JP5727240B2 - 圧電アクチュエータの製造方法 - Google Patents

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本発明はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含む圧電アクチュエータの製造方法に関する。
Pb、Zr、Tiの各元素を含む酸化化合物であるチタン酸ジルコン酸鉛Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)は図5に示す立方晶系ペロブスカイト型の結晶構造を有する。尚、図5においては、斜線球は単純立法配列のPb、黒球はZrもしくはTi、白球はOを示す。図6に示すごとく、PZTは<100>(あるいは<001>)方向あるいは<111>方向に歪んだ場合に分極を発生し、これにより、優れた圧電性を発揮する(参照:特許文献1の図5、図10)。これを利用したPZT圧電体層は、アクチュエータとして用いたMEMS素子、センサとして用いたMEMS素子、発電素子、ジャイロ素子等に用いられる。
図7は従来の圧電アクチュエータを示す断面図である。図7の圧電アクチュエータはキャパシタ構造をなしており、単結晶シリコン基板1、酸化シリコン層2、Ti密着層3、Pt下部電極層4、PZT圧電体層5及びPt上部電極層6を積層して形成されている。尚、単結晶シリコン基板1はシリコンオンインシュレータ(SOI)基板に置換し得る。また、下部電極層4のPtはPZT圧電体層5の成膜温度約500℃以上に耐えられる材料である。この下部電極層4は、Ir、SrRuO3等を用いてもよい。さらに、Ti密着層3は酸化シリコン層2とPt下部電極層4との密着性が悪いのでこれらの間に設けたものである。この密着層3はTiO2、MgO、ZrO2、IrO2等の導電性酸化物を用いてもよい。
図7においては、PZT圧電体層5の矢印方向が結晶の<100>(あるいは<001>)方向あるいは<111>方向に向いていると、Pt下部電極層4とPt上部電極層6との間に直流電圧を印加したときに、歪みが効率よく発生する。
図7の圧電アクチュエータの製造方法を図8のフローチャートを参照して説明する。
始めに、ステップ801を参照すると、単結晶シリコン基板1を熱酸化して酸化シリコン層2を形成する。尚、熱酸化処理の代りに化学的気相成長(CVD)法を用いてもよい。
次に、ステップ802を参照すると、酸化シリコン層2上にスパッタリング法によってTi密着層3を形成する。引き続いて、Ti密着層3上にスパッタリング法によってPt下部電極層4を形成する。
次に、ステップ803を参照すると、図8のステップ804のアーク放電イオンプレーティング(ADRIP)本処理の前処理としてADRIP装置に投入して真空雰囲気において約500℃まで単結晶シリコン基板1、酸化シリコン層2、Ti密着層3及びPt下部電極層4よりなるウェハを加熱する。このADRIP前処理については後述する。
次に、ステップ804を参照すると、引き続いてADRIP装置においてPt下部電極層4上にADRIP法によってPZT圧電体層5を形成する。このPZT圧電体層5の形成のADRIP処理については、後述する。
最後に、ステップ805を参照すると、PZT圧電体層5上にスパッタリング法によってPt上部電極層6を形成する。
尚、ステップ802、805におけるスパッタリング法の代りに、電子ビーム(EB)蒸着法、ADRIP法を用いてもよい。
図8のステップ804におけるADRIP法は、スパッタリング法に比較してPZT圧電体層の堆積速度が大きいという利点を有し、また、有機金属化学的気相成長(MOCVD)法に比較して基板温度が低く、製造コストが低く、有毒な有機金属ガスを用いないので、対環境性がよく、また、原料の利用効率がよいという利点を有する。このADRIP法に用いられるADRIP装置を図9を参照して説明する(参照:特許文献1の図1)。
図9において、真空チャンバ901内の下方側に、Pb、Zr、Tiを独立に蒸発させるためのPb蒸発源902−1、Zr蒸発源902−2、Ti蒸発源902−3が設けられる。Pb蒸発源902−1、Zr蒸発源902−2、Ti蒸発源902−3上には、蒸気量センサ902−1S、902−2S、902−3Sが設けられている。真空チャンバ901内の上方側に、ウェハ903aを載置するためのヒータ付ウェハ回転ホルダ903が設けられる。
また、真空チャンバ901の上流側には、アーク放電を維持するために不活性ガスたとえばArガスを導入する圧力勾配型プラズマガン904及びPZT圧電体層5の酸素原料となる酸素(O2)ガスを導入するO2ガス導入口905が設けられる。他方、真空チャンバ901の下流側には、真空ポンプ(図示せず)に接続された排気口906が設けられる。
図9のADRIP装置において、ADRIP前処理ステップ803を行う場合、Pb蒸発源902−1、Zr蒸発源902−2、Ti蒸発源902−3を停止すると共に、圧力勾配プラズマガン904のArガス及びO2ガス導入口905のO2ガスを停止する。他方、排気口906を介して真空ポンプで真空チャンバ901を真空雰囲気にした上で、ヒータ付ウェハ回転ホルダ903によってウェハ903aを約500℃まで加熱する。
図9のADRIP装置においてADRIP本処理ステップ804を行う場合、圧力勾配型プラズマガン904によって導入されたArガス及びO2ガス導入口によって導入されたO2ガスの高密度、低電子温度のアーク放電プラズマ907が発生し、真空チャンバ901内に多量の酸素ラジカルを主とする活性原子、分子が生成される。他方、Pb蒸発源902−1、Zr蒸発源902−2及びTi蒸発源902−3より発生したPb蒸気、Zr蒸気及びTi蒸気が上述の活性原子、分子と反応し、所定温度たとえば約500℃に加熱されたウェハ903a上に付着し、この結果、組成比xのPbZrxTi1-xO3が形成されることになる。尚、Pb蒸気、Zr蒸気、Ti蒸気は蒸気量センサ902−1S、902−2S、902−3Sによって検出される。
特開2003−81694号公報
しかしながら、上述の従来の製造方法において製造された圧電アクチュエータにおいては、Pt下部電極層4とPZT圧電体層5との間の印加される印加電圧は大きい程、圧電アクチュエータは大きく動作するが、大きな印加電圧はPZT圧電体層5の絶縁破壊を招く。この絶縁破壊を招く印加電圧は絶縁破壊電圧と呼ばれるが、上述の従来の製造方法によって製造された圧電アクチュエータにおいては、PZTの膜厚1μm当りの絶縁破壊電圧が20V以下と小さく(以下、絶縁破壊電圧とは膜厚1μm当りの電圧を意味する)、この結果、印加電圧を大きくできず、製造された圧電アクチュエータの信頼性が低いという課題があった。
上述の課題を解決するために、本発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、Pt下部電極層が形成されたウェハを酸素雰囲気で加熱してPt下部電極層を(111)面により多く配向させる酸素雰囲気下加熱処理工程と、酸素雰囲気下加熱処理工程後にアーク放電イオンプレーティング法によってPb蒸発量、Zr蒸発量及びTi蒸発量を制御して下部電極層上に組成比xのPbZrxTi1-xO3よりなるPZT圧電体層を形成する圧電体層形成工程とを具備するものである。これにより、PZT圧電体層の絶縁破壊電圧が大きくなる。

本発明によれば、絶縁破壊電圧が大きくなるので、印加電圧を大きくでき、製造された圧電アクチュエータの信頼性を高くできる。
本発明に係る圧電アクチュエータの製造方法の第1の実施の形態を説明するためのフローチャートである。 本発明に係る圧電アクチュエータの製造方法の第2の実施の形態を説明するためのフローチャートである。 図1、図2の製造方法による圧電アクチュエータのPZT圧電体層の絶縁破壊電圧特性を示すグラフである。 図3のPb蒸発量/Ti蒸発量比とPbZrxTi1-xO3の組成比Pb/(Zr+Ti)との関係を示すグラフである。 PZTの結晶構造を示す図である。 PZTのX線解析パターンを示すグラフである。 従来の圧電アクチュエータを示す断面図である。 図7の圧電アクチュエータの製造方法を説明するためのフローチャートである。 図8のADRIP前処理ステップ803及びADRIP本処理ステップ804に用いられるADRIP装置を示す図である。
図1は本発明に係る圧電アクチュエータの製造方法の第1の実施の形態を説明するためのフローチャートである。図1においては、図8の真空雰囲気によるADRIP前処理ステップ803及びADRIP本処理ステップ804の代りに、酸素雰囲気によるADRIP前処理ステップ101及びADRIP本処理ステップ102を設けてある。
図8に示す従来の圧電アクチュエータの製造方法と同様に、ステップ801、802を参照すると、単結晶シリコン基板1を熱酸化して酸化シリコン層2を形成し、酸化シリコン層2上にスパッタリング法によってTi密着層3を形成し、引き続いて、Ti密着層3上にスパッタリング法によってPt下部電極層4を形成する。
次に、ステップ101を参照すると、図1のステップ101のADRIP本処理の前処理として酸素雰囲気において約500℃までウェハを加熱する。すなわち、単結晶シリコン基板1、酸化シリコン層2、Ti密着層3及びPt下部電極層4よりなるウェハ903aを図9のADRIP装置に投入し、約0.1Pa以上の酸素雰囲気にすると共に、ヒータ付ウェハ回転ホルダ903によって約500℃まで加熱する。
次に、ステップ102を参照すると、引き続き、図9に示すADRIP装置において、Pb蒸発源902−1のPb蒸発量、Zr蒸発源902−2のZr蒸発量及びTi蒸発源902−3のTi蒸発量を制御してPbZrxTi1-xの組成比が1:x:1-xとなるようにする。この場合、
Pb蒸発量/Ti蒸発量≦1.5
となるように制御する。
最後に、図8に示す従来の製造方法と同様、ステップ805を参照すると、PZT圧電体層5上にスパッタリング法によってPt上部電極層6を形成する。
図2は本発明に係る圧電アクチュエータの製造方法の第2の実施の形態を説明するためのフローチャートである。図2においては、ADRIP装置内で行われる図1の酸素雰囲気によるADRIP前処理ステップ101の代りに、電気炉内で行われる酸素雰囲気によるADRIP前処理ステップ201及びADRIP装置内で行われる真空雰囲気によるADRIP前処理ステップ202を設けてある。
すなわち、ステップ201を参照すると、図2のステップ202のADRIP本処理の前処理として、単結晶シリコン基板1、酸化シリコン層2、Ti密着層3及びPt下部電極層4よりなるウェハ903aを電気炉に投入し、約0.1Pa以上の酸素雰囲気にすると共に、約500℃まで加熱して15分間以上保持する。その後、電気炉から取り出す。これにより、酸素アニールを行う。
次に、ステップ202を参照すると、図8のステップ803と同様に、ウェハ903aを図9に示すADRIP装置に投入する。次いで、ADRIP装置を真空雰囲気にすると共に、ヒータ付ウェハ回転ホルダ903によって約500℃まで加熱する。
以後、図1の場合と同様に、ステップ102においてADRIP装置においてPZT圧電体層5を成膜し、ステップ805において、Pt上部電極層6を形成する。
図3は図1、図2の製造方法による圧電アクチュエータのPZT圧電体層の絶縁破壊電圧特性を示すグラフである。尚、絶縁破壊電圧は図7の下部電極層4とPt上部電極層6との間に直流電圧VDCを印加し、これらの電極間に流れる電極間電流Iを測定することにより評価する。たとえば、ある直流電圧VDCを1分間印加し、1Vステップで直流電圧VDCを上昇させ、上述の電極間電流Iが50μAに到達したときに絶縁破壊が生じたとみなし、VBD=VDCとする。
図3に示すように、本発明において、酸素雰囲気によるADRIP前処理により絶縁破壊電圧は高くなった。下部電極層4のPtは酸素雰囲気中の加熱で(111)面により多く配向するようになる。この上にPZT圧電体層5が積まれるので、下部電極層4の結晶配向が影響することで絶縁破壊電圧が改善されたものと考えられる。また、酸素雰囲気によるADRIP前処理を行いかつADRIP本処理において組成比Pb/(Zr+Ti)≦1.2とした場合には、絶縁破壊電圧VBDは22V/μm以上と高かったのに対し、従来のごとく、真空雰囲気によるADRIP前処理かつADRIP本処理においてPb蒸発量/Ti蒸発量をたとえば約1とした場合には、絶縁破壊電圧VBDは15V/μm以下と低かった。このように、本発明によれば、絶縁破壊電圧VBDは高くなる。
図4は図3のPb蒸発量/Ti蒸発量比とPbZrxTi1-xO3の組成比Pb/(Zr+Ti)との関係を示すグラフである。図4に示すように、Pb蒸発量/Ti蒸発量比が1.5以下の場合には、PbZrxTi1-xO3の組成比Pb/(Zr+Ti)は1.2以下であることが認められる。従って、上述の第1、第2の実施の形態における圧電体層形成工程によって形成されるPZTの組成比Pb/(Zr+Ti)は1.2以下となる。
1:単結晶シリコン基板
2:酸化シリコン層
3:Ti密着層
4:Pt下部電極層
5:PZT圧電体層
6:Pt上部電極層
901:真空チャンバ
902−1:Pb蒸発源
902−2:Zr蒸発源
902−3:Ti蒸発源
902−1S、902−2S、902−3S:蒸気量センサ
903:ヒータ付ウェハ回転ホールダ
903a:ウェハ
904:圧力勾配型プラズマガン
905:O2ガス導入口
906:排気口

Claims (3)

  1. Pt下部電極層が形成されたウェハを酸素雰囲気で加熱して前記Pt下部電極層を(111)面により多く配向させる酸素雰囲気下加熱処理工程と、
    前記酸素雰囲気下加熱処理工程後にアーク放電イオンプレーティング法によってPb蒸発量、Zr蒸発量及びTi蒸発量を制御して前記Pt下部電極層上にPbZrxTi1-xO3よりなるPZT圧電体層を形成する圧電体層形成工程と
    を具備する圧電アクチュエータの製造方法。
  2. 前記圧電体層形成工程におけるPbZrxTi1-xO3の組成比Pb/(Zr+Ti)を1.2以下とした請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
  3. さらに、前記酸素雰囲気下加熱処理工程と前記圧電体層形成工程との間に、前記ウェハを真空雰囲気で加熱する真空雰囲気下加熱処理工程を具備する請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。


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