また、図16、図18、図19に示すように、複数個の島成分吐出孔1が集まった島成分吐出部21によって断面形状が構成されていてもよい。図1、図2に示すような孔配置とすることで、図8(a)に示すような、三角形断面となる海島型複合繊維を得ることができる。また、図3に示すような、島成分吐出孔1、海成分吐出孔4の配置とすることで、図8(b)に示すような六角形断面となり、また、図4に示すような、孔配置とすることで、図8(c)に示すような四角形断面となる海島型複合繊維を得ることができる。また、図18に示すような孔配置とすることで、図20(a)に示すようなY字断面となり、また、図19に示すような孔配置とすることで、図20(b)に示すような十字断面となる海島型複合繊維を得ることができる。
また、本発明の複合口金を用いて得られる島数に関しては、理論的には2島からスペースの許す範囲で無限に作製することは可能であるが、実質的に実施可能な範囲として2〜10000島が好ましい範囲である。本発明の複合口金の優位性を得る範囲としては100〜10000島がさらに好ましい範囲である。
また、本発明においては、孔充填密度が0.5孔/mm2以上であることが好ましい。孔充填密度が0.5孔/mm2以上であれば、従来の複合口金技術との差異がより明確となる。本発明者等が検討した範囲では、孔充填密度は0.5〜20孔/mm2の範囲であれば実施可能であった。この孔充填密度という観点では、本発明の複合口金の優位性が得られる範囲としては1〜20孔/mm2が好ましい範囲である。
また、本発明における海島型複合繊維は、海成分ポリマー20を溶出することで、単独紡糸では得ることができない非常に縮小された極細異形繊維として、外接繊維径が10〜1000nm、かつ繊維径バラツキを表す繊維径CV%が0〜30%の均一性の優れた長繊維型ナノファイバーを作製することができる。この長繊維型ナノファイバーは、シート状物とすることで、磁気記録ディスクなどに用いるアルミニウム合金基板やガラス基板を超高精度の仕上げ加工を施すのに好適に用いることができる。また、他の用途として、あえて一部の島を合流させ、繊維径分布を自由に制御したシート状物も作製可能である。
以上のように、本発明の複合口金18で製造可能な複合形態を従来公知の断面形態を例示して説明したが、本発明の複合口金18においては、断面形態を任意に制御することができるため、以上の形態にとらわれることなく、自由な形態を作製することができる。
また、本発明の複合繊維の強度は、強度は2cN/dtex以上が好ましく、産業資材用途で必要とされる力学的特性を考えれば、5cN/dtex以上であることが好ましい。現実的な上限としては20cN/dtexである。また、伸度は延伸糸で2〜60%、特に高強度が必要とされる産業資材分野では2〜25%、衣料用では25〜60%とすることが好ましい。また、本発明の複合繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布、紙、液体分散体など多用な繊維製品とすることができる。
以下実施例を挙げて、本実施形態の複合口金の効果を具体的に説明する。実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4では、島成分吐出部が1つの島成分吐出孔で、海成分吐出部が1つの海成分吐出孔で構成されている最下層分配板を使用して海島型複合繊維を紡糸し、また、実施例5、6、比較例5、6、7では、島成分吐出部が複数の島成分吐出孔で構成されている最下層分配板を使用して海島型複合繊維を紡糸し、下記の通り、島成分ポリマーの合流有無を判定した。
(1)海島型複合繊維の島成分の析出
海島型複合繊維から島成分を析出するために、易溶出成分の海成分が溶出可能な溶液などに海島型複合繊維を浸漬して除去し、難溶出成分の島成分のマルチフィラメントを得た。易溶出成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが共重合された共重合PETやポリ乳酸(PLA)等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いた。また、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めることができるため、また、流体染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をすることができる。
(2)マルチフィラメントの繊維径および繊維径バラツキ(CV%)
得られた極細繊維からなるマルチフィラメントをエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)キーエンス製 VE−7800型走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率5000倍で撮影した。得られた写真から無作為に選定した150本の極細繊維を抽出し、写真について画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての外接円径(繊維径)を測定し、平均繊維径および繊維径標準偏差を求めた。ここで、外接円とは、図8の(a)、図20の(a)、(b)の破線14のことを言う。これらの結果から下記式を基づき繊維径CV%(変動係数:Coefficient of Variation)を算出した。以上の値は全て3ヶ所の各写真について測定を行い、3ヶ所の平均値とし、nm単位で小数点1桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入するものである。
繊維径バラツキ(CV%)=(繊維径標準偏差/平均繊維径)×100
(3)異形度および異形度バラツキ(CV%)
前述した繊維径および繊維径バラツキと同様の方法で、マルチフィラメントの断面を撮影し、その画像から、切断面に外接する真円の径を外接円径(繊維径)とし、さらに、内接する真円の径を内接円径として、異形度=外接円径÷内接円径から、小数点3桁目までを求め、小数点3桁目以下を四捨五入したものを異形度として求めた。ここで、内接円とは、図8の(a)、図20の(a)、(b)の破線19のことを言う。この異形度を同一画像内で無作為に抽出した150本の極細繊維について測定し、その平均値および標準偏差から、下記式に基づき異形度バラツキ(CV%(変動係数:Coefficient of Variation))を算出した。この異形度バラツキについては、小数点2桁目以下は四捨五入するものである。
異形度バラツキ(CV%)=(異形度の標準偏差/異形度の平均値)×100(%)
(4)極細繊維の断面形状評価
前述した繊維径および繊維径バラツキと同様の方法で、マルチフィラメントの断面を撮影し、その画像から、断面の輪郭にある2つの端点を持った線分が直線である部分の数をカウントした。対象該画像から同一画像内で無作為に抽出した150本のマルチフィラメントの断面について評価した。150本のマルチフィラメントについて、直線部の数をカウントし、その総和をマルチフィラメントの本数で割り返して、マルチフィラメント1本当たりの直線部の数を算出し、小数点第2位以下は四捨五入した。
また、断面の輪郭に存在する直線部から図8の(a)の22のように延長した線を引く。隣り合った2本の線の交点の数をカウントするとともに、その角度を測定し、その角度の総和を交点の数で割り返すことにより算出し、小数点以下を四捨五入した値をマルチフィラメント糸の1本の交点の角度とした。同様の操作を150本のマルチフィラメントについて行い、その単純な数平均を交点の角度とした。
(5)繊度
海島型複合繊維を丸編みとし、水酸化ナトリウム3重量%水溶液(80℃ 浴比1:100)に浸漬することで易溶解成分を99%以上溶解除去した後、編みを解くことで極細繊維からなるマルチフィラメントを抜き出し、この1mの重量を測定し、10000倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値を繊度とした。
(6)ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s−1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
[実施例1]
島成分として、固有粘度(IV)0.63dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET 溶融粘度:120Pa・s)と、海成分ポリマーとして、IV0.58dl/gの5−ナトリウムスルホイソフタル酸5.0モル%共重合したPET(共重合PET 溶融粘度:140Pa・s)を290℃で別々に溶融後、計量し、図6に示した本実施形態の複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、口金吐出孔から海島複合ポリマー流を吐出した。なお、最下層分配板には、島成分ポリマー用として、1つの吐出導入孔に対して、1000の島成分吐出孔が等間隔に穿孔されている。海島比率は、50/50とし、吐出された複合ポリマー流を冷却固化後油剤付与し、紡糸速度1500m/minで巻き取り、150dtex−15フィラメント(単孔吐出量2.25g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラ間で3.0倍延伸を行い、50dtex−15フィラメントの海島型複合繊維とし、前述した方法で、海成分を99%以上溶解し、15000本のマルチフィラメントを採取した。
ここで、実施例1に用いた複合口金は、分配孔が穿孔された分配板と、分配溝が穿孔された分配板を交互に積層し、その下流側において、図1に示すような最下層分配板が積層されている。分配板の板厚み0.1mm、孔直径0.2mm、溝幅0.3mm、溝深さ0.1mm、最小孔間ピッチ0.4mmにて穿孔されている。そして、最下層分配板の板厚み0.1mm、島成分吐出孔、および海成分吐出孔の孔直径0.2mmが、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.8mm、仮想円周線C4の半径R4が0.693mmにて、(2)の条件イの配置となるように穿孔されている。表1に記載のとおり、島成分が三角形断面(直線部3箇所 交点の角度60゜)となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは4.6%、異形度1.9、異形度バラツキ4.5%となり、このマルチフィラメントの繊維径は537nmとなった。
[実施例2]
図2に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(2)の条件ロに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用いて、島成分ポリマー比率を実施例1と比べて大きく(海島比率を20/80)し、それ以外は実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、13500本のマルチフィラメントを採取した。
ここで、実施例2に用いた複合口金には、孔直径0.2mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.8mm、仮想円周線C4の半径R4が0.8mmにて穿孔されている。表1に記載のとおり、島成分が三角形断面(直線部3箇所 交点の角度60゜)となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは5.9%、異形度1.84、異形度バラツキ6.3%となり、このマルチフィラメントの繊維径は955nmとなった。
[実施例3]
図3に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(2)の条件ハに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用い、また、海島比率を20/80とした以外は実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、15000本のマルチフィラメントを採取した。
ここで、実施例3に用いた複合口金には、孔直径0.2mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.8mm、仮想円周線C4の半径R4が0.693mmにて穿孔されている。表1に記載のとおり、島成分が六角形断面(直線部6箇所 交点の角度120゜)となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは5.9%、異形度1.23、異形度バラツキ3.9%となり、このマルチフィラメントの繊維径は488nmとなった。
[実施例4]
図4に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を(2)の条件ニに変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用い、また、海島比率を30/70とした以外は実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、13000本のマルチフィラメントを採取した。
ここで、実施例4に用いた複合口金には、孔直径0.2mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.894mm、仮想円周線C4の半径R4が0.8mmにて穿孔されている。表1に記載のとおり、島成分が四角形断面(直線部4箇所 交点の角度90度)となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは5.3%、異形度1.71、異形度バラツキ5.6%となり、このマルチフィラメントの繊維径は868nmとなった。
[実施例5]
図18に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用い、海島ポリマー比率を30/70、総繊度110dtexに変更した以外は実施例1と同等のポリマー、紡糸条件で紡糸し、11000本のマルチフィラメントを採取した。
ここで、実施例5に用いた複合口金には、分配板の板厚み0.1mm、孔直径0.2mm、溝幅0.3mm、溝深さ0.1mm、最小孔間ピッチ0.4mmにて穿孔されている。そして、最下層分配板の板厚み0.1mmとし、島成分吐出孔、および海成分吐出孔の孔直径0.2mmが、仮想円周線C7上の半径R7が0.22mm、仮想円周線C1上の半径R1が0.44mmにて、式(3)、(4)の条件のn=3個となるように配置されている。表2に記載のとおり、島成分がY字断面となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは5.3%、異形度2.3、異形度バラツキ4.5%となり、このマルチフィラメントの繊維径は870nmとなった。
[実施例6]
図19に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を式(3)、(4)、および(5)の条件のn=4個となるように配置し、それ以外は実施例1と同じ複合口金を用いた。最下層分配板には、島成分ポリマー用として、1つの吐出導入孔に対して、600の島成分吐出孔が等間隔に穿孔されている。海島比率を50/50、総繊度110dtexとし、それ以外は実施例1と同等のポリマー、紡糸条件で紡糸し、9000本のマルチフィラメントを採取した。ここで、実施例6に用いた複合口金には、孔直径0.2mmとなる島成分吐出孔、および海成分吐出孔が、仮想円周線C7の半径R7が0.25mm、仮想円周線C1の半径R1が0.5mmにて穿孔されている。表2に記載のとおり、島成分が十字断面となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは5.9%、異形度2.4、異形度バラツキ4.4%となり、このマルチフィラメントの繊維径は710nmとなった。
[比較例1]
図9に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を変更した以外は実施例1と同じ複合口金を用い、実施例1と同等のポリマー、海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸してマルチフィラメントを採取した。
ここで、比較例1に用いた複合口金には、仮想円周線C1上に3つの海成分吐出孔が中心角120度にて等分配置、仮想円周線C2上に3つの海成分吐出孔が中心角120度にて等分配置、仮想円周線C4上に3つの島成分吐出孔が中心角120度にて等分配置され、C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が60度、C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が30度にて配置されている。そして、島成分吐出孔、および海成分吐出孔の孔直径0.2mmが、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.8mm、仮想円周線C4の半径R4が0.4mmにて穿孔されており、R4が式(1)の範囲から外れている。表1に記載のとおり、島成分ポリマーの合流が発生し、三角形断面のマルチフィラメントを得ることができなかった。
[比較例2]
図10に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置パターンを変更した以外は実施例2と同じ複合口金を用い、実施例2と同等のポリマー、海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸してマルチフィラメントを採取した。
ここで、比較例2に用いた複合口金には、仮想円周線C1上に4つの海成分吐出孔が中心角90度にて等分配置、仮想円周線C2上に8つの海成分吐出孔が配置、仮想円周線C4上に4つの島成分吐出孔が中心角90度にて等分配置され、C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が26.6度、C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が45度にて配置されている。そして、島成分吐出孔、および海成分吐出孔の孔直径0.2mmが、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.894mm、仮想円周線C4の半径R4が0.566mmにて穿孔されており、R4が式(1)の範囲から外れている。表1に記載のとおり、島成分ポリマーの合流が発生し、繊維径バラツキは26%、異形度バラツキ27%となり、均一な四角形断面となるマルチフィラメントを得ることができなかった。
[比較例3]
図11に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置を変更した以外は実施例2と同じ複合口金を用い、実施例2と同等のポリマー、海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸してマルチフィラメントを採取した。ここで、図11の孔配置は、本発明者らが、島成分が四角形断面の変形パターンとして、平行四辺形の断面となるように考案したものである。島成分吐出孔、および海成分吐出孔の孔直径0.2mmが、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.566mm、仮想円周線C4の半径R4が0.8mmにて穿孔されており、R4が式(1)の範囲から外れている。表1に記載のとおり、島成分ポリマーの合流が発生し、平行四辺形の断面となるマルチフィラメントを得ることができなかった。
[比較例4]
図12に示すように、最下層分配板の島成分吐出孔、および海成分吐出孔の配置パターンを変更した以外は実施例3と同じ複合口金を用い、実施例3と同等のポリマー、海島比率、同等の繊度、紡糸条件で紡糸してマルチフィラメントを採取した。
ここで、比較例4に用いた複合口金には、仮想円周線C1上に6つの海成分吐出孔が中心角60度にて等分配置、仮想円周線C2上に6つの海成分吐出孔が中心角60度にて配置、仮想円周線C4上に6つの島成分吐出孔が中心角60度にて等分配置され、C1とC2に配置された吐出孔間の位相角が30度、C1とC4に配置された吐出孔間の位相角が0度にて配置されている。そして、島成分吐出孔、および海成分吐出孔の孔直径0.2mmが、仮想円周線C1の半径R1が0.4mm、仮想円周線C2の半径R2が0.693mm、仮想円周線C4の半径R4が0.8mmにて穿孔されており、R4が式(1)の範囲から外れている。表1に記載のとおり、島成分が六角形断面(直線部6箇所 交点の角度120゜)となり、島成分ポリマー同士の合流は無く、繊維径バラツキは5.9%、異形度1.22、異形度バラツキ4.2%であったが、繊維径は1.4μmとなり、ナノオーダーのマルチフィラメントを得ることができなかった。
[比較例5、比較例6]
次に、仮想円周線C1の半径R1と仮想円周線C7の半径R7の比率が異なる以外は実施例5と同じ複合口金を用いて、実施例5と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、海島比率を変化した比較例として、比較例5、比較例6を説明する。ここで、島成分吐出孔、および海成分吐出孔が配置されている仮想円周線C7上の半径R7が0.33mm、仮想円周線C1の半径R1が0.44mmとなるように配置されており、比較例5にて海島比率が30/70、比較例6にて海島比率が50/50として、海島型複合繊維を製造した。表2に記載の通り、島成分ポリマー比率が50%や、70%と高い場合には、島成分ポリマー同士の合流が発生し、Y字断面のマルチフィラメントを得ることができなかった。
[比較例7]
次に、仮想円周線C1の半径R1と仮想円周線C7の半径R7の比率が異なる以外は実施例6と同じ複合口金を用いて、実施例6と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、海島比率を変化した比較例として、比較例7を説明する。ここで、島成分吐出孔、および海成分吐出孔が配置されている仮想円周線C7上の半径R7が0.35mm、仮想円周線C1の半径R1が0.44mmとなるように配置されており、海島比率が50/50として、海島型複合繊維を製造した。表2に記載の通り、島成分ポリマー同士の合流が発生し、十字断面のマルチフィラメントを得ることができなかった。