JP5721401B2 - 歯科用アルジネート印象材およびこれに用いる基材ペースト - Google Patents

歯科用アルジネート印象材およびこれに用いる基材ペースト Download PDF

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Description

本発明は、歯科用アルジネート印象材およびこれに用いる基材ペーストに関するものである。
歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、まず、支台歯等の型を取る。次に、その採得された型を用いて、石膏製等の模型を作製する。そして、その模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化材料を印象材と呼んでいる。この印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいは、ポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。
アルジネート印象材は、使用に際して、アルギン酸塩、硫酸カルシウム等のゲル化反応剤や、水等の主成分を混練して使用される。そして、使用前の状態では、アルジネート印象材は、保存性を確保するために、水を除いた固形分を粉末状とした粉末タイプ、あるいは、アルギン酸塩と水とを主成分とするペースト(基材ペースト)と、ゲル化反応剤を主成分とするペースト(硬化剤ペースト)とを組み合わせて用いるペーストタイプ、がある。そして、使用に際して、粉末タイプでは、粉末と水とを混練し、ペーストタイプでは、2種類のペーストを混練する。
アルジネート印象材を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。まず、歯列を模した印象用トレーに、アルジネート印象材を構成する各成分を混練したものを盛り付ける。次に、口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。そして、アルジネート印象材が硬化した後に、アルジネート印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。
硬化したアルジネート印象材(硬化物)は多量の水を含むため、印象採取後に硬化物を外気中に放置すると、硬化物から水分が蒸発して、硬化物の形状が徐々に変形してしまう。そして、このような変形は印象精度の低下を招くことになる。このため、歯科治療の現場では、印象採取後、直ちに型剤用石膏を硬化物に注入して石膏模型を作製したり、あるいは、湿度が80%以上に維持された保湿箱に硬化物を配置して、硬化物からの水の蒸発を防ぐことが行われている。
一方、アルジネート印象材としては様々なものが提案されており、たとえば、印象材性状の改善等を目的として、分子量を分子内のヒドロキシル基数で割った値が40未満、かつ、1分子中のヒドロキシ基数が3個以上の有機ヒドロキシ化合物を含むアルジネート印象材が本出願人により提案されている(特許文献1、2)。また、硬化物からの水分蒸発を防ぐために、キシリットなどの糖アルコールや、ショ糖脂肪酸エステルなどを配合したアルジネート印象材が提案されている(特許文献3,4)。
特開2003−171219号公報 特開2004−269385号公報 特開平10−139615号公報(請求項1、段落番号0014、表1等) 特開平10−139616号公報(請求項1、段落番号0016、表1等)
しかしながら、印象採取後、直ちに型剤用石膏を硬化物に注入し石膏模型を作製する作業は、患者の診療時間帯中に、患者の歯科治療と同時並行して行う必要がある。このため、歯科医師や歯科衛生士の作業負担が非常に大きい。また、湿度が80%以上に維持された保湿箱に硬化物を配置して、硬化物からの水の蒸発を防ぐ方法も、硬化物が放置できる時間が僅かに延長できる程度であるため、抜本的な問題の解決にはならない。
また、特許文献3,4に記載のアルジネート印象材では、保湿箱を利用すれば、数時間程度放置した硬化物を用いても印象精度の低下を抑制できると期待される。しかしながら、1日に多くの患者の印象採取が行われることを考慮すれば、毎日、患者の診療時間終了後に、歯科医師や歯科衛生士が、その日に作製した多数の硬化物を用いて多数の石膏模型を作製する作業を行うことになる。このような作業は、歯科医師や歯科衛生士に対して多大な負担を与えることになる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来の歯科用アルジネート印象材と比較して印象採取後に硬化物をより長時間放置しても、保湿性に優れ、かつ、印象精度の低下が少ない歯科用アルジネート印象材およびこれに用いる基材ペーストを提供することを課題とする。
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明の歯科用アルジネート印象材は、ゲル化反応剤と難水溶性有機溶媒とを主成分として含む硬化剤ペースト、および、アルギン酸塩と非還元糖と水とを主成分として含む基材ペースト、を有し、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする。
第二の本発明の歯科用アルジネート印象材は、アルギン酸塩とゲル化反応剤と非還元糖とを含む粉末成分、を有し、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする。
第三の本発明の歯科用アルジネート印象材は、アルギン酸塩とゲル化反応剤とを含む粉末成分、および、非還元糖と水とを含む水溶液、を有し、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする。
第四の本発明の歯科用アルジネート印象材は、アルギン酸塩とゲル化反応剤と非還元糖とを含む粉末成分、および、非還元糖と水とを含む水溶液、を有し、アルギン酸塩1質量部に対して、粉末成分および水溶液の双方に含まれる非還元糖の総量が1質量部〜20質量部の範囲内であり、粉末成分および水溶液の双方に含まれる非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする。
第一〜第四の本発明の歯科用アルジネート印象材の実施態様は、非還元糖が、二糖類であることが好ましい。
第一〜第四の本発明の歯科用アルジネート印象材の他の実施態様は、非還元糖が、トレハロースであることが好ましい。
本発明の歯科用アルジネート印象材用の基材ペーストは、アルギン酸塩と、非還元糖、水と、を主成分として含み、上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする。
本発明によれば、従来の歯科用アルジネート印象材と比較して印象採取後に硬化物をより長時間放置しても、保湿性に優れ、かつ、印象精度の低下が少ない歯科用アルジネート印象材およびこれに用いる基材ペーストを提供することができる。
適合歪の評価に用いた一対の金型について示す模式図である。 適合歪の評価方法を説明する模式図である。
本実施形態の歯科用アルジネート印象材(以下、「アルジネート印象材」と略す場合がある。)は、アルギン酸塩と、ゲル化反応剤と、非還元糖と、を含み、かつ、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれることを特徴とする。
本実施形態のアルジネート印象材を用いて印象を採取した場合、硬化物の保湿性に優れるため、硬化物からの水分の蒸発が大幅に抑制される。このため、硬化物を長時間放置しても印象精度が低下し難い。それゆえ、硬化物を湿度が80%以上に維持された保湿箱中に入れて保管すれば、印象の採取から1日以上経過しても印象精度の低下を良好に抑制できる。この場合、たとえば、2、3日〜数日毎単位で、まとめて石膏模型を作製することで作業効率を更に改善したり、硬化物を歯科技工士に送付して、歯科技工士に石膏模型を作製する作業を代行してもらうことも極めて容易になる。これに加えて、従来のアルジネート印象材を用いて印象を採取した場合と比べて、硬化物表面が非常に滑らとなり、長時間放置してもこの状態が維持される傾向にあるため、従来よりも印象精度を向上させることも容易である。
以上に説明した効果が得られる原因は、明らかではないが、以下に説明するように非還元糖を用いているためであると推定される。まず、非還元糖は、水分子との親和性(水和力)が高い。このため、本実施形態のアルジネート印象材を用いて印象を採取するために、アルギン酸塩と、ゲル化反応剤と、非還元糖と、を少なくとも含む成分および水を少なくとも混練した際に、非還元糖は、水分子と共に分子集合体を構成すると考えられる。そして、この分子集合体が、アルギン酸塩の分子鎖間、および/または、アルギン酸塩の分子鎖内に入り込むことにより、水酸基やエーテル結合等を有するアルギン酸塩分子と分子集合体との間に水素結合が形成され、その結果、水分子が強固に固定されると考えられる。すなわち、多量の水分を含む硬化物中に、水分子が強固に固定されるため、硬化物から水分が蒸発することが抑制されると考えられる。そして、結果として、硬化物は、優れた保湿性を有することになると思われる。
本実施形態のアルジネート印象材は、これを使用に際して混練した混練物の状態となった後において、アルギン酸塩と、ゲル化反応剤と、非還元糖と、を含み、かつ、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内となるのであれば、本実施形態のアルジネート印象材の使用前の態様としては、特に限定されるものではない。しかしながら、本実施形態のアルジネート印象材は、使用前の状態においては、通常、ペーストタイプ、および、粉末タイプのいずれかの態様であることが好ましく、混練装置との併用により混練作業の省力化・自動化の極めて容易なペーストタイプの態様であることが特に好ましい。
ここで、ペーストタイプの場合、本実施形態のアルジネート印象材は、ゲル化反応剤と、難水溶性有機溶媒とを主成分として含む硬化剤ペースト、および、アルギン酸塩と、水と、非還元糖とを主成分として含む基材ペースト、から構成されることが好ましい。この場合、基材ペースト中において、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で配合される。そして、アルジネート印象材の使用に際しては、硬化剤ペーストと、基材ペーストとを混練して使用する。混練は手作業により実施することもできるが、通常は、混練作業の省力化・自動化の観点から専用の混練装置を用いて実施することが好ましい。また、硬化剤ペーストと基材ペーストとの混合比率は特に制限されるものではないが、通常は、硬化剤ペーストが1質量部に対して、基材ペーストは1質量部〜4質量部の範囲内であることが好ましい。また、これら2種類のペーストは、保存性を確保するため、通常は、アルミパックなど包装袋や収納容器等の公知の収納部材を利用して密封保存される。なお、本実施形態のアルジネート印象材を、歯科医師や歯科技工士などの製品利用者に提供する場合、一般的には、基材ペーストを含む収納部材および硬化剤ペーストを含む収納部材をセットで提供する態様、あるいは、基材ペーストを含む収納部材および硬化剤ペーストを含む収納部材を各々個別に提供する態様、のいずれでもよい。また、硬化剤ペーストや基材ペーストには、必要に応じてその他の添加剤を添加することもできる。これらの添加剤については後述する。
また、粉末タイプの場合、本実施形態のアルジネート印象材は、少なくともアルギン酸塩とゲル化反応剤とを含む粉末からなることが好ましい。この場合、粉末のみに非還元糖が含まれていることが好ましい。
粉末のみに非還元糖が含まれる場合、粉末タイプの本実施形態のアルジネート印象材は、少なくとも粉末成分から構成される。この場合、粉末中において、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で配合される。そして、粉末タイプのアルジネート印象材の使用に際しては、粉末と、水とを混練して使用する。ここで、水は、本実施形態のアルジネート印象材を構成する成分、すなわち、製品パッケージに含まれるものであってもよいが、通常は、本実施形態のアルジネート印象材の利用者が、適宜調達することが好ましい。なお、水の代わりに後述する各種の添加剤を溶解した水溶液を用いる場合、粉末タイプの本実施形態のアルジネート印象材は、通常、粉末成分と水溶液とから構成される。また、粉末には必要に応じて後述する各種の添加剤を添加することもできる。
また、非還元糖が、水に溶解された水溶液の態様として利用される場合、あるいは、粉末および水溶液の双方に含まれる場合、粉末タイプの本実施形態のアルジネート印象材は、粉末成分と、水溶液とから構成される。そして、アルジネート印象材の使用に際しては、粉末と、水溶液とを混練して使用する。この場合、粉末成分中のアルギン酸塩の含有割合および水溶液中の非還元糖の含有割合を考慮して、粉末成分と水溶液との混合比率は、これらの両成分の混練物中において、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内となるように選択される。ここで、混合比率については、混合比率情報表示媒体に表示することができる。この混合比率情報表示媒体としては、i)段ボール箱等からなる製品パッケージ、ii)紙媒体および/または電子データとして提供される製品の使用説明書、iii)粉末を密封状態で保管する収納部材(容器、包装袋等)、iv)水溶液を密封状態で保管する収納部材(容器、包装袋等)、v)紙媒体および/または電子データとして提供される製品カタログ、vi)製品とは別に電子メールや郵便物等により製品利用者に送付される通信文が利用できる。また、混合比率は、上記i)〜vi)に示す以外の態様により製品利用者が認知しうる態様で、製品利用者に提供されてもよい。ここで、粉末を含む収納部材および水溶液を含む収納部材を製品利用者に提供する場合、これら収納部材に対して、必要に応じて製品パッケージや紙媒体の使用説明書が付加される。なお、粉末および水溶液には、必要に応じて後述する添加剤を添加することもできる。
次に、本実施形態のアルジネート印象材を構成する各成分、および、アルジネート印象材の使用に際して、付加的に用いられるその他の成分について説明する。
−アルギン酸塩−
アルギン酸塩としては、従来のアルジネート印象材に利用されている公知のアルギン酸塩であれば特に制限無く利用できる。アルギン酸塩としては、たとえば、i)アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸アルカリ金属塩、ii)アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸アンモニウム塩等が挙げられる。これらのアルギン酸塩の中でも、入手容易性、取扱い容易性、硬化物の物性等の観点から、アルギン酸アルカリ金属塩を用いることが好ましい。また、アルギン酸塩は、2種類以上を混合して用いることもできる。
アルギン酸塩は、通常、混練物中において2重量%〜10重量%の範囲内で含まれていることが好ましい。したがって、ペーストタイプや粉末タイプの本実施形態のアルジネート印象材では、アルギン酸塩の含有量が、混練物中において上記範囲内となるように、基材ペーストや、粉末に含まれるアルギン酸塩の量を調整する。また、アルギン酸塩の分子量は特に限定されないが、一般的には、アルギン酸塩を1重量%含む水溶液の粘度が50cps〜100cpsの範囲内となる分子量が好ましい。
なお、アルギン酸塩と水とを含む混合組成物においては、通常、経時的な粘度低下が生じる傾向にある。このような粘度の経時的低下は、アルギン酸塩と水とを主成分として含む基材ペーストの使用可能な期間(製品寿命)を短くしてしまう。しかしながら、本実施形態のアルジネート印象材が、ペーストタイプである場合、基材ペーストには、アルギン酸塩および水に加えて、非還元糖も主成分として含まれる。そして、基材ペースト中において、アルギン酸塩および水に加えて、非還元糖が配合される場合には、基材ペーストの経時的な粘度低下を抑制し、基材ペーストの製品寿命を大幅に延長することが可能である。
このような基材ペーストの経時的な粘度抑制効果が得られる理由としては、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、アルギン酸塩と水とを含む系中においては、通常、アルギン酸塩は負電荷を帯びているため、アルギン酸塩の凝集は生じないと考えられる。しかしながら、アルギン酸塩を構成するアルカリ金属等のカウンターイオンが、加水分解によって水素イオンに置換した場合、アルギン酸分子鎖間で水素結合が形成される。このため、アルギン酸同士が凝集してアルギン酸塩と水とを含む水溶液の経時的な粘度低下が生じると考えられる。一方、水分子に対する親和性の高い非還元糖は、その周囲に水分子を強く引き付けることで、水分子と共に分子集合体を形成する。このため、系中に、アルギン酸塩および水に加えて、非還元糖がさらに存在する場合、この分子集合体が、加水分解により生じたアルギン酸の分子鎖間に入り込み、アルギン酸同士の凝集を抑制するものと考えられる。なお、基材ペーストの製品寿命の大幅な改善という観点で、このような経時的な粘度低下を抑制する効果は、基材ペースト中において、アルギン酸塩1質量部に対して、非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で配合されていれば、安定的に得ることができる。
−ゲル化反応剤−
ゲル化反応剤としては、従来のアルジネート印象材に利用されている公知のゲル化反応剤であれば特に制限無く利用できる。ゲル化反応剤としては、一般的には2価以上の金属化合物が利用でき、たとえば、i)硫酸カルシウム2水塩、硫酸カルシウム半水塩、無水硫酸カルシウム等の硫酸カルシウム、ii)カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、チタン、ジルコニウム、スズ等の2価以上の金属を含む酸化物、iii)前記ii)に示す2価以上の金属を含む水酸化物、などが挙げられる。酸化物および水酸化物の好適な具体例としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化鉄等が挙げられる。
これらのゲル化反応剤は、2種類以上を混合して用いることができる。また、混練物の硬化性や、硬化した硬化物の弾性等の物性を良好なものとする観点からは、ゲル化反応剤としては、硫酸カルシウム100質量部に対して、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛から選択される少なくとも一方の酸化物、または、両者の混合物を、2質量部〜40質量部の範囲内で配合したものを用いることが好ましい。
ゲル化反応剤の配合量としては特に限定されないが、アルギン酸塩100質量部に対して10質量部〜2000質量部の範囲内が好ましく、100質量部〜1000質量部の範囲内がより好ましい。
なお、ゲル化反応剤は、水の存在下で、ゲル化反応剤とアルギン酸塩とが反応してゲル化することで硬化物を形成する機能を有する。ここで、水は、カルシウムイオン等の多価金属イオンをゲル化反応剤から溶出させると共に、ゲル化反応剤とアルギン酸塩との反応を促進する機能を有し、硬化物をゲル状に保持する機能を有する。
−水−
水は、ペーストタイプの場合は、基材ペーストを構成する必須成分として用いられ、粉末タイプの場合は、粉末から混練物を形成する際に用いられる。また、粉末タイプのアルジネート印象材が、粉末と水溶液とから構成される場合は、当該水溶液の主成分として水が用いられる。水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水等が利用できる。水の使用量は、混練物を作製した際に、当該混練物中において、アルギン酸塩100質量部に対して、100質量部〜4000質量部の範囲内で用いることが好ましく、500質量部〜2000質量部の範囲内で用いることがより好ましい。
−非還元糖−
非還元糖としては、還元性を示さない公知の糖類であれば特に制限無く利用できる。ここで、「還元性」とは、アルカリ性水溶液中で、銀や銅等の重金属イオンに対して還元作用を示す性質を意味する。還元性を有する糖類は、重金属イオンに対する還元作用を利用したトレンス試薬、ベネジクト試薬、あるいは、フェーリング試薬によって検出される。これに対して、本実施形態のアルジネート印象材に用いられる非還元糖は、これら試薬で検出できない糖類を意味する。
上述した特性を示す非還元糖としては、トレハロースやスクロース等の二糖類、ラフィノース、メレジトース、スタキオース、シクロデキストリン類などのオリゴ糖類など、公知の非還元糖が利用できる。しかし、非還元糖の分子量が大き過ぎる場合には、アルギン酸塩と非還元糖とが水素結合を形成して凝集してしまう可能性がある。したがって、この観点からは、非還元糖としてはグリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成される糖を用いることが好ましく、二糖類を用いることがより好ましい。さらに、印象精度および保湿性の観点からは二糖類の中でも、トレハロースが特に好ましい。
非還元糖の配合量は、アルギン酸塩1質量部に対して、1質量部〜20質量部の範囲内であることが必要であり、2質量部〜15質量部の範囲内であることが好ましく、4質量部〜12質量部の範囲内であることがより好ましい。アルギン酸塩1質量部に対する非還元糖の配合量を1質量部以上とすることにより、印象採取後に硬化物をより長時間放置しても、十分な保湿性が得られ、かつ、印象精度の低下を抑制することができる。また、アルギン酸塩1質量部に対する非還元糖の配合量を20質量部以下とすることにより、印象採取に際して、非還元糖が、アルギン酸塩のゲル化反応を阻害するのを抑制することができる。
−難水溶性有機溶媒−
本実施形態のアルジネート印象材がペーストタイプである場合、硬化剤ペーストの主成分として難水溶性有機溶媒が用いられる。難水溶性有機溶媒は、ゲル化反応剤を含む硬化剤ペーストのペースト化に用いられる。すなわち、この難水溶性有機溶媒は、ゲル化反応剤と混合することで、ペーストを形成する機能を有する。ゲル化反応剤は、一般的に水と反応すると硬化する性質を有するため、ゲル化反応剤をペースト状態で長期にわたって安定的に保存するためには、ペースト化に用いる溶媒としては、含水し難い難水溶性の溶媒、すなわち、難水溶性有機溶媒を用いる。ここで、「難水溶性」とは、温度20℃の水100gに対する溶解度が5g以下の液体を意味する。なお、難水溶性有機溶媒の溶解度は、3g以下が好ましい。難水溶性有機溶媒としては、上記溶解度を示す液体であれば公知の液体が利用できる。このような液体としては、たとえば、炭化水素化合物、脂肪族アルコール、環式アルコール、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸塩エステル、疎水性重合体等が挙げられる。以下、これら各種の難水溶性有機溶媒の好適な例を示す。
まず、炭化水素化合物としては、鎖式化合物または環式化合物のいずれも使用できる。炭化水素化合物としては、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ケロシン、2,7−ジメチルオクタン、1−オクテン糖の脂肪族鎖状炭化水素化合物、シクロヘプタン、シクロノナン等の脂環式炭化水素化合物、液状飽和炭化水素の混合物である流動パラフィン等が挙げられる。
脂肪族アルコールとしては、たとえば、1−ヘキサノール、1−オクタノール等の飽和脂肪族アルコール、シトロネロール、オレイルアルコール等の不飽和脂肪族アルコールが挙げられる。環式アルコールとしては、たとえば、ベンジルアルコール、メタ−クレゾール等が挙げられる。
脂肪酸としては、たとえば、ヘキサン酸、オクタン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸を挙げることができる。また、脂肪酸エステルとしては、オクタン酸エチル、フタル酸ブチル、オレイン酸グリセリド、オリーブ油、ごま油等の植物油、肝油、鯨油等の動物脂等が挙げられる。疎水性重合体としては、ポリシロキサン(いわゆるシリコーンオイル)等が挙げられ、具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリフェニルハイドロジェンシロキサン等を挙げることができる。
そして、製造コスト、生体に対する為害性、歯牙の印象を採取する際の味覚への影響等を考慮した場合、以上に列挙した難水溶性有機溶媒の中でも、炭化水素化合物または疎水性重合体を用いることがより好ましく、流動パラフィンまたはシリコーンオイルを用いることが特に好ましい。また、難水溶性有機溶媒は、2種類以上を混合して用いてもよい。
難水溶性有機溶媒の配合量は特に制限されるものではないが、一般的に、ゲル化反応剤100質量部に対して、10質量部〜200質量部の範囲内が好ましく、20質量部〜100質量部の範囲内がより好ましい。
−添加剤−
本実施形態のアルジネート印象材には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば、ゲル化調整剤、充填剤、界面活性剤、無機フッ素化合物、アミノ酸化合物、不飽和カルボン酸重合体、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤等が挙げられる。
なお、本実施形態のアルジネート印象材が、ペーストタイプである場合、これら添加剤は、基材ペーストおよび硬化剤ペーストのいずれか一方、または、双方に適宜添加することができる。しかしながら、充填剤は、基材ペーストおよび硬化剤ペーストの双方に添加することが好ましく、ゲル化調整剤、界面活性剤は硬化剤ペーストに添加されることが好ましい。
ゲル化調整剤を用いる場合には、アルギン酸塩とゲル化剤との反応速度を調節(遅延)させることができる。このため、ペーストタイプ等ではアルジネート印象材を構成する各成分を混合・練和してから口腔内での印象採取までに要する作業時間、あるいは、粉末タイプ等ではアルジネート印象材を構成する各成分と水とを混合・練和してから口腔内での印象採取までに要する作業時間に略対応させて、硬化時間を調整することが容易となる。
ゲル化調整剤としては、公知のゲル化調整剤を制限無く利用できる。ゲル化調整剤としては、一般的には、i)リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のアルカリ金属を含むリン酸塩、ii)蓚酸ナトリウム、蓚酸カリウム等のアルカリ金属を含む蓚酸塩、iii)炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属を含む炭酸塩を挙げることができる。ゲル化調整剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
ゲル化調整剤の配合量は、他の配合成分や要求される硬化時間等に応じて適宜選択できるが、アルギン酸塩100質量部に対して1質量部〜30質量部の範囲内が好ましく、3質量部〜15質量部の範囲内がより好ましい。ゲル化調整剤の配合量を上記範囲内とすることにより、作業時間に略対応させて硬化時間を調整することが容易となることに加えて、硬化物を十分に硬化させることができる。
また、硬化物の物性を調整するために、充填剤を用いることが好ましい。充填剤としては、珪藻土、タルク等の粘度鉱物を用いることが好ましく、シリカ、アルミナ等の金属または半金属の酸化物も用いることができる。充填剤の配合量は特に制限されるものではないが、アルギン酸塩100質量部に対して50質量部〜2000質量部の範囲内が好ましく、100質量部〜1000質量部の範囲内がより好ましい。
また、種々の目的、たとえば、粉塵抑制、水に対する練和性の改良、あるいは、硫酸カルシウム等を主成分とするゲル化剤成分をペースト化すること等を目的として、界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤としては、公知の界面活性剤であれば特に制限なく利用でき、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、および、非イオン界面活性剤、のいずれも使用できる。
陰イオン界面活性剤としては、たとえば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等を挙げることができる。陽イオン界面活性剤としては、たとえば、アルキルアミン塩、四級アンモニウム塩等を挙げることができる。両性界面活性剤としては、たとえば、アミノカルボン酸塩等を挙げることができる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖エステル、ポリオキシジエチレンアルキルアミン、ポリシロキサン類とポリオキシエチレン類とのブロックポリマー等が挙げられる。
界面活性剤の配合量は特に制限されるものではないが、アルギン酸塩100質量部に対して0.1質量部〜300質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜100質量部の範囲内であることがより好ましい。
また、印象採取時や石膏模型製造時の石膏模型の表面荒れを防ぐ観点からは、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等の無機フッ素化合物や、アミノ酸/ホルムアルデヒド縮合体等のアミノ酸化合物を配合することが好ましい。また、ペーストタイプ等ではアルジネート印象材を構成する各成分を混合・練和した際、あるいは、粉末タイプ等ではアルジネート印象材を構成する各成分と水とを混合・練和した際の混練物の経時的な粘度の変化速度の制御を容易とするために、不飽和カルボン酸重合体を配合することが好ましい。また、香料、着色料、pH調整剤、抗菌剤、防腐剤等から選択されるいずれか1種または複数種の添加剤を必要に応じて配合することができる。
−製造方法−
本実施形態のアルジネート印象材の製造方法としては特に限定されず、本実施形態のアルジネート印象材が市場に提供される形態に応じて公知の製造方法が適宜選択できる。たとえば、本実施形態のアルジネート印象材が、粉末タイプの場合、粉末を構成する各成分を任意の順番で混合・攪拌することで、均一かつムラの無い粉末を得ることができる。また、粉末タイプの本実施形態のアルジネート印象材が、粉末に加えて水溶液も有する場合、水中に、水溶液を構成する水以外の各成分を任意の順番で分散・溶解させることができる。
また、本実施形態のアルジネート印象材が、ペーストタイプの場合、ペースト製造に利用できる公知の攪拌混合機を用いて、基材ペーストおよび硬化剤ペーストを製造することができる。ここで、攪拌混合機としては、たとえば、ボールミルのような回転容器型混合混練機、リボンミキサー、コニーダー、インターナルミキサー、スクリューニーダー、ヘンシェルミキサー、万能ミキサー、レーディゲミキサー、バタフライミキサー、等の水平軸または垂直軸を有する固定容器型の混合混練機を利用することができる。また、基材ペーストの製造に際して、非還元糖などのような水に対して相対的に溶解性の高い成分を溶解させる最初の工程を実施した後、続いて、アルギン酸塩などのような水に対して相対的に溶解性の低い成分を順次または一括して溶解させる後工程を実施する場合、最初の工程の実施に際して、溶解対象となる成分や、この成分が溶解した溶液に強いせん断力が加わらない攪拌装置を利用することもできる。このような攪拌装置としては、各種攪拌翼を備えた可搬型攪拌機、同堅型攪拌機、同側面攪拌機、管路攪拌機等を用いることができる。さらに、基材ペーストや硬化剤ペーストの製造に際しては、上述した各種の混合混練機を2種類以上組み合わせて利用することもできる。
−アルジネート印象材の使用態様−
本実施形態のアルジネート印象材の使用に際しては、一般的に、少なくとも本実施形態のアルジネート印象材から混練物を作製した後、この混練物を専用のトレーに盛りつける。そして、トレーに盛りつけられた混練物を歯牙等の目的物に圧接することで印象を採取する。その後、印象が採取された混練物が硬化して硬化物となった後、この硬化物を基に石膏模型を作製する等の後工程がさらに実施される。ここで、トレーとしては公知のトレーが制限なく利用できるが、一般的には金属製トレーまたはレジン製トレーが利用される。金属製トレーの材質としては、ステンレス、錫合金、アルミニウム、メッキ処理あるいは樹脂コーティングされた黄銅等が挙げられる。なお、本実施形態のアルジネート印象材を用いた場合、混練物は、いずれの金属製トレーにもよく保持される。また、レジン製トレーの材質としてはポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。
以下に本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
<<原料の略称>>
後述する実施例および比較例のアルジネート印象材の作製に用いた各種原料の略称は以下の通りである。
1.アルギン酸塩
・ARK:アルギン酸カリウム
・ARNa:アルギン酸ナトリウム
2.ゲル化反応剤
・ZnO:酸化亜鉛
・MgO:酸化マグネシウム
3.非還元糖
・Cdexα:α−デキストリン
・Cdexβ:β−デキストリン
4.非水溶性有機溶媒
・Hex:n−ヘキサン
5.界面活性剤
・Dec−Gly:デカグリセリルトリオレエート
6.ゲル化調節剤
・P3Na:リン酸三ナトリウム
7.充填材
・MT−10:粒径0.02μmの非晶質シリカ(メチルトリクロロシラン処理物)
8.その他
・FTK:フッ化チタンカリウム
<<市販の粉末タイプのアルジネート印象材の略称>>
後述する比較例で用いた市販の粉末タイプのアルジネート印象材の略称は以下の通りである。
・粉材A:アルフレックス(モリタ社製)
・粉材B:アローマファインプラス(GC社製)
・粉材C:アルジエース(デンツプライ三金社製)
<<評価方法および評価基準>>
後述する実施例および比較例のサンプルについての「表面滑沢性」の評価方法および評価基準、ならびに、「適合歪」および「基材ペースト粘度残存率」の評価方法は、以下の通りである。
(1)表面滑沢性
表面潤沢性の評価は以下の手順で実施した。まず、サンプルがペーストタイプのアルジネート印象材である場合には、予め調整した基材ペーストおよび硬化剤ペーストを、アルジネート印象材自動錬和器APミキサーII(トクヤマデンタル社製)を用いて混錬した。また、サンプルが粉末タイプのアルジネート印象材である場合には、予め、粉末成分を均一な粉末になるまで混ぜ合わせたものを、使用直前に、液成分と混合し、手練和により、均一なペースト状になるまで混錬した。
次に、円柱状モールド(外径:60mm、内径:52mm、高さ:10mm)に混錬物を流し込み、円柱状モールドの開口部からはみ出た混錬物をヘラで除去して、開口部の開口面と一致するように表面をならした。この状態で3分放置後、混練物を硬化させて得られた硬化物の表面を目視観察し、表面滑沢性を評価した。また、硬化物を湿度が80%以上に維持された保湿箱(底に水を張った密封容器)に移し、所定の時間放置後の硬化物の表面滑沢性を評価した。なお、後述する表中に示す表面滑沢性は下記評価基準に従って評価した。また、後述する表中の「表面滑沢性」の欄に示す「直後」は、硬化直後の硬化物(保湿箱での保管時間0分の硬化物)を目視観察した結果を示し、「1時間後」は硬化物を保湿箱に1時間放置した後に硬化物を目視観察した結果を示し、「3日後」は硬化物を保湿箱に3日間放置した後に硬化物を目視観察した結果を示すものである。
−表面滑沢性評価基準−
A:硬化物の表面が濡れているかのような光沢を有し、非常に滑らかである。
B:硬化物の表面に、光沢は見られないが、非常に滑らかである。
C:硬化物の表面に、光沢が見られず、表面がザラザラしている。
D:硬化物の表面が乾燥により干からびており、所々にひび割れが見られる。
(2)適合歪
適合歪の評価に際しては、図1に示す一対の金型を使用した。ここで、図1に示すように、適合歪の評価に用いた一対の金型は、第一の金型10および第二の金型20からなる。第一の金型10は2つの凹部12R、12Lを有し、第二の金型20は、2つの凸部22R、22Lを有する。また、第一の金型10および第二の金型20は、図1に示すように凹部12Rと凸部22R、および、凹部12Lと凸部22L、が一致するように第一の金型10と第二の金型20とを勘合させた場合、両者は実質的に隙間無く勘合できる寸法精度を有する。なお、凸部22R、22Lの形状および寸法は、ブリッジ冠の作製を想定したものであり、凸部22R、22Lの高さHは10mm、頂部の幅Wは8mmである。
次に、サンプルがペーストタイプのアルジネート印象材である場合には、予め調整した基材ペーストおよび硬化剤ペーストを、アルジネート印象材自動錬和器APミキサーII(トクヤマデンタル社製)を用いて混錬した。また、サンプルが粉末タイプのアルジネート印象材である場合には、予め、粉末成分を均一な粉末状になるまで混ぜ合わせたものを、使用直前に、液成分と混合し、手練和により、均一なペースト状になるまで混錬した。
その後、第二の金型20を完全に収納できるサイズの樹脂製トレーに、混練物を流し込んだ後、表面をならした。そして、混練物の表面をならし終えた時点で、ストップウオッチのボタンを押して、時間の計測を開始した。続いて、20秒経過した時点で、第二の金型20を、凸部22R、22Lが設けられた面が下側を向くようにして、樹脂製トレー内に配置された混練物に圧接させた。この状態で、3分間放置して混練物を硬化させ、その後、第二の金型20を除去することで印象を採得した。
次に、印象を採得した後の硬化物を、底に水を張った密封容器からなる湿度80%以上に保たれた保湿箱内に所定の時間放置した。そして、保湿箱から取り出した硬化物の印象採得部に印象模型作製用の超硬石膏(GC社製ニューフジロック)を流し込んだ後、1時間放置し、石膏を硬化させた。あるいは、印象を採得した後の硬化物をそのまま用いて超硬石膏を流し込んだ後、1時間放置し、石膏を硬化させた。これにより、保湿箱内での放置時間を変えた複数種類の第二の金型20の石膏模型を得た。
その後、図2に示すように、石膏模型30の凸部32R、32Lが設けられた側の面と、第一の金型10の凹部12R、12Lが設けられた側の面とを勘合させた状態で、石膏模型30と第一の金型10との間に形成される隙間長さを顕微鏡(KEYENCE社製
レーザー顕微鏡VK−8700)を用いて測定した。なお、隙間長さの測定は、図2に示すように、(1)凹部12Lの底面と、この底面に対向する凸部32Lの頂面との間において、その両端近傍の2点(図2中の符号A,Bで示す位置)、(2)凸部32Rと凸部32Lとの間の領域において、第一の金型10の表面と、この表面に対向する石膏模型30の表面との間において、その両端近傍の2点(図2中の符号C,Dで示す位置)、および、(3)凹部12Rの底面と、この底面に対向する凸部32Rの頂面との間において、その両端近傍の2点(図2中の符号E,Fで示す位置)、について各々測定した。そして、A点〜F点で測定した6つの隙間長さの平均値を「適合歪」として求めた。なお、図2において、石膏模型30の代わりに第二の金型20を用いた場合に、上述した場合と同様にして求めた「適合歪」は、5.0μmである。
また、後述する表中の「適合歪」の欄に示す「直後」は、硬化直後の硬化物(保湿箱での保管時間0分の硬化物)を用いて石膏模型30を作製した場合の結果を示す。また、後述する表中の「適合歪」の欄に示す「30分後」、「1時間後」、「5時間後」、「1日後」および「3日後」は、得られた硬化物を保湿箱に、各々、30分、1時間、5時間、1日および3日保管した後の硬化物を用いて石膏模型30を作製した場合の結果を示すものである。
(3)基材ペースト粘度残存率
ガラス製ビーカー(容量:300ml)に、調整した基材ペースト(約240ml)を投入した後、このビーカーを、温度を25℃に設定したインキュベーター内に1時間程度放置した。その後、インキュベーター内にて回転式粘度計(RION社製 ビスコテスター VT−04F)を用いて基材ペーストの粘度(初期粘度Vi、Poise)を測定した。次に、初期粘度Viを測定した基材ペーストサンプルを温度を50℃に設定したインキュベーターに保管した。所定の期間経過後、サンプルを取り出し、25℃インキュベーターに1時間放置後、同様の方法で基材ペーストの粘度(V50、Poise)を測定した。なお、所定の期間(1週間または3週間)経過後の基材ペースト粘度残存率は、下式(1)に基づいて求めた。したがって、温度を50℃に設定したインキュベーターに保管しない場合の基材ペースト粘度残存率は、粘度V50が初期粘度Viに限りなく近似した値となるため、100%となる。
・式(1) 基材ペースト粘度残存率(%)=100×[V50/Vi]
なお、後述する表中に示す「基材ペースト粘度残存率」の欄に示す「初期」、「1週間後」および「3週間後」は、50℃に設定したインキュベータ中での基材ペーストサンプルの保管時間が、各々、0分(すなわち、50℃に設定したインキュベータ中での保管を行わない場合)、1週間および3週間であることを意味する。
<<ペーストタイプのアルジネート印象材の評価>>
(実施例1)
(A)アルギン酸塩として、10gのARK、(C)水として、150gの蒸留水、(D)非還元糖として、60gのスクロースを量りとり、小型混錬器(アイコー産業社製アイコーミキサー)を用いて1時間混錬し、基材ペーストを調整した。次に、(B)ゲル化反応剤として、40gの無水石膏、(E)難水溶性有機溶剤として、20gの流動パラフィンを量りとり、小型混錬器を用いて1時間混錬し、硬化剤ペーストを調整した。得られた各ペーストの全量を、アルジネート印象材自動錬和器APミキサーIIを用いて混錬した。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(実施例2〜4)
アルジネート印象材の組成を、表1に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして基材ペーストおよび硬化剤ペーストを調整し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(実施例5)
(A)アルギン酸塩として、10gのARK、(C)水として、150gの蒸留水、(D)非還元糖として、60gのスクロース、その他成分として、5.8gの珪藻土を量りとり、小型混錬器を用いて1時間混錬し、基材ペーストを調整した。次に、(B)ゲル化反応剤として、40gの無水石膏、(E)難水溶性有機溶剤として、20gの流動パラフィン、その他成分として、1.0gのP3Na、3.2gのDec−Gly、4.4gのFTK、29.2gの珪藻土、及び3.0gのMT−10を量りとり、小型混錬器を用いて1時間混錬し、硬化剤ペーストを調整した。得られた各ペーストの全量を、アルジネート印象材自動錬和器APミキサーIIを用いて混錬した。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(実施例6〜実施例26)
アルジネート印象材の組成を、表1〜表3に示す内容に変更した以外は、実施例5と同様にして基材ペーストおよび硬化剤ペーストを調整し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(比較例1〜7)
アルジネート印象材の組成を、表4に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして基材ペーストおよび硬化剤ペーストを調整し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(評価結果)
実施例1〜実施例26および比較例1〜比較例7のアルジネート印象材の組成を、表1〜表4に示す。また、実施例1〜実施例26および比較例1〜比較例7のサンプルの表面滑沢性および適合歪の評価結果を表5および表6に示す。
Figure 0005721401
Figure 0005721401
Figure 0005721401
Figure 0005721401
Figure 0005721401
Figure 0005721401
実施例1〜実施例26では、何れの場合においても、良好な保水性を有しており、印象採得後、長時間放置した場合においても、硬化物の乾燥が抑制されており、良好な印象精度が得られた。これに対して、(D)非還元糖を配合しなかった比較例1〜比較例3では、何れの場合においても、印象採得後、30分程度放置すると、硬化物の乾燥によって印象精度が大きく低下した。
比較例4は、(A)アルギン酸塩1質量部に対する(D)非還元糖の配合量が1質量部未満の場合である。この比較例4では、保水性が僅かに向上傾向にあるものの、不十分であり、印象採得後、30分程度放置すると、硬化物の乾燥によって印象精度が大きく低下した。また、比較例5は、(A)アルギン酸塩1質量部に対する(D)非還元糖の配合量が20質量部を超える場合である。この比較例5では、初期(印象採得直後)の印象精度が大きく低下しており、保水性に関しても十分な効果が得られず、印象採得後、30分程度放置すると、硬化物の乾燥によって印象精度が低下した。
比較例6および比較例7は、(D)非還元糖の代わりに、還元糖を用いた場合である。比較例6および比較例7では、保水性が僅かに向上傾向にあるものの、不十分であり、印象採得後、30分程度放置すると、硬化物の乾燥によって印象精度が大きく低下した。
<<粉末タイプのアルジネート印象材の評価>>
(実施例27)
(A)アルギン酸塩として、10gのARK、(B)ゲル化反応剤として、30gの無水石膏、10gの二水石膏、4.0gのZnO、および6.0gのMgO、その他成分として、1.0gのP3Na、4.4gのFTK、35gの珪藻土、および3.0gのMT−10を量りとり、均一な粉末になるまで混ぜ合わせ、粉材を調整した。次に、(C)水として、蒸留水150g、および、(D)非還元糖として、60gのスクロースを量りとり、均一な液体となるまで攪拌し、液材を調整した。得られた粉材および液材の全量を、手錬和用カップにとり、均一なペースト状となるまで、混錬した。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(実施例28〜実施例32)
アルジネート印象材の組成を、表7に示す内容に変更した以外は、実施例27と同様にして粉材および液材を調整し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(実施例33〜実施例35)
粉材と組み合わせて使用する液材として表7に示す組成の液材を調整した。そして、この液材と、表7に示す市販の粉材からなるアルジネート印象材とを、混合比率が粉材1質量部に対して液材が2.10質量部となるように混練し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(比較例8)
アルジネート印象材の組成を、表8に示す内容に変更した以外は、実施例27と同様にして粉材および液材を調整し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(比較例9)
液材の組成を、表8に示す内容に変更した以外は、実施例33と同様にして粉材と液材とを混練し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(比較例10)
液材の組成を、表8に示す内容に変更した以外は、実施例34と同様にして粉材と液材とを混練し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(比較例11)
液材の組成を、表8に示す内容に変更した以外は、実施例35と同様にして粉材と液材とを混練し、混練物を得た。その後、得られた混練物を用いて、表面滑沢性および適合歪を評価した。
(評価結果)
実施例27〜実施例35および比較例8〜比較例11について、アルジネート印象材の組成、ならびに、サンプルの表面滑沢性および適合歪の評価結果を、表7および表8に示す。
Figure 0005721401
Figure 0005721401
(実施例27〜実施例35)
実施例27〜実施例35では、何れの場合においても、良好な保水性を有しており、印象採得後、長時間放置した場合においても、硬化物の乾燥が抑制されており、良好な印象精度が得られた。これに対して(D)非還元糖を配合しなかった比較例8〜比較例11では、何れの場合においても、印象採得後、30分程度放置すると、硬化物の乾燥によって印象精度が大きく低下した。
<<基材ペースト粘度残存率の評価>>
(実施例36)
(A)アルギン酸塩として、10gのARK、(C)水として、150gの蒸留水、(D)非還元糖として、60gのスクロースを量りとり、小型混錬器(アイコー産業社製アイコーミキサー)を用いて1時間混錬し、基材ペーストを調整した。
(実施例37〜実施例39および比較例12〜比較例15)
基材ペーストの組成を、表9に示す内容に変更した以外は、実施例36と同様にして基材ペーストを調整した。
(評価結果)
実施例36〜39および比較例12〜15の基材ペーストの組成および基材ペースト粘度残存率の評価結果を表9に示す。
Figure 0005721401
実施例36〜実施例39は、(A)アルギン酸塩1質量部に対して(D)非還元糖が6質量部配合されたものである。実施例36〜実施例39では、何れの場合においても、基材ペースト粘度残存率が70%以上であり、経時的な粘度低下が大幅に抑制されていることがわかる。これに対して、比較例12〜比較例15は、(A)アルギン酸塩と(C)水を主成分としてなる基材ペーストに、(D)非還元糖が配合されない場合である。比較例12〜比較例15のいずれの場合でも、実施例36〜実施例39と比較して、経時的な粘度低下が著しいことがわかる。
10 第一の金型
12R、12L 凹部
20 第二の金型
22R、22L 凸部
30 石膏模型
32R、32L 凸部

Claims (7)

  1. ゲル化反応剤と難水溶性有機溶媒とを主成分として含む硬化剤ペースト、および、
    アルギン酸塩と非還元糖と水とを主成分として含む基材ペースト、を有し、
    上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、
    上記非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする歯科用アルジネート印象材。
  2. アルギン酸塩とゲル化反応剤と非還元糖とを含む粉末成分、を有し、
    上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、
    上記非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする歯科用アルジネート印象材。
  3. アルギン酸塩とゲル化反応剤とを含む粉末成分、および、
    非還元糖と水とを含む水溶液、を有し、
    上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、
    上記非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする歯科用アルジネート印象材。
  4. アルギン酸塩とゲル化反応剤と非還元糖とを含む粉末成分、および、
    非還元糖と水とを含む水溶液、を有し、
    上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記粉末成分および上記水溶液の双方に含まれる上記非還元糖の総量が1質量部〜20質量部の範囲内であり、
    上記粉末成分および上記水溶液の双方に含まれる上記非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする歯科用アルジネート印象材。
  5. 請求項1〜のいずれか1つに記載の歯科用アルジネート印象材において、
    前記非還元糖が、二糖類であることを特徴とする歯科用アルジネート印象材。
  6. 請求項1〜のいずれか1つに記載の歯科用アルジネート印象材において、
    前記非還元糖が、トレハロースであることを特徴とする歯科用アルジネート印象材。
  7. アルギン酸塩と、非還元糖、水と、を主成分として含み、上記アルギン酸塩1質量部に対して、上記非還元糖が1質量部〜20質量部の範囲内で含まれ、上記非還元糖が、グリコシド結合によって結合した2個〜10個の単糖分子から構成されることを特徴とする歯科用アルジネート印象材用の基材ペースト。
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